次に、本発明の好適な実施形態について説明する。本実施形態は、駆動装置であるドライバICからFPCを介して駆動対象である圧電アクチュエータに給電を行うことで、流路ユニットのインク流路内のインクに噴射圧力が付与され、ノズルからインクを噴射するインクジェットヘッドに本発明を適用した一例である。
まず、このインクジェットヘッドを有するインクジェットプリンタについて説明する。図1はインクジェットプリンタの概略構成図である。図1に示すように、インクジェットプリンタ100は、図1の左右方向(走査方向)に移動可能なキャリッジ2と、このキャリッジ2に設けられ、記録用紙Pに対してインクを噴射するシリアル型のインクジェットヘッド1と、記録用紙Pを図1の前方(紙送り方向)へ搬送する搬送ローラ3と、を有している。
インクジェットヘッド1は、キャリッジ2と一体的に走査方向へ移動しつつ、図示しないインクカートリッジから供給されたインクを、その下面に配置されたノズル20(図2、図3参照)から記録用紙Pに対して噴射する。また、搬送ローラ3は、記録用紙Pを図1の前方へ搬送する。そして、インクジェットプリンタ100は、インクジェットヘッド1のノズル20から記録用紙Pへインクを噴射させながら、搬送ローラ3により記録用紙Pを前方へ搬送させることで、記録用紙Pに所望の画像や文字などを記録するように構成されている。
次に、インクジェットヘッド1について説明する。図2は、インクジェットヘッドの一部平面図である。図3は、図2のIII−III線断面図である。
図2及び図3に示すように、インクジェットヘッド1は、ノズル20及び圧力室14を含むインク流路が形成された流路ユニット4と、圧力室14内のインクに圧力を付与することにより、流路ユニット4のノズル20からインクを噴射させる圧電アクチュエータ5(駆動対象)と、圧電アクチュエータ5に給電を行うドライバIC55(駆動装置)と、圧電アクチュエータ5とドライバIC55を電気的に接続するフレキシブルプリント配線基板(FPC:配線部材)50と、を有している。なお、図2においては、図面の簡単のため、ドライバIC55及びFPC50は仮想線で示されている。なお、本実施形態におけるドライバIC55から圧電アクチュエータ5までのFPC50の配線などを含む電気系統が、本発明における給電系統に相当する。
まず、流路ユニット4について説明する。図3に示すように、流路ユニット4は、キャビティプレート10、ベースプレート11、マニホールドプレート12、及び、ノズルプレート13を有しており、これら4枚のプレート10〜13が積層状態で接合されて構成されている。
4枚のプレート10〜13のうち、最も上方に位置するキャビティプレート10には、平面に沿って配列された複数の圧力室14が形成されている。各圧力室14は、平面視で走査方向に長い、略楕円形状に形成されている。複数の圧力室14は、紙送り方向に沿って千鳥状に配列されている。なお、千鳥状に配列された2列の圧力室列21により、1色のインクに対応する1組の圧力室群22が構成されており、さらに、複数色のインク(例えば、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色)にそれぞれ対応した複数組の圧力室群22が、走査方向に並べられている。なお、図2は、インクジェットヘッド1の上面の一部領域のみを示す一部上面図であり、それゆえ、図2には、1組の圧力室群22に属する2列の圧力室列21のみが示されている。
キャビティプレート10に形成された複数の圧力室14の下部はベースプレート11により覆われ、これら複数の圧力室14は流路ユニット4の上面においてそれぞれ開口している。さらに、後述する圧電アクチュエータ5が流路ユニット4の上面に接合されることによって、複数の圧力室14の上部が、圧電アクチュエータ5に覆われた構造となっている。また、図2に示すように、キャビティプレート10には、1組の圧力室群22ごとにインク供給口18が形成されており、各インク供給口18は、インクジェットヘッド1の上方(図2の紙面垂直手前側)に配置されるとともに図示しないインクカートリッジに接続されたインクタンク(図示省略)と接続される。
図2及び図3に示すように、ベースプレート11の、平面視で圧力室14の両端部と重なる位置には、それぞれ連通孔15,16が形成されている。また、マニホールドプレート12には、平面視で、圧力室14の連通孔15側の部分と重なるように、紙送り方向に延びる複数のマニホールド流路17が形成されている。1組の圧力室群22(2列の圧力室列21)に対応する2つのマニホールド流路17は、キャビティプレート10に形成された1つのインク供給口18に連通しており、インクタンクからインク供給口18を介してマニホールド流路17へインクが供給される。さらに、マニホールドプレート12の、平面視で複数の圧力室14のマニホールド流路17に連通する端部と反対側の端部と重なる位置には、複数の連通孔16にそれぞれ連なる複数の連通孔19が形成されている。
さらに、ノズルプレート13の、平面視で複数の連通孔19に重なる位置には、複数のノズル20がそれぞれ形成されている。図2に示すように、ノズル20は、対応する圧力室14の、マニホールド流路17に連通する端部と反対側の端部とそれぞれ重なるように配置されている。これにより、複数のノズル20は、複数の圧力室14とそれぞれ対応して千鳥状に配列されている。
そして、図3に示すように、マニホールド流路17は連通孔15を介して圧力室14に連通し、さらに、圧力室14は、連通孔16,19を介してノズル20に連通している。このように、流路ユニット4内には、マニホールド流路17から圧力室14を経てノズル20に至る個別インク流路が複数形成されている。
次に、圧電アクチュエータ5について説明する。図2及び図3に示すように、圧電アクチュエータ5は、複数の圧力室14を覆うように流路ユニット4の上面に接合された振動板30と、この振動板30の上面(圧力室14と反対側の面)に、複数の圧力室14と対向するように配置された圧電層31と、圧電層31の上面に配置された複数の個別電極32と、複数の個別電極32に接続された端子部35からそれぞれ突出した複数のバンプ62と、を有している。
振動板30は、平面視で略矩形状の金属板であり、例えば、ステンレス鋼などの鉄系合金、銅系合金、ニッケル系合金、あるいは、チタン系合金などからなる。この振動板30は、キャビティプレート10の上面に、複数の圧力室14を覆うように接合されている。また、この導電性を有する振動板30の上面は、複数の個別電極32との間で圧電層31を挟み、この圧電層31に厚み方向の電界を生じさせる、共通電極を兼ねている。この共通電極としての振動板30は、FPC50の図示しないグランド配線を介してドライバIC55に接続されて、常にグランド電位に保持されている。
また、振動板30の上面には、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との固溶体であり強誘電体であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を主成分とする、圧電材料からなる圧電層31が形成されている。この圧電層31は、複数の圧力室14を覆うように連続的に形成されている。
圧電層31の上面には、圧力室14よりも一回り小さい略楕円形の平面形状を有する複数の個別電極32が、複数の圧力室14の中央部と対向する領域にそれぞれ形成されている。この個別電極32は、金、銅、銀、パラジウム、白金、あるいは、チタンなどの導電性材料からなる。
さらに、複数の個別電極32の連通孔15側端部からは、個別電極32と同じく導電性材料からなる複数の端子部35が、圧力室14の周縁を越えて外側の領域まで引き出されている。これら複数の端子部35には、銀などの導電性材料からなる複数のバンプ62がそれぞれ突出して形成されている。これら複数のバンプ62は、FPC50のランド53に接触して電気的に接続されている。各個別電極32は、バンプ62及びFPC50のランド53を介して、FPC50上に実装されたドライバIC55(図2参照)と電気的に接続されている。
次に、ドライバIC55が実装されたFPC50について説明する。図3に示すように、FPC50は、基材51と、この基材51の下面(図3において圧電アクチュエータ5と対向する面)に設けられた複数のランド53と、を有している。FPC50は、圧電アクチュエータ5の上方に所定の間隔をあけて配置されており、走査方向に引き出されている。
基材51は、ポリイミドなどの絶縁性樹脂材料からなり、可撓性を有するものである。基材51の下面における複数のバンプ62とそれぞれ対向する位置には、銀や白金などの導電性材料からなる複数のランド53がそれぞれ設けられており、各ランド53はバンプ62と接触している。
また、基材51の下面には、エポキシ樹脂などの熱硬化性の合成樹脂層63が形成されている。この合成樹脂層63は、バンプ62及びランド53の表面を覆うことで、FPC50と振動板30とを接合している。
FPC50の走査方向に引き出された領域には、ドライバIC55が実装されている。ドライバIC55は、FPC50の図示しない複数の配線とそれぞれ接続されており、これらの複数の配線を介して複数のランド53と電気的に接続されており、複数のランド53及び複数のバンプ62を介して複数の個別電極32のそれぞれに対して、駆動パルス信号を供給することで、それらの個別電極32の電位を所定の駆動電位とグランド電位との間で切り換える。
次に、インク噴射時における圧電アクチュエータ5の作用について説明する。ドライバIC55から、ある個別電極32に対して所定の駆動電位が付与されたときには、この駆動電位が付与された個別電極32とグランド電位に保持されている共通電極としての振動板30との間に電位差が生じ、個別電極32と振動板30の間に挟まれた、駆動領域の圧電層31に厚み方向の電界が生じる。そして、圧電層31の分極方向と電界の方向とが同じ場合には、圧電層31はその分極方向である厚み方向と直交する面方向に収縮する。
ここで、圧電層31の下側の振動板30はキャビティプレート10に固定されているため、この振動板30の上面に位置する圧電層31が面方向に収縮するのに伴って、振動板30の圧力室14を覆う部分が圧力室14側に凸となるように変形する(ユニモルフ変形)。本実施形態における圧電アクチュエータ5では、振動板30が上述したように変形した状態でインクの噴射まで待機する。そして、インクの噴射をするときには、ドライバIC55は、個別電極32に駆動電位を付与した状態から、個別電極32への駆動電位の付与を停止する。これにより、個別電極32の電位がグランド電位になり、振動板30が元の形状に戻って圧力室14内の容積が増大し、圧力室14内に圧力波が発生する。
ここで、従来から知られているように、この圧力室14の容積増大に伴う圧力波が圧力室14の長手方向に片道伝搬する時間が経過したときに、圧力室14内の圧力は正に転じる。そこで、ドライバIC55は、この圧力室14内の圧力が正に転じるタイミングで、再び個別電極32へ駆動電位を付与する。このとき、上述した圧力室14の容積増大に伴う圧力波と、振動板30が圧力室14側に凸に変形する際に生じる圧力波とが合成されるため、圧力室14内のインクに大きな圧力が付与されて、インクがノズル20から噴射される。
次に、ドライバIC55から圧電アクチュエータ5までの電気的構成について説明する。図4は、ドライバICから圧電アクチュエータまでの電気的構成を示す等価回路図である。図5は、給電系統の抵抗値の違いによるコンデンサに印加されるパルス信号のなまりについて説明する図であり、(a)は図4のa点における電圧波形図であり、(b)は図4のb点における給電系統の抵抗値が小さい場合の電圧波形図であり、(c)は図4のb点における給電系統の抵抗値が大きい場合の電圧波形図である。
図4に示すように、圧電アクチュエータ5を駆動対象とすると、ドライバIC55は圧電アクチュエータ5を駆動する駆動装置とみなすことができる。そして、圧電アクチュエータ5の個別電極32と振動板30との間に挟まれ、分極された圧電層31の駆動領域は、充放電を行うコンデンサ83とみなすことができ、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62の接触部は、給電系統に含まれる抵抗器84とみなすことができる。なお、ランド53とバンプ62が十分な接触面積を確保しつつ接触している場合における抵抗器84の理想的な抵抗値を正常な抵抗値(基準の抵抗値)とする。
このように、インクジェットヘッド1は、駆動装置であるドライバIC55から駆動対象である圧電アクチュエータ5の充放電を行うコンデンサ83に電圧を印加する給電系統の途中に抵抗器84が直列に接続されたRC回路とみなすことができる。
ドライバIC55から圧電アクチュエータ5までの電気的構成が、このようなRC回路になっていると、給電系統の抵抗値が大きくなるにつれて、時定数が大きくなってしまい、ドライバIC55から供給された駆動パルス信号は、コンデンサ83に印加されるときにはなまってしまう。
例えば、図5(a)に示すように、ドライバIC55からデューティー比50%の駆動パルス信号を供給する。すると、給電系統の抵抗値が小さいと、図5(b)に示すように、コンデンサ83に印加される駆動パルス信号の電圧波形は若干なまって、立ち上がり時間がTr1となり、立下り時間がTf1となる。このとき、コンデンサ83は、完全充電と完全放電が繰り返されており、Tr1=Tf1となっている。
しかしながら、同様の駆動パルス信号を供給したときに、給電系統の抵抗値が大きいと、図5(c)に示すように、コンデンサ83に印加される駆動パルス信号の電圧波形は大きくなまって、立ち上がり時間がTr1よりも長いTr2となり、立下り時間がTf1よりも長いTf2となる。このときも、コンデンサ83は、完全充電と完全放電が繰り返されており、Tr2=Tf2となっている。このように、給電系統の抵抗値の大きさが、コンデンサ83に印加される駆動パルス信号の電圧波形に大きく影響する。
給電系統の抵抗成分は、FPC50の図示しない配線の配線抵抗など種々の抵抗成分を含んでいるが、特に、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62の接触抵抗(抵抗器84の抵抗値)が大きな割合を占めている。
これは、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62の間が接合ではなく、単に接触して電気的に接続されているだけだからである。このFPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62間の接触抵抗、すなわち抵抗器84の抵抗値は、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62との接触面積の大きさと相関があり、接触面積が小さいと、抵抗値は大きくなる。
例えば、FPC50と圧電アクチュエータ5の押圧が不十分などの理由で、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62の接触が不十分であり、ランド53とバンプ62の接触面積が小さいと、接触抵抗(抵抗器84の抵抗値)は大きくなる。すると、ドライバIC55から圧電アクチュエータ5の個別電極32に印加される駆動パルス信号の電圧波形がなまってしまい、この個別電極32に対応するインク流路内のインクへ付与される噴射圧力が小さくなり、噴射タイミングがずれたり、所望の噴射特性を得られなくなってしまう。このように、ランド53とバンプ62の接触抵抗が大きいと、基準の噴射特性を得られなくなってしまうため、給電系統の抵抗成分の中で最も大きな割合を占めるこの接触抵抗(抵抗器84の抵抗値)を含む給電系統の抵抗値を測定したい。
しかしながら、ランド53とバンプ62の接触抵抗を測定するためには、わざわざ測定装置を準備して、この測定装置のプローブをランド53とバンプ62にそれぞれ接触させて接触抵抗を測定しなければならず面倒であった。また、インクジェットヘッド1に形成された全てのランド53とバンプ62の接触抵抗を測定するには、非常に長い時間がかかってしまう。さらに、FPC50と圧電アクチュエータ5間は非常に狭いため、そこに測定装置のプローブを差し込んで接触抵抗を直接測定することは技術的に困難であった。そこで、ランド53とバンプ62の接触面積を測定して、この接触面積から接触抵抗を推定することも考えられるが、FPC50と圧電アクチュエータ5は所定の押圧時間だけ互いに押圧して、ランド53とバンプ62を接触させているだけなので、接触面積を測定することも困難であった。
これらの理由から、本実施形態においては、給電系統の抵抗成分の中で最も大きな割合を占めるこの接触抵抗(抵抗器84の抵抗値)を給電系統の抵抗値とみなす。そして、ドライバIC55から圧電アクチュエータ5の個別電極32にパルス信号を印加している間に、これらを接続するFPC50の配線を流れる電流値を積算して算出される総電荷量に基づいて、ランド53とバンプ62の接触部における基準の抵抗値に対する接触抵抗(すなわち、抵抗器84の抵抗値)の大きさの度合いを検出する。図6は、基準の抵抗値の場合に駆動パルス信号を供給したときの説明図である。図7は、抵抗値が大きい場合に駆動パルス信号を供給したときの説明図である。図8は、基準の抵抗値の場合に検査パルス信号を供給したときの説明図である。図9は、抵抗値が大きい場合に検査パルス信号を供給したときの説明図である。図10は、基準の抵抗値の場合と抵抗値が大きい場合のデューティー比に応じた静電容量を示す図である。なお、図6〜図9において、(a)は図4のa点における電圧波形であり、(b)は図4のb点における電圧波形であり、(c)は図4のc点における電流波形である。
基準の抵抗値に対する接触抵抗、すなわち抵抗器84の抵抗値の大きさの度合いを検出するには、ドライバIC55から個別電極32に駆動パルス信号及び後述する検査パルス信号を印加したときの圧電層31の駆動領域、すなわちコンデンサ83の静電容量をそれぞれ算出する。そして、この2つのパルス信号をそれぞれ印加したときのコンデンサ83の静電容量を比較して、抵抗器84の基準の抵抗値に対する抵抗値の大きさの度合いを検出する。
まず、ドライバIC55から個別電極32に駆動パルス信号(第2検査パルス信号)を印加したときのコンデンサ83の静電容量の算出方法について説明する。駆動パルス信号とは、インクジェットヘッド1の通常駆動時において、流路ユニット4のノズル20からインクを噴射する際にこのノズル20に対応する個別電極32に印加するパルス信号であり、コンデンサ83の完全充電と完全放電が繰り返し行われるように設定された所定のパルス幅を有するパルス信号である。本実施形態においては、周波数20kHzでデューティー比50%のパルス信号を駆動パルス信号とする。
図6(a)に示すように、ドライバIC55から駆動パルス信号を供給する(供給工程)と、図6(b)に示すように、コンデンサ83には若干なまった電圧波形の駆動パルス信号が印加される。このとき、駆動パルス信号の立ち上がりから立下りまでの電圧印加時においては、図6(c)に示すように、コンデンサ83が完全充電されるまでの時間Tr1の間、FPC50には電流値I1をピークとして次第にゼロに近づくような正方向の電流が流れ、充電が完了すると、FPC50には電流が流れなくなる。
また、駆動パルス信号の立下りから立ち上がりまでの電圧非印加時においては、コンデンサ83が完全放電されるまでの時間Tf1の間、FPC50には電流値−I1をピークとして次第にゼロに近づくような負方向の電流が流れ、放電が完了すると、FPC50には電流が流れなくなる。
このFPC50を流れる電流とは、正負に関わらず、単位時間当たりにFPC50を流れる電荷量である。また、コンデンサ83の静電容量とは、単位電圧当たりにコンデンサ83に蓄えられた電荷量である。そのため、駆動パルス信号の立ち上がりから立下りまでのエッジ間におけるFPC50を流れる電流値を積算(時間積分)すると、その時間内にコンデンサ83に充電された総電荷量が算出され(数1参照)、この総電荷量に駆動パルス信号の電圧印加時の電圧値を割ることで、コンデンサ83の静電容量が算出される(算出工程:数2参照)。なお、本実施形態における静電容量とは、コンデンサ83の静電容量とは異なり、上述したような方法で算出され、コンデンサ83の充放電時に見かけ上やりとりされている容量を示す。コンデンサ83に充電された総電荷量は、図6(c)の面積S1である。なお、駆動パルス信号の立ち上がりから立下りまでのエッジ間におけるコンデンサ83に充電された総電荷量(面積S1)は、駆動パルス信号の立下りから立ち上がりまでのエッジ間におけるコンデンサ83から放電された総電荷量(面積S2)と同じである。
次に、検査パルス信号(第1検査パルス信号)とは、コンデンサ83の充放電が完全には行われないように設定された、駆動パルス信号とは異なるパルス幅を有するパルス信号である。本実施形態においては、周波数20kHzでデューティー比10%のパルス信号を検査パルス信号とする。つまり、駆動パルス信号と検査パルス信号は、周波数は同じで、デューティー比が異なっているパルス信号である。
図8(a)に示すように、ドライバIC55から検査パルス信号を供給すると、図8(b)に示すように、コンデンサ83には若干なまった電圧波形の検査パルス信号が印加される。このとき、検査パルス信号の立ち上がりから立下りまでの電圧印加時においては、図8(c)に示すように、電圧印加時間が短く、コンデンサ83は完全には充電されないため、電圧が印加されている時間Tr5の間、FPC50には電流値I1をピークとして次第にゼロに近づくような正方向の電流が流れ続ける。
また、検査パルス信号の立下りから立ち上がりまでの電圧非印加時においては、完全には充電されていないコンデンサ83が完全に放電されるまでの短い時間Tf5の間だけFPC50には電流値−I1をピークとして次第にゼロに近づくような負方向の電流が流れ、放電が完了すると、FPC50には電流が流れなくなる。
この検査パルス信号の立ち上がりから立下りまでのエッジ間におけるFPC50を流れる電流値を積算すると、コンデンサ83に充電された総電荷量(面積S5)が算出され、この総電荷量に検査パルス信号の電圧印加時の電圧値を割ることで、コンデンサ83の静電容量が算出される。なお、検査パルス信号の立ち上がりから立下りまでのエッジ間におけるコンデンサ83に充電された総電荷量(面積S5)は、検査パルス信号の立下りから立ち上がりまでのエッジ間におけるコンデンサ83から放電された総電荷量(面積S6)と同じである。
ここで、駆動パルス信号の印加時には、ランド53とバンプ62との接触状態が正常であったとしても、不十分であったとしても、すなわち、抵抗器84の抵抗値が基準の値でも大きくても、コンデンサ83の静電容量は同じ値となる。
これは、抵抗器84の抵抗値に関係なく、コンデンサ83が完全充電と完全放電を交互に繰り返しているためである。具体的には、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62との接触状態が不十分で接触抵抗が大きい場合において、図7(a)に示すように、ドライバIC55から駆動パルス信号を供給すると、図7(b)に示すように、コンデンサ83には大きくなまった電圧波形の駆動パルス信号が印加される。このとき、駆動パルス信号の立ち上がりから立下りまでの電圧印加時においては、図7(c)に示すように、コンデンサ83が完全充電されるまでの時間Tr4の間、FPC50には電流値I1よりも小さな電流値I2をピークとして次第にゼロに近づくような正方向の電流が流れ、充電が完了すると、FPC50には電流が流れなくなる。
また、駆動パルス信号の立下りから立ち上がりまでの電圧非印加時においては、コンデンサ83が完全放電されるまでの時間Tf4の間、FPC50には電流値−I1よりも小さな電流値−I2をピークとして次第にゼロに近づくような負方向の電流が流れ、放電が完了すると、FPC50には電流が流れなくなる。
このとき、FPC50に流れる電流値は全体的に小さくなるが、電流が流れている時間が長くなるため、駆動パルス信号の立ち上がりから立下りまでのエッジ間におけるコンデンサ83に充電された総電荷量(面積S5)は、図6(c)における面積S1と同じである。また、駆動パルス信号の立ち上がりから立下りまでのエッジ間におけるコンデンサ83に充電された総電荷量(面積S5)は、駆動パルス信号の立下りから立ち上がりまでのエッジ間におけるコンデンサ83から放電された総電荷量(面積S6)とも同じである。
しかしながら、検査パルス信号の印加時において、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62との接触状態が不十分なときには、正常なときに比べて、接触抵抗が大きい(抵抗器84の抵抗値が大きい)ため、FPC50を流れる電流が小さくなり、検査パルス信号は駆動パルス信号に比べてデューティー比が小さく、電圧印加時間が短い分、コンデンサ83の充放電が完全には行われず、コンデンサ83の静電容量は小さくなる。
具体的には、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62との接触状態が不十分で接触抵抗が大きい場合において、図9(a)に示すように、ドライバIC55から検査パルス信号を供給すると、図9(b)に示すように、コンデンサ83には大きくなまった電圧波形の検査パルス信号が印加される。このとき、検査パルス信号の立ち上がりから立下りまでの電圧印加時においては、図9(c)に示すように、電圧印加時間が短く、コンデンサ83は完全には充電されないため、電圧が印加されている時間Tr6の間、FPC50には電流値I1よりも小さな電流値I2をピークとして次第にゼロに近づくような正方向の電流が流れ続ける。
また、検査パルス信号の立下りから立ち上がりまでの電圧非印加時においては、完全には充電されていないコンデンサ83が完全に放電されるまでの短い間Tf6の間だけFPC50に電流値−I1よりも小さな電流値−I2をピークとして次第にゼロに近づくような負方向の電流が流れ、放電が完了すると、FPC50には電流が流れなくなる。なお、駆動パルス信号の立ち上がりから立下りまでのエッジ間におけるコンデンサ83に充電された総電荷量(面積S7)は、駆動パルス信号の立下りから立ち上がりまでのエッジ間におけるコンデンサ83から放電された総電荷量(面積S8)と同じである。また、面積S7は、図8(c)における面積S5より小さな値である。
つまり、ランド53とバンプ62の接触状態が正常なとき(抵抗器84の抵抗値が基準の値のとき)の、駆動パルス信号印加時のコンデンサ83の静電容量と、検査パルス信号印加時のコンデンサ83の静電容量との差に比べて、ランド53とバンプ62の接触状態が不十分なとき(抵抗器84の抵抗値が大きなとき)の、駆動パルス信号印加時のコンデンサ83の静電容量と、検査パルス信号印加時のコンデンサ83の静電容量との差は大きくなる。
したがって、駆動パルス信号印加時のコンデンサ83の静電容量に対して、検査パルス信号印加時のコンデンサ83の静電容量が所定値以上小さい場合に、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62との接触状態が不十分であり、接触抵抗が基準の抵抗値に対して大きいと検出することができる。
このように、インクジェットヘッド1があらかじめ備えているドライバIC55から2つの異なる駆動パルス信号及び検査パルス信号をそれぞれ供給することで算出された、駆動パルス信号印加時のコンデンサ83の静電容量と、検出パルス信号印加時のコンデンサ83の静電容量を比較することで、測定装置を必要とせず、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62間の接触抵抗の基準の抵抗値に対する大きさの度合いをより簡易に検出することができる。また、インクジェットヘッド1に形成された全てのランド53とバンプ62の正常な接触状態に対する接触抵抗の大きさの度合いも迅速に検出することができる。また、上述したようなランド53とバンプ62の接触抵抗が比較的大きい場合に、この接触抵抗のばらつきはインクジェットヘッド1の噴射特性に大きく影響するため、抵抗値の大きさの度合いを検出する必要性が高い。
なお、検査パルス信号は、コンデンサ83の充放電が完全には行われないように設定された、駆動パルス信号とは異なるパルス幅を有するパルス信号であれば、いかなるパルス信号であってもよい。例えば、周波数20kHzでデューティー比90%のパルス信号でもよい。
ドライバIC55から個別電極32にこのようなデューティー比90%の検査パルス信号を印加すると、検査パルス信号の立ち上がりから立下りまでの電圧印加時において、コンデンサ83が完全充電されるまでFPC50には電流が流れ、充電が完了すると、FPC50には電流が流れなくなる。
また、検査パルス信号の立下りから立ち上がりまでの電圧非印加時においては、コンデンサ83が完全放電されないため、FPC50には電流が流れ続ける。その後は、すぐ、駆動パルス信号が立ち上がるため、充電がすぐ完了し、FPC50には電流がすぐ流れなくなる。
この検査パルス信号の立ち上がりから立下りまでのエッジ間におけるFPC50を流れる電流値を積算すると、コンデンサ83に充電された総電荷量が算出され、この総電荷量に検査パルス信号の電圧印加時の電圧値を割ることで、コンデンサ83の静電容量が算出される。このとき、検査パルス信号の印加時において、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62との接触状態が不十分なときには、正常なときに比べて、接触抵抗が大きい(抵抗器84の抵抗値が大きい)ため、FPC50を流れる電流が小さくなり、検査パルス信号は駆動パルス信号に比べてデューティー比が大きく、電圧非印加時間が短い分、コンデンサ83の充放電が完全には行われず、コンデンサ83の静電容量は小さくなる。
これらより、図10に示すように、ドライバIC55からデューティー比50%近傍のパルス信号を供給すると、コンデンサ83は完全充放電を繰り返すため、ランド53とバンプ62の接触抵抗の大きさに関わらず、同じ静電容量となるが、ドライバIC55からデューティー比0%や100%近傍のパルス信号を供給すると、コンデンサ83は不十分な充放電を繰り返すこととなり、ランド53とバンプ62の接触抵抗の大きさが大きくなり、静電容量は小さくなる。
このような算出方法を用いて、デューティー比を変えながら、5箇所のランド53とバンプ62間の静電容量をそれぞれ算出する。これら5箇所は、順にch1〜ch5とする。このとき、ドライバICから供給するパルス信号のデューティー比ごとに各FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62間の静電容量を表1に示す。
表1に示すように、ch1〜5の静電容量は、デューティー比50%のときを最大として、デューティー比が大きくなる、もしくは、小さくなるにつれて小さくなっている。このとき、例えば、デューティー比50%のときの静電容量よりもデューティー比10%のときの静電容量が20pF以上小さい場合には、接触抵抗が大きいとすると、ch1、3は、接触抵抗が基準の抵抗値に対して大きいと検出することができる。
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。但し、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
本実施形態においては、駆動パルス信号と検査パルス信号の周波数を同じにして、デューティー比を異ならせていたが、検査パルス信号はコンデンサ83の充放電を完全には行えないパルス信号であれば、駆動パルス信号と異なる周波数であってもよい。これだと、駆動パルス信号と検査パルス信号のデューティー比は固定なので、周波数を可変させることは容易である。しかしながら、周波数を大きくしていくと、周波数特性によりコンデンサ83自体の抵抗が大きくなってしまう。すなわち、駆動パルス信号よりも検査パルス信号の周波数を大きくしていくと、周波数特性により充電時または放電時の総電荷量が小さくなってしまう。すると、抵抗器84の抵抗値の大きさによって、充電時または放電時の総電荷量が小さくなったのか、周波数特性により充電時または放電時の総電荷量が小さくなったのか判定することができない。このような理由から、駆動パルス信号と検査パルス信号のデューティー比を異ならせることで、周波数特性の影響を受けずに、接触抵抗の基準の抵抗値に対する大きさの度合いを検出することが好ましい。
また、本実施形態においては、パルス信号の立ち上がりから立下りまでの充電時のエッジ間におけるFPC50を流れる電流値を積算することで算出された、コンデンサ83に充電された総電荷量にパルス信号の電圧印加時の電圧値を割ることで、コンデンサ83の静電容量を算出していたが、パルス信号の立下りから立ち上がりまでの放電時のエッジ間において、同様にしてコンデンサ83の静電容量を算出してもよい。
さらに、本実施形態においては、駆動パルス信号印加時と検査パルス信号印加時のコンデンサ83の静電容量を比較して、接触抵抗の大きさの度合いを検出していたが、駆動パルス信号印加時と検査パルス信号印加時の、FPC50を流れる電流値を積算することで算出された、コンデンサ83に充電された総電荷量から静電容量を算出せずに接触抵抗の基準の抵抗値に対する大きさの度合いを検出してもよい。
また、本実施形態においては、駆動パルス信号と検査パルス信号を印加したときのコンデンサ83の静電容量の差から接触抵抗の大きさの度合いを検出していたが、複数のコンデンサ83に対して検査パルス信号を印加して、複数のコンデンサ83の静電容量を相対的に比較して、極端に値が小さいコンデンサ83と直列に接続された抵抗器84の抵抗が大きいと検出してもよい。
また、本実施形態においては、FPC50側の接続対象であるランド53と、圧電アクチュエータ5側の接続対象である端子部35から突出したバンプ62を接触させることで電気的に接続させて、その周囲に配置された合成樹脂層63によって、FPC50と圧電アクチュエータ5を接合していたが、FPC50側の接続対象であるランド53と、圧電アクチュエータ5側の接続対象である端子部35を、例えば、異方性導電性接着剤などの金属粒子を含有した導電性を有する熱硬化性樹脂により電気的に接続するとともに、FPC50と圧電アクチュエータ5を接合してもよい。圧電アクチュエータ5の端子部35とFPC50のランド53を電気的に接続している樹脂に生じる抵抗値は、給電系統の抵抗値に含まれる。樹脂は金属に比べて抵抗が大きく、樹脂を介して電気的に接続された圧電アクチュエータ5の端子部35とFPC50のランド53の間の抵抗値は大きくなる。このような場合にも、端子部35とFPC50間の基準の抵抗値に対する抵抗値の大きさの度合いを検出しやすい。
さらに、本実施形態においては、駆動パルス信号及び検査パルス信号を供給したときのコンデンサ83の静電容量の差から接触抵抗の基準の抵抗値に対する大きさの度合いを検出していたが、駆動パルス信号を供給したときの、充電開始から充電完了する途中まで、または、放電開始から放電完了する途中までの間にFPC50を流れる電流値を積算して算出された総電荷量を、完全充電または放電中にFPC50を流れる電流値を積算して算出された総電荷量と比較して、接触抵抗の基準の抵抗値に対する大きさの度合いを検出してもよい。
さらに、本実施形態では、駆動パルス信号及び検査パルス信号を供給したときのコンデンサ83の静電容量の差から接触抵抗の基準の抵抗値に対する大きさの度合いを検出していたが、基準の抵抗値のときのコンデンサ83の静電容量があらかじめ分かっている場合には、駆動パルス信号を供給せずに検査パルス信号だけ供給して、このときのコンデンサ83の静電容量と基準の抵抗値のときのコンデンサ83の静電容量との差から接触抵抗の基準の抵抗値に対する大きさの度合いを検出してもよい。
また、本実施形態においては、給電系統に生じる抵抗の一例として、FPC50のランド53と圧電アクチュエータ5のバンプ62の間の接触抵抗を挙げたが、その他、FPC50の配線の配線抵抗を含めた給電系統全体の抵抗成分の基準の抵抗値に対する抵抗値の大きさの度合いを検出することができる。このとき、基準の抵抗値とは、給電系統にリークなどが生じていないときの理想的な抵抗値である。
さらに、本実施形態においては、圧電アクチュエータの通常駆動時に供給する駆動パルス信号及び検査パルス信号を供給したときのコンデンサ83の静電容量の差から接触抵抗の基準の抵抗値に対する大きさの度合いを検出していたが、駆動パルス信号に限らず、完全充放電が繰り返されるパルス信号であればよい。
また、ドライバICからFPCを介して圧電アクチュエータに給電を行うような場合に限らず、充放電を伴って動作する駆動対象であれば圧電アクチュエータに限らず、いかなる装置に対しても本発明を適用することが可能である。