つぎに、この発明の実施の形態を説明する。この発明においては、物理的に別々に設けられた複数のオイルポンプを有し、一方のオイルポンプに第1のオイル吐出口が設けられ、他方のオイルポンプに第2のオイル吐出口が設けられていてもよい。あるいは、単数のオイルポンプに、第1のオイル吐出口および第2のオイル吐出口の両方が設けられていてもよい。さらにオイルポンプは、定吐出量形または可変吐出量形のいずれでもよい。さらにまた、オイルポンプは、ピストンポンプ、ベーンポンプ、ギヤポンプなどいずれの構造でもよい。また、制御弁は弁体を有しており、その制御弁は前記第1の油路に接続されている。この第1の油路のオイルは、オイル必要部に供給される。ここで、オイル必要部としては、圧油の供給により動作する部材を有する制御機構が挙げられる。例えば、車両の動力源から車輪に至る経路に動力伝達装置が設けられており、その動力伝達装置の動力伝達状態を制御する制御機構が、前記制御機構に該当する。この動力伝達装置には、変速機、前後進切換装置などの油圧制御式の機構が含まれる。より具体的には、歯車列、軸受、プーリおよびベルトなどが含まれる。
ここで、変速機としては、入力回転数と出力回転数との比である変速比を変更することの可能な機構であり、有段変速機または無段変速機のいずれでもよい。また、無段変速機としては、ベルト式無段変速機またはトロイダル式無段変速機のいずれでもよい。さらに、有段変速機は、選択歯車式の有段変速機、遊星歯車式の有段変速機のいずれでもよい。また、変速機として無段変速機を用いた場合は、前後進切換装置が設けられる。この前後進切換装置としては、遊星歯車機構式、平行軸歯車式などを用いることが可能である。前記の有段変速機においては、クラッチ機構およびブレーキ機構などの変速比制御機構が設けられており、変速比制御機構としては、油圧制御式または電磁制御式のアクチュエータを用いることが可能である。さらに、オイル必要部には、潤滑または冷却が必要な部位にオイルを供給する潤滑油路も含まれる。
また、さらに、前後進切換装置により回転部材の回転方向を正逆に切り換える装置として、クラッチ機構およびブレーキ機構を用いることができる。このクラッチ機構およびブレーキ機構は、油圧制御式または電磁制御式のアクチュエータを用いることが可能である。さらに、前記クラッチ機構および前記ブレーキ機構は、単板式または多板式のいずれでもよい。さらに、動力伝達状態には、伝達トルク、回転数、回転部材の回転方向などが含まれる。そして、前記第1の油路におけるオイルの必要量に基づいて前記弁体が動作して、前記第1の油路のオイルを第1のドレーン油路に排出して、前記第1の油路におけるオイル量および油圧を制御する構成を有する。また、前記第2の油路も前記制御弁に接続されており、前記第1の油路と第2の油路との接続部分にはチェックバルブが設けられている。そして、前記弁体の動作により、前記第2のオイル吐出口から第2のドレーン油路に排出されるオイル量が制御される。
例えば、前記第1の油路のオイル量が不足しており、前記第1の油路から第1のドレーン油路に排出されるオイル量を減少させるように弁体が動作した場合は、その弁体の動作により第2のドレーン油路のポートが狭められる。すると、第2の油路の油圧が第1の油路の油圧よりも高くなり、チェックバルブが解放されて、前記第2のオイル吐出口から第2の油路に吐出されたオイルが、前記第1の油路に供給される。これとは逆に、前記第1の油路のオイル量が十分である場合は、前記第1の油路から第1のドレーン油路に排出されるオイル量を増加させるように弁体が動作して、その弁体の動作により第2のドレーン油路のポートが拡大される。すると、第2の油路の油圧が第1の油路の油圧よりも低下して、チェックバルブが閉じられ、前記第2のオイル吐出口から第2の油路に吐出されたオイルが、前記第1の油路には供給されなくなる。この発明において、制御弁は、第1の油路におけるオイル量を制御する弁、いわゆる流量制御弁であり、例えば、スプール弁などにより構成することができる。このように、制御弁は、前記第1の油路におけるオイル量を制御する第1の機能と、前記第2のオイル吐出口から吐出されたオイルが、前記第1の油路に供給される状態とされない状態とを切り換える第2の機能とを兼備している。より具体的には、制御弁の単一の弁体の動作により、前記第1の機能と第2の機能とが並行して発生する構成を有する。
この発明において、前記第1の油路におけるオイルの必要量が実際に変化するとは、前記制御機構の動作に必要なオイル量に相当するものであり、例えば、クラッチ機構やブレーキ機構の係合・解放をおこなって、伝達トルクを高めたり低下させたりする場合、クラッチ機構またはブレーキ機構のピストンの動作がおこなわれるため、前記ピストンに推進力を与える油圧室におけるオイルの必要量が増加する。さらに、前後進切換装置により回転部材の回転方向を正逆に切り換える場合は、必要オイル量が少ない状態から、クラッチ機構およびブレーキ機構のピストンの動作がおこなわれるため、必要オイル量が増加する状態を経由して、再び必要オイル量が少ない状態に切り換えられる。さらに、前記第1の油路におけるオイルの必要量が実際に変化する途中とは、例えば、前記制御機構に対するオイルの供給量を変更する制御を開始した時点から、終了するまでの間を意味する。
またこの発明においては、装置全体を制御する電子制御装置が設けられており、その電子制御装置に入力される信号に基づいて、オイルの必要量が実際に変化する前に、オイルの必要量が変化するか否か、およびオイルの必要量の変化する時期などを予測可能である。そして、前記オイルの必要量が変化することが予測された場合は、事前に前記第1の吐出口から第1の油路に吐出されるオイルの供給状態を制御して、前記オイルの必要量が実際に変化する途中で、前記第2のオイル吐出口から吐出されるオイルを、前記第1の油路に供給しない状態と供給する状態との切り換えがおこなわれることを防止する。具体的には、前記第2のオイル吐出口から吐出されるオイルを、前記第1の油路に供給しない状態から、供給する状態に切り換えることを防止する場合と、前記第2のオイル吐出口から吐出されるオイルを、前記第1の油路に供給する状態から、供給しない状態に切り換えることを防止する場合とが挙げられる。
この発明において、前記オイルの必要量が実際に変化する途中で、前記第2のオイル吐出口から吐出されるオイルを、前記第1の油路に供給しない状態と供給する状態との切り換えがおこなわれることを防止するための制御方法として、2種類の制御方法がある。まず第1の制御方法は、前記オイルの必要量が変化することが予測された場合に、前記オイルの必要量が実際に変化する前に、前記第2のオイル吐出口から吐出されるオイルを、前記第1の油路に供給しない状態と供給する状態との切り換えを開始・終了させるものである。また、第2の制御方法は、前記オイルの必要量を変化させる条件が成立した場合でも、前記第2のオイル吐出口から前記第1の油路に供給されるオイル量の変更を、強制的に禁止するものである。
前記第1の制御方法または第2の制御方法のいずれが選択された場合においても、前記弁体の動作が直接または間接的に制御されて、前記オイルの必要量が実際に変化する途中で、前記第2のオイル吐出口から吐出されるオイルを、前記第1の油路に供給しない状態と供給する状態との切り換えが禁止される。この発明において、前記第2のオイル吐出口から吐出されるオイルを、前記第1の油路に供給しない状態と供給する状態との切り換えには、第2のオイル吐出口からのオイルの吐出・吐出停止を切り換える方法と、第2のオイル吐出口からオイルを吐出したまま、バルブの制御によりオイルの供給・非供給とを切り換える方法と、可変容量形のオイルポンプにより、オイルの吐出容量を変更する方法とが含まれる。
また、この発明において、車両の動力源としては、エンジン、電動モータ、油圧モータ、フライホイールシステムなどの動力装置を用いることが可能である。これらの動力装置を単独で用いてもよいし、複数用いたハイブリッド車でもよい。すなわち動力の発生原理が異なる動力装置を複数種類用いた車両でもよい。さらにこの発明において、オイルポンプを駆動する原動機としては、エンジン、電動モータが挙げられる。そして、前記動力源と原動機とが共用化されていてもよいし、原動機と動力源とが別々に設けられていてもよい。
つぎに、この発明の油圧制御装置の具体例を図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用できる車両のパワートレーン、およびその車両の制御系統を、図2に示す。ここに示す車両1のパワートレーンにおいては、動力源2のトルクが、流体伝動装置3および前後進切換装置4を介してベルト式無段変速機5に伝達されるように構成されている。動力源1としては、エンジンまたは電動モータのうちの少なくとも一方を用いることができる。このエンジンは燃料を燃焼させてその熱エネルギを運動エネルギに変換する動力装置であり、エンジンとしては内燃機関、具体的には、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジンなどを用いることができる。以下、動力源1としてガソリンエンジンを用いる場合について説明し、便宜上、動力源1を“エンジン1”と記す。このエンジン1の吸気管(図示せず)には、電子スロットルバルブ(図示せず)が設けられているとともに、エンジン1はクランクシャフト6を有している。
このクランクシャフト6に連結される流体伝動装置3は、流体の運動エネルギにより動力伝達をおこなう装置であり、この流体伝動装置3として、図2の実施例ではトルク増幅する機能を有するトルクコンバータが用いられている。なお、流体伝動装置3としてトルク増幅機能のないフルードカップリングを用いることも可能である。以下、流体伝動装置3を“トルクコンバータ3”と記す。このトルクコンバータ3は、ポンプインペラ7とタービンランナ8とを有しており、ポンプインペラ7が前記クランクシャフト6と一体回転するように連結されている。これに対して、タービンランナ8はインプットシャフト9と一体回転するように連結されている。これらのポンプインペラ7およびタービンランナ8には、多数のブレード(図示せず)が設けられており、ポンプインペラ7とタービンランナ8との間で、流体の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。また、ポンプインペラ7とタービンランナ8との内周側の部分には、タービンランナ8から送り出されたフルードの流動方向を選択的に変化させてポンプインペラ7に流入させるステータ10が配置されている。さらに、前記クランクシャフト6とインプットシャフト9とを選択的に連結・解放するロックアップクラッチ11が設けられている。さらに、このロックアップクラッチの11伝達トルクを油圧制御するために、係合用油圧室(図示せず)および解放用油圧室(図示せず)が設けられており、この係合用油圧室および解放用油圧室の圧力差に基づいて、前記ロックアップクラッチ11の係合・解放・スリップが制御される。
一方、前後進切換装置4は、前記インプットシャフト9の回転方向に対して、ベルト式無段変速機5のプライマリシャフト12の回転方向を正逆に切り換える装置である。この前後進切換装置4として、図2に示す例では、ダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。すなわち、前記インプットシャフト9と一体回転するサンギヤ13と、このサンギヤ13と同軸上に配置されたリングギヤ14とが設けられ、これらのサンギヤ13とリングギヤ14との間に、前記サンギヤ13に噛合したピニオンギヤ15と、このピニオンギヤ15およびリングギヤ14に噛合した他のピニオンギヤ16とが配置され、2つのピニオンギヤ15,16がキャリヤ17によって、自転かつ公転自在に保持されている。
さらに、前記インプットシャフト9と、前記キャリヤ17とを選択的に連結・解放する前進用クラッチ18が設けられている。また前記リングギヤ14を選択的に固定することにより、前記インプットシャフト9の回転方向に対するプライマリシャフト12の回転方向を正・逆に切り換える後進用ブレーキ19が設けられている。この実施例では、前進用クラッチ18および後進用ブレーキ19として、油圧制御式のクラッチおよびブレーキが用いられている。具体的には、軸線方向の推力が与えられるピストン(図示せず)と、このピストンに対して、前記クラッチまたはブレーキを係合させる向きの推力を与える油圧室(後述する)と、前記クラッチまたはブレーキを解放させる向きの推力を与えるリターンスプリング(図示せず)とを有している。前記ベルト式無段変速機5は、互いに平行に配置されたプライマリシャフト12およびセカンダリシャフト20を有しており、プライマリシャフト12にはプライマリプーリ21が設けられており、セカンダリシャフト20にはセカンダリプーリ22が設けられている。プライマリプーリ21の溝幅を制御するプライマリ油圧室23が設けられ、セカンダリプーリ22の溝幅を制御するセカンダリ油圧室24が設けられている。そして、セカンダリシャフト20には歯車伝動装置25を経由してデファレンシャル26が連結されており、デファレンシャル26には車輪27が連結されている。
つぎに、図2に示された車両の制御系統を説明する。まず、電子制御装置(ECU)128が設けられており、この電子制御装置128には、エンジン回転数、プライマリシャフトの回転数、セカンダリシャフトの回転数、加速要求、制動要求、油路の油圧、油圧回路30の油温、外気温、エンジン2の冷却水温、シフトポジションなどを示す信号が入力される。この電子制御装置128からは、エンジン2を制御する信号、油圧制御装置29を制御する信号などが出力される。
上記のように構成された車両1において、エンジン2から出力されたトルクは、トルクコンバータ3、前後進切換装置4、ベルト式無段変速機5を経由して車輪27に伝達される。以下、ロックアップクラッチ11および前後進切換装置4およびベルト式無段変速機5の制御の概略を説明する。まず、前記ロックアップクラッチ11の制御について説明すると、係合用油圧室の油圧が高められて、ロックアップクラッチ11が係合された場合は、摩擦力により動力伝達がおこなわれる。これとは逆に、解放用油圧室の油圧が高められて、前記ロックアップクラッチ11が解放された場合は、流体の運動エネルギにより動力伝達がおこなわれる。なお、ロックアップクラッチ11をスリップさせることも可能である。
このようにして、エンジントルクがインプットシャフト9に伝達される。つぎに、前後進切換装置4の制御について説明する。シフトポジションとして前進ポジション、例えば、D(ドライブ;走行)ポジションが選択された場合は、前後進切換装置の前進用クラッチ18が係合され、かつ、後進用ブレーキ19が解放される。すると、前記インプットシャフト9とキャリヤ17とが一体回転し、インプットシャフト9のトルクがプライマリシャフト12に伝達される。これに対して、後進ポジションが選択された場合は、前進用クラッチ18が解放され、かつ、後進用ブレーキ19が係合される。そして、エンジントルクがサンギヤ13に伝達されると、リングギヤ14が反力要素となって、前記サンギヤ13のトルクがキャリヤ17を経由してプライマリシャフト12に伝達される。プライマリシャフト12の回転方向は、前進ポジションの場合とは逆になる。
つぎに、ベルト式無段変速機5の制御を説明する。前記のように、エンジントルクがプライマリシャフト12に伝達されるとともに、電子制御装置128に入力される各種の信号、および電子制御装置128に予め記憶されているデータに基づいて、ベルト式無段変速機5の変速比およびトルク容量が制御される。具体的には、プライマリプーリ21の溝幅が調整されると、プライマリプーリ21に対するベルト28の巻掛け半径が連続的に変化し、変速比が無段階に変化する。また、セカンダリプーリ22の溝幅が調整されて、ベルト28に対するセカンダリプーリ22の挟圧力が調整される。このようにして、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との間で、ベルト28を経由して伝達されるトルクが制御される。
つぎに、前記油圧制御装置29の一部を構成する油圧回路30を、図3に基づいて説明する。まず、オイルパン31のオイルを吸入する2つのオイルポンプ32,33が並列に設けられている。一方のオイルポンプ32の吐出口34には油路35が接続されており、この油路35がプライマリレギュレータバルブ36に接続されている。このプライマリレギュレータバルブ36は、2つの入力ポート37,38および2つのドレーンポート39,40を有している。一方の入力ポート37が前記油路35に接続されている。また、プライマリレギュレータバルブ36は、軸線方向に動作可能なスプール41を有しており、そのスプール41を軸線方向の一方に向けて押圧するばね42が設けられている。さらに、前記入力ポート37の油圧が伝達されるフィードバックポート43が設けられており、フィードバックポート43の油圧により、前記ばね42の押圧力とは逆向きの押圧力が、前記スプール41に加えられる。
さらに、前記プライマリレギュレータバルブ36には信号圧ポート44が設けられており、ソレノイドバルブ45によって調圧された信号油圧が、その信号圧44ポートに入力されて、前記ばね42の押圧力と同じ向きの力を前記スプール41に加える。さらに前記ドレーンポート39は共に油路46に接続されており、この油路46が、潤滑系統の油路、トルクコンバータ3にオイルを供給する油路などに接続されている。またドレーンポート40はオイルパン31のドレーンに接続されている。このように構成されたプライマリレギュレータバルブ36においては、前記スプール41の動作により、入力ポート37とドレーンポート39との連通面積が制御され、かつ、入力ポート38とドレーンポート40との連通面積が制御される。このように、スプール41の動作により、油路35からドレーンポート39に排出されるオイルの流量が制御されて、その油路35および油路86におけるオイル量もしくは油圧が制御される。
また、前記油路35が減圧弁47の入力ポート48に接続されており、この減圧弁47の出力ポート49は油路50が接続されている。この減圧弁47により、油路35から油路50に供給される油圧が一定圧に減圧される。さらに、前記油路50には他の圧力制御弁51が接続されている。この圧力制御弁51は、入力ポート52および出力ポート53およびフィードバックポート54およびドレーンポート55および信号圧ポート56を有している。前記入力ポート52が前記油路50に接続され、出力ポート53が油路57に接続されている。またこの油路57にはフィードバックポート54が接続されている。さらに、圧力制御弁51はスプール58を有し、そのスプール58一方向に押圧する力を発生するばね59が設けられている。さらに、ソレノイドバルブ60によって制御された信号油圧が、前記信号圧ポート56に入力されて、前記ばね59の押圧力とは逆向きの力を前記スプール58に加える。
つぎに、前後進切換装置4の前進用クラッチ18および後進用ブレーキ19を制御する系統について説明する。まず、前進用クラッチ18に作用する油圧を発生させるクラッチ用油圧室61、および後進用ブレーキ19に作用する油圧を発生させるブレーキ用油圧室62が設けられている。そして、油路50,57から、クラッチ用油圧室61およびブレーキ用油圧室62に至る経路に切換弁63が設けられている。この切換弁63は、2つの入力ポート64,65を有しており、一方の入力ポートが前記油路57に接続され、他方の入力ポート65が前記油路50に接続されている。また、この切換弁63は、出力ポート66および補助ポート67,68を有している。さらに、切換弁63は弁体、例えば軸線方向に動作するスプール69を有しており、このスプール69の動作を制御するソレノイド70が設けられている。また、前記切換弁63には油圧検知ポート74が設けられており、その油圧検知ポート74の油圧を検知する油圧検知センサ75が設けられている。
さらに、出力ポート66には油路71が接続されており、その油路71から前記クラッチ用油圧室61およびブレーキ用油圧室62に至る経路に、他の切換弁(マニュアルバルブ)72が設けられている。この切換弁72は、入力ポート72Aおよび出力ポート72B,72Cおよびドレーンポート72Dを有している。この入力ポート72Aは油路71に接続され、出力ポート72Bはブレーキ用油圧室62に接続され、出力ポート72Cはクラッチ用油圧室61に接続され、ドレーンポート72Dはオイルパン31に接続されている。さらに、切換弁72は弁体であるスプール73を有しており、このスプール73は、シフトポジションの切り換えにより動作する構成を有している。具体的には軸線方向に動作し、かつ、シフトポジション選択装置の操作に応じた各シフトポジション、例えば、パーキングポジション、リバースポジション、ニュートラルポジション、ドライブポジション毎に、軸線方向における停止位置が異なる。
前記シフトポジション選択装置は、レバー式、ボタン式、スイッチ式、ノブ式、音声入力式、タッチパネル式などのいずれでもよい。また、スプール73の停止位置としては、パーキングポジションの停止位置とドライブポジションの停止位置との間にニュートラルポジションの停止位置があり、ニュートラルポジションの停止位置とパーキングポジションの停止位置との間に、リバースポジションの停止位置がある。なお、切換弁72は、シフトポジション選択装置に加えられる操作力が、伝動装置により機械的に伝達されてスプール73が動作する構成、またはシフトポジションの選択がセンサやスイッチにより検知され、その検知信号に基づいてソレノイドなどのアクチュエータによりスプール73が動作する構成のいずれであってもよい。
そして、パーキングポジションまたはニュートラルポジションに対応する位置でスプール73が停止した場合は、クラッチ用油圧室61およびブレーキ用油圧室62が共にドレーンポート72Dに接続される。また、リバースポジションに対応する位置でスプール73が停止した場合は、ブレーキ用油圧室62が入力ポート72Aに接続され、かつ、クラッチ用油圧室61がドレーンポート72Dに接続される。これに対して、ドライブポジションに対応する位置でスプール73が停止した場合は、クラッチ用油圧室61が入力ポート72Aに接続され、かつ、ブレーキ用油圧室62がドレーンポート72Dに接続される。なお、リバースポジションとドライブポジションとの切り換えがおこなわれてスプール73が動作すると、スプール73はニュートラルポジションに対応する停止位置を経由することとなる。
一方、前記油路35から前記プライマリ油圧室23に至る経路には、プライマリ制御弁76が設けられており、そのプライマリ制御弁76が入力ポート77および出力ポート78およびドレーンポート79を有している。このプライマリ制御弁76はソレノイドバルブなどにより構成されている。そして、入力ポート77が前記油路35に接続され、出力ポート78が前記プライマリ油圧室23に接続され、ドレーンポート79が前記オイルパン31に接続されている。また、前記油路35から前記セカンダリ油圧室24に至る経路には、セカンダリ制御弁80が設けられており、そのセカンダリ制御弁80が入力ポート81および出力ポート82およびドレーンポート83を有している。このセカンダリ制御弁80はソレノイドバルブなどにより構成されている。そして、入力ポート81が前記油路35に接続され、出力ポート82が前記セカンダリ油圧室24に接続され、ドレーンポート83が前記オイルパン31に接続されている。なお、前記セカンダリ油圧室24は、油路84を介して補助ポート68に接続されている。
つぎに、他方のオイルポンプ33のオイル吐出系統について説明すると、オイルポンプ33の吐出口85には油路86が接続されており、その油路86が、前記プライマリレギュレータバルブ37の入力ポート38に接続されている。また、この油路86は、前記切換弁63の補助ポート67にも接続されている。さらに、油路86と油路35とを接続する油路87が設けられており、この油路87には逆止弁88が設けられている。この逆止弁88は、油路86の油圧が油路35の油圧よりも高圧である場合は開放され、油路86の油圧が油路35の油圧よりも低圧である場合は閉じられる構成を有している。なお、図1の油圧回路30に設けられた各種のソレノイドバルブおよびソレノイドへの通電状態は、電子制御装置128により制御される。
つぎに、油圧制御装置29の具体的な制御について説明する。前記オイルポンプ32が駆動されると、オイルパン31のオイルがオイルポンプ32により吸入され、かつ、油路35にオイルが吐出される。また、前記オイルポンプ33が駆動されると、オイルパン31のオイルがオイルポンプ33により吸入され、かつ、油路86にオイルが吐出される。一方、油路35においては、後述するベルト式無段変速機5および前後進切換装置4などにおけるオイル必要量に応じてオイル量および油圧が制御される。具体的には、オイル必要量に対して、オイル供給量が不足している場合は油路35の油圧が低下しようとする。このため、前記プライマリレギュレータバルブ36のフィードバックポート43に作用する油圧が低く、入力ポート37,38が共に閉じられる。このように、入力ポート38が閉じられて、油路86の油圧が油路35の油圧よりも高くなった場合は、逆止弁88が開放され、オイルポンプ33から油路86に吐出されたオイルが油路35に供給される。このようにして、油路35に供給されるオイル量が増加し、この油路35の油圧低下を防止する。
上記の場合とは逆に、オイル必要量に対して、オイル供給量が過剰な場合は、前記油路35の油圧が上昇しようとする。このため、前記フィードバックポート43に作用する油圧が上昇してスプール41が動作し、入力ポート37とドレーンポート39との連通面積が拡大される。したがって、油路35から油路46に排出されるオイル量が増加する。また、スプール41の動作により、入力ポート38とドレーンポート40との連通面積が拡大し、油路86から油路46に排出されるオイル量が増加する。そして、油路86の油圧が油路35の油圧よりも低下した場合は、逆止弁88が閉じられるため、前記オイルポンプ33から油路86に吐出されたオイルは油路35には供給されず、前記油路40を経由して前記オイルパン31に還流する。このようにして、オイルポンプ32,33から油路35に供給されるオイル量が減少し、油路35の油圧の上昇が抑制されるとともに、前記油路86の油圧が低下し、前記オイルポンプ33の仕事量が減少する。
また、ソレノイド45から出力される信号油圧を制御することにより、プライマリレギュレータバルブ41の開弁圧を調整可能である。プライマリレギュレータバルブ41の開弁圧とは、「入力ポート37とドレーンポート39とが連通され、かつ、入力ポート38とドレーンポート40とが連通される場合の油路35の油圧」である。この実施例では、前記ソレノイド45から出力される信号油圧を高めるほど、プライマリレギュレータバルブ41の開弁圧が上昇する特性を有している。なお、油路46に排出されたオイルは、前記トルクコンバータ3にオイルを供給する油路、潤滑系統にオイル(潤滑油)を供給する油路に供給される。
一方、前記油路35のオイルは減圧弁47により油圧が低下されて油路50に供給される。ここで、いずれかのシフトポジションが選択され、かつ、そのシフトポジションが保たれた場合は、前記切換弁63の制御により、入力ポート65と出力ポート66とが接続され、かつ、入力ポート64が遮断される。このように、入力ポート65と出力ポート66とが接続され、かつ、入力ポート64が遮断されるように、前記切換弁63を制御するモードがロックモードである。例えば、ドライブポジションが保たれた場合は、前記切換弁72の制御により、入力ポート72Aとクラッチ用油圧室61が接続され、かつ、ブレーキ用油圧室62とドレーンポート72Dとが接続されている。このため、油路50のオイルが、油路71を経由してクラッチ用油圧室61に供給され、そのクラッチ用油圧室61の油圧が上昇している。このようにして、前進用クラッチ18が係合されている。これに対して、ブレーキ用油圧室62のオイルがドレーンポート72Dを経由してオイルパン31に排出されている。その結果、ブレーキ用油圧室62の油圧が低下し、後進用ブレーキ19が解放される。
これに対して、リバースポジションが保たれた場合は、前記切換弁72の制御により、入力ポート72Aとブレーキ用油圧室62が接続され、かつ、クラッチ用油圧室61とドレーンポート72Dとが接続される。このため、油路50のオイルが、油路71を経由してブレーキ用油圧室62に供給され、そのブレーキ用油圧室62の油圧が上昇する。このようにして、後進用ブレーキ19が係合される。また、クラッチ用油圧室61のオイルがドレーンポート72Dを経由してオイルパン31に排出される。その結果、クラッチ用油圧室61の油圧が低下し、前進用クラッチ18が解放される。このように、シフトポジションが保持されて前記ロックモードが選択された場合、減圧弁47により減圧された一定油圧が、クラッチ用油圧室61またはブレーキ用油圧室62に供給され、前進用クラッチ18のとトルク容量または後進用ブレーキ19のトルク容量が略一定に維持される。
一方、ニュートラルポジションまたはドライブポジションが保持された場合は、切換弁72の制御により、クラッチ用油圧室61およびブレーキ用油圧室62が共にドレーンポート72Dに接続されて、クラッチ用油圧室61の油圧およびブレーキ用油圧室62の油圧が共に低下させられ。つまり、前進用クラッチ18および後進用ブレーキ19が共に解放される。減圧弁51ではソレノイド60の信号油圧が制御されて(例えば高められて)スプール58が動作し、前記出力ポート53と前記ドレーンポート55とが接続され、前記出力ポート53の油圧が制御される。なお、シフトポジションが保持されている場合、前記切替弁63の動作により、前記油路65と前記油路66とが連通し、かつ、前記減圧弁47によって調圧された油路50の油圧が、前記油路71に伝達される。このような切替弁63の動作状態がロックモードである。
つぎに、シフトポジションの変更がおこなわれる場合の制御について説明する。シフトポジションの変更がおこなわれた場合は、前記切換弁63の制御により、入力ポート64と出力ポート66とが接続され、かつ、入力ポート65が遮断される。このように、入力ポート64と出力ポート66とが接続され、かつ、入力ポート65が遮断されるように、切換弁63を制御するモードがコントロールモードである。また、前記切換弁51ではソレノイドバルブ60の信号油圧が制御されて、入力ポート52と出力ポート53との連通面積が制御される。一方、シフトポジションの変更がおこなわれた場合、変更後における切換弁73の制御は、シフトポジションが保持されている場合と同じである。このようにして、油路50のオイルが減圧弁51により調圧され、かつ、油路57を経由したオイルが、クラッチ用油圧室51またはブレーキ用油圧室62に供給される。このため、シフトポジションの変更により係合される前進用クラッチ18または後進用ブレーキ19の係合圧が、徐々に高められる。このように、切換弁63のモードとしてコントロールモードが選択された場合は、クラッチ用油圧室51またはブレーキ用油圧室62に作用する油圧を任意に調整可能である。そして、シフトポジションの変更により係合される前進用クラッチ18または後進用ブレーキ19の係合圧が所定圧まで高まった時点で、前記切換弁51の制御が、前記シフトポジションが保持された場合の制御に変更される。
つぎに、前記ベルト式無段変速機5の油圧制御を説明する。前記油路35からプライマリ油圧室23に至る経路にはプライマリ制御弁76が設けられており、そのプライマリ制御弁76の制御により、プライマリ油圧室23に供給されるオイル量が制御される。例えば、プライマリ油圧室23に供給されるオイル量が増加して、プライマリ油圧室23の油圧が上昇した場合は、プライマリプーリ21の溝幅が狭められて、プライマリプーリ21におけるベルト28の巻き掛け半径が大きくなる。すなわち、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との間の変速比が小さくなる変速(アップシフト)が実行される。これとは逆に、プライマリ油圧室23に供給されるオイル量が減少して、プライマリ油圧室23の油圧が低下した場合は、プライマリプーリ21の溝幅が拡大されて、プライマリプーリ21におけるベルト28の巻き掛け半径が小さくなる。すなわち、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との間の変速比が大きくなる変速(ダウンシフト)が実行される。なお、プライマリ油圧室23の油圧が一定に制御された場合は、プライマリプーリ21とセカンダリプーリ22との間の変速比が略一定に維持される。
また、前記油路35からセカンダリ油圧室24に至る経路にはセカンダリ制御弁80が設けられており、そのセカンダリ制御弁80の制御により、セカンダリ油圧室24の油圧が制御される。例えば、セカンダリ油圧室24の油圧が上昇された場合は、セカンダリプーリ22からベルト28に加えられる挟圧力が上昇し、伝達トルクが高まる。これとは逆に、セカンダリ油圧室24の油圧が低下された場合は、セカンダリプーリ22からベルト28に加えられる挟圧力が低下し、伝達トルクが低下する。なお、セカンダリ油圧室24の油圧が一定に制御された場合は、セカンダリプーリ22からベルト28に加えられる挟圧力が一定となり、伝達トルクが一定になる。なお、前記シフトポジションが保持されている場合は、前記切換弁63の制御により、補助ポート68と油圧検知ポート74とが接続され、かつ、補助ポート67が遮断されている。したがって、セカンダリ油圧室24の油圧が油圧検知センサ75により検知される。これに対して、シフトポジションの変更がおこなわれて、前記切換弁63の補助ポート67と油圧検知ポート74とが接続されている間は、油路86の油圧が油圧検知センサ75により検知される。すなわち、セカンダリ油圧室24の油圧、オイルポンプ33の吐出油圧を共に、同じ油圧検知センサ75により検知可能である。
ところで、前述したようにシフトポジションを変更する場合、特に、ドライブポジションとリバースポジションとを交互に変更する操作をおこなう、つまりガレージシフトがおこなわれた場合、前記切換弁72のスプール73が、ドライブポジションに対応するスプール73の停止位置と、リバースポジションに対応するスプール73の停止位置との範囲で動作することとなる。また、この場合スプール73は、ニュートラルポジションに対応するスプール73の停止位置を経由する。このため、スプール73がニュートラルポジションに対応するスプール73の停止位置から、ドライブポジションまたはリバースポジションに対応するスプール73の停止位置に移動する際に、前進用クラッチ18または後進用ブレーキ19が係合されるため、前記油路35における必要オイル量が増加する。すると、「1ポンプ状態」、つまり、油路35におけるオイル必要量を、オイルポンプ32を駆動させて賄ない、かつ、オイルポンプ33を停止もしくはその吐出量を低下させる状態から、「2ポンプ状態」、つまり、油路35におけるオイル必要量を、オイルポンプ32,33の両方を駆動させて賄う状態に切り換わる。このとき、クラッチ用油圧室61およびブレーキ用油圧室62におけるオイル必要量が急激に増加すると、前記プライマリレギュレータバルブ36のスプール41の応答が遅れて入力ポート37が閉じられて、前記チェック弁88を経由して前記油路36にオイルを供給する(いわゆる「2ポンプ状態」)作用が遅れる場合がある。その結果、クラッチ用油圧室61またはブレーキ用油圧室62の油圧を上昇させる過程(途中)で、オイルポンプ33の吐出油圧が急激に低下し、油路35の油圧が急激に変動するため、前進用クラッチ18または後進用ブレーキ19のトルク容量を、目標とするトルク容量に調整できず、ショックを招く恐れがある。
そこで、この実施例においては、シフトポジションの変更により、クラッチ用油圧室61またはブレーキ用油圧室62の油圧が低下される途中でオイルポンプ33のオイル吐出容量が切り換わることを防止するために実行可能な制御例を図3のフローチャートにより説明する。図3においては、まず、前記油路35におけるオイルの必要量が変化するか否かが予測される(ステップS1)。例えば、シフトポジションにより予測することが可能であり、シフトポジションが変更されなければ、このステップS1で否定的に判断されて、制御ルーチンを終了する。これに対して、シフトポジションが変更された場合は、ステップS1で肯定的に判断され。そして、予め定められた油温条件が満足されているか否かが判断され(ステップS2)、このステップS2で肯定的に判断された場合は、「ガレージシフト制御の実行中に、オイルポンプ33の吐出容量が切り換わること」を防止する「切換防止制御」が実行される(ステップS3)。ここで、ガレージシフト制御の実行中とは、油路や油圧室の油圧の低下を開始してから終了するまでの間、油路や油圧室の油圧の上昇を開始してから終了するまでの間を意味する。このステップS3についで、ガレージシフト制御が実行され(ステップS4)、この制御ルーチンを終了する。一方、ステップS2で否定的に判断された場合は、前記「切換防止制御」を実行することなく(ステップS5)、ステップS4に進む。この図3は、請求項1の発明に相当するものであり、ステップS1が、この発明における予測手段に相当し、ステップS2,S3,S4が、この発明の供給状態変更手段に相当する。
以下、図3の制御の一層具体的な制御の一例を、図4のフローチャートにより説明する。図4のフローチャートは、ガレージシフト制御の実行中に、「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わることを防止するものである。まず、図4において図3と同じ処理については、図3と同じステップ番号を付してある。図1で肯定的に判断された場合は、油温条件が満足されているか否か、具体的には、実油温Tが予め定められた所定油温T0未満であるか否かが判断される(ステップS21)。所定油温T0は、オイルの粘度に基づく漏れ量から実験的に定めた値であり、電子制御装置128に記憶されている。より具体的に説明すると、まず、油路35におけるオイル漏れ量が増加して、必要オイル量をオイルポンプ32だけでは賄えなくなり、「2ポンプ状態」となる油温T0′を求める。これは、オイルポンプ32の吐出圧とオイルポンプ33の吐出圧とが等しくなる油温である。その油温T0′にマージンΔT0を加えて所定油温T0を求める。すなわち、所定油温T0は、
T0=T0′+ΔT0
で表される。
このステップS21で肯定的に判断された場合は、オイルの漏れ量が少ないため「1ポンプ状態」が継続され、ガレージシフト制御中におけるオイル量不足を補うために、「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わる可能性がある。そこで、ガレージシフト制御が開始される前に、「切換防止制御」、具体的には、油路35におけるオイルの目標消費流量を強制的に増加させる制御を実行する(ステップS31)。このステップS31の制御を実行すると、前記目標消費流量とオイルポンプ32の吐出容量との差分を、消費流量増加で賄うために、1ポンプ状態から2ポンプ状態に切り換わる。このステップS31の処理後にステップS4に進む。すなわち、ガレージシフト制御が実行される前に、予め1ポンプ状態から2ポンプ状態に切り換わっており、そのガレージシフト制御の実行中は、オイルポンプ32の吐出油圧と、オイルポンプ33の吐出油圧とが等しくなる。このようにして、ガレージシフト制御の実行中に、1ポンプ状態から2ポンプ状態に切り換わることを防止できる。したがって、油路35における圧油の急激な変動、もしくは前進用クラッチ18または後進用ブレーキ19の係合ショックを回避できる。
一方、ステップS21で否定的に判断された場合は、ステップS5を経由して4に進む。すなわち、ステップS21で否定的に判断されるということは、オイルの粘度が低くオイル漏れ量が多いのであり、このような状態では、「切換防止制御」を実行しなくても、既に、「2ポンプ状態」となっていると考えられる。したがって、更に目標消費流量を強制的に増加させる制御を実行する必要は無い。なお、ステップS1で否定的に判断された場合も、目標消費流量を強制的に増加させる制御は実行されない。つまり、ステップS1で否定的に判断された場合、またはステップS5を経由してステップS4に進んだ場合は、オイルポンプ33,34の駆動に必要な動力が増加しないため、エンジン2の燃費低下を防止できる。なお、図4のステップS31では、目標消費流量に代えて、目標吐出油圧を強制的に増加させる制御を実行しても、技術的には等価の効果を得られる。
この図4の制御を含むタイムチャートの一例を、図5に基づいて説明する。すなわち、時刻t1から時刻t2の間にガレージシフト制御が開始され、かつ終了している。この図5のタイムチャートでは、その時刻t1以前において、オイルポンプ32,33の吐出油圧が、共に実線で示す高油圧(同一油圧)まで上昇されている。なお、時刻t1以降も、オイルポンプ32,33の吐出油圧が略一定に制御されている。上記図4は、請求項1および請求項2および請求項4および請求項5に対応するものであり、ステップS1が、この発明の予測手段に相当し、ステップS21,S31,S4が、この発明の供給状態変更手段に相当する。
つぎに、図1のより具体的な制御の他の例を、図6に基づいて説明する。図6のフローチャートは、ガレージシフト制御の実行中に、「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わることを防止するものである。図6のフローチャートにおいて、図1および図4の処理とおなじ処理をおこなうステップには、図1および図4と同じステップ番号を付してある。この図6のフローチャートにおいては、油温条件を満足しているか否かを判断するステップとして、ステップS21の他にステップS22が加えられている。すなわち、ステップS21で肯定的に判断された場合は、実油温Tが、予め定められた所定油温T1を越えているか否かが判断される(ステップS22)。この所定油温T1は前記所定油温T0よりも低温であり、オイルの漏れ量が所定量以下になる温度であり、実験的に求められて電子制御装置128に記憶されている。より具体的には、オイルポンプ3の吐出油圧Psubが、ガレージシフト制御の実行中に、
油圧Psub<しきい値Psub_th
となる油温T1′を実験的に求め、その油温T1′からマージンΔT1を減じて所定油温T1を求める。すなわち所定油温T1は、
T1=T1′−ΔT1
で表される。
そして、このステップS21で否定的に判断されるということは、オイルの漏れ量が増加しており、「2ポンプ状態」になっていることを意味する。したがって、油路35でオイル量不足が発生することはなく、その後に、ガレージシフト制御が開始されたとしても、「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わる可能性は低い。そこで、ステップS22で否定的に判断された場合は、ステップS5に進む。これに対して、ステップS22で肯定的に判断されるということは、図4のステップS21で肯定的に判断された場合と同様の理由により、ステップS31に進む。この図6の制御においても、図4の制御と同じ効果を得られる。なお、この図5のタイムチャートは、図6のフローチャートにも対応する。また、図6のフローチャートは、請求項1および請求項2および請求項4および請求項5および請求項8および請求項9に対応するものであり、図6に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1が、この発明の予測手段に相当し、ステップS21,S22,S31,S4が、この発明の供給状態変更手段に相当する。また、所定油温T0未満であり、かつ、所定油温T1を越える範囲の油温が、この発明における「温度範囲」に相当する。なお、この図6の制御例では、油温を直接検知しているが、外気温や冷却水温から油温を間接的に判断することも可能である。
つぎに、図1のより具体的な制御の他の例を、図7に基づいて説明する。図7のフローチャートは、ガレージシフト制御の実行中に、「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わることを防止するものである。図7のフローチャートにおいて、図1および図4および図6の処理とおなじ処理をおこなうステップには、図1および図4および図6と同じステップ番号を付してある。この図7のフローチャートにおいては、「切換防止制御」の具体例としてエンジン回転数Neを上昇(アップ)させる制御を実行する。すなわち、前述と同様にして、ステップS22に進み、このステップS22で肯定的に判断された場合は、ガレージシフト制御が実行される前に、エンジン回転数Neを上昇(アップ)させる制御を実行し(ステップS23)、ステップS4に進む。このステップS23の処理を実行すると、オイルポンプ32の吐出流量が増加するため、油路35におけるオイル必要流量を、オイルポンプ32の吐出オイルで賄うことができる。したがって、ガレージシフト制御中に「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わることを防止できる。
これに対して、ステップS21で否定的に判断された場合は、前述と同様の理由により、既に、エンジン回転数Neを上昇(アップ)させる制御が実行されているため、この時点でエンジン回転数Neを更に上昇させる必要はなく、ステップS5に進む。これに対して、ステップS22で否定的に判断された場合も、前述と同様の理由により、「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わる可能性が低いため、ステップS5に進む。なお、オイルポンプ32,33として可変容量形オイルポンプを用いている場合、ステップS23ではエンジン回転数を上昇させることに代えて、オイルポンプ32のオイル吐出量を増加する制御を実行することも可能である。また、オイルポンプ33から吐出されるオイルを、前記油路35に供給しない状態と供給する状態との切り換えには、前記オイルポンプ33のオイルの吐出・吐出停止を切り換える方法と、前記オイルポンプ33からオイルを吐出したまま、プライマリレギュレータバルブ36の制御によりオイルの供給・非供給とを切り換える方法と、オイルポンプ32,33として可変容量形のものを用いることにより、オイルポンプ34の吐出容量を変更する方法とのうち、何れを用いてもよい。
この図7の制御を含むタイムチャートの一例を、図8に基づいて説明する。すなわち、時刻t1から時刻t2の間にガレージシフト制御が開始され、かつ終了している。この図8のタイムチャートでは、その時刻t1以前から時刻t2以降に亘り、オイルポンプ32の吐出油圧が、実線で示すように高油圧まで上昇されている。これに対して、オイルポンプ33の吐出油圧は、その時刻t1以前から時刻t2以降に亘り、破線で示すように、しきい値Psub_th よりも低圧となっている。なお、図7のフローチャートは、請求項1および請求項2および請求項3および請求項8および請求項9に対応するものであり、図7に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1が、この発明の予測手段に相当し、ステップS21,S22,S23,S4が、この発明の供給状態変更手段に相当する。
つぎに、図1のより具体的な制御の他の例を、図9に基づいて説明する。図9のフローチャートは、ガレージシフト制御の実行中に、「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わることを防止するものである。図9のフローチャートにおいて、図1および図4および図6の処理とおなじ処理をおこなうステップには、図1および図4および図6と同じステップ番号を付してある。この図9のフローチャートにおいては、「切換防止制御」の具体例としてエンジン回転数Neを低下(ダウン)させる制御を実行する。すなわち、前述と同様にして、ステップS22に進み、このステップS22で肯定的に判断された場合は、ガレージシフト制御が実行される前に、エンジン回転数Neを低下(ダウン)させる制御を実行し(ステップS24)、ステップS4に進む。このステップS24の処理を実行すると、オイルポンプ32の吐出流量が低下して油路35の油圧が低下し、かつ、前記逆止弁88が開放されて、オイルポンプ33の吐出オイルがが油路35に供給される。このようにして、ガレージシフト制御が開始される前に、「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わる。したがって、ガレージシフト制御中に「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わることを防止できる。
これに対して、ステップS21で否定的に判断された場合は、前述と同様の理由により、既に、エンジン回転数Neを低下させる制御が実行されているため、この時点でエンジン回転数Neを更に低下させる必要はなく、ステップS5に進む。これに対して、ステップS22で否定的に判断された場合も、前述と同様の理由により、「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換わる可能性が低いため、ステップS5に進む。なお、オイルポンプ32,33として可変容量形オイルポンプを用いている場合、ステップS23でエンジン回転数を低下させることに代えて、オイルポンプ32のオイル吐出量を低下する制御を実行することも可能である。また、プライマリレギュレータバルブ36の制御により、オイルポンプ33のオイルを油路35に供給する状態と供給されない状態とを切り換える場合、プライマリレギュレータバルブ36を制御して、オイルポンプ33から油路35に供給されるオイル量を減少させることも可能である。この図9の制御には前述した図5のタイムチャートがあてはまる。また、前記図6および図7および図9のフローチャートでは、油路における油圧が変動する範囲を、油温に基づいて特定しているため、油圧センサを設けなくてもよい。なお、図9のフローチャートは、請求項1および請求項2および請求項3および請求項8および請求項9に対応するものであり、図7に示された機能的手段と、この発明の構成との対応関係を説明すると、ステップS1が、この発明の予測手段に相当し、ステップS21,S22,S24,S4が、この発明の供給状態変更手段に相当する。
また、この実施例では、ガレージシフト制御実行中におけるオイルポンプ33の吐出油圧を、前記油圧検知センサ75により検出することが可能である。したがって、オイルポンプ33の吐出油圧を検出するセンサを新たに追加せずに済む。さらに、実機の油圧回路30毎に、オイルポンプ33の吐出油圧を前記油圧検知センサ75により検出するとともに、前述したステップS21,S22で説明した所定油温T0と所定油温T1との温度差、または温度範囲、あるいは所定油温T0および所定油温T1自体を、個々の油圧回路30の特性(バラツキ)や経時変化に基づいて設定すること、もしくは学習制御することが可能である。
つぎに、前記切換弁63のモードとしてコントロールモードが選択された場合に実行可能な制御例を、図10のフローチャートに基づいて説明する。まず、前記前進用クラッチ18の油圧室61の油圧が最低(最低クラッチ圧)であり、かつ、前記切換弁(ガレージシフトバルブ)63のモードとしてコントロールモードが選択されている場合に、前記オイルポンプ33の吐出油圧Psub_が読み込まれる(ステップS41)。ここで、最低クラッチ圧とは、前進用クラッチ18を係合させる向きでピストンを動作させる場合に、リターンスプリングの押圧力にはうち勝つが、前進用クラッチ18が実質的に係合することのない油圧(トルク伝達はできない程度の油圧)を意味する。このステップS41についで、各油温毎に対応させて吐出油圧T-Psub_ がマップ化され(ステップS42)、この制御ルーチンを終了する。図11に吐出油圧T-Psub_ のマップの一例を示す。図11のマップでは、横軸に油温が示され、縦軸に吐出油圧が示されている。そして、油温Taに対応する吐出油圧Psub_aが示され、油温Tbに対応する吐出油圧Psub_bが示されている。ここで、油温Ta<油温Tbであり、吐出油圧Psub_a<吐出油圧Psub_bである。なお、この実施例では、油圧検知センサ75の信号に基づいて、「1ポンプ状態」と「2ポンプ状態」との切換がおこなわれたか否かを判断可能である。これに対して、このような判断をおこなわない場合、あるいは、図10の制御を実行しない場合は、図1に示された油圧検知センサ75、油圧検知ポート74、補助ポート67,68を設ける必要はない。
ところで、前述した図4および図6において、ガレージシフト制御の実行前にステップS31の処理をおこなうにあたり、このステップS31では目標消費流量を減少させること、すなわち、目標吐出圧を低下させることに代えることも可能である。例えば、ガレージシフト制御の実行中に、前進用クラッチ18または後進用ブレーキ19の係合が完了した場合、前記油路35の消費流量が急激に減少する。このとき、前記プライマリレギュレータバルブ36の応答遅れが発生すると、前記油路35のオイルが前記油路46にドレインされにくくなり、前記オイルポンプ32の吐出油圧が上昇してショックを招く可能性がある。そこで、油路35における目標吐出流量を減少させる(目標吐出圧を低下させる)ことにより、ガレージシフト制御の実行前に、「2ポンプ状態」から「1ポンプ状態」に切り換えることが可能である。このような制御を実行した場合も、「ガレージシフトの実行中に、「1ポンプ状態」から「2ポンプ状態」に切り換えることを防止する場合」と同じ効果を得られる。
ここで、実施例で説明した構成と、この発明の構成との対応関係を説明すると、吐出口34が、この発明の第1のオイル吐出口に相当し、前記油路35が、この発明の第1の油路に相当し、吐出口85が、この発明の第2のオイル吐出口に相当し、油路86が、この発明の第2の油路に相当し、スプール43が、この発明の弁体に相当し、プライマリレギュレータバルブ36が、この発明の制御弁に相当し、オイルポンプ32が、この発明のオイルポンプに相当し、エンジン2が、この発明の原動機に相当し、前記プライマリシャフト12が、この発明の回転部材に相当し、クラッチ用油圧室61およびブレーキ用油圧室62が、この発明における「オイルの必要量が変化する機構」に相当し、油圧室24が、この発明のセカンダリプーリ用油圧室に相当し、電子制御装置128が、この発明の判断装置に相当する。
1…車両、 2…エンジン、 12…プライマリシャフト、 24…油圧室、 128…電子制御装置、 32…オイルポンプ、 34,85…吐出口、 35,86…油路、 43…スプール、 36…プライマリレギュレータバルブ、 61…クラッチ用油圧室、 62…ブレーキ用油圧室。