以下、本発明の最良な実施の形態について、図面に示す実施例を基に詳細に説明する。なお、液滴吐出装置としてはインクジェット記録装置10を例に採って説明する。したがって、液体はインク110とし、液滴吐出ヘッドはインクジェット記録ヘッド32として説明をする。また、記録媒体は記録用紙Pとして説明をする。
インクジェット記録装置10は、図1で示すように、記録用紙Pを送り出す用紙供給部12と、記録用紙Pの姿勢を制御するレジ調整部14と、インク滴を吐出して記録用紙Pに画像形成する記録ヘッド部16及び記録ヘッド部16のメンテナンスを行うメンテナンス部18を備える記録部20と、記録部20で画像形成された記録用紙Pを排出する排出部22とから基本的に構成されている。
用紙供給部12は、記録用紙Pが積層されてストックされているストッカー24と、ストッカー24から1枚ずつ取り出してレジ調整部14に搬送する搬送装置26とから構成されている。レジ調整部14は、ループ形成部28と、記録用紙Pの姿勢を制御するガイド部材29とを有しており、記録用紙Pは、この部分を通過することによって、そのコシを利用してスキューが矯正されるとともに、搬送タイミングが制御されて記録部20に供給される。そして、排出部22は、記録部20で画像が形成された記録用紙Pを、排紙ベルト23を介してトレイ25に収納する。
記録ヘッド部16とメンテナンス部18の間には、記録用紙Pが搬送される用紙搬送路27が構成されている(用紙搬送方向を矢印PFで示す)。用紙搬送路27は、スターホイール17と搬送ロール19とを有し、このスターホイール17と搬送ロール19とで記録用紙Pを挟持しつつ連続的に(停止することなく)搬送する。そして、この記録用紙Pに対して、記録ヘッド部16からインク滴が吐出され、記録用紙Pに画像が形成される。メンテナンス部18は、インクジェット記録ユニット30に対して対向配置されるメンテナンス装置21を有しており、インクジェット記録ヘッド32に対するキャッピングや、ワイピング、更には、ダミージェットやバキューム等の処理を行う。
図2で示すように、各インクジェット記録ユニット30は、矢印PFで示す用紙搬送方向と直交する方向に配置された支持部材34を備えており、この支持部材34に複数のインクジェット記録ヘッド32が取り付けられている。インクジェット記録ヘッド32には、マトリックス状に複数のノズル56が形成されており、記録用紙Pの幅方向には、インクジェット記録ユニット30全体として一定のピッチでノズル56が並設されている。
そして、用紙搬送路27を連続的に搬送される記録用紙Pに対し、ノズル56からインク滴を吐出することで、記録用紙P上に画像が記録される。なお、インクジェット記録ユニット30は、例えば、いわゆるフルカラーの画像を記録するために、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色に対応して、少なくとも4つ配置されている。
図3で示すように、それぞれのインクジェット記録ユニット30のノズル56による印字領域幅は、このインクジェット記録装置10での画像記録が想定される記録用紙Pの用紙最大幅PWよりも長くされており、インクジェット記録ユニット30を紙幅方向に移動させることなく、記録用紙Pの全幅にわたる画像記録が可能とされている。
ここで、印字領域幅とは、記録用紙Pの両端から印字しないマージンを引いた記録領域のうち最大のものが基本となるが、一般的には印字対象となる用紙最大幅PWよりも大きくとっている。これは、記録用紙Pが搬送方向に対して所定角度傾斜して(スキューして)搬送されるおそれがあるためと、縁無し印字の要望が高いためである。
以上のような構成のインクジェット記録装置10において、次にインクジェット記録ヘッド32について詳細に説明する。図4(A)はインクジェット記録ヘッド32の全体構成を示す概略平面図であり、図4(B)はインクジェット記録ヘッド32の1つの素子の構成を示す概略平面図である。
また、図5(A)〜図5(C)は、それぞれ図4(B)の各部のA−A’線、B−B’線、C−C’線断面図である。但し、後述するシリコン基板72及びプール室部材39等は省略し、模式的に示している。また、図6(A)は第1実施形態のインクジェット記録ヘッド32の1つの素子の構成を示す概略平面図であり、図6(B)は、図6(A)のD−D’線断面図である。更に、図7は第1実施形態のインクジェット記録ヘッド32を部分的に取り出して主要部分が明確になるように示した概略断面図である。
このインクジェット記録ヘッド32には、天板部材40が配置されている。ここでは、天板部材40を構成するガラス製の天板41は板状で、かつ配線を有しており、インクジェット記録ヘッド32全体の天板となっている。天板部材40には、駆動IC60と、駆動IC60に通電するための金属配線90が設けられている。金属配線90は、樹脂保護膜92で被覆保護されており、インク110による浸食が防止されるようになっている。
また、この駆動IC60の下面には、複数のバンプがマトリックス状に所定高さ突設されており、天板41上で、かつプール室部材39よりも外側の金属配線90にフリップチップ実装されるようになっている。したがって、圧電素子46に対する高密度配線と低抵抗化が容易に実現可能であり、これによって、インクジェット記録ヘッド32の小型化が実現可能となっている。なお、駆動IC60の周囲は樹脂材58で封止されている。
天板部材40には、耐インク性を有する材料で構成されたプール室部材39が貼着されており、天板41との間に、所定の形状及び容積を有するインクプール室38が形成されている。プール室部材39には、インクタンク(図示省略)と連通するインク供給ポート36が所定箇所に穿設されており、インク供給ポート36から注入されたインク110は、インクプール室38に貯留される。
天板41には、後述する圧力室115と1対1で対応するインク供給用貫通口112が形成されており、その内部が第1インク供給路114Aとされている。また、天板41には、後述する上部電極54に対応する位置に、電気接続用貫通口42が形成されている。天板41の金属配線90は電気接続用貫通口42内にまで延長されて、その電気接続用貫通口42の内面を覆い、更に上部電極54に接触している。
これにより、金属配線90と上部電極54とが電気的に接続され、後述する圧電素子基板70の個別配線が不要になっている。なお、電気接続用貫通口42の下部は金属配線90によって閉塞された底部42B(図11−1(B)参照)となっており、電気接続用貫通口42は、上方にのみ開放された以外は閉じた空間となっている。
流路基板としてのシリコン基板72には、インクプール室38から供給されたインク110が充填される圧力室115が形成され、圧力室115と連通するノズル56からインク滴が吐出されるようになっている。そして、インクプール室38と圧力室115とが同一水平面上に存在しないように構成されている。したがって、圧力室115を互いに接近させた状態に配置することが可能であり、ノズル56をマトリックス状に高密度に配設することが可能となっている。
シリコン基板72の下面には、ノズル56が形成されたノズルプレート74が貼着され、シリコン基板72の上面には、圧電素子基板70が形成(作製)される。圧電素子基板70は振動板48を有しており、振動板48の振動によって圧力室115の容積を増減させて圧力波を発生させることで、ノズル56からのインク滴の吐出が可能になっている。したがって、振動板48が圧力室115の1つの面を構成している。
振動板48は、Plasma−Chemical Vapor Deposition(P−CVD)法により、ゲルマニウム(Ge)が添加されたシリコン酸化膜(SiO2膜)82の上下に、不純物が何も添加されていないSiO2膜81、83が積層されて構成された3層構造とされ、少なくとも上下方向に弾性を有し、圧電素子46に通電されると(電圧が印加されると)、上下方向に撓み変形する(変位する)構成になっている。なお、振動板48の厚さは、安定した剛性を得るために、1μm以上20μm以下(1μm〜20μm)とされている。
また、圧電素子46は、圧力室115毎に振動板48の上面に接着されている。圧電素子46の下面には一方の極性となる第2電極としての下部電極52が配置され、圧電素子46の上面には他方の極性となる第1電極としての上部電極54が配置されている。そして、圧電素子46は、保護膜としての低透水性絶縁膜(以下「SiOx膜」という)80で被覆保護されている。圧電素子46を被覆保護しているSiOx膜80は、水分透過性が低くなる条件で着膜するため、水分が圧電素子46の内部に侵入して信頼性不良となること(圧電体としてのPZT膜64内の酸素を還元することにより生ずる圧電特性の劣化)を防止できる。
更に、SiOx膜80上には、隔壁樹脂層119が積層されている。図4(B)で示すように、隔壁樹脂層119は、圧電素子基板70と天板部材40との間の空間を区画している。隔壁樹脂層119には、天板41のインク供給用貫通口112と連通するインク供給用貫通口44が形成されており、その内部が第2インク供給路114Bとされている。
第2インク供給路114Bは、第1インク供給路114Aの断面積よりも小さい断面積を有しており、インク供給路114全体での流路抵抗が所定の値になるように調整されている。つまり、第1インク供給路114Aの断面積は、第2インク供給路114Bの断面積よりも充分に大きくされており、第2インク供給路114Bでの流路抵抗と比べて実質的に無視できる程度とされている。したがって、インクプール室38から圧力室115へのインク供給路114の流路抵抗は、第2インク供給路114Bのみで規定される。
また、このように、隔壁樹脂層119に形成したインク供給用貫通口44によってインク110を供給するようにしたことで、供給途中における圧電素子46領域へのインク漏れが防止されている。なお、隔壁樹脂層119には大気連通孔116が形成されており、インクジェット記録ヘッド32の製造時や画像記録時における天板41と圧電素子基板70の空間の圧力変動を低減している。
また、電気接続用貫通口42に対応する位置にも隔壁樹脂層118が積層されている。図4(B)で示すように、隔壁樹脂層118には、金属配線90が貫通する貫通孔120が形成されており、金属配線90の下端を上部電極54に接触可能としている。なお、図4(B)では、隔壁樹脂層118と隔壁樹脂層119が分離された位置での断面としているが、これらは、実際には部分的に繋がっている。
また、隔壁樹脂層118、119によって、天板部材40と圧電素子46(厳密には、圧電素子46上のSiOx膜80)との間に間隙が構成され、空気層となっている。この空気層により、圧電素子46の駆動や振動板48の振動に影響を与えないようになっている。そして、電気接続用貫通口42の内部には、金属配線90に接触するようにして、半田86が充填されている。
これにより、実質的に金属配線90が補強されて、上部電極54に対する接触状態(電気的な接続状態)が向上されており、例えば、熱ストレスや機械的ストレスなどによって接触状態が低下しそうになった場合でも、半田86によって、その接触状態が良好に維持される。したがって、駆動IC60からの信号が、天板部材40の金属配線90に通電され、更に金属配線90から上部電極54に通電される。そして、所定のタイミングで圧電素子46に電圧が印加され、振動板48が上下方向に撓み変形することにより、圧力室115内に充填されたインク110が加圧されて、ノズル56からインク滴が吐出する。
なお、隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118は、その上面の高さが一定、即ち面一になるように構成されている。したがって、天板41から測った隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118の対向面の高さ(距離)も同一になっている。これにより、天板41が接触する際の接触性が高くなり、シール性も高くなっている。また、金属配線90にはフレキシブルプリント基板(FPC)100も接続される。
以上のような構成のインクジェット記録ヘッド32において、次に、その製造工程(製造プロセス)について、図8乃至図12を基に詳細に説明する。図8で示すように、このインクジェット記録ヘッド32は、流路基板としてのシリコン基板72の上面に圧電素子基板70を作製し、その後、シリコン基板72の下面にノズルプレート74(ノズルフィルム68)を接合(貼着)することによって製造される。
図9−1(A)で示すように、まず、シリコン基板72を用意する。そして、図9−1(B)で示すように、Reactive Ion Etching(RIE)法により、そのシリコン基板72の連通路50となる領域に開口部72Aを形成する。具体的には、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング、RIE法によるエッチング、酸素プラズマによるレジスト剥離である。
次いで、図9−1(C)で示すように、RIE法により、そのシリコン基板72の圧力室115となる領域に溝部72Bを形成する。具体的には、上記と同様に、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング、RIE法によるエッチング、酸素プラズマによるレジスト剥離である。これにより、圧力室115と連通路50とからなる多段構造が形成される。
その後、図9−1(D)で示すように、連通路50を構成する開口部72Aと、圧力室115を構成する溝部72Bに、スクリーン印刷法により、ガラスペースト76を充填する(埋め込む)。スクリーン印刷法を用いると、深い貫通開口部72Aや溝部72Bでも確実にガラスペースト76を埋め込むことができるので好ましい。
また、このガラスペースト76は、熱膨張係数が、1×10−6/℃〜6×10−6/℃であり、軟化点は、550℃〜900℃である。この範囲のガラスペースト76を使用することで、ガラスペースト76にクラックや剥離が発生するのを防止でき、更には、圧電素子46や振動板48となる膜に形状歪みが発生するのを防止できる。
ガラスペースト76を充填後、シリコン基板72を、例えば800℃で10分間、加熱処理する。このガラスペースト76の硬化熱処理に使用する温度は、後述する圧電素子46の成膜温度(例えば550℃)や振動板48の成膜温度(例えば700℃)よりも高い温度である。これにより、振動板48及び圧電素子46の成膜工程において、ガラスペースト76に高温耐性ができる。
つまり、少なくともガラスペースト76を硬化熱処理した温度までは、後工程で使用可能となるので、後工程での使用温度の許容範囲が広がる。その後、シリコン基板72の上面(表面)を研磨して余剰ガラスペースト76を除去し、その上面(表面)を平坦化する。これにより、圧力室115及び連通路50となる領域上にも薄膜等を精度よく形成することが可能となる。
次に、図9−2(E)で示すように、シリコン基板72の上面(表面)に、スパッタ法により、ゲルマニウム(Ge)膜78(膜厚1μm)を成膜する。このGe膜78は、後工程でガラスペースト76をフッ化水素(HF)溶液でエッチング除去するときに、振動板48(SiO2膜81)が一緒にエッチングされないように保護するエッチングストッパー層として機能する。なお、このGe膜78は、蒸着やCVD法でも成膜できる。また、エッチングストッパー層としては、シリコン(Si)膜も使用できる。
そして、図9−2(F)で示すように、そのGe膜78の上面に振動板48の一部となる薄膜、即ち不純物が何も添加されていないSiO2膜81(膜厚0.4μm)をP−CVD法により成膜し、次いで、振動板48の一部となる薄膜、即ちGeが添加されたSiO2膜82(膜厚9.2μm)をP−CVD法により成膜し、更に、振動板48の一部となる薄膜、即ち不純物が何も添加されていないSiO2膜83(膜厚0.4μm)をP−CVD法により成膜する。
具体的には、酸素(O2)及びシリコン(Si)原料を含むガス、例えばテトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS)、シラン(SiH4)の何れかを含むガスに、アルコキシド系のガスであるテトラメチルゲルマニウム(TMGe)を添加することにより成膜する。なお、このとき、Geが添加されたSiO2膜82の厚さが、振動板48全体の厚さの1/2以上となるようにする。
こうして、SiO2膜81、82、83を連続して成膜したら、窒素(N2)雰囲気下で1時間、これ以降の工程における最高温度よりも高い温度、例えば700℃でアニール(熱処理)する。700℃でアニールすると、振動板48の応力値が数十MPa増加するが、一度アニールすることにより、それ以上に応力(ストレス)が変化しないようにできる。なお、アニール温度は700℃に限定されるものではなく、600℃以上1100℃以下(600℃〜1100℃)であればよい。
SiO2膜81、82、83を成膜してアニールし、3層構造の振動板48を形成したら、図9−2(G)で示すように、スパッタ法により、例えば厚み0.5μm程度のIrとTiとの積層膜62、即ち下部電極52を振動板48(SiO2膜83)の上面に成膜する。そして、図9−2(H)で示すように、下部電極52の上面に、圧電素子46の材料であるPZT膜64と、上部電極54となるIr膜66を順にスパッタ法で積層(成膜)し、図9−3(I)で示すように、圧電素子46(PZT膜64)及び上部電極54(Ir膜66)をパターニングする。
具体的には、PZT膜スパッタ(膜厚5μm)、Ir膜スパッタ(膜厚0.5μm)、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング(Cl2系又はF系のガスを用いたドライエッチング)、酸素プラズマによるレジスト剥離である。下部及び上部の電極材料としては、圧電体であるPZT材料との親和性が高く、耐熱性がある、例えばIr、Au、Ru、Pt、Ta、PtO2、TaO4、IrO2等が挙げられる。また、PZT膜64の成膜温度は550℃であり、PZT膜64の積層(成膜)には、AD法、ゾルゲル法等も用いることが可能である。
次に、図9−3(J)で示すように、振動板48の上面に積層された下部電極52をパターニングする。具体的には、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング、RIE法による(Cl2系のガスを用いた)ドライエッチング、酸素プラズマによるレジスト剥離である。なお、このとき、振動板48は、SiO2膜81、82、83で構成されているため、ドライエッチングによって、SiO2膜82の途中位まで、深く削り込まれることがある。また、下部電極52が接地電位となっている。
その後、図9−3(K)で示すように、3層構造の振動板48(不純物が何も添加されていないSiO2膜83/Geが添加されたSiO2膜82/不純物が何も添加されていないSiO2膜81)にインク供給路114形成用の孔部48Aをパターニングする。具体的には、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング(HFを含むガスによるドライエッチング)、酸素プラズマによるレジスト剥離である。なお、この場合、HF溶液によるウェットエッチングでは、振動板48のエッチング面(孔部48Aにおいて露出する面)に段差が生じてしまうため、不適である。
次に、図9−4(L)で示すように、上面に露出している下部電極52と、上部電極54(圧電素子46)と、削り込まれた振動板48(下部電極52と孔部48Aとの間の振動板48)の上面に、保護膜としてのSiOx膜80を積層する。そして、図9−4(M)で示すように、パターニングにより、上部電極54と金属配線90を接続するための開口80A(コンタクト孔)を形成する。具体的には、P−CVD法にてSiOx膜80の成膜、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング(濃度20%のHF溶液によるウェットエッチング又はHFを含むガスによるドライエッチング)、酸素プラズマによるレジスト剥離である。
なお、このとき、SiOx膜80を、図示のようにインク供給路114を構成する孔部48Aの側壁面(内周面)を被覆可能になるまで延設することが好ましい。すなわち、孔部48Aを形成したことによって露出しているGe膜78上にまでSiOx膜80を成膜した後、図9−4(M)で示すように、そのGe膜78上からだけSiOx膜80を除去する。このような構成にすると、インク供給路114を構成する振動板48の孔部48Aの側壁面(内周面)からのインク110の浸漬を防止することができる。
また、ここでは保護膜としてSiOx膜80(シリコン酸化膜)を用いたが、SiNx膜(シリコン窒化膜)、SiOxNy膜等であってもよい。また、SOG(Spin−On−Glass)や、Ta、Ti等の金属膜、TaO2、Ta2O5等の金属酸化膜、樹脂膜等でもよく、更にはそれらの単層膜ではなく、それらを組み合わせた複数層膜にしてもよい。酸化膜、窒化膜、SOG、金属膜、金属酸化膜は、絶縁性、耐湿性、膜層間の段差抑制(緩和)に優れ、中でも酸化膜、窒化膜、SOG、金属膜は、耐薬品(インク)性においても優れる。また、樹脂膜も段差抑制に優れ、酸化膜、窒化膜、SOGは、SiO2膜82に添加されたGe(不純物)の拡散防止にも優れる。
なお、削り込まれた振動板48に対する補強用として保護膜を使用する場合には、酸化膜、窒化膜等の単層膜で構わない。しかし、インク供給路114を構成する孔部48Aの側壁面(内周面)まで保護膜で被覆する場合には、例えば酸化膜又は窒化膜と、金属膜と、金属酸化膜の3層(複数層)膜構造にすることが好ましい。つまり、耐湿性、耐薬品(インク)性など、複数の機能を備えた保護膜とすることが好ましい。
次いで、図9−4(N)で示すように、隔壁樹脂層119及び隔壁樹脂層118をパターニングする。具体的には、SiOx膜80に隔壁樹脂層119、隔壁樹脂層118を構成する感光性樹脂を塗布し、露光・現像することでパターンを形成し、最後にキュアする。このとき、隔壁樹脂層119にインク供給用貫通口44を形成しておく。なお、隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118とは、同一膜であるが、設計パターンが異なっている。また、隔壁樹脂層119、隔壁樹脂層118を構成する感光性樹脂は、ポリイミド系、ポリアミド系、エポキシ系、ポリウレタン系、シリコーン系等、耐インク性を有していればよい。
こうして、シリコン基板72(流路基板)の上面に圧電素子基板70が作製され、この圧電素子基板70の上面に、例えばガラス板を支持体とする天板部材40が結合(接合)される。天板部材40の製造においては、図10(A)で示すように、天板部材40自体が支持体となる程度の強度を確保できる厚み(0.3mm〜1.5mm)の天板41を含んでいるので、別途支持体を設ける必要がない。この天板41に、図10(B)で示すように、インク供給用貫通口112及び電気接続用貫通口42を形成する。
具体的には、ホトリソグラフィー法で感光性ドライフィルムのレジストをパターニングし、このレジストをマスクとしてサンドブラスト処理を行って開口を形成した後、そのレジストを酸素プラズマにて剥離する。なお、インク供給用貫通口112及び電気接続用貫通口42は、断面視で内面が下方に向かって次第に接近するようなテーパー状(漏斗状)に形成されている。
このようにしてインク供給用貫通口112及び電気接続用貫通口42が形成された天板41(天板部材40)を、図11−1(A)で示すように、圧電素子基板70に被せて、両者を熱圧着(例えば350℃、2kg/cm2で20分間)により結合(接合)する。このとき、隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118とは面一(同一高さ)になるように構成されているので、天板41が接触する際の接触性が高くなり、高いシール性で接合することができる。
そして、図11−1(B)で示すように、天板41の上面に金属配線90を成膜してパターニングする。具体的には、スパッタ法によるAl膜(膜厚1μm)の成膜、ホトリソグラフィー法によるレジストの形成、H3PO4薬液を用いたAl膜のウェットエッチング、酸素プラズマによるレジスト剥離である。
なお、電気接続用貫通口42の段差は非常に大きいので、ホトリソグラフィー工程ではレジストのスプレー塗布法と長焦点深度露光法を用いている。このとき、金属配線90の一部が、電気接続用貫通口42の内面から、上部電極54へと達するようにパターニングしておく。これにより、電気接続用貫通口42の底部42Bが金属配線90で閉塞され、電気接続用貫通口42は、上方にのみ開放された以外は閉じた空間となる。
また、金属配線90を電気接続用貫通口42の深部まで厚く成膜したい場合には、スパッタ法よりも段差被覆性の良好なCVD法を採用すればよい。何れにしても、電気接続用貫通口42をテーパー状(漏斗状)に形成することで、開口部が広くなり、薄膜形成時の段差被覆性が改善するので、電気接続用貫通口42内の金属配線90(金属薄膜)を深部まで厚く形成することができる。
そして、このように金属配線90がパターニングされた電気接続用貫通口42内(上記空間内)に、図11−2(C)で示すように、半田86を搭載する。この方法としては、半田ボール86Bを電気接続用貫通口42内に直接搭載する半田ボール法を用いることができる。なお、半田ボール法以外に、インクジェットの原理を応用した加熱溶融半田吐出供給法を用いてもよい。この方法では、天板41と非接触で、かつ、マスクを用いることなく、半田86を所定の位置に供給することができる。更に、スクリーン印刷法を用いて半田86を供給してもよい。何れの供給方法であっても、電気接続用貫通口42は、断面視で内面が下方に向かって次第に接近するようなテーパー状(漏斗状)に形成されているので、半田86が電気接続用貫通口42の内面に付着しやすい。
次に、図11−2(D)で示すように、半田86をリフロー(例えば280℃で10分間)し、電気接続用貫通口42の底部42Bにまで行き渡らせる。このとき、電気接続用貫通口42の底部42Bには、溶融した半田86が流れ出る経路がないので、高温の環境下で半田86を充分に溶融させて、電気接続用貫通口42の底部42Bまで確実に充填することができる。
つまり、この段階で、半田86の最下部は、天板41の下面(金属配線90が形成されていない面)よりも下側の電気接続用貫通口42内に位置しており、電気接続用貫通口42内の金属配線90に確実に接触するようになっている。また、この段階で、溶融した半田86が、天板41の上面(厳密には、金属配線90の上面)よりも上方に位置しないように、充填する半田86の量は予め所定量に決められている。
ここで、金属配線90の底部、即ち上部電極54と接触している部位は、金属配線90を構成しているAl膜が薄くなることがあり、隔壁樹脂層119の熱膨張等で機械的ストレスを受けて、金属配線90が断線するおそれがある。しかし、このような場合でも、底部42Bに充填された半田86が、底部42Bと電気接続用貫通口42内の金属配線90を接続しているので、半田86による導通確保が可能となる。また、溶融した半田86が流れ出ないので、電気接続用貫通口42の近傍部分を半田86が不用意に短絡させてしまうおそれもない。
つまり、半田86が電気接続用貫通口42の上方部まで充填されていなくても、下層部の金属配線90(金属薄膜)が半田86と接触しているため、良好な電気接続を実現できる。なお、電気接続用貫通口42に充填されるものは半田86に限定されるものではなく、溶融金属、金属ペースト、導電性接着剤等でも構わない。これらの材料に求められる抵抗率は、素子に要求される特性に応じて異なって来るため、コストや工程マッチング(耐熱温度等)を考慮して適宜選択すればよい。
次に、図11−3(E)で示すように、金属配線90が形成された面に樹脂保護膜92を積層してパターニングする。なお、このとき、第1インク供給路114Aを樹脂保護膜92が覆わないようにする。また、この樹脂保護膜92としては、ポリイミド系、ポリアミド系、エポキシ系、ポリウレタン系、シリコーン系等、耐インク性を有していればよい。
次いで、図11−3(F)で示すように、樹脂保護膜92の上面及びインク供給路114内に、耐HF保護用レジスト88を塗布する。そして、図11−4(G)で示すように、シリコン基板72に充填した(埋め込んだ)ガラスペースト76を、HFを含む溶解液によって選択的にエッチング除去する。
このとき、振動板48(SiO2膜81)は、Ge膜78によりHF溶液から保護されるため、エッチングされることはない。つまり、このGe膜78は、上記したように、ガラスペースト76をHF溶液でエッチング除去する際に、振動板48(SiO2膜81)が一緒にエッチング除去されてしまうのを防止するエッチングストッパー層として機能する。
なお、ここではガラスペースト76の除去に、HFを含んだ液体を用いたが、ガラスペースト76の除去には、HFを含んだガスや蒸気を使用してもよい。エッチング液を狭い入口から供給する場合には、被エッチング材(この場合はガラスペースト76)をエッチングした際に発生する気泡が抜けなかったり、新しいエッチング液との置換ができなかったりするため、エッチングの進行が阻害されることがある。ガスや蒸気を用いると、このような不具合は起きないため、上記のような場合には、ガスや蒸気とした方が好ましい。
その後、図11−4(H)で示すように、Ge膜78の溶解液、例えば60℃に加熱した過酸化水素(H2O2)を圧力室115側から供給して、Ge膜78の一部をエッチングして除去する。この段階で圧力室115及び連通路50が完成する。こうして、Ge膜78をエッチング除去したら、図11−5(I)で示すように、耐HF保護用レジスト88をアセトンによって除去する。なお、圧力室115及び連通路50を形成した部位以外では、Ge膜78が残ったままとなるが、特に問題はない。
そして次に、シリコン基板72の下面にノズルプレート74を貼着する。すなわち、図12−1(A)で示すように、ノズル56となる開口68Aが形成されたノズルフィルム68をシリコン基板72の下面に貼り付ける。その後、図12−1(B)で示すように、金属配線90に駆動IC60をフリップチップ実装する。このとき、駆動IC60は、予め半導体ウエハプロセスの終りに実施されるグラインド工程にて、所定の厚さ(70μm〜300μm)に加工されている。
そして、駆動IC60の周囲を樹脂材58で封止し、駆動IC60を水分等の外部環境から保護できるようにする。これにより、後工程でのダメージ、例えば、できあがった圧電素子基板70をダイシングによってインクジェット記録ヘッド32に分割する際の水や研削片によるダメージを回避することができる。そして、図12−2(C)で示すように、金属配線90にフレキシブルプリント基板(FPC)100を接続する。
次に、図12−2(D)で示すように、駆動IC60よりも内側の天板部材40(天板41)の上面にプール室部材39を装着して、これらの間にインクプール室38を構成する。これにより、インクジェット記録ヘッド32が完成し、図12−3(E)で示すように、インクプール室38や圧力室115内にインク110が充填可能とされる。
以上のようにして製造されるインクジェット記録ヘッド32を備えたインクジェット記録装置10において、次に、その作用を説明する。まず、インクジェット記録装置10に印刷を指令する電気信号が送られると、ストッカー24から記録用紙Pが1枚ピックアップされ、搬送装置26により搬送される。
一方、インクジェット記録ユニット30では、すでにインクタンクからインク供給ポートを介してインクジェット記録ヘッド32のインクプール室38にインク110が注入(充填)され、インクプール室38に充填されたインク110は、インク供給路114を経て圧力室115へ供給(充填)されている。そして、このとき、ノズル56の先端(吐出口)では、インク110の表面が圧力室115側に僅かに凹んだメニスカスが形成されている。
そして、記録用紙Pを搬送しながら、複数のノズル56から選択的にインク滴を吐出することにより、記録用紙Pに、画像データに基づく画像の一部を記録する。すなわち、駆動IC60により、所定のタイミングで、所定の圧電素子46に電圧を印加し、振動板48を上下方向に撓み変形させて(面外振動させて)、圧力室115内のインク110を加圧し、所定のノズル56からインク滴として吐出させる。こうして、記録用紙Pに、画像データに基づく画像が完全に記録されたら、排紙ベルト23により記録用紙Pをトレイ25に排出する。これにより、記録用紙Pへの印刷処理(画像記録)が完了する。
ここで、このインクジェット記録ヘッド32は、インクプール室38と圧力室115の間に振動板48(圧電素子46)が配置され、インクプール室38と圧力室115が同一水平面上に存在しないように構成されている。したがって、圧力室115が互いに近接配置され、ノズル56が高密度に配設されている。
また、圧電素子46に電圧を印加する駆動IC60は、圧電素子基板70よりも外方側へ突出しない構成とされている(インクジェット記録ヘッド32内に内蔵されている)。したがって、インクジェット記録ヘッド32の外部に駆動IC60を実装する場合に比べて、圧電素子46と駆動IC60の間を接続する金属配線90の長さが短くて済み、これによって、駆動IC60から圧電素子46までの低抵抗化が実現されている。
つまり、実用的な配線抵抗値で、ノズル56の高密度化、即ちノズル56の高密度なマトリックス状配設が実現されており、これによって、高解像度化(高精度化)が実現可能になっている。しかも、その駆動IC60は、天板41上にフリップチップ実装されているので、高密度の配線接続が容易にでき、更には駆動IC60の高さの低減も図れて(薄くできて)、部品点数も低減できる。したがって、インクジェット記録ヘッド32の小型化及び製造コストの低減が実現される。
また、天板41の金属配線90が、樹脂保護膜92によって被覆されているので、インク110による金属配線90の腐食を防止することができる。また、駆動IC60と上部電極54とは、天板41に形成された電気接続用貫通口42内の金属配線90で接続されるが、更に電気接続用貫通口42内は半田86が充填されており、底部42B(図11−2(B)参照)が補強されている。
このため、底部42Bへ熱ストレスや機械的ストレスが作用した場合でも金属配線90と上部電極54との接触状態を確実に維持できる。また、万が一、金属配線90が断線した場合であっても、半田86によって導通状態を確保できる。また、天板41の裏面(下面)に、配線やバンプを形成することなく、天板部材40を圧電素子基板70と電気的に接続できる。すなわち、天板41に対して片面(上面)のみに加工を施せばよいので、製造が容易になる。
しかも、例えばバンプ等によって金属配線90と上部電極54とを電気的に接続する場合には、バンプの高さに大きなばらつきがあると接合が困難になることがあるが、本実施形態では、半田86の量にばらつきがあっても、過分の半田86は電気接続用貫通口42内に収容されているので、天板部材40と圧電素子基板70とを好適に接合できる。つまり、半田86の量のばらつきに対して、マージンを大きくとれるので、この点においても製造が容易になっている。
また、金属配線90と上部電極54との接続部分では、実質的に、金属配線90と、上部電極54と、半田86のみが存在しており、これらは高温耐性がある。このため、加工方法や材料選択の自由度が高くなる。更に、シリコン基板72が圧電素子基板70の支持体となって形成される(圧電素子基板70をシリコン基板72で支持した状態で作製できる)ので、インクジェット記録ヘッド32を製造しやすい。しかも、製造された(完成した)インクジェット記録ヘッド32は、天板41によっても支持されるので(天板41が支持体になるので)、その剛性は充分に確保される。
また、本実施形態の振動板48はSiO2膜81、82、83の3層構造とされている。つまり、この振動板48は、Geが添加されたSiO2膜82を、Ge等の不純物が添加されていないSiO2膜81、83で、上下から挟んで構成されている。そして、Geが添加されたSiO2膜82が振動板48の大部分(振動板48全体の厚さの1/2以上)を占めるように、そのSiO2膜82の厚さが他のSiO2膜81、83の厚さよりも厚く形成されている。
ここで、所定量のGeが添加されたSiO2膜82を所定温度でアニールすると、応力値が数十MPa増加するが、一度アニールすると、それ以上、応力値が変化しない。したがって、振動板48の応力制御(抑制)が容易にできる。つまり、こうしてできた振動板48の応力値は殆ど変化せず、優れた熱安定性を有する。よって、圧力室115の初期容量を精度よく制御することが可能となる。なお、SiO2膜82に添加する不純物としては、Geの他にリン(P)やボロン(B)でもよい。この場合、添加するアルコキシド系のガスは、テトラメチルリン(TMP)、テトラメチルボロン(TMB)とされる。
また、下部電極52のパターニング(ドライエッチング)の際に、振動板48が削り込まれても、SiOx膜80によって、その削り込まれた部分を補強できるので、振動板48の厚さばらつきを軽減することができる。よって、圧電素子46の駆動を安定化することができる。つまり、圧電素子46の機能性及び信頼性を向上させることができる。更に、振動板48に形成される孔部48A(インク供給路114)の内周面まで被覆可能となるようにSiOx膜80を延設したので、振動板48に対するインク110の浸漬を確実に防ぐことができる。
次に、第2実施形態のインクジェット記録ヘッド32について、図13、図14を基に説明する。なお、以下において、第1実施形態のインクジェット記録ヘッド32と同一の構成要素、部材等は同一符号を付して、その詳細な説明(作用効果を含む)を省略する。この第2実施形態のインクジェット記録ヘッド32では、図13で示すように、保護膜を複数層膜にしている点だけが、上記第1実施形態のインクジェット記録ヘッド32と異なっている。よって、その部位における製造工程についてのみ説明する。
図14−1(A)で示す工程は、上記第1実施形態における図9−4(L)で示す工程と同一であり、この第2実施形態では、その次の工程から異なる。すなわち、図14−1(B)で示すように、SiOx膜80にSOG94をスピン法によって塗布する。このSOG94は膜層間における段差抑制用である。そして、図14−1(C)で示すように、そのSOG94に、更に保護膜としてのSiOx膜84を積層する。
次に、図14−2(D)で示すように、パターニング(ドライエッチング)により、SiOx膜80、84に、上部電極54と金属配線90を接続するための開口80A、84A(コンタクト孔)を形成する。また、孔部48Aを形成したことによって露出したGe膜78上に成膜されているSiOx膜80、84及びSOG94を除去する。このときのSiOx膜80、84及びSOG94の除去は、単一のエッチング条件で除去可能である。そして、図14−2(E)で示すように、隔壁樹脂層119及び隔壁樹脂層118をパターニングする。なお、この後の工程は、上記第1実施形態のインクジェット記録ヘッド32と同様であるので、その説明は省略する。
この第2実施形態のインクジェット記録ヘッド32では、SOG94をSiOx膜80、84で挟んだ3層膜構造とされているので、膜層間の段差を小さくできるとともに、絶縁性にも非常に優れる。つまり、上記第1実施形態のインクジェット記録ヘッド32によりも、膜層間の段差抑制について大幅に改善することが可能になるとともに、経時劣化を抑止することができる。よって、圧電素子46の機能性及び信頼性を更に向上させることができる。
次に、第3実施形態のインクジェット記録ヘッド32について、図15、図16を基に説明する。なお、以下において、第1実施形態及び第2実施形態のインクジェット記録ヘッド32と同一の構成要素、部材等は同一符号を付して、その詳細な説明(作用効果を含む)を省略する。この第3実施形態のインクジェット記録ヘッド32では、図15で示すように、上記第2実施形態のインクジェット記録ヘッド32におけるSiOx膜84に、更に金属膜96を積層して4層膜構造にしている点だけが異なっている。よって、その部位における製造工程についてのみ説明する。
上記第2実施形態の図14−2(D)で示す工程の後、図16(A)で示すように、SiOx膜84に金属膜96(例えばTa膜)をスパッタ法により積層(成膜)する。この金属膜96は、耐湿性、耐薬品(インク)性の強化用であり、更にはGeを添加したSiO2膜82からのGe(不純物)拡散に対するブロック層としても機能するようになっている。
次に、図16(B)で示すように、開口80A、84A(コンタクト孔)を形成したことによって露出した上部電極54上に積層されている金属膜96と、孔部48Aを形成したことによって露出したGe膜78上に積層されている金属膜96と、インク供給路114を構成する孔部48Aにおける側壁面(内周面)部分を除くエリアに積層されている金属膜96をドライエッチングにより除去する。そして、図16(C)で示すように、隔壁樹脂層119及び隔壁樹脂層118をパターニングする。なお、この後の工程は、上記第1実施形態及び第2実施形態のインクジェット記録ヘッド32と同様であるので、その説明は省略する。
この第3実施形態では、SOG94をSiOx膜80、84で挟んだ3層膜構造に、更に金属膜96を加えた4層膜構造とされているので、膜層間の段差を小さくできて、絶縁性に優れるとともに、耐湿性、耐薬品(インク)性にも非常に優れる。つまり、上記第2実施形態のインクジェット記録ヘッド32よりも、圧電素子46の機能性及び信頼性を更に向上させることができる。なお、金属膜96としては、Ta膜の他、Ti膜などを使用してもよい。更に、金属膜96ではなく、TaO2、Ta2O5等の金属酸化膜を使用してもよい。
その他、上記第1実施形態〜第3実施形態に係るインクジェット記録ヘッド32は、記録用紙P上への画像(文字を含む)の記録に限定されるものではない。すなわち、記録媒体は記録用紙Pに限定されるものでなく、また、吐出する液体もインク110に限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインク110を吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成するなど、工業的に用いられる液滴噴射装置全般に対して、本実施形態に係るインクジェット記録ヘッド32を適用することが可能である。