JP5096970B2 - 溶融材料の充填凝固解析方法およびその充填凝固解析プログラム - Google Patents
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Description
しかし、この特許文献の方法では、一旦、閉領域が形成されると、その領域内のキャビティ要素へは、溶湯の補給が一切されないことを前提に解析が行われている。すなわち、その特許文献の手法では、固相率が高い場合でも、溶湯がキャビティ要素へ流動し得ることが考慮されていない。このため、ダイカスト鋳造によって生じる収縮巣欠陥を高精度で解析しているとはいえない。
(1)すなわち、本発明の溶融材料の充填凝固解析方法は、
溶融材料の充填されるキャビティを構成する型を座標系上にモデル化した型モデルを設定するモデル設定工程と、該設定された型モデル中のキャビティへ溶融材料が充填される充填過程を順次算出する充填解析工程と、
該充填された溶融材料が凝固する凝固過程を順次算出する凝固解析工程とからなる溶融材料の充填凝固解析方法において、
前記凝固解析工程は、前記溶融材料が充填されたキャビティ要素である充填要素内での該溶融材料の凝固割合である固相率を経時的に算出する固相率算出ステップと、該算出された固相率に基づいて該充填要素内での凝固収縮量を経時的に算出する凝固収縮量算出ステップと、前記固相率算出ステップで算出された充填要素の固相率が少なくとも第1閾値(C1)に至るまでは該充填要素内における溶融材料の流動を流体の流れを解析する基礎方程式に基づき算出し、前記固相率算出ステップで算出された充填要素の固相率が少なくとも第1閾値(C1)を越え第2閾値(C2)に至るまでは該充填要素内における溶融材料の流動を前記基礎方程式に該溶融材料の凝固に伴う流動抵抗を指標する抵抗項を加味した変形方程式に基づき算出すると共に前記固相率算出ステップで算出された充填要素の固相率が少なくとも第2閾値(C2)を越えると該充填要素を計算領域から除外することにより、前記凝固収縮量算出ステップで算出された凝固収縮量のある充填要素へ溶融材料が補給される補給過程を経時的に解析する補給解析ステップと、を備えることを特徴とする。
具体的には、従来のダイカストシミュレーション等ではあまり考慮されていなかった固相率が第1閾値から第2閾値となる区間に着目している点に、本発明の大きな特徴がある。このような固相率が第1閾値から第2閾値の区間では、溶融材料がいわゆるダルシー流れに近い状態となる。この状況にある溶融材料は、加圧されていても、それ以前の粘性流れのような勢いでキャビティ要素へ溶融材料が充填されたり、凝固収縮分が補給されたりすることはない。とはいえ、溶融材料がキャビティ要素へ全く充填または補給されなくなる訳でもない。ダイカストの場合を例にとると、デンドライト等の晶出物が溶湯の流動を阻害するとしても、無数の晶出物の間にできる僅かな隙間を縫うようにして、溶湯は僅かながらも流動し得る。そして、凝固収縮の生じたキャビティ要素へ、周囲の固相率が1より小さいキャビティ要素から溶融材料が流れ込む。
こうして本発明によれば、従来よりもダイカスト鋳物などに発生する収縮巣欠陥等を高精度で予測することが可能となり、欠陥の少ない好適な金型形状や鋳造条件または射出条件等を効率よく決定でき、成型品の開発コストの削減を図れる。
本発明は、上述した「方法」の発明には限られず、「物」の発明としても把握できる。すなわち、本発明は、前述の溶融材料の充填凝固解析方法をコンピュータを機能させて実行することを特徴とする溶融材料の充填凝固解析プログラムでも良い。
(1)モデル設定工程
モデル設定工程は、溶融材料の充填されるキャビティを構成する型を座標系上にモデル化した型モデルを設定する工程である。モデル設定工程は、例えば、図6に示すような、モデル形成ステップ、要素作成ステップ、要素定義ステップおよび流入位置設定ステップからなる。
モデル形成ステップは、金型の形状を座標系上に位置づけて型モデルを形成するステップである。金型が複数の型部材から構成される場合、前記の型モデルは、それぞれの型部材の形状が個別に座標系上に位置づけられている必要はなく、金型全体としての形状が座標系上に位置づけられていれば足る。
要素作成ステップは、モデル形成ステップで形成された型モデル中の領域を分割した多数の微小要素を作成するステップである。すなわち、座標系上に位置づけた型モデルを解析用の微小要素に細分化するステップである。このステップにより、型モデルによって区画された座標系上の空間は、多面体からなる多数の微小要素に分割される。分割数または分割幅は、解析精度、計算時間等を考慮して適切に設定すれば良い。
要素定義ステップは、少なくとも、要素作成ステップで作成された多数の微小要素の内で型モデル中のキャビティ領域に対応する微小要素をキャビティ要素と定義すると共にキャビティ要素以外の微小要素を型要素と定義するステップである。より具体的には、このステップで、例えば、溶融材料が未充填のキャビティ要素が空隙要素と定義されたり、溶融材料が未充填のキャビティ要素が充填要素と定義されたり、キャビティ要素と型要素との境界面が表面要素と定義されたりする。要するに、要素定義ステップは、充填解析工程または凝固解析工のために各微小要素の属性を定義するステップである。
流入位置設定ステップは、溶融材料を押圧するプランジャの近傍にあるキャビティ要素から選定された選定キャビティ要素に該溶融材料の加圧流入位置を設定するステップである。通常、加圧流入位置は、プランジャ前面にある型合わせ面近傍のキャビティ要素に点で定義される。この加圧流入位置の設定された点で溶融材料が吹き出すことになる。なお、この選定キャビティ要素は一つでもよいが、通常はプランジャ形状に応じて複数設けられる。溶融材料の現実の加圧状況に応じて、複数の選定キャビティ要素に重み係数を付与しても良い。また、流入位置は、溶融材料を加圧するプランジャと共に移動するように設定しても良い。
充填解析工程は、設定された型モデル中のキャビティへ溶融材料が充填される充填過程を順次算出する工程である。これにより、キャビティ内に注入された溶融材料の物理的挙動が微小時間毎に、微小要素単位で解析される。
(a)流速・圧力算出ステップ
流速・圧力算出ステップでは、充填要素および表面要素に関して、前記ナビア・ストークスの式および連続の式から流速が算出される。なお、ここでいう「圧力」は溶融材料の圧力である。
溶融材料の移動ステップでは、前記VOFの式から微小時間で移動する流体量が算出される。これにより各キャビティ要素の充填度合は充填率(流体率)で表現されることになる。例えば、充填率が0以下の場合は空隙要素であり、充填率>0の場合は充填要素となる。以降、本明細書では、溶融材料が少しでも充填された微小要素(充填率が0より大きく1以下のキャビティ要素)を「充填要素」と呼ぶ。逆に、充填率=0の微小要素を「空隙要素」と呼ぶ。
要素フラッグの変更ステップでは、例えば、表面要素に境界条件として空隙圧力(キャビティ内の気圧)が付与される。
これら各ステップが溶融材料の充填完了まで繰り返される。なお、この充填完了は、キャビティ要素の種類を調べ、キャビティ要素の90%以上が充填要素になったかで判断する。または、予め、初期溶湯量とキャビティ体積から算出しておいた充填時間を超えた時点で判断してもよい。このとき、未充填要素がある場合の未充填要素の温度は隣接要素の温度を順次あてはめるとよい。
凝固解析工程は、充填された溶融材料が凝固する凝固過程を順次算出する工程である。この凝固解析工程は、具体的には、図8に示すような、固相率算出ステップと、凝固収縮量算出ステップと、補給解析ステップとから構成される。なお、図7に示したフローでは、固相率算出ステップの前に、各充填要素内の溶融材料の温度を解析する温度解析ステップを設けた場合を示したが、このステップを固相率算出ステップまたは凝固収縮量算出ステップに含めて考えてもよい。
温度解析ステップは、充填要素内の溶融材料の温度を解析するステップである。この溶融材料の温度は、例えば、図3に示した(4)熱伝導式に基づいて算出される。具体的には、例えば、それぞれの充填要素間または金型の最表面とそれに接する充填要素との間における伝熱(熱伝導、熱伝達)を経時的に解析する伝熱解析により、各充填要素の溶融材料の温度が経時的に算出される。
固相率算出ステップは、溶融材料が充填されたキャビティ要素である充填要素内での溶融材料の凝固割合である固相率を経時的に算出するステップである。この固相率は、例えば、前記熱伝導式に基づいて、各充填要素から放出される溶融材料の潜熱量を算出することで得られる。なお、固相率は、例えば、キャビティ要素内に充填された溶融材料全体に対する固相の質量%で表される。
(c)凝固収縮量算出ステップ
凝固収縮量算出ステップは、算出された固相率に基づいて充填要素内での凝固収縮量を経時的に算出するステップである。この凝固収縮量を算出する際に、温度解析ステップで算出した充填要素の温度を加味してもよい。
(i)本発明の前記補給解析ステップでは、固相率が低い場合における各キャビティ要素への溶融材料の充填のみならず、固相率が高い場合における充填要素への溶融材料の補給をも考慮して、溶融材料の流動を解析する。
この補給解析ステップは、充填要素に溶融材料が流動するものであるから、基本的には、前述した充填解析工程(特に、溶融材料の移動ステップ)と類似した解析を行う。
抵抗項 : H=B・V
抵抗係数 : B=Cs・fs2/(1−fs)3
これらの式は本発明者が鋭意研究した結果得られたものであるが、抵抗項を特定するための式がこれらに限定されるということを意味しない。このことは本明細書でいう流動解析のための方程式全般に該当することである。
本発明の溶融材料の充填凝固解析方法に係るダイカストシミュレーションを行い、その結果と実測結果とを比較して両者の適合性を評価した。以下、その内容を詳述する。
図10に示す形状のキャビティを有する試験用の金型を用意した。この鋳物部の形状が本発明でいうキャビティ形状(領域)に相当する。各部のサイズは次の通りである。
製品部 :300x100x10(mm)
ゲート :幅25x厚さ2(mm)
ランナ :500x100x15(mm)
ビスケット:φ150x30(mm)
現物であるダイカスト鋳物を、上記の金型を用いて135tのダイカスト機を用いて製造した。このとき、金属溶湯が充填中にキャビティ内の空気を巻き込まないようにした。具体的には、プランジャを低速(射出速度:0.01m/s)で0.1s間移動させた後、高速(射出速度:0.4m/s)に切り替えて行った。金型のキャビティへ金属溶湯を加圧充填するプランジャは、サイズがφ150x40(mm)のものを用いた。キャビティ内のガスはガス排出孔から排出して、キャビティ内を50torr(キャビティ内の実測値)まで減圧した。こうして、アルミニウム合金(JIS ADC12合金)製のダイカスト鋳物を得た。
本発明の溶融材料の充填凝固解析方法であるAl合金のダイカストシミュレーションを次のように行った。
(1)モデル設定工程
上記の金型の設計時に作成したCADデータを用いて、ダイカストシミュレーションに用いる型モデルを形成した(モデル形成ステップ)。そして、その型モデルを微小要素に分割した(要素作成ステップ)。分割方法は、矩形要素でメッシュ分割とした。さらに、各要素をキャビティ要素または型要素として定義した(要素定義ステップ)。プランジャの内壁面近傍にあるキャビティ要素を選定して、その選定キャビティ要素に加圧流入位置を設定した(流入位置設定ステップ)。
上記金型モデルのキャビティ要素(空隙要素)への金属溶湯の充填凝固解析は、現実の鋳造条件を考慮しつつ、既述した図7〜9に示す各ステップに沿って行った。
充填完了は、キャビティ要素の90%以上が充填要素になった時点で判断し、凝固完了は、キャビティ要素の固相率が1となった時点で判断した。この凝固完了によりシミュレーションが終了する。
実鋳物のダイカスト鋳物を調査した結果得られた欠陥量と、ダイカストシミュレーションの結果得られた欠陥量とを対比して、実際のダイカスト鋳造に近いシミュレーションができるような第1閾値(C1)、第2閾値(C2)および固相係数(Cs)を調べた。
C1を0.1〜1の範囲で変化させて、実鋳物の欠陥量とシミュレーションから得られた欠陥量とを対比したグラフを図11に示した。図11から、C1を0.5〜0.7にすると、シミュレーションの欠陥量が実鋳物の欠陥量にほぼ近い値になることが確認された。
C1を0.5とし、C2を0.1〜1の範囲で変化させて、実鋳物の欠陥量とシミュレーションから得られた欠陥量とを対比したグラフを図12に示した。図12から、C2を0.9以上で1未満にすると、シミュレーションの欠陥量が実鋳物の欠陥量にほぼ近い値になることが確認された。
C1を0.5、C2を0.9とし、Csを1x100〜1x1012の範囲で変化させて、実鋳物の欠陥量とシミュレーションから得られた欠陥量とを対比したグラフを図13に示した。図13から、Csを1x105〜1x109にすると、シミュレーションの欠陥量が実鋳物の欠陥量にほぼ近い値になることが確認された。
実鋳物に生じた収縮巣欠陥の分布を示すX線透過写真を図14(a)に示す。白い部分が収縮巣欠陥を示す。実鋳物では収縮巣欠陥が、製品部の中心部分に細長く分布していることが確認された。
図14(a)と図14(b)および図14(c)とを比較すると明らかなように、比較例では、製品部中央に逆三角状の収縮巣が集中して発生したものとなった。この結果は、実鋳物の収縮巣欠陥の分布や欠陥量と明らかに異なっている。
このように、本発明に係るダイカストシミュレーションを行った場合、実測に非常に良いマッチングを示す結果が得られることが明かであり、実際のダイカストを巧く再現できることが確認できた。
Claims (5)
- 溶融材料の充填されるキャビティを構成する型を座標系上にモデル化した型モデルを設定するモデル設定工程と、
該設定された型モデル中のキャビティへ溶融材料が充填される充填過程を順次算出する充填解析工程と、
該充填された溶融材料が凝固する凝固過程を順次算出する凝固解析工程とからなる溶融材料の充填凝固解析方法において、
前記凝固解析工程は、
前記溶融材料が充填されたキャビティ要素である充填要素内での該溶融材料の凝固割合である固相率を経時的に算出する固相率算出ステップと、
該算出された固相率に基づいて該充填要素内での凝固収縮量を経時的に算出する凝固収縮量算出ステップと、
前記固相率算出ステップで算出された充填要素の固相率が少なくとも第1閾値(C1)に至るまでは該充填要素内における溶融材料の流動を流体の流れを解析する基礎方程式に基づき算出し、前記固相率算出ステップで算出された充填要素の固相率が少なくとも第1閾値(C1)を越え第2閾値(C2)に至るまでは該充填要素内における溶融材料の流動を前記基礎方程式に該溶融材料の凝固に伴う流動抵抗を指標する抵抗項を加味した変形方程式に基づき算出すると共に前記固相率算出ステップで算出された充填要素の固相率が少なくとも第2閾値(C2)を越えると該充填要素を計算領域から除外することにより、前記凝固収縮量算出ステップで算出された凝固収縮量のある充填要素へ溶融材料が補給される補給過程を経時的に解析する補給解析ステップと、
を備えることを特徴とする溶融材料の充填凝固解析方法。 - 前記溶融材料は、全体を100質量%としたときにSiを10〜13%含む鋳造用アルミニウム合金からなる溶湯であり、
前記第1閾値(C1)は、0.5〜0.7である請求項1に記載の充填凝固解析方法。 - 前記溶融材料は、全体を100質量%としたときにSiを10〜13%含む鋳造用アルミニウム合金からなる溶湯であり、
前記第2閾値(C2)は、0.9〜0.99である請求項1または2に記載の充填凝固解析方法。 - 前記抵抗項は、前記充填要素内で流動する溶融材料の流速ベクトル(V)と抵抗係数(B)とによって表される請求項1または3に記載の充填凝固解析方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の溶融材料の充填凝固解析方法をコンピュータを機能させて実行することを特徴とする溶融材料の充填凝固解析プログラム。
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