(実施形態1)
本発明に係る高周波加熱装置は、加熱室に収納された被加熱物を加熱する高周波加熱装置であって、設定された周波数の高周波電力を発生する少なくとも一つの高周波電力発生部と、前記高周波電力発生部で発生された高周波電力の位相を変化させる可変移相部と、前記可変移相部で位相が変化された高周波電力を前記加熱室に放射する放射部、および、前記放射部から放射された高周波電力の一部であって前記加熱室から前記放射部へ入射する逆流電力を検出する逆流電力検出部とを各々備えた複数の高周波電力ユニットと、前記高周波電力発生部に周波数を設定し、かつ、前記可変移相部に移相量を設定する制御部とを備え、前記逆流電力検出部は、前記制御部により前記高周波電力発生部に設定された周波数に基づいて、一の前記高周波電力ユニットの放射部から放射される高周波電力の一部が反射して当該一の前記高周波電力ユニットの放射部へ入力される反射による逆流電力である反射波の振幅および位相と、他の前記高周波電力ユニットの放射部から放射される高周波電力の一部が前記一の前記高周波電力ユニットの放射部へ入力される逆流電力であるスルー波の振幅および位相とを検出し、前記制御部は、前記高周波電力発生部に複数の周波数を順次設定し、設定した周波数ごとに各々の前記高周波電力ユニットの前記逆流電力検出部に前記反射波の振幅および位相と前記スルー波の振幅および位相とを検出させ、検出された複数の前記反射波の振幅および位相と前記スルー波の振幅および位相とに基づいて、被加熱物を加熱する際の、前記高周波電力発生部に発生させる高周波電力の周波数および前記可変移相部における移相量を決定し、決定した周波数および移相量を前記高周波電力発生部および前記可変移相部に設定する。
以下、本発明の実施形態1を、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の実施形態1における高周波加熱装置の構成を示すブロック図である。
同図に示す高周波加熱装置100は、加熱室に収納された被加熱物を加熱する高周波加熱装置であって、制御部110と、高周波電力発生部120と、分配部130と、第1の高周波電力ユニット140aと、第2の高周波電力ユニット140bと、第3の高周波電力ユニット140cと、第4の高周波電力ユニット140dと、放射部150a〜150dとを備えている。以降、各高周波電力ユニット(第1の高周波電力ユニット140a、第2の高周波電力ユニット140b、第3の高周波電力ユニット140cおよび第4の高周波電力ユニット140d)を特に区別しない場合は、高周波電力ユニット140と記載する。また、第1の高周波電力ユニット140a、第2の高周波電力ユニット140b、第3の高周波電力ユニット140cおよび第4の高周波電力ユニット140dをそれぞれ、高周波電力ユニット140a、高周波電力ユニット140b、高周波電力ユニット140cおよび高周波電力ユニット140dと記載する場合がある。なお、図1において、高周波加熱装置100は、4つの高周波電力ユニットを有しているが、高周波電力ユニットの数はこれに限定されるものではない。
制御部110は、放射部150a〜150dから放射される複数の高周波電力の周波数、位相および出力レベルを制御する。具体的には、制御部110は、高周波電力発生部120に周波数を指示する周波数制御信号Cfreqを出力し、各高周波電力ユニット140へ当該高周波電力ユニット140で生成される高周波電力の移相量を指示する移相量制御信号Cps1〜Cps4および当該高周波電力ユニット140における増幅利得を示す増幅利得制御信号Camp1〜Camp4を出力する。また、各高周波電力ユニット140における検出結果を示す同相検波信号I(1)〜I(4)および直交検波信号Q(1)〜Q(4)から、最適加熱条件を決定する。
高周波電力発生部120は、制御部110により設定された周波数を有する高周波電力を発生する周波数可変の電力発生部である。具体的には、制御部110から入力される周波数制御信号Cfreqに応じた周波数を有する高周波電力を発生する、例えばPLL(Phase Locked Loop)回路である。
図2は、高周波電力発生部120の具体的な構成を示すブロック図である。
同図に示す高周波電力発生部120は、発振部121と、位相同期ループ122と、増幅部123とを有している。
発振部121は、位相同期ループ122から出力される電圧に応じた周波数を有する高周波信号を生成する、例えばVCO(Voltage Controlled Oscillator)である。
位相同期ループ122は、発振部121から発生される高周波電力の周波数と、制御部110から入力された、設定周波数を示す周波数制御信号Cfreqとが同一周波数となるように出力電圧を調整する。増幅部123は、発振部121で生成された高周波電力を増幅する、例えばトランジスタである。
このように、高周波電力発生部120は、制御部110により設定された周波数を有する高周波電力を発生する。なお、図2では、増幅部123は1つの電力増幅器で示されているが、高出力かつ大電力の出力電力を得るために、増幅部123を複数の電力増幅器で構成してもよい。この場合、複数の電力増幅器からなる増幅部123は、これら複数の電力増幅器を多段直列接続する、又は、並列的に接続して出力電力を合成することにより構成されてもよい。
高周波電力発生部120で発生された高周波電力は、分配部130により4分配され、高周波電力ユニット140a〜140dに入力される。
高周波電力ユニット140a〜140dは、それぞれ、分配部130を介して入力された高周波電力の位相を、制御部110により設定された移相量で変化させ、位相を変更した高周波電力を制御部110により設定された増幅利得で増幅し、対応する放射部150a〜150dを介して加熱室へ放射する。具体的には、この高周波電力ユニット140a〜140dは、制御部110から入力された移相量を示す移相量制御信号Cps1〜Cps4に応じて高周波電力の位相を変化させる。また、制御部110から入力された増幅利得を示す増幅利得制御信号Camp1〜Camp4に応じて、位相を変化した高周波電力を増幅する。
また、高周波電力ユニット140a〜140dは、加熱室から対応する放射部150a〜150dを介して入射した逆流電力を検出する。具体的には、放射部150a〜150dを介して入力された逆流電力の振幅および位相を検出するための信号である同相検波信号I(1)〜I(4)および直交検波信号Q(1)〜Q(4)を制御部110へ出力する。この高周波電力ユニット140a〜140dの詳細な構成については後述する。
放射部150a〜150dは、高周波電力ユニット140a〜140dにそれぞれ1対1に対応して設けられ、対応する高周波電力ユニット140a〜140dで生成された高周波電力を加熱室へ放射し、加熱室から入射した逆流電力を受信する、例えばアンテナである。なお、図1において、放射部150a〜150dは、高周波電力ユニット140a〜140dとは別に描かれているが、これはあくまで一例であり、高周波電力ユニット140a〜140dに放射部150a〜150dが含まれていてもよい。
次に、高周波電力ユニット140a〜140dの詳細な構成について説明する。
図1に示すように、第1の高周波電力ユニット140aは、分配部141a、可変移相部142a、高周波電力増幅部143a、方向性結合部144aおよび直交検波部145aを有する。第2の高周波電力ユニット140bは、分配部141b、可変移相部142b、高周波電力増幅部143b、方向性結合部144bおよび直交検波部145bを有する。第3の高周波電力ユニット140cは、分配部141c、可変移相部142c、高周波電力増幅部143c、方向性結合部144cおよび直交検波部145cを有する。第4の高周波電力ユニット140dは、分配部141d、可変移相部142d、高周波電力増幅部143d、方向性結合部144dおよび直交検波部145dを有する。
なお、高周波電力ユニット140a〜140dは、それぞれ同様の構成を有する。つまり、分配部141a〜141d、可変移相部142a〜142dと、高周波電力増幅部143a〜143dと、方向性結合部144a〜144dと、直交検波部145a〜145dとはそれぞれ、同様の構成を有する。よって、以下では第1の高周波電力ユニット140aについてのみ説明するが、第2の高周波電力ユニット140b、第3の高周波電力ユニット140cおよび第4の高周波電力ユニット140dについても、第1の高周波電力ユニット140aと同様の処理が行われる。また、以下では、分配部141a〜141dと、可変移相部142a〜142dと、高周波電力増幅部143a〜143dと、方向性結合部144a〜144dと、直交検波部145a〜145dとをそれぞれ特に区別せず、分配部141、可変移相部142、高周波電力増幅部143、方向性結合部144および直交検波部145と記載する場合がある。また、放射部150a〜150dを特に区別せず、放射部150と記載する場合がある。また、同相検波信号I(1)〜I(4)と、直交検波信号Q(1)〜Q(4)とを、それぞれ、特に区別せず、同相検波信号Iおよび直交検波信号Qと記載する場合がある。
図3は、第1の高周波電力ユニット140aの具体的な構成を示すブロック図である。なお、同図には、制御部110と、第1の高周波電力ユニット140aと対応する放射部150aも示されている。
同図に示すように、第1の高周波電力ユニット140aは、分配部141と、可変移相部142と、高周波電力増幅部143と、方向性結合部144と、直交検波部145とを備えている。この分配部141、可変移相部142、高周波電力増幅部143、方向性結合部144および放射部150aは、この順序で直列に接続されている。直交検波部145は、分配部141および方向性結合部144に接続されている。なお、方向性結合部144および直交検波部145は、本発明の逆流電力検出部に相当する。
分配部141は、分配部130を介して、高周波電力発生部120から入力された高周波電力を2分配する。この分配部141としては、抵抗分配器、方向性結合器及びハイブリッドカプラのいずれを用いてもよい。
可変移相部142は、分配部141により2分配された高周波電力の位相を、制御部110により設定された移相量で変化させる。具体的には、この可変移相部142は、制御部110から入力される移相量を示す移相量制御信号Cps1に応じて、入力される高周波信号の位相を変化させる。可変移相部142としては、例えば、複数ビットステップ可変型移相器や、連続可変型移相器を用いることができる。
複数ビットステップ可変型移相器(例えば3ビットステップ可変型移相器)は、デジタル制御において用いられ、経路切換えの組み合わせで、ステップ的に数段階の移相量を制御する。移相量は、外部から入力された移相量を示す制御信号である移相量制御信号Cps1に基づいて決定される。
一方、連続可変型移相器は、アナログ電圧制御に用いられ、例えば伝送線を用いたローデッドライン型移相器と、90°ハイブリッドカプラを用いたハイブリッド結合型移相器として知られている。いずれも、バラクタダイオードの逆バイアス電圧を変化させることにより、2つの共振回路での反射位相を変化させ、入力−出力間の挿入移相を変化させる。挿入移相の変化量は外部から入力された移相量を示す制御信号である移相量制御信号Cps1に基づいて決定される。
高周波電力増幅部143は、制御部110から入力される増幅利得制御信号Camp1に応じた増幅利得で、可変移相部142により位相を変えられた高周波電力信号を増幅する。この高周波電力増幅部143は、可変減衰器151と、高周波電力増幅器152とを有しており、可変減衰器151には、制御部110から増幅利得制御信号Camp1が入力されている。なお、図3では、高周波電力増幅器152は1つの電力増幅器からなるように図示されているが、高出力かつ大電力の出力電力を得るために、高周波電力増幅器152は複数の電力増幅器により構成されていてもよい。この場合、複数の電力増幅器からなる高周波電力増幅器152は、これら複数の電力増幅器を多段直列接続する、又は、並列的に接続して出力電力を合成することにより構成されてもよい。
可変減衰器151は、可変移相部142により位相を変化された高周波電力を、制御部110から入力された増幅利得制御信号Camp1に応じた減衰量で減衰する。この可変減衰器151の構成は周知であり、例えば、複数ビットステップ可変型減衰器や、連続可変型減衰器を用いることができる。
複数ビットステップ可変型減衰器(例えば3ビットステップ可変型減衰器)は、デジタル制御に於いて用いられ、FETスイッチのON/OFFや経路切換えの組み合わせで、ステップ的に数段階の減衰量を制御する。減衰量は、外部から入力された減衰量を示す制御信号に基づいて決定される。
一方、連続可変型減衰器は、アナログ電圧制御に用いられ、例えば、PIN接合ダイオードを用いた連続可変型減衰器が知られている。PIN接合ダイオードの逆バイアス電圧を変化させることにより、両極間の高周波抵抗値を変化させて、連続的に減衰量を変化させる。減衰量は、外部から入力された減衰量を示す制御信号に基づいて決定される。
高周波電力増幅器152は、可変減衰器151で減衰された高周波信号を所定の増幅率で増幅する、例えば、トランジスタである。
このように、高周波電力増幅部143は、増幅利得制御信号Camp1により設定される減衰量に応じて入力された高周波電力を減衰し、減衰した高周波電力を所定の増幅率で増幅する。つまり、増幅利得制御信号Camp1により設定される減衰量に応じた増幅利得で、入力された高周波信号を増幅する増幅利得が可変の増幅器である。
なお、可変減衰器151の代わりに、可変利得型増幅器を用いてもよい。この場合、増幅利得は、外部から入力された増幅利得を示す制御信号に基づいて決定される。
方向性結合部144は、放射部150aから高周波電力増幅部143に逆流する電力である逆方向電力の一部を分波して直交検波部145に入力する。また、高周波電力増幅部143で増幅された高周波電力を放射部150aへ出力し、受信側の回路である直交検波部145への、高周波電力増幅部143で増幅された高周波電力の回り込みを防止する。つまり、高周波電力増幅部143で増幅された高周波電力は、方向性結合部144を介して、放射部150aから加熱室へ放射される。この方向性結合部144の具体的な構成は周知である。例えば、方向性結合部144として、方向性結合器を用いてもよいし、サーキュレータやハイブリッドカプラのいずれを用いてもよい。
直交検波部145は、放射部150aから方向性結合部144を介して入力された逆流電力を、高周波電力発生部120で発生された高周波電力を用いて直交検波することにより、当該逆流電力の振幅および位相を検出するための同相検波信号I(1)および直交検波信号Q(1)を検出する。この直交検波部145は、同相検波ミキサー153と、直交検波ミキサー154と、π/2移相器155と、同相出力側低域通過フィルター156および直交出力側低域通過フィルター157とを有しており、同相出力側低域通過フィルター156および直交出力側低域通過フィルター157は、それぞれ、制御部110に接続されている。
π/2移相器155は、分配部141で分配された高周波電力が入力され、入力された高周波電力に対して、同相の同相高周波電力と、π/2だけ位相シフトした直交高周波電力とが生成される。そして、同相高周波電力は同相検波ミキサー153へ、直交高周波電力は直交検波ミキサー154へそれぞれ出力される。なお、図示はしていないが、直交検波部145の検波特性の最適化のために、分配部141と直交検波部145との間に、高周波電力増幅器や固定減衰器、更には低域通過フィルターを設けてもよい。
一方、方向性結合部144で分波された逆流電力である逆流分波電力は、直交検波部145に入力される。直交検波部145に入力された逆流分波電力は、2分配され、それぞれ、同相検波ミキサー153および直交検波ミキサー154へ入力される。なお、図示はしていないが、直交検波部145の検波特性の最適化のために、方向性結合部144と直交検波部145との間に、高周波電力増幅器や固定減衰器、更には低域通過フィルターを設けてもよい。
同相検波ミキサー153は、逆流分波電力をπ/2移相器155から入力された同相高周波電力と乗算することにより検波する。即ち、逆流分波電力を同相高周波電力で同期検波する。この同期検波の結果、即ち、2つの入力信号の乗算結果として同相検波信号I(1)を、同相出力側低域通過フィルター156を介して、制御部110へ出力する。
同様に、直交検波ミキサー154は、逆流分波電力をπ/2移相器155から入力された直交高周波電力と乗算することにより検波する。即ち、逆流分波電力を直交高周波電力で同期検波する。この同期検波の結果、即ち、2つの入力信号の乗算結果として直交検波信号Q(1)を、直交出力側低域通過フィルター157を介して、制御部110へ出力する。
ここで、これら同相出力側低域通過フィルター156および直交出力側低域通過フィルター157は、隣接波電力の干渉を抑圧するために備えられる。従って、加熱処理に使用される予め定められた全ての周波数において、最小となる任意の2点の周波数差に相当する周波数成分を抑圧するように構成されている。
このように、第1の高周波電力ユニット140aは、高周波電力発生部120から分配部130を介して入力された高周波電力を、制御部110から入力される移相量制御信号Cps1に応じた移相量で位相を変化させ、増幅利得制御信号Camp1に応じた増幅利得で増幅させて、放射部150aを介して加熱室へ放射させる。また、加熱室から入射された逆流電力を検波することにより、当該逆流電力の振幅および位相を算出するための同相検波信号I(1)および直交検波信号Q(1)を制御部110へ出力する。
この第1の高周波電力ユニット140aから同相検波信号I(1)および直交検波信号Q(1)が入力された制御部110は、入力された同相検波信号I(1)および直交検波信号Q(1)から、放射部150aを介して第1の高周波電力ユニット140aに入力された逆流電力の振幅および位相を算出する。具体的には、制御部110は、同相検波信号I(1)と直交検波信号Q(1)との2乗平均から逆流電力の振幅を算出し、直交検波信号Q(1)を同相検波信号I(1)で割った値のアークタンジェント(tan−1)から逆流電力の位相を算出する。
制御部110は、以上のような処理を第2の高周波電力ユニット140b、第3の高周波電力ユニット140cおよび第4の高周波電力ユニット140dについても行うことにより、各高周波電力ユニットで検出された逆流電力の振幅および位相を検出する。
以上のような構成により、本実施の形態に係る高周波加熱装置100は、第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dの各々に入力される逆流電力の振幅および位相を個別に検出できる。
なお、制御部110は、可変移相部142a,142b,142c,142d、および高周波電力増幅部143a,143b,143c,143dにそれぞれ接続されている。制御部110は、各可変移相部142a,142b,142c,142dに個別の移相量制御信号Cps1,Cps2,Cps3,Cps4を出力し、各高周波電力増幅部143a,143b,143c,143dに個別の増幅利得制御信号Camp1,Camp2,Camp3,Camp4を出力する。
各可変移相部142a,142b,142c,142dは、制御部110から入力された個別の移相量制御信号Cps1,Cps2,Cps3,Cps4に応じて移相量を変化させる。各高周波電力増幅部143a,143b,143c,143dは、制御部110から入力された個別の増幅利得制御信号Camp1,Camp2,Camp3,Camp4に応じて増幅利得を変化させる。
次に、上述の高周波加熱装置100の動作について説明する。
図4は、図1の高周波加熱装置100の基本的な制御手順を示すフローチャートである。図1の高周波加熱装置100は、制御部110において、以下の処理を行う。
最初に、制御部110は、周波数毎の反射電力およびスルー電力の位相を検出する(ステップS1101)。具体的には、制御部110は、周波数制御信号Cfreqを順次変更することにより、高周波電力発生部120に複数の周波数を順次発生させる。つまり、高周波電力発生部120は、時間的に周波数を切り替えながら、高周波電力を生成する。また、周波数を変更する毎に、実際に高周波電力を放射させた場合の、各高周波電力ユニット140における反射電力およびスルー電力の振幅と位相を検出する。より具体的には、高周波電力発生部120に発生させる高周波電力の周波数を変更する度に、直交検波部145a,145b,145c,145dから出力される同相検波信号I(1)〜I(4)および直交検波信号Q(1)〜Q(4)を取り込む。これにより、各高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける反射電力の振幅と位相およびスルー電力の振幅と位相を個別に検出する。
ここで、「反射電力」とは、一の高周波電力ユニット140の放射部から放射される高周波電力の一部が反射して、一の高周波電力ユニット140の放射部へ入力される反射による逆流電力のことをいう。すなわち、一の高周波電力ユニット140に対応する放射部150から放射される高周波電力の一部が反射して当該一の高周波電力ユニット140に対応する放射部150へ入力される反射による逆流電力を示す。例えば、第1の高周波電力ユニット140における反射電力とは、放射部150aから放射された高周波電力のうち、反射して放射部150aに入射する高周波電力を示す。
「スルー電力」とは、他の高周波電力ユニット140の放射部から放射される高周波電力の一部が、一の前記高周波電力ユニット140の放射部へ入力される通り抜けによる逆流電力のことをいう。すなわち、他の前記高周波電力ユニット140に対応する放射部150から放射される高周波電力の一部が当該一の前記高周波電力ユニット140に対応する放射部150へ入力される逆流電力を示す。例えば、第1の高周波電力ユニット140aにおける第2の高周波電力ユニット140bからのスルー電力とは、放射部150bから放射された高周波電力のうち放射部150aへ入射した高周波電力を示す。
なお、反射電力およびスルー電力は、高周波電力を放射する放射部150と、受信する放射部150との相互関係によってのみ定まり、放射された高周波電力がいかなる経路を通るかは影響しない。つまり、例えば第2の高周波電力ユニット140bから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力は、第2の高周波電力ユニット140bから放射部150bを介して放射された高周波電力のうち、放射部150aに直接到達した高周波電力、加熱室および被加熱物で反射されて放射部150aに到達した高周波電力、および、被加熱物を透過して放射部150aに到達した高周波電力などが含まれる。
以降、「反射電力」と「反射による逆流電力」とは同じ電力を示すものとして説明する。また、「スルー電力」と「通り抜けによる逆流電力」とは同じ電力を示すものとして説明する。なお、反射電力は、本発明の反射波と同義である。また、スルー電力は、本発明のスルー波と同義である。
このように、ステップS1101において周波数毎の反射電力およびスルー電力の振幅および位相を検出した後で、制御部110は、照射効率が最良となる周波数および移相量を決定する(ステップS1102)。具体的には、個々の高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dの反射電力およびスルー電力の実測した振幅および位相に基づいて、最も照射効率が高くなる、高周波電力発生部120に発生させる高周波電力の周波数、および各可変移相部142a,142b,142c,142dにおける移相量の値を計算して決定する。つまり、高周波電力発生部120に発生させる高周波電力の周波数と、可変移相部142aにおける移相量、可変移相部142bにおける移相量、可変移相部142cにおける移相量および可変移相部142dにおける移相量の組み合わせとを計算により決定する。なお、反射電力およびスルー電力の振幅および位相に基づいた周波数と移相量の組み合わせとの決定方法は、後述する。
最後に、制御部110は、ステップS1102において決定された周波数および移相量となるように、高周波電力発生部120の周波数、および可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を制御し、加熱処理を実行する(ステップS1103)。
上述の高周波加熱装置100の構成によれば、高周波電力発生部120の周波数を実際に変化させて高周波電力を放射させた場合に、直交検波部145a,145b,145c,145dにおいて検出された同相検波信号I(1)〜I(4)と直交検波信号Q(1)〜Q(4)とから、高周波電力発生部120の周波数毎の、反射による逆流電力の振幅および位相と通り抜けによる逆流電力の振幅および位相を検出する(求める)ことができる。この得られた周波数毎の反射による逆流電力の振幅と位相および通り抜けによる逆流電力の振幅と位相の値を用いて、高周波電力発生部120の周波数と、各々の可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算する。そして、計算結果から、最も高周波加熱装置100全体の照射効率が良い高周波電力発生部120の周波数の値と、各々の可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の値を決定することができる。
すなわち、本実施形態に係る高周波加熱装置100は、高周波電力発生部120の周波数と、各々の可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量のすべての組み合わせにおいて実際に測定することなく、最低限の実測値から最適な照射効率を計算で求めることができるため、時間がかかる実測を少なくすることができる。これにより、ユーザによる高周波加熱装置100への加熱指示から実際に加熱が始まる前までの高効率の照射を見つけるための準備時間を短くすることができる。
なお、ここでいう照射効率とは、それぞれの高周波電力ユニット140a〜140dから放射部150a〜150dを介して照射(放射)された高周波電力のうち、被加熱物に吸収される電力の比率を表すものである。具体的には、高周波電力ユニット140a〜140dから放射部150a〜150dを介して照射された電力の総和から照射ロスを差し引いた電力を、照射された電力の総和で割った値から得られる。つまり、照射効率が高いとは、各高周波電力ユニット140a〜140dから放射部150a〜150dを介して放射された複数の放射電力のエネルギーのうち、最も多くのエネルギーが被加熱物に吸収されている状態を示す。また、照射ロスは、それぞれの高周波電力ユニット140の放射部から照射された高周波電力のうち、反射電力およびスルー電力を示す。すなわち、被加熱物に吸収されずに何れかの放射部150に吸収されてしまう電力のことを示している。照射ロスの具体的な求め方については後述する。
<反射電力の検出方法>
図5は、本実施形態1による高周波加熱装置100の、反射電力検出の制御手順を示すフローチャートである。
高周波加熱装置100の制御部110は、以下の制御手順により、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける反射電力の検出を行う。
図1に示す高周波加熱装置100は、1つの高周波電力発生部120で発生した高周波電力を、分配部130で4分配し、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dに供給している。従って、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dは全て同一の周波数で動作することになる。
図5に示すように、制御部110は、反射電力を検出しようとする1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)以外の高周波電力ユニット140(例えば、第2,第3,および第4の高周波電力ユニット140b,140c,140d)の出力電力が、反射電力を検出しようとする高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)の反射電力の検出に影響を与えないレベルになるよう制御する(ステップS1201)。具体的には、制御部110は、当該1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140の高周波電力増幅部143に、例えば−30dBを指示することにより、可変減衰器151における減衰量を−30dBに設定する。これにより、当該1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140から放射される高周波電力の出力レベルを、反射電力の検出対象である当該1つの高周波電力ユニット140における逆流電力の検出に影響を与えないレベルまで低減させる。
次に、制御部110は、反射電力を検出しようとする高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)の同相検波信号Iおよび直交検波信号Q(例えば、同相検波信号I(1)および直交検波信号Q(1))を取り込み、反射電力を検出しようとする高周波電力ユニットの逆流電力の振幅と位相とを検出する(ステップS1202)。
このとき、反射電力の検出対象の高周波電力ユニット140以外から放射される高周波電力の出力レベルは検出対象の高周波電力ユニット140から放射される高周波電力の出力レベルと比較して、十分に小さくなっている。よって、反射電力の検出対象の高周波電力ユニット140に入射する高周波電力は、実質的に当該検出対象の高周波電力ユニット140から放射された高周波電力が反射された高周波電力のみとなる。したがって、ステップS1201およびステップS1201により、検出対象の高周波電力ユニット140における反射電力が検出される。
制御部110は、以上の動作を他の高周波電力ユニット140全てについても実行する。言い換えると、全ての高周波電力ユニット140a〜140dにおいて上記の反射電力の検出が完了したか否かを判定し(ステップS1203)、完了した場合(ステップS1203でYes)、この反射電力検出を終了する。一方、全ての高周波電力ユニット140a〜140dにおいて上記の反射電力の検出が完了していない場合(ステップS1203でNo)、別の高周波電力ユニット140を反射電力の検出対象として(ステップS1204)、上記の検出対象とした1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140の出力電圧を下げる処理(ステップS1201)に戻り、引き続き処理を行う。
以上のように、制御部110は、全ての高周波電力ユニット140a〜140dにおける反射電力の振幅と位相とを検出する。
なお、各直交検波部145a,145b,145c,145dにおいて直交検波を行う場合は、検波する高周波電力の周波数を事前に知っておく必要がある。制御部110は、高周波電力発生部120の周波数を設定しているため、各高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dから放射される高周波電力の周波数の情報を有している。この周波数情報を用いることにより、各高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dの反射電力の直交検波だけでなく、他の高周波電力ユニット140からのスルー電力の直交検波もそれぞれの各直交検波部145a,145b,145c,145dを使って可能となる。このように制御部110が各高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dから放射される高周波電力の周波数情報を持つことによって、反射電力の同相検波信号および直交検波信号を取り込むことができ、反射電力の振幅と位相とを検出することができる。なお、スルー電力の同相検波信号および直交検波信号を取り込むときも同様である。
<スルー電力の検出方法>
図6は、本実施形態1による高周波加熱装置100の、スルー電力検出の制御手順を示すフローチャートである。
高周波加熱装置100の制御部110は、以下の制御手順により、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140d間相互のスルー電力の検出を行う。
図6に示すように、制御部110は、まず、任意の1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)のみ高周波電力を出力し、他の高周波電力ユニット140(例えば、第2,第3,第4の高周波電力ユニット140b,140c,140d)の出力電力を、各高周波電力ユニット140における反射電力の検出レベルが充分に小さくなるように制御する(ステップS1301)。
具体的には、制御部110は、当該1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140の高周波電力増幅部143に、例えば−30dBを指示することにより、可変減衰器151における減衰量を−30dBに設定する。これにより、当該1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140における反射電力を、当該1つの高周波電力ユニット140から当該1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140へのスルー電力の検出に影響を与えないレベルまで低減する。例えば、第2の高周波電力ユニット140bの減衰器151bの減衰量を−30dBと設定することにより、第2の高周波電力ユニット140bにおける反射電力を、第1の高周波電力ユニット140aから第2の高周波電力ユニット140bへのスルー電力の検出に影響を与えないレベルまで低減させる。
次に、制御部110は、高周波電力の出力レベルを小さくするように制御した他の高周波電力ユニット140の同相検波信号Iおよび直交検波信号Qを取り込み、他の高周波電力ユニット140における逆流電力の振幅と位相を検出する(ステップS1302)。
ここで、1つの高周波電力ユニット140以外の他の高周波電力ユニット140の出力電力を下げる処理(ステップS1301)において、出力電力(出力レベル)を下げた高周波電力ユニットから放射される高周波電力の出力レベルは、出力レベルを下げていない1つの高周波電力ユニット140から放射される高周波電力の出力レベルと比較して、十分に小さくなっている。よって、当該処理において出力電力を下げた高周波電力ユニット140に入射する高周波電力は、実質的に、出力電力を下げていない当該1つの高周波電力ユニット140から放射された高周波電力のみとなる。したがって、他の各高周波電力ユニット140において逆流電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS1302)により、出力電力を下げていない当該1つの高周波電力ユニット140から出力電力を下げた高周波電力ユニット140へのスルー電力が検出される。
例えば、1つの高周波電力ユニット140以外の他の高周波電力ユニット140の出力電力を下げる処理(ステップS1301)において、第1の高周波電力ユニット140a以外の第2〜第4の高周波電力ユニット140b〜140dの出力電力を下げた場合、他の各高周波電力ユニット140において逆流電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS1302)において、第1の高周波電力ユニット140aから第2〜第4の高周波電力ユニット140b〜dのそれぞれへのスルー電力の振幅および位相が検出される。
制御部110は、以上の動作を全ての高周波電力ユニット140について完了した否かを判定する(ステップS1303)。言い換えると、全ての高周波電力ユニット140a〜140dからのスルー電力を検出したか否かを判定する。完了した場合(ステップS1303でYes)、このスルー電力検出処理を終了する。
一方、完了していない場合(ステップS1303でNo)、別の高周波電力ユニット140を検出対象とし(ステップS1304)、上記の検出対象とした1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140の出力電力を下げる処理(ステップS1301)に戻り、引き続き処理を行う。ここで、検出対象の高周波電力ユニット140とは、検出するスルー電力に相当する高周波電力を放射する高周波電力ユニット140を意味する。つまり、検出対象の高周波電力ユニット140以外の出力電力が下げられることにより、検出対象の高周波電力ユニット140から、出力電力が下げられた各高周波電力ユニット140へのスルー電力が検出される。
以上のように、制御部110は、全ての高周波電力ユニット140a〜140d間における相互のスルー電力の振幅と位相とを検出する。
<プレ・サーチ処理>
次に、上述した反射電力の検出方法およびスルー電力の検出方法を用いて、被加熱物を加熱する際の、高周波電力発生部120に発生させる高周波電力の周波数と、可変移相部142a〜142dにおける移相量の組み合わせを決定する処理について、詳細に説明する。この処理は、図4に示した各ステップのうち、周波数毎の反射電力およびスルー電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS1101)および照射効率が最良となる周波数および移相量を決定する処理(ステップS1102)に相当する。
図7は、本実施形態1による高周波加熱装置100の、本加熱前における最適加熱条件の決定処理(プレ・サーチ処理)の制御手順を示すフローチャートである。
高周波加熱装置100の制御部110は、加熱処理前に、以下の制御手順により、プレ・サーチ処理を行う。
図7に示すように、まず、高周波電力発生部120の周波数を、予め定められたプレ・サーチ用初期周波数(例えば、周波数A0)にするように、高周波電力発生部120の周波数を設定する(ステップS1401)。つまり、高周波電力発生部120に発生させる高周波電力の周波数をプレ・サーチ用初期周波数に設定する。
次に、前述の図5に示した反射電力検出の制御手順により、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力の振幅と位相とを検出する(ステップS1402)。
その後、プレ・サーチ処理において予め定められている全ての周波数において、反射電力の振幅および位相が検出されたか否かを判定する(ステップS1403)。全ての周波数において反射電力の振幅および位相が検出されていない場合(ステップS1403でNo)、言い換えると反射電力の振幅および位相が検出されていない周波数がある場合、以下の処理を行う。制御部110は、高周波電力発生部120に発生させる高周波電力の周波数を、プレ・サーチ用に予め定められた次の周波数(例えば、周波数A1)に設定し(ステップS1404)、上記ステップS1402およびS1403を繰り返す。これにより、制御部110は、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力の振幅と位相とを検出する。
一方、プレ・サーチ用に予め定められた全ての周波数での、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力の振幅と位相との検出が完了した場合(ステップS1403でYes)、続いて、前述したスルー電力検出の制御手順により、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140d間における、相互のスルー電力の振幅と位相とを検出する(ステップS1405)。
その後、プレ・サーチ処理において予め定められている全ての周波数において、相互のスルー電力の振幅および位相が検出されたか否かを判定する(ステップS1406)。全ての周波数においてスルー電力の振幅および位相が検出されていない場合(ステップS1406でNo)、言い換えるとスルー電力の振幅および位相が検出されていない周波数がある場合、以下の処理を行う。制御部110は、上記のステップS1404と同様に、高周波電力発生部120に発生させる高周波電力の周波数を、プレ・サーチ用に予め定められた次の周波数に設定して(ステップS1407)、上記スルー電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS1405)および全ての周波数においてスルー電力の振幅および位相が検出されたか否かを判定する処理(ステップS1406)を繰り返す。
これを繰り返して、プレ・サーチ用に予め定められた全ての周波数での、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140d間における、スルー電力の振幅と位相とを検出する。
なお、実際に加熱に使用する周波数が1MHzステップで決定される場合であっても、予めプレ・サーチ用に定める周波数を、例えば、2MHzステップや5MHzステップなどに設定し、実測する周波数を間引きしてもよい。間引いた分は、実測値を用いて近似補間できる。実測に要する時間に比べて、補間計算に要する時間は無視できるほど極めて短時間である。つまり、実測する周波数を間引くことによりプレ・サーチ処理に要する時間を短縮することもできる。
プレ・サーチ用に予め定められた全ての周波数において、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける反射電力の振幅と位相、および全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140d間における相互のスルー電力の振幅と位相との検出が完了する(ステップS1406でYes)ことによって、各周波数での、各高周波電力ユニット140の反射電力特性、および各高周波電力ユニット140間に於ける相互のスルー電力特性を、振幅と位相を用いて表現するマトリクスが得られる。
なお、プレ・サーチ処理開始からここまでの処理が、図4における周波数毎の反射電力およびスルー電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS1101)に相当する。
図8は、各周波数における各高周波電力ユニットの反射電力および各高周波電力ユニット間におけるスルー電力の振幅および位相を示すマトリクスの一例である。
各高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dの放射部150a,150b,150c,150dを高周波電力の入出力ポートと考えると、このマトリクスは、増幅器やフィルターなどの高周波伝送素子の各ポートの反射特性および各ポート間の伝送特性を表すのに一般的に用いられるSパラメータに相当する。以降、前述したマトリクスを(高周波加熱装置100の)Sパラメータ170と称して説明する。
ここで、得られたSパラメータ170を用いて照射ロスを計算する方法の事例を、図8を用いて説明する。図8では、高周波電力ユニット140を4つ用いた例(例えば、高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dをそれぞれ第1,2,3,4の高周波電力ユニットと定義した場合の事例)である。図8は、プレ・サーチの周波数帯域を2400MHzから2500MHzまでと設定し、この周波数帯域を1MHz間隔でスイープして反射電力とスルー電力の振幅Mと位相θとを検出した結果のSパラメータの例である。Sパラメータの添字が同じ数字の列は、反射電力を示している。例えば、S11は第1の高周波電力ユニット140aの反射電力を示す。Sパラメータの添字が異なる数字の列は、最後の数字の高周波電力ユニット140から最初の数字の高周波電力ユニット140へのスルー電力を示している。例えば、S12は、第2の高周波電力ユニット140bから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力を示す。図8に示すように、各周波数をスイープさせて直交検波することによって、周波数ごとに反射電力およびスルー電力の振幅Mと位相θとで表されるSパラメータが得られる。
例えば、周波数2402MHzのS31は、振幅がM2402.31、位相がθ2402.31で示される。
ここで、各高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dの各周波数における照射ロスは、検出した振幅と位相とで表されるSパラメータを使って計算できる。例えば、高周波電力ユニット140aの照射ロスは、高周波電力発生部120に設定された周波数におけるS11とS12とS13とS14との和の大きさを計算することにより得られる。Sパラメータの和の大きさを計算するときは、周波数が異なる場合は振幅成分の和として計算でき、周波数が同じである場合は振幅成分と位相成分のベクトル合成によって計算することができる。Sパラメータの和の大きさが小さいほど、照射ロスが小さいことを意味する。以下、照射ロスは、Sパラメータの和の大きさと同義として説明する。
本実施形態においては、前述した通り、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dが同一の周波数で動作するので、Sパラメータの和は、振幅成分と位相成分のベクトル合成によって計算できる。例えば、ある周波数における第1の高周波電力ユニット140aの反射電力S11の振幅をM11、位相をθ11とし、第2の高周波電力ユニット140bから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S12の振幅をM12、位相をθ12とし、第3の高周波電力ユニット140cから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S13の振幅をM13、位相をθ13とし、第4の高周波電力ユニット140dから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S14の振幅をM14、位相をθ14とした場合、第1の高周波電力ユニット140aにおける照射ロス|S11+S12+S13+S14|は、次の式1−1で表される。
第2の高周波電力ユニット140bの照射ロス|S21+S22+S23+S24|,第3の高周波電力ユニット140cの照射ロス|S31+S32+S33+S34|,および第4の高周波電力ユニット140dの照射ロス|S41+S42+S43+S44|も、式1−1と同様に次の式1−2〜式1−4で表される。
これら式1−1〜式1−4で表された全ての高周波電力ユニット140の照射ロスの合計が、その周波数における、高周波加熱装置100全体の照射ロスとなる。
次に、制御部110は、周波数ごとに各移相量を変化させた場合の照射効率を推定する(ステップS1408)。
ここで、それぞれの高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量を変化させたと仮定した時の、照射ロスの計算について説明する。
1つの高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量を変化させると、可変移相部142の移相量を変化させた高周波電力ユニット140の放射部150から放射される高周波電力の位相が、変化させた移相量分だけ変化する。例えば、第2の高周波電力ユニット140bの可変移相部142bの移相量を+φだけ変化させると、第2の高周波電力ユニット140bの反射電力S22、第2の高周波電力ユニット140bから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S12、第2の高周波電力ユニット140bから第3の高周波電力ユニット140cへのスルー電力S32、第2の高周波電力ユニット140bから第4の高周波電力ユニット140dへのスルー電力S42の位相成分が+φだけ変化する。従って、この時の第1の高周波電力ユニット140aの照射ロスは、式1−1〜式1−4のθm2(m=1〜4)の値をθm2+φとすることで計算できる。
同様に、例えば、第1の高周波電力ユニット140aの可変移相部142aの移相量をφ1だけ変化させ、第2の高周波電力ユニット140bの可変移相部142bの移相量をφ2だけ変化させ、第3の高周波電力ユニット140cの可変移相部142cの移相量をφ3だけ変化させ、第4の高周波電力ユニット140dの可変移相部142dの移相量をφ4だけ変化させた時の、第1の高周波電力ユニット140aの照射ロス|S11+S12+S13+S14|、第2の高周波電力ユニット140bの照射ロス|S21+S22+S23+S24|,第3の高周波電力ユニット140cの照射ロス|S31+S32+S33+S34|,および第4の高周波電力ユニット140dの照射ロス|S41+S42+S43+S44|は、それぞれ次の式2−1〜式2−4で表される。
それぞれの高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量を任意の値だけ変化させた時の、それぞれの高周波電力ユニット140における照射ロスは、上述の式2−1〜式2−4を用いて計算できる。つまり、それぞれの高周波電力ユニット140における照射ロスを、計算により、周波数と各可変移相部142の移相量の組み合わせとに対応して算出できる。
図9は、周波数と移相量の組み合わせとに対応して算出された各高周波電力ユニット140の照射ロスを示す表である。具体的には、同図には、第1の高周波電力ユニットの照射ロス180a、第2の高周波電力ユニットの照射ロス180b、第3の高周波電力ユニットの照射ロス180cおよび第4の高周波電力ユニットの照射ロス180dが示されている。
同図において、可変移相部142a〜142dの移相量の組み合わせは、θps1、ps2、ps3、ps4(但し、ps1:可変移相部142aの移相量、ps2:可変移相部142bの移相量、ps3:可変移相部142cの移相量、ps4:可変移相部142dの移相量)で表されている。また、照射ロスは、Lu、f、ps1、ps2、ps3、ps4(u:高周波電力ユニット(例えば、第1の高周波電力ユニット140aの場合1)、f:周波数(MHz))で表されている。
例えば、ここまでの各処理(ステップS1401〜S1407)において、可変移相部142a〜142dのそれぞれの移相量を0度に設定していた場合、図9に示す移相量組み合わせθ0、0、0、0の照射ロスが実測により得られた照射ロスである。つまり、移相量組み合わせθ0、0、0、0以外の移相量組み合わせにおける照射ロスは全て、計算により得られた照射ロスである。
このように、本実施形態1に係る高周波加熱装置100は、実測により得られた第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dのそれぞれにおける照射ロスから、可変移相部142a〜142dの移相量の組み合わせを変えた場合の第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dのそれぞれにおける照射ロスを、計算により推定できる。
すなわち、各々の可変移相部142a〜142dの移相量のすべての組み合わせにおいて実際に測定することなく、移相量の組み合わせを変えた場合の第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dのそれぞれにおける照射ロスを求めることができる。よって、実際に移相量の組み合わせを変化させて実測することにより、移相量の組み合わせを変えた場合の第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dのそれぞれにおける照射ロスを求める場合と比較して、第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dのそれぞれにおける照射ロスを求める時間を大幅に低減できる。
続いて制御部110は、図9に示された各高周波電力ユニット140の照射ロスから、高周波加熱装置100全体の照射ロスを計算する。
図10は、周波数と移相量の組み合わせとに対応して算出された高周波加熱装置100全体の照射ロスを示す表である。
同図に示す、高周波加熱装置100全体の照射ロス190は、Lsum、f、ps1、ps2、ps3、ps4で表されている。これは図9における、第1の高周波電力ユニットの照射ロス180aと、第2の高周波電力ユニットの照射ロス180bと、第3の高周波電力ユニットの照射ロス180cと、第4の高周波電力ユニットの照射ロス180dとの総和に相当する。
このように、周波数ごとに各移相量を変化させた場合の照射効率を推定する処理(ステップS1408)において、制御部110は、測定により得られた各高周波電力ユニット140の反射電力およびスルー電力の振幅と位相とに基づいて各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの高周波加熱装置100全体の照射ロスを計算する。これにより、高周波加熱装置100の照射効率を推定する。
次に、制御部110は、最も高周波加熱装置100の照射効率が良い周波数および移相量の組み合わせを決定する(ステップS1409)。言い換えると、高周波加熱装置全体の照射ロス190が最も小さい周波数および移相量の組み合わせを決定する。
続いて、ステップS1409で決定した周波数および移相量にするように、高周波電力発生部120に発生させる高周波電力の周波数、および可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量をそれぞれ設定し(ステップS1410)、プレ・サーチ処理を終了する。
以上のように、本処理は、設定周波数において各高周波電力ユニット140における反射電力およびスルー電力を個別に検出した振幅と位相との結果を用いて、高周波電力発生部120の周波数と可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算する。よって、最も高周波加熱装置100全体の照射効率が良い高周波電力発生部120の周波数の値と可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の組み合わせとを、少なくとも1つの移相量の組み合わせについてのみ実測することで決定できる。
これにより、高周波電力発生部120の全ての周波数と可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の組み合わせを実測した場合と比較すると、上述の例の通りに、大幅な時間短縮が図れる。したがって、ユーザが高周波加熱装置100の使用開始ボタンを押して実際に本加熱処理を行う前に、最適な加熱の周波数条件を決定するプレ・サーチ処理を短時間に行うことができる。
例えば、設定可能な周波数を、2.4GHzから2.5GHzまでの1MHz間隔の101ポイントとし、設定可能な移相量を0度〜360度の30度間隔の12ポイントとして、4つの高周波電力ユニット140で測定した場合を考える。現在、周波数1ポイントを測定するためには約0.1msが必要であり、すべての組み合わせである124×101回の実測を完了するには約210秒が必要となる。すなわち、高周波電力発生部120の周波数と各高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量のすべての周波数の組み合わせを実測した場合、ユーザが加熱を開始する前に約210秒もの時間を要することになる。
これに対し、本実施形態の構成では、2.4GHzから2.5GHzまでの周波数帯域の101ポイントについて、各高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量をある任意の1点に設定した状態で、各高周波電力ユニット140で反射電力とスルー電力との同相検波信号と直交検波信号とを実測して振幅と位相とを計算するのみなので、101×4ポイントの実測にかかる時間40ms程度で、周波数毎の反射による逆流電力の振幅および位相と通り抜けによる逆流電力の振幅および位相を得ることができる。この101×4ポイントの振幅と位相とから表されるSパラメータが得られた後は、実測よりも遙かに早い制御部110による計算によって、最適な照射効率が実現できる高周波電力発生部120の周波数と、各可変移相部142の移相量を決定すれば良く、ユーザの加熱準備時間として一般的に許容されている1秒以下の加熱までの準備時間を十分に実現できる。
さらに、各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の最適な組合せを計算する過程において、ベクトル合成の性質を利用することにより、計算処理数を減らして、さらなる計算時間の短縮が図れる。
例えば、振幅がM1で位相がθ1のベクトルと振幅がM2で位相がθ2の2つのベクトルを合成する場合を考える。ベクトル合成の性質から、2つのベクトルの位相が同じ場合、すなわちθ1=θ2の時に、合成ベクトルの大きさはM1+M2で表され最大となり、2つのベクトルの位相差が180度の場合、すなわち|θ1−θ2|=180度の時には、合成ベクトルの大きさは|M1−M2|で表され最小となり、M1=M2の場合には合成ベクトルの大きさは0となる。
この性質を利用して、制御部110は、各高周波電力ユニット140で検出された反射電力とスルー電力との同相検波信号Iと直交検波信号Qとをもとに、計算処理数を減らして、計算時間を短縮することができる。たとえば、一番振幅が大きいベクトルとそれ以外のベクトルに分け、一番振幅が大きいベクトルと、それ以外の全てのベクトルの合成ベクトルとの位相差が180度となるように、かつ、一番振幅が大きいベクトルの大きさと、それ以外の全てのベクトルの合成ベクトルの大きさとが等しくなるように、移相量を決めればよい。つまり、移相量設定の全ての組合せを総当り的に計算することなく、全てのベクトルの合成ベクトルが最小となる、即ち、照射ロスが最小となる移相量の設定値を求めることができる。
図11は、ベクトル合成を利用した移相量の組み合わせについて説明する図である。
以下に、図11を参照して、ベクトル合成の性質を利用して、照射ロスが最小となる移相量の組み合わせをもとめる具体例を説明する。
図11(a)は、ある状態に於いて、第1の高周波電力ユニット140aの直交検波部145aで検出された逆流電力の振幅と位相を各ベクトルで示す図である。具体的には、第1の高周波電力ユニット140aの反射電力A_S11,第2の高周波電力ユニット140bから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力A_S12,第3の高周波電力ユニット140cから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力A_S13,第4の高周波電力ユニット140dから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力A_S14、および4つの逆流電力のベクトルA_S11、A_S12、A_S13、A_S14の合成ベクトルA_SUMがそれぞれベクトルで示されており、それぞれ、矢印の長さがベクトルの大きさを表し、矢印の角度がベクトルの位相を表している。4つの逆流電力のベクトルA_S11、A_S12、A_S13、A_S14の合成ベクトルA_SUMの大きさは第1の高周波電力ユニット140aに於ける照射ロスに相当し、合成ベクトルA_SUMの大きさを小さくすることにより、第1の高周波電力ユニット140aに於ける照射ロスを小さくすることができる。
検出された4つのベクトルを、最も大きさが大きいベクトルA_S11と、それ以外のベクトルA_S12、A_S13、A_S14とに分け、それ以外のベクトルA_S12、A_S13、A_S14をベクトル合成して、サブ合成ベクトルA_subの大きさと位相を計算する。
次に、サブ合成ベクトルA_subの位相に対して、最も大きさが大きいベクトルA_S11の位相の差が180度となるように、第1の高周波電力ユニット140aの可変移相部142aの移相量を決める(破線矢印Aの方向)。
続いて、サブ合成ベクトルA_subの大きさが、最も大きさが大きいベクトルA_S11の大きさと等しくなるように、第2の高周波電力ユニット140bの可変移相部142b、および第4の高周波電力ユニット140dの可変移相部142dのそれぞれの移相量を決める(破線矢印BおよびCの方向)。
図11(b)は、決定されたそれぞれの移相量を、それぞれの可変移相部142に設定した場合の、第1の高周波電力ユニット140aの直交検波部145aで検出された逆流電力の振幅と位相をベクトルで示す図である。具体的には、第1の高周波電力ユニット140aの反射電力B_S11,第2の高周波電力ユニット140bから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力B_S12,第3の高周波電力ユニット140cから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力A_S13,第4の高周波電力ユニット140dから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力A_S14、および4つの逆流電力のベクトルB_S11、B_S12、A_S13、B_S14の合成ベクトルB_SUMがそれぞれベクトルで示されている。最も大きさが大きいベクトルB_SS11と、それ以外のベクトルB_S12、A_S13、B_S14のサブ合成ベクトルB_subは、大きさがほぼ等しく位相差がほぼ180度となっており、4つの逆流電力の合成ベクトルB_SUMの大きさは、移相量を設定する前の4つの逆流電力の合成ベクトルA_SUMの大きさに比べて極めて小さくなっている。このことは、第1の高周波電力ユニット140aに於ける照射ロスが極めて小さくなったことを意味する。
なお、本実施形態では、全ての反射電力の振幅と位相とを検出した後に、全てのスルー電力の振幅と位相とを検出するように説明しているが、全てのスルー電力の振幅と位相の検出を完了してから、全ての反射電力の振幅と位相とを検出してもよいし、反射電力の振幅と位相とスルー電力の振幅と位相とを交互に検出してもよい。また、スルー電力の振幅と位相とを検出している際に、高周波電力を出力している高周波電力ユニット140については、反射電力の振幅と位相とを同時に検出できるので、スルー電力の振幅と位相と反射電力の振幅と位相とを同時に検出してもよい。
<再サーチ処理>
図12は、本実施形態1に係る高周波加熱装置100の、再サーチ処理の制御手順を示すフローチャートである。
高周波加熱装置100の制御部110は、加熱処理中に、以下の制御手順により、再サーチ処理を行う。
図12に示すように、まず、現在加熱処理に使用されている周波数および移相量における、各高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける反射電力およびスルー電力の振幅と位相とを、前述した反射電力検出の制御手順およびスルー電力検出の制御手順により検出し、高周波加熱装置100全体の現在の照射効率を算出する(ステップS1501)。
次に、高周波電力発生部120の周波数を、予め定められた再サーチ用周波数になるように制御して(ステップS1502)、前述した反射電力検出の制御手順により、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力の振幅と位相とを検出する(ステップS1503)。
続いて、前述した、スルー電力の制御手順により、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、スルー電力の振幅と位相とを検出する(ステップS1504)。
その後、再サーチ処理において予め定められている全ての周波数において、検出が完了したか否かを判定(ステップS1505)する。完了していない場合(ステップS1505でNo)、高周波電力発生部120に発生させる高周波電力の周波数を、再サーチ用に定められた次の周波数に設定して(ステップS1506)、上記反射電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS1503)及びスルー電力の振幅と位相を検出する処理(ステップ1504)を繰り返す。
これを繰り返して、予め定められた全ての再サーチ用周波数で、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力およびスルー電力の振幅と位相とを検出する。
全ての再サーチ用周波数で、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力およびスルー電力の振幅と位相との検出が完了した(ステップS1505でYes)場合、プレ・サーチ処理で説明した通りに、反射電力およびスルー電力の振幅と位相との情報に基づいて、高周波電力発生部120の周波数と各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算により推定する(ステップS1507)。なお、この処理(ステップS1507)での処理内容は、図7に示した周波数ごとに各移相量を変化させた場合の照射効率を推定する処理(ステップS1408)と同様である。
次に、高周波加熱装置100全体の最良の照射効率の値を算出する(ステップS1508)。
そして、再サーチにより算出された高周波加熱装置100全体の最良の照射効率の値(ステップS1508で算出された値)と、先に算出した高周波加熱装置100全体の現在の照射効率の値(ステップS1501で算出された値)とを、それぞれ比較する(ステップS1509)。
ここで、再サーチにより算出した最良の照射効率の値が、先に算出した現在の照射効率の値よりも良好な値となる場合は、再サーチにより算出した最良の照射効率となる周波数および移相量の組み合わせにするように、高周波電力発生部120の周波数、および可変移相部142a〜142dの移相量をそれぞれ制御する(ステップS1510)。つまり、高周波電力発生部120の周波数、および可変移相部142a〜142dの移相量を更新する。一方、先に算出した現在の照射効率の値が、再サーチにより算出した最良の照射効率の値よりも良好な値となる場合は、再サーチを実行する前の元の周波数にするように、高周波電力発生部120の周波数を制御する(ステップS1511)。
なお、再サーチにより算出した、ある周波数および位相条件における最良の照射効率の値が、現在の照射効率の値よりも良好となる場合であっても、たとえば、1つの高周波電力ユニット140における逆流電力の電力値が、予め定められた閾値を超えてしまう条件であれば、選択する必要はない。つまり、各高周波電力ユニット140における逆流電力の電力値が、予め定められた閾値を超えない条件の中で、最良の照射効率となる条件を選び出してもよい。この閾値は、例えば、半導体素子を含んだ増幅器の故障を防ぐために、増幅器が持つ周波数毎の耐電圧特性によって決めればよい。
これにより、本実施形態に係る高周波加熱装置100は、加熱処理中に被加熱物の温度や形状が変化することにより最適加熱条件が変化した場合でも、再サーチ処理により常に最適加熱条件の下に加熱できる。
また、高周波加熱装置100全体の最良の照射効率の値を算出する処理(ステップS1508)において最良の照射効率を算出する際、設定周波数において各高周波電力ユニットにおける反射電力およびスルー電力の振幅と位相とを個別に検出した結果を用いて、高周波電力発生部120の周波数と可変移相部の移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算し、最も照射効率が良い高周波電力発生部120の周波数の値と各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の値を決定することができる。これにより、高周波電力発生部120の全ての周波数と各可変移相部142a,142b,142c,142dの全ての移相量の組み合わせを実測した場合と比較すると、上述の例の通りに、大幅な時間短縮が図れる。したがって、再サーチ処理を短時間に行うことができ、被加熱物の温度変化等によって再設定が必要な時間を含めた温め時間の延長を短くでき、ユーザの加熱の待ち時間を軽減できる。
なお、再サーチ処理の開始のタイミングは、加熱処理中に、常時もしくは定期的に、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dから、同相検波信号I(1)〜I(4)および直交検波信号Q(1)〜Q(4)を取り込んで検出した反射電力の振幅と位相とから算出した電力値と、予め定められた閾値とを比較し、少なくとも1つ以上の高周波電力ユニット140における逆流電力の電力値が、その閾値を越えた場合に実行してもよい。
これにより、加熱処理中に被加熱物の温度や形状が変化することにより、反射電力およびスルー電力の大きさが変化した場合でも、予め閾値を定め、これを超えた場合に再サーチ処理を行うことにより、本実施形態に係る高周波加熱装置100は、常に最適加熱条件の下で被加熱物を加熱できる。
なお、前述したプレ・サーチ処理および再サーチ処理を実行する際に、制御部110は、サーチ処理中に過大な反射電力やスルー電力による高周波加熱装置100の故障を防ぐ為に次のようなことしてもよい。特に半導体素子を含んだ増幅器の故障を防ぐ為に次のようなことをしてもよい。具体的には、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dから出力される高周波電力の値を、本加熱の際の高周波電力の値よりも小さい値になるように、それぞれの高周波電力増幅部143a,143b,143c,143dの増幅利得を制御してもよい。
以上のように、本実施形態に係る高周波加熱装置100は、加熱室に収納された被加熱物を加熱する高周波加熱装置であって、設定された周波数の高周波電力を発生する少なくとも一つの高周波電力発生部120と、高周波電力発生部120で発生された高周波電力の位相を変化させる可変移相部142a〜142dと、可変移相部142a〜142dで位相が変化された高周波電力を加熱室に放射する放射部150、および、放射部150から放射された高周波電力の一部であって加熱室から放射部へ入射する逆流電力を検出する逆流電力検出部である逆流電力検出部とを各々備えた複数の高周波電力ユニット140a〜140dと、高周波電力発生部120に周波数を設定し、かつ、可変移相部142a〜142dに移相量を設定する制御部110とを備える。なお、逆流電力検出部は、上述したように、方向性結合部144および直交検波部145に相当する。
直交検波部145は、制御部110により高周波電力発生部120に設定された周波数に基づいて、一の高周波電力ユニット140の放射部150から放射される高周波電力の一部が反射して当該一の高周波電力ユニット140の放射部150へ入力される反射による逆流電力である反射波の振幅および位相と、他の高周波電力ユニット140の放射部150から放射される高周波電力の一部が一の高周波電力ユニット140の放射部150へ入力される逆流電力であるスルー波の振幅および位相とを検出する。
制御部110は、高周波電力発生部120に複数の周波数を順次設定し、設定した周波数ごとに各々の高周波電力ユニット140の直交検波部145に反射波の振幅および位相とスルー波の振幅および位相とを検出させ、検出された複数の反射波の振幅および位相とスルー波の振幅および位相とに基づいて、被加熱物を加熱する際の、高周波電力発生部に発生させる高周波電力の周波数および可変移相部における移相量を決定し、決定した周波数および移相量を高周波電力発生部120および可変移相部142a〜142dに設定する。
これにより、実測により得られた第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dのそれぞれにおける照射ロスから、可変移相部142a〜142dの移相量の組み合わせを変えた場合の第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dのそれぞれにおける照射ロスを、短時間で求めることができる。その結果、ユーザが高周波加熱装置100の使用開始ボタンを押して実際に本加熱処理を行う前に、最適な周波数および移相量の組み合わせを短時間に決定することができ、ユーザの利便性を向上させる。
また、実施形態1の構成によると、高周波加熱装置100が1つの高周波電力発生部120を有し、すべての高周波電力ユニット140が同じ周波数で動作するため、加熱の条件を決定するパラメータが少なくて済む。つまり、高周波電力発生部120の周波数のみを変化させて実測すればよいので、実測の回数を抑え、単純な制御で加熱条件を決定することができる。その結果、非常に短時間でプレ・サーチ処理および再サーチ処理を行うことができる。
(実施形態2)
本実施形態に係る高周波加熱装置は、実施形態1に係る高周波加熱装置100が1つの高周波電力発生部120を有しているのに対し、2つの高周波電力発生部を有している点が異なる。この構成により、2つの高周波電力発生部の周波数を個別に設定することにより、最大照射効率を更に高めることができる。
以下、本実施形態に係る高周波加熱装置について、実施形態1に係る高周波加熱装置100との相違点を中心に、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態2の説明において、前述の実施形態1と同じ機能を有する構成要素には同じ参照符号を付し、説明を省略する。また、前述の実施形態1と同じ作用を有する内容についても、説明を省略する。
図13は、本発明の実施形態2に係る、高周波加熱装置の構成を示すブロック図である。
同図に示す高周波加熱装置200は、図1に示した実施形態1に係る高周波加熱装置100と比較して、高周波電力発生部120に代わり第1の高周波電力発生部220aと第2の高周波電力発生部220bとを備え、分配部130に代わり第1の分配部230aと第2の分配部230bとを備え、制御部110に代わり制御部210を備える。
第1の高周波電力発生部220aは、制御部210から入力される周波数制御信号Cfreq1で設定された周波数の高周波電力を発生する。発生された高周波電力は、第1の分配部230aで分配され、第1の高周波電力ユニット140aおよび第2の高周波電力ユニット140bへ入力される。つまり、第1の高周波電力発生部220aは、第1および第2の高周波電力ユニット140aおよび140bへ高周波電力を供給する。
第2の高周波電力発生部220bは、制御部210から入力される周波数制御信号Cfreq2で設定された周波数の高周波電力を発生する。発生された高周波電力は、第2の分配部230bで分配され、第3の高周波電力ユニット140cおよび第4の高周波電力ユニット140dへ入力される。つまり、第2の高周波電力発生部220bは、第3および第4の高周波電力ユニット140cおよび140dへ高周波電力を供給する。なお、以下、第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bを、それぞれ、高周波電力発生部220aおよび高周波電力発生部220bと記載する場合がある。
制御部210は、図1に示した制御部110と比較して、2つの高周波電力発生部つまり第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bへ、周波数制御信号Cfreq1および周波数制御信号Cfreq2を出力する。これにより、制御部210は、第1の高周波電力発生部220aに発生させる高周波電力の周波数および第2の高周波電力発生部220bに発生させる高周波電力の周波数を、互いに独立に設定する。なお、周波数を互いに独立に設定するとは、第1の高周波電力発生部220aに発生させる高周波電力の周波数と、第2の高周波電力発生部220bに発生させる高周波電力の周波数とは依存しないことである。つまり、これら2つの高周波電力の周波数は同じであっても、異なっていてもよい。
本実施形態に係る高周波加熱装置200の基本的な制御手順は、前述の実施形態1で説明した高周波加熱装置100の基本的な制御手順と同様である。ただし、前述の図1で説明した高周波加熱装置100は、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dは同じ周波数で動作するのに対して、本実施形態の図13に示す高周波加熱装置200においては、第1,第2の高周波電力ユニット140a,140bは、第1の高周波電力発生部220aの周波数で動作し、第3,第4の高周波電力ユニット140c,140dは、第2の高周波電力発生部220bの周波数で動作する。
これにより、各高周波電力発生部(第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220b)の周波数を実際に変化させて高周波電力を放射させた場合に、直交検波部145a、145b、145c、145dにおいて検出された同相検波信号I(1)〜I(4)と直交検波信号Q(1)〜Q(4)とから、高周波電力発生部220aおよび220bのそれぞれにおける周波数の組み合わせに対応する、反射による逆流電力の振幅および位相と通り抜けによる逆流電力の振幅および位相を検出する(求める)ことができる。
周波数の組み合わせにごとに、検出された反射電力の振幅および位相とスルー電力の振幅および位相との値を用いて、移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算して、計算結果から最も高周波加熱装置200全体の照射効率が良い周波数の組み合わせと、移相量の組み合わせとを決定することができる。すなわち、それぞれの高周波電力発生部220aおよび220bの周波数と、各々の可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量のすべての組み合わせにおいて実際に測定することなく、最低限の実測値から最適な照射効率を計算で求めることができる。よって、時間がかかる実測を少なくすることができる。これにより、ユーザが高周波加熱装置の加熱をスタートしてから実際に加熱が始まる前までの高効率の照射を見つけるための準備時間を短くすることができる。
高周波電力発生部220aおよび220bの具体的な構成は、前述した実施形態1で説明した、図2に示す高周波電力発生部120の具体的な構成と同一であるので、説明は省略する。
なお、図13において、高周波加熱装置200は、2つの高周波電力発生部(第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220b)と、4つの高周波電力ユニット(第1の高周波電力ユニット140a、第2の高周波電力ユニット140b、第3の高周波電力ユニット140cおよび第4の高周波電力ユニット140d)で構成されているが、高周波電力発生部および高周波電力ユニットの数はこれに限定されるものではなく、複数の高周波電力発生部および複数の高周波電力ユニットを有していればよい。
<反射電力の検出方法>
図14は、本実施形態2に係る高周波加熱装置200の、反射電力検出の制御手順を示すフローチャートである。
高周波加熱装置200の制御部210は、以下の制御手順により、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dの反射電力の検出を行う。
同図に示す反射電力検出方法は、図5に示した実施形態1の反射電力の検出方法と比較して、第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bが、異なる周波数で動作している場合と、同一の周波数で動作している場合とで、処理を分けている点が異なる。
まず、第1の高周波電力発生部220aと第2の高周波電力発生部220bとで、発生されている高周波電力の周波数が互いに異なるか否かを判定する(ステップS2101)。
第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bが異なる周波数で動作している場合(ステップS2101でYes)は、制御部210は、同一の周波数で動作している高周波電力ユニットのグループに分けて、それぞれの高周波電力ユニットの反射電力を検出する。言い換えると、第1の高周波電力発生部220aから高周波電力を供給される第1の高周波電力ユニット140aおよび第2の高周波電力ユニット140bと、第2の高周波電力発生部220bから高周波電力を供給される第3の高周波電力ユニット140cおよび第4の高周波電力ユニット140dとに分ける。
まず、第1の高周波電力発生部220aで発生された高周波電力を放射する高周波電力ユニット140aおよび140bのグループにおける、それぞれの高周波電力ユニット140aおよび140bの反射電力を検出する手順を説明する。
図14に示すように、制御部210は、反射電力を検出しようとする1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)以外の高周波電力ユニット140(例えば、第2の高周波電力ユニット140b)の出力電力のレベルが、反射電力を検出しようとする高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)の反射電力の検出に影響を与えないレベルになるよう制御する(ステップS2102)。
次に、反射電力を検出しようとする高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140(例えば、第2の高周波電力ユニット140b)の、高周波電力増幅部143の増幅利得を制御した後、制御部210は、反射電力を検出しようとする高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)の同相検波信号Iおよび直交検波信号Qを取り込み、逆流電力の振幅と位相とを検出する(ステップS2103)。
これにより、例えば、第1の高周波電力ユニット140aの反射電力の振幅および位相を検出する。
次に、第1の高周波電力発生部220aに対応する全ての高周波電力ユニット140(例えば、第1および第2の高周波電力ユニット140aおよび140b)において、反射電力の検出が完了したか否かを判定する(ステップS2104)。完了していない場合(ステップS2104でNo)、別の高周波電力ユニットを検出対象として(ステップS2105)上記の検出対象とした1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140の出力電圧を下げる処理(ステップS2102)および当該検出対象とした高周波電力ユニット140における逆流電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS2103)を繰り返す。
一方、第1の高周波電力発生部220aに対応する全ての高周波電力ユニット140において、反射電力の検出が完了した場合(ステップS2104でYes)、第1の高周波電力発生部220aで発生された高周波電力を放射する高周波電力ユニット140のグループにおける反射電力の振幅および位相の検出を終了する。
このとき、ステップS2102〜S2105の処理と並行して、同様の手順で、第2の高周波電力発生部220bで発生された高周波電力を放射する第3および第4の高周波電力ユニット140cおよび140dそれぞれの反射電力を検出する(ステップS2110〜S2112)。
この時、それぞれのグループは動作している周波数が異なるので、反射電力の検出においてはグループ間の相互の干渉が発生しない。従って、それぞれのグループ毎の反射電力検出の手順(S2101からS2105の手順と、S2110からS2113の手順)は、並行して同時に実施できる。
これにより、本実施形態に係る高周波加熱装置200は、第1〜第4の高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dに於ける反射電力の振幅と位相を検出するのに要する時間を短縮することができ、後述するプレ・サーチ処理、および再サーチ処理の実行に要する時間も短縮され、ユーザの加熱開始の指示から加熱処理完了までの時間を、実施形態1に係る高周波加熱装置100と比較して、より短縮することができる。
一方、第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bが同一の周波数で動作している場合(ステップS2101でNo)は、第1〜第4の高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dすべてが同一の周波数で動作している状態となり、制御部210が反射電力を検出する手順は、前述した実施形態1の反射電力検出の制御手順(図5)と同様の手順となる(ステップS1201〜S1204)。
<スルー電力の検出方法>
図15は、本実施形態2に係る高周波加熱装置200のスルー電力検出の制御手順を示すフローチャートである。
高周波加熱装置200の制御部210は、以下の制御手順により、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140d間相互のスルー電力の検出を行う。
同図に示すスルー電力の検出方法は、図6に示した実施形態1のスルー電力の検出方法と比較して、第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bが、異なる周波数で動作している場合と、同一の周波数で動作している場合とで処理を分けている点が異なる。
まず、第1の高周波電力発生部220aと第2の高周波電力発生部220bとで、発生されている高周波電力の周波数が互いに異なるか否かを判定する(ステップS2201)。
第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bが異なる周波数で動作している場合(ステップS2201でYes)は、制御部210は、まず、1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)のみ高周波電力を出力する。そして、制御部210は、他の高周波電力ユニット140(例えば、第2,第3,および第4の高周波電力ユニット140b,140c,140d)の出力電力を、各高周波電力ユニット140における反射電力の検出レベルが充分に小さくなるように、それぞれの高周波電力ユニット140の高周波電力増幅部143の増幅利得を制御する(ステップS2202)。
次に、制御部210は、高周波電力を出力する1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)に対応する高周波電力発生部120(例えば、第1の高周波電力発生部220a)の周波数を、当該高周波電力発生部120と異なる周波数に設定されている高周波電力発生部220(例えば、第2の高周波電力発生部220b)の周波数に設定する。
続いて、高周波電力の出力レベルを小さくするように制御された他の高周波電力ユニット140の同相検波信号Iおよび直交検波信号Qを取り込み、逆流電力の振幅および位相を検出する(ステップS2204)。これにより、高周波電力が出力されている1つの高周波電力ユニット140から、他のそれぞれの高周波電力ユニット140へのスルー電力(例えば、第1の高周波電力ユニット140aから第2の高周波電力ユニット140b、第3の高周波電力ユニット140cへのスルー電力、および第4の高周波電力ユニット140dへのスルー電力)の振幅と位相とを検出できる。
高周波電力の出力レベルを小さくするように制御した、他の高周波電力ユニット140(例えば、第2,第3,および第4の高周波電力ユニット140b,140c,140d)の同相検波信号I(2)〜I(4)および直交検波信号Q(2)〜Q(4)の取り込みが完了したら、周波数の設定を変更した高周波電力発生部(例えば、第2の高周波電力発生部220b)の周波数を変更する前の周波数に設定する(ステップS2205)。ただし、引き続き高周波電力ユニット間相互のスルー電力の他の組合せを検出する場合、次回のスルー電力検出手順の際に、高周波電力を出力する1つの高周波電力ユニットが、今回の高周波電力を出力する1つの高周波電力ユニット(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)と同一の周波数で動作している高周波電力ユニット(例えば、第2の高周波電力ユニット140b)である場合には、周波数の設定を変更した高周波電力発生部(例えば、第2の高周波電力発生部220b)の周波数を変更する前の周波数に設定する処理(ステップS2205)は、スキップしてもよい。
全ての高周波電力ユニット140からのスルー電力の検出が完了したか否かを判定し(ステップS2206)、完了していない場合(ステップS2206でNo)、別の高周波電力ユニット140を検出対象として(ステップS2207)、上記の検出対象とした1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140の出力電圧を下げる処理(ステップS2202)から高周波電力発生部の周波数を元の周波数に設定する処理(ステップS2205)までを繰り返す。
一方、全ての高周波電力ユニット140からのスルー電力の検出が完了した場合(ステップS2206でYes)、このスルー電力検出処理を終了する。
これにより、全ての高周波電力ユニット140間における相互のスルー電力の振幅と位相とを検出できる。
一方、第1の高周波電力発生部220a第2の高周波電力発生部220bが同一の周波数で動作している場合(ステップS2201でNo)は、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dが同一の周波数で動作している状態となる。このとき、制御部210がスルー電力を検出する手順は、図6に示した実施形態1のスルー電力検出の制御手順と同様である。
<プレ・サーチ処理>
図16は、本実施形態2に係る高周波加熱装置200の、本加熱前における最適加熱条件の決定処理(プレ・サーチ処理)の制御手順を示すフローチャートである。
同図に示すプレ・サーチ処理は、図7に示した実施形態1におけるプレ・サーチ処理とほぼ同じであるが、第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bに独立に周波数を設定する点が異なる。
高周波加熱装置200の制御部210は、加熱処理前に、以下の制御手順により、プレ・サーチ処理を行う。なお、以下、第1の高周波電力発生部220aを単に高周波電力発生部220a、第2の高周波電力発生部220bを単に高周波電力発生部220bと記載する。
図16に示すように、まず、それぞれの高周波電力発生部220aおよび220bの周波数を、予め定められたプレ・サーチ用初期周波数(例えば、第1の高周波電力発生部220aは周波数A0,第2の高周波電力発生部220bは周波数B0)にするように、それぞれの高周波電力発生部220aおよび220bの周波数を制御する(ステップS2301)。
次に、前述した反射電力検出の制御手順により、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力の振幅と位相とを検出する(ステップS2302)。
全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力の検出が完了したら、つぎに、プレ・サーチ処理において予め定められている全ての周波数において、反射電力の振幅および位相が検出されたか否かを判定する(ステップS2303)。
全ての周波数において反射電力の振幅および位相が検出されていない場合(ステップS2303でNo)、制御部210は、それぞれの高周波電力発生部220a,220bの周波数を、プレ・サーチ用に予め定められた次の周波数(例えば、第1の高周波電力発生部220aは周波数A1,第2の高周波電力発生部220bは周波数B1)にするように、それぞれの高周波電力発生部220a,220bの周波数を制御する(ステップS2304)。そして、プレ・サーチ用に予め定められた次の周波数で、上記反射電力の振幅と位相とを検出する処理(ステップS2302)を繰り返す。
これにより、制御部210は、プレ・サーチ用に予め定められた全ての周波数での、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力の振幅と位相とを検出する(ステップS2303でYes)。
プレ・サーチ用に予め定められた全ての周波数での、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力の振幅と位相との検出が完了した(ステップS2303でYes)場合、続いて、前述したスルー電力検出の制御手順により、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140d間における、相互のスルー電力の振幅と位相とを検出する(ステップS2305)。
その後、プレ・サーチ処理において予め定められている全ての周波数において、相互のスルー電力の振幅および位相が検出されたか否かを判定する(ステップS2306)。全ての周波数においてスルー電力の振幅および位相が検出されていない場合(ステップS2306でNo)、言い換えるとスルー電力の振幅および位相が検出されていない周波数がある場合、制御部210は以下の処理を行う。制御部210は、上記のプレ・サーチ用に予め定められた次の周波数する処理(ステップS2304)と同様に、それぞれの高周波電力発生部220a,220bが発生する高周波電力の周波数を、プレ・サーチ用に予め定められた次の周波数にするように、それぞれの高周波電力発生部220a,220bの周波数を制御して(ステップS2307)、上記スルー電力の振幅と位相とを検出する処理(ステップS2305)を繰り返す。
これにより、制御部210は、プレ・サーチ用に予め定められた全ての周波数での、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140d間における、相互のスルー電力の振幅と位相を検出する(ステップS2306でYes)。
プレ・サーチ用に予め定められた全ての周波数において、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける反射電力の振幅と位相、および全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140d間における相互のスルー電力の振幅と位相との検出が完了(ステップS2306でYes)することによって、前述の実施形態1と同様に、各周波数での、各高周波電力発生ユニットの反射電力特性、および各高周波電力発生ユニット間に於ける相互のスルー電力特性を、振幅と位相を用いて表現する図8に示すようなマトリクスが得られる。
ここで、得られたSパラメータを用いて高周波加熱装置200の照射ロスを計算する方法の事例を以下に説明する。
各高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dの任意の周波数の組み合わせにおける照射ロスは、検出した振幅と位相とで表されるSパラメータを使って計算できる。例えば、高周波電力ユニット140aの照射ロスは、高周波電力発生部220aに設定された周波数におけるS11とS12、および高周波電力発生部220bに設定された周波数におけるS13とS14との総和の大きさを計算することにより得られる。Sパラメータの和は、周波数が異なる場合は振幅成分の和として計算でき、周波数が同じである場合は振幅成分と位相成分のベクトル合成によって計算することができる。
本実施形態においては、2つの高周波電力発生部220aおよび220bを備えるので、それぞれの高周波電力発生部220aおよび220bに設定された周波数の組み合わせにより、第1の高周波電力発生部220aに設定された周波数と、第2の高周波電力発生部220bに設定された周波数が同一の周波数の場合には、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dが同一の周波数で動作する。よって、Sパラメータの和は、前述の実施形態1と同様に、振幅成分と位相成分のベクトル合成によって計算できる(式1−1〜式1−4)。
一方、第1の高周波電力発生部220aに設定された周波数と、第2の高周波電力発生部220bに設定された周波数が異なる周波数の場合には、第1の高周波電力ユニット140aと第2の高周波電力ユニット140bは同一の周波数で動作するので、第1の高周波電力ユニット140aの反射電力S11,第2の高周波電力ユニット140bの反射電力S22,第1および第2の高周波電力ユニット140a,140b間相互のスルー電力S12,S21のSパラメータの和は、ベクトル合成によって計算することができる。同様に、第3の高周波電力ユニット140cと第4の高周波電力ユニット140dは同一の周波数で動作するので、第3の高周波電力ユニット140cの反射電力S33,第4の高周波電力ユニット140dの反射電力S44,第3および第4の高周波電力ユニット140c,140d間相互のスルー電力S34,S43のSパラメータの和は、ベクトル合成によって計算することができる。
しかし、第1および第2の高周波電力ユニット140a,140bと、第3および第4の高周波電力ユニット140c,140dとは動作する周波数が異なる為、第1および第2の高周波電力ユニット140a,140bと、第3および第4の高周波電力ユニット140c,140d間相互のスルー電力S13,S14,S23,S24,S31,S32,S41,S42のSパラメータの和は、振幅成分の和として計算することができる。
例えば、第1,第2の高周波電力発生部220a,220bが、互いに異なる周波数に設定されている時の、第1の高周波電力ユニット140aの反射電力S11の振幅をM11、位相をθ11、第2の高周波電力ユニット140bから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S12の振幅をM12、位相をθ12とし、第3の高周波電力ユニット140cから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S13の振幅をM13、位相をθ13とし、第4の高周波電力ユニット140dから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S14の振幅をM14、位相をθ14とした場合、第1の高周波電力ユニット140aにおける照射ロス|S11+S12+S13+S14|は、次の式3−1で表される。
第2の高周波電力ユニット140bの照射ロス|S21+S22+S23+S24|,第3の高周波電力ユニット140cの照射ロス|S31+S32+S33+S34|,および第4の高周波電力ユニット140dの照射ロス|S41+S42+S43+S44|も、式3−1と同様に次の式3−2〜式3−4で表される。
全ての高周波電力ユニット140a〜140dの照射ロスの合計が、その周波数の組み合わせにおける、高周波加熱装置200全体の照射ロスとなる。
次に、それぞれの高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量を変化させたときの、照射ロスの計算について説明する。
例えば、前述と同様に、第1,第2の高周波電力発生部220a,220bが、それぞれある異なった周波数に設定されている時の、第1の高周波電力ユニット140aの可変移相部142aの移相量をφ1だけ変化させ、第2の高周波電力ユニット140bの可変移相部142bの移相量をφ2だけ変化させ、第3の高周波電力ユニット140cの可変移相部142cの移相量をφ3だけ変化させ、第4の高周波電力ユニット140dの可変移相部142dの移相量をφ4だけ変化させた時の、第1の高周波電力ユニット140aにおける照射ロス|S11+S12+S13+S14|、第2の高周波電力ユニット140bの照射ロス|S21+S22+S23+S24|,第3の高周波電力ユニット140cの照射ロス|S31+S32+S33+S34|,および第4の高周波電力ユニット140dの照射ロス|S41+S42+S43+S44|は、それぞれ次の式4−1〜式4−4で表される。
それぞれの高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量を任意の値だけ変化させたときの、それぞれの高周波電力ユニットにおける照射ロスは、上述の式4−1から式4−4を用いて計算でき、高周波加熱装置200全体の照射ロスも計算できる。
上述の通り、反射電力およびスルー電力の振幅と位相との情報を基づいて、それぞれの高周波電力発生部220a,220bの周波数と、各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算し、最も高周波加熱装置200全体の照射効率が良いそれぞれの高周波電力発生部220a,220bの周波数および可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の組み合わせを決定する(ステップS2309)。
続いて、ステップS2309で決定した周波数および移相量の組み合わせにするように、それぞれの高周波電力発生部220a,220bの周波数、および可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量をそれぞれ設定し(ステップS2310)、プレ・サーチ処理を終了する。
以上のように、本処理は、実施形態1のプレ・サーチ処理と比較して、第1の高周波電力発生部220aで発生する高周波電力の周波数と、第2の高周波電力発生部220bで発生する高周波電力の周波数とを独立に設定することができるので、反射電力およびスルー電力の検出をより短時間で実行できる。
また、実施形態1のプレ・サーチ処理と同様に、プレ・サーチ処理の設定周波数において各高周波電力ユニット140における反射電力およびスルー電力を個別に検出した振幅と位相との結果を用いて、高周波電力発生部220a,220bの周波数ごとに、可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算する。よって、最も高周波加熱装置200全体の照射効率が良い高周波電力発生部220a,220bの周波数の組み合わせと、可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の組み合わせとを、少なくとも1つの移相量の組み合わせについてのみ実測することで決定できる。
これにより、全ての高周波電力発生部220a,220bの周波数と可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の組み合わせを実測した場合と比較すると、上述の例の通りに、大幅な時間短縮が図れる。したがって、ユーザが高周波加熱装置200の使用開始ボタンを押して実際に本加熱処理を行う前に、最適な加熱の周波数条件を決定するプレ・サーチ処理を短時間に行うことができる。
例えば、設定可能な周波数を、2.4GHzから2.5GHzまでの1MHz間隔の101ポイントとし、設定可能な移相量を0度〜360度の30度間隔の12ポイントとして、4つの高周波電力ユニット140で測定した場合を考える。現在、周波数1ポイントを測定するためには約0.1msが必要であり、すべての組み合わせである124×1012回の実測を完了するには約6時間が必要となる。すなわち、高周波電力発生部220aおよび220bの周波数の組み合わせと、各高周波電力ユニットの可変移相部142の移相量の組み合わせとを実測した場合、ユーザが加熱を開始する前に約6時間もの時間を要することになり、非現実的となる。
これに対し、本実施形態の構成では、2.4GHzから2.5GHzまでの周波数帯域の101ポイントについて、各高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量をある任意の1点に設定した状態で、各高周波電力ユニット140で反射電力とスルー電力との同相検波信号Iと直交検波信号Qとを実測して振幅と位相とを計算するのみなので、101×4ポイントの実測にかかる時間は40ms程度で、周波数毎の反射による逆流電力の振幅および位相と通り抜けによる逆流電力の振幅および位相を得ることができる。この101×4ポイントの振幅と位相とから表されるSパラメータが得られた後は、実測よりも遙かに早い制御部210による計算によって、最適な照射効率が実現できる各高周波電力発生部220aおよび220bの周波数の組み合わせと、各可変移相部142の移相量の組み合わせとを決定すれば良く、ユーザの加熱準備時間として一般的に許容されている1秒以下の加熱までの準備時間を十分に実現できる。
さらに、本実施の形態の構成では、前述の実施形態1と同様に、各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の最適な組合せを計算する過程において、ベクトル合成の性質を利用することにより、計算処理数を減らして、さらなる計算時間の短縮を図ることができる。
なお、本実施形態では、全ての反射電力の振幅と位相とを検出した後に、全てのスルー電力の振幅と位相とを検出するように説明しているが、全てのスルー電力の振幅と位相の検出を完了してから、全ての反射電力の振幅と位相とを検出しても良いし、反射電力の振幅と位相とスルー電力の振幅と位相とを交互に検出してもよい。また、スルー電力の振幅と位相とを検出している際に、高周波電力を出力している高周波電力発生ユニットについては、反射電力の振幅と位相とを同時に検出できるので、スルー電力の振幅と位相と反射電力の振幅と位相とを同時に検出してもよい。
<再サーチ処理>
図17は、本実施形態2に係る高周波加熱装置200の、再サーチ処理の制御手順を示すフローチャートである。
高周波加熱装置200の制御部210は、加熱処理中に、以下の制御手順により、再サーチ処理を行う。
同図に示す再サーチ処理は、図12に示した実施形態1における再サーチ処理とほぼ同じであるが、第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bに独立に周波数を設定する点が異なる。
図17に示すように、制御部210は、まず、現在加熱処理に使用されている周波数および移相量における、各高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける反射電力およびスルー電力の振幅と位相とを、図14および図15に示した反射電力検出の制御手順およびスルー電力検出の制御手順により検出し、高周波加熱装置200全体の現在の照射効率を算出する(ステップS2401)。
次に、それぞれの高周波電力発生部220a,220bの周波数を予め定められた再サーチ用周波数になるように制御して(ステップS2402)、前述した反射電力検出の制御手順により、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力の振幅と位相とを検出する(ステップS2403)。
その後、前述したスルー電力検出の制御手順により、全ての高周波電力ユニット140a〜140d間におけるスルー電力の振幅および位相を検出する(ステップS2404)。
次に、再サーチ処理において予め定められている全ての周波数において、反射電力およびスルー電力が検出されたか否かを判定する(ステップS2405)。全ての周波数において反射電力およびスルー電力の振幅および位相が検出されていない場合(ステップS2405でNo)、言い換えると反射電力およびスルー電力の振幅および位相が検出されていない周波数がある場合、以下の処理を行う。制御部210は、それぞれの高周波電力発生部220aおよび220bが発生する高周波電力の周波数を、再サーチ用に予め定められた次の周波数にするように、高周波電力発生部220aおよび220bを制御することにより、次の周波数を設定して(ステップS2406)、上記反射電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS2403)及びスルー電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS2404)を繰り返す。
これを繰り返して、予め定められた全ての再サーチ用の周波数を更新しながら、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力およびスルー電力の振幅と位相とを検出する。
全ての再サーチ用周波数で、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける、反射電力およびスルー電力の振幅と位相との検出が完了した(ステップS2405でYes)場合、プレ・サーチ処理で説明した通りに、反射電力およびスルー電力の振幅と位相との情報に基づいて、それぞれの高周波電力発生部220a,220bの周波数と各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算により推定する(ステップS2407)。なお、この処理(ステップS2407)での処理内容は、図16に示した周波数ごとに各移相量を変化させた場合の照射効率を推定する処理(ステップS2308)と同様である。
次に、高周波加熱装置200全体の最良の照射効率の値を算出する(ステップS2408)。
そして、再サーチにより算出された最良の照射効率の値(ステップS2408で算出された値)と、先に算出した高周波加熱装置200全体の現在の照射効率の値とをそれぞれ比較する(ステップS2409)。
ここで、再サーチにより算出した最良の照射効率の値が、先に算出した現在の照射効率の値よりも良好な値となる場合は、再サーチにより算出した最良の照射効率となる周波数および移相量にするように、対応する高周波電力発生部220aおよび220bの周波数、および可変移相部142a〜142dの移相量をそれぞれ制御する(ステップS2410)。つまり、高周波電力発生部220aおよび220bの周波数、および可変移相部142a〜142dの移相量を更新する。一方、先に算出した現在の照射効率の値が、再サーチにより算出した最良の照射効率の値よりも良好な値となる場合は、再サーチを実行する前の元の周波数にするように、対応する高周波電力発生部220aおよび220bの周波数を制御する(ステップS2411)。
なお、再サーチにより算出した、ある周波数および位相条件における最良の照射効率の値が、現在の照射効率の値よりも良好となる場合であっても、たとえば、1つの高周波電力ユニット140における逆流電力の電力値が、予め定められた閾値を超えてしまう条件であれば、選択する必要はない。つまり、各高周波電力ユニット140における逆流電力の電力値が、予め定められた閾値を超えない条件の中で、最良の照射効率となる条件を選び出してもよい。この閾値は、例えば、半導体素子を含んだ増幅器の故障を防ぐために、増幅器が持つ周波数毎の耐電圧特性によって決めればよい。
これにより、本実施形態に係る高周波加熱装置200は、加熱処理中に被加熱物の温度や形状が変化することにより最適加熱条件が変化した場合でも、再サーチ処理により常に最適加熱条件の下に加熱できる。
また、高周波加熱装置200全体の最良の照射効率の値を算出する処理(ステップS2408)において最良の照射効率を算出する際、設定周波数において各高周波電力ユニット140における反射電力およびスルー電力の振幅と位相とを個別に検出した結果を用いて、高周波電力発生部220a,220bの周波数と可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算し、最も照射効率が良いそれぞれの高周波電力発生部220a,220bの周波数の値と各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の値を決定することができる。これにより、高周波電力発生部220a,220bの周波数と各可変移相部142a,142b,142c,142dの全ての移相量の組み合わせを実測した場合と比較すると、上述の例の通りに、大幅な時間短縮が図れる。したがって、再サーチ処理を短時間に行うことができ、被加熱物の温度変化等によって再設定が必要な時間を含めた温め時間の延長を短くでき、ユーザの加熱の待ち時間を軽減できる。
なお、再サーチ処理の開始のタイミングは、前述の実施形態1と同様に、加熱処理中に、常時もしくは定期的に、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dから、同相検波信号I(1)〜I(4)および直交検波信号Q(1)〜Q(4)を取り込んで検出した反射電力の振幅と位相とから算出した電力値と、予め定められた閾値とを比較し、少なくとも1つ以上の高周波電力ユニットにおける逆流電力の電力値が、その閾値を越えた場合に実行してもよい。
これにより、加熱処理中に被加熱物の温度や形状が変化することにより、反射電力およびスルー電力の大きさが変化した場合でも、予め閾値を定め、これを超えた場合に再サーチ処理を行うことにより、本実施形態に係る高周波加熱装置200は、実施形態1に係る高周波加熱装置100と同様に、常に最適加熱条件の下で被加熱物を加熱できる。
なお、前述したプレ・サーチ処理および再サーチ処理を実行する際に、制御部210は、サーチ処理中に過大な反射電力やスルー電力による高周波加熱装置200の故障を防ぐ為に次のようなことしてもよい。特に半導体素子を含んだ増幅器の故障を防ぐ為にの故障を防ぐ為に次のようなことしてもよい。具体的には、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dから出力される高周波電力の値を、本加熱の際の高周波電力の値よりも小さい値になるように、それぞれの高周波電力増幅部143a,143b,143c,143dの増幅利得を制御してもよい。
以上のように、本実施形態に係る高周波加熱装置200は、複数の高周波電力発生部である第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bを備える。これにより、実施形態1に係る高周波加熱装置100と比較して、高周波電力ユニット140それぞれにおける反射電力の検出に要する時間を短縮できる。これにより、ユーザが高周波加熱装置200の使用開始ボタンを押して実際に本加熱処理を行う前に、より短時間に最適な周波数の組み合わせ、および、移相量の組み合わせを決定することができ、ユーザの利便性を向上させる。
また、実施形態1に係る高周波加熱装置100と比較して、2つの高周波電力発生部である第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bを有し、それらが発生する高周波電力の周波数を互いに独立とできる。よって、高周波加熱装置200は、加熱室へ放射する複数の高周波電力の周波数における自由度が高くなるので、最大照射効率が向上する。
(実施形態3)
本実施形態に係る高周波加熱装置は、実施形態2に係る高周波加熱装置200が2つの高周波電力発生部を有しているのに対し、高周波加熱装置が4つの高周波電力ユニット各々に高周波電力を供給する4つの高周波電力発生部を有している点が異なる。この構成により、全ての高周波電力ユニットから発生される高周波の周波数を個別に制御することができるため、最大照射効率を更に高めることができる。以下、実施形態2との相違点を中心に、本発明の実施形態3を、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態3の説明において、前述の実施形態1および実施形態2と同じ機能を有する構成要素には同じ参照符号を付し、説明を省略する。また、前述の実施形態1および実施形態2と同じ作用を有する内容についても、説明を省略する。
図18は、本発明の実施形態3における、高周波加熱装置の構成を示すブロック図である。
同図に示す高周波加熱装置300は、図13に示した高周波加熱装置200と比較して、第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220bに代わり、第1の高周波電力発生部320aと、第2の高周波電力発生部320bと、第3の高周波電力発生部320cと、第4の高周波電力発生部320dとを備え、制御部210に代わり、制御部310を備えている。それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dの構成は、前述の実施形態1および2と同じであるので、説明は省略する。なお、第1〜第4の高周波電力発生部320a〜320dを、高周波電力発生部320a〜320dと記載する場合がある。
第1の高周波電力発生部320aで発生された高周波電力は、第1の高周波電力ユニット140aへ、第2の高周波電力発生部320bで発生された高周波電力は、第2の高周波電力ユニット140bへ、第3の高周波電力発生部320cで発生された高周波電力は、第3の高周波電力ユニット140cへ、第4の高周波電力発生部320dで発生された高周波電力は、第4の高周波電力ユニット140dへ、それぞれ入力される。それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dから、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dへ入力された高周波電力は、それぞれ、分配部141a,141b,141c,141dを介して、可変移相部142a,142b,142c,142dへ入力される。可変移相部142a,142b,142c,142dへ入力された高周波電力は移相処理を施され、高周波電力増幅部143a,143b,143c,143dへ入力される。高周波電力増幅部143a,143b,143c,143dに入力された高周波電力は、対象物の加熱処理に適した電力に増幅され、方向性結合部144a,144b,144c,144dを介して、放射部150a,150b,150c,150dより対象物に照射される。
制御部310は、図13に示した制御部210と比較して、高周波電力増幅部143a〜143dへ、それぞれ、周波数制御信号Cfreq1〜Cfreq4を出力する。具体的には、制御部310は、高周波電力発生部320a,320b,320c,320d、可変移相部142a,142b,142c,142d、および高周波電力増幅部143a,143b,143c,143dにそれぞれ接続されており、各々の高周波電力発生部320a,320b,320c,320dにそれぞれの周波数制御信号Cfreq1、Cfreq2、Cfreq3、Cfreq4を出力する。
それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dは、制御部310から入力された個別の周波数制御信号Cfreq1、Cfreq2、Cfreq3、Cfreq4に応じてそれぞれの周波数を変化させる。
図18の高周波加熱装置300の基本的な制御手順は、前述の実施形態1で説明した図4に示した、図1の高周波加熱装置100の基本的な制御手順を示すフローチャートと同様である。
ただし、前述の図1で説明した高周波加熱装置100は、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dは同じ周波数で動作するのに対して、本実施形態の図18に示す高周波加熱装置300においては、第1の高周波電力ユニット140aは、第1の高周波電力発生部320aの周波数で動作し、第2の高周波電力ユニット140bは、第2の高周波電力発生部320bの周波数で動作し、第3の高周波電力ユニット140cは、第3の高周波電力発生部320cの周波数で動作し、第4の高周波電力ユニット140dは、第4の高周波電力発生部320dの周波数で、それぞれ動作する。
上述の高周波加熱装置300の構成によれば、それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数を実際に変化させて高周波電力を放射させた場合に、直交検波部145a、145b、145c、145dにおいて検出された同相検波信号I(1)〜I(4)と、直交検波信号Q(1)〜Q(4)とから、高周波電力発生部320a,320b,320c,320dのそれぞれにおける周波数毎の、反射による逆流電力の振幅および位相と通り抜けによる逆流電力の振幅および位相を検出する(求める)ことができる。
この得られた周波数毎の反射による逆流電力の振幅と位相および通り抜けによる逆流電力の振幅と位相の値を用いて、それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数と、各々の可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算する。そして、計算結果から最も高周波加熱装置300全体の照射効率が良いそれぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数の組み合わせと、各々の可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の組み合わせとを決定することができる。すなわち、それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数と、各々の可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量のすべての組み合わせにおいて実際に測定することなく、最低限の実測値から最適な照射効率を計算で求めることができる。よって、時間がかかる実測を少なくすることができる。これにより、ユーザが高周波加熱装置の加熱をスタートしてから実際に加熱が始まる前までの高効率の照射を見つけるための準備時間を短くすることができる。
高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの具体的な構成は、前述した実施形態1で説明した、図2に示す高周波電力発生部120の具体的な構成と同一であるので、説明は省略する。
なお、図18において、高周波加熱装置300は、4つの高周波電力発生部と4つの高周波電力ユニット140で構成されているが、高周波電力発生部の数と高周波電力ユニット140の数が同数であればよく、その数量に限定されるものではない。
<反射電力の検出方法>
図19は、本実施形態3に係る高周波加熱装置300の反射電力検出の制御手順を示すフローチャートである。
高周波加熱装置300の制御部310は、以下の制御手順により、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dの反射電力の検出を行う。
同図に示す反射電力検出方法は、それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dが、全て異なる周波数で動作している場合と、2個以上の高周波電力発生部が同一の周波数で動作している場合とで異なる。
まず、第1〜第4の高周波電力発生部320a〜320dで、発生されている高周波電力の周波数が互いに異なるか否かを判定する(ステップS3101)。
それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dが全て異なる周波数で動作している場合(ステップS3101でYes)は、制御部310は、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dからの、同相検波信号I(1)〜I(4)および直交検波信号Q(1)〜Q(4)を取り込み、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける逆流電力の振幅と位相とを検出する(ステップS3102)。この処理は、各高周波電力ユニット140間において、並行して実施できる。これにより、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dの反射電力を短時間で検出できる。
一方、2個以上の高周波電力発生部が同一の周波数で動作している場合(ステップS3101でNo、例えば、第1の高周波電力発生部320aが周波数Aで動作し、第2および第3の高周波電力発生部320b,320cが周波数Bで動作し、第4の高周波電力発生部320dが周波数Cで動作している場合)は、他の高周波電力ユニット140と周波数が重複するか否かを判定する(ステップS3103)。
制御部310は、他の高周波電力ユニット140と周波数が重複しない高周波電力ユニット(ステップS3103でNo、例えば、第1および第4の高周波電力ユニット140a,140d)については、重複しない高周波電力ユニット140の同相検波信号および直交検波信号を取り込み、重複しない高周波電力ユニット140の逆流電力の振幅と位相とを検出する(ステップS3104)。この処理は、他の高周波電力ユニット140と周波数が重複しない高周波電力ユニット140間において、並行して実施できる。これにより、他の高周波電力ユニット140と周波数が重複しない高周波電力ユニット140の反射電力を短時間で検出できる。
一方、他の高周波電力ユニット140と周波数が重複する高周波電力ユニット140(ステップS3103でYes、例えば、第2および第3の高周波電力ユニット140b,140c)について(ステップS3103でYesの場合)は、制御部310は、1つの高周波電力ユニット140(例えば、第2の高周波電力ユニット140b)以外の高周波電力ユニット140(例えば、第3の高周波電力ユニット140c)の出力電力が、当該1つの高周波電力ユニット140の反射電力の検出に影響を与えないレベルになるよう制御する(ステップS3105)。当該1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140の、高周波電力増幅部の増幅利得を制御した後、制御部310は、反射電力を検出しようとする当該1つの高周波電力ユニット140の同相検波信号および直交検波信号を取り込み、当該1つの高周波電力ユニット140の逆流電力の振幅と位相とを検出する(ステップS3106)。
次に、全ての高周波電力ユニット140において、上記処理が完了したか否かを判定し(ステップS3107)、完了していない場合(ステップS3107でNo)、別の高周波電力ユニット140を検出対象として(ステップS3108)上記の検出対象とした1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140の出力電圧を下げる処理(ステップS3105)および当該検出対象とした高周波電力ユニット140における逆流電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS3106)を繰り返す。
一方、全ての高周波電力ユニット140において、上記処理が完了している場合(ステップS3107でYes)、処理を終了する。これにより、他の高周波電力ユニット140と周波数が重複する高周波電力ユニット140の反射電力を検出できる。
以上のように、他の高周波電力ユニット140と周波数が重複しない高周波電力ユニット140に関しては、同時に反射電力を検出できるので、短時間に反射電力の検出が可能となる。本実施形態に係る高周波加熱装置300は、各高周波電力ユニット140に対応して、周波数を独立に設定できるので、実施形態2に係る高周波加熱装置200と比較して、より短時間に反射電力の振幅および位相を検出できる。
<スルー電力の検出方法>
図20は、本実施形態3に係る高周波加熱装置300のスルー電力検出の第1の制御手順を示すフローチャートである。
高周波加熱装置300の制御部310は、以下の制御手順により、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140d間相互のスルー電力の検出を行う。
同図に示すように、制御部310は、まず、任意の1つの高周波電力ユニット140(例えば、周波数Aで動作している、第1の高周波電力ユニット140a)のみ高周波電力を出力し、他の高周波電力ユニット140(例えば、任意の周波数で動作している、第2,第3,第4の高周波電力ユニット140b,140c,140d)の出力電力を、各高周波電力ユニット140における反射電力の検出レベルが充分に小さくなるように、それぞれの高周波電力ユニット140の高周波電力増幅部の増幅利得を制御する(ステップS3201)。
次に、制御部310は、高周波電力の出力レベルを小さくするように制御した、他の高周波電力ユニット140(例えば、第2,第3,第4の高周波電力ユニット140b,140c,140d)に高周波電力をそれぞれ供給している、高周波電力発生部(例えば、第2,第3,第4の高周波電力発生部320b,320c,320d)の周波数を、高周波電力が出力されている1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)に高周波電力を供給している、高周波電力発生部(例えば、第1の高周波電力発生部320a)と同じ周波数(例えば、周波数A)にするように、それぞれの高周波電力発生部(例えば、第2,第3,第4の高周波電力発生部320b,320c,320d)の周波数を制御する(ステップS3202)。
制御部310は、他のそれぞれの高周波電力ユニット140(例えば、第2,第3,第4の高周波電力ユニット140b,140c,140d)の同相検波信号および直交検波信号を取り込み、高周波電力が出力されている1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)から、他のそれぞれの高周波電力ユニット140(例えば、第2,第3,第4の高周波電力ユニット140b,140c,140d)へのスルー電力(例えば、第1の高周波電力ユニット140aから第2の高周波電力ユニット140bへのスルー電力、第1の高周波電力ユニット140aから第3の高周波電力ユニット140cへのスルー電力、および第1の高周波電力ユニット140aから第4の高周波電力ユニット140dへのスルー電力)の振幅と位相とを検出する(ステップS3203)。
次に、全ての高周波電力ユニット140からのスルー電力の検出が完了したか否かを判定し(ステップS3204)、完了していない場合(ステップS3204でNo)、別の高周波電力ユニット140を検出対象として(ステップS3205)、上記の検出対象とした1つの高周波電力ユニット140以外の高周波電力ユニット140の出力電圧を下げる処理(ステップS3202)から他の高周波電力ユニット140において逆流電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS3203)までを繰り返す。
一方、全ての高周波電力ユニット140からのスルー電力の検出が完了した場合(ステップS3204でYes)、このスルー電力検出処理を終了する。
これにより、全ての高周波電力ユニット140間における相互のスルー電力の振幅と位相とを検出する。
なお、スルー電力の検出は以下のように実施してもよい。
図21は、本実施形態による高周波加熱装置300の、スルー電力検出の第2の制御手順を示すフローチャートである。
同図に示すように、制御部310は、まず、任意の1つの高周波電力ユニット140(例えば、周波数Aで動作している、第1の高周波電力ユニット140a)のみ出力電力を、その高周波電力ユニット140における反射電力の検出レベルが充分に小さくなるように、高周波電力増幅部の増幅利得を制御する(ステップS3301)。
次に制御部310は、出力電力が小さくなるように制御した1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)に高周波電力を供給している高周波電力発生部(例えば、第1の高周波電力発生部320a)の周波数を、他の高周波電力ユニット(例えば、周波数Bで動作している第2の高周波電力ユニット140b、周波数Cで動作している第3の高周波電力ユニット140c、および周波数Dで動作している第4の高周波電力ユニット140d)の内のいずれか1つの高周波電力ユニット(例えば、第2の高周波電力ユニット140b)に高周波電力を供給している、高周波電力発生部(例えば、第2の高周波電力発生部320b)が動作している周波数(例えば、周波数B)と同じ周波数になるように制御する(ステップS3302)。
次に制御部310は、出力電力が小さくなるように制御した1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)の同相検波信号および直交検波信号を取り込み、同じ周波数で動作している他の1つの高周波電力ユニット140(例えば、第2の高周波電力ユニット140b)から、出力電力が小さくなるように制御した1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)への逆流電力の振幅と位相とを検出する(ステップS3303)。
そして、他のすべての高周波電力ユニット140から出力電力が小さくなるように制御した1つの高周波電力ユニット140への逆流電力の振幅と位相とを検出したか否kを判定する(ステップS3304)。
完了していない場合(ステップS3304でNo)、出力電力が小さくなるように制御した1つの高周波電力ユニット140に対応する周波数を、他の1つの高周波電力ユニット140に対応する周波数(例えば、周波数C)に設定し(ステップS3305)、以下の処理を繰り返す。つまり、上記の出力電力が小さくなるように制御した1つの高周波電力ユニット140に対応する周波数を他の1つの高周波電力ユニット140に対応する周波数に設定する処理(ステップS3302)および逆流電力の振幅と位相を検出する処理(ステップS3303)を繰り返す。
これにより、他の全ての高周波電力ユニット140(例えば、第2〜第4の高周波電力ユニット140b〜140d)から、出力電力が小さくなるように制御した1つの高周波電力ユニット140(例えば、第1の高周波電力ユニット140a)へのスルー電力の振幅と位相とを検出する(ステップS3304でYes)。
次に、制御部310は、全ての高周波電力ユニット140においてスルー電力の検出が完了したか否かを判定し(ステップS3306)、完了していない場合(ステップS3306でNo)、次の任意の1つの高周波電力ユニット140(例えば、周波数Bで動作している、第2の高周波電力ユニット140b)を検出対象とする(ステップS3307)。
そして、新たに検出対象とした1つの高周波電力ユニット140の出力電力を下げる処理(ステップS3301)以降の処理を繰り返す。
一方、全ての高周波電力ユニット140において、スルー電力の検出が完了した場合(ステップS3306でYes)、このスルー電力検出処理を完了する。
これにより、全ての高周波電力ユニット140間の相互スルー電力の振幅と位相とを検出できる。
<プレ・サーチ処理>
本実施形態3による本加熱前における最適加熱条件の決定処理(プレ・サーチ処理)は実施形態2で示した図16と同様の制御手順で行う。
プレ・サーチ用に予め定められた全ての周波数において、全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dにおける反射電力の振幅と位相、および全ての高周波電力ユニット140a,140b,140c,140d間における相互のスルー電力の振幅と位相との検出が完了することによって、前述の実施形態1および実施形態2と同様に、各周波数での、各高周波電力発生ユニットの反射電力特性、および各高周波電力発生ユニット間に於ける相互のスルー電力特性を、振幅と位相を用いて表現する、図8に示すようなマトリクスが得られる。
ここで、得られたSパラメータを用いて高周波加熱装置300の照射ロスを計算する方法の事例を以下に説明する。
各高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dの任意の周波数の組み合わせにおける照射ロスは、検出した振幅と位相とで表されるSパラメータを使って計算できる。
例えば、第1の高周波電力ユニット140aの照射ロスは、第1の高周波電力発生部320aに設定された周波数におけるS11、第2の高周波電力発生部320bに設定された周波数におけるS12、第3の高周波電力発生部320cに設定された周波数におけるS13、および第4の高周波電力発生部320dに設定された周波数におけるS14の総和の大きさを計算することにより得られる。Sパラメータの和を計算するときは、周波数が異なる場合は振幅成分の和として計算でき、周波数が同じである場合は振幅成分と位相成分のベクトル合成によって計算することができる。
本実施形態においては、4つの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dと、4つの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dを備え、それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dが、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dに1対1で対応しているので、それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dに設定された周波数の組み合わせにより、各高周波電力ユニット140における、Sパラメータの和を計算する方法が異なる。
全ての高周波電力発生部320a,320b,320c,320dが同一の周波数で動作している場合は、前述の実施形態1と同様に、それぞれの高周波電力ユニット140におけるSパラメータの和は、振幅成分と位相成分のベクトル合成によって計算することができる(式1−1〜式1−4)。
次に、全ての高周波電力発生部320a,320b,320c,320dが異なる周波数で動作している場合(例えば、第1の高周波電力発生部320aが周波数Aで動作し、第2および第3の高周波電力発生部320b,320cが周波数Bで動作し、第4の高周波電力発生部320dが周波数Cで動作している場合)は、それぞれの高周波電力ユニット140におけるSパラメータの和は、振幅成分の和として計算することができる。
例えば、それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dが、全て異なった周波数に設定されている時の、第1の高周波電力ユニット140aの反射電力S11の振幅をM11、位相をθ11、第2の高周波電力ユニット140bから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S12の振幅をM12、位相をθ12とし、第3の高周波電力ユニット140cから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S13の振幅をM13、位相をθ13とし、第4の高周波電力ユニット140dから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S14の振幅をM14、位相をθ14とした場合、第1の高周波電力ユニット140aにおける照射ロス|S11+S12+S13+S14|は、次の式で表される。
|S11+S12+S13+S14|=M11+M12+M13+M14・・・・・(式5−1)
第2の高周波電力ユニット140bの照射ロス|S21+S22+S23+S24|,第3の高周波電力ユニット140cの照射ロス|S31+S32+S33+S34|,および第4の高周波電力ユニット140dの照射ロス|S41+S42+S43+S44|も、式5−1と同様に、それぞれ次の式で計算できる。
|S21+S22+S23+S24|=M21+M22+M23+M24・・・・・(式5−2)
|S31+S32+S33+S34|=M31+M32+M33+M34・・・・・(式5−3)
|S41+S42+S43+S44|=M41+M42+M43+M44・・・・・(式5−4)
全ての高周波電力ユニット140の照射ロスの合計が、その周波数の組み合わせにおける、装置全体の照射ロスとなる。
次に、同一の周波数で動作している高周波電力発生部と、異なる周波数で動作している高周波電力発生部が混在している場合、例えば、第2および第3の高周波電力発生部320b,320cが同一の周波数で動作し、第1の高周波電力発生部320aと、第2の高周波電力発生部320b(または、第3の高周波電力発生部320c)と、第4の高周波電力発生部320dとが異なる周波数で動作している場合(例えば、第1の高周波電力発生部320aが周波数Aで動作し、第2および第3の高周波電力発生部320b,320cが周波数Bで動作し、第4の高周波電力発生部320dが周波数Cで動作している場合)は、それぞれの高周波電力ユニット140におけるSパラメータの和は、周波数が異なるSパラメータ同士は振幅成分の和として計算でき、周波数が同一であるSパラメータ同士は振幅成分と位相成分のベクトル合成によって計算することができる。
例えば、前述の例のように、第2および第3の高周波電力発生部320b,320cが同一の周波数で動作し、第1の高周波電力発生部320aと、第2の高周波電力発生部320b(または、第3の高周波電力発生部320c)と、第4の高周波電力発生部320dとが異なる周波数で動作している時の、第1の高周波電力ユニット140aの反射電力S11の振幅をM11、位相をθ11、第2の高周波電力ユニット140bから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S12の振幅をM12、位相をθ12とし、第3の高周波電力ユニット140cから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S13の振幅をM13、位相をθ13とし、第4の高周波電力ユニット140dから第1の高周波電力ユニット140aへのスルー電力S14の振幅をM14、位相をθ14とした場合、第1の高周波電力ユニット140aにおける照射ロス|S11+S12+S13+S14|は、次の式で表される。
第2の高周波電力ユニット140bの照射ロス|S21+S22+S23+S24|,第3の高周波電力ユニット140cの照射ロス|S31+S32+S33+S34|,および第4の高周波電力ユニット140dの照射ロス|S41+S42+S43+S44|も、式6−1と同様に、それぞれ次の式で計算できる。
全ての高周波電力ユニット140の照射ロスの合計が、その周波数の組合せにおける、装置全体の照射ロスとなる。
次に、それぞれの高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量を変化させた時の、照射ロスの計算について説明する。
例えば、前述と同様に、第2および第3の高周波電力発生部320b,320cが同一の周波数で動作し、第1の高周波電力発生部320aと、第2の高周波電力発生部320b(または、第3の高周波電力発生部320c)と、第4の高周波電力発生部320dとが異なる周波数で動作している時の、第1の高周波電力ユニット140aの可変移相部142aの移相量をφ1だけ変化させ、第2の高周波電力ユニット140bの可変移相部142bの移相量をφ2だけ変化させ、第3の高周波電力ユニット140cの可変移相部142cの移相量をφ3だけ変化させ、第4の高周波電力ユニット140dの可変移相部142dの移相量をφ4だけ変化させた時の、第1の高周波電力ユニット140aにおける照射ロス|S11+S12+S13+S14|、第2の高周波電力ユニット140bの照射ロス|S21+S22+S23+S24|,第3の高周波電力ユニット140cの照射ロス|S31+S32+S33+S34|,および第4の高周波電力ユニット140dの照射ロス|S41+S42+S43+S44|は、それぞれ次の式で表される。
それぞれの高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量を任意の値だけ変化させた時の、それぞれの高周波電力ユニット140における照射ロスは、上述の式7−1から式7−4を用いて計算でき、装置全体の照射ロスも計算できる。
上述の通り、反射電力およびスルー電力の振幅と位相との情報を基づいて、それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数と、各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算し、最も高周波加熱装置300全体の照射効率が良いそれぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数および可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を決定する。
続いて、決定した周波数および移相量にするように、それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数、および可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量をそれぞれ制御する。
以上のように、本処理は、設定周波数において各高周波電力ユニット140における反射電力およびスルー電力を個別に検出した振幅と位相との結果を用いて、高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数と可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算して、最も高周波加熱装置300全体の照射効率が良い高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数の値と可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の値を決定することができる。これにより、全ての高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数と可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の組み合わせを実測した場合と比較すると、上述の例の通りに、大幅な時間短縮が図れる。したがって、ユーザが高周波加熱装置300の使用開始ボタンを押して実際に本加熱処理を行う前に、最適な加熱の周波数条件を決定するプレ・サーチ処理を短時間に行うことができる。
例えば、設定可能な周波数を、2.4GHzから2.5GHzまでの1MHz間隔の101ポイントとし、設定可能な移相量を0度〜360度の30度間隔の12ポイントとして、4つの高周波電力ユニット140で測定した場合を考える。現在、周波数1ポイントを測定するためには約0.1msが必要であり、すべての組み合わせである124×1014回の実測を完了するには約6万時間が必要となる。すなわち、高周波電力発生部の周波数と各高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量のすべての周波数の組み合わせを実測した場合、ユーザが加熱を開始する前に約6万時間もの時間を要することになり、非現実的となる。
これに対し、本実施形態の構成では、2.4GHzから2.5GHzまでの周波数帯域の101ポイントについて、各高周波電力ユニット140の可変移相部142の移相量をある任意の1点に設定した状態で、各高周波電力ユニット140で反射電力とスルー電力との同相検波信号と直交検波信号とを実測して振幅と位相とを計算するのみなので、101×4ポイントの実測にかかる時間40ms程度で、周波数毎の反射による逆流電力の振幅および位相と通り抜けによる逆流電力の振幅および位相を得ることができる。この101×4ポイントの振幅と位相とから表されるSパラメータが得られた後は、実測よりも遙かに早い制御部310による計算によって、最適な照射効率が実現できる各高周波電力発生部320a〜320dの周波数の組み合わせと、各可変移相部142の移相量の組み合わせとを決定すれば良く、ユーザの加熱準備時間として一般的に許容されている1秒以下の加熱までの準備時間を十分に実現できる。
さらに、前述の実施形態1および2と同様に、各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の最適な組合せを計算する過程において、ベクトル合成の性質を利用することにより、計算処理数を減らして、さらなる計算時間の短縮が図れる。
なお、本実施形態では、全ての反射電力の振幅と位相とを検出した後に、全てのスルー電力の振幅と位相とを検出するように説明しているが、全てのスルー電力の振幅と位相の検出を完了してから、全ての反射電力の振幅と位相とを検出しても良いし、反射電力の振幅と位相とスルー電力の振幅と位相とを交互に検出してもよい。また、スルー電力の振幅と位相とを検出している際に、高周波電力を出力している高周波電力発生ユニットについては、反射電力の振幅と位相とを同時に検出できるので、スルー電力の振幅と位相と反射電力の振幅と位相とを同時に検出してもよい。
<再サーチ処理>
本実施形態3による再サーチ処理は実施形態2で示した図17と同様の制御手順で行う。
本処理は、加熱処理中に被加熱物の温度や形状が変化することにより最適加熱条件が変化した場合でも、再サーチ処理により常に最適加熱条件の下に加熱できる。また、最良の照射効率を算出する際、設定周波数において各高周波電力ユニット140における反射電力およびスルー電力の振幅と位相とを個別に検出した結果を用いて、高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数と可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量を任意の組み合わせに設定し動作させたと仮定したときの照射ロスを計算し、最も照射効率が良いそれぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数の値と各可変移相部142a,142b,142c,142dの移相量の値を決定することができる。
これにより、全ての、それぞれの高周波電力発生部320a,320b,320c,320dの周波数と各可変移相部142a,142b,142c,142dの全ての移相量の組み合わせを実測した場合と比較すると、上述の例の通りに、大幅な時間短縮が図れる。したがって、再サーチ処理を短時間に行うことができ、被加熱物の温度変化等によって再設定が必要な時間を含めた温め時間の延長を短くでき、ユーザの加熱の待ち時間を軽減できる。
なお、再サーチにより算出した、ある周波数および位相条件における最良の照射効率の値が、現在の照射効率の値よりも良好となる場合であっても、たとえば、1つの高周波電力ユニット140における逆流電力の電力値が予め定められた閾値を超えてしまう条件であれば、選択する必要はない。つまり、各高周波電力ユニット140における逆流電力の電力値が、予め定められた閾値を超えない条件の中で、最良の照射効率となる条件を選び出してもよい。この閾値は、例えば、半導体素子を含んだ増幅器の故障を防ぐために、増幅器が持つ周波数毎の耐電圧特性によって決めればよい。
また、再サーチ処理の開始のタイミングは、前述の実施形態1と同様に、加熱処理中に常時もしくは定期的に、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dから、同相検波信号I(1)〜I(4)および直交検波信号Q(1)〜Q(4)を取り込んで検出した反射電力の振幅と位相とから算出した電力値と、予め定められた閾値とを比較し、少なくとも1つ以上の高周波電力ユニット140における反射電力の電力値が、その閾値を越えた場合に実行してもよい。
これにより、加熱処理中に被加熱物の温度や形状が変化することにより反射電力およびスルー電力の大きさが変化した場合でも、予め閾値を定め、これを超えた場合に再サーチ処理を行うことにより、常に最適加熱条件の下で被加熱物を加熱できる。
なお、前述したプレ・サーチ処理および再サーチ処理を実行する際に、サーチ処理中に過大な反射電力やスルー電力による、高周波加熱装置、特に半導体素子を含んだ増幅器の故障を防ぐ為に、それぞれの高周波電力ユニット140a,140b,140c,140dから出力する高周波電力の値を、本加熱の際の高周波電力の値よりも小さい値になるように、それぞれの高周波電力増幅部143a,143b,143c,143dの増幅利得を制御してもよい。
以上のように、本実施形態に係る高周波加熱装置300は、各高周波電力ユニット140に1対1に対応する高周波電力発生部320a〜320dを備える。これにより、実施形態2に係る高周波加熱装置200と比較して、高周波電力ユニット140それぞれにおける反射電力の検出に要する時間をより一層短縮できる。よって、ユーザが高周波加熱装置300の使用開始ボタンを押して、実際に本加熱処理を行う前に、より短時間に最適な周波数の組み合わせ、および、移相量の組み合わせを決定することができ、ユーザの利便性をより一層向上させる。
また、実施形態2に係る高周波加熱装置200と比較して、高周波電力発生部320a〜320dそれぞれが発生する高周波電力の周波数を互いに独立とできる。よって、高周波加熱装置300は、加熱室へ放射する複数の高周波電力の周波数における自由度が高くなるので、最大照射効率がより一層向上する。
以上、本発明に係る高周波加熱装置について、各実施形態に基づき説明したが、本発明はこれら実施形態に限定されるものではない。本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者が思いつく各種変形を当該実施形態に施したものや、異なる実施形態における構成要素を組み合わせて構築される形態も、本発明の範囲内に含まれる。
このような高周波加熱装置は、例えば、図22に示す電子レンジとして適用可能であり、短時間で最適な加熱条件を検出し、被加熱物を加熱できる。よって、ユーザの利便性が向上する。
なお、上記各実施形態において、第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dのそれぞれが、可変移相部142a〜142dを備えたが、実施形態2においては、第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dのそれぞれが可変移相部を備えなくてもよい。
具体的には、実施形態2において、第1の高周波電力発生部220aと第1の分配部230aとの間に1つの可変移相部を備え、第2の高周波電力発生部220bと第2の分配部230bとの間に他の1つの可変移相部を備えてもよい。
また、実施形態2および3においては、第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dのそれぞれは可変移相部142a〜142dを備えず、高周波電力発生部(第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220b、または、第1〜第4の高周波電力発生部320a〜320d)により発生される高周波電力の位相が変化されてもよい。つまり、可変移相部は、高周波電力発生部の各々に設けられ制御部(制御部110、210または310)から設定された移相量に従って、高周波電力発生部から発生される高周波電力の位相を変化させるPLL回路であってもよい。これにより、高周波電力発生部から発される高周波電力よりも低い周波数において位相を変化させることができ、制御および設計が容易になる。
また、実施形態3において、上記説明では第1〜第4の高周波電力発生部320a〜320dが第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dとは別に設けられていたが、第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140d内に、対応する第1〜第4の高周波電力発生部320a〜320dが設けられていてもよい。
また、高周波加熱装置は、照射効率が最良となる周波数および移相量の組み合わせを設定するに限らず、所望の状態に被加熱物を加熱できるような周波数および移相量の組み合わせを決定し、決定した周波数および移相量の組み合わせで被加熱物を加熱してもよい。例えば、被加熱物がお弁当の場合に、ご飯は加熱して、おかずは加熱しないような、周波数および移相量の組み合わせを決定してもよい。
また、第1〜第4の高周波電力ユニット140a〜140dにおいて、高周波電力増幅部143a〜143dは可変移相部142a〜142dの後段に接続されていたが、高周波電力増幅部143a〜143dが可変移相部142a〜142dよりも前に接続されていてもよい。
また、図9において、各高周波電力ユニット140の照射ロス180a〜180dは、ステップS1101(具体的にはステップS1401、ステップS1404およびステップS1407)において設定した周波数毎に、実測に用いた移相量組み合わせθ0、0、0、0以外の移相量組み合わせにおける照射ロスを計算により推定した。しかし、ステップS1101において設定した周波数に加え、さらに、高周波電力発生部(高周波電力発生部120、第1の高周波電力発生部220aおよび第2の高周波電力発生部220b、または、第1〜第4の高周波電力発生部320a〜320d)に設定可能な周波数(例えば、2401.5MHz等)における照射ロス180a〜180dを、計算により推定してもよい。つまり、例えば設定可能な周波数が201ポイントある場合に、実測する周波数が101ポイント、推定する周波数が100ポイントであってもよい。
また、実施形態2及び3では、反射電力検出の制御手順を高周波電力発生部の周波数の関係に応じて異ならせていたが、周波数の組み合わせに関わらず、図5に示した実施形態1での反射電力検出の制御手順と同様にしてもよい。
同様に、実施形態2及び3では、スルー電力検出の制御手順を高周波電力発生部の周波数の関係に応じて異ならせていたが、周波数の組み合わせに関わらず、図6に示した実施形態1でのスルー電力検出の制御手順と同様にしてもよい。
また、本発明は、装置として実現できるだけでなく、この装置の処理手段をステップとする高周波加熱方法として実現することもできる。