JP4992560B2 - プラスチック気泡シートの製造方法および製造装置 - Google Patents

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本発明は、プラスチック気泡シートの製造方法および製造装置の改良に関し、緩衝材として使用したときに、接触した相手にキャップの跡が残らず、かつ、滑り性が改善されたことにより二次加工の精度が高まるとともに、包装作業が容易に行えるプラスチック気泡シートを提供する。
プラスチック、代表的にはポリエチレン、とくに低密度ポリエチレンを材料とし、真空成形により多数のキャップを形成したキャップフィルムと、平坦なバックフィルムとを貼り合わせ、多数の密閉された空気室を形成したプラスチック気泡シート(以下単に「気泡シート」という)が、主として緩衝包装の分野で、また一部は断熱材としても使用されている。
この種の気泡シートは、一般に、1台または2台の押出機と2本のT−ダイとを使用し、それらから出る溶融プラスチックフィルムの一方をキャップフィルム用のフィルム、他方をバックフィルム用のフィルムとし、キャップフィルム用のフィルムを真空成形用の多数の凹みと真空吸引手段とを有する真空成形ロールによりキャップフィルムに成形し、その裏面すなわちキャップの底面にバックフィルム用のフィルムをバックフィルムとして貼り合わせ、加圧ロールで完全に一体にして、製造されたプラスチック気泡シートを剥離ロールで真空成形ロールから剥がし取って製品を得る、という手順によって製造している。
このとき、T−ダイを出た溶融プラスチックのフィルムは、そのまま真空成形ロールに至り、加工される。プラスチックの塑性加工において、一般に樹脂温度は、必要な限度で低い方がよいことはいうまでもない。空気中を走行する間にフィルムは若干冷却され、温度が低下するので、T−ダイの温度は、それを見込んで、溶融温度よりは若干高く設定している。
出願人は、ポリエチレンとくにLDPEを材料とする気泡シートの製造において、キャップフィルムをいったん冷却して延伸し、再度加熱して塑性を回復させてから成形に向ける、「冷却加熱方式」を開発して、実施してきた。これにより、フィルムの強度を高め、剛性のある(腰の強い)気泡シートを製造することができる。上記した、T−ダイからフィルムを直接真空成形ロールに送る従来技術は、冷却加熱方式との対比において「ダイレクト方式」と呼ばれる。
近年、気泡シートの材料として新しいもの、たとえばLLDPEやメタロセン触媒を用いたポリエチレンなどが台頭し、延伸を施さなくても十分な強度をもった製品が得られるようになった。そこで、冷却加熱方式にくらべてエネルギー消費の少ないダイレクト方式の採用が、再度注目されるようになった。
一方、気泡シートは、その最大の用途である緩衝材としての使用において、気泡シートが接触していた相手に、気泡シートのキャップの形状に応じた「粒跡」を残すことがあり、その改善が求められていた。粒跡の発生は、キャップの頂が接触していた側が甚だしいが、バックフィルムの側にも生じる。粒跡が発生しても、拭き取れば消える場合、さして問題にならないが、しばしば消え残って、被包装物の価値を損なうという支障が生じる。
気泡シートが抱えるいまひとつの問題は、気泡シートどうしの、および気泡シートと他物との間の滑り性が低いことである。この問題は、とくに長尺・広幅の気泡シートに対して切断などの二次加工を施す場合に、作業能率が低いことと、得られる製品の寸法精度がよくないという、具体的な欠点となって現れる。
発明者は、上記した二つの問題が、気泡シートの製造方法として「冷却加熱方式」を選んだ製品よりも、「ダイレクト方式」による製品において顕著であること、逆から言えば、冷却加熱方式をとることにより、ダイレクト方式よりも問題が軽減されることに着目し、T−ダイを出た溶融プラスチックフィルムが真空成形ロールにより加工されるまでの履歴が、粒跡の生成と滑り性に影響を与えるのではないかと考えた。すなわち、プラスチックフィルムは、できるだけ低い温度で押し出されてすぐ加工されるという履歴よりも、溶融フィルムとして、ある時間、高い温度で空気中に存在することによって、粒跡を発生させ、滑り性を低くしている原因が除去されるという期待をもったのである。そこで試験の結果、この期待が当たっていることを確認して本発明に至った。
したがって本発明のひとつの目的は、発明者の得た知見にもとづき、気泡シートにおいて、緩衝材として使用したときに、気泡シートが接触していた他物にキャップの形状に応じた粒跡を残すことが少ないものを提供することであり、いま一つの目的は、滑り性の改善されたものを提供することである。
上記のふたつの目的を一挙に達成する本発明の気泡シート、すなわち接触した相手にキャップの跡を残さず、かつ、滑り性が改善されたプラスチック気泡シートを得る製造方法は、図1に代表的な装置の配置を示すように、T−ダイから溶融押出ししたプラスチックフィルムを、多数の凹みをそなえた真空成形ロールで成形して多数のキャップをもったキャップフィルムとし、そのキャップの底面に、別のT−ダイから溶融押出しした平坦なプラスチックフィルムをバックフィルムとして貼りつけ、多数の密閉された空気室を形成することからなるプラスチック気泡シートの製造方法において、
キャップフィルム用のフィルム(2)、またはキャップフィルム用のフィルム(2)とバックフィルム用のフィルム(3)とを、T−ダイ(4A;または4A,4B)から出たところで、少なくとも1本の高温ロール(7A;または7A,8A)と接触させることにより、フィルム温度を、高めるか、維持するか、または徐冷して、自然な冷却によって与えられる温度よりも高く保ったのち、少なくとも1本の低温ロール(7B;または7B,8B)により冷却して真空成形ロールに送ることを特徴とする。
この製造方法を実施するための本発明の製造装置は、プラスチックを溶融押出しする押出機(図示してない)、キャップフィルム用フィルム(2)を押し出すT−ダイ(4A)およびバックフィルム用フィルム(3)を押し出すT−ダイ(4B)、押し出されたキャップフィルム用のフィルムを真空成形によりキャップフィルムとするための、多数の凹みと真空吸引手段とをそなえた真空成形ロール(5)、バックフィルムをキャップフィルムのキャップの底面に貼り付けるための加圧ロール(6)、および製造されたプラスチック気泡シート(1)を巻き取るための巻き取り手段を必須構成部分とするプラスチック気泡シートの製造装置において、
キャップフィルム用のT−ダイ(4A)から真空成形ロール(5)に至る経路、またはキャップフィルム用のT−ダイから真空成形ロールに至る経路およびバックフィルム用のT−ダイ(4B)から真空成形ロール(5)に至る経路の両方に、少なくとも1本の高温ロール(7A;または7A,8A)と、少なくとも1本の低温ロール(7B;または7B,8B)とを設け、T−ダイから出たキャップフィルム用のフィルム、またはキャップフィルム用のフィルムとバックフィルム用のフィルムのフィルム温度を、自然な冷却によって至る温度よりも高く保ったのち真空成形ロールに送るように構成したことを特徴とする。
本発明に従ってキャップフィルム用のフィルム、またはキャップフィルム用のフィルムおよびバックフィル用のフィルムの両方に対して温度調節を行なって気泡シートを製造すれば、得られた製品は、緩衝材として使用され、他物と長期間接触したのちも、その他物にキャップの跡を残すことがないか、または跡残りが顕著に軽減し、実用上支障のない程度になる。キャップの粒跡の問題は、とくにプラスチック製品、塗装を施した製品などに多く見られたので、そのような他物との接触には注意を払わなければならなかったが、本発明の気泡シート製品においては、そうした配慮が不要である。
気泡シート製品の滑り性の向上は、前記したように、裁断、打ち抜き、折り曲げ、製袋、ヒートシールなどの二次加工に当たって、作業性が大いに改善されるという利益をもたらす。滑り性の向上はまた、製品精度の向上にも役立ち、たとえば裁断という単純な作業においても、裁断幅の精度が、滑りの悪い製品では±5%以内の目標に対して7%になってしまうような事態が時に生じるが、本発明の製品に関しては、目標を十分にクリアし、さらに±3%とか、よりすぐれた結果を得ることができる。
本発明の製造方法により、キャップの跡残りが少なく、滑り性が改善された気泡シートが得られる作用機構について、発明者も十分解明するに至っていないが、有力な要因として、材料プラスチック中に含まれている低分子量物質の排除が考えられる。すなわち、T−ダイを出た溶融プラスチックのフィルムが真空成形ロールで成形されるまでに、自然に与えられる温度よりも高い温度に保たれている間に、溶融プラスチックのフィルムの表面から低分子量の物質が揮発して去ることにより、製品気泡シートを構成するプラスチックの表面には、もはや低分子量物質が残存しないか、または残存してもごく少量に止まり、気泡シートの使用において他物と接触しても、その表面に影響を与えることが少なくなる、という機構である。
気泡シートの材料として代表的なポリエチレンをとりあげ、その分子量分布を考えたとき、重合方法による差異はあるとしても、多かれ少なかれ低分子量の物質が含有されることは避けられない。そのような低分子量物質は、容易に理解されるように、一種の溶剤のような作用をする。低分子量であればポリマー内部を移動することが容易であるから、ブリーディングにより表面に出やすく、フィルム製品においてはその影響が増大されると考えられる。
滑り性への影響も、同様に考えることができる。フィルム表面に現れた低分子量の物質が、気泡シートのフィルム表面を濡らしたような効果が生じて、気泡シート相互の滑りや、気泡シートと他物との滑りを阻害するわけである。
T−ダイを出た溶融プラスチックのフィルムが速やかに冷却されると、低分子量物質は、フィルム表面に固定されて製品に移行する。従来のダイレクト方式による気泡シート製品において跡残りの問題が大きかったのは、このような理由によると考えられる。一方、冷却加熱方式による気泡シート製品において問題が軽減されるのは、真空成形ロールによる加工に先だってフィルムが再度高温に加熱される結果、低分子量物質が多少とも揮発して除去されるからと考えられる。本発明によるときは、溶融押し出しされたプラスチックのフィルムを加熱ロールにより高温に保ち、その間に低分子量物質の揮発を促し、しかるのちに真空成形に適切な低い温度に冷却してキャップ形成の加工をするから、跡残りを引き起こす低分子量物質が高度に除去される。
以上の関係を概念的に表せば、図2のグラフのようになる。T−ダイから真空成形ロールまでの間、従来のダイレクト方式では、フィルムは自然に冷却される。冷却加熱方式では、いったん温度が低下した後、再度上昇する。これに対して本発明による場合は、実線のように、押出し後の高温が比較的長い時間保たれる。高温に保持する効果を十分に得ようとするならば、押出し温度よりも高い加熱温度を選択することも可能である。ここで実線は、図示したように、典型的には、T−ダイから押し出されたフィルムの温度を、高めるか(A)、維持するか(B)、または徐冷する(C)という3種の典型があり、それらの組み合わせおよび変種もあり得、本発明でいう「温度調節」は、それらを包含する。
以上の説明から容易に理解されるように、溶融押し出しされたフィルムを加熱して温度を保つ操作は、キャップフィルム用のフィルムだけでなく、バックフィルム用のフィルムに対しても実施することが好ましい。しかし、どちらか一方だけに行なう場合は、キャップフィルム用のフィルムを対象にすべきである。キャップが他物に触れて生じる跡のこりの方が、バックフィルムが他物に触れて生じる跡残りよりも、程度が激しいからである。
フィルムの加熱は加熱ロールによるべきであり、冷却も冷却ロールによることが好ましいが、冷却は、自然冷却によることも可能である。しかし、自然冷却で真空成形に適切なところまで温度を低下させようとすると、フィルムに長いパスを通過させなければならなくなることが多い。そこで、他の手段たとえば真空成形ロール直前に配置したエアナイフで冷却するというような手段を採用して、製造装置が過度に大きくなるのを避けることが得策である。
材料として低密度ポリエチレン「ペトロセン」(東ソー製)を使用し、図1に示した構成をもつ装置、すなわち高温ロールおよび低温ロールを各1本、キャップフィルム用フィルムおよびバックフィルム用フィルムのそれぞれに対して配置した装置を用いて、気泡シートを製造した。高温ロールおよび低温ロールは、外径がともに20cmで、熱媒体または冷却水を通して、表面温度をそれぞれ140℃および115℃とした。T−ダイの温度は230℃、真空成形ロールの表面温度は78℃である。従ってこの場合、溶融したポリエチレンのフィルムは、徐冷されてから冷却され、真空成形ロールに送られることになる。
この装置においては、ダイリップから真空成形ロール上の加圧ロールまでの間で、キャップフィルムは60cm、バックフィルムは40cmの経路を通過することになり、その間の所要時間は、約0.7秒である。得られた気泡シートは、つぎの仕様の製品である。
キャップフィルム:35μm
バックフィルム:20μm
キャップ:径10mm、高さ4mm、ピッチ11.5mmの千鳥配置
[跡残り試験]
この気泡シートから10cm×10cmの片を切り出し、それより少し大きいポリスチレン製の板の上に、キャップを下にしてのせ、気泡シートの上から重さ500gの鋼板をのせて荷重をかけた状態で室温に放置して、キャップの跡がポリスチレン板に残る様子を調べた。比較のため、同じポリエチレンを材料として、在来のダイレクト方式によって製造した同じ仕様の気泡シートを用いて、同じ試験を行なった。3ヶ月後、比較例のポリスチレン板は明瞭にキャップの跡が残り、拭き取っても消えなかったが、本発明の気泡シートが接していたポリスチレン板には、キャップの跡が実質上残らなかった。
[滑り性試験]
上の気泡シートから15cm×30cmの片を2枚切り出し、その1枚を、キャップを上向きにして固定し、もう1枚の一辺に鋼線を巻き付け、その両端に紐を結んでバネ秤に繋いだ。この気泡シートを重ね、上に500gの鋼板をのせて荷重をかけた状態でバネ秤を引き、気泡シートが滑って移動する時にバネ秤に表示される値を読んだ。比較のため、跡残り試験と同様に、従来の製法による気泡シートを用いて、同じ滑り性試験を行なった。読み取られた値は、つぎのとおりであった。実施例:467g、比較例:871g
本発明に従う気泡シートの製造装置の一例を示す側面図。 本発明に従う気泡シートの製造方法において実現される、T−ダイから真空成形ロールに至る間の、キャップフィルム用フィルムおよび(または)バックフィルム用フィルムの温度変化を、従来の製造方法と比較して示した概念的なグラフ。
符号の説明
1 プラスチック気泡シート
2 キャップフィルム用のフィルム
3 バックフィルム用のフィルム
4A,4B T−ダイ
5 真空成形ロール
6 加圧ロール
7A,8A 温度調節(高温)ロール
7B,8B 温度調節(低温)ロール

Claims (3)

  1. T−ダイから溶融押出ししたプラスチックフィルムを、多数の凹みをそなえた真空成形ロールで成形して多数のキャップをもったキャップフィルムとし、そのキャップの底面に、別のT−ダイから溶融押出しした平坦なプラスチックフィルムをバックフィルムとして貼りつけ、多数の密閉された空気室を形成することからなるプラスチック気泡シートの製造方法において、
    キャップフィルム用のフィルム(2)、またはキャップフィルム用のフィルム(2)とバックフィルム用のフィルム(3)とを、T−ダイ(4A;または4A,4B)から出たところで、少なくとも1本の高温ロール(7A;または7A,8A)と接触させることにより、フィルム温度を、高めるか、維持するか、または徐冷して、自然な冷却によって与えられる温度よりも高く保ったのち、少なくとも1本の低温ロール(7B;または7B,8B)により冷却して真空成形ロール(5)に送ることを特徴とする、接触した相手にキャップの跡を残さず、かつ、滑り性が改善されたプラスチック気泡シート(1)を得る製造方法。
  2. プラスチック材料として低密度ポリエチレンを使用して実施する請求項1の製造方法。
  3. プラスチックを溶融押出しする押出機、キャップフィルム用フィルム(1)を押し出すT−ダイ(4A)およびバックフィルム用フィルム(3)を押し出すT−ダイ(4B)、押し出されたキャップフィルム用のフィルムを真空成形によりキャップフィルムとするための、多数の凹みと真空吸引手段とをそなえた真空成形ロール(5)、バックフィルムをキャップフィルムのキャップの底面に貼り付けるための加圧ロール(6)、および製造されたプラスチック気泡シート(1)を巻き取るための巻き取り手段を必須構成部分とするプラスチック気泡シートの製造装置において、
    キャップフィルム用のT−ダイ(4A)から真空成形ロール(5)に至る経路、またはキャップフィルム用のT−ダイから真空成形ロールに至る経路およびバックフィルム用のT−ダイ(4B)から真空成形ロール(5)に至る経路の両方に、少なくとも1本の高温ロール(7A;または7A,8A)と、少なくとも1本の低温ロール(7B;または7B,8B)とを設け、T−ダイから出たキャップフィルム用のフィルム、またはキャップフィルム用のフィルムとバックフィルム用のフィルムのフィルム温度を、自然な冷却によって至る温度よりも高く保ったのち真空成形ロールに送るように構成したことを特徴とする、接触した相手にキャップの跡を残さず、かつ滑り性が改善されたプラスチック気泡シートを得る製造装置。
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