以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る変速機の変速制御装置およびその周辺機器の構成を示すブロック図である。自動二輪車に適用される変速機1は、相互に平行な軸線を有してエンジンケース(不図示)に回転自在に支承される入力軸としてのメインシャフト2と、出力軸としてのカウンタシャフト4との間に、回転駆動力を伝達する第1〜第6速用の変速ギヤ対を備えている。なお、シフトドラムを間欠回転させることで変速ギヤ対を順次的に切り換える常時噛み合い式の変速機1は、自動二輪車用のシーケンシャル式多段変速機として周知一般の構成を有する。
変速機1のメインシャフト2と、動力源であるエンジンのクランクシャフト(不図示)との間には、エンジンの回転駆動力の断接状態を切り換えるクラッチ6が設けられている。エンジンの回転駆動力は、クランクシャフトに固定されているプライマリ駆動ギヤ(不図示)と噛合されるプライマリ従動ギヤ5から、クラッチ6を介してメインシャフト2に伝達される。そして、メインシャフト2に伝達された回転駆動力は、後述する変速機構10によって選択された1つの変速ギヤ対を介して、カウンタシャフト4に伝達される。このカウンタシャフト4の一端部にはドライブスプロケット3が固定されており、該ドライブスプロケット3に巻き掛けられるドライブチェーン(不図示)を介して、駆動輪としての後輪(不図示)にエンジンの回転駆動力が伝達される。
クラッチ6は、プライマリ従動ギヤ5に固定されると共に複数の駆動摩擦板を保持するクラッチアウタと、メインシャフト2に固定されると共に駆動摩擦板と接触して摩擦力を生じさせる被動摩擦板を保持するクラッチインナと、メインシャフトに軸方向移動自在に取り付けられた加圧板16(図2参照)とから構成されている。この加圧板16は、クラッチばねの弾発力によって図示左方に常時押圧されており、この押圧力によって、駆動摩擦板と被動摩擦板との間にエンジンの回転駆動力を伝達可能な摩擦力が生じている。
また、加圧板16は、メインシャフト2を貫通するプッシュロッド7を摺動させることで軸方向に移動可能とされている。これにより、クラッチ6は、プッシュロッド7が摺動されない時は接続状態にあり、一方、プッシュロッド7が前記クラッチばねの弾発力に抗する力で押圧されて図示右方に摺動すると、駆動摩擦板と被動摩擦板とが互いに離間する方向に加圧板16が移動して、クラッチ6が切断方向へ作動することとなる。このとき、プッシュロッド7に加える押圧力を調整することで、接続状態と切断状態との間の半クラッチ状態を得ることもできる。プッシュロッド7は、エンジンケースに固定されているクラッチスレーブシリンダ8の油圧ピストン9の端部に当接しており、油路123に所定の油圧が供給されることによって、油圧ピストン9がプッシュロッド7を図示右方に押圧するように構成されている。
回転駆動力を伝達する1つの歯車列を選択する変速機構10は、変速機1と同様にエンジンケースの内部に収納されている。変速機構10は、自動二輪車の車体に揺動可能に取り付けられたシフトペダル(不図示)を乗員が操作し、このシフト操作時に与えられる操作力によってシフトドラム42を回動させて、変速動作を実行するものである。本実施形態において、乗員が左足で操作するシフトペダルは、シフトスピンドル50の一端部に固定されたシフトレバー51に連結されている。
中空円筒状のシフトドラム42の表面には、第1〜第3シフトフォーク37,38,39の一端側とそれぞれ係合する3本の係合溝が形成されている。また、第1〜第3シフトフォーク37〜39の他端側は、メインシャフト2およびカウンタシャフト4に対して軸方向に摺動可能に取り付けられた3つの摺動可能変速ギヤにそれぞれ係合されている。そして、シフトドラム42が回動されると、第1〜第3シフトフォーク37〜39が各変速段に応じた軸方向の所定位置に摺動して、摺動可能変速ギヤと該摺動可能変速ギヤに隣接する変速ギヤとの間に配設されているドグクラッチの断接状態が切り換えられる。これにより、エンジンの回転駆動力を伝達する変速ギヤ対が選択的に切り換えられて、変速動作が実行されることとなる。なお、上記したドグクラッチは、複数のドグ歯(凸部)とドグ孔(凹部)とが軸方向で噛合することにより、同軸上で隣接する歯車間で回転駆動力の伝達を行う周知一般の機構である。
変速機構10には、シフトドラム42の回転角を検知する回転角検知手段としてのギヤポジションセンサ92、シフトドラム42がニュートラル位置にある時にオン状態となって変速機1のニュートラル状態を検知するニュートラルスイッチ110、シフトスピンドル50の回動量を検知するシフトスピンドル回動量センサ100が設けられている。なお、前記ギヤポジションセンサ92によれば、シフトドラムの回転角(回動量)に基づいて変速機1の変速段位を検知することができる。
前記クラッチスレーブシリンダ8に油圧(液圧)を供給する液圧モジュレータ20は、アクチュエータとしてのモータ21によって駆動される。ドライバ116からの駆動信号に基づいてモータ21が駆動されると、回転軸22に係合されたウォームギヤ26が回転する。このウォームギヤ26には、揺動軸27を中心にして回動するウォームホイール28が歯合されており、このウォームホイール28の一端が、揺動軸27を中心に揺動可能な揺動部材23に当接することにより回動し、この揺動部材23の一端部のローラが第1油圧ピストン24に当接している。この構成により、モータ21を所定方向に回転駆動させると、揺動部材23の一端部が第1油圧ピストン24を押圧して、油路123に油圧を発生させることが可能となる。
一方、本実施形態においては、自動二輪車の左側ハンドル(不図示)に取り付けられ、乗員が左手で操作するクラッチマスタシリンダ30が設けられている。クラッチマスタシリンダ30は、乗員がクラッチレバー31を握ることで、油圧ピストン32が押圧されて油路124に油圧を発生するように構成されている。油路124は、液圧モジュレータ20に接続されており、油路124に所定の油圧が発生すると、液圧モジュレータ20に内装された第2油圧ピストン25が押圧されるように構成されている。この第2油圧ピストン25の一端部は、前記した揺動部材23の他端側のローラに当接するように配設されている。揺動部材23は、ウォームホイール28と別個独立して揺動して第1油圧ピストン24を押圧可能に設けられている。これにより、第2油圧ピストン25が押圧されるとモータ21の作動状態に関わらず第1油圧ピストン24が押圧されることとなり、乗員の操作を優先して油路123に油圧を生じさせることが可能となる。
液圧モジュレータ20には、ウォームホイール28の回動量を検知するウォームホイール回動量センサ117と、油路123に発生する油圧を検知する油圧センサ118とが設けられている。また、クラッチマスタシリンダ30には、クラッチレバー31の操作量を検知するクラッチ操作量センサ119が設けられている。
ECU120には、乗員のスロットル操作に連動するスロットル開度を検知するスロットル開度センサ113、自動二輪車の車速を検知する車速センサ114、エンジンの回転数を検知するエンジン回転数センサ115からの信号が入力されるほか、変速機構10に設けられているシフトペダル操作量検知手段としてのシフトスピンドル回動量センサ100、ギヤポジションセンサ92およびニュートラルスイッチ110、さらに、液圧モジュレータ20に設けられているウォームホイール回動量センサ117および油圧センサ118からの信号がそれぞれ入力される。ECU120は、上記した各種センサからの信号に基づいて、点火装置111、燃料噴射装置112、ドライバ116をそれぞれ駆動制御する。
上記した構成によれば、シフトドラムの回動動作を乗員による操作力で行うと共に、クラッチのみを自動的に断接制御することで、クラッチ操作を不要としたマニュアルシフト操作が可能となる。これにより、シフトドラムの回動動作もモータで実行するようにした自動変速機とは異なり、シフトペダルによって実際にシフトドラムを回動させる操作感を得ることが可能となる。
図2は、変速機1および変速機構10の断面図である。また、図3は、変速機構10の拡大断面図である。変速機1は、メインシャフト2とカウンタシャフト4との間に、第1〜第6速用歯車列G1〜G6を有している。第1〜第6速用歯車列G1〜G6はエンジンケース12に収納される。メインシャフト2の端部には、クランクシャフトからの回転駆動力の断接を切り換えるクラッチ6が設けられている。
クラッチ6は、クランクシャフトからプライマリ従動ギヤ5およびトルクダンパ77を介して動力が伝達されるクラッチアウタ71と、該クラッチアウタ71内の中心部に配置されてメインシャフト2に相対回転不能に結合されるクラッチインナ72と、クラッチアウタ71の内周壁に軸方向摺動可能にスプライン嵌合される複数枚の駆動摩擦板34と、該駆動摩擦板34と交互に重ねられると共にクラッチインナ72の外周に軸方向摺動可能にスプライン嵌合される複数枚の被動摩擦板33と、最も内側(図示左方側)の駆動摩擦板34に当接してクラッチインナ72の内端に一体に設けられる受圧板11と、最も外側の駆動摩擦板34を押圧可能としてクラッチインナ72の外端に摺動可能に取り付けられる加圧板16と、該加圧板16を受圧板11側に向けて付勢するクラッチばね13とを備える。
そして、駆動摩擦板34および被動摩擦板33が、クラッチばね13の付勢力によって加圧板16および受圧板11の間に狭持されると、クラッチ6は、クラッチアウタ71およびクラッチインナ72間を相互に摩擦連結する接続状態となる。
クラッチインナ72の中心部には、加圧板16との間にレリーズベアリング14を介在させたレリーズ部材15が配置されており、このレリーズ部材15に、メインシャフト2内に軸方向移動可能に挿入されるプッシュロッド7が連接されている。前記したように、プッシュロッド7の端部にはクラッチスレーブシリンダ8が当接しており、液圧モジュレータ20が駆動されることでプッシュロッド7が押されると、加圧板16はクラッチばね13のばね力に抗して後退せしめられ、各駆動摩擦板34および各被動摩擦板33が自由状態となる。これにより、クラッチ6は、クラッチアウタ71およびクラッチインナ72間を非連結として回転駆動力を伝達しない切断状態となる。
クラッチ6とは反対側のカウンタシャフト4の一端部は、エンジンケース12から突出されており、このエンジンケース12からのカウンタシャフト4の突出端部に駆動スプロケット3が固定されている。ドライブスプロケット3は、ドライブチェーン18と共に伝動手段19の一部を構成するものであり、カウンタシャフト4から出力される動力は、伝動手段19を介して図示しない後輪(駆動輪)に伝達される。
第1速用歯車列G1は、メインシャフト2に一体に形成された第1速用駆動歯車73と、カウンタシャフト4に相対回転自在に装着されて第1速用駆動歯車73に噛合する第1速用被動歯車74とからなる。第2速用歯車列G2は、メインシャフト2に相対回転不能に装着される第2速用駆動歯車96と、カウンタシャフト4との相対回転を可能としつつ第2速用駆動歯車96に噛合する第2速用被動歯車97とからなる。また、第3速用歯車列G3は、メインシャフト2との相対回転を不能とした第3速用駆動歯車84と、カウンタシャフト4に相対回転を可能に装着されて第3速用駆動歯車84に噛合する第3速用被動歯車85とからなる。
また、第4速用歯車列G4は、メインシャフト2との相対回転を不能とした第4速用駆動歯車82と、カウンタシャフト4に相対回転を可能として装着されて第4速用駆動歯車82に噛合する第4速用被動歯車83とからなる。さらに、第5速用歯車列G5は、メインシャフト2に相対回転を可能として装着される第5速用駆動歯車75と、カウンタシャフト4との相対回転を不能としつつ第5速用駆動歯車75に噛合する第5速用被動歯車76とからなる。そして、第6速用歯車列G6は、メインシャフト2に相対回転を可能として装着される第6速用駆動歯車94と、カウンタシャフト4との相対回転を不能としつつ第6速用駆動歯車94に噛合する第6速用被動歯車95とからなる。
第5速用駆動歯車75および第6速用駆動歯車94の間のメインシャフト2には、第5・6速切換用シフタ91が軸方向の摺動を可能としてスプライン嵌合されている。また、第3速用駆動歯車84は第6速用駆動歯車94に対向するようにして第5・6速切換用シフタ91に一体に形成され、第4速用駆動歯車82は、第5速用駆動歯車75に対向するようにして第5・6速切換用シフタ91に一体に形成される。また、第1速用被動歯車74および第4速用被動歯車83間でカウンタシャフト4には、第5速用被動歯車76が一体に形成される第1・4速切換用シフタ35が軸方向の摺動を可能としてスプライン嵌合され、第2速用被動歯車97および第3速用被動歯車85間でカウンタシャフト4には、第6速用駆動歯車95が一体に形成される第2・3速切換用シフタ36が軸方向の摺動を可能としてスプライン嵌合される。
第5・6速切換用シフタ91を軸方向に摺動して第5速用駆動歯車75に係合させたときには、第5速用駆動歯車75が、第5・6速切換用シフタ91を介してメインシャフト2に相対回転不能に連結され、第5速用歯車列G5が回転駆動力を伝達する歯車列として選択される。また、第5・6速切換用シフタ91を軸方向に摺動して第6速用駆動歯車94に係合させると、第6速用駆動歯車94が第5・6速切換用シフタ91を介してメインシャフト2に相対回転不能に連結されて第6速用歯車列G6が選択される。
また、第1・第4速切換用シフタ35を軸方向に摺動して、第1速用被動歯車74に係合させたときには、第1速用被動歯車74が第1・4速切換用シフタ35を介してカウンタシャフトに相対回転不能に連結されて、第1速用歯車列G1が選択される。また、第1・第4速切換用シフタ35を軸方向に摺動して、第4速用被動歯車83に係合させたときには、第4速用被動歯車83が第1・第4速切換用シフタ35を介してカウンタシャフト4に相対回転不能に連結されて、第4速用歯車列G4が選択される。
第2・3速切換用シフタ36を軸方向に摺動して第2速用被動歯車97に係合させたときには、第2速用被動歯車97が第2・3速切換用シフタ36を介してカウンタシャフト4に相対回転不能に連結され、第2速用歯車対G2が選択される。また、第2・3速切換用シフタ36を軸方向に摺動して第3速用被動歯車85に係合させたときには、第3速用被動歯車85が第2・3速切換用シフタ36を介してカウンタシャフト4に相対回転不能に連結され、第3速用歯車対G3が選択される。
各シフタと隣り合う歯車との係合は、ドグ歯(35a,35b,36a,36b…)とドグ孔(74c,83c,85c,97c…)とからなるドグクラッチによって実行される。例えば、第1速用歯車対G1を選択する際には、第1・4速切換用シフタ35の側面部に形成された4つのドグ歯35aが、第1速用被動歯車74の側面部に形成された4つのドグ孔74cに噛合して回転駆動力を伝達するように構成されている。
第5・6速切換用シフタ91は第1シフトフォーク37に回転可能に保持され、第1・4速切換用シフタ35は第2シフトフォーク38に回転可能に保持され、また、第2・3速切換用シフタ36は第3シフトフォーク39に回転可能に保持されている。
図3を参照して、エンジンケース12には、第1および第2シフトフォーク軸40,41と平行な軸線を有するシフトドラム42が回動可能に支承されており、このシフトドラム42の外面に設けられる3つの係合溝43,44,45に、第1〜第3シフトフォーク37,38,39がそれぞれ係合されている。第1シフトフォーク37は、メインシャフト2およびカウンタシャフト3と平行な軸線を有してエンジンケース12に支持された第1シフトフォーク軸40に、軸方向にスライド可能に支承されている。また、第2および第3シフトフォーク38,39は、第1シフトフォーク軸40と平行に支持された第2シフトフォーク軸41に、軸方向にスライド可能に支承されている。
シフトドラム42の係合溝43〜45は、シフトドラム42の回動位置に応じて第1および第2シフトフォーク軸40,41上での第1〜第3シフトフォーク37〜39の位置を定めるように形成されている。そして、シフトドラム42が回動することにより、その回動位置に応じて回転駆動力を伝達する1つの変速ギヤ対が選択されることとなる。なお、各変速段間におけるシフトドラム42の回動角度はそれぞれ60度に設定されており、変速動作時には、60度毎の間欠回転を行うように構成されている。
シフトドラム42の両端は、エンジンケース12に設けられた軸受孔46,47を回動自在に貫通するものであり、この軸受孔46,47の内周とシフトドラム42との間には、ボールベアリング48,49が介装されている。シフトドラム42は、シフト操作に応じたシフトスピンドル50の回動に応じて作動するシフト機構52によって回動駆動される。シフトドラム42と平行な軸線を有するシフトスピンドル50の一端部には、不図示のシフトペダルと連結されるシフトレバー51が固定されている。
シフトドラム42の一端部には、変速ギヤ段数に対応した6個の従動ピン59が植設されたシフトカム60が、作動室53にのぞむようにしてボルト61で同軸に固定されている。シフトドラム42の一端部およびシフトカム60を覆うように配置されているシフト機構52は、各従動ピン59の1つに係合して回動することで、シフトドラム42を回動駆動するように構成されている。
エンジンケース12には、シフトスピンドル50およびシフト機構52を無端状に囲む壁部12aが一体に設けられている。シフトスピンドル50の一部およびシフト機構52を収容する作動室53をエンジンケース12との間に形成するシフトカバー54は、複数のボルト55によって壁部12aに締結されている。シフトスピンドル50は、その一端をシフトカバー54から突出させてエンジンケース12およびシフトカバー54で回動可能に支承されている。シフトカバー54には、ボルト58によってギヤカバー57が取り付けられている。このギヤカバー57は、シフトカバー54との間にギヤ室56を形成するようにシフトカバー54の一部を覆うものである。
シフト機構52は、その一端部がシフトスピンドル50で回動可能に軸支されるマスターアーム64と、該マスターアーム64に対して所定方向にスライド可能に支持されるアーム65と、該アーム65をシフトスピンドル50に近接する方向に付勢する第1戻しばね66とから構成されている。
マスターアーム64の一端部には、シフトスピンドル50を囲繞する円筒状の支持筒64aが設けられており、この支持筒64aが、シフトスピンドル50に対して回動可能に軸支されている。また、マスターアーム64には、シフトスピンドル50の回転軸とシフトドラム42の回転軸とを結ぶ直線上で互いに離間した位置に、この直線方向に延びる長孔状のガイド孔が形成されている。一方、アーム65には、ガイド孔にそれぞれ挿通するピン69,70の一端が固定されており、このピン69,70の他端部には、マスターアーム64の表面に摺接する鍔部69a、70aが形成されている。この構成により、アーム65は、ピン69,70がガイド孔内で移動し得る範囲でスライド可能に支持されることとなる。また、ピン70を囲繞するように配設される第1戻しばね66は、その両端部がマスターアーム64の端部に係合されることで、アーム65をシフトスピンドル50に近接する方向に付勢する弾発力を発生させることができる。
アーム65には、ピン70の近傍で図示上方に向けられた一対の係合爪が設けられている。この係合爪は、第1戻しばね66のばね力によってアーム65がシフトスピンドル50に最も近接した位置にある時には、シフトカム60に設けられた6つの従動ピン59のうち、隣接する2つの従動ピン59を挟むように外側から係合可能である。この状態において、マスターアーム64がシフトスピンドル50を回転軸として回動すると、係合爪の一方側が、1つの従動ピン59に外側から係合してシフトカム60を回動駆動させる、すなわち、シフトドラム42を回動させることとなる。
そして、係合爪の一方側によってシフトドラム42を所定回動量だけ回動駆動した後に、アーム65がマスターアーム64と共に中立位置に戻る際には、変速動作時に係合した従動ピン59の次の従動ピン59に、係合爪に形成された傾斜面(不図示)が当接する。このとき、マスターアーム64に対してスライド可能に支持されているアーム65は、この傾斜面が従動ピン59に当接することで従動ピン59から離反する方向にスライドする。これにより、前記係合爪が従動ピン59を乗り越えて、マスターアーム64およびアーム65が中立位置に戻ることとなる。
マスターアーム64は、第2戻しばね76によって中立位置に戻す方向に付勢されている。また、シフトスピンドル50には、シフトドラム42が回動できない状態でシフトスピンドル50が回動された際に、シフトスピンドル50の回動量を一時的に吸収するロストモーション機能を実現するための回動部材78が固定されている。
回動部材78とマスターアーム64との間には、ロストモーションばね80が設けられている。ロストモーションばね80は、シフトスピンドル50が挿入された円筒状のスリーブ81を巻回するコイル部80aを有する。
例えば、シフトドラム42の回動が規制されている時にシフト操作を行う場合、シフト操作を途中で中止すると、シフトペダルはロストモーションばね80の弾発力によって中立位置に戻る。また、シフト操作を継続中にシフトドラム42が回動可能な状態になった場合には、この弾発力によってマスターアーム64(シフトドラム42)が所定の変速方向に回動される。このロストモーション機構によれば、シフトドラム42の回動が規制されている時に、大きなシフトペダル操作力が入力された場合でも、この操作力の一部をロストモーションばね80で吸収することが可能となる。
シフトドラム42の一端部でその回動軸上には、ギヤポジションセンサ92でシフトドラム42の回動量を検出するための被検出部材86が配設されている。被検出部材86の一端部には、その回動軸と直交する方向に係合ピン87が挿通され、シフトカム60には、この係合ピン87の両端部が嵌合される嵌合溝88が形成されている。これにより、被検出部材86は、シフトカム60の回動に伴って回動する。
一方、被検出部材86の他端部は、前記マスターアーム64およびアーム65を連通する開口部89に挿通されている。この開口部89は、アーム65がマスターアーム64と共に回動する時や、アーム65がマスターアーム64に対してスライド作動する時に、アーム65が被検出部材86に接触しない形状とされている。
エンジンケース12の壁部12aには、シフト機構52等を収納する作動室53を形成するシフトカバー54が締結されている。被検出部材86の他端部は、このシフトカバー54を貫通してギヤ室56に挿入されると共に、シフトカバー54に締結されてギヤ室56を形成しているギヤカバー57の内壁部に、回転自在に軸支されている。
被検出部材86の回動量、すなわちシフトドラムの回動量を検知することで変速段位を検知するギヤポジションセンサ92は、ギヤカバー57の外面側に設けられている。被検出部材86とギヤポジションセンサ92との間には、被検出部材86の回動量を減速してギヤポジションセンサ92に伝達するための減速機構93が配設されている。この減速機構93は、ギヤ室56に収容されている。
シフトカバー54には、回動部材78の回動量に基づいてシフトスピンドル50の回動量を検出するシフトスピンドル回動量センサ100が取り付けられている。
前記したように、液圧モジュレータ20のモータ21は、ECU120で制御される。ECU120には、ギヤポジションセンサ92で検出されるシフトドラム42の回動量およびシフトスピンドル回動量センサ100で検出される回動部材78の回動量が入力される。ECU120は、シフトドラム42の回動量およびシフトスピンドル50の回動量に基づいて、マスターアーム64と回動部材78との間の開き角度を算出する。そして、ECU120は、この開き角度とロストモーションばね80のばね定数とから、シフトスピンドル50に入力されている操作力、すなわち、シフトペダル操作力を算出することができる。これにより、2つのポテンショメータの検出値からシフトペダル操作力を推測検知することが可能となる。
図4は、本発明の一実施形態に係る変速機の変速制御装置の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は同一または同等部分を示す。ECU120には、液圧モジュレータ20を駆動してクラッチ6を断接制御する制御手段としてのクラッチ制御部130と、乗員の変速操作に基づいて変速要求を検知する変速要求検知手段140と、変速動作の完了を検知する変速完了検知手段150と、ドグ当たり判定マップ161を用いて変速ギヤのドグクラッチがドグ当たり状態になったことを検知するドグ当たり検知手段160と、車両の走行状態を検知する車両状態検知手段170とが含まれる。クラッチ制御部130は、後述する第1制御(第1制御状態)を実行する第1制御部131と、第2制御(第2制御状態)を実行する第2制御部132とを備えている。
前記したように、本実施形態に係る変速機1は、各変速用シフタと隣り合う歯車とをドグクラッチで噛合することで回転駆動力を伝達している。このドグクラッチは、回転駆動力の伝達効率が高い一方、ドグ歯が形成されたシフタとドグ孔が形成された変速ギヤとの回転速度差が大きい場合等に、ドグ歯がドグ孔にスムーズに入らないドグ当たり状態を生じる場合がある。本実施形態に係る変速機の変速制御装置は、ドグ当たり検知手段160によってドグクラッチがドグ当たり状態になったことを検知すると、クラッチに所定の油圧制御を実行して、ドグ当たり状態を解消できる点に特徴がある。
ドグ当たり検知手段160は、ギヤポジションセンサ92の出力信号に基づいて、ドグクラッチがドグ当たり状態になったことを推測検知する。ドグ当たり状態は、変速用シフタを摺動させていってもドグ歯がドグ孔に入らずに、ドグ歯の先端が、ドグ孔が形成されていない歯車の側壁面に当接した状態である。したがって、ドグ当たり状態が生じる可能性のあるシフトドラムの回転角は、シフトドラムの回転速度等に影響されることがなく、変速機を構成する各部品の形状に基づいて算出することができる。
ドグ当たり判定マップ161には、各変速段間においてドグ当たり状態が発生する可能性のある所定の回転角範囲が記憶されている。ドグ当たり検知手段160は、ギヤポジションセンサ92で検知されたシフトドラムの回転角が、ドグ当たり判定マップ161に記憶された所定範囲にある場合に、ドグクラッチがドグ当たり状態にあると推測検知するものである。
変速要求検知手段140は、乗員によるシフトペダル操作力が所定値を超えると、乗員による変速要求があったものと判定するように構成されている。前記したように、シフトペダルの操作力は、シフトスピンドル回動量センサ100およびギヤポジションセンサ92の出力信号に基づいて算出することができる。また、変速要求検知手段140は、シフトスピンドル回動量センサ100で検知されるシフトペダルの操作量が所定値を超えた場合や、ギヤポジションセンサ92で検知されるシフトドラムの回動角が所定値を超えた場合にも、乗員による変速要求があったものと判定することができる。
また、変速完了検知手段150は、ギヤポジションセンサ92の出力信号に基づいて、シフトドラム42が、変速前の回転角から所定値以上回転した場合に、変速動作が完了したと判定するように構成されている。
車両状態検知手段170は、車速センサ114およびエンジン回転数センサ115の出力信号に基づいて、車両の種々の運転状態(発車、停車、走行中、エンジン運転中、エンスト等)を検知することができる。例えば、エンジンが運転中で車速がゼロから上昇を開始すれば車両が発車した状態であると判定し、エンジンが運転中で車速が所定値以上であれば走行中であると判定することができる。また、車両状態検知手段は、スロットル開度センサ113(図1参照)の出力情報に基づいて、乗員による発進操作が実行されたか否かを検知することも可能である。
そして、クラッチ制御部130は、変速要求検知手段140、変速完了検知手段150、ドグ当たり検知手段160、車両状態検知手段170からの出力信号に基づいて、液圧モジュレータ20が発生する油圧を制御してクラッチ6を駆動制御する。
図5は、本発明の一実施形態に係るクラッチ制御の構成を示した状態遷移図である。
クラッチ6(以下、単にクラッチと示すこともある)の制御状態には、クラッチが接続されている走行制御状態Aと、クラッチが切断されている切断制御状態Bと、クラッチに所定の油圧制御を実行する弱接続制御状態Cとが設定されている。弱接続制御状態Cで実行される油圧制御は、クラッチの油圧を第1油圧に変化させる第1制御(第1制御状態)の後、所定の時間をかけて第2油圧に変化させる第2制御(第2制御状態)を実行するものである。それぞれの制御状態間における遷移は、クラッチ制御部130によって実行される。
本実施形態では、走行制御状態Aにあるときに、変速要求の検知または車両の停車が検知されると、切断制御状態Bに遷移する。また、切断制御状態Bにあるときに、走行中かつ変速(シフトチェンジ)完了の検知または車両の発車が検知されると、走行制御状態Aに遷移するように設定されている。
これは、まず、クラッチが接続されている走行中に変速要求が検知されると、変速動作を実行するためにクラッチを切断し、このクラッチを切断した状態で走行中かつ変速完了が検知されると、変速後のギヤで走行を継続するためにクラッチを接続するまでの一連の動作に対応している。また、クラッチが接続された走行中に車両の停車が検知されるとクラッチを切断し、このクラッチを切断した状態で車両の発進操作が検知されると、回転駆動力を伝達するためにクラッチを接続するまでの一連の動作にも対応する。
そして、切断制御状態Bにあるときに、変速要求が検知され、かつドグ当たり状態が検知されると、弱接続制御状態Cに遷移する。また、弱接続制御状態Cにあるときに、変速要求が非検知となるか、または、ドグ当たり状態が非検知となると、切断制御状態Bに遷移するように設定されている。これは、まず、走行中に変速要求があり、かつドグ当たりが検知されると、クラッチに所定の制御を実行してドグ当たり状態を解消し、これにより変速動作を完了して走行状態に戻るまでの一連の動作に対応している。また、停車中でクラッチが切断されているときに変速要求があった場合でも、所定のクラッチに制御を実行してドグ当たり状態を解消しながら変速動作を完了して、再度、クラッチが切断された状態に戻るまでの一連の動作にも対応している。
また、第1制御または第2制御の実行中に変速要求が非検知となると、乗員による変速操作が中止されたと判定して切断制御状態Bに戻る動作に対応し、さらに、第1制御または第2制御の実行中にドグ当たり非検知となると、ドグクラッチが噛合して変速動作が完了したと判定して切断制御状態Bに戻る動作に対応する。
弱接続制御状態Cにおける第1制御および第2制御によれば、ドグ当たり状態が生じた際にクラッチを弱接続することで、ドグ歯とドグ孔とを相対回転させてドグクラッチを噛合させることができる。具体的には、シフトペダルの操作によってドグ当たり状態が生じると、シフトペダルの操作力によってドグ歯の先端と歯車の側壁面との間に摩擦力が発生して、ドグクラッチが係合していないにも関わらず、変速シフタと歯車とが同期回転する。この状態に至ると、シフトペダルの操作を継続しても変速動作が終了しないこととなる。
弱接続制御状態Cにおけるクラッチの弱接続動作は、ドグ当たり状態が発生した場合に変速動作を完了させるため、ドグ歯の先端と歯車の側壁面との間の摩擦力より大きい回転トルクを加えて、ドグクラッチの駆動側と従動側とを相対回転させるものである。以下、図6を参照して、弱接続制御状態Cにおけるクラッチの制御方法を説明する。
図6は、弱接続制御状態Cにおけるクラッチ制御の手法を示すグラフである。このグラフは、1速ギヤでの停車中に2速ギヤにシフトアップする際の流れに対応するものである。車両の停車中、クラッチは切断されており、クラッチの油圧は切断位置の油圧値P5にある。次に、時刻t1でシフトドラムの回動が開始されると、時刻t2において、シフトドラムの回転角がドグ当たり状態を判定するドグ当たり判定下限値θ1に達する。シフトペダルの操作力に基づいて検知される変速要求は、通常、シフトドラムが回転を開始する前に検知される。したがって、クラッチ制御部130は、時刻t2に達した時点で、変速要求が検知されかつドグ当たり状態が検知されたとして、クラッチの制御状態を切断制御状態Bから弱接続制御状態Cに遷移させる。
時刻t2では、クラッチの油圧を直ちに第1油圧値P3まで低下させる第1制御が実行される。本実施形態では、第1油圧値P3を、クラッチの切断状態と接続状態との境界に位置する断接境界油圧値P4より接続側に移行した値に設定されている。なお、第1油圧値P3は、断接境界油圧値P4と略同一に設定してもよい。
第1制御が実行されると、第1油圧値P3を、第1油圧値P3よりさらに接続側の第2油圧値P2まで、所定時間T1(例えば、0.3秒)をかけて移行させる第2制御が実行される。この第2制御によれば、乗員によるシフトペダルの操作力の大きさに関わらず、第1油圧値P3から第2油圧値P2へ移行するまでの間のいずれかの点で、クラッチの伝達トルクがドグクラッチの摩擦トルクを上回ってドグクラッチが噛合されることとなる。そして、時刻t3では、所定時間T1の経過に伴って第2制御が終了する。本実施形態では、第2制御の終了後、時刻t4まで第2油圧値P2を保持するように設定されている。なお、第2制御における油圧の移行は、制御中に変化率を変えたり、段階的に実行することもできる。
本実施形態では、時刻t2でドグ当たり状態が検知された後、ドグ当たり角度θ2でドグ当たり状態が継続されることとなる。そして、シフトドラム42が再び回動を開始すると、時刻t4でドグ当たり判定上限値θ3に達する。これにより、本動作例では、時刻t4においてドグ当たり非検知状態になったして、弱接続制御状態Cから切断制御状態Bに遷移させて、クラッチを切断状態に戻すこととなる。
図7は、図6に示したクラッチ制御の流れを示すフローチャートである。このフローチャートは、制御ユニット130によって実行される。まず、ステップS1では、クラッチが接続された状態にある(走行制御状態A)。ステップS2では、変速要求検知手段140によって変速要求が検知されたか、または、車両状態検知手段170によって車両の停車が検知されたか否かが判定される。ステップS2で肯定判定されると、ステップS3に進む。ステップS3では、変速時に回転駆動力を切断するため、または、インギヤ状態で停車するために、液圧モジュレータ20を駆動してクラッチ6を切断する(切断制御状態B)。なお、ステップS2で否定判定されるとステップS1に戻り、クラッチ6は接続状態が維持される。
続くステップS4では、車両状態検知手段170によって車両が走行中であることが検知され、かつ、変速完了検知手段150によってシフトチェンジの完了が検知されたか否か、または、車両状態検知手段170によって車両の発車が検知されたか否かが判定される。ステップS4で否定判定されるとステップS5に進む。なお、ステップS4で肯定判定されると、変速後のギヤで走行を継続するため、または、発車時の回転駆動力を伝達するために、ステップS1に戻ってクラッチを接続する。
ステップS5では、変速要求検知手段140によって変速要求が検知され、かつ、ドグ当たり検知手段160によってドグ当たり状態が検知されたか否かが判定される。ステップS5で肯定判定されると、ドグ当たり状態を解消するために、液圧モジュレータ20を駆動して、クラッチ6の油圧を第1油圧に変化させる第1制御後、所定時間をかけて第2油圧に変化させる第2制御を開始する(弱接続制御状態C)。ステップS5では、第1制御および第2制御を漸次的に実行する。なお、ステップS5で否定判定されると、ステップS3へ戻り、クラッチ6は切断状態が維持される。
続くステップS7では、変速要求検知手段140によって検知される変速要求が非検知となったか否か、または、ドグ当たり検知手段160によって検知されるドグ当たり状態が非検知となったか否かが判定される。ステップS7で肯定判定されると、乗員がシフト操作を途中で中止したか、または、ドグ当たり状態が解消されたとして、ステップS3に戻って、クラッチ6を切断する。なお、ステップS7で否定判定されると、ステップS6に戻る。なお、クラッチ6の油圧を所定時間かけて第2油圧に変化させる第2制御の実行中に、ステップS7において否定判定された場合には、この第2制御を継続するように設定することが可能である。
図8は、ドグ当たり検知手段160に含まれるドグ当たり判定マップ161の構成を示すグラフである。前記したように、ドグ当たり検知手段160は、シフトドラム42の回転角を検知するギヤポジションセンサ92の出力信号に基づいて、ドグクラッチがドグ当たり状態にあるか否かを判定することができる。本実施形態では、図6に示したように、ドグ当たりドラム角(θ2)を挟んだドグ当たり判定下限値(θ1)およびドグ当たり判定上限値(θ3)をそれぞれ設定し、シフトドラムの回転角が所定範囲内(θ1〜θ3)にある場合に、ドグ当たり状態が発生していると判定していた。
この所定範囲は、図8の上段に示すように、シフトアップ側およびシフトダウン側でで共通の所定範囲に設定することができる。しかしながら、シフトドラムのガイド溝にシフトフォークを係合し、シフトドラムを回動させてシフトフォークを軸方向に摺動させるドグクラッチ式変速機においては、変速動作をスムーズに行うために、変速前の回転角より、変速後の回転角に近い位置でドグクラッチの噛合が開始されるように構成されている。したがって、シフトドラムの回転角を検知するギヤポジションセンサ92でドグ当たり状態を検知する場合は、図8の下段に示すように、シフトアップ側とシフトダウン側との所定範囲を異なる範囲に設定することで、それぞれの所定範囲を狭くして、ドグ当たり検知の精度を高めることができる。
図8の例では、3速と4速の間でドグ当たり状態を判定する所定範囲を、ドグ当たり検出範囲を変速方向で変えない場合には、所定範囲D(例えば、137〜163度)としている。これに対し、ドグ当たり検出範囲を変速方向で変える場合には、シフトアップ側を所定範囲E(例えば、157〜163度)、シフトダウン側を所定範囲F(例えば、137〜143度)と設定することができる。これにより、ドグ当たり検知の精度が高められ、例えば、3速から4速へのシフトアップ時に、所定範囲Dの始点に達した時点で不要なクラッチ制御を開始することなく、実際にダボ当たり状態が生じる可能性のある所定範囲Eに達した時点でクラッチ制御を開始することができる。これにより、クラッチ制御の精度をさらに高めることが可能となる。なお、ドグ当たり状態を判定するための所定範囲は、各変速段間毎に異なる値としてもよい。
図9は、本発明の第2実施形態に係る変速機の変速制御装置の構成を示すブロック図である。前記と同一符号は同一または同等部分を示す。本実施形態では、シフトドラム42を回動させるシフトアクチュエータ231を備えており、車両のハンドル等に取り付けられる変速指示入力手段としての変速スイッチ230を操作するのみで、変速動作を実行可能である。変速要求検知手段140は、変速スイッチ230の出力信号に基づいて変速要求を検知するように構成されている。したがって、上記した構成においても、切断制御状態Bにあるときに変速スイッチ230が操作されることで変速要求が検知され、かつドグクラッチのドグ当たり状態が検知されると、クラッチの制御状態を切断制御状態Cに遷移させて、ドグ当たり状態を解消することができる。
上記したように、本発明に係る変速機の変速制御装置によれば、クラッチの制御状態に、切断制御状態Bと弱接続制御状態Cとを設定し、クラッチ6が切断された切断制御状態Bのとき、変速要求検知手段140によって変速要求が検知され、かつドグ当たり検知手段160によってドグクラッチのドグ当たり状態が検知されると、クラッチの制御状態を切断制御状態Cに遷移させ、切断制御状態Cでは、液圧モジュレータ20を駆動して、クラッチの切断状態と接続状態との境界液圧P4より接続状態側の第1液圧値P3に液圧を移行させる第1制御と、第1液圧値P3から所定時間をかけて第1液圧値P3より接続状態側の第2液圧値P2に移行させる第2制御とを実行するので、ドグ当たり状態が発生した場合でも、第1制御および第2制御によってクラッチを接続方向に駆動してドグ当たり状態を解消することができるようになる。
なお、変速機、変速機構、液圧モジュレータ、ECU、各種センサの配置や構成等は、上記した実施形態に限られず、種々の変更が可能である。また、弱接続制御状態で実行される第1制御および第2制御の設定油圧値や所定時間、ドグクラッチのドグ当たり判定を行うシフトドラムの所定範囲等は、変速機等の構成に併せて任意に変更することが可能である。なお、本発明に係る変速機の変速制御装置は、上記した自動二輪車に限られず、エンジンを動力源とする三輪車や四輪車に適用することもできる。
1…変速機、5…プライマリ従動ギヤ、6…クラッチ、10…変速機構、20…液圧モジュレータ、21…モータ(アクチュエータ)、42…シフトドラム、50…シフトスピンドル、51…シフトレバー、92…ギヤポジションセンサ(回転角検知手段)、100…シフトスピンドル回動量センサ、118…油圧センサ(液圧検出手段)、120…ECU、130…クラッチ制御部(制御手段)、131…第1制御部、132…第2制御部、140…変速要求検知手段、150…変速完了検知手段、160…ドグ当たり検知手段、161…ドグ当たり判定マップ、170…車両状態検知手段、A…走行制御状態、B…切断制御状態、C…弱接続制御状態