JP5015636B2 - 燃料電池 - Google Patents

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Description

この発明は、小型の電子機器に搭載可能な燃料電池に関する。
燃料電池は、燃料と酸化剤とを供給すれば発電する発電装置である。通常、上記酸化剤として空気を使用することができるため、燃料を交換することによって連続して発電することができる。そのため、上記燃料電池は、定置用電源のみではなく携帯用電源としても非常に注目されている。
通常、定置用の燃料電池等では、上記燃料として水素あるいは水素を含有するガス燃料が使用される。ところが、携帯用の燃料電池の場合には、同じ大きさの容器に貯蔵した燃料によってより長時間発電できることが利点となる。したがって、上記燃料としては、体積当たりのエネルギー密度が高い液体燃料の方が有利になる。
尚、改質器を用いて液体燃料から水素を生成して発電に用いることも可能であるが、燃料電池のシステム全体が複雑になるため、小型化には液体燃料を直接供給する方が容易であると考えられている。
従来、燃料を直接供給するタイプの燃料電池が、特表平11‐510311号公報(特許文献1)に開示されている。この燃料電池は、メタノールと水との混合物を燃料として用いる直接型メタノール燃料電池である。
図11は、代表的な直接型メタノール燃料電池1の構造を模式的に示す。以下、図11に従って、直接型メタノール燃料電池について説明する。
図11において、直接型メタノール燃料電池1は、ハウジング2内の中間部に、燃料極3と酸化剤極4と電解質膜5とが配置されている。そして、ハウジング2内における一端側に燃料極3に隣接して設けられた燃料極室6に、燃料タンク7から燃料ポンプ8によってメタノールと水とが混合された燃料が供給される。燃料極室6内に供給された燃料は、燃料極3内に浸透して反応し、プロトン(水素イオン)と電子と二酸化炭素とを生成する。
通常、上記燃料極3には多孔質材が用いられており、燃料極3内での上記反応は電解質膜5との界面近傍における触媒が担持された層で起こっている。燃料極3で生成された上記プロトンは電解質膜5を透過して酸化剤極4に移動し、上記電子は燃料極3から外部回路(図示せず)を経由して酸化剤極4に流れる。そして、この電子が燃料電池の出力として使用されるのである。また、上記二酸化炭素は、燃料極3から燃料極室6に排出され、未反応の燃料と共に出口ポート9から排出される。この出口ポート9から排出された二酸化炭素と未反応の燃料とは、燃料タンク7に回収され、二酸化炭素は燃料タンク7に設けられた放出ポート10から排出される。
一方、上記酸化剤極4側では、酸素圧縮機11によって酸素が酸化剤極室12へ供給され、この酸素は酸化剤極室12から酸化剤極4内に拡散する。そして、酸化剤極4では、拡散した酸素と燃料極3から拡散してきたプロトンとが反応して水を生成する。生成された水は、通常は水蒸気となって、酸化剤極室12を通って未反応の酸素と共に、出口ポート¥13から排出される。
尚、上記直接型メタノール燃料電池1においては、酸化剤として酸素を使用している。しかしながら、酸素濃度は低くなるが、酸化剤として空気を使用することもできる。
図11に示す従来の直接型メタノール燃料電池においては、燃料であるメタノールと水との混合物は、燃料極室6に供給され、燃料極室6から燃料極3の拡散層へ浸透して電解質膜5との界面近傍の触媒を含有する層で反応する。そして反応生成物である二酸化炭素が燃料極室6内に排出され、供給されてくる燃料に合流し、未反応の燃料と共に出口ポート9から排出されるようになっている。したがって、従来の直接型メタノール燃料電池においては、高効率に安定した発電を行うためには、燃料の供給と反応生成物である二酸化炭素の排出とを効率的に且つ安定して行う必要がある。
ところで、上記燃料ポンプ8で供給される燃料の主たる流れは、燃料極室6に送り込まれ、燃料極室6に設けられた出口ポート9から排出される流れである。そのために、燃料極3における反応に直接寄与する多孔質材でなる上記拡散層内への流れは、燃料極室6内での燃料の主たる流れから逸れたものとなってしまう。さらに、燃料極3が有する上記多孔質材(拡散層)内においては、毛細管作用が働くとは言うものの、形状や方向の制約を受けることから、燃料極3内への効率的且つ安定的な燃料の供給が困難であるという問題がある。このことは、燃料電池としての出力を向上させることや高効率で長時間発電させることを難しくしている。
そこで、上記燃料ポンプ8として、燃料を高圧で圧送するポンプを用いた場合には、当該直接型メタノール燃料電池1を用いた電源装置の大型化を招くので、特に、携帯用機器等の電源装置として採用が難しくなるという別の問題が発生する。
また、特開2002‐175817号公報(特許文献2)には、燃料極に燃料を供給するための燃料流路に燃料が浸透する燃料浸透部材を配置して、上記燃料極への燃料供給の促進を図った直接型メタノール供給式燃料電池が開示されている。
しかしながら、上記特許文献2に記載された直接型メタノール供給式燃料電池においては、上記燃料浸透部材による浸透によって燃料を上記燃料極に供給しているので、上記燃料極での燃料の反応効率が不十分で、出力が不十分であるという問題がある。
特表平11‐510311号公報 特開2002‐175817号公報
そこで、この発明の課題は、燃料極での燃料の反応効率と反応生成物の排出効率とを高めた小型で高出力な燃料電池を提供することにある。
上記課題を解決するため、この発明の燃料電池は、
液体燃料が供給されると共に、この供給された液体燃料から陽イオンと電子とを生成する燃料極と、
上記燃料極に対向して配置されると共に、上記燃料極からの陽イオンを透過させる電解質膜と、
上記電解質膜に対向して、上記電解質膜に対して上記燃料極とは反対側に配置されると共に、酸化剤が供給されて、上記電解質膜を透過した上記陽イオンと上記供給された酸化剤とを反応させる酸化剤極と、
上記燃料極に対向して、上記燃料極に対して上記電解質膜とは反対側に配置されると共に、上記燃料極に上記液体燃料を供給するための第1流路と上記燃料極で発生した排出ガスを排出するための第2流路とが形成された流路板と
を備え、
上記燃料極は、上記電解質膜側に位置して触媒を含有する電極層と、上記流路板側に位置して上記流路板の上記第1流路から供給された上記液体燃料を拡散させる拡散層と、を有しており、
上記流路板における上記第1流路と上記第2流路とは壁によって分離されており、
上記第1流路は、上記燃料極の上記拡散層に対向して配置されると共に、上記液体燃料が流れる方向に向って先細り形状を呈し、合流先および分流先が無い分岐流路を有している
ことを特徴としている。
上記構成によれば、流路板に形成された第1流路は、液体燃料が流れる方向に向って先細り形状を呈する分岐流路を有しているので、上記分岐流路の先端部に残留する気泡は、幅の狭い先端側と幅の広い根元側との表面張力差によって上記根元の方に速やかに移動する。そのため、上記第1流路に液体燃料を供給する際に、上記第1流路における分岐流路の先端に気体を滞留させることなく排出でき、上記分岐流路の先端にまで液体燃料を充満させることができる。したがって、上記第1流路の略総ての流路に亘って液体燃料を行き渡らせることが可能になり、燃料極での液体燃料の反応(陽イオンと電子との生成)を促進し、出力の向上を図ることができる。
すなわち、この発明によれば、上記第1流路への液体燃料の供給が低い圧力で行われても、上記燃料極での反応を十分に行うことができ、小型で高出力な燃料電池を実現することができる。また、設置あるいは保持する向きに寄らず、安定した出力が得られる。
さらに、上記流路板に形成された上記第1流路と上記第2流路とは、壁によって分離されている。したがって、上記第1流路から上記燃料極の上記拡散層を介して上記第2流路への圧力降下によって、上記燃料極への燃料供給効率を向上させると共に、上記第1流路から上記拡散層を経由して上記第2流路への流れに沿って、上記燃料極で生成された排出ガスを排出することができ、排出効率を向上させることができる。
したがって、この発明によれば、燃料供給を圧送するポンプ等の設置が難しい携帯機器等の小型電子機器用の電源として特に好適な燃料電池を提供することができる。
また、1実施の形態の燃料電池では、
上記流路板の上記第1流路における上記分岐流路は、上記燃料極の上記拡散層の表面に平行で且つ上記拡散層の表面からの高さが一定な辺を有する断面形状を維持しつつ上記先細り形状を呈している。
この実施の形態によれば、上記流路板に上記第1流路および上記第2流路を形成する際の流路溝の深さが一定となるため、上記第1,第2流路の加工が容易になる。さらに、上記第1流路内の気体の排出も、より低い燃料供給圧によって可能になる。
また、1実施の形態の燃料電池では、
上記流路板における上記第1流路を形成している上記燃料極側とは反対側の側壁には、上記燃料極における上記拡散層の延在方向に垂直、あるいは、上記拡散層に対向している上記第1流路の側壁の延在方向に垂直に、上記側壁を貫通して上記第1流路に連通する流路が形成されている。
この実施の形態によれば、上記流路板における上記第1流路内に残留している気体を、上記第1流路内に滞留させることなく、上記流路板における上記第1流路を形成している側壁に貫通して形成された流路を通って、上記第1流路の外へ排出することができる。
また、1実施の形態の燃料電池では、
上記第1流路の上記側壁に形成されている上記流路は、上記燃料極の上記拡散層に向って先細り形状を呈している。
この実施の形態によれば、上記流路板における上記第1流路に連通する上記流路の箇所に至った上記残留している気体の気泡は、重力とは関係なく、当該気泡における上記流路の内側に在る部分と上記流路の内側に在る(上記第1流路内に在る)部分との表面張力差によって、上記流路から上記第1流路の外へ容易に排出される。したがって、本燃料電池がどのような向きに置かれても、上記第1流路内の気体を上記第1流路の外に排出することができる。
また、1実施の形態の燃料電池では、
上記第1流路の上記側壁に形成されている上記流路は、上記第1流路における上記分岐流路の分岐部および合流部の近傍に形成されている。
この実施の形態によれば、上記第1流路の上記側壁に形成される上記流路を複数設けるので、上記流路を1つのみ設ける場合に比して、上記第1流路への上記液体燃料の供給と上記第1流路からの残留気体の排出とを容易に行うことができる。
また、1実施の形態の燃料電池では、
上記流路板と上記燃料極との間に介設されて、上記流路板の上記第1流路から上記燃料極の上記拡散層への上記液体燃料の供給を抑制する燃料供給抑制体を備えている。
この実施の形態によれば、上記流路板と上記燃料極との間に燃料供給抑制体を介設しているので、より低い燃料供給圧で、上記第1流路の上記分岐流路の先端まで液体燃料を行き渡らせることができる。したがって、より低い燃料供給圧で、上記第1流路の上記分岐流路の先端部に対して、液体燃料の供給と残留気体の排出とを行うようにできる。
また、1実施の形態の燃料電池では、
上記燃料極における上記拡散層の形成領域を分割して複数の燃料供給領域と成し、
上記流路板における上記第1流路および上記第2流路を、上記燃料極の上記拡散層における上記複数の燃料供給領域の夫々に対向させて複数組形成している。
この実施の形態によれば、上記燃料極における上記拡散層を複数の供給領域に分け、夫々の供給領域に対向させて上記流路板における上記第1流路と上記第2流路との組を形成しているので、液体燃料を上記拡散層の全体により均一に行き渡らせることができる。
また、1実施の形態の燃料電池では、
上記流路板に形成された上記第1流路に接続されると共に、上記第1流路に供給する上記液体燃料が貯蔵されている燃料貯蔵部と、
上記燃料貯蔵部と上記第1流路との間に配置されると共に、上記燃料貯蔵部から上記第1流路に供給される液体燃料の圧力を調整する圧力調整部と
を備えている。
この実施の形態によれば、燃料貯蔵部と上記流路板における上記第1流路との間に、例えば圧力調整弁のような圧力調整部を備えているので、この圧力調整部によって、上記第1流路から上記燃料極へ安定した圧力で液体燃料を供給することができる。したがって、上記第1流路における上記分岐流路の先端まで、効率よく安定して液体燃料を行き渡らせることができ、安定した出力を得ることができる。
また、1実施の形態の燃料電池では、
上記酸化剤極に上記酸化剤を供給すると共に、上記酸化剤極からの排出ガスを排出するための第3流路と、
上記第3流路に接続されると共に、上記第3流路からの排出ガスが導入される第4流路と、
上記第2流路に接続されると共に、上記第2流路からの排出ガスが導入される第5流路と、
上記第4流路と上記第5流路に接続されると共に、上記第4流路からの排出ガスと上記第5流路からの排出ガスを合流させて排出するガス排出部と
を備えている。
この実施の形態によれば、ガス排出部によって、上記酸化剤極からの排出ガスと上記反応板における上記燃料極からの排出ガスとを合流させて排出するので、両排出ガスの排出が容易になる。
以上より明らかなように、この発明の燃料電池は、流路板に形成された第1流路における分岐流路は、流れの方向に向って先細り形状を呈しているので、上記第1流路に燃料を供給する際に、上記第1流路における上記分岐流路の先端に気体を滞留させることなく排出することができる。したがって、上記分岐流路の先端まで液体燃料を充満させることができ、上記第1流路の略総ての流路に亘って液体燃料を行き渡らせることが可能になる。その結果、上記燃料極での液体燃料の反応(陽イオンと電子との生成)を促進して、出力の向上を図ることができる。
すなわち、この発明によれば、上記第1流路への液体燃料の供給が低い圧力で行われても、上記燃料極での反応を十分に行うことができ、小型で高出力な燃料電池を実現することができる。また、設置あるいは保持する向きに寄らず、安定した出力を得ることができる。
さらに、上記流路板に形成された上記第1流路と上記第2流路とは、壁によって分離されているので、上記第1流路から上記燃料極の拡散層を介して上記第2流路への経路に圧力降下を生じさせることができる。したがって、この圧力降下によって、上記燃料極への燃料供給効率を向上させると共に、上記第1流路から上記拡散層を経由して上記第2流路への流れに沿って、上記燃料極で生成された排出ガスを排出させることができ、排出効率を向上させることができる。
以上のごとく、この発明によれば、燃料供給を圧送するポンプ等の設置が難しい携帯機器等の小型電子機器用の電源として特に好適な燃料電池を提供することができる。
以下、この発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
・第1実施の形態
図1は、本実施の形態の燃料電池における構成を示す平面図である。また、図2は、図1におけるA‐A’矢視断面図である。
この燃料電池は、図2に示すように、燃料極21と、この燃料極21に対向するように配置された電解質膜22と、この電解質膜22に対して燃料極21とは反対側に電解質膜22に対向して配置された酸化剤極23とを有している。燃料極21と電解質膜22と酸化剤極23とは、燃料極21と酸化剤極23とで電解質膜22を挟んだ状態で、ハウジング24内に収容されている。また、ハウジング24の一方の側面24aには、燃料極21に対向するように配置された流路板25の縁部25aが接合されて、流路板25が取り付けられている。
図1および図2に示すように、上記流路板25には、液体燃料の供給口26を成す貫通口と、排出ガスの排出口27を成す貫通口と、供給口26から櫛歯状に延在する第1流路溝28と、排出口27から櫛歯状に延在する第2流路溝29とが、設けられている。
上記第1流路溝28と第2流路溝29とは、所定の厚さの壁30で隔てられて分離されている。また、流路板25の壁30は、燃料極21に接している。したがって、第1流路溝28と燃料極21の外壁面とで形成される第1流路31と、第2流路溝29と燃料極21の外壁面とで形成される第2流路32とは、壁30で分離されているのである。この流路板25としては、ニッケル等の金属、シリコン基板、ガラス基板、アクリルやPDMS(シリコーンゴム)等の樹脂基板など、液体燃料に対する透過性の無い基板が使用可能である。本実施の形態では、微細加工を施したガラス基板を用いている。また、電解質膜22の材質としては、例えば、プロトン伝導性を有する耐熱耐酸性の材料であればよく、有機材料および無機材料を問わない。本実施の形態においては、有機系の含フッ素高分子を骨格とするスルホン酸基含有パーフルオロカーボン(ナフィオン117(デュポン社製:登録商標))を用いている。また、電解質膜22は、プロトン伝導性の機能を有すればよく、他の基材に電解質膜を埋め込んだものであってもよい。
さらに、図2に示すように、上記燃料極21は、電解質膜22側の電極層34と流路板25側の拡散層33とを有している。そして、燃料極21の拡散層33としては、カーボンペーパー,カーボンの焼結体,ニッケル等の焼結金属および発泡金属等の多孔質材を用いることができる。また、電極層34は、金属触媒を含む樹脂層で作製される。この金属触媒としては、一例として白金‐ルテニウム合金等が用いられるが、その他に、白金と金,白金とオスミウム,白金とロジウム等の合金を用いることができる。さらに、電極層34の樹脂層としては、例えば、パーフルオロアルキルスルホン酸系樹脂が用いることができる。
一方、上記酸化剤極23は、上記ハウジング24の他方の側面24bから延在して、側面24bと同一面を形成する蓋部35で覆われており、この蓋部35には、例えば空気等の酸化剤が供給される酸化剤導入口35aと排出ガスを排出するための排出口35bとが設けられている。そして、この蓋部35と酸化剤極23との間に酸化剤極23側の流路36が形成されている。
上記酸化剤極23は、上記電解質膜22側の電極層38と蓋部35側の拡散層37とを有している。そして、電極層38は、燃料極21の電極層34と同様に、金属触媒を含む樹脂層で作製される。また、拡散層37としては、燃料極21の拡散層33と同様に、カーボンペーパー,カーボンの焼結体,ニッケル等の焼結金属および発泡金属等の多孔質材を用いることができる。
尚、この発明は、上記酸化剤の種類や供給方向に依存するものではなく、酸化剤として空気の代わりに酸素を使用してもよい。また、流路36をなくして、ファンや送風ポンプのような送風機構を用いて、酸化剤極23の露出面(つまり、拡散層37の露出面)に酸化剤を直接供給してもよい。
本実施の形態においては、例えば、上記液体燃料としてメタノールと水との混合物を、流路板25の供給口26から第1流路31内に供給する。そうすると、この液体燃料は、第1流路31から燃料極21の拡散層33内に拡散して浸透して行き、やがて電極層34に達して反応する。そして、陽イオン(H+)と電子と排出ガスとしての二酸化炭素とが生成される。このうち、陽イオン(H+)は、電解質膜22を経由して、酸化剤極23の電極層38に至る。一方、上記電子は、電極層34から外部回路(図示せず)を経由して、酸化剤極23の電極層38に導かれる。また、燃料極21で生成された二酸化炭素は、壁30下の拡散層33内を拡散して第2流路32に至り、この第2流路32を通って排出口27から排出される。
一方、上記蓋部35の酸化剤導入口35aから導入された酸化剤としての空気は、酸化剤極23の拡散層37内に拡散して行き、やがて電極層38に到達して燃料極21からの陽イオン(H+)および電子と反応して水蒸気を生成し、この水蒸気は流路36を通って排出口35bから排出されるのである。
本実施の形態においては、図1に示すように、上記第1流路溝28と第2流路溝29とは壁30によって分離されており、第1流路溝28には合流先あるいは接続先のない分岐流路が多く存在する。そして、これらの分岐流路は、液体燃料が流れる方向に向って先細り形状になっている。以下、図3を参照して、この発明の効果について説明する。
図3は、図1に示すように櫛型に配置された、上記燃料極23の拡散層33に対向する第1流路溝28と第2流路溝29との燃料極23に平行な面での断面図の一部(櫛歯部分)を示す図である。先細りの形状の第1流路溝28と第2流路溝29とは、所定の厚さを有する壁30で隔てられている。
もし、上記第1流路溝28の櫛歯部が先端まで同じ幅を有している場合には、未だ燃料が供給されてはいない状態の第1流路溝28内に燃料を供給すると、櫛歯形状の先端に元々供給されていた気体が滞留して直に排気され難い場合がある。そして、第1流路溝28の先端部に気泡を滞留させないように排出するためには、所定の圧力以上の燃料供給圧を維持する必要がある。ところが、図3に示すように、先細り形状の第1流路溝28の先端部39では、残留する気泡40における第1流路溝28の幅の狭い先端側41と幅の広い根元側42との表面張力の差によって、気泡40が排出される方向(つまり、根元側42への方向)に移動するので、低い燃料供給圧であっても先端部39に気泡40が滞留することなく、速やかに先端部39まで燃料を充満させることができるのである。
尚、本実施の形態においては、上記流路板25としてガラス板を用いたが、第1流路溝28の壁面43は親水性であればよく、第1流路溝28の壁面43をアクリル材や二酸化シリコン膜等で皮膜すればガラス板に限定されるものではない。
このように、上記燃料極21の拡散層33に対向する第1流路溝28のうち、合流先や接続先を有しない分岐流路を先細り形状にすることで、低い燃料供給圧下であっても先端部39に気泡40が滞留することがなく、速やかに先端部29まで液体燃料を充満させることができる。
また、本実施の形態においては、上記燃料極21に接している第1流路31と第2流路32とは壁30で分離されているので、第1流路31に供給された液体燃料は燃料極21を素通りして直接第2流路32に流れ込むことはない。つまり、図4(図1におけるB‐B’矢視断面図)に矢印44で示すように、第1流路31に供給された液体燃料は燃料極21の拡散層33を経由して第2流路32に流れる。したがって、燃料極21への燃料供給効率を向上することができ、燃料供給量の削減が可能になる。また、矢印44で示すような流れに沿って、燃料極21で生成された排出ガスとしての二酸化炭素の排出効率を向上することもできる。
さらに、上記第1流路31における上記分岐流路の先端部等で気体が滞留して、第1流路31に液体燃料が充満し難い構造の場合には、第1流路31の略全ての流路に亘って液体燃料を行き渡らせることができない。ところが、本実施の形態においては、上述したように、低い燃料供給圧であっても上記分岐流路の先端部に気泡が滞留することがなく、上記分岐流路の先端部まで速やかに燃料を充満させることができる。そのために、図4における第1流路31の部分と、この第1流路31に壁30を挟んで対向する第2流路32の部分との間に、燃料極21の拡散層33を透過して燃料が流れる経路(矢印44)の圧力降下に起因する圧力差を流路全体に亘って安定して生じさせることができる。この局所的な圧力差が発生することによって、燃料極21内での反応によって反応生成物として二酸化炭素等が発生しても、第1流路31への排出を抑制して、第2流路32から効率よく排出できる。
したがって、上記燃料極21での反応を促進することができる一方、第2流路32からの排出ガスの排出を促進することができる。すなわち、第1流路31への液体燃料の供給圧力が低い場合でも燃料極21での十分な反応を実現することができ、小型で高出力な燃料電池を実現できる。そのため、本実施の形態によれば、燃料極21への燃料供給効率の向上と反応生成物の排出効率を向上とを実現できると共に、燃料電池の高出力化と燃料電池の発電時間の長時間化が可能になる。
また、上記燃料極21内での反応は、触媒を含有する電極層34と電解質膜22との界面付近で起こるが、拡散層33内には、矢印44で示すような燃料の拡散流あるいはその燃料の流れに沿った局所的な圧力勾配が存在する。そのために、燃料極21の反応によって生じた反応生成物を効率よく第2流路32に向かって移動させ、第2流路32に排出させることができる。
尚、この第1実施の形態においては、上記燃料極21の拡散層33を構成する多孔質材の孔径等は、第1流路31から液体燃料を拡散層33内へ引き込み得る径であればよく、特に限定されるものではない。この実施の形態では、上記多孔質材の孔径を数μmから数10μm程度としている。尚、この多孔質材に燃料を所定の流量で単に流そうとすると、所定の圧力を加える必要がある。しかしながら、上記多孔質材の末端で反応が起こって燃料が消費される場合には、より低い圧力で同じ流量の燃料を流すことができることを確認している。
また、この実施の形態によれば、上記燃料極21における反応領域から反応生成物(一例として二酸化炭素)を効率よく排出できるので、従来の構造に比べて、その分だけ低い燃料供給圧で同等の流量の燃料を供給することが可能になる。また、同じ燃料供給圧によって、より多くの燃料を燃料極21へ供給することが可能になる。
さらに、この実施の形態では、図1に示すように、互いが壁30一枚で隔てられている第1流路31と第2流路32との間の距離が略等しくなるように、第2流路32は第1流路31に沿って配置されている。そして、上述のごとく、第1流路31を上記分岐流路の先端部まで全体に液体燃料を行き渡らせることができる構造になっているため、第1流路31での液体燃料の圧力と、壁30を挟んで対向している第2流路32での液体燃料の圧力と、の間の圧力差を、燃料極21に対向している領域の略全体に亘って略均一にすることができる。したがって、燃料の効率的な供給と反応生成物の効率的な排出とを、燃料極21の全体に亘って均一性よく行うことができる。
尚、この実施の形態においては、一例として、上記第1流路31が燃料極21の拡散層33側に開口する開口幅を、長手方向中間部において2μmから200μm程度とした。さらに、第2流路32が拡散層33側に開口する開口幅は、長手方向中間部において第1流路31の上記開口幅と同程度としている。しかしながら、この発明においては、第1流路31および第2流路32における上記開口部のサイズを、特にこの値に限定するものではない。
また、さらに好適な変形例においては、上記第1流路31内の圧力を、壁30一枚隔てて対向する第2流路32内の圧力に対して、所定の圧力だけ高くしている。これにより、本燃料電池が設置あるいは保持されている向きが変動しても、燃料極21の拡散層33内における第1流路31側から第2の流路36側への流れが安定し、反応生成物である二酸化炭素の排出効率も安定することから、触媒を含有する電極層34への燃料供給を安定させることができる。
通常、孔径が0.5μmから1μ程度の多孔質材で構成された拡散層33に単に液体燃料を流そうとすると、供給側と排出側とに1気圧から2気圧程度の圧力差を与える必要がある。しかしながら、第1実施の形態によれば、局所的に短い経路に圧力差を与えることができ、然も燃料極21で発生した反応生成物を効率的に排出できるので、第1流路31と第2流路32とにおける上記所定の圧力差を、例えば0.0001気圧〜0.1気圧程度の圧力差とした場合であっても安定した燃料供給が可能になる。
また、この第1実施の形態においては、上記燃料極21に接する流路板25によって流路が第1流路31と第2流路32とに分離されており、液体燃料を第1流路31に十分行き渡らせることができるため、第1流路31内の安定した圧力を維持できる。さらに、第2流路32内を略大気圧に維持することによって、第1流路31内の圧力と第2の流路内の圧力との圧力差を容易に維持することができる。
ここで、上記第1流路31と第3流路32との上記分岐流路における先細り形状の傾斜角度は特に限定されるものではなく、先細りを有していれば、表面張力差を利用した気泡40の移動は可能である。しかしながら、好ましくは、上記傾斜角度は1度から20度程度の鋭角であることが望ましい。また、上記分岐流路の先細り形状は、断面を半円状にしたりあるいは流路溝の高さを低くしたりすることによっても可能であるが、燃料極21の拡散層33の表面に対して平行で且つ拡散層33の表面からの高さが一定な辺を有する断面形状を維持して先細り形状にすることが好ましい。こうすることによって、第1流路31における第1流路溝28と第2流路32における第2流路溝29との深さが変化しないので、第1流路溝28と第2流路溝29との加工が容易になる。さらに、第1流路溝28と第2流路溝29との高さが低くなる場合に比べて、高い高さを維持する場合の方が気泡40における先端側41と根元側42との表面張力差が大きいため、燃料供給前に第1流路31に入っていた気泡40を排出し易くできる。
尚、本実施の形態においては、上記第1流路溝28と第2流路溝29との高さを3μmから100μmのものを用いたが、第1流路溝28と第2流路溝29とにおける高さは幅に対して相対的に決まるものである。つまり、第1流路溝28と第2流路溝29とにおける先細り形状を有する上記分岐流路の先端付近(例えば、図3に示す分岐流路であれば、当該分岐流路の長さの略半分の位置)における「幅」程度の「高さ」が望ましい。これによって、上記分岐流路における先端付近では第1流路溝28の幅よりも第1流路溝28の高さの値を大きくすることができ、気泡40を移動させるのに十分な表面張力差を得ることができるのである。
以上のごとく、本実施の形態においては、供給された液体燃料から陽イオンと電子とを生成する燃料極21に対向して配置された流路板25には、燃料極21に上記液体燃料を供給する第1流路31と燃料極21からの排出ガスを排出する第2流路32とが設けられている。そして、燃料極21は、流路板25側に位置する拡散層33と電解質膜22側に位置する電極層34とを有しており、第1流路31は拡散層33に対向すると共に、第2流路32とは壁30によって分離されている。さらに、第1流路31は、流路方向に沿って先細りの形状を有する複数の分岐流路を有して櫛型を成している。したがって、上記各分岐流路の先端部39では、残留する気泡40が、幅の狭い先端側41と幅の広い根元側42との表面張力差によって上記根元の方に速やかに移動するので、低い燃料供給圧であっても速やかに先端部39まで燃料を充満させることができる。
その結果、上記第1流路31において分岐流路の略総ての流路に亘って液体燃料を行き渡らせることが可能になり、上記液体燃料の燃料極21での反応(陽イオンと電子の生成)を促進して出力の向上を図ることができる。すなわち、本実施の形態によれば、第1流路31への液体燃料の供給を低圧力で行うことを可能にし、小型で高出力な燃料電池を実現することができる。
また、上記第1流路31における先細り形状の分岐流路は、燃料極21の拡散層33の表面に平行で且つ拡散層33の表面からの高さが一定な辺を有する断面形状を維持して先細り形状を呈している。したがって、第1流路溝28と第2流路溝29との加工が容易になる。さらに、残留している気泡40における先端側41と根元側42とに生ずる表面張力差をより大きくすることができ、気泡40をより排出し易くできる。
また、上記燃料極21に接している第1流路31と第2流路32とは、壁30で分離されている。したがって、第1流路31に供給された液体燃料が、燃料極21を素通りして直接第2流路32に流れ込むことがなく、燃料極21の拡散層33を経由して第2流路32に流れ込む。すなわち、本実施の形態によれば、第1流路31から拡散層33を介して第2流路32への圧力降下によって、燃料極21への燃料供給効率を向上させると共に、第1流路31から拡散層33を経由して第2流路32への流れに沿って、燃料極21で生成された排出ガスとしての二酸化炭素の排出効率を向上させることもできる。
・第2実施の形態
図5は、本実施の形態における燃料電池の平面図である。また、図6は、図5におけるC‐C’矢視断面図である。以下、図5および図6に従って、本実施の形態の燃料電池について説明する。
本実施の形態においては、流路板51以外の構成は、上記第1実施の形態の場合と全く同様である。また、燃料極21に対する燃料供給および反応生成物排出以外の形態も、上記第1実施の形態の場合と全く同様である。したがって、本実施の形態においては、上記第1実施の形態と異なる点について主に説明する。
図6に示すように、上記流路板51は、第1流路板51aと第2流路板51bとの2層構造になっている。そして、燃料は、2層目の第2流路板51bに形成された流路溝52から貫通孔53を通って、1層目の第1流路板51aに形成された第1流路溝54と燃料極21とによって形成された第1流路55に供給される。第1流路溝54は、図5に示すように、先細り形状の分岐流路が四方八方に広がって形成されている。この分岐流路によって、液体燃料が第1流路55に供給された際に、燃料供給前に上記各分岐流路内にあった気体が気泡となって貫通孔53付近に移動するため、低い燃料供給圧であっても上記各分岐流路の先端まで液体燃料を速やかに行き渡らせることができる。そして、総ての上記分岐流路は貫通孔53に連通しているため、移動した気泡56は貫通孔53を通って2層目の流路溝52に排出される。こうして、第1流路55内にあった気体を除去することができるのである。
本実施の形態においては、第2流路溝57を所定の幅を有する壁58を隔てて第1流路溝54の周りに配置されており、燃料極21で生成された反応生成物等は第2流路溝57と燃料極21とで形成された第2流路59から貫通孔60を通り、2層目の第2流路板51bに形成された流路溝61に排出される。
ここで、上記貫通孔53は、図6に示すように、2層目の流路溝52から1層目の第1流路55に向けて先細り形状になっている。この形状によって、第1流路55内を貫通孔53に向って移動してきた気泡56は、気泡56における貫通孔53の外側に在る(つまり、第1流路55内に在る)部分62と貫通孔53の内側に在る部分63との表面張力差によって貫通孔53の内側に移動して、第1流路55内から2層目の流路溝52内へ排出され易くなる。その際に、気泡56の移動には表面張力差を利用しているので重力の影響を受けず、本燃料電池がどのような向きに設置されても、第1流路55から2層目の流路溝52に気泡56を排出させることができるのである。
さらに、図7に示すように、図5における貫通孔53と同様の貫通孔64〜71を、燃料極21に対向する第1流路溝54の上記各分岐流路への分岐部あるいは上記各分岐流路との合流部の近傍に複数設置することも可能である。この場合、図7における貫通孔64〜貫通孔71のごとく上記分岐部の近傍にある貫通孔のうちの総ての貫通孔あるいは少なくとも複数の貫通孔は、図6に示す流路溝52のような2層目の同じ流路(図示せず)に連通されている。これらの貫通孔は、第1流路溝54の何れの部分に形成されているかによって貫通孔の内側に在る気泡の部分と第1流路溝54内に在る上記気泡の部分との表面張力差が異なるために、表面張力差の大きい貫通孔から気泡が排出され易くなる。これによって上記貫通孔を介した燃料の供給と気泡の排出とをよりスムーズに行うことができるのである。
・第3の実施の形態
図8は、本実施の形態の燃料電池における構成を示す縦断面図である。尚、図8は、図1におけるB‐B’矢視断面図に相当する。以下、図8に従って、本実施の形態の燃料電池について説明する。
本実施の形態においては、浸透抑制膜81を備えた点以外の構成は、上記第1実施の形態の場合と全く同様である。したがって、本実施の形態においては、上記第1実施の形態と異なる点について主に説明する。
上記浸透抑制膜81は、上記燃料極21の拡散層33および上記ハウジング24の一方の側面24aと、流路板25と、の間に挟まれて形成されている。浸透抑制膜81は、一例として、ポリイミドによる多孔質材で構成されており、燃料極21の拡散層33に比べて液体燃料を透過し難い供給抑制構造を成している。
尚、この浸透抑制膜81としては、一例として、膜厚が1μm〜30μm程度であり、孔径が0.01μm〜1μm程度である多孔質材を用いている。しなしながら、膜厚や孔径は拡散層33の膜厚や孔径によって相対的に決まるものであって、上記値に限定されるものではない。好ましくは、燃料の浸透抑制膜81の透過速度が、拡散層33の透過速度に対して1桁から2桁程度低いものが望ましい。また、浸透抑制膜81として、流路が形成された薄膜あるいは多孔質膜を採用してもよい。
この浸透抑制膜81には、図8に示すように、第2流路32に露出する部分に開口部82が設けられている。この浸透抑制膜81によって、第1流路31から拡散層33への液体燃料の供給が抑制されるため、第1実施の形態の場合よりもさらに低い燃料供給圧で第1流路31内に液体燃料を充満させ易くなり、第1流路31内の気体をより低い燃料供給圧で排出させることができるようになる。
具体的には、上記第1実施の形態のごとく、第1流路31と拡散層33との間に浸透抑制膜81が存在しない場合には、漏れの無い管内の流れとは異なって、第1流路31に沿って燃料を供給する際に、第1流路31から拡散層33に液体燃料が多く浸透する(液体燃料が多く抜ける)ことになる。そのため、第1流路31内の液体燃料に、第1流路31の入口から末端に向かう流れの方向に沿って大きな圧力低下が生ずることになる。したがって、第1流路31の末端まで液体燃料を供給するためには高い供給圧が必要になる。また、上述したように、第1流路31内に生ずる流路に沿った液体燃料の圧力低下が大きいため、圧力の高い第1流路31の入口付近では拡散層33への液体燃料の浸透量が多く、圧力の低い第1流路31の末端付近では拡散層33への液体燃料の浸透が少なくなる。したがって、拡散層33全体に均一に液体燃料を行き渡らせることが難しくなる。
これに対して、上記第1流路31と拡散層33との間に浸透抑制膜81を介在させた場合には、第1流路31から拡散層33への液体燃料の浸透が少なくなる。そのため、上記第1実施の形態の場合に比べて低い供給圧で、容易に第1流路31の末端(閉じた先端)まで液体燃料を充満させることができる。したがって、第1流路31内における液体燃料の圧力低下も、上記第1実施の形態の場合に比べて非常に小さくできる。その結果、第1流路31の入口付近の供給圧を低くでき、拡散層33の全体に亘ってより均一に液体燃料を浸透させることができるのである。
以上のごとく、本実施の形態によれば、上記燃料極21の拡散層33と流路板25との間に、第1流路31から拡散層33への液体燃料の供給を抑制する浸透抑制膜81を形成している。これによって、第1流路31の略全体から燃料極21の拡散層33に液体燃料を拡散させることができ、液体燃料と燃料極21との反応面積を増大させて、燃料極21での反応(陽イオンと電子との生成)を促進させることができる。一方、拡散層33で拡散される排出ガス(二酸化炭素)は、浸透抑制膜81の開口部82を通って第2流路32に導入されるので、第2流路32からの上記排出ガスの排出を促進させることができる。
また、この第3実施の形態によれば、上記浸透抑制膜81の存在によって、上記第1実施の形態の場合よりも低い圧力で第1流路31への液体燃料の供給が行われても燃料極21での十分な反応を実現することができ、小型で高出力な燃料電池を実現することができる。さらに、浸透抑制膜81は、拡散層33よりも孔比率の低いあるいは孔径の小さい材料を用いて構成されているので、上記第1実施の形態のごとく拡散層33と流路板25とを直接接合する場合に比べて、流路板25における接合面の密着性を改善することができる。
尚、この第3実施の形態においては上記浸透抑制膜81に開口部82を設けているが、開口部82は必ずしも設ける必要はない。浸透抑制膜81に開口部82を設けない場合には、開口部82を設けた場合に比べて、拡散層33から第2流路32へ排出ガスを排出する能力は小さくなるが、それでも浸透抑制膜81は撥水性を有するので、液体燃料に比べて排出ガスを第2流路32に透過させ易い。
また、この第3実施の形態においては、上記浸透抑制膜81の存在によって、拡散層33として、上記第1実施の形態で用いた多孔質材よりも透過し易い多孔質材を使用することが可能になる。その場合には、拡散層33内において液体燃料がより流れ易くなり、燃料供給の均一性や燃料の供給効率の向上を図ることができる。
また、本実施の形態においては、ポリイミドによる多孔質材で構成した浸透抑制膜81における流路板25側の面81aのうちの少なくとも第1流路31に面する部分に親水処理を施して、上記部分を親水性にするのがこのましい。この親水処理の一例としては、例えば、酸素プラズマ,オゾン処理および紫外線(UV)照射の3つの処理のうちの何れか、あるいは、上記3つの処理の組み合わせを用いることができる。この親水処理を行った場合には、第1流路31の液体燃料を、浸透抑制膜81の上記親水性を有する部分に容易に浸透させることができる。さらに、燃料極21で生成された二酸化炭素が浸透抑制膜81を通って第1流路31に排出されるのを、抑制することができる。
尚、上記実施の形態いおいては、上記浸透抑制膜81をポリイミドによる多孔質材で構成したが、他の多孔質材料で浸透抑制膜81を構成しても差し支えない。その場合、少なくとも第1流路31に面する部分が親水性を有するようにすればよい。また、図8に示すように、浸透抑制膜81に開口部82を設ける場合には、第2流路32に対向する部分の裏面が撥水性を有さず親水性であっても、第2流路32への二酸化炭素の排出効率を高く維持することができる。
さらに好適な変形例においては、上記浸透抑制膜81を構成する材料として、導電性材料が用いられる。この場合には、浸透抑制膜81を集電電極端子として使用することができ、構造を簡略化することができる。さらに好適な変形例では、導電性材料で構成された浸透抑制膜81を、外部回路(図示せず)を経由して酸化剤極23に接続するのである。この浸透抑制膜81は、図8に示すように、流路板25とハウジング24との間に挿入されるので、貫通孔等を形成しなくても浸透抑制膜81を外部配線と容易に接続することができる。そのため、集電電極端子を成す浸透抑制膜81を、上記外部回路を介して酸化剤極23に容易に接続可能になる。また、電極端子の構造が簡単になるので、流路などの密閉性を確保し易くなる。
以上、本実施の形態における浸透抑制膜81を、上記第1実施の形態に適用した場合を例に本実施の形態について説明したが、上記第2実施の形態に適用しても同様の効果が得られることは言うまでもない。
・第4実施の形態
図9は、本実施の形態における燃料電池の平面図である。以下、図9に従って、本実施の形態の燃料電池について説明する。
本実施の形態においては、流路板91以外の構成は、上記第1実施の形態の場合と全く同様である。また、上記燃料極に対する燃料供給および反応生成物排出以外の形態も、上記第1実施の形態の場合と全く同様である。したがって、本実施の形態においては、上記第1実施の形態と異なる点について主に説明する。
図9に示すように、上記燃料極における上記拡散層の形成領域を9つの燃料供給領域92〜100に分割している。そして、上記燃料極の各燃料供給領域92〜100の夫々に対向させて、流路板91における1層目の上記第1流路板に、図5に示す流路構造101を配置している。尚、図を見易くするために9つ総ての流路構造101を図示してはいない。そして、流路構造101は、2層目の上記第2流路板に形成された燃料供給流路102に、貫通孔103を介して接続されている。これに対して、排出側は、2層目の上記第2流路板に形成された排出流路104,105に、夫々の流路構造101から貫通孔106を介して連通されている。
上記構成において、上記流路板91における2層目の上記第2流路板に設けられた供給口107から供給された液体燃料は、コンダクタンスの低い2層目の燃料供給流路102全体に送られる。そして、この第2層の燃料供給流路102から夫々9つの流路構造101に貫通孔103を通って燃料が供給される。尚、本実施の形態においては上記燃料供給領域を9分割しているが、分割数は9分割に限定されるものではない。要は、上記燃料供給領域の大きさ(燃料極の大きさ)によって、適宜決めればよいのである。
図9に示すように、上記燃料極における上記拡散層の形成領域を複数の燃料供給領域92〜100に分割し、夫々の燃料供給領域92〜100に対向するように、1層目の上記第1流路板に流路構造101を、2層目の上記第2流路板に燃料供給流路102を、配置している。したがって、複数の燃料供給領域92〜100に分割しない場合に比較して上記燃料極の上記拡散層に対向する燃料供給流路102の長さを短くでき、より低い供給圧で、液体燃料を上記燃料極の上記拡散層の全体により均一に行き渡らせることが可能になる。
燃料の排出口108は、液体燃料を供給する際に流路内の気体を排出し易いように設置してあるが、排出口108は省略しても構わない。その場合には、液体燃料を燃料供給流路102に充満させる際に、残留するガスは上記拡散層を介して排出流路104,105に排出すればよい。尚、燃料供給中は、排出口108は閉じた方が好ましい。
一方、夫々の燃料供給領域92〜100の貫通孔106を通って2層目の排出流路104あるいは排出流路105に送られた排出ガスは、コンダクタンスの小さい2層目の排出流路104あるいは排出流路105を通って、排出口109,110から外部に排出される。したがって、排出効率をよくすることができる。
ここでは、図5に示すような流路構造101を各燃料供給領域92〜100に対向させて配置しているが、配置する流路構造はこれに限るものではなく、図1に示すような流路溝の構造に置き換えても同様の効果が得られることは言うまでもない。また、上記第3実施の形態等に示した浸透抑制膜と併せて用いることで、さらに上記燃料極の上記拡散層全体により均一に燃料を行き渡らせることができることを、容易に理解することができる。
・第5の実施の形態
図10は、本実施の形態における燃料電池を模式的に示す図である。以下、図10に従って、本実施の形態の燃料電池について説明する。
本実施の形態は、上記第1実施の形態の燃料電池における駆動系に関するものである。したがって、上記第1実施の形態の燃料電池の構成と同じ部材には上記第1実施の形態の場合と同じ番号を付して、詳細な説明は省略する。以下、上記第1実施の形態とは異なる点について主に説明する。
図10に示すように、上記第1実施の形態の燃料電池における流路板25の供給口26には、流路111を介して圧力調整部112が接続されており、この圧力調整部112には流路113を介して燃料貯蔵部114は接続されている。また、上記燃料電池における蓋部35と酸化剤極23との間に形成された上記第3流路としての流路36は、酸化剤極23に酸化剤の一例としての酸素または空気を供給するための流路である。そして、蓋部35の酸化剤導入口35aには酸化剤圧送部115が接続されており、酸化剤圧送部115は酸化剤導入口35aから流路36内に酸化剤を供給する。
さらに、上記燃料電池における蓋部35の排出口35bには、流路36から排出ガス(例えば水蒸気)が導入される第4流路116の一端が接続される一方、第4流路116の他端はガス排出部117に接続されている。このガス排出部117は、上記燃料電池における排出口27に一端が接続された第5流路118の他端に接続されており、この第5流路118には上記燃料電池における第2流路32からの排出ガス(例えば二酸化炭素)が導入される。
本実施の形態の構成によれば、上記燃料貯蔵部114に貯蔵された液体燃料(例えばメタノールと水との混合物)を、減圧弁あるいは圧力調整弁等で構成された圧力調整部112によって、液体燃料を第1流路31から燃料極21に安定に供給することができ、燃料電池としての出力向上を図ることができる。また、常に運転されるポンプを使用する場合に比べて電力消費を少なくすることができ、電力の損失を抑えて燃料電池としての出力を高めることができる。
また、本実施の形態によれば、上記燃料極21からの使用済み燃料および生成された二酸化炭素等の排出ガスと、酸化剤極23からの水蒸気等の排出ガスと、の両方の排出ガスを、同じ1つのガス排出部117から排出することができるので、排出ガスの回収が容易になる。
尚、上記第5実施の形態においては、上記第1流路31内の圧力と第2流路32内の圧力との圧力差を検知する手段としての圧力センサ(図示せず)を設けてもよい。この場合には、上記圧力センサが検知した上記圧力差に基づいて、圧力調整部112によって第1流路31内の圧力を調整することによって、上記圧力差を所定の範囲(一例として、0.0001気圧〜0.1気圧程度)に保つことが可能になる。その場合には、温度の変化や気圧の変化等の環境変化が生じた場合であっても、燃料の供給量を安定させ、燃料電池の出力を安定させることができるようになる。
また、上記第5実施の形態においては、上記第1実施の形態の構成を基本構成として説明しているが、上記第2実施の形態,上記第3実施の形態あるいは上記第4実施の形態の構成を基本構成として差し支えない。
また、上記各実施の形態においては、上記燃料極21に供給される液体燃料として、メタノールと水とを混合したものを用いている。しかしながら、燃料はこれに限るものではなく、メタノールの代わりにエタノールやジメチルエーテルのような炭化水素系の有機燃料を使用することもできる。
この発明の燃料電池における構成を示す平面図である。 図1におけるA‐A’矢視断面図である。 図1における第1流路溝と第2流路溝との水平断面の部分図である。 図1におけるB‐B’矢視断面図である。 図1とは異なる燃料電池の平面図である。 図5におけるC‐C’矢視断面図である。 図5とは異なる第1流路溝の構成図である。 図1および図5とは異なる燃料電池における縦断面図である。 図1,図5および図8とは異なる燃料電池における平面図である。 図1に示す燃料電池における駆動系の説明図である。 従来の直接型メタノール燃料電池の構造を示す図である。
符号の説明
21…燃料極、
22…電解質膜、
23…酸化剤極、
24…ハウジング、
25,51,91…流路板、
26,107…供給口、
27,108〜110…排出口、
28,54…第1流路溝、
29,57…第2流路溝、
30,58…流路板の壁、
31,55…第1流路、
32,59…第2流路、
33,37…拡散層、
34,38…電極層、
35…蓋部、
36…流路、
39…第1流路溝の先端部、
40,56…気泡、
51a…第1流路板、
51b…第2流路板、
52,61…流路溝、
53,64〜71,60,103,106…貫通孔、
81…浸透抑制膜、
82…浸透抑制膜の開口部、
92〜100…燃料供給領域、
101…流路構造、
102…2層目の燃料供給流路、
104,105…2層目の排出流路、
111,113,116,118…流路、
112…圧力調整部、
114…燃料貯蔵部、
115…酸化剤圧送部、
117…ガス排出部。

Claims (9)

  1. 液体燃料が供給されると共に、この供給された液体燃料から陽イオンと電子とを生成する燃料極と、
    上記燃料極に対向して配置されると共に、上記燃料極からの陽イオンを透過させる電解質膜と、
    上記電解質膜に対向して、上記電解質膜に対して上記燃料極とは反対側に配置されると共に、酸化剤が供給されて、上記電解質膜を透過した上記陽イオンと上記供給された酸化剤とを反応させる酸化剤極と、
    上記燃料極に対向して、上記燃料極に対して上記電解質膜とは反対側に配置されると共に、上記燃料極に上記液体燃料を供給するための第1流路と上記燃料極で発生した排出ガスを排出するための第2流路とが形成された流路板と
    を備え、
    上記燃料極は、上記電解質膜側に位置して触媒を含有する電極層と、上記流路板側に位置して上記流路板の上記第1流路から供給された上記液体燃料を拡散させる拡散層と、を有しており、
    上記流路板における上記第1流路と上記第2流路とは壁によって分離されており、
    上記第1流路は、上記燃料極の上記拡散層に対向して配置されると共に、上記液体燃料が流れる方向に向って先細り形状を呈し、合流先および分流先が無い分岐流路を有している
    ことを特徴とする燃料電池。
  2. 請求項1に記載の燃料電池において、
    上記流路板の上記第1流路における上記分岐流路は、上記燃料極の上記拡散層の表面に平行で且つ上記拡散層の表面からの高さが一定な辺を有する断面形状を維持しつつ上記先細り形状を呈している
    ことを特徴とする燃料電池。
  3. 請求項2に記載の燃料電池において、
    上記流路板における上記第1流路を形成している上記燃料極側とは反対側の側壁には、上記燃料極における上記拡散層の延在方向に垂直、あるいは、上記拡散層に対向している上記第1流路の側壁の延在方向に垂直に、上記側壁を貫通して上記第1流路に連通する流路が形成されている
    ことを特徴とする燃料電池。
  4. 請求項3に記載の燃料電池において、
    上記第1流路の上記側壁に形成されている上記流路は、上記燃料極の上記拡散層に向って先細り形状を呈している
    ことを特徴とする燃料電池。
  5. 請求項4に記載の燃料電池において、
    上記第1流路の上記側壁に形成されている上記流路は、上記第1流路における上記分岐流路の分岐部および合流部の近傍に形成されている
    ことを特徴とする燃料電池。
  6. 請求項1に記載の燃料電池において、
    上記流路板と上記燃料極との間に介設されて、上記流路板の上記第1流路から上記燃料極の上記拡散層への上記液体燃料の供給を抑制する燃料供給抑制体を備えた
    ことを特徴とする燃料電池。
  7. 請求項1に記載の燃料電池において、
    上記燃料極における上記拡散層の形成領域を分割して複数の燃料供給領域と成し、
    上記流路板における上記第1流路および上記第2流路を、上記燃料極の上記拡散層における上記複数の燃料供給領域の夫々に対向させて複数組形成した
    ことを特徴とする燃料電池。
  8. 請求項1に記載の燃料電池において、
    上記流路板に形成された上記第1流路に接続されると共に、上記第1流路に供給する上記液体燃料が貯蔵されている燃料貯蔵部と、
    上記燃料貯蔵部と上記第1流路との間に配置されると共に、上記燃料貯蔵部から上記第1流路に供給される液体燃料の圧力を調整する圧力調整部と
    を備えたことを特徴とする燃料電池。
  9. 請求項8に記載の燃料電池において、
    上記酸化剤極に上記酸化剤を供給すると共に、上記酸化剤極からの排出ガスを排出するための第3流路と、
    上記第3流路に接続されると共に、上記第3流路からの排出ガスが導入される第4流路と、
    上記第2流路に接続されると共に、上記第2流路からの排出ガスが導入される第5流路と、
    上記第4流路と上記第5流路に接続されると共に、上記第4流路からの排出ガスと上記第5流路からの排出ガスを合流させて排出するガス排出部と
    を備えたことを特徴とする燃料電池。
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