JP5077747B2 - 磁性流体とその製造方法並びに磁性流体を用いた磁性流体軸受装置及び磁気シール装置 - Google Patents
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分散媒中に磁性体微粒子を安定に分散させるため、磁性体微粒子の表面は、界面活性剤の形成する単分子膜で被覆されている。界面活性剤は、磁性体微粒子同士が凝集するのを立体障害によって阻害すると共に、磁性体微粒子の表面に分散媒への親和性を付与することにより、磁性体微粒子の分散性を向上させる役割を果たしている。界面活性剤としては、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪族カルボン酸が最も広く用いられている。
また、膜化合物の有するフッ化炭素基は、パーフルオロアルキルアミン系液体に対する相溶性が高いので、磁性体微粒子の分散安定性が高く、凝集や沈降が起こりにくい。更に、単分子膜は磁性体微粒子の表面に共有結合しているので、単分子膜は磁性体微粒子の表面から脱離しにくく、このことも磁性流体の安定性の向上に寄与している。
なお、単分子膜は、アルコキシシリル基と活性水素基との脱アルコール反応によって磁性体微粒子の表面に共有結合している。そのため、反応時に生成する塩酸等の腐食性の物質により磁性体微粒子の表面が腐食される問題は生じない。
請求項3記載の磁性流体においては、磁性体微粒子が、平均粒径3〜100nmのマグネタイトであるので、優れた磁気特性を有する磁性流体が得られる。
また、磁性体微粒子の表面を被覆する膜化合物の単分子膜は、化学的に安定で耐熱性を有するフッ化炭素基を有しており、分散媒は、化学的安定性が高く、耐熱性に優れ、蒸気圧が低いフッ化炭素系の液体である。そのため、高温、高湿、高真空等の過酷な条件下でも高い安定性を有する磁性流体が得られる。
更に、膜化合物の有するフッ化炭素基は、パーフルオロアルキルアミン系液体に対する相溶性が高いので、磁性体微粒子の分散安定性が高く、凝集や沈降が起こりにくい磁性流体が得られる。
その上、単分子膜は磁性体微粒子の表面に共有結合しているので、単分子膜は磁性体微粒子の表面から脱離することがなく、このことも得られる磁性流体の安定性の向上に寄与している。
請求項6記載の磁性流体の製造方法においては、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル及びチタン酸エステルキレートからなる群から選択される1又は2以上の化合物をシラノール縮合触媒として用いるので、アルコキシシラン化合物と活性水素基との反応時間を短縮し、工程Aにおける単分子膜の形成をより高効率に行うことができる。
本発明の一実施の形態に係る磁性流体は、1つ、2つ、又は3つのフッ化炭素基とアルコキシシリル基とを有する膜化合物の単分子膜で表面が被覆された磁性体微粒子がフッ化炭素系の液体を含む分散媒中に分散している磁性流体であって、磁性体微粒子の表面を被覆する膜化合物の単分子膜は、アルコキシシリル基と磁性体微粒子表面の活性水素基との脱アルコール反応により、磁性体微粒子に共有結合している。
以下、詳細に説明する。
好ましい磁性体微粒子は、マグネタイト微粒子である。マグネタイト微粒子は安価で、高い保持力を有し、磁気的安定性及び化学的安定性にも優れている。
[CF3(CF2)(n−3)(CH2)2]xSi(OR)(4−x) ・・・(1)
なお、式(1)において、nは10〜25の整数、Rはアルキル基、xは1〜3の整数をそれぞれ表す。なお、1つのケイ素原子上に2以上のフッ化炭素基が結合している場合、それぞれの炭素数nは同一であっても異なっていてもよい。
より好ましい膜化合物としては、下記の式(2)で表されるテトラヒドロパーフルオロデシルトリメトキシシラン(上記一般式(1)において、n=10、x=1、R=CH3である場合に相当。以下、「KBM」と略称する場合がある)がある。
CF3(CF2)7(CH2)2Si(OCH3)3・・・(2)
まず、使用するマグネタイト微粒子の比表面積を、BET法等の任意の方法を用いて予め決定しておく。これに、マグネタイト微粒子の質量を乗じると、使用するマグネタイト微粒子の全表面積が求められる。これを、KBM1分子あたりの占有面積(0.05nm2)で除すると、マグネタイト微粒子の全表面を被覆するのに必要なKBMの分子数が求められるので、これをモル数に換算してKBMの分子量を乗じると、使用するKBMの質量が求められる。
シラノール縮合触媒の添加量は、好ましくはKBMの0.2〜5質量%であり、より好ましくは0.3〜1質量%である。
カルボン酸金属塩ポリマーの具体例としては、ジブチルスズマレイン酸塩ポリマー、ジメチルスズメルカプトプロピオン酸塩ポリマーが挙げられる。
カルボン酸金属塩キレートの具体例としては、ジブチルスズビスアセチルアセテート、ジオクチルスズビスアセチルラウレートが挙げられる。
チタン酸エステルキレートの具体例としては、ビス(アセチルアセトニル)ジ−プロピルチタネートが挙げられる。
縮合触媒として上述の金属塩のいずれかを用いた場合、縮合反応の完了までに要する時間は2時間程度である。
マグネタイト微粒子の表面にはヒドロキシル基が存在し、親水性であるので、分散性を向上させるために、エタノール等の親水性溶媒を用いることが好ましい。
そこで、エタノールより高沸点のドデカンを反応溶媒として用い、エタノール分散液を撹拌及び加熱しながらドデカンを徐々に加え、エタノールを留去して溶媒をドデカンに置換する。このようにして、マグネタイト微粒子を再凝集させることなく溶媒を置換することができる。このようにして得られたマグネタイトのドデカン分散液に、必要量のKBM及びシラノール縮合触媒を溶解させて、反応液を調製した方がよい。
また、溶媒の沸点は50〜250℃であることが好ましいが、前述のように、前処理としてマグネタイト微粒子をエタノール中へ分散する場合には、エタノールよりも高沸点の溶媒を用いる。
(以上工程A)
より具体的には、被覆されたマグネタイト微粒子を洗浄溶媒中に分散させて、必要ならば撹拌、ホモジナイズ、超音波照射等を行い、マグネタイト微粒子の表面に結合していない膜化合物を洗浄溶媒中に溶解させた後に、被覆されたマグネタイト微粒子と洗浄溶媒とを分離する。
(以上工程B)
分散媒として用いることができるパーフルオロアルキルアミン系の液体としては、パーフルオロポリエーテル、ポリ(テトラフルオロエチレン)、トリパーフルオロアルキルアミン等が挙げられ、具体例としては、米国Du Pont社製Krytox(登録商標)107、同社製Krytox103、米国3M社製フロリナート FC−40等が挙げられる。
単分子膜で被覆されたマグネタイト微粒子の分散媒中への分散は、撹拌、ホモジナイズ、超音波照射等の任意の方法を用いて行うことができる。なお、必要に応じて、酸化防止剤等の添加剤を適宜加えてもよい。
(以上工程C)
(1)膜化合物溶液の調製
56.8g(38.2mL)のテトラヒドロパーフルオロデシルトリメトキシシラン(KBM)を、モレキュラーシーブ4Aで乾燥したクロロホルム100mL中に溶解して、1mol/Lの膜化合物溶液を作成した。
(2)シラノール縮合触媒溶液の調製
4.35gのジブチルスズビスアセチルアセトナート(シラノール縮合触媒)を、モレキュラーシーブ4Aで乾燥したクロロホルム100mL中に溶解して、0.1mol/Lのシラノール縮合触媒溶液を作成した。
平均粒径20nm、比表面積(BET法)107.5m2/g、飽和磁化率(σS)58.1Am2/kg、保磁力(HC)0.09kA/mのFe3O4微粒子4gをエタノール30mLに加えて、超音波バス中で分散させた。ドデカン30mLを加えて150℃で90分間加熱し、エタノールを留去した。KBM及びジブチルスズビスアセチルアセトナートの濃度が、それぞれ3.57×10−3mol/L、1.09×10−5mol/Lとなるように、膜化合物溶液及びシラノール縮合触媒溶液を加え、超音波バス中でホモジナイザーを用いて、室温で2時間反応させたところ、KBMの単分子膜で被覆されたFe3O4微粒子が沈殿した。
混合物に、米国3M社製フロリナートFC−40を10mL加えて撹拌すると、Fe3O4微粒子はFC−40に移行して、磁性流体がドデカン層の下層に形成された。上澄みのドデカン溶液を除去することにより、磁性流体が得られた。
磁性流体を含む溶液の側面にSm−Co磁石を近づけて磁場を印加したところ、磁石を近づけた側の液面が上昇し(図1(A)参照)、磁石を遠ざけて磁場を除去すると、液面が元の平坦な状態に戻ることが確認された(図1(B)参照)。
平均粒径100nm、比表面積(BET法)13.9m2/g、飽和磁化率(σS)79.8Am2/kg、保磁力(HC)10.4kA/mのFe3O4微粒子4gをエタノール30mLに加えて、超音波バス中で分散させた。ドデカン30mLを加えて150℃で90分間加熱し、エタノールを留去した。KBM及びジブチルスズビスアセチルアセトナートの濃度が、それぞれ4.62×10−4mol/L、1.40×10−6mol/Lとなるように、膜化合物溶液及びシラノール縮合触媒溶液を加え、超音波バス中でホモジナイザーを用いて、室温で2時間反応させたところ、KBMの単分子膜で被覆されたFe3O4微粒子が沈殿した。上澄みのドデカン溶液を除去後、クロロホルム及びアセトンで洗浄した。
KBMの単分子膜で被覆されたFe3O4微粒子に、米国Du Pont社製Krytox(登録商標)107を5mL加えて撹拌すると、磁性流体が得られた。
磁性流体を含む溶液の側面にSm−Co磁石を近づけたところ、(3)の場合と同様、磁石を近づけた側の液面が上昇することが確認された。
平均粒径100nm、比表面積(BET法)22.0m2/g、飽和磁化率(σS)161.0Am2/kg、保磁力(HC)32.3kA/mのα-Fe・Fe3O4微粒子4gをエタノール30mLに加えて、超音波バス中で分散させた。ドデカン30mLを加えて150℃で90分間加熱し、エタノールを留去した。KBM及びジブチルスズビスアセチルアセトナートの濃度が、それぞれ7.31×10−4mol/L、2.22×10−6mol/Lとなるように、膜化合物溶液及びシラノール縮合触媒溶液を加え、超音波バス中でホモジナイザーを用いて、室温で2時間反応させたところ、KBMの単分子膜で被覆されたα−Fe・Fe3O4微粒子が沈殿した。上澄みのドデカン溶液を除去後、クロロホルム及びアセトンで洗浄した。
KBMの単分子膜で被覆されたα−Fe・Fe3O4微粒子に、米国Du Pont社製Krytox(登録商標)107を5mL加えて撹拌すると、磁性流体が得られた。
磁性流体を含む溶液の側面にSm−Co磁石を近づけたところ、(3)及び(4)の場合と同様、磁石を近づけた側の液面が上昇することが確認された。
Claims (11)
- フッ化炭素基とアルコキシシリル基とを有する膜化合物の単分子膜で表面が被覆された磁性体微粒子が、パーフルオロアルキルアミン系の液体を含む分散媒中に分散している磁性流体であって、
前記膜化合物の単分子膜は、前記アルコキシシリル基と前記磁性体微粒子表面の活性水素基との脱アルコール反応により、前記磁性体微粒子の表面に共有結合していることを特徴とする磁性流体。 - 請求項1記載の磁性流体において、前記フッ化炭素基の炭素数が10〜25であることを特徴とする磁性流体。
- 請求項1及び2のいずれか1項に記載の磁性流体において、前記磁性体微粒子が平均粒径3〜100nmのマグネタイト(Fe3O4)であることを特徴とする磁性流体。
- 空気中でフッ化炭素基とアルコキシシリル基とを有する膜化合物と表面に活性水素基を有する磁性体微粒子とをシラノール縮合触媒の存在下で接触させて、該アルコキシシリル基と該活性水素基との脱アルコール反応により、共有結合した該膜化合物の単分子膜で前記磁性体微粒子の表面を被覆する工程Aと、
前記単分子膜で被覆された磁性体微粒子を洗浄して、前記磁性体微粒子の表面に結合していない前記膜化合物を除去する工程Bと、
パーフルオロアルキルアミン系の液体を含む分散媒中に前記単分子膜で被覆された磁性体微粒子を分散させる工程Cとを有することを特徴とする磁性流体の製造方法。 - 請求項4記載の磁性流体の製造方法において、前記膜化合物として、一般式[CF3(CF2)(n−3)(CH2)2]xSi(OR)(4−x)(なお、nは10〜25の整数、Rはアルキル基、xは1〜3の整数をそれぞれ表す)
で表される化合物を用いることを特徴とする磁性流体の製造方法。 - 請求項4及び5のいずれか1項に記載の磁性流体の製造方法において、前記シラノール縮合触媒が、カルボン酸金属塩、カルボン酸エステル金属塩、カルボン酸金属塩ポリマー、カルボン酸金属塩キレート、チタン酸エステル、及びチタン酸エステルキレートからなる群より選択される1又は2以上の化合物であることを特徴とする磁性流体の製造方法。
- 請求項4及び5のいずれか1項に記載の磁性流体の製造方法において、前記シラノール縮合触媒が、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、及びアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群より選択される1又は2以上の化合物であることを特徴とする磁性流体の製造方法。
- 請求項6記載の磁性流体の製造方法において、前記シラノール縮合触媒と共に、ケチミン化合物、有機酸、アルジミン化合物、エナミン化合物、オキサゾリジン化合物、及びアミノアルキルアルコキシシラン化合物からなる群から選択される1又は2以上の化合物を助触媒として用いることを特徴とする磁性流体の製造方法。
- 請求項4〜8のいずれか1項に記載の磁性流体の製造方法において、前記磁性体微粒子が平均粒径3〜100nmのマグネタイト(Fe3O4)であることを特徴とする磁性流体の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁性流体を用いたことを特徴とする磁性流体軸受装置。
- 請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁性流体を用いたことを特徴とする磁気シール装置。
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