図1は本発明の関連技術に係る印刷装置1の外観を示す斜視図である。印刷装置1は、例えばフィルム等の撥液性を有するシート状の基材9上にインクジェット方式にてカラー印刷を行うものである。
図1の印刷装置1は本体11および制御部4を備え、本体11はシート状の基材9を図1中のY方向(以下、「走査方向」ともいう。)に移動する搬送部27、および、搬送部27による移動途上の基材9に向けてインクの微小液滴を吐出する吐出部3を備える。搬送部27では、それぞれが図1中のX方向に長い複数のローラ271がY方向に配列されており、複数のローラ271の(+Y)側にはロール状の基材9(供給ロール)を保持する供給部272が設けられ、複数のローラ271の(−Y)側にはロール状の基材9(巻取ロール)を保持する巻取部273が設けられる。以下の説明では、単に基材9という場合は搬送途上の部位(すなわち、複数のローラ271上の基材9の部位)を指すものとする。
搬送部27の1つのローラ271aには基材9の走査方向の移動速度を検出するエンコーダ29が設けられ、制御部4がエンコーダ29の出力に基づいて巻取部273のモータの回転を制御することにより、基材9が(−Y)方向に一定速度にて移動する。実際には、供給部272が有するモータにて基材9に対して移動方向とは逆向き(すなわち、(+Y)方向)の負荷(テンション)を付与することにより、複数のローラ271上の基材9が波打つことなく滑らかに移動する。
複数のローラ271の上方(図1中の(+Z)側)には吐出部3が配置され、吐出部3は複数のローラ271を跨ぐようにして基台20に設けられるフレーム25に固定される。フレーム25上には紫外線を出射する光源39が設けられ、複数の光ファイバ(実際には、複数の光ファイバは束状となっており、図1では符号391を付して1本の太線にて示している。)を介して光源39からの光が吐出部3の内部へと導入される。
図2は吐出部3の底面図である。図2に示すように、吐出部3はそれぞれが互いに異なる色のインクを吐出する複数の(図2では、4個の)ヘッドユニット33を備え、複数のヘッドユニット33はY方向に配列されて吐出部3の本体30に固定される。図2中の最も(+Y)側のヘッドユニット33はK(ブラック)の色のインクを吐出し、Kのヘッドユニット33の(−Y)側のヘッドユニット33はC(シアン)の色のインクを吐出し、Cのヘッドユニット33の(−Y)側のヘッドユニット33はM(マゼンタ)の色のインクを吐出し、最も(−Y)側のヘッドユニット33はY(イエロー)の色のインクを吐出する。各色のインクは紫外線硬化剤を含んでおり、紫外線硬化性を有している。なお、吐出部3に、ライトシアン、ライトマゼンタ、ホワイト等の他の色用のヘッドユニットがさらに設けられてもよい。
各ヘッドユニット33では、例えばピエゾ駆動方式の複数のヘッド32が図2中のX方向(Y方向およびZ方向に垂直な方向であり、以下、「幅方向」という。)に千鳥状に配列されており、各ヘッド32の下面((−Z)側の面)には複数の吐出口(一部のヘッド32においてのみ符号321を付す点にて示す。)が幅方向に配列形成される。これにより、ヘッドユニット33の全体では、配列方向である幅方向に多数の吐出口321が一定のピッチにて配列され、基材9上において走査方向の各位置にて、幅方向に一列に並ぶ複数のドットの形成が可能とされる。実際には、各ヘッドユニット33の複数の吐出口321は幅方向に関して基材9上の印刷領域の全体に亘って(ここでは、基材9の幅方向の幅のほぼ全体に亘って)設けられており、基材9が吐出部3の下方を一回通過するのみで基材9への画像の印刷が完了する(いわゆる、ワンパス印刷)。
また、図2の吐出部3には、光源39に接続される光照射部38が複数のヘッドユニット33の(−Y)側に設けられる。光照射部38では、複数の光ファイバがX方向に沿って配列されており、基材9上においてX方向に伸びる線状の領域に光照射部38により紫外線が照射される。
印刷装置1では、各ヘッドユニット33がインク循環機構5(後述の図3参照)に接続されており、インク循環機構5によりインクがヘッドユニット33に供給されるとともに、ヘッドユニット33からインクが回収される。以下の説明では、複数の色のうちの一の色のヘッドユニット33およびインク循環機構5に着目するが、他の色のものも同様の構成となっている。
図3はヘッドユニット33およびインク循環機構5の構成を示す図である。なお、図3では3個のヘッド32を図示しているが、実際のヘッドユニット33には図2のように多数のヘッド32が設けられる。
図3に示すように、ヘッドユニット33は、複数のヘッド32の上方近傍にてインクを貯溜する第1インクタンク34、第1インクタンク34から複数のヘッド32へとインクをそれぞれ導入するインク導入部である複数のインク導入管351、複数のヘッド32の上方にて第1インクタンク34と2段構造にて設けられ、複数のヘッド32からのインクが流入する内部空間を有するマニホールド本体36、並びに、複数のヘッド32とマニホールド本体36とをそれぞれ接続するとともに複数のヘッド32内のインクをマニホールド本体36へと導くインク導出部である複数のインク導出管352を備える。
インク循環機構5は、インクを貯溜する第2インクタンク51を備え、第2インクタンク51は供給ライン52を介してヘッドユニット33の第1インクタンク34に接続されるとともに、回収ライン53、並びに、ヘッドユニット33のマニホールド本体36および複数のインク導出管352を介して複数のヘッド32に接続される。供給ライン52にはポンプ54およびフィルタ521が設けられ、フィルタ521にてインク内の不要物を除去しつつポンプ54により第2インクタンク51内のインクが第1インクタンク34に供給され、第1インクタンク34にてインクが貯溜される。実際には、第2インクタンク51から第1インクタンク34へのインクの供給は断続的に(間欠的に)行われる。第2インクタンク51の内部空間の水平な面における断面積は鉛直方向にほぼ一定となっており(第1インクタンク34において同様)、当該断面積は第1インクタンク34よりも大きくされる。
また、第2インクタンク51には圧力調整機構55が接続されており、圧力調整機構55(の後述する減圧ポンプ)により第2インクタンク51内(の気体)が大気圧より数百ミリバール(mbar)(例えば、300〜500mbar(すなわち、3×104〜5×104パスカル(Pa)))だけ低い圧力(以下、目標とされる第2インクタンク51内の圧力を「設定循環圧力」という。)とされることにより、第1インクタンク34から複数のインク導入管351、複数のヘッド32、複数のインク導出管352、マニホールド本体36および回収ライン53を経由して第2インクタンク51に至る流路(以下、「回収流路」という。)をインクにて満たした状態で、回収流路を介して第1インクタンク34から第2インクタンク51へとインクが連続的に戻される。第2インクタンク51には、バルブ562を有する補充ライン561を介してメインインクタンク56がさらに接続される。なお、圧力調整機構55の構成については後述する。
回収ライン53には、インクの流量を測定するインク流量測定部532、および、インクの流量を調整する流量調整部である流量調整バルブ531が設けられており、流量調整バルブ531の内部の流路である開口(以下、「流路開口」という。)の面積に応じて、第1インクタンク34から第2インクタンク51へのインクの流量が制限される。本実施の形態では、流量調整バルブ531内の流路開口の面積は変更されないため、第1インクタンク34から第2インクタンク51へのインクの流量は第2インクタンク51内の圧力(正確には、第1インクタンク34と第2インクタンク51との圧力差)に主に依存することになる。インク循環機構5では、圧力調整機構55が後述の動作を行うことにより第2インクタンク51内の圧力がほぼ一定に制御されるため、ヘッド32におけるインクの流量が時間的にほぼ一定となる。
第1インクタンク34および第2インクタンク51のそれぞれには、インクの液面の位置(すなわち、インクレベル)を検出するインクレベルセンサ341,511が設けられる。第1インクタンク34および第2インクタンク51のそれぞれでは、所定の設定液面レベル(図3中にて符号L1,L2を付す破線にて示す。)を中央として上限である補充停止レベル、および、下限である補充開始レベルが設定されている。第1インクタンク34では、インクの液面の位置が補充開始レベル以下となると、ポンプ54により第2インクタンク51からインクが補充(供給)され、第2インクタンク51では、インクの液面の位置が補充開始レベル以下となると、メインインクタンク56からインクが補充される。
また、第2インクタンク51にはヒータ512および温度センサ(図示省略)が設けられ、インクを常温よりも高い所定の設定温度(例えば45℃)に加熱してインクの粘度が常温時の粘度よりも低くされる。実際には、ヘッド32にはドライバ回路が設けられており、温度が調整されたインクがヘッド32を通過することにより、ドライバ回路の冷却も行われる。これにより、印刷装置1では、別途冷却機構を設ける場合に比べて、印刷装置の製造コストが削減される。
第1インクタンク34には、ポンプ、圧力調整バルブ、圧力センサ等を有し、第1インクタンク34内(の気体)の圧力が調整可能な補助圧力調整機構37がエアフィルタ371を介して接続されており、補助圧力調整機構37により第1インクタンク34内が大気圧より数mbarだけ低い圧力(設定循環圧力よりも高い圧力であり、以下、目標とされる第1インクタンク34内の圧力を「設定補助圧力」という。)とされる。例えば、ヘッド32の各吐出口におけるインクの圧力を大気圧よりもαmbarだけ低くして、吐出口内にインクのメニスカスを形成する場合に、第1インクタンク34におけるインクの設定液面レベルL1と吐出口との鉛直方向の高さの差(図1中にて符号H1を付す矢印にて示す。)がβセンチメートル(cm)であるときには、印刷装置1にて用いられるインクの比重がほぼ1であるため、第1インクタンク34内の圧力が大気圧より(β+α)mbarだけ低く(すなわち、負圧に)なるように、第1インクタンク34内が補助圧力調整機構37により減圧される。
印刷装置1では、このように第1インクタンク34内が減圧された状態において、各ヘッド32の複数の吐出口におけるインクの圧力が負圧になり、吐出口内にインクのメニスカスが形成されて吐出口からのインクの漏れが防止される。なお、吐出口内にインクのメニスカスが形成される際の吐出口におけるインクの圧力はメニスカス圧とも呼ばれ、補助圧力調整機構37はメニスカスコントローラとも呼ばれる。
以上のように、図3のインク循環機構5では、ポンプ54を駆動することにより第2インクタンク51内のインクが供給ライン52を介してヘッドユニット33の第1インクタンク34に供給されるとともに、第2インクタンク51内を負圧にすることにより回収ライン53を介して第1インクタンク34から第2インクタンク51へとインクが戻される。これにより、第2インクタンク51から供給ライン52、第1インクタンク34、ヘッド32および回収ライン53を経由して第2インクタンク51へと戻る循環経路にてインクの循環を行いつつ、第2インクタンク51内の負圧を利用して、第2インクタンク51内にてインクが効率よく脱気され、ヘッド32内のインクに気泡が存在する場合に発生する吐出不良等、インクの吐出に不具合が生じることが防止される。
図4は圧力調整機構55および第2インクタンク51の近傍の構成を示す図である。圧力調整機構55は、第2インクタンク51内を減圧する減圧機構である減圧ポンプ551、第2インクタンク51内の圧力を測定する圧力センサ552、および、第2インクタンク51内に気体(本実施の形態では空気)を導入する気体導入機構553を有する。気体導入機構553は、一方の端部が第2インクタンク51に接続される気体導入管554、気体導入管554の第2インクタンク51とは反対側の端部に設けられるフィルタ555、気体導入管554に設けられる電磁バルブである気体導入バルブ557、および、気体導入バルブ557とフィルタ555との間に設けられる手動式のバルブ556を有する。気体導入機構553では、手動式のバルブ556を一定の開度(流路開口の面積)としつつ気体導入バルブ557の開閉動作を高速に(例えば、100ヘルツ(Hz)以上500Hz以下)繰り返すことにより、フィルタ555を介して大気を負圧とされる第2インクタンク51内に導入することが可能となっている。
図5は気体導入機構553により第2インクタンク51内に導入される空気の流量と気体導入バルブ557の開閉動作の周波数との関係を示す図である。図5の縦軸は第2インクタンク51内に導入される空気の単位時間当たりの流量(以下、「導入流量」という。)を示し、横軸は気体導入バルブ557の開閉動作の周波数を示している。
印刷装置1では、第2インクタンク51内を一定圧力(負圧)にした状態で、図6の上段および下段に示すように、デューティ比を50%として開閉動作の周波数を変更しつつ第2インクタンク51内に導入される空気の流量を測定することにより、図5に示す空気の導入流量と気体導入バルブ557の開閉動作の周波数との関係が取得される。
図5では第2インクタンク51内を設定循環圧力を含む3通りの圧力に変更した場合に得られる空気の導入流量と気体導入バルブ557の開閉動作の周波数との関係を線711,712,713にて示しており、線711が最も高い圧力(最も低い負圧)に対応し、線713が最も低い圧力(最も高い負圧)に対応する。図5に示すように、第2インクタンク51内を一定圧力とする場合、第2インクタンク51内への空気の導入流量は、気体導入バルブ557の開閉動作の周波数が高くなるに従って少なくなり、気体導入機構553では、気体導入バルブ557の開閉動作の周波数を選択することにより、所望の導入流量にて第2インクタンク51内に空気を導入することが可能となっている。なお、気体導入機構553では手動式のバルブ556の開度が複数通りに変更されてもよく、この場合も、図5中の線711〜713のように、空気の導入流量と気体導入バルブ557の開閉動作の周波数との関係を示す複数の線が縦軸に沿って並ぶ。
印刷装置1における印刷の際には、図4に示す圧力調整機構55の圧力センサ552の測定値、および、インクレベルセンサ341,511の測定値が制御部4に入力され、これらの値に基づいて圧力調整機構55の減圧ポンプ551および気体導入バルブ557、供給ライン52のポンプ54、並びに、補充ライン561のバルブ562等が制御部4により制御される。
次に、印刷装置1における印刷に係る動作について説明する。図7は、印刷装置1における印刷に係る動作の流れを示す図である。
図3の印刷装置1では、圧力調整機構55による第2インクタンク51内の設定循環圧力への減圧、および、ポンプ54による第1インクタンク34へのインクの供給(実際には、第1インクタンク34内のインクの液面の位置に応じて断続的に行われる。)が開始されて循環経路におけるインクの循環が開始され(ステップS11)、インクの循環動作に並行して、図1に示す基材9を走査方向に移動しつつ吐出部3の複数のヘッドユニット33から基材9へのインクの吐出を制御することにより印刷が行われる(ステップS12)。そして、印刷装置1における全ての印刷動作が完了した後、印刷装置1の全体の駆動を停止する際には、圧力調整機構55およびポンプ54が停止されて循環経路におけるインクの循環が停止される(ステップS13)。
実際には、第2インクタンク51内を設定循環圧力としてインクの循環を開始した後において、ステップS12の印刷動作に並行して行われるインクの循環動作では第2インクタンク51内の圧力変動を低減する動作が行われる。図8は第2インクタンク51内の圧力変動を低減する動作の流れを示す図であり、図7のステップS12における印刷動作に並行して行われる処理を示している。なお、インクの循環の開始時に第2インクタンク51内が設定循環圧力とされると、減圧ポンプ551は一旦停止される。
第2インクタンク51内の圧力変動を低減する動作では、まず、図4の制御部4にて減圧ポンプ551のON条件が成立するか否か(すなわち、印刷装置1の状態が減圧ポンプ551のON条件に該当するか否か)が確認される(ステップS21)。
図9は第2インクタンク51から流出するインクの流量、および、第2インクタンク51内に流入するインクの流量を示す図である。図9の上段は第2インクタンク51から第1インクタンク34に流出するインクの単位時間当たりの流量(以下、「流出流量」という。)を示し、中段は第1インクタンク34から第2インクタンク51内に流入するインクの単位時間当たりの流量(以下、「流入流量」という。)を示し、下段は第2インクタンク51内のインクの液面の位置を示している。
ここで、図3の印刷装置1では、第1インクタンク34から第2インクタンク51へとインクが連続的に流れており(すなわち、図9の中段に示すように第2インクタンク51内にインクが連続的に流入し)、第1インクタンク34にてインクの液面の位置が補充開始レベル以下となると、供給ライン52のポンプ54を駆動して第2インクタンク51から第1インクタンク34へのインクの補充が開始され、インクの液面の位置が補充停止レベルに到達するとインクの補充が終了する。また、本動作例では、ポンプ54の駆動が減圧ポンプ551のOFF条件とされ、ポンプ54の停止が減圧ポンプ551のON条件とされる。
したがって、図4の供給ライン52のポンプ54が停止されて、図9の上段に示すように第2インクタンク51からのインクの流出がなくなる時刻T11では、減圧ポンプ551のON条件が成立することが確認され(ステップS22)、減圧ポンプ551の駆動が開始される(すなわち、減圧ポンプ551がONとされる。)(ステップS23)。圧力センサ552では第2インクタンク51内の圧力が常時測定されており、制御部4では、圧力センサ552の測定値に基づいて減圧ポンプ551が制御されることにより、第2インクタンク51内が設定循環圧力にて一定に保たれる。
実際には、第2インクタンク51内の圧力と、設定温度とされるインクの第1インクタンク34から第2インクタンク51内への流入流量との関係が事前に取得されており、第2インクタンク51内へのインクの流入流量が所望の設定流量となる第2インクタンク51内の圧力が設定循環圧力とされている。また、印刷装置1では、設定流量に相当する量の空気が排出可能となる減圧ポンプ551の制御パラメータの値(本実施の形態では減圧ポンプ551が直流モータを有しており、このモータの駆動電圧が1つの制御パラメータとされる。)が駆動開始時における初期値とされる。なお、減圧ポンプ551のON条件が成立しない場合には、後述のステップS27の処理が行われる(ステップS21,S22)。
制御部4では、減圧ポンプ551のOFF条件が成立するか否かが確認される(ステップS24)。第1インクタンク34にてインクの液面の位置が補充開始レベルよりも高い場合にはポンプ54は駆動されないため、この場合、減圧ポンプ551のOFF条件が成立しないとされる(ステップS25)。印刷装置1では、減圧ポンプ551のOFF条件が成立するか否かが所定時間毎に繰り返し確認される(ステップS24,S25)。そして、図9中の時刻T12となり、ポンプ54の駆動が開始されたことが確認されると(図9の上段では、第2インクタンク51からのインクの流出が生じている。)(ステップS24,S25)、減圧ポンプ551が停止される(ステップS26)。
続いて、気体導入機構553のON条件が成立するか否かが確認される(ステップS27)。本動作例では、供給ライン52のポンプ54の駆動が気体導入機構553のON条件とされ、ポンプ54の停止が気体導入機構553のOFF条件とされる。したがって、ポンプ54が駆動される図9中の時刻T12では、気体導入機構553のON条件が成立することが確認され(ステップS28)、気体導入機構553の駆動が開始される(すなわち、気体導入機構553がONとされる。)(ステップS29)。なお、本動作例では、減圧ポンプ551のOFF条件と気体導入機構553のON条件とが一致するため、減圧ポンプ551の停止直後のステップS27の処理では気体導入機構553のON条件が必ず成立する(ステップS21,S22の処理にて減圧ポンプ551のON条件が成立しないとされた場合も同様。)。
図10はポンプ54による第2インクタンク51からのインクの流出流量を示す図である。図10の縦軸は第2インクタンク51からのインクの流出流量を示し、横軸は第1インクタンク34内の圧力と第2インクタンク51内の圧力との差(以下、「インクタンク間の圧力差」という。)を示している。
印刷装置1では、図10に示すように、ポンプ54を一定の条件にて駆動する場合における第2インクタンク51からのインクの流出流量とインクタンク間の圧力差との関係が予め取得されており、第1インクタンク34の設定補助圧力と第2インクタンク51の設定循環圧力との差(大気圧と設定循環圧力との差にほぼ等しい。)を用いて図10の関係を参照することにより、第2インクタンク51からのインクの流出流量(以下、「通常流出流量」という。)が特定される。
また、既述のように、気体導入機構553による第2インクタンク51内への空気の導入流量と気体導入バルブ557の開閉動作の周波数との関係も図5に示すように準備されており、印刷装置1では、通常流出流量から設定流量(すなわち、第1インクタンク34から第2インクタンク51内へのインクの流入流量)を引いた値に等しい空気の導入流量(または、当該値に所定の係数を乗じたものと等しい空気の導入流量。以下同様。)が得られる気体導入バルブ557の開閉動作の周波数が特定され、気体導入機構553の駆動時には、この周波数にて気体導入バルブ557の開閉動作が行われる。これにより、ポンプ54の駆動により第2インクタンク51からインクが流出する間も、第2インクタンク51内がほぼ設定循環圧力にて一定に保たれる。なお、気体導入機構553の駆動時に、第2インクタンク51内の圧力に基づいて気体導入バルブ557の開閉動作の周波数が制御(変更)されてもよい。
実際には、ポンプ54による第2インクタンク51からのインクの流出流量は、第2インクタンク51内の負圧による第1インクタンク34から第2インクタンク51へのインクの流入流量よりも十分に多くなっている。図10に示す第2インクタンク51からのインクの流出流量とインクタンク間の圧力差との関係は、インクタンク間の鉛直方向の距離にも依存するため、仮に、印刷装置1にてインクタンク間の位置関係が変更される場合には、変更後の状態にて第2インクタンク51からのインクの流出流量とインクタンク間の圧力差との関係が取得される。
続いて、制御部4では、気体導入機構553のOFF条件が成立するか否かが確認される(ステップS30)。第1インクタンク34にてインクの液面の位置が補充停止レベルに到達していない場合にはポンプ54は停止されないため、この場合、気体導入機構553のOFF条件が成立しないとされる(ステップS31)。印刷装置1では、気体導入機構553のOFF条件が成立するか否かが所定時間毎に繰り返し確認される(ステップS30,S31)。そして、図9中の時刻T13となり、ポンプ54が停止されたことが確認されると(図9の上段では、第2インクタンク51からのインクの流出が0となっている。)(ステップS30,S31)、気体導入機構553が停止される(ステップS32)。
印刷装置1では、ステップS21に戻って、ポンプ54の停止により減圧ポンプ551のON条件が成立することが確認され(ステップS22)、減圧ポンプ551の駆動が開始される(ステップS23)。そして、圧力センサ552における第2インクタンク51内の圧力の測定値に基づいて減圧ポンプ551が制御されることにより、第2インクタンク51内が設定循環圧力にて一定に保たれる。このようにして、印刷装置1ではステップS21〜S32の処理が繰り返される。
実際には、上記ステップS21〜S32の処理に並行して行われる図7のステップS12における印刷動作により、循環経路の全体におけるインクの量が漸次減少する。そして、図3の第2インクタンク51内のインクの液面の位置が補充開始レベル以下となると、補充ライン561のバルブ562を開放することにより、大気圧とされるメインインクタンク56から、設定循環圧力とされる第2インクタンク51内にインクが補充される。
印刷装置1では第2インクタンク51内の圧力とメインインクタンク56から第2インクタンク51内へのインクの流入流量との関係が予め取得されており、設定循環圧力におけるメインインクタンク56から第2インクタンク51内へのインクの流入流量(以下、「補充流量」という。)が既知となっている。したがって、第2インクタンク51からインクを流出させるポンプ54の駆動中に(すなわち、ステップS29とステップS32との間にて)、メインインクタンク56から第2インクタンク51内へのインクの補充を行う際には、第2インクタンク51からのインクの流出流量(すなわち、通常流出流量)から設定流量と補充流量との和を引いた値に等しい空気の導入流量が得られる周波数(図5に示す関係を用いて特定される。)にて気体導入バルブ557の開閉動作が行われることにより、第2インクタンク51内が設定循環圧力にて一定に保たれる。なお、補充流量は通常流出流量よりも十分に少なくなっており、好ましくは第1インクタンク34から第2インクタンク51内へのインクの流入流量の1/5以下とされ、本実施の形態では、全てのヘッド32における最大のインク消費量(単位時間当たりの消費量)の2倍程度とされる。
また、メインインクタンク56から第2インクタンク51内へのインクの補充中に、ポンプ54が停止される際には(すなわち、気体導入機構553が停止されて減圧ポンプ551が駆動される際には(ステップS30〜S32,S21〜S23))、設定流量と補充流量との和に相当する量の空気が排出可能となる減圧ポンプ551の制御パラメータの初期値を用いつつ、圧力センサ552の測定値に基づいて減圧ポンプ551が制御され、第2インクタンク51内が設定循環圧力にて一定に保たれる。
以上のようにして、印刷装置1では、ポンプ54の停止中における減圧ポンプ551による第2インクタンク51内の減圧(ステップS21〜S26)、および、ポンプ54の駆動中における第2インクタンク51内への空気の導入(ステップS27〜S32)が繰り返し行われ、循環経路におけるインクの循環中に第2インクタンク51内が設定循環圧力にて一定に保たれる。そして、図7のステップS13にてインクの循環が停止されると、第2インクタンク51内の圧力変動を低減する動作も終了する。
ところで、印刷装置1において、第2インクタンク51内を設定循環圧力として第1インクタンク34から第2インクタンク51への連続的なインクの流入を開始した後に、減圧ポンプ551および気体導入機構553を駆動させない比較例の動作の場合、図11中の符号A1を付す矢印の期間では、第1インクタンク34から第2インクタンク51内への連続的なインクの流入により、図11の上段に示すように第2インクタンク51内のインクの液面の位置が上昇し、図11の下段に示すように第2インクタンク51内の圧力が増大する(負圧が低下する。)。また、図11中の符号A2を付す矢印の期間では、ポンプ54の駆動による第2インクタンク51からのインクの流出により、図11の上段に示すように、第2インクタンク51内のインクの液面の位置が低下し、図11の下段に示すように第2インクタンク51内の圧力が低下する(負圧が増大する。)。このように、第2インクタンク51内のインクの液面の位置の変化により、図11の下段にて第2インクタンク51内の圧力を示す線がのこぎり状になり、圧力が大きく変動してしまう。
第2インクタンク51内の圧力が変化すると、第1インクタンク34からヘッド32を経由して第2インクタンク51に至る回収流路におけるインクの流量も変化し、これにより、第1インクタンク34からヘッド32までの圧力損失(例えば、数mbar)が変化して、吐出口におけるインクの圧力が変動する。その結果、吐出口におけるインクのメニスカスの状態が変動して、吐出口に対する基材9上のインクの着弾位置等が変動してしまう。また、印刷装置1の小型化に伴って第2インクタンク51を小さくする場合、第2インクタンク51内の空気容積が減少するため、第2インクタンク51およびヘッド32における圧力変動の幅(極大値と極小値との差)が増大してしまう。
これに対し、印刷装置1では、圧力センサ552にて第2インクタンク51内の圧力を測定しつつ減圧ポンプ551および気体導入機構553を制御することにより、第2インクタンク51内への連続的なインクの流入、および、第2インクタンク51からの断続的なインクの流出による第2インクタンク51内の圧力変動が低減され、回収流路におけるインクの流量変動も低減される。その結果、ヘッド32の吐出口におけるインクの圧力変動を抑制して(例えば、±1mbarの範囲内の圧力変動とされる。)、吐出口に対する基材9上のインクの着弾位置等の変動を抑制することが実現される。
なお、実際には、第1インクタンク34内のインクの液面の位置も補充開始レベルと補充停止レベルとの間にて変動するが、既述のように、第1インクタンク34内の圧力は、メニスカスコントローラである補助圧力調整機構37により一定に保たれる。また、本実施の形態にて用いられるインクの比重はほぼ1とされ、印刷装置1では第1インクタンク34内のインクの液面の位置の変動が±数ミリメートル(mm)の範囲内に調整されることにより、第1インクタンク34内のインクの液面の位置の変動によるヘッド32内のインクの圧力変動の幅は0.数mbar程度となる。したがって、上記手法を用いる場合には、このような圧力変動は問題とはならない。
ここで、気体導入バルブ557を一定時間(ただし、上記動作例における1回の開放時間よりも十分に長い。)開放することにより、第2インクタンク51内に空気を導入することも考えられるが、この場合、第2インクタンク51内への空気の導入流量を高精度に調整することが容易ではない。これに対し、気体導入機構553では、気体導入バルブ557にて開閉動作を高速に繰り返すことにより、第2インクタンク51内への空気の導入流量を高精度に、かつ、容易に調整することができ、第2インクタンク51内の圧力変動を安定して低減することが可能となる。
また、印刷装置1では、ポンプ54により第2インクタンク51から第1インクタンク34へと供給されるインクの流量に従って、気体導入機構553により第2インクタンク51内に導入される空気の流量が決定されることにより、第2インクタンク51内に導入される空気の過不足が生じることを抑制することができ、第2インクタンク51内の圧力変動を精度よく低減することができる。
上記動作例では、第2インクタンク51からインクを流出させるポンプ54の駆動時に減圧ポンプ551の駆動が停止されるが、第1インクタンク34およびメインインクタンク56から第2インクタンク51内へのインクの流入流量と同じ流量の空気(または、流入流量に所定の係数を乗じたものと同じ流量の空気)が減圧ポンプ551により排出されるように、駆動電圧を変更しつつ減圧ポンプ551がインクの循環中に常時駆動されてもよい。この場合、減圧ポンプ551の駆動に並行して図8中のステップS27〜S32の処理が繰り返し行われることとなり、ポンプ54の駆動時には、通常流出流量に等しい空気の導入流量が得られる周波数(図5に示す関係を用いて特定される。)にて気体導入バルブ557の開閉動作が行われる。このように、インクの循環中に減圧ポンプ551を常時駆動する場合には、上記動作例のポンプ54の停止時における減圧ポンプ551の制御の遅れやオーバーシュート等を抑制することが可能となる。
なお、ポンプ54の停止時のみに減圧ポンプ551を駆動する上記動作例において、減圧ポンプ551の駆動開始時の駆動電圧を低くして空気の排出流量を少なくし、その後、駆動電圧を漸次増大して空気の排出流量を滑らかに増大させることにより、減圧ポンプ551の駆動開始時における第2インクタンク51内の圧力のオーバーシュートを抑制することも可能である。
第2インクタンク51内の圧力をほぼ一定に保つ上記動作例では、図3の補助圧力調整機構37において、大きなエアバッファが設けられるとともに、補助圧力調整機構37と第1インクタンク34との間の圧力調整管の直径や、エアフィルタ371のサイズが比較的大きくされることにより、第1インクタンク34内への断続的なインクの流入、および、第1インクタンク34からの連続的なインクの流出による第1インクタンク34内の圧力変動が抑制され(実際には、第1インクタンク34内の圧力がほぼ一定に調整され)、ヘッド32の吐出口におけるインクの圧力が一定とされるが、小型の補助圧力調整機構37(エアバッファ等も小型となる。)を設ける場合には、第1インクタンク34内の圧力を一定に保つことが困難となる。
以下、本発明の一の実施の形態として、小型の補助圧力調整機構37が設けられる印刷装置1において、ヘッド32の吐出口におけるインクの圧力を一定にする動作例について図8を参照して説明する。
本動作例では、設定循環圧力を中央とする第2インクタンク51内の圧力の許容変動範囲が予め設定されており、図4の圧力センサ552による第2インクタンク51内の圧力の測定値が許容変動範囲の上限圧力以上となる状態が減圧ポンプ551のON条件とされ、上限圧力よりも低くなる(実際には上限圧力よりも僅かに低い値以下となる)状態が減圧ポンプ551のOFF条件とされる。また、第2インクタンク51内の圧力の測定値が許容変動範囲の下限圧力以下となる状態が気体導入機構553のON条件とされ、下限圧力よりも高くなる(実際には下限圧力よりも僅かに高い値以上となる)状態が気体導入機構553のOFF条件とされる。
印刷装置1では、減圧ポンプ551のON条件が成立するか否かが確認される(ステップS21)。成立しない場合には(ステップS22)、気体導入機構553のON条件が成立するか否かが確認され(ステップS27)、成立しない場合には(ステップS28)、ステップS21に戻って減圧ポンプ551のON条件が成立するか否かが確認される。このようにして、減圧ポンプ551のON条件、または、減圧ポンプ551のON条件が成立するまで印刷装置1の状態が確認される。
図12は第2インクタンク51内の圧力を示す図である。図12中の符号D21を付す期間では、供給ライン52のポンプ54が停止されており、第2インクタンク51からのインクの流出はなく、第2インクタンク51内への連続的なインクの流入によるインクの液面の位置の上昇に伴って圧力が漸次上昇している。そして、時刻T21にて圧力センサ552による第2インクタンク51内の圧力の測定値が許容変動範囲(図12中に符号R1を付す矢印にて示す。)の上限圧力に到達し、減圧ポンプ551のON条件が成立することが確認されると(ステップS21,S22)、減圧ポンプ551の駆動が開始される(ステップS23)。
このとき、圧力センサ552の測定値、および、第2インクタンク51内へのインクの流入流量(設定流量)に基づいて減圧ポンプ551が制御されることにより、図12中の符号D22を付す期間では実線にて示すように第2インクタンク51内がほぼ上限圧力にて一定に保たれる。図12では、減圧ポンプ551を駆動しない場合における第2インクタンク51内の圧力の変化を破線にて部分的に示しており、図12より、第2インクタンク51内の圧力が許容変動範囲R1よりも高くなる場合に、減圧ポンプ551の駆動により第2インクタンク51内が減圧されていることが判る。
印刷装置1では、減圧ポンプ551のOFF条件が成立するか否かが所定時間毎に繰り返し確認される(ステップS24,S25)。そして、図12中の時刻T22となり第2インクタンク51内の圧力の測定値が上限圧力よりも僅かに低い指定値以下となったことが確認されると(ステップS24,S25)、減圧ポンプ551が停止される(ステップS26)。実際には、供給ライン52のポンプ54を駆動して第2インクタンク51からのインクの流出が始まった直後に(すなわち、第2インクタンク51内のインクの液面の位置が低下し始めた直後に)、第2インクタンク51内の圧力の測定値が指定値以下となる。
図12中の符号D23を付す期間では、第2インクタンク51からのインクの流出、および、第2インクタンク51内へのインクの流入が行われている。この間、上記ステップS27,S28,S21,S22の処理が繰り返され、時刻T23にて第2インクタンク51内の圧力の測定値が許容変動範囲R1の下限圧力に到達し、気体導入機構553のON条件が成立することが確認されると(ステップS27,S28)、気体導入機構553の駆動が開始される(ステップS29)。
このとき、第2インクタンク51からのインクの流出流量(通常流出流量)、および、第2インクタンク51内へのインクの流入流量(設定流量)に基づいて特定される周波数にて気体導入バルブ557の開閉動作が行われることにより、図12中の符号D24を付す期間では実線にて示すように第2インクタンク51内が下限圧力にて一定に保たれる。図12では、気体導入機構553を駆動しない場合における第2インクタンク51内の圧力の変化を破線にて部分的に示しており、図12より、第2インクタンク51内の圧力が許容変動範囲R1よりも低くなる場合に、気体導入機構553の駆動により第2インクタンク51内が加圧されていることが判る。
印刷装置1では、気体導入機構553のOFF条件が成立するか否かが所定時間毎に繰り返し確認される(ステップS30,S31)。そして、図12中の時刻T24となり第2インクタンク51内の圧力の測定値が下限圧力よりも僅かに高い指定値以上となったことが確認されると(ステップS30,S31)、気体導入機構553が停止される(ステップS32)。実際には、ポンプ54を停止して第2インクタンク51からのインクの流出がなくなった直後に(すなわち、第2インクタンク51内のインクの液面の位置が上昇し始めた直後に)、第2インクタンク51内の圧力の測定値が指定値以上となる。
このようにして、ステップS21〜S32の処理を繰り返すことにより、印刷装置1では、第2インクタンク51内の圧力が許容変動範囲R1よりも高くなる場合に、減圧ポンプ551の駆動による第2インクタンク51内からの空気の排出が行われ、第2インクタンク51内の圧力が許容変動範囲R1よりも低くなる場合に、気体導入機構553の駆動による第2インクタンク51内への空気の導入が行われ、第2インクタンク51内の圧力が許容変動範囲R1内にて保たれる。
ところで、上記動作例において、供給ライン52のポンプ54を駆動しない期間(図13中に符号D31を付す矢印にて示す。)では、図13の最上段に示すように、第1インクタンク34内のインクの液面の位置が漸次低下し、ポンプ54を駆動する期間(図13中に符号D32を付す矢印にて示す。)では、第1インクタンク34内のインクの液面の位置が漸次上昇する。
このとき、図3の小型の補助圧力調整機構37により、第1インクタンク34内の減圧、および、第1インクタンク34内への気体(空気)の導入が行われ、第1インクタンク34内を設定補助圧力にて保つための動作が行われるが、実際には、図13の上から2段目にて符号721を付す実線にて示すように、第1インクタンク34内の圧力は設定補助圧力を中央としつつインクの液面の位置の変化に倣って変化する。以下の説明では、第1インクタンク34内の圧力変動の範囲(図13の上から2段目にて符号R2を付す矢印にて示す。)を調整変動範囲という。なお、図13の2段目では、第1インクタンク34から第2インクタンク51への連続的なインクの流入の開始時に第1インクタンク34内を設定補助圧力とした後、仮に補助圧力調整機構37を停止した場合における第1インクタンク34内の圧力の変化を符号722を付す破線にて示している。
ここで、第2インクタンク51内を設定循環圧力として第1インクタンク34から第2インクタンク51への連続的なインクの流入を開始した後に、減圧ポンプ551および気体導入機構553を駆動させない比較例の動作の場合、第1インクタンク34から連続的にインクが流入する第2インクタンク51では、図13の上から3段目および4段目に示すように、ポンプ54が停止している期間D31の全体にてインクの液面の位置および圧力が漸次上昇し、ポンプ54が駆動している期間D32の全体にてインクの液面の位置および圧力が漸次低下する。
第1インクタンク34からヘッド32を経由して第2インクタンク51に至る回収流路におけるインクの流量は、第1インクタンク34と第2インクタンク51との圧力差に依存することにより、図13の上から5段目にて符号731を付す実線にて示すように、ポンプ54が停止している期間D31にてインクの流量が漸次減少し、ポンプ54が駆動している期間D32にてインクの流量が漸次増大する。なお、図13の上から5段目には、図13の2段目にて線722にて示す第1インクタンク34内の圧力変化(補助圧力調整機構37を停止した場合の圧力変化)に対応するインクの流量の変化を符号732を付す破線にて示している。
実際には、図13の5段目にて線731にて示すインクの流量の変化により、第1インクタンク34からヘッド32に至る流路における圧力損失(以下、単に「第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失」という。)も、図13の最下段に示すように、ポンプ54が停止している期間D31にて漸次減少し、ポンプ54が駆動している期間D32にて漸次増大する。
このとき、図13の2段目および最下段に示すように、第1インクタンク34内の圧力が減少する際に、第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失も減少し、第1インクタンク34内の圧力が増大する際に、第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失も増大するため、ヘッド32におけるインクの圧力に着目すると、第1インクタンク34内の圧力と、第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失とは互いに打ち消し合うように(すなわち、ヘッド32内のインクの圧力の変動が低減するように)変化する。
実際には、インクの循環開始後に減圧ポンプ551および気体導入機構553を駆動させない比較例の動作の場合には、インクの流量の変化による第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失の変動幅が第1インクタンク34内の圧力変動の幅よりも大幅に大きくなり、その結果、ヘッド32の吐出口におけるインクの圧力が大きく変動して吐出口に対するインクの着弾位置等の変動が生じてしまう。
よって、図8を参照して説明した上記動作例では、第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失の変動幅が、第1インクタンク34内の圧力変動の幅と近似する(等しい場合を含む。)ように、第2インクタンク51内の圧力の許容変動範囲を設定してインクの流量の変化を制限することにより、吐出口におけるインクの圧力がおよそ一定にされる。以下、許容変動範囲を求める作業について図14を参照しつつ説明する。
許容変動範囲を求める際には、まず、図3のヘッドユニット33における1つのヘッド32に代えて、ヘッド32と同様の内部流路を有する測定用の部材を設けることにより、ダミーユニットが作製されて印刷装置1に取り付けられる。続いて、第2インクタンク51内を負圧にした後、流量調整バルブ531を調整することにより複数通りのインクの流量にて回収流路にインクを流しつつ、測定用の部材においてインク導入管351近傍の位置に設けた孔部におけるインクの圧力、および、インク導入管351において第1インクタンク34近傍の位置に設けた孔部におけるインクの圧力を測定することにより、第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失と回収流路におけるインクの流量との関係が求められる(ステップS41)。
印刷装置1では、ヘッド32からのインクの安定した吐出、インク循環機構5の全体におけるインクの温度調整、および、ドライバ回路の冷却等を考慮して設定流量が定められており、設定流量をおよそ中央として上記測定における複数通りのインクの流量が決定されている。実際には、第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失は回収流路におけるインクの流量に対して線形に変化し(または、上記関係が一次近似される。)、例えば設定流量における圧力損失が5mbarである場合に、インクの流量が設定流量に対して±10%の範囲にて変動すると、圧力損失は±0.5mbarの範囲にて変動することとなる。
続いて、ダミーユニットをヘッドユニット33に取り替えた後、図3の第1インクタンク34および第2インクタンク51内がそれぞれ設定補助圧力および設定循環圧力とされ、この状態において、インク流量測定部532にて測定される実際のインクの流量が設定流量となるように、流量調整バルブ531が調整される。これにより、流量調整バルブ531が電磁バルブである場合は開度を定める電圧が決定され、手動バルブである場合は開度を定める調整部の位置が決定される(ステップS42)。なお、このような作業は装置の設計段階にて必要となるものであり、流量調整バルブ531と同じ圧力損失を生じさせる細い管が、流量調整バルブ531に代えて設けられてもよい。
流量調整バルブ531が調整されると、設定循環圧力を中央として同じ値だけ離れた上限圧力および下限圧力が設定され、ポンプ54の駆動および停止を伴う通常のインク循環動作と共に上記ステップS21〜S32の動作を行いつつインク流量測定部532にてインクの流量が測定され、インクの流量の変動幅が求められる。そして、上限圧力と下限圧力との差を複数通りに変更しつつ(ただし、設定循環圧力が上限圧力と下限圧力との間の中央とされる。)、上記作業が繰り返されることにより、上限圧力と下限圧力との差である許容変動範囲の幅とインクの流量の変動幅との関係が求められる(ステップS43)。
許容変動範囲の幅とインクの流量の変動幅との関係が求められると、第2インクタンク51内を設定循環圧力として第1インクタンク34から第2インクタンク51への連続的なインクの流入を開始した後に、減圧ポンプ551および気体導入機構553を駆動させることなく、ポンプ54の駆動および停止を伴うインク循環動作が行われる。このとき、補助圧力調整機構37が駆動されており、補助圧力調整機構37の圧力センサにより第1インクタンク34内の圧力の変化が取得され、第1インクタンク34内の圧力変動の幅(すなわち、調整変動範囲の幅)が求められる(ステップS44)。
続いて、ステップS41にて取得された第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失と回収流路におけるインクの流量との関係において、第1インクタンク34内の圧力変動の幅(調整変動範囲の幅)と同じ圧力損失の幅になるインクの流量の範囲の幅が求められ、当該幅(変動幅)を用いて、ステップS43にて取得された許容変動範囲の幅とインクの流量の変動幅との関係を参照することにより許容変動範囲の幅が特定される(ステップS45)。これにより、第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失の変動幅が、第1インクタンク34内の圧力変動の幅と近似する許容変動範囲が求められ、この許容変動範囲を用いて上記ステップS21〜S32の動作が、実際の印刷動作に並行して行われる。
以上に説明したように、一の実施の形態に係る印刷装置1では、第1インクタンク34内への断続的なインクの流入、および、第1インクタンク34からの連続的なインクの流出による第1インクタンク34内の圧力変動が、補助圧力調整機構37によりおよそ一定の調整変動範囲内に調整される。そして、許容変動範囲に従って減圧ポンプ551および気体導入機構553を駆動する際に、回収流路におけるインクの流量変動による第1インクタンク34からヘッド32に至る流路の圧力損失の変動幅が調整変動範囲の幅に近似するように許容変動範囲が設定される。これにより、第1インクタンク34内の圧力と、第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失とが、ヘッド32の吐出口におけるインクの圧力の変動を低減する(すなわち、変動幅を小さくする)ように変化することを利用して、ヘッド32の吐出口におけるインクの圧力をおよそ一定にすることができる。その結果、印刷の際に、吐出口に対する基材9上のインクの着弾位置等の変動が生じることを抑制することができる。
なお、実際には、印刷時におけるヘッド32でのインクの消費が、第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失に影響を及ぼすが、全てのヘッド32における最大のインク消費量(単位時間当たり)は設定流量の1/10倍程度(通常の描画率は30%程度であるため、インク消費量の設定流量に対する割合はさらに低くなる。)であるため、印刷画像の質に対する影響は僅かである(すなわち、許容範囲内となる。)。
また、印刷装置1では、インクの流量の変動が小さくなるように比較的狭い許容変動範囲を設定して、第1インクタンク34とヘッド32との間の圧力損失の変動幅を小さくしておき、この圧力損失の変動幅に近似する幅の調整変動範囲となるように、補助圧力調整機構37が制御されてもよい。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
図4の気体導入機構553では、気体導入管554の第2インクタンク51とは反対側の端部がフィルタ555を介して大気に開放されていることにより、第2インクタンク51内への気体の導入を安価に行うことが可能となるが、気体導入管554の第2インクタンク51とは反対側の端部が窒素等の気体の供給源に接続され、第2インクタンク51内に当該気体が導入されてもよい。
上記実施の形態では、デューティ比を50%として気体導入バルブ557の開閉動作の周波数を変更することにより第2インクタンク51内への空気の導入流量を調整することが可能とされるが、開閉動作の周波数を一定としつつデューティ比を変更することにより、空気の導入流量が調整されてもよい。また、気体導入機構553は、第2インクタンク51内に気体を導入して第2インクタンク51内の圧力変動を低減することが可能であるならば、他の構成にて実現されてもよい。
また、図3の印刷装置1では、1つのヘッドユニット33がインク循環機構5に接続されるが、同様の構造の複数のヘッドユニット33がインク循環機構5に接続されてもよい。この場合、好ましくは供給ライン52の第2インクタンク51とは反対側が複数の分岐供給ラインに分岐して複数のヘッドユニット33の第1インクタンク34にそれぞれ接続され、回収ライン53の第2インクタンク51とは反対側が複数の分岐回収ラインに分岐して複数のヘッドユニット33のマニホールド本体36にそれぞれ接続され、1つの補助圧力調整機構37からの圧力調整管が分岐して複数のヘッドユニット33の第1インクタンク34に接続される。この場合、複数のヘッドユニット33を走査方向に並べることにより、幅方向の記録解像度を増大することが可能となり、幅方向に並べることにより、幅の大きな基材9上の広範囲に画像を印刷することが可能となる。
このように、複数のヘッドユニット33の多数のヘッド32が第2インクタンク51に接続される場合、第2インクタンク51内へのインクの流入流量、および、第2インクタンク51からのインクの流出流量も多くなるが、上記動作例と同様にして、減圧ポンプ551および気体導入機構553を制御することにより、第2インクタンク51内の圧力変動を低減することができ、第2インクタンク51内の圧力変動に起因するヘッド32の吐出口におけるインクの圧力変動を抑制して、印刷の際に、吐出口に対する基材9上のインクの着弾位置等の変動が生じることを抑制することができる。
なお、複数のヘッドユニット33が設けられる印刷装置にて、許容変動範囲を設定する上記実施の形態に係る動作を行う際には、上記複数の分岐回収ラインのそれぞれに流量調整バルブが設けられ、複数のヘッドユニット33の第1インクタンク34にてインクの量(液面の位置)が同じになり、第1インクタンク34へのインクの補充タイミングが一致するように、これらの流量調整バルブが制御されることが好ましい。
図1の印刷装置1(いわゆる、ロールtoロール方式の印刷装置)では、基材9を走査方向に移動する搬送部27により、複数の吐出口の配列方向に交差する走査方向に基材9が吐出部3に対して一定速度にて移動するが、印刷装置1では印刷時に吐出部3を走査方向に移動する機構が設けられてもよい。また、図15に示す印刷装置1a(枚葉式の印刷装置)のように、矩形の基材9を保持するステージ21、および、ステージ21を走査方向(図15中のY方向)に移動するステージ移動機構22が設けられてもよい。このように、基材9を吐出部3に対して相対的に走査方向に移動する走査機構は様々な構成にて実現可能である。なお、図15の印刷装置1aでは、基台20上に設けられる位置検出モジュール23により、基台20に対するステージ21の位置が検出可能となっている。
インクを効率よく脱気することが可能なインク循環式の印刷装置1,1aにおける印刷媒体は、シート状の基材9以外に、プラスチックにて形成される板状の部材や印刷用紙等であってもよい。