JP5002878B2 - 共重合ポリエステル - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、異物が少なく透明性及び静電密着性に優れた共重合ポリエステルに関する。本発明の共重合ポリエステルは、それ単独でフィルム、シート、化粧板、建材等として使用できるだけでなく、ポリエチレンテレフタレート(PET)等の他のポリマーへのブレンド成分として使用することによって、他のポリマーの透明性や機械的性質の改質ができる。
【0002】
【従来の技術】
PETに代表されるポリエステルは、優れた機械的性質、耐熱性、電気絶縁性、耐薬品性などを有するため、フィルム、シート、繊維、ボトル、エンジニアリングプラスチック等の素材として広汎に使用されている。
【0003】
フィルム用途だけで見ても、ポリエステルは、包装用途、写真感材用途、電機用途、磁気テープなどの広い分野で使用されている。通常、ポリエステルのフィルムは、ポリエステルを溶融押出した後延伸して得られる。
【0004】
この場合、フィルム品質の面では、厚みの均一性が極めて重要な特性でありこの特性をいかにして確保するか、及び、生産性の面では、生産性がキャスティング速度に直接依存するため、生産性向上のためにキャスティング速度をいかにして高めるか、が重要な課題となる。
【0005】
この課題を解決するためには、押出口金から溶融押出したシート状物を回転冷却ドラム面で急冷する際に、該シート状物とドラム表面との密着性を高めることが必要となる。このシート状物とドラム表面の密着性を高める方法として、押出口金と回転冷却ドラムの間にワイヤー状の電極を設けて高電圧を印加し、未固化のシート状物面に静電気を析出させて、該シートを冷却体表面に密着させながら急冷する方法(静電密着キャスト法)が有効である。
【0006】
静電密着キャスト法を効果的に行うには、とりもなおさず、シート状物とドラム表面との静電密着性を高めることが必要であり、そのためには、シート状物表面にいかに多くの電荷量を析出させるかが重要である。電荷量を多くするためには、ポリエステルを改質してその比抵抗を低くすることが有効であり、多大の努力が払われている。
【0007】
例えば、特公平3−54129号公報には、PET製造時に、特定量のナトリウムもしくはカリウム化合物と、マグネシウム原子とリン原子の原子数比が特定範囲の値となるようにマグネシウム化合物とリン化合物とを加えることで比抵抗を低くすることが開示されている。また、同号公報には、マグネシウム化合物、ナトリウム化合物及びリン化合物の添加時期を特定することで、触媒に起因する異物を減少させ、フイルムの品質が向上することが開示されている。
【0008】
一方、グリコール成分として1,4−シクロヘキサンジメタノールを共重合したポリエステルは、特表2000−504770号公報に開示されているように透明性と明度に優れることで注目されている。ところが、該共重合ポリエステルもPET同様ポリエステルであることから、比抵抗値は高く、フイルムの品質及び生産性の面から静電密着性を向上させるための改質は不可欠である。しかしながら、CHDMをPETに共重合した場合、触媒に対する親和性が悪くなる傾向にあり触媒金属にもとづく異物が増加したり、また、静電密着性の発現が困難となり、PETに適用された方法をそのまま採用しても、その効果は期待できない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の目的は、それ単独でフイルム、シート、化粧板、建材用途に使用できるだけでなく、他ポリマーの改質にも適した異物が少なく、しかも透明性に優れかつ静電密着性が改良された共重合ポリエステルを提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討し、共重合ポリエステルにおける1,4−シクロヘキサンジメタノールの共重合比、アルカリ金属化合物の含有量、及び含有されるアルカリ土類金属化合物とリン化合物と原子数比に着目し、静電密着性が著しく改善され、異物が少なく、しかも透明性に優れる共重合ポリエステルが得られることを見い出し、本発明に至った。
【0011】
本発明は、1種又は複数種の酸成分と複数種のグリコール成分とから構成される共重合ポリエステルであって、
主たる酸成分がテレフタル酸であり、
グリコール成分の1種が1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)であり、グリコール成分にはエチレングリコールが含まれ、1,4−シクロヘキサンジメタノールの全グリコール成分に対する共重合比が23〜78モル%の範囲にあり、
アルカリ金属化合物が金属原子(M1 )の量として5≦M1 ≦100ppm含有され、アルカリ土類金属化合物が金属原子(M 2 )の量として40≦M 2 ≦400ppm含有され、つリン化合物が前記アルカリ土類金属化合物の金属原子(M2 )とリン化合物のリン原子(P)との原子数比(M2 /P)として1.2≦M2 /P≦5であるように含有されていることを特徴とする共重合ポリエステルである。
【0013】
【発明の実施の形態】
(共重合ポリエステルの構成成分)
本発明の共重合ポリエステルを構成するグリコール成分の1種は1,4−シクロヘキサンジメタノール(以下において、CHDMと記すことがある)であり、全グリコール成分の20〜80モル%がCHDMであることが肝要である。CHDMの共重合比がこの範囲外となると、ポリエステルの結晶化が起り易くなり、本発明の共重合ポリエステルの特徴の一つである透明性が低下する。この傾向は、化粧板や建材など成形品の厚みが大きくなると著しくなり、共重合ポリエステルの用途が制限され不利となる。CHDMの望ましい共重合比は23〜78モル%であり、更に望ましい共重合比は25〜75モル%である。CHDMの望ましい共重合比により、より透明性に優れた共重合ポリエステルとなる。
【0014】
CHDM以外のグリコール成分としては、エチレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコールなどを適用することができる。これらのうち、とりわけ、価格、物性の点でエチレングリコールの使用が望ましい。また、CHDM以外のグリコール成分を複数種用いてもよい。
【0015】
本発明の共重合ポリエステルを構成する酸成分としては、テレフタル酸、テレフタル酸のエステルが望ましく、必要に応じて、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ビフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸を使用することができる。
【0016】
(アルカリ金属化合物)
本発明の共重合ポリエステルは、アルカリ金属化合物を微量に含有する。アルカリ金属化合物は、その単独使用では静電密着性の向上効果は小さいが、後述するアルカリ土類金属化合物及びリン化合物と組み合わせることによって静電密着性が著しく改善される。
【0017】
その作用機構は明確でないが、アルカリ金属、アルカリ土類金属、リン化合物、オリゴマーとの間で何らかの錯体を形成することによって、静電密着性が高められると考えられる。
【0018】
静電密着性向上に必要なアルカリ金属化合物の含有量は、アルカリ金属原子(M1 )の量として5〜100ppm(重量)である。M1 の量が5ppm未満では静電密着性向上効果は小さく、逆に100ppmを超えるM1 の量のアルカリ金属化合物を使用しても、使用量に見合う静電密着性改善効果はなく、むしろ異物生成など負の効果が大きくなる。アルカリ金属化合物の望ましい含有量は、M1 の量として6〜90ppm、更に望ましい含有量は7〜80ppmである。共重合ポリエステル中におけるアルカリ金属化合物の含有量は、反応系へのアルカリ金属化合物の添加量と一致する。
【0019】
アルカリ金属化合物の金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、アルカリ金属化合物としては、これら金属の水酸化物、酢酸塩、脂肪族カルボン酸塩、炭酸塩、アルコキサイド等が挙げられる。使用に適したアルカリ金属化合物としては、具体的に、水酸化リチウム、酢酸リチウム、炭酸リチウム、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、ナトリウムエトキシド、水酸化カリウム、酢酸カリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。これらのうち、とりわけ酢酸ナトリウムの使用が望ましい。これらアルカリ金属化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
(アルカリ土類金属化合物)
本発明の共重合ポリエステルは、アルカリ土類金属化合物を微量に含有する。アルカリ土類金属化合物は、静電密着性に対して重要な役割を果す。しかしながら、一方ではその量及び製造条件によっては異物生成の原因となることがあり、その処方には注意が肝要である。
【0021】
アルカリ土類金属化合物は、アルカリ金属化合物及びリン化合物と組み合わせることによって、静電密着性の大きな改善効果を示す。アルカリ土類金属化合物の含有量は、アルカリ土類金属原子(M2 )の量として40〜400ppm(重量)の範囲が好ましい。M2 の量が40ppm未満では静電密着性向上効果が小さく、逆に400ppmを超えるM2 の量のアルカリ土類金属化合物を使用しても、使用量に見合う静電密着性改善効果はなく、むしろ異物生成や着色など負の効果が大きくなる傾向にある。アルカリ土類金属化合物の望ましい含有量は、M2 の量として50〜350ppm、更に望ましい含有量は60〜300ppmの範囲である。共重合ポリエステル中におけるアルカリ土類金属化合物の含有量は、反応系へのアルカリ土類金属化合物の添加量と一致する。
【0022】
アルカリ土類金属化合物の金属としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等が挙げられ、アルカリ土類金属化合物としては、これら金属の水酸化物、酢酸塩、脂肪族カルボン酸塩等が挙げられる。使用に適したアルカリ土類金属化合物としては、具体的に、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウム、酢酸ストロンチウム、酢酸バリウムなどが挙げられる。これらのうち、酢酸マグネシウムの使用が望ましい。これらアルカリ土類金属化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0023】
(リン化合物)
本発明の共重合ポリエステルは、リン化合物を微量に含有する。リン化合物は、それ自体では静電密着性向上の効果はない。ところが、アルカリ金属化合物及びアルカリ土類金属化合物と組み合わせることによって、静電密着性は著しく改善される。
【0024】
その理由は明確ではないが、共重合ポリエステル製造においてリン化合物を添加することによって、異物生成が減少することから、電荷量を増加させる効果が考えられる。共重合ポリエステル製造におけるリン化合物の添加量は、P原子として例えば60〜500ppm(重量)、望ましくは65〜450ppm、更に望ましくは70〜400ppmである。リン化合物の添加量がP原子として60ppm未満では、静電密着性に対する効果が小さいだけでなく、異物生成量が増加する傾向等があり好ましくない。逆に、P原子として500ppmを超える量のリン化合物を添加しても、その量に見合うだけの静電密着性改善効果や異物生成の減少効果はなく、むしろ、共重合ポリエステルの物性にとって好ましくないジエチレングリコールの生成を促進するなど悪影響が大きくなる傾向にある。
【0025】
共重合ポリエステル中におけるリン化合物の含有量は、反応系へのリン化合物の添加量よりも通常小さくなる。リン化合物は、その種類や、重縮合反応の設備及び条件(温度、減圧度等)によっても異なるが、重縮合反応中に一部が飛散して、添加した量の60〜85%程度が残存して共重合ポリエステル中に含有される。例えば、後述する本実施例での条件では、トリメチルホスフェートの場合には約67%が残存し、リン酸の場合には約80%が残存する。従って、反応系へのリン化合物の添加量は、共重合ポリエステル中におけるリン化合物の目的とする含有量に応じて、適宜決定するとよい。
【0026】
リン化合物としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、アルキル又はアリル置換ホスホン酸及びそのエステル等が挙げられる。使用に適したリン化合物としては、具体的に、リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、亜リン酸、次亜リン酸、メチルホスホン酸、アリルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチルエステル等が挙げられる。これらのうち、リン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェートの使用が望ましい。これらリン化合物は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0027】
(M2 /P原子数比)
本発明の共重合ポリエステルは、アルカリ土類金属化合物とリン化合物とを、アルカリ土類金属化合物の金属原子(M2 )とリン化合物のリン原子(P)との原子数比(M2 /P)として1.2≦M2 /P≦5であるように含有する。
リン化合物は、上述したように、重縮合反応中に一部が飛散するので、得られる共重合ポリエステル中に上記M2 /Pの範囲を満たす量のリン化合物が含有されるように、リン化合物の反応系への添加量を調整する。
【0028】
2 /Pは、静電密着性改善と異物生成抑制について非常に重要である。M2 /Pが1.2≦M2 /P≦5の範囲にあれば、静電密着性が改善されると共に異物生成が抑制される。M2 /Pが1.2未満となると、静電密着性は著しく低下する。逆に、M2 /Pが5.0を超えると、静電密着性の改善効果より異物生成の促進や共重合ポリエステルに不必要な着色を与えるなど、負の効果が大きくなり好ましくない。望ましいM2 /Pは1.3〜4.5、更に望ましくは1.4〜4.0の範囲である。
【0029】
(共重合ポリエステルの製造法)
本発明の共重合ポリエステルの製造には、従来公知のいずれの方法も適用することができる。一般的には、エステル交換反応、もしくはエステル化反応によって、まず低重合体をつくり、続いて重縮合反応によって高重合体とする製造プロセスが望ましい。
【0030】
本発明の共重合ポリエステルに含有させるべきアルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物及びリン化合物の添加は、原料投入時からエステル交換反応あるいはエステル交換反応終了後(重縮合反応前)の任意の時点で行うことが可能であるが、金属化合物に起因する異物生成を抑制するという観点から、エステル交換反応終了後に行うことが望ましい。
【0031】
製造設備としては、従来公知のバッチ式、多缶式の連続プロセス等を適用することができるが、生産性の面から連続プロセスが望ましい。また、共重合ポリエステルの製造には、従来公知の重縮合触媒が使用される。一般的には、チタン、アンチモン、ゲルマニウム、スズ、コバルト、マンガン、亜鉛などの金属化合物が使用される。とりわけ、チタン化合物、アンチモン化合物、ゲルマニウム化合物の使用が望ましく、これらの中でも、チタニウムテトラブトキシド、三酸化アンチモン、二酸化ゲルマニウム、酢酸コバルトの使用が望ましい。これら重縮合触媒は単独で使用してもよく、2種以上を併用することも好ましい。
【0032】
【実施例】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。実施例中の部とは、特にことわらないかぎり重量部を意味する。
【0033】
まず、実施例で用いた各種の測定法について説明する。
1.固有粘度(IV)
試料0.1gを精秤し、25mlのフェノール/テトラクロロエタン=3/2(重量比)の混合溶媒に溶解し、オストワルド粘度計で30℃で測定した。
本発明の共重合ポリエステルの好適なIVは、0.4〜1.0dl/gである。IVが0.4dl/g未満では、該共重合ポリエステルから得られる成形体の機械的強度が劣る傾向にあり、逆にIVが1.0dl/gを超えると、溶融粘度が高くなり過ぎて装置的観点から製造が困難となる傾向にある。望ましいIVは、0.45〜0.95dl/g、更に望ましいIVは0.5〜0.9dl/gである。
【0034】
2.熱量(TC)
試料10mgをアルミ製のパンに密封し窒素ガス雰囲気下、昇温速度20℃/minで290℃まで昇温し、同温度で3分間ホールド後、試料パンを液体窒素で急冷した。続いて、急冷した試料パンを再度セットし、昇温速度20℃/minで昇温した時に生じる発熱ピークの発熱量を熱量とした。TC測定には島津製作所(株)製DSE−50を、データ解析には同社製のTA60WSを使用した。
【0035】
TCは、結晶性を表わす指標であることから、本発明の共重合ポリエステルの特徴である透明性の観点からは、この値は小さければ小さいほど有利となる。望ましいTCは10J/g以下、更に望ましいTCは8J/g以下である。TCが10J/gを超えると結晶化し易くなり、共重合ポリエステルの透明性が悪くなる傾向にある。透明性の悪化傾向は、成形体の厚みが大きくなるとともに顕著となり好ましくない。
【0036】
3.異物の評価
共重合ポリエステル試料2gを100mlのフェノール/テトラクロロエタン=3/2(重量比)の混合溶媒に溶解し、これを孔径0.1μmのテフロン製のメンブランフィルターでろ過した。メンブランフィルターを充分に乾燥させた後、走査電子顕微鏡(SEM)−エネルギー分散形X線分析装置にて、フィルター表面に観察される異物に対して元素分析を行なった。日立製作所(株)製S−2500型走査電子顕微鏡及び堀場製作所(株)製EMAX−3000型エネルギー分散形X線分析装置を使用した。異物の主たるものは、マグネシウムのカルボン酸塩あるいはリン酸塩であった。
【0037】
共重合ポリエステル試料中に含まれる異物の量を、SEMでの観察から、無、微少、少、多、の4段階に評価した。無が最も好ましいが、微少は実用的レベルである。図3に示す比較例4のSEM観察条件(×1,000 倍)と同一の条件において、
無:添加金属に基づく粒子は全然観察されない。
微少:添加金属に基づく粒子が数個程度観察される。
少:添加金属に基づく粒子が数10個程度観察される。
多:添加金属に基づく粒子が多数観察される。
【0038】
4.溶融比抵抗値(Si)
275℃で溶融した共重合ポリエステル中に2枚の電極板をおき、120Vの電圧を印加した時の電流値(io)を測定し、比抵抗値Siを次式により求めた。
Si(Ω・cm)=(A/I)×(V/io)
ここで、A:電極面積(cm2 )、I:電極間距離(cm)、V:電圧(V)である。
【0039】
Siは、静電密着性に関わる指標であることから、この値の大小によって、フイルム製膜時のキャスティング速度が異なり、生産性が影響される。望ましいSi値は0.7×108 Ω・cm以下、更に望ましいSi値は0.6×108 Ω・cm以下である。Si値が0.7×108 Ω・cmを超えると、静電密着性が著しく悪化して、キャスティング速度が小さくなり、生産性が大きく低下する。
【0040】
5.キャスティング速度
押出し機の口金部と冷却ドラムとの間にタングステンワイヤー製の電極を設け、電極とキャスティングドラム間に10〜15kVの電圧を印加して、290℃で溶融押出し、厚さ100μmのフィルム原反を得た。このフィルム原反の表面を肉眼で観察し、ピンナーバブルの発生が起り始める時点をキャスティング速度(m/min)とした。キャスティング速度は、生産性の点から大きいほど望ましい。
【0041】
6.ヘイズ
共重合ポリエステルから、名機製作所(株)製M−150C−DM射出成形機を使用して、290℃、金型温度15℃の条件で厚さ2〜11mmの段付成形板を成形した。段付成形板の厚さ5mmの部位について、ヘイズメーター(日本電色(株)製、Model NDH2000)にてヘイズ(%)を測定した。
【0042】
7.元素分析
以下に示す方法で元素分析を行ない、共重合ポリエステル試料中の各元素量を定量した。
(1)Naの分析
試料を白金ルツボにて灰化分解し、6mol/L塩酸を加えて蒸発乾固した。1.2mol/L塩酸で溶解し、原子吸光(島津製作所製、AA−640−12)で定量した。
【0043】
(2)Mgの分析
試料を白金ルツボにて灰化分解し、6mol/L塩酸を加えて蒸発乾固した。1.2mol/L塩酸で溶解し、ICP発光分析(島津製作所製、ICPS−2000)で定量した。
【0044】
(3)Pの分析
試料を炭酸ソーダ共存下において乾式灰化分解するか、硫酸・硝酸・過塩素酸系又は硫酸・過酸化水素水系において湿式分解し、リンを正リン酸とした。次いで、1mol/L硫酸溶液中においてモリブデン酸塩を反応させてリンモリブデン酸とし、これを硫酸ヒドラジンで還元して生ずるヘテロポリ青の830nmの吸光度を吸光光度計(島津製作所製、UV−150−02)で測定して比色定量した。
【0045】
(4)Geの分析
試料2gを白金ルツボにて灰化分解し、10%炭酸水素ナトリウム溶液5mlを加えて蒸発させ、さらに塩酸を加えて蒸発乾固した。電気炉にて400℃から950℃まで昇温し、30分間放置し、融解させた。水10mlに加温溶解させ、ゲルマニウム蒸留装置に移した(水洗7.5ml×2)。塩酸35mlを加え、蒸留して留出液25mlをとった。その中から適当量を分取し、最終濃度1〜1.5mol/Lとなるように塩酸を加えた。0.25%ポリビニルアルコール溶液2.5ml、1%セチルトリメチルアンモニウムクロライド溶液2.5ml及び0.04%フェニルフルオロン(2,3,7−トリヒドロキシ−9−フェニル−6−フルオロン)溶液5mlを添加し、水にて25mlとした。Geとの黄色の錯体を形成させ、505nmの吸光度を吸光光度計(島津製作所製、UV−150−02)で測定して比色定量した。
【0046】
(5)Sbの分析
試料を硫酸・過酸化水素水系において湿式分解し、亜硝酸ナトリウムを加えてSb5+とし、ブリリアントグリーンを添加してSbとの青色の錯体を形成させ、トルエンで抽出して625nmの吸光光度計(島津製作所製、UV−150−02)で測定して比色定量した。
【0047】
(6)Tiの分析
試料を白金ルツボにて灰化分解し、硫酸・硫酸水素カリウムを加え、加熱溶融する。2mol/L硫酸に溶解させた後、過酸化水素水を添加し、黄色の錯体を形成させ、420nmの吸光度を吸光光度計(島津製作所製、UV−150−02)で測定して比色定量した。
【0048】
(7)Coの分析
Mgの分析に準じて行った。
【0049】
[実施例1]
エステル化反応釜に、57036部のテレフタル酸(TPA)、35801部のエチレングリコール(EG)及び15843部の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)を仕込み、0.25MPaに調圧し、220℃から240℃の反応温度で120分間エステル化反応を行なった。次いで、反応釜内の圧を常圧とし、酢酸マグネシウム・4水塩132.39部、酢酸ナトリウム5.35部、酢酸コバルト・4水塩6.34部、トリメチルホスフェート61.5部及びチタニウムテトラブトキシド8部を加え、10分間攪拌後、反応系を徐々に減圧として、75分間で0.5hPaとした。この間に反応温度を280℃まで昇温させた。同温度で溶融粘度が7000dPaとなるまで40分間重合反応を続け、その後、ストランド状で水中へ吐出し、実施例1の共重合ポリエステルを得た。
【0050】
得られた共重合ポリエステルについて、上記の各測定を行った。共重合ポリエステル中に、Mgは200ppm、Pは添加量の67%が残存し116ppm含まれていた。従って、Mg/P原子数比は2.19であった。測定結果を表1に示す。
【0051】
[実施例2〜5、7、8、及び比較例1〜10]
共重合ポリエステルの組成を表1に示すように変更し、酢酸ナトリウムの添加量、酢酸マグネシウムの添加量、リン化合物の種類と添加量、触媒の種類と添加量を変更した以外は、実施例1と全く同様に重合し、それぞれの共重合ポリエステルを得た。測定結果を表1に示す。
【0052】
[実施例6]
エステル化反応釜に、59109部のジメチルテレフタレート(DMT)、28534部の1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、16338部のエチレングリコール(EG)及び16部のチタニウムテトラブトキシドを仕込み、反応によって生成するメタノールを留去しながら、125℃から240℃までを120分間かけて昇温し、エステル交換反応を終了した。この時点で2.675部の酢酸ナトリウム、120.65部の酢酸マグネシウム・4水塩、7.93部の酢酸コバルト・4水塩及び79.3部のトリエチルホスフェートを加えた後、実施例1と同様に重合して共重合ポリエステルを得た。測定結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
Figure 0005002878
【0054】
表1において、TPA:テレフタル酸、IPA:イソフタル酸、DMT:ジメチルテレフタレート、CHDM:1,4−シクロヘキサンジメタノール、EG:エチレングリコール、Na−OAc:酢酸ナトリウム、Mg−OAc:酢酸マグネシウム・4水塩、Ti:チタニウムテトラブトキシド、Sb:三酸化アンチモン、Ge:二酸化ゲルマニウム、Co:酢酸コバルト・4水塩、TMPA:トリメチルホスフェート、TEPA:トリエチルホスフェートをそれぞれ表す。
【0055】
異物の評価について、代表例として実施例4のSEM写真(×500 倍)を図1に、元素分析チャートを図2に示す。また、比較例4のSEM写真(×1,000 倍)を図3に、元素分析チャートを図4に示す。
実施例4の試料には、金属にもとづく異物が無いのに対し、比較例4にはマグネシウムとリンに起因する異物が多量に存在する。これらの異物は、成形・加工時のフィルター詰まりの原因となったり、フイルムやシートなどでは、フィッシュアイの原因物質となるなど悪影響が大きい。
【0056】
表1より、実施例1〜8の共重合ポリエステルはいずれも、異物が無いか又は非常に少なく、ヘイズ値が小さく透明性に優れ、溶融比抵抗値が小さく静電密着性に優れていた。従って、大きなキャスティング速度が得られ、生産性に優れることが分かった。
【0057】
一方、比較例1では、酢酸マグネシウム・4水塩及びリン化合物を添加しなかったので、溶融比抵抗値が大きく静電密着性に劣っていた。比較例2ではナトリウム含量が少ないため、比較例3、5、6ではM2 /P比が小さいため、溶融比抵抗値が大きく静電密着性に劣っていた。比較例4ではM2 /P比が大きいため、異物が多く透明性に非常に劣っていた。比較例7、8ではCHDMの共重合比が本発明の範囲外であり、結晶化が起こりやすく、透明性に非常に劣っていた。比較例9ではナトリウム含量が多いため、異物が多く透明性に非常に劣っていた。比較例10では、リン化合物を添加しなかったので、異物が多く透明性に非常に劣り、溶融比抵抗値が大きく静電密着性にも劣っていた。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、共重合ポリエステルを構成するグリコール成分の1,4−シクロヘキサンジメタノールを特定共重合比とし、かつ、特定量のアルカリ金属化合物を含有させ、アルカリ土類金属化合物及びリン化合物を特定比率で含有させることによって、異物が少なく、透明性及び静電密着性に優れた共重合ポリエステルが提供される。
【0059】
本発明の共重合ポリエステルは、それ単独でフィルム、シート、化粧板、建材等として使用できるだけでなく、例えばPET等他のポリマーへのブレンド成分として用いることにより、他のポリマーの透明性や機械的性質の改良が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施例4のSEM写真である。
【図2】 実施例4の元素分析チャートである。
【図3】 比較例4のSEM写真である。
【図4】 比較例4の元素分析チャートである。

Claims (3)

  1. 1種又は複数種の酸成分と複数種のグリコール成分とから構成される共重合ポリエステルであって、
    主たる酸成分がテレフタル酸であり、
    グリコール成分の1種が1,4−シクロヘキサンジメタノール(CHDM)であり、グリコール成分にはエチレングリコールが含まれ、1,4−シクロヘキサンジメタノールの全グリコール成分に対する共重合比が23〜78モル%の範囲にあり、
    アルカリ金属化合物が金属原子(M1 )の量として5≦M1 ≦100ppm含有され、アルカリ土類金属化合物が金属原子(M 2 )の量として40≦M 2 ≦400ppm含有され、つリン化合物が前記アルカリ土類金属化合物の金属原子(M2 )とリン化合物のリン原子(P)との原子数比(M2 /P)として1.2≦M2 /P≦5であるように含有されていることを特徴とする共重合ポリエステル。
  2. アルカリ金属化合物の金属原子(M 1 )は、リチウム、ナトリウム及びカリウムからなる群から選ばれる、請求項1に記載の共重合ポリエステル。
  3. アルカリ土類金属化合物の金属原子(M 2 )は、マグネシウムである、請求項1又は2に記載の共重合ポリエステル。
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