JP5066913B2 - レーザー切断用鋼材 - Google Patents

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Description

本発明は、亜鉛末を含有する一次防錆塗料を塗装した状態で高速に鋼材をレーザー切断することを可能にする、レーザー切断用鋼材の一次防錆用の塗料組成物、およびこの塗料組成物を塗布した鋼材に関する。本発明の塗料組成物は、亜鉛末を含有していて、鋼材に防食性を付与できるだけでなく、夜間無人運転でも切断中断を発生しにくい優れたレーザー切断性を鋼材に付与することができる。
船舶、橋梁、プラント等の大型鉄鋼構造物の建造に使用される鋼材には、一般に加工・組立中の鋼材の発生を一時的に防止するための一次防錆塗料として、防食性と上塗り塗装性に優れた、珪素系結合剤中に亜鉛末を含有する無機ジンク系の防食塗料(ジンクプライマー)が塗装されている。
近年、このような大型構造物の製作時にも、加工と組立を迅速に行って納期短縮を目指す目的で、鋼材の切断にレーザー切断が採用されることが多くなってきた。この用途に従来から利用されてきたガス切断、プラズマ切断等の手法に比べて、レーザー切断には、切断精度と切断面の品質が良く、切断部の熱影響幅が小さく、さらにはコンピュータ制御により夜間自動運転が可能といった利点があるためである。
レーザー切断は、当初は自動車部品、産業機械などのプライマー塗装されていない鋼板の切断に主に利用されてきた。しかし、近年は、5KW、6KWといった大出力レーザーによる高速切断が可能となったことから、造船、橋梁等の大型鋼材の切断にもレーザー切断の利用が急速に拡大してきている。
ところが、レーザー切断は鋼材の表面の影響を強く受け、亜鉛末を含有するジンクプライマーで塗装された鋼材のレーザー切断には種々の問題があることが知られている。特に大きな問題点は、切断速度を上げると切断面に傷やドロス付着が発生しやすく、切断速度を上げることができないために、作業性が低下することと、切断不良により切断作業を中断する事態が起こり、特に夜間無人運転中に切断作業が中断すると後工程に大きな影響を及ぼし、生産性が著しく低下することである。また、切断速度を上げることができないことに加えて、レーザー切断による切断が可能な板厚にも限界があり、板厚が大きすぎる鋼材は切断できない場合がある。
切断速度の向上に関して、下記特許文献1には、鋼材に塗装するジンクプライマー中のZnおよびSiO2(シリカ)量を制限し、特にSiO2量を極力下げて、レーザー切断性を向上させた鋼材が開示されている。SiO2は、プライマー層の耐火性向上と強度向上の観点からプライマーに含有させる成分であるが、SiO2は高温まで安定であるため、レーザーエネルギーの鋼板への伝導を妨げ、切断速度への悪影響が非常に大きいことが記載されている。
下記特許文献2には、珪酸エステル縮合物、亜鉛末および鉄よりも融点が低い顔料(例、タルク、マイカ、フェロ合金、蛍石など)を含有する、レーザー切断性に優れた一次防錆用塗料組成物(プライマー)が開示されている。
特許文献1および2に記載されたプライマーまたは塗料組成物は、いずれも近年の大出力レーザー切断機を用いたレーザー切断に対してはなお効果が不十分であり、1200mm/minといった高い切断速度には十分に対応することができない。また、切断不良の発生に対する対策が考慮されていないため、特に夜間無人運転においては切断中断が発生しやすくなる。さらに、特許文献1では塗料中のSiO2量を著しく低減し、特許文献2では塗料がSiO2を全く含有していないため、塗膜の耐火性や強度が不十分になるという問題がある。塗膜の強度が低下すると、塗膜の剥離が起こる可能性があり、そうなると防錆性も劣化する。
下記特許文献3には、ケイ素系無機結合剤と微細亜鉛末とを主成分とする組成物を塗装することからなる鋼板前処理方法が開示されている。この方法で処理した鋼板について、レーザー切断による溶断性は評価されているものの、その試験はレーザーの焦点を調整して行ったものと考えられ、レーザーの焦点ずれを考慮して評価したものではない。また、レーザー切断試験(溶断試験)は1m/分(1000mm/min)の速度で行われており、それより高速でのレーザー切断性については評価されていない。
特開平10−226846号公報 特開2002−114944号公報 特開2001−295071号公報
本発明の課題は、ジンクプライマーで塗装された鋼材のレーザー切断速度を、例えば、1200mm/minといったレベルの高速まで上げることができ、且つ大出力レーザー切断機により夜間無人運転を行った場合の切断中断の発生を極力防止することがきる、レーザー切断鋼材の一次防錆用の塗料組成物と、それを塗装したレーザー切断用鋼材とを提供することである。
本発明者らは、大出力のレーザー切断機を用いて鋼材のレーザー切断性に関して、次の知見を得た。
(1)従来のジンクプライマーを塗装した鋼材の大出力レーザー切断機での切断作業において見られる切断不良、特に夜間無人自動運転時に切断中断を引き起こす大きな要因が、鋼材のうねり、傷などに起因するレーザー焦点距離の変動であり、塗装した鋼材が焦点距離の変動に鈍感、すなわち切断可能焦点距離幅が大きいと、切断速度を上げることができ、且つ厚い鋼板でも切断が可能になる。
(2)ジンクプライマーを塗装した鋼材のレーザー切断では、レーザー切断時に鋼の酸化により生じるFe2SiO4の共晶点または粘度がレーザー切断性に密接に関連し、この共晶点を下げることにより切断時に溶融した鉄(或いは酸化鉄)が切断部から容易に排出され、レーザー切断が向上する。
Fe2SiO4の共晶点を下げる元素としてP,Al,V,Ti等があるが、これらの元素を鋼材に添加するのは鋼材の機械的性質、溶接性を変化させるので制約される。従って、鋼材に塗装する一次防錆用の亜鉛末含有塗料組成物(ジンクプライマー)に添加することが、鋼材性能に影響を及ぼさない意味から好ましい。
(3)ジンクプライマーに特定のリン酸塩を添加すると、レーザー切断時に生成するFe2SiO4の共晶点を低下させることができ、鋼材の性能に悪影響を及ぼさず塗装された鋼材のレーザー切断性を著しく向上させてレーザー切断速度を上げることができる。同時に、このリン酸塩を含有する塗膜は、切断可能なレーザー焦点距離の幅が広く、レーザー焦点距離の変動に鈍感で、この変動に起因する切断不良や、夜間自動運転中の切断中断が防止される。すなわち、このリン酸塩は上記(1)および(2)の両方の点で有効である。
(4)塗膜のバインダー成分としては、従来のジンクプライマーや上記特許文献においても使用されているが、シロキサン結合(Si−O)を骨格とする、シリカ(SiO2)質の緻密な皮膜を形成できるアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物が適している。
以上の知見に基づいて完成した本発明は、下記(a)〜(c)の成分を含有することを特徴とする、レーザー切断用鋼材に塗布するための塗料組成物である:
(a)2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物、
(b)亜鉛末、ならびに
(c)リン酸亜鉛の粉末。
本発明によればまた、上記塗料組成物の塗布により形成された膜厚9μm超、25μm以下の乾燥塗膜を表面に有することを特徴とするレーザー切断用鋼材も提供される。
本発明の塗料組成物を鋼材に塗装して乾燥塗膜を形成すると、大出力レーザー切断におけるレーザー切断性が著しく改善され、かつ防錆性も十分な一次防錆塗膜(ジンクプライマー層)が形成される。このプライマー層は、レーザー焦点距離の幅が広く、鋼材のうねりや傷によるレーザー焦点距離の変動に鈍感である。そのため、本発明の塗料組成物を塗装した鋼材では、レーザー切断における切断不良が発生しにくく、大出力レーザー切断機を用いた夜間無人運転における切断中断が防止され、16mm、19mmといった厚肉鋼材を1200mm/minといった高速で安定して鋼材のレーザー切断作業を実施することが可能になる。
本発明に係るレーザー切断用鋼材に塗布するための塗料組成物は、(a)2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物、(b)亜鉛末、ならびに(c)リン酸亜鉛の粉末、という3種類の成分を含有する。各成分とも、1種または2種以上を使用することができる。
上記成分のうち、(a)のアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物は、バインダー成分であり、加水分解(アルコールが遊離して水酸化物になる)と縮合(水酸化物→酸化物)を受けてシロキサン結合(Si−O)を骨格とするシリカ質の皮膜を形成する。残りの(b)と(c)はいずれも、本発明の塗料組成物の塗布により形成された乾燥塗膜(以下、プライマー層ともいう)中に分散粒子として含有される。
バインダーとして用いる2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランは、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、およびジアルキルジアルコキシシランを包含する。アルキル基は好ましくは炭素数6以下、より好ましくは4以下の低級アルキル基である。
テトラアルコキシシランの具体例としては、テトラメトキシシラン(メチルシリケート)、テトラエトキシシラン(エチルシリケート)、テトラプロポキシシラン(プロピルシリケート)、テトライソプロポキシシラン(イソプロピルシリケート)、テトラブトキシシラン(ブチルシリケート)、テトライソブトキシシラン(イソブチルシリケート)、エチルシリケート40(日本コルコート社製)等が挙げられる。
アルキルトリアルコキシシランの具体例としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
ジアルキルジアルコキシシランの具体例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等が挙げられる。
例示した以外の化合物も使用可能である。アルキル基を含有するアルコキシシランの場合、アルキル基がビニル基、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基などの官能基で置換されている、シランカップリング剤と呼ばれるアルコキシシランも使用できるが、それらはアルコキシシランの一部だけに使用することが好ましい。アルコキシシランの少なくとも一部はテトラアルコキシシランとすることも好ましく、より好ましくはアルコキシシランの全てがテトラアルコキシシランである。
上記アルコキシシランは、皮膜形成を促進させるため、その加水分解物もしくは縮合物として使用することもできる。例えば、アルコキシシランを水または水と酸触媒の存在下で加水分解させた部分加水分解物、あるいは完全に加水分解させ、さらに部分的に縮合反応まで進めた初期縮合物の状態で使用することもできる。
亜鉛末は市販品を使用することができる。亜鉛末の平均粒径は、亜鉛の溶出速度、すなわち防食性に影響を与える。亜鉛末の好ましい平均粒子径は3〜15μmである。より好ましくは5μm超〜13μmである。亜鉛末は、本塗料組成物の塗装により形成された乾燥塗膜(プライマー層)中に、好ましくは20〜80質量%、より好ましくは40〜60質量%の量で配合する。この配合量が20質量%未満では良好な防食性が得られず、80質量%を超えるとレーザー切断性が低下する。ただし、後述する防食性に優れた顔料(例、リン酸亜鉛、SiO2)を添加することにより防食性が確保される場合には、20質量%以下でも問題なく、レーザー切断性の観点からはその方が好適である。また、亜鉛末の一部が酸化され、酸化亜鉛となっていても用いることはできる。但し、その場合には、全Zn中の酸化亜鉛のZnの割合が10%以下であることが好ましい。
リン酸塩粉末としてはリン酸亜鉛の粉末を使用する。リン酸亜鉛粉末は、Fe2SiO4の共晶点温度を下げてレーザー切断性を向上させるのに有効なようにPを効率的に供給でき、同時にプライマー層の防食性も向上させることができる。リン酸亜鉛としてはオルトリン酸亜鉛を使用することが好ましい。
リン酸亜鉛は一般に防錆顔料として利用されてきたが、これをジンクプライマー層中に含有させた場合に、レーザー切断性を著しく改善する効果があることは、これまで知られておらず、当業者ですら全く予想することもできない新規な知見である。
リン酸亜鉛の粉末は、乾燥塗膜中の含有量(2種以上の場合は合計含有量)が好ましくは1〜10質量%、より好ましくは1〜8質量%の量となるように配合する。この量が1質量%の未満であると顕著な効果が観察されず、10質量%を超えると、塗膜密着性が低下傾向を示すほか、高価となる。粉末の平均粒子径は特に制限されないが、通常は10μm以下とすることが好ましく、より好ましくは5μm以下である。
以上の必須成分に加えて、本塗料組成物は、塗膜のレーザー切断性や防食性に著しい悪影響がない限り、追加の添加成分を含有しうる。前述したように、本発明の効果は、レーザー切断時に鋼の酸化により生じるFe2SiO4の共晶点あるいは粘度がリン酸亜鉛の含有により低下することによって、レーザー切断により生じた溶融した鉄あるいは酸化鉄の切断部からの排出が促進されることと関係していると推測される。従って、場合により添加することができる追加の添加成分としても、この観点から選択することが好ましい。
追加の添加成分の1例は公知の体質顔料である。体質顔料は塗料組成物のコスト低減のため、体積を増加させる成分である。体質顔料としては、Fe2SiO4の共晶点を下げる意味で、Alを含有する顔料を用いることが好ましい。例えば、アルミナ/シリカ複合酸化物(アルミノ珪酸塩)である。具体例としては、KAlSi38、CaAl2Si28、NaAlSi38、Al23・2SiO2・2H2O、K2O・3Al23・6SiO2・H2O、Al24・4SiO2・H2O、Al23等が例示される。粉末の粒度は顔料レベルであればよく、例えば、平均粒子径が0.2〜10μmの範囲内であればよい。乾燥塗膜中の体質顔料の含有量は、10〜30質量%とすることが好ましい。
また、公知のSiO2、TiO2、ZrO2といった体質顔料、中でもSiO2は、プライマー層の機械的特性、耐火性、耐食性を改善するのに有効である。SiO2は、本発明に関しては、防食塗料に使用されているコロイド粒径のシリカ微粒子を意味する。このシリカ微粒子は、ゾル状の湿式シリカ(水性シリカ)と、気相法により製造された乾式シリカ(ヒュームドシリカ)のいずれでもよく、いずれも市販品を用いることができる。SiO2は乾燥塗膜中に好ましくは5〜40質量%、より好ましくは5〜30質量%の量で含有させることができる。
体質顔料としてSiO2を添加する場合、乾燥塗膜中における全Si/Pの原子比が500/1〜1/1となるようにリン酸亜鉛の添加量を調整すると、レーザー切断性が一段と向上する。この全Siとは、SiO2中のSiのみならず、バインダーのアルコキシシラン加水分解・縮合物中のSi、さらには使用すればアルミノ珪酸塩などの他の添加成分中のSiもすべて含む意味である。SiO2を添加しない場合も、全Si/P原子比は上記範囲内となるようにすることが好ましい。全Si/P原子比の上限はより好ましくは150/1、さらにより好ましくは100/1であり、その下限は好ましくは2/1、さらにより好ましくは5/1である。
さらにFe2SiO4の共晶点を下げる元素であるV、B等を含む、例えば、V25やホウ砂(Na247)を微量添加することも好適である。但し、上記リン酸亜鉛により目的とする効果は十分に得られるので、これらを多量に添加するのは経済性を損なう。これらの化合物の添加の上限量は5質量%以下とすることが好ましい。
本塗料組成物に場合により含有させることができる上記以外の添加成分としては、着色顔料、防錆顔料、有機ベントナイト等の沈降防止剤、分散剤などが挙げられる。これらは、目的に応じて、場合により配合することができるが、これらを多量に配合するとレーザー切断性に悪影響を与えるので、乾燥塗膜中の量は合計で10質量%以下になるようにすることが望ましい。
乾燥塗膜中の粉末成分の分析は、塗膜をクロロホルムに溶解し、超音波分散と遠心分離後の沈殿物を適当な手段で分析することにより実施することができる。また、アルコキシシラン成分の加水分解と縮合後の量に他の成分の量を合計した量が固形分になるので、この固形分に基づいて乾燥塗膜中の各成分の量を計算により推定することもできる。
本塗料組成物では、バインダー成分がアルコキシシランであることから、溶媒はアルコールのような水混和性有機溶媒を主成分とするものであることが好ましい。溶媒は水を含有していてもよいが、多量の水を含有すると、塗料の保管中にアルコキシシランの加水分解と縮合が進行し易く、保存寿命が短くなることがある。水不混和性の有機溶剤も適宜含有させることができる。また、アルコキシシランの加水分解を促進するために、塗料中に酸を含有させることもできるが、多量の酸の添加は塗料の保存寿命を短くする。
本塗料組成物の塗布は、例えばエアスプレー、エアレススプレー、刷毛など従来公知の塗布手段により行なうことができる。塗布後の塗膜の乾燥は、常温でも可能であるが、加熱乾燥してもよい。加熱する場合の加熱温度は50℃以下とすることが好ましい。バインダーのアルコキシシランが完全には加水分解していないものである場合、成膜には加水分解用の水が必要であるが、この水は大気から供給される。しかし、成膜を加速するために、水蒸気を噴霧するなどして乾燥雰囲気の湿度を高めてもよい。
鋼材上に形成された乾燥塗膜の膜厚は9μm超、25μm以下の範囲とすることが好ましい。塗膜が9μm以下でも、逆に25μm超でも、レーザー切断性が低下する。塗膜が9μm以下であると、耐食性も劣化する。この膜厚は平均膜厚を意味し、電磁膜厚計、例えば(株)サンコウ電子研究所製CRT−2000II電磁式デジタル膜厚計を用いて、鋼材の表面における塗膜の膜厚を10点以上測定した平均値として求めることができる。
本塗料組成物を塗布する鋼材は、予め公知の除錆方法、例えば、ショットブラストあるいはサンドブラストにより表面の錆を除去することが、耐食性を維持する観点から望ましい。また、鋼材の表面粗度はレーザー切断性に影響を与えるため、Rz=15〜85μm程度、より好ましくは15〜70μmとすることが好ましい。Rzが15μm未満であると塗膜の十分な接着耐久性が得られず、85μmを超えるとレーザー切断特性が低下するためである。Rzは、JIS B 0601-1994で定義される10点平均粗さである。
本塗料組成物を塗布する鋼材は、特に鋼種を限定されるものではなく、普通鋼であっても低合金鋼であっても構わない。ただし、鋼材成分も、レーザー切断性に影響を及ぼすため、次に述べる成分の鋼材が好ましい(成分の残部はFeおよび不可避不純物、%は質量%を意味する)。
C:0.01%以上、0.20%以下
Cはプライマー塗布鋼材のレーザー切断性の確保に有効な元素である。C量が0.01%未満ではレーザー切断性が劣化し、一方0.20%を超えて含有すると溶接性が劣化する。C含有量の下限については望ましくは0.06%以上、さらに望ましくは0.10%以上であり、上限については0.15%以下とすることが望ましい。
Si:0.03%以上、0.6%以下
Siも、プライマー塗布鋼材のレーザー切断性の確保に有効な元素である。Si量が0.03%未満では、レーザー切断面にノッチが発生し、切断性が劣化する。一方、Si量が0.6%を超えると、溶接性が劣化する。Si含有量の下限は0.10%以上とするのが望ましく、さらに望ましくは0.3%以上とするのが良い。
Mn:0.3%以上、2.0%以下
Mnは鋼材の強度確保に有効な元素であり、レーザー切断性にも影響を及ぼす。Mn量が0.3%未満であると鋼材の強度が不足する。一方、Mn量が2.0%を超えると、靱性劣化に加えて、レーザー切断性が劣化する。
solAl:0.005%超、0.10%以下
Alは、脱酸のために必要な元素であり、solAl量が0.005%以下では、鋼材の脱酸が不足し、靱性が劣化する。一方、solAl量が0.10%を超えると、溶接部に硬質の島状マルテンサイトが生成し、靱性が劣化する。
N:0.0005%以上、0.008%以下
N量が0.0005%未満であると、鋼材の結晶粒径が粗大になり、靱性が劣化する。一方、N量が0.008%を超えると、やはり靱性が劣化する。
以上の元素に加えて、強度を確保するために、下記から選んだ1または2以上の元素を場合によりさらに添加することができる。
Nb:0.005%以上、0.08%以下
Nbは強度確保に有効な元素である。添加する場合、0.005%以上でないと効果を発揮しない。一方、0.08%を超えて含有させると靱性が劣化する。
Ti:0.005%以上、0.03%以下
Tiも強度確保に有効な元素であり、連続鋳造におけるヒビ割れ防止に有効である。添加する場合、0.005%以上でないと効果を発揮しない。一方、0.03%を超えて含有させると、靱性が劣化する。
V:0.005%以上、0.08%以下
Vも強度確保に有効な元素であり、添加する場合、0.005%以上でないと効果を発揮しない。一方、0.08%を超えて含有させると、靱性が劣化する。
Cu:1.5%以下、
Cuも強度確保に有効な元素である。添加する場合、0.3%以上とするのが望ましい。一方、1.5%を超えて含有させても、含有量に見合う効果が見られない。
Ni:3.0%以下、
Niは強度および靱性の確保に有効な元素である。添加する場合、0.2%以上とするのが望ましい。一方、3.0%を超えて含有させても、含有量に見合うだけの効果が見られない。
Cr:1.0%以下
Crも強度確保に有効な元素である。添加する場合、0.2%以上とするのが望ましい。一方、1.0%を超えて含有させても、含有量に見合うだけの効果が見られない。
Mo:0.8%以下
Moも強度確保に有効な元素である。添加する場合、0.1%以上とするのが望ましい。一方、0.8%を超えて含有させても、含有量に見合うだけの効果が見られない。
鋼材の形状は、レーザー切断が可能な限り特に制限されず、用途に応じて選択される。例えば、厚板、管材、棒材、異形材などが例示されるが、その他の形状であってもよいのは勿論である。また本発明のプライマー塗布後に汎用の上塗り塗装を施すことも可能である。
表1に示す化学組成の2種類の試験鋼材(いずれも、500×500×16mm厚の板材)をショットブラストにより除錆した後、表2に示す組成の塗料組成物をエアスプレーにより塗布した。ショットブラスト後の表面粗度(Rz)はいずれの鋼材も50.2μmであった。
Figure 0005066913
Figure 0005066913
塗料組成物に用いた成分のうち、アルコキシシランとしては、市販のエチルシリケート40(多摩化学工業(株)製)50質量部を使用し、これを0.1N塩酸1質量部、水6質量部、およびイソプロピルアルコール(IPA)43質量部と40℃、2時間撹拌混合し、その後放冷して用いた。この混合によりエチルシリケートはほぼ完全に加水分解し、初期縮合物の状態となった。
亜鉛末は、平均粒子径が7μmの市販品であった。
リン酸亜鉛粉末としては東邦顔料(株)製オルトリン酸亜鉛(EXPERT NP−530、平均粒子径0.5μm)の粉末を用いた。
体質顔料としてはSiO2(気相シリカ)、KAlSi38、CaAl2Si28の混合物を、着色顔料としてはTiO2を添加した。これらの顔料の平均粒子径はいずれも5μm以下であった。表2に記載した「その他添加剤」は沈降防止剤としての有機ベントナイトである。
なお、表2の塗料組成物の各成分の数値は、バインダー成分も含めた全固形分(溶媒以外の成分の合計量)に基づく質量%である。
塗装は、小型塗装ロボット(安川電機(株)製PX−800、移動線速380mm/sec)と塗装ガン(デビルビスT−AGHV、ノズル径1.2mm、キャップNo.807)とを用いて、霧化エアー圧:1.3kgf/cm2、パターンエアー圧:1.0kgf/cm2、塗料吐出量:132g/min、ガン距離:150mmの条件で行った。塗装後に塗膜を自然乾燥させた。形成された乾燥塗膜の膜厚は、(株)サンコウ電子研究所製CRT−2000II電磁式デジタル膜厚計を用いて鋼板表面の81点で測定し、その平均値として求めた。
上記のように塗布が行われた500×500×16mm厚の板材について、レーザー切断試験を行った。切断に用いたレーザー切断機は小池酸素製の出力6KWのものであり、切断条件は、デューティ70%、周波数1000Hz、酸素ガス圧(内側:0.05MPa、外側:0.03MPa)であった。塗布された板材からピアッシング後、50×50角(コーナー:R3mm)を切り出し、その際のノッチ現象(切断面のキズ)あるいはノロ(酸化物を含む溶鋼の切断裏面への付着物)の付着状況を観察した。切断速度は、1200mm/minであった。
評価は、鋼材表面にレーザー焦点を決め、焦点距離を鋼材表面から0.5mmピッチで変動させて、ノッチ現象あるいはノロ付着あるいは切断不良が生じるどうかで、次のように判定した:
◎:ノロ、ノッチ現象のいずれも無し、
△:ノロ付着および/またはノッチ発生
×:切断不可。
結果を表3に示す。この試験において、◎の切断焦点の幅(範囲)が大きいほど、安定して高速で鋼材を切断できることを表す。
Figure 0005066913
リン酸亜鉛を含有しない比較例の塗料組成物を用いた試験No.5では、切断可能なレーザー焦点距離の幅が非常に狭く、焦点距離がわずか1mm変化すると切断が困難となって、切断が中断に追い込まれる。このように焦点距離の幅が狭く、焦点距離ずれに敏感であると、レーザー切断の夜間無人運転は実質的に不可能である。
一方、実施例である試験No.1〜4に示すように、本発明の塗料組成物を鋼材に塗布した場合には、鋼材の種類によらず、切断可能なレーザー焦点距離の幅が広く、従って大出力レーザー切断機を用いた高速切断時においても鋼材のうねり、傷等に影響されることなく安定して切断可能であることがわかる。その結果、夜間の無人自動運転時に切断不良による切断中断が起こることが防止され、且つ切断速度も高めることができ、レーザー切断の生産性の向上に大きく寄与する。
上記特許文献3では、リン酸亜鉛を含有しないため、プライマー層の膜厚は9μm以下と限定され、この膜厚が9μmを超えると、1000m/minの切断速度でもレーザー切断性が著しく低下することが示されている。本発明では、プライマー層がリン酸亜鉛を含有するため、プライマー層の膜厚が9μmを超えても、1200m/minというより高速のレーザー切断において切断中断を生じないという優れたレーザー切断性を得ることができる。このリン酸亜鉛の顕著な効果は特許文献3から予測することができない。

Claims (3)

  1. 10点平均粗さRzが15〜85μmである鋼材の表面に、(a)2以上のアルコキシ基を有するアルコキシシランおよび/もしくはその加水分解物もしくは縮合物、(b)亜鉛末、ならびに(c)リン酸亜鉛の粉末を含有する塗料組成物の塗布により形成された乾燥塗膜を有することを特徴とするレーザー切断用鋼材
  2. 前記乾燥塗膜の膜厚9μm超、25μm以下である、請求項1に記載のレーザー切断用鋼材。
  3. 前記乾燥塗膜がさらにSiO 2 を含有する、請求項1または2に記載のレーザー切断用鋼材。
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