JP4984347B2 - 電動機 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リラクタンストルクを利用するリラクタンスモータの構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
リラクタンスモータは、インダクタンスモータと比較して回転子の2次銅損が発生しないという特徴があるため、電気自動車や工作機械等の駆動用モータとして注目されている。しかし、この種のモータは一般に力率が悪く、産業用として利用するには、ロータコア構造あるいは駆動方法等の改善が必要であった。近年、ロータコアのコアシートに多層のフラックスバリアを設けることにより力率を向上させる技術が開発された(平成8年電気学会全国大会誌、1029、本田ら著「マルチフラックスバリアタイプ シンクロナスリラクタンスモータの検討」参照)。
【0003】
図5にこの従来の改良されたリラクタンスモータのロータコア構造の一例を示す。図5(a)において、電磁鋼板製の円板状のコアシート161には、多層のフラックスバリア162がコアシート161の軸芯163に対し逆円弧状に形成されている。フラックスバリア162は幅1mm程度のスリット(貫通溝)からなり、プレス加工されたものである。また、コアシート161の外周には回転時にかかる遠心力に対する強度を持たせるため、一定幅のスリット外周端部164を設けている。
【0004】
コアシート161をロータ軸165の方向に数十枚積層することにより、図5(b)に示すようなロータコア166が完成する。そして、このロータコア166を、図5(c)に示すようなステータ167内にセットすれば、ステータ167の複数の界磁部168より、ロータコア166に回転磁界が与えられ、これにより、リラクタンストルクTが発生する。このリラクタンストルクTは次式で表される。
【0005】
T=Pn(Ld−Lq)idiq ………………………………………(1)
ただし、Pnは極対数、Ld,Lqはd,q軸インダクタンス、id,iqはd,q軸電流である。上記(1)式より、このモータの性能を左右するのはd,q軸インダクタンスの差Ld−Lqの大きさであることが分かる。
【0006】
そこで、この差Ld−Lqを大きくするために、上記フラックスバリアを設けることにより、スリットを横切るq軸方向の磁路に抵抗を与える一方、スリット間に挟まれたd軸方向の磁路を確保していた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
従来の構成では、リラクタンストルクのみで回転駆動するため電動機が発生する駆動トルクはどうしても小さくなってしまう。しかし、これらの電動機により駆動する電動機応用製品(コンプレッサ、冷蔵庫、エアコン等)によっては、必要とする駆動トルクが大きく、リラクタンスモータを使いづらいものが多々ある。
【0008】
本件発明は、このような課題に鑑み、永久磁石をスリットに埋め込むことでリラクタンストルクのみならずマグネットトルクを利用でき、駆動トルクの大きい電動機を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本件発明は、ステータと半径方向に並ぶ多層スリットを有する回転子本体とを備え、前記多層スリット中の一部のスリットで、最も外側のスリットより中心側のスリットに永久磁石を埋め込み、マグネットトルク及びリラクタンストルクにより回転駆動し、隣り合うスリット間の磁束通路の幅は、永久磁石を埋め込んだスリットの外側に位置する前記磁束通路の幅が最も太い電動機であり、リラクタンストルクのみならずマグネットトルクを利用することで、リラクタンストルクのみでは得られない、大きな駆動トルクを発生することができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
本件発明は、ステータと半径方向に並ぶ多層スリットを有する回転子本体とを備え、前記多層スリット中の一部のスリットで、最も外側のスリットより中心側のスリットに永久磁石を埋め込み、マグネットトルク及びリラクタンストルクにより回転駆動し、隣り合うスリット間の磁束通路の幅は、永久磁石を埋め込んだスリットの外側に位置する前記磁束通路の幅が最も太い電動機であり、リラクタンストルクのみならずマグネットトルクを利用することで、リラクタンストルクのみでは得られない、大きな駆動トルクを発生することができる。
【0011】
さらに、本件発明は、永久磁石は最も外側のスリットより中心側のスリットに埋め込んだ電動機であり、最も外側のスリットに永久磁石を埋め込まないようにしている。最も外側のスリットに永久磁石を埋め込むと、永久磁石が中心点から最も離れているため遠心力が大きく、回転子にかかる負担が大きくなる。よって、埋め込む永久磁石は、最も中心側のスリットのみに埋め込むことが適切である。
【0012】
さらに、本件発明は、隣り合うスリット間の磁束通路の幅は、永久磁石を埋め込んだスリットの外側に位置する磁束通路の幅を最も太くすることで、永久磁石が発生する磁性磁束が流れても、磁気飽和しないようにしている。
【0013】
また、本件発明は、永久磁石を埋め込んだスリットは、スリットの端部に空隙部を有する構成にしてもよい。また、固定子の巻線部は、集中巻方式で施してもよい。また、埋め込んだ永久磁石として、フェライト磁石を用いてもよい。また、埋め込んだ永久磁石として、樹脂磁石を用いてもよい。また、複数のコアシートのスリットをずらしながら回転子軸方向に積層し、スキューを施した回転子としてもよい。
【0014】
また、本件発明は、最も中心側のスリットのみに永久磁石を埋め込んだ場合、多層スリットの層数が、3層以上5層以下であると高効率である。
【0015】
さらに、多層スリットの層数が4層であると最も効率がよい。
【0016】
また、多層スリットの最も中心部にある永久磁石の埋め込まれたスリット端部と回転子本体の外周の間にあるブリッジ幅Waが、その他のスリットの端部とロータ外径の間にあるブリッジ幅Wbに対して、Wb>Waであると磁石から出た磁束を分散することが可能である。
【0017】
永久磁石を埋め込んだスリットより回転子本体の外周側に位置するスリットのブリッジ幅は、幅広になるとよい。
【0018】
さらに、スリット端部と回転子本体の外周との間にあるブリッジ幅は、永久磁石を埋め込んだスリットのブリッジ幅より、この永久磁石を埋め込んだスリットより回転子本体の外周側に位置するスリットのブリッジ幅の方が順次幅広にすると誘起電圧波形を正弦波状にすることが可能である。
【0019】
さらに、ブリッジ幅は、永久磁石を埋め込んだスリットのブリッジ幅が最も狭く、回転子本体の最外周に位置するスリットのブリッジ幅が最も太くてもよい。
【0020】
【実施例】
(実施例1)
以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例は本発明を具体化した1例であって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0021】
図1において、1は電磁鋼板等の高透磁率材からなる円板状のコアシートであって、その周方向には等間隔置きの4箇所に、中心側に凸となるように湾曲する円弧状の磁束通路2が半径方向にスリット3を挟んで列設されている。このようなコアシート1はプレス加工もしくはレーザ加工等により形成される。
【0022】
磁束通路2の形状としては、磁路の形状やコアシート1の加工等を考慮すれば、円弧状とするのが好適である。ただし、図2に示すようにV字型やI字型の形状としてもよいのは勿論である。そして、コアシート1を軸方向に数十枚積み重ねて積層体となした後、ロータ軸が挿入されることによりロータコアが完成される。このようなコアシート1同士は必要に応じて接着剤等で一体固着される。
【0023】
このように完成されたロータコアをステータ4内にセットすれば、ステータの複数の歯からなる界磁部より、ロータコアに回転磁界が与えられ、これにより、リラクタンストルクが発生する。ステータ4は、分布巻方式でコア部を形成したステータであり、巻線(図示せず)は複数のティースを跨ぐように巻回している。
【0024】
このようなロータコアを有するリラクタンスモータにおいては、磁束通路2を横切るq軸方向のインダクタンスLqと、磁束通路2に沿ったd軸方向のインダクタンスLdとを比較すると、次のようになる。すなわち、q軸方向には電磁鋼板に比べて透磁率が約1/1000である空気層よりなるスリット3で磁路に抵抗を与えているため、磁束がほとんど通らず、インダクタンスLqは小さくなる。一方、d軸方向には、磁束通路2が磁路を形成しているため、磁束が通り易く、インダクタンスLdは大きくなる。
【0025】
本実施例の電動機の特徴は、リラクタンストルクのみならずマグネットトルクを利用し回転駆動することである。よって、ロータコアの最も中心側のスリット5の中に、両端に空隙部を備えた状態で永久磁石6を埋め込んだ。この永久磁石6が発生する磁石磁束により、電動機の駆動トルクにリラクタンストルクのみならずマグネットトルクが加わり、駆動トルクを大きくすることができる。
【0026】
この時、永久磁石を埋め込んだ最も中心側のスリット5と隣り合うスリットとの間の磁束通路7は、他の磁束通路2よりも幅が広くなっている。このように、磁束通路7を広くした理由は、永久磁石6が発生する永久磁石磁束は、永久磁石6の外側に位置するスリット3にブロックされるため、磁束通路7に流れ込んでしまう。よって、磁束通路は、ステータからの磁束のみならず永久磁石磁束が通過するため、磁気飽和が起こりやすくなる。そのため、最も中心側の磁束通路を他の磁束通路より太くすることで、磁束通路で磁気飽和が起こりにくいようにしている。
【0027】
なお、上述した実施例の回転子には、1極のスリットに1層にしか永久磁石を埋め込んでいないが、図2(a)に示すように複数の層に埋め込んでもよい。
【0028】
また、図2(b)〜(e)のようにスリット、磁束通路の形状はV字であったり、直線形状であってもよい。
【0029】
また、図3に示すように回転子にスキューかけ、磁束の不均一に起因するトルクリップルを低減して、モータ性能をさらに向上させてもよい。
【0030】
複数枚のコアシートを積層する際に、図3(a)に示すように、各コアシート11の取り付け位置をロータ軸方向でずらしてスキュー17をかければ、d軸方向の磁路に対する抵抗がロータ周方向において均一化されるため、ステータからロータコア16に入ったり、ロータコア16からステータに出るd軸方向の磁束が均一化され、磁束の不均一に起因するトルクリップルを低減して、モータ性能をさらに向上させることができる。
【0031】
この場合、図3(b)に示すように、前記スキュー17を階段状としたり、あるいは、図3(c)に示すように、ロータ軸方向の途中で折れ曲がったようなV字状としてもよい。
【0032】
また、図4に示すように、ステータ側は分布巻方式によりコイル部を形成したステータでなくとも、図4に示すように集中巻方式によりコイル部を形成したステータであってもよい。
【0033】
(実施例2)
図6に本願の他の実施例を示す。図6において、21はステータ、22はロータ、23はスリット、24は永久磁石である。図6は4種類のモータを示しており、(a)が2層スリット、(b)が3層スリット、(c)が4層スリット、(d)が5層スリットである。これらは、磁石形状は全て同じで、磁石全面のスリット層数のみが異なる。図7にこれらのモータに同じ電流を流した時のモータが発生するトルクの比を示す。トルク比は2層スリットモータのトルクを基準にしている。
【0034】
図7において、横軸が2層から6層までの層数、縦軸がトルク比である。この図より、3層から5層が最もトルクが高く、特に4層が最も高くなっている。したがって、半径方向に並ぶ多層スリットを有する回転子構造を備え、前記多層スリット中の最も中心側のスリットのみに永久磁石を埋め込んだ構造の回転機のロータにおいて、層数は3層から5層が最適であり、4層スリットが最も高性能となる。
【0035】
(実施例3)
図9に本願の他の実施例を示す。図8は従来型モータの構造である。図8に示すように、従来型モータはスリット端部とロータ外径のブリッジ部の幅W1、W2、W3、W4がすべて同じであった。このブリッジ幅は、ロータの強度が保証できる範囲で、できる限り薄く設計することが多い。しかし、本発明のように磁石が一番奥のスリットに埋め込まれている場合、図8の従来構造では、磁石から出た磁束は磁石の埋め込まれているスリットとその全面のスリットの間からしかロータの外に出て行かないため、コギングトルクが大きくなり、誘起電圧波形も歪んだ波形になる。
【0036】
本実施例は、図9に示すように、磁石に埋め込まれているスリットのブリッジ幅W1よりその外側に位置するスリット幅W2、W3、W4が大きくなっている。このような構造にすることで、永久磁石から出た磁束はブリッジ部を通ることが可能になり、磁石からより多くの磁束をロータからステータに出すことが可能で、コギングトルクを小さくすることができる。
【0037】
また、図10のように、内側に位置するスリットのブリッジ幅を順次大きくすることで、磁極の中心からより多くの磁束をだすことができるため、コギングトルクが小さくなるのに加えて、誘起電圧波形も正弦状にすることができるため振動、騒音の小さいモータにすることができる。
【0038】
【発明の効果】
本件請求項1記載の発明は、リラクタンストルクのみならずマグネットトルクを利用することができ、大きな駆動トルクを得ることができる。
【0039】
さらに、請求項1記載の発明は、永久磁石の位置を内側に配置することで、永久磁石を埋め込むことで発生する遠心力の負担を抑えることができる。
【0040】
さらに、請求項1記載の発明は、磁束通路の幅を大きくすることで、磁気飽和の発生を抑え効率のよい回転駆動を行うことができる。
【0041】
請求項8記載の発明は、高効率の電動機を提供することができる。
【0042】
請求項9記載の発明は、最も効率の高い電動機を提供することができる。
【0043】
請求項10記載の発明は、コギングトルクを低減させた電動機を提供することができる。
【0044】
請求項11記載の発明は、誘起電圧波形を正弦波状にすることで、コギングトルクをさらに低減させた電動機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本実施例の電動機の断面図
【図2】 他の実施例の回転子の断面図
【図3】 スキューを施した回転子の側面図
【図4】 集中巻方式のステータを備える電動機の断面図
【図5】 従来のリラクタンスモータを示す図
【図6】 (a)2層スリットの電動機の断面図
(b)3層スリットの電動機の断面図
(c)4層スリットの電動機の断面図
(d)5層スリットの電動機の断面図
【図7】 スリット層数とトルク比との関係を示す図
【図8】 従来のブリッジ幅と永久磁石から発生する磁束との関係を示す図
【図9】 本実施例のブリッジ幅と永久磁石から発生する磁束との関係を示す図
【図10】 同ブリッジ幅と永久磁石から発生する磁束との関係を示す図
【符号の説明】
1 コアシート
2 磁束通路
3 スリット
4 ステータ

Claims (12)

  1. ステータと半径方向に並ぶ多層スリットを有する回転子本体とを備え、前記多層スリット中の一部のスリットで、最も外側のスリットより中心側のスリットに永久磁石を埋め込み、マグネットトルク及びリラクタンストルクにより回転駆動し、
    隣り合うスリット間の磁束通路の幅は、永久磁石を埋め込んだスリットの外側に位置する前記磁束通路の幅が最も太く、
    前記回転子本体が高透磁率材からなり、
    スリット端部と前記回転子本体の外周との間にあるブリッジ幅は、永久磁石を埋め込んだスリットのブリッジ幅より、この永久磁石を埋め込んだスリットより前記回転子本体の外周側に位置するスリットのブリッジ幅の方が幅広になっている電動機。
  2. 永久磁石は、最も中心側のスリットのみに埋め込んだ請求項1記載の電動機。
  3. 永久磁石を埋め込んだスリットは、スリットの端部に空隙部を有する請求項2記載の電動機。
  4. 前記ステータの巻線部は、集中巻方式で施した請求項1記載の電動機。
  5. 埋め込んだ永久磁石として、フェライト磁石を用いた請求項1記載の電動機。
  6. 埋め込んだ永久磁石として、樹脂磁石を用いた請求項1記載の電動機。
  7. 複数のコアシートのスリットをずらしながら回転子軸方向に積層し、スキューを施した回転子本体を有する請求項6記載の電動機。
  8. 多層スリットの層数が、3層以上5層以下である請求項2記載の電動機。
  9. 多層スリットの層数が4層である請求項2記載の電動機。
  10. 前記回転子本体が高透磁率材からなり、多層スリットの最も中心部にある永久磁石の埋め込まれたスリット端部と前記回転子本体の外周の間にあるブリッジ幅Waが、その他のスリットの端部と前記回転子本体の外周の間にあるブリッジ幅Wbに対して、Wb>Waである請求項8記載の電動機。
  11. 前記回転子本体が高透磁率材からなり、永久磁石を埋め込んだスリットより前記回転子本体の外周側に位置するスリットのブリッジ幅は、順次幅広になっている請求項1記載の電動機。
  12. ブリッジ幅は、永久磁石を埋め込んだスリットのブリッジ幅が最も狭く、前記回転子本体の最外周側に位置するスリットのブリッジ幅が最も太い請求項11記載の電動機。
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