近年、信号線路としてのメタライズ線路によって伝送される信号の高周波化が進んでいる。そのため、例えば10GHzを超えるような周波数の高い信号を低損失で伝送することが可能な信号線路を有する配線基板が要求されている。
このような高周波信号の電流は、いわゆる表皮効果により、主としてメタライズ線路の非常に薄い表面部分によって伝送される。そのため、前述の配線基板に対する要求を満たす上で、メタライズ線路の縦断面の外周の長さ(断面外周長)を長くして、電流が伝送される表皮部分の面積を大きくするという手段が有効である。メタライズ線路の断面外周長を長くするためには、メタライズ線路の厚みを、例えば約50〜60μm程度(従来は約10〜30μm程度)に厚くすることが考えられる。
この場合、メタライズ線路の厚みを厚くするために、単に金属ペーストの印刷厚みを厚くすると、印刷した金属ペーストが自重により所定のメタライズ線路のパターンから外側にはみ出る可能性が高くなる。このようなはみ出しが生じると、メタライズ線路の両側面の外縁に凹凸が生じて外縁で表面部分が粗くなり、伝送特性が低くなる。特に、例えば周波数が10GHzを超えるような高周波信号はその主な伝送経路であるメタライズ線路の表面部分が粗くなることに起因して、不要な反射等が生じやすくなり、伝送特性の劣化が顕著となる。
このような問題に対しては、メタライズ線路となる金属ペーストを、上側に積層されるセラミックグリーンシートの下面および下側に積層されるセラミックグリーンシートの上面のそれぞれに積層したときに重なり合うように印刷しておいて、上下のセラミックグリーンシートを積層するという手段が考えられる。この場合には、上下それぞれのセラミックグリーンシートに印刷する金属ペーストの厚さは、上下いずれか一方のセラミックグリーンシートの表面のみに金属ペーストを厚く塗布する場合に比べて約1/2ですむため、金属ペーストの自重によるはみ出しの可能性が低く抑えられる。
しかしながら、複数のセラミックグリーンシートを積層して焼成するときには、セラミックグリーンシート同士が重なる部分では、セラミックグリーンシートに含有されるガラス成分の相互拡散等によるアンカー効果で上下のセラミックグリーンシート(絶縁層)同士が強固に接合されるものの、金属ペースト同士が重なる部分では、このようなアンカー効果が不十分なため接合が弱い。そのため、メタライズ線路が形成されている部分において、絶縁層の層間に密着が不十分な部位が生じる積層不良(いわゆるデラミネーション)が発生する可能性がある。
本発明は上述の問題点に鑑み案出されたものであり、その目的は、高周波信号等の信号の伝送特性に優れるとともに、積層不良の発生を効果的に防止できる配線基板を提供することにある。
本発明の配線基板は、複数の絶縁層が積層されてなる絶縁基板と、前記絶縁層の層間に形成されたメタライズ線路とを備える配線基板であって、前記メタライズ線路は、同じ前記層間に位置する上側メタライズ線路と下側メタライズ線路とが、互いの幅方向の一部同士が重なって接合されており、前記上側メタライズ線路と前記下側メタライズ線路とが接合された部分が前記メタライズ線路の長さ方向に沿って伸びていることを特徴とするものである。
また、本発明の配線基板は、上記構成において、前記上側メタライズ線路および下側メタライズ線路がそれぞれ幅方向に複数に分割された分割線路であるとともに、上側の前記分割線路および下側の前記分割線路は、互いに幅方向の一部同士が重なるように交互に配置されており、上側の前記分割線路と下側の前記分割線路とが重なった部分が前記メタライス線路の長さ方向にそって伸びていることを特徴とするものである。
また、本発明の配線基板は、上記構成において、上側および下側のそれぞれの前記分割線路の間が絶縁材で充填されていることを特徴とするものである。
また、本発明の配線基板は、上記構成において、前記上側メタライズ線路と前記下側メタライズ線路とが、長さ方向に沿って互いの厚み方向の一部同士が隣り合って接合されていることを特徴とするものである。
また、本発明の配線基板は、上記各構成において、前記上側メタライズ線路および前記下側メタライズ線路と前記絶縁層との間が絶縁材で充填されていることを特徴とするものである。
本発明の配線基板によれば、絶縁層の層間に形成されたメタライズ線路は、同じ層間に位置する上側メタライズ線路と下側メタライズ線路とが、互いの幅方向の一部同士が重なって接合されているとともに、この接合された部分がメタライズ線路の長さ方向に沿って伸びていることから、接合の強度が他に比べて弱い部分である上側および下側メタライズ線路同士の接合する範囲が、互いに幅方向の全部にわたって接合した場合に比べて小さく抑えられる。また、メタライズ線路と絶縁層との間の接合は、絶縁層からメタライズ線路に拡散したガラス成分のアンカー効果等のために、メタライズ線路同士の接合に比べて強い。そのため、絶縁層間の接合が強固で、積層不良の発生を効果的に抑制できる配線基板とすることができる。
また、本発明の配線基板によれば、上側および下側メタライズ線路が、幅方向の一部同士が重なっているとともに、この重なった部分がメタライズ線路の長さ方向に伸びているので、上側メタライズ線路の下面と下側メタライズ線路の上面とが重なっていない部分により、断面周長をより長くすることができる。また、上側メタライズ線路および下側メタライズ線路は、ともに例えば金属ペーストが自重で所定パターンからはみ出る程度にまでは厚く印刷する必要がないため、金属ペーストのはみ出しに起因してメタライズ線路の表面が粗くなることを抑制できる。
したがって、本発明の配線基板によれば、高周波信号等の信号の伝送特性に優れるとともに、積層不良(デラミネーション)の発生を効果的に防止できる配線基板を提供することができる。
また、本発明の配線基板は、上側メタライズ線路および下側メタライズ線路がそれぞれ
幅方向に複数に分割された分割線路であるとともに、上側の分割線路および下側の分割線路は、互いに幅方向の一部同士が重なるとともに、重なった部分が長さ方向に伸びるように交互に配置されている場合には、それぞれ分割に伴い新たに露出するようになった側面の分、表皮効果による信号の伝送経路が新たに生じる。
そのため、さらに断面周長の長いメタライズ線路が形成された、より高周波信号の伝送特性に優れた配線基板を提供することができる。
また、接合強度が比較的弱いメタライズ線路同士の重なる部分が連続せずに分散するとともに、そのメタライズ線路同士の重なる部分と隣接して、接合強度が比較的強いメタライズ線路と絶縁層との接合部分が配置される。そのため、絶縁層の層間に接合強度が他に比べて弱い部分が例えばメタライズ線路の幅方向の全部にわたるような範囲で連続して存在することに起因して積層不良が発生するということは、より効果的に抑制される。
また、本発明の配線基板は、上側および下側のそれぞれの分割線路の間が絶縁材で充填されている場合には、上側および下側のそれぞれの分割線路同士の間の狭く、絶縁層とメタライズ線路(分割線路)との密着が難しい隙間が絶縁材で充填されるので、この絶縁材を介して絶縁層とメタライズ線路とが空隙を生じることなく密着し得る。そのため、この部分で絶縁基板の内部に空隙が生じることが効果的に防止され、積層不良をより効果的に抑制できる配線基板を提供することができる。
また、本発明の配線基板は、上側メタライズ線路と下側メタライズ線路とが、長さ方向に沿って互いの厚み方向の一部同士が隣り合って接合されている場合には、厚み方向に隣り合って接合されている部分でも上側および下側メタライズ線路同士が電気的に接続される。そのため、上側メタライズ線路と下側メタライズ線路との、長さ方向に沿った互いの幅方向の一部同士の重なり幅を狭く設定したような場合でも、上側および下側メタライズ線路間の電気的な接続をより確実に確保することができる。したがって、このような構成は、上側メタライズ線路と下側メタライズ線路との幅方向の重なり幅を狭くして配線基板としての小型化(平面面積の小型化)を図るような場合に有効である。
また、互いの接合強度が比較的弱い部分である、上側および下側メタライズ線路同士の接合する範囲を、絶縁層の層間でより小さく抑えることができる。そのため、上下の絶縁層間の接合をより強固とする上で有効である。
また、本発明の配線基板は、上側メタライズ線路および下側メタライズ線路と絶縁層との間が絶縁材で充填されている場合には、上側および下側メタライズ線路の厚さにより妨げられる可能性のある上下の絶縁層間の密着をより容易に、かつ強固に行なわせることができる。
すなわち、上側メタライズ線路(または下側メタライズ線路)と絶縁層との間の密着が、隣り合う下側メタライズ線路(または上側メタライズ線路)の厚さに応じて妨げられて空隙が発生する可能性があるのに対し、このように上側メタライズ線路および下側メタライズ線路と絶縁層との間に絶縁材が充填されていれば、その空隙の発生をより効果的に抑制することができる。そのため、上下の絶縁層間の密着をより容易に、かつ強固に行なわせることができる。
本発明の配線基板について、添付の図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の配線基板の実施の形態の一例を模式的に示す断面図である。図1において、1(1a,1b)は絶縁層、2は絶縁基板、3(3a,3b)はメタライズ線路である。複数の絶縁層1が積層されてなる絶縁基板2において、絶縁層1の層間にメタライズ線路3が形成されて配線基板9が基本的に形成されている。
絶縁層1は、酸化アルミニウム質焼結体,窒化アルミニウム質焼結体,炭化珪素質焼結体,窒化珪素質焼結体,ガラスセラミック焼結体,ムライト質焼結体等の電気絶縁材料により形成されている。
この絶縁層1が複数積層されて絶縁基板2が形成されている。配線基板9が電子部品搭載用基板として使用される場合には、絶縁基板2の上面や下面,側面等に電子部品の搭載部(符号なし)が設けられる。搭載部に搭載される電子部品(図示せず)としては、ICやLSI等の半導体集積回路素子およびLED(発光ダイオード)やPD(フォトダイオード)やCCD(電荷結合素子)等の光半導体素子を含む半導体素子,弾性表面波素子や水晶振動子等の圧電素子,容量素子,抵抗器,半導体基板の表面に微小な電子機械機構が形成されてなるマイクロマシン(いわゆるMEMS素子)等の種々の電子部品が挙げられる。
電子部品は、搭載部に、例えばエポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,アクリル系樹脂,シリコーン系樹脂,ポリエーテルアミド系樹脂等の樹脂接着剤や、Au−Sn,Sn−Ag−Cu,Sn−Cu,Sn−Pb等のはんだや、ガラス等で接着される。
ここで、絶縁層1を形成する材料として酸化アルミニウム質焼結体を採用した場合における絶縁基板2の製作方法の一例について説明する。まず、酸化アルミニウム(アルミナ)や二酸化ケイ素(シリカ)等の原料粉末を有機溶剤やバインダ等とともに混練してスラリーを作製する。次に、スラリーをドクターブレード法等の成形方法でシート状に成形して複数のセラミックグリーンシートを作製する。そして、作製したセラミックグリーンシートを積層するとともに、その積層体を所定の焼成温度(例えば1300〜1600℃)で焼成する。以上のようにして、絶縁基板2は製作される。
また、絶縁層1の層間には、メタライズ線路3が形成されている。メタライズ線路3は、例えば搭載部に搭載される電子部品および外部の電気回路と電気的に接続して、電子部品と外部の電気回路との間で送受される電気信号の伝送線路として機能する。
メタライズ線路3は、タングステンやモリブデン,マンガン,銅,銀,パラジウム,白金,金等の金属材料のメタライズ層により形成されている。メタライズ線路3は、例えばタングステンのメタライズ層からなる場合であれば、タングステンの粉末を有機溶剤,バインダとともに混練して作製した金属ペーストを、絶縁層1となるセラミックグリーンシートの表面にスクリーン印刷法等の印刷法で所定パターンに印刷しておき、セラミックグリーンシートの積層体と同時焼成することにより、絶縁層1の層間に形成することができる。
電子部品とメタライズ線路3や外部の電気回路との電気的な接続は、例えば、メタライズ線路3から絶縁基板2の表面にかけて貫通導体(図示せず)を形成し、この貫通導体の露出部分に電子部品の電極や外部の電気回路をはんだ等の導電性接続材を介して接続することにより行なうことができる。
また、図1に示す例においては、メタライズ線路3が形成された上下の絶縁層1a,1bの層間に絶縁材4が介在している。絶縁材4は、上下の絶縁層1a,1bの間の密着性を高めるためのものであり、この例において、メタライズ線路3の外縁から絶縁基板1の外縁にかけて形成されている。このような絶縁材4は、絶縁層1と同様の電気絶縁材料(酸化アルミニウム質焼結体,窒化アルミニウム質焼結体,炭化珪素質焼結体,窒化珪素質焼結体,ガラスセラミック焼結体,ムライト質焼結体等)を用いて形成される。すなわち、絶縁層1となるセラミックグリーンシートの積層体を作製する際にメタライズ線路3となる金属ペーストとともに絶縁材4となるセラミックペーストを塗布しておくことによって、これらを同時焼成することにより形成することができる。
なお、絶縁材4が介在していない場合でも、セラミックグリーンシートの積層体を積層方向に加圧することにより、例えば図2に示すように、上下のセラミックグリーンシートを密着させることはできる。この場合、絶縁層1の層間のメタライズ線路3は、その厚さに応じて変形し、一部はセラミックグリーンシート(絶縁層1)の中に埋まっているものとなる。なお、図2は、図1に示す配線基板の変形例を示す要部拡大断面図である。図2において図1と同様の部位には同様の符号を付している。
この配線基板9において、メタライズ線路3は、同じ層間に位置する上側メタライズ線路3aと下側メタライズ線路3bとが、長さ方向に沿って、互いの幅方向の一部同士が重なって接合されている。
このように、絶縁層1a,1bの層間に形成されたメタライズ線路3は、同じ絶縁層1a,1bの層間に位置する上側メタライズ線路3aと下側メタライズ線路3bとが、長さ方向に沿って互いの幅方向の一部同士が重なって接合されていることから、接合の強度が比較的弱い部分である上側および下側メタライズ線路3a,3b同士の接合される範囲が小さく抑えられる。また、メタライズ線路3と絶縁層1との間の接合は、絶縁層1からメタライズ線路3へのシリカ等のガラス成分の進入によるアンカー効果のために、メタライズ線路3同士の接合に比べて強い。そのため、絶縁層1(1a,1b)間の接合が強固で、積層不良の発生を抑制できる配線基板9を形成することができる。
また、この配線基板9によれば、上側および下側メタライズ線路3a,3bが幅方向の一部のみが重なっているので、上側メタライズ線路3aの下面および下側メタライズ線路3bの上面の互いが重なっていない部分により、メタライズ線路3としての断面周長を長くすることができる。また、上側メタライズ線路3aおよび下側メタライズ線路3bは、ともに例えば金属ペーストが自重で所定パターンからはみ出る程度にまでは厚く形成する必要がないため、金属ペーストのはみ出しに起因してメタライズ線路3(3a,3b)の表面が粗くなることを抑制できる。
また、メタライズ線路3は、信号を伝送する方向に直交する方向における縦断面の面積が、上側および下側メタライズ線路3a,3bの縦断面の面積の合計であるため、縦断面の面積を広くして抵抗を下げることも容易である。
従って、本発明の配線基板9によれば、高周波信号等の信号の伝送特性に優れるとともに、積層不良(デラミネーション)を効果的に防止できる配線基板9を提供することができる。
この場合、上側メタライズ線路3aと下側メタライズ線路3bとが重なる範囲は、上下の絶縁層1a,1bの間の密着性を高めることや、メタライズ線路3の断面周長を長くして表皮効果による高周波信号の伝送の抵抗を低く抑えて伝送特性を向上させること等のためには、小さいほど好ましい。
また、上側メタライズ線路3aと下側メタライズ線路3bとが重なる範囲は、上下のメタライズ線路3a,3b同士の間の電気的な接続の確保や、メタライズ線路3の幅を小さく抑えて、メタライズ線路3の高密度化や配線基板9の小型化を容易とする上では、大きいほど好ましい。
そのため、上側メタライズ線路3aと下側メタライズ線路3bとが重なる範囲は、例えば配線基板9について望むような小型化(例えば1辺の長さが2.5mm程度の四角板状等)ができる範囲で、極力小さくするように設定すればよい。ただし、上側メタライズ線路3aと下側メタライズ線路3bの重なり幅が、例えば10μm程度と小さくなりすぎると、上下の絶縁層1a,1bとなるセラミックグリーンシートに積層ずれが生じたようなときに、上側および下側メタライズ線路3a,3bの間の電気的な接続が難しくなる可能性がある。
この場合、例えば、上側および下側メタライズ線路3a,3bの線幅を約100μmとするとともに互いの重なり幅を30〜70μm程度に設定すれば、全体の線幅が約130〜170μmと配線基板9の小型化を図る上で十分に狭いメタライズ線路3を、上側および下側メタライズ線路3a,3b間の電気的な接続を十分に確保しながら形成することができる。また、上側および下側メタライズ線路3a,3b同士の重なり幅が100μm(幅方向の全部にわたって重なった場合の重なり幅)に比べて約30〜70%程度に抑えられるので、接合の強度が比較的弱い部分である上側および下側メタライズ線路3a,3b同士の接合される範囲がそれだけ小さく抑えられ、上下の絶縁層1a,1bの間の積層不良(デラミネーション)の発生も効果的に抑制することができる。
また、上側および下側メタライズ線路3a,3b間の重なり幅を、互いの線幅の1/2程度ずつに設定しておけば、一般的な、酸化アルミニウム質焼結体またはガラスセラミック焼結体からなる絶縁層1の層間に、それぞれの線幅が約100〜200μm程度で厚みが約10〜30μmの上側および下側メタライズ線路3(3a,3b)が形成されてなる配線基板9において、上下の絶縁層1同士の間の積層不良の発生を抑制しながら、高周波信号の伝送特性に優れたメタライズ線路3を形成することができる。
なお、上下の絶縁層1a,1bを所定の位置関係に積層するためには、例えば、まず絶縁層1a,1bとなるセラミックグリーンシートの外縁に厚み方向に切り欠きや貫通孔(図示せず)を設け、次に、この切り欠きや貫通孔を基準としてセラミックグリーンシートの表面にメタライズ線路3となる金属ペーストを印刷し、その後、切り欠きや貫通孔を基準として上下のセラミックグリーンシートを積層して焼成するようにすればよい。この場合、セラミックグリーンシートの中央部を絶縁層1となる領域とするとともに、外周部をダミー領域(図示せず)としておいて、ダミー領域に切り欠きや貫通孔を設けるようにすれば、ダミー領域を除去した後の完成品としての配線基板9に切り欠きや貫通孔が残ることはない。
また、このような配線基板9において、上側メタライズ線路3aおよび下側メタライズ線路3bと絶縁層1a,1bとの間が、前述したような絶縁材4で充填されている場合には、上側および下側メタライズ線路3a,3bの厚さにより妨げられる可能性のある上下の絶縁層1a,1b間の密着をより容易に、かつ強固に行なわせることができる。
すなわち、上側メタライズ線路3a(または下側メタライズ線路3b)と絶縁層1との間の密着が、隣り合う下側メタライズ線路3b(または上側メタライズ線路3a)の厚さに応じて妨げられて空隙が発生する可能性があるのに対し、このように上側メタライズ線路3aおよび下側メタライズ線路3bと絶縁層1a,1bとの間に絶縁材4が充填されていれば、その空隙の発生をより効果的に抑制することができる。そのため、上下の絶縁層1a,1b間の密着をより容易に、かつ強固に行なわせることができる。
また、本発明の配線基板9は、図3に示すように、上側メタライズ線路3aおよび下側メタライズ線路3bがそれぞれ長さ方向に沿って複数に分割された分割線路31a,31bであるとともに、上側の分割線路31aおよび下側の分割線路31bは、長さ方向に沿って幅方向の一部同士が重なるように交互に配置されている場合には、それぞれの分割された分割線路31a,31bの側面部分に、表皮効果に伴う信号の伝送経路が新たに生じる。
そのため、断面周長のより長いメタライズ線路3が形成された、より高周波信号の伝送特性に優れた配線基板9を提供できる。なお、図3は、本発明の配線基板9の実施の形態の他の例を模式的に示す断面図である。図3において図1と同様の部位には同様の符号を付している。
また、接合強度が比較的弱い、メタライズ線路3(上側および下側の分割線路31a,31b)同士の重なる部分がメタライズ線路3の幅方向で連続せずに分散するとともに、その部分と隣接して、接合強度が比較的強いメタライズ線路3と絶縁層1との接合部分が位置することになる。
そのため、絶縁層1(1a,1b)の層間に、接合強度が他に比べて弱い部分が、例えばメタライズ線路3の幅方向の全部にわたるような幅で連続して存在することに起因して、絶縁基板に積層不良(デラミネーション)が発生するということはより効果的に抑制される。
この場合、個々の分割線路31a,31bは、線幅が50μm未満になるとスクリーン印刷法により所定パターンに形成することが難しくなる傾向がある。そのため、個々の分割線路31a,31bの線幅は50μm以上であることが好ましい。
例えば、上側および下側の分割線路31a,31bの線幅を50μmとするとともに分割線路31a,31b同士の上下の重なり幅をそれぞれ15μm程度に設定すれば、上下交互に配置され、長さ方向に沿って幅方向の外縁同士で15μmずつ互いに接合された上側および下側各2本の分割線路31a,31bからなる、全体の線幅が約155μmのメタライズ線路3を形成することができる。
なお、上側および下側メタライズ線路3a,3bを複数の分割線路31a,31bに分割するときに、細かく分割しすぎると上下の分割線路31a,31bの位置合わせが難しくなり、生産性の低下や、積層ずれに起因する上下の分割線路31a,31b間の断線等の不具合を生じたりする可能性がある。そのため、例えば配線基板9の小型化のためにメタライズ線路3の全体の線幅を150μm以下程度に抑える必要があるような場合には、上下の分割線路31a,31bをそれぞれ2本にする(上側および下側メタライズ線路3a,3bの分割を2分割に留める)ことが好ましい。
また、この配線基板9は、上側および下側それぞれの分割線路31a,31bの間が前述した絶縁材4と同様の絶縁材4a(説明の便宜上、異なる符合を付す。)で充填されている場合には、上側および下側それぞれの分割線路31a,31b同士の間の、狭くて絶縁層1とメタライズ線路3(分割線路31a,31b)との密着が難しい隙間が絶縁材4aで充填され、絶縁材4aを介して絶縁層1とメタライズ線路3(分割線路31a,31b)とが空隙を生じることなく密着し得る。そのため、この部分で絶縁基板1の内部に空隙が生じることが効果的に防止され、絶縁層1間の積層不良(デラミネーション)をより効果的に抑制できる配線基板9を提供することができる。
分割線路31a,31bの間の絶縁材4aも、例えば、絶縁層1を形成するのと同様の電気絶縁材料(酸化アルミニウム質焼結体,窒化アルミニウム質焼結体,炭化珪素質焼結体,窒化珪素質焼結体,ガラスセラミック焼結体,ムライト質焼結体等)により形成することができる。
また、分割線路31a,31bの間の絶縁材4aは、このような電気絶縁材料の粉末を有機溶剤,バインダとともに混練して作製したセラミックペーストを、セラミックグリーンシートの表面に印刷された分割線路31a,31bとなる金属ペーストの間に、スクリーン印刷法等の印刷法で充填するように印刷することにより、分割線路31a,31bの間を充填するように形成することができる。
また、この場合にも、上側および下側それぞれの分割線路31a,31b同士の間以外の部分で、上側メタライズ線路3a(上側の分割線路31a,31a)および下側メタライズ線路3b(下側の分割線路31b,31b)と絶縁層1(上下の絶縁層1a,1b)との間を絶縁材4で充填しておくことにより、前述の場合(上側および下側メタライズ線路3a,3bが分割されていない場合)と同様に、上下の絶縁層1a,1b間の密着をより容易に、かつ強固に行なわせることができる。
なお、絶縁材4,4aは、シリカ等のガラス成分の添加量を絶縁層1よりも多くしておいて、絶縁層1やメタライズ線路3に対する接合をより強くし、上下の絶縁層1a,1bの間の積層不良をさらに効果的に抑制するようにしてもよい。
また、このような分割線路31a,31bの間の絶縁材4aは、上側および下側それぞれの分割線路31a,31b同士の間以外の部分で上側および下側メタライズ線路と絶縁層1との間を充填する絶縁材4と異なるものでもよい。例えば、ガラス成分の添加量を、より広い面積で絶縁層1と接合される絶縁材4において分割線路31a,31bの間の絶縁材4aよりも多くして、絶縁層1に対する接合をより強くするようにしてもよい。また、分割線路31a,31bの間の絶縁材4aについて、絶縁材4よりも粒径が小さい電気絶縁材料の粉末を用いて形成するようにしてもよい。この場合には、分割線路31a,31bの間の絶縁材4aとなるセラミックペーストの印刷性をより高くすることができるため、狭い、分割線路31a,31b(分割線路31a,31bとなる金属ペースト)の間への印刷が容易であり、配線基板9の生産性を良好に確保する上で有効である。
また、この配線基板9は、例えば図4(a)および(b)に断面図で示すように、上側メタライズ線路3aと下側メタライズ線路3bとが、長さ方向に沿って互いの厚み方向の一部同士が隣り合って接合されている場合には、厚み方向に隣り合って接合されている部分でも上側および下側メタライズ線路3a,3b間が電気的に接続される。なお、図4(a)および(b)は、それぞれ本発明の配線基板の実施の形態の他の例を示す断面図である。図4において図1と同様の部位には同様の符号を付している。
そのため、上側メタライズ線路3aと下側メタライズ線路3bとの、長さ方向に沿った互いの幅方向の一部同士の重なり幅を狭く設定したような場合でも、上側および下側メタライズ線路3a,3b間の電気的な接続をより確実に確保することができる。したがって、このような構成は、上側メタライズ線路3aと下側メタライズ線路3bとの幅方向の重なり幅を狭くして配線基板9としての小型化(平面面積の小型化)を図るような場合に有効である。
また、互いの接合強度が比較的弱い部分である、上側および下側メタライズ線路3a,3b同士の接合する範囲を、上下の絶縁層1a,1bの層間でより小さく抑えることもできる。そのため、上下の絶縁層1a,1b間の接合をより強固なものとする上で有効である。
なお、図4(a)に示す例は、上側および下側メタライズ線路3a,3bの縦断面が長方形状であり、互いの幅方向(上面や下面)の一部同士が重なって接合されているとともに、厚み方向に互いに一部同士が入り込んで、厚み方向でも一部同士が隣り合って接合されている例を示している。つまり、例えば図1に示すような配線基板9において、上側および下側メタライズ線路3a,3bが厚み方向に互いに押し込まれたような形態である。
また、図4(b)に示す例は、上側および下側メタライズ線路3a,3bの縦断面が台形状(絶縁層1a,1b側を幅の広い底辺とする形状)であり、互いの傾斜した側面の一部同士が隣り合って接合されている。この場合、傾斜した互いの側面でも上側および下側メタライズ線路3a,3bが接合されていることにより、互いの厚み方向の一部同士が隣り合って接合されているとともに、互いの幅方向(上側および下側メタライズ線路3a,3bを平面視したときの幅)でも一部同士が重なって接合されるようになっている。
また、このような場合にも、上側メタライズ線路3aおよび下側メタライズ線路3bと絶縁層1(上下の絶縁層1a,1b)との間を絶縁材4で充填しておくことにより、上側メタライズ線路3aおよび下側メタライズ線路3bと絶縁層1(上下の絶縁層1a,1b)との間に空隙が発生することをより効果的に抑制して、上下の絶縁層1a,1b間の密着をより容易に、強固に行なわせることができる。この場合の絶縁材4も、前述した場合と同様の材料を用いて、同様の方法で充填することができる。
なお、図4(a)および(b)のいずれの形態でも、上側メタライズ線路3aと下側メタライズ線路3bとの厚み方向に隣り合う高さは、互いの厚みの1/5〜1/2程度に設定しておけばよい。この場合には、例えば、酸化アルミニウム質焼結体またはガラスセラミック焼結体からなる絶縁層1の層間に、それぞれの線幅が約100〜200μm程度で厚みが約10〜30μmの上側および下側メタライズ線路3a,3bが形成されてなる配線基板9において、メタライズ線路3の断面周長を長くして高周波信号の伝送特性を向上させるという効果を確保しながら、前述したような効果(配線基板の小型化や上下の絶縁層の層間の接合を強固とすること)を得ることができる。
酸化アルミニウム質焼結体からなる厚さ250μm、辺の長さ10×10mmの正方形状の絶縁層を2層積層して絶縁基板を作製した。絶縁層の層間にはタングステンのメタライズにより長さ10mmの直線状のメタライズ線路を10本、互いに平行に形成した。メタライズ線路の両端面は絶縁基板の側面に露出させた。
このメタライズ線路は、上下の絶縁層の層間に位置する上側メタライズ線路と下側メタライズ線路とを、長さ方向に沿って全長にわたり、幅方向の一部同士を互いに50μmの幅で重ならせて接合するように形成した。上側および下側メタライズ線路の線幅はそれぞれ100μmとし、厚さは30μmとした。
この構造の配線基板は、以下の方法で製作した。
まず、酸化アルミニウムを主成分と、酸化ケイ素,酸化カルシウム,酸化マグネシウムを助剤として含有する原料粉末を、有機溶剤およびバインダとともにドクターブレード法によりシート状に成形して複数のセラミックグリーンシートを作製した。セラミックグリーンシートは機械的な切断加工で所定の外形寸法に加工した。
次に、タングステンの粉末を有機溶剤,バインダとともに混練してタングステンの金属ペーストを作製し、この金属ペーストをスクリーン印刷法によりセラミックグリーンシートの表面に印刷した。印刷の際には、セラミックグリーンシートの外縁に半円状の切り欠きを厚み方向に設けておいて、この切り欠きを印刷装置のガイドに合わせて印刷の位置合わせを行なった。
この印刷時、上側のセラミックグリーンシートに金属ペーストを印刷するための版面のパターン(直線状)を、下側のセラミックグリーンシート用の版面に対して50μm、パターンの幅方向にずらして、それぞれの金属ペーストを印刷した。
そして、セラミックグリーンシートを上下に、金属ペーストを印刷した面が向かい合うようにして積層した後、加圧して上下のセラミックグリーンシートを互いに密着させ、最後に1600℃で一体焼成した。
なお、上下のセラミックグリーンシートは、外縁に形成した切り欠きを積層用のテーブルに設けたガイドに合わせて位置合わせしながら、順次積層した。この積層時、上側のセラミックグリーンシートに印刷した金属ペーストの線状のパターンと、下側のセラミックグリーンシートに印刷した金属ペーストの線状のパターンとが、長さ方向の全長にわたり、互いに幅方向に50μmずつ重なり、その後、この金属ペーストが印刷されたセラミックグリーンシートの積層体を前述の温度で一体焼成した。以上により本発明の実施例の配線基板を製作した。
製作した実施例の配線基板について、メタライズ線路を露出させた側面部分を倍率20倍で外観検査し、絶縁層の積層不良(デラミネーション)の発生の有無を確認した。ここで、絶縁基板の側面にメタライズ線路の端面を露出させておいたので、メタライズ線路の部分で発生する積層不良を外観検査で簡易に確認することが可能であった。
また、比較例として、前述のものと同様の絶縁基板およびメタライズ線路からなる配線基板を、上側メタライズ線路と下側メタライズ線路とを幅方向の全部(上下の重なり幅100μm)で重ねて接合させた配線基板を作製し、同様に積層不良の発生の有無を確認した。試験個数は、実施例および比較例それぞれ100個とした。
その結果、上側メタライズ線路と下側メタライズ線路を長さ方向に沿って幅方向の一部を重ねて接合させた本発明の実施例の配線基板では積層不良は発生しなかった。これに対し、比較例の配線基板では30個の配線基板において、メタライズ線路が形成されている部分で積層不良が発生していた。これにより、本発明の配線基板は、積層不良を効果的に抑制することができるものであることが確認できた。