JP4052006B2 - 成型シミュレーション方法、成型シミュレーション装置及び成型シミュレーションプログラム並びに当該成型シミュレーションプログラムを記録したコンピュータ読みとり可能な記録媒体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ひけ巣の発生を精度良く解析できる成型シミュレーション方法、成型シミュレーション装置及び成型シミュレーションプログラム並びに当該成型シミュレーションプログラムを記録したコンピュータ読みとり可能な記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋳鉄・アルミ等による鋳造・ダイカスト等や、樹脂の射出成型のように、溶融した材料を型内に充填することで必要な形状をもつ成型品を製造する手法が汎用されている。
【0003】
ダイカストを例に挙げて説明すると、欠陥の発生としては、ひけ巣不良、空気等の巻き込み不良、湯回り不良等がある。特に大きな問題となる欠陥の一つとしてひけ巣不良がある。型内に充填した溶融材料が液相状態から固相状態に凝固する際には凝固収縮が発生する。凝固収縮が発生する場合に、更にキャビティ内の凝固収縮が起こる部分に溶融材料の補給ができれば凝固収縮の影響はなくなるが、ゲート部分の溶融材料が凝固した後のように、溶融材料が補給できない場合には成型品のどこかにひけ巣が発生する。
【0004】
ひけ巣不良をなくすためには、成型品の形状、成型方案(ランナ、ゲート、オーバーフロー)、射出条件(低速速度、切り替えタイミング、高速速度等)、型温度制御を適正化する必要がある。
【0005】
しかしながら溶融材料の充填成型方法で製造される成型品は、通常3次元的に複雑な形状且つ肉薄であり、溶融材料流れ、凝固現象は非常に複雑且つ短時間の現象であり、なかなか現象を解明できず、それゆえ適正条件を見出すことは容易ではない。また、実験的にひけ巣不良を系統的に解析することは容易ではなく、試行錯誤を繰り返すのが現状である。
【0006】
ところで近年のコンピュータの計算能力の向上に伴い、溶融材料を型内に充填するときの溶融材料の挙動についてのコンピュータ上における成型シミュレーションの適用範囲が広がっている。成型シミュレーションは溶融材料の流れ及び凝固の挙動について理解を深めることを目的としており、適正な成型条件を探索する有用な手段として期待されている。
【0007】
成型シミュレーション方法は、溶融材料の流れ解析と共に型内のキャビティ領域中の溶融材料についても凝固の解析を行うのであるが、溶融材料の凝固に伴う凝固収縮による溶融材料の流れについても解析を行うことができれば、ある程度のひけ巣の発生を予測することが可能であると考えられる。例えば、特開平10−34320号公報に開示された金属溶湯の流動凝固解析方法、装置及び記録媒体がある。この方法は、凝固解析において、型を微小要素に分割し、その微小要素毎に熱伝導及び溶質移動を解析している。
【0008】
しかしながら、実際の複雑形状の型を用いて溶融材料の凝固収縮に伴う流れについての解析を行うことは多大な計算時間を必要とし現実的ではない。また、将来的に計算能力が向上し、速やかに解析が遂行できるとしても、解析における計算を簡便に行い、解析時間を短縮することは有益である。
【0009】
解析時間を短縮する目的の従来の成型シミュレーション方法としては、特開平11−314152号公報に開示された鋳造品の凝固解析方法がある。この方法は、凝固解析において、型を微小要素に分割し、その微小要素毎に経時変化毎の凝固時間分布を記憶させると共に、凝固の進行に伴う未凝固領域の分裂過程も追跡して、分裂する毎に分裂した各領域の凝固収縮量を求め、この凝固収縮量からひけ巣欠陥の体積を算出する。ひけ巣欠陥が発生する部位としては分裂した未凝固領域内の最も凝固が遅い部分に対応させる。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平11−314152号公報に開示の方法では、実際に成型品にひけ巣欠陥が発生する部位を精度よく特定することは困難であった。
【0011】
そこで本発明では溶融材料の型内での凝固時に発生するひけ巣欠陥について、より正確に推測できる成型シミュレーション方法及び成型シミュレーション装置並びにそれらをコンピュータ上で実現する成型シミュレーションプログラム並びにそのプログラムを記録したコンピュータ読みとり可能な記録媒体を提供することを解決すべき課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する目的で本発明者等が鋭意研究を行った結果、従来の成型シミュレーション方法では、最も凝固が遅い部分に凝固収縮を対応させているので、実際の凝固現象を充分に再現することができないことを見出した。ひけ巣欠陥が発生する部位として、固相率の低い部分に集中することを見出した。固相率が低い部分は固相率がより高い部分と比較して流動性が高いので凝固収縮によるひけ巣の発生が集中する。この場合に固相率が低い部分は溶融材料が型内に充填されてから凝固するまでの経時的変化を考慮して解析を行い、順次発生する凝固収縮を対応づける。
【0013】
ここで、従来の方法で重要視されているところの「最も凝固が遅い部分」は、最終的に固相率が最も低い部分ではあるが、溶融材料の凝固過程においても常に固相率が最も低いわけではないことが分かった。例えば、成型品の肉薄の部分は肉厚の部分と比較して冷却が速いので、初期の温度が肉厚の部分よりも高い場合(つまり、固相率が低い)であっても、時間の経過と共に肉厚の部分よりも冷却が進行して温度分布、すなわち凝固時間が逆転することがある。特に肉薄の部分がゲートに近い場合等の場合には肉薄の部分と肉厚の部分との温度分布の逆転が起こりうる。
【0014】
従来の方法では最も凝固が遅い部分に発生する凝固収縮を対応させていたので、この場合には肉厚の部分に集中的にひけ巣欠陥が発生することとなる。しかしながら、肉厚の部分と肉薄の部分との温度分布が逆転する前には肉薄の部分の方が固相率が低いので、凝固収縮は肉薄の部分に起こることとなり、肉厚の部分に凝固収縮由来のひけ巣が発生するのは温度分布が逆転した後となる。つまり、従来の方法では肉薄の部分に対応させるべき凝固収縮を適正に対応させることができない場合があることが分かった。本知見に基づき本発明者らは以下の発明を行った。
【0015】
すなわち、本発明の成型シミュレーション方法は前処理工程と解析工程とを有する(請求項1)。前処理工程は、(1):溶融した材料の成型に用い、該溶融材料を導入するゲートをもつ型の形状を座標系上に位置づけ、該座標系の空間を複数の微小要素に分割する要素作成ステップと、(2):該微小要素のそれぞれについて、該型の型領域に位置する場合には型要素と、該型のキャビティ領域に位置する場合にはキャビティ要素と、該ゲートに位置する場合にはゲート要素と定義する要素定義ステップと、をもつ。解析工程は、(1):該キャビティ要素のそれぞれについて、該溶融材料の充填解析を経時的に行う充填解析ステップと、(2):▲1▼該溶融材料が充填された該キャビティ要素である溶融材料充填要素について、それぞれの該溶融材料充填要素間、及び該鋳造型最表面と該最表面に接する該溶融材料充填要素との間、の伝熱を経時的に解析して、それぞれの該溶融材料充填要素の温度を経時的に算出する伝熱解析ステップと、▲2▼算出されたそれぞれの該溶融材料充填要素の温度に応じて、それぞれの該溶融材料充填要素内の該溶融材料の固相率を経時的に算出する固相率算出ステップと、をもつ凝固解析ステップと、(3):▲1▼該固相率が100%未満であるそれぞれの該溶融材料充填要素について、該固相率が100%未満である該溶融材料充填要素以外の該微小要素によって囲繞され且つ該ゲート要素を含まない閉領域を経時的に検出する閉領域検出ステップと、▲2▼該閉領域の発生後に該閉領域内で発生する凝固収縮を該閉領域内の該溶融材料充填要素のうち該固相率が低い要素に経時的に対応づける凝固収縮検出ステップと、をもつ凝固収縮解析ステップと、をもつ。
【0016】
つまり、経時的に分析された固相率の低い部分に凝固収縮により発生するひけ巣欠陥の体積を対応させることで、現実に近い解析結果を得ることが可能となる。ここで、凝固収縮の発生は固相率が100%未満の領域が閉領域となって新たに溶融材料の補給が絶たれた後に発生するので、閉領域が発生した後に、その閉領域に発生する凝固収縮をその閉領域内の固相率が低い部分に対応させることでひけ巣欠陥の発生を高精度に解析することが可能となる。なお、「固相率」とは全体の質量に対して、固相部分が占める質量の割合であり、「溶融材料」としては金属材料のほか、高分子材料も含む。溶融材料が合金等の金属材料である場合には共晶等を生成して一定温度範囲で液相と固相とが混在する。金属材料の固相率は状態図等により算出できる。溶融材料が高分子材料である場合には分子量のばらつき等から融点がある一定幅をもつ。この一定幅の融点の間には液相と固相とが混在する。正確な固相率は高分子材料の冷却速度によっても変化するが、融点の範囲内で温度が高いほど固相率は低く、温度が低いほど固相率は高いので比較して固相率の高い部位を推測できる。
【0017】
そして、前記凝固収縮解析ステップは、前記閉領域内の前記溶融材料充填要素のうち前記固相率が低い順に前記凝固収縮を対応づけるステップであることが好ましい(請求項2)。発生した凝固収縮をまず固相率が最も低い部分に対応づけ、凝固収縮の体積が大きく、それ以上対応づけられなくなった場合に次に固相率が低い部分に残りの凝固収縮を対応づける方法である。
【0018】
その場合に、固相率が同じ溶融材料充填要素に対して凝固収縮を対応づける方法としては、それぞれの溶融材料充填要素に均等に凝固収縮を対応づける方法がある(請求項3)。この方法は、ダイカスト等、速やかに溶融材料が凝固する成型方法に好ましく適用できる。また、溶融材料充填要素に対して、重力に対して上方から順に凝固収縮を対応づける方法がある(請求項4)。重力鋳造等のように、溶融材料の凝固に時間を要する方法に好ましく適用できる。ここで、「重力」とは地球の万有引力に起因する力のほか、遠心鋳造のように運動により生成する加速度も含む概念である。
【0019】
更に上記課題を解決する本発明の成型シミュレーション装置は前処理手段と解析手段とを有する(請求項5)。前処理手段は、(1):溶融した材料の成型に用い、該溶融材料を導入するゲートをもつ型の形状を座標系上に位置づけ、該座標系の空間を複数の微小要素に分割する要素作成手段と、(2):該微小要素のそれぞれについて、該型の型領域に位置する場合には型要素と、該型のキャビティ領域に位置する場合にはキャビティ要素と、該ゲートに位置する場合にはゲート要素と定義する要素定義手段と、をもつ。解析手段は、(1):該キャビティ要素のそれぞれについて、該溶融材料の充填解析を経時的に行う充填解析手段と、(2):▲1▼該溶融材料が充填された該キャビティ要素である溶融材料充填要素について、それぞれの該溶融材料充填要素間、及び該鋳造型最表面と該最表面に接する該溶融材料充填要素との間、の伝熱を経時的に解析して、それぞれの該溶融材料充填要素の温度を経時的に算出する伝熱解析手段と、▲2▼算出されたそれぞれの該溶融材料充填要素の温度に応じて、それぞれの該溶融材料充填要素内の該溶融材料の固相率を経時的に算出する固相率算出手段と、をもつ凝固解析手段と、(3):▲1▼該固相率が100%未満であるそれぞれの該溶融材料充填要素について、該固相率が100%未満である該溶融材料充填要素以外の該微小要素によって囲繞され且つ該ゲート要素を含まない閉領域を経時的に検出する閉領域検出手段と、▲2▼該閉領域の発生後に該閉領域内で発生する凝固収縮を該閉領域内の該溶融材料充填要素のうち該固相率が低い要素に経時的に対応づける凝固収縮検出手段と、をもつ凝固収縮解析手段と、をもつ。
【0020】
更に本発明の成型シミュレーションプログラム及びそのプログラムを記録した記録媒体は、前述した前処理手段と解析手段とを有する成型シミュレーション手段としてコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム(請求項9)及びそのプログラムを記録した記録媒体(請求項13)である。
【0021】
【発明の実施の形態】
〔成型シミュレーション方法〕
本成型シミュレーション方法は前処理工程と解析工程とその他必要に応じた工程とを有する。前処理工程は要素作成ステップと要素定義ステップとをもち、型のモデルデータを作成して、型内へ充填する溶融材料について充填解析及び凝固解析を行う準備をする工程である。解析工程は作成された型のモデルデータに対して、充填解析ステップと凝固解析ステップと凝固収縮解析ステップとを行う工程である。本成型シミュレーション方法は、ダイカスト等の鋳造、プラスチックの射出成型等に適用してシミュレーションを行うことができる。本シミュレーション方法が適用される型は溶融した材料の成型に用いるもので、その溶融材料を導入するゲートをもつ。ゲートは溶融材料を型内に導入する部分であれば名称、形状は問わない。ゲートの数は特に限定しない。
【0022】
(前処理工程)
〈要素作成ステップ〉
要素作成ステップは、本成型シミュレーション方法の対象である型を座標系上に位置づけ、その座標系上の空間を多面体からなる複数の微小要素に分割するステップである。すなわち、座標系上の空間を解析用の微小要素に細分化するステップである。
【0023】
座標系は、適当なものを選択することが可能である。この座標系上の空間には必要に応じた大きさで微小要素が形成される。微小要素に分割する方法としては有限差分法で採用されるような直交6面体の微小要素で分割する方法、有限要素法のように要素の形状を鋳造型のモデルデータに応じて比較的自由に変更できる方法等がある。有限差分法は微小要素への分割が容易であり、且つ解析が数学的に簡潔であるという利点がある。
【0024】
なお、座標系空間のすべてに微小要素を規定する必要はなく、必要な部分(溶融材料が注入されるキャビティ領域とその周りに接する型領域等のように後述する解析工程で必要な部分)を最小限含むような範囲で規定すれば充分である。
【0025】
そして作成する微小要素の大きさはできるだけ小さい方が解析の精度が向上できるが、より多くの解析時間が必要となる。したがって、微小要素の大きさは要求される精度やシミュレーションの原理的な制約、解析時間等から適正に決定できる。なお、微小要素の大きさはすべての部分について同じ大きさとする必要はなく、解析部位によって大きさを変更することができる。たとえば、成型品の肉厚が薄い部分では、局所的に微小要素の大きさを小さく設定し、解析精度を向上することが好ましい。
【0026】
ところで、型を座標系上に位置づけるためには、型の形状がCADデータ型式等の数値データに変換されている必要がある。型の形状を数値データに変換する方法としては、特に限定されず、たとえば、最初から型の形状をCADにより設計したり、試作品の形状を3次元スキャナ等の何らかの方法で数値化しても良い。ここでCADにより型の数値データを作成した場合には、CAD等により作成された型のデータを読み込み、型の外形データを抽出する必要がある。その方法については公知の方法が使用できる。また、本方法においてCADデータをそのまま使用できるようにしても良い。なお、本ステップにおいて、型に代えて成型される成型品を座標系上に位置づけることもできる。この場合には型とした場合に必要なゲートの位置についてのデータを付与する。
【0027】
〈要素定義ステップ〉
要素定義ステップは、前述の要素作成ステップにおいて規定された微小要素のそれぞれについて、型の型領域に位置する場合には型要素と定義し、型のキャビティ領域に位置する場合にはキャビティ要素と定義し、ゲートに位置する場合にはゲート要素と定義するステップである。すなわち、後述の解析工程用に各微小要素の属性を定義し、座標系上に型の形状を微小要素により構築するステップである。
【0028】
なお、本ステップは、前述の要素作成ステップにおいて微小要素が規定された後に行われるステップであるが、すべての微小要素が規定された後に行う必要は必ずしもなく1以上の微小要素が規定される毎に本ステップを行い、その後に要素作成ステップを再度行うことを繰り返すこともできる。
【0029】
ここで、型の「型領域」とは型自身を形成する領域であって、溶融材料が流れない部分であり、型の「キャビティ領域」とは溶融材料が流れ最終的に成型品が形成される部分である領域をそれぞれ意味する。
【0030】
具体的に各微小要素を型要素とキャビティ要素とに定義する方法としては特に限定されず、公知の方法が採用可能である。以下に図を参照しながら一例を説明する。図1には、型の形状及び微小要素の一部を拡大して示す。また、図は記載及び説明の便宜上2次元上にて型及び微小要素を示し、以下の説明も2次元の図に基づいて行うが、その本質は3次元のものと異なるところはない。
【0031】
図1に示すように、座標として直交座標を採用し、その座標系上に正方形の微小要素20(形状は特に正方形に限定されるものではない。また、3次元上に適用する場合には直方体・立方体その他任意形状の多面体が要素の形として例示できる。以下同じ。)が規則的に規定されている。また、座標上には、型モデルデータの境界線が位置づけられている。
【0032】
図1において、各微小要素20それぞれの重心21の位置が、型の型領域(斜線部分)に存在する場合にはその微小要素20を型要素(以下「M要素」という。)と定義し、キャビティ領域に存在する場合にはその微小要素をキャビティ要素(以下「C要素」という。)と定義する。各微小要素20をM要素及びC要素に定義した状態を図2に示す。図2では型領域に存在する重心21を白丸で、キャビティ領域に存在する重心21を黒丸で表す。なお、型領域及びキャビティ領域のいずれにも該当しない微小要素20の扱いは特に限定しないが、計算上の負荷とならないように規定することが好ましい。
【0033】
(解析工程)
解析工程は充填解析ステップと凝固解析ステップと凝固収縮解析ステップとをもつ。これらの工程はそれぞれの適正な微小時間間隔で、それぞれ目的の解析を行う。凝固収縮解析ステップは凝固解析ステップの結果に基づいて解析を行い、凝固解析ステップは充填解析ステップの結果に基づいて解析を行う。従って、これらのステップは微小時間間隔毎にそれぞれの解析を順次行ってもよいし、充填解析ステップ、凝固解析ステップそして凝固収縮解析ステップの順番に解析を行ってもよい。また、これらのステップを行う微小時間間隔はすべて同じ間隔を採用することもできるし、異なる間隔を採用することもできる。
【0034】
〈充填解析ステップ〉
充填解析ステップは、C要素のそれぞれについて、溶融材料の充填解析を経時的に行うステップである。すなわち、型内における注入された溶融材料の物理的挙動を解析するステップであり、微小要素毎に微小時間毎の溶融材料の物理的挙動を解析する。溶融材料が充填された微小要素は溶融材料充填要素として扱う。
【0035】
基本的な溶湯の充填解析の方法については、特に限定されるものではない。例えば、VOF(Volume of Fluid)、SOLA、FAN及びそれらの改良された方法等の公知技術・慣用技術等を適用することができる。
【0036】
〈凝固解析ステップ〉
凝固解析ステップは、▲1▼溶融材料が充填されたC要素(溶融材料充填要素)について伝熱解析を行い温度を経時的に算出する伝熱解析ステップと、▲2▼算出された温度から溶融材料充填要素内の溶融材料の固相率を経時的に算出する固相率算出ステップとをもつ。
【0037】
▲1▼伝熱解析ステップは溶融材料充填要素間での伝熱解析のほか、溶融材料充填要素と鋳造型最表面(すなわちC要素に接するM要素)との間での経時的に伝熱解析を行う。伝熱解析ステップでは計算が発散せず且つ許容時間内で計算が終了するように設定された微小時間間隔で各要素間の伝熱を各モデルに設定された伝熱係数に基づいて計算する。伝熱解析ステップで行う解析方法は特に限定されるものではないが、例えば、熱移流、潜熱を考慮した非定常熱伝導解析に差分法とADI法とを併用する等の計算方法を用いてそれぞれの要素について熱の伝導を計算することができる。
【0038】
▲2▼固相率算出ステップは伝熱解析ステップで算出された溶融材料充填要素の温度に基づいてその溶融材料充填要素に充填された溶融材料の固相率を算出する。固相率の算出は状態図等により求めたり、シャイルの式等の理論式又は近似式により算出することが可能である。ここで、固相率に変えて、固相率と関連のあるパラメータである液相率や温度等を用いて計算を行ってもよい。液相率は100%から固相率を減じた値である。固相率に関連するパラメータとして温度を用いる場合には、すべて液相になる温度以上及びすべて固相になる温度以下はそれぞれ同一に扱う。
【0039】
〈凝固収縮解析ステップ〉
凝固収縮解析ステップは▲1▼閉領域検出ステップと▲2▼凝固収縮検出ステップとをもつ。
【0040】
▲1▼閉領域検出ステップは、固相率が100%未満であるそれぞれの溶融材料充填要素(以下、「含液相要素」と称する)について、含液相要素以外の微小要素(以下、「非液相要素」と称する、例えば、型要素や、固相率が100%である溶融材料充填要素、又は溶融材料が充填されていないC要素である)によって囲繞され、且つゲート要素を含まない閉領域を経時的に検出するステップである。ゲート要素を含む領域内では凝固収縮が起こってもゲートから溶融材料が補給されるためにひけ巣欠陥が発生しないので、ゲート要素を含む領域は閉領域とはしない。つまり、含液相要素に対して新たに溶融した溶融材料を補給できない場合にその領域を閉領域とする。閉領域内では溶融材料の移動が可能であるので、その領域内で発生した凝固収縮はその領域内のいずれかの部位にひけ巣を発生させる。
【0041】
本ステップで非液相要素で完全に囲繞された含液相要素を検出する方法を例示すると、すべての含液相要素について、その含液相要素を起点に周りの微小要素を非液相要素に到達するまで順次探索していき探索が終了したときにゲート要素を領域内に含まない場合にその領域を閉領域とする。
【0042】
さらに解析時間の経過に伴い、閉領域の一部が凝固してその閉領域を分割することで、一度検出された閉領域が新たに2以上に分割されることもあり得る。閉領域が分割された後にもその閉領域内で継続して解析を行う。
【0043】
▲2▼凝固収縮検出ステップは、閉領域の発生後に、その閉領域内で発生する凝固収縮をその閉領域内の溶融材料充填要素のうち固相率が低い要素に経時的に対応づけるステップである。閉領域は閉領域検出ステップにより検出されると、以後、微小時間毎に凝固収縮の量が検出される。凝固収縮の量は公知の方法により算出できる。例えば、(凝固収縮の体積)=(液相の体積低減量)×(凝固収縮係数)+(液相温度低下)×(液相収縮係数)で表される。凝固収縮は閉領域内のすべての溶融材料充填要素について体積の変動を算出することで検出できる。凝固解析ステップにより固相率が100%となった溶融材料充填要素についても直前の解析までは固相率が100%未満であった場合には体積変動を計算して凝固収縮の計算に含める。凝固収縮のほか、液相状態及び固相状態の溶融材料について熱収縮に関する固相収縮係数から算出される体積変化を考慮することができる。例えば、(固相温度低下)×(固相収縮係数)で計算される固相部分の収縮も加えることもできる。
【0044】
算出された凝固収縮はその閉領域内の固相率の低い微小要素に対応づけられる。ここで「凝固収縮を微小要素に対応づける」とは、対応づける微小要素に対する溶融材料の充填率が、発生した凝固収縮の体積に相当するだけ減少することを意味する。言い換えれば、他の微小要素で発生した凝固収縮を対応づける微小要素から溶湯を補給している。
【0045】
ここで、固相率の低い微小要素とは実際に一番固相率が低い微小要素を選択できる。固相率の大きさは段階的に評価して、固相率が一定範囲内に収まる微小要素毎について同一の固相率であるとして扱うこともできる。固相率の段階の決定は固定ではなく、解析中に変動させてもよい。
【0046】
凝固収縮を対応づける方法としては、固相率が低い順に対応づける方法がある。この場合には、固相率が同じ微小要素に対して均等に凝固収縮を対応づける方法のほか、重力を考慮して重力に対して上方から順に凝固収縮を対応づける方法がある。溶融材料の凝固時間が比較的長い鋳造においては重力の影響を考えることでより正確なひけ巣欠陥の位置を予測できる。
【0047】
重力の影響を考慮して、より正確なひけ巣欠陥の発生位置を特定する方法としては凝固収縮が対応づけられた微小要素が完全に凝固するまでの時間とひけ巣欠陥の移動距離との関係を関数として予め決定する方法がある。決定した関数に基づいて、各微小要素に対応づけられた凝固収縮の移動距離を算出することにより、ひけ巣欠陥の発生位置を予測する。その場合に完全に凝固した微小要素には発生したひけ巣欠陥は移動できないので、最終的なひけ巣欠陥の発生位置はひけ巣欠陥の移動距離内の部位のうち固相率が100%未満の部位に限定される。
【0048】
各微小要素に対応づけられた凝固収縮の量が、その微小要素の体積以上となる場合には、閉領域内においてその微小要素を除いた微小要素について固相率を考慮して(固相率の低い微小要素を選択する)残りの凝固収縮を対応づける。前述したように、閉領域は分割されることがある。閉領域が分割された場合には、閉領域の分割後にそれぞれの内部で発生した凝固収縮をそれぞれの内部で固相率を考慮して対応づけることでより正確にひけ巣欠陥の発生を予測できる。
【0049】
(その他の工程)
本シミュレーション方法はその他に、種々の工程を含ませることができる。例えばその他の欠陥予測解析(空気の巻き込み予測、湯回り及び湯境予測等)、DCスリーブ内流動解析、中子ガス発生解析、残留応力解析等を行う工程を含ませることができる。
【0050】
これらの解析を併せて行うことにより、ひけ巣の解析のみならず、全体として、空気の巻き込み、めざし、型温分布、湯境、湯しわ、ブリスター、残留歪、割れ、耐久強度(静的、疲労、衝撃)、特性予測等を精度及び効率よく行うことができる。
【0051】
さらに、本実施形態の方法に含ませることができるその他の工程としては、解析結果を出力する工程や解析結果を表示する工程が例示できる。
【0052】
解析結果を出力する工程としては、たとえば、独自形式乃至は他の汎用CAD等にて読み込み可能なファイル形式で出力・保存したり、前述の解析結果を出力する工程に出力することができるものである。
【0053】
解析結果を表示する工程は、本実施形態の成型シミュレーション方法における解析結果を可視化する工程である。可視化することにより解析結果の把握がより容易となる。
【0054】
解析結果を出力(可視化)する場合には解析工程で解析したひけ巣の解析結果(ひけ巣欠陥の体積、位置等の情報)を併せて出力(可視化)することが好ましい。
【0055】
〔成型シミュレーション装置〕
以下に本発明の成型シミュレーション装置について実施形態に基づいて詳細に説明する。本実施形態の成型シミュレーション装置は、前処理手段と解析手段とを有する。また、本実施形態の成型シミュレーション装置は、必要に応じて、その他の手段を含むことができる。本実施形態の各手段はすべてコンピュータ上のロジックとして実現可能であり、また、コンピュータ上のロジックとして実現することが好ましい。
【0056】
前処理手段は要素作成手段と要素定義手段とをもち、型内の溶融材料の充填解析及び凝固解析の準備を行う手段である。解析手段は充填解析手段と凝固解析手段と凝固収縮解析手段とをもつ。
【0057】
(前処理手段)
〈要素作成手段〉
要素作成手段は、本成型シミュレーション手段の解析対象である型を座標系上に位置づけ、その座標系上の空間を多面体からなる複数の微小要素に分割する手段である。すなわち、座標系上の空間を解析用の微小要素に細分化する手段である。なお、本手段についての説明は、前述の成型シミュレーション方法における要素作成ステップにおけるものとほぼ同様であるので先の説明をもって本手段の説明に代える。
【0058】
〈要素定義手段〉
要素定義手段は、前述の要素作成手段において規定された微小要素のそれぞれについて、型の型領域に位置する場合には型要素と定義し、型のキャビティ領域に位置する場合にはキャビティ要素と定義し、ゲートに位置する場合にはゲート要素と定義する手段である。すなわち、後述の解析手段用に各微小要素の属性を定義し、座標系上に型の形状を微小要素により構築する。なお、本手段についての説明は、前述の成型シミュレーション方法における要素定義ステップにおけるものとほぼ同様であるので先の説明をもって本手段の説明に代える。
【0059】
(解析手段)
〈充填解析手段〉
充填解析手段は、C要素のそれぞれについて、溶融材料の充填解析を行う手段である。すなわち、型内における注入された溶融材料の物理的挙動を解析する手段であり、微小要素毎に微小時間毎の溶融材料の物理的挙動を解析する。なお、本手段についての説明は、前述の成型シミュレーション方法における充填解析ステップにおけるものとほぼ同様であるので先の説明をもって本手段の説明に代える。
【0060】
〈凝固解析手段〉
凝固解析手段は、C要素内に充填された溶融材料について伝熱解析を行い温度を経時的に算出する伝熱解析手段と、算出された温度から溶融材料の固相率を経時的に算出する固相率算出手段とをもつ。なお、本手段についての説明は、前述の成型シミュレーション方法における凝固解析ステップにおけるものとほぼ同様であるので先の説明をもって本手段の説明に代える。
【0061】
〈凝固収縮解析手段〉
凝固収縮解析手段は閉領域検出手段と凝固収縮検出手段とをもつ。閉領域検出ス手段は、含液相要素について、非液相要素によって囲繞され且つゲート要素を含まない閉領域を経時的に検出する手段である。凝固収縮検出手段は、閉領域の発生後に、その閉領域内の溶融材料充填要素のうち固相率が低い要素にその閉領域内で発生する凝固収縮を経時的に対応づける手段である。なお、本手段についての説明は、前述の成型シミュレーション方法における凝固収縮解析ステップにおけるものとほぼ同様であるので先の説明をもって本手段の説明に代える。
【0062】
(その他の手段)
本実施形態の装置に含ませることができるその他の手段としては、前述したシミュレーション方法で説明したように、型内のキャビティ内での溶融材料の空気巻き込み等をシミュレーションする解析手段、解析結果を出力する手段や解析結果を表示する手段が例示できる。なお、これらの手段についての説明は、前述の成型シミュレーション方法におけるものとほぼ同様であるので先の説明をもってこれらの手段の説明に代える。
【0063】
〔成型シミュレーションプログラム〕
本成型シミュレーションプログラムは、使用されるコンピュータ上において前述した成型シミュレーション装置が有する各手段を実現可能としたロジックであり、そのコンピュータ上で実行可能な形式で作成されている。また、本プログラムはCD−ROM等の記録媒体上に記録されていても良い。本成型シミュレーションプログラムの各構成要素については前述の成型シミュレーション方法及び装置の各構成要素の説明と概ね同一であるので、先の説明をもって本構成要素の説明に代える。
【0064】
【実施例】
(実施例)
本実施例では溶融材料としての溶湯を用いたダイカストにおいて湯流れ及び凝固の解析を行う成型シミュレーション方法に基づき、本発明の成型シミュレーション方法についてさらに詳しく説明する。本方法では型としての鋳造型をCADで作成し、その鋳造型のモデルデータを用いて成型シミュレーションを行う方法である本方法は、図3に示すように、大きく分類すると、前処理工程S1と解析工程S2とからなる。
【0065】
(1)前処理工程S1
座標系として直交座標系を採用した。鋳造型の型モデルデータはCADデータとして作成される(型モデルデータ作成S11)。
【0066】
図5は型モデルデータ(成型品形状)をハッチングを付した面で切断した切断図である。まず、型モデルデータを座標系上に配置する。そして、座標系をそれぞれの座標軸方向で微小要素に分割する(要素作成ステップS12)。この微小要素の重心位置が型モデルデータの鋳造型内に位置する要素をM要素、キャビティ内に位置する要素をC要素と定義する(要素定義ステップS13)。本鋳造型は図面右下に溶湯が注入されるゲートGが配置されている。
【0067】
(2)解析工程S2
解析工程S2は充填解析ステップS21と凝固解析ステップS22と凝固収縮解析ステップS23とをもつ。
【0068】
▲1▼充填解析ステップS21ではC要素について溶湯の充填割合を所定時間間隔で順次計算していく。充填解析ステップS21は有限差分法のうちSOLA−VOF法と称される方法を用いて湯流れを解析する。
【0069】
▲2▼凝固解析ステップS22では非定常熱伝導計算法により各微小要素の温度を解析する伝熱解析ステップと、算出された温度に基づき溶湯が充填された微小要素(以下、「充填要素」と称する)について固相率を算出する固相率算出ステップとをもつ。固相率は各充填要素の温度をシャイルの式にあてはめて算出する。
【0070】
▲3▼凝固収縮解析ステップS23はゲートから溶湯の供給がなされない領域を検出する閉領域検出ステップと、閉領域内で発生した凝固収縮を適正に対応づける凝固収縮検出ステップとをもつ。
【0071】
閉領域検出ステップは固相率が100%未満であるそれぞれの溶融材料充填要素(含液相要素)について、含液相要素以外の微小要素(非液相要素)によって囲繞され且つゲート要素を含まない閉領域を経時的に検出するステップである。
【0072】
閉領域検出ステップは、図4に示すように、閉領域内から任意に含液相要素を選出する(S231)。そして、選出された含液相要素を起点として隣接する微小要素を順次探索する。
【0073】
次に、選出された含液相要素について識別可能な識別符号を付す(S232)。その識別符号を付した含液相要素について隣接する微小要素を検出していき(S233)、隣接する微小要素がさらに含液相要素である場合には(S236)、その隣接する含液相要素にも先の含液相要素と同じ識別符号を付す(S237)。その結果、最終的に同一の符号を付している含液相要素は連続した含液相要素の領域を表すこととなる。
【0074】
隣接する微小要素が探索済みの含液相要素であるか、非液相要素又はゲート要素である場合には、それ以上隣接する微小要素の探索は行わず、その種類を記録する(S238)。隣接する微小要素をすべて探索してそれ以上含液相要素が存在しない場合には、その他に、識別符号を付していない含液相要素が存在するか否かを探索し(S234)、識別符号を付していない含液相要素が存在する場合にはその中から新たに含液相要素を選出して(S231)、その含液相要素について別の識別符号を付して(S232)、以下同様に隣接する微小要素を探索する工程を繰り返し行う。
【0075】
すべての含液相要素について探索を終了したときに(S234)、同一識別符号が付された含液相要素が含まれる領域内にゲート要素が含まれないときには、その同一識別符号が付された含液相要素からなる領域は閉領域であると判断する(S235)。
【0076】
閉領域検出ステップは微小時間間隔毎に閉領域を検出する。解析が進行する結果、同一の識別符号が付された微小要素の一部が解析の途中で固化することで、1つの閉領域が2以上に分割されることもある。
【0077】
凝固収縮検出ステップは直前に検出された閉領域と現在の閉領域とを対比して、閉領域内に含まれる溶融材料の体積変動を求め、その体積変動の大きさを閉領域内の固相率が低い溶融材料充填要素に対応づける。
【0078】
固相率の大きさは段階的に設定されており、同一段階に含まれる固相率をもつ溶融材料充填要素はすべて同じ固相率であるとみなして解析を行う。閉領域内に含まれる溶融材料充填要素のうち、一番低い固相率をもつ溶融材料充填要素に均等に凝固収縮の量を割り当てる。凝固収縮の量は各溶融材料充填要素についてそれぞれ加算していく。一番低い固相率をもつ溶融材料充填要素に凝固収縮を割り当てるとその溶融材料充填要素の体積を超過する場合には、超過した凝固収縮についてはその溶融材料充填要素を除外して対応付けを行う。更に解析が進行して一番低い固相率をもつ溶融材料充填要素がすべてそれ以上凝固収縮が割り当てられない場合には次に固相率の小さい溶融材料充填要素に対して均等に凝固収縮の量を割り当てる。この作業をすべての溶融材料充填要素が完全に凝固するまで行う。
【0079】
微小時間間隔毎に充填解析ステップS21、凝固解析ステップS22及び凝固収縮解析ステップS23を行いすべての溶融材料充填要素が凝固するまで解析を続行する。
【0080】
以下に解析工程S2を具体的に説明する。図5でしめす鋳造型内のキャビティ領域にゲート要素Gから溶湯を射出すると、充填解析ステップS21により解析が進行していき、射出開始から幾らか後に、溶湯が未充填のC要素のうち、ゲート要素Gからキャビティ領域内の幾らかのC要素が溶湯が充填される。更に時間が進行すると、キャビティ領域内は溶湯で充填される。このときにはゲート要素Gの付近は凝固が進行しており、キャビティ領域内への新たな溶湯の供給は進行しない。
【0081】
この場合にキャビティ領域内の大部分は連続している閉領域となる(図6)。図6で示す場合で閉領域内の含液相要素中で一番固相率が低い(温度が高い)部分はHで示す部分である。図6では閉領域が1つある。この閉領域中に示す線は同一の固相率を結んだ等固相率線である。等固相率線は、閉領域の内側に示される程、固相率が低い。Hで示す部分はゲート要素Gから溶湯が供給されたばかりであるので、他の部分より固相率が低い。従って、現段階において閉領域内で発生した凝固収縮はHの部分に集中して対応づける。
【0082】
解析が進行する結果、閉領域の大きさは縮小していく(図7)。閉領域内の一番低い固相率をもつ部分はH’の部分となる。H’の部分は肉厚であり冷却速度が遅いので、肉薄の部分に存在するHの部分が速やかに冷却されることで温度分布が逆転する。温度分布が逆転した後に発生した凝固収縮はH’の部分に集中する。
【0083】
図8に示すように、最終的にはHの部分に多量の凝固収縮が対応づけられるので大きなひけ巣欠陥が発生し、H’の部分には閉領域の大きさが小さくなってからの凝固収縮が対応づけられるのみであるのでHの部分と比較して小さなひけ巣欠陥しか発生しない。
【0084】
(3)解析結果表示工程(図略)
最終的に充填解析ステップS21及び凝固解析ステップS22が終了した後に、シミュレーション結果を可視化する。キャビティ領域内への溶湯の充填の様子を可視化することの他に、最終的に製造される成型品についてひけ巣欠陥の予測位置を表示する。ひけ巣欠陥は、凝固収縮の体積の情報が対応づけられた微小要素に発生するものと予測する。凝固収縮の体積の情報が対応づけられた結果、その微小要素の空隙率((対応づけられた凝固収縮の体積)/(その微小要素の体積)×100(%))が90%以上のものをひけ巣欠陥として表示する。この空隙率の値は適正に変動できる。ひけ巣欠陥の大きさとしては、対応づけられた凝固収縮の体積の大きさの和をもって予測する。
【0085】
(比較例)
図5〜7で示された溶湯の充填・凝固過程に基づいて従来方法によりひけ巣欠陥の発生部位を予測する。従来方法としてはひけ巣欠陥の発生部位として凝固の時間により予測する。つまり、溶湯の凝固が最も遅い部位に発生する凝固収縮の体積を対応づける。
【0086】
従来方法によりひけ巣欠陥の発生部位を予測すると、図7に示したH’の部分が最も溶湯の凝固が遅い部分であるのでこの部分に凝固収縮の体積が対応づけられひけ巣欠陥が発生すると予測される。
【0087】
(実際の試験結果との比較)
実際に図5に示した形状の型を用いて実際の成型品を製造した。この成型品を分析した結果、実際にひけ巣欠陥が発生した部位と、実施例及び比較例で予測されたひけ巣欠陥の発生部位とを比較すると、実施例での予測がより正確にひけ巣欠陥の位置・大きさを予測していた。
【0088】
すなわち、本実施例の鋳造シミュレーション方法は従来行うことが出来なかった高精度のひけ巣欠陥の予測を行うことが可能となった。
【0089】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の成型シミュレーション方法によれば、溶融材料内で発生した凝固収縮を固相率の低い部位に対応づけることで、凝固過程で発生する凝固収縮の体積を適正に対応づけることが可能となり、ひけ巣欠陥の発生を高精度で推測することが可能となる。結果として、成型シミュレーションにおける精度のさらなる向上が達成できる。
【0090】
同様に本発明の成型シミュレーション装置及び成型シミュレーションプログラムによれば、成型シミュレーションにおける精度のさらなる向上が達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】微小要素を定義する方法の一例を示した図である。
【図2】微小要素を定義する方法の一例を示した図である。
【図3】実施例の鋳造シミュレーション方法のフローチャートである。
【図4】実施例の鋳造シミュレーション方法の閉領域検出ステップのフローチャートである。
【図5】実施例における鋳造される成型品を示した概略断面図である。
【図6】実施例における鋳造型内への溶湯の充填後の成型品の等固相率線を示した概略断面図である。
【図7】実施例における鋳造型内への溶湯の充填後の成型品の等固相率線を示した概略断面図である。
【図8】実施例における成型品に発生するひけ巣欠陥の位置を示した概略図である。
【符号の説明】
D…型モデルデータ
C…キャビティ要素(C要素)
M…型要素(M要素)
G…ゲート
H、H’…固相率の最も低い部位
Claims (13)
- 溶融した材料の成型に用い、該溶融材料を導入するゲートをもつ型の形状を座標系上に位置づけ、該座標系の空間を複数の微小要素に分割する要素作成ステップと、
該微小要素のそれぞれについて、該型の型領域に位置する場合には型要素と、該型のキャビティ領域に位置する場合にはキャビティ要素と、該ゲートに位置する場合にはゲート要素と定義する要素定義ステップと、
をもつ前処理工程と、
該キャビティ要素のそれぞれについて、該溶融材料の充填解析を経時的に行う充填解析ステップと、
該溶融材料が充填された該キャビティ要素である溶融材料充填要素について、それぞれの該溶融材料充填要素間、及び該鋳造型最表面と該最表面に接する該溶融材料充填要素との間、の伝熱を経時的に解析して、それぞれの該溶融材料充填要素の温度を経時的に算出する伝熱解析ステップと、算出されたそれぞれの該溶融材料充填要素の温度に応じて、それぞれの該溶融材料充填要素内の該溶融材料の固相率を経時的に算出する固相率算出ステップと、をもつ凝固解析ステップと、
該固相率が100%未満であるそれぞれの該溶融材料充填要素について、該固相率が100%未満である該溶融材料充填要素以外の該微小要素によって囲繞され且つ該ゲート要素を含まない閉領域を経時的に検出する閉領域検出ステップと、該閉領域の発生後に該閉領域内で発生する凝固収縮を該閉領域内の該溶融材料充填要素のうち該固相率が低い要素に経時的に対応づける凝固収縮検出ステップと、をもつ凝固収縮解析ステップと、
をもつ解析工程と、を有することを特徴とする成型シミュレーション方法。 - 前記凝固収縮解析ステップは、前記閉領域内の前記溶融材料充填要素のうち前記固相率が低い順に前記凝固収縮を対応づけるステップである請求項1に記載の成型シミュレーション方法。
- 前記凝固収縮解析ステップは、前記固相率が同じ前記溶融材料充填要素に対して均等に前記凝固収縮を対応づけるステップである請求項2に記載の成型シミュレーション方法。
- 前記凝固収縮解析ステップは、前記固相率が同じ前記溶融材料充填要素に対して、重力に対して上方から順に前記凝固収縮を対応づけるステップである請求項2に記載の成型シミュレーション方法。
- 溶融した材料の成型に用い、該溶融材料を導入するゲートをもつ型の形状を座標系上に位置づけ、該座標系の空間を複数の微小要素に分割する要素作成手段と、
該微小要素のそれぞれについて、該型の型領域に位置する場合には型要素と、該型のキャビティ領域に位置する場合にはキャビティ要素と、該ゲートに位置する場合にはゲート要素と定義する要素定義手段と、
をもつ前処理手段と、
該キャビティ要素のそれぞれについて、該溶融材料の充填解析を経時的に行う充填解析手段と、
該溶融材料が充填された該キャビティ要素である溶融材料充填要素について、それぞれの該溶融材料充填要素間、及び該鋳造型最表面と該最表面に接する該溶融材料充填要素との間、の伝熱を経時的に解析して、それぞれの該溶融材料充填要素の温度を経時的に算出する伝熱解析手段と、算出されたそれぞれの該溶融材料充填要素の温度に応じて、それぞれの該溶融材料充填要素内の該溶融材料の固相率を経時的に算出する固相率算出手段と、をもつ凝固解析手段と、
該固相率が100%未満であるそれぞれの該溶融材料充填要素について、該固相率が100%未満である該溶融材料充填要素以外の該微小要素によって囲繞され且つ該ゲート要素を含まない閉領域を経時的に検出する閉領域検出手段と、該閉領域の発生後に該閉領域内で発生する凝固収縮を該閉領域内の該溶融材料充填要素のうち該固相率が低い要素に経時的に対応づける凝固収縮検出手段と、をもつ凝固収縮解析手段と、
をもつ解析手段と、を有することを特徴とする成型シミュレーション装置。 - 前記凝固収縮解析手段は、前記閉領域内の前記溶融材料充填要素のうち前記固相率が低い順に前記凝固収縮を対応づける手段である請求項5に記載の成型シミュレーション装置。
- 前記凝固収縮解析手段は、前記固相率が同じ前記溶融材料充填要素に対して均等に前記凝固収縮を対応づける手段である請求項6に記載の成型シミュレーション装置。
- 前記凝固収縮解析手段は、前記固相率が同じ前記溶融材料充填要素に対して、重力に対して上方から順に前記凝固収縮を対応づける手段である請求項6に記載の成型シミュレーション装置。
- 溶融した材料の成型に用い、該溶融材料を導入するゲートをもつ型の形状を座標系上に位置づけ、該座標系の空間を複数の微小要素に分割する要素作成手段と、
該微小要素のそれぞれについて、該型の型領域に位置する場合には型要素と、該型のキャビティ領域に位置する場合にはキャビティ要素と、該ゲートに位置する場合にはゲート要素と定義する要素定義手段と、
をもつ前処理手段と、
該キャビティ要素のそれぞれについて、該溶融材料の充填解析を経時的に行う充填解析手段と、
該溶融材料が充填された該キャビティ要素である溶融材料充填要素について、それぞれの該溶融材料充填要素間、及び該鋳造型最表面と該最表面に接する該溶融材料充填要素との間、の伝熱を経時的に解析して、それぞれの該溶融材料充填要素の温度を経時的に算出する伝熱解析手段と、算出されたそれぞれの該溶融材料充填要素の温度に応じて、それぞれの該溶融材料充填要素内の該溶融材料の固相率を経時的に算出する固相率算出手段と、をもつ凝固解析手段と、
該固相率が100%未満であるそれぞれの該溶融材料充填要素について、該固相率が100%未満である該溶融材料充填要素以外の該微小要素によって囲繞され且つ該ゲート要素を含まない閉領域を経時的に検出する閉領域検出手段と、該閉領域の発生後に該閉領域内で発生する凝固収縮を該閉領域内の該溶融材料充填要素のうち該固相率が低い要素に経時的に対応づける凝固収縮検出手段と、をもつ凝固収縮解析手段と、
をもつ解析手段と、を有する成型シミュレーション手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする成型シミュレーションプログラム。 - 前記凝固収縮解析手段は、前記閉領域内の前記溶融材料充填要素のうち前記固相率が低い順に前記凝固収縮を対応づける手段である請求項9に記載の成型シミュレーションプログラム。
- 前記凝固収縮解析手段は、前記固相率が同じ前記溶融材料充填要素に対して均等に前記凝固収縮を対応づける手段である請求項10に記載の成型シミュレーションプログラム。
- 前記凝固収縮解析手段は、前記固相率が同じ前記溶融材料充填要素に対して、重力に対して上方から順に前記凝固収縮を対応づける手段である請求項10に記載の成型シミュレーションプログラム。
- 溶融した材料の成型に用い、該溶融材料を導入するゲートをもつ型の形状を座標系上に位置づけ、該座標系の空間を複数の微小要素に分割する要素作成手段と、
該微小要素のそれぞれについて、該型の型領域に位置する場合には型要素と、該型のキャビティ領域に位置する場合にはキャビティ要素と、該ゲートに位置する場合にはゲート要素と定義する要素定義手段と、
をもつ前処理手段と、
該キャビティ要素のそれぞれについて、該溶融材料の充填解析を経時的に行う充填解析手段と、
該溶融材料が充填された該キャビティ要素である溶融材料充填要素について、それぞれの該溶融材料充填要素間、及び該鋳造型最表面と該最表面に接する該溶融材料充填要素との間、の伝熱を経時的に解析して、それぞれの該溶融材料充填要素の温度を経時的に算出する伝熱解析手段と、算出されたそれぞれの該溶融材料充填要素の温度に応じて、それぞれの該溶融材料充填要素内の該溶融材料の固相率を経時的に算出する固相率算出手段と、をもつ凝固解析手段と、
該固相率が100%未満であるそれぞれの該溶融材料充填要素について、該固相率が100%未満である該溶融材料充填要素以外の該微小要素によって囲繞され且つ該ゲート要素を含まない閉領域を経時的に検出する閉領域検出手段と、該閉領域の発生後に該閉領域内で発生する凝固収縮を該閉領域内の該溶融材料充填要素のうち該固相率が低い要素に経時的に対応づける凝固収縮検出手段と、をもつ凝固収縮解析手段と、
をもつ解析手段と、を有する成型シミュレーション手段としてコンピュータを機能させることを特徴とする成型シミュレーションプログラムを記録したコンピュータ読みとり可能な記録媒体。
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