JP5391415B2 - 塗布型磁気記録媒体用磁性粉末およびその製法並びに磁気記録媒体 - Google Patents

塗布型磁気記録媒体用磁性粉末およびその製法並びに磁気記録媒体 Download PDF

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Description

本発明は、次世代超高密度に対応した重層塗布型磁気記録媒体の磁性層に使用される金属磁性粒子粉末およびその製法、ならびにそれを用いた塗料および磁気記録媒体に関する。
磁気記録媒体の中でも、磁性粉末を表層に塗布することによって製造される塗布型の磁気記録媒体は、部材のコストにもよるが、他の記録媒体に比較して容量に対するコストパフォーマンスに優れ、高容量バックアップシステムの担い手として広く使用されている。塗布型磁気記録媒体は、既に媒体一巻あたり数百GBレベルの記録容量をもつものが製造されているが、さらなる高容量化が望まれている。
高容量を省スペースで確保するためには、より高密度記録が行えるように媒体を設計することが必須となる。そのために採られる手法としては、磁気記録の担い手となる磁性粉末の高特性化、微粒子化や、その他の媒体を構成する部材の最適化などがある。なかでも磁性粉末の微粒子化は高容量を確保するために非常に重要な因子になるので、塗布型の磁気記録媒体の設計において重視されるところである。
微細化された粒子の有する問題点として、塗料の状態でいくら分散させても経時的に凝集を生じるため、分散が不十分になったり、磁性層の表面に凹凸が生じる原因になったりすることが挙げられる。そのため粒子の凝集の改善に対しては、かねてから鋭意検討がなされており、たとえば、特許文献1にあるように磁性粉の表面を酸性度の異なる有機物で被覆し粒子を形成させたもの、特許文献2、3に示すように含窒素複相環を持つ有機物で粒子の表面を被覆するもの等が考案されている。
また本出願人も、樹脂に対して親和性のある物質を磁性粒子表面に被覆する方法、すなわち、シランカップリング材処理等で粒子表面に官能基をつけ、樹脂への分散性を向上させる試みを行ってきた(特許文献4)。加えて、分散性等に影響する因子としては、強磁性金属粉末から浸出する金属イオン、あるいは水溶性アルカリ、アルカリ土類金属の量に着目し、これらを抑制する手段を講じることで優れた磁性粉末または磁気記録媒体を提供する試みも行われてきた(特許文献5および6)。
特開平4−373102号公報 特開2002−123922号公報 特開2002−123925号公報 特開2004−335744号公報 特開平7−22224号公報 特開平7−296360号公報 特開昭64−52002号公報 特開2003−119503号公報 特開平6−363号公報
ところが、上記のように、粒子の微粒子化は高密度磁気記録には適するが、凝集を惹起する可能性があり、安定して高密度磁気記録を提供し続けるためにはこうした弊害が生じる可能性をできる限り低減させることが好ましい。また、粒子表面を有機物質で被覆するような場合では、どうしても磁性を有しない成分が表面を被覆することになり、ひいては磁性を有する金属コアの部分の全粒子体積に対する割合が相対的に低下することになるため、微粒子化に伴う磁気特性改善のメリットが薄れる可能性がある。すなわち、微粒子としたことによって、単位体積あたりに詰め込める磁性粒子の量は増加し、粒子性ノイズの低減が期待されるものの、有機物を被着させたことにより粒子の実体積が大きくなってしまい、粒子性ノイズの低減効果が減じられてしまう虞がある。
また、発明者らの知見によれば、熱湯により浸出される成分に関しても、従来考えられてきた金属、あるいはアルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の他にも分散性、粒子の表面性に影響を及ぼしているような元素が別途存在している可能性についてもわかってきた。
従って本発明は、粒子における金属部分の体積を可能な限り低減させず(粒子の実体積を増加させることなく)、微粒子でありながらも凝集発生がきわめて低減された分散性の良い金属磁性粉末を提供し、ひいてはそれを利用した塗布型磁気記録媒体を提供することを目的とする。
上記目的は、微粒子でありながらも、粒子の分散性が低下しないような(凝集の生じにくい)表面性状を有し、塗布時に安定した分散性を有する磁性粉末によって達成される。
すなわち本発明では、Feを主成分とする金属磁性粉末粒子の表面に、OH基である官能基を粉末の単位表面積当たり1.2×1020個/m2以上2.44×10 20 個/m 2 以下の範囲で有する金属磁性粉末が提供される。この粉末は、好ましくは当該磁性粉末1gをアルカリでpH=7に調整した純水100mL中で100℃×5分間保持した際に溶出する水溶性アルミニウムの溶出量が当該液中濃度で200ppm以下である。また、特にFeを主成分とする磁性粉末であって、TEM像により計測される平均粒子径が20〜150nmといった特に微粒子であるもの、BET法による比表面積が60m2/g以上であるものが好適な対象となる。この磁性粒子粉末はバインダー等と混合されて磁性塗料を構成し、さらに磁気記録媒体を構成するものである。
また本発明では、安定化された磁性粉末の表面性状を変化させるため、安定な酸化膜を有するFeを主成分とする金属磁性粉末(例えば酸化性ガス雰囲気に曝す処理により酸化膜を形成させた金属磁性粉末であって、通常、この表面状態で金属磁性粉末製品として使用されることが多い)に対し、飽和水蒸気の充満した容器内で水蒸気に曝す処理を最終仕上げとして施す金属磁性粉末の製法、さらに炭酸ガスの充満した容器内で炭酸ガスに曝す処理を最終仕上げとして施す金属磁性粉末の製法が提供される。これらは、特に酸化膜を形成させることによって安定化された磁性粉末の表面性状(酸化膜の最表面の性質・状態)を変化させる場合に効果的であり、上記本発明に特有の表面状態を有する磁性粉末を完成させるための有効な手段となる。
上記の条件を満たす金属磁性粉末を媒体に利用すると、粒子の表面性が改善されたことに伴って、特に微粒子を扱う工程での凝集が低減され、高密度磁気記録により適した磁気記録媒体を提供することができる。
本発明に従う磁性粒子は、表面官能基が1.2×1020個/m2以上、好ましくは1.3×1020個/m2以上、より好ましくは1.4×1020個/m2以上有する金属磁性粒子粉末である。表面官能基数が少なすぎる場合には、液中や有機高分子中への粒子の分散性が悪くなるので好ましくない。
粒子表面の官能基数は、粒子の表面に存在するOH基の数であり、流動電位測定装置を用いて、硝酸添加時におけるプロトンの消費量を計測することにより算出される。官能基数が多いことによって、分散性が改善する機構については明らかではないが、OHの吸着サイトが多いことに伴って、バインダーとの親和性がより改善されることに起因するのではないかと推測される。
磁性粉末の組成としては、原子割合でFeに対するCoの割合(以下「Co/Fe原子比」という)が0〜50at%のものが対象となる。Co/Fe原子比が5〜45at%のものがより好ましく、10〜40at%のものが一層好ましい。このような範囲において安定した磁気特性が得られやすく、耐候性も良好になる。また、具体的には、当該磁性粉末1gをアルカリでpHを中性に調整した純水100mL中で100℃×5分間保持した際にCoの溶出がないことが好ましい。熱水溶性のCoが多い場合はCoが磁性粉末の中に十分に固溶できていないことを意味し、磁気特性が不安定となるので好ましくない。Coの熱水に対する溶出量は20ppm未満に抑制させることが必要である。
また、粉末全体に対するAl含有量が10質量%以下となる範囲でAlを固溶させた磁性粉末が好適な対象となる。Alを固溶させることにより耐候性が改善される。ただし、Alは非磁性成分であり、あまりに多く固溶させてしまうと磁気特性が希釈され好ましくない。粉末全体に対するAl含有量は0.1〜10質量%とすることが望ましく、0.5〜9質量%がより好ましく、1〜8質量%が一層好ましい。
とくに、磁性粉末を煮沸したときのAlの溶出が少ないことが望ましい。このときのAlの溶出量は、Alの固溶化が十分に達成されているかどうかの指標となる。すなわち、Alの溶出が多いものは固溶化が不十分であり、耐候性において信頼性に欠ける。具体的には、当該磁性粉末1gをアルカリでpHを7に調整した純水100mL中で100℃×5分間保持した際に溶出するAl量が200ppm以下であるとき、良好な耐候性および分散性が確保できることがわかった。この溶出Al量が180ppm以下となるものがより好ましく、160ppm以下が一層好ましい。
さらに、全体に対する希土類元素の含有量が20質量%以下となる範囲で希土類元素を添加した磁性粉末が好適な対象となる。希土類元素の添加は磁性粉末への還元時に焼結防止効果を発揮する。特に微粒子の場合には焼結が進みやすいことから希土類元素の添加は極めて有効である。希土類元素の添加量が多すぎると磁気特性が希釈され、また、テープとヘッドの摺動時にヘッド汚れとして付着する可能性もあるので好ましくない。希土類元素の添加量は、粉末全体に対する割合で0を超え〜20質量%とすることが望ましく、0.1〜17質量%がより好ましく、0.5〜15質量%が一層好ましい。ここではSc、Yも希土類元素として扱う。焼結防止にはいずれの希土類元素でも効果が期待できるが、特にY、La、Sc、Yb、Gd、Nbなどが有効である。
また、磁性粒子粉末にはアルカリ土類金属を含有することができる。アルカリ土類金属も焼結防止効果を呈する。アルカリ土類金属は意図的に添加することもあるが、原料の第一鉄塩、コバルト塩、アルミニウム塩、希土類塩から混入することが多い。ただし、アルカリ土類金属は、その含有量が多すぎると、時間経過に伴って周囲のバインダー等と反応して塩を形成し、保存安定性を悪化させることがあるので注意を要する。特に水溶性の成分として含む場合にその影響が顕著に現れる可能性がある。アルカリ土類金属の含有量は、粉末全体に対する割合で0を超え〜0.5質量%であることが望ましく、0.01〜0.3質量%がより好ましく、0.01〜0.1質量%が一層好ましい。また、いずれのアルカリ土類金属も、当該磁性粉末1gをアルカリでpHを7に調整した純水100mL中で100℃×5分間保持した際の溶出量が200ppm以下となることが望ましく、150ppm以下がより好ましく、100ppm以下が一層好ましい。
さらにJIS K5101の煮沸法による粉体pH値が7以上11未満、好ましくは7.5以上10未満、より好ましくは8.0以上9.5以下である金属磁性粉末が好適である。粉体pH値が低すぎる場合には粒子の耐候性が低下するおそれがあり、一方高すぎる場合には磁性粒子のバインダーに対する分散性が悪化しやすい。
発明者らは種々の検討を行ったところ、粒子の持つ官能基数を適正化することにより、バインダー等に対する分散性をより改善することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。こうした表面性状を有する金属磁性粉末は、通常の乾式条件で形成された酸化膜の表面性状を、水蒸気処理、あるいは水蒸気処理と炭酸ガスによる処理により、変化させることによって得られる。
金属磁性粉末の形状としては、針状、平針状、紡錘状、粒状、俵状といった各種の形状が適用できる。TEM像から計測される長軸長は20〜200nm、好ましくは20〜150nm、より好ましくは20〜100nmの長軸長を有する。長軸長が長すぎると単位体積あたりに含まれる磁性粉の量が少なくなってしまうので、高密度磁気記録にとっては好ましくない。また短すぎると、スーパーパラと呼ばれるような磁気特性が十分にとれない状態に陥る可能性がある。
BET法による比表面積値は100m2/g以下、好ましくは75m2/g以下、より好ましくは60m2/g以下であることが好ましい。BET値が高すぎる場合には、粒子の表面に小さい細孔が多数存在し、分散性に劣る結果になる可能性があるので好ましくない。
また、磁性粒子の有するHc(保磁力)は119.4〜238.8kA/m(1500〜3000Oe)、好ましくは127.3〜222.9kA/m(1600〜2800Oe)、さらに好ましくは139.3〜207.0kA/m(1750〜2600Oe)であり、σs(飽和磁化値)50〜120Am2/kg(emu/g)、好ましくは60〜110Am2/kg、さらに好ましくは65〜105Am2/kgである。さらに、Δσs(温度60℃で相対湿度90%の恒温恒湿条件下に7日間保持後の飽和磁化値σsの変化量)は20%以下、好ましくは12%以下、さらに好ましくは9%以下である。これらの磁気特性を有する磁気粉末は、高密度磁気記録に適し、保存安定性に優れた磁気記録媒体ができるため好ましい。
少なくともFeと一種以上の遷移金属を含むオキシ水酸化鉄を得るためには、はじめにFeと遷移金属の水溶性塩を純水へ溶解し、炭酸塩を経由してオキシ水酸化鉄を形成する方法が主としてもちいられ、オキシ水酸化鉄形成中(炭酸塩にエアを導入することにより粒子を成長させる工程中)に水溶性アルミニウム塩を添加して、オキシ水酸化鉄中にアルミニウムを固溶させる方法が好適に用いられる。さらにオキシ水酸化鉄を形成させた後に、焼結防止効果のある希土類元素(Yも希土類元素として扱う)を添加して、表層に希土類元素層を形成する一般的な公知の方法が用いられる。
こうして得られたオキシ水酸化鉄は大気中雰囲気で(場合によっては水蒸気の存在条件下で)焼成し、α−Fe23を主成分とする鉄酸化物を得る。その後、還元性ガス(たとえば、一酸化炭素、水素を主体とするガス)の存在下で還元を施した後に、表層酸化膜形成処理を伴う安定化処理を行う。
次いで、得られた表面酸化処理後の粉末(安定な酸化膜を有する粉末)に対し、当該粉末と水を同一の容器中に封入した後、室温から100℃の条件下で、飽和水蒸気により粉末粒子表面に水分を吸着させる処理を施す。このときに吸着させる水分は0.1〜3.0質量%、好ましくは0.1〜2.0質量%、より好ましくは0.1〜1.5質量%の範囲内にあるのがよい。水分が多すぎる場合には、バインダーと粒子のぬれ性に起因すると思われる分散性が低下し、また少なすぎる場合には分散性の改善効果が小さい。
別の分散性改善処理として、粒子の表面を炭酸ガスなどの弱酸化性ガスを用いて改質する方法も推奨できる。このときの改質の程度を評価する指標としては、粒子のカーボン量を検出する方法が用いられる。カーボン量は高くても5質量%以下、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下の範囲に抑えるのがよい。上述の飽和水蒸気による表面処理を行った後にこの炭酸ガスによる表面処理を行うことが一層効果的である。
以下に、後述の実施例で行った試験法などを説明する。
《粉体特性》
〔粒子径〕
透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製造のJEM−100CXMark−II型)で直接倍率1万倍以上の写真を撮影し、その写真を引き伸ばすことによって、拡大された粒子群の写真を得た後に、ランダムに400個以上の粒子を選択して個々の粒子の粒子径を測定し、その平均値を用いた。粒子径は写真上の粒子の最も長い部分の径(長軸長)を読み取った。
〔比表面積〕
ユアサイオニクス製4ソープUSを用いてBET法で測定した。
〔磁気特性〕
東栄工業株式会社製のVSM装置(VSM−7P)を用いて、最大796.2kA/m(10kOe)の印加電場で測定した。
〔耐酸化性Δσs〕
60℃、90%RH恒温恒湿中で粉末を一週間曝した後、保存前と後のσsの測定値により下記の式で算出した。
Δσs=(保存前σs−保存後σs)/保存前σs×100(%)
〔組成分析〕
Feの定量は平沼産業株式会社製平沼自動滴定装置(COMTIME−980)を用いて行い、Coなどの遷移金属および希土類金属(Yも希土類元素として扱う)は日本ジャーレルアッシュ株式会社製高周波誘導プラズマ発光分析装置(IRIS/AP)を用いて行った。これらの定量結果は質量%として与えられるので、一旦全元素の割合を原子%に変換し算出した。また、必要に応じてCについては堀場製作所製の全炭素分析装置を用いて計測した。
〔結晶子径Dx〕
理学電子株式会社のX線回折装置(RAD−2C)を用いてX線回折パターンを測定し、Fe(110)面の回折ピークを用い、シェラーの式を用いて算出した。
〔表面官能基数の測定〕
金属磁性粉末粒子の表面には水酸化物基と思われる官能基が存在しており、これは周囲のプロトンを引き寄せて緩やかな結合を形成する。この作用を利用し、金属磁性粉末粒子の表面に存在する官能基数を測定した。
具体的には、緩衝剤として硝酸カリウム0.1mol/Lを添加した硝酸酸性(pH=3)の液100mLに対して、磁性粉末を約0.05g添加する。このとき、プロトンが磁性粉末表面の官能基に引き寄せられて緩やかな結合を形成し、プロトンが見かけ上消費されるためpHが上昇する。初期pH値(pH=3)と磁性粉末を液中に分散させて3分後のpH値から、表面に速やかに吸着されるプロトン数を求め、これを当該粉末のBET比表面積で除することによって、粉末の単位表面積当たりに吸着されたプロトン数を算出する。粉末表面に存在する官能基の数と、吸着プロトン数が1対1で対応するものとして、上記の算出結果を粉末粒子の単位表面積当たりに存在する官能基の数として採用する。
〔溶出試験〕
金属磁性粉末1gをアルカリでpH=7に調整した純水、具体的にはイオン交換処理した純水100mL中で100℃×5分間撹拌しながら保持し、その後これを固液分離した濾液中の各種金属濃度をICP発光分析法により分析した。
《磁気記録媒体》
本発明の金属磁性粉末は、一般的な方法を用いて重層塗布型磁気記録媒体の磁性層に使用することができる。重層塗布型磁気記録媒体は、ベースフィルムの上に、下層として非磁性層を有し、その上に上層として磁性層を有する。本発明の金属磁性粉末は上層の磁性層を形成するための塗料中に配合させて使用される。
上層、下層いずれの塗料も、各材料を所定組成となるような割合で配合し、ニーダーおよびサンドグラインダーを用いて混練・分散させる方法で調合することができる。ベースフィルムへの塗料の塗布は、下層の湿潤なうちに可及的速やかに上層磁性を塗布する、いわゆるウエット・オン・ウエット方式で行うことが好ましい。
重層塗布型磁気記録媒体の構成として、例えば以下のものを例示することができる。
〔ベースフィルム〕
例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル類、ポリオレフィン類、セルローストリアセテート、ポリカーボネイト、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスルフォン・アラミド、芳香族ポリアミド、等の樹脂フイルムを挙げることができる。
〔非磁性層(下層)用塗料〕
例えば、非磁性粉末(α−酸化鉄:同和鉱業(株)製、平均長軸粒子径80nm):85質量部、カーボンブラック:20質量部、アルミナ:3質量部、塩化ビニル樹脂(日本ゼオン(株)製塩化ビニル系バインダー:MR−110):15質量部、ポリウレタン樹脂(東洋紡(株)製ポリウレタン樹脂:UR−8200):15質量部、メチルエチルケトン:190質量部、シクロヘキサノン:80質量部、トルエン:110質量部からなる組成の非磁性塗料を挙げることができる。
〔磁性層(上層)用塗料〕
例えば、本発明の金属磁性粉末:100質量部、カーボンブラック:5質量部、アルミナ:3質量部、塩化ビニル樹脂(日本ゼオン(株)製:MR−110):15質量部、ポリウレタン樹脂(前掲のUR−8200):15質量部、ステアリン酸:1質量部、アセチルアセトン:1質量部、メチルエチルケトン:190質量部、シクロヘキサノン:80質量部、トルエン:110質量部からなる組成の磁性塗料を挙げることができる。
[テープ磁気特性]
テープの磁気特性は、より磁性粉末の効果を確認するため、単層にて磁性層を構成し、得られたものの磁気特性を測定した。
(1)磁性塗料の作成
磁性粉末0.50gを秤量し、ポット(内径45mm、深さ13mm)へ入れる。蓋を開けた状態で10分間放置する。次にビヒクル〔東洋紡製塩化ビニル系樹脂MR−110(22wt%)、シクロヘキサノン(38.7wt%)、アセチルアセトン(0.3wt%)、ステアリン酸−n−ブチル(0.3wt%)、メチルエチルケトン(38.7wt%)の混合溶液〕をマイクロピペットで0.700mL採取し、これを前記のポットに添加する。すぐにスチールボール(2φ)30g、ナイロンボール(8φ)10個をポットへ加え、蓋を閉じ10分間静置する。その後、このポットを遠心式ボールミル(FRITSH P−6)にセットし、ゆっくりと回転数を上げ、600rpmにあわせ、60分間分散を行う。遠心式ボールミルが停止した後、ポットを取り出し、マイクロピペットを使用し、あらかじめメチルエチルケトンとトルエンを1:1で混合しておいた調整液を1.800mL添加する。再度、遠心式ボールミルにポットをセットし、600rpmで5分間分散し、分散を終了する。
(2)磁気テープの作成
前記の分散を終了したあと、ポットの蓋を開け、ナイロンボールを取り除き、塗料をスチールボールごとアプリケータ(55μm)へ入れ、支持フイルム(東レ株式会社製のポリエチレンフィルム:商品名15C−B500:膜厚15μm)に対して塗布を行う。塗布後、すばやく、5.5kGの配向器のコイル中心に置き、磁場配向させ、その後乾燥させる。
(3)テープ特性の評価試験
磁気特性の測定: 得られたテープについて前記のVSMを用いて、そのHcx、SFD、SQ、ORの測定を行う。
〔実施例1〕
5000mLのビーカーに純水3000mLを入れ、温調機で20℃に調整しながら、これに0.03mol/Lの硫酸コバルト、0.15mol/Lの硫酸鉄(II)水溶液をFe:Co比が4:1になるように混合した溶液を500mL調整した。これに鉄とコバルトの総量に対して炭酸が3等量になるよう重炭酸アンモニウムを添加した後に、液中のpHが9以上になるようにアンモニア水を添加し、pHを調整した。その後、懸濁液を撹拌しながら30分熟成させ、その後、総酸化量に対する酸化量が10%となるように(すなわち液中の鉄イオンのうち10モル%がオキシ水酸化鉄になるに必要な)空気を添加した。この時点までの酸化過程を「核形成段階」と呼ぶ。
さらにその液を30分熟成してから、空気を100mL/minの割合で添加して酸化を継続した(この後酸素の導入は一定の割合で行う)。酸化量が総酸化量の45%に当たる時点から、1質量%の硫酸アルミニウム水溶液を5.0g/minの割合で20分間添加した。その後、酸化を継続して行い、ヘキサシアノ鉄酸カリウムの溶液を用いて酸化の終了を確認した。その後、液の温度を80℃に上げた後に、イットリウムの硫酸水溶液(Yとして2質量%含む)を300g添加して、Alが固溶され、Yが表面に被着されたFe−Coを主成分とするオキシ水酸化鉄ケーキを得た。このオキシ水酸化鉄ケーキに濾過・水洗・乾燥の処理を施し、オキシ水酸化鉄粉末を得た。
このオキシ水酸化鉄粉末を、貫通式のバケット内に入れ、炉に装入した。炉中の粉末に水を1.0g/minの割合で添加しながら水素ガスにより550℃×1時間の還元処理を施し、金属磁性粉末を得た。その後炉内温度を100℃まで低下させた後、ガスを窒素90容量%+酸素10容量%の混合ガスに切り替え、この混合ガス中で2時間保持することで金属磁性粉末を安定化処理した。その後、雰囲気ガスを窒素ガス単味に切り替える。
その後に水を1.0g/minの割合で添加しながら、炉内温度を75℃まで低下させた後、ガスを窒素90容量%+酸素10容量%の混合ガスに切り替え、この混合ガス中で2時間保持することで金属磁性粉末を再安定化処理した。
このようにして安定な酸化膜を形成した金属磁性粉末を窒素ガス中で取り出した後、水と被処理物品を同時に収容できる密閉容器中に、当該金属磁性粉末と、5質量%に相当する量の純水を入れ、50℃の恒温条件下で粉末を飽和水蒸気に曝す表面改質処理を施した。処理の途中で粉末の一部をサンプリングし、このサンプル粉末を用いて100℃においてカールフィッシャー法による水分値の測定を行った。そして、水分値1.0質量%以上の粉末が得られるまで、上記の表面改質処理を反復継続して行い、表面性状を変化させた金属磁性粉末を得た。ここで言う「カールフィッシャー法による測定」とは、JIS K0068の「化学製品の水分測定方法」における「4.5水分気化法」に記載の方法に準拠して測定するものである。
得られた表面改質処理後の金属磁性粉末について、上述の媒体特性を調べ、また前述のようにして磁気テープを作成し、媒体特性を調べた。結果を表1および表2に示す(以下の各例において同じ)。
〔実施例2〜5、8、9〕
実施例1における、Co、Al、Y量や、酸化割合(ゲーサイトの長軸長の調整)ならびに水分量を種々変化させた以外、湿式・乾式工程等は変化させずに、金属磁性粉末を得た。
〔実施例6〕
実施例5において、Yに変えてLaを使用した以外は同様にして、金属磁性粉末を得た。
〔実施例7〕
実施例5で得られた金属磁性粉末(飽和水蒸気に曝す表面改質処理を終えたもの)について、その後さらに、炭酸ガスを用いた表面改質処理を施した。この表面改質処理は、密閉容器中に被処理粉末を入れ、当該容器中に炭酸ガスを充満させることにより粉末を炭酸ガスに曝す処理である。温度は常温とし、途中、5度にわたって新たな炭酸ガスを導入することで容器内部のガスを置換し、粉末を3日間炭酸ガスに曝した。この炭酸ガスによる表面改質処理を終えた粉末を試料とし、実施例1と同様の試験に供した。
〔比較例1〕
実施例5において、表面改質処理での水の吸着量を半分とした以外は同様にして、金属磁性粉末を得た。
〔比較例2〕
実施例5において、磁性粉末の安定化処理を一段のみにした以外は同様にして、磁性粉末を得た。すなわち前記の再安定化処理を実施しなかった。
〔比較例3〕
実施例5において、湿式反応時の「核形成段階」で空気に替えて過酸化水素を酸化剤に使用した以外は同様にして、金属磁性粉末を得た。
〔比較例4〕
比較例2において、Coの含有量を変化させCo/Fe原子比が30at%、Al/(Fe+Co)質量比が9.1mass%となるようにした以外は同様にして、金属磁性粉末を得た。
〔比較例5〕
実施例2において、表面改質処理での水の吸着量を半分とした以外は同様にして、磁性粉末を得た。
Figure 0005391415
Figure 0005391415
表1において、sCo、sAlおよびsYは、それぞれ溶出試験におけるCo、AlおよびY(実施例6ではLa)の溶出量を意味する。
実施例5と比較例1、実施例2と比較例4を比較することにより、水分を用いた金属磁性粉末粒子表面の改質の程度による媒体磁気特性への影響がわかる。表面に形成された官能基数が多い実施例のものでは、媒体化したときの媒体HcならびにSFDが大幅に改善されている。これは、表面官能基数の違いにより、媒体における磁性粒子の分散性が変化することに起因する現象であると考えられる。物理吸着水を十分に付加する表面改質処理は金属磁性粉末の分散性の向上に有効であることがわかる。
実施例5と比較例2の比較により、通常公知の安定化処理を用いた場合と、安定化を2段階で実施した場合の相違がわかる。すなわち、安定化処理を1段階のみとした比較例2では、その後に表面改質処理を施して水分値を増加させたとしても、磁性粉表面の官能基数はあまり増加せず、分散性に劣る媒体が形成されることがわかる。
実施例7の炭酸ガスにより表面改質を行ったものでは、粉末粒子の表面状態は中性側にシフトされており、バインダーとの相性により耐酸化性に関して有利となる。実施例5と比べ表面官能基数はあまり変わらず、媒体磁気特性も同様に良好であることから、炭酸ガスによる表面改質処理は、分散性や磁気特性のポテンシャルを落とすことなく媒体の耐酸化性を調整する上で有利と考えられる。
実施例5と比較例3を対比することにより、「核形成段階」の反応による表面性の相違がわかる。核の形成時に過酸化水素を使用することで、粒子の結晶子サイズは低減できるものの、磁気特性がやや低くなることがわかる。
以上のように、本発明に従う表面性状を有する金属磁性粉末は、粒子の分散性が高いことに起因して、保磁力HcやSFDなどの磁気特性が顕著に改善された磁気記録媒体を得るうえで極めて有利である。

Claims (8)

  1. Feを主成分とする金属磁性粉末であって、前記金属磁性粉末の粒子の表面に、OH基である官能基を前記金属磁性粉末の単位表面積当たり1.2×1020個/m2以上2.44×1020個/m2以下の範囲で有する金属磁性粉末。
  2. 磁性粉末1gをアルカリでpH=7に調整した純水100mL中で100℃×5分間保持した際に溶出する水溶性アルミニウムの溶出量が当該液中濃度で200ppm以下である、請求項1に記載の金属磁性粉末。
  3. TEM像により計測される平均粒子径が20〜150nm、BET法による比表面積が60m2/g以上、粉体pHが7以上11未満である、請求項1または2に記載の金属磁性粉末。
  4. oをCo/Fe原子比で5〜45at%、Alを0.1〜10質量%、希土類元素を0.1〜17質量%含有する、請求項3に記載の金属磁性粉末。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の金属磁性粉末を含む、磁気記録媒体用磁性塗料。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載の金属磁性粉末を含む、磁気記録媒体。
  7. 安定な酸化膜を有するFeを主成分とする金属磁性粉末に対し、飽和水蒸気の充満した容器内で水蒸気に曝す処理を最終仕上げとして施す、請求項1〜4のいずれかに記載の金属磁性粉末の製法。
  8. 安定な酸化膜を有するFeを主成分とする金属磁性粉末に対し、飽和水蒸気の充満した容器内で水蒸気に曝す処理を施し、さらに炭酸ガスの充満した容器内で炭酸ガスに曝す処理を最終仕上げとして施す、請求項1〜4のいずれかに記載の金属磁性粉末の製法。
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