本発明は、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する方法及び当該抑制方法を用いて処理された殺菌乳に関する。
具体的には、豆臭(ボール紙臭ともいう)と呼ばれる、原料乳の自発性酸化に起因する、所謂、自発性酸化臭の抑制、自発性酸化臭の原因物質とされるヘキサナール等のカルボニル化合物の生成及び/又は増加の抑制、殺菌乳の品質や風味で問題とされる加熱臭の抑制、加熱臭の原因物質とされるサルファイド類の生成及び/又は増加の抑制によって、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する方法に関する。そして、かかる異常風味抑制方法を用いて処理された殺菌乳に関する。
なお、本発明において「原料乳」とは、原乳(乳牛から搾乳された状態の原料乳)を含む生乳(殺菌処理前の原料乳)の他に、生乳や原乳に対して、これらの品質や風味に影響しない程度の冷却処理や加熱処理が行われている乳流体を含むものとする。
また、本発明において「殺菌乳」とは、殺菌処理された原料乳の他に、哺乳類の生乳や原乳を殺菌処理した乳流体を全て含むものとする。
更に、本発明において「搾乳直後」とは、搾乳時の他に、搾乳から3時間以内を含むものとする。つまり「搾乳直後」には、例えば、搾乳した原乳を牧場に設置したタンク等に集乳し、それら集乳した原乳を撹拌等により組成を均一にするまでの時間なども含まれる。なお、一般的に、搾乳した原乳は直ちに温度5℃程度まで冷却されるが、これに要する時間は2時間程度である。
原料乳の異常風味は、牛乳が持つ「自然さ」、「おいしさ」、「栄養/機能」という良い印象(イメージ)を損なわせる。このことは牛乳の消費を低迷させ、最終的には、乳業全体に悪影響を及ぼす。
原料乳の品質や風味で問題とされる代表的な異常風味としては、原料乳の自発性酸化に起因する、所謂、自発性酸化臭がある。自発性酸化臭には、豆臭(ボール紙臭ともいう)、キャップ臭、金属臭、獣脂臭、油脂臭、魚臭等がある。
自発性酸化臭が生成する機構(メカニズム)について詳細は不明であるが、既知の事実として、ヘキサナール等のカルボニル化合物が代表的な原因物質とされている。
自発性酸化臭は、衛生面の管理が十分で、細菌的な品質に異常のない原料乳でも、冷蔵保存時に時間経過とともに発生する。このとき、原料乳中のヘキサナール等のカルボニル化合物が増量している。
この自発性酸化臭は、殺菌乳の風味に大きな影響を与えることもあり、原料乳の品質管理は非常に重要である。
一方、殺菌乳の品質や風味で問題とされる代表的な異常風味としては、前記の豆臭や、ヘキサナール等のカルボニル化合物の生成に加え、加熱臭がある。
加熱臭の原因物質は、代表的には、サルファイド類であると考えられている。サルファイド類とは硫黄化合物であり、具体的には、ジメチルサルファイド(DMS)、ジメチルジサルファイド(DMDS)、ジメチルトリサルファイド(DMTS)等がある。
原料乳の品質管理において、原乳の搾乳後から時間が経過した、乳処理工場への受入段階で、自発性酸化臭が確認された場合には、原料乳の受入を拒否することとなる。
一方、乳処理工場での殺菌処理後に、自発性酸化臭が確認された場合には、製品(殺菌乳、等)を出荷止めすることとなる。
自発性酸化臭が確認された原料乳、殺菌乳等の製品は、いずれにしても商業的な価値が無くなり、食品としての使用が不可能となる。このことは、農産資源の損失(ロス)に繋がることとなる。すなわち、原料乳、殺菌乳の異常風味を防止・抑制し、品質や風味の良い牛乳を安定的に供給できれば、農産資源を無駄なく有効活用することができる。
そこで、原料乳および殺菌乳において、異常風味が生成する機構を解明すること、異常風味を生成させないための解決策を見いだすことは、乳業において重要な検討課題とされてきた。
しかし、原料乳および殺菌乳における異常風味、具体的には、前述した豆臭と呼ばれる自発性酸化臭や、加熱臭などに対する十分な解決策は未だに見いだされていない。例えば、豆臭や、加熱臭などの原因物質と考えられているヘキサナール等のカルボニル化合物や、サルファイド類の生成を抑制する方法についての十分な解決策は未だに見いだされていない。
原料乳および殺菌乳の品質管理を徹底することにより、豆臭や加熱臭のない、商業的に価値の高い原料乳、殺菌乳を安定的に供給できれば、消費者の牛乳に対する購買意欲を促進させることに繋がると考えられる。
このためには、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制すること、具体的には、豆臭と呼ばれる、原料乳の自発性酸化に起因する、所謂、自発性酸化臭を抑制すること、前記自発性酸化臭の原因物質とされるヘキサナール等のカルボニル化合物の生成を抑制すること、殺菌乳の品質や風味で問題とされる加熱臭を抑制すること、加熱臭の原因物質とされるサルファイド類の生成を抑制することが必要である。
品質や風味の良い牛乳及びその製造方法に関する先行技術としては日本国特許庁から発行されている特開平05−049395号公報、特開平10−295341号公報、特開2001−078665号公報、特開2003−144045号公報等に提案されているものがある。
特開平05−049395号公報には、受入タンク内にある殺菌前の貯蔵生乳に、不活性ガス(窒素ガス)を通気(バブリング)し、脱酸素処理することにより、鮮度を保持し、細菌の増殖を抑制する方法が記載されている。
しかしながら、牛乳に脱酸素処理を行う段階として、工場への受入後のタンク(受入タンク)内の状態については記載されているが、その前の牧場での搾乳や、受入タンク後の状態等については記載されていない。
つまり、搾乳から殺菌処理の過程における時間的な概念が導入されていない。生乳が牧場で搾乳されてから工場へ受入られるまでの時間経過は2〜3日間であることが多い。また、搾乳された場所から乳処理工場まで生乳が長距離移送されることもある。例えば、日本国の北海道で搾乳された生乳が、乳処理工場のある場所、例えば、日本国の本州へと、長距離移送されることもある。
前記したように、生乳の品質や風味で問題とされる代表的な異常風味である自発性酸化臭の代表的な原因物質であるヘキサナール等のカルボニル化合物は、衛生面の管理が十分で、細菌的な品質に異常のない生乳でも、冷蔵保存時に時間経過とともに増量する。
そこで、工場への受入後に脱酸素処理などを行っても、自発性酸化臭を抑制する効果は十分とはいえない。
したがって、品質や風味の良い牛乳を製造するためには搾乳後の早い段階で、品質管理を徹底させることが重要である。
特開平10−295341号公報及び特開2001−078665号公報には、生乳に不活性ガス(窒素ガス)を通気し、脱酸素処理した後に殺菌処理することにより、風味の良い牛乳を製造する方法が記載されている。しかしながら、殺菌後の牛乳の風味については記載されているが、殺菌前の生乳の品質や風味については記載されていない。
特開2003−1440345号公報には、無菌タンク内にある殺菌後の貯蔵牛乳を、不活性ガス(窒素ガス)の雰囲気とし、酸素バリア性を持つ包材に充填することにより、風味の良い牛乳を製造する方法が記載されている。しかしながら、容器に充填する直前(殺菌後)の牛乳の風味については記載されているが、殺菌前の原料乳の品質や風味については記載されていない。
本発明は、上記従来技術の課題点を鑑みてなされたものであり、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する方法及び当該抑制方法を用いて処理された殺菌乳を提案することを目的にしている。
具体的には、本発明は、豆臭と呼ばれる、原料乳の自発性酸化に起因する、所謂、自発性酸化臭を抑制し、自発性酸化臭の原因物質とされるヘキサナール等のカルボニル化合物の生成及び/又は増加を抑制し、殺菌乳の品質や風味で問題とされる加熱臭を抑制し、加熱臭の原因物質とされるサルファイド類の生成及び/又は増加などを抑制することによって、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する方法を提案することを目的にしている。
そして、かかる異常風味抑制方法を用いて処理され、品質や風味の良い牛乳の製造に供される殺菌乳を提供することを目的にしている。
これによって、自発性酸化臭の少ない、商業的に使用可能な原料乳、殺菌乳を安定的に供給し、自発性酸化臭に起因する原料、殺菌乳の受入拒否や出荷止めを減少させ、消費者の牛乳に対する購買意欲を促進させることにより、農産資源を無駄なく有効活用できるようにすることを目的にしている。
本発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、原乳の搾乳後から殺菌処理の過程において、殺菌乳の自発性酸化臭及び加熱臭を抑制する因子には、原料乳における溶存酸素濃度があることを解明した。
そして、この因子を制御・管理することにより、豆臭と呼ばれる、原料乳の自発性酸化に起因する、所謂、自発性酸化臭、自発性酸化臭の原因物質とされるヘキサナール等のカルボニル化合物の生成及び/又は増加、殺菌乳の品質や風味で問題とされる加熱臭、加熱臭の原因物質とされるサルファイド類の生成及び/又は増加などを抑制できるとの知見を得た。これによって、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制できるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
本発明者らは、原料乳、殺菌乳の豆臭と呼ばれる、原料乳の自発性酸化に起因する自発性酸化臭、自発性酸化臭の原因物質とされるヘキサナール等のカルボニル化合物の生成及び/又は増加、殺菌乳の品質や風味で問題とされる加熱臭、加熱臭の原因物質とされるサルファイド類の生成及び/又は増加を抑制する因子を見いだすため、原料乳、殺菌乳の品質や風味の変化について時間的な概念を導入した。
具体的には、搾乳後どの程度に時間経過した時点で原料乳、殺菌乳に対して溶存酸素濃度制御・管理を行うことが、原料乳、殺菌乳の自発性酸化臭、自発性酸化臭の原因物質とされるヘキサナール等のカルボニル化合物の生成及び/又は増加、加熱臭、加熱臭の原因物質とされるサルファイド類の生成及び/又は増加を抑制する上で効果があるかについて実験的に検討した。
その結果によれば、工場での受入後を想定した時点、例えば、搾乳後から72時間が経過した時点までの間、好ましくは、搾乳後48時間から72時間経過するまでの間、より好ましくは、搾乳後48時間経過するまで、更に好ましくは、搾乳後24時間経過するまでに溶存酸素濃度制御・管理を行うことが、原料乳、殺菌乳の自発性酸化臭、自発性酸化臭の原因物質とされるヘキサナール等のカルボニル化合物の生成及び/又は増加、加熱臭、加熱臭の原因物質とされるサルファイド類の生成及び/又は増加を抑制する効果が大きいことがわかった。
すなわち、原乳の搾乳後、殺菌処理までの過程における搾乳後の早い時間、例えば、牧場での搾乳直後に溶存酸素濃度制御・管理を行うと、原料乳、殺菌乳の自発性酸化臭、自発性酸化臭の原因物質とされるヘキサナール等のカルボニル化合物の生成及び/又は増加、加熱臭、加熱臭の原因物質とされるサルファイド類の生成及び/又は増加を抑制する上で最も望ましいことがわかった。
そして、この実験を通じて、原料乳、殺菌乳の自発性酸化臭、自発性酸化臭の原因物質とされるヘキサナール等のカルボニル化合物の生成及び/又は増加、加熱臭、加熱臭の原因物質とされるサルファイド類の生成及び/又は増加を抑制する上で効果がある、原料乳、殺菌乳における存酸素濃度の数値範囲を確認した。
すなわち、本発明は、牛乳の処理工程における搾乳から殺菌処理までの過程において溶存酸素濃度を低下させる処理を行うことを特徴とする原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する方法を提案するものである。
ここで、前記の溶存酸素濃度を低下させる処理を、搾乳から72時間経過するまでに行うものである。
そして、溶存酸素濃度を低下させる処理を行った後、殺菌処理までの間、溶存酸素濃度が低い状態を維持するものである。
前記本発明の原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する方法において、異常風味の抑制は、次の中のいずれか一つを、あるいは、次の中の複数を行うものである。
(1)原料乳の自発性酸化臭の抑制
(2)ヘキサナールの生成及び/又は増加の抑制
(3)加熱臭の抑制
(4)サルファイド類の生成及び/又は増加の抑制
前記において、原料乳の自発性酸化臭の抑制は、例えば、豆臭を抑制するものである。
また、前記において生成及び/又は増加が抑制されるサルファイド類は、ジメチルサルファイド(DMS)、ジメチルジサルファイド(DMDS)、ジメチルトリサルファイド(DMTS)の中の少なくとも一種以上である。
次に、この発明が提案する殺菌乳は前述した本発明の原料乳および殺菌乳における異常風味抑制方法を用いて処理されたものである。
本発明によれば、豆臭と呼ばれる、原料乳の自発性酸化に起因する、所謂、自発性酸化臭、自発性酸化臭の原因物質とされるヘキサナール等のカルボニル化合物の生成及び/又は増加、殺菌乳の品質や風味で問題とされる加熱臭、加熱臭の原因物質とされるサルファイド類の生成及び/又は増加などを抑制し、これによって、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制することができる。
そして、かかる異常風味抑制方法を用いて処理され、品質や風味の良い牛乳の製造に供される殺菌乳を提供することができる。
これによって、自発性酸化臭の少ない、商業的に使用可能な原料乳、殺菌乳を安定的に供給し、自発性酸化臭に起因する原料、殺菌乳の受入拒否や出荷止めを減少させ、消費者の牛乳に対する購買意欲を促進させることにより、農産資源を無駄なく有効活用できる。
本発明による原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する方法は、牛乳の処理工程における搾乳から殺菌処理までの過程において溶存酸素濃度を低下させる処理を行うものである。
ここで、溶存酸素濃度を低下させる処理は、搾乳から72時間経過するまでに行うことが望ましい。
また、溶存酸素濃度を低下させる処理を行った後、殺菌処理までの間、溶存酸素濃度が低い状態を維持することが望ましい。
前記における異常風味の抑制は、次の中のいずれか一つを、あるいは、次の中の複数を行うものである。
(1)原料乳の自発性酸化臭の抑制
(2)ヘキサナールの生成及び/又は増加の抑制
(3)加熱臭の抑制
(4)サルファイド類の生成及び/又は増加の抑制
そして、前記において、原料乳の自発性酸化臭の抑制は、例えば、豆臭を抑制するものであり、前記において生成及び/又は増加が抑制されるサルファイド類は、ジメチルサルファイド(DMS)、ジメチルジサルファイド(DMDS)、ジメチルトリサルファイド(DMTS)の中の少なくとも一種以上である。
発明者等の実験によれば、溶存酸素濃度を低下させる処理が加えられた原料乳においては、原料乳の自発性酸化臭、ヘキサナールの生成及び/又は増加、加熱臭、サルファイド類の生成及び/又は増加のいずれもが抑制されていた。
そこで、原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理を行うことによって、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制するために採用される、前述した原料乳の自発性酸化臭の抑制、ヘキサナールの生成及び/又は増加の抑制、加熱臭の抑制、サルファイド類の生成及び/又は増加の抑制のいずれをも実行することができる。
本発明の原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する方法において、溶存酸素濃度を低下させる処理は、基本的には、搾乳後、殺菌処理が行われるまでの過程のどの時点においても行うことができる。
例えば、搾乳後、殺菌処理が行われるまでの過程には、一般的に、次のような工程がある。(1)乳牛からの搾乳、(2)牧場内の集乳タンク(牧場に設置したタンク)での貯蔵、(3)牧場内の集乳タンクからローリー(車両、船舶、航空機等)への移動、(4)ローリーでの運搬、(5)ローリーから乳処理工場への移動、等。
前記の搾乳から工場への受入過程における前述した工程の中のいくつかが、ときには省略されることもあるが、溶存酸素濃度を低下させる処理は、基本的には、これらの工程の中のどこかで行われさえすれば良い。
そこで、例えば、以下に例示される機器・器具、装置などのいずれかにおいて原料乳の溶存酸素濃度を低くする処理を行うことが考えられる。
(A)乳牛から搾乳するためのホース内もしくはパイプ内
(B)集乳するための牧場に設置したタンク(集乳タンク)内
(C)生乳を運搬するためのローリーへ集乳タンクから生乳を移すためのホース内もしくはパイプ内
(D)ローリーのタンク内
(E)乳処理工場へローリーから生乳を移すためのホース内もしくはパイプ内
ただし、品質や風味の良い殺菌乳を安定して確保するという観点からは、搾乳後の早い時間で、原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理を行うことが好ましい。
搾乳後の早い時点で原料乳の溶存酸素濃度を低下させると、原料乳の品質や風味の劣化を抑制する効果が大きくなり、この原料乳を殺菌処理して得られた殺菌乳の品質や風味も良くなるので有利である。
そこで、牧場での搾乳直後に溶存酸素濃度を低下させる処理を行うと、原料乳の自発性酸化臭、ヘキサナールの生成及び/又は増加、加熱臭、サルファイド類の生成及び/又は増加のいずれをも抑制し、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する効果を最も良く発揮させることができる。
なお、搾乳後、工場での受入までには72時間程度を要するので、前述したように、搾乳後から72時間が経過する時点、あるいはこれまでの間に原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理を行うことによって、前述した効果を発揮させることができる。
ただし、搾乳後の早い時間で、原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理を行うことが、原料乳の自発性酸化臭、ヘキサナールの生成及び/又は増加、加熱臭、サルファイド類の生成及び/又は増加のいずれをも抑制し、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する効果を発揮させる上で望ましい。そこで、搾乳から72時間以内、好ましくは48時間以内、更に好ましくは24時間以内、最も好ましくは搾乳直後に、原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理を行うことが望ましい。
原料乳の溶存酸素濃度を低くする方法は特に限定されない。例えば、真空の雰囲気で脱気する方法、不活性ガスで酸素を置換する方法等を採用することができる。不活性ガスで酸素を置換する方法において、不活性ガスの通気(バブリング)を利用すると、複雑な装置が不必要である。不活性ガスで酸素を置換する場合、不活性ガスとしては窒素ガスを採用することができる。窒素ガスは、取扱が容易で、購入費が安価である。
前記において、原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理を行った時点の溶存酸素濃度の数値範囲は特に限定されないが、原料乳の品質や風味の劣化を抑制する効果が大きくなるという観点から、原料乳の溶存酸素濃度は低いことが好ましい。
発明者等が行った実験によれば、経験的に自発性酸化しやすい(品質が悪い)とされる任意の原料乳の自発性酸化臭及びヘキサナールの生成を抑制するための条件としては、原料乳の溶存酸素濃度を2ppm以下とする必要があった。
一方、経験的に自発性酸化しにくい(品質が良い)とされる任意の原料乳の自発性酸化臭及びヘキサナールの生成を抑制するための条件としては、原料乳の溶存酸素濃度を5ppmとすれば十分であり、2ppm以下と同等のヘキサナールの生成を抑制する効果が得られた。
つまり、原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理を行った時点の好ましい溶存酸素濃度の数値範囲は、自発性酸化しにくい(品質が良い)、自発性酸化しやすい(品質が悪い)といった、原料乳の品質により影響を受ける。
原料乳の品質には、乳牛の飼育条件(飼料、土地等)、季節変動等が影響する。
一般的には、原料乳の品質は良い状態(自発性酸化しにくい状態)で管理されている。そこで、原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理を行った時点の溶存酸素濃度が5ppmであっても、原料乳の自発性酸化臭、ヘキサナールの生成及び/又は増加、加熱臭、サルファイド類の生成及び/又は増加のいずれをも抑制し、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する効果を発揮させることが可能である。
ただし、異常風味が幾らか生成しやすい環境下にあった原料乳であっても、原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理を行った時点の溶存酸素濃度がより低ければ、原料乳の自発性酸化臭、ヘキサナールの生成及び/又は増加、加熱臭、サルファイド類の生成及び/又は増加のいずれをも抑制し、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する効果をより良く発揮させることができる。
そこで、原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理を行った時点の溶存酸素濃度は、好ましくは4ppm以下、より好ましくは3ppm以下、さらに好ましくは2ppm以下である。
本発明の原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する方法においては、前述した溶存酸素濃度を低下させる処理を行った後、殺菌処理までの間、溶存酸素濃度が低い状態を維持することが望ましい。ここで、溶存酸素濃度が低い状態を維持する方法としては、例えば、酸素との接触を避ける方法を採用することができる。
原料乳の溶存酸素濃度を低くした後も、原料乳の溶存酸素濃度を低く保持することにより、原料乳の品質や風味の劣化を抑制する効果が大きくなり、この原料乳を殺菌処理して得られた殺菌乳の品質や風味も良くなるからである。また、原料乳の溶存酸素濃度を低くした後も、原料乳の溶存酸素濃度を低い状態に維持すると、品質や風味の良い原料乳を安定して確保することができる。
前述したように、原料乳の溶存酸素濃度を低くする処理は、例えば、乳牛から搾乳するためのホース内もしくはパイプ内、集乳するための牧場に設置したタンク(集乳タンク)内、生乳を運搬するためのローリーへ集乳タンクから生乳を移すためのホース内もしくはパイプ内、ローリーのタンク内、乳処理工場へローリーから生乳を移すためのホース内もしくはパイプ内などのいずれかにおいて行うことができる。
そこで、原料乳の溶存酸素濃度を低下させる処理が行われた後の原料乳の溶存酸素濃度を低い状態に保持するためには、溶存酸素濃度を低下させる処理が行われる前記例示の機器・器具、装置以降、工場での殺菌処理工程の間に配備される総ての器機・器具、装置及び、工程において原料乳の溶存酸素濃度を低い状態に保持する管理を行うことが好ましい。
この場合には、タンクやポンプにおける原料乳の溶存酸素濃度を制御・管理することが重要となってくる。そこで、タンク内を窒素の雰囲気にしたり、ある程度の密閉性がある容器に送液ポンプを入れ、その容器内を窒素の雰囲気にしたり等といった工夫が必要となる。
以上説明したように、本発明の原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する方法は、搾乳直後、あるいは搾乳後、所定の時間経過した時点で溶存酸素濃度を低下させる処理を行うこと、そして必要に応じ、その後の過程で、溶存酸素濃度が低下している状態を維持することに特徴がある。
本発明においては、原料乳の自発性酸化臭(豆臭)や加熱臭についての官能評価、ヘキサナール及びサルファイド類濃度を指標にして、原料乳および殺菌乳における異常風味を抑制する効果を確認した。
本発明の方法による効果には、殺菌乳の風味の向上だけでなく、異常風味の生成を防止し、商品価値の損失を防止するといった、工業的に全く新しい別の観点が含まれている。すなわち、風味の向上だけではなく、品質の低下を防止・予防することが従来技術とは異なる。さらに、搾乳後から殺菌処理までの時間的な概念を導入したことも従来技術とは異なる。
以下、本発明に関して実施例を挙げて説明するが、本発明は、これにより限定されるものではない。
ここで、実施例1〜3、5及び7〜9では、自発性酸化しやすいとされる任意の原料乳(生乳)を使用した。一方、実施例4及び6では、自発性酸化しにくいとされる任意の原料乳(生乳)を使用した。また、実施例1〜4及び7〜8では、溶存酸素濃度を低下させる方法に不活性ガスで酸素を置換する方法を使用した。一方、実施例5、6及び9では、溶存酸素濃度を低下させる方法に真空の雰囲気で脱気する方法を使用した。
(搾乳直後に溶存酸素濃度を低下させ、開放容器で保持した場合と、密閉容器で保持した場合の豆臭とヘキサナール濃度の経時変化)
搾乳直後に溶存酸素濃度を低下させ、開放容器で保持した場合と、密閉容器で保持した場合の豆臭とヘキサナール濃度の経時変化を調べた。
搾乳後の約30分間で、原乳の温度を8℃まで冷却した。このときの原乳の溶存酸素濃度は9.6ppm(温度8℃)であった。この溶存酸素濃度を調整しなかった原乳を「未調整の原料乳」として対照試料(コントロール)とした。
搾乳直後に、未調整の原料乳へ窒素ガスを通気し、溶存酸素濃度を0.8ppm(温度7℃)に低下させた。
この溶存酸素濃度を調整した原料乳を2種類の容器に充填した。それぞれの容器は、気体のバリア性が悪いプラスチックビン(ポリエチレン製容器。これを「開放容器」と称する。)と、気体のバリア性が良いスチール缶容器(これを「密閉容器」と称する。)とした。それぞれを「低酸素・開放状態の原料乳」、「低酸素・密閉状態の原料乳」と称する。
未調整の原料乳、低酸素・開放状態の原料乳、低酸素・密閉状態の原料乳について溶存酸素濃度、豆臭、ヘキサナール濃度を比較した結果を図1〜図3に示した。
このとき、原料乳を数日間保存する条件は、暗所で温度2℃とした。以下の実施例でも、原料乳を数日間保存する条件は、暗所で温度2℃とした。
図1には、未調整の原料乳、低酸素・開放状態の原料乳、低酸素・密閉状態の原料乳について溶存酸素濃度の経時変化を示した。
溶存酸素濃度はポータブルDO計 DO‐21P(東亜ディーケーケー(株)))を用いて測定した。
溶存酸素濃度は測定条件により幾らか測定値が不安定となるため、以下の方法により測定した。すなわち、(1)測定する流体(原料乳)をスターラーにより撹拌し、流速を10cm/秒以上とした。(2)この撹拌した原料乳へDO計の電極を入れ、約3分後の安定した数値を読み取った。本方法により再現性のある測定値が得られた。
未調整の原料乳の溶存酸素濃度は、高い数値で推移した。
低酸素・開放状態の原料乳の溶存酸素濃度は、搾乳から24時間経過後に、未調整の原料乳と同等の数値となった。
低酸素・密閉状態の原料乳の溶存酸素濃度は、調整直後と同等な低い数値で推移した。
以上より、溶存酸素濃度を低く調整した後に密閉状態とすることが、原料乳の溶存酸素濃度を低く保持するためには有効であると認められた。
溶存酸素濃度を低く保持する方法としては、密閉状態にする他に、不活性ガス(窒素ガス等)の雰囲気で原料乳を保持することが考えられる。
図2には、未調整の原料乳、低酸素・開放状態の原料乳、低酸素・密閉状態の原料乳について豆臭の経時変化を示した。
豆臭の官能評価は、専門パネル5名による7段階評価:0点(感じない)、0.5点(やや感じる)、1点(僅かに感じる)、1.5点(幾らか感じる)、2点(感じる)、2.5点(はっきりと感じる)、3点(強く感じる)で行い、各条件について平均値を比較した。
未調整の原料乳の豆臭は、搾乳直後には0であり、全ての専門パネルが豆臭を何も感じなかったが、搾乳後から12時間経過後には0.4となり、幾らか感じるようになった。その後も豆臭は増加し、72時間経過後には3となり、全ての専門パネルが豆臭を強く感じるようになった。
低酸素・開放状態の原料乳の豆臭は、搾乳から12時間経過後には0であり、全ての専門パネルが豆臭を何も感じなかったが、搾乳後から24時間経過後には0.9となり、僅かに感じるようになった。その後も豆臭は増加し、72時間経過後には未調整の原料乳と同等の数値となった。
低酸素・開放状態の原料乳の豆臭は、未処理の原料乳に比べて、豆臭を感じ始める時間が遅くなった。
低酸素・密閉状態の原料乳の豆臭は、搾乳から12時間経過後には0であり、全ての専門パネルが豆臭を何も感じなかったが、搾乳から24時間経過後には0.4となり、幾らか感じるようになった。その後も豆臭は僅かに増加したが、72時間経過後でも1.0と僅かに感じるだけであった。
以上のように、低酸素・密閉状態の原料乳の豆臭は、低い数値で推移していた。溶存酸素濃度を低く調整した後に密閉状態とすることが、原料乳の豆臭を防止・抑制するためには有効である。
溶存酸素濃度を低く調整した後に開放状態としても、調整から24時間経過後までは、豆臭を抑制する効果があった。しかし、調整から48時間経過後では、未調整の原料乳と同等の数値となり、豆臭を抑制する効果はなかった。
図3には、未調整の原料乳、低酸素・開放状態の原料乳、低酸素・密閉状態の原料乳についてヘキサナール濃度の経時変化を示した。
ヘキサナール濃度は以下に示した、固相マイクロ抽出法(SPME法)により測定した。すなわち、(1)試料(容量10mL(ミリリットル))をバイアルビン(容量20mL)に採取し、内標準物質としてメチルイソブチルケトン(MIBK)を添加し、密封する。(2)バイアルビンを温度60℃、保持時間40分で加温処理する。(3)バイアルビンのヘッドスペースに存在する「におい成分」を固相マイクロファイバー(85μm Stable Flex Carboxen/PDMS)により抽出する。(4)GC/MS(カラム:CP‐WAX)により分析する。(5)ヘキサナール濃度を定量するために、ヘキサナールの標準品を牛乳へ添加し、内標準物質で標準化した検量線を作成した。
固相マイクロ抽出法(SPME法)は、揮発性の「におい成分」を高感度で迅速に分析できるが、その定量性が問題視されていた。しかし、本方法により迅速な定量分析が可能となった。
未調整の原料乳のヘキサナール濃度は、搾乳直後には1μg/L(マイクログラム/リットル)であったが、搾乳後から12時間経過した時点では5μg/Lとなり、24時間後には10μg/L以上となった。その後もヘキサナール濃度は増加し、48時間後には20μg/L以上となった。
低酸素・開放状態の原料乳のヘキサナール濃度は、搾乳から12時間経過後には3μg/Lとなったが、24時間後には10μg/L以下であった。その後にヘキサナール濃度は増加し、48時間後には未調整の原料乳と同等の数値となった。
しかし、低酸素・開放状態の原料乳のヘキサナール濃度は、未処理の原料乳に比べて、ヘキサナール濃度が増加を感じ始める時間が遅くなった。
低酸素・密閉状態の原料乳のヘキサナール濃度は、搾乳から12時間経過後でも1μg/Lと、搾乳直後と同等の数値であった。そして、搾乳後から72時間後でも2μg/Lと、低酸素・密閉状態の原料乳のヘキサナール濃度は、ほとんど変化がなく、低い数値で推移した。
溶存酸素濃度を低く調整した後に密閉状態で保持することが、原料乳のヘキサナール濃度を低く保持するためには有効であると認められた。
溶存酸素濃度を低く調整した後に開放状態としても、調整から24時間経過後までは、ヘキサナール濃度の増加を抑制する効果があった。しかし、調整から48時間経過後では、未調整の原料乳と同等の数値となり、ヘキサナール濃度の増加を抑制する効果はなかった。
また、図2と図3との対比より、豆臭とヘキサナール濃度に相関のあることが再確認された。
そこで、以下の実施例では、ヘキサナール濃度のみを評価することとし、豆臭を評価することは省略した。
(搾乳直後、搾乳から24時間経過後、48時間経過後に溶存酸素濃度を低下させた場合のヘキサナール濃度の経時変化)
搾乳直後、搾乳から24時間経過後、48時間経過後に溶存酸素濃度を低下させた場合のヘキサナール濃度の経時変化を調べた。
搾乳後の約30分間で、原乳の温度を8℃まで冷却した。このときの原乳の溶存酸素濃度は9.6ppm(温度8℃)であった。この溶存酸素濃度を調整しなかった原乳を「未調整の原料乳」として対照試料(コントロール)とした。
溶存酸素濃度を低下させる搾乳後の時点に関して、搾乳直後、搾乳から24時間経過後、48時間経過後という、3種類の異なる経過時間を設定した。
搾乳直後、搾乳から24時間経過後、48時間経過後に未調整の原料乳へ窒素ガスを通気し、それぞれ溶存酸素濃度を0.8ppm(温度7℃)に低下させ、気体のバリア性が良いスチール缶容器(これを「密閉容器」と称する。)に充填した。これらを、それぞれ「低酸素・搾乳直後の原料乳」、「低酸素・搾乳24時間経過後の原料乳」、「低酸素・搾乳48時間経過後の原料乳」と称する。
未調整の原料乳、低酸素・搾乳直後の原料乳、低酸素・搾乳24時間経過後の原料乳、低酸素・搾乳48時間経過後の原料乳について溶存酸素濃度を比較した結果を図4に示した。
未調整の原料乳、低酸素・搾乳直後の原料乳、低酸素・搾乳24時間経過後の原料乳、低酸素・搾乳48時間経過後の原料乳について溶存酸素濃度の経時変化は実施例1で説明した方法で測定した。
未調整の原料乳の溶存酸素濃度は、高い数値で推移した。
低酸素・搾乳直後の原料乳の溶存酸素濃度は、調整直後と同等な低い数値で推移した。
低酸素・搾乳24時間経過後、及び低酸素・搾乳48時間経過後の原料乳の溶存酸素濃度は、調整前まで未調整の原料乳と同等な高い数値であったが、調整後に低い数値で推移した。
溶存酸素濃度を低く調整した後に密閉状態とすることが、原料乳の溶存酸素濃度を低く保持するために有効であることが再確認された。
前記した通り、溶存酸素濃度を低く保持する方法としては、密閉状態とする他に、不活性ガス(窒素ガス等)の雰囲気で原料乳を保持することが考えられる。
図5には、未調整の原料乳、低酸素・搾乳直後の原料乳、低酸素・搾乳24時間経過後の原料乳、低酸素・搾乳48時間経過後の原料乳についてヘキサナール濃度の経時変化を示した。
ヘキサナール濃度は実施例1で説明した方法で測定した。
未調整の原料乳のヘキサナール濃度は、搾乳直後には1μg/Lであったが、搾乳から12時間経過後後には5μg/Lとなり、24時間経過後には10μg/L以上となった。その後もヘキサナール濃度は増加し、48時間経過後には20μg/L以上となった。
低酸素・搾乳直後の原料乳のヘキサナール濃度は、搾乳から12時間経過後でも1μg/Lと、搾乳直後と同等の数値であった。そして、搾乳から72時間経過後でも2μg/Lと、低酸素・搾乳直後の原料乳のヘキサナール濃度は、ほとんど変化がなく、低い数値で推移した。
低酸素・搾乳24時間経過後、及び低酸素・搾乳48時間経過後の原料乳のヘキサナール濃度は、調整前まで未調整の原料乳と同等な高い数値であったが、調整後に数値は不変あるいは幾らか減少した。
搾乳直後だけでなく、搾乳から24時間経過後、48時間経過後においても、溶存酸素濃度を低く調整した時点で、ヘキサナール濃度の増加は停止した。つまり、溶存酸素濃度を低く調整した時点で、自発性酸化は停止したこととなる。
原料乳の溶存酸素濃度を低く調整する時期は早い程、自発性酸化臭を抑制する効果は大きいが、自発性酸化反応が飽和状態となる前に、溶存酸素濃度を低く調整すれば、幾らかの自発性酸化臭を抑制する効果があると認められた。
溶存酸素濃度を低く調整した後に密閉状態で保持することが、原料乳のヘキサナール濃度を低く保持するために有効であることが再確認された。
(不活性ガスで酸素を置換する方法により、自発性酸化しやすいとされる原料乳の溶存酸素濃度を変えた場合のヘキサナール濃度の経時変化)
自発性酸化しやすいとされる原料乳の搾乳直後に溶存酸素濃度を変えた場合のヘキサナール濃度の経時変化を調べた。
溶存酸素濃度を低下させる方法には、不活性ガスで酸素を置換する方法を使用した。
搾乳後の約30分間で、原乳の温度を8℃まで冷却した。このときの原乳の溶存酸素濃度は9.6ppm(温度8℃)であった。
この溶存酸素濃度を調整しなかった原乳を「未調整の原料乳」として対照試料(コントロール)とした。
搾乳後の時点において、溶存酸素濃度を0.8ppm、4.8ppm(温度7℃)という、二水準に設定した。
すなわち、搾乳直後に未調整の原料乳へ窒素ガスを通気し、それぞれ溶存酸素濃度を前記した数値に低下させ、気体のバリア性が良いスチール缶容器(これを「密閉容器」と称する。)に充填した。これらを、それぞれ「低酸素・0.8ppmの原料乳」、「低酸素・4.8ppmの原料乳」と称する。
未調整の原料乳、低酸素・0.8ppmの原料乳について溶存酸素濃度、ヘキサナール濃度を比較した結果を図6及び図7に示した。
図6には、未調整の原料乳、低酸素・0.8ppmの原料乳について溶存酸素濃度の経時変化を示した。
溶存酸素濃度は実施例1で説明した方法で測定した。
未調整の原料乳の溶存酸素濃度は、高い数値で推移した。
低酸素・4.8ppmの原料乳の溶存酸素濃度は、調整直後と同等な数値だったため、記載を省略した。
低酸素・0.8ppmの原料乳の溶存酸素濃度は、調整直後と同等な低い数値で推移した。
溶存酸素濃度を1ppm程度に低く調整した後に密閉状態とすれば、溶存酸素濃度は低く保持され、原料乳の自発性酸化反応が停止する可能性が認められた。
図7には、未調整の原料乳、低酸素・0.8ppmの原料乳についてヘキサナール濃度の経時変化を示した。
ヘキサナール濃度は実施例1で説明した方法で測定した。
未調整の原料乳のヘキサナール濃度は、搾乳直後には1μg/Lであったが、搾乳から12時間経過後には5μg/Lとなり、24時間経過後には10μg/L以上となった。その後もヘキサナール濃度は増加し、48時間経過後には20μg/L以上となった。
低酸素・4.8ppmの原料乳のヘキサナール濃度は、搾乳から24時間経過後に未調整の原料乳と同等の数値となり、その後も未調整の原料乳と同等な数値で増加したため、記載を省略した。
低酸素・0.8ppmの原料乳のヘキサナール濃度は、搾乳から72時間経過後でも2μg/Lと、搾乳直後と大差のない低い数値で推移した。
溶存酸素濃度を1ppm以下に低く調整すると、ヘキサナール濃度の増加は停止した。つまり、溶存酸素濃度を1ppm以下に低く調整することで、自発性酸化は停止したこととなる。
原料乳の溶存酸素濃度を低く調整する程、自発性酸化臭を抑制する効果は大きい。
この実施例では、自発性酸化しやすいとされる原料乳を使用したため、自発性酸化臭もしくはヘキサナールの生成を抑制するための条件としては、原料乳の溶存酸素濃度を1ppm以下とする必要があった。
しかし、実施例4に後記した通り、自発性酸化しにくいとされる原料乳を実験に使用した場合、自発性酸化臭もしくはヘキサナールの生成を抑制するための条件としては、原料乳の溶存酸素濃度を5ppmとすれば十分である。自発性酸化しにくいとされる原料乳の場合、原料乳の溶存酸素濃度を5ppmとすれば原料乳の溶存酸素濃度を2ppm以下にするときと同等のヘキサナールの生成を抑制する効果が得られた。
つまり、溶存酸素濃度等に必要な条件は、原料乳の品質により影響を受ける。
原料乳の品質には、乳牛の飼育条件(飼料、土地等)、季節変動等が影響する。一般的には、原料乳の品質は良い状態で管理され、自発性酸化しにくい状態にあるため、溶存酸素濃度を5ppmとしても自発性酸化臭を抑制する効果があると認められた。
(不活性ガスで酸素を置換する方法により、自発性酸化しにくいとされる原料乳の溶存酸素濃度を変えた場合のヘキサナール濃度の経時変化)
自発性酸化しにくいとされる原料乳の搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を変えた場合のヘキサナール濃度の経時変化を調べた。
溶存酸素濃度を低下させる方法には、不活性ガスで酸素を置換する方法を使用した。
搾乳後の約30分間で、原乳の温度を8℃まで冷却した。このときの原乳の溶存酸素濃度は9.2ppm(温度8℃)であった。
この溶存酸素濃度を調整しなかった原乳を「未調整の原料乳」として対照試料(コントロール)とした。
搾乳から24時間経過後の時点において、溶存酸素濃度を2.0ppm、5.0ppm(温度7℃)という、二水準に設定した。
すなわち、搾乳から24時間経過後の時点において、未調整の原料乳へ窒素ガスを通気し、それぞれ溶存酸素濃度を前記した数値に低下させ、気体のバリア性が良いスチール缶容器(これを「密閉容器」と称する。)に充填した。これらを、それぞれ「低酸素・2.0ppmの原料乳」、「低酸素・5.0ppmの原料乳」と称する。
未調整の原料乳、低酸素・2.0ppmの原料乳、低酸素・5.0ppmの原料乳について溶存酸素濃度、ヘキサナール濃度を比較した結果を図8及び図9に示した。
図8には、未調整の原料乳、低酸素・2.0ppmの原料乳、低酸素・5.0ppmの原料乳について溶存酸素濃度の経時変化を示した。
溶存酸素濃度は実施例1で説明した方法で測定した。
未調整の原料乳の溶存酸素濃度は高い数値で推移した。
低酸素・2.0ppm、及び低酸素・5.0ppmの原料乳の溶存酸素濃度は、調整直後と同等な低い数値で推移した。
溶存酸素濃度を5ppm程度に低く調整した後に密閉状態とすれば、溶存酸素濃度は低く保持され、原料乳の自発性酸化反応が停止する可能性があった。
図9には、未調整の原料乳、低酸素・2.0ppmの原料乳、低酸素・5.0ppmの原料乳についてヘキサナール濃度の経時変化を示した。
ヘキサナール濃度は実施例1で説明した方法で測定した。
未調整の原料乳のヘキサナール濃度は、実験開始時には4μg/Lであったが、72時間経過後には10μg/Lとなり、96時間経過後には12μg/Lとなった。その後もヘキサナール濃度は増加し、168時間経過後には20μg/Lとなった。
低酸素・2.0ppm、及び低酸素・5.0ppmの原料乳のヘキサナール濃度は、72時間経過後で6あるいは8μg/Lと、低い数値で推移した。
溶存酸素濃度を5.0ppm以下に低く調整すると、ヘキサナール濃度の増加は緩やかになった。
つまり、溶存酸素濃度を5.0ppm以下に低く調整することで、自発性酸化は抑制されたこととなる。
原料乳の溶存酸素濃度を低く調整する程、自発性酸化臭を抑制する効果は大きい。自発性酸化しにくいとされる原料乳の場合には、原料乳の溶存酸素濃度を5ppmとした場合でも、ヘキサナールの生成や増加を抑制する効果があると認められた。
(真空の雰囲気で脱気する方法により、自発性酸化しやすいとされる原料乳の溶存酸素濃度を変えた場合のヘキサナール濃度の経時変化)
自発性酸化しやすいとされる原料乳の搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を変えた場合のヘキサナール濃度の経時変化を調べた。
なお、この実施例では原料乳に銅イオンを終濃度として、1ppm添加することにより、自発性酸化しやすい原料乳を調製した。
溶存酸素濃度を低下させる方法には、真空の雰囲気で脱気する方法を使用した。
搾乳後の約30分間で、原乳の温度を8℃まで冷却した。このときの原乳の溶存酸素濃度は11.2ppm(温度8℃)であった。
この溶存酸素濃度を調整しなかった原乳を「未調整の原料乳」として対照試料(コントロール)とした。
真空の雰囲気で脱気する方法は次のように行った。未調整の原料乳の約500mL(ミリリットル)をナス型フラスコ(容量1L(リットル))へ入れ、エバポレーターに取り付けた。ナス型フラスコを氷冷しながら、フラスコ内を真空の雰囲気(圧力30mmHg)とし、15分間、保持した。この後では、急激な空気の混入を避けるために、窒素ガスの雰囲気で、フラスコ内を大気圧に開放した。
これらの処理の結果として、搾乳から24時間経過後の時点において、溶存酸素濃度は2.1ppm(温度7℃)に設定された。
これを気体のバリア性が良いスチール缶(これを「密閉容器」と称する。)に充填した(これを、「低酸素(脱気)・2.1ppmの原料乳」と称する。)。
未調整の原料乳、低酸素(脱気)・2.1ppmの原料乳についてヘキサナール濃度を比較した結果を図10に示した。
図10には、未調整の原料乳、低酸素(脱気)・2.1ppmの原料乳についてヘキサナール濃度の経時変化を示した。
ヘキサナール濃度は実施例1で説明した方法で測定した。
未調整の原料乳のヘキサナール濃度は、実験開始時には3μg/Lであったが、24時間経過後には14μg/Lとなった。
低酸素(脱気)・2.1ppmの原料乳のヘキサナール濃度は、24時間経過後で5μg/Lと、低い数値であった。
溶存酸素濃度を2.1ppm以下に低く調整すると、ヘキサナール濃度の増加は緩やかになった。
つまり、溶存酸素濃度を2.1ppm以下に低く調整することで、自発性酸化は抑制されたこととなる。
前記した実施例の結果を合わせて考えると、真空の雰囲気で脱気する方法、不活性ガスで酸素を置換する方法等の、溶存酸素濃度を低くする方法に関係なく、原料乳の溶存酸素濃度を低くすることにより、自発性酸化を抑制できると認められた。
この実施例では、自発性酸化しやすいとされる原料乳を実験に使用したため、自発性酸化臭もしくはヘキサナールの生成を抑制するための条件としては、原料乳の溶存酸素濃度を2.1ppm以下とする必要があった。
しかし、実施例4に前記した通り、自発性酸化しにくいとされる原料乳を使用した場合、自発性酸化臭もしくはヘキサナールの生成を抑制するための条件としては、原料乳の溶存酸素濃度を5ppmとすれば十分である。自発性酸化しにくいとされる原料乳の場合、原料乳の溶存酸素濃度を5ppmとすれば原料乳の溶存酸素濃度を2ppm以下にするときと同等のヘキサナールの生成を抑制する効果が得られた。
つまり、溶存酸素濃度等に必要な条件は、原料乳の品質により影響を受ける。
原料乳の品質には、乳牛の飼育条件(飼料、土地等)、季節変動等が影響する。一般的には、原料乳の品質は良い状態で管理され、自発性酸化しにくい状態にあるため、溶存酸素濃度を5ppmとしても自発性酸化臭を抑制する効果があると認められた。
(真空の雰囲気で脱気する方法により、自発性酸化しにくいとされる原料乳の溶存酸素濃度を変えた場合のヘキサナール濃度の経時変化)
自発性酸化しにくいとされる原料乳の搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を変えた場合のヘキサナール濃度の経時変化を調べた。
溶存酸素濃度を低下させる方法には、真空の雰囲気で脱気する方法を使用した。
搾乳後の約30分間で、原乳の温度を8℃まで冷却した。このときの原乳の溶存酸素濃度は11.2ppm(温度8℃)であった。
この溶存酸素濃度を調整しなかった原乳を「未調整の原料乳」として対照試料(コントロール)とした。
実施例5で説明した真空の雰囲気で脱気する方法により、搾乳から24時間経過後の時点において、溶存酸素濃度を2.1ppm(温度7℃)に設定した。
これを気体のバリア性が良いスチール缶(これを「密閉容器」と称する。)に充填した。これを、「低酸素(脱気)・2.1ppmの原料乳」と称する。
未調整の原料乳、低酸素(脱気)・2.1ppmの原料乳についてヘキサナール濃度を比較した結果を図11に示した。
図11には、未調整の原料乳、低酸素(脱気)・2.1ppmの原料乳についてヘキサナール濃度の経時変化を示した。
ヘキサナール濃度は実施例1で説明した方法で測定した。
未調整の原料乳のヘキサナール濃度は、実験開始時には3μg/Lであったが、72時間経過後には7μg/Lとなった。
低酸素(脱気)・2.1ppmの原料乳のヘキサナール濃度は、72時間経過後で4μg/Lと、低い数値であった。
溶存酸素濃度を2.1ppm以下に低く調整すると、ヘキサナール濃度の増加は緩やかになった。つまり、溶存酸素濃度を2.1ppm以下に低く調整することで、自発性酸化は抑制されたこととなる。
前記した実施例の結果を合わせて考えると、溶存酸素濃度を低くする方法に関係なく、また、原料乳の品質に関係なく、原料乳の溶存酸素濃度を低くすることにより、自発性酸化を抑制できると言える。
(不活性ガスで酸素を置換する方法により、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を低下させ、そのまま加熱処理した場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を低下させ、そのまま密閉状態で24時間、保持した後に、加熱処理した場合のヘキサナール濃度、加熱臭、サルファイド類濃度)
搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を低下させ、そのまま加熱処理した場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を低下させ、そのまま密閉状態で24時間、保持した後に、加熱処理した場合のヘキサナール濃度、加熱臭、サルファイド類濃度を調べた。
溶存酸素濃度を低下させる方法には、不活性ガスで酸素を置換する方法を使用した。
搾乳後の約30分間で、原乳の温度を8℃まで冷却した。このときの原乳の溶存酸素濃度は9.2ppm(温度8℃)であった。
この溶存酸素濃度を調整しなかった原乳を「未調整の原料乳」として対照試料(コントロール)とした。
搾乳から24時間経過後に未調整の原料乳へ窒素ガスを通気し、それぞれ溶存酸素濃度を2.0及び5.0ppm(温度7℃)に低下させた場合、及び、そのまま密閉状態で24時間、保持した場合の合計4種類の異なる原料乳を用意した。
そして、搾乳から24時間経過後及び48時間経過後の未調整の原料乳を含め、これらの原料乳に対してオートクレーブ(温度110℃、保持時間1分)による加熱処理を行った。これらを、それぞれ「未調整の殺菌乳」、「低酸素・2.0ppmの殺菌乳」、「低酸素・5.0ppmの殺菌乳」、「未調整・保持の殺菌乳」、「低酸素・2.0ppm・保持の殺菌乳」、「低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳」と称する。
オートクレーブでは、原料乳を気体のバリア性が良いスチール缶(これを「密閉容器」と称する。)に充填した。
未調整の殺菌乳、低酸素・2.0ppmの殺菌乳、低酸素・5.0ppmの殺菌乳、未調整・保持の殺菌乳、低酸素・2.0ppm・保持の殺菌乳、低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳について溶存酸素濃度、ヘキサナール濃度、加熱臭、サルファイド類濃度を比較した結果を図12〜図14に示した。
未調整の殺菌乳、低酸素・2.0ppmの殺菌乳、低酸素・5.0ppmの殺菌乳、未調整・保持の殺菌乳、低酸素・2.0ppm・保持の殺菌乳、低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳について溶存酸素濃度の経時変化は実施例1で説明した方法で測定した。
図12には、未調整の殺菌乳、低酸素・2.0ppmの殺菌乳、低酸素・5.0ppmの殺菌乳、未調整・保持の殺菌乳、低酸素・2.0ppm・保持の殺菌乳、低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳についてヘキサナール濃度の経時変化を示した。
ヘキサナール濃度は実施例1で説明した方法で測定した。
未調整の殺菌乳のヘキサナール濃度は、9μg/Lであったが、そのまま保持して24時間後(未調整・保持の殺菌乳)にも、9μg/Lとなり、ヘキサナール濃度は高いままであった。
一方、低酸素・2.0ppm、及び低酸素・5.0ppmの殺菌乳のヘキサナール濃度は、いずれも6μg/Lであったが、そのまま保持して24時間経過後(低酸素・2.0ppm・保持、及び低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳)でも、いずれも7μg/Lで、ヘキサナール濃度は幾らか増加したが、低いままであった。
溶存酸素濃度を5.0ppm以下に低く調整すると、ヘキサナール濃度は低い数値のままであった。
つまり、溶存酸素濃度を5.0ppm以下に低く調整することで、自発性酸化は抑制されたこととなる。
原料乳の溶存酸素濃度を低く調整する程、殺菌乳の自発性酸化臭を抑制する効果は大きい。この実施例では、自発性酸化しやすいとされる原料乳を使用したが、原料乳の溶存酸素濃度を5ppmとした場合でも、殺菌乳におけるヘキサナールの生成や増加を抑制する効果が認められた。
図13には、未調整の殺菌乳、低酸素・2.0ppmの殺菌乳、低酸素・5.0ppmの殺菌乳、未調整・保持の殺菌乳、低酸素・2.0ppm・保持の殺菌乳、低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳について加熱臭の評価を示した。
加熱臭の官能評価は、専門パネル5名による5段階評価:1点(感じない)、2点(僅かに感じる)、3点(幾らか感じる)、4点(感じる)、5点(強く感じる)で行い、各条件について平均値を比較した。
未調整、及び未調整・保持の殺菌乳では、それぞれ4.4及び4.2であり、殆ど全ての専門パネルが加熱臭を感じた。
低酸素・2.0ppm、低酸素・5.0ppm、低酸素・2.0ppm・保持、及び低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳では、それぞれ3.6、3.4、3.4及び3.2であり、全ての専門パネルが加熱臭を幾らか感じるだけであった。
溶存酸素濃度を低くして加熱処理した殺菌乳は何れの場合も、未調整の殺菌乳よりも加熱臭を感じにくかった。
何処の時期においても原料乳の溶存酸素濃度を低く調整すれば、加熱臭を抑制する効果があった。
ところで、前記した通り、原料乳の溶存酸素濃度を低く調整する時期は早い程、自発性酸化臭の指標であるヘキサナール濃度の生成を抑制する効果が大きい。これらの観点から総合的に判断すると、搾乳後の早い時期から、原料乳の溶存酸素濃度を制御・管理することが、品質と風味の良い殺菌乳を得るために有効であると言える。
この実施例では、原料乳の溶存酸素濃度を低くした後に、原料乳を密閉状態とし、溶存酸素濃度を低い状態で保持した。
原料乳の溶存酸素濃度を低くした後に、原料乳を開放状態とすれば、溶存酸素濃度は増加するため、殺菌乳の加熱臭の抑制効果は幾らか小さくなる。しかし、溶存酸素が5ppm以上に上昇する前に殺菌処理をすれば、同様に加熱臭を抑制する効果が得られると考えられる。
このとき前記した通り、自発性酸化臭の指標であるヘキサナール濃度の生成を抑制する効果も同時に得られることとなる。
図14には、未調整の殺菌乳、低酸素・2.0ppmの殺菌乳、低酸素・5.0ppmの殺菌乳、未調整・保持の殺菌乳、低酸素・2.0ppm・保持の殺菌乳、低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳についてサルファイド類の面積値(ジメチルジサルファイド(DMDS)、及びジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値)を示した。
サルファイド類の面積値は以下に示した、固相マイクロ抽出法(SPME法)により測定し、このピーク面積値を濃度として評価した。
すなわち、(1)試料(容量10mL)をバイアルビン(容量20mL)に採取し密封する。(2)バイアルビンを温度60℃、保持時間40分で加温処理する。(3)バイアルビンのヘッドスペースに存在する「におい成分」を固相マイクロファイバー(85μm Stable Flex Carboxen/PDMS)により抽出する。(4)GC−MS(カラム:CP−WAX)により分析し、サルファイド類の面積値を求める。
低酸素・2.0ppm、低酸素・5.0ppm、低酸素・2.0ppm・保持、及び低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳のサルファイド類の面積値と、未調整、及び未調整・保持の殺菌乳のサルファイド類の面積値を以下に比較した。
ジメチルジサルファイド(DMDS)、及びジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値では、低酸素・2.0ppm、低酸素・5.0ppm、低酸素・2.0ppm・保持、及び低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳が未調整、及び未調整・保持の殺菌乳に比べて低い傾向となった。
低酸素・2.0ppm、低酸素・5.0ppm、低酸素・2.0ppm・保持、及び低酸素5.0ppm・保持の殺菌乳のサルファイド類の面積値は、未調整、及び未調整・保持の殺菌乳のサルファイド類の面積値に比べて全体的に低い数値であった。
何処の時期においても溶存酸素濃度を5.0ppm以下に調整すれば、サルファイド類の生成や増加を抑制する効果があった。
ところで、前記した通り、原料乳の溶存酸素濃度を低く調整する程、自発性酸化臭の指標であるヘキサナール濃度の生成や増加を抑制する効果が大きい。
原料乳の溶存酸素濃度が低ければ、異常風味が幾らか生成しやすい環境下にあった原料乳の品質や風味の劣化を抑制する効果が大きくなるという観点に基づくと、原料乳の溶存酸素濃度を低く制御・管理することが、品質と風味の良い殺菌乳を得るために有効であると言える。
前記した通り、原料乳を開放状態としても、溶存酸素が5.0ppm以上に上昇する前に殺菌処理をすれば、同様に加熱臭を抑制する効果が得られると考えられる。
なお、この実施例においては、ジメチルジサルファイド(DMDS)及びジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値を求めて検討した。加熱臭の代表的な原因物質であると考えられているサルファイド類には、この他に、ジメチルサルファイド(DMS)がある。図13図示の実験結果に示されている加熱臭の抑制効果と、図14図示の実験結果に示されているジメチルジサルファイド(DMDS)、ジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値の傾向から考えると、溶存酸素濃度を5.0ppm以下に調整することによって、ジメチルサルファイド(DMS)の生成や増加を抑制する効果も発揮されると考えられた。
(不活性ガスで酸素を置換する方法により、原料乳の搾乳直後、搾乳から24時間経過日後、48時間経過後に溶存酸素濃度を低下させ、加熱処理した場合のサルファイド類濃度)
搾乳直後、搾乳から24時間経過後、48時間経過後に溶存酸素濃度を低下させ、加熱処理した場合のサルファイド類濃度を調べた。
溶存酸素濃度を低下させる方法には、不活性ガスで酸素を置換する方法を使用した。
搾乳直後、搾乳から24時間経過後、48時間経過後に未調整の原料乳へ窒素ガスを通気し、それぞれ溶存酸素濃度を0.8ppm(温度7℃)に低下させた、3種類の異なる原料乳を用意した。
そして、搾乳から72時間経過後の未調整の原料乳を含め、これらの原料乳に対してオートクレーブ(温度110℃、保持時間1分)による加熱処理を行った。これらを、それぞれ「未調整の殺菌乳」、「低酸素・搾乳直後の殺菌乳」、「低酸素・搾乳24時間経過後の殺菌乳」、「低酸素・搾乳48時間経過後の殺菌乳」と称する。
オートクレーブでは、原料乳を気体のバリア性が良いスチール缶(これを「密閉容器」と称する。)に充填した。
未調整の殺菌乳、低酸素・搾乳直後の殺菌乳、低酸素・搾乳24時間経過後の殺菌乳、低酸素・搾乳48時間経過後の殺菌乳の殺菌乳についてサルファイド類の面積値を比較した結果を図15に示した。
図15には、未調整の殺菌乳、低酸素・搾乳直後の殺菌乳、低酸素・搾乳24時間経過後の殺菌乳、低酸素・搾乳48時間経過後の殺菌乳の殺菌乳についてサルファイド類の面積値(ジメチルジサルファイド(DMDS)、及びジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値)を示した。
サルファイド類の面積値は、前記した通りの方法で測定した。
低酸素・搾乳直後、低酸素・搾乳24時間経過後、及び低酸素・搾乳48時間経過後の殺菌乳のサルファイド類の面積値と、未調整の殺菌乳のサルファイド類の面積値を以下に比較した。
ジメチルジサルファイド(DMDS)、及びジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値では、低酸素・搾乳直後、24時間経過後、48時間経過後の殺菌乳が未調整の殺菌乳に比べて低い数値となった。
低酸素・搾乳直後、低酸素・搾乳24時間経過後、及び低酸素・搾乳48時間経過後の殺菌乳のサルファイド類の面積値は、未調整の殺菌乳のサルファイド類の面積値に比べて全体的に低い数値であった。
何処の時期においても溶存酸素濃度を低く調整すれば、サルファイド類の生成や増加を抑制する効果があった。
ところで、前記した通り、原料乳の溶存酸素濃度を低く調整する時期は早い程、自発性酸化臭の指標であるヘキサナール濃度の生成や増加を抑制する効果が大きい。
原料乳の溶存酸素濃度が低ければ、異常風味が幾らか生成しやすい環境下にあった原料乳の品質や風味の劣化を抑制する効果が大きくなるという観点に基づくと、搾乳後の早い時期から、原料乳の溶存酸素濃度を制御・管理することが、品質と風味の良い殺菌乳を得るために有効であると言える。
前記した通り、原料乳を開放状態としても、溶存酸素が5ppm以上に上昇する前に殺菌処理をすれば、同様に加熱臭を抑制する効果が得られると考えられる。
(真空の雰囲気で脱気する方法により、原料乳の搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を低下させ、加熱処理した場合のサルファイド類濃度)
原料乳の搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を低下させ、加熱処理した場合のサルファイド類濃度を調べた。
溶存酸素濃度を低下させる方法には、真空の雰囲気で脱気する方法を使用した。
搾乳から24時間経過後に未調整の原料乳へ、実施例5に示した真空の雰囲気で脱気する方法を適用し、溶存酸素濃度を11.2ppm(温度8℃)から2.1ppm(温度7℃)に低下させた。
そして、これらの原料乳に対してオートクレーブ(温度10℃、保持時間1分)による加熱処理を行った(これらを、それぞれ「未調整の殺菌乳」、「低酸素(脱気)・2.1ppmの殺菌乳」と称する。)。
オートクレーブでは、原料乳を気体のバリア性が良いスチール缶(これを「密閉容器」と称する。)に充填した。
未調整の殺菌乳、低酸素(脱気)・2.1ppmの殺菌乳についてサルファイド類の面積値を比較した結果を図16に示した。
図16には、未調整の殺菌乳、低酸素(脱気)(2.1ppm)の殺菌乳についてサルファイド類の面積値(ジメチルジサルファイド(DMDS)、及びジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値)を示した。
サルファイド類の面積値は、前記した通りの方法で測定した。
低酸素(脱気)(2.1ppm)の殺菌乳のサルファイド類の面積値と、未調整の殺菌乳のサルファイド類の面積値を以下に比較した。
ジメチルジサルファイド(DMDS)の面積値では、低酸素(脱気)(2.1ppm)の殺菌乳が未調整の殺菌乳に比べて低い数値となった。
ジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値では、低酸素(脱気)(2.1ppm)の殺菌乳が未調整の殺菌乳と同等の数値となった。
低酸素(脱気)(2.1ppm)の殺菌乳のサルファイド類の面積値は、未調整の殺菌乳のサルファイド類の面積値に比べて全体的に低い数値であった。
前記した実施例の結果を合わせて考えると、真空の雰囲気で脱気する方法、不活性ガスで酸素を置換する方法等の、溶存酸素濃度を低くする方法に関係なく、原料乳の溶存酸素濃度を低くすることにより、サルファイド類の生成を抑制できると言える。
また、原料乳を開放状態としても、溶存酸素が5ppm以上に上昇する前に殺菌処理をすれば、同様に加熱臭を抑制する効果が得られると考えられる。
原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳直後に溶存酸素濃度を低下させ、開放容器で保持した場合、密閉容器で保持した場合の溶存酸素濃度の経時変化を示したグラフ。
原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳直後に溶存酸素濃度を低下させ、開放容器で保持した場合、密閉容器で保持した場合の豆臭の経時変化を示したグラフ。
原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳直後に溶存酸素濃度を低下させ、開放容器で保持した場合、密閉容器で保持した場合のヘキサナール濃度の経時変化を示したグラフ。
原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳直後に溶存酸素濃度を低下させた場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を低下させた場合、搾乳から48時間経過後に溶存酸素濃度を低下させた場合の溶存酸素濃度の経時変化を示したグラフ。
原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳直後に溶存酸素濃度を低下させた場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を低下させた場合、搾乳から48時間経過後に溶存酸素濃度を低下させた場合のヘキサナール濃度の経時変化を示したグラフ。
自発性酸化しやすいとされる原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳直後に溶存酸素濃度を0.8ppmに低下させた場合の溶存酸素濃度の経時変化を示したグラフ。
自発性酸化しやすいとされる原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳直後に溶存酸素濃度を0.8ppmに低下させた場合のヘキサナール濃度の経時変化を示したグラフ。
自発性酸化しにくいとされる原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を2.0ppmに低下させた場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を5.0ppmに低下させた場合の溶存酸素濃度の経時変化を示したグラフ。
自発性酸化しにくいとされる原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を2.0ppmに低下させた場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を5.0ppmに低下させた場合のヘキサナール濃度の経時変化を示したグラフ。
自発性酸化しやすいとされる原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を2.1ppmに低下させた場合のヘキサナール濃度の経時変化を示したグラフ。
自発性酸化しにくいとされる原料乳の溶存酸素濃度を調整しなかった場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を2.1ppmに低下させた場合のヘキサナール濃度の経時変化を示したグラフ。
原料乳の溶存酸素濃度を調整せず、加熱処理した場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を2.1ppm及び、5.0ppmに低下させ、そのまま加熱処理した場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を2.0ppm及び、5.0ppmに低下させ、そのまま密閉状態で24時間保持した後に、加熱処理した場合のヘキサナール濃度を示したグラフ。
原料乳の溶存酸素濃度を調整せず、加熱処理した場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を2.1ppm及び、5.0ppmに低下させ、そのまま加熱処理した場合、搾乳から24時間経過後に溶存酸素濃度を2.0ppm及び、5.0ppmに低下させ、そのまま密閉状態で24時間保持した後に、加熱処理した場合の加熱臭を示したグラフ。
原料乳の溶存酸素濃度を調整せず、加熱処理した殺菌乳、低酸素・2.0ppmの殺菌乳、低酸素・5.0ppmの殺菌乳、未調整・保持の殺菌乳、低酸素・2.0ppm・保持の殺菌乳、低酸素・5.0ppm・保持の殺菌乳についてサルファイド類の面積値(ジメチルジサルファイド(DMDS)、及びジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値)を示したグラフ。
原料乳の溶存酸素濃度を調整せず、加熱処理した殺菌乳、低酸素・搾乳直後の殺菌乳、低酸素・搾乳24時間経過後の殺菌乳、低酸素・搾乳48時間経過後の殺菌乳の殺菌乳についてサルファイド類の面積値(ジメチルジサルファイド(DMDS)、及びジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値)を示したグラフ。
原料乳の溶存酸素濃度を調整せず、加熱処理した殺菌乳、低酸素(脱気)(2.1ppm)の殺菌乳についてサルファイド類の面積値(ジメチルジサルファイド(DMDS)、及びジメチルトリサルファイド(DMTS)の面積値)を示したグラフ。