図1は、本発明の実施例に係る動力伝達装置を搭載したハイブリッド自動車1の構成の概略を示す構成図である。このハイブリッド自動車1は、図示するように、エンジン11と、このエンジン11の出力軸としてのクランクシャフト111にダンパ112を介して接続された3軸式の動力分配統合機構12と、この動力分配統合機構12に接続された発電可能な第1電動機MG1と、変速機構13を介して動力分配統合機構12に接続された第2電動機MG2と、車両全体をコントロールするハイブリッド用電子制御ユニット14とを備える。この場合、動力分配統合機構12、第1電動機MG1、変速機構13および第2電動機MG2によって動力伝達装置15が構成されている。
エンジン11は、ガソリンまたは軽油などの炭化水素系の燃料により動力を出力する内燃機関であり、エンジン11の運転状態を検出する各種センサから信号を入力するエンジン用電子制御ユニット(以下、エンジンECUという)16により燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御などの運転制御を受けている。エンジンECU16は、ハイブリッド用電子制御ユニット14と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット14からの制御信号によりエンジン11を運転制御すると共に必要に応じてエンジン11の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット14に出力する。
動力分配統合機構12は、外歯歯車のサンギヤ121と、このサンギヤ121と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ122と、サンギヤ121に噛合すると共にリングギヤ122に噛合する複数のピニオンギヤ123と、複数のピニオンギヤ123を自転かつ公転自在に保持するキャリア124とを備え、サンギヤ121とリングギヤ122とキャリア124とを回転要素として差動作用を行なう遊星歯車機構として構成されている。動力分配統合機構12は、キャリア124にはエンジン11のクランクシャフト111が、サンギヤ121には第1電動機MG1が、リングギヤ122にはリングギヤ軸122aを介して変速機構13がそれぞれ連結されており、第1電動機MG1が発電機として機能するときにはキャリア124から入力されるエンジン11からの動力をサンギヤ121側とリングギヤ122側にそのギヤ比に応じて分配し、第1電動機MG1が電動機として機能するときにはキャリア124から入力されるエンジン11からの動力とサンギヤ121から入力される第1電動機MG1からの動力を統合してリングギヤ122側に出力する。リングギヤ122に出力された動力は、リングギヤ軸122aからギヤ機構125,デファレンシャルギヤ126を介して駆動輪127a,127bに出力される。
第1電動機MG1および第2電動機MG2は、共に発電機として駆動することができると共に電動機として駆動できる周知の同期発電電動機として構成されており、インバータ17,18を介してバッテリBTと電力のやりとりを行なう。インバータ17,18とバッテリBTとを接続する電力ライン19は、各インバータ17,18が共用する正極母線および負極母線として構成されており、第1および第2電動機MG1,MG2の一方で発電される電力を他のモータで消費することができるようになっている。したがって、バッテリBTは、第1および第2電動機MG1,MG2から生じた電力や不足する電力により充放電されることになる。なお、第1電動機MG1と第2電動機MG2とにより電力収支のバランスをとるものとすれば、バッテリBTは充放電されない。第1および第2電動機MG1,MG2は、共に電動機用電子制御ユニット(以下、電動機ECUという)20により駆動制御されている。電動機ECU20には、第1および第2電動機MG1,MG2を駆動制御するために必要な信号、例えば第1および第2電動機MG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ21,22からの信号や、図示しない電流センサにより検出されかつ第1および第2電動機MG1,MG2に印加される相電流などが入力されており、電動機ECU20からは、インバータ17,18へのスイッチング制御信号が出力されている。電動機ECU20は、回転位置検出センサ21,22から入力した信号に基づいて図示しない回転数算出ルーチンにより第1および第2電動機MG1,MG2の回転子の回転数を計算している。電動機ECU20は、ハイブリッド用電子制御ユニット14と通信しており、ハイブリッド用電子制御ユニット14からの制御信号によって第1および第2電動機MG1,MG2を駆動制御すると共に必要に応じて第1および第2電動機MG1,MG2の運転状態に関するデータをハイブリッド用電子制御ユニット14に出力する。
変速機構13は、第2電動機MG2の回転軸23とリングギヤ軸122aとの接続および接続の解除を行なうと共に両軸の接続を第2電動機MG2の回転軸23の回転数を2段に減速してリングギヤ軸122aに伝達できるよう構成されている。変速機構13の構成の一例を図2に示す。この図2に示す変速機構13は、ダブルピニオンの遊星歯車機構130aとシングルピニオンの遊星歯車機構130bと摩擦係合要素としての第1および第2ブレーキB1,B2とにより構成されている。ダブルピニオンの遊星歯車機構130aは、外歯歯車のサンギヤ131と、このサンギヤ131と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ132と、サンギヤ131に噛合する複数の第1ピニオンギヤ133aと、この第1ピニオンギヤ133aに噛合すると共にリングギヤ132に噛合する複数の第2ピニオンギヤ133bと、複数の第1ピニオンギヤ133aおよび複数の第2ピニオンギヤ133bを連結して自転かつ公転自在に保持するキャリア134とを備えており、サンギヤ131は第1ブレーキB1の係合または解放によりその回転を自由にまたは停止できるようになっている。シングルピニオンの遊星歯車機構130bは、外歯歯車のサンギヤ135と、このサンギヤ135と同心円上に配置された内歯歯車のリングギヤ136と、サンギヤ135に噛合すると共にリングギヤ136に噛合する複数のピニオンギヤ137と、複数のピニオンギヤ137を自転かつ公転自在に保持するキャリア138とを備えており、サンギヤ135は第2電動機MG2の回転軸23に、キャリア138はリングギヤ軸122aにそれぞれ連結されていると共にリングギヤ136は第2ブレーキB2の係合または解放によりその回転が自由にまたは停止できるようになっている。ダブルピニオンの遊星歯車機構130aとシングルピニオンの遊星歯車機構130bとは、リングギヤ132とリングギヤ136、キャリア134とキャリア138とによりそれぞれ連結されている。変速機構13は、第1および第2ブレーキB1,B2を共に解放することにより第2電動機MG2の回転軸23をリングギヤ軸122aから切り離すことができ、第1ブレーキB1を解放すると共に第2ブレーキB2を係合して第2電動機MG2の回転軸23の回転を比較的大きな減速比で減速してリングギヤ軸122aに伝達し(以下、この状態をLoギヤの状態という)、第1ブレーキB1を係合すると共に第2ブレーキB2を解放して第2電動機MG2の回転軸23の回転を比較的小さな減速比で減速してリングギヤ軸122aに伝達する(以下、この状態をHiギヤの状態という)。第1および第2ブレーキB1,B2を共に係合する状態は回転軸23やリングギヤ軸122aの回転を禁止するものとなる。
第1および第2ブレーキB1,B2は、本発明の作動系として図3に例示する油圧回路10からの油圧により係合または解放されるようになっている。油圧回路10は、図示するように、エンジン11の回転により駆動され、第1および第2ブレーキB1,B2を作動させるのに十分な圧送性能をもってオイルをオイル用流路101に圧送する油圧供給部としての機械式オイルポンプ102と、内蔵される図示しない電動モータにより駆動され、第1および第2ブレーキB1,B2を作動させるのに必要最低限の圧送性能をもってオイルをオイル用流路101に圧送する油圧供給部としての電動オイルポンプ103と、機械式オイルポンプ102や電動オイルポンプ103からオイル用流路101に圧送されたオイルのライン油圧PLを調整する油圧供給部としての3ウェイソレノイド104およびプレッシャーコントロールバルブ105と、ライン油圧PLを用いて第1ブレーキB1の係合力を調整する油圧供給部としての第1リニアソレノイド106や第1コントロールバルブ108、第1アキュムレータ110aと、ライン油圧PLを用いて第2ブレーキB2の係合力を調整する油圧供給部としての第2リニアソレノイド107や第2コントロールバルブ109、第2アキュムレータ110bとから構成されている。油圧回路10では、ライン油圧PLは、3ウェイソレノイド104を駆動してプレッシャーコントロールバルブ105の開閉を制御することにより調整することができ、第1および第2ブレーキB1,B2の係合力は、第1および第2リニアソレノイド106,107に印加する電流を制御してライン油圧PLを第1および第2ブレーキB1,B2に伝達させる第1および第2コントロールバルブ108,109の開閉を制御することにより調節される。
バッテリBTは、図1に示すように、バッテリ用電子制御ユニット(以下、バッテリECUという)24によって管理されている。バッテリECU24には、バッテリBTを管理するのに必要な信号、例えば、バッテリBTの端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧、バッテリBTの出力端子に接続された電力ライン19に取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流、およびバッテリBTに取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度Tbなどが入力されており、必要に応じてバッテリBTの状態に関するデータを通信によりハイブリッド用電子制御ユニット14に出力する。なお、バッテリECU24では、バッテリBTを管理するために電流センサにより検出された充放電電流の積算値に基づいて残容量(SOC)も演算している。
ハイブリッド用電子制御ユニット14は、CPU141を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU141の他に処理プログラムを記憶するROM142と、データを一時的に記憶するRAM143と、図示しない入出力ポートおよび通信ポートとを備える。ハイブリッド用電子制御ユニット14には、イグニッションスイッチ29からのイグニッション信号、シフトレバー25の操作位置を検出するシフトポジションセンサ251からのシフトポジションSP、アクセルペダル26の踏み込み量に対応したアクセル開度Accを検出するアクセルペダルポジションセンサ261からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル27の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ271からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ28からの車速V、および作動系として油圧回路10のオイルの温度を検出する温度センサ129(図3に表れる)からの油温toilなどが入力ポートを介して入力されている。また、ハイブリッド用電子制御ユニット14からは、電動オイルポンプ103を駆動する電動モータへの駆動信号や3ウェイソレノイド104への駆動信号、第1および第2リニアソレノイド106,107への駆動信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、ハイブリッド用電子制御ユニット14は、前述したように、エンジンECU16や電動機ECU20、バッテリECU24と通信ポートを介して接続されており、エンジンECU16や電動機ECU20、バッテリECU24と各種制御信号やデータのやりとりを行なっている。
こうして構成されたハイブリッド自動車1は、運転者によるアクセルペダル26の踏み込み量に対応するアクセル開度Accと車速Vとに基づいて出力軸としてのリングギヤ軸122aに出力すべき要求トルクを計算し、この要求トルクに対応する要求動力がリングギヤ軸122aに出力されるように、エンジン11と第1電動機MG1と第2電動機MG2とが運転制御される。エンジン11と第1電動機MG1と第2電動機MG2の運転制御としては、要求動力に見合う動力がエンジン11から出力されるようにエンジン11を運転制御すると共にエンジン11から出力される動力のすべてが動力分配統合機構12と第1電動機MG1と第2電動機MG2とによってトルク変換されてリングギヤ軸122aに出力されるよう第1および第2電動機MG1,MG2を駆動制御するトルク変換運転モードや要求動力とバッテリBTの充放電に必要な電力との和に見合う動力がエンジン11から出力されるようにエンジン11を運転制御すると共にバッテリBTの充放電を伴ってエンジン11から出力される動力の全部またはその一部が動力分配統合機構12と第1電動機MG1と第2電動機MG2とによるトルク変換を伴って要求動力がリングギヤ軸122aに出力されるよう第1および第2電動機MG1,MG2を駆動制御する充放電運転モード、エンジン11の運転を停止して第2電動機MG2からの要求動力に見合う動力をリングギヤ軸122aに出力するよう運転制御する電動機運転モードなどがある。この場合、機械式オイルポンプ102は、トルク変換運転モードや充放電運転モードなどのエンジン11の運転が行われているときに駆動される一方、電動オイルポンプ103は、電動機運転モードなどのエンジン11の運転が停止しているときに電動モータにより駆動されるようになっている。
そして、本実施例では、機械式オイルポンプ102や電動オイルポンプ103からオイル用流路101に圧送されたオイルのライン油圧PLを3ウェイソレノイド104およびプレッシャーコントロールバルブ105により調整し、その調整されたライン油圧PLを第1および第2コントロールバルブ108,109により個々に調整した油圧により係合力が調整された第1および第2ブレーキB1,B2の係合または解放を選択的に組み合わせて2つの変速比を形成することで、それぞれの変速比に基づいてクランクシャフト111から入力された回転数Neを変更してリングギヤ軸122aに出力するようにしている。具体的には、第1ブレーキB1を解放すると共に第2ブレーキB2を係合して第2電動機MG2の回転軸23の回転を比較的大きな減速比で減速してリングギヤ軸122aに伝達するLoギヤの状態と、第1ブレーキB1を係合すると共に第2ブレーキB2を解放して第2電動機MG2の回転軸23の回転を比較的小さな減速比で減速してリングギヤ軸122aに伝達するHiギヤの状態との互いに異なる変速比に基づいてクランクシャフト111から入力された回転数Neを変更してリングギヤ軸122aに出力するようにしている。
また、ハイブリッド用電子制御ユニット14は、クランクシャフト111とリングギヤ軸122aとの間での動力伝達状態の異常を検出する異常検出手段144と、この異常検出手段144によって異常が検出されたときに変速機構13によるLoギヤの状態とHiギヤの状態との状態を切り換えて変速比を変更する変速比変更手段145と、異常検出手段144によって異常が検出されたときにエンジン11を起動させるエンジン起動手段146と、機械式オイルポンプ102、電動オイルポンプ103、3ウェイソレノイド104、第1および第2リニアソレノイド106,107のなかから不調のポンプまたはソレノイドを特定する特定手段147と、この特定手段147により特定された不調のポンプまたはソレノイドに応じて変速比を選択する変速比選択手段148とを備えている。
異常検出手段144は、クランクシャフト111からリングギヤ軸122aに実際に伝達されたリングギヤ軸122aの実回転数Ne1を検出する回転数センサを備えている。そして、異常検出手段144は、第1および第2ブレーキB1,B2の係合または解放を選択的に組み合わせた2つの変速比に基づいてクランクシャフト111からの回転数Neを変更してリングギヤ軸122aに伝達される目標回転数Ne2と回転数センサからのリングギヤ軸122aの実回転数Ne1とを比較し、互いの回転数差Ne2−Ne1が所定の回転数差Nem(例えば0.5秒以上の間に500rpmの回転数差)を超えるときに動力伝達状態の異常を検出するものである。この場合、リングギヤ軸122aの目標回転数Ne2は、クランクシャフト111の回転数Neに対し変速比を演算した演算値により求められる。
変速比変更手段145は、異常検出手段144により動力伝達状態の異常が検出されたとき、その異常検出時点での変速比を、当該変速比を形成する第1ブレーキB1(または第2ブレーキB2)に対応する第1リニアソレノイド106(または第2リニアソレノイド107)とは異なる第2リニアソレノイド107(または第1リニアソレノイド106)から油圧が供給される第2ブレーキB2(または第1ブレーキB1)の係合による新たな変速比に変更するものである。具体的には、Loギヤの状態の変速比を、当該変速比を形成する第2ブレーキB2の係合に関与する第2リニアソレノイド107とは異なる第1リニアソレノイド106から油圧が供給される第1ブレーキB1の係合による新たな変速比に変更、またはHiギヤの状態の変速比を、当該変速比を形成する第1ブレーキB1の係合に関与する第1リニアソレノイド106とは異なる第2リニアソレノイド107から油圧が供給される第2ブレーキB2の係合による新たな変速比に変更するものである。
特定手段147は、上記変速比変更手段145により変更された新たな変速比に基づくリングギヤ軸122aの目標回転数Ne2と実回転数Ne1とを上記異常検出手段144により比較し、その回転数差Ne2−Ne1に基づいて検出された動力伝達状態の異常の有無に応じて、第1および第2リニアソレノイド106,107のなかから不調のソレノイドを特定するものである。
エンジン起動手段146は、上記異常検出手段144により動力伝達状態の異常が検出されたとき、または上記変速比変更手段145により変更された新たな変速比に基づくリングギヤ軸122aの目標回転数Ne2と実回転数Ne1とを上記異常検出手段144により比較した際の互いの回転数差Ne2−Ne1に基づいて動力伝達状態の異常が検出されたとき、エンジン11を起動させるものである。
また、特定手段147では、上記エンジン起動手段146によるエンジン11の起動時においてもその起動時の変速比に基づくリングギヤ軸122aの目標回転数Ne2と実回転数Ne1とを上記異常検出手段144により比較し、その回転数差Ne2−Ne1に基づいて検出された動力伝達状態の異常の有無に応じて、残る機械式オイルポンプ102、電動オイルポンプ103、3ウェイソレノイド104のなかから不調のポンプまたはソレノイドを特定している。
更に、変速比選択手段148は、上記特定手段147により特定された不調のオイルポンプまたはソレノイドに応じて、上記特定手段147により特定された不調のオイルポンプまたはソレノイドに応じて、その不調のオイルポンプまたはソレノイドに対する負担を軽減させた第1または第2ブレーキB1,B2により変更される変速比、もしくは不調のポンプまたはソレノイドを除くその他のポンプから油圧が供給される第1または第2ブレーキB1,B2により変更される変速比を上記複数の変速比のなかから選択するものである。
次に、クランクシャフト111とリングギヤ軸122aとの間での動力伝達状態の異常が異常検出手段144により検出された場合のハイブリッド用電子制御ユニット14による制御の流れを図4のフローチャートに沿って説明する。この場合、ハイブリッド自動車1は、電動機運転モードにより運転され、変速機構13による変速比はLoギヤの状態が選択されているものとする。
まず、図4のフローチャートのステップST1において、クランクシャフト111からリングギヤ軸122aに伝達される目標回転数Ne2と回転数センサによるリングギヤ軸122aの実回転数Ne1とを比較し、動力伝達状態の異常が検出されたか否かを判定する。
このステップST1の判定が、動力伝達状態の異常が検出されていないNOの場合には、そのまま制御を終える一方、動力伝達状態の異常が検出されたYESの場合には、ステップST2において、新たな変速比への変更を行う。つまり、異常検出時点でのLoギヤの状態の変速比を、当該変速比を形成する第2ブレーキB2に対応する第2リニアソレノイド107とは異なる第1リニアソレノイド106から油圧が供給される第1ブレーキB1の係合による新たなHiギヤの状態の変速比に変速比選択手段148により変更する。
次いで、ステップST3において、動力伝達状態の異常が検出されたか否かを判定する。
このステップST3の判定が、動力伝達状態の異常が検出されていないNOの場合には、ステップST4において、第2リニアソレノイド107が不調なソレノイドであると特定手段147により特定し、ステップST5で、Loギヤの状態の変速比での変速を禁止し、変速比選択手段148により選択されたHiギヤの状態の変速比での変速を行う。一方、上記ステップST3の判定が、動力伝達状態の異常が検出されているYESの場合には、ステップST6において、エンジン11を起動する。
その後、ステップST7において、動力伝達状態の異常が検出されたか否かを判定する。
このステップST7の判定が、動力伝達状態の異常が検出されていないNOの場合には、ステップST8において、電動オイルポンプ103が不調なオイルポンプであると特定手段147により特定し、ステップST9で、エンジン11の停止を禁止し、変速比選択手段148によってLoギヤの状態およびHiギヤの状態での変速比による変速を行う。
一方、上記動力伝達状態の異常が検出されているYESの場合には、ステップST10において、3ウェイソレノイド504が不調なソレノイドであると特定手段147により特定し、ステップST11で、変速比選択手段148によりエンジン11の駆動力を制限(例えば40〜50%程度まで制限)し、その不調の3ウェイソレノイド104に対する負担を軽減させた第1および第2ブレーキB1,B2により変更される変速比での変速を行う。
このように、上記実施例1では、リングギヤ軸122aの目標回転数Ne2と実回転数Ne1との回転数差Ne2−Ne1に基づいて動力伝達状態が検出されたときに、その異常検出時点の変速比(Loギヤの状態)を形成する第2ブレーキB2に対応する第2リニアソレノイド107とは異なる第1リニアソレノイド106から油圧が供給される第1ブレーキB1の係合による新たな変速比(Hiギヤの状態)での動力伝達状態の異常の有無に応じて第1および第2リニアソレノイド106,107のなかから不調の第2リニアソレノイド107が消去法により容易に特定される。また、リングギヤ軸122aの目標回転数Ne2と実回転数Ne1との回転数差Ne2−Ne1に基づいて動力伝達状態が検出されたときにエンジン11を起動させ、このエンジンの起動時の変速比に基づくリングギヤ軸122aの目標回転数Ne2と実回転数Ne1との回転数差Ne2−Ne1に基づいて検出された動力伝達状態の異常の有無に応じて、残る機械式オイルポンプ102、電動オイルポンプ103、3ウェイソレノイド104のなかから電動オイルポンプ103または3ウェイソレノイド104が不調なオイルポンプまたはソレノイドであることが消去法により容易に特定される。これにより、機械式オイルポンプ102、電動オイルポンプ103、3ウェイソレノイド104、第1および第2リニアソレノイド106,107の下流側にそれぞれ油圧センサや油圧スイッチなどの実油圧モニタ手段を新たに付設する必要がなくなり、コストアップさせることなく不調のオイルポンプまたはソレノイドを容易に特定することができる。
加えて、特定された不調の3ウェイソレノイド104に対する負担を軽減させるようにエンジン11の駆動力を制限(例えば40〜50%程度まで制限)させて第1または第2ブレーキB1,B2により変更される変速比、不調の電動オイルポンプ103を除くその他の機械式オイルポンプ102から第1および第2リニアソレノイド106,107から供給される油圧により係合または解放される第1および第2ブレーキB1,B2により変更される変速比、または不調の第2リニアソレノイド107から供給される油圧により係合または解放された第2ブレーキB2により変更される変速比が、それぞれ選択されるので、特定された不調のオイルポンプまたはソレノイドに無理させることをなくして適切なフェールセーフを行うことができる。
次に、本発明の実施例2を図5ないし図11に基づいて説明する。
この実施例2では、上記実施例1の動力伝達装置の構成を変更している。
図5は、本発明の実施例2に係るハイブリッド車両に用いられた動力伝達装置を説明する骨子図である。この図において、動力伝達装置30は、車体に取り付けられるトランスミッションケース31(以下、ケース31という)内において共通の軸心上に配設された入力軸32と、この入力軸32に直接に或いは図示しないダンパを介して間接に連結された切換型変速部33と、その切換型変速部33と出力軸34との間で伝達部材35を介して直列に連結された自動変速機として機能する有段式自動変速部41(以下、自動変速部41という)と、この自動変速部41に連結されている出力軸34とを直列に備えている。この動力伝達装置30は、図9に示すように、エンジン11と駆動輪127a,127bとの間に設けられて、エンジン11からの動力をデファレンシャルギヤ126を介して駆動輪127a,127bへ伝達する。なお、動力伝達装置30はその軸心に対して対称的に構成されているため、図5および図9の動力伝達装置30を表す部分においてはその下側が省略されている。
切換型変速部33は、第1電動機MG1と、入力軸32に入力されたエンジン11の出力を機械的に合成し或いは分配する機械的機構であって、エンジン11の出力を第1電動機MG1および伝達部材35に分配し、或いはエンジン11の出力とその第1電動機MG1の出力とを合成して伝達部材35へ出力させる動力分配機構36と、伝達部材35と一体的に回転するように設けられている第2電動機MG2とを備えている。なお、この第2電動機MG2は伝達部材35から出力軸34までの間のいずれの部分に設けられてもよい。本実施例の第1電動機MG1および第2電動機MG2は発電機能をも有する所謂モータジェネレータであるが、第1電動機MG1は反力を発生させるためのジェネレータ(発電)機能を少なくとも備え、第2電動機MG2は駆動力を出力するためのモータ(電動機)機能を少なくとも備える。
動力分配機構36は、例えば「0.418」程度の所定のギヤ比ρ1を有するシングルピニオン型の第1遊星歯車装置37と、摩擦係合要素としての切換クラッチC0および切換ブレーキB0とを主体的に備えている。この第1遊星歯車装置37は、第1サンギヤS1、第1遊星歯車P1、その第1遊星歯車P1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1、第1遊星歯車P1を介して第1サンギヤS1と噛み合う第1リングギヤR1を回転要素として備えている。第1サンギヤS1の歯数をZS1、第1リングギヤR1の歯数をZR1とすると、上記ギヤ比ρ1はZS1/ZR1である。
この動力分配機構36においては、第1キャリヤCA1は入力軸32すなわちエンジン11に連結され、第1サンギヤS1は第1電動機MG1に連結され、第1リングギヤR1は伝達部材35に連結されている。また、切換ブレーキB0は第1サンギヤS1とトランスミッションケース31との間に設けられ、切換クラッチC0は第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1との間に設けられている。それら切換クラッチC0および切換ブレーキB0が解放されると、第1サンギヤS1、第1キャリヤCA1、第1リングギヤR1がそれぞれ相互に相対回転可能な差動作用が働く差動状態とされることから、エンジン11の出力が第1電動機MG1と伝達部材35とに分配されるとともに、分配されたエンジン11の出力の一部で第1電動機MG1から発生させられた電気エネルギで蓄電されたり第2電動機MG2が回転駆動されるので、例えば所謂無段変速状態(電気的CVT状態)とされて、エンジン11の所定回転に拘わらず伝達部材35の回転が連続的に変化させられる。すなわち、切換型変速部33がその変速比γ0(入力軸32の回転数/伝達部材35の回転数)が最小値γ0min から最大値γ0max まで連続的に変化させられる電気的な無段変速機として機能する無段変速状態とされる。
この状態で、エンジン11の出力で車両走行中に上記切換クラッチC0が係合させられて第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが一体的に係合させられると、第1遊星歯車装置37の3要素S1、CA1、R1が一体回転させられる非差動状態とされることから、エンジン11の回転数と伝達部材35の回転数とが一致する状態となるので、切換型変速部33は変速比γ0が「1」に固定された変速機として機能する定変速状態とされる。次いで、上記切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられて第1サンギヤS1が非回転状態とされる非差動状態とされると、第1リングギヤR1は第1キャリヤCA1よりも増速回転されるので、切換型変速部33は変速比γ0が「1」より小さい値例えば0.7程度に固定された増速変速機として機能する定変速状態とされる。このように、本実施例では、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0は、切換型変速部33を、変速比が連続的変化可能な無段変速機として作動する無段変速状態と、無段変速機として作動させず無段変速作動を非作動として変速比変化を一定にロックするロック状態すなわち1または2種類以上の変速比の単段または複数段の変速機として作動する定変速状態、換言すれば変速比が一定の1段または複数段の変速機として作動する定変速状態とに選択的に切換える作動状態切換装置として機能している。
自動変速部41は、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置38、シングルピニオン型の第3遊星歯車装置39、およびシングルピニオン型の第4遊星歯車装置40を備えている。第2遊星歯車装置38は、第2サンギヤS2、第2遊星歯車P2、その第2遊星歯車P2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2、第2遊星歯車P2を介して第2サンギヤS2と噛み合う第2リングギヤR2を備えており、例えば「0.562」程度の所定のギヤ比ρ2を有している。第3遊星歯車装置39は、第3サンギヤS3、第3遊星歯車P3、その第3遊星歯車P3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3、第3遊星歯車P3を介して第3サンギヤS3と噛み合う第3リングギヤR3を備えており、例えば「0.425」程度の所定のギヤ比ρ3を有している。第4遊星歯車装置40は、第4サンギヤS4、第4遊星歯車P4、その第4遊星歯車P4を自転および公転可能に支持する第4キャリヤCA4、第4遊星歯車P4を介して第4サンギヤS4と噛み合う第4リングギヤR4を備えており、例えば「0.421」程度の所定のギヤ比ρ4を有している。第2サンギヤS2の歯数をZS2、第2リングギヤR2の歯数をZR2、第3サンギヤS3の歯数をZS3、第3リングギヤR3の歯数をZR3、第4サンギヤS4の歯数をZS4、第4リングギヤR4の歯数をZR4とすると、上記ギヤ比ρ2はZS2/ZR2、上記ギヤ比ρ3はZS3/ZR3、上記ギヤ比ρ4はZS4/ZR4である。
自動変速部41では、第2サンギヤS2と第3サンギヤS3とが一体的に連結されて第2クラッチC2を介して伝達部材35に選択的に連結されるとともに第1ブレーキB1を介してケース31に選択的に連結され、第2キャリヤCA2は第2ブレーキB2を介してケース31に選択的に連結され、第4リングギヤR4は第3ブレーキB3を介してケース31に選択的に連結され、第2リングギヤR2と第3キャリヤCA3と第4キャリヤCA4とが一体的に連結されて出力軸34に連結され、第3リングギヤR3と第4サンギヤS4とが一体的に連結されて第1クラッチC1を介して伝達部材35)に選択的に連結されている。
上記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3は従来の車両用自動変速機においてよく用いられている油圧式の摩擦係合要素であって、互いに重ねられた複数枚の摩擦板が油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型や、回転するドラムの外周面に巻き付けられた1本または2本のバンドの一端が油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成され、それが介装されている両側の部材を選択的に連結するためのものである。
以上のように構成された動力伝達装置30では、例えば、図6の係合作動表に示されるように、上記切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3が選択的に係合作動させられることにより、第1速ギヤ段(第1変速段)ないし第5速ギヤ段(第5変速段)のいずれか或いは後進ギヤ段(後進変速段)或いはニュートラルが選択的に成立させられ、略等比的に変化する変速比γ(=入力軸回転数/出力歯車回転速度 )が各ギヤ段毎に得られるようになっている。特に、本実施例では動力分配機構36に切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられており、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかが係合作動させられることによって、切換型変速部33は前述した無段変速機として作動する無段変速状態に加え、変速比が一定の変速機として作動する定変速状態を構成することが可能とされている。したがって、動力伝達装置30では、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで定変速状態とされた切換型変速部33と自動変速部41とで有段変速機として作動する有段変速状態が構成され、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態とされた切換型変速部33と自動変速部41とで電気的な無段変速機として作動する無段変速状態が構成される。言い換えれば、動力伝達装置30は、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れかを係合作動させることで有段変速状態に切り換えられ、切換クラッチC0および切換ブレーキB0の何れも係合作動させないことで無段変速状態に切り換えられる。また、切換型変速部33も有段変速状態と無段変速状態とに切り換え可能な変速機であると言える。
例えば、動力伝達装置30が有段変速機として機能する場合には、図6に示すように、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第3ブレーキB3の係合により、変速比γ1が最大値例えば「3.357」程度である第1速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2ブレーキB2の係合により、変速比γ2が第1速ギヤ段よりも小さい値例えば「2.180」程度である第2速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第1ブレーキB1の係合により、変速比γ3が第2速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.424」程度である第3速ギヤ段が成立させられ、切換クラッチC0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合により、変速比γ4が第3速ギヤ段よりも小さい値例えば「1.000」程度である第4速ギヤ段が成立させられ、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0の係合により、変速比γ5が第4速ギヤ段よりも小さい値例えば「0.705」程度である第5速ギヤ段が成立させられる。また、第2クラッチC2および第3ブレーキB3の係合により、変速比γRが第1速ギヤ段と第2速ギヤ段との間の値例えば「3.209」程度である後進ギヤ段が成立させられる。なお、ニュートラル「N」状態とする場合には、例えば切換クラッチC0のみが係合される。
しかし、動力伝達装置30が無段変速機として機能する場合には、図6に示される係合表の切換クラッチC0および切換ブレーキB0が共に解放される。これにより、切換型変速部33が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部41が有段変速機として機能することにより、自動変速部41の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部41に入力される回転数すなわち伝達部材35の回転数が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置30全体としてのトータル変速比(総合変速比)γTが無段階に得られるようになる。
図7は、無段変速部或いは第1変速部として機能する切換型変速部33と有段変速部或いは第2変速部として機能する自動変速部41とから構成される動力伝達装置30において、ギヤ段毎に連結状態が異なる各回転要素の回転数の相対関係を直線上で表すことができる共線図を示している。この図7の共線図は、横軸方向において各遊星歯車装置37〜40のギヤ比ρの相対関係を示し、縦軸方向において相対的回転数を示す二次元座標であり、3本の横軸のうちの下側の横線X1が回転数零を示し、上側の横線X2が回転数「1.0」すなわち入力軸32に連結されたエンジン11の回転数Neを示し、横軸XGが伝達部材35の回転数を示している。また、切換型変速部33を構成する動力分配機構36の3つの要素に対応する3本の縦線Y1、Y2、Y3は、左側から順に第2回転要素RE2に対応する第1サンギヤS1、第1回転要素RE1に対応する第1キャリヤCA1、第3回転要素RE3に対応する第1リングギヤR1の相対回転数を示すものであり、それらの間隔は第1遊星歯車装置37のギヤ比ρ1に応じて定められている。すなわち、縦線Y1とY2との間隔を1に対応するとすると、縦線Y2とY3との間隔はギヤ比ρ1に対応するものとされる。さらに、自動変速部41の5本の縦線Y4、Y5、Y6、Y7、Y8は、左から順に、第4回転要素RE4に対応し且つ相互に連結された第2サンギヤS2および第3サンギヤS3を、第5回転要素RE5に対応する第2キャリヤCA2を、第6回転要素RE6に対応する第4リングギヤR4を、第7回転要素RE7に対応し且つ相互に連結された第2リングギヤR2、第3キャリヤCA3、第4キャリヤCA4を、第8回転要素RE8に対応し且つ相互に連結された第3リングギヤR3、第4サンギヤS4をそれぞれ表し、それらの間隔は第2、第3、第4遊星歯車装置38〜40のギヤ比ρ2、ρ3、ρ4に応じてそれぞれ定められている。すなわち、図7に示すように、各第2、第3、第4遊星歯車装置38〜40毎にそのサンギヤとキャリヤとの間が1に対応するものとされ、キャリヤとリングギヤとの間がρに対応するものとされる。
上記図7の共線図を用いて表現すれば、本実施例の動力伝達装置30は、動力分配機構(無段変速部)36において、第1遊星歯車装置37の3回転要素(要素)の1つである第1キャリヤCA1が入力軸32に連結されるとともに切換クラッチC0を介して他の回転要素の1つである第1サンギヤS1と選択的に連結され、その他の回転要素の1つである第1サンギヤS1が第1電動機MG1に連結されるとともに切換ブレーキB0を介してトランスミッションケース31に選択的に連結され、残りの回転要素である第1リングギヤR1が伝達部材35および第2電動機MG2に連結されて、入力軸32の回転を上記伝達部材35を介して自動変速部(有段変速部)41へ伝達する(入力させる)ように構成されている。このとき、Y2とX2の交点を通る斜めの直線L0により第1サンギヤS1の回転数と第1リングギヤR1の回転数との関係が示される。例えば、上記切換クラッチC0および切換ブレーキB0の解放により無段変速状態に切換えられたときは、第1電動機MG1の発電による反力を制御することによって直線L0と縦線Y1との交点で示される第1サンギヤS1の回転が上昇或いは下降させられると、直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1の回転数が下降或いは上昇させられる。また、切換クラッチC0の係合により第1サンギヤS1と第1キャリヤCA1とが連結されると、上記3回転要素が一体回転するロック状態とされるので、直線L0は横線X2と一致させられ、エンジン回転数Neと同じ回転数で伝達部材35が回転させられる。また、切換ブレーキB0の係合によって第1サンギヤS1の回転が停止させられると、直線L0は図7に示す状態となり、その直線L0と縦線Y3との交点で示される第1リングギヤR1すなわち伝達部材35の回転数は、エンジン回転数Neよりも増速された回転で自動変速部41へ入力される。
自動変速部41では、図7に示すように、第1クラッチC1と第3ブレーキB3とが係合させられることにより、第8回転要素RE8の回転数を示す縦線Y8と横線X2との交点と第6回転要素RE6の回転数を示す縦線Y6と横線X1との交点とを通る斜めの直線L1と、出力軸34と連結された第7回転要素RE7の回転数を示す縦線Y7との交点で第1速の出力軸34の回転数が示される。同様に、第1クラッチC1と第2ブレーキB2とが係合させられることにより決まる斜めの直線L2と出力軸34と連結された第7回転要素RE7の回転数を示す縦線Y7との交点で第2速の出力軸34の回転数が示され、第1クラッチC1と第1ブレーキB1とが係合させられることにより決まる斜めの直線L3と出力軸34と連結された第7回転要素RE7の回転数を示す縦線Y7との交点で第3速の出力軸34の回転数が示され、第1クラッチC1と第2クラッチC2とが係合させられることにより決まる水平な直線L4と出力軸34と連結された第7回転要素RE7の回転数を示す縦線Y7との交点で第4速の出力軸34の回転数が示される。上記第1速ないし第4速では、切換クラッチC0が係合させられている結果、エンジン回転数Neと同じ回転数で第8回転要素RE8に切換型変速部33すなわち動力分配機構36からの動力が入力される。しかし、切換クラッチC0に替えて切換ブレーキB0が係合させられると、切換型変速部33からの動力がエンジン回転数Neよりも高い回転数で入力されることから、第1クラッチC1、第2クラッチC2、および切換ブレーキB0が係合させられることにより決まる水平な直線L5と出力軸34と連結された第7回転要素RE7の回転数を示す縦線Y7との交点で第5速の出力軸34の回転数が示される。
図8は、本実施例の動力伝達装置30を制御するための電子制御装置60に入力される信号及びその電子制御装置60から出力される信号を例示している。この電子制御装置60は、CPU、ROM、RAM、及び入出力インターフェースなどから成る所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことによりエンジン11、第1および第2電動機MG1,MG2に関するハイブリッド駆動制御、上記自動変速部41の変速制御等の駆動制御を実行するものである。
上記電子制御装置60には、図8に示す各センサやスイッチから、エンジン水温を示す信号、シフトポジションを表す信号、エンジン11の回転数であるエンジン回転数Neを表す信号、ギヤ比列設定値を示す信号、M(モータ走行)モードを指令する信号、エアコンの作動を示すエアコン信号、出力軸34の回転数に対応する車速信号、自動変速部41の作動油温を示す油温信号、サイドブレーキ操作を示す信号、フットブレーキ操作を示す信号、触媒温度を示す触媒温度信号、アクセルペダルの操作量を示すアクセル開度信号、カム角信号、スノーモード設定を示すスノーモード設定信号、車両の前後加速度を示す加速度信号、オートクルーズ走行を示すオートクルーズ信号、車両の重量を示す車重信号、各駆動輪の車輪速を示す車輪速信号、動力伝達装置30を有段変速機として機能させるために切換型変速部33を定変速状態に切り換えるための有段スイッチ操作の有無を示す信号、動力伝達装置30を無段変速機として機能させるために切換型変速部33を無段変速状態に切り換えるための無段スイッチ操作の有無を示す信号、第1電動機MG1の回転数NM1を表す信号、第2電動機MG2の回転数NM2を表す信号、入力軸32から出力軸34に実際に伝達された出力軸34の実回転数Ne1の信号などが、それぞれ供給される。また、上記電子制御装置60からは、スロットル弁の開度を操作するスロットルアクチュエータへの駆動信号、過給圧を調整するための過給圧調整信号、電動エアコンを作動させるための電動エアコン駆動信号、エンジン11の点火時期を指令する点火信号、第1および第2電動機MG1,MG2の作動を指令する指令信号、シフトインジケータを作動させるためのシフトポジション(操作位置)表示信号、ギヤ比を表示させるためのギヤ比表示信号、スノーモードであることを表示させるためのスノーモード表示信号、制動時の車輪のスリップを防止するABSアクチュエータを作動させるためのABS作動信号、Mモードが選択されていることを表示させるMモード表示信号、動力分配機構36や自動変速部41の油圧式摩擦係合要素(切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2クラッチC2)の係合力を調整する第1ないし第7リニアソレノイド511〜517への指令信号、オイル用流路501のライン油圧PLを調整する3ウェイソレノイド504およびプレッシャーコントロールバルブ505への指令信号、電動オイルポンプ503を作動させるための駆動指令信号、電動ヒータを駆動するための信号、クルーズコントロール制御用コンピュータへの信号等が、それぞれ出力される。
図9は、電子制御装置60による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図9において、切換制御手段61は、高車速判定手段610、高出力走行判定手段611、および電気パス機能判定手段612を備えており、車両状態に基づいて動力伝達装置30を上記無段変速状態と上記有段変速状態とのいずれかに選択的に切り換える。また、ハイブリッド制御手段62は、動力伝達装置30の上記無段変速状態すなわち切換型変速部33の無段変速状態においてエンジン11を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン11と第1電動機MG1および/または第2電動機MG2との駆動力の配分を最適になるように変化させて切換型変速部33の電気的な無段変速機としての変速比γ0を制御する。また、有段変速制御手段63は、例えば変速線図記憶手段64に予め記憶された変速線図から車速Vおよび出力トルクTout で示される車両状態に基づいて自動変速部41の変速すべき変速段を判断して自動変速部41の自動変速制御を実行する。
高車速判定手段610は、ハイブリッド車両の車両状態例えば実際の車速Vが高速走行を判定するための予め設定された高速走行判定値である判定車速V1以上の高車速となったか否かを判定する。高出力走行判定手段611は、ハイブリッド車両の車両状態例えば駆動力に関連する駆動力関連値例えば自動変速部41の出力トルクTout が高出力走行を判定するための予め設定された高出力走行判定値である判定出力トルクT1以上の高トルク(高駆動力)走行となったか否かを判定する。電気パス機能判定手段612は、動力伝達装置30を無段変速状態とするための車両状態例えば制御機器の機能低下が判定される故障判定条件の判定を、例えば第1電動機MG1における電気エネルギの発生からその電気エネルギが機械的エネルギに変換されるまでの電気パスに関連する機器の機能低下すなわち第1電動機MG1、第2電動機MG2、インバータ65、蓄電装置66、それらを接続する伝送路などの故障や、故障(フェイル)とか低温による機能低下或いは機能不全の発生に基づいて判定する。
上記駆動力関連値とは、車両の駆動力に1対1に対応するパラメータであって、駆動輪127a,127bでの駆動トルク或いは駆動力のみならず、例えば自動変速部41の出力トルクTout 、エンジントルクTe 、車両加速度や、例えばアクセル開度或いはスロットル開度(或いは吸入空気量、空燃比、燃料噴射量)とエンジン回転数Neとによって算出されるエンジントルクTeなどの実際値や、運転者のアクセルペダル操作量或いはスロットル開度に基づいて算出される要求駆動力等の推定値であってもよい。また、上記駆動トルクは出力トルクTout 等からデフ比、駆動輪127a,127bの半径等を考慮して算出されてもよいし、例えばトルクセンサ等によって直接検出されてもよい。上記他の各トルク等も同様である。つまり、高出力走行判定手段611では車両の駆動力を直接或いは間接的に示す駆動力関連パラメータに基づいて車両の高出力走行が判定される。
増速側ギヤ段判定手段67は、動力伝達装置30を有段変速状態とする際に切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれを係合させるかを判定するために、例えば車両状態に基づいて変速線図記憶手段64に予め記憶された変速線図に従って動力伝達装置30の変速されるべき変速段が増速側ギヤ段、例えば第5速ギヤ段であるか否かを判定する。これは、動力伝達装置30全体が有段式自動変速機として機能させられる場合に、第1速ないし第4速では切換クラッチC0が係合させられ、或いは第5速では切換ブレーキB0が係合させられるようにするためである。
切換制御手段61は、所定条件としての高車速判定手段610による高車速判定、高出力走行判定手段611による高出力走行判定すなわち高トルク判定、電気パス機能判定手段612による電気パス機能不全の判定の少なくとも1つが発生したことに基づいて、動力伝達装置30を有段変速状態に切り換える有段変速制御領域であると判定して、ハイブリッド制御手段62に対してハイブリッド制御或いは無段変速制御を不許可すなわち禁止とする信号を出力するとともに、有段変速制御手段63に対しては、予め設定された有段変速時の変速制御を許可する。このときの有段変速制御手段63は、変速線図記憶手段64に予め記憶された例えば変速線図に従って自動変速部41の自動変速制御を実行する。図6は、このときの変速制御において選択される油圧式摩擦係合要素、すなわち切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3の作動の組み合わせを示している。すなわち、動力伝達装置30全体すなわち切換型変速部33および自動変速部41が所謂有段式自動変速機として機能し、図6に示す係合表に従って変速段が形成される。
例えば、高車速判定手段610による高車速判定、増速側ギヤ段判定手段67による第5速ギヤ段判定、或いは高出力走行判定手段611による高出力走行判定であっても増速側ギヤ段判定手段67により第5速ギヤ段が判定される場合には、動力伝達装置30全体として変速比が1.0より小さな増速側ギヤ段所謂オーバードライブギヤ段が得られるために切換制御手段61は切換型変速部33が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が0.7の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を解放させ且つ切換ブレーキB0を係合させる指令を油圧回路50へ出力する。また、高出力走行判定手段611による高出力走行判定或いは増速側ギヤ段判定手段67により第5速ギヤ段でないと判定される場合には、動力伝達装置30全体として変速比が1.0以上の減速側ギヤ段が得られるために切換制御手段61は切換型変速部33が固定の変速比γ0例えば変速比γ0が1の副変速機として機能させられるように切換クラッチC0を係合させ且つ切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧回路50へ出力する。このように、切換制御手段61によって所定条件に基づいて動力伝達装置30が有段変速状態に切り換えられるとともに、その有段変速状態における2種類の変速段のいずれかとなるように選択的に切り換えられて、切換型変速部33が副変速機として機能させられ、それに直列の自動変速部41が有段変速機として機能することにより、動力伝達装置30全体が所謂有段式自動変速機として機能させられる。
例えば、判定車速V1は、高速走行において動力伝達装置30が無段変速状態とされるとかえって燃費が悪化するのを抑制するように、その高速走行において動力伝達装置30が有段変速状態とされるように設定されている。また、判定トルクT1は、車両の高出力走行において第1電動機MG1の反力トルクをエンジンの高出力域まで対応させないで第1電動機MG1を小型化するために、例えば第1電動機MG1からの電気エネルギの最大出力を小さくして配設可能とされた第1電動機MG1の特性に応じて設定されることになる。
しかし、切換制御手段61は、上記高車速判定手段610による高車速判定、高出力走行判定手段611による高出力走行判定、電気パス機能判定手段612による電気パス機能不全の判定のいずれも発生しないときは、動力伝達装置30を無段変速状態に切り換える無段変速制御領域であると判定して、動力伝達装置30全体として無段変速状態が得られるために上記切換型変速部33を無段変速状態として無段変速可能とするように切換クラッチC0および切換ブレーキB0を解放させる指令を油圧回路50へ出力する。同時に、ハイブリッド制御手段62に対してハイブリッド制御を許可する信号を出力するとともに、有段変速制御手段63には、予め設定された無段変速時の変速段に固定する信号を出力するか、或いは変速線図記憶手段64に予め記憶された例えば変速線図に従って自動変速部41を自動変速することを許可する信号を出力する。この場合、有段変速制御手段63により、図6の係合表内において切換クラッチC0および切換ブレーキB0の係合を除いた作動により自動変速が行われる。このように、切換制御手段61により所定条件に基づいて無段変速状態に切り換えられた切換型変速部33が無段変速機として機能し、それに直列の自動変速部41が有段変速機として機能することにより、適切な大きさの駆動力が得られると同時に、自動変速部41の第1速、第2速、第3速、第4速の各ギヤ段に対しその自動変速部41に入力される回転数すなわち伝達部材35の回転数が無段的に変化させられて各ギヤ段は無段的な変速比幅が得られる。したがって、その各ギヤ段の間が無段的に連続変化可能な変速比となって動力伝達装置30全体として無段変速状態となりトータル変速比γTが無段階に得られるようになる。
上記ハイブリッド制御手段62は、エンジン11を効率のよい作動域で作動させる一方で、エンジン11と第1電動機MG1および/または第2電動機MG2との駆動力の配分を最適になるように変化させる。例えば、そのときの走行車速において、アクセルペダル操作量や車速から運転者の要求出力を算出し、運転者の要求出力と充電要求値から必要な駆動力を算出し、エンジン11の回転数Neとトータル出力とを算出し、そのトータル出力とエンジン回転数Neとに基づいて、エンジン出力を得るようにエンジン11を制御するとともに第1電動機MG1の発電量を制御する。ハイブリッド制御手段62は、その制御を自動変速部41の変速段を考慮して実行したり、或いは燃費向上などのために自動変速部41に変速指令を行う。このようなハイブリッド制御では、エンジン11を効率のよい作動域で作動させるために定まるエンジン回転数Neと車速および自動変速部41の変速段で定まる伝達部材35の回転数とを整合させるために、切換型変速部33が電気的な無段変速機として機能させられる。すなわち、ハイブリッド制御手段62は無段変速走行の時に運転性と燃費性とを両立した予め記憶された最適燃費率曲線に沿ってエンジン11が作動させられるように動力伝達装置30のトータル変速比γTの目標値を定め、その目標値が得られるように切換型変速部33の変速比γ0を制御し、トータル変速比γTをその変速可能な変化範囲内例えば13〜0.5の範囲内で制御することになる。
このとき、ハイブリッド制御手段62は、第1電動機MG1により発電された電気エネルギをインバータ65を通して蓄電装置66や第2電動機MG2へ供給するので、エンジン11の動力の主要部は機械的に伝達部材35へ伝達されるが、エンジン11の動力の一部は第1電動機MG1の発電のために消費されてそこで電気エネルギに変換され、インバータ65を通して電気エネルギが第2電動機MG2或いは第1電動機MG1へ供給され、その第2電動機MG2或いは第1電動機MG1から伝達部材35へ伝達される。この電気エネルギの発生から第2電動機MG2で消費されるまでに関連する機器により、エンジン11の動力の一部を電気エネルギに変換し、その電気エネルギを機械的エネルギに変換するまでの電気パスが構成される。また、ハイブリッド制御手段62は、エンジン11の停止又はアイドル状態に拘わらず、切換型変速部33の電気的CVT機能によってモータ走行させることができる。さらに、ハイブリッド制御手段62は、エンジン11の停止状態で切換型変速部33が有段変速状態(定変速状態)であっても第1電動機MG1および/または第2電動機MG2を作動させてモータ走行させることもできる。
また、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2クラッチC2は、本発明の作動系として図8に例示する油圧回路50からの油圧により係合または解放されるようになっている。油圧回路50は、図10に示すように、図示するように、エンジン11の回転により駆動され、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2クラッチC2を作動させるのに十分な圧送性能をもってオイルをオイル用流路501に圧送する油圧供給部としての機械式オイルポンプ502と、内蔵される図示しない電動モータにより駆動され、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2クラッチC2を作動させるのに必要最低限の圧送性能をもってオイルをオイル用流路501に圧送する油圧供給部としての電動オイルポンプ503と、機械式オイルポンプ502や電動オイルポンプ503からオイル用流路501に圧送されたオイルのライン油圧PLを調整する油圧供給部としての3ウェイソレノイド504およびプレッシャーコントロールバルブ505と、ライン油圧PLを用いて切換ブレーキB0の係合力を調整する油圧供給部としての第1リニアソレノイド511や第1コントロールバルブ521、第1アキュムレータ531と、ライン油圧PLを用いて第1ブレーキB1の係合力を調整する油圧供給部としての第2リニアソレノイド512や第2コントロールバルブ522、第2アキュムレータ532と、ライン油圧PLを用いて第2ブレーキB2の係合力を調整する油圧供給部としての第3リニアソレノイド513や第3コントロールバルブ523、第3アキュムレータ533と、ライン油圧PLを用いて第3ブレーキB3の係合力を調整する油圧供給部としての第4リニアソレノイド514や第4コントロールバルブ524、第4アキュムレータ534と、ライン油圧PLを用いて切換クラッチC0の係合力を調整する油圧供給部としての第5リニアソレノイド515や第5コントロールバルブ525、第5アキュムレータ535と、ライン油圧PLを用いて第1クラッチC1の係合力を調整する油圧供給部としての第6リニアソレノイド516や第6コントロールバルブ526、第6アキュムレータ536と、ライン油圧PLを用いて第2クラッチC2の係合力を調整する油圧供給部としての第7リニアソレノイド517や第7コントロールバルブ527、第7アキュムレータ537とから構成されている。油圧回路50では、ライン油圧PLは、3ウェイソレノイド504を駆動してプレッシャーコントロールバルブ505の開閉を制御することにより調整することができ、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2クラッチC2の係合力は、第1ないし第7リニアソレノイド511〜517に印加する電流を制御してライン油圧PLを切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3、切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2に伝達させる第1〜第7コントロールバルブ521〜527の開閉を制御することにより調節される。
そして、本実施例2おいても、機械式オイルポンプ502や電動オイルポンプ503からオイル用流路501に圧送されたオイルのライン油圧PLを3ウェイソレノイド504およびプレッシャーコントロールバルブ505により調整し、その調整されたライン油圧PLを第1ないし第7リニアソレノイド511〜517、第1ないし第7コントロールバルブ521〜527、および第1ないし第7アキュムレータ531〜537により個々に調整した油圧により係合力が調整された切換クラッチC0、第1クラッチC1、第2クラッチC2、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、および第3ブレーキB3を選択的に組み合わせて複数の変速比を形成することで、それぞれの変速比に基づいて入力軸32から入力された回転数Neを変更して出力軸34に出力するようにしている。具体的には、図6に示す作動図表からも明らかなように、自動変速部41(有段変速部)において、切換クラッチC0と第1クラッチC1と第3ブレーキB3とを係合させることにより第1速が、切換クラッチC0と第1クラッチC1と第2ブレーキB2とを係合させることにより第2速が、切換クラッチC0と第1クラッチC1と第1ブレーキB3とを係合させることにより第3速が、切換クラッチC0と第1クラッチC1と第2クラッチC2とを係合させることにより第4速が、第1クラッチC1と第2クラッチC2と切換ブレーキB0とを係合させることにより第5速がそれぞれ形成される。
また、図9に示すように、電子制御装置60は、入力軸32と出力軸34との間での動力伝達状態の異常を検出する異常検出手段71と、この異常検出手段71によって異常が検出されたときに動力伝達装置30によるLoギヤの状態とHiギヤの状態との状態を切り換えて変速比を変更する変速比変更手段72と、異常検出手段71によって異常が検出されたときにエンジン11を起動させるエンジン起動手段73と、機械式オイルポンプ502、電動オイルポンプ503、3ウェイソレノイド504、第1ないし第7リニアソレノイド511〜517のなかから不調のポンプまたはソレノイドを特定する特定手段74と、この特定手段74により特定された不調のポンプまたはソレノイドに応じて変速比を選択する変速比選択手段75とを備えている。
異常検出手段71は、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2クラッチC2の係合または解放を選択的に組み合わせた複数の変速比に基づいて入力軸32からの回転数Neを変更して出力軸34に伝達される目標回転数Ne2と電子制御装置60に入力された出力軸34の実回転数Ne1の信号とを比較し、互いの回転数差Ne2−Ne1が所定の回転数差Nem(例えば0.5秒以上の間に500rpmの回転数差)を超えるときに動力伝達状態の異常を検出するものである。この場合、出力軸34の目標回転数Ne2は、入力軸32の回転数Neに対し変速比を演算した演算値により求められる。
変速比変更手段72は、異常検出手段71により動力伝達状態の異常が検出されたとき、その異常検出時点での変速比を、当該変速比を選択的に組み合わせた複数のブレーキおよびクラッチに個々に対応する複数のソレノイドおよびオイルポンプのうちの少なくとも1つのソレノイドまたはオイルポンプを異ならせた複数のソレノイドまたはオイルポンプから個々に油圧が供給される複数のブレーキおよびクラッチを組み合わせた新たな変速比に変更するものである。この場合、変速比変更手段72による変速比の変更は、切換制御手段61およびハイブリッド制御手段62による指令に対し優先して行われる。
特定手段74は、上記変速比変更手段72により変更された新たな変速比に基づく出力軸34の目標回転数Ne2と実回転数Ne1とを上記異常検出手段71により比較し、その回転数差Ne2−Ne1に基づいて検出された動力伝達状態の異常の有無に応じて、機械式オイルポンプ502、電動オイルポンプ503、3ウェイソレノイド504、第1ないし第7リニアソレノイド511〜517のなかから不調のソレノイドまたはオイルポンプを特定するものである。
エンジン起動手段73は、上記異常検出手段71により動力伝達状態の異常が検出されたとき、または上記変速比変更手段72により変更された新たな変速比に基づく出力軸34の目標回転数Ne2と実回転数Ne1とを上記異常検出手段71により比較した際の互いの回転数差Ne2−Ne1に基づいて動力伝達状態の異常が検出されたとき、エンジン11を起動させるものである。
特定手段74では、上記エンジン起動手段73の起動時においてもその起動時の変速比に基づく出力軸34の目標回転数Ne2と実回転数Ne1とを上記異常検出手段71により比較し、その回転数差Ne2−Ne1に基づいて検出された動力伝達状態の異常の有無に応じて、残る機械式オイルポンプ502、電動オイルポンプ503、3ウェイソレノイド504のなかから不調のポンプまたはソレノイドを特定している。
更に、変速比選択手段75は、上記特定手段74により特定された不調のオイルポンプまたはソレノイドに応じて、その不調のオイルポンプまたはソレノイドに対する負担を軽減させた切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2クラッチC2の組み合わせにより変更される変速比、もしくは不調のオイルポンプまたはソレノイドを除くその他のオイルポンプから油圧が供給されるクラッチおよびブレーキの組み合わせにより変更される変速比を複数の変速比のなかから選択するものである。この場合、変速比選択手段75による変速比の選択は、切換制御手段61およびハイブリッド制御手段62による指令に対し優先して行われる。
次に、入力軸32と出力軸34との間での動力伝達状態の異常が異常検出手段71により検出された場合の電子制御装置60による制御の流れを図11のフローチャートに沿って説明する。この場合、ハイブリッド自動車1は、動力伝達装置30が無断変速機として機能している状態、つまり動力分配機構36の切換クラッチC0および切換ブレーキB0のいずれも解放されて切換型変速部33が無段変速状態であって、エンジン11の停止状態で第1電動機MG1および/または第2電動機MG2から動力が伝達部材35に伝達され、かつ自動変速部41が第1速ギヤ段を選択して有段変速機として機能している状態であるものとする。
まず、図11のフローチャートのステップST21において、伝達部材35から出力軸34に伝達される目標回転数Ne2と伝達部材35から出力軸34に実際に伝達された出力軸34の実回転数Ne1とを比較し、動力伝達状態の異常が検出されたか否かを異常検出手段71により判定する。
このステップST21の判定が、動力伝達状態の異常が検出されていないNOの場合には、そのまま制御を終える一方、動力伝達状態の異常が検出されたYESの場合には、ステップST22において、新たな変速比への変更を行う。つまり、異常検出時点での第3ブレーキB3、切換クラッチC0および第1クラッチC1の係合により形成された第1速ギヤ段による変速比を、当該変速比を形成する第3ブレーキB3、切換クラッチC0および第1クラッチC1にそれぞれ対応する第4リニアソレノイド514、第5リニアソレノイド515および第6リニアソレノイド516のうちの第4リニアソレノイド514を異ならせた第3リニアソレノイド513、第4リニアソレノイド514および第5リニアソレノイド515から個々に油圧が供給される第2ブレーキB2、切換クラッチC0および第1クラッチC1の係合による新たな第2速ギヤ段の変速比に変速比変更手段72により変更する。
次いで、ステップST23において、動力伝達状態の異常が検出されたか否かを異常検出手段71により判定する。
このステップST23の判定が、動力伝達状態の異常が検出されていないNOの場合には、ステップST24において、上記ステップST22で第1速ギヤ段から第2速ギヤ段への変速段(変速比)の変更時に異ならせた第4リニアソレノイド514が不調なソレノイドであると特定手段74により特定し、ステップST25で、第1速ギヤ段(変速比)の使用を禁止し、変速比選択手段75によって切換型変速部33および自動変速部41の第2速ギヤ段から第5速ギヤ段を用いた変速比による変速を行う。
一方、上記ステップST23の判定が、動力伝達状態の異常が検出されているYESの場合には、ステップST26において、新たな変速比への変更を行う。つまり、上記ステップST23による異常検出時点での第2ブレーキB2、切換クラッチC0および第1クラッチC1の係合により形成された第2速ギヤ段による変速比を、当該変速比を形成する第2ブレーキB2、切換クラッチC0および第1クラッチC1にそれぞれ対応する第3リニアソレノイド513、第5リニアソレノイド515および第6リニアソレノイド516のうちの第3リニアソレノイド513を異ならせた第2リニアソレノイド512、第4リニアソレノイド514および第5リニアソレノイド515から個々に油圧が供給される第1ブレーキB1、切換クラッチC0および第1クラッチC1の係合による新たな第3速ギヤ段の変速比に変速比変更手段72により変更した後、ステップST27において、動力伝達状態の異常が検出されたか否かを異常検出手段71により判定する。
このステップST27の判定が、動力伝達状態の異常が検出されていないNOの場合には、ステップST28において、上記ステップST26で第2速ギヤ段から第3速ギヤ段への変速段(変速比)の変更時に異ならせた第3リニアソレノイド513が不調なソレノイドであると特定手段74により特定し、ステップST29で、第2速ギヤ段(変速比)の使用を禁止し、変速比選択手段75によって切換型変速部33および自動変速部41の第1速ギヤ段、および第3速ギヤ段から第5速ギヤ段を用いた変速比による変速を行う。
一方、上記ステップST27の判定が、動力伝達状態の異常が検出されているYESの場合には、ステップST30において、新たな変速比への変更を行う。つまり、上記ステップST27による異常検出時点での第1ブレーキB1、切換クラッチC0および第1クラッチC1の係合により形成された第3速ギヤ段による変速比を、当該変速比を形成する第1ブレーキB1、切換クラッチC0および第1クラッチC1にそれぞれ対応する第2リニアソレノイド512、第5リニアソレノイド515および第6リニアソレノイド516のうちの第2リニアソレノイド512を異ならせた第7リニアソレノイド517、第5リニアソレノイド515および第6リニアソレノイド516から個々に油圧が供給される第2クラッチC2、切換クラッチC0および第1クラッチC1の係合による新たな第4速ギヤ段の変速比に変速比変更手段72により変更した後、ステップST31において、動力伝達状態の異常が検出されたか否かを異常検出手段71により判定する。
このステップST31の判定が、動力伝達状態の異常が検出されていないNOの場合には、ステップST32において、上記ステップST30で第3速ギヤ段から第4速ギヤ段への変速段(変速比)の変更時に異ならせた第2リニアソレノイド512が不調なソレノイドであると特定手段74により特定し、ステップST33で、第3速ギヤ段(変速比)の使用を禁止し、変速比選択手段75によって切換型変速部33および自動変速部41の第1速ギヤ段、第2速ギヤ段、第4速ギヤ段、および第5速ギヤ段を用いた変速比による変速を行う。
一方、上記ステップST31の判定が、動力伝達状態の異常が検出されているYESの場合には、ステップST34において、新たな変速比への変更を行う。つまり、上記ステップST31による異常検出時点での第2クラッチC2、切換クラッチC0および第1クラッチC1の係合により形成された第4速ギヤ段による変速比を、当該変速比を形成する第2クラッチC2、切換クラッチC0および第1クラッチC1にそれぞれ対応する第7リニアソレノイド517、第5リニアソレノイド515および第6リニアソレノイド516のうちの第5リニアソレノイド515を異ならせた第1リニアソレノイド511、第6リニアソレノイド516および第7リニアソレノイド517から個々に油圧が供給される切換ブレーキB0、第1クラッチC1および第2クラッチC2の係合による新たな第5速ギヤ段の変速比に変速比変更手段72により変更した後、ステップST35において、動力伝達状態の異常が検出されたか否かを異常検出手段71により判定する。
このステップST35の判定が、動力伝達状態の異常が検出されていないNOの場合には、ステップST36において、上記ステップST34で第4速ギヤ段から第5速ギヤ段への変速段(変速比)の変更時に異ならせた第5リニアソレノイド515が不調なソレノイドであると特定手段74により特定し、ステップST37で、第4速ギヤ段(変速比)の使用を禁止し、変速比選択手段75によって切換型変速部33および自動変速部41の第1速ギヤ段ないし第3速ギヤ段、および第5速ギヤ段を用いた変速比による変速を行う。
一方、上記ステップST35の判定が、異常検出手段71により動力伝達状態の異常が検出されているYESの場合には、ステップST38において、エンジン起動手段73によりエンジン11を起動する。
その後、ステップST39において、入力軸32から伝達部材35を介して出力軸34に伝達される目標回転数Ne2と伝達部材35から出力軸34に実際に伝達された出力軸34の実回転数Ne1とを比較し、動力伝達状態の異常が検出されたか否かを異常検出手段71により判定する。
このステップST39の判定が、動力伝達状態の異常が検出されていないNOの場合には、ステップST40において、電動オイルポンプ503が不調なオイルポンプであると特定し、ステップST41で、エンジン11の停止を禁止し、変速比選択手段75によって切換型変速部33および自動変速部41の第1速ギヤ段ないし第5速ギヤ段を用いた変速比による変速を行う。
一方、上記動力伝達状態の異常が検出されているYESの場合には、ステップST42において、3ウェイソレノイド504が不調なソレノイドであると特定し、ステップST43で、エンジン11の駆動力を制限(例えば40〜50%程度まで制限)し、その不調の3ウェイソレノイド504に対する負担を軽減させた切換型変速部33および自動変速部41による変速を行う。
このように、上記実施例2では、エンジン11の停止状態で第1電動機MG1および/または第2電動機MG2から動力が伝達部材35を介して伝達された出力軸34の目標回転数Ne2と実回転数Ne1との回転数差Ne2−Ne1に基づいて動力伝達状態が検出されたときに、その異常検出時点の変速比(第1速ギヤ段)を形成する第3ブレーキB3、切換クラッチC0および第1クラッチC1にそれぞれ対応する第4リニアソレノイド514、第5リニアソレノイド515および第6リニアソレノイド516のうちの第4リニアソレノイド514を第3リニアソレノイド513に異ならせ、第4リニアソレノイド514および第5リニアソレノイド515とから個々に油圧が供給される第2ブレーキB2、切換クラッチC0および第1クラッチC1の係合による新たな第2速ギヤ段の変速比での動力伝達状態の異常の有無に応じて、リニアソレノイドを1つずつ異ならせた組み合わせのブレーキおよびクラッチにより形成される第3速ギヤ段ないし第5速ギヤ段の変速比に順に変更することにより、切換ブレーキB0、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2、第3ブレーキB3、切換クラッチC0、第1クラッチC1、および第2クラッチC2のなかから不調のリニアソレノイドが消去法により容易に特定される。また、新たに第5速ギヤ段の変速比に変更した際に伝達部材35から伝達された出力軸34の目標回転数Ne2と実回転数Ne1との回転数差Ne2−Ne1に基づいて動力伝達状態が検出されたときにエンジン11を起動させ、このエンジンの起動時の変速比に基づく出力軸34の目標回転数Ne2と実回転数Ne1との回転数差Ne2−Ne1に基づいて検出された動力伝達状態の異常の有無に応じて、残る機械式オイルポンプ502、電動オイルポンプ503、3ウェイソレノイド504のなかから電動オイルポンプ503または3ウェイソレノイド504が不調なオイルポンプまたはソレノイドであることが消去法により容易に特定される。これにより、機械式オイルポンプ502、電動オイルポンプ503、3ウェイソレノイド504、第1ないし第7リニアソレノイド511〜517の下流側にそれぞれ油圧センサや油圧スイッチなどの実油圧モニタ手段を新たに付設する必要がなくなり、コストアップさせることなく不調のオイルポンプまたはソレノイドを容易に特定することができる。
加えて、特定された不調のリニアソレノイドと対応するブレーキまたはクラッチを使用しない切換型変速部33および自動変速部41による変速比、不調の電動オイルポンプ503を使用しない機械式オイルポンプ502を用いた切換型変速部33および自動変速部41による変速比、不調の3ウェイソレノイド504に対する負担を軽減させるようにエンジン11の駆動力を制限(例えば40〜50%程度まで制限)させた切換型変速部33および自動変速部41による変速比が、それぞれ選択されるので、特定された不調のオイルポンプまたはソレノイドに無理させることをなくして適切なフェールセーフを行うことができる。
なお、上記各実施例では、ハイブリッド自動車に搭載した動力伝達装置15,30について述べたが、エンジンのみの動力により駆動する自動車に搭載される動力伝達装置にも適用できるのはいうまでもない。また、動力伝達装置が有段変速状態に切り換え可能に構成されない、すなわち切換クラッチC0および切換ブレーキB0が備えられず電気的な無段変速機としての機能のみを有する動力伝達装置にも適用できるのはもちろんである。
また、上記実施例2では、エンジン11、第1電動機M1と第2電動機M2、および動力分配機構36を同心上に配置したが、これらの構成要件は必ずしも同心に配置される必要はない。例えば、第1電動機がカウンタギヤを介して第1サンギヤ(第2要素)に連結されて第1電動機と第1サンギヤとの回転方向が逆になるような場合には、第1電動機と第2電動機との回転方向を反対とすることで第2要素および第3要素が同じ方向に回転させられる。要するに、エンジン回転数を引き上げるために第2要素および第3要素が同じ方向に回転させられればよい。
また、上記実施例2では、動力分配機構36の第1キャリヤCA1をエンジン11の入力軸32に連結し、第1サンギヤS1を第1電動機M1に連結し、第1リングギヤR1を伝達部材35に連結していたが、それらの連結関係は、必ずしもそれに限定されるものではなく、エンジン、第1電動機、伝達部材は、第1遊星歯車装置の3要素つまり第1キャリヤ、第1サンギヤおよび第1リングギヤのうちのいずれと連結されていても差し支えない。
また、上記実施例2では、動力分配機構36を1組の遊星歯車装置により構成したが、2以上の遊星歯車装置から構成されて、定変速状態では3段以上の変速機として機能するものであってもよい。