JP4984360B2 - 低誘電率樹脂およびその製造方法 - Google Patents

低誘電率樹脂およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、誘電率が低く均質な微多孔質を有する低誘電率樹脂に関するものであり、また該低誘電率樹脂は、フレキシブルプリント基板に代表される回路基板や、回路用積層板に有用に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
近年の電子機器においては、高機能化のための高速信号処理化、デジタル化への要求が一層高まり、これに使用する樹脂に対しても高性能化が求められている。特に、高速信号処理化に伴う、高周波数化に対応した電気的特性として、低誘電率化が求められている。
【0003】
特開平9−100363号公報には、誘電率を下げるため、気体の比誘電率が1と低いことを利用して、多孔質なプラスチックからなるフィルムが記載されている。しかしながら同法は、発泡剤を発泡させることによる気泡により多孔質化を実現したものであり、その孔径に分布が生じるため、誘電率が測定部位によって安定しないなどの問題が生じていた。
【0004】
また特開平9−169867号公報には、電池用セパレーターや逆浸透膜用途向けに、樹脂と溶媒との間のスピノーダル分解により、周期構造0.05〜2μmの両相連続構造のゲルからなる微多孔膜が記載されている。しかしながら同法は、樹脂に比べて拡散速度が遙かに大きい溶媒を使用するため、スピノーダル分解の速度が速くなりすぎ、構造周期を制御することが困難となり、このため高価なブロックコポリマーの添加が必須となるなどコスト的に不利な問題があった。
【0005】
また特開平8−113829号公報には、特定の温度域で互いに相溶する部分相溶系のポリマーブレンドを相溶状態で溶融紡糸した繊維を、その後熱処理等でスピノーダル分解あるいは核生成と成長により相分離させ、繊維横断面中に0.001〜0.4μmの分散構造を形成させたポリマーブレンド繊維、およびその一方の成分を溶媒により抽出することにより、微多孔あるいは海綿状とした繊維が記載されている。しかしながら該微多孔あるいは海綿状とした繊維は、繊維の吸湿/吸水性能向上のため、溶融紡糸における伸張流動場を経たサンプルを用いることによって得られた特別なものであり、本発明の如く、低誘電率であることが必要な用途に用いることに関しては全く記載されていない。
【0006】
また特開2001−210142号公報には、未硬化物質に除去可能成分を溶解し、その後未硬化物質を硬化し除去可能成分を除去することによる多孔性物質が記載されている。上記公報には、未硬化物質として、無機物質及び有機物質を用いることが教示されているものの、有機物質を用いた場合の除去成分の除去方法については全く記載されていない。本発明者の検討によれば、無機物質を用いた場合と異なり、有機物質を用いた場合、除去成分を除去するために高温で加熱するなどの方法がとれないことから、除去成分の除去が著しく困難であった。したがって有機物質を用いた場合に、除去成分をよりすみやかに除去できる方法が要望されていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
かかる現状において、本発明の課題は、材質として均質であり、かつ簡便な方法で低誘電率を達成した低誘電率樹脂を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、優れた低誘電率を有する低誘電率樹脂材料を提供すべく鋭意検討した結果、ポリマーアロイにおけるスピノーダル分解を利用し、その1成分の一部を除去した特定構造の微多孔質からなる樹脂で達成されることを見いだし本発明を完成させるにいたった。
【0009】
すなわち本発明は、
(1)少なくとも2成分の樹脂が溶融混練時の剪断下では相溶し、吐出後の非剪断下で相分離することを特徴とするスピノーダル分解、または
少なくとも2成分の樹脂成分のうち、少なくとも1成分の前駆体を、残りの樹脂成分の共存下で化学反応せしめる方法であって、化学反応前は一旦相溶し、化学反応後に相分離することを特徴とするスピノーダル分解によって相分離せしめた、少なくとも2成分の樹脂よりなるポリマーアロイから、少なくとも1成分の樹脂の少なくとも一部を、ウエットエッチング法、ドライエッチング法、熱分解法から選ばれるいずれかの方法により除去した微多孔質よりなる、誘電率3.0以下の低誘電率樹脂であり、かつ上記ポリマーアロイが
ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリスルフィドスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアミド、テトラフルオロエチレンを含んで共重合された部分フッ素化樹脂から選ばれる1種以上を含むものであり、構造周期0.01〜0.15μmの両相連続構造を形成したものである低誘電率樹脂、
(2)前記両相連続構造が、スピノーダル分解の初期過程において0.001〜0.1μmの両相連続構造を形成した後、発展して形成されたものであることを特徴とする上記(1)記載の低誘電率樹脂、
(3)前記微多孔質な低誘電率樹脂が、空孔率が10vol%以上であることを特徴とする上記(1)〜(2)いずれか記載の低誘電率樹脂、
(4)射出成形用である上記(1)〜()いずれか記載の低誘電率樹脂、
(5)フィルムおよび/またはシート押出成形用である上記(1)〜()いずれか記載の低誘電率樹脂、
)少なくとも2成分の樹脂が溶融混練時の剪断下では相溶し、吐出後の非剪断下で相分離することを特徴とするスピノーダル分解、または
少なくとも2成分の樹脂成分のうち、少なくとも1成分の前駆体を、残りの樹脂成分の共存下で化学反応せしめる方法であって、化学反応前は一旦相溶し、化学反応後に相分離することを特徴とするスピノーダル分解によって相分離せしめて構造周期0.01〜0.15μmの両相連続構造を有するポリマーアロイとなす工程、上記少なくとも2成分の樹脂から、少なくとも1成分以上の樹脂の少なくとも一部を、ウエットエッチング法、ドライエッチング法、熱分解法から選ばれるいずれかの方法により除去して微多孔質となす工程を含むことを特徴とする、誘電率3.0以下の低誘電率樹脂の製造方法であり、
上記ポリマーアロイが、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリスルフィドスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアミド、テトラフルオロエチレンを含んで共重合された部分フッ素化樹脂から選ばれる1種以上を含むものである製造方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
本発明の低誘電率樹脂は、スピノーダル分解によって相分離せしめた、少なくとも2成分の樹脂よりなるポリマーアロイから、少なくとも1成分の樹脂の少なくとも一部を除去した微多孔質よりなる、誘電率3.0以下の低誘電率樹脂であり、かつ上記ポリマーアロイが構造周期0.01〜0.15μmの両相連続構造を形成したものである。
【0012】
本発明の少なくとも2成分以上の樹脂からなるポリマーアロイは、スピノーダル分解によって相分離することが必要である。
【0013】
一般に、2成分の樹脂からなるポリマーアロイには、これらの組成に対して、ガラス転移温度以上、熱分解温度以下の実用的な全領域において相溶する相溶系や、逆に全領域で非相溶となる非相溶系や、ある領域で相溶し、別の領域で相分離状態となる、部分相溶系があり、さらにこの部分相溶系には、その相分離状態の条件によってスピノーダル分解によって相分離するもののと、核生成と成長によって相分離するものがある。
【0014】
さらに3成分以上からなるポリマーアロイの場合は、3成分以上のいずれもが相溶する系、3成分以上のいずれもが非相溶である系、2成分以上のある相溶した相と、残りの1成分以上の相が非相溶な系、2成分が部分相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる部分相溶系に分配される系などがある。本発明で好ましい3成分以上からなるポリマーアロイは、2成分が部分相溶系で、残りの成分がこの2成分からなる部分相溶系に分配される系であり、この場合ポリマーアロイの構造は、2成分からなる部分相溶系の構造で代替できることから、以下2成分の樹脂からなるポリマーアロイで代表して説明する。
【0015】
スピノーダル分解による相分離とは、異なる2成分の樹脂組成および温度に対する相図においてスピノーダル曲線の内側の不安定状態で生じる相分離のことを指し、また核生成と成長による相分離とは、該相図においてバイノーダル曲線の内側であり、かつスピノーダル曲線の外側の準安定状態で生じる相分離のことを指す。
【0016】
かかるスピノーダル曲線とは、組成および温度に対して、異なる2成分の樹脂を混合した場合、相溶した場合の自由エネルギーと相溶しない2相における自由エネルギーの合計との差(ΔGmix)を濃度(φ)で二回偏微分したもの(∂2ΔGmix/∂φ2)が0となる曲線のことであり、またスピノーダル曲線の内側では、∂2ΔGmix/∂φ2<0の不安定状態であり、外側では∂2ΔGmix/∂φ2>0である。
【0017】
またかかるバイノーダル曲線とは、組成および温度に対して、系が相溶する領域と相分離する領域の境界の曲線のことである。
【0018】
ここで本発明における相溶する場合とは、分子レベルで均一に混合している状態のことであり、具体的には異なる2成分の樹脂を主成分とする相がいずれも0.001μm以上の相構造を形成していない場合を指し、また、非相溶の場合とは、相溶状態でない場合のことであり、すなわち異なる2成分の樹脂を主成分とする相が互いに0.001μm以上の相構造を形成している状態のことを指す。相溶するか否かは、例えばPolymer Alloys and Blends, Leszek A Utracki, hanser Publishers,Munich Viema New York,P64,に記載の様に、電子顕微鏡、示差走査熱量計(DSC)、その他種々の方法によって判断することができる。
【0019】
詳細な理論によると、スピノーダル分解では、一旦相溶領域の温度で均一に相溶した混合系の温度を、不安定領域の温度まで急速にした場合、系は共存組成に向けて急速に相分離を開始する。その際濃度は一定の波長に単色化され、構造周期(Λm)で両分離相が共に連続して規則正しく絡み合った両相連続構造を形成する。この両相連続構造形成後、その構造周期を一定に保ったまま、両相の濃度差のみが増大する過程をスピノーダル分解の初期過程と呼ぶ。
【0020】
さらに上述のスピノーダル分解の初期過程における構造周期(Λm)は熱力学的に下式のような関係がある。
Λm〜[│Ts−T│/Ts]-1/2
(ここでTsはスピノーダル曲線上の温度)
ここで本発明でいうところの両相連続構造とは、混合する樹脂の両成分がそれぞれ連続相を形成し、互いに三次元的に絡み合った構造を指す。この両相連続構造の模式図は、例えば「ポリマーアロイ 基礎と応用(第2版)(第10.1章)」(高分子学会編:東京化学同人)に記載されている。
【0021】
スピノーダル分解では、この様な初期過程を経た後、波長の増大と濃度差の増大が同時に生じる中期過程、濃度差が共存組成に達した後、波長の増大が自己相似的に生じる後期過程を経て、最終的には巨視的な2相に分離するまで進行する。また中期過程から後期過程にかける波長の増大過程において、組成や界面張力の影響によっては、片方の相の連続性が途切れ、上述の両相連続構造から分散構造に変化する場合もある。
【0022】
またこの初期過程から構造発展させる方法に関しては、特に制限はないが、ポリマーアロイを構成する個々の樹脂成分のガラス転移温度のうち最も低い温度以上で熱処理する方法が通常好ましく用いられる。
【0023】
またこの熱処理温度を変化させることにより熱処理時間を制御することが可能である。本発明においてこの熱処理時間については所望の構造周期に発達せしめるのに必要かつ十分な時間であれば特に制限はないが、生産性の観点から通常60分以内が好ましく、さらには40分以内となる条件で行うのが好ましい。
【0024】
ここで樹脂のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)にて室温から20℃/分の昇温速度で昇温時に生じる変曲点から求めることができる。
【0025】
ここで本発明にいうところの分散構造とは、片方の樹脂成分が主成分であるマトリックスの中に、もう片方の樹脂成分が主成分である粒子が点在している、いわゆる海島構造のことをさす。
【0026】
本発明では、スピノーダル分解によって相分離せしめたポリマーアロイの構造周期を0.01〜0.15μmの範囲の両相連続構造に構造制御することにより、均質な微多孔質を有する、誘電率が低い樹脂が得られるものである。特にスピノーダル分解の初期過程の構造周期を0.001〜0.1μmの範囲に制御し、その後、上述の中期過程以降で波長を増大せしめて、構造周期0.01〜0.15μmの範囲の両相連続構造に発展させることにより、両相間の濃度差が増大するため、より均質な微多孔質を有し、マトリクス樹脂が本来有する特性を十分に活かした低誘電率樹脂が得られる点で好ましい
【0027】
一方、上述の準安定領域での相分離である核生成と成長では、その初期から海島構造である分散構造が形成されてしまい、それが成長するため、本発明の様な規則正しく並んだ構造周期0.01〜0.15μmの範囲の両相連続構造を形成させることは困難である。
【0028】
またこれらのスピノーダル分解による両相連続構造を確認するためには、規則的な周期構造が確認されることが重要である。これは例えば、光学顕微鏡観察や透過型電子顕微鏡観察により、両相連続構造が形成されることの確認に加えて、光散乱装置や小角X線散乱装置を用いて行う散乱測定において、散乱極大が現れることの確認が必要である。なお、光散乱装置、小角X線散乱装置は最適測定領域が異なるため、構造周期の大きさに応じて適宜選択して用いられる。この散乱測定における散乱極大の存在は、ある周期を持った規則正しい相分離構造を持つ証明であり、その周期Λm は散乱光の散乱体内での波長λ、散乱極大を与える散乱角θm を用いて次式により計算することができる。
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)
本発明のスピノーダル分解を実現させるためには、2成分以上からなる樹脂が相溶状態となった後、スピノーダル曲線の内側の不安定状態となることが必要である。まずこの2成分以上からなる樹脂で相溶状態を実現する方法としては、部分相溶系を、相溶条件下で溶融混練による溶融混練法が挙げられる溶媒を用いないドライプロセスである溶融混練による相溶化が、実用上好ましく用いられる。
【0029】
ここで部分相溶系には、同一組成において低温側で相溶しやすくなる低温相溶型相図を有するものや、逆に高温側で相溶しやすくなる高温相溶型相図を有するものが知られている。この低温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も低い温度を、下限臨界共溶温度(lower critical solution temperature略してLCST)と呼び、高温相溶型相図における相溶と非相溶の分岐温度で最も高い温度を、上限臨界共溶温度(upper critical solution temperature略してUCST)と呼ぶ。
【0030】
部分相溶系を用いて相溶状態となった2成分以上の樹脂は、低温相溶型相図の場合、LCST以上の温度にすることで、また高温相溶型相図の場合、UCST以下の温度にすることでスピノーダル分解を行わせることができる。
【0032】
またこの部分相溶系によるスピノーダル分解の他に、非相溶系においても溶融混練によってスピノーダル分解を誘発すること、例えば溶融混練時等の剪断下で一旦相溶し、非剪断下で再度不安定状態となり相分離するいわゆる剪断場依存型相溶解・相分離によってもスピノーダル分解による相分離が可能であり、この場合においても、部分相溶系の場合と同じくスピノーダル分解様式で分解が進行し規則的な両相連続構造を有する。さらにこの剪断場依存型相溶解・相分離は、スピノーダル曲線が剪断場により変化し、不安定状態領域が拡大するため、スピノーダル曲線が変化しない部分相溶系の温度変化による方法に比べて、その同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなり、その結果、上述の関係式におけるスピノーダル分解の初期過程における構造周期を小さくすることが容易となり、その後の両相連続構造における構造周期の制御が容易となるためより好ましく用いられる。
【0033】
上記剪断場依存型相溶解・相分離する樹脂の組み合わせとしては、通常非相溶系であっても剪断下で相溶し、非剪断下でスピノーダル分解するような組み合わせであり、例えばポリカーボネートとスチレン・アクリロニトリル共重合体、ポリカーボネートとポリブチレンテレフタレート、ポリスチレンとポリビニルメチルエーテル、ポリスチレンとポリイソプレン、ポリスチレンとポリフェニルメチルシロキサン、エチレン・酢酸ビニル共重合体と塩素化ポリエチレン、ポリアクリル酸ブチルと塩素化ポリエチレン、ポリメタクリル酸メチルとスチレン・アクリロニトリル共重合体、ナイロン−4,6とポリフェニレンスルフィド、ポリプロピレンと高密度ポリエチレン、ポリプロピレンとエチレン・α−オレフィン共重合体、ポリプロピレンとエチレン・ポリプロピレン共重合体、ポリプロピレンとスチレン・ブタジエン共重合体、ポリプロピレンとスチレン・ブタジエン共重合体の水添物、ポリカーボネートとスチレン・ブタジエン共重合体、ポリカーボネートとスチレン・ブタジエン共重合体の水添物、ポリブチレンテレフタレートとスチレン・ブタジエン共重合体、ポリブチレンテレフタレートとスチレン・ブタジエン共重合体の水添物などが挙げられる。
【0034】
さらに相溶系においても化学反応に伴う分子量変化等によって不安定状態となり相分離するいわゆる反応誘発型相分離によってもスピノーダル分解による相分離が可能である。例えばポリマーアロイを構成する樹脂成分の原料、オリゴマー或いは低分子量物など(樹脂成分の前駆体)が残りの樹脂成分と相溶系であって、上記モノマー、オリゴマー或いは低分子量物を高重合度化し、アロイ化すべき樹脂とした場合に他の樹脂成分と相分離を生じるような場合、ポリマーアロイを構成する樹脂成分のうち少なくとも1成分の前駆体を、残りの樹脂成分の共存下で、化学反応せしめることによりスピノーダル分解を誘発せしめることが可能である。この場合においても、部分相溶系の場合と同じくスピノーダル分解様式で分解が進行し規則的な両相連続構造を有する。さらにこの反応誘発型相分離は、スピノーダル曲線が分子量変化により変化し、不安定状態領域が拡大するため、スピノーダル曲線が変化しない部分相溶系の温度変化による方法に比べて、その同じ温度変化幅においても実質的な過冷却度(│Ts−T│)が大きくなり、その結果上述の関係式におけるスピノーダル分解の初期過程における構造周期を小さくすることが容易となり、その後の両相連続構造における構造周期の制御が容易となるためより好ましく用いられる。
【0035】
また上記反応誘発型相分離する樹脂の組み合わせは、化学反応前には前記前駆体と残りの樹脂成分が一旦相溶状態となり、かかる前駆体を化学反応により樹脂とすることによりスピノーダル分解が誘発されるような樹脂の組み合わせであり、またこの化学反応としては、分子量増加をもたらすものであれば特に限定はなく、重縮合や、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、イオン共重合等の付加重合や、重付加、付加縮合、開環重合等の重合反応の他に、架橋反応やカップリング反応が好ましい例として挙げることができる。通常、係る化学反応をアロイ化する残りの樹脂の存在下で行うことにより、反応誘発型相分離が生じる。反応誘発型相分離の具体例としては、例えばビスフェノール型エポキシ樹脂、4官能型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂モノマーおよび/またはオリゴマーに、ポリエーテルスルホンやフェノキシ樹脂等の樹脂を相溶させエポキシ樹脂を硬化させることにより相分離させる方法や、熱硬化性ポリアリルエーテルオリゴマーに、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンから選ばれた1種以上の熱可塑性樹脂を相溶化し、熱硬化性ポリアリルエーテルオリゴマーを重合させて相分離させる方法等が挙げられる。
【0036】
なかでも本発明で用いるポリマーアロイに用いる樹脂としては、スピノーダル分解による相分離が可能で、本発明のその他の要件を満足し得る組み合わせであれば使用が可能であるが、元来その樹脂固有の誘電率が小さい樹脂を含むことが好ましく、その具体例としては、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリスルフィドスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアミド、テトラフルオロエチレンを含んで共重合された部分フッ素化樹脂等から選ばれる1種以上が好ましくが挙げられる。そして、これら誘電率の低い樹脂は特に除去しない方の樹脂(マトリクス樹脂)として用いるのが好ましい。
【0037】
また、本発明を構成する2成分の樹脂からなるポリマーアロイに、さらにポリマーアロイを構成する成分を含むブロックコポリマーやグラフトコポリマーやランダムコポリマーなどのコポリマーである第3成分を添加することは、相分離した相間における界面の自由エネルギーを低下させるため、両相連続構造における構造周期の制御を容易にするため好ましく用いられる。この場合通常、かかるコポリマーなどの第3成分は、それを除く2成分の樹脂からなるポリマーアロイの各相に分配されるため、2成分の樹脂からなるポリマーアロイ同様に取り扱うことができる。
【0038】
またスピノーダル分解による構造生成物を固定化する方法としては、急冷等による短時間での相分離相の一方または両方の成分の構造固定や、一方が熱硬化する成分である場合、熱硬化性成分の相が反応によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定や、さらに一方が結晶性樹脂である場合、結晶性樹脂相を結晶化によって自由に運動できなくなることを利用した構造固定が挙げられる。
【0039】
本発明での微多孔質は、まずスピノーダル分解によって得られた構造物から少なくとも1成分の少なくとも一部を除去することによって得られる。その除去方法としては、特に制限はないが、必要に応じて少なくとも1種のポリマーの状態または性質を変化させる処理を施した後、それを選択的に除去することが好ましい。選択的に除去する方法の具体例としては、エネルギー線耐性の異なる2種以上の樹脂を選択してポリマーアロイとなし、それにエネルギー線照射後、照射により変化した成分を溶媒を用いてウェットエッチングしたり、加熱処理してドライエッチングをすることにより除去する方法、ドライエッチング耐性の異なる2種以上の樹脂を選択してポリマーアロイとなし、ドライエッチングする方法、熱分解性の異なる2種以上の樹脂を選択してポリマーアロイとなし、熱分解する方法などを挙げることができる。
【0040】
エネルギー線耐性の異なる2種以上の樹脂を選択してポリマーアロイとなし、エネルギー線照射後、照射により変化した成分を溶媒を用いてウェットエッチングする方法や、加熱処理してドライエッチングする方法においては、モノマーユニットのα位炭素に水素を有する少なくとも1種の樹脂と、モノマーユニットのα位炭素にアルキル基またはハロゲンを有する少なくとも1種の樹脂とを組み合わせることが好ましい。これらの樹脂は互いにエネルギー線に対する耐性が異なり、α位に水素が結合した樹脂はエネルギー線を照射しても主鎖が切断することはないが、α位にアルキル基またはハロゲンが結合した樹脂はエネルギー線を照射すると主鎖が切断する。主鎖が切断された樹脂はウェットエッチング、加熱処理による揮発またはドライエッチングにより選択的に除去することができる。
【0041】
かかるエネルギー線としては、β線(電子線)、X線、γ線、重粒子線などが挙げられる。これらのうちβ線、X線、γ線は樹脂内部への透過性に優れ、また低コストプロセスが可能なことから好ましく用いられる。特に、β線、X線が好ましく、さらに照射による分解効率が高いβ線が最も好ましい。β線(電子線)源としては例えば、コックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、または直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器を用いることができる。
【0042】
かかるエネルギー線によって主鎖が分解する樹脂としては、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、ポリα−メチルスチレン、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリルアミド、ポリメチルイソプロペニルケトン等、モノマーユニットのα位にアルキル基を有するポリマーが挙げられる。同様に、モノマーユニットのα位がハロゲンで置換されたポリマーはさらに主鎖分解性が高い。また、ポリトリフルオロメチルメタクリレート、ポリトリフルオロメチル−α−アクリレート、ポリトリフルオロエチルメタクリレート、ポリトリフルオロエチル−α−アクリレート、ポリトリクロロエチル−α−アクリレートなど、フッ化(ハロゲン化)アルキル基で置換された(メタ)アクリレートは、エネルギー線に対する感度が高いのでより望ましい。エネルギー線がX線である場合、ポリマー鎖中に金属元素が含まれていると分解効率が向上するため望ましい。
【0043】
またこれらの主鎖が分解する樹脂成分を主鎖中に有する、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合であっても構わない。
【0044】
一方、エネルギー線に対する耐性が高く、エネルギー線を照射しても主鎖が分解しない樹脂としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメチルアクリレート、ポリアクリルアミド、ポリメチルビニルケトンなどモノマーユニットのα位に水素を有するものが挙げられる。
【0045】
かかるエネルギー線耐性の異なる2種以上の樹脂からなるポリマーアロイの具体例としては、ポリカーボネートとスチレン−メタクリル酸共重合体、ポリフッ化ビニリデンとポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニルとポリメタクリル酸n−アルキル、ポリ塩化ビニルとポリアクリル酸n−アルキル、ポリビニルフェノールとポリメタクリル酸n−アルキル、ポリフッ化ビニリデンとポリメタクリル酸メチル、スチレン−アクリロニトリル共重合体とポリメタクリル酸メチル、ビニルフェノール−スチレン共重合体とポリメタクリル酸メチル、テトラメチルポリカーボネートとスチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリビニルフェノールとエチレン−メタクリル酸メチル共重合体、高密度ポリエチレンとポリプロピレンなどが挙げられる。
【0046】
かかるβ線の照射量は特に制限はないが、通常100Gy〜10MGy、さらに好ましくは1KGy〜1MGy、最も好ましくは10KGy〜100KGyに設定される。照射量が少なすぎると分解性樹脂を十分に分解することができず、反対に照射量が多すぎると分解性樹脂の分解物が三次元架橋などして硬化したり、難分解性の樹脂まで分解するおそれがある。
【0047】
加速電圧は成形体の厚さ、つまりβ線の成形体内への侵入長によって異なるが、10nm〜数十μm程度の薄膜であれば20kV〜2MV程度、100μm以上のフィルムやバルクの成形体などでは500kV〜10MV程度に設定することが好ましい。成形体中に金属成形体などが含まれている場合は、さらに加速電圧を高くしてもよい。
【0048】
ドライエッチング耐性の異なる2種以上の樹脂を選択してポリマーアロイとなし、ドライエッチングする方法は、樹脂を構成するモノマーユニットのN/(Nc−No)の比が1.4以上(ただし、Nはモノマーユニットの総原子数、Ncはモノマーユニットの炭素原子数、Noはモノマーユニットの酸素原子数)である2種以上の樹脂の組み合わせの場合有効である。これらの樹脂は互いにドライエッチング耐性が異なるため、1つの相の樹脂をドライエッチングにより選択的に除去することができる。
【0049】
かかるN/(Nc−No)というパラメータは、樹脂のドライエッチング耐性を示す指標であり、この値が大きいほどドライエッチングによるエッチング速度が大きくなる(ドライエッチング耐性が低下する)。つまり、エッチング速度Vetchと上記パラメータとの間には、Vetch∝N/(Nc−No)という関係がある。この傾向は、Ar、O2、CF4、H2などの各種エッチングガスの種類にほとんど依存しない(J. Electrochem. Soc., 130, 143(1983))。エッチングガスとしては、上記の文献に記載されているAr、O2、CF4、H2のほかにも、C26、CHF3、CH22、CF3Br、N2、NF3、Cl2、CCl4、HBr、SF6などを用いることができる。
【0050】
また一般に芳香環が含まれていると2重結合を含むため相対的に炭素の比率が高くなるため、上記のパラメーターの値が小さくなり、ドライエッチング耐性は向上する。
【0051】
かかるN/(Nc−No)というパラメータ比は、1.4以上であれば、選択的なドライエッチングが可能であり、さらに1.5以上、さらに2以上であれば、2種以上の樹脂間でエッチング速度に大きな差が生じ、加工時の安定性が向上するため好ましい。
【0052】
熱分解性の異なる2種以上の樹脂を選択してポリマーアロイとなし、少なくとも1成分を熱分解する方法としては、例えば120℃以上の温度で互いに熱分解性が異なる2種以上の樹脂を120℃以上に加熱すると、少なくとも1種のポリマーは熱分解しないが、少なくとも1種のポリマーは熱分解して選択的に除去される方法が挙げられる。
【0053】
かかる耐熱性樹脂と熱分解性樹脂との熱分解温度(1気圧の不活性ガス気流下で30分間加熱したとき重量が半減する温度)の差は、20℃以上、さらに好ましくは50℃以上、最も好ましくは100℃以上であることが望ましい。
【0054】
熱分解性樹脂の具体例としては例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシドなどのポリエーテル、α−メチルスチレン、ポリアクリル酸エステルやポリメタクリル酸エステルなどのアクリル樹脂、ポリフタルアルデヒドなどが挙げられ、耐熱性樹脂としては、炭素系ポリマーでは例えばポリアクリロニトリル、ポリメタクリロニトリル、ポリイミド、ポリアニリン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体などが好ましい具体例として挙げられる。
【0055】
またこれらの熱分解性樹脂成分を主鎖中に有する、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合であっても構わない。
【0056】
かかる熱分解性の異なる2種以上の樹脂からなるポリマーアロイの具体例としては、ポリフッ化ビニリデンとポリメタクリル酸メチル、ポリ塩化ビニルとポリメタクリル酸n−アルキル、ポリ塩化ビニルとポリアクリル酸n−アルキル、ポリビニルフェノールとポリメタクリル酸n−アルキル、ポリフッ化ビニリデンとポリメタクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデンとポリアクリル酸メチル、ポリフッ化ビニリデンとポリアクリル酸エチル、ポリ酢酸ビニルとポリアクリル酸メチル、スチレン−アクリロニトリル共重合体とポリメタクリル酸メチル、ビニルフェノール−スチレン共重合体とポリメタクリル酸メチル、テトラメチルポリカーボネートとスチレン−メタクリル酸メチル共重合体、ポリビニルフェノールとエチレン−メタクリル酸メチル共重合体、塩素化ポリエチレンとポリアクリル酸ブチルなどが挙げられる。
【0064】
また本発明の微多孔質における空孔率は、低誘電率化を効果的に達成するため10vol%以上であることが好ましく、また20vol%以上がより好ましく、さらに30vol%以上とすることがより好ましい。空孔率の上限としては、用いる用途により異なるが、実用的な強度を維持できる程度、例えば50vol%以下であることが好ましく、さらには45vol%以下であることがより好ましい。
【0065】
かかる空孔率は以下の方法で求めることができる。まず1成分以上の樹脂の少なくとも一部を除去する前のサンプルの体積(V(cm3)、重量(W(g))を測定し、次に該サンプルから、1成分以上の樹脂の少なくとも一部を除去し、除去後の重量(W−w(g))を測定する。
【0066】
ここで除去した樹脂の真比重をσ(g/cm3)とすると、除去した樹脂からなる空孔の体積v(cm3)は、以下の式で表される。
v=w/σ
これらの値から、空孔率(vol%)は、以下の式
空孔率(vol%)=100×(v/V)
により求められる。
【0067】
またシートやフィルム等の連続成形体の場合は、樹脂成分を除去する前の連続成形体から一部を切り出したサンプルについて、同様の方法にて樹脂成分の除去、測定を行い空孔率を求めることができる。
【0068】
なお、本発明で用いるポリマーアロイには、本発明の目的を損なわない範囲でさらに他の各種の添加剤を含有せしめることもできる。これら他の添加剤としては、例えば、タルク、カオリン、マイカ、クレー、ベントナイト、セリサイト、塩基性炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、ガラスフレーク、ガラス繊維、炭素繊維、アスベスト繊維、岩綿、炭酸カルシウム、ケイ砂、ワラステナイト、硫酸バリウム、ガラスビーズ、酸化チタンなどの強化材、非板状充填材、あるいは酸化防止剤(リン系、硫黄系など)、紫外線吸収剤、熱安定剤(ヒンダードフェノール系など)、滑剤、離型剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、染料および顔料を含む着色剤、難燃剤(ハロゲン系、リン系など)、難燃助剤(三酸化アンチモンに代表されるアンチモン化合物、酸化ジルコニウム、酸化モリブデンなど)、発泡剤、架橋剤(例えば、多価のエポキシ化合物、イソシアネート化合物、酸無水物など)、カップリング剤(エポキシ基、アミノ基メルカプト基、ビニル基、イソシアネート基を一種以上含むシランカップリング剤やチタンカップリング剤)、抗菌剤等が挙げられる。またこれらの添加剤は、上記スピノーダル分解より得られた構造物から少なくとも1成分の樹脂の少なくとも1部分を除去する際に、同時に除去される分を見越して添加する方法や、かかる除去工程の後、表面に塗布するなどの方法によって添加されることが好ましい。
【0069】
かくして得られる低誘電率樹脂は、均質な微多孔質を有するため、高レベルの低誘電率を達成することが可能である。本発明においては、誘電率が3.0以下であることが必要である。誘電率は、用いる樹脂の種類、空孔率に左右されるが、通常、除去しない方の樹脂として、低誘電率のものを用いるほど、また、空孔率を増大させることにより、誘電率を低減せしめることができる。空孔率は、ポリマーアロイを製造する際に、除去する樹脂の配合量を増加させることによっても増大せしめることが可能であり、また、樹脂の除去の程度を加減することによっても制御が可能である。そしてこれらは簡単な予備実験により行うことが可能である。特に本発明において、好ましい態様の場合には多くの場合、誘電率が2.5以下のものをも得ることが可能であり、より好ましい低誘電率樹脂が得られる。
【0070】
本発明から得られる低誘電率樹脂を成形品とする際には、通常、ポリマーアロイとなすと同時もしくはなした後であってかつ、空孔を形成する前に成形し、その後少なくとも1種の樹脂成分を除去して空孔を形成する方法が採用される。成形形状は、任意の形状が可能である。ポリマーアロイを成形する際の成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形、インフレーション成形、ブロー成形などを挙げることができるが、中でも射出成形は射出時の可塑化工程で相溶解させ、射出後、スピノーダル分解し金型内で熱処理と構造固定化が同時にできることから好ましく、またフィルムおよび/またはシート押出成形であれば、押出時に相溶解させ、吐出後、スピノーダル分解しフィルムおよび/またはシート延伸時に熱処理し、その後の巻き取り前の自然冷却時に構造固定ができることから好ましい。もちろん上記成形品を別途熱処理し構造形成させることも可能である。
【0071】
本発明における低誘電率樹脂は、その優れた低誘電率を活かして、シート押出成形材料においては、プリント回路基材、および積層板などに好ましく用いられ、射出成形材料においては、インバーターモーターやスイッチング電源から高周波成分の漏洩電流を防ぐカバーやシール部材などに好ましく用いられる。
【0072】
またかかるプリント回路や積層板は、一般に行われている方法(例えば「プリント配線材のすべて」電子技術86年版6月別冊」)により作製することができる。即ち、本発明の低誘電率樹脂からなるシートを絶縁層として用い、さらに金属箔からなる導線層を積層してプリント回路用積層板を作製する。金属箔としては、金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム等を用いることができる。
【0073】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明の効果をさらに説明する。
【0074】
実施例1
槽径1.8mの冷却ジャケット付き反応槽に、反応溶媒として脱水したN−メチルピロリドンを入れ、次いで、ポリイミドモノマーとして、60モル%の2-クロルパラフェニレンジアミン及び40モル%の4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを、さらに熱分解性樹脂成分としてポリエチレンオキシド(重量平均分子量10000)をポリイミドに対する重量比30重量%となるよう、N−メチルピロリドンに溶解させた可視光領域で透明な均一溶液を調整した。次に、100モル%の3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物を添加し、周速度を4m/秒から2m/秒に変化させて重合を行い、ポリマー濃度10重量%の芳香族ポリアミド酸溶液を得た。
【0075】
脱泡後、製膜前の該溶液に触媒を添加し、このポリマ溶液を最終フィルム厚みとしてそれぞれ10μmとなるよう調整し、鏡面上に磨かれ120℃に予熱されたステンレスベルト上に流延し、ベルト上下面から加熱できる150℃の乾燥機中で、溶媒含量が55%になるまでイミド化させつつ穏やかに蒸発後、自己支持性を得たフィルムをベルトから剥離して、40℃に保たれ、循環機構のついた、最初NMP/水(30/70)浴、次いで複数の水浴中に順次導入して残存溶媒等を抽出した。
【0076】
この150℃で熱処理中の構造形成過程については、ステンレスベルト上に流延後のサンプルを採取し、別途150℃に調整された恒温槽小角X線散乱を用いて追跡したところ、熱処理開始時には、ピークが観測されず均一構造物であったものが、熱処理開始から1分後以降にピークが出現し、またこのピークは、そのピーク位置を変化させずに強度を増加させる様子が観測された。この小角X線散乱においてピーク位置を変化させずに強度を増加させる過程はスピノーダル分解の初期過程に対応する。該ピーク位置(θm)から下式で計算した、構造周期(Λm)は0.01μmであった。
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)
さらに熱処理を行い、最終的に熱処理時間30分後には、上記構造周期(Λm)は0.05μmであった。
【0077】
またこの初期過程のサンプル、および熱処理30分後のサンプルについては、氷水中に急冷し構造を凍結し、透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行ったところ、いずれのサンプルも両相連続構造が観察された。
【0078】
次に加熱オーブン中で300℃で乾燥、熱処理し、さらに340℃の雰囲気中で環化を完結させて、20℃/秒の速度で常温に冷却して、厚さ10μmの芳香族ポリイミドフィルムを得た。この結果、熱処理によって熱分解性樹脂成分であるポリエチレンオキシドが分解し、0.05μmの構造周期の微多孔質を有するポリイミドフィルムを得た。
【0079】
該ポリイミドフィルムの誘電率については、ASTM−D150に準拠して、1MHzにおいて測定した結果を表1に記載した。
【0083】
比較例1
槽径1.8mの冷却ジャケット付き反応槽に、反応溶媒として脱水したN−メチルピロリドンを入れ、次いで、ポリイミドモノマーとして、60モル%の2-クロルパラフェニレンジアミン及び40モル%の4,4'−ジアミノジフェニルエーテルを、さらにアルカリ可溶成分としてポリヒドロキシスチレン(重量平均分子量5000)をポリイミドに対する重量比20重量%となるよう、N−メチルピロリドンに溶解させた可視光領域で透明な均一溶液を調整した。次に、100モル%の3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸無水物を添加し、周速度を4m/秒から2m/秒に変化させて重合を行い、ポリマー濃度10重量%の芳香族ポリアミド酸溶液を得た。
【0084】
脱泡後、製膜前の該溶液に触媒を添加し、このポリマ溶液を最終フィルム厚みとしてそれぞれ10μmとなるよう調整し、鏡面上に磨かれ120℃に予熱されたステンレスベルト上に流延し、ベルト上下面から加熱できる150℃の乾燥機中で、溶媒含量が55%になるまでイミド化させつつ穏やかに蒸発後、自己支持性を得たフィルムをベルトから剥離して、40℃に保たれ、循環機構のついた、最初NMP/水(30/70)浴、次いで複数の水浴中に順次導入して残存溶媒等を抽出した。
【0085】
この150℃で熱処理中の構造形成過程については、ステンレスベルト上に流延後のサンプルを採取し、別途150℃に調整された恒温槽小角X線散乱を用いて追跡したところ、熱処理開始時には、ピークが観測されず均一構造物であったものが、熱処理開始から1分後以降にピークが出現し、またこのピークは、そのピーク位置を変化させずに強度を増加させる様子が観測された。この小角X線散乱においてピーク位置を変化させずに強度を増加させる過程はスピノーダル分解の初期過程に対応する。該ピーク位置(θm)から下式で計算した、構造周期(Λm)は0.05μmであった。
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)
さらに熱処理を行い、最終的に熱処理時間30分後には、上記構造周期(Λm)は0.6μmであった。
【0086】
またこの初期過程のサンプル、および熱処理30分後のサンプルについては、氷水中に急冷し構造を凍結し、透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行ったところ、いずれのサンプルも両相連続構造が観察された。
【0087】
次に加熱オーブン中で300℃で乾燥、熱処理し、さらに340℃の雰囲気中で環化を完結させて、20℃/秒の速度で常温に冷却して、厚さ10μmの芳香族ポリイミドフィルムを得た後、アルカリ溶液であるテトラメチルアンモニウムヒドロキシドの3wt%水溶液に60秒間浸し、この結果、アルカリ溶液に可溶なポリヒドロキシスチレンが選択的に除去され、0.6μm孔径の微多孔質を有するポリイミドフィルムを得た。
【0088】
また空孔率については、アルカリ溶液に浸す前のサンプルから、正方形状に切り出し(一辺の長さL(cm))、重量(W(g))、厚み(D(cm))を測定し、次に該サンプルを同様の方法でアルカリ溶液に浸し、ポリヒドロキシスチレンを除去後の重量(W−w(g))を測定し、ここでポリヒドロキシスチレンの真比重1.01(g/cm3)から除去した樹脂からなる空孔の体積v(=w/σ)(cm3)を計算し、これらの値から、空孔率(=100×(v/(L2×D)))(vol%)を求めた結果を表1に記載した。
【0089】
該ポリイミドフィルムの誘電率については、ASTM−D150に準拠して、5cm角に切り出した後、両面にシルバーペイントしたサンプルを22℃、60%RH下で90分間状態調整後1MHzにおいて測定した。結果を表1に記載した。
【0090】
【表1】
Figure 0004984360
【0091】
実施例2、比較例2
表2記載の組成からなる原料を、押出温度250℃に設定した2軸スクリュー押出機(池貝工業社製PCM−30)に供給し、ダイから吐出後のガットをすぐに氷水中に急冷し、構造を固定した。本ガットはいずれも透明であり、また該ガットをオスニウム酸法によりポリイソプレンを染色後超薄切片を切り出したサンプルについて、透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行ったが、いずれのサンプルについても0.001μm以上の構造物がみられず相溶化していることを確認した。このことから、本系は、押出温度250℃の押出機中の剪断下で相溶化することがわかる。
【0092】
尚本系はLCST型相図を有する系と考えられ、押出機の剪断下で相溶領域が拡大したものと推定する。
【0093】
さらに上記氷水中に急冷し、構造を固定したガットから厚み100μmの切片を切り出し、250℃で熱処理を行い、この熱処理中の構造形成過程を小角X線散乱を用いて追跡した。いずれのサンプルも、熱処理開始時にはピークが観測されず均一構造物であったものが、熱処理開始から1分後以降にピークが出現し、またこのピークは、そのピーク位置を変化させずに強度を増加させる様子が観測された。この小角X線散乱においてピーク位置を変化させずに強度を増加させる過程はスピノーダル分解の初期過程に対応する。表2には該ピーク位置(θm)から下式で計算した、構造周期(Λm)を記した。
Λm =(λ/2)/sin(θm /2)
またこの小角X線散乱測定中初期過程の切片については、一部をすぐに氷水中に急冷し構造を固定し、オスニウム酸法によりポリイソプレンを染色後、超薄切片を切り出したサンプルについて透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行ったところ、いずれのサンプルも両相連続構造が観察された。
【0094】
さらに上記、小角X線散乱を測定した切片は、初期過程において構造を形成させた後、さらにそれぞれ上記記載の温度で計10分間熱処理を続け、構造形成を行い、本発明のポリマーアロイ構造物を得た。該サンプルについても、上記初期過程同様に小角X線散乱から構造周期、及び透過型電子顕微鏡写真から構造の状態を観察した結果を表2に記載した。
【0095】
また、上記ダイから吐出後、氷水中に急冷し構造を固定したガットについては別途、上記熱処理を同様に加熱プレスで処理したシート(厚み10μm)を作成し、該シートに50kVの加速電圧、100μC/cm2の照射量で電子線を照射し、ポリイソプレンの主鎖の切断を行い、メチルエチルケトンで超音波洗浄を行うことでシンジオタクチックポリスチレン中に微多孔質を形成した。
【0096】
また空孔率については、電子線照射前のシートから、正方形状に切り出し(一辺の長さL(cm))、重量(W(g))、厚み(D(cm))を測定し、次に上記と同様に該シートに電子線を照射し、ポリイソプレンの主鎖を切断し、メチルエチルケトンで超音波洗浄することによりポリイソプレンを除去後の重量(W−w(g))を測定し、ここでポリイソプレンの真比重0.93(g/cm3)から除去した樹脂からなる空孔の体積v(=w/σ)(cm3)を計算し、これらの値から、空孔率(=100×(v/(L2×D)))(vol%)を求めた結果を表2に記載した。
【0097】
該シンジオタクチックポリスチレンシートの誘電率については、ASTM−D150に準拠して、1MHzにおいて測定した結果を表2に記載した。
SPS : シンジオタクチックポリスチレン(重量平均分子量10000)
IR : ポリイソプレン(重量平均分子量5000)
比較例
表2記載の組成からなる原料を、押出温度250℃に設定した2軸スクリュー押出機(池貝工業社製PCM−30)に供給し、ダイから吐出後すぐに氷水中に急冷し、構造を固定したガットを得たが、本ガットは不透明であり、本系は、押出温度250℃の押出機中の剪断下でも非相溶であることがわかる。
【0098】
また、上記ダイから吐出後、氷水中に急冷し構造を固定したガットについては別途、上記熱処理を同様に加熱プレスで処理したシート(厚み10μm)を作成し、該シートに50kVの加速電圧、100μC/cm2の照射量で電子線を照射し、ポリメタクリル酸メチルの主鎖の切断を行い、メチルエチルケトンで超音波洗浄を行うことでシンジオタクチックポリスチレン中に多孔質の空孔を形成した。
【0099】
また空孔率については、電子線照射前のシートから、正方形状に切り出し(一辺の長さL(cm))、重量(W(g))、厚み(D(cm))を測定し、次に該シートに電子線を照射し、ポリメタクリル酸メチルの主鎖を切断し、メチルエチルケトンで超音波洗浄することによりポリメタクリル酸メチルを除去後の重量(W−w(g))を測定し、ここでポリメタクリル酸メチルの真比重1.2(g/cm3)から除去した樹脂からなる空孔の体積v(=w/σ)(cm3)を計算し、これらの値から、空孔率(=100×(v/(L2×D)))(vol%)を求めた結果を表2に記載した。
【0100】
該シンジオタクチックポリスチレンシートの誘電率については、ASTM−D150に準拠して、1MHzにおいて測定した結果を表2に記載した。
SPS : シンジオタクチックポリスチレン(重量平均分子量10000)
PMMA: ポリメタクリル酸メチル(重量平均分子量120000)
本サンプルについても、実施例2、比較例2と同様に誘電率を測定した結果を表2に記載した。
【0101】
【表2】
Figure 0004984360
【0102】
【発明の効果】
以上説明した様に、本発明のスピノーダル分解により、特定構造周期の両相連続構造物を形成したサンプルから、1成分を除去することにより得られた微多孔質構造物により、優れた低誘電率性を有しており、これを活かしてプリント回路基材や、積層板として有用に用いることができる。

Claims (6)

  1. 少なくとも2成分の樹脂が溶融混練時の剪断下では相溶し、吐出後の非剪断下で相分離することを特徴とするスピノーダル分解、または
    少なくとも2成分の樹脂成分のうち、少なくとも1成分の前駆体を、残りの樹脂成分の共存下で化学反応せしめる方法であって、化学反応前は一旦相溶し、化学反応後に相分離することを特徴とするスピノーダル分解によって相分離せしめた、少なくとも2成分の樹脂よりなるポリマーアロイから、少なくとも1成分の樹脂の少なくとも一部を、ウエットエッチング法、ドライエッチング法、熱分解法から選ばれるいずれかの方法により除去した微多孔質よりなる、誘電率3.0以下の低誘電率樹脂であり、かつ上記ポリマーアロイが、
    ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリスルフィドスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアミド、テトラフルオロエチレンを含んで共重合された部分フッ素化樹脂から選ばれる1種以上を含むものであり、
    構造周期0.01〜0.15μmの両相連続構造を形成したものである低誘電率樹脂。
  2. 前記両相連続構造が、スピノーダル分解の初期過程において0.001〜0.1μmの両相連続構造を形成した後、発展して形成されたものであることを特徴とする請求項1記載の低誘電率樹脂。
  3. 前記微多孔質な低誘電率樹脂が、空孔率が10vol%以上であることを特徴とする請求項1〜2いずれか記載の低誘電率樹脂。
  4. 射出成形用である請求項1〜3いずれか記載の低誘電率樹脂。
  5. フィルムおよび/またはシート押出成形用である請求項1〜4いずれか記載の低誘電率樹脂。
  6. 少なくとも2成分の樹脂が溶融混練時の剪断下では相溶し、吐出後の非剪断下で相分離することを特徴とするスピノーダル分解、または
    少なくとも2成分の樹脂成分のうち、少なくとも1成分の前駆体を、残りの樹脂成分の共存下で化学反応せしめる方法であって、化学反応前は一旦相溶し、化学反応後に相分離することを特徴とするスピノーダル分解によって相分離せしめて構造周期0.01〜0.15μmの両相連続構造を有するポリマーアロイとなす工程、上記少なくとも2成分の樹脂から、少なくとも1成分以上の樹脂の少なくとも一部を、ウエットエッチング法、ドライエッチング法、熱分解法から選ばれるいずれかの方法により除去して微多孔質となす工程を含むことを特徴とする、誘電率3.0以下の低誘電率樹脂の製造方法であり、
    上記ポリマーアロイが、ポリイミド、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリスルフォン、ポリスルフィドスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、芳香族ポリエステル、シンジオタクチックポリスチレン、ポリアミド、テトラフルオロエチレンを含んで共重合された部分フッ素化樹脂から選ばれる1種以上を含むものである製造方法。
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