以下、本発明の最良な実施の形態について、図面で示す実施例を基に詳細に説明する。なお、液滴吐出装置としてはインクジェット記録装置10を例にとって説明する。
なお、本発明の液滴吐出ヘッドにおける液体は、インク110とし、本発明の液滴吐出ヘッドはインクジェット記録ヘッド32として説明する。また、記録媒体は記録用紙Pとして説明をする。
インクジェット記録装置10は、図1で示すように、記録用紙Pを送り出す用紙供給部12と、記録用紙Pの姿勢を制御するレジ調整部14と、インク滴を吐出して記録用紙Pに画像形成する記録ヘッド部16及び記録ヘッド部16のメンテナンスを行うメンテナンス部18を備える記録部20と、記録部20で画像形成された記録用紙Pを排出する排出部22とから基本的に構成されている。
用紙供給部12は、記録用紙Pが積層されてストックされているストッカー24と、ストッカー24から1枚ずつ取り出してレジ調整部14に搬送する搬送装置26とから構成されている。レジ調整部14は、ループ形成部28と、記録用紙Pの姿勢を制御するガイド部材29とを有しており、記録用紙Pは、この部分を通過することによって、そのコシを利用してスキューが矯正されるとともに、搬送タイミングが制御されて記録部20に供給される。そして、排出部22は、記録部20で画像が形成された記録用紙Pを、排紙ベルト23を介して排出紙貯留部25に収納する。
記録ヘッド部16とメンテナンス部18の間には、記録用紙Pが搬送される用紙搬送路27が構成されている(用紙搬送方向を矢印PFで示す)。用紙搬送路27は、スターホイール17と搬送ロール19とを有し、このスターホイール17と搬送ロール19とで記録用紙Pを挟持しつつ連続的に(停止することなく)搬送する。そして、この記録用紙Pに対して、記録ヘッド部16からインク滴が吐出され、記録用紙Pに画像が形成される。メンテナンス部18は、インクジェット記録ユニット30に対して対向配置されるメンテナンス装置21を有しており、インクジェット記録ヘッド32に対するキャッピングや、ワイピング、更には、ダミージェットやバキューム等の処理を行う。
図2で示すように、各インクジェット記録ユニット30は、矢印PFで示す用紙搬送方向と直交する方向に配置された支持部材34を備えており、この支持部材34に複数のインクジェット記録ヘッド32が取り付けられている。インクジェット記録ヘッド32には、マトリックス状に複数のノズル56が形成されており、記録用紙Pの幅方向には、インクジェット記録ユニット30全体として所定のピッチでノズル56が並設されている。
そして、用紙搬送路27を連続的に搬送される記録用紙Pに対し、ノズル56からインク滴を吐出することで、記録用紙P上に画像が記録される。なお、インクジェット記録ユニット30は、例えば、いわゆるフルカラーの画像を記録するために、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(K)の各色に対応して、少なくとも4つ配置されている。
図3で示すように、それぞれのインクジェット記録ユニット30のノズル56による印字領域幅は、このインクジェット記録装置10での画像記録が想定される記録用紙Pの用紙最大幅PWよりも長くされており、インクジェット記録ユニット30を紙幅方向に移動させることなく、記録用紙Pの全幅にわたる画像記録が可能とされている。
ここで、印字領域幅とは、記録用紙Pの両端から印字しないマージンを引いた記録領域のうち最大のものが基本となるが、一般的には印字対象となる用紙最大幅PWよりも大きくとっている。これは、記録用紙Pが搬送方向に対して所定角度傾斜して(スキューして)搬送されるおそれがあるためと、縁無し印字の要望が高いためである。
以上の構成のインクジェット記録装置10において、次にインクジェット記録ヘッド32について詳細に説明する。
図4はインクジェット記録ヘッド32の構成を示す概略平面図である。すなわち、図4(A)はインクジェット記録ヘッド32の全体構成を示すものであり、図4(B)は1つの素子の構成を示すものである。更に、図5はインクジェット記録ヘッド32を部分的に取り出して主要部分が明確になるように示した概略縦断面図である。
このインクジェット記録ヘッド32には、天板部材40が配置されている。本実施形態では、天板部材40を構成するガラス製の天板41は板状で、かつ配線を有しており、インクジェット記録ヘッド32全体の天板となっている。天板部材40には、駆動IC60と、駆動IC60に通電するための金属配線90が設けられている。金属配線90は、樹脂保護膜92で被覆保護されており、インク110による浸食が防止されるようになっている。
天板部材40には、耐インク性を有する材料で構成されたプール室部材39が貼着されており、天板41とプール室部材39との間に、所定の形状及び容積を有するインクプール室38が形成されている。プール室部材39には、インクタンク(図示省略)と連通するインク供給ポート36が所定箇所に穿設されており、インク供給ポート36から注入されたインク110は、インクプール室38に貯留される。
天板41には、後述する圧力室50と1対1で対応するインク供給用貫通口112が形成されている。このインク供給用貫通口112の内部が第1インク供給路114Aとなっている。また、天板41には、後述する第2の電極54に対応する位置に、電気接続用貫通口42が形成されている。
天板41の金属配線90は電気接続用貫通口42内にまで延長されて、その電気接続用貫通口42の内面を覆い、更に第2の電極54に接触している。
これにより、金属配線90と第2の電極54とが電気的に接続される。なお、電気接続用貫通口42の下部は金属配線90によって閉塞された底部42B(図11−1(B)参照)となっており、電気接続用貫通口42は、上方にのみ開放された以外は閉じた空間となっている。
流路基板72には、インクプール室38から供給されたインク110が充填される圧力室50が形成され、圧力室50と連通するノズル56からインク滴が吐出されるようになっている。そして、インクプール室38と圧力室50とが同一水平面上に存在しないように構成されている。したがって、圧力室50を互いに接近させた配置となり、ノズル56は、マトリックス状に高密度に配設されることになる。
流路基板72の下面には、ノズル56が形成されたノズルプレート77(ノズルフィルム68、SUSプレート74、SUSプレート75を積層したもの)が貼着され、流路基板72の上面には、圧電素子基板70が形成(作製)される。圧電素子基板70は振動板48を有しており、振動板48の振動によって圧力室50の内部の容積を増減させて圧力波を発生させることで、ノズル56からのインク滴の吐出が可能になっている。したがって、振動板48が圧力室50の内壁の1つの面を構成している(振動板48が圧力室50の内壁に臨んでいる)。
振動板48は、図15に示すように、P−CVD(Plasma−Chemical Vapor Deposition)法、またはスパッタ法、または酸素雰囲気中で酸化させる方法により、酸化膜51の上に、第1の膜(以下、絶縁膜と称する)49を積層した2層構造、であってもよいし、図16に示すように、振動板48を絶縁膜49から構成した1層構造であってもよい。この振動板48は、少なくとも上下方向(第2の電極54と第1の電極52とが向かい合う方向)に弾性を有し、圧電素子45の第2の電極54と第1の電極52とを介して圧電体46に通電されると(電圧が印加されると)、該上下方向に撓み変形する(変位する)構成になっている。
振動板48の厚さは、安定した剛性を得ると共に、圧電素子45(圧電体46)に通電されることで上下方向に撓み変形する振動板として機能させるために、圧電体46の厚みの1倍から2倍の範囲内であることが好ましい。具体的には、圧電体46の厚みが2〜10μmである場合には、圧電体46の厚みの1〜2倍であって且つ2〜20μmの範囲内であることが好ましい。
また、圧電素子45は、圧力室50毎に振動板48の絶縁膜49に接して設けられている。圧電素子45を構成する圧電体46の下面には、圧電素子45の一方の極性となる第1の電極52が配置され、圧電体46の上面には他方の極性となる第2の電極54が配置されている。このため、第1の電極52が振動板48の絶縁膜49に接して設けられている。
絶縁膜49は、絶縁性を有する層であって、この「絶縁性」とは、体積抵抗率が109Ω・cm以上である特性を示している。
圧電素子45は、低透水性絶縁膜(SiOx膜)80で被覆保護されている。圧電素子45を被覆保護している低透水性絶縁膜(SiOx膜)80は、水分透過性が低くなる条件で着膜するため、水分が圧電素子45の内部に侵入して信頼性不良となること(PZT膜内の酸素を還元することにより生ずる圧電特性の劣化)を防止できる。
この低透水性絶縁膜(SiOx膜)80上には、隔壁樹脂層119が積層されている。図4(B)にも示すように、隔壁樹脂層119は、圧電素子基板70と天板部材40との間の空間を区画している。隔壁樹脂層119には、天板41のインク供給用貫通口112と連通するインク供給用貫通口44が形成されており、その内部が第2インク供給路114Bとなっている。
第2インク供給路114Bは、第1インク供給路114Aの断面積よりも小さい断面積を有しており、インク供給路114(第1インク供給路114A及び第2インク供給路114Bを総称してインク供給路114と称する)での流路抵抗が所定の値になるように調整されている。つまり、第1インク供給路114Aの断面積は、第2インク供給路114Bの断面積よりも充分に大きくされており、第2インク供給路114Bでの流路抵抗と比べて実質的に無視できる程度とされている。したがって、インクプール室38から圧力室50内へのインク供給路114の流路抵抗は、第2インク供給路114Bのみで規定される。
また、このように、隔壁樹脂層119に形成したインク供給用貫通口44によってインク110を供給するようにしたことで、供給途中における圧電素子45領域へのインク漏れが防止されている。なお、隔壁樹脂層119には大気連通孔116(図4(B)参照)が形成されており、インクジェット記録ヘッド32の製造時や画像記録時における天板41と圧電素子基板70の空間の圧力変動を低減している。
また、電気接続用貫通口42に対応する位置にも隔壁樹脂層118が積層されている。図4(B)で示すように、隔壁樹脂層118には、金属配線90が貫通する貫通孔120が形成されており、金属配線90の下端を第2の電極54に接触可能としている。なお、図4(B)では、隔壁樹脂層118と隔壁樹脂層119が分離された位置での断面としているが、これらは、実際には部分的に繋がっている。
また、隔壁樹脂層118、隔壁樹脂層119によって、天板部材40と圧電素子45(厳密には、圧電素子45上の低透水性絶縁膜(SiOx膜)80)との間に間隙が構成され、空気層となっている。この空気層により、圧電体46の駆動や振動板48の振動への影響を抑制している。
そして、電気接続用貫通口42の内部には、金属配線90に接触するようにして、半田(導電性ペースト)86が充填されている。これにより、実質的に金属配線90が補強されて、第2の電極54に対する接触状態(電気的な接続状態)が向上されており、例えば、熱ストレスや機械的ストレスなどによって接触状態が低下しそうになった場合でも、半田86によって、その接触状態が良好に維持される。
なお、隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118は、その上面の高さが一定、即ち面一になるように構成されている。したがって、天板41から測った隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118の対向面の高さ(距離)も同一になっている。これにより、天板41が接触する際の接触性が高くなり、シール性も高くなっている。また、金属配線90にはフレキシブルプリント基板(FPC)100も接続される。
駆動IC60は、天板41の圧電素子基板70と対向する面(図5では下面)で、且つ平面視にてインクプール室38の外側に位置するように、天板41に実装されている。
駆動IC60の周囲は樹脂剤58で封止されている。この駆動IC60を封止する樹脂剤58の注入口40B(図6参照)は、図6に示すように、製造段階における天板部材40において、各インクジェット記録ヘッド32を仕切るように格子状に複数個穿設されており、上記説明した圧電素子基板70と流路基板72とを結合(接合)後、樹脂剤58によって封止された(閉塞された)注入口40Bに沿って天板部材40を切断することにより、マトリックス状のノズル56(図2参照)を有するインクジェット記録ヘッド32が1度に複数個製造される構成になっている。
この駆動IC60の下面には、図7で示すように、複数のバンプ60Bがマトリックス状に所定高さ突設されており、天板41の金属配線90にフリップチップ実装されるようになっている。したがって、圧電素子45に対する高密度配線と低抵抗化が容易に実現可能であり、これによって、インクジェット記録ヘッド32の小型化が実現可能となっている。
また、天板41の金属配線90と第2の電極54との間にはバンプ64がマトリックス状に所定高さで配設され、金属配線90と第2の電極54とが電気的に接続されている。このため、圧電素子基板70の個別配線が不要になっている。
したがって、そこから駆動IC60からの信号が、天板部材40の金属配線90に通電され、さらに金属配線90からバンプ64を経て第2の電極54に通電される。そして、所定のタイミングで圧電体46に電圧が印加され、振動板48が上下方向に撓み変形することにより、圧力室50内に充填されたインク110が加圧されて、ノズル56からインク滴が吐出する。
以上のような構成のインクジェット記録ヘッド32において、次に、その製造工程について、図8〜図11−3を基に詳細に説明する。
図8で示すように、このインクジェット記録ヘッド32は、流路基板72の上面に圧電素子基板70を作製し、その後、流路基板72の下面にノズルフィルム68を接合(貼着)することによって製造される。
図9−1(A)で示すように、まず、流路基板(シリコン基板)72を熱酸化し、熱酸化膜47を形成する。そして、図9−1(B)で示すように、振動板48を形成する。
この振動板48の形成は、振動板48が例えば図15に示すように2層構造の場合には、例えば、流路基板(シリコン基板)72上に形成した熱酸化膜47上に、Geをドープした酸化膜51をP−CVD法により成膜し、更に、振動板48の一部となる絶縁膜49をP−CVD法により成膜する。
振動板48が図16に示すように1層(単層)である場合には、熱酸化膜もしくは、P−CVD膜法による絶縁膜を成膜する。
また、別の方法として、流路基板72としてシリコン酸化膜を熱酸化し、シリコン基板を接合し、研磨したのち、振動板48に相当する厚さまで調整する。
更に、振動板48の一部となる絶縁膜49を熱処理あるいはP−CVD法により成膜する。
次いで、図9−1(C)で示すように、スパッタ法により、例えば、厚み0.5μm程度のIrとTiとの積層膜63を振動板48の上面に成膜する(第1の電極層形成工程)ことによって、第1の電極52を形成する。
次いで、図9−1(D)で示すように第1の電極52となる積層膜63の上面に、圧電体46の材料であるPZT膜(圧電体層)65をスパッタ法またはMOCVD(有機金属化学気相堆積法:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)を用いて積層(成膜)した(圧電体層形成工程)後、第2の電極54となるIr膜(第2の電極層)67をスパッタ法で積層(成膜)する(第2の電極層形成工程)。その後、図9−1(D)で示すように、圧電体46となるPZT膜65、及びIr膜67をパターニングし、圧電体46及び第2の電極54を形成する。
このパターニングとしては、具体的には、PZT膜スパッタ(膜厚5μm)、Ir膜スパッタ(膜厚0.5μm)、ホトリソグラフィー法によるレジスト形成、パターニング(Cl2系又はF系のガスを用いたドライエッチング)、酸素プラズマによるレジスト剥離である。第1の電極52及び第2の電極54の材料としては、圧電体46であるPZT材料との親和性が高く、耐熱性がある、例えばIr、Au、Ru、Pt、Ta、PtO2、TaO4、IrO2等が挙げられる。また、PZT膜65の成膜温度は400〜650℃であり、PZT膜65の積層(成膜)には、AD法、ゾルゲル法等も用いることが可能である。
このように、圧電素子45を形成する過程では、流路基板(シリコン基板)72に、振動板48を形成し、その上面にIrとTiとの積層膜63(第1の電極52)を形成する。そして、該積層膜63の上面にPZT膜65(圧電体46)を形成し、さらにPZT膜65の上面にIr膜67(第2の電極54)を形成して、5層構造のプレートを作成する。そして、第2の電極54、圧電体46及び第1の電極52をそれぞれパターニングすることで、圧電素子45が形成される。
その後、図9−2(F)で示すように、第1の電極52となる積層膜63としてのIr膜および振動板48となる熱酸化膜47と、絶縁膜49としてのGeドープ膜をパターニングし、第1の電極52および振動板48を形成する。
次に、図9−2(G)で示すように表面に露出している第2の電極54の上面、圧電体46の端面、第1の電極52の上面及び振動板48の端面に保護膜として低透水性絶縁膜(SiOx膜)80を積層する。
なお、ここでは保護膜としてSiOx膜80(シリコン酸化膜)を用いたが、SiNx膜(シリコン窒化膜)、SiOxNy膜等であってもよい。また、SOG(Spin−On−Glass)や、Ta、Ti等の金属膜、TaO2、Ta2O5等の金属酸化膜、樹脂膜等でもよく、更にはそれらの単層膜ではなく、それらを組み合わせた複数層膜にしてもよい。酸化膜、窒化膜、SOG、金属膜、金属酸化膜は、絶縁性、耐湿性、膜層間の段差抑制(緩和)に優れ、中でも酸化膜、窒化膜、SOG、金属膜は、耐薬品(インク)性においても優れる。
そして、図9−2(H)で示すように、ドライエッチング加工によって、インクプール室38と圧力室50から図5において水平方向へ向かって延設された通路115とを繋げるインク流路66を構成するインク供給口83を形成し、更に、ドライエッチング加工によって、第2の電極54に金属配線86(図5参照)を接続するための開口84(コンタクト孔)を形成する。
そして更に、図9−2(I)で示すように、SiOx膜80の上面に樹脂保護膜118、樹脂保護膜119をパターニングする。具体的には、SiOx膜80に、樹脂保護膜118、及び樹脂保護膜119を構成する感光性樹脂を塗布し、露光・現像することでパターンを形成し、最後にキュアする。このとき、樹脂保護膜119にインク流路66を形成しておく。また、樹脂保護膜118、及び樹脂保護膜119を構成する感光性樹脂は、ポリイミド系、ポリアミド系、エポキシ系、ポリウレタン系、シリコーン系等、耐インク性を有していればよい。
こうして、流路基板(シリコン基板)72の上面に圧電素子基板70が作製され、この圧電素子基板70の上面に、例えばガラス板を支持体とする天板部材40が結合(接合)される。天板部材40の製造においては、図10(A)で示すように、天板部材40自体が支持体となる程度の強度を確保できる厚み(0.3mm〜1.5mm)の天板41を含んでいるので、別途支持体を設ける必要がない。この天板41に、図10(B)で示すように、インク供給用貫通口112及び電気接続用貫通口42を形成する。
具体的には、ホトリソグラフィー法で感光性ドライフィルムのレジストをパターニングし、このレジストをマスクとしてサンドブラスト処理を行って開口を形成した後、そのレジストを酸素プラズマにて剥離する。なお、インク供給用貫通口112及び電気接続用貫通口42は、断面視で内面が下方に向かって次第に接近するようなテーパー状(漏斗状)に形成されている。
このようにしてインク供給用貫通口112及び電気接続用貫通口42が形成された天板41(天板部材40)を、図11−1(A)で示すように、圧電素子基板70に被せて、両者を熱圧着(例えば、350℃、2kg/cm2で20分間)により結合(接合)する。このとき、隔壁樹脂層119と隔壁樹脂層118とは面一(同一高さ)になるように構成されているので、天板41が接触する際の接触性が高くなり、高いシール性で接合することができる。
そして、図11−1(B)で示すように、天板41の上面に金属配線90を成膜してパターニングする。具体的には、スパッタ法によるAl膜(厚さ1μm)の着膜、ホトリソグラフィー法によるレジストの形成、H3PO4薬液を用いたAl膜のウェットエッチング、酸素プラズマによるレジスト剥離である。
なお、電気接続用貫通口42の段差は非常に大きいので、ホトリソグラフィー工程ではレジストのスプレー塗布法と長焦点深度露光法を用いている。このとき、金属配線90の一部が、電気接続用貫通口42の内面から、第2の電極54へと達するようにパターニングしておく。
これにより、電気接続用貫通口42の底部42Bが金属配線90で閉塞され、電気接続用貫通口42は、上方にのみ開放された以外は閉じた空間となる。なお、金属配線90を電気接続用貫通口42の深部まで厚く成膜したい場合には、スパッタ法よりも段差被覆性の良好なCVD法を採用すればよい。
そして、このように金属配線90がパターニングされた電気接続用貫通口42内(上記空間内)に、図11−1(C)で示すように、半田86を搭載する。この方法としては、半田ボール86Bを電気接続用貫通口42内に直接搭載する半田ボール法を用いることができる。
次に、図11−2(D)で示すように、半田86をリフロー(例えば、280℃で10分間)し、電気接続用貫通口42の底部42Bにまで行き渡らせる。このとき、電気接続用貫通口42の底部42Bには、溶融した半田86が流れ出る経路がないので、高温の環境下で半田86を充分に溶融し、電気接続用貫通口42の底部42Bまで確実に充填させている。
つまり、この段階で、半田86の最下部は、天板41の下面(金属配線90が形成されていない面)よりも下側の電気接続用貫通口42内に位置しており、電気接続用貫通口42内の金属配線90に確実に接触するようになっている。また、この段階で、溶融した半田86が、天板41の上面(厳密には、金属配線90の上面)よりも上方に位置しないように、充填する半田86の量は予め所定量に決められている。
ここで、金属配線90の底部、即ち第2の電極54と接触している部位は、金属配線90を構成しているAl膜が薄くなることがあり、隔壁樹脂層119の熱膨張等で機械的ストレスを受けて、金属配線90が断線しているおそれがある。しかし、このような場合でも、底部42Bに充填された半田86が、底部42Bと電気接続用貫通口42内の金属配線90を接続しているので、半田86による導通確保が可能となる。また、溶融した半田86が流れ出ないので、電気接続用貫通口42の近傍部分を半田86が不用意に短絡させてしまうおそれもない。
次に、図11−2(E)で示すように、金属配線90が形成された面に樹脂保護膜92(例えば、富士フイルムアーチ社製の感光性ポリイミド Durimide7320)を積層してパターニングする。なお、このとき、第1インク供給路114Aを樹脂保護膜92が覆わないようにする。また、この樹脂保護膜92としては、ポリイミド系、ポリアミド系、エポキシ系、ポリウレタン系、シリコーン系等、耐インク性を有していればよい。
次に、図11−2(F)で示すように、流路基板(シリコン基板)72をパターニングして、圧力室50を形成する。具体的には、スパッタ法によるAl膜(厚さ1μm)の着膜(図示せず)、ホトリソグラフィー法によるレジストの形成、H3PO4薬液を用いたAl膜のウェットエッチング、酸素プラズマによるレジスト剥離をおこない、シリコンのエッチングマスクを形成したのち、F系ガスによるドライエッチングでシリコン基板をパターニングし、圧力室50を形成する。エッチング後は、マスクとして形成したAl膜は、H3PO4液により、除去する。
シリコン基板厚さは、圧力室高さとなるため、予め研磨などで膜厚を調整した後、パターニングを行う。
次に、図11−2(G)で示すように、ノズル56となる開口68Aが形成されたノズルフィルム68を流路基板(シリコン基板)72の下面に貼り付ける。レーザーあるいはエッチングなどでノズルが形成されたノズルフィルム自体は剛性がないため、精度良い接合ができない。そこで、ノズルプレート(SUSプレート)74、及びノズルプレート(SUSプレート)75に積層したノズルフィルム68を、ノズルプレート77として、このノズルプレート77を流路基板(シリコン基板)72の下面に貼り付ける。これによって、ノズルプレート77が、圧力室50の形成された圧電素子基板70に接合される。
その後、図11−3(H)で示すように、金属配線90に駆動IC60をフリップチップ実装する。このとき、駆動IC60は、予め半導体ウエハプロセスの終りに実施されるグラインド工程にて、所定の厚さ(70μm〜300μm)に加工されている。そして、駆動IC60の周囲を樹脂剤58で封止し、駆動IC60を水分等の外部環境から保護できるようにする。
これにより、後工程でのダメージ、例えば、できあがった圧電素子基板70をダイシングによってインクジェット記録ヘッド32に分割する際の水や研削片によるダメージを回避することができる。そして、金属配線90にフレキシブルプリント基板(FPC)100を接続する。
次に、図11−3(I)で示すように、駆動IC60よりも内側の天板部材40(天板41)の上面にプール室部材39を装着して、これらの間にインクプール室38を構成する。
これにより、インクジェット記録ヘッド32が完成し、図5及び図11−3(J)で示すように、インクプール室38や圧力室50内にインク110が充填可能とされる。なお、この製造方法は、一例であって、可能な場合、各工程の順番が前後しても良い。
例えば、本実施形態では、図11-1(A)において、天板部材40を結合(接合)させた後、樹脂膜92及び金属配線90を形成し、図11−2(F)において、流路基板(シリコン基板)72に圧力室50を形成しているが、天板部材40の接合前に、圧力室50を形成してもよい。
このようにして製造されたインクジェット記録ヘッド32を備えたインクジェット記録装置10において、次に、その作用を説明する。
まず、図1に示すインクジェット記録装置10に印刷を指令する電気信号が送られると、ストッカー24から記録用紙Pが1枚ピックアップされ、搬送装置26により搬送される。
一方、インクジェット記録ユニット30では、すでにインクタンクからインク供給ポートを介して、図5に示すインクジェット記録ヘッド32のインクプール室38にインク110が注入(充填)され、インクプール室38に充填されたインク110は、インク供給路114を経て圧力室50へ供給(充填)されている。そして、このとき、ノズル56の先端(吐出口)では、インク110の表面が圧力室50側に凹んだメニスカスが形成されている。
そして、記録用紙Pを搬送しながら、画像データを基に形成した駆動波形をインクジェット記録ヘッド32に印加する駆動手段33により複数のノズル56から選択的にインク滴を吐出し、記録用紙Pに、画像データに基づく画像の一部を記録する。すなわち、駆動IC60により、所定のタイミングで、所定の圧電素子45に電圧を印加し、振動板48を上下方向に撓み変形させて(面外振動させて)、圧力室50内のインク110を加圧し、所定のノズル56からインク滴として吐出させる。こうして、記録用紙Pに、画像データに基づく画像が完全に記録されたら、排紙ベルト23により記録用紙Pを排出紙貯留部25に排出する。これにより、記録用紙Pへの印刷処理(画像記録)が完了する。
ところで、本実施形態では、振動板48上に圧電素子45を形成する場合、図9−1(C)、(D)で示すように、IrとTiとの積層膜(第1の電極層)63をスパッタ法で振動板48の上面に成膜した後、該積層膜63の上面に、PZT膜(圧電体層)65と、Ir膜(第2の電極層)67を順にスパッタ法で積層(成膜)しているが、これによる圧電体46の分極方向は、第1の電極52から第2の電極54側へ向かうということが分かっている。
そして、図12はこの圧電体46の分極の向きに対する圧電体46の変位量(実測値)を示しており、第1の電極52の電位を横軸に示し、圧電体46の変位量を縦軸に示している。第1の電極52をプラス電位として、第1の電極52の電圧を上げていくと、圧電体46の伸びが大きくなり、飽和分極P1に到達すると、圧電体46は徐々に縮むこととなる。
これに対して、第1の電極52をマイナス電位として、第1の電極52の電圧を下げていくと、圧電体46はさらに縮み、抗電界Q1に至ると、圧電体46の分極方向が反転する。その後、第1の電極52の電圧低下に伴って圧電体46は徐々に伸び、飽和分極P2に達すると、徐々に縮む。そして、抗電界Q2に至ると、圧電体46の分極方向が反転する。
つまり、第1の電極52をプラス電位とした場合は、圧電体46の分極方向は、第1の電極52から第2の電極54側へ向かう方向(図14の矢印P方向)であり、いわゆる非反転分極であるが、第1の電極52をマイナス電位とした場合、圧電体46の分極方向は、第2の電極54から第1の電極52側へ向かう方向(図14の矢印Pと逆方向)となり、いわゆる反転分極となる。
そして、このグラフから、第1の電極52側をプラス電位にした場合と、マイナス電位にした場合とでは、第1の電極52側をプラス電位にした方が圧電素子45の変位量が高くなることが分かる。
このため、本実施の形態では、この分極方向を規定することにより、圧電素子45を効率良く使用し、プロセス中の温度においても分極が消極しないようにする。したがって、図14に示すように、第2の電極54を接地電位(GND)とし、第1の電極52と駆動IC60(図4参照)を接続して、第1の電極52に正電圧を印加するようにする。
例えば、図13(A)、(B)は、第1実施の形態であり、圧電素子45の駆動波形の例を示した図である。ここでは、圧電素子45A、45B、45Cの第2の電極54A、54B、54Cを共通化し、各第2の電極54A、54B、54CをGND接続可能としている。そして、第1の電極52に駆動波形が印加されるようにしている。
図13(A)の状態では、圧電素子45A、45Cは、第2の電極54A、54CをGND接続するための配線が繋がっておらず、第1の電極52に正電圧が印加されても非駆動状態である(図13(B)参照)。一方、圧電素子45Bは、第2の電極54BがGND接続されているため、第1の電極52に正電圧が印加されると、圧電素子45Bの撓み変形し、ノズル56(図4参照)からインクが吐出する(図13(B)参照)。
また、図14(A)、(B)は、第2実施の形態であり、圧電素子45の駆動波形の例を示した図である。圧電素子45A、45B、45Cの第2の電極54A、54B、54CをそれぞれGND接続させ、第1の電極52A、52B、52Cを個別化して、それぞれに駆動波形の選択回路を構成している。これにより、各圧電素子45A、45B、45Cに異なる駆動波形を印加することが可能となる。
一例として、図14(A)で示すように、駆動波形1ではメニスカスの微振動波形、駆動波形2では小滴吐出波形、駆動波形3では大滴吐出波形がそれぞれ印加されるようにする。そして、図14(A)、(B)で示すように、圧電素子45Aの第1の電極52Aと駆動波形3が接続されているため、第1の電極52Aに正電圧が印加されると、圧電素子45Aの撓み変形によって、ノズル56から大滴のインクが吐出することとなる。
また、圧電素子45Bの第1の電極52Bと駆動波形2とが接続されているため、第1の電極52Bに正電圧が印加されると、圧電素子45Bの撓み変形によって、ノズル56からは小滴のインクが吐出する。そして、圧電素子45Cの第1の電極52Cと駆動波形1が接続されているため、第1の電極52Cに正電圧が印加されると、圧電素子45Cの撓み変形によってノズル56ではメニスカスに微振動が発生する。
つまり、各第1の電極52A、52B、52Cとどの駆動波形を接続させるかによって、各圧電素子45A、45B、45Cでノズル56からのインクの吐出量を変えている。
なお、ここでは、第2の電極54をGND接続させ、第1の電極52に正電圧を印加させるようにしたが、圧電体46の分極方向が、第1の電極52から第2の電極54側へ向かう方向(図14の矢印P方向)となれば良いため、第1の電極54をGND接続させ、第2の電極54に負電圧を印加させるようにしても良い。
ここで、図17に示すように、インクジェット記録ヘッド32に設けられている複数の圧電体46の内の特定の圧電体46aに、該圧電体46aの上下に設けられた第2の電極54及び第1の電極52を介して電圧を印加すると、理想的な状態においては、該電圧の印加された第2の電極54と第1の電極52との間に挟持されている圧電体46aにのみ電界が形成されて該圧電体46aの変位量に応じた吐出量のインク滴が対応するノズル56から吐出される。しかし、該圧電体46aに電圧が印加されることで、第1の電極54に接している振動板48の絶縁膜49を介して、該圧電素子45a以外の圧電素子45nにも電界が印加される(電気的クロストーク(図17中、点線X参照)場合がある。
図18に示すように、図17を等価回路で考えると、圧電体46aの静電容量に対して、圧電体46aの第1の電極52に接触して設けられている振動板48の絶縁膜49の比誘電率が十分に小さいと、電気的クロストークの発生は抑制されると考えられるが、この絶縁膜49の比誘電率が大きくかつ厚みが大きくその容量成分が大きいと、電圧の印加された圧電体46a以外の圧電体46nや電気配線が形成された第1の電極52と振動板48に相当する部分53などの静電容量が圧電体46aの静電容量に上乗せされて、または圧電体46aと圧電体46n間の静電容量が増加すると共に、駆動対象となる圧電体46a以外の圧電体46nの第2の電極54と第1の電極52との間に電位差が発生して駆動対象以外の圧電体46nに振動(変形)が発生する場合がある。
すなわち、電気的クロストークがない状態における圧電体46aの静電容量がCx、圧電体46aの第1の電極52に接触する絶縁膜49部位の静電容量をCyとすると、圧電体46aと圧電体46n間の合成容量は、Cx+(Cy×Cz)/(Cy+Cz)で示される。
なお、Czは、圧電体46a以外の圧電体46nや電気配線部分の静電容量の総和を示している。
つまり、電気的クロストークによって、(Cy×Cz)/(Cy+Cz)の分だけ見かけの静電容量が増加する。また、電気的クロストークによって、圧電体46a以外の圧電体46nも変形すると考えられる。
この現象により、圧電体46aの第1の電極52が設けられている方向(図17中下方)に積層されているノズル56A、すなわち、吐出対象となるノズル56Aから印加した電圧に応じた吐出量のインク滴が吐出されず、また、吐出対象以外のノズル、例えば、圧電体46nの第1の電極52が設けられている方向(図17中下方)に積層されているノズル56nからインク滴が吐出されるという問題が生じる場合がある。
そこで、本実施の形態のインクジェット記録ヘッド32では、圧電体46の分極の向きが、振動板48上に設けられた第1の電極52から第2の電極54へ向かう方向である圧電素子45において、この振動板48の内の、第1の電極52に接して設けられた絶縁膜49の静電容量が、該圧電素子45を構成する圧電体46の静電容量の10%以下となるように調整している。
ここで、特定の1つの圧電体46(本実施の形態では図17に示す「圧電体46a」として説明する)及びその下部の絶縁膜49各々の静電容量は、下記式(1)から算出することができる。
静電容量=Ε0×Εr×S/d ・・・・・式(1)
上記式(1)中、Εrは、材料の比誘電率を示し、Ε0は、真空中における比誘電率を示している。
また、上記式(1)中のSは、静電容量測定対象物の電界と垂直方向の面積を示しており、設計図面より算出することができる。
また、上記式(1)中、dは、厚みを示している。この厚みとは、静電容量を測定する対象の静電容量測定対象物の厚みであって、圧電素子45の第2の電極54と第1の電極52とが向かい合う方向における長さを示している。
このように、上記式(1)を用いて、絶縁膜49及び圧電体46各々の静電容量を算出することができる。
なお、電気的クロストークが発生したときの、圧電体46aと圧電体46n間の静電容量(以下、特定の1つの圧電体46の静電容量として、「圧電体46aの見かけの静電容量」と称する場合がある)は、下記式(2)によって算出することができる。
圧電体46aの見かけの静電容量=Cx+(Cy×Cz)/(Cy+Cz) ・・式(2)
上記式(2)中、Cxは、上記式(1)によって求めた圧電体46aの静電容量を示し、Cyは、第1の電極部の絶縁膜49の静電容量を示し、Czは、圧電体46a以外の圧電体46nや電気配線部分の静電容量の総和を示している。
上記式(1)に示されるように、静電容量は、静電容量測定対象物を構成する材料の比誘電率と、静電容量測定対象物の厚みに依存している。
ここで、式(2)において、インクジェット記録ヘッド32の構成にもよるが、絶縁膜49の比誘電率を低い材料にすることと、厚みを大きくすることにより、電気的クロストークの影響を十分に小さくすることが出来ると考えられる。
Czを構成する容量はCyに比べて1桁から2桁大きく圧電体の見かけの静電容量に大きな影響をあたえない。
そこで、本実施の形態のインクジェット記録ヘッド32においては、圧電体46の静電容量に対応する、絶縁膜49の静電容量を調整することで、振動板48における、第1の電極52に接して設けられた絶縁膜49の静電容量が、該絶縁膜49に接して設けられた圧電素子45を構成する圧電体46の静電容量の10%以下、すなわち下記式(3)を満たすように調整している。なお、式(3)中のCx及びCy各々は、上記式(2)のCx及びCyと各々同じ意味であるため説明を省略する。
0.1×Cx>Cy 式(3)
なお、振動板48における、第1の電極52に接して設けられた絶縁膜49の静電容量は、該絶縁膜49に接して設けられた圧電素子45を構成する圧電体46の静電容量の10%以下でることが好ましく、5%以下であることが特に好ましい。
上記式(3)の関係を満たす静電容量とするために、本実施の形態のインクジェット記録ヘッド32においては、圧電体46を構成する材料の比誘電率及び厚みに対する、振動板48を構成する材料の比誘電率及び厚みを規定している(すなわち、上記式(1)中、Εr及びd)。
本実施の形態のインクジェット記録ヘッド32の圧電体46として用いる材料としては、電圧を印加した際に変形可能な公知の圧電体材料であれば特に限定されず、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT:Pb(Zr,Ti)O3)、酸化亜鉛(ZnO)、ロッシェル塩(酒石酸カリウム-ナトリウム:KNaC4H4O6)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、リチウムテトラボレート(Li2B4O7)、ランガサイト(La3Ga5SiO14)、窒化アルミニウム、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等を挙げることができるが、これらの中でも、インクジェット記録ヘッド32用の圧電体46としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系の材料を用いることが好ましい。チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)にはV(バナジウム)、Li,Nbなどの添加物があってもよい。
以下では、圧電体46は、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)系材料により構成されているものとして説明する。
スパッタ法で着膜されたチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)の比誘電率は、一般的に800〜1200程度となる。Nb,Vなどの添加物を加えたPZTでは、1000〜1300程度となる場合もある。本発明では、圧電体46が比誘電率900であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で構成されている場合において、圧電体46の厚さが4×10−6mであると、圧電体46の静電容量Cxは、上記式(1)に基づいて、2.9×10−10F/m となる。なお、面積Sは、圧電体は1.3×10−7m2、第1の電極52は、6.30×10−7m2であるとして計算し、Ε0は 8.854187816×10−12F/mであるとし、Εrについては、圧電体46は900であり、絶縁膜49は4.2であるとして計算した。圧電体と第1の電極の面積の違いは、第1の電極は電気接続のために電気接続用バッド面積が必要なためである。
この条件下において、上記式(3)(0.1×Cx>Cy)の関係を満たすための絶縁膜49を構成する材料の比誘電率は、上記式(3)及び式(1)に基づいて、3〜30の範囲内であり、且つ絶縁膜49の厚みdは、0.9μm〜20μmの範囲内である。
すなわち、圧電体46の比誘電率が900であり、且つ厚みが4μmである場合には、絶縁膜49の厚みdが1μm〜8μmの範囲内であり、且つ絶縁膜49を構成する材料の比誘電率Εrが3〜30の範囲内であれば、この構成のインクジェット記録ヘッド32は、式(3)の関係を満たしている。
また、圧電体46がチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)で構成され、且つ圧電体46の厚さが上記厚みとは異なり、10μmである場合には、上記と同様に式(3)及び式(1)に基づいて、比誘電率が3〜30の範囲内である材料で構成される絶縁膜49を、2μm〜13μmの厚みとなるように構成すればよい。
また、圧電体46を構成する材料が、上記チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)とは異なる材料、すなわち比誘電率の異なる材料で構成された場合についても同様に、該圧電体46を構成する材料の比誘電率と厚みとに基づいて、上記式(1)及び式(3)から、上記式(1)の関係を満たす比誘電率の材料で、該式(1)の関係を満たす厚みの絶縁膜49を構成すればよい。
なお、振動板48の厚みが厚すぎると、インク滴をノズル56から吐出可能な程度の振動板48の変位が生じなくなる事が懸念されるため、振動板48の厚みは、圧電体46の厚さに対して2倍以下の厚みであることが好ましい。
上記関係を満たす絶縁膜49を構成する材料としては、ダイヤモンド(比誘電率16.5)、ガラス(比誘電率5.4〜9.9)、アルミナ(比誘電率8.5)、石英(比誘電率3.8)、酸化タンタル(比誘電率27.9)、SiN(比誘電率 7.0)、SiCN(比誘電率 4.87)、酸化アルミニウム(比誘電率8.5)SiOC(比誘電率 2.9)等が挙げられる。
例えば、絶縁膜49として、比誘電率の異なる3種類の材料(比誘電率27.9の材料 酸化タンタル、比誘電率8.5の材料アルミナ、比誘電率4.2の材料 酸化膜)各々を用い、圧電体46を比誘電率900のチタン酸ジルコン酸鉛で構成した圧電素子45各々を備えたインクジェット記録ヘッド32の構成としたときに、各インクジェット記録ヘッド32における絶縁膜49の静電容量が圧電体46の10%以下となるときの絶縁膜49の最少の厚みと、圧電体46の厚みとの関係は、図19に示される関係となる。
なお、この圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32は、上記図9−1〜図11―3に示す方法で作製した。また、圧電素子45を構成する圧電体46は、材料チタン酸ジルコン酸鉛(比誘電率900)で構成し、スパッタ法による成膜時間を調整することによって異なる厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49の厚みは、酸素雰囲気で、1100℃に保たれた酸化炉中で酸化時間を調整することによりすることによって調整した。
また、絶縁膜49の静電容量、及び圧電体46の静電容量は、LCRメータあるいはインピーダンスアナライザーを用いて、測定した。
図19に示されるように、絶縁膜49の静電容量が圧電体46の10%以下となるときの絶縁膜49の最小厚と、圧電体46の厚みとの関係は、絶縁膜49の比誘電率が高くなるほど、圧電体46の厚みに対する絶縁膜49の厚みが大きくなるといえる。一般的に、1200dpi(1インチあたりのドット数)の画像を形成するために好適な圧電体46の厚みは10μm以下であることが知られているが、図19に示す結果から、比誘電率28の材料を絶縁膜49として使うと、絶縁膜49の静電容量が圧電体46の10%以下となるための絶縁膜49の厚みは、約18μm(図19に示す、比誘電率28のときの圧電体46の厚み10μmに対応する絶縁膜49の厚み)であるといえる。このことは、式(1)及び式(3)からもいえる。
このため、比誘電率30前後の絶縁膜を振動板48として使用する場合には、絶縁膜49は、圧電体46の約2倍の厚みが必要となる。ただし、上述のように、圧電体46の厚みに対して絶縁膜49の厚みが2倍以上であると、絶縁膜49を備えた振動板48の振動によるノズル56からのインク滴の吐出が良好に行われなくなる問題があるため、絶縁膜49の厚みは、圧電体46の厚みの2倍以下であることが望ましい。
従って、図19に示される結果からは、圧電体46の比誘電率が900である場合には、比誘電率28の材料は絶縁膜49としては好ましくなく、9以下の材料を用いることが好ましいことから、圧電体46の比誘電率に対して、1/100以下の比誘電率を有する材料を、振動板48の絶縁膜49として使用することが好ましいといえる。
ここで、インクジェット記録ヘッド32において、充分なインク滴の吐出能力を得るためには、振動板48及び圧電体46の厚みが薄い程好ましい事が知られており、一般的には、少なくとも10μm以下の厚みであることが要求される。
そこで、次に、圧電体46の比誘電率が900であるときに絶縁膜49の厚みを10μmに固定した場合を検討した。この絶縁膜49の厚みを10μmに固定したときにおける、絶縁膜49の静電容量が圧電体46の静電容量の10%以下となる関係を満たすときの圧電体46の厚みと、絶縁膜49を構成する材料の比誘電率と、を上記と同様に測定してこれらの関係を図20に示した。図20に示されるように、絶縁膜49の比誘電率が高くなるほど、該関係を満たすために必要な圧電体46の厚みは薄くなり、図20に示す例では、絶縁膜49の比誘電率が30であるときの圧電体46の厚みは5μm以下であればよい。
ここで、上記図19で説明したように、絶縁膜49の比誘電率が28のときに、上記式(3)の関係を満たす為に必要な絶縁膜49の厚みは、比誘電率900の圧電体46の厚みの2倍以下である必要があることがわかる。式(1)(2)(3)を満たす圧電体46の比誘電率と絶縁膜49の比誘電率は、28/900≒1/30となる。
このため、圧電体46の比誘電率が900であり、且つ絶縁膜49の厚みが10μmである場合には、上記式(3)の関係を満たすためには、圧電体46の比誘電率に対する絶縁膜49の比誘電率は、1/30以下である必要があるといえる。
次に、圧電体46の比誘電率が900であるときに絶縁膜49を構成する材料として、比誘電率4.2である熱酸化膜を用いた場合を検討した。この絶縁膜49の比誘電率が4.2であるときの、絶縁膜49の厚みと、絶縁膜49の静電容量と、の関係を、圧電体46の厚みが3μm、4μm、5μm、10μmである各々について図21に示した。
また、上記図21によって示される絶縁膜49の厚みと、絶縁膜49の静電容量と、の関係に基づいて、圧電体46の厚みと、絶縁膜49の厚みと、の関係を図22に示した。
図21に示されるように、圧電体46の比誘電率が900であるときに絶縁膜49を比誘電率4.2の材料で構成した場合には、絶縁膜49の厚さが十分厚くなると一定の静電容量となる。上記式(3)で説明したように10%程度の静電容量増加は許容できることから、圧電素子45として電気的クロストークの影響がない絶縁膜49としては、図22に示す線図に基づいて、圧電体46の厚みが3μm〜5μmである場合には、絶縁膜49の厚みは0.7μm以上、圧電体46の厚みが10μmである場合には、絶縁膜49の厚みは2.2μm以上であればよい。
図21及び図22に示されるように、圧電体46の比誘電率が900であるときに絶縁膜49を比誘電率4.2の材料で構成した場合には、圧電体46の厚みが3μm〜5μmである場合には、且つ絶縁膜49の厚みが0.7μm以上であるときに、絶縁膜49の厚み変化に対する静電容量の変化は10%以下となった。すなわち、この値であるときに、電気的クロストークが発生しなくなり、上記(3)の関係を満たしているといえる。
次に、圧電体46の比誘電率が900であるときに絶縁膜49を構成する材料を、比誘電率8.5であるアルミナ(Al2O3)を用いた場合を検討した。この絶縁膜49の比誘電率が8.5であるときの、絶縁膜49の厚みと、絶縁膜49の静電容量と、の関係を、圧電体46の厚みが3μm、4μm、5μm、10μmである各々について図23に示した。
また、上記図23によって示される絶縁膜49の厚みと、絶縁膜49の静電容量と、の関係に基づいて、圧電体46の厚みと、絶縁膜49の厚みと、の関係を図24に示した。
図23に示されるように、圧電体46の比誘電率が900であるときに絶縁膜49を比誘電率8.5の材料で構成した場合についても、絶縁膜49の厚みが厚くなると、一定の静電容量となる。上記式(3)で説明したように10%程度の静電容量増加は許容できることから、圧電素子45として、上記と同様に、電気的クロストークの影響の無い絶縁膜49の厚みとしては、図24に示される線図に基づいて、圧電体46の厚みが4μm〜6μmである場合には、絶縁膜49の厚みが2.0μm以上であるときに、絶縁膜49の厚み変化に対する静電容量の変化は10%以下となった。このため、この範囲であれば、電気的クロストークの影響は抑えられる。
すなわち、図23及び図24に示されるように、圧電体46の比誘電率が900であるときに絶縁膜49を比誘電率8.5の材料で構成した場合には、圧電体46の厚みが4μm〜6μmであり、且つ絶縁膜49の厚みが2.0μm以上であるときに、絶縁膜49の厚み変化に対する静電容量の変化は10%以下となり、上記(3)の関係を満たしているといえる。
次に、圧電体46の比誘電率が900であるときに絶縁膜49を構成する材料を、比誘電率27.9である酸化タンタル(Ta2O5)を用いた場合を検討した。この絶縁膜49の比誘電率が27.9であるときの、絶縁膜49の厚みと、絶縁膜49の静電容量と、の関係を、圧電体46の厚みが3μm、4μm、5μm、10μmである各々について図25に示した。
また、上記図25によって示される絶縁膜49の厚みと、絶縁膜49の静電容量と、の関係に基づいて、圧電体46の厚みと、絶縁膜49の厚みと、の関係を図26に示した。
図25に示されるように、圧電体46の比誘電率が900であるときに絶縁膜49を比誘電率27.9の材料で構成した場合についても、絶縁膜49の厚みが厚くなると、一定の静電容量となる。上記式(3)で説明したように10%程度の静電容量増加は許容できることから、圧電素子45として、上記と同様に、電気的クロストークの影響の無い絶縁膜49の厚みとしては、図26に示される線図に基づいて、圧電体46の厚みが4μm〜6μmであり、且つ絶縁膜49の厚みが7.0μm以上であるときに、絶縁膜49の厚み変化に対する静電容量の変化は10%以下となった。
このように、本実施の形態のインクジェット記録ヘッド32によれば、絶縁膜49の静電容量が圧電体46の静電容量の10%以下となる関係を満たすように、圧電体46を構成する材料(すなわち比誘電率)、圧電体46の厚み、絶縁膜49を構成する材料(すなわち比誘電率)、及び絶縁膜49の厚みを調整することで、絶縁膜49の静電容量による増加は、圧電体46の静電容量の10%以下に調整され、各圧電体46に印加された電圧による電気的クロストークが、該圧電体46に接触して設けられた振動板48の絶縁膜49内で発生することを抑制している。
なお、上記実施例のインクジェット記録装置10では、ブラック、イエロー、マゼンタ、シアンの各色のインクジェット記録ユニット30から画像データに基づいて選択的にインク滴が吐出されてフルカラーの画像が記録用紙Pに記録されるようになっているが、本発明におけるインクジェット記録は、記録用紙P上への文字や画像の記録に限定されるものではない。
すなわち、記録媒体は紙に限定されるものでなく、また、吐出する液体もインクに限定されるものではない。例えば、高分子フィルムやガラス上にインクを吐出してディスプレイ用カラーフィルターを作成したり、溶接状態の半田を基板上に吐出して部品実装用のバンプを形成するなど、工業的に用いられる液滴噴射装置全般に対して、本発明に係るインクジェット記録ヘッド32を適用することができる。
また、上記実施例のインクジェット記録装置10では、紙幅対応のいわゆるFull Width Array(FWA)の例で説明したが、これに限定されず、主走査機構と副走査機構を有するPartial Width Array(PWA)であってもよい。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例および比較例は、上記図1に例示したような構成を有するインクジェット記録装置10を作製するとともに、インクジェット記録装置10に設けられたインクジェット記録ヘッド32を図9−1〜図11−3に示す方法で作製して、各種評価を行なった。
(実施例1)
<圧電素子及びインクジェット記録ヘッドの作製>
上記図9−1〜図11−3に示す方法で圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32を作製した。
なお、圧電素子45を構成する圧電体46は、材料ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)(比誘電率900)で構成し、スパッタ法により成膜することによって5μmの厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49としては、流路基板(シリコン基板)72上に形成した熱酸化膜47上に、振動板48となる絶縁膜49である酸化タンタル(Ta2O5)(比誘電率27.9)をスパッタ法により10.0μm成膜した。
<評価>
次に、作製したインクジェット記録ヘッド32を、図1に示すインクジェット記録装置10に取付けて、高温高湿環境(40℃、80%RH)下で、5KV/mmの交流電圧を特定の圧電素子45に印加して、圧電体46の静電容量と、絶縁膜49の静電容量の静電容量を、インピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、十分厚い絶縁物上で形成した圧電体の静電容量との差はみられなかった。
また、電圧を印加した圧電素子45に隣接する圧電素子45の電位差を測定したところ
0.1V以下の電位差であり、電気的クロストークによる隣接ビットの誤動作が発生していないことがわかった。
このため、絶縁膜49への電気的クロストークの発生を抑制することができたといえる。
(実施例2)
<圧電素子及びインクジェット記録ヘッドの作製>
上記図9−1〜図11−3に示す方法で圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32を作製した。
なお、圧電素子45を構成する圧電体46は、ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)(比誘電率900)で構成し、スパッタ法により成膜することによって3μmの厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49としては、流路基板(シリコン基板)72上に形成した熱酸化膜47(比誘電率4.2の熱酸化膜)上に、振動板48の一部となるGeをドープした酸化膜51をP−CVD法により3.0μm成膜し、更に、振動板48の一部となる絶縁膜49をP−CVD法により0.9μm成膜した。
<評価>
次に、作製したインクジェット記録ヘッド32を、図1に示すインクジェット記録装置10に取付けて、高温高湿環境(40℃、80%RH)下で、5KV/mmの交流電圧を特定の圧電素子45に印加して、圧電体46の静電容量と、絶縁膜49の静電容量の静電容量を、インピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、十分厚い絶縁物上で形成した圧電体との静電容量の差はみられなかった。
また、電圧を印加した圧電素子45に隣接する圧電素子45の電位差を測定したところ
0.1V以下の電位差であり、電気的クロストークによる隣接ビットの誤動作が発生していないことがわかった。
このため、絶縁膜49への電気的クロストークの発生を抑制することができたといえる。
(実施例3)
<圧電素子及びインクジェット記録ヘッドの作製>
上記図9−1〜図11−3に示す方法で圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32を作製した。
なお、圧電素子45を構成する圧電体46は、材料ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)(比誘電率900)で構成し、スパッタ法により成膜することによって4μmの厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49としては、比誘電率8.5のアルミナを用い、スパッタ法により厚み5μmに成膜した。
<評価>
次に、作製したインクジェット記録ヘッド32を、図1に示すインクジェット記録装置10に取付けて、高温高湿環境(40℃、80%RH)下で、 5KV/mmの交流電圧を特定の圧電素子45に印加して、圧電体46の静電容量と、絶縁膜49の静電容量の静電容量を、インピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、十分厚い絶縁物上で形成した圧電体の静電容量との差はみられなかった。
また、電圧を印加した圧電素子45に隣接する圧電素子45の電位差を測定したところ
0.1V以下の電位差であり、電気的クロストークによる隣接ビットの誤動作が発生していないことがわかった。
このため、絶縁膜49への電気的クロストークの発生を抑制することができたといえる。
(実施例4)
<圧電素子及びインクジェット記録ヘッドの作製>
上記図9−1〜図11−3に示す方法で圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32を作製した。
材料ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)(比誘電率900)で構成し、スパッタ法により成膜することによって6μmの厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49としては、比誘電率 4.87のSiONを用い、CVD法よって厚み2.0μmに着膜した。
<評価>
次に、作製したインクジェット記録ヘッド32を、図1に示すインクジェット記録装置10に取付けて、高温高湿環境(40℃、80%RH)下で、5KV/mmの交流電圧を特定の圧電素子45に印加して、圧電体46の静電容量と、絶縁膜49の静電容量の静電容量を、インピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、十分厚い絶縁物上で形成した圧電体の静電容量との差はみられなかった。
また、電圧を印加した圧電素子45に隣接する圧電素子45の電位差を測定したところ
0.1V以下の電位差であり、電気的クロストークによる隣接ビットの誤動作が発生していないことがわかった。
このため、絶縁膜49への電気的クロストークの発生を抑制することができたといえる。
(実施例5)
上記図9−1〜図11−3に示す方法で圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32を作製した。
なお、圧電素子45を構成する圧電体46は、材料ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)(比誘電率900)で構成し、スパッタ法により成膜することによって10μmの厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49としては、流路基板(シリコン基板)72上に形成した熱酸化膜47上に、振動板48の一部となる絶縁膜49である酸化タンタル(Ta2O5)(比誘電率27.9)をスパッタ法により10.0μm成膜した。
<評価>
次に、作製したインクジェット記録ヘッド32を、図1に示すインクジェット記録装置10に取付けて、高温高湿環境(40℃、80%RH)下で、5KV/mmの交流電圧を特定の圧電素子45に印加して、圧電体46の静電容量と、絶縁膜49の静電容量の静電容量を、インピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、十分厚い絶縁物上で形成した圧電体の静電容量との差はみられなかった。
また、電圧を印加した圧電素子45に隣接する圧電素子45の電位差を測定したところ
0.1V以下の電位差であり、電気的クロストークによる隣接ビットの誤動作が発生していないことがわかった。
このため、絶縁膜49への電気的クロストークの発生を抑制することができたといえる。
(実施例6)
上記図9−1〜図11−3に示す方法で圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32を作製した。
なお、圧電素子45を構成する圧電体46は、材料 ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)(比誘電率900)で構成し、スパッタ法により成膜することによって10μmの厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49としては、流路基板(シリコン基板)72上に形成した熱酸化膜47(比誘電率4.2の熱酸化膜)上に、Geをドープした酸化膜51をP−CVD法により6.0μm成膜し、更に、振動板48の一部となる絶縁膜49をP−CVD法により2.0μm成膜した。
<評価>
次に、作製したインクジェット記録ヘッド32を、図1に示すインクジェット記録装置10に取付けて、高温高湿環境(40℃、80%RH)下で、5KV/mmの交流電圧を特定の圧電素子45に印加して、圧電体46の静電容量と、絶縁膜49の静電容量の静電容量を、インピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、十分厚い絶縁物上で形成した圧電体の静電容量との差はみられなかった。
また、電圧を印加した圧電素子45に隣接する圧電素子45の電位差を測定したところ
0.1V以下の電位差であり、電気的クロストークによる隣接ビットの誤動作が発生していないことがわかった。
このため、絶縁膜49への電気的クロストークの発生を抑制することができたといえる。
(実施例7)
上記図9−1〜図11−3に示す方法で圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32を作製した。
なお、圧電素子45を構成する圧電体46は、材料ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)(比誘電率900)で構成し、スパッタ法により成膜することによって10μmの厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49としては、比誘電率8.5のアルミナを用い、スパッタ法により厚み5μmに成膜した。
<評価>
次に、作製したインクジェット記録ヘッド32を、図1に示すインクジェット記録装置10に取付けて、高温高湿環境(40℃、80%RH)下で、5KV/mmの交流電圧を特定の圧電素子45に印加して、圧電体46の静電容量と、絶縁膜49の静電容量の静電容量を
インピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、十分厚い絶縁物上で形成した圧電体の静電容量との差はみられなかった。
また、電圧を印加した圧電素子45に隣接する圧電素子45の電位差を測定したところ
0.1V以下の電位差であり、電気的クロストークによる隣接ビットの誤動作が発生していないことがわかった。
このため、絶縁膜49への電気的クロストークの発生を抑制することができたといえる。
(実施例8)
上記図9−1〜図11−3に示す方法で圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32を作製した。
ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)(比誘電率900)で構成し、スパッタ法により成膜することによって10μmの厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49としては、比誘電率 4.87のSiONを用い、CVD法よって厚み5.0μmに着膜した。
<評価>
次に、作製したインクジェット記録ヘッド32を、図1に示すインクジェット記録装置10に取付けて、高温高湿環境(40℃、80%RH)下で、5KV/mmの交流電圧を特定の圧電素子45に印加して、圧電体46の静電容量と、絶縁膜49の静電容量の静電容量を、インピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、十分厚い絶縁物上で形成した圧電体の静電容量との差はみられなかった。
また、電圧を印加した圧電素子45に隣接する圧電素子45の電位差を測定したところ
0.1V以下の電位差であり、電気的クロストークによる隣接ビットの誤動作が発生していないことがわかった。
このため、絶縁膜49への電気的クロストークの発生を抑制することができたといえる。
(実施例9)
上記図9−1〜図11−3に示す方法で圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32を作製した。
なお、圧電素子45を構成する圧電体46は、圧電材料としてNb(ニオブ)を添加したジルコン酸チタン酸鉛(PZT)(比誘電率1300)で構成し、スパッタ法により成膜することによって5μmの厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49としては、流路基板(シリコン基板)72上に形成した熱酸化膜47上に、振動板48となる絶縁膜49である酸化タンタル(Ta2O5)をスパッタ法により10.0μm成膜した。
<評価>
次に、作製したインクジェット記録ヘッド32を、図1に示すインクジェット記録装置10に取付けて、高温高湿環境(40℃、80%RH)下で、5KV/mmの交流電圧を特定の圧電素子45に印加して、圧電体46の静電容量と、絶縁膜49の静電容量の静電容量を、インピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、十分厚い絶縁物上で形成した圧電体の静電容量との差はみられなかった。
また、電圧を印加した圧電素子45に隣接する圧電素子45の電位差を測定したところ0.1V以下の電位差であり、電気的クロストークによる隣接ビットの誤動作が発生していないことがわかった。
このため、絶縁膜49への電気的クロストークの発生を抑制することができたといえる。
(比較例1)
<圧電素子及びインクジェット記録ヘッドの作製>
上記図9−1〜図11−3に示す方法で圧電素子45及びインクジェット記録ヘッド32を作製した。
なお、圧電素子45を構成する圧電体46は、材料ジルコン酸チタン酸鉛(PZT)(比誘電率900)で構成し、スパッタ法により成膜することによって4μmの厚みの圧電素子45を形成した。また、絶縁膜49としては、流路基板(シリコン基板)72上に形成した熱酸化膜47(比誘電率4.2の熱酸化膜)上に、Siを接合させ研磨することによって酸化膜51としてのSi膜を4.0μm形成し、更に、振動板48の一部となる絶縁膜49を酸素雰囲気中の熱処理により、0.2μm成膜した。
<評価>
次に、作製したインクジェット記録ヘッド32を、図1に示すインクジェット記録装置10に取付けて、高温高湿環境(40℃、80%RH)下で、5KV/mmの交流電圧を特定の圧電素子45に印加して、圧電体46の静電容量と、絶縁膜49の静電容量の静電容量を、インピーダンスアナライザーを用いて測定したところ、十分厚い絶縁物上で形成した圧電体の静電容量にくらべて40%増加していた。
また、電圧を印加した圧電素子45に隣接する圧電素子45の電位差を測定したところ1.12V以下の電位差であり、電気的クロストークによる隣接ビットの誤動作が発生しているがわかった。