本発明の一実施の形態について図面を用いて説明する。
本発明は、液体ソースMOCVD法によって良質な金属酸化物結晶、例えばZnO結晶を基板上に成長するために、常に完全に気化された有機金属材料を安定した流量および濃度で基板上に送気する構成とした。
まず、本発明の液体ソースMOCVD装置について説明する。本発明の液体ソースMOCVD装置は、図1に示すように、材料溶液416を収容するための容器417と、溶媒414を収容するための容器415と、材料溶液を気化する気化器409と、成膜すべき基板421が内部に配置される反応容器420と、材料ガスを加熱する材料ガス加熱器411と、霧化支援ガスを加熱する霧化支援ガス加熱器407とを有している。ここでいう材料溶液416とは、成膜材料となる溶質(有機金属化合物)を所定の濃度で溶媒に溶かした溶液である。本実施形態では溶質として室温で液体の材料、例えばβジケトン系金属錯体を用いる。材料ガスとは、室温で気体の成膜材料である。霧化支援ガスとは、材料溶液の霧化(ミスト化)を支援するために用いるガスである。
材料溶液容器417および溶媒容器415には、それぞれ流量調節装置418a、418bが取り付けられた送液管419の先端が挿入されている。2本の送液管419は途中で合流し、1本の送液管419となって気化器409に接続されている。また、材料溶液容器417および溶媒容器415には、それぞれの液面を加圧するための不活性ガスを供給する加圧用不活性ガス配管413が接続されている。加圧用不活性ガス配管413には不活性ガス供給源11が接続されている。不活性ガスによって材料溶液容器417および溶媒容器415の液面を加圧することにより、材料溶液416および溶媒414は送液管419を圧送される。
材料溶液416および溶媒414は、それぞれ流量調節装置418a、418bによって流量を調節された後気化器409まで圧送される。これにより、成膜時には材料溶液416を気化器409に供給することができる。また、メンテナンス時には溶媒414を供給して送液管419等を洗浄できる。なお、材料溶液416の溶質を溶かしている溶媒と、溶媒容器415の溶媒414とは、同じ溶媒であっても異なる溶媒であってもよいが、ここでは同じ溶媒を用いる。
本実施形態では、加圧用ガスとしてヘリウムガスを用いる。ヘリウムガスは液体への溶解度が低いため、圧送圧力を高くしても材料溶液416や溶媒414に溶解しにくく、液体流量調節装置418aおよび418b以降に減圧されても、送液管419内で気泡を発生しにくい。
気化器409には、霧化支援ガス(不活性ガス)を供給する霧化支援ガス送気管406が接続されている。霧化支援ガスは、霧化ノズル408において材料溶液416の霧化(ミスト化)を支援するために用いられる。霧化支援ガス送気管406には、不活性ガス供給源12と霧化支援ガスの流量を調節する気体流量調節装置405aが接続されている。
霧化支援ガス送気管406には、霧化支援ガスを所定の温度まで加熱するための霧化支援ガス加熱器407が接続されている。霧化支援ガス加熱器407は、霧化支援ガスを通過させる管と、その周囲に配置されたヒーターとを備えている。これにより、霧化支援ガスを加熱して気化器409に供給することができ、気化器409における材料溶液の完全気化を実現することが可能になる。なお、霧化支援ガス加熱器407には温度調節器18が接続され、温度を調節している。
気化器409で気化された材料溶液のガスは、材料溶液ガス導入管14によって反応容器420に導入される。材料溶液ガス導入管14には、管内を流れる材料溶液ガスの温度を保持するためのヒーター(不図示)が備えられている。導入管14の途中には、室温で気体の材料である材料ガスを材料溶液のガスに合流させるための材料ガス誘導管412が接続されている。材料溶液ガス導入管14には導入弁426が配置されている。
材料ガス誘導管412には、材料ガスを加熱するための材料ガス加熱器411が接続されている。材料ガス加熱器411には、材料ガス送気管410を介して、材料ガス供給源13および材料ガスの流量調節装置405dが接続され、所定流量の材料ガスを所定の温度(例えば材料ガス誘導管412を流れる材料溶液のガスと同じ温度)まで加熱して、材料溶液のガスと合流させることができる。これにより、材料溶液のガスの温度を低下させることなく材料ガスと混合でき、材料溶液の完全気化状態を維持したまま、材料ガスとともに反応容器420に供給することができる。また、材料ガス導入管412を気化器409の後段、すなわち気化器409と反応容器420との間の材料溶液ガス導入管14に接続したことにより、材料ガス流量を増減した場合でも、気化器409を流れるガス流量・温度に影響を与えない。これにより、気化器409内の材料溶液416の完全気化を実現する温度および圧力の状態を保ったまま材料ガス流量を増減できる。
材料ガス送気管410には、材料ガスにキャリアガスとして不活性ガスを混入するための不活性ガス配管402が接続されている。不活性ガス配管402には、流量調節装置405bを介して不活性ガス供給源12が接続されている。
また、霧化支援ガス送気管406には、材料ガス配管404が途中で合流している。材料ガス配管404は、流量調節装置405cを介して材料ガス供給源13に接続されている。これにより、所定流量の材料ガスを霧化支援ガスに混入させることが可能である。材料ガスが酸素である場合、気化器409において材料溶液416や溶媒414を酸化して低分子化させることや、溶媒分子の結合の一部を切断するクラッキングを生じさせることが可能であるため、溶質の種類によっては、基板421上で溶質の有機金属と酸素との結合が容易になる。
反応容器420には、バッファタンク429、捕集装置423および圧力調整弁424を介して排気装置15が接続されている。バッファタンク429は圧力の緩衝装置の役割をもち、圧力センサー17が取り付けてある。捕集装置423は、基板421への成膜に使用されなかった材料溶液のガスを回収している。
導入管14には、排気弁427が備えられたドレイン配管425が接続され、ドレイン配管425は、バッファタンク429、捕集装置423および圧力調整弁424を介して排気装置15と接続されている。導入管14に設けられた導入弁426もしくはドレイン配管425に設けられた排気弁427が開状態の場合、反応容器420内の圧力は気化器409内の圧力およびバッファタンク429の圧力と等しい。バッファタンク429の圧力を圧力センサー17により検出することにより、反応容器420および気化器409の圧力を検出することができる。
圧力調整弁424には圧力調整器21が取り付けられている。圧力調整器21には中央制御装置16が接続され、圧力調整器21の動作を制御する。中央制御装置16は、バッファタンク429の圧力センサー17が検出した圧力データを取り込んで、所定の圧力となるように圧力調整器21を介して圧力調整弁424を制御する。これにより、気化器409内の材料溶液416の蒸気圧が飽和蒸気圧に達しないように制御することにより、気化器409における材料溶液416の完全気化を実現することができる。
つぎに、気化器409の構成について図2(a),(b)、図3、図4および図5を用いて説明する。
気化器409は、図2(a)、(b)に示したように、円柱状の内部空間を有する本体900と、本体900の上部に固定された霧化ノズル408と、内部空間の所定位置に配置された熱交換フィン907とを備えて構成される。本体900の内部空間の下部には、開口60が設けられている。
霧化ノズル408は、図3のように径の異なる2本の管を同心に配置した二重管構造となっている。内側の管31には上述の送液管419が接続されて、外側の管32には、霧化支援ガス加熱器407が接続されている。よって、内側の管31の先端からは、材料溶液416と溶媒414との混合液体が噴出され、外側の管32の先端からは、所定の温度に加熱された霧化支援ガスが所定の送気圧で噴出される。
霧化ノズル408の管31、32の径や先端形状は、図2(a)、図3および図4のように管32から所定の広がり角度θで噴出される霧化支援ガスが渦流となり、管31から噴出される材料溶液を巻き込んで細分化し、所定の粒径分布の材料溶液ミスト(材料溶液の液滴)51を形成するように設計されている。
霧化ノズル408と熱交換フィン907までの空間は、図2および図4のように霧化支援ガスおよび材料溶液ミストが広がるミスト整流空間55である。ミスト整流空間55の長さLは、広がり角度θで広がっていくミストの流れを、熱交換フィン907の直径2rよりも若干小さい径2rmまで広げるように設定する。これにより、熱交換フィン907に材料溶液ミスト51が接触する面積を増加させることができ、効率よく加熱することが可能になる。例えば、材料溶液ミスト51の広がりの径2rmを、熱交換フィン907の直径2rの0.7倍〜1.0倍にする場合には、0.7<(L・tanθ)/r<1.0を満たすようにミスト整流空間55の長さLを設定する。
広がり角度θは、30°以上60°以下であることが望ましい。このように設定することにより、ミスト整流空間55の長さLをコンパクトにすることができる。また、ミスト同士が接近しすぎず、溶媒気化がしやすくなる。さらに、θを60°以下にすることにより、ミストが気化器409の内壁面に付着しにくいという利点があるためである。
本体900の周囲は外部ヒーター905で覆われ、外部ヒーター905は温度調節器906により温度調節がなされている。外部ヒーター905は、本体900の内部空間全体を加熱する。
熱交換フィン907は、図5(a)に斜視図と上面図を示したように90度おきに配置された4枚のフィンを備えている。4枚のフィンには、それぞれ内部ヒーター908が内蔵されている(図2(a)、(b)参照)。内部ヒーター908には温度調節器909が接続されており、フィンの温度を調節する。内部ヒーター908により4枚のフィンを所定の温度に加熱することにより、外部ヒーター905からの加熱と合わせて、熱交換フィン907が配置された空間(熱交換エリア56)を通過する材料溶液のミスト51を加熱する。ミスト51の溶媒が気化し、沸点まで加熱されると気化は促進される。図4に示したように材料溶液のミスト51から溶媒が蒸発して溶質のミスト52と溶媒気体53に分離する。溶質ミスト52はさらに加熱され、溶質の蒸気圧は上昇して溶質の気化が促進され、溶質気体54となる。よって、材料溶液ミスト51は、熱交換フィン907が配置された熱交換エリア56を通過することにより完全に気化し、溶媒気体53と溶質気体54の混合ガスとなる。
4枚のフィン907は、主平面が、ミストやガスの流れに対して平行になるように設置することにより、ガスの流れを妨げず、材料やミストのフィンへの付着を防止できるため望ましい。ここでは霧化ノズル408と開口60を結ぶ軸に平行に4枚のフィン907を配置している。
熱交換フィン907と気化器900底部との間の空間は、偏流防止空間57として所定の長さL2の空間が設けられている。偏流防止空間57は、熱交換エリア56と底部の開口60との距離をL2以上離すことにより、熱交換エリア56を通過する溶液ミスト51、溶質ミスト52、溶媒気体53および溶質気体54が開口60の中心とする径方向に狭い空間に偏らず、熱交換エリア56を径方向に広がって流れる。これにより熱交換フィン907と溶液ミスト51等との接触面積を増加させることができ、加熱効率を高めることができる。偏流防止空間57の長さL2は、熱交換エリア56の径(すなわち熱交換フィン907の径2r)と同等以上(L2≧2r)に設定する。
気化器409の底部の開口60には材料溶液ガス導入管14が接続されている。材料溶液ガス導入管14は、溶媒気体53と溶質気体54の混合ガスを反応容器420まで送る。
材料溶液ガス導入管14の途中には、材料ガス誘導管412が接続されている。材料ガス誘導管412は、材料溶液ガス導入管14を流れる溶媒気体53と溶質気体54の混合ガスに、材料ガスを合流させる。材料ガスは、材料ガス加熱器411により溶媒気体53および溶質気体54の混合ガスの温度以上に加熱されているため、混合ガスの温度を低下させることなく、材料溶液の完全気化状態を維持したまま混合され、反応容器420に供給される。
また、熱交換フィン907の形状としては、図5(b)のようにフィンを軸方向について多段階に分割し、それを奇数段と偶数段で互い違いに配置した形状とすることも可能である。この形状は、溶質ミスト52等の流れを切るようにフィンが配置されているため、溶質ミスト52等の流れに生じる温度分布を低減することができ、効率よく気化させることができる。
さらに別の熱交換フィン907の形状としては、図5(c)のように3本の内部ヒーターを頂点として三角形の筒型にフィンを配置し、さらに各頂点から外側に張り出すように2枚ずつのフィンを備えた形状にすることも可能である。図5(c)の熱交換フィン907は、三角形の筒の外側だけでなく、内部空間においても溶液ミスト51が加熱され気化されるため、フィンの実効表面積が大きく、気化効率を高くすることができる。
つぎに、中央制御装置16の動作について、図6を用いて説明する。中央処理装置16には、予め定められた各種の設定値(実験結果や経験値から導き出した値)が操作者によって入力される(ステップ601)。中央制御装置16はこの入力を受け付け(ステップ602)、各制御機器に設定値を設定する(ステップ603)。これにより下記の制御動作を行う。
中央制御装置16は、材料溶液416および溶媒414の圧送量の制御を行うために、液体流量調節装置418a、418bに操作者から入力された流量を設定する信号を受け渡す(ステップ603−1)。中央制御装置16からの信号を受けた液体流量調節装置418a、418bは、材料溶液416および溶媒414をそれぞれ計量し、霧化ノズル408へ送液する(ステップ604)。
また、中央制御装置16は、霧化支援ガスの供給量および温度を制御する。まず中央制御装置16は、気体流量調節装置405a、405cに操作者から受け付けた流量を設定する信号を送る(ステップ603−2)。この信号を受けた気体流量調節装置405a、405cは、霧化支援ガスを計量し、霧化支援ガス加熱器407へ送る(ステップ605)。中央制御装置16は、霧化支援ガス加熱器407に取り付けられた温度調節器18に、操作者から受け付けた温度を設定する信号を送る(ステップ603−3)。霧化支援ガス加熱器407は、設定された温度まで霧化支援ガスを加熱する(ステップ606)。温度調節器18は、加熱器606の温度を所定の設定温度(例えば300℃)にフィードバック制御する(ステップ607、608)。これにより、所定の温度まで加熱された霧化支援ガスを霧化ノズル408へ送ることができる。
上述の各ステップ604、605、606、607により、霧化ノズル408に供給される材料溶液416の流量および霧化支援ガスの温度および流量が制御される。霧化ノズル408からは、材料溶液416が吐出され、霧化支援ガスによってミスト化される(例えば、材料溶液ミスト粒径60μm)。中央制御装置16は、気化器409における材料溶液の完全気化のために、気化器409の外部ヒーター905の温度調節器906および内部ヒーター908の温度調節器909に、操作者から受け付けた設定温度(例えば300℃)を設定する(ステップ603−6)。温度調節器906、909は、気化器409の内部空間の温度を設定温度にフィードバック制御する(ステップ613、614)。気化器409の外部および内部ヒーター905、907は、気化器409の内部空間を設定温度まで加熱することにより、図4で説明したように材料溶液ミスト51を完全気化し、溶媒気体53と溶質気体54の混合ガスに変化させる(ステップ615)。
一方、中央制御装置16は、材料ガス(酸素ガス)の流量および温度の制御を行うために、気体流量調節装置405bおよび405dに、操作者から受け付けた設定流量を設定する(ステップ603−4)。気体流量調節装置405bおよび405dは、材料ガスを計量し、材料ガス加熱器411へ送る(ステップ609)。また、中央制御装置16は、材料ガス加熱器411に接続された温度調節器19に、操作者から受け付けた設定温度を設定する(ステップ603−5)。材料ガス加熱器411は、材料ガスを加熱する(ステップ610)。このとき。材料ガス加熱器411の温度は、温度調節器19により所定の設定温度(例えば300℃)にフィードバック制御される(ステップ611、612)。設定温度は、気化器409で気化された材料溶液のガスの温度と同等以上とする。
また、中央制御装置16は、反応容器420内の基板加熱器422の温度調節器20に、操作者から受け付けた設定温度を設定する(ステップ603−8)。温度調節器20は、基板加熱器422の温度を設定温度にフィードバック制御する(ステップ619、620)。
さらに中央制御装置16は、反応容器420から気体流量調節装置405a〜405d後段までの各空間(反応容器420、気化器409、霧化支援ガス加熱器407、材料ガス加熱器411およびこれらの間の配管)の圧力をフィードバック制御する。すなわち、これらの各空間の圧力はバッファタンク429内の圧力と等しいため、反応容器420内の圧力を圧力センサ17により検出する(ステップ616)。中央制御装置16は、圧力調整器21に、操作者から受け付けた設定圧力を設定する(ステップ603−7)。圧力調整器21は、圧力センサー17の検出した圧力が設定圧力になるように圧力調整弁424をフィードバック制御する(ステップ617、618)。これにより、反応容器420、気化器409、霧化支援ガス加熱器407、材料ガス加熱器411等の空間の圧力を所定圧力に制御することができる。
また、中央制御装置16は、材料溶液ガス導入管14を流れる材料溶液のガスの温度を所定の温度にフィードバック制御することにより保温している。
次に、本実施形態の液体ソースMOCVD装置を用いて成膜を行う方法をついて説明する。ここでは、一例としてZnO結晶膜を成膜する方法について説明する。
材料溶液416の例としては、溶質として有機金属材料であるβジケトン系金属錯体であるビズ(6−エチル−2、2−ジメチル−3、5−デカンジオナト)亜鉛(以下、Zn(EDMDD)2)を用いる。また、材料溶液416の溶媒として、エチルシクロヘキサン(以下、ECH)を用いる。材料溶液416の濃度は例えば0.2mol/Lとする。また、溶媒容器415の溶媒もECHを用いる。
この有機金属材料は、室温で液体なので溶媒の蒸発により固体が析出することが無い。また、溶媒と全域混合するので必要な濃度に調整することができる。また、材料溶液容器417の交換、液体流量調節装置418aの交換、送液管419のメンテナンス、霧化ノズル408の洗浄作業などの際に、残留した材料溶液416を溶媒414を供給して容易に洗浄除去できる。
他の溶質の例としては、同じβジケトン系の、Mt(THD)n(THD:テトラメチルヘプタンジオナト、Mt:金属、Ba、Pb、Sr、La、Zn)、Mt(METHD)n(METHD:メトキシエトキシテトラメチルヘプタンジオナト、Mt:金属、Ba、Pb、Sr、Ru、Zr)、Mt(OD)n(OD:オクタジオナト、Mt:金属、Zn、Ru)、およびMt(EDMDD)n(EDMDD:エチルジメチルデカンジオナト、Mt:金属、Cu、Zn、Mg、La、Pr、Nd、Tm、Dy、Er、Ho、Tb、Yb、Ga)などから選択することが可能である。
また、Zn(DPM)2 (DPM:ジピバロイルメタナト)をはじめとする固体材料を溶質として使用することが可能である。また、前記以外の材料も可能であるが、溶媒と反応せず、分離、沈殿しない溶媒との組み合わせとなるように考慮する必要がある。
材料溶液の溶媒として用いるエチルシクロヘキサン(ECH)は、無極性環状飽和炭化水素系の溶媒であり、溶質のZn(EDMDD)2とは室温で相互反応しない。またECHの蒸気圧は、20℃で約1.3kPaと比較的高く、本発明の材料溶液の霧化・気化を安定させる操作に適している。同様な溶媒として、酢酸ブチル、i−ブチルアルコール、トルエンなどを好適に使用することができる。また、さらに蒸気圧の高い材料としては、テトラヒドロフラン(以下、THF)、ヘキサンなどを用いることができる。これらは、成膜条件を考慮して適切に選択することができる。
材料溶液容器417に供給する材料溶液加圧用ガスとしては、ヘリウム(以下、He)ガスを用いることができる。例えば、200kPaで材料溶液416の液面を加圧し、液体流量調節装置418aによって流量を1.0sccmに調整し、送液管419を通して霧化ノズル408へ送る。
Heガスは液体への溶解度が低いという利点があり、圧送圧力を高くしても減圧時に気泡を発生しにくい。但し、窒素ガス(N2)、アルゴンガス(Ar)などでも、送圧が400kPa以下ならば、材料溶液に溶解する量はわずかであるため、液体流量調節装置418a後の減圧下でも材料溶液416の中で気泡を発することは無いので問題無く使用することができる。
材料溶液容器417から霧化ノズル408までの間は、本実施形態では材料溶液容器417および送液管419の加熱は行っていない。ただし、材料溶液416の濃度が濃く、材料溶液の粘度が高い場合には、加熱して粘度を下げると安定供給できる。但し、溶媒が配管内で気化または突沸しない温度に設定する。
一方、霧化支援ガスは、霧化ノズル408に供給する前に、気体流量調節装置405aにて流量を調整する。さらに、霧化支援ガス送気管406を通じて霧化支援ガス加熱器407へ送り、適切な温度まで加熱した後、霧化ノズル408へ供給する。
霧化支援ガスとしては、例えば窒素ガスを用い、気体流量調節装置405aで流量250sccmに調整する。霧化支援ガス加熱器407の温度設定は、例えば、気化器409内の圧力2.0kPaにおいて霧化ノズル408からの噴出し温度が250℃となるように設定する。
霧化支援ガスは、気体流量調節装置405a通過後、断熱膨張によりガス温度が低下する。また、気化器409内で材料溶液416の霧化の際に、気化熱でミストおよび気体の温度が低下する。そこで、断熱膨張による温度低下を補い、かつ、気化器409における気化を促進する温度まで加温するため、あらかじめ所定の温度まで霧化支援ガス加熱器407で加熱する。このように霧化支援ガスを加温することで、霧化ノズル408から気化器409へ噴霧された直後より、材料溶液ミスト51は加熱され溶媒の気化が促進する。そして溶質ミスト52の生成が速くなると同時に溶質ミスト52の気化も促進され、短時間での材料溶液の気化が可能となる。よって気化効率を向上させることができる。
ただし、霧化支援ガスの温度は、気化器409内の温度が、溶質(例えばZn(EDMDD)2)の熱分解温度より常に低くなる様に設定する必要がある。気化器409内の温度は、霧化支援ガスの温度のみならず、外部および内部ヒータ905,908の設定温度との関係によって決まるため、中央制御装置16により制御する。
気体流量調節装置405cに所定流量を設定することにより、霧化支援ガスに材料ガスである酸素ガスを混合することも可能である。材料溶液である有機金属化合物材料および有機溶媒は、酸素により酸化されることで低分子化またはクラッキングを生じるものがある。このため、霧化支援ガスに予め酸素ガスを混合することで、基板421上でのZn元素と酸素の結合を容易になることがあるからである。ここでいうクラッキングとは、酸化反応による低分子化と、前記反応により発生したラジカルや中間体等が溶媒分子に衝突し、溶媒分子の結合の一部を切断することを言う。
霧化支援ガスは、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、水素(H2)などの不活性ガスを好適に用いることができる。これらを二つ以上混合したガスでも良い。
また、材料ガスは、酸素(O2)、水蒸気(H2O)、亜酸化窒素(N2O)、亜硝酸ガス(NO2)などの酸素を含むガスを好適に用いることができる。これらを二つ以上混合したガスでも良い。
材料溶液は、図4を用いて説明したように霧化ノズルで微粒子液滴(ミスト)にされる。霧化ノズル408の形状は上述した図3の構造であるため、圧送されてきた材料溶液は、加熱された霧化支援ガスと、霧化ノズル先端で合流する。ノズル408の形状の作用により霧化支援ガスは噴出されると角度θで広がりながら旋回する渦流となる。これに巻き込まれることにより材料溶液416は細かく均一な液滴(ミスト)になり、気化器409内に噴霧される。
霧化ノズル408は、例えば、液体流量0.05〜1.00ml/min、液体粘性10cP(センチポアズ)以下、霧化支援ガス容積15000〜20000ml/min、2次側圧力(気化器409圧力)〜20kPaという条件において、液体粒径60μm以下のミストを発生する性能のものを用いる。この霧化ノズル408は、2次側圧力が0.1kPaの場合、霧化支援ガスは15〜20ml/min(標準状態)、1kPaの場合、150〜200ml/min(標準状態)、10kPaの場合、1500〜2000ml/min(標準状態)が必要となる。なお、2次側圧力が20kPa以上では、液体粒径は大きくなるので、それに合わせて気化器容積を大きくすればよい。
また、霧化後の液体粒径(ミスト径)は、液体流量、液体粘度、霧化支援ガス流量、2次圧、温度等で変化するが、これらの条件が一定なら粒径も一定になる。
図3の構造の霧化ノズル408は、中心部から材料溶液416が吐出され、その外周部から霧化支援ガスが噴出し、ミスト化する構造である。この構造により霧化ノズル先端部は、常に洗浄されるため、溶質成分が析出、堆積することはない。なお、霧化ノズル408の中心部から霧化支援ガスを噴出させ、外周部から材料溶液416を吐出させることも可能であるが、材料溶液416がノズル先端部に溜まり、溶質成分が析出、堆積する可能性がある。
気化器409内の材料溶液416のミスト51は、図4を用いて説明したように、気化器409内で加熱されることによりミスト51表面から(蒸気圧の高い)溶媒が優先的に気化して溶媒気体53となり、材料溶質成分が濃縮されたさらに粒径の小さいミスト(溶質ミスト52)になる。更に、微粒子化した溶質ミスト52表面より有機金属材料成分が気化して溶質気体54となることにより、溶質ミスト52は消滅する。これにより、材料溶液416は全てガス化する。
気化器409内においては、蒸気圧の高い溶媒成分が優先的に材料溶液ミスト51から気化する。従って材料溶液ミスト51は気化器409上部から下部に移動するに従い、溶質成分の濃度が高く、粒径の小さい溶質ミスト52へと変化する。この作用により、材料溶液ミスト51よりも溶質ミスト52の方が比表面積(=表面積/体積)は大きくなるため、溶質(亜鉛有機金属材料)の気化が促進される。
材料溶液ミスト51の粒径を例えば、最大で60μmとすれば、その表面積、体積および比表面積は表1のようになる。また、溶質ミスト52についても表1のように見積もることができる。なお、濃度0.01mol/L、0.2mol/Lおよび1.2mol/Lである材料溶液416の25℃における液体粘性はそれぞれ0.8cP、1.0cPおよび8.0cP程度であるため、本実施形態の霧化ノズル408により噴霧、霧化が可能である。本発明では、粒径60μmの材料溶液ミスト51は気化が可能である。このとき、溶媒の気化から溶質ミスト52に変化させた後、溶質を気化させる二段階気化とし、材料溶液ミスト51の比表面積に対して、溶質ミスト52の比表面積が2倍前後以上あると、溶質ミスト52の気化が効果的に進むため好ましい。
以上の過程により、気化器409においてガス化した材料溶液416(材料溶液ガス)は、霧化支援ガスとともに、反応容器420へ供給される。なお、気化器409から反応容器420までの区間は、気化した材料溶液416が再凝集(析出)しないように加熱することが望ましい。
なお、材料溶液ミスト51の粒径を小さく均一にすることで、溶媒蒸発面積が広くなり早く溶媒を気化させることができる。また、気化時間(気化器409内の距離)を一定化させることができる。また溶媒気化後の溶質気化についても同様である。よって、材料溶液ミスト51の径が小さくなるように霧化ノズル408および材料溶液や霧化支援ガスの供給条件等を設定することが望ましい。
気化器409としては、直径10cm、長さ65cmのサイズで、内部気化用ヒーター908を設置し、フィン907を備え、さらに保温用の外部ヒーター905を備えた構造とした。また、ヒーター908,905は、接ガス部の温度が300℃、気化した材料溶液ガスおよび霧化支援ガスが開口60を通過する際のガス温度が250℃になるように中央制御装置16で設定した。これにより、気化器409内のミストおよびガスの温度を有機金属材料(溶質)の熱分解温度以下にできるため、材料の熱変質を防止できる。
気化器409の内圧は、溶媒を気化させるために、気化器409内の温度における溶媒蒸気圧よりも低くなるように設定する必要がある。
同時に、気化器409内の空間は、材料溶液416の蒸気(溶媒気体53および溶質気体54)が飽和蒸気圧に達しないように、材料溶液供給量および霧化支援ガス流量と、および気化器内圧力および気化器温度を設定することが望ましい。例えば、材料溶液416を1.0sccm供給した場合、溶質のZn(EDMDD)2のモル流量は、2×10−4mol/minである。この状態で霧化支援ガス供給量を250sccm、気化器内圧力2.0kPa、温度250℃に設定すると、気化器409内の流量は約24.3L/minとなる。よって材料濃度は8.2×10−6mol/Lとなり、250℃におけるZn(EDMDD)2の理論溶解度(以下、溶存濃度)は4.9×10−4mol/Lであるから、飽和率は0.017(1.7%)であり、1よりも小さい。飽和率を1以下に保つことにより、材料溶液416を気化しやすい状態に維持することができる。飽和率の演算方法については、後で詳しく説明する。
材料ガスは、気体流量調節装置405dにて流量を調整した後、材料ガス送気管410を通じて材料ガス加熱器411へ送気する。材料ガスは、気体流量調整装置405dの後段で断熱膨張するため、温度が低下する。また気化器409から供給される材料溶液416のガスと混合される際に材料溶液416のガスの温度を低下させ、再凝集を生じさせないために、同温にすることが望ましい。本実施形態では、材料ガス加熱器411で加熱することにより、材料溶液416のガスと同じ温度にすることができる。加熱された材料ガスは、材料ガス誘導管412を経て反応容器420手前で、材料溶液416のガスおよび霧化支援ガスの混合ガスと合流し、反応容器420へ供給される。
材料ガスは、例えば酸素ガスを用いる場合、流量を2.0SLMに設定する。材料ガス加熱器411の噴出し部の温度は、気化器409より送気されてくる霧化支援ガスおよび材料溶液ガスと同じ温度、例えば250℃に設定する。
本実施形態では、材料ガスを気化器409よりも反応容器420寄りで材料溶液416のガスおよび霧化支援ガスと合流する構造としているため、材料ガスの流量を増減した場合でも、気化器409を流れるガス流量・温度を一定に保つことが出来る。したがって、材料ガスの増減にかかわらず、気化器409内の蒸気圧を飽和蒸気圧以下に容易に維持することができるため、気化器409における完全気化を維持することができる。
材料ガスには、窒素ガスなどの不活性ガスを混合することも可能である。不活性ガスの流量は、気体流量調節装置405bにより設定する。これにより、反応容器420に流れ込むガス流量を一定にすることが可能である。この場合、反応容器420に流れる不活性ガス流量を、
不活性ガス流量=(反応容器420に流れ込むガス流量)―(霧化支援ガス流量+材料溶液ガス流量+材料ガス流量)
に設定する。また、反応容器420に流れ込むガス流量を増減したい場合は、不活性ガス流量を増減させることで、材料ガスの量を増減させることなく実現できる。
なお、材料ガスは、気化器409の前段から導入することも可能であるし、気化器409の前段および後段の両方からの導入も可能である。材料ガスとして酸素ガス(あるいは酸化剤とし用いるその他のガス)を用いる場合は、材料溶液の種類が酸化による劣化を生じさせない種類であることや、気化器409の温度が材料溶液の酸化による劣化を生じさせない温度であることをあらかじめ検討することが望ましい。
反応容器420のサセプター428には、基板421をセットする。例えば基板421として、C面サファイア基板を用いる。その後必要に応じて、基板加熱器422にて基板421を加熱する。霧化支援ガスとして気体流量調整装置405aより所定流量の例えば窒素ガス、材料溶液416として例えばZn(EDMDD)2のECH溶液を液体流量調整装置418aより所定流量で供給し、気化器409で霧化後完全に気化し、反応容器420へ供給する。反応容器420の手前で、材料溶液416のガスに所定流量および温度の材料ガス(例えば酸素)を混合する。これにより、基板421上に所定時間、例えば60分間結晶成長させ、厚み1.0μmのZnO単結晶を得ることができる。
本実施形態では、気化器409において材料溶液を完全気化して、安定して反応容器420に供給することができるため、均一で均質さらに不純物を取り込まない良好なZnO単結晶膜が得られる。
また、本実施形態では、材料溶液容器417から霧化ノズル408の先端までの送液管419内に気泡を“入れない”また“発生させない”で供給することができる。送液管419内に気泡が存在すると、気化器409における霧化・気化が不安定になり、基板への材料溶液ガスの供給が断続的になり、材料溶液ガスの濃度が変動する、溶液ミスト粒径の分布が広くなり(気化しきれない大きな粒径のミストが混ざる)気化したガス中にミストが混入するなどの問題を起こすが、本実施形態ではこれを防ぐことができる。
本実施形態では送液管419内に気泡を“発生させない”ために、送液管419内の圧力を所定値に設定する。すなわち、送液管419内の圧力を溶媒の蒸気圧よりも大きく設定する下記(式1)の関係を維持することにより、材料溶液416溶媒が揮発しガス化して気泡となるのを抑制する。具体的には、送液管419内の圧力は、気化器420内の圧力に等しいため、中央制御装置16が圧力調節器21を介して圧力調整弁424を制御することにより設定することができる。ただし、霧化ノズル408先端の吸出し効果は無視できるものとする。
(溶媒の蒸気圧P)<(送液管内の圧力) ・・・(式1)
P(mmHg)=10^[A−B/(T+C)] ・・・(式2:アントワン式)
P(mmHg):圧力
T(℃):液温
A:材料固有の定数
B:材料固有の定数
C:材料固有の定数
ただし、式2において、溶質によるモル沸点上昇は無視できるものとし、溶媒の蒸気圧は溶媒の種類、温度で決まるものと仮定している。
また、本実施形態では、材料溶液416に気泡を“入れない”で、連続的に霧化ノズル408から噴出する構成とすることにより、材料溶液416を微細かつ一定粒径の材料溶液ミストにし、連続して気化器に噴霧することを可能にしている。本実施形態の霧化ノズル408の構成は、図3を用いてすでに説明したように、ノズル中央部の穴より材料溶液416を放出し、その穴を囲むように周囲に設けられた穴より霧化支援ガスを渦流化して放出する。そして支援ガスの渦流により材料溶液416は、微細な粒径の液状粒子(材料溶液のミスト51(図4参照))になる。
このように図3の構造の霧化ノズル408を用いることで、材料溶液416に気泡が混ざることがなく、ノズル先端まで送液することができる。更には、霧化支援ガスが材料溶液放出口周囲に流れており放出口周囲に液溜ができることを防止することができる。
ここで、霧化ノズルの比較例として、図7の霧化ノズルについて説明する。図7の霧化ノズルは、材料溶液と霧化支援ガスとを噴出前に合流させる構造である。この構造においては、霧化支援ガスの送気圧で材料溶液が液状微粒子になる。このタイプの霧化ノズルは、材料溶液内に霧化支援ガスの気泡が混入するため、ノズル先端からの噴霧が断続的となり、霧化粒径分布が広くなる。さらに、ノズル先端部において材料溶液成分が付着し液溜ができやすい。液溜の発生は、材料溶液供給量のズレを起すのと同時に、突発的にミストに液溜めの液滴が混入するため供給流量のズレを起す。更に、液溜めが残存ミストの原因になる。材料溶液ミストの粒径分布が大きいことは、気化器内で全ての材料溶液ミストを気化しきれないため、ミストが基板上へ飛散、付着し、異常成長や欠陥の要因となる。
ここで、上述した気化器409内の材料溶液416の蒸気の飽和率の演算方法についてさらに説明する。液体が気化するためは、液体量に見合う空間(容積)が必要である、また空間に存在(溶存)できる蒸気量(濃度または分圧)は系の温度で決まる。即ち、材料溶液を完全気化させるには、単純に霧化支援ガスの流量(容積)が材料溶液の気化に必要な空間を上回る必要がある。簡単に言えば材料溶液の飽和率が1.0以下である必要がある。
溶質である有機金属材料の飽和率は、簡便に以下の要領で計算することができる。まず、供給溶質量が気化可能・不可能は別にして、モル濃度を求める。気化器内の霧化支援ガスの圧力・温度は気化器内の値と同じとして、下記の式3、式4で求める。
(Pst・Fst)/Tst=(Pvp・Fvp)/Tvp ・・・(式3)
Fvp=(Pst・Fst/Tst)・(Tvp/Pvp) ・・・(式4)
Pst(atm):気体流量調節器の単位圧力
Fst(L/min):気体流量調節器の単位流量
Tst(K):気体流量調節器の単位圧力
Pvp(atm):気化器内の霧化支援ガスの圧力
Fvp(L/min):気化器内の霧化支援ガスの流量
Tvp(K):気化器内の霧化支援ガスの温度
次に、溶質のモル流量は次の式5で求めることができる。
Msv=Csv・Fmix ・・・(式5)
Msv(mol/min):溶質のモル流量
Csv(mol/L):溶質のモル濃度
Fmix(L/min):溶液の流量
このとき溶質が、気化器409中で霧化支援ガス中に溶存する必要があるので、そのモル濃度Csvは次の式6のようになる。
Csv=Msv/Fvp ・・・(式6)
Csv(mol/L):溶質蒸気モル濃度
次に溶質の飽和濃度を求める。まず、液体の蒸気圧算出の式2(アントワン式)より溶質の分圧Pを求める。
P(mmHg)=10^[A−B/(T+C)] ・・・(式2)
P(mmHg):圧力
T(℃):液温
A:定数
B:定数
C:定数
気体の状態方程式と、n/V=Cの関係より霧化支援ガスに溶存可能な飽和溶質モル濃度を式7より求める。
Csat=P/(R・Tvp) ・・・(式7)
Csat(mol/L):溶質飽和モル濃度
R(l・atm/K・mol):気体定数=0.08205784
最後に溶質飽和モル濃度Csatで溶質蒸気モル濃度Csvを除して式8のように飽和率を導き出す。
Sv=(Csv/Csat) ・・・(式8)
Sv:溶質の飽和率
なお、溶質の飽和率Svが、1.0以下ならば、理論上溶質は完全気化することが可能であるが、飽和蒸気圧付近の蒸発速度等は遅くなるので現実的には溶質の飽和率Svが0.3以下程度にすることが望ましい。気化器409等の小型化、設定ガス濃度を変えたときの追従性を考えると溶質の飽和率Svが0.1以下であることがさらに望ましい。
上述してきたように、本実施形態では、材料溶液のノズルまでの安定供給、気化器による材料溶液ミストの完全気化、加熱した材料ガスを気化器の後段より導入する効果により、基板上に供給される材料溶液ガス中に残留ミストが無くなり、材料溶液ガスの濃度が安定し、ガス材料の線速や供給ガス温度などを正確に制御でき、良質な結晶成長が可能である。
本実施形態の装置は、特に酸化亜鉛(ZnO)系化合物半導体結晶の成長に適している。
ここで、本実施の形態で結晶成長させた酸化亜鉛系化合物半導体膜を用いた半導体発光素子について図8を用いて説明する。
半導体発光素子の構造は、図20に示したように、基板421上に、緩衝層201、n型酸化物半導体層202、p型酸化物半導体層203を積層した構造である。p型酸化物半導体層203の上には、p側電極(透光性電極)204が配置され、その上にp型電極パッド205が配置されている。基板421の下面には、n側電極206とn側電極接合部材207が積層されている。
基板421としては酸化亜鉛またはサファイア等を用いることができる。緩衝層21は酸化亜鉛の結晶再構成層である。n型酸化物半導体層202およびp型酸化物半導体層203は、n型およびp型の不純物をそれぞれ添加した酸化亜鉛を結晶成長させた層である。
緩衝層201、n型酸化物半導体層202、p型酸化物半導体層203は、本実施形態の液体ソースMOCVD装置を用いて成膜することができる。
材料溶液416としては、上述した溶質Zn(EDMDD)2を、溶媒ECHに溶解したものを用いることができる。
ZnO結晶は、アンドープ状態でもn型であるが、成長温度を変更して、n型半導体膜中の残留キャリア密度を調整することにより、さらにn型特性を強くすることも可能である。また、ドーパントを用いるのであれば、例えばn型不純物としてGaを用いる場合、Ga(EDMDD)3をECHに溶解したドーパント溶液を追加して成長すればよい。
また、p型不純物として、例えば窒素をドーピングするが、ドーパントガスとしてアンモニア(以下、NH3)ガスを供給すればよい。
さらに、バンドギャップエンジニアリングの調節を考慮して、例えば、p型酸化物半導体層にMg混晶系の酸化物半導体を用いる場合、Mgの材料溶液として、例えば、Mg(EDMDD)2を、溶媒ECHに溶解したものを用いることができる。なお、各種不純物を事前に適量混合したカクテル材料溶液を用いてもよい。
本実施形態の液体ソースMOCVD装置を用いることにより、結晶性に優れたn型酸化物半導体層202、p型酸化物半導体層203を形成することができる。
p側電極(透光性電極)204、p側電極パッド205、n側電極206およびn側電極接続部材207の成膜工程、および、素子の分割工程は、公知の方法により行う。
本実施の形態の製造方法により製造した半導体発光素子は、n型酸化物半導体層202、p型酸化物半導体層203の結晶性が優れているため、従来に比べて発光効率を向上させることができる。
本発明のように、上述した液体材料およびガス材料を用い、同様の成長方法にて酸化物半導体発光素子を作製する場合、緩衝層201は無くてもよい。
なお、n型酸化物半導体層202、p型酸化物半導体層203の間に量子井戸構造を含む発光層を形成しても良い。
上述してきた実施形態では、図1に示したように圧力調整弁424を反応容器420よりも排気側に配置しているが、本発明はこの構成に限られるものではない。例えば図9に示したように、気化器409と反応容器420との間に圧力調整弁424を配置し、気化器409に圧力センサー17を備える構成にすることも可能である。圧力調整器21は、中央制御装置16の制御下で、圧力センサー17が検出した気化器409内の圧力が設定された所定の圧力となるようにフィードバック制御する。気化器409の温度は、上述の実施形態と同様に温度調節器18によりフィードバック制御する。図9の構成では、圧力調整弁424により気化器409内の圧力を反応容器420内の圧力とは異なる圧力に設定することができるため、気化器409単独で、気化器温度および/または圧力を調整して、材料溶液を完全気化させる条件(溶質蒸気の飽和率が1以下)に制御することが可能になる。ただし、圧力差が大きいと、ガスの断熱膨張によって、気化させたガスの温度が圧力調整弁424通過後に下がり、材料溶液ガスが再凝集する。従って、気化器409内の圧力と反応容器420内の圧力差は100kPa以下が良く、望ましくは50kPa以下、さらに望ましくは30kPa以下が良い。または、溶液蒸気の飽和率が1以下を維持できる温度差になるようにする。
以下、本発明の実施例について説明する。
本実施例では図1の液体ソースMOCVD装置を用いてZnO膜を成膜した。装置構成については実施の形態で説明したのでここでは説明を省略する。
材料溶液416としては、溶質Zn(EDMDD)2を、溶媒ECHに溶解した溶液を用いた。材料溶液416の濃度は0.2mol/Lとした。液体材料加圧用ガス11としてはヘリウムガスを用いた。
操作者は、サセプター428にC面サファイア基板421をセットした。操作者は、中央制御装置16に各種設定値を設定した。これに応じて中央制御装置16は気体流量調整装置405b、405dを制御し、気体流量調整装置405dより窒素ガスを0.25SLM、気体流量調整装置405dより酸素ガスを0.5SLMの流量で反応容器に供給した。また、供給したガスの温度が250℃になる様に材料ガス加熱器411の温度を温度調節装置19を介して中央制御装置16により制御した。同時に、反応容器420内が2.0kPaとなる様に圧力調整弁424を圧力調整装置21を介して中央制御装置16により制御した。その後、基板加熱器422を温度調節器20によりフィードバック制御し、基板温度900℃まで加熱し、10分間熱処理した。
次に、基板加熱器422を制御し、基板温度を750℃まで降下させ保持した。この状態で、気体流量調整装置405aを中央制御装置16により制御し、霧化支援ガスとして窒素ガスを0.25SLMで霧化支援ガス加熱器407に供給した。また、材料溶液加圧用ガス11としてヘリウムガスを用い、200kPaで材料溶液容器417の材料溶液416の液面を加圧した。液体流量調整装置418aを中央制御装置16により制御し、材料溶液416を1.0sccmで気化器409に供給した。これにより、霧化支援ガスおよび材料溶液を気化器409に所定の流量で供給し、気化器409で完全に気化して、反応容器420へ供給した。なお、送液管419の温度は25℃以下になるように管理した。
このとき霧化支援ガス加熱器407の加熱温度は、気化器409の霧化ノズル408から噴出す時点(気化器409内の圧力2.0kPa)で霧化支援ガスの温度が250℃となるように、温度調節器18を介して中央制御装置16により制御した。また、気化器409の外部および内部ヒーター905,908は、気化器409から気化した材料溶液416のガスが材料溶液ガス導入管14に流れ込む時点(噴出し時点)で250℃となるように中央制御装置16により制御した。熱交換フィン907の接ガス面の温度が300℃のとき、材料溶液ガスの温度が250℃であった。
また、気体流量調整装置405dへの設定流量を変更し、材料ガスとしての酸素を2.0SLMの流量で材料ガス加熱器411を介して反応容器420に供給した。材料ガス加熱器411の加熱温度は、材料ガス誘導管412が材料溶液ガス導入管14に合流する地点で材料ガスの温度が250℃となるように設定した。
この条件で、材料溶液(Zn(EDMDD)2/ECH)416のガスおよび材料ガス(酸素ガス)を60分間、基板421上へ供給して結晶成長させることにより、サファイア基板上に厚み1.0μmのZnO単結晶を得た。
上記成膜条件は、送液管419における材料溶液416に気泡を発生させないための条件である式1の関係:
(溶媒の蒸気圧P)<(送液管内の圧力) ・・・(式1)
を満たしている。すなわち、溶媒の蒸気圧Pを上述の式2に基づき具体的に計算すると、下記したように溶媒の蒸気圧Pは、1.7kPaであり、送液管内の圧力すなわち反応容器420の圧力2.0kPaよりも小さく、式1を満たしている。よって、材料溶液は送液管内および霧化ノズル内部で気泡を発生せず、霧化ノズルから気化器内へ噴霧される。
P(mmHg)=10^[A−B/(T+C)] ・・・(式2)
=10^[6.99949−1465.203/(25+224.044)]=13.1(mmHg)
=1.7(kPa)
ただし、
P(mmHg):ECH蒸気圧
T(℃):25
A:6.99949
B:1465.203
C:224.044
つぎに、本実施例の成長条件において、気化器409内の空間における材料溶液の蒸気の飽和率が1.0以下であることを確認する。
実施例における気化器409内の霧化支援ガスの流量は、式4より、
Fvp=(Pst・Fst/Tst)・(Tvp/Pvp) ・・・(式4)
= {(1.0×0.25)/273.15}×(523.15/0.0197)= 24.3(L/min)
溶質モル流量は式5より、
Msv=Csv・Fmix ・・・(式5)
= 0.2×1.0×10−3
= 0.2×10−3(mol/min)
溶質蒸気モル濃度Csvは式6により、
Csv=Msv/Fvp ・・・(式6)
= (0.2×10−3)/24.3
= 8.24×10−6(mol/L)
次に溶質の飽和濃度を求める。まず、液体材料(Zn(EDMDD)2)の蒸気圧算出の式2’より溶質の分圧Pを求める。
P(mmHg)=10^[A−B/T] ・・・(式2’)
T(K): 523.15 (=250℃)
A: 11.540
B: 5408
∴ P= 15.94(mmHg)= 0.021(atm)
霧化支援ガスに溶存可能な飽和溶質モル濃度は式7より、
Csat=P/(R・Tvp) ・・・(式7)
= 0.021/(0.08205784×523.15)
= 4.89×10−4(mol/L)
飽和溶質モル濃度Csatで溶質蒸気モル濃度Csvを除して式8により飽和率Svを導き出すと、飽和率は0.017である。
Sv=(Csv/Csat) ・・・(式8)
= (8.24×10−6)/(4.89×10−4)
= 0.017
したがって、本実施例の条件では、気化器409内の空間の溶質の飽和率Svが、1.0以下であるため、気化器409における完全気化が可能であることが確認できた。しかも、飽和率(0.017)は、0.3以下であるため蒸発速度が速く、速やかに完全気化を実現できる。
実施例の条件では、気化器409における熱交換フィン907の接ガス面温度が300℃のとき材料溶液ガスの噴出し温度が250℃であったので熱交換率を下記の式9で定義すると85%となる。
熱交換率=(気化後の材料溶液ガス温度/気化器内部温度)×100) ・・・(式6)
なお、熱交換フィン907の接ガス面の温度が300℃であるので、ガス温度を有機金属材料の熱分解温度以下にでき、基板面到達前に材料の熱変質を防止できる。
(比較例)
比較例として、図10の液体ソースMOCVD装置を用いて同様にZnO膜の成長を行った。
図10の装置は、本発明の図1の液体ソースMOCVD装置と異なり、霧化支援ガス加熱器407、材料ガス加熱器411を備えていない。また、気化器316は、図10に示したように霧化ノズル315として、上記実施の形態の比較例として説明した図7の霧化ノズルを用いている。また、気化器316は、フィンおよび内部ヒーターを備えていない。また、気化器316内の材料溶液の蒸気を飽和蒸気圧以下に維持する制御も行っていない。
比較例の成膜条件は、以下のように設定した。材料溶液416の溶質・溶媒・濃度と流量、材料溶液加圧ガス種とその圧力、基板421材質とその熱処理・成長温度は、実施例と同じに設定した。結晶成長前に気化器316および反応容器420を250℃に加熱し、極力材料溶液が管壁に付着しないようにした。
霧化支援ガスを兼用する材料ガスとして、窒素ガスと酸素ガスを用い、気体流量調節装置405aにて流量250sccm、気体流量調節装置405cにて2.0SLMにそれぞれ調整し、気化器316の霧化ノズルへ315に供給した。
霧化ノズル315は、図7のように噴出口の手前で2本の管を合流させて材料溶液と霧化支援ガスを混合するため、合流後は図11のように材料溶液の液滴の間に霧化支援ガスが挟まれた状態で管内を移動し、ガスの勢いによってノズル先端から噴出される。このため材料溶液の噴出が断続的になるとともに、形成される溶液ミスト51のサイズが不揃いで粒径分布が大きくなる。粒径の大きな溶液ミスト51は、気化器316内で溶媒および溶質の気化に時間がかかり、気化器316の出口まで到達しても溶質ミスト52が残存する。このため、気化器316において材料溶液を完全に気化することが難しく、溶質ミスト52が残存した状態で反応容器420へ材料溶液のガスを送り出す。
気化器316および反応容器420内の圧力は、圧力調整弁424により600Paに調整した。
気化器316により気化した材料溶液のガスと霧化支援ガスを兼用する材料ガスとの混合ガスを反応容器420内に導入して基板421上へ噴き付け、60分間ZnOを結晶成長させた。成長したZnO結晶膜は基板温度を徐々に下げて冷却した。
本比較例は、実施例と同じく溶質に液体材料であるZn(EDMDD)2を用いているため、溶媒の気化によって溶質が配管内や、霧化ノズル内部で析出することはなくなった。しかし、良質な結晶成長の実現には至らなかった。
(評価)
実施例と比較例で結晶成長したZnO結晶について微分干渉顕微鏡および走査型電子顕微鏡による観察像を得た。微分干渉顕微鏡像は、オリンパス製工業用検査顕微鏡MX51を用いて観察を行った。走査型電子顕微鏡像は、日立製作所製走査型電子顕微鏡S−2600Nを用いて成長膜表面の微視的な観察を行った。
また、二次イオン質量分析(SIMS)法により実施例と比較例のZnO結晶を分析した。
さらに、実施例と比較例のZnO結晶の膜厚と凹凸を触診式表面形状測定装置((株)アルバック製DEKTAK)により測定した。
(評価結果)
微分干渉顕微鏡観察像を図12(a),(b)に示す。図12(b)の実施例のZnO結晶のサンプル表面はヒルロックの無い滑らかな表面であることを確認した。これに対して図12(a)のように比較例のZnO結晶のサンプルではヒルロックが密集した凹凸があった。
走査型電子顕微鏡像を図12(c)、(d)に示す。図12(d)のように倍率5000倍で観察を行ったところ、実施例のサンプルは緻密な膜であることが確認された。これに対して比較例のサンプルは、図12(c)のようにZnO結晶膜上に更に3〜5μmサイズのヒルロックが形成された膜であった。
SIMS観察結果を図13(a)、(b)に示す。図13(b)より実施例のZnO結晶のサンプルの膜は、不純物である炭素および水素の濃度が分析下限界であることが確認された。これに対して比較例サンプルのZnO結晶膜中の不純物である炭素および水素濃度は、図13(a)のように其々1×1021前後及び1×1020程度含まれていることを確認した。
また、膜厚測定により、実施例のZnO結晶膜のサンプルは1.0μm、比較例のサンプルは0.8μmの厚みであることを確認した。このことから、実施例の成膜装置では、比較例の成膜装置と比較してより効率的に材料を成膜に利用できたものと思われる。
以上の結果より、材料溶液ガスの供給を安定化し、更に材料溶液を完全ガス化する本発明により、均一で均質さらに不純物を取り込まない良好なZnO単結晶膜が得られたのは明らかである。
402…不活性ガス配管、404…材料ガス配管、405…気体流量調節装置、406…霧化支援ガス送気管、407…霧化支援ガス加熱器、408…霧化ノズル、409…気化器、410…材料ガス送気管、411…材料ガス加熱器、412…材料ガス誘導管、413…液体材料加圧用不活性ガス配管、414…溶媒、415…溶媒容器、416…材料溶液(溶剤+溶質)、417…材料溶液容器、418…液体流量調節装置、419…送液管、420…反応容器、421…基板、422…基板加熱器、423…捕集装置、424…圧力調整弁、425…ドレイン配管、426…導入弁、427…排気弁、428…サセプター。