JP5073966B2 - 時効硬化型フェライト系ステンレス鋼板およびそれを用いた時効処理鋼材 - Google Patents
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(A)初期ブランク径D0=76mm、パンチ径Dp=40mm、パンチ先端丸み半径Rp≧3t、ダイス肩部丸み半径Rd≧3t、クリアランス=25%、しわ押さえ力=3kN、絞り速度Vp=60mm/min、成形高さ=25mm、ただしtは当該ステンレス鋼板の板厚(mm)
上記において、特にRp=3t、Rd=3t(tは板厚)とすることができる。
成形体の円筒部(高さの中央付近)について、直径(外径)を周方向360°にわたって測定し、そのときの(最大径−最小径)の値を真円度とする。
「円筒絞り加工が可能である」とは、割れを生ずることなく上記成形体が得られることをいう。
Ni−Al系化合物相はNiとAlの金属間化合物を主体とするものである。Cu相はε−Cu等のメタルCuを主体とする相である。
以下、本発明を特定するための事項について説明する。
C、Nは、再結晶フェライトのランダム化に有効な再結晶核となる炭化物または窒化物を形成する。再結晶粒のランダム化は円筒絞り成形体の真円度向上、すなわち歪み分布の均一化にも有利に働く。しかし、過剰なCあるいはNの含有は鋼板の耐食性、延性、低温靱性、溶接性等に悪影響を及ぼす。また、NbやTiの増量が必要になる場合もある。したがってC含有量の上限は0.02質量%に、N含有量の上限は0.03質量%に制限される。
加工後の強度が要求され、従来主としてオーステナイト系ステンレス鋼板が使用されていた部品の用途においては、時効処理後に安定して200HV以上の硬さが得られる鋼板を素材に使用することが望まれる。本発明のフェライト系ステンレス鋼板は時効処理に供する前の軟質な素材鋼板であるが、これを適正な条件で時効処理することにより硬さ200HV以上に強度を向上することができる。その適正な時効処理条件は400〜800℃×0.1〜1hの範囲で設定できるが、具体的に本発明鋼板の有する時効硬化性能を確認するには、本発明の鋼板に対して「500〜800℃の雰囲気に0.3〜1h保持→冷却(例えば650℃の雰囲気に0.5h保持→炉外で放冷)」の条件で時効処理実験を行い、時効後の鋼板の硬さが200HV以上であることを確かめればよい。硬さの測定は、鋼板表面についてJIS Z2244に準拠してビッカース硬さを測定することにより行える。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板を適正条件で時効処理した場合、Ni、Al、Cuが複合添加されていることにより、Ni−Al系化合物相およびCu相が形成される。前述のように、種類の異なるこれらの析出相が何らかの相乗作用をもたらし、顕著な強度向上が達成されるものと考えられる。これらの析出相の存在は、材料の断面組織を電子顕微鏡等のミクロ的観察手段で観察し、析出相に電子ビームを照射する分析法によって確認できる他、抽出残渣法を用いて特定することも可能である。
円筒絞りにおいて高い真円度の成形体が得られるフェライト系ステンレス鋼板は、歪み分布が均一化されており、寸法精度の高い部品に加工可能である。本発明鋼板の加工性は、円筒絞りが可能であることに加え、真円度の高い円筒絞り成形体が得られることによって確認できる。具体的に本発明鋼板の有する加工性を確認するには、本発明の鋼板に対して前記(A)の条件で円筒絞り加工の実験を行い、このとき、得られた成形体に割れが認められず、かつ、この成形体円筒部の真円度が0.05以下となることを確かめればよい。
この評価方法は板厚が概ね0.5〜2.5mmのフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板に適用できる。
しわ押さえ力については3kNという低い値で実施する。発明者らによるフェライト系ステンレス冷延焼鈍鋼板を用いた広範な実験によれば、しわ押さえ力を高くするほど成形体の真円度は良好になる(小さい値となる)傾向を示すことが確かめられた。このため、低いしわ押さえ力での真円度が良好であれば、その鋼板はプレス成形時の「しわ」と「割れ」の同時改善を実現する上で極めて有利な、均一化された歪み分布を有していると評価できる。
このような加工性を付与するには、上記のように組成調整すること、および適正な条件(後述)で製造することが重要である。
鋼板のフェライト結晶粒径は、できるだけ微細化していることが歪み分布の均一化に有利である。平均結晶粒径が40μm以下の組織を呈するものが対象となる。
本発明のフェライト系ステンレス鋼板は、プレス成形などの加工に適用できるよう、軟質であることが望ましく、具体的には硬さ150HV以下であるものが対象となる。
以上のような均一化された歪み分布をもつ軟質なフェライト系ステンレス鋼板は、前述の組成を有するフェライト系ステンレス鋼を対象として、例えば以下のような工程で製造することができる。
溶製→熱間圧延(850〜1250℃)→熱延板焼鈍(800〜1100℃)→冷間圧延→中間焼鈍(850〜1000℃)→冷間圧延→仕上焼鈍(8500〜1000℃)
ここで、中間焼鈍は完全再結晶が起こり、最終的に均一化された歪み分布をもつ温度で行うことが重要であり、850℃以上、好ましくは900℃以上で行う。上記工程において中間焼鈍前の冷間圧延率は30〜50%とすることが望ましく、中間焼鈍後の冷間圧延率は50〜80%とすることが望ましい。
各鋼板から採取した76mm径のブランクを用い、前記(A)の条件で円筒絞りを行い、絞り加工の可否および成形体の真円度を調べた。ただし、しわ押さえ力を3kN、7kN、12kNの3通りとして行った。また、(A)条件においてRp=3.6mm、Rd=3.6mmとした。
絞り加工の可否については、所定の成形高さ(25mm)まで絞り加工ができなかったものを×(絞り加工不可)、所定高さの成形体が得られたが目視観察にて割れの発生が認められたものを△(不良)、所定高さの成形体が得られかつ目視観察にて割れの発生が認められなかったものを○(良好)と評価した。
真円度については、得られた成形体の円筒部(高さの中央付近)について、直径(外径)を周方向360°にわたって測定し、そのときの(最大径−最小径)の値を真円度とした。
結果を表2に示す。
なお、鋼板表面についてビッカース硬さを測定したところ、本発明例のものはいずれも150HV以下の軟質なものであった。
結果を表3に示す。
なお、各時効処理鋼板から採取した試料について透過型電子顕微鏡に付属のEDX装置にて、析出物の組成分析を行ったところ、本発明例のものはいずれもNi−Al系化合物相とCu相が分散していることが確かめられた。
これに対し、比較例であるNo.23はCu含有量が少なく、No.21はNi含有量が少なく、No.22はAl含有量が少なかったことにより、これらは十分な時効硬化が得られなかった。なお、No.24および25の鋼は時効硬化性については良好であったが、実施例1で示したとおり、これらは加工性に劣るものである。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.02%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Cr:9〜25%、Ni:0.5〜3.0%、Al:0.4〜3.0%、Cu:0.4〜3.0%、Nb:0.1〜1.0%、N:0.03%以下、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、マトリクスがフェライト相であり、そのマトリクスは、500〜800℃の雰囲気に0.3〜1h保持したのち冷却する時効処理に供したときNi−Al系化合物相とCu相が当該マトリクス中に分散析出する性質を持つものであり、平均結晶粒径が40μm以下、硬さが150HV以下であり、500〜800℃の雰囲気に0.3〜1h保持したのち冷却する時効処理に供したとき200HV以上の硬さに硬化する性質を有する時効硬化型フェライト系ステンレス鋼板。
- 質量%で、C:0.02%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Cr:9〜25%、Ni:0.5〜3.0%、Al:0.4〜3.0%、Cu:0.4〜3.0%、Nb:0.1〜1.0%、N:0.03%以下、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、マトリクスがフェライト相であり、そのマトリクスは、500〜800℃の雰囲気に0.3〜1h保持したのち冷却する時効処理に供したときNi−Al系化合物相とCu相が当該マトリクス中に分散析出する性質を持つものであり、平均結晶粒径が40μm以下、硬さが150HV以下であり、下記(A)の条件で円筒絞り加工が可能であり、かつ、このとき得られた成形体円筒部の真円度が0.05以下となる加工性を有する時効硬化型フェライト系ステンレス鋼板。
(A)初期ブランク径D0=76mm、パンチ径Dp=40mm、パンチ先端丸み半径Rp≧3t、ダイス肩部丸み半径Rd≧3t、クリアランス=25%、しわ押さえ力=3kN、絞り速度Vp=60mm/min、成形高さ=25mm、ただしtは板厚(mm) - 質量%で、C:0.02%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.1%以下、S:0.02%以下、Cr:9〜25%、Ni:0.5〜3.0%、Al:0.4〜3.0%、Cu:0.4〜3.0%、Nb:0.1〜1.0%、N:0.03%以下、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、マトリクスがフェライト相であり、そのマトリクスは、500〜800℃の雰囲気に0.3〜1h保持したのち冷却する時効処理に供したときNi−Al系化合物相とCu相が当該マトリクス中に分散析出する性質を持つものであり、平均結晶粒径が40μm以下、硬さが150HV以下であり、下記(A)の条件で円筒絞り加工が可能であり、かつ、このとき得られた成形体円筒部の真円度が0.05以下となる加工性を有し、500〜800℃の雰囲気に0.3〜1h保持したのち冷却する時効処理に供したとき200HV以上の硬さに硬化する性質を有する時効硬化型フェライト系ステンレス鋼板。
(A)初期ブランク径D0=76mm、パンチ径Dp=40mm、パンチ先端丸み半径Rp≧3t、ダイス肩部丸み半径Rd≧3t、クリアランス=25%、しわ押さえ力=3kN、絞り速度Vp=60mm/min、成形高さ=25mm、ただしtは板厚(mm) - 組成において、さらにTi:0.5%以下、Mo:2.0%以下の1種以上を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の時効硬化型フェライト系ステンレス鋼板。
- 組成において、さらにTi:0.05〜0.5%、Mo:0.3〜2.0%の1種以上を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の時効硬化型フェライト系ステンレス鋼板。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のフェライト系ステンレス鋼板にプレス成形による絞り加工を施したのち400〜800℃で0.1〜1h保持して硬さ200HV以上とする時効処理を施してなる、Ni−Al系化合物相とCu相が分散析出した組織を有するステンレス鋼材。
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