以下、本発明の実施の形態によるディスクブレーキを、例えば二輪車用のディスクブレーキに適用した場合を例に挙げて詳細に説明する。
ここで、図1ないし図13は本発明の第1の実施の形態を示している。図中、1は車両の非回転部分(図示せず)に一体的に取付けられる取付部材で、該取付部材1は、例えばアルミダイキャスト等の鋳造手段を用いて形成され、車輪と共に回転するディスクDの近傍、周囲に設置されるものである。この場合、ディスクDは、例えば車両が前進するときに正方向(図1、図2中の矢示A方向)に回転し、車両が後進するときには矢示A方向とは逆方向に回転する。
そして、取付部材1は、図1〜図5に示す如く、例えばディスクDのアウタ側に位置して車体に取付けられるアウタ配置部1Aと、後述のキャリパ5を挟んだ両側の位置で該アウタ配置部1Aに設けられ後述するキャリパ5の腕部5D,5Eが取付けられる複数(例えば2個)のボス部1B,1Cと、アウタ配置部1AからディスクDの外周側を軸方向に跨いでインナ側へと延びたインナ配置部1Dと、後述のトルク受部2,パッドガイド溝3、突出部4とを含んで構成されている。
また、取付部材1のアウタ配置部1Aとインナ配置部1Dとには、パッドガイド溝3の近傍に位置して後述のパッドガイドスプリング17(各掛止め爪部17H)が係止される突起状の係止部1E(図2、図13参照)がそれぞれ設けられている。
2,2は取付部材1のアウタ配置部1Aとインナ配置部1Dとにそれぞれ設けられたインナ側,アウタ側のトルク受部で、該各トルク受部2は、図1、図2にそれぞれ示すようにディスクDの径方向内側から外側に向けてほぼ垂直に立上る壁面部として形成され、後述する摩擦パッド11(裏金13)の耳部15とディスクDの回転方向で対面する位置に配設されている。そして、インナ側,アウタ側のトルク受部2は、ディスクDが正方向(図1、図2中の矢示A方向)に回転している状態でブレーキ操作が行われたときに、後述する摩擦パッド11の耳部15と当接して制動トルクを受承するものである。
3,3は取付部材1に設けられた一対のパッドガイド溝で、該各パッドガイド溝3は、図1〜図5に示す如く取付部材1のアウタ配置部1Aとインナ配置部1Dとにそれぞれ設けられ、ディスクDを挟んだ軸方向の両側位置に配置されるものである。即ち、各パッドガイド溝3は、インナ側,アウタ側のトルク受部2と後述の各突出部4との間に位置する凹溝として形成され、ディスクDの径方向外側に向けて開口している。そして、各パッドガイド溝3は、ディスクDの軸方向に延び、これにより、後述の各摩擦パッド11をディスクDの軸方向に案内するものである。
4,4は取付部材1に設けられディスクDの回転方向に突出した一対の突出部で、該各突出部4は、図1〜図5に示す如く、取付部材1のアウタ配置部1Aとインナ配置部1Dとにそれぞれ設けられ、前述した各トルク受部2、各パッドガイド溝3と同様にディスクDを挟んだ軸方向の両側位置に配置されている。そして、突出部4は、トルク受部2の下端側(ディスクDの半径方向内側位置)からディスクDの回転方向(矢示A方向とは逆向き)に突出し、その外形状は略V字状をなしている。
また、突出部4の基端側は、ディスクDの回転方向でパッドガイド溝3を挟むようにトルク受部2と対向配置され、突出部4の基端側とトルク受部2との間には、パッドガイド溝3がコ字状の凹溝を切欠くようにして形成されている。そして、突出部4の基端側端面は、パッドガイド溝3の周壁面であるトルク受面4Aとなり、このトルク受面4Aは、ディスクDが逆方向(図1、図2中の矢示A方向とは逆向き)に回転している状態でブレーキ操作が行われたときに、後述する摩擦パッド11の耳部15(内側突起15B)と当接して制動トルクを受承するものである。
ここで、略V字状をなす突出部4は、ディスクDの半径方向外側寄りの面が斜め下向きに傾斜する傾斜面4B(図10参照)となり、この傾斜面4Bは、後述するパッドガイドスプリング17の延設板部17Eが当接する当接面を構成している。また、突出部4のうちディスクDの半径方向内側寄りの面(傾斜面4Bの背面)側には、図10に示すように略L字状の切欠き4Cが形成され、この切欠き4Cは、後述するパッドガイドスプリング17の折返し板部17Fが係止される係止面を構成するものである。
さらに、取付部材1の各突出部4は、取付部材1のアウタ配置部1Aとインナ配置部1Dとにそれぞれ配置され、各突出部4には傾斜面4Bと切欠き4Cとが形成されている。そして、各突出部4の傾斜面4Bは、後述するパッドガイドスプリング17の延設板部17Eを介して摩擦パッド11(裏金13)の内径部13AをディスクDの径方向内側から面接触状態で支持するものである。
5は取付部材1に摺動可能に支持されたキャリパで、該キャリパ5は、図1〜図5に示す如く、ディスクDのアウタ側に配置されたアウタ脚部としてのシリンダ部5Aと、該シリンダ部5AからディスクDの外周側を跨いでインナ側に延びたブリッジ部5Bと、該ブリッジ部5Bの先端側からディスクDの径方向内側に向けて二又状に延びたインナ脚部としての爪部5C等とにより構成されている。
また、キャリパ5には、シリンダ部5Aの外周側から径方向外側に向けて突設され互いに逆向きとなる方向に延びた例えば2本の腕部5D,5Eと、シリンダ部5A,爪部5CからディスクDの回転方向(矢示A方向とは逆向き)にそれぞれ延びて形成され、ディスクDを挟んだ軸方向で互いに対向する位置に配置された一対のパッド支持部5F,5G等とにより構成されている。
ここで、シリンダ部5A内には、図4に示すようにディスクDに対して垂直な方向に開口するシリンダ穴6が形成され、このシリンダ穴6内にはピストン7が摺動可能に挿嵌されている。また、ブリッジ部5Bの径方向内側には、後述のパッド押えばね18が装着されるばね装着溝5Hが設けられている。また、キャリパ5は、腕部5D,5Eが後述の摺動ピン8,10等によってディスクDの軸方向に移動可能に支持されている。
そして、キャリパ5のシリンダ穴6内にブレーキ液が供給されたときには、ピストン7がシリンダ穴6内で摺動変位し、このピストン7によってアウタ側の摩擦パッド11がディスクDに押圧される。この結果、キャリパ5は、ピストン7からの反力によってアウタ側に摺動変位するので、その爪部5Cによってインナ側の摩擦パッド11がディスクDに押圧される。
8は取付部材1のボス部1Bに螺着されたボルト等からなる摺動ピンで、該摺動ピン8の外周側には、図4に示す如くスリーブ9が固定して設けられている。そして、摺動ピン8は、スリーブ9と共にキャリパ5の腕部5Dが摺動可能に挿通されている。また、10は取付部材1のボス部1Cに螺着された他の摺動ピンで、該摺動ピン10の外周側には、スリーブ(図示せず)等を介してキャリパ5の腕部5Eが摺動可能に挿通されている。
そして、各摺動ピン8,10は、互いに異なる位置でキャリパ5をディスクDの軸方向に移動可能に支持するものである。ところで、例えば摩擦パッド11の取付け、交換、点検作業等を行うときに、キャリパ5は、図13に示すように摩擦パッド11から離れた所定の位置(パッド交換用位置)に移動される。このとき、キャリパ5は、一方の摺動ピン8と後述の支持ピン16等とを取外した状態で、図13に示すパッド交換位置まで他方の摺動ピン10を中心として回動されるものである。
11,11はディスクDのアウタ側とインナ側とにそれぞれ配置された一対の摩擦パッドで、該各摩擦パッド11は、図4に示すようにディスクDの表面に摩擦力をもって接触するライニング12と、該ライニング12の裏面に固着され、その長さ方向(ディスクの回転方向)両側に後述の支持腕部14と耳部15とが一体形成された裏金13とにより構成されている。また、摩擦パッド11の裏金13には、その裏面を部分的に覆うように後述のシム板19が着脱可能に設けられている。
ここで、摩擦パッド11の裏金13は、高い剛性をもった金属板により図1〜図5等に示すように、ディスクDの周方向(回転方向)に延びる略扇形状の板体として形成されている。そして、裏金13は、ディスクDの径方向内側寄りに位置する内径部13Aと、ディスクDの径方向外側寄りに位置する外径部13Bとを有し、該外径部13Bの長さ方向中間部には、後述のパッド押えばね18が係合されるばね係合部13C(図10〜図13参照)が突設されている。
また、裏金13の内径部13Aは、例えば図12に示すように長さ方向両側部が、取付部材1の突出部4(傾斜面4B)に対応して斜め下向きに傾斜した形状に形成されている。そして、裏金13の内径部13Aは、後述するパッドガイドスプリング17の延設板部17Eを介して突出部4の傾斜面4B上に摺動可能に装着(配置)されるものである。また、摩擦パッド11の裏金13には、長さ方向(ディスクDの回転方向の一方側)に後述の耳部15が設けられ、他方側となる位置には後述の支持腕部14が設けられている。
14は裏金13の長さ方向他方側に一体に設けられた支持腕部で、該支持腕部14は、ディスクDが正方向に回転するときの回転方向入口側(以下、回転方向入口側という)に位置し、この位置で裏金13から斜めに外向きに突出している。また、支持腕部14の先端側には、ディスクDの略周方向に延びる挿通穴としての長穴14Aが設けられ、該長穴14A内には、後述の支持ピン16(ガイドピン)が隙間をもって挿通されている。そして、摩擦パッド11の支持腕部14側は、キャリパ5により支持ピン16等を介してディスクDの回転方向と軸方向とに移動可能な状態で支持される。
15は裏金13の長さ方向一方側に一体に設けられた突部としての耳部で、該耳部15は、ディスクDが正方向に回転するときの回転方向出口側(以下、回転方向出口側という)に位置して裏金13に一体形成され、全体として略T字形状をなしている。そして、耳部15は、ディスクDの回転方向に突出した端面が取付部材1のトルク受部2に当接する当接面15Aとなっている。また、耳部15には、当接面15Aに沿ってディスクDの径方向内側と外側とに突出する内側突起15Bと外側突起15Cとが一体に形成されている。
そして、耳部15の内側突起15Bは、後述するパッドガイドスプリング17の案内板部17Dを介して取付部材1のパッドガイド溝3内に挿入され、該パッドガイド溝3に沿ってディスクDの軸方向に摺動変位するものである。また、耳部15の外側突起15Cには、パッドガイドスプリング17のパッド保持部17Cが係合した状態で取付けられている。そして、耳部15は、このパッド保持部17Cによりパッドガイド溝3内に向けて(即ち、図1、図2に示すディスクDの径方向外側から内側に向けて)弾性的に付勢されるものである。
16はキャリパ5のパッド支持部5F,5G間に取付けられたガイドピンとしての支持ピンで、該支持ピン16は、図5に示す如く両端側がキャリパ5のパッド支持部5Fとパッド支持部5Gとに固定され、長さ方向中間部の外周側には、摩擦パッド11の支持腕部14が長穴14Aを介してディスクの回転方向及び軸方向に移動可能に挿通されている。
ここで、車両の走行中にブレーキ操作が行われると、摩擦パッド11は、正方向に回転するディスクDと摺接し、これによってディスクDから正方向の大きな制動トルクを受ける。このとき、キャリパ5は、支持ピン16等を介して摩擦パッド11を移動可能に支持しているので、摩擦パッド11に加わる制動トルクはキャリパ5に付加されることなく、耳部15の当接面15A全体を介して取付部材1のトルク受部2に伝達され、該トルク受部2側で制動トルクが受承される。
また、例えば二輪車等の車両が後進方向に動いている途中でブレーキ操作したときには、ディスクDが矢示A方向とは逆方向に回転しているため、摩擦パッド11は、ディスクDから逆方向の比較的小さな制動トルクを受ける。そして、この制動トルクは、耳部15の内側突起15Bを介して取付部材1の突出部4(トルク受面4A)に伝達され、該トルク受面4A側で受承される。
17は取付部材1のパッドガイド溝3等に装着して設けられたガイド部材としてのパッドガイドスプリングである。このパッドガイドスプリング17は、例えば弾性(ばね性)を有する金属板等を図6〜図9に示す如く折曲げることにより一体物として形成されている。そして、パッドガイドスプリング17は、各摩擦パッド11の耳部15を取付部材1の各パッドガイド溝3に沿って軸方向に案内するものである。
ここで、パッドガイドスプリング17は、図6に示すように左,右(ディスクDの軸方向)に離間して上,下方向(ディスクDの径方向)に延びる一対の平板部17A,17Aと、左,右方向に延びて該各平板部17Aの上端側を一体に連結すると共に平板部17Aに対して前側(ディスクDの回転方向)へと延びるようにL字状に折曲げられた連結板部17Bと、該連結板部17Bの先端側に位置して該連結板部17Bと共に耳部15の外側突起15Cを取囲むように略「J」字状に屈曲して形成された左,右一対のパッド保持部17C,17Cとを有している。
さらに、パッドガイドスプリング17は、前記各平板部17Aの下端側を例えばクランク状に折曲げることにより形成され前記アウタ側とインナ側の各パッドガイド溝3内にそれぞれ個別に嵌合される左,右一対の案内板部17Dと、該各案内板部17Dの先端側からディスクDの回転方向(図1中の矢示A方向とは逆向き)に延びて形成された左,右一対の延設板部17Eと、後述の折返し板部17F等とを含んで構成されている。
この場合、パッドガイドスプリング17は、各平板部17Aの上端側に位置する連結板部17Bおよびパッド保持部17C等がディスクDの径方向外側(径方向一側)となる位置に配置される。そして、パッドガイドスプリング17のうちディスクDの径方向内側(他側)寄りに位置する他側部位とは、各案内板部17D、延設板部17Eおよび折返し板部17Fにより構成されるものである。
また、パッドガイドスプリング17の各案内板部17Dに一体形成された各延設板部17Eは、図10に例示する如く略V字状をなした突出部4のうち、斜め下向きに傾斜した傾斜面4Bを上側から覆うように該傾斜面4Bに沿って延びると共に、この傾斜面4Bに密着するように当接される。また、各延設板部17Eの先端側には、略V字状または略く字状に折返されると共に、その自由端(先端)を略U字状に巻込むようにカール加工等が施された左,右一対の折返し板部17F(押圧部)が設けられている。
この場合、該各折返し板部17Fは、ディスクDの径方向内側寄りに位置する他側部位(例えば、パッドガイドスプリング17の案内板部17D、延設板部17E等)が取付部材1のパッドガイド溝3、突出部4に密着するように弾性的な押圧力を発生させる押圧部を構成するものである。即ち、パッドガイドスプリング17の折返し板部17Fは、図11、図12等に示す如く延設板部17Eとの間で取付部材1の突出部4を挟むように、先端側(自由端側)が突出部4の切欠き4Cに弾性的に撓み変形した状態で係止される。
このときに、パッドガイドスプリング17の折返し板部17Fは、突出部4の切欠き4CをディスクDの径方向外側に向けて押圧し、延設板部17Eが突出部4の傾斜面4Bに密着(強く当接)するような弾性的な挟持力を発生する。これによって、パッドガイドスプリング17の延設板部17Eと折返し板部17Fとは、取付部材1の突出部4をディスクDの径方向内側と外側とから挟持し、パッドガイドスプリング17の他側部位(例えば、案内板部17D、延設板部17E等)を取付部材1の突出部4のトルク受面4A、傾斜面4B等に密着した状態に保持するものである。
また、パッドガイドスプリング17の各延設板部17Eには、図6、図7に示すように斜め下向きに傾斜した案内片部17Gが一体に形成されている。そして、該各案内片部17Gは、摩擦パッド11をパッドガイドスプリング17内に装着するときに、例えば裏金13の内径部13A側を延設板部17E上に滑らかに案内するものである。
また、パッドガイドスプリング17の各平板部17Aには、図6、図7に示すように左,右方向の外側に位置し後方へと略L字状をなして折曲げられた掛止め爪部17Hが一体形成されている。そして、該各掛止め爪部17Hは、図10、図11に示すようにパッドガイドスプリング17を取付部材1のトルク受部2側に取付けるときに、取付部材1の各係止部1Eに掛止めされ、取付部材1に対するパッドガイドスプリング17の脱落防止を図るものである。
そして、このようにパッドガイドスプリング17を取付部材1のトルク受部2側に取付けた状態で、各案内板部17Dは、アウタ側とインナ側の摩擦パッド11の耳部15(内側突起15B)をパッドガイド溝3内で弾性的に支持し、各摩擦パッド11をパッドガイド溝3に沿ってディスクDの軸方向に円滑に変位させるものである。
また、パッドガイドスプリング17の各パッド保持部17Cは、摩擦パッド11の耳部15を挟んで案内板部17Dとは反対側(ディスクDの径方向外側)に配置され、この位置で径方向外側から外側突起15Cに弾性的に係合している。そして、パッド保持部17Cは、耳部15をディスクDの径方向外側から内側に向けてパッドガイド溝3内に押付けるように付勢し、径方向内側の内側突起15Bをパッドガイド溝3内に抜止めしている。
これにより、パッドガイドスプリング17のパッド保持部17Cは、図13に示す如くキャリパ5がパッド交換用位置まで移動(回動)されたときに、取付部材1に組付けられた摩擦パッド11を所定の組付位置に保持し、この状態で摩擦パッド11が取付部材1から脱落するのを防止するものである。
18は摩擦パッド11用のパッド押えばねで、該パッド押えばね18は、図4に示す如くキャリパ5のばね装着溝5H内に設けられている。そして、パッド押えばね18は、裏金13のばね係合部13C(図10〜図13参照)に係合し、摩擦パッド11を径方向内側及び回転方向出口側に向けて付勢することにより、摩擦パッド11のがたつき等を抑えるものである。
19は摩擦パッド11に設けられたシム板で、該シム板19は、図5、図10〜図13に示すように裏金13の裏面側に着脱可能に取付けられている。そして、シム板19は、摩擦パッド11の裏金13がキャリパ5の爪部5C等に直に接触するのを防止し、所謂ブレーキ鳴きの発生を抑えるものである。
本実施の形態によるディスクブレーキは、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
まず、車両の走行中にブレーキ操作が行われると、キャリパ5のシリンダ穴6内にブレーキ液圧が供給され、ピストン7がシリンダ穴6内でディスクに向けて摺動変位する。これにより、各摩擦パッド11は、ピストン7とキャリパ5の爪部5Cとによって押圧され、耳部15がパッドガイドスプリング17の案内板部17D内で摺動することにより、ディスクDに向けて軸方向に移動し、各摩擦パッド11のライニング12がディスクDの両面に押付けられる。
このとき、各摩擦パッド11は、正方向に回転するディスクDに引摺られて同方向の制動トルクを受ける。しかし、取付部材1のトルク受部2は、この制動トルクを裏金13の耳部15を介して安定的に受承することができ、これによってディスクDに十分な制動力を付与することができる。
また、二輪車等の車両においては、例えば運転者が車両を押して後進方向に動かしつつ、ブレーキ操作を行うことがある。このとき、各摩擦パッド11は、矢示A方向とは逆向きに回転しているディスクDに引摺られ、逆方向の比較的小さな制動トルクを受ける。しかし、この場合には、突出部4のトルク受面4Aが耳部15の内側突起15Bを介して制動トルクを確実に受承することができ、車輪の逆回転時にもディスクDに安定した制動力を付与することができる。
また、取付部材1の各突出部4に設けられた傾斜面4Bは、突出部4と共に取付部材1のアウタ配置部1Aとインナ配置部1Dとにそれぞれ配置され、パッドガイドスプリング17の延設板部17Eを介して摩擦パッド11(裏金13)の内径部13AをディスクDの径方向内側から面接触状態で支持する構成となっている。
ここで、摩擦パッド11には、例えばパッドガイド溝3の深さ方向(図1中の上,下方向)に沿って振動、衝撃等の外力Fが加わることがあり、特に車両のエンジンによる振動等により摩擦パッド11が大きな外力を受ける場合がある。そして、このような場合に、突出部4の傾斜面4Bは、斜めに傾斜した状態で摩擦パッド11の裏金13を支持することにより、この外力を、突出部4の傾斜面4Bに沿った方向と、突出部4の傾斜面4Bと垂直な方向とに分散して受承することができる。
これにより、突出部4の傾斜面4Bは、取付部材1に加わる衝撃を緩和できると共に、取付部材1から摩擦パッド11に加えられる反力も2方向に分散させることができ、取付部材1と摩擦パッド11を共に保護して部品の寿命を延ばすことができる。また、この状態では、パッドガイドスプリング17のパッド保持部17Cとパッド押えばね18(図4参照)とによって、摩擦パッド11の裏金13が突出部4の傾斜面4Bに押え付けられているため、パッドのがたつき等を抑えて高い耐振性を得ることができる。
また、突出部4の傾斜面4Bは、ディスクDの回転方向に対して斜めに形成されるため、これを回転方向に沿って延ばした場合と比較してディスクDの径方向に加わる外力(制動トルク等)の受承面積を大きくすることができ、受承部位に加わる圧力(面圧)を小さくして耐久性を高めることができる。
さらに、突出部4の傾斜面4Bは、パッドガイドスプリング17の延設板部17Eを介して摩擦パッド11の裏金13を常に支持することができ、摩擦パッド11のがたつき等を抑えることができる。これにより、例えば摩擦パッド11の耳部15とトルク受部2、トルク受面4Aとの間の隙間でクロンク音等の騒音が発生するのを防止することができる。
一方、例えば摩擦パッド11の取付け、交換、点検作業等を行うときには、まず摺動ピン8、支持ピン16等を取外した後に、図13に示す如く他の摺動ピン10を中心としてキャリパ5を回動させることにより、キャリパ5をパッド交換用位置に移動させる。そして、例えばパッド交換等が完了したときには、摺動ピン10を中心としてキャリパ5を逆向きに回動し、再び摺動ピン8と支持ピン16を取付けることにより、キャリパ5を図1等に示す取付位置に戻すことができる。
このように、一方の摺動ピン8と支持ピン16との取外し、取付け作業を行うだけで、キャリパ5をパッド交換用位置に移動させたり、これを通常の取付位置に戻したりして固定することができ、作業効率を高めることができる。そして、キャリパ5をパッド交換用位置に移動したときには、図13に示すように各摩擦パッド11が、パッドガイドスプリング17のパッド保持部17Cにより所定の組付位置に保持されるために、摩擦パッド11が取付部材1から脱落するのを防止でき、摩擦パッド11の交換、点検作業等を円滑に行うことができる。
ところで、摩擦パッド11の交換作業時に、交換対象の摩擦パッド11を取付部材1のパッドガイド溝3から一旦取外した段階で、パッドガイドスプリング17の他側部位(例えば、延設板部17E)が取付部材1の突出部4(傾斜面4B)から浮上がるような変位(挙動)を起こすと、新しい摩擦パッド11の耳部15側を取付部材1のパッドガイド溝3内に装着しようとするときに、パッドガイドスプリング17の延設板部17Eが摩擦パッド11(裏金13)の内径部13A等に引っ掛り、摩擦パッド11の装着作業性が低下する可能性がある。
そこで、本実施の形態によれば、パッドガイドスプリング17のうちディスクDの径方向内側に位置する他側部位を、各平板部17Aの下端側を例えばクランク状に折曲げることにより形成されアウタ側とインナ側のパッドガイド溝3内にそれぞれ嵌合される左,右一対の案内板部17Dと、該各案内板部17Dの先端側からディスクDの回転方向(図1中の矢示A方向とは逆向き)に延びて形成された左,右一対の延設板部17Eと、該各延設板部17Eの先端側を略V字状または略く字状に折返すことにより形成され自由端(先端)を略U字状に巻込むようにカール加工等が施された左,右一対の折返し板部17Fとにより構成している。
そして、パッドガイドスプリング17の各延設板部17Eは、図10〜図12に示す如く略V字状をなした突出部4のうち、斜め下向きに傾斜した傾斜面4Bを上側から覆うように該傾斜面4Bに沿って延びている。また、パッドガイドスプリング17の折返し板部17Fは、延設板部17Eとの間で取付部材1の突出部4を挟むように、先端側(自由端側)が突出部4の切欠き4Cに弾性的に撓み変形した状態で係止される構成としている。
このため、パッドガイドスプリング17の折返し板部17Fは、突出部4の切欠き4CをディスクDの径方向外側に向けて押圧し、延設板部17Eが突出部4の傾斜面4Bに密着(強く当接)するような弾性的な挟持力を発生することができる。これによって、パッドガイドスプリング17の延設板部17Eと折返し板部17Fとは、取付部材1の突出部4をディスクDの径方向内側と外側とから挟持することができ、パッドガイドスプリング17の延設板部17E等を取付部材1(突出部4)の傾斜面4B等に密着した状態に保つことができる。
この結果、例えば摩擦パッド11の交換作業等を行うために、摩擦パッド11を取付部材1から一旦取外したときにも、パッドガイドスプリング17の延設板部17E等を取付部材1の傾斜面4B等に密着した状態に保つことができる。そして、新しい摩擦パッド11の耳部15を取付部材1のパッドガイド溝3内に装着しようとするときに、パッドガイドスプリング17の延設板部17Eが摩擦パッド11(裏金13)の内径部13A等に引っ掛るような不具合をなくすことができ、摩擦パッド11の装着作業性を向上することができる。
また、本実施の形態では、摩擦パッド11の回転方向入口側の部位に、キャリパ5により支持ピン16を介して移動可能に支持される支持腕部14を設け、回転方向出口側の部位には、取付部材1のトルク受部2,トルク受面4Aに制動トルクを伝達する耳部15を設ける構成としている。これにより、ディスクDから摩擦パッド11に加わる制動トルクを、耳部15によってトルク受部2,トルク受面4Aへと確実に伝達することができ、ディスクDに安定した制動力を付与することができる。
また、摩擦パッド11の回転方向入口側をキャリパ5によって移動可能に支持したので、摩擦パッド11の長さ方向両側を取付部材1とキャリパ5とによって安定的に支持でき、この状態で摩擦パッド11は、ディスクDからの制動トルクによってキャリパ5に対し移動することができる。これにより、制動トルクが摩擦パッド11を介してキャリパ5に伝わり、キャリパ5がディスクDの軸線に対して傾くように位置ずれするのを規制でき、摩擦パッド11とディスクDとの間の摺接状態(面圧)を均等化することができる。
また、摩擦パッド11の耳部15を略T字状に形成したので、該耳部15の内側突起15Bをパッドガイドスプリング17の案内板部17Dを介してパッドガイド溝3内に配設でき、ブレーキの作動時、解除時には、摩擦パッド11をパッドガイド溝3に沿って円滑に変位させることができる。
そして、ディスクDが正方向または逆方向の何れに回転する場合でも、ブレーキの作動時には、内側突起15Bをパッドガイド溝3の周壁(トルク受部2,トルク受面4Aの何れか)に当接させることができる。これにより、例えば車両の前進中にブレーキが作動したときには、正方向に回転するディスクからの制動トルクを、トルク受部2によって安定的に受承することができる。また、車両の後進中にブレーキ操作を行うときには、逆方向に回転するディスクからの制動トルクを、突出部4のトルク受面4Aにより受承することができる。
このように、摩擦パッド11の裏金13に設けた単一の耳部15により2方向の制動トルクを取付部材1側に伝達でき、例えば制動トルクの方向毎に異なる突部等を設ける必要がないから、取付部材1や摩擦パッド11の形状を簡略化することができ、これらを小型、軽量化することができる。
しかも、耳部15の外側突起15C側には、パッドガイドスプリング17のパッド保持部17Cを容易に係合させて取付けることができる。これにより、摩擦パッド11にパッド保持部17Cの取付部位を容易に確保することができ、このパッド保持部17Cにより摩擦パッド11の耳部15をパッドガイド溝3内に抜止めして保持することができる。そして、図13に示すようにキャリパ5が摩擦パッド11から離れた状態でも、パッド保持部17Cとパッドガイド溝3とによって摩擦パッド11を安定的に保持することができる。
なお、前記実施の形態では、摩擦パッド11の裏金13に略T字状の耳部15を設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、摩擦パッドの裏金に設ける耳部を、例えばコ字形状または凸形状をなす突部として形成する構成としてもよい。
また、前記実施の形態では、摩擦パッド11の交換時等にキャリパ5を摺動ピン10の周囲で回動させる構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば摺動ピン8,10の両方を抜取ることにより、キャリパ5を取付部材1から取外して摩擦パッド11から離れた位置に移動させる構成としてもよいものである。
さらに、前記実施の形態では、二輪車用のディスクブレーキを例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば4輪自動車等の車両に搭載されるディスクブレーキに適用してもよいものである。