JP5102485B2 - 金属磁性粉の製法 - Google Patents

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Description

本発明は、超高密度塗布型磁気記録媒体の磁性層に適した金属磁性粉末およびその製法に関する。
近年、音声情報や映像情報のデジタル化、ハイエンド化に伴い記録・保存すべき情報量は増加する傾向にある。こうした情報を記録・保存するための情報記録媒体に対しては、より高容量化が指向されている。従来から高容量を擁する磁気記録媒体として、広く利用されてきた塗布型磁気記録媒体は、情報容量に対する単価の低廉性から今後もますますその重要性は注目されている。
磁気記録媒体の高容量化には、例えば塗布型磁気記録媒体の代表である磁気テープの場合、媒体1巻あたりの巻き数を増加させるといった手法も採りうる。しかしそれよりも、記録密度を増大させること、すなわち、多くの情報をできるだけ小さい面積に書き込めるようにすることが、媒体の総数を低減させる上で極めて効果的である。
また、磁気記録媒体の高密度化に磁性粒子そのものの粒子の微細化は大きく寄与する。具体的には、媒体に対する情報の書き込みをより短波長で行う試みがなされており、それに対応できるような磁性粒子は記録波長に対して小さいものが必要であるとされている。従って、磁性粒子の低体積化・微細化は媒体の高容量化、高密度化の両方に寄与する。
しかし、粒子の微細化は、耐酸化性あるいは磁気特性の低下を引き起こす可能性があり、必ずしも容易に実現できるものではない。磁性粒子として広く使用されている金属磁性粉末は通常、酸素を多く含有する酸化膜層(表層)によって安定性が保たれている。高い磁気特性を付与するには酸化膜層を薄くすれば良いが、薄くしすぎると耐酸化性に極めて劣る磁性粉末になり、大気に触れると発火してしまうことがある。逆に酸化膜層を厚くすれば飽和磁化値は低下してしまうし、中心部金属コアに形状の崩れが生じてしまうと、形状異方性に依存する金属磁性粉末は、磁性が十分に保たれないような状態に陥ってしまい、高密度磁気記録には利用しがたい特性の磁性粉末となってしまう。
また、磁気記録媒体には、記録した情報が消失しない高信頼性が要求される。そのような高信頼性を得るには、磁気特性の経時劣化が少ない磁性粉末を使用する必要がある。具体的には、飽和磁化σsが経時変化しにくい特性すなわち「耐候性」に優れる磁性粉末であることが望まれる。耐候性も、基本的には耐酸化性の一形態と捉えることができ、酸化膜層(表層)を厚くすれば改善される傾向を示す。しかし、前述のように酸化膜層の増大は金属部分の減少を招き、ひいては磁気特性の低下につながる。特に、微粒子化を図った粒子の場合、金属部分の減少と同時に当該金属部分の分断が起こることも考えられ、酸化膜層の増大化で対応することは好ましくない。
こうしたことを考慮に入れ、本出願人は磁性粉における耐候性(保存安定性)に着目し、従来にない酸化膜の形成に関して種々検討を行ってきた。例えば、表面酸化膜におけるCoの存在量に関するもの(特許文献1)、表面酸化膜の価数変化を変化させるもの(特許文献2)を開示し、従来公知の粉末に比較して耐候性(保存安定性)に優れたものが提供できることを確認した。さらには、酸化膜における局部的なEDS測定結果から、酸化膜中の組成も耐酸化性に対して多大な影響を有する可能性があり、製造条件によってはかような酸化膜中の組成に関しても変化させうることを見出した。この点は特許文献1に開示した。
しかし、磁性粉に求められる特性は、こうした磁性粉の耐侯性もさることながら、磁性層が有する磁気特性、ひいては電磁変換特性を改善できうるような磁性粉の開発が必要である。特に針状の金属磁性粉末の場合、その磁性の発現は粒子の形状、とりわけ磁性を生じる金属部分の形状によって大きく左右されると考えられる。さらに、金属コア部分を浸食することにより形成される酸化膜ならびにその近傍部分に関する検討は、粒子の有する磁性を左右する重要なものであるとして、いままでも様々な検討がなされており、現在に至っている。例えば、磁性粉の表面酸化膜に関する検討としては、酸化膜厚およびその変動係数に関する検討(特許文献2、3)、酸化膜の構造に関する検討(特許文献4、5)、酸化膜を構成する酸化鉄結晶の構成割合に関する検討(特許文献6)、酸化膜の膜厚と結晶子サイズに関する検討(特許文献7)、酸化膜の結晶ゆがみに関する検討(特許文献8,9)等があげられる。その他、磁性層の重量組成および表面組成に関する検討もなされている(特許文献10)。
特開2006−128535号公報 特開2005−276361号公報 特開2003−119502号公報 特開2005−026603号公報 特開2004−013975号公報 特開2003−141711号公報 特開2002−353016号公報 特開2002−353015号公報 特開2002−151313号公報 特許第3815675号公報
上記先行技術によれば、従来においては酸化膜の組成構造等を変化させるべく、粒子表面の酸化、すなわち徐酸化段階における検討に重きが置かれ、金属磁性粒子の耐酸化性や磁気記録媒体の保存安定性に関して検討がなされてきたといえる。
しかし、磁性粒子の微粒子化が指向されるなか、かような金属コアを少なくする従来技術のみでは、実用に耐えうる磁性粒子を得ることは困難になってきた。すなわち磁性を司る金属コア部分の酸化による犠牲をできるだけ小さくできる金属磁性粒子の製造方法の開発が望まれている。
本発明はこのような現状に鑑み、特に微粒子でありながら、磁気特性を維持しながら耐酸化性を改善させた金属磁性粉末およびその製法を提供しようというものである。
発明者らは、金属磁性粒子の内部における組成変動に着目し、従来とは異なった視点から詳細な検討を進めた。その結果、焼結防止剤として添加されるAlや希土類元素が、粒子の中心部には少なく、表層部に偏在しているような濃度分布で含有されている金属磁性粉において、磁気特性の顕著な改善が実現できることを見出した。また、従来の金属磁性粉はオキシ水酸化鉄からα酸化鉄を合成し、これを還元雰囲気で熱処理することにより製造されるのが一般的であったが、本発明の特異な濃度分布を持つ磁性粒子は、オキシ水酸化鉄がいったんウスタイト(FeO)を経由し還元されるような製法であれば、再現性良く製造できることを見いだし、本願発明を完成させた。
すなわち、本発明では、焼結防止元素を含有するオキシ水酸化鉄(α−FeOOH、ただしFeの一部が他の元素、例えばCoで置換されていても構わない)の粉末を熱処理して得たウスタイト(FeO、ただしFeの一部が他の元素、例えばCoで置換されていても構わない)の粉末に対して、還元熱処理を施す金属磁性粉の製法が提供される。焼結防止元素は、例えばAl、希土類元素(Y、Scも希土類元素として扱う)である。ここでいうウスタイトはFeO型結晶に対応するX線回折ピークを有するものである。
上記のようにオキシ水酸化鉄からウスタイトを合成するための熱処理として、弱還元性雰囲気での気相還元処理と、弱酸化性雰囲気での気相酸化処理とを順次施す熱処理が採用される。前者の気相還元処理では、オキシ水酸化鉄の粉末を弱還元性雰囲気に曝して個々の粒子の一部が金属鉄(α−Fe、ただしFeの一部が他の元素、例えばCoで置換されていても構わない)に還元された段階で還元反応の進行を止めることが重要である。具体的には水素を含む還元性ガスに接触する250〜500℃の雰囲気が適用できる。また後者の気相酸化処理は、酸素と水蒸気を含む酸化性ガスに接触する50〜200℃の雰囲気が適用できる。
上記の条件を満たす製法に従って製造される金属磁性粉は、磁性粒子中の非磁性成分(焼結防止元素)が表層付近に偏在しており、磁性粒子の中心部付近の金属磁性相(金属コア)は非磁性成分が極端に少なくなっている。また、既にウスタイトの段階で粒子表層部付近に焼結防止元素が濃化していると考えられるので、中間体である金属酸化物粉末を高温で還元処理して金属磁性粉を合成する際には、優れた焼結防止効果が発揮され、良好な形状を維持した金属磁性粉末粒子が得られる。これらのことにより、本発明の金属磁性粉は磁気特性が大きく改善されており、高密度磁気記録に一層適したものとなる。また、この金属磁性粉は既存の生産設備を活用して比較的簡便に製造できる。したがって本発明は、高容量・高密度を有する磁性粒子のコスト低減にも寄与するものである。
〔金属磁性粉の組成〕
Co含有量に関しては、原子割合でFeに対するCoの割合(以下「Co/Fe原子比」という)が0〜50at%の金属磁性粉が対象となる。Co/Fe原子比が5〜45at%のものがより好ましく、10〜40at%のものが一層好ましい。このような範囲において安定した磁気特性が得られやすく、耐候性も良好になる。
Al含有量に関しては、金属磁性粉末全体に対するAl含有量が10質量%以下となる範囲でAlを固溶させた磁性粉末が好適な対象となる。Alを固溶させることにより耐候性が改善される。またAlは焼結防止効果も有する。本明細書ではAlは「焼結防止元素」の1つとして扱っている。ただし、Alは非磁性成分であり、あまりに多く固溶させると磁気特性が希釈されるため好ましくない。粉末全体に対するAl含有量は0.1〜10質量%とすることが望ましく、0.5〜9質量%がより好ましく、1〜8質量%が一層好ましい。
希土類元素(Y、Scも希土類元素として扱う)に関しては、金属磁性粉末全体に対する希土類元素の含有量が20質量%以下となる範囲で希土類元素を添加したものが好適な対象となる。希土類元素の添加は磁性粉末への還元時に焼結防止効果を発揮する。特に微粒子の場合には焼結が進みやすいことから希土類元素の添加は極めて有効である。ただし、希土類元素の添加量が過剰になると磁気特性が希釈され、また、テープとヘッドの摺動時にヘッド汚れとして付着する可能性もあるので好ましくない。希土類元素の添加量は、粉末全体に対する割合で0を超え〜20質量%とすることが望ましく、0.1〜17質量%がより好ましく、0.5〜15質量%が一層好ましい。本発明ではSc、Yも希土類元素として扱う。焼結防止にはいずれの希土類元素でも効果が期待できるが、特にY、La、Sc、Yb、Gd、Nbなどが有効である。
その他の焼結防止元素としてアルカリ土類金属が挙げられる。アルカリ土類金属は意図的に添加してもよいが、原料の第一鉄塩、コバルト塩、アルミニウム塩、希土類塩から混入することもある。ただし、アルカリ土類金属は、その含有量が多すぎると、時間経過に伴って周囲のバインダー等と反応して塩を形成し、保存安定性を悪化させることがあるので注意を要する。特に水溶性の成分として含む場合にその影響が顕著に現れる可能性がある。アルカリ土類金属の含有量は、粉末全体に対する割合で0を超え〜0.5質量%であることが望ましく、0.01〜0.3質量%がより好ましく、0.01〜0.1質量%が一層好ましい。
〔製法〕
本発明では出発材料としてオキシ水酸化鉄(α−FeOOH、ただしFeの一部が他の元素で置換されていても構わない)を使用する。そのオキシ水酸化鉄としては、常法(従来公知の湿式法)によって製造されたものが適用できる。このときに原料粉末は、長軸長20〜150nm、より好ましくは20〜100nmであると良い。この範囲に包含されるオキシ水酸化鉄は、還元・安定化の各工程を経ることでその体積が主には脱水反応によって十分に小さくなり、より微粒子で高密度磁気記録に適した磁性粉末に成り得る。
Feの一部を置換させるCoや、上記各種の焼結防止元素等は、オキシ水酸化鉄合成段階で原料として添加される他、焼結防止元素については合成されたオキシ水酸化鉄の粒子表面に被着する処理により含有させることもできる。
金属磁性粉を製造する手法としては、オキシ水酸化鉄を例えば400℃程度の大気雰囲気で熱処理することによりヘマタイト(α−Fe23)とし、この中間体を500〜600℃程度の還元雰囲気で焼成することにより金属鉄(α−Fe)主体の金属磁性粉を得る工程が一般的に採用されている。これに対し本発明では、中間体としてウスタイト(FeO)を生成させるところに特徴がある。
オキシ水酸化鉄からウスタイトを生成させることは、通常公知の方法では困難である。なぜならば、オキシ水酸化鉄をウスタイトとするには、3価を2価に変化させる反応、すなわち還元反応を起こさなければならないが、公知の反応によれば、2価の鉄を作成する必要性がなかったので、3価のオキシ水酸化鉄もしくはヘマタイトを急速に鉄の状態にまで還元するようになっており、還元を不完全な状態でとどめておくようにはなっていなかったためである。
発明者らは金属鉄を形成する還元雰囲気下にあっても、特定の条件下でオキシ水酸化鉄を処理することにより、オキシ水酸化鉄相ともα−Fe相とも違う別相のウスタイト相が形成されることを知見した。さらに、この相がいったん形成されたものに、公知の還元処理を行うと、通常得られる金属磁性粒子粉末よりも、高磁気特性で耐酸化性に優れる金属磁性粉末が得られることを見いだしたのである。
また、これら得られた粒子と、従来公知の方法で形成された粒子内部の組成構成をTEM−EDX装置で比較したところ、粒子の最外部から内部に至る組成構成が従来公知の物質とは異なっているものが得られていることがわかった。
このウスタイトを経由して生成される金属磁性粉末では、Al、希土類元素といった、基本的にFeOの結晶構造を構成しないと考えられる添加元素が、粒子の表層付近に偏在することが粒子のTEM−EDX測定により確かめられた。そのような濃度分布が生じるメカニズムについては不明な点も多いが、以下のようなことが考えられる。すなわち、上記に言及した特定雰囲気、具体的には弱還元性雰囲気下でアニールを行うことにより、ウスタイトの結晶格子を構成しない物質、具体的には希土類あるいはAlが表面近傍に移動し、希土類あるいはAlが比較的濃い表面近傍と希土類あるいはAlが表面に追いやられ、濃度が薄くなった粒子中央部の間に緩やかながらも界面を有するようになるとみられる。元来の方法では、急速還元により一気に還元が進んでしまうため、かような界面が形成されることなく、粒子中のAlもしくは希土類、なかでもAlについては、粒子の中にほぼ一様に存在するようになっていた。
具体的な形成方法は、ウスタイトを合成する際の弱還元性雰囲気における熱処理段階(前段アニール)で使用するガスとしては、還元性を有するもの、具体的には水素や一酸化炭素を含むガスが好適に使用できる。なかでも安全性やハンドリング性の観点から水素ガス雰囲気とすることが好ましい。温度は200〜500℃の範囲で設定できるが、温度が高くなると還元性が強くなり、アニール時間のコントロールが次第に難しくなる。逆に温度が低くなるとアニール時間が長くなり、生産性が低下する。種々検討の結果、250〜475℃の範囲とすることが好ましく、275〜450℃がより好ましい。アニール時間は15〜120分の間で設定できる。なお、粒子の全部が金属鉄にまで還元されてしまった場合、その後、弱酸化性雰囲気での熱処理を加えてもウスタイトを得ることは難しくなる。前段アニールを止めるためには導入する還元性ガスを窒素ガスあるいは不活性ガスに切り替える手法が簡便であり好ましい。
ウスタイトを合成する際の弱酸化性雰囲気での熱処理(後段アニール)は、前段アニールを止め、温度が概ね150℃以下に低下した後、酸素含有ガスを導入することによって行うことができる。初めは急激な反応を避けるため、窒素ガスまたは不活性ガス中に微量の純酸素を水蒸気とともに添加するとよい。なお、水蒸気の供給量は20体積%以下とすることが望ましい。温度は50〜200℃とすることができ、60〜150℃がより好ましい。後段アニール時間は開始から30〜100分程度とすることができる。
このようにして得られたウスタイト粉末は、還元処理に供される。還元処理は従来一般的な手法によるヘマタイトを還元する場合と概ね同様に実施することができる。雰囲気ガスとして水素等の還元性ガスを使用し、500〜600℃程度の高温に曝すことによって最終的に金属鉄(α−Fe、ただしFeの一部が他の元素で置換されていても構わない)の粉末を得ることができる。ウスタイトは還元作用が起こりにくいことが知られており、場合によっては、還元過程でマグヘマイト(γ−Fe23)あるいはマグネタイト(Fe34)型の結晶が生成することがあるが、最終的に金属鉄を主体とする粉末となれば問題ない。
この還元処理においては、ウスタイト粒子の表層部に濃化している焼結防止元素によって、焼結が効果的に防止される。ウスタイトの還元されにくい性質は、焼結防止元素をより表層へと移動を促すためにより有利に作用していると考えられる。すなわち、還元処理の加熱中に粒子内部のAlや希土類元素の濃度分布が大きく変動しないので、最終的に得られた金属磁性粉は、優れた焼結防止効果(形状保持効果)と、金属コア中の非磁性元素が少ないことによる磁性の発現効果が発揮され、後に示すような磁気特性の改善が実現されるものと考えられる。
得られた金属鉄(α−Fe、ただしFeの一部が他の元素で置換されていても構わない)の粉末は、水蒸気を含む酸化性雰囲気で常法により徐酸化処理を施すことにより表面酸化膜が形成され、安定化された金属磁性粉末が得られる。
〔金属磁性粉の構造〕
このようにして得られた本発明の金属磁性粉は、金属コアである金属鉄相(α−Fe、ただしFeの一部が他の元素で置換されていても構わない)の表面に酸化膜を有し、この粒子が希土類元素(Y、Scも希土類元素として扱う)を含む場合には、その酸化膜を含めた粒子について、TEM−EDX装置を用いて粒子の短軸方向に組成分析を行った際に観測される粒子の組成分布が下記[1]〜[3]を満たすものである。ここで、Aは短軸長(nm)、Xは粒子のTEM像における短軸の一端部(粒子の像の輪郭位置)からの短軸方向距離(nm)である。
[1]0<X≦0.1Aの範囲における平均R/Feモル比が1.0以下
[2]0.1A<X≦0.25Aの範囲における平均R/Feモル比が1.0以下
[3]0.25A<X≦0.5Aの範囲における平均R/Feモル比が0.5以下
同様に、この粒子がAlを含む場合には、下記[4]〜[6]を満たすものである。
[4]0<X≦0.1Aの範囲における平均Al/Feモル比が1.0以上
[5]0.1A<X≦0.25Aの範囲における平均Al/Feモル比が1.0以上
[6]0.25A<X≦0.5Aの範囲における平均Al/Feモル比が0.5以下
金属磁性粉末の形状としては、針状、平針状、紡錘状、粒状、俵状といった各種の形状が適用できる。TEM像から計測される長軸長は20〜200nm、好ましくは25〜150nm、より好ましくは25〜100nmの長軸長を有する。長軸長が長すぎると単位体積あたりに含まれる磁性粉の量が高密度磁気記録には少なくなってしまうので好ましくない。また短すぎると、磁気特性が十分にとれない可能性がある。このような形状は、出発材料であるオキシ水酸化鉄の適切な形状制御によって実現される。
BET法による比表面積値は100m2/g以下、好ましくは75m2/g以下、より好ましくは60m2/g以下であることが好ましい。BET値が高すぎる場合には、粒子の表面に小さい細孔が多数存在している可能性があるので好ましくない。
〔金属磁性粉の特性〕
本発明の金属磁性粉は以下のような特性を有するものが好適な対象となる。
当該金属磁性粉末1gをアルカリでpHを中性に調整した純水100mL中で100℃×5分間保持した際にCoの溶出がないことが好ましい。熱水溶性のCoが多い場合はCoが磁性粉末の中に十分に固溶できていないことを意味し、磁気特性が不安定となるので好ましくない。Coの熱水に対する溶出量は20ppm未満に抑制させることが必要である。Co/Fe原子比は45%以下、好ましくは5〜40原子%、より好ましくは10〜35原子%とすることができる。
また、磁性粉末を煮沸したときのAlの溶出が少ないことが望ましい。このときのAlの溶出量は、Alの固溶化が十分に達成されているかどうかの指標となる。すなわち、Alの溶出が多いものは固溶化が不十分であり、耐候性において信頼性に欠ける。具体的には、当該磁性粉末1gをアルカリでpHを中性に調整した純水100mL中で100℃×5分間保持した際に溶出するAl量が200ppm以下であるとき、良好な耐候性が確保できることがわかった。この溶出Al量が180ppm以下となるものがより好ましく、160ppm以下が一層好ましい。金属磁性粉末全体に対するAl含有量は例えば10質量%以下とすることができる。
また、いずれのアルカリ土類金属も、当該磁性粉末1gをアルカリでpHを中性に調整した純水100mL中で100℃×5分間保持した際の溶出量が200ppm以下となることが望ましく、150ppm以下がより好ましく、100ppm以下が一層好ましい。金属磁性粉末全体に対する割合でアルカリ土類金属の含有量は例えば0.5質量%以下とするのがよい。
金属磁性粒子の有するHc(保磁力)は119.4〜238.8kA/m、好ましくは127.3〜222.9kA/m、さらに好ましくは139.3〜207.0kA/mであり、σs(飽和磁化値)50〜120Am2/kg(emu/g)、好ましくはAm2/kg(emu/g)、さらに好ましくは65〜105Am2/kg(emu/g)である。Δσs(温度60℃で相対湿度90%の恒温恒湿下に7日間保持後の飽和磁化値σsの変化量は20%以下、好ましくは12%以下、さらに好ましくは9%以下である。これらの磁気特性を有する磁気粉末は、高密度磁気記録に適し、耐候性に優れた磁気記録媒体ができるため好ましい。本発明に従えばこれらの特性を有する金属磁性粉が得られる。
《実施例1》
5000mLビーカーに純水3000mLを入れ、温調機で40℃に維持しながら、これに0.03mol/Lの硫酸コバルト(特級試薬)溶液と0.15mol/Lの硫酸第一鉄(特級試薬)水溶液を1:3の混合割合にて混合した溶液を500mL添加した。その後、Fe+Coに対して炭酸が3当量となる量の顆粒状の炭酸ナトリウムを直接添加し、液中温度が±5℃を超えないように調整しつつ、炭酸鉄を主体とする懸濁液を作った。これを1時間30分熟成した後、空気を50mL/minでFeイオンの酸化率が20%となるように調整した量だけ添加して核晶を形成させ、65℃まで昇温し、更に50mL/minで純酸素を通気して酸化を1時間継続した。そのあと、純酸素を窒素に切り替えてから、30分程度熟成した。
その後、液温を40℃まで降温し、温度が安定してからAlとして1.0質量%の硫酸アルミニウム水溶液を5.0g/minの添加速度で20分間添加し続けてオキシ水酸化鉄を成長させた。さらに純酸素を50mL/minで流し続け、酸化を完結させた。なお、酸化の終点は、上澄み液を少量分取し、ヘキサシアノ酸鉄カリウムの溶液を使用して、液色が変化しないことを確認した後とした。酸化終了後の液に酸化イットリウムの硫酸水溶液(Yとして2.0質量%含有する)を300g添加した。このようにして、Alが固溶され、Yが表面に被着されたオキシ水酸化鉄の粉末を得た。このオキシ水酸化鉄のケーキを常法により濾過、水洗後、130℃で乾燥し、オキシ水酸化鉄乾燥固形物を得た。
このオキシ水酸化鉄の粉末を、通気可能なバケット内に投入し、該バケットを貫通型還元炉内に挿入し、水素ガス(28.8L/min)を通気しつつ、300℃で60分間還元処理を施した(前段アニール)。
その後、炉内雰囲気を水素から窒素に変換し、50L/minの流速で窒素を導入しながら炉内温度を降温レート20℃/minで80℃まで低下させた。酸化膜形成初期段階は窒素50L/minと純酸素400mL/minの混合割合にて混合したガスを炉内に添加し、水蒸気を水として1.0g/minの導入速度で添加しながら、水蒸気・酸素・窒素の混合雰囲気中にて酸化膜を形成させ、徐々に空気の供給量を増すことによって、雰囲気中における酸素濃度を上昇させた。最終的に供給される酸素の流量は2.0L/minの添加量とした。その際、炉内に導入されるガスの総量は窒素の流量を調整することによりほぼ一定に保たれるようにした。この熱処理は、概ね80℃に維持される雰囲気下で実施した(後段アニール)。このようにして、ウスタイトを主成分とする鉄系酸化物からなる中間体を得た。得られた中間体粉末のX線回折パターンを図1に示す。
このウスタイト粉末を、通気可能なバケット内に投入し、該バケットを貫通型還元炉内に装入し、水素ガス(40L/min)を通気しつつ、水蒸気を水として1.0g/minの導入速度で添加しながら、500℃で60分間還元処理を施した。還元時間終了後、水蒸気の供給を停止し、水素雰囲気下600℃まで10℃/minの昇温速度にて昇温した。その後、水蒸気を水として1.0g/minの導入速度で添加しながら60min高温還元処理を行い、金属鉄(Feの一部はCoに置換されている)の粉末を得た。
その後、炉内雰囲気を水素から窒素に変換し、50L/minの流速で窒素を導入しながら炉内温度を降温レート20℃/minで80℃まで低下させた。酸化膜形成初期段階は窒素50L/minと純酸素400mL/minの混合割合にて混合したガスを炉内に添加し、水蒸気を水として1.0g/minの導入速度で添加しながら、水蒸気・酸素・窒素の混合雰囲気中にて酸化膜を形成させ、徐々に空気の供給量を増すことによって、雰囲気中における酸素濃度を上昇させた。最終的に供給される酸素の流量は2.0L/minの添加量とした。その際、炉内に導入されるガスの総量は窒素の流量を調整することによりほぼ一定に保たれるようにした。徐酸化処理は、概ね80℃に維持される雰囲気下で実施した。
このようにして最終的な金属磁性粉(表面酸化膜を有するもの)が得られた。
得られた金属磁性粉について、以下の試験を行った。
〔焼結防止元素の濃度分布〕
TEM−EDXを使用して、磁性粒子の短軸方向に成分元素の濃度を測定した。結果を図3〜6に例示する。図3〜6中、「A」は前記0<X≦0.1Aの範囲、「B」は前記0.1A<X≦0.25Aの範囲、「C」は前記0.25A<X≦0.5Aの範囲に概ね対応する(図7〜10において同じ)。
〔粒子径〕
透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、100CX−MarkII)で直接倍率1万倍以上の写真を撮影し、その写真を引き伸ばすことによって、400個以上の粒子径測定を行い、その平均値を用いた。
〔比表面積〕
ユアサイオニクス製4ソープUSを用いてBET法で測定した。
〔磁気特性〕
東栄工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を用いて、最大796.2kA/m(10kOe)の印加電場で測定した。
〔耐酸化性Δσs〕
60℃、90%RH恒温恒湿中で一週間保存後、保存前後におけるσsを算出し、(保存前σs−保存後σs)/保存前σs×100(%)で算出した。
〔組成分析〕
Feは平沼産業製の自動滴定装置、Coなどの遷移金属および希土類元素はICP発光分析装置で計測した。
〔結晶子径Dx〕
理学電子株式会社のX線回折装置(RAD−2C)を用いてX線回折パターンを測定し、Fe(110)面の回折ピークを用い、シェラーの式を用いて算出した。
この金属磁性粉を使用して、以下の要領で磁気テープの特性を調べた。
〔テープ磁気特性〕
テープの磁気特性は、より磁性粉末の効果を確認するため、単層にて磁性層を構成し、得られたものの磁気特性を測定した。
(1)磁性塗料の作成
磁性粉末0.50gを秤量し、ポット(内径45mm、深さ13mm)へ入れる。蓋を開けた状態で10分間放置する。次にビヒクル〔東洋紡製塩化ビニル系樹脂MR−110(22wt%)、シクロヘキサノン(38.7wt%)、アセチルアセトン(0.3wt%)、ステアリン酸−n−ブチル(0.3wt%)、メチルエチルケトン(38.7wt%)の混合溶液〕をマイクロピペットで0.700mL採取し、これを前記のポットに添加する。すぐにスチールボール(2φ)30g、ナイロンボール(8φ)10個をポットへ加え、蓋を閉じ10分間静置する。その後、このポットを遠心式ボールミル(FRITSH P−6)にセットし、ゆっくりと回転数を上げ、600rpmにあわせ、60分間分散を行う。遠心式ボールミルが停止した後、ポットを取り出し、マイクロピペットを使用し、あらかじめメチルエチルケトンとトルエンを1:1で混合しておいた調整液を1.800mL添加する。再度、遠心式ボールミルにポットをセットし、600rpmで5分間分散し、分散を終了する。
(2)磁気テープの作成
前記の分散を終了したあと、ポットの蓋を開け、ナイロンボールを取り除き、塗料をスチールボールごとアプリケータへ入れ、支持フイルム(東レ株式会社製のポリエチレンフィルム:商品名15C−B500:膜厚15μm)に対して塗布を行う。塗布後、すばやく、5.5kGの配向器のコイル中心に置いて、磁場配向させつつ、その後乾燥させる。
(3)テープ特性の評価試験
磁気特性の測定: 得られたテープについて前記のVSMを用いて、その保磁力Hcx、SFDx、角形比SQx、配向比ORの測定を行う。
これらの試験結果を表1、表2に示す(以下の各例において同じ)。
《実施例2〜4》
出発材料であるオキシ水酸化鉄の粒子径を種々変化させた以外は実施例1を繰り返し、粒子径の異なった金属磁性粉末を得た。これらについて、実施例1と同様の試験を行った。
《比較例1》
実施例1に示した方法と同様の製法で得たオキシ水酸化鉄の粉末を用い、前記前段アニールと後段アニールの工程を実施せず、替わりに、オキシ水酸化鉄の粉末を、通気可能なバケット内に投入し、該バケットを貫通型還元炉内に挿入し、大気中300℃で60分間保持する熱処理を施すことにより中間体である鉄系酸化物の粉末を得た。その粉末のX線回折パターンを図2に示す。その後は、この中間体に対して実施例1と同様の処理を行い、金属磁性粉を得た。これについて、実施例1と同様の試験を行った。図7〜10には焼結防止元素の濃度分布を例示した。
《比較例2〜4》
出発材料であるオキシ水酸化鉄の粒子径を種々変化させた以外は比較例1を繰り返し、粒子径の異なった金属磁性粉末を得た。これらについて、実施例1と同様の試験を行った。
Figure 0005102485
表中におけるa/b、a/c、b/cは下記のように定義される。aは表層のCo/Fe原子比であり、透過型電子顕微鏡を用いて、観察できる表層部分に電子ビームを選択的(局部的)に当てたEDS測定によって求まる値を採用することができる。ここで「観察できる表層部分」とは、還元後の金属が徐酸化工程によって酸化された金属酸化物を主成分とする層のことを表し、透過型電子顕微鏡により観察した際に金属部分が濃く現れるのに対して、薄く観察される部分を指す。
bはコアのCo/Fe原子比であり、透過型電子顕微鏡を用いて、観察できる表層部分よりも金属の影響により像(明視野像)が濃く現れる部分に電子ビームを選択的に当てたEDS測定によって求まる値を採用することができる。
cは粒子全体のCo/Fe原子比であり、Coについては粉末試料のICP分析から定まるCoの含有量(at.%)を用い、Feについては滴定による分析から定まるFeの含有量(at.%)を用いて、算出される値を採用することができる。以上の定義に従って算出した値を表中に示した。
Figure 0005102485
実施例1、比較例1の粒子のAlおよびYについて、X=0.5における元素の累積存在量を100%とし、粒子の各部における元素存在量のばらつきを図11および12に示した。表1のデータおよび図11、12より、本発明により形成された粒子は、従来公知の方法(比較例)により形成された方法で得られる磁性粉末は、Alおよび希土類元素のいずれもほぼ均一な組成比になっているのに比較して、中央部には該元素が少なく、周辺部に外側に希土類元素およびAl(焼結防止元素)が偏在している様子が確認される。従来公知の方法によると、これら焼結防止元素は、ほぼ一様に分布していることがわかる。
テープの磁気特性については、本発明に従う実施例の金属磁性粉を用いた場合、比較例のものと比べ、微粒子でありながらも耐酸化性に優れたものが得られているのとともに模擬媒体化した際の磁気特性に優れた磁性テープが得られるようになっていることがわかり、特に微粒子の場合においてはその効果が顕著に現れることがわかる。
実施例1で得られた中間体のX線回折パターン。 比較例1で得られた中間体のX線回折パターン。 実施例1で得られた金属磁性粉粒子の短軸方向におけるFeのEDXスペクトル強度を表すグラフ。 実施例1で得られた金属磁性粉粒子の短軸方向におけるCoのEDXスペクトル強度を表すグラフ。 実施例1で得られた金属磁性粉粒子の短軸方向におけるYのEDXスペクトル強度を表すグラフ。 実施例1で得られた金属磁性粉粒子の短軸方向におけるAlのEDXスペクトル強度を表すグラフ。 比較例1で得られた金属磁性粉粒子の短軸方向におけるFeのEDXスペクトル強度を表すグラフ。 比較例1で得られた金属磁性粉粒子の短軸方向におけるCoのEDXスペクトル強度を表すグラフ。 比較例1で得られた金属磁性粉粒子の短軸方向におけるYのEDXスペクトル強度を表すグラフ。 比較例1で得られた金属磁性粉粒子の短軸方向におけるAlのEDXスペクトル強度を表すグラフ。 実施例1および比較例1で得られた金属磁性粉粒子について、TEM像における粒子の短軸の一端部(粒子の像の輪郭位置)から短軸中心位置までのYのEDXスペクトル強度の累積値をプロットしたグラフ。 実施例1および比較例1で得られた金属磁性粉粒子について、TEM像における粒子の短軸の一端部(粒子の像の輪郭位置)から短軸中心位置までのYのEDXスペクトル強度の累積値をプロットしたグラフ。

Claims (1)

  1. Al及び希土類元素(Y、Scも希土類元素として扱う)を含有するオキシ水酸化鉄(α−FeOOH、ただしFeの一部が他の元素で置換されていても構わない)の粉末を水素を含む還元性ガスに接触する250〜500℃の雰囲気に曝して個々の粒子の一部が金属鉄(α−Fe、ただしFeの一部が他の元素で置換されていても構わない)に還元された段階で還元反応の進行を止め、次いで酸素と水蒸気を含む酸化性ガスに接触する50〜200℃の雰囲気に曝すことによりウスタイト(FeO、ただしFeの一部が他の元素で置換されていても構わない)を合成し、そのウスタイトに対して還元熱処理を施す金属磁性粉の製法。
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