しかしながら、上記スパッタリング方法によれば、第1層と第2層とを成膜する際に、それぞれ真空容器内の圧力が異なるため第1層を成膜後、第2層を成膜する前に真空容器内の圧力を変更(高く)しなければならない。
この真空容器内における圧力の変更は、真空容器内に導入するスパッタリングガス(例えば、アルゴンガス等)の流量を変更すること等によって行うが、真空容器内が所定の圧力になって安定し、圧力変更後のスパッタリングを行う迄には所定の時間が必要となる。
そのため、上記スパッタリング方法によれば、真空容器内の圧力変更による第2層を成膜する際の成膜速度の上昇率が低いことと、真空容器内の圧力変更に前記所定の時間が必要となるため、成膜開始時から必要な膜厚を得るまでの成膜行程全体として必要になる時間は、前記成膜行程全体を成膜速度の小さな前記低温・低ダメージ成膜を行った場合に比べ、あまり短縮できていない。具体的には、スパッタリングのためにカソードに投入される電力(投入電力)が同じで、真空容器内に流し込むスパッタガス流量を増加させて成膜時の真空容器内の圧力を高くすることによる成膜行程全体での成膜速度の向上は、数%〜10%程度しか期待できない。また、近年においては、さらなる成膜行程全体の時間短縮による生産性の向上が求められている。
さらに、上記スパッタリング方法によれば、基板に入射する二次電子や負イオン等の荷電粒子を補足するためにターゲットの前にRFコイルを配置しなければならず、また、前記RFコイルを駆動するためのRF用電源や、RFコイル及びRF用電源を制御するための制御手段等を別途配置しなければならない。そのため、上記スパッタリング方法を行うためのスパッタ装置は複雑な構成となる。
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、簡単な構成でありながら、低温・低ダメージ成膜が可能であり、且つ生産性の高いスパッタ方法及びスパッタ装置を提供することを課題とする。
そこで、上記課題を解消すべく、本発明に係るスパッタ方法は、間隔をおいて互いに対向するように一対のターゲットを真空容器内に配置し、該一対のターゲットの対向面側に磁場空間を発生させてスパッタリングし、該スパッタリングされたスパッタ粒子で前記一対のターゲット間の側方位置に配置される基板に成膜するスパッタ方法であって、前記一対のターゲットの対向面のなす角を所定の角度にしてスパッタリングし、基板に所定の厚さまで成膜した後、前記対向面をそれぞれ基板側に方向転換させて対向面のなす角を前記所定の角度より大きくしてスパッタリングし、必要な膜厚を二段階以上に分けて成膜することを特徴とし、
また、本発明に係るスパッタ装置は、間隔をおいて互いに対向するように配置される一対のターゲットと、該一対のターゲットの対向面側に磁場空間を発生させるターゲット対向面側磁場発生手段と、前記一対のターゲット間の側方位置に成膜対象となる基板を配置するための基板ホルダーとを真空容器内に備えるスパッタ装置であって、前記一対のターゲットは、互いに対向する対向面のなす角が大きくなるよう、前記基板ホルダー側に方向転換可能に配置されることを特徴とする。
一般に、前記一対のターゲットの対向面のなす角が小さいほど(対向面同士が平行に近づくほど)、基板に到達(飛来)する二次電子等の荷電粒子が減少すると共にプラズマのターゲット間への閉じ込め効果が向上するが、基板に到達するスパッタ粒子も減少するため、基板に対し低温・低ダメージ成膜が可能となるが、基板に形成される薄膜の成膜速度が小さくなる。
一方、前記一対のターゲットの対向面のなす角が大きいほど(対向面が基板方向へ向くほど)、基板に到達する二次電子等の荷電粒子が増加すると共にプラズマのターゲット間への閉じ込めが悪くなるが、基板に到達するスパッタ粒子も増加するため、基板に対しプラズマによる温度上昇及び荷電粒子によるダメージがより加わることになるが成膜速度は大きくなる。
そのため、上記構成によれば、前記対向面のなす角を所定の角度(小さい角度)にしてスパッタリングすることで、成膜速度は小さいが、基板に所定の厚さまで低温・低ダメージ成膜を行うことができ、該低温・低ダメージ成膜によって初期層(第1層)を成膜(形成)する。その後、真空容器内の圧力等のスパッタ条件を変更することなく、前記対向面をそれぞれ基板側に方向転換させて前記なす角を大きくし、スパッタリングすることで、基板に到達する二次電子等の荷電粒子やプラズマの影響は増加するが、成膜速度を大きくして第2層を成膜(形成)することができる。
即ち、低温・低ダメージ成膜により基板に十分な厚さの初期層が形成される。その後、一対のターゲットの各対向面を基板(基板ホルダー)側に方向転換して第2層を形成することで、各ターゲットの対向面(スパッタ面)がより基板方向を向くため、真空容器内の圧力を変更するよりも大幅な成膜速度の向上を図ることができる。そして、その際に増加する、基板に到達する二次電子等の荷電粒子やプラズマの影響は、前記初期層が保護層として働くことで抑制することができる。さらに真空容器内の圧力等の変更するのに長い時間が必要なスパッタ条件を変更する必要もない。従って、低温・低ダメージ成膜を行うと共に成膜行程全体の大幅な成膜時間の短縮(成膜速度の向上)を図ることができる。具体的には、同じ投入電力で一対のターゲットの対向面のなす角を変更してスパッタリングすることによる、前記なす角の変更後の成膜速度の向上は、10%以上となる。
さらに、本発明においては、低温・低ダメージ成膜を行うために、一対のターゲットの対向面側にRFコイルを配置したり、該RFコイルを駆動するためのRF用電源や、RFコイル及びRF用電源を制御するための制御手段等を別途配置する必要もないことから、簡単な構成とすることができる。
尚、前記なす角は、0°が対向面同士が平行な状態をいい、また、前記なす角が大きくなるとは、前記一対のターゲットの対向面がそれぞれ前記基板側に方向転換して基板方向を向く(方向転換する)ことをいい、前記なす角が小さくなるとは、前記対向面同士が平行に近づく方向に向くことをいう。
また、本発明に係るスパッタ方法において、前記一対のターゲットの対向面側に発生させる磁場空間は、磁力線が一方のターゲットから他方のターゲットへ向かうようなターゲット間磁場空間である構成であってもよく、本発明に係るスパッタ装置において、前記ターゲット対向面側磁場発生手段は、磁力線が一方のターゲットから他方のターゲットへ向かうようなターゲット間磁場空間を発生させるターゲット間磁場発生手段である構成であってもよい。
かかる構成によれば、一対のターゲット間に、磁力線が一方のターゲットから他方のターゲットへ向かうようなターゲット間磁場空間が形成されることで、該ターゲット間磁場空間内にプラズマが形成されて(閉じ込められて)スパッタリングが行われる、いわゆる、対向ターゲット型スパッタカソードによるスパッタリングによって、前記なす角が小さい状態で基板に初期層を形成し、その後、前記なす角を大きくして基板に第2層を形成して薄膜を形成する。
このように成膜することで、上記同様、低温・低ダメージ成膜により基板に初期層が形成され、該形成された初期層が保護層として働くことにより、第2層を成膜する際に基板へのプラズマや二次電子等の荷電粒子の影響を抑制しつつ成膜することができ、低温・低ダメージ成膜が必要な基板(被成膜対象物)への成膜が可能となる。
さらに、低温・低ダメージで初期層を成膜後、一対のターゲットの各対向面を基板側に方向転換して第2層を形成することで、真空容器内の圧力を変更するよりも成膜速度の向上を図ることができる。また、初期層成膜後から成膜速度の大きな第2層の成膜開始までの間は、一対のターゲットの前記なす角を変更するのみで真空容器内の圧力等の変更に長い時間が必要なスパッタ条件を変更する必要がない。従って、大幅な成膜時間の短縮を図ることができ、薄膜の生産性の向上を図ることができる。
また、本発明に係るスパッタ方法において、磁力線が同方向となるように前記ターゲット間磁場空間の外側を囲むと共に、該ターゲット間磁場空間よりも磁場強度の大きい筒状補助磁場空間をさらに発生させる構成であってもよく、本発明に係るスパッタ装置において、 磁力線が同方向となるように前記ターゲット間磁場空間の外側を囲むと共に該ターゲット間磁場空間よりも磁場強度の大きい筒状補助磁場空間を発生させる筒状補助磁場発生手段が前記一対のターゲットをそれぞれ囲むよう、さらに配置される構成であってもよい。
かかる構成によれば、ターゲット間磁場空間を囲むように筒状補助磁場空間が形成される(発生する)ことから、一対のターゲットの中心間距離を短く(小さく)することなく、ターゲット間磁場空間中央部の磁場強度を大きくすることができる。そのため、成膜速度を下げる(小さくする)ことなく、プラズマのターゲット間への閉じ込め効果、及び、二次電子等の荷電粒子のターゲット間への閉じ込め効果が良好となる。
即ち、ターゲット間磁場空間の外側を囲むように筒状補助磁場空間がさらに形成されるため、一方のターゲットの中心から他方のターゲットの中心までを結ぶターゲット間磁場空間における中心線から外側に向かって形成される磁束密度の大きい空間(後述する閉じ込め磁場空間)の端までの距離(閉じ込め磁場空間の幅)が大きくなり、プラズマがターゲット間磁場空間とその外側に形成されている筒状補助磁場空間とで構成される磁場空間(以下、単に「閉じ込め磁場空間」とも称する。)からはみ出すことなく該閉じ込め磁場空間内に閉じ込められる。このように、閉じ込め磁場空間内にプラズマが閉じ込められることで、該プラズマによる基板への影響を減少させることができる。尚、閉じ込め磁場空間は、ターゲット間磁場空間と筒状補助磁場空間との合成磁場空間であって、ターゲット間磁場空間と筒状補助磁場空間とが磁束密度の小さい空間を介するように形成されていてもよく、また、ターゲット間磁場空間と補助磁場空間とが一体的に(磁束密度が同一、若しくは連続的に変化するよう)形成されていてもよい。
また、前記ターゲット間磁場空間から基板側に飛び出してくる二次電子等の荷電粒子も前記閉じ込め磁場空間の幅がターゲット間磁場空間よりも筒状補助磁場空間の分だけ大きくなることから、外へ飛び出そうとする荷電粒子の閉じ込め磁場空間内での移動距離が大きくなる。そのため、該閉じ込め磁場空間内への荷電粒子の閉じ込め効果が大きくなる。即ち、荷電粒子の閉じ込め磁場空間内からの基板側への飛び出しが減少する。
さらに、ターゲット間磁場空間よりも筒状補助磁場空間の方が磁場強度が大きいことから、閉じ込め磁場空間における磁場強度が閉じ込め磁場空間(ターゲット間磁場空間)の中心線から離れるに従って大きくなるような磁場分布を得ることができる。
即ち、従来の各ターゲットの裏面側(対向面と反対側)のみに磁場発生手段を配置している対向ターゲット型スパッタカソードでは、カソードに投入する投入電力を大きくしていくと、ターゲット間のプラズマが中央部に集中し、それに伴ってターゲットのエロージョンも中央部が大きくなる。この現象は、ターゲットが磁性体の場合に該ターゲットがヨークとなるため、ターゲットが非磁性体の場合に比べ、より顕著に現れる。しかし、上記構成によれば、閉じ込め磁場空間は、その外側に向かって磁場強度が大きくなるような磁場分布となるように形成されていることから、ターゲットが磁性体であったとしても、カソードへの投入電力を大きくすることによるプラズマの閉じ込め磁場空間(ターゲット間磁場空間)中央部への集中を緩和でき、エロージョンの大きさも中央部が特に大きくなることもなくなる。そのため、ターゲットが磁性体で構成されていたとしても、ターゲットの利用効率の低下を抑制でき、基板上に成膜される薄膜の膜厚分布も一様となる(均一化される)。
従って、より低温・低ダメージ成膜が可能となり、より膜質の向上を図ることができるようになる。また、膜質が筒状補助磁場空間を発生させないスパッタリングにより形成する薄膜の膜質と同程度であれば、前記一対のターゲットの対向面のなす角を大きくすることができ、より成膜速度を大きくして生産性の向上を図ることができる。
また、本発明に係るスパッタ方法において、前記一対のターゲットの対向面側に発生させる磁場空間は、磁力線が前記ターゲットの対向面の外周部と中心部とを弧状に結ぶような湾曲磁場空間である構成であってもよく、本発明に係るスパッタ装置において、前記ターゲット対向面側磁場発生手段は、磁力線がターゲットの対向面の外周部と中心部とを弧状に結ぶうような湾曲磁場空間を発生させる湾曲磁場発生手段である構成であってもよい。
かかる構成によれば、対向面上に磁力線が該対向面の外周部と中心部とを弧状に結ぶような湾曲磁場空間が形成されることで、該湾曲磁場空間内にプラズマが形成されて(閉じ込められて)スパッタリングが行われる、いわゆる、マグネトロン型スパッタカソードを用い、一対の前記マグネトロン型スパッタカソードを互いに対向させて行うスパッタリングによって、前記なす角が小さい状態で基板に初期層を形成し、その後、前記なす角を大きくして基板に第2層を形成することで薄膜を形成する。
このように成膜することで、上記同様、低温・低ダメージ成膜により基板に初期層が形成され、該形成された初期層が保護層として働くことにより、第2層を成膜する際に基板への二次電子等の荷電粒子やプラズマ等の影響を抑制しつつ成膜することができ、低温・低ダメージ成膜が必要な基板(被成膜対象物)への成膜が可能となる。
さらに、低温・低ダメージで第1層を成膜後、一対のターゲットの各対向面を基板側に方向転換して第2層を形成することで、真空容器内の圧力を変更するよりも成膜速度の向上を図ることができる。また、初期層成膜後から成膜速度の大きな第2層の成膜開始までの間は、一対のターゲットの前記なす角を変更するのみで真空容器内の圧力等の変更に長い時間が必要なスパッタ条件を変更する必要がない。従って、成膜時間の大幅な短縮を図ることができ、薄膜の生産性の向上を図ることができる。
また、本発明に係るスパッタ方法において、前記湾曲磁場空間は、一方のターゲットの対向面の磁力線が外周部から中心部に向かい、他方のターゲットの対向面の磁力線が中心部から外周部へ向かうような湾曲磁場空間であり、さらに、磁力線が一方のターゲット周辺から他方のターゲット周辺へ向かうよう、前記一対のターゲット間に形成されるターゲット間空間の外側を囲むと共に湾曲磁場空間よりも磁場強度が大きい筒状補助磁場空間を発生させる構成であってもよく、本発明に係るスパッタ装置において、前記湾曲磁場発生手段は、一方のターゲットの対向面の磁力線が外周部から中心部に向かい、他方のターゲットの対向面の磁力線が中心部から外周部へ向かうような湾曲磁場空間を発生させる湾曲磁場発生手段であり、さらに、磁力線が一方のターゲット周辺から他方のターゲット周辺へ向かうように前記一対のターゲット間に形成されるターゲット間空間を囲むと共に湾曲磁場空間よりも磁場強度が大きい筒状補助磁場空間を発生させる筒状補助磁場発生手段が前記一対のターゲットをそれぞれ囲むように配置される構成であってもよい。
かかる構成によれば、一方のターゲット周辺から他方のターゲット周辺までを筒状に結び、磁力線が一方のターゲット周辺から他方のターゲット周辺へ向くような筒状補助磁場空間が、形成される(発生する)ことから、スパッタリングの際にターゲット対向面上の湾曲磁場空間内からはみ出したプラズマ及び飛び出してくる二次電子等の荷電粒子は、前記筒状補助磁場空間内に閉じ込められる。
即ち、前記筒状補助磁場空間の両端に、対向面を内側にしたターゲットでそれぞれ蓋をしたような配置となるため、ターゲット表面(対向面)に形成される湾曲磁場空間からはみ出したプラズマが補助磁場空間によって閉じ込められ(基板側へはみ出すのを妨げられ)て、該プラズマ等による基板への影響を減少させることができる。
また、前記湾曲磁場空間から基板側に飛び出してくる二次電子等の荷電粒子も、前記筒状補助磁場空間の両端に、対向面(スパッタ面)を内側にしたターゲットでそれぞれ蓋をしたような配置となるため、筒状補助磁場空間内への荷電粒子の閉じ込めを行うことができ、基板へ到達する荷電粒子が減少する。
また、マグネトロン型スパッタカソードを使用することから、スパッタリングの際にカソードへ投入する電流値を大きくしても、対向ターゲット型スパッタカソードのように、プラズマが中心部に集中する現象が現れて放電が不安定とならず、ターゲット表面近傍に形成されるプラズマが長時間安定放電することができる。
さらに、湾曲磁場空間よりも筒状補助磁場空間の方が磁場強度が大きいことから、対向面近傍における磁場強度は、ターゲットの中心側が小さく、ターゲット周辺部が最も大きくなるような磁場分布を得ることができ、筒状補助磁場空間内への湾曲磁場空間からはみ出したプラズマの閉じ込め効果、及び飛び出した二次電子等の荷電粒子の閉じ込め効果がより良好となる。
従って、一対のターゲットの中心間距離を短くすることなく、成膜対象である基板へのプラズマの影響及びスパッタ面(対向面)から飛来する二次電子等による影響を極めて小さくすることができる。その結果、より低温・低ダメージ成膜が可能となり、膜質の向上を図ることができるようになる。また、膜質が筒状補助磁場空間を発生させないスパッタリングにより形成される薄膜の膜質と同程度であれば、前記一対のターゲットの対向面のなす角をより大きくすることができ、その結果、成膜速度を大きくして生産性の向上を図ることができる。
また、本発明に係るスパッタ装置においては、前記一対のターゲットは、互いに対向する対向面のなす角が大きく、又は小さくなるよう、方向転換可能に配置され、基板ホルダーに基板が配置された際に、前記基板近傍で、且つ前記一対のターゲットの各ターゲットから前記基板へ飛来するスパッタ粒子の流路を臨む位置に設けられる膜厚又は温度の少なくとも一方を検出するための検出手段と、該検出手段で検出された値に基づいて各ターゲットを方向転換するように制御する制御部とをさらに備える構成であってもよい。
かかる構成によれば、基板近傍で、且つ前記スパッタ粒子の流路を臨む位置に膜厚を検出するための検出手段を備えることで、基板の被成膜面上に形成される薄膜の膜厚を検出することができる。このように、成膜しつつ膜厚を検出することで、単位時間当たりの膜厚変化(成膜速度)の値(検出値)を検出することができる。
そして、制御部は、検出手段で検出した前記検出値と初期層の第1成膜条件(低温・低ダメージ成膜が必要な基板の膜界面にダメージを与えない成膜速度と保護膜として機能する膜厚)とを比較し、前記検出値と前記初期層の第1成膜条件とが異なっていると判断すれば、前記一対のターゲットの対向面のなす角が前記初期層の第1成膜条件に適応した角度となるよう各ターゲットを方向転換(角度修正)し、初期層の成膜が完了したと判断すれば、第2層の第1成膜条件に適応するように各ターゲットを方向転換(姿勢変更)する。
その結果、形成される初期層が前記初期層の第1成膜条件通りに成膜され、低温・低ダメージ成膜が必要な基板に対し、より確実にダメージを与えることなく、且つ初期層が必要以上に厚く形成されることもなく、より最短の成膜時間で、基板上に成膜することができる。
また、基板近傍で、且つ前記スパッタ粒子の流路を臨む位置に温度を検出するための検出手段を備えることで、基板の被成膜面の温度を検出することができる。このように、成膜しつつ前記被成膜面の温度を検出することで、単位時間当たりの温度変化(温度上昇値)の値(検出値)を検出することができる。
そして、制御部は、検出手段で検出した前記検出値と初期層の第2成膜条件(低温・低ダメージ成膜が必要な基板の膜界面にダメージを与えない温度と成膜時間に伴う温度上昇値)とを比較し、前記検出値と前記初期層の第2成膜条件とが異なっていると判断すれば、前記一対のターゲットの対向面のなす角が前記初期層の第2成膜条件に適応した角度となるよう各ターゲットを方向転換(角度修正)し、初期層の成膜が完了したと判断すれば、第2層の第2成膜条件に適応するように各ターゲットを方向転換(方向転換)する。
その結果、形成される初期層が前記初期層の第2成膜条件通りに成膜され、低温・低ダメージ成膜が必要な基板に対し、より確実にダメージを与えることなく、且つ初期層が必要以上に厚く形成されることもなく、より最短の成膜時間で、基板上に成膜することができる。
さらに、基板近傍で、且つ前記スパッタ粒子の流路を臨む位置に膜厚及び温度を検出するための検出手段を備えることで、基板の被成膜面上に形成される薄膜の膜厚と共に基板の被成膜面の温度を検出することができる。このように、成膜しつつ膜厚及び前記被成膜面の温度を検出することで、上記同様、単位時間当たりの膜厚変化(成膜速度)の値(検出値)及び単位時間当たりの温度変化(温度上昇値)の値(検出値)を検出することができる。
そして、制御部は、検出手段で検出した前記膜厚変化の検出値と初期層の前記第1成膜条件とを比較すると共に、前記検出手段で検出した前記温度変化の検出値と前記初期層の第2成膜条件とを比較し、前記膜厚変化の検出値と前記初期層の第1成膜条件、又は前記温度変化の検出値と前記初期層の第2成膜条件の少なくとも一方が異なっていると判断すれば、前記一対のターゲットの対向面のなす角が前記初期層の第1又は第2条件の少なくとも一方に適応した角度となるよう各ターゲットを方向転換(角度修正)する。そして、初期層の成膜が完了したと判断すれば、第2層の第1及び2成膜条件に適応するように各ターゲットを方向転換(方向転換)する。
その結果、形成される初期層が前記初期層の第1及び第2成膜条件通りに成膜されるため、前記検出手段で膜厚又は温度しか検出できない場合に比べ、低温・低ダメージ成膜が必要な基板に対し、さらに確実にダメージを与えることなく、且つ初期層が必要以上に厚く形成されることもなく、さらに最短の成膜時間で、基板上に成膜することができる。
以上より、本発明によれば、簡単な構成でありながら、低温・低ダメージ成膜が可能であり、且つ生産性の高いスパッタ方法及びスパッタ装置を提供することができるようになる。
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
図1及び図2に示すように、スパッタ装置1は、一対のターゲット10a,10bを方向転換可能に固定、支持するターゲットホルダー11a,11b、真空容器(チャンバー)2、スパッタ電力供給用電源3、基板ホルダー4、排気装置5、ガス供給装置6を備える。また、真空容器2の基板ホルダー4側端部(図1における下方側端部)の両側には連通路(基板搬送ラインバルブ)7,7を介してロードロック室又は他のプロセス室8,8が連設されている。
一対のターゲット10a,10bは、本実施形態においては、何れもインジウム錫合金(ITO:Indium Tin Oxide)で構成されている。このターゲット10a,10bは、それぞれの大きさが幅125mm×長さ300mm×厚み5mmの矩形の板状体に形成されている。そして、このターゲット10a,10bは、真空容器2内に対向配置され、対向面(スパッタされる面)10a’,10b’が所定の間隔(ここでは、対向面10a’,10b’の中心Ta,Tb間、図中d=160mmの間隔)を有して配置されている。
ターゲットホルダー11a,11bは、バッキングプレート12a,12bを介して、それぞれターゲット10a,10bを支持、固定するもので、ターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’を基板ホルダー4側へ方向転換可能に、ターゲットホルダー回転機構9,9(図5参照)を介して真空容器2内部に配置されている。
詳細には、ターゲットホルダー11a(11b)は、接続されているターゲットホルダー回転機構9(図5参照)によって、該ターゲットホルダー11a(11b)に支持、固定されている一方のターゲット10a(10b)の対向面10a’(10b’)が他方のターゲット10b(10a)の対向面10b’(10a’)と平行な状態から、基板ホルダー4に固定されている基板Bの被成膜面B’方向に向くよう、対向面10a’(10b’)の中心Ta(Tb)若しくは該中心Ta(Tb)近傍を回転中心にして方向転換可能(回転可能)に真空容器2内部に配置されている。尚、本実施形態においては、ターゲットホルダー11a(11b)は、反対方向(基板Bから対向面10b’方向)への回転も可能である。
即ち、一対のターゲット10a,10bは、両対向面10a’,10b’のなす角θ、より詳細にいえば、両対向面10a’,10b’に沿う方向に伸びる面のなす角度θが0°以上、且つ180°より小さくなるように互いにリンクしつつ方向転換可能に真空容器2内部に配置されている。尚、本実施形態において、前記なす角θが0°とは、対向面10a’,10b’同士が平行な状態をいい、また、前記なす角θが大きくなるとは、前記対向面10a’,10b’がそれぞれ前記基板B側に方向転換することをいい、前記なす角θが小さくなるとは、前記対向面10a’,10b’同士が平行状態に近づく方向に方向転換することをいう。
ターゲット10a,10bを固定しているバッキングプレート12a,12bの外側面(ターゲット10a,10bが固定されている面と反対側の面)には、湾曲磁場発生手段20a,20bが配置されている。湾曲磁場発生手段は、ターゲット10a,10bの対向面近傍に磁力線が弧状となるような磁場空間(湾曲磁場空間:図1及び図2の矢印W,W’参照)を発生させる(形成する)ための手段であり、本実施形態においては、永久磁石で構成されている。
湾曲磁場発生手段(永久磁石)20a,20bは、フェライト系、ネオジウム系(例えば、ネオジウム・鉄・ボロン)磁石やサマリウム・コバルト系磁石等の強磁性体で構成されており、本実施形態においては、フェライト系磁石で構成されている。また、図3にも示すように、湾曲磁場発生手段20a,20bは、枠状磁石21a,21bと、該枠状磁石21a,21bと反対の磁極を有する中心磁石22a,22bとが、ヨーク23a,23bに配置されることで形成されている。より詳細には、湾曲磁場発生手段20a,20bは、正面視矩形の枠状に形成された枠状磁石21a,21bと、その開口中心に位置する正面視矩形状の中心磁石22a,22bとが正面視枠状磁石21a,21bと外周縁が同形状である一定厚さの板状のヨーク23a,23bにそれぞれ固定されることで形成されている(図3(ロ)及び(ハ)参照)。
そして、一方の湾曲磁場発生手段20aは、バッキングプレート12a側端部(ヨーク23a側端部)において、枠状磁石21aがN極(S極)で中心磁石22aがS極(N極)となるようにバッキングプレート12aの外側面に配置され、他方の湾曲磁場発生手段20bは、バッキングプレート12b側端部(ヨーク23b側端部)において、枠状磁石21bがS極(N極)で中心磁石22bがN極(S極)となるようにバッキングプレート12bの外側面に配置されている。このようにして、一方のターゲット10aには、磁力線が該ターゲット10a表面(対向面10a’)の外周部から中心部に向かって弧状となるような湾曲磁場空間Wが形成され、他方のターゲット10bには、磁力線が該ターゲット10b表面(対向面10b’)の中心部から外周部に向かって弧状となるような湾曲磁場空間W’が形成される。
ターゲットホルダー11a,11bの先端側には、その外周に沿うような筒状補助磁場発生手段30a,30bが配置されている。筒状補助磁場発生手段30a,30bは、湾曲磁場発生手段20a,20bと同様に永久磁石で形成されており、図4にも示すように、ターゲットホルダー11a,11bの外周に沿うような(外嵌可能な)角筒状に形成されている。本実施形態においては、ネオジウム系のネオジウム・鉄・ボロン磁石等で構成されている筒状補助磁場発生手段30a,30bは、正面視矩形の枠状に形成され、前後方向に沿った周壁の厚みが一定(図4(ロ)及び(ハ)参照)となるような角筒状に形成されている。そして、筒状補助磁場発生手段30a,30bを構成する周壁の厚みは、天壁31が一番薄く、次いで側壁32,32が薄く、後述のように、ターゲットホルダー11a,11bに外嵌した際に基板B側となる底壁33が最も厚くなるように形成されている。尚、本実施形態においては、筒状補助磁場発生手段30a,30bは、角筒状に形成されているが、円筒形状等であってもよく、ターゲット10a,10bを囲むように配置されていればよい。
この周壁の厚みは、後述する、基板Bの被成膜面B’へ薄膜の初期層を形成(成膜)する際に、各ターゲット10a,10bの中間点の磁場強度が一定となるように、その厚みが設定されている。従って、基板Bの被成膜面B’への初期層を形成する際の両対向面10a’,10b’のなす角θ1の値によって、厚みの差が変化する。そのため、前記初期層を形成する際のなす角θ1の値が大きくなる場合には、側壁32,32の厚みが天壁31から底壁33に向かって徐々に厚くなるように設定される場合もある(図4(イ)の点線参照)。
そして、筒状補助磁場発生手段30a,30bは、先端側の磁極が湾曲磁場発生手段20a,20bの枠状磁石21a,21bと同じとなるように、ターゲットホルダー11a,11bの先端側外周に外嵌するように配置されている(図4(ニ)参照)。このように配置することで、ターゲット10a,10b間に形成されるターゲット間空間Kを筒状に囲うと共に、磁力線の向きが前記一方のターゲット10aから他方のターゲット10bへ向かうような筒状補助磁場空間が形成される(図1及び図2の矢印t参照)。
ターゲットホルダー回転機構9は、図5に示すように、ターゲットホルダー11a(11b)の端部に連接された軸部91と係合することでターゲットホルダー11a(11b)を回転駆動させている。該軸部91は、機密性を保ちつつ、ターゲットホルダー11a(11b)に取り付けられたターゲット10a(10b)の中心Ta(Tb)を通る軸M若しくは該中心Ta(Tb)付近に位置するターゲットホルダー11a(11b)の中心M’を中心にして回転可能(図5の矢印α方向)となるよう、シール部材92及びベアリング93が内設されている軸受け部材94を介して真空容器壁2’を貫通するように配設されている。該軸部91における真空容器2の外側端部には、ターゲットホルダー回転機構9を構成し、ターゲットホルダー11a(11b)を軸Mを中心に回転駆動させるためのモータ95がタイミングベルト96を介して接続されている。さらに、該軸部91の外側端部には、軸部91の回転角度を検出するための角度確認センサー97が備えられている。
尚、本実施形態においては、ターゲットホルダー回転機構9は、各ターゲットホルダー11a,11b毎に1つずつ接続されている、即ち、1つのターゲットホルダー11a(11b)ーを1つのターゲットホルダー回転機構9(モータ95)で回転駆動しているが、この構成に限定される必要はなく、一対のターゲットホルダー11a,11bを1つのターゲットホルダー回転機構9(モータ95)で回転駆動するような構成でもよい。また、本実施形態においては、モータ95やタイミングベルト96、角度確認センサー97等のターゲットホルダー回転機構9は、一部が真空容器2の外側に配置されているが、ターゲットホルダー回転機構9が全て真空容器2の内部に配置されてもよい。さらに、ターゲットホルダー11a,11bの軸M,Mが平行を保ちつつ移動可能な構成とすることで(図5(ロ)の矢印参照)、前記ターゲット中心間距離d及び各ターゲット10a,10bの中心Ta,Tbを結ぶ線(以下、単に「T−T線」と称することがある。)と基板との距離eを成膜条件等によって、適宜変更することが可能となる。
また、図6に示すように、ターゲットホルダー11a,11bの軸部91の下端部に該軸部91の軸芯と直交する方向のアーム98の一端側を接続し、該アーム98の他端側にシリンダ等(本実施形態においては、エアーシリンダS)を接続して往復駆動することで、ターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θを変更するように構成してもよい。この場合、図6(a)に示すように、各ターゲットホルダー11a,11bにそれぞれエアーシリンダS,Sを接続してもよく、図6(b)に示すように、1つのエアーシリンダSを接続するだけで一対のターゲットホルダー11a,11bを駆動するようにリンクさせてもよい。このように、エアーシリンダSを用いることで、モータ95を用いるよりもコスト削減を図ることができる。
スパッタ電力供給用電源3は、DCの定電力若しくは定電流を印加可能な電源であり、接地電位(アース電位)にある真空容器2を陽極(アノード)とし、ターゲット10a,10bを陰極(カソード)としてスパッタ電力を供給するものである。尚、本実施形態においては、スパッタ供給用電源3としてDCの定電力若しくは定電流を印加可能な電源としているが、これに限定される必要はない。即ち、スパッタ供給用電源3は、ターゲット10a,10bの材質と製作する薄膜の種類(金属膜、合金膜、化合物膜等)によって適宜変更可能である。変更可能な電源としては、AC電源、RF電源、MF電源、パルス型DC電源等があり、DC電源にRF電源を重畳して用いることも可能である。さらに、各ターゲットホルダー11a,11bにそれぞれDC電源又はRF電源を各1台ずつ接続してもよい。
基板ホルダー4は、基板Bを支持すると共に基板Bの被成膜面B’がターゲット10a,10bの両対向面10a’,10b’間に形成される空間(ターゲット間空間)Kに向くように配置される。尚、ターゲット10a,10bの両対向面10a’,10b’の中心Ta,Tbを結ぶ直線(T−T線)と被成膜面B’との最短距離は、本実施形態においては、図中e=175mmとしている。
真空容器2には、排気装置5が接続されると共に、放電用ガスのガス供給装置6が接続されている。ガス供給装置6は、ターゲット10a,10bの近傍にそれぞれ配置される不活性ガス(本実施形態においては、アルゴン(Ar)ガス)を供給するための不活性ガス導入パイプ6’,6’を含んでいる。
また、基板Bの近傍には、酸化物、窒化物等の誘電体薄膜を製作するために、反応性ガス供給装置(図示せず)によってO2、N2等の反応性ガスを基板Bの被成膜面B’に向かって導入する反応性ガス導入パイプP,Pを配設することも可能である。
基板Bは、その被成膜面B’上に薄膜が形成される被成膜対象物である。本実施形態において、通常、スパッタリングを行う基板Bの大きさとターゲット10a,10b寸法との関係は、要求される基板面(被成膜面)B’内の膜厚分布均一性に関係する。膜厚分布均一性が膜厚分布±10%以内程度の場合、基板Bにおけるターゲット10a,10bの長手方向の長さである基板幅SW(mm)と、ターゲット10a,10bにおける基板Bの幅方向の長さである長手方向寸法TL(mm)との関係は、SW≦TL×0.6〜0.7で示される。従って、本実施形態に係るスパッタ装置1においては、幅125mm×長さ300mm×厚み5mmの矩形ターゲットを使用していることから、基板B寸法は、上記関係より、基板幅SWが200mm程度の大きさの基板Bに対して成膜可能である。また、スパッタ装置1は、基板通過成膜の(図1における左右方向に基板Bを搬送しつつ、スパッタリングする)装置構成から、基板Bの長さは、装置寸法の制約(制限)はあるが、基板幅以上の大きさまで成膜可能である。例えば、本実施形態においては、幅200mm×長さ200mm、幅200mm×長さ250mm、又は幅200mm×長さ300mmの大きさの基板Bに対して、膜厚分布±10%以内で成膜可能である。この時、スパッタリングにより被成膜面B’に薄膜を形成する基板Bとしては、有機EL素子、有機薄膜半導体等の低温・低ダメージ成膜が必要な基板Bが用いられる。
尚、本実施形態においては、基板Bの幅は、ターゲット10a,10bの長手方向に沿った方向の長さとし、基板Bの長さは、ターゲット10a,10bの長手方向と直交する方向(図1における左右方向)の長さとする。
また、本実施形態において、スパッタリングにより被成膜面B’に薄膜を形成する基板Bとしては、有機EL素子、有機半導体等の低温・低ダメージ成膜が必要とされる基板を用いることができる。
本実施形態に係るスパッタ装置1は、以上の構成からなり、次に、スパッタ装置1における薄膜形成の動作について説明する。
基板Bにおける被成膜面B’への薄膜形成にあたり、本実施形態においては、低温・低ダメージ成膜可能な(成膜速度が小さな)スパッタリングにより初期層(第1層)を形成した後、成膜速度を大きくしたスパッタリングによって第2層を形成することで被成膜面B’上に薄膜が形成される。第1層(初期層)と第2層とは、形成する薄膜の膜厚方向において、成膜速度が異なる部分を仮想面によって分けて説明しているだけであって、膜厚方向において、薄膜が層として分かれているのではなく、連続して形成されている。
まず、初期層を形成するに際し、ターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θが所定のなす角θ1(後述するθ2よりも小さな角度)となるように、ターゲットホルダー回転機構9によってターゲット10a,10bが取り付けられたターゲットホルダー11a,11bを回転駆動させる(図1参照)。この時、対向面10a’,10b’のなす角θ1は、スパッタリングの際に発生するプラズマ及び二次電子等の荷電粒子が基板Bの被成膜面B’に許容量以上のダメージを与えないような小さな角度に設定される。本実施形態において、なす角θ1は、0°〜30°で、好ましくは、0°〜10°である。
次に、排気装置5により真空容器(チャンバー)2内を排気する。その後、ガス供給装置6により不活性ガス導入パイプ6’,6’からアルゴンガス(Ar)を導入して所定のスパッタ操作圧力(ここでは、0.4Pa)とする。
そして、スパッタ電力供給用電源3によってターゲット10a,10bにスパッタ電力を供給する。この時、永久磁石によって湾曲磁場発生手段20a,20b及び筒状補助磁場発生手段30a,30bが構成されていることから、磁場発生手段20a,20bによってターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’にそれぞれ湾曲磁場空間W,W’が形成されており、さらに、筒状補助磁場発生手段30a,30bにより該ターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’間に形成される柱状の空間Kを囲む(包む)ように筒状の補助磁場空間tが形成されている。
すると、湾曲磁場空間W,W’内には、プラズマが形成され、ターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’がスパッタされて、スパッタ粒子が飛散する。そして、該湾曲磁場空間W,W’からはみ出したプラズマや飛び出した二次電子等の荷電粒子は、筒状補助磁場空間tによって、該補助磁場空間tに囲まれた空間(ターゲット間空間)K内に閉じ込められる。
こうして、ターゲット10a,10bのスパッタ面(対向面)10a’,10b’から飛びだした(叩き出された)スパッタ粒子を、前記ターゲット間空間Kの側方位置において、該ターゲット間空間Kに被成膜面B’が向くように配置されている基板Bに付着させて薄膜(薄膜の初期層)が形成され始める。
この時、一般に、一対のターゲット10a,10bを対向するように配置して行うスパッタリングにおいては、一対のターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θが小さいほど(対向面同士が平行に近づくほど)、ターゲット間空間Kの磁場強度が大きくなることから、基板Bに到達(飛散)する二次電子等の荷電粒子が減少すると共にプラズマのターゲット間空間Kへの閉じ込め効果が向上するが、対向面10a’,10b’が平行に近づくことから、基板Bに到達するスパッタ粒子が減少するため、基板Bに対し低温・低ダメージ成膜が可能となるが、基板Bに形成される薄膜の成膜速度が小さくなる。
一方、一対のターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θが大きいほど(対向面10a’,10b’が基板B方向へ向くほど)、対向面10a’,10b’の基板側端部間の距離が大きくなり、かかる部分のターゲット間空間Kの磁場強度が小さくなるため、基板Bに到達する二次電子等の荷電粒子が増加すると共にプラズマのターゲット間空間Kへの閉じ込めが悪くなるが、対向面10a’,10b’が基板方向に向いていることから、基板Bに到達するスパッタ粒子が増加するため、基板Bの温度上昇及び基板に対する荷電粒子によるダメージが、なす角θが小さいときよりも加わることになるが成膜速度は大きくなる。
そのため、上記のように、対向面10a’,10b’のなす角θ1は、スパッタリングの際に、プラズマ及び二次電子等の荷電粒子が基板Bに許容量以上のダメージを与えないように平行又は平行に近い(小さな)角度に設定され、そうすることで、ターゲット間空間Kへのプラズマ及び二次電子等の荷電粒子の閉じ込め効果を良好にすることができる。
さらに、筒状補助磁場発生手段30a,30bが別途配置されることで、ターゲット間空間K外側には、筒状補助磁場空間tが形成される。そのため、ターゲット表面(対向面)10a’,10b’に形成される湾曲磁場空間W,W’と基板Bとの間に筒状補助磁場空間tが形成され、湾曲磁場空間W,W’からはみ出したプラズマが筒状補助磁場空間tによって閉じ込められ(基板B側へはみ出すのを妨げられ)て、該プラズマによる基板Bへの影響をさらに減少させることができる。
また、前記湾曲磁場空間W,W’から基板B側に飛び出してくる二次電子等の荷電粒子も、前記筒状補助磁場空間tがターゲット間空間Kを囲うと共に、湾曲磁場空間W,W’と基板Bとの間に形成されているため、ターゲット間空間K内への荷電粒子の閉じ込め効果が大きくなる。即ち、荷電粒子のターゲット間空間K内からの基板B側への飛び出しがさらに減少する。
また、筒状補助磁場発生手段30a,30bは、厚みの大きい底壁33,33が一対のターゲット10a,10bにおける互いに対向する面同士の距離が大きくなる側(基板B側)となるよう、配置されていることから、筒状補助磁場発生手段30a,30b近傍における磁場強度は、一対のターゲット10a,10bにおける互いに対向する面同士の距離が大きくなるに従って大きくなる。
これは、一対のターゲット10a,10bの周縁に沿って配置されている筒状補助磁場発生手段30a,30b近傍における磁場強度が全て同じ磁場強度であれば、一対のターゲット10a,10bの互いに対向する対向面(スパッタ面)10a’,10b’が前記基板Bの成膜面B’に向くように傾斜させてそれぞれ配置された際に(なす角θ>0°の場合に)、一方のターゲット10aから他方のターゲット10bまでの中間点の磁場強度は、対向する面同士の距離が大きくなるに従って小さくなる。そのため、この磁場強度が小さくなった部分(基板B側)からプラズマがはみ出し、また、二次電子等が飛び出してしまうことで基板Bにダメージが加わる。
しかし、筒状補助磁場発生手段30a,30bが上記構成であれば、前記対向する面同士の距離が大きくなるに従って筒状補助磁場発生手段30a,30b近傍における磁場強度が大きくなるように設定されていることから、なす角θ1の場合に、前記中間点における磁場強度は、常に一定の磁場強度を得ることができる。
従って、基板側に傾斜させて配置した(いわゆる、V型対向配置の)ターゲット10a,10bであっても、対向面10a’,10b’の距離が大きくなったところからのプラズマのはみ出しや二次電子等の荷電粒子が飛び出すことを抑制でき、ターゲット間のプラズマ及び二次電子等の閉じ込め効果が良好となり、低温・低ダメージ成膜が可能となる。
尚、筒状補助磁場発生手段30a,30bは、アース電位、マイナス電位、プラス電位、フローティング(電気的に絶縁状態)の何れかに設定されていてもよく、或いは、アース電位とマイナス電位、又はアース電位とプラス電位を時間的に交互に切り替えるように設定されていてもよい。筒状補助磁場発生手段30a,30bの電位を上記の何れかに設定することで、筒状補助磁場発生手段30a,30bを備えていない一対のマグネトロンカソードを、ターゲットの対向面が基板側に傾斜するように配置したV型対向配置のマグネトロンスパッタ装置(従来のマグネトロンスパッタ装置)よりも放電電圧の低電圧化が実現できる。
以上より、ターゲット間空間Kへのスパッタリングにより発生するプラズマ及び二次電子等の荷電粒子の閉じ込め効果が極めて良好な状態でスパッタリングを行うことができる。そのため、基板Bの被成膜面B’に対し、プラズマの影響及びスパッタ面10a,10bから飛来する二次電子等による影響を極めて小さくすることができ、低温・低ダメージ成膜による薄膜の初期層の形成を行うことができる。本実施形態において、初期層は、10〜20nm程度の膜厚となるように成膜される。
次に、第2層を成膜するに際し、一端、初期層を形成する際の成膜条件(対向面10a’,10b’のなす角θ1)でのスパッタリングを停止する。その後、ターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θをθ1から、より大きなθ2となるよう、ターゲットホルダー回転機構9によってターゲットホルダー11a,11bを回転駆動(方向転換(姿勢変更))し、該ターゲットホルダー11a,11bに取り付けられたターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’が基板Bの方向へ向くように方向転換を行う(図2参照)。この状態で(方向転換後)、スパッタリングを開始し、第2層を成膜し始める。本実施形態において、なす角θ2は、45°〜180°で、好ましくは30°〜45°である。尚、初期層(第1層)を成膜することにより、第2層の成膜時の成膜ダメージに対して初期層(第1層)が保護膜の機能を持つことから、基板Bへの第2層の成膜によるダメージを抑制することができる。そのため、生産性の面において、角度θ2をより大きくして成膜することが好ましい。
なす角θを初期層を成膜する際のθ1から、より大きなθ2に変更して成膜することで、対向面10a’,10b’の基板側端部間の距離が大きくなるため、基板側の筒状補助磁場空間tの磁場強度が小さくなり、ターゲット間空間Kへのプラズマ及び荷電粒子の閉じ込め効果は小さくなり、基板Bへのプラズマの影響及び到達する荷電粒子の量が増加する。しかし、対向面10a’,10b’がより基板B側に向いていることから、スパッタ面(対向面)10a’,10b’がスパッタされて飛散するスパッタ粒子が、基板B(被成膜面B’)へ到達する量も増加するため、成膜速度は大きくなる。このようにして、初期層の成膜時よりも成膜速度を大きくして、第2層を初期層の上に形成する。本実施形態においては、第2層は、100〜150nm程度の膜厚に成膜する。
こように、被成膜面B’に初期層(第1層)と第2層とをターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θを変更することで成膜速度を変えて成膜した場合、なす角がθ1<θ2でターゲット10a,10bへ投入電力が同じであれば、第2層成膜時の成膜速度を第1層成膜時の成膜速度に比べ約20%〜50%増加させることができる。また、さらに、なす角θ2で投入電力を増加させることで、2倍以上の成膜速度を実現することができる。
以上より、対向面10a’,10b’のなす角θを所定の角度(小さい角度)θ1にしてスパッタリングすることで、成膜速度は小さいが、ターゲット間空間Kへのスパッタリングにより発生するプラズマ及び荷電粒子の閉じ込め効果が向上するため、基板Bに所定の厚さまで低温・低ダメージ成膜を行うことができ、該低温・低ダメージ成膜によって初期層(第1層)が成膜(形成)される。
その後、真空容器2内の圧力等のスパッタ条件を変更することなく、ターゲットホルダー回転機構9によってターゲットホルダー11a,11bを回転駆動することで対向面10a’,10b’をそれぞれ基板B側に方向転換させて前記なす角θをθ1からθ2まで大きくした後スパッタリングすることで、基板に到達する二次電子等の荷電粒子やプラズマの影響は増加するが、成膜速度を大きくして第2層を成膜(形成)することができる。
このように、低温・低ダメージ成膜により基板Bに初期層が形成されることで、該形成された初期層が保護層として働くことにより、即ち、基板に初期層という防弾チョッキを被せることで、第2層を形成する際の基板Bへの二次電子等の荷電粒子によるダメージやプラズマ等の影響が及ぶのを抑制しつつ成膜することができ、さらに、第2層を成膜する際(低温・低ダメージで第1層を成膜後、成膜速度の大きな第2層の成膜開始までの間)、一対のターゲット10a,10bの前記なす角θをθ1からθ2に変更するのみで真空容器2内の圧力等のスパッタ条件を変更する必要がないことから成膜時間(成膜行程全体)の短縮を図ることができる。具体的には、本実施形態の場合、同じ投入電力で一対のターゲット10a,10bにおける対向面10a’,10b’のなす角θを二段階以上に変更してスパッタリングすることによる成膜行程全体の成膜時間は、なす角θを変更しなでスパッタリングする場合に比べ、30%以上短縮される。
また、ターゲットホルダー11a,11bの先端部外側に外嵌するよう、筒状補助磁場発生手段30a,30bを備えることで、一方のターゲット10a周辺から他方のターゲット10b周辺までを筒状に結び、磁力線が一方のターゲット10a周辺から他方のターゲット10b周辺へ向くような筒状補助磁場空間tが形成される(発生する)。そのため、スパッタリングの際にターゲット対向面10a’,10b’上の湾曲磁場空間W,W’内からはみ出したプラズマ及び飛び出してくる二次電子等の荷電粒子は、筒状補助磁場空間t内に閉じ込められる。
即ち、筒状補助磁場空間tの両端に、対向面10a’,10b’を内側にしたターゲット10a,10bでそれぞれ蓋をしたような配置となるため、ターゲット表面(対向面)10a’,10b’に形成される湾曲磁場空間W,W’からはみ出したプラズマが補助磁場空間tによって閉じ込められ(基板側へはみ出すのを妨げられ)て、該プラズマ等による基板Bへの影響を減少させることができる。
また、湾曲磁場空間W,W’から基板側に飛び出してくる二次電子等の荷電粒子も、筒状補助磁場空間tの両端に、対向面(スパッタ面)10a’,10b’を内側にしたターゲット10a,10bでそれぞれ蓋をしたような配置となるため、筒状補助磁場空間t内への荷電粒子の閉じ込めを行うことができ、基板Bへ到達する荷電粒子が減少する。
また、マグネトロン型スパッタカソードを使用することから、スパッタリングの際にマグネトロンカソード(ターゲット)10a,10bへ投入する電流値を大きくしても、対向ターゲット型スパッタの様に、プラズマが中心部に集中する現象が現れて放電が不安定とならず、ターゲット表面近傍に形成されるプラズマが長時間安定放電することができる。
さらに、湾曲磁場空間W,W’よりも筒状補助磁場空間tの方が磁場強度が大きいことから、対向面近傍における磁場強度は、ターゲット10a,10bの中心側が小さく、ターゲット10a,10b周辺部が最も大きくなるような磁場分布を得ることができ、筒状補助磁場空間t内への湾曲磁場空間W,W’からはみ出したプラズマの閉じ込め効果、及び飛び出した二次電子等の荷電粒子の閉じ込め効果がより良好となる。
そのため、一対のターゲット10a,10bの中心間距離を短くすることなく、被成膜対象である基板Bへのプラズマの影響及びスパッタ面(対向面)10a’,10b’から飛来する二次電子等による影響を極めて小さくすることができる。その結果、低温・低ダメージ成膜が可能となり、膜質の向上を図ることができるようになる。また、膜質が筒状補助磁場空間tを発生させないスパッタリングにより形成される薄膜の膜質と同程度であれば、前記一対のターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θをより大きくすることができる。
従って、筒状補助磁場発生手段30a,30bを備えることで、基板Bに対する低温・低ダメージ成膜を保ちつつ、より対向面10a’,10b’のなす角θ1の値を大きくすることができ、その結果、初期層を成膜する時間の短縮を図ることができる。また、第2層の成膜速度もより大きくすることができるため、成膜行程全体の時間をより短縮することができる。
尚、本発明のスパッタ方法及びスパッタ装置は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
本実施形態においては、カソードとして、ターゲット対向面10a’,10b’に湾曲磁場空間W,W’を発生させて、該湾曲磁場空間W,W’内にプラズマを閉じ込めてスパッタリングを行うマグネトロンカソードを用い、その外周に筒状補助磁場発生手段30a,30bをさらに備えた、複合型カソードを対向配置させているが、これに限定される必要はない。
例えば、図7(イ)及び(ロ)に示すように、ターゲット10a,10bの裏面側に湾曲磁場発生手段20a,20bを配置しただけで、筒状補助磁場発生手段30a,30bを備えていない、一対のマグネトロンカソードを対向配置させてもよい。また、ターゲット10a,10bを対向配置し、その裏面側に一方のターゲット10aから他方のターゲット10bへ磁力線が向かうように、ターゲット10a,10b間にターゲット間磁場空間Sを発生させるターゲット間磁場発生手段20’a,20’bを配置した、対向ターゲット型カソードであってもよい。
このようなカソードを用いても、基板Bへの薄膜形成の際に、初期層の成膜段階でのターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θ1が、第2層の成膜段階での前記対向面10a’,10b’のなす角θ2よりも小さく、且つ被成膜対象物である基板Bの被成膜面B’に対し、スパッタリングの際のプラズマや二次電子等の荷電粒子のダメージが許容量以下となるような角度であればよい。このようにすることで、なす角θ1で形成された初期層が保護層として働き、成膜速度を大きくして第2層を形成する際に、スパッタリングにより発生するプラズマの影響や基板Bに到達する荷電粒子が増加しても、前記保護層としての初期層によって、基板Bの被成膜面B’がダメージを受けるのを防ぐことができる。
その結果、低温・低ダメージ成膜が必要な基板(例えば、EL素子)に対しても薄膜(電極膜、保護膜、封止膜等)を形成することができるようになる。さらに、初期層形成後、成膜速度を大きくすることができるため、成膜行程全体の時間の短縮を図ることができる。
また、図7(ハ)に示すように、対向ターゲット型カソードの外周に、磁力線が同方向となるように前記ターゲット間磁場空間Sの外側を囲むと共に、該ターゲット間磁場空間Sよりも磁場強度の大きい筒状補助磁場空間tを発生させる筒状補助磁場発生手段30a,30bがターゲット10a,10bを囲むよう、さらに備えられてもよい。
このようにすることで、ターゲット間磁場空間Sの外側を囲むように筒状補助磁場空間tがさらに形成されるため、ターゲット間磁場空間Sにおける中心線から外側に向かって形成される磁束密度の大きい空間の端までの距離が大きくなり、プラズマがターゲット間磁場空間Sとその外側に形成されている筒状補助磁場空間tとで構成される磁場空間(閉じ込め磁場空間)S+tからはみ出すことなく該閉じ込め磁場空間S+t内に閉じ込められる。このように、閉じ込め磁場空間S+t内にプラズマが閉じ込められることで、該プラズマによる基板への影響を減少させることができる。
さらに、従来の各ターゲット10a,10bの裏面側(対向面と反対側)のみにターゲット間磁場発生手段21’a,21’bを配置している対向ターゲット型カソードは、該カソードに投入する投入電力を大きくしていくと、ターゲット間のプラズマが中央部に集中し、それに伴ってターゲット10a,10bのエロージョンも中央部が大きくなる。この現象は、ターゲット10a,10bが磁性体の場合に該ターゲット10a,10bがヨークとなるため、ターゲット10a,10bが非磁性体の場合に比べ、より顕著に現れる。しかし、上記構成によれば、閉じ込め磁場空間S+tは、その外側に向かって磁場強度が大きくなるような磁場分布となるように形成されていることから、ターゲット10a,10bが磁性体であったとしても、カソードへの投入電力を大きくすることによるプラズマの閉じ込め磁場空間(ターゲット間磁場空間)S+t中央部への集中を緩和でき、エロージョンの大きさも中央部が特に大きくなることもなくなる。そのため、ターゲット10a,10bが磁性体で構成されていたとしても、ターゲットの利用効率の低下を抑制でき、基板B上に成膜される薄膜の膜厚分布も一様となる(均一化される)。
従って、より低温・低ダメージ成膜が可能となり、より膜質の向上を図ることができるようになる。また、膜質が筒状補助磁場空間tを発生させないスパッタリングにより形成する薄膜の膜質と同程度であれば、前記一対のターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θをより大きくすることができ、より成膜速度を大きくして生産性の向上を図ることができる。
また、本実施形態においては、ターゲット(カソード)10a,10bに印加される電力は、図8に示すように、AC電源、具体的には、記一対のターゲットにそれぞれ180°位相がずれた交流電場を印加可能なAC(交流)電源のみでもよい。
これは、酸化物、窒化物等の誘電体薄膜を作製する場合(例えば、有機EL素子の保護膜、封止膜等の用途として)、反応性ガス(O2、N2等)をターゲット10a,10b間或いは基板B近傍に配設された反応性ガス導入パイプP,P(図1及び図2参照)から基板Bに向かって導入して、ターゲット10a,10bから飛来するスパッタ粒子と反応性ガスを反応させて酸化物・窒化物等の化合物薄膜を基板Bに堆積させる方法を利用するが、該反応性スパッタリングの場合、ターゲット10a,10bの表面10a’,10b’が酸化され、また、防着板、アースシールド及びターゲット10a,10bの非エロージョン領域に酸化物、窒化物の反応生成物が付着して、異常アーク放電の発生が頻繁に起こり、安定放電ができなくなる。また、基板Bに堆積した膜質の劣化を引き起こす。さらに、透明導電膜としてITOターゲットによるITO膜作製の場合にも、高品質のITO膜を作製するために、少量のO2ガスを導入してスパッタするが、この場合にも、長時間成膜していると、上記と同じ現象が現れる。
このような、異常アーク放電の発生の原因としては、ターゲット表面10a’,10b’の酸化物、窒化物によるチャージアップとターゲット(カソード)10a,10bに対するアノードとして作用するアースシールド、チャンバー壁、防着板等が酸化物、窒化物に覆われることにより、アノードの面積が小さくなる、若しくは均一でなくなることが考えられる。
そこで、これら問題を解消すべく、上記構成とすることで、一方のターゲット(カソード)10aに負の電位が印加された時に、他方のターゲット(カソード)10bに正の電位又はアース電位が印加されることで該他方のターゲット(カソード)10bがアノードの役割を果たし、これによって、負の電位が印加された一方のターゲット(カソード)10aがスパッタされる。また、他方のターゲット10bに負の電位が印加された時に、一方のターゲット10aに正の電位又はアース電位が印加されることで該一方のターゲット10aがアノードの役割を果たし、他方のターゲット10bがスパッタされる。このようにターゲット(カソード)印加電位を交互に切り替えることにより、ターゲット表面の酸化物、窒化物のチャージアップがなくなり、長時間、安定放電が可能になる。
例えば、ITOターゲットによる透明伝導膜を作製する場合に、低抵抗(基板加熱なしで比抵抗で6×10-4Ω・cm以下)で透過率の高い(550nm波長で85%以上)高品質な膜を作製する際に、Ar50sccmに対してO2ガスを2〜5sccm導入する。この場合、長時間放電させても、AC電源により一対のターゲット10a,10bに印加した電位を交互に切り替えることにより、ターゲット表面10a’,10b’の酸化によるチャージアップがなくなると共に、各ターゲット10a,10bがカソードとアノードの役割を相互に果たすことで安定放電を行うことができる。
また、他の例として、有機EL素子用の保護膜、封止膜として、Siターゲットを使用し、反応性ガスO2を導入して反応性スパッタリングを行い、SiOX膜を作製する。この場合、通常のDC電源によるDC反応性スパッタリングでは、ITO膜作製の場合より異常アーク放電が発生する回数が多いが、AC電源を接続することにより、上記ITO膜の場合と同様に、ターゲット表面10a’,10b’の酸化によるチャージアップがなくなり長時間安定放電ができるようになる。
また、本実施形態において、ターゲットホルダー11a,11bは、固定、支持しているターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’の中心Ta,Tbを通る軸M、若しくは、ターゲットホルダー11a,11bの中心軸M’,M’を回転中心にターゲットホルダー回転機構9によって方向転換可能に構成されている(図5(イ)及び(ロ)参照)が、これに限定される必要はなく、図9に示すように、所定の仮想点Rを回転中心にして、ターゲット10a,10bが互いに接離するような構成であってもよい。即ち、なす角θが変化する際に、ターゲット10a,10bの中心間距離dが一定であってもよく、変化してもよい。
また、本実施形態において、一対のターゲット10a,10bは、同一の材質を使用する必要はなく、例えば、一方のターゲット10aがAlで構成され、他方のターゲット10bがLiで構成されていてもよい。このように、材質を変えることで、基板Bに複合膜(この場合、Li−Al膜)が成膜される。尚、この場合、各ターゲット10a,10bに各々個別の電源を接続して個別に投入電力を調節することにより、複合膜の膜組成比を変化させることができる。
また、本実施形態において、初期層形成後にスパッタリングを一端停止してからターゲットホルダー11a,11bを方向転換させてターゲット対向面10a’,10b’のなす角をθ1からθ2に変更した後、再度スパッタリングを開始して第2層を形成し始めるが、これに限定される必要はない。例えば、初期層形成後にスパッタリングを続行しながら、徐々に前記なす角をθ1からθ2になるようにターゲットホルダー11a,11bを方向転換してもよい。
また、本実施形態においては、基板Bは、図10(イ)に示すように、基板Bの被成膜面B’の成膜面積がスパッタ装置の成膜可能な面積範囲より大きい場合や成膜された膜の膜厚分布を均一化するため、被成膜面B’がT−T選に沿って移動(矢印β)するように構成されているが、長尺な基板Bに対しても均一に成膜することが可能であれば、これに限定される必要はない。即ち、図10(ロ)に示すように、被成膜面B’がT−T線中央と直交する中央線C上の所定位置に設定された公転中心cを中心にし、且つ被成膜面B’がT−T線に向かって平行となった際、被成膜面B’の中心とT−T線の中間との距離が最短距離eとなるような公転軌道に沿って移動(矢印γ)するように配置されてもよい。このように構成しても、長尺な基板を成膜することが可能となる。また、前記被成膜面B’の移動方向(矢印β及びγ)は、一方向に移動してもよく、往復動(若しくは揺動)してもよい。
また、図11に示すように、スパッタ装置1は、膜厚又は温度の少なくとも一方を検出するための検出手段(検出センサー)Dが、基板ホルダー4に基板Bが配置された際に、前記基板B近傍で、且つ前記一対のターゲット10a,10bの各ターゲット10a,10bから前記基板B(基板Bの被成膜面B’)へ飛来するスパッタ粒子の流路を臨む位置に設けられると共に、検出手段Dで検出された値(検出値)に基づいて各ターゲット10a,10bを方向転換するよう、ターゲットホルダー回転機構9,9(モータ95,95)の回転駆動を制御する制御部50がさらに備えられてもよい。
このような構成とすることで、例えば、検出手段Dが水晶振動しを用いた膜厚検出センサーDの場合、該膜厚検出センサーDは、水晶振動子に付着したスパッタ粒子による振動数の変化から、付着したスパッタ粒子量(膜厚)と単位時間当たりの膜厚変化(成膜速度)の検出値を得ることができる。そして、かかる検出値に基づいて、制御部15は、基板Bの被成膜面B’上に形成される薄膜の膜厚及び成膜速度を判断する。
そして、制御部15は、膜厚検出センサーDで検出した前記検出値と基板Bに成膜する初期層の第1成膜条件(低温・低ダメージ成膜が必要な基板Bの膜界面B’にダメージを与えない成膜速度と保護膜として機能する膜厚)とを比較し、前記検出値と前記初期層の第1成膜条件とが異なっていると判断すれば、前記一対のターゲット10a,10bの対向面10a’、10b’のなす角θが前記初期層の第1成膜条件に適応した角度θとなるよう各ターゲット10a,10bを方向転換(角度修正)するように制御し(ターゲットホルダー回転機構9,9(内のモータ95,95)を制御し)、初期層の成膜が完了したと判断すれば、第2層の第1成膜条件に適応するように各ターゲット10a,10bを方向転換(姿勢変更)する。
また、例えば、検出手段Dが温度計を用いた温度検出センサーDの場合、該温度検出センサーDは、基板B近傍の温度と単位時間当たりの温度変化(温度上昇値)の検出値を得ることができる。そして、かかる検出値に基づいて、制御部15は、基板Bの被成膜面B’上の温度及び温度変化を判断する。
そして、制御部15は、温度検出センサーDで検出した前記検出値と基板Bに成膜する初期層の第2成膜条件(低温・低ダメージ成膜が必要な基板Bの膜界面B’にダメージを与えない温度と成膜時間に伴う温度上昇値)とを比較し、前記検出値と前記初期層の第2成膜条件とが異なっていると判断すれば、前記一対のターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θが前記初期層の第2成膜条件に適応した角度θとなるよう各ターゲット10a,10bを方向転換(角度修正)するように制御し(ターゲットホルダー回転機構9,9(内のモータ95,95)を制御し)、初期層の成膜が完了したと判断すれば、第2層の第2成膜条件に適応するように各ターゲットを方向転換(姿勢変更)する。
このように、検出手段Dでの検出値を制御部15によって一対のターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θにフィードバックすることで、その結果、基板Bの被成膜面B’上に形成される初期層が前記初期層の第1又は第2成膜条件通りに成膜され、低温・低ダメージ成膜が必要な基板Bに対し、より確実にダメージを与えることなく、且つ初期層が必要以上に厚く形成されることもなく、より最短の成膜時間で、基板B上に成膜することができる。
さらに、検出手段Dが前記膜厚検出センサーと前記温度検出センサーとを組み合わせた複合検出センサーDの場合、該複合検出センサーDは、水晶振動子に付着したスパッタ粒子量(膜厚)と単位時間当たりの膜厚変化(成膜速度)及び、基板B近傍の温度と単位時間当たりの温度変化(温度上昇値)の検出値を得ることができる。そして、かかる検出値に基づいて、上記同様、制御部15は、基板Bの被成膜面B’上に形成される薄膜の膜厚及び成膜速度、及び基板Bの被成膜面B’上の温度及び温度変化を判断する。
そして、制御部15は、複合検出センサーDで検出した前記膜厚変化の検出値と初期層の前記第1成膜条件とを比較すると共に、複合検出センサーDで検出した前記温度変化の検出値と前記初期層の第2成膜条件とを比較し、前記膜厚変化の検出値と前記初期層の第1成膜条件、又は前記温度変化の検出値と前記初期層の第2成膜条件の少なくとも一方が異なっていると判断すれば、前記一対のターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θが前記初期層の第1又は第2条件の少なくとも一方に適応した角度θとなるよう各ターゲット10a,10bを方向転換(角度修正)するように制御(ターゲットホルダー回転機構9,9(内のモータ95,95)を制御)する。そして、初期層の成膜が完了したと判断すれば、第2層の第1及び2成膜条件に適応するように各ターゲットを方向転換(姿勢変更)する。
その結果、基板Bの被成膜面B’上に形成される初期層が前記初期層の第1及び第2成膜条件通りに成膜されるため、検出手段Dが前記膜厚検出センサー又は温度検出センサーの一方だけで構成されている場合に比べ、低温・低ダメージ成膜が必要な基板に対し、さらに確実にダメージを与えることなく、且つ初期層が必要以上に厚く形成されることもなく、さらに最短の成膜時間で、基板B上に成膜することができる。
以上のように、検出手段D及び制御部15を用いて、基板Bでの成膜状況を検出し、検出した検出値をフィードバックして一対のターゲットの対向面のなす角θを制御
尚、検出手段Dは、膜厚又は温度の少なくとも一方を検出することができればよく、上記のように、膜厚センサーや温度センサー等の検出センサーを1つ又は複数組み合わせることで構成されていればよい。また、検出センサーDは、1つに限定される必要もなく、複数配置されていてもよい。このようにすることで、より、正確な成膜状態(成膜速度や温度、温度上昇値等)を検出することができ、一対のターゲット10a,10bの対向面10a’,10b’のなす角θをより最適な角度θに制御することができるようになる。
さらに、制御部15は、検出手段Dを制御する検出手段制御部16と、検出値に基づいてターゲットホルダー回転機構9,9の回転駆動を制御するターゲットホルダー回転機構制御部17とで構成されていてもよい。その場合、検出手段制御部16とターゲットホルダー回転機構制御部17とは、同一の躯体内に一体的に配置されてもよく、別々の躯体内にそれぞれ配置されていてもよい。
1…スパッタ装置、2…真空容器(チャンバー)、3…スパッタ電力供給用電源、4…基板ホルダー、5…排気装置、6…ガス供給装置、6’…不活性ガス導入パイプ、7…連通路、8…ロードロック室(又は他のプロセス室)、9…ターゲットホルダー回転機構、10a,10b…ターゲット、10a’,10b’…スパッタ面(対向面、表面)、11a,11b…ターゲットホルダー、12a,12b…バッキングプレート、15…制御部、16…検出手段制御部、17…ターゲットホルダー回転機構制御部、20a,20b…湾曲磁場発生手段、20’a,20’b…ターゲット間磁場発生手段、21a,21b…枠状磁石(永久磁石)、22a,22b…中心磁石(永久磁石)、23a,23b…ヨーク、30a,30b…筒状補助磁場発生手段(永久磁石)、50…制御部(制御装置)、B…基板、B’…被成膜面、D…検出手段(検出センサー)、d…ターゲットの中心間距離、K…ターゲット間空間(空間)、M,M’…ターゲットホルダーのターゲットホルダー回転機構による回転軸、P…反応性ガス導入パイプ、S…ターゲット間磁場空間、Ta,Tb…ターゲットの中心、t…筒状補助磁場発空間、W…湾曲磁場空間