JP5056826B2 - 連続鋳造用鋼およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、生産性に優れた、La、Ce、Ndなどのランタノイドが添加された連続鋳造用鋼、およびその製造方法に関する。
La、Ce、Pr、Ndなどのランタノイド(原子番号57〜71。以下、「LN」という)は、一般に希土類元素(REM)とも呼ばれる。LNは、酸素(O)、硫黄(S)、リン(P)などの軽元素との親和力が強いため、これらの軽元素と鋼中で反応することで、軽元素の鋼材に対する悪影響を低減し、鋼材性能を改善することはよく知られている。
このため、従来からLN添加鋼は広く知られており、その添加方法や添加剤も多数開発されてきた。近年でも、LN添加による優れた性能を有する鋼材とその製造方法が活発に開発されている。
例えば、特許文献1にはLNを添加した耐溶接割れ性に優れた高張力鋼の製造方法が、特許文献2にはLNとCaを添加した溶接熱影響部の靭性と脆性亀裂停止特性に優れた鋼材とその製造方法が、特許文献3にはREM、Ca、Mgを添加した、熱間圧延時の耐表面割れ性に優れた薄板鋼板が、それぞれ示されている。
このように、LNを添加することにより、鋼の各種特性を著しく向上させることができるため、その応用が期待されている。しかし、その一方で、LNを添加した鋼は、生産性に課題がある。
LNを溶鋼に添加すると、特に0.01質量%以上添加すると、LNが溶鋼中のOおよびS、さらに既存の非金属介在物と反応し、例えばCe23、CeO2、Ce22S、CeSなどの酸化物系介在物、硫化物系介在物、酸硫化物系介在物が生成する。以下、鋼材、溶鋼などの成分組成についての「質量%」を、単に「%」とも表記する(介在物の組成についての「mol%」は除く)。
LNは他の元素よりO、Sとの親和力が強いため、LN添加によって生成する介在物個数も多い。さらに、LN系介在物の比重が溶鉄比重に近いため、生成した介在物の溶鋼からの浮上分離も遅い。加えて、LN系介在物の融点は非常に高いため、耐火物に接触した場合でも低融点組成となって溶融剥離せずに付着する。これらの結果、鋳造時に取鍋ノズルあるいは浸漬ノズルが介在物によって閉塞し、鋳造や連続鋳造が不能となる場合がある。
この鋳造性低下を回避する技術も多数考案されており、例えば、特許文献4では酸化物介在物低減による回避方法が、特許文献5では硫化物介在物低減による回避方法が、それぞれ示されている。
このように、LNは製品(鋼材)の性能向上に有効な元素である一方で、その使用方法が不適当であると、生成した粗大介在物による製品の性能劣化や、鋳造性の低下による生産性の劣化といった問題を起こす元素でもある。そして、これまでに、これらの問題を回避する技術も多数提案されてきた。
特開2006−342421号公報 特開2008−88487号公報 特開2007−254828号公報 特開2001−20033号公報 特開2005−60739号公報
しかし、製品において、高LN濃度を要求される場合や、生産性の向上による安価な製造を要求される場合には、従来技術では十分に対応できないことがあった。
そもそも、LN添加鋼でノズル閉塞が発生しやすいのは、(1)介在物の生成個数が多いこと、(2)生成した介在物の比重により溶鋼からの浮上分離が遅いこと、(3)介在物が耐火物に接触した際に低融点相を形成しないため耐火物に付着すること、の3つの要因によるとされている。しかし、ノズル閉塞への各要因の寄与率が不明であり、そのため要因(1)〜(3)のいずれに力点を置いて対策を講ずるべきなのか指針も不明確であった。
このため、鋼成分を調整することで、生成する介在物の個数を増加させないようにする技術思想が主体となっていた。この場合、LN添加鋼では、LN濃度の上限規制やLN添加前のO濃度およびS濃度の調整が必須となり、製造可能な製品の鋼成分の限定と製造コストの上昇を余儀なくされていた。
さらに、特許文献5ではO濃度とS濃度、さらにREM濃度をバランスさせる必要があり、一般的に行われるようなO濃度、S濃度をそれぞれ低減させるのではなく、OとSとの関係を調整しながら低減するという複雑な処理が必要となり、さらにこの上でO濃度とS濃度のバランスに応じてREM濃度を調整する必要がある。この様な操作はコストと生産性に課題が生じる。さらに、この例ではO濃度とS濃度のバランスによってREM濃度の上限が規定されてしまうため、製品特性上必要とされるREM濃度に調整することが困難であった。
以上の従来技術の課題を鑑みて、本発明は、ノズル閉塞の直接の原因となる非金属介在物の組成を調整することで、ノズル閉塞を抑制し、複雑な鋼中O、S濃度調整を用いることなく鋼中LN濃度の許容上限濃度を緩和できる、LN添加鋼の生産性向上施策の確立を目的とした。
本発明者らは、上記の課題を解決するために、LN添加時の介在物組成と耐火物への付着状況との関係についての調査・解析を行い、本発明を完成させた。
(a)対象鋼のS濃度、O濃度、LN濃度およびCa濃度の適正範囲
S:0.005%以下
硫黄(以下、単に「S」とも記す)は、鋼中においてその濃度が0.005%を超えると、LN濃度によらず硫化物の生成量が多くなる。また、Sは、LNと同様に、Caとも強い親和力を有するため、CaSの生成量が増加し、後述するCa濃度の増加を妨げる。そこで、S濃度の適正範囲を0.005%以下とした。
O(酸素):0.005%以下
酸素(以下、単に「O」とも記す)も、鋼中においてその濃度が0.005%を超えると、LN濃度によらず酸化物の生成量が多くなる。Oは、LNと同様に、Caとも強い親和力を有するため、CaOの生成量が増加し、後述するCa濃度の増加を妨げる。そこで、O濃度の適正範囲を0.005%以下とした。
以上の理由により、鋼中S濃度0.005%以下、鋼中O濃度0.005%以下の鋼を対象に調査を行い、最終的に本発明を完成させた。よって、本発明の範囲は鋼中S濃度0.005%、O濃度0.005%以下である。
LN:0.01%以上0.3%以下
LN濃度が0.01%未満ではLNによる鋼材性能改善効果が十分得られない。0.3%を超えて高くなるとLN添加効果が飽和に近づくのみならず、LN介在物が粗大化するため、却って性能を低下させる場合がある。よって、本発明では0.01%以上0.3%以下を対象とする。
Ca:0.0012%以上0.0055%以下
従来技術ではLN濃度の上限は0.02%〜0.1%としているのに対し、本発明の様にさらに高いLN濃度を対象とし、かつ、Caによって介在物制御を行うという特徴がある。このため、本発明ではCaは重要な役割を果たす。Ca濃度が0.0012%未満の場合、Ca添加による介在物改質効果が得られない。また、Ca濃度が0.0055%を超えて高くなると本来目的であるLN介在物の改質効果を超えて、Ca系介在物が新たに生成し、介在物個数が増加する。よって、Ca濃度は0.0012%以上0.0055%以下とする。
(b)介在物組成
LN添加鋼でノズル閉塞が発生しやすいのは、上述のように、(1)介在物の生成個数が多いこと、(2)生成した介在物の比重により溶鋼からの浮上分離が遅いこと、(3)介在物が耐火物に接触した際に低融点相を形成しないため耐火物に付着すること、の3つの要因によるとされている。
要因(1)を回避する方法には、介在物をより生成させない方法と、介在物を徹底して除去する方法とがある。しかし、LN濃度を一定濃度として介在物をより生成させないためには、LNと反応するO,S等の軽元素濃度を低減する必要があり、従来技術の課題を解決できない。さらに、先に述べたように従来技術でのLN添加鋼はO、Sをそれぞれ任意に低減するのみでは不充分であり、両者のバランスもしくは鋼中LN濃度とバランスさせることが必要であった。このため、複雑なO濃度とS濃度さらにはLN濃度のバランス調整さらにはLN濃度、特に上限LN濃度が製造上の都合で制約されるという課題がある。また、介在物の徹底除去も、コスト的に不利であり、工業生産に向かない。
要因(2)を回避する方法としては、生成する介在物の成分を変化させる方法が考えられる。ただし、この方法は、介在物中にLNが含有される場合は大きな改善効果が望めない。また、介在物中にLNを含有させない場合は大きな効果が期待できるものの、軽元素と強い親和力を有するLNを介在物から完全に消失させるには、AlやSi、Ca、Mgといった介在物改質元素が大量に必要となる。そのため、この方法は現実的ではない。
要因(3)を回避する方法としては、耐火物そのものを改善する方法と、介在物を改善する方法の二つが考えられる。ここでは、介在物を改善する方法について検討する。介在物、特にLNを含有する介在物の、耐火物への付着しやすさについては不明確な点が多く、耐火物への付着を抑制できる介在物の組成については不明である。また、上述のように、ノズル閉塞への要因(1)〜(3)の寄与率が不明であるため、要因(3)のみを重点的に改善したとしても鋳造性が改善され、LN添加鋼の生産性が向上するかどうかは不明である。
(b)−1.調査実験
そこで、本発明者らは、介在物の組成と耐火物への付着状況との関係を調査するため、以下の実験を行った。
(b)−2.実験方法
鋼350kgを、高周波誘導溶解炉を用いて1873Kに加熱し、S濃度を0.005%以下、O濃度を0.005%以下、その他の成分をAl:0.005〜0.18%、Si:0〜0.2%、Mn:0.1〜2.0%、P:0.002〜0.012%、C:0.0015〜0.3%、Ti:0〜0.03%、Nb:0〜0.02%、Cr:0〜15%、Ni:0〜30%、に調整した後、LNの合計濃度を0.01%以上0.3%以下、Ca濃度を0.012%以上0.055%以下とした。この溶鋼からサンプルを採取した後、内径15mm、長さ200mmのアルミナ系耐火物製ノズルを介して溶解炉から鋳型内に出鋼した。出鋼後、ノズル内面を観察し、耐火物への介在物の付着状況を確認した。さらに鋳型内鋼塊からサンプルを切り出し、鋼成分と介在物組成を調査した。このような出鋼試験を24種類の溶鋼について行った。
介在物組成の評価は、上述の採取したサンプルを急冷して凝固させた急冷サンプルを研磨し、その研磨面に露出した任意の酸硫化物系介在物についてEPMAを用いて分析することによって行った。なお、溶鋼サンプルと鋼塊サンプルでの鋼成分ならびに介在物組成の分析結果の比較を行い、溶鋼から鋳造凝固に至る過程で成分ならびに酸硫化物系介在物組成が変化していないことを確認した。
耐火物への酸硫化物系介在物の付着状況の評価は目視によって行い、(a)付着なし、(b)ノズル内面の一部に付着あり、および(c)ノズル内面のほぼ全面に付着ありまたはノズルが閉塞して溶鋼全量の出鋼不可、の3段階で評価した。
(b)−3.実験結果
介在物組成の評価の結果、酸硫化物系介在物はいずれもLN、Ca、SおよびOを含有し、介在物中のLN、Ca、SおよびOの合計濃度は30mol%以上であった。溶鋼中のAl濃度等の条件によっては、P、Al、Mg、SiおよびTiのうち1種類以上を含有した。
このように、本実験で生成した介在物は多成分系であった。そして、本発明者らが、介在物の組成と耐火物への付着状況との関係について精査した結果、耐火物への介在物の付着状況に支配的な影響を及ぼすのはLN、CaおよびSであることを見出した。
次に、酸硫化物系介在物の組成と耐火物への付着状況との関係を検討した。この検討に当たって、介在物の組成の分析結果からLN、CaおよびSの濃度を用いて、介在物中のこれらの3元素の合計モル数に対するこれらの各元素のモル数の割合を算出した(以下、この計算を「三元換算」という)。
図1は、介在物の組成と耐火物への付着状況との関係を示す図である。図1では、三元換算した介在物中のLN、CaおよびSの組成を、耐火物への付着状況の評価結果で区分して表示した。この図から、三元換算した組成において、Ca濃度が30mol%以上かつS濃度が30mol%以下の場合に、介在物の耐火物への付着が発生しないことがわかる。また、上記範囲よりもCa濃度が低下またはS濃度が増加するに従って、介在物の耐火物への付着が著しくなることがわかる。
(b)−4.まとめ
以上の結果から、鋼中の酸硫化物系非金属介在物がLN、Ca、SおよびOを含有し、同時にP、Al、Mg、SiおよびTiのうち1種類以上を含有し、かつ、この非金属介在物が、三元換算した組成においてCa濃度が30mol%以上かつS濃度が30mol%以下であれば、耐火物への介在物の付着が発生しないことを知見した。すなわち、鋼中の非金属介在物の組成を上記範囲とすることにより、ノズル閉塞を生じることなく連続鋳造が可能であり、高LN添加鋼の生産性を飛躍的に向上させることができる。
(c)介在物組成の制御方法
本発明者らは、鋼中の酸硫化物系介在物の組成を上記範囲に効率よく制御する方法について検討した。
製鋼処理中のLN、S、Alなどの鋼中成分の変化の態様は、製鋼処理に用いる設備やプロセスによって異なる。そのため、鋼中の介在物の組成を上記範囲に制御するための条件は、設備やプロセスによって異なる場合がある。しかし、高温処理である製鋼処理では、通常は、処理中に進行する化学反応の多くが平衡に近い状態となっていることから、製鋼処理において制御された鋼の最終成分に対応して、介在物の組成も一義的に定まる。このため、製鋼処理に用いる各設備やプロセスに応じた、介在物の組成を上記範囲に制御するための最適条件は、経験的に容易に決定することができる。
しかし、溶鋼の構成元素のうち、Caのみが溶鋼から蒸発し、濃度が変化するため、他の構成元素に比べて上記最適条件を把握、決定しにくい。そこで、本発明者らは、Caの添加方法について検討した。
介在物の組成を上記範囲とする趣旨は、LN系介在物をCa系介在物に変質、あるいはCa系介在物をLN系介在物に変質させることで、介在物の耐火物への付着を抑制することにある。介在物の組成を上記範囲とする方法としては、一般的には、溶鋼にLNを添加した後にCaを添加する方法、および溶鋼にCaを添加した後にLNを添加する方法が考えられ、いずれの方法でも適切な量のLNおよびCaを添加すればよい。
ただし、LNを添加すると酸化物、硫化物、酸硫化物といった介在物が生成するため、LN添加後にCaを添加する場合にはこれらの介在物量に応じてCa添加量を決定する必要がある。また、Caを添加した後にLNを添加する場合には、LNを添加するまでに蒸発し、消失するCa分を加算してCaの添加量を決定しなければならない。
このように、LNとCaを別個に溶鋼に添加する場合には、Caの添加量を加減する必要がある。しかし、溶鋼の処理毎に異なる処理時間や介在物量に応じてCaの添加量を調整するのは効率がよくない。
そこで、本発明者らがLNとCaとを同時に添加する方法を実施したところ、ノズル閉塞を生じることなく、所望の濃度のLNを含有する高LN添加鋼の連続鋳造を行うことができた。LNとCaとを同時に添加することにより、Caの添加量を溶鋼の処理毎に調整する必要がなくなる。また、LNとCaの添加に必要な時間も短縮でき、総処理時間の短縮と、溶鋼温度の低下を抑制する効果が得られるため、さらにLN添加鋼の生産効率が向上する。
本発明は、以上の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は下記(1)に示す連続鋳造用鋼、および(2)に示す連続鋳造用鋼の製造方法にある。
(1)S:0.005質量%以下、O(酸素):0.005質量%以下、ランタノイド:0.01質量%以上0.3質量%以下、およびCa:0.0012質量%以上0.0055質量%以下を含有する連続鋳造用鋼において、鋼中の酸硫化物系非金属介在物が、ランタノイド、Ca、SおよびOを合計30mol%以上含有し、同時にP、Al、Mg、SiおよびTiのうち1種類以上を含有し、かつ前記非金属介在物中のランタノイド、CaおよびSの合計モル数に対するCaのモル数の割合が30mol%以上、Sのモル数の割合が30mol%以下であることを特徴とする連続鋳造用鋼。
(2)溶鋼にランタノイドとCaを添加する溶鋼処理工程を有する前記(1)に記載の連続鋳造用鋼の製造方法であって、前記溶鋼処理工程において、Caとランタノイドを同時に溶鋼に添加することを特徴とする連続鋳造用鋼の製造方法。
本発明において、酸硫化物系非金属介在物とは、OおよびSを含有する非金属介在物であって、本発明では鋼中にランタノイドを0.01質量%以上0.3質量%以下、およびCaを0.0012質量%以上0.0055質量%以下を含有させるため、該非金属介在物中にO,Sに加え、LNおよびCaを含有する非金属介在物のことを指す。このような介在物は溶鋼段階で生成し、溶鋼と共に鋼(鋼材)中にそのまま残留する。
本発明の連続鋳造用鋼は、その製造に当たって、非金属介在物の組成を調整することで、製鋼処理時の非金属介在物によるノズル閉塞を抑制することができるため、高い生産性を有する。さらに、鋼成分中のS、O、LN濃度のバランスを満足させながら各濃度を調整する処理を不要とし、その代わりに、S、O濃度を0.005%以下に各個に調整すれば良い。加えて、LN濃度の上限規制がないため、高LN添加鋼を含め、様々な性能を有するLN添加鋼を得ることができる。
また、本発明の連続鋳造用鋼の製造方法によれば、LNおよびCaを同時に添加するため、LN添加鋼を効率よく製造することができる。
介在物の組成と耐火物への付着状況との関係を示す図である。
本発明の実施形態について、転炉と連続鋳造機を用いて実施する場合を例に説明する。初めに、鋼の組成について説明する。
(a)鋼組成
(a)−1.S濃度およびO濃度の好適範囲
本発明の方法は、上述の通り、S濃度が0.005%以下、およびO濃度が0.005%以下の鋼を対象とする。ただし、S濃度は0.0015%以下、O濃度は0.0025%以下とすることが好ましい。これにより、発生する介在物の総量を低減することができ、連続鋳造の安定性をさらに向上させることができる。S濃度については0.0001%以上0.001%以下、O濃度については0.0005%以上0.0010%以下が、さらに好ましい。上記濃度は鋼製品で満足していることが必須であるが、LN添加前の溶鋼段階で満足しておくことが望ましい。LN添加前で上記濃度範囲を満足させることで、溶鋼処理中の変動に起因する性能分布範囲(いわゆるバラツキ)を狭くできる。
(a)−2.C、Si、Mn、Alその他の成分組成の好適範囲
次に、C、Si、Mn、Alその他の成分組成の好ましい範囲について述べる。
CおよびSi:
CおよびSiは、鋼中におけるPの活量を上昇させる作用を有する元素である。C濃度が3.5%を超えると、Pの活量に与える影響が顕著となり、P化合物の生成条件が変化するおそれがあることから、C濃度は3.5%以下であることが好ましい。同様の理由により、Si濃度は2.5%以下であることが好ましい。
C濃度は、鋼材特性、特に強度の確保の観点から、0.0015%以上であることがさらに好ましい。SiはO濃度を安定させる効果を有するので、Si濃度は0.01%以上であることがさらに好ましい。
Mn:
Mnは、鋼中におけるPの活量を低下させる作用を有する元素である。Mnは、濃度が3%を超えると粒界に偏析して靭性の低下を招く恐れがある。したがって、Mn濃度は3%以下であることが好ましい。Mn濃度は、鋼材強度を確保する観点から、0.2%以上であることがさらに好ましい。
Al:
Alは、LN、Caに次いてOとの親和力が強い元素である。このため、Al濃度が過度に低いと本発明の前提となる製品鋼中O濃度0.005%以下を安定して得ることが困難になり、過度に高いとアルミナ介在物が増加して靭性の低下を招く。このため、Al濃度は0.0035%以上3%以下であることが望ましい。本明細書において、「Al濃度」とは、「酸可溶Al(sol.Al)の濃度」を意味する。
その他の元素:
上記の鋼において、S,O,LN,Caを必須の調整元素とするほか、C、Si、Mn、Alについて上記の範囲とし、残部を鉄(Fe)および不純物とすることが好ましいことを説明した。
ただし、その鉄(Fe)の一部に替えて、Ni、Mo、V、Ti、CrおよびBなどの元素が下記の濃度範囲で含有されていてもよい。これらの元素は、溶鋼中におけるLNとOまたはSとの反応、およびCaとOまたはSとの反応にほとんど影響を及ぼさないからである。すなわち、0.01%〜30%の濃度範囲のNi、0.01%〜1%の濃度範囲のMo、0.001%〜0.1%の濃度範囲のV、0.005%〜0.3%の濃度範囲のTi、0.001%〜35%の濃度範囲のCr、0.0001%〜0.003%の濃度範囲のB、0.001〜0.007%の濃度範囲のN、0.0001〜0.03%の濃度範囲のZr、0.0001%〜0.3%の濃度範囲のW、0.0001〜0.1%の濃度範囲のNbなどである。なお、Pは0.05%以下であることが望ましい。P濃度が0.05%を超えて高くなると粒界偏析による機会特性の低下に加え、リン化物介在物によって溶接性が低下する場合がある。
(b)介在物の組成および形態
本発明における鋼中の介在物の組成、およびその形態について説明する。
本発明の鋼材中における介在物は、必須構成成分としてLN、Ca、SおよびOを含有し、同時にP、Al、Mg、SiおよびTiのうち1種類以上を含有する。また、全介在物構成元素の原子数比から算出される濃度(モル分率)が5mol%以下であればMnを、15mol%以下であればMgを含有してもよい。
LN、CaおよびSの合計濃度(モル分率)は35mol%以上が好ましく、50mol%以上がさらに好ましい。LN、CaおよびSの合計濃度が35mol%以上となると介在物による鋼中S吸収効果が高まり耐食性などの鋼材性能が改善する。さらに、50mol%を超えて高くなると、ノズル閉塞の抑制の効果をより高い水準で安定的に確保できる。
鋼中において介在物は数nmから数百μmまでの範囲の様々な大きさで存在する。ここで、介在物の大きさとは、介在物の最大長をいう。全ての大きさの介在物が、上記(1)に規定する組成を満足することが好ましい。しかし、1μm以上300μm以下の大きさの介在物が上記規定の組成を満足すれば、ノズル閉塞の抑制効果を十分に得ることができる。1μm未満の介在物は、耐火物に付着してもノズル閉塞に及ぼす影響が小さく、300μmを超える介在物はの発生個数が非常に少ないためノズル閉塞に及ぼす影響が小さいからである。
鋼中には、溶鋼段階で生成し、溶鋼と共に鋳型を経て鋼(鋼材)中にそのまま残留するLNを含有する酸硫化物系介在物とは別に、鋳型通過後の温度低下過程で鋼中に生成するTi、Nb、Nなどを含有する炭窒化物が存在する。しかし、これらの炭窒化物は、ノズル通過後の溶鋼の凝固過程で生成する介在物であるため、特に鋳造のための制御を要しない。ただし、炭窒化物が過剰になると、耐食性や加工性、溶接性といった、鋼材の性能を低下させる。そのため、鋼中のN濃度が前述した範囲であることが好ましい。
(c)溶鋼の処理方法
溶鋼の処理方法として、鋼中の介在物を上記(1)に規定する組成に制御するための、溶鋼の精錬方法について説明する。
(c)−1.二次精錬について
転炉から溶鋼を取鍋に出鋼した後、または出鋼中にCaOなどのフラックス、Si、Mn、Alといった合金元素を添加し、取鍋をガス吹き込み攪拌処理装置や真空脱ガス処理装置(RHなど)などの二次精錬装置に移送する。
二次精錬では、必要に応じて脱硫、脱ガス、脱介在物などの不純物除去の他、合金元素の添加による成分調整および温度調整を行うが、鋼中の介在物を上記(1)に規定する組成に制御に当たっては、これらの処理の実施は任意である。
ただし、SおよびOは、鋼製品でそれぞれ0.005%以下を満足していることが必須であるが、LN、Caの添加前にそれぞれ0.005%以下に低減しておくことが好ましく、さらに前述した好適範囲まで低減されていることが一層好ましい。Sの低減方法としては、CaO系スラグを用いてガス攪拌により溶鋼とスラグを反応させる方法、CaOフラックスなどの脱硫剤を溶鋼に吹き込む方法、RHなどの真空脱ガス装置で溶鋼表面に脱硫フラックスを吹き付ける方法などがあるが、いかなる方法でもよい。Oの低減方法としては、溶鋼に不活性ガスを吹き込む方法、RHなどの真空脱ガス装置で所定時間環流する方法などがあるが、いかなる方法でもよい。
(c)−2.スラグ組成、スラグ量について
取鍋内の溶鋼表面のスラグ組成の好適範囲は以下の通りである。スラグ中のFeO、MnOおよびFe23の濃度は合計で5%以下が好ましく、1.5%以下がさらに好ましい。これらの酸化物は、濃度が高いと、LNおよびCaと反応してしまい、介在物の組成の制御の精度が低下するのに加え、二次精錬処理後もスラグから溶鋼へ酸素が供給され続けるため、溶鋼の清浄性が悪化する。これらの現象を「スラグによる再酸化」と称する。この再酸化を抑制するには、スラグ中のこれらの酸化物の合計濃度は合計で5%以下が好ましい。これらの酸化物の合計濃度を1.5%以下まで低減すると再酸化はほぼ完全に抑制される。
スラグ中のCaO濃度とAl23濃度の比(以下「C/A」ともいう)は、1.0以上が好ましく、1.5以上がさらに好ましい。C/Aが1.0未満の場合、スラグ中のCaOの活量が低くなるため、溶鋼中でのCa脱酸が不安定になることがある。一方、C/Aが1.5以上となると、スラグはCaOが飽和状態となるため、CaOの活量が1となり、Ca脱酸の安定性を向上させることができる。
スラグ量(溶鋼1tonあたり)は、10kg/ton以上25kg/ton以下が好ましい。10kg/ton未満では、スラグ量が少なすぎ、スラグ−メタル間反応による溶鋼脱酸の安定性が低下する。逆に25kg/tonを超えると、スラグの影響が過大となり、例えばスラグ中の微量のMnOでも影響を与える可能性が生じる。
(d)介在物組成の制御方法
上記の精錬処理を施した溶鋼における介在物組成の制御方法について説明する。
(d)−1.LNとCaの添加について
ガス吹き込み攪拌処理装置やRHなど真空脱ガス処理装置などを用いて、鋼からの不純物除去、溶鋼組成調整、溶鋼温度調整、スラグ温度調整などの二次精錬を行った後、取鍋内溶鋼にLNとCaを添加する溶鋼処理を行う。
LNとCaの添加量は、介在物組成が上記(1)の規定を満足するように決定する。前述したように、高温処理である製鋼処理では、通常は、処理中に進行する化学反応の多くが平衡に近い状態となっていることから、製鋼処理において制御された鋼の最終成分に対応して、介在物の組成も一義的に定まる。このため、介在物の組成を上記範囲に制御するための、LNおよびCaの添加時期、添加順序、添加量などの操業条件の最適条件は、経験的に容易に決定することができる。
LN添加量は、0.1kg/ton以上1.5kg/ton以下が好ましい。LN添加量が0.1kg/ton未満ではLNが不足し、1.5kg/tonを超えると介在物中のLN濃度が高くなりすぎて、いずれの場合も介在物組成が上記(1)の規定を満足することが困難である。
Ca添加量は、0.1kg/ton以上0.4kg/ton以下が好ましい。Ca添加量が0.1kg/ton未満では介在物中のCaが不足して、介在物組成が上記(1)の規定を満足することが困難であり、0.4kg/tonを超えるとCaの蒸発が活発化し、Ca添加の効果が飽和する。
添加するLNは、金属Laなどの金属LN、La−Ce、La−Al、ミッシュメタルなどの合金など、いかなるものでも添加剤として用いてよい。Caも、金属Ca、Ca−Fe、Ca−Si、Ca−Alなどの合金など、いかなるものでも添加剤として用いてよい。また、LN分とCa分はあらかじめ合金化したものを用いてもよいが、単に混合したものでもよい。
さらに、これらのLN分、Ca分の他にCaO、Al23などの酸化物を添加剤としてフラックスに混合してもよい。ただし、添加剤中の純LN分と純Ca分(「Ca純分」ともいう)は、生成する非金属介在物の組成が上記(1)の規定を満足するように決定する必要がある。Ca純分とは、金属Caまたは合金中のCaなどの金属Ca混合物中のCaを指し、CaOやCaF2といったCa化合物中のCaはCa純分には加算しない。
LNおよびCaの添加は取鍋で行ってもよいし、連続鋳造機のタンディッシュで行ってもよい。ただし、LNおよびCaの添加後は、すみやかに鋳造することが好ましい。
LNおよびCaの添加方法としては、以下の3つの方法があり、いずれの方法を用いてもよい。第1の添加方法は、LNおよびCaの少なくとも一方を含有する添加剤を溶鋼に一括で添加する方法である。また、第2の添加方法は、この添加剤を、溶鋼に浸漬した吹き込みランスを用いてキャリヤーガスとともに直接溶鋼中に吹き込むインジェクション法である。さらに、第3の添加方法は、この添加剤を鉄被覆ワイヤ内に充填したワイヤを溶鋼に送り込むワイヤ法である。
インジェクション法またはワイヤ法を適用する場合、Caの添加速度は、Ca純分換算で0.03kg/ton/min以上、0.15kg/ton/min以下とすることが好ましい。0.03kg/ton/min未満では処理時間が長くなり過ぎ、0.15kg/ton/minを超えるとCaによるスプラッシュが発生して操業が困難になる。
LNとCaを別個に添加する場合には、LN合金やCa合金を添加剤として、上記いずれかの方法を用いて添加すればよい。ただし、この場合、LNを添加した後にCaを添加することが好ましい。Caを添加した後にLNを添加すると、LNを添加するまでにCaが蒸発し、Caが不足する恐れがあるからである。
LNとCaを同時に添加する場合には、添加剤として、LNとCaが適切な添加量となるようにLN合金やCa合金を混合または合金化したものを用いて、インジェクション法又はワイヤ法によって添加すればよい。
本発明の方法の効果を確認するため、下記の連続鋳造試験を行うとともに、ノズル内面の介在物の付着状況の評価を行った。
1.試験条件
溶鋼2500kgを1873Kに加熱し、安定させ、そのC、Mn、Si、P、SおよびAlの濃度を表1に示す濃度に調整した。また、溶鋼中のO濃度は、0.005%以下であった。
Figure 0005056826
試験番号1〜5および11〜15では、取鍋中の溶鋼に、LNとしてLa:Ce:Nd=4:3:3なる質量比のLN合金を一括で添加し、その後、CaとしてCa:Si=3:7なる質量比のCa合金を充填した鉄被覆ワイヤを上記ワイヤ法で添加した。Caの添加速度は0.1kg/ton/minとした。
試験番号6〜10および16〜20では、取鍋中の溶鋼に、上記のLN合金とCa合金の混合物を充填した鉄被覆ワイヤを上記ワイヤ法で添加し、LNとCaを同時に添加した。Ca純分で換算した添加速度は0.1kg/ton/minとした。
また、試験番号1〜10では、LN添加量を0.6〜1.5kg/ton、Ca添加量を0.2〜1.0kg/tonの範囲で変化させた。試験番号11〜20では、LN添加量を0.6〜1.5kg/ton、試験番号11〜15ではCa添加量を0.05〜0.15kg/ton、試験番号16〜20ではCa添加量を1.1〜1.5kg/tonの範囲で変化させた。
以上のLNおよびCaの添加を行った後、速やかにタンディッシュおよび浸漬ノズルを介して溶鋼を連続鋳造機の鋳型に注入し、鋳片の鋳造を行った。鋳造後、ノズル内面の耐火物を観察し、介在物の付着状況を評価した。表2には、上記溶鋼処理にて製造した溶鋼を連続鋳造し、その鋳片を分析して得られた結果を示す。なお、鋳片分析結果とLNとCa添加後に溶鋼から採取したサンプル分析値はほぼ同じであり、溶鋼中の化学成分、鋼材中の介在物成分も請求項に記載した範囲内であることを確認した。
Figure 0005056826
試験番号1〜10は本発明例であり、試験番号11〜20は比較例である。本発明例である試験番号1〜10は、鋼中のS、O、LNおよびCaの濃度、ならびに後述する介在物中のLN、CaおよびSの濃度が上記(1)の規定を満足した。比較例のうち、試験番号11〜15は介在物中のCaの濃度が上記(1)の規定を満足せず、このうち試験番号11は介在物中のS濃度も上記(1)の規定を満足しなかった。また、試験番号16〜20は介在物中のS濃度が上記(1)の規定を満足せず、このうち試験番号19は鋼中のCa濃度も上記(1)の規定を満足しなかった。
2.試験結果
表2には、鋼中のLNおよびCaの濃度と併せて、介在物中のLN、CaおよびSの濃度、ΔCa、ならびに介在物の付着状況の評価結果を示す。
表2において、介在物中のLN、CaおよびSの濃度は、各試験において任意に選択した15個の介在物について、SEM−EDSを用いて測定したLN、CaおよびS濃度を三元換算した値の平均値である。
ΔCaは、Ca濃度の上記平均値をPとし、上記15個の介在物のうち、Ca濃度とPとの差の絶対値が最も大きいもののCa濃度をQとしたとき、下記(1)式で定義される値である。
ΔCa=|P−Q|÷P×100 …(1)
ノズル内面への介在物の付着状況の評価は、前記図1における評価と同様とし、(a)付着なし、(b)ノズル内面の一部に付着あり、および(c)ノズル内面のほぼ前面に付着ありまたはノズルが閉塞して溶鋼全量の出鋼不可、の3段階で評価した。
本発明例である試験番号1〜10と、比較例である試験番号11〜20との比較からわかるように、介在物組成が上記(1)の規定を満足した場合には、ノズル内面への介在物の付着が認められなかったのに対して、介在物組成が上記(1)の規定を満足しなかった場合にはノズル内面への介在物の付着が認められた。
さらに、本発明のうち、試験番号1〜5と試験番号6〜10との比較からわかるように、LNとCaを混合して同時に溶鋼に添加した方が、ΔCaが小さく、介在物組成の分布幅が小さいため、介在物組成の安定性が高いことがわかった。介在物組成の安定性が高いと、目標組成から大きく乖離した組成の介在物が生成しにくくなるため、ノズル閉塞をより生じにくくすることができる。
本発明の連続鋳造用鋼は、高LN添加鋼であっても、連続鋳造時に介在物のノズル付着が生じないため、生産性が高く、かつ得られる特性の幅も広い。
また、本発明の連続鋳造用鋼の鋳造方法は、LNおよびCaを同時に添加するため、作業効率が高く、かつ溶鋼の温度低下も抑制することができる。
したがって、本発明は、生産性が高く、かつ、連続鋳造性の良好な連続鋳造用鋼、およびこのような連続鋳造用鋼を製造する方法として、製鋼技術分野において広範に適用できる。

Claims (2)

  1. S:0.005質量%以下、O(酸素):0.005質量%以下、ランタノイド:0.01質量%以上0.3質量%以下、およびCa:0.0012質量%以上0.0055質量%以下を含有する連続鋳造用鋼において、
    鋼中の酸硫化物系非金属介在物が、ランタノイド、Ca、SおよびOを合計30mol%以上含有し、同時にP、Al、Mg、SiおよびTiのうち1種類以上を含有し、
    かつ前記非金属介在物中のランタノイド、CaおよびSの合計モル数に対するCaのモル数の割合が30mol%以上、Sのモル数の割合が30mol%以下であることを特徴とする連続鋳造用鋼。
  2. 溶鋼にランタノイドとCaを添加する溶鋼処理工程を有する請求項1に記載の連続鋳造用鋼の製造方法であって、前記溶鋼処理工程において、Caとランタノイドを同時に溶鋼に添加することを特徴とする連続鋳造用鋼の製造方法。
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