しかしながら、上記平板構造の固体高分子型燃料電池では、各単位電池の反応ガスの混合を防ぎ、且つ電気的に接続するための部材であるセパレータが必須である。このセパレータは、金属材料或いは人造黒鉛やガラス状炭素等の炭素系材料から成る板で構成されるが、金属材料の場合には、水素イオンによって金属が腐食して金属イオンが溶出する。一方、炭素系材料の場合には、燃料の流路等を形成するための機械加工が容易ではなく、加工コストが高くなる。また、前記ガスケットは、積層された各単位電池相互の気体の流通を防止するためのものであるが、各単位電池毎に正極や負極の電極部、燃料や酸化剤のマニホールド部等をそれぞれ独立して分離、シールする必要があるため、複雑且つ精密な形状であることが要求される。そのため、これらにより、燃料電池の製造コストが増大し、組立ても困難になっていた。
これに対して、筒状の固体高分子電解質を用いることが提案されている(例えば、前記特許文献1、2を参照)。このような筒状の電解質によれば、その周壁によって燃料極側の空間と空気極側の空間とが分離されるため、セパレータやガスケットが不要となる。しかしながら、固体高分子電解質は加湿されると膨潤して変形することから、それ自体を筒状としても形状の維持が困難であって実用に供し得ない。上記燃料電池で用いられている固体高分子電解質は、適当な含水状態で良好なイオン伝導性を発揮するため、その水分管理のために膜加湿が必須となるのである。しかも、固体高分子電解質は燃料として用いられる水素やメタノールを透過させることから、これらが直接酸化されて高い起電力が得られない問題もあった。
一方、無機材料または耐熱性ポリマーから成る多孔性基材の細孔にプロトン伝導性を有するポリマーを充填した電解質膜や、多孔性の膜隔離板の孔に電解質ポリマーを配置した電解質膜が提案されている(前記特許文献3、4を参照)。このような細孔充填型の電解質膜によれば、充填されたプロトン伝導性ポリマーは、多孔質基材の両面間でイオンを通過させるが、プロトン伝導性ポリマーが膨潤させられた場合にも、その膨張や変形が多孔性基材或いは膜隔離板によって抑制され、延いては電解質膜の変形が抑制される。しかしながら、これらにおいても、必ずしも良好なイオン伝導性が得られず、或いは、細孔を経由して気体分子が流通する等の問題があった。
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的は、使用中の変形や水素ガス等の透過が生じ難い固体電解質を提供することにある。
斯かる目的を達成するため、本発明の固体電解質の要旨とするところは、外周面から内周面に連通する多数の細孔を周壁に備えた筒状の多孔質支持体と、その多数の細孔内に充填されたプロトン伝導性有機材料とを含む固体電解質であって、(a)前記多孔質支持体はセラミックスから成るものであり、(b)前記プロトン伝導性有機材料はパーフルオロスルホン酸系固体電解質材料から成るもので前記多数の細孔の全容積の20(%)以上85(%)以下の充填率で充填され且つ使用時に含水することにより膨潤してその細孔を閉塞することにある。
このようにすれば、多孔質支持体の細孔内にプロトン伝導性有機材料が充填された固体電解質は、その多孔質支持体の材質に応じた高い機械的強度および耐熱性を有するので、使用中の変形が好適に抑制される。このとき、プロトン伝導性有機材料は、細孔の全容積の20(%)以上85(%)以下の充填率で充填されていることから、非使用状態では細孔内に僅かな隙間が存在し、延いては固体電解質を厚み方向に貫通する貫通孔が存在することとなる。しかしながら、使用時には加湿状態とされることから、プロトン伝導性有機材料が含水により膨潤させられると、細孔内において膨潤前に生じていた隙間が塞がれるので、水素ガス等の透過が一層抑制される。そのため、高分子で構成されていてもプロトン伝導性有機材料内に隙間が形成され難いので、イオン化しない水素ガス等は透過させない。したがって、使用中の変形や水素ガス等の透過が生じ難い固体電解質が得られる。しかも、本発明では、前記多孔質支持体がセラミックスから成り且つ前記プロトン伝導性有機材料がパーフルオロスルホン酸系固体電解質材料から成ることから、一層高い特性を有する固体電解質が得られる。セラミックスは、機械的強度や耐環境性の面で支持体材料として好ましく、また、パーフルオロスルホン酸系固体電解質材料は、室温〜150(℃)程度の低温で動作させることが可能で、特に高いプロトン伝導性を有する点でプロトン伝導性有機材料として好ましい利点がある。
なお、充填率が20(%)未満では、膨潤状態でも外周面から内周面に連通したままの細孔が残ることとなる。一方、充填率が85(%)を超えると、加湿前においても細孔内の隙間が著しく小さくなる等により、加湿時に水分が細孔内に十分に浸透しないため、プロトン伝導性有機材料の適当な含水状態が得られなくなる。また、本願発明の固体電解質において「充填率」とは、多孔質支持体の全細孔容積に対して固体電解質中のプロトン伝導性有機材料が乾燥状態で占める体積の割合を意味するものである。上記「固体電解質中のプロトン伝導性有機材料」には、細孔内に充填されたものだけでなく、多孔質支持体の外周面や内周面に付着したものも含まれる。
因みに、多孔質支持体の細孔は、一般に複雑に入り組んだ形状を備えていると共に、中には内周面や外周面に連通していないもの(閉細孔)が存在するため、100(%)の充填率を実現することは困難である。そのため、例えば充填率が80(%)を超えると、多孔質支持体の表面にプロトン伝導性有機材料が膜状に固着され、充填率が増大するに従ってその膜厚も増大するが、85(%)を超えるとこれが顕著になる。したがって、その表面のプロトン伝導性有機材料がイオン等の流通抵抗となるので、充填率が高くなると、このような作用によってもイオン透過効率が低下することとなる。
ここで、好適には、前記プロトン伝導性有機材料の充填率は、30〜70(%)の範囲内の値である。70(%)以下の充填率であれば、プロトン伝導性有機材料の非膨潤状態において多孔質支持体の全体に亘って細孔の内壁面とプロトン伝導性有機材料との間に十分な大きさの隙間が形成されるので、充填されたプロトン伝導性有機材料の全体を一層確実に含水させることができる。一方、30(%)以上の充填率であれば、含水して膨潤させられた状態において細孔の内壁面とプロトン伝導性有機材料との間に隙間が残らないので、その隙間を気体や液体が通過することが一層確実に抑制される。
また、好適には、前記固体電解質は、前記プロトン伝導性有機材料が前記多数の細孔の内壁面に化学的に結合されたものである。このようにすれば、プロトン伝導性有機材料が細孔内に単に充填されている場合に比較して、水で膨潤したときに細孔の外に流出する可能性が減じられる。ここで、「化学的に結合」とは、イオン結合やファンデルワールス力による結合等が生じていることを意味する。例えば、多孔質支持体にプラズマやレーザ等を照射するとその表面に活性点(すなわちラジカル)が生じるので、ここにプロトン伝導性有機材料を供給すると、上記のような化学的結合が得られる。また、カップリング剤で細孔内壁面のOH基を改質し、プロトン伝導性有機材料の充填時または充填後にカップリング剤の反応基をこれと反応させることによっても、化学的結合が得られる。上記カップリング剤としては、例えばシランカップリング剤が好ましい。なお、化学的に結合していなくとも、細孔内に充填されたプロトン伝導性有機材料がその細孔を形成する骨格組織の一部を包んでいる場合など、すなわち、物理的に結合している場合などには、膨潤して流動性が高められても細孔外に流出し難い。例えば、細孔内にモノマーを導入して内部で重合させれば、物理的結合が得られる。しかしながら、これらの結合力が作用しない場合には容易に流出するが、充填されたプロトン伝導性有機材料の全体に亘って物理的結合状態を得ることは困難であるため、化学的な結合状態を実現することが好ましいのである。
また、好適には、前記多孔質支持体は、20〜70(%)の範囲内の気孔率を有するものである。このようにすれば、細孔容積が大きくなるため、固体電解質中のプロトン伝導性有機材料の量を多くすることができる。なお、気孔率が20(%)未満では、プロトン伝導性有機材料を充填できる体積が減少し、十分な性能が得られない。一方、気孔率が70(%)を超えると、支持体として十分な強度を保てない。
また、好適には、前記多孔質支持体は、0.02〜10(μm)の範囲内の平均細孔径を有するものである。このようにすれば、十分に高い機械的強度を確保しつつ十分に高い充填率を得ることが可能になる。なお、0.02(μm)未満では、細孔径が小さすぎるためプロトン伝導性有機材料を十分に充填することが困難になる。一方、10(μm)を超えると、細孔径が大きすぎるため機械的強度が低くなる。
なお、多孔質支持体の外径寸法、内径寸法、長さ寸法は、用途に応じて適宜定められるものであり、特に限定されない。また、筒状であれば断面形状は特に限定されないが、例えば円筒状や角筒状のものが好適に用いられる。また、多孔質支持体は、一端が閉じられた有底筒状を成すものに限られず、両端が開放されたものであってもよい。後者において、例えば燃料電池用途のように一端が閉じられていることが要求される使用態様においては、その両端の一方を適当な部材で封止して用いればよい。
また、前記多孔質支持体の構成材料は特に限定されないが、好適には、アルミナ、シリカ、ジルコニア、チタニア、若しくはこれらの複合材料から成るものである。
また、前記プロトン伝導性有機材料は、適宜の方法で充填され、その方法は特に限定されない。例えば、真空含浸やディップコート等で充填することができる。
なお、セラミックスから成る多孔質支持体は、その構成材料に依存するが一般に1000(℃)以上にも耐える高い耐熱性を有することから、適当な耐熱性を有するプロトン伝導性有機材料を選ぶことにより、比較的高温になる環境下でも安定して使用できる固体電解質が得られる。例えば、150(℃)程度の耐熱性を有するプロトン伝導性有機材料を用いれば、自動車用にも好適に利用し得る固体電解質型燃料電池を構成できる。なお、本発明の固体電解質は、燃料電池の他に、二次電池、エレクトロクロミック素子、大容量キャパシター、センサー等にも好適に適用される。
また、好適には、前記固体電解質を用いるに際しては、内周面および外周面に触媒層が設けられる。触媒の塗布は、プロトン伝導性有機材料の細孔内への充填と同様に、真空含浸、ディップコート等の適宜の方法で行うことができる。好適には、触媒層は、プロトン伝導性有機材料に接するように、多孔質支持体の表面や細孔内壁面に形成される。
なお、触媒の種類は用途に応じて適宜定められるものであり、例えば、燃料電池の燃料として純水素が用いられる場合には、白金触媒が好適に用いられるが、化石燃料やアルコール改質水素ガスなどのCO等の不純物を含む燃料が用いられる場合には、白金触媒のCO被毒を防止するための他の触媒、例えばルテニウム触媒等を加えることが好ましい。
例えば、白金触媒は、Pt触媒付カーボン粒子と電解質溶液とから成るスラリーを、前記プロトン伝導性有機材料が充填された前記多孔質支持体に塗布することにより設けられる。このような構造は、膜−電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)と称される。
また、好適には、前記固体電解質は、(a)各々が筒状を成し且つ外周面から内周面に連通する多数の細孔を周壁に備え且つ束ねられた複数本の多孔質セラミック支持体と、(b)それら複数本の多孔質支持体を相互に接合する無機接合材料と、(c)前記多数の細孔内に充填されたプロトン伝導性有機材料とを、含むものである。すなわち、前記多孔質支持体は、複数本が束ねられ且つ無機接合材料で相互に接合されている。
このようにすれば、複数本の多孔質セラミック支持体が相互に接合されることによって束ねられ且つその細孔にプロトン伝導性有機材料が充填されることにより、複数本の固体電解質が一体的に接合された固体電解質接合体が得られる。そのため、複数本の固体電解質を非接合状態で取り扱う場合に比較して、装置への組込み作業性等が高められる。また、前述したように、多孔質セラミック支持体でプロトン伝導性有機材料を支持した固体電解質の各々は、その多孔質セラミック支持体の材質に応じた高い強度および耐熱性を有するので、使用中の変形が好適に抑制される。このとき、多数の連通細孔に充填されているプロトン伝導性有機材料は、多孔質セラミック支持体の外周面と内周面との間でイオンを通過させるが、高分子等で構成されていても自由に膨張或いは変形できないことから組織内に隙間が形成され難いため、水素ガス等の透過が妨げられる。複数本の固体電解質は、無機接合材料で相互に接合されることから、上記効果は接合状態においても保たれる。したがって、使用中の変形や水素ガス等の透過が生じ難い固体電解質接合体が得られる。本発明の固体電解質は、好適には、このようなバンドル構造で用いられる。
上記態様において、一層好適には、前記無機接合材料は、前記複数本の多孔質セラミック支持体の周壁の相互間に備えられたものである。このようにすれば、筒状の多孔質セラミック支持体が相互に略密接した状態で接合されていることから、密接していない場合に比較して単位体積当たりの固体電解質の本数が多くなり延いては単位体積当たりのプロトン伝導性有機材料の表面積が大きくなる。そのため、イオン透過効率の一層高い固体電解質接合体が得られる。なお、多孔質セラミック支持体の相互間には、無機接合材料が存在することから、略密接した状態で接合された他の多孔質セラミック支持体との間における周壁を通した気体および液体の流通は、その無機接合材料に妨げられる。そのため、略密接状態で接合されていても、個々の固体電解質の独立性は保たれる。
また、好適には、前記複数本の多孔質セラミック支持体は、その一端または両端において支持部材を介して相互に接合されたものである。すなわち、多孔質セラミック支持体は、その支持部材に前記無機接合材料で接合される。このようにすれば、多孔質セラミック支持体の周壁に無機接合材料が設けられないことから、その全周の細孔にプロトン伝導性有機材料を充填できるため、多孔質セラミック支持体の各々におけるプロトン伝導性有機材料の表面積を大きくでき延いては固体電解質接合体全体におけるプロトン伝導性有機材料の表面積を大きくできる利点がある。このように、前記「多孔質セラミック支持体を相互に接合する」には、直接的に接合されている場合に限られず、他の支持部材を介して間接的に接合されている場合も含まれる。
また、好適には、前記固体電解質接合体は、(a)各々が筒状を成し且つ外周面から内周面に連通する多数の細孔を周壁に備えた複数本の多孔質セラミック支持体の外周面の所定位置に無機接合材料を塗布する塗布工程と、(b)前記無機接合材料が塗布された前記複数本の多孔質セラミック支持体を束ねて焼成処理を施すことによりその無機接合材料によってそれら複数本の多孔質セラミック支持体を相互に接合する焼成工程と、(c)前記相互に接合された前記複数本の多孔質セラミック支持体の前記多数の細孔にプロトン伝導性有機材料を充填する充填工程とを、含む工程により製造される。
このようにすれば、塗布工程および焼成工程を経て複数本の多孔質セラミック支持体が無機接合材料で相互に接合された後に、充填工程においてそれら複数本の多孔質セラミック支持体の周壁に備えられた多数の細孔にプロトン伝導性有機材料が充填されることによって固体電解質接合体が製造される。そのため、上述したような、取扱い性に優れ、使用中の変形や水素ガス等の透過が生じ難い固体電解質接合体が容易に得られる。
また、上記製造方法において、好適には、前記塗布工程は、前記無機接合材料を50〜300(Pa・s)の範囲内の粘度で塗布するものである。このようにすれば、無機接合材料が適度な粘度で塗布されることから、細孔内への適度な染み込み状態が得られるので、高い接合強度が得られる。なお、50(Pa・s)未満では、粘度が低すぎることから、多孔質セラミック支持体の表面で必要以上に広がるので、プロトン伝導性有機材料の充填面積が小さくなると共に、ガラス成分が少ないことから接合部分において十分に細孔内にガラス成分が入り込まないので、気密性や液密性が低くなる。また、300(Pa・s)を超えると、粘度が高すぎることから、多孔質セラミック支持体の細孔内に染み込み難くなるため接合強度が低くなると共に気密性や液密性が低くなる。なお、上記粘度は、例えば単一円筒型回転粘度測定法による測定値である。
また、好適には、前記多孔質セラミック支持体は、前記外周面の所定位置が算術平均粗さRaで3(μm)以下の表面粗さを有するものである。このようにすれば、その外周面が十分に平滑に構成されるので、十分な気密性や液密性を以て多孔質セラミック支持体が相互に接合される。そのため、気体や液体が接合部分から漏れることが抑制され、固体電解質の各々の特性が好適に発揮される。例えば、燃料電池の電解質に用いられ、固体電解質の各々で構成される単電池が直列に接続された場合には、単電池で得られる電圧に固体電解質の本数を乗じた電圧が得られることになる。
また、好適には、前記無機接合材料は、ガラスである。このようにすれば、固体電解質の使用温度における耐熱性を確保しつつ、多孔質セラミック支持体を気密性や液密性を以て容易に接合できる。
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明の一実施例の固体電解質10が適用された膜−電極接合体(MEA)12の一端部を示す図である。固体電解質10は円筒形状を成すものであり、その外周面および内周面には触媒層14,16が固着されている。
上記固体電解質10は、図2(a)に断面構造を拡大して模式的に示すように、基材である円筒状の多孔質セラミック支持体(以下、支持体という)18と、その外周面20から内周面22に連通する多数の細孔24内に充填されたプロトン伝導性有機材料26とから構成されている。上記支持体18は、例えばアルミナから成るものであって、外径φ1(mm)×内径φ0.6(mm)×長さ100(mm)Lの寸法を備え、平均細孔径が0.7(μm)程度の微細な細孔24を多数備えることにより、例えば35(%)程度の気孔率に構成された多孔質体である。なお、この図2(a)においては、説明の便宜上、細孔24を大きく且つ単純な形状に描いているが、実際には、極めて細く且つ複雑に屈曲し複数本が互いに入り組んだ形状を備えている。
また、上記プロトン伝導性有機材料26は、例えば、パーフルオロスルホン酸系樹脂(例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)DE1020)から成るものであって、細孔24内に、その全容積の例えば50(%)程度の充填率で充填されている。このプロトン伝導性有機材料26は、細孔24内に単に充填されているだけであるが、例えば細孔24の内壁面にイオン結合等で化学的に結合させられ、或いは、図2(b)に示すように、多孔質の支持体18の骨格組織の一部を包んでいれば、後述するように水で膨潤した場合にも細孔24の外に流出する可能性が減じられるので一層好ましい。なお、図2(a)においては、プロトン伝導性有機材料26が細孔24内のみに描かれているが、実際には、外周面20にも10(μm)以下の僅かな厚さ寸法で付着している。
また、前記触媒層14,16は、例えば何れもPt担持カーボンから成るものであって、それぞれ例えば0.5(mg/cm2)程度のPt担持密度で設けられている。これら触媒層14,16は、カーボンを含むことから固体電解質10の外周面および内周面にイオン伝導性を与えており、MEA12の電極として機能する。なお、図示はしないが、触媒層14,16の一部は細孔内面にも形成されている。
図3は、上記のMEA12を用いた燃料電池の構成例を模式的に示す図である。このMEA12は、例えば内周側(触媒層16側)を燃料極すなわちアノードとし、外周側(触媒層14側)を空気極すなわちカソードとして用いられる。このように装置内に組み込むに際して、本実施例のMEA12によれば、多孔質アルミナから成る支持体18にプロトン伝導性有機材料26が充填された構造とされていることから、プロトン伝導性有機材料26のみで構成されている場合に比較して破損し難く、取扱いが容易である。また、使用中に温度が上昇しても、その構造が壊れ、或いは変形することもない。燃料電池を作動させるに際しては、先ず、MEA12を加湿することにより、細孔24内に充填されているプロトン伝導性有機材料26を含水させ、これを膨潤させて細孔24内に充満させると共にイオン伝導性を発現させる。前述したようにプロトン伝導性有機材料26の充填率は50(%)程度であるため、水分が容易に細孔24内に入り込み、プロトン伝導性有機材料26を含水させるのである。
次いで、燃料供給源28から燃料として例えば水素が加湿槽29を経由してアノードに供給される。水素および水がアノード側に供給されると、触媒層16上で下記(1)式の酸化反応が生じ、プロトンH+と電子e-が発生する。プロトンはプロトン伝導性有機材料26内を通ってカソード側に向かって流れ、電子は触媒層16に接続された図示しない端子から取り出され、外部回路を経由して負荷30に流れる。負荷30に供給された電子は、更に外部回路を経由してカソード側に向かう。そして、触媒層14上において、プロトンおよび電子が、酸素供給源32から加湿槽31を経由して供給された酸素および水との間で下記(2)式の還元反応を発生させる。なお、水素に代えてメタノールを供給してもよく、その場合の酸化反応は(3)式の通りである。
3H2 → 6H+ + 6e- ・・・(1)
3/2O2 + 6H+ + 6e- → 3H2O ・・・(2)
CH3OH + H2O → 6H+ + CO2 + 6e- ・・・(3)
図4は、上記単セルの燃料電池の出力特性を測定した結果を示す図である。測定は、例えば東陽テクニカ製燃料電池測定システムを用い、MEA12の温度、配管温度、加湿槽(図3参照)温度を何れも80(℃)に保持し、H2流量およびO2流量を何れも500(ml/min)とした。負荷を調節することにより電流を変化させつつ測定したところ、図4に示されるように、最大で35(mW/cm2)程度の出力密度が得られることが判った。平板型燃料電池の出力密度は例えば1(W/cm2)程度であり、これに比べると著しく低い値であるが、MEA12を用いた燃料電池は多数のセルを結合して用いるときの容積の増大の程度が平板型のものに比較して著しく小さいため、多数本のMEA12を用いることで従来の平板型燃料電池を上回る出力密度を得ることが可能である。
図5は、図1のMEA12の製造方法の要部を説明する工程図である。多孔質支持体作製工程P1では、例えば、市販のアルミナ原料を用意して、適宜の成形方法、例えば押出成形法を用いて、前記の支持体18を作製する。
次いで、プロトン伝導性有機材料含浸工程P2では、プロトン伝導性有機材料26を溶媒に溶解した溶液、例えばNafion溶液(デュポン社製DE1020)を用意し、例えば、支持体18をNafion溶液に浸漬することでこれを含浸する。溶液に支持体18を浸漬したまま15分間程度真空吸引した後、例えば80(℃)程度で15分間程度の乾燥処理を施す。Nafion溶液には例えば溶媒が90(%)程度の割合で含まれていることから、乾燥処理を施すと細孔24の内壁面に僅かに樹脂が付着した状態となる。そのため、例えば50(%)程度の必要な充填率が得られるまで、上記の含浸、吸引、乾燥の各処理が繰り返される。
なお、上記のプロトン伝導性有機材料含浸工程P2に先立ち、シランカップリング剤等のカップリング剤で細孔表面のOH基を改質し、プロトン伝導性有機材料26を含浸、重合することでカップリング剤の反応性基をプロトン伝導性有機材料26と化学的に結合させることもできる。このようにすれば、プロトン伝導性有機材料26が膨潤した際にもその化学的な結合力によって細孔外に流出することが好適に抑制される。前述したようなプロトン伝導性有機材料26と細孔24の内壁面との化学的な結合状態は、例えばこのようにして実現される。
次いで、触媒塗布工程P3においては、例えば、白金触媒を担持したカーボンを上記のNafion溶液に適当な割合で混合した分散液を用意し、上記のプロトン伝導性有機材料26を含浸した支持体18をディップコートする等により、外周面20および内周面22に触媒を塗布する。これに乾燥処理を施すことにより、塗布された溶液から溶剤を揮発させて除去すれば、前記MEA12が得られる。
図6は、上記プロトン伝導性有機材料含浸工程P2におけるプロトン伝導性有機材料26の充填率と、前記燃料電池(図3参照)の出力密度との関係を測定した結果を示す図である。図6に示されるように、充填率が低い間は、出力密度が著しく低い値に留まるが、10(%)程度を越えると、出力密度が急激に増加し、20(%)程度に変曲点が見られる。これは、低充填率の間はプロトンを導くプロトン伝導性有機材料26の量が不十分であると共に、細孔24の内壁面とプロトン伝導性有機材料26の間に著しく大きな隙間が存在することから、加湿される使用時においてもその隙間が残存して、酸化されることなくプロトン伝導性有機材料26を通過する水素ガスが生じることに起因するものと考えられる。
充填率が20(%)を超え、例えば28(%)程度に達すると、出力密度は略飽和し、本実施例の構成において30(mW/cm2)以上になる。73(%)程度の充填率までは30(mW/cm2)以上の出力密度に保たれ、これを超え、例えば変曲点である85(%)程度の充填率を超えると、出力密度が急激に低下する。すなわち、30〜70(%)程度の範囲で30(mW/cm2)を超える高い出力密度が得られる。充填率が大きくなりすぎると出力密度が低下するのは、例えば80(%)程度になると細孔24内に水が入り難くなってプロトン伝導性有機材料26のイオン伝導性が低下することと、85(%)を超えるような充填率では、支持体18の外周面20に形成されるプロトン伝導性有機材料26の膜厚が増大することから、これがプロトンの流通抵抗になるためと考えられる。
図7〜図9は、図6のような特性を示す理由を説明するための模式図である。図7は、支持体18が用いられておらず、プロトン伝導性有機材料26のみで筒状の固体電解質を構成した場合を表している。一点鎖線は水で膨潤させられる前のプロトン伝導性有機材料26の輪郭を示しており、加湿により膨潤させられると、何ら拘束するものが存在しないため、実線で示されるように体積が増大する。このような状態では、プロトン伝導性有機材料26自体が水だけでなく水素も透過させる性質を有することから、供給された水素が有効に利用されず、効率が低下する。すなわち、十分な出力密度が得られない。
また、図8は、支持体18が用いられ、その細孔24内にプロトン伝導性有機材料26が充填された本実施例の構成において、その充填率が例えば40〜60(%)程度の場合を表している。プロトン伝導性有機材料26の輪郭を一点鎖線で示す加湿前の状態では、比較的大きな隙間が細孔24の内壁面との間に存在するので、水が容易に細孔内部まで入り込みプロトン伝導性有機材料26を膨潤させる。このとき、プロトン伝導性有機材料26が細孔24の内壁面に押し付けられるまで膨潤した後、更に水を吸収すると、水を組織内に蓄えたまま細孔24の内壁面を押圧することとなる。そのため、膨潤後、水素が供給される作動時においては、細孔24の内壁面によって圧迫されているプロトン伝導性有機材料26内を水素は透過し得ないので、供給された水素が有効に利用され、出力密度が高められる。
また、図9は、プロトン伝導性有機材料26が細孔24内を埋め尽くすまで、すなわち例えば100(%)充填された状態を示している。この状態では、水素が透過してしまう問題は生じないが、加湿しても水が細孔24の内部まで浸透できないので、そのイオン伝導性が十分に高められない。そのため、出力密度が得られなくなる。
したがって、水素(燃料としてメタノールが用いられる場合にはメタノール)が透過することを防止して効率延いては出力密度を高めるためには、細孔24に充填する構造とすることが必須であり、一方、充填率が低すぎればそのような構造とする効果が未だ得られず、更に、充填率が高すぎると、プロトン伝導性有機材料26の特性が発揮されない。20〜85(%)の充填率の範囲であれば、充填構造とすることによりメタノールや水素の透過を好適に抑制しつつ、プロトン伝導性有機材料26の特性を発揮させることができる。
要するに、本実施例においては、多孔質アルミナから成る支持体18でプロトン伝導性有機材料26を支持した固体電解質10は、その支持体18の材質に応じた高い機械的強度および耐熱性を有するので、使用中の変形が好適に抑制される。このとき、細孔24に充填されているプロトン伝導性有機材料26は、支持体18の外周面20と内周面22との間でプロトンを通過させるが、細孔24の内壁面に妨げられることから自由に膨張或いは変形できないので、プロトン伝導性有機材料26内に隙間が形成され難いため、イオン化しない水素ガスやメタノール等は透過させない。したがって、使用中の変形や水素ガス等の透過が生じ難いMEA12が得られる。
また、本実施例によれば、プロトン伝導性有機材料26は使用時に含水させられることによって良好なイオン伝導性が発現することから加湿状態で使用されるが、前述したように50(%)程度の適度な充填率で充填されていることから、含水により膨潤させられると、細孔24内において膨潤前に生じていた隙間が塞がれるので、水素ガス等の透過が一層抑制される。
次に、本発明の他の実施例を説明する。
図10は、複数本の固体電解質10が一面に互いに平行に並ぶように接合された固体電解質接合体33が適用されたMEA接合体36の端面を表している。このMEA接合体36は、それぞれ固体電解質10を備えた複数本のMEA34が接合されたものである。個々の固体電解質10は、前記MEA12の場合と略同様に構成されているが、固体電解質10の支持体18は、隣に位置する支持体18に例えばシリカ系ガラス等から成るガラス層38で接合されることによって一体化させられている。この固体電解質10は、前記MEA12の場合と同様に、支持体18の細孔24にプロトン伝導性有機材料26が充填されると共に、その外周面20および内周面22に触媒層14,16がそれぞれ設けられたものである。但し、外周面20の触媒層14は、ガラス層38で接合されている部分には設けられておらず、MEA接合体36の各MEA34から別々に電流を取り出せるよう形成されている。
上記のMEA接合体36は、例えば各MEA34のカソードおよびアノードを直列に接続し、各々の内周面に別々の配管を接続して水素ガスを供給すると共に、外周面に酸素を供給して用いられる。図11は、5本のMEA34が接合されたMEA接合体36を用いてその発電特性を評価した結果を表したものである。このように複数本のMEA34が接合されたモジュールにおいては、前記の単セルの測定値に対して直列接続本数を乗じた値すなわち5倍程度の電圧が得られ、しかも、最大で180(mW)程度の高い出力が得られる(出力密度は30(mW/cm2)程度)。すなわち、ガラス層38によって接合されたMEA34相互のガス流通等が無く、各セルの気密性延いては独立性が保たれている。
図12は、図10の固体電解質接合体の製造工程の要部を説明する工程図である。この製造工程において、多孔質支持体作製工程R1、プロトン伝導性有機材料含浸工程R4、および触媒塗布工程R5は、前記実施例の工程P1、P2、P3と同様であるので、相違点を説明する。ガラスペースト塗布工程R2においては、作製した支持体18の外周面の周方向の一部に、ガラスペーストを塗布する。支持体18の外周面20は、例えばRaで2(μm)程度の比較的良好な表面粗さに仕上げられている。また、上記のガラスペーストは、例えばシリカ系ガラス粉末を有機溶剤中に分散させて、例えば100(Pa・s)程度の適当な粘度に調節したものである。この塗布工程において、ガラスペーストはその一部が支持体18の細孔24内に浸透しているが、大部分は塗布位置に残留して、外周面20で殆ど広がってはいない。
次いで、焼成工程R3においては、上記ガラスペーストを塗布した複数本の支持体18を、ガラスペーストを介して相互に密接した状態で焼成用セッターの一面に並べ、焼成炉に入れる。並べる本数は接合しようとする本数、例えば5本である。また、焼成温度は950(℃)、保持時間は2時間とした。これにより、上記ガラスペーストが溶融させられ、生成されたガラス層38で支持体18が相互に接合される。このようにして一部が細孔24内に浸透したガラス層38によって接合されることから、支持体18は強固に接合されている。なお、この説明から明らかなように、ガラスペーストは、前記図10に示されるガラス層38の形成される周方向位置に、その軸心方向の全長に亘って塗布される。図13に、焼成工程R3を経て得られた支持体接合体40を示す。
プロトン伝導性有機材料含浸工程R4は、このようにして接合された支持体接合体40に対して施される。この工程R4において、プロトン伝導性有機材料26は、支持体18の外周面20のうちガラス層38で覆われていない部分の全面から浸透し、その細孔24を略閉塞する。すなわち、膨潤させられた場合に細孔24が塞がれた状態とする。ガラス層38で覆われた部分にはプロトン伝導性有機材料26が充填されないが、その細孔24はそのガラス層38で塞がれていることから、プロトン伝導性有機材料26が充填された後においては、プロトン伝導性有機材料26またはガラス層38で全ての細孔24が実質的に閉じられており、5本の支持体18の外周面20および内周面22は連通させられていない。すなわち、相互の気体流通は生じないように接合されている。なお、「実質的に」とは、「加湿される使用時において」との意味であり、非加湿状態においては、プロトン伝導性有機材料26の充填率に応じた隙間が細孔24の内壁面との間に残存している。
次いで、触媒塗布工程R5においては、例えば、白金触媒を担持したカーボンを上記のNafion溶液に適当な割合で混合した分散液を用意し、上記のプロトン伝導性有機材料26を含浸した支持体接合体40のガラス封止部をシールしたものをディップコートする等により、外周面20および内周面22に触媒を塗布する。これに乾燥処理を施すことにより、塗布された溶液から溶剤を揮発させて除去すれば、前記MEA接合体36が得られる。すなわち、固体電解質接合体33の外周面のうちガラス層38が設けられていない部分に断続的に触媒層14が設けられた構造が得られる。なお、触媒層14は、ガラス層38に僅かに重なるように形成されており、固体電解質接合体33の外周面は露出していない。
下記の表1は、ガラス層38を形成する際のペースト粘度とガス透過性との関係を評価した結果を示したものである。ガス透過性は、前記図10に示されるようにプロトン伝導性有機材料26を充填し、触媒層14,16を設けた状態で、使用状態と同様に内部から例えば0.4(MPa)程度の圧力でガスを供給して評価した。表1において、○はガスの透過が0.1(ml/min/cm2)未満、△は0.3(ml/min/cm2)未満、×は0.4(ml/min/cm2)以上であることをそれぞれ表している。○印、すなわちガスの透過が0.1未満のものは、ガラス層38が支持体18の細孔24に適度に染みこんでいると共に、内部から加圧してもガラス層38の剥離が生じない。また、△印すなわちガスの透過が0.3未満のものは、僅かにガスの透過が認められるが、実用レベルである。この程度のガス透過は、ガラス層38による接合部分以外からの漏れと考えられる。×印すなわち0.4以上では、単セルの開放電圧も例えば0.9(V)未満と低く、使用困難である。
図14は、支持体18の外周面20の面粗度と5本の支持体18を接合したMEA接合体36を用いて燃料電池を構成した場合における開放電圧との関係を示す図である。図14において実線がガラスペーストの粘度を100(Pa・s)とした場合、破線が200(Pa・s)とした場合の測定値を表している。何れの粘度においても、面粗度がRaで3(μm)以下の範囲であれば、開放電圧が4.5(V)に保たれるが、これを超えると急激に低下する。上記開放電圧は、単セルの場合の開放電圧0.9(V)の5倍の値であり、5セルを接続したMEA接合体36においてこのような値が得られたのは、各MEA34からのガスリークが生じていないことを意味する。すなわち、3(μm)Ra以下の面粗度にすれば、好適な接合状態が得られることが判る。
以上説明したように、本実施例によれば、複数本の支持体18が相互に接合されることによって束ねられ且つその細孔にプロトン伝導性有機材料26が充填されることにより、複数本のMEA34が一体的に接合されたMEA接合体36が得られる。そのため、複数本のMEA12を非接合状態で取り扱う場合に比較して、装置への組込み作業性等が高められる。また、前述したように、支持体18にプロトン伝導性有機材料26を充填した構造により水素ガス等の透過が好適に妨げられるが、複数本のMEA34は、ガラス層38で相互に接合されることから、上記効果は接合状態においても保たれる。したがって、使用中の変形や水素ガス等の透過が生じ難いMEA接合体36が得られる。
しかも、本実施例においては、ガラス層38が支持体18の周壁の相互間に備えられていることから、筒状の支持体18が相互に略密接した状態で接合されているため、密接していない場合に比較して単位体積当たりのプロトン伝導性有機材料26の量が多くなる。そのため、イオン透過効率の一層高いMEA接合体36が得られる。
また、本実施例によれば、ガラスペースト塗布工程R2において、ガラスペーストが100(Pa・s)程度の粘度で塗布されることから、細孔24内への適度な染み込み状態が得られるので、高い接合強度が得られ、ガスリークも抑制される。
また、本実施例によれば、支持体18の外周面20がRaで2(μm)程度の表面粗さに仕上げられていることから、十分な気密性を以て支持体18が相互に接合される。そのため、接合部分からのガスリークが一層抑制される。
以上、本発明を図面を参照して詳細に説明したが、本発明は更に別の態様でも実施でき、その主旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得るものである。