JP5052719B2 - 繊維用ステンレス鋼線材とその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、切削加工により繊維状のステンレス鋼を製造するのに好適なフェライト系ステンレス鋼線材とその製造方法に関するもの。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ステンレス鋼を切削してステンレス繊維を製造することが行われている。このステンレス繊維の製造における主な問題は、▲1▼ステンレス鋼が難削性で切削バイトの寿命が短いこと、▲2▼金属繊維の断線が起こりやすいこと、▲3▼切粉のつながりが悪く繊維状態を保持することが難しいこと、などにより生産性が低いことにある。この問題に関連する従来の技術としては、以下のものが知られている。
【0003】
(1)特開昭63-141147号公報: オーステナイト系ステンレス鋼をベースに、S、Cuを添加することにより切削性を向上させている。
【0004】
(2)特開平1-119648号公報: オーステナイト系ステンレス鋼をベースとして、Ni当量、Cr当量のバランスを規定することにより、切削性を向上させている。これにより、びびり切削によってステンレス鋼の金属繊維を製造する際、工具摩耗や切粉の繊維状態が保持できないなどの問題を抑制する。
【0005】
(3)特開昭57-134548号公報: ステンレス鋼における介在物組成と大きさを規定することにより被削性を向上させ、切削繊維の強度を向上させている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の技術は主にオーステナイト系のステンレス鋼にて成分、介在物制御を行なうものにとどまっている。安価なフェライト系ステンレス鋼に関する提案はほとんどなされていない。
【0007】
一方、繊維用フェライト系ステンレス鋼はすでに商品化されているが、切削性が好ましくなく、さらに切削性の良いフェライト系ステンレス鋼の開発が望まれていた。
【0008】
従って、本発明の主目的は、切削性にすぐれ、切粉のつながりが良くて繊維状態の保持が十分可能な繊維用フェライト系ステンレス鋼線材とその製造方法とを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは切粉の繊維状態を保持するためのステンレス鋼線材の条件について検討・試験を行った結果、▲1▼切粉の繊維状態を保持するにはある程度の引張強度が必要であること、▲2▼強度を上げるためには特に残留オーステナイトの発生が重要であること。▲3▼残留オーステナイトを生じさせるには成分とともに素材加熱温度、熱処理条件が重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明繊維用ステンレス鋼線材の製造方法は、質量%で、C:0.02〜0.12、Si:0.75以下、Mn:1.00以下、Cr:16.00〜18.00、N:0.02〜0.04、Ni:0.60以下、Mo:0.40〜2.00、残余Feおよび不可避的不純物からなる鋼を繊維用ステンレス鋼線材に加工する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする。
【0011】
)上記化学成分の鋼片を900〜1200℃に加熱する工程。
)加熱した鋼片を圧延して850〜1000℃で巻き取る工程。
)巻取り後の線材を1.0〜15.0℃/secで冷却する工程。
【0012】
また、本発明繊維用ステンレス鋼線材は、質量%で、C:0.02〜0.12、Si:0.75以下、Mn:1.00以下、Cr:16.00〜18.00、N:0.02〜0.04、Ni:0.60以下、Mo:0.40〜2.00、残余Feおよび不可避的不純物からなる繊維用ステンレス鋼線材であって、圧延・冷却後における線材の引張強度が550〜750N/mm2であることを特徴とする。
【0013】
以上の製造方法により、切削性にすぐれ、切粉のつながりが良くて繊維状体の保持が十分可能な繊維用フェライト系ステンレス鋼線材を得ることが出来る。また、上記の繊維用ステンレス鋼線材は、切削加工時に切粉の繊維状態を保持するのに好適な引張強度を具えた線材である。そして、化学成分として、さらに質量%でS:0.015〜0.030を含有することが望ましい。
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。まず、化学成分の限定理由は次の通りである。
【0015】
C:0.02〜0.12% Cは鋼線の強度をコントロールするのに最も大きな影響を与える元素である。強度向上のためには0.02%以上必要である。また、多く添加すれば耐食性を悪くするため上限を0.12%とした。
【0016】
Si:0.75%以下 Siは脱酸元素の一つであり、鋼線の強度を高めるためにも重要である。ただし、過度の添加は靭性の欠如を招き、多すぎると熱間加工性を低下させるため上限を0.75%とした。下限は脱酸効果を持たせるために0.25%以上含有することが好ましい。
【0017】
Mn:1.00%以下 Mnは強度を向上させるために重要な元素である。ただし、多すぎると熱間加工性を低下させるために上限を1.00%とした。下限は0.25%以上が好ましい。
【0018】
Cr:16.00〜18.00% Crは耐食性向上に重要な元素である。16.00%未満であれば耐食性が低く18.00%を越えると切削性が低下するためその範囲を16.00%〜18.00%とした。
【0019】
N:0.02〜0.04% Nも強度向上のために重要な元素である。そのため0.02%を下限とした。ただし、過度に含有されると熱間、冷間加工性を低下させるため、上限を0.04%とした。
【0020】
Ni:0.60%以下 Niは耐食性向上に重要な元素である。ただし、多すぎるとコスト高となるために上限を0.60%とした。下限は0.20%以上が好ましい。
【0021】
Mo:0.40〜2.00% 耐食性を向上させるために0.40%以上含有させ、コストを考慮して上限を2.00%とした。
【0022】
S:0.015〜0.030% 切削性を向上させるため0.015%以上必要である。ただし、過度に含有すると熱間加工性を低下させるため、上限を0.030%とした。
【0023】
次に、加熱温度や熱処理条件の限定理由は次の通りである。
【0024】
加熱強度: 強度の向上には残留オーステナイトが大きく寄与しているため、900〜1200℃まで加熱し、組織を一旦オーステナイトとする必要があるためである。
【0025】
巻取り温度と冷却速度:後述する試験例から明らかなように、加熱した鋼片を850〜1000℃で巻取り、1.0〜15.0℃/secのスピードで冷却することにより、残留オーステナイトを発生させ、強度を向上させることができる。
【0026】
さらに、上記の繊維用ステンレス鋼線材において、残留オーステナイト率Vγが1〜10体積%であることが好ましい。ただし、残留オーステナイト率Vγはオーステナイト(γ)とフェライト(α)のX線回折ピーク強度より次式で表される。
【0027】
【数2】
Figure 0005052719
【0028】
切削性に優れ、かつ切粉の繊維状態を保つためにはある程度の引張強度が必要である。また、強度を向上させる大きな要因は、フェライト組織の中に生じる残留オーステナイトである。その残留オーステナイト量を上記のように限定することで、切削性と切粉の繊維状態維持に優れた繊維用ステンレス鋼線材とできる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
表1に示す化学成分の材料を加熱し、7.0φmmへ圧延した。その後、巻き取り→冷間伸線を行って3.0φmmのワイヤーにした後、切削テストを実施した。表2に加熱温度と圧延条件ならびに得られた圧延材やワイヤの機械的特性を示す。巻き取り温度とは、巻き取る際の圧延材の温度である。冷却速度とは、レイイングヘッド通過時から集束直前までの間における温度の変化速度である。引張強度は、圧延・冷却後における圧延材の強度と、冷間伸線後のワイヤの強度との両方を測定した。残留オーステナイト率Vγは、オーステナイト(γ)とフェライト(α)のX線回折ピーク強度を基に次式で求める。
【0030】
【数3】
Figure 0005052719
【0031】
図1に示すように、X線回折によりいくつかのピークが見られる。本例では、上記数式1を用いて次の6つの組合せの平均値を求めた。
α(110)−γ(111) α(110)−γ(200)
α(110)−γ(220) α(200)−γ(111)
α(200)−γ(200) α(200)−γ(220)
【0032】
切削試験は得られたステンレス鋼線材の切削することで行なった。
歩留まりとは材料投入量に対する製品量の比率である。その結果を表3に示す。
【0033】
【表1】
Figure 0005052719
【0034】
【表2】
Figure 0005052719
【0035】
【表3】
Figure 0005052719
【0036】
表1における鋼種3、4が本発明で規定する化学成分を満足している。鋼種4はS添加材である。表2に加熱・熱処理条件を示す。試料No.6、7、9は目標の引張強度(線材引張強度:550〜750N/mm2)を満たしている。これら試料No.6、7、9は、表3に示すように、切削時の材料断線回数、歩留まりについても大幅に改善されていることがわかる。
【0037】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明製造方法によれば、化学成分と加熱温度・圧延後の熱処理条件を規定することにより、フェライト組織中にオーステナイトを発生させ、強度を向上させることができる。その結果、切削性に優れ、切粉の繊維状態を保持しやすいステンレス鋼線材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 X線回折のピーク例を示すグラフである。

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.02〜0.12、Si:0.75以下、Mn:1.00以下、Cr:16.00〜18.00、N:0.02〜0.04、Ni:0.60以下、Mo:0.40〜2.00、残余Feおよび不可避的不純物からなる鋼を繊維用ステンレス鋼線材に加工する方法であって、下記の工程を含むことを特徴とする繊維用ステンレス鋼線材の製造方法。
    )上記化学成分の鋼片を900〜1200℃に加熱する工程。
    )加熱した鋼片を圧延して850〜1000℃で巻き取る工程。
    )巻取り後の線材を1.0〜15.0℃/secで冷却する工程。
  2. 前記鋼は、質量%で更に、S:0.015〜0.030を含有することを特徴とする請求項1に記載の繊維用ステンレス鋼線材の製造方法。
  3. 質量%で、C:0.02〜0.12、Si:0.75以下、Mn:1.00以下、Cr:16.00〜18.00、N:0.02〜0.04、Ni:0.60以下、Mo:0.40〜2.00、残余Feおよび不可避的不純物からなる繊維用ステンレス鋼線材であって、
    圧延・冷却後における線材の引張強度が550〜750N/mm2であることを特徴とする繊維用ステンレス鋼線材。
  4. 更に、質量%でS:0.015〜0.030を含有することを特徴とする請求項3に記載の繊維用ステンレス鋼線材。
  5. 残留オーステナイト率Vγが1〜10体積%であることを特徴とする請求項3又は4に記載の繊維用ステンレス鋼線材。ただし、残留オーステナイト率Vγはオーステナイト(γ)とフェライト(α)のX線回折ピーク強度より次式で表される。
    Figure 0005052719
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