つぎにこの発明を更に具体的に説明する。この発明に係る動力伝達装置は、車両に搭載されて使用されるものであって、基本的には、エンジンなどの内燃機関が出力した動力を、互いにギヤ比が異なる複数の変速ギヤ対から選択された変速ギヤ対を介して出力部材に伝達し、ここから動力を出力し、また必要に応じて電動機(発電機能を兼ね備えたモータ・ジェネレータを含む)によってトルクを補助し、あるいは走行のための動力を出力するように構成されている。その内燃機関は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどのがその典型的な例である。また、電動機は、モータとして機能した場合には、正のトルクを出力し、発電機として機能した場合には、回転を止める方向の負トルクを出力する。さらに、変速ギヤ対は互いに常時噛み合っている駆動ギヤと被駆動ギヤ(従動ギヤ)とからなるギヤ対であり、従来の車両用の手動変速機やツインクラッチ式変速機などで採用されているギヤ対と同様の構成であってよい。また、その変速ギヤ対の数は複数であればよく、その数が多いほど、設定可能な変速比(もしくは変速段)の数が多くなって、原動機の回転数や駆動トルクを細かく制御することが可能になる。図8には、四対の変速ギヤ対を設けた例を示してある。
この発明では、それらの変速ギヤ対を第1変速ギヤ対と第2変速ギヤ対とに分けてあり、内燃機関の動力をそれら第1変速ギヤ対と第2変速ギヤ対とに選択的に伝達するように構成されている。この発明に係る動力伝達装置は、その切り替えのための機構として差動機構を主体とした機構を備えている。より具体的には、その差動機構は、少なくとも三つの回転要素によって差動作用を行う機構であり、シングルピニオン型遊星歯車機構やダブルピニオン型遊星歯車機構がその典型的な例であるが、これらの遊星歯車機構以外の機構であってもよい。なお、回転要素とは、差動機構を構成する要素のうち、外部の何らかの部材に連結することの可能な要素である。
差動機構における三つの回転要素は、その機能で分ければ、入力要素、出力要素、反力(もしくは固定)要素であり、入力要素に前記内燃機関が連結される。出力要素には前述した変速ギヤ対における駆動側ギヤが連結される。そして、この発明における動力伝達装置では、反力要素に電動機が連結されている。なお、内燃機関はトルクを出力するだけでなく、エネルギが供給されない非動作状態ではフリクショントルクを発生し、また電動機は反転動作もしくは回生動作する場合に負のトルクを発生する。さらに動力伝達装置が車両に搭載されて車輪に連結されている場合には出力部材から差動機構に動力が入力されることもあるので、上記の入力要素および出力要素ならびに反力要素は、いずれかの回転要素が固定的にそのような要素になるのではなく、動力伝達装置の動作の状態によって入力要素が反力要素に切り替わったり、反力要素が出力要素に切り替わったりする。図8にはシングルピニオン型遊星歯車機構を主体に構成した差動機構を示してある。
そして、この発明に係る制御装置は、上記の動力伝達装置を対象とするものであって、前記変速機構での変速の際に前記電動機のトルクを変化させる電動機制御手段と、前記電動機制御手段による前記電動機のトルクの増減に応じて、前記出力部材のトルクの変化を抑制するように前記内燃機関の出力トルクを制御する内燃機関制御手段と、前記変速中のトルク相もしくはイナーシャ相で前記電動機のトルクを予め定めた変化率で変化させ、かつ前記内燃機関制御手段による前記内燃機関の出力トルクの変更制御が不可能な場合には前記変化率を、前記内燃機関の出力トルクの変更制御が可能な場合とは異ならせる変化率制御手段とを備えている。
この発明の好ましい実施の形態では、前記差動機構は、少なくとも三つの回転要素を有するとともに、いずれか二つの回転要素に前記内燃機関と電動機とが連結され、かつ他の回転要素と出力部材との間に選択的にトルク伝達可能な状態にされる第1の変速ギヤ対が設けられ、前記差動機構の全体を選択的に一体化させるロック機構が設けられ、さらに前記内燃機関と前記出力部材との間で選択的にトルク伝達可能とされる第2の変速ギヤ対が設けられ、前記電動機制御手段は、前記第1の変速ギヤ対を介して前記出力部材にトルクを伝達する変速比と前記第2の変速ギヤ対を介して前記出力部材にトルクを伝達する変速比との間での変速を行う場合に前記ロック機構を係合もしくは解放させるために前記電動機のトルクを変化させる手段を含み、前記内燃機関制御手段は、前記電動機制御手段による前記電動機のトルクの増減に応じて、前記出力部材のトルクの変化を抑制するように前記内燃機関の出力トルクを制御する手段を含んでいる。このような構成であれば、変速の際にロック機構を係合もしくは解放させるために電動機のトルクが変化させられるが、その電動機のトルクが変化しても、それに応じて内燃機関の出力トルクが制御されて出力部材のトルクが変化しないように維持されるので、変速ショックを防止もしくは低減することができる。
また、この発明の他の好ましい実施の形態では、前記電動機制御手段は、前記変速中のイナーシャ相における前記電動機のトルクを、前記内燃機関制御手段による前記内燃機関の出力トルクの変更制御が不可能な場合には、前記内燃機関の出力トルクの変更制御が可能な場合より増大もしくは低下させる手段を含んでいる。このような構成であれば、イナーシャ相で電動機のトルクのみを変化させる事態が生じてもその変化が適正化されて変速ショックが防止もしくは低減され、あるいは変速の進行が速くなって変速時間を短縮できる。
この発明の更に他の好ましい実施の形態では、前記変速の開始時における前記出力部材のトルクを目標トルクとし、変速中における前記出力部材のトルクが前記目標トルクとなるように前記内燃機関の出力とを前記電動機のトルクの増減に応じて制御する手段を含んでいる。このような構成であれば、変速開始時における出力部材のトルクを目標トルクとして内燃機関の出力トルクが、電動機のトルクの変化に合わせて制御されるので、変速開始から終了に到る間の出力部材のトルクの変化が抑制され、その結果、変速ショックを防止もしくは低減することができる。
またさらに、この発明の好ましい実施の形態では、前記変化率制御手段は、前記変化率を、前記内燃機関制御手段による前記内燃機関の出力トルクの変更制御が不可能な場合には、前記内燃機関の出力トルクの変更制御が可能な場合より小さくする手段を含んでいる。このような構成であれば、前記変化率が小さくされ、したがって、電動機のトルクのみを変化させる場合にはその変化が緩やかになるので、変速ショックを防止もしくは低減できる。
そして、この発明の他の好ましい実施の形態では、前記電動機制御手段は、前記変速中のイナーシャ相における前記電動機のトルクを、前記内燃機関制御手段による前記内燃機関の出力トルクの変更制御が不可能な場合には、前記内燃機関の出力トルクの変更制御が可能な場合より増大させて変速時間を短縮させる手段を含んでいる。このような構成であれば、変速時間を短縮することができる。
そしてまた、この発明の他の好ましい実施の形態では、前記電動機制御手段は、前記変速中のイナーシャ相における前記電動機のトルクを、前記内燃機関制御手段による前記内燃機関の出力トルクの変更制御が不可能な場合には、前記内燃機関の出力トルクの変更制御が可能な場合より低下させて変速ショックを抑制する手段を含んでいる。このような構成であれば、変速ショックを防止もしくは低減できる。
つぎに、図8に示す構成について説明すると、この発明における差動機構に相当するシングルピニオン型の遊星歯車機構1は、外歯歯車であるサンギヤSnと、そのサンギヤSnに対して同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤRgと、これらサンギヤSnとリングギヤRgとに噛み合った状態に配置されているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリヤCrとを備えている。
そのキャリヤCrにエンジン(Eng)2が連結されている。このエンジン2と遊星歯車機構1とは、同一軸線上に配置されていることが好ましいが、これらを互いに異なる軸線上に配置して、歯車機構やチェーンなどの伝動機構を介して両者を連結してもよい。また、サンギヤSnにこの発明の電動機に相当するモータ・ジェネレータ(MG)3が連結されている。このモータ・ジェネレータ3は、例えば永久磁石式の同期電動機であって、そのロータがサンギヤSnに連結され、ステータは図示しないケーシングなどの固定部に固定されている。さらにモータ・ジェネレータ3は全体として環状もしくは円筒状をなしており、その内周側に前記遊星歯車機構1が配置されている。すなわち、モータ・ジェネレータ3と遊星歯車機構1とは軸線方向でほぼ同じ位置に配置されており、両者が半径方向で少なくとも一部、重なっている(オーバーラップしている)。これは、モータ・ジェネレータ3の外径を相対的に大きくして高トルク化するとともに、エンジン2側に径の大きい部分を配置してスペースを有効に利用するためである。
そして、モータ・ジェネレータ3は、インバータなどのコントローラ4を介して二次電池などの蓄電装置5に接続されている。そのコントローラ4は、モータ・ジェネレータ3に対して供給する電流もしくは電圧などを変化させてモータ・ジェネレータ3の出力トルクや回転数を制御し、またモータ・ジェネレータ3が外力によって強制的に回転させられる場合の発電量や発電に要するトルクなどを制御するように構成されている。
モータ・ジェネレータ3を上記のように制御することにより、これが連結されているサンギヤSnの回転数を制御することができ、その回転数制御によってサンギヤSnの回転数をキャリヤCrやリングギヤRgの回転数と一致させれば、遊星歯車機構1は差動状態とならず、その全体が一体となって回転する。このような一体回転状態を電力を消費せずに設定するためのロック用係合機構が設けられている。このロック用係合機構は、遊星歯車機構1における少なくとも二つの回転要素を連結することにより、その全体を一体化するように構成された連結機構であり、噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)や摩擦クラッチなどによって構成されている。
図8に示す例では、キャリヤCrとサンギヤSnとを選択的に連結するロック用係合機構(ロッククラッチ)SLが設けられている。これは、一例として、スリーブをスプラインに噛み合わせることによりキャリヤCrとサンギヤSnとを連結するドグクラッチによって構成されている。その構成を簡単に説明すると、キャリヤCrをエンジン2に連結している入力軸6にハブ7が設けられており、そのハブ7の外周面に形成したスプラインにスリーブ8が軸線方向に移動でき、かつ回転方向に一体化された状態で嵌合している。そのスリーブ8が嵌合することのできるスプライン9が、サンギヤSnと一体の部材もしくはサンギヤSnとモータ・ジェネレータ3のロータとを連結している部材に形成されている。したがって、スリーブ8をサンギヤSn側に移動させてそのスプライン9に嵌合させることにより、キャリヤCrとサンギヤSnとが少なくとも回転方向で連結されるようになっている。スリーブ8をその軸線方向に往復動させるためのアクチュエータ10が設けられている。このアクチュエータ10は、油圧式あるいは電動式のいずれでもよい。
上記の遊星歯車機構1を挟んでエンジン2とは反対側に第1駆動軸11と第2駆動軸12とが配置されている。第1駆動軸11は、遊星歯車機構1の中心軸線と同一の軸線上に回転自在に配置されており、その一端部でキャリヤCrに連結されている。そのキャリヤCrには前述したようにエンジン2が連結されているから、結局、第1駆動軸11はエンジン2にも連結されている。第2駆動軸12は、第1駆動軸11の外周側に嵌合し、かつ第1駆動軸11と相対回転可能に配置されており、この第2駆動軸12はその一端部で前記リングギヤRgに連結されている。
第1駆動軸11は中空軸である第2駆動軸12より長く、したがって第1駆動軸11は第2駆動軸12から突出している。これらの駆動軸11,12と平行に、この発明における出力部材に相当する出力軸13が回転自在に配置されており、この出力軸13と各駆動軸11,12との間に四対の変速ギヤ対14,15,16,17が設けられている。これらの各変速ギヤ対14,15,16,17は、それぞれ駆動ギヤ14a,15a,16a,17aとこれに常時噛み合っている被駆動ギヤ14b,15b,16b,17bとを備えており、それぞれの駆動ギヤ14a,15a,16a,17aと被駆動ギヤ14b,15b,16b,17bとの歯数の比すなわちギヤ比が互いに異なっている。すなわち、これらの変速ギヤ対14,15,16,17は、第1速ないし第4速の各変速比(変速段)を設定するためのものであって、ここに挙げてある順にギヤ比が小さく設定されている。
ギヤ比が最大の第1速用ギヤ対14における駆動ギヤ14aと、ギヤ比としては第1速用ギヤ対14に対して一つおいた第3速用ギヤ対16における駆動ギヤ16aとが、第2駆動軸12に取り付けられており、ギヤ比としては第1速ギヤ対14に隣接する第2速用ギヤ対15における駆動ギヤ15aと、最小のギヤ比である第4速用ギヤ対17における駆動ギヤ17aとが、第1駆動軸11の前記第2駆動軸12から突出した部分に取り付けられている。すなわち、奇数段を設定するための変速ギヤ対14,16が一方の駆動軸12と出力軸13との間に配置され、偶数段を設定するための変速ギヤ対15,17が他方の駆動軸11と出力軸13との間に配置されている。
各変速ギヤ対14,15,16,17における被駆動ギヤ14b,15b,16b,17bは、出力軸13に対して回転自在の状態で出力軸13上に配列されている。したがって、被駆動ギヤ14b,15b,16b,17bの出力軸13上での配列は、図8の右側から、第1速被駆動ギヤ14b、第3速被駆動ギヤ16b、第2速被駆動ギヤ15b、第4速被駆動ギヤ17bの順である。
これらの変速ギヤ対14,15,16,17は、出力軸13に対して選択的に連結されるように構成されており、そのためのクラッチ機構が設けられている。このクラッチ機構は、ドグクラッチや摩擦クラッチなどの適宜の構造のものでよいが、図8にはドグクラッチの例が示されている。また、そのドグクラッチは、第1速被駆動ギヤ14bと第3速被駆動ギヤ16bとの間、および第2速被駆動ギヤ15bと第4速被駆動ギヤ17bとの間の二箇所に設けられている。
第1速被駆動ギヤ14bと第3速被駆動ギヤ16bとを出力軸13に対して選択的に連結する奇数段用クラッチS1は、遊星歯車機構1の全体を一体化するように遊星歯車機構1をロックする前記ロッククラッチSLと同様な構成であって、出力軸13と一体のハブ18に軸線方向に前後動自在にスプライン嵌合されているスリーブ19と、そのハブ18を挟んだ両側に位置しかつ第1速被駆動ギヤ14bに一体のスプライン20および第3速被駆動ギヤ16bに一体のスプライン21とを備えている。したがって、スリーブ19が第1速被駆動ギヤ14b側に移動してそのスプライン20に嵌合することにより、第1速被駆動ギヤ14bがスリーブ19およびハブ18を介して出力軸13に連結されるように構成されている。また、スリーブ19が第3速被駆動ギヤ16b側に移動してそのスプライン21に嵌合することにより、第3速被駆動ギヤ16bがスリーブ19およびハブ18を介して出力軸13に連結されるように構成されている。
第2速被駆動ギヤ15bと第4速被駆動ギヤ17bとを出力軸13に対して選択的に連結する偶数段用クラッチS2も上記の奇数段用クラッチS1と同様に構成されている。すなわち、出力軸13と一体のハブ22に軸線方向に前後動自在にスプライン嵌合されているスリーブ23と、そのハブ22を挟んだ両側に位置しかつ第2速被駆動ギヤ15bに一体のスプライン24および第4速被駆動ギヤ17bに一体のスプライン25とを備えている。したがって、スリーブ23が第2速被駆動ギヤ15b側に移動してそのスプライン24に嵌合することにより、第2速被駆動ギヤ15bがスリーブ23およびハブ22を介して出力軸13に連結されるように構成されている。また、スリーブ23が第4速被駆動ギヤ17b側に移動してそのスプライン25に嵌合することにより、第4速被駆動ギヤ17bがスリーブ23およびハブ22を介して出力軸13に連結されるように構成されている。
そして、奇数段用のドグクラッチS1および偶数段用のドグクラッチS2における各スリーブ19,23を軸線方向に前後動させるアクチュエータ26,27が設けられている。これらのアクチュエータ26,27は、油圧式あるいは電動式のいずれでもよい。
上記の出力軸13は、その遊星歯車機構1側の端部に設けられたカウンタギヤ28を介して終減速機として機能するデファレンシャル29に連結されている。このデファレンシャル29は、カウンタギヤ28に噛み合っているリングギヤ30と一体のデフケースの内部にピニオンギヤを取り付け、そのピニオンギヤに噛み合っている一対のサイドギヤ(それぞれ図示せず)を設けた公知の構成の歯車機構であり、そのサイドギヤのそれぞれに車輪(図示せず)にトルクを伝達する左右の車軸31が連結されている。したがって、図8に示す構成の動力伝達装置は、車両におけるトランスアクスルとして構成されている。
そして、前述したコントローラ4や各アクチュエータ10,26,27に制御指令信号を出力して駆動モードの設定や変速などを制御する電子制御装置(ECU)32が設けられている。この電子制御装置32は、マイクロコンピュータを主体として構成され、アクセル開度などの駆動要求量や車速、エンジン回転数、設定されている変速比などの入力データと、変速線図(変速マップ)などの予め記憶しているデータとに基づいて演算を行い、その演算結果に基づく制御指令信号を出力するように構成されている。
上記の動力伝達装置は、変速段用のいずれかのクラッチS1,S2によって出力軸13に対して第1駆動軸11もしくは第2駆動軸12をトルク伝達可能に連結し、またその駆動軸11,12のいずれかに対するエンジン2からのトルクの伝達を遊星歯車機構1によって切り替えることにより所定の変速段を設定する。また、そのいずれかのクラッチS1,S2を切り替え動作させて変速を行う場合に、遊星歯車機構1およびモータ・ジェネレータ3によって、ギヤの回転数を変速後の回転数に合わせる同期制御を行う。その動作を説明すると、図9はエンジン2を出力軸13に対して機械的に直結して設定される変速比である変速段と、それらの変速段を設定するための各クラッチSL,S1,S2の動作状態をまとめて示す図表であり、○を付した数字は、図8に記載してある丸付きの数字と対応しており、変速段用のクラッチS1,S2におけるスリーブ19,23の移動方向もしくは位置あるいは係合している変速ギヤ対の番号を示している。また図9における「×」印は解放状態であって連結もしくはロックを行っていないこと、「○」印は、ロッククラッチSLが係合状態であって遊星歯車機構1をロックしていることを示している。
図9に示すように、エンジン2の動力で走行する場合、第1速と第3速とのいわゆる奇数段では、ロッククラッチSLが係合状態とされて遊星歯車機構1の全体が一体化され、その遊星歯車機構1から第2駆動軸12および第1速ギヤ対14もしくは第3速ギヤ対16を介して出力軸13に動力が伝達される。すなわち、機械的直結段となる。これに対して第2速と第4速とのいわゆる偶数段では、ロッククラッチSLが解放状態とされ、エンジン2の動力は第1駆動軸11から第2速ギヤ対15もしくは第4速ギヤ対17を介して出力軸13に動力が伝達される。すなわち、エンジン直結段となる。
したがって隣接する変速比(変速段)同士の間での変速の場合には、ロッククラッチSLを係合させて遊星歯車機構1の全体を一体化させ、あるいは反対にロッククラッチSLを解放させて遊星歯車機構1をフリー状態とする必要があり、またそれに伴って変速後に互いに連結される回転部材同士の回転数を一致させる同期制御が実行される。これらの制御は、モータ・ジェネレータ3のトルクを増減させ、またそれに伴ってその回転数を変化させることにより行われる。その場合、モータ・ジェネレータ3が遊星歯車機構1を介して出力軸13に連結されているので、モータ・ジェネレータ3のトルクの変化が駆動力の変化要因となる。そこでこの発明に係る制御装置は、変速に伴う駆動力もしくは駆動トルクの変化や変速ショックを防止するために、モータ・ジェネレータ3のトルクの増減に応じてエンジントルクを協調制御するように構成されている。その制御例を以下に説明する。
図1は、変速開始からイナーシャ相の開始までのいわゆる第1のトルク相での制御を説明するためのフローチャートであり、先ず、第1のトルク相(トルクPh#1)が開始されているか否かが判断される(ステップS01)。これは、要は、変速が開始されたか否かの判断であり、例えば車速やアクセル開度あるいは駆動力要求量などの走行状態が、所定の変速段領域から他の変速段領域に変化したことの判断の成立に基づいて判定でき、また予め用意してある変速線図上での走行状態がその変速線を横切って変化したこと、あるいはそれに基づいて変速信号が出力されたことに基づいて判定することができる。このステップS01で否定的に判断された場合には、変速が実行されないので、特に制御を行うことなく、図1に示すルーチンを一旦終了する。
これに対してステップS01で肯定的に判断された場合には、モータ・ジェネレータ3のトルク(MGトルク)Tsを徐々に変化させる。図1に示す例では、徐々に低下(スイープダウン)させる(ステップS02)。具体的には、
Ts=κ1・Δt
となるようにモータ・ジェネレータ3のトルクTsが制御される。ここで、κ1は単位時間当たりのトルクTsの低下率(スイープ率)であって、エンジン2のトルク制御応答性を考慮して、実験やシミュレーションなどによって予め定められており、好ましくはエンジン2のトルク制御応答性とほぼ同じ応答性となるように設定される。また、Δtは時間幅であり、例えば図1に示すルーチンの実行サイクル時間である。なお、ここで、低下とは、エンジントルクとは反対の方向へのトルクの増大を意味し、正回転している場合には、その回転を止める方向のトルクを増大させ、またエンジン2とは反対方向に回転している場合には、いわゆる負の方向へのトルクを増大させることである。
上記のモータ・ジェネレータ3のトルクTsの低下に伴う出力軸13のトルクの低下を防止するために、エンジン2の出力トルクTeが徐々に変化させられる。図1に示す例では、徐々に増大(スイープアップ)させられる(ステップS03)。具体的には、
Te=Te0+Ts
となるようにエンジントルクTeが制御される。ここで、Te0は変速開始時のエンジントルクである。なお、この式から知られるように、モータ・ジェネレータ3のトルクTsが負の値であれば、エンジントルクTeは小さくなるので、エンジントルクの増大とは、正の値もしくは負の値のモータ・ジェネレータ3のトルクTsを変速開始時のエンジントルクに加算することである。
ついで、上記のようにして求められたエンジントルクTeが制御可能なトルクであるか否かが判断される。例えばそのエンジントルクTeが補正限界内の最大値になっているか否かが判断される(ステップS04)。エンジン2のスロットル開度が100%未満であってエンジントルクTeを補正できる場合には、すなわちステップS04で否定的に判断された場合には、エンジントルクTeを変更制御する。これは、例えば電子スロットルバルブのスロットル開度を電気的に制御し、あるいはディーゼルエンジンにおける燃料噴射量を制御することによる可能である。さらにトルク相(トルクPh#1)が終了したか否かが判断される(ステップS05)。この判断は、モータ・ジェネレータ3のトルクあるいは電流値に基づいて行うことができる。例えば図8に示す構成では遊星歯車機構1がシングルピニオン型のものであってキャリヤCrにエンジン2のトルクが入力されているので、エンジン2からキャリヤCrにトルクを入力することによりサンギヤSnに作用するトルクは(Te/(1+ρ))となり、モータ・ジェネレータ3のトルクがこれに釣り合うことによりステップS05の判断を行うことができる。そして、ステップS05で否定的に判断された場合には、ステップS02に戻って上記の制御を継続する。これとは反対にステップS05で肯定的に判断された場合には、図1のルーチンを一旦終了する。
一方、エンジントルクTeが補正限界を超えていて制御できない場合、すなわちステップS04で肯定的に判断された場合には、モータ・ジェネレータ3のトルクの変化率(スイープ率)を変更する(ステップS06)。すなわち、モータ・ジェネレータ3のトルクTsを
Ts=κ2・Δt
とする。ここで、κ2は新たなスイープ率であり、実験やシミュレーションなどによって予め定めた値である。また、このスイープ率κ2は、変速の進行の状況や変速ショックの抑制要求の大きさなどによって異なる値とすることができる。例えば、変速ショックをより確実に低減する要求が強い場合には、スイープ率κ2は小さい値とし、変速時間を短縮したほうが良い状況の場合にはスイープ率κ2を大きい値にする。そして、エンジントルクの補正が禁止される(ステップS07)。算出された上記のエンジントルクTeが補正限界を超えているからである。その後、ステップS05に進んでトルク相の終了が判断される。
上記の第1のトルク相は、サンギヤSnの回転数が変化し始めるなど、回転部材の回転数が変速後の変速比での回転数に向けて変化するイナーシャ相の開始によって終了する。そのイナーシャ相(イナーシャPh#1)ではエンジントルクTeが図2に示すように制御される。先ず、イナーシャ相の開始が判断される(ステップS11)。モータ・ジェネレータ3が連結されている遊星歯車機構1のサンギヤSnが回転し始めるトルクは、前述したように遊星歯車機構1におけるトルクの釣り合いによって求めることができ、またモータ・ジェネレータ3のトルクはその電流値などの制御量から知ることができるので、ステップS11の判断は、モータ・ジェネレータ3の電流値などの制御量に基づいて行うことができる。なお、タイマーによってイナーシャ相の開始を判断することとしてもよい。
ステップS11で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくこのルーチンを一旦終了する。これとは反対にステップS11で肯定的に判断された場合には、目標トルクTxが設定される(ステップS12)。変速の前後で駆動力を可及的に一定に維持するために、イナーシャ相開始時のエンジントルクTe0が目標トルクTxとされる(Tx=Te0)。さらに、モータ・ジェネレータ3のトルクTsが、変速後の変速比(変速段)で釣り合うトルクTs1に設定される(ステップS13)。モータ・ジェネレータ3のトルクTsを変速後の変速比(変速段)で釣り合うトルクTs1に変化させる制御に応じてエンジントルクTeを制御するために、エンジントルクTeが算出される(ステップS14)。具体的には、
Te=(Tx+K2・Ts)/K1
である。
この関係を更に説明すると、イナーシャ相では回転数の変化に起因する慣性トルクが生じるので、以下の関係式が成立する。
Ie・dωe/dt=Te−Tx
Is・dωs/dt=Ts+ρ・Tx/(1+ρ)
Ir・dωr/dt=Tr+Tx/(1+ρ)
ここで、Ieはエンジン2の慣性モーメント、ωeはエンジン2の回転速度、Txは目標出力トルク、IsはサンギヤSnおよびこれと一体に回転する部材の慣性モーメント、ωsはサンギヤSnおよびこれと一体に回転する部材の回転速度、ρは前述した遊星歯車機構1におけるギヤ比(サンギヤの端数とリングギヤの端数との比)、IrはリングギヤRgおよびこれと一体に回転する部材の慣性モーメント、ωrはリングギヤRgの回転速度である。
上記のリングギヤRgについての慣性モーメントは大きく、これに対して一定車速で走行している状態での変速の際にはその回転数ωrは実質上、変化しないのでその回転角加速度は「0」になる。この関係を代入して目標トルクTxについて解くと、
Tx=K1・Te−K2・Ts
となる。なお、
K1=(1+ρ)2・Is/{ρ2・Ie+(1+ρ)2・Is}
K2=ρ(1+ρ)・Ie/{ρ2・Ie+(1+ρ)2・Is}
である。
したがって、アクセルペダル(図示せず)の踏み増しやアクセルペダルを戻す減速操作などの加減速要求に変化がない状態での変速、すなわち「Te=0」の状態では目標トルクTxはモータ・ジェネレータ3のトルクTsの一次関数になる。そして、モータ・ジェネレータ3のトルクTsを前述したように変化させた場合に目標トルクTxを一定に維持するためのエンジントルクTeは、
Te=(Tx+K2・Ts)/K1
となる。したがって、変速の前後で駆動トルクを一定に維持するためには、Tx=Te0であるから、前述したステップS14での式が成り立つ。言い換えれば、エンジントルクを以上述べた関係を維持するように制御することにより、イナーシャ相での駆動トルクを一定に維持できる。
ついで、上記のようにして求められたエンジントルクTeが制御可能なトルクであるか否かが判断される(ステップS15)。これは、前述した図1におけるステップS04と同様の制御である。そのエンジントルクTeが補正限界内であってエンジントルクTeを補正できる場合には、すなわちステップS15で否定的に判断され場合には、エンジントルクTeを変更制御し、かつイナーシャ相(イナーシャPh#1)が終了したか否かが判断される(ステップS15)。遊星歯車機構1におけるトルクの釣り合いは演算して求められ、かつモータ・ジェネレータ3が出力するトルクはその電流値などの制御量で知ることができるので、前述した図1に示すステップS05におけるトルク相の終了の判断と同様に、モータ・ジェネレータ3の電流値などの制御量に基づいてステップS16の判断を行うことができる。
そして、ステップS16で否定的に判断された場合には、ステップS12に戻って上記の制御を継続する。これとは反対にステップS16で肯定的に判断された場合には、図1のルーチンを一旦終了する。
一方、エンジントルクTeが補正限界を超えていて制御できない場合、すなわちステップS15で肯定的に判断された場合には、モータ・ジェネレータ3のトルクTsを前述したステップS13で設定したトルクTs1とは異なるトルクTs2に設定する(ステップS17)。すなわち、Ts=Ts2に制御する。ここで、新たなトルクTs2は、実験やシミュレーションなどによって予め定めた値である。また、このトルクTs2は、変速の進行の状況や変速ショックの抑制要求の大きさなどによって異なる値とすることができる。例えば、変速ショックをより確実に低減する要求が強い場合には、トルクTs2は小さい値(Ts2<Ts1)とし、変速時間を短縮したほうが良い状況の場合にはトルクTs2を大きい値(Ts2>Ts1)にする。そして、エンジントルクの補正が禁止される(ステップS18)。算出された上記のエンジントルクTeが補正限界を超えているからである。その後、ステップS05に進んでトルク相の終了が判断される。
前述した図2に示すように、奇数段では、遊星歯車機構1がロックされてモータ・ジェネレータ3は正トルクおよび負トルクのいずれも出力せず、また偶数段では遊星歯車機構1はいわゆるフリー状態とされてモータ・ジェネレータ3は動作しないから、変速の終了に伴ってモータ・ジェネレータ3のトルクは、「0」に向けて低減される。それに伴う駆動力(駆動トルク)の低下を抑制するために、イナーシャ相終了後の第2のトルク相では、以下の制御が実行される。
図3において、先ず、第2のトルク相(トルクPh#2)が開始されたか否かが判断される(ステップS21)。これは、前述したイナーシャ相の開始の判断と同様に、モータ・ジェネレータ3の電流値などの制御量に基づいて行うことができる。このステップS21で否定的に判断された場合には、特に制御を行うことなくこのルーチンを一旦終了し、これとは反対に肯定的に判断された場合には、目標トルクTxが、第2のトルク相の開始時のエンジントルクTe2に設定される(ステップS22)。
前述したように、イナーシャ相でモータ・ジェネレータ3のトルクを低下させていた場合、すなわちエンジン2の回転方向とは反対方向のトルクを増大させていた場合には、そのトルクを「0」にするようにモータ・ジェネレータ3のトルクTsを徐々に増大(スイープアップ)させる(ステップS23)。これは、モータ・ジェネレータ3のトルクの絶対値としては「0」に近づける制御である。すなわち、モータ・ジェネレータ3のトルクTsを
Ts=κ3・Δt
とする。ここで、κ3は単位時間当たりのトルクTsの変化率(スイープ率)であって、エンジン2のトルク制御応答性を考慮して、実験やシミュレーションなどによって予め定められており、好ましくはエンジン2のトルク制御応答性とほぼ同じ応答性となるように設定される。
そのモータ・ジェネレータ3のトルクTsの変化に伴う駆動力の変化を可及的に抑制して、理論上「0」となるように制御するためのエンジントルクTeが算出される(ステップS24)。そのエンジントルクTeを一般化した式で示せば、
Te=(Tx−K3・Ts)/Gx
である。なお、Gxは変速後の変速比である。
この関係式について説明すると、遊星歯車機構1におけるトルクの釣り合い式は、
Ie・dωe/dt=Te−Tx
Is・dωs/dt=Ts+ρ・Tx/(1+ρ)
Ir・dωr/dt=Tr+Tx/(1+ρ)
である。第1速から第2速へのアップシフトを考えると、第1速では遊星歯車機構1がロックされているから、各回転要素の回転角加速度は「0」であり、これを上記の式に代入して、リングギヤRgの慣性トルクについて解くと、
Ir・dωr/dt=−Ts/ρ
となる。一方、第2速ギヤ対15がトルク伝達可能な状態になっているので、出力軸13には第2速ギヤ対15を介してトルクが伝達され、そのトルクT2ndは、
T2nd=Te−Tx
である。
出力軸13のトルクToは、これらのトルクに各変速ギヤ対のギヤ比を掛けた値の合計となるから、
To=−Ts・G1/ρ+(Te−Tx)G2
である。なお、G1は第1速ギヤ対14のギヤ比、G2は第2速ギヤ対15のギヤ比である。これを整理すると、
To=Te・G2+K3・Ts
ここで、K3は、
K3={(1+ρ)G2−G1}/ρ
である。したがって、このK3は、変速比のステップ幅に応じて正の値、あるいは負の値とを採る。
そして、第2のトルク相の開始時における出力軸13のトルクToを目標トルクTxとすれば、
Tx=Te・G2+K3・Ts
となり、これをエンジントルクTeについて解けば、
Te=(Tx−K3・Ts)/G2
となる。そして、これを一般化すれば、上記のステップS24の式になる。したがって、第2のトルク相でエンジン2をトルクTeが上記の関係を満たすように制御することにより、駆動力の変化を防止もしくは抑制でき、また変速ショックを防止できる。
そして、ステップS24に続けて、上記の算出されたエンジントルクTeが制御可能もしくは補正可能なものか否かが判断される(ステップS25)。これは、前述した図1のステップS04や図2のステップS15と同様の判断ステップである。したがって、このステップS25で否定的に判断された場合には、エンジントルクTeを所期どおりに制御できるので、第2のトルク相が終了した否かが判断される(ステップS26)。この判断は、第1のトルク相の終了やイナーシャ相の終了の判断と同様に、モータ・ジェネレータ3の電流値などの制御量に基づいて行うことができる。このステップS26で否定的に判断された場合には、ステップS22に戻り、反対に肯定的に判断された場合には、このルーチンを一旦終了する。
一方、エンジントルクTeが補正限界を超えていて制御できない場合、すなわちステップS25で肯定的に判断された場合には、モータ・ジェネレータ3のトルクの変化率(スイープ率)を変更する(ステップS27)。すなわち、モータ・ジェネレータ3のトルクTsを
Ts=κ4・Δt
とする。ここで、κ4は新たなスイープ率であり、実験やシミュレーションなどによって予め定めた値である。また、このスイープ率κ4は、変速の進行の状況や変速ショックの抑制要求の大きさなどによって異なる値とすることができる。例えば、変速ショックをより確実に低減する要求が強い場合には、スイープ率κ4は小さい値とし、変速時間を短縮したほうが良い状況の場合にはスイープ率κ4を大きい値にする。そして、エンジントルクの補正が禁止される(ステップS28)。算出された上記のエンジントルクTeが補正限界を超えているからである。その後、ステップS25に進んで第2のトルク相の終了が判断される。
なお、上記の説明では、第1速から第2速への変速の場合を例に採って説明したが、他の変速の場合にもそれぞれに応じたトルクの釣り合いが成立するので、上記の説明と同様にしてエンジントルクTeを制御し、駆動力もしくは駆動トルクの変動を「0」にすることができる。
上記の変速制御を行った場合の挙動の変化を、遊星歯車機構1の共線図に基づいて説明する。図4は第1速から第2速への変速の例を示しており、先ず、図4の(a)に示す第1速では、ロッククラッチSLが係合して遊星歯車機構1の全体が一体回転しており、そのトルクが第1速ギヤ対14を介して出力軸13に伝達され、さらにカウンタギヤ(Co)28を介してデファレンシャル29に出力されている。エンジン2あるいはこれが連結されているキャリヤCrのトルクの向き、および出力軸13のトルクの向きは、矢印で示してあるとおり、図4の上向きである。
変速が開始されると、モータ・ジェネレータ3のトルクTsがスイープダウンされるので、これが連結されているサンギヤSnには図4の下向きのトルクが作用する(図4の(b))。そして、そのトルクTsがエンジントルクTeと釣り合って、ロッククラッチSLに替わって、遊星歯車機構1の全体を一体回転させることのできるトルクとなると、ロッククラッチSLが解放させられる。すなわち、遊星歯車機構1のロック(プラネタリロック)が解除される。この場合、モータ・ジェネレータ3は発電を行い、それに伴う負のトルクを生じることになるので、エンジントルクTeの一部が発電に消費される。そのため、このようなトルクの消費に基づく駆動トルクの低下を生じさせないようにエンジントルクTeが、モータ・ジェネレータ3のトルクの増減に応じて制御される。
これは、第1のトルク相に続くイナーシャ相においても同様であって、図4の(c)に示すように、モータ・ジェネレータ3の逆回転方向へのトルクの増大に伴ってサンギヤSnの回転数が次第にゼロに近付き、その後、逆回転する。そうすると、出力要素となっているリングギヤRgの回転数を維持したまま、キャリヤCrおよびこれに連結されているエンジン2の回転数が低下する。そのキャリヤCrには第1駆動軸11を介して第2速ギヤ対15が連結されているので、第2速ギヤ対15の回転数も低下し、ついには第2速被駆動ギヤ15bの回転数が出力軸13の回転数に一致する。すなわち、回転同期する。そして、偶数段用クラッチS2によって第2速被駆動ギヤ15bが出力軸13に連結され、第2速ギヤ対15でトルク伝達可能な状態になる。
この状態でモータ・ジェネレータ3はそのトルクの絶対値がゼロになるように徐々に制御され(図4の(d))、それに合わせてエンジントルクTeが上述したように制御される。すなわち、第2のトルク相での制御が実行される。モータ・ジェネレータ3のトルクが「0」になった時点に奇数段用クラッチS1が解放状態に制御され、第1速被駆動ギヤ14bと出力軸13との連結が解かれる。その結果、モータ・ジェネレータ3に対して積極的にはトルクが作用しないので、トルク損失によりモータ・ジェネレータ3の回転数が自然に低下し、ついには停止する(図4の(e))。そして、エンジン2がキャリヤCrおよび第1駆動軸11を介して第2速ギヤ対15に連結され、エンジン2のトルクがこの経路を介して出力軸13に伝達されるので、いわゆるエンジン直結段である第2速が設定される(図4の(f))。
このようにモータ・ジェネレータ3は、回転同期のため、また変速後のトルクとなるように、そのトルクが制御されるが、そのモータ・ジェネレータ3のトルクの増減に応じて、駆動力もしくは駆動トルクが変化しないようにエンジントルクTeが制御される。その結果、変速の前後に亘って駆動力もしくは駆動トルクがほぼ一定に維持され、ショックのない変速が可能である。
図5は、第2速から第3速への変速の際の挙動を示しており、図5の(a)は前述した図4の(f)と同様の状態を示している。すなわち、エンジン2のトルクがそのまま第2速ギヤ対15に伝達され、その第2速ギヤ対15で変速された動力が出力軸13に伝達され、さらにカウンタギヤ28を介してデファレンシャル29に出力されている。この状態では、モータ・ジェネレータ3は、トルクを出力しておらず、また停止している。
第3速への変速の判断が成立すると、同期制御のために、モータ・ジェネレータ3のトルクが増大させられてその回転数が増大する。この場合、遊星歯車機構1はいわゆるフリー状態になっているので、モータ・ジェネレータ3のトルクが駆動トルクに特には影響しない。モータ・ジェネレータ3の回転数の増大に伴ってこれが連結されているサンギヤSnの回転数が増大すると、出力要素となってキャリヤCrの回転数が維持されたまま、リングギヤRgの回転数が低下する。このリングギヤRgには第2駆動軸12を介して第3速ギヤ対16が連結されているので、その被駆動ギヤ16bの回転数が低下し、ついには出力軸13の回転数と一致する。すなわち、回転同期する(図5の(b))。この状態で、奇数段用クラッチS1によって第3速被駆動ギヤ16bが出力軸13に連結される。したがって、奇数段用クラッチS1が係合することによる回転数の変化や駆動トルクの変化は生じない。
こうしてモータ・ジェネレータ3のトルクを出力軸13に伝達できる状態になってから第1のトルク相が開始され、そのトルクがエンジントルクTeと釣り合うように徐々に低下させられる(図5の(c))。そして、これらのトルクが釣り合った状態で、偶数段用クラッチS2が解放させられ、第2速被駆動ギヤ15bと出力軸13との連結が解かれる。
その後にモータ・ジェネレータ3が発電機として機能してそのトルクが更に低下すると、出力要素であるリングギヤRgの回転数を維持したまま、サンギヤSnの回転数が低下するとともに、キャリヤCrおよびこれに連結されているエンジン2の回転数が低下する。そして、ついには、各回転要素の回転数が一致して遊星歯車機構1の全体が一体となって回転する(図5の(d))。この過程でモータ・ジェネレータ3によるいわゆる負のトルクが駆動トルクを低下させる要因となるが、モータ・ジェネレータ3のトルクの変化に応じてエンジン2のトルクを前述したように変化させるので、駆動トルクが変化することはない。
遊星歯車機構1の全体が一体となって回転する状態になると、ロッククラッチSLが係合して遊星歯車機構1がロックされる。すなわち、機械的に一体化される。遊星歯車機構1を一体化させるトルクがロッククラッチSLによって受け持たれることによりモータ・ジェネレータ3はトルクを出力する必要がなくなり、したがってモータ・ジェネレータ3はオフ状態に制御されるとともに、エンジントルクTeがその分、復帰させられる。すなわち、低下させられる。これが第2のトルク相であり、図5の(e)に示してある。こうして第3速が達成される(図5の(f))。
さらに、図6は、第3速から第4速への変速の際の挙動を示しており、図6の(a)は前述した図5の(f)と同様の状態を示している。すなわち、遊星歯車機構1がロックされてその全体が一体となって回転するので、エンジン2のトルクがそのまま第3速ギヤ対16に伝達され、その第3速ギヤ対16で変速された動力が出力軸13に伝達され、さらにカウンタギヤ28を介してデファレンシャル29に出力されている。この状態では、モータ・ジェネレータ3は、トルクを出力しておらず、またサンギヤSnと共に回転している。
第4速への変速の判断が成立すると、ロッククラッチSLが受け持っていたトルクをモータ・ジェネレータ3で受け持つためにそのトルクが逆回転方向に増大させられる(図6の(b))。すなわち、変速の開始と同時に第1のトルク相が開始され、その際のモータ・ジェネレータ3のトルクの低減に応じてエンジントルクTeが増大させられる。こうして、モータ・ジェネレータ3のトルクがエンジントルクTeと釣り合う状態になると、ロッククラッチSLにトルクが掛からなくなるので、ロッククラッチSLが解放させられる。すなわち、プラネタリロックが解除される。
この状態からモータ・ジェネレータ3の逆回転方向のトルクが更に増大すると、サンギヤSnの回転数が低下し、さらに逆回転方向に回転し始める。それに伴って、出力要素であるリングギヤRgの回転数を維持したまま、エンジン2およびこれが連結されているキャリヤCrの回転数が低下する。すなわち、イナーシャ相が開始する(図6の(c))。その場合も、モータ・ジェネレータ3のトルクの低下に応じてエンジントルクTeが増大させられる。そのキャリヤCrには第1駆動軸11を介して第4速ギヤ対17が連結されているので、第4速ギヤ対17の回転数も低下し、ついには第4速被駆動ギヤ17bの回転数が出力軸13の回転数に一致する。すなわち、回転同期する。そして、偶数段用クラッチS2によって第4速被駆動ギヤ17bが出力軸13に連結され、第4速ギヤ対17でトルク伝達可能な状態になる。
この状態でモータ・ジェネレータ3はそのトルクの絶対値がゼロになるように徐々に制御され(図6の(d))、それに合わせてエンジントルクTeが上述したように制御される。すなわち、第2のトルク相での制御が実行される。モータ・ジェネレータ3のトルクが「0」になった時点に奇数段用クラッチS1が解放状態に制御され、第3速被駆動ギヤ16bと出力軸13との連結が解かれる。その結果、モータ・ジェネレータ3に対して積極的にはトルクが作用しないので、トルク損失によりモータ・ジェネレータ3の回転数が自然に低下し、ついには停止する(図6の(e))。そして、エンジン2がキャリヤCrおよび第1駆動軸11を介して第4速ギヤ対17に連結され、エンジン2のトルクがこの経路を介して出力軸13に伝達されるので、いわゆるエンジン直結段である第4速が設定される(図6の(f))。
このように第2速から第3速への変速の場合および第3速から第4速への変速の場合であっても、モータ・ジェネレータ3は、回転同期のため、また変速後のトルクとなるように、そのトルクが制御されるが、そのモータ・ジェネレータ3のトルクの増減に応じて、駆動力もしくは駆動トルクが変化しないようにエンジントルクTeが制御される。その結果、変速の前後に亘って駆動力もしくは駆動トルクがほぼ一定に維持され、ショックのない変速が可能である。
これを第1速から第2速への変速の場合を例に採ってタイムチャートで示せば、図7のとおりである。アクセル開度もしくは駆動力要求量を一定に維持して第1速が設定されている状態では、ロッククラッチSLが係合状態(ON)になっていて遊星歯車機構1の全体が一体化されている(ロックされている)。また、奇数段用クラッチS1によって第1速被駆動ギヤ14bが出力軸13に連結されている。さらに、偶数段用クラッチS2は解放状態になっている。したがって、エンジントルクTeおよび出力軸13のトルクは一定になっており、また遊星歯車機構1にはトルクが特に作用していない。この状態で第2速への変速判断が成立する(t1時点)と、モータ・ジェネレータ3のトルクが所定の変化率で低下させられ、それに合わせてエンジントルクTeが増大させられる。その結果、出力軸13のトルクは一定の維持される。これに対して、エンジントルクTeの補正を行わない場合には、図7に破線で示すように、出力軸13のトルクが低下する。
ロッククラッチSLで受け持っていたトルクをモータ・ジェネレータ3が受け持つようになると、ロッククラッチSLが解放させられ、第1のトルク相が終了する(t2時点)。この状態からモータ・ジェネレータ3のトルクを更に低下させると、遊星歯車機構1のロックが解除されていることにより、キャリヤCrおよびこれに連結されているエンジン2の回転数と、サンギヤSnおよびこれに連結されているモータ・ジェネレータ3の回転数が低下する。その場合、出力要素となっているリングギヤRgの回転数は維持される。こうしてイナーシャ相が開始する。このイナーシャ相においても、回転数の変化に伴う慣性トルクおよびモータ・ジェネレータ3のトルクの低下に応じてエンジントルクTeが前述したように制御されるので、出力軸13のトルクが一定に維持される。これに対して、エンジントルクTeについての前述した補正を行わない場合には、破線で示すように、出力軸13のトルクが低下したままとなる。
キャリヤCrおよびこれに連結されているエンジン2の回転数が低下することにより、第2速被駆動ギヤ15bの回転数が出力軸13の回転数に同期すると、偶数段用クラッチS2によって第2速被駆動ギヤ15bが出力軸13に連結される(t3時点)。こうしてイナーシャ相が終了する。
ついで、モータ・ジェネレータ3のトルクを次第に「0」にする第2のトルク相での制御を行う。この場合、モータ・ジェネレータ3の逆回転方向のトルクが次第に低下することに応じてエンジントルクTeが増大させられ、その結果、出力軸13のトルクが一定に維持される。また、偶数段用クラッチS2に掛かるトルクが増大するとともに、奇数段用クラッチS1に掛かるトルクが次第に低下する。そして、モータ・ジェネレータ3のトルクが「0」になると、エンジン2が出力したトルクが第1駆動軸11および第2速ギヤ対15を介して出力軸13に伝達されるようになるので、奇数段用クラッチS1が解放状態に制御され、第1速被駆動ギヤ14bと出力軸13との連結が解除される(t4時点)。この第2のトルク相の過程では、エンジントルクTeが前述したようにモータ・ジェネレータ3のトルクの変化に応じて制御され、モータ・ジェネレータ3の逆回転方向のトルクが次第に小さくなることに伴ってエンジントルクTeが次第に増大させられるので、出力軸13のトルクは一定に維持される。エンジントルクTeのこのような補正制御を行わない場合には、図7に破線で示すように、モータ・ジェネレータ3の逆回転方向のトルクの低下(正回転方向へのトルクの増大)に応じて出力軸13のトルクが低下してしまう。
奇数段用クラッチS1が解放状態になると、リングギヤRgが自由に回転する状態になり、またモータ・ジェネレータ3はOFF状態に制御されるので、モータ・ジェネレータ3の逆回転、およびこれが連結されているサンギヤSnの回転数が、摩擦などの損失によって次第に低下し、ついには停止する(t5時点)。その場合、キャリヤCrはエンジン2および出力軸13に連結されていてその回転数が維持されているので、リングギヤRgの回転数がサンギヤSnの回転数の変化に応じて低下する。
この過程では、出力軸13はエンジン2に第2速ギヤ対15を介して直結された状態になっていて、遊星歯車機構1の内部での相互の回転数の変化が生じるのみであるから、出力軸13のトルクは一定に維持される。これは、エンジントルクTeの補正制御を行わない場合であっても同様であり、前述したエンジントルクTeの補正制御を行わない場合には、図7に破線で示すように、出力軸13のトルクは低下したままとなる。なお、図7は第1速から第2速への変速の場合を示しているが、エンジントルクTeの上述した補正制御により、出力軸13のトルクが一定に維持されることは、第2速と第3速との間での変速などの他の変速の場合であっても同様である。
このように、この発明による制御を行えば、アクセル開度の変化などの駆動力要求量の変化がない状態での変速の際に、出力軸13のトルクが変速の前後に亘ってほぼ一定に維持される。そのため、この発明によれば、駆動力(駆動トルク)の低下や急激な変化あるいはそれに伴うショックを防止もしくは抑制することができる。
なお、この発明で対象とする動力伝達装置は図8に示す構成のものに限定されないのであって、例えば差動機構は上述したシングルピニオン型遊星歯車機構1を主体とした構成以外に、ダブルピニオン型の遊星歯車機構を主体にして構成することができる。また、各変速ギヤ対14,15,16,17は駆動軸11,12と出力軸13との間で選択的にトルク伝達可能な状態になればよいのであり、したがってそれぞれの駆動ギヤ14a,15a,16a,17aを駆動軸11,12に対して相対回転自在に配置し、それらをクラッチ機構によって駆動軸11,12に選択的に連結するように構成してもよい。
その例を図10に示してある。なお、図10には前述した各アクチュエータおよびコントローラならび蓄電装置、電子制御装置は省略し、記載していないが、図8に示す動力伝達装置と同様に、これらの機構、装置が設けられている。すなわち、遊星歯車機構1としてダブルピニオン型のものが用いられている。ダブルピニオン型の遊星歯車機構1は、サンギヤSnとリングギヤRgとの間に、サンギヤSnに噛み合っているピニオンギヤと、そのピニオンギヤおよびリングギヤRgに噛み合っている他のピニオンギヤとを配置し、これらのピニオンギヤをキャリヤCrによって自転自在および公転自在に保持した遊星歯車機構である。なお、エンジン2がキャリヤCrに連結され、モータ・ジェネレータ3がサンギヤSnに連結され、第1駆動軸11がキャリヤCrに連結され、第2駆動軸12がリングギヤRgに連結されていることは、図8に示す構成と同様である。
また、図10に示す構成では、第1速駆動ギヤ14aおよび第3速駆動ギヤ16aが第2駆動軸12に対して回転自在になっており、これらの駆動ギヤ14a,16aの間に奇数段用クラッチS1が配置されている。その奇数段用クラッチS1におけるハブ18は、第2駆動軸12に取り付けられている。また同様に、第2速駆動ギヤ15aと第4速駆動ギヤ17aとが第1駆動軸11に対して回転自在になっており、これらの駆動ギヤ15a,17aの間に偶数段用クラッチS2が配置されている。このような構成に伴い各被駆動ギヤ14b,15b,16b,17bは出力軸13に一体となって回転するように取り付けられている。
さらに、この発明で対象とする動力伝達装置は、4速以上に多段化した構成のものや、出力軸を二本以上設けて多段化した構成のものであってもよく、要は、内燃機関と電動機とが連結された差動機構によって、トルクを出力する経路を複数に切り替え、かつその切り替えの際に回転数の同期制御を行うことができるものであればよい。
ここで上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、図1に示すステップS02およびステップS06、図2に示すステップS13およびステップS17、図3に示すステップS23およびステップS27の各機能的手段がこの発明の電動機制御手段もしくは変化率制御手段に相当し、また図1に示すステップS03および図2に示すステップS14ならびに図3に示すステップS24の各機能的手段が、この発明の内燃機関制御手段に相当する。
1…遊星歯車機構、 2…エンジン、 3…モータ・ジェネレータ、 11…第1駆動軸、 12…第2駆動軸、 13…出力軸、 14,15,16,17…変速ギヤ対、 32…電子制御装置(ECU)、 Sn…サンギヤ、 Rg…リングギヤ、 Cr…キャリヤ、 SL…ロッククラッチ、 S1…奇数段用クラッチ、 S2…偶数段用クラッチ。