JP4983209B2 - 複合位相差板、その製造方法、複合光学部材及び液晶表示装置 - Google Patents

複合位相差板、その製造方法、複合光学部材及び液晶表示装置 Download PDF

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Description

本発明は、液晶セルに貼り合わせて用いられる複合位相差板とその製造方法、それを用いた複合光学部材及び液晶表示装置に関するものである。本発明はまた、複合位相差板における耐水性を向上させる技術にも関係している。
近年、液晶表示装置は、低消費電力、低電圧動作、軽量、薄型などの特徴を生かして、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、テレビなど、情報用表示デバイスとして急速に普及してきている。液晶技術の発展に伴い、さまざまなモードの液晶表示装置が提案され、応答速度やコントラスト、狭視野角といった問題点が解消されつつある。
このような液晶表示装置の一つに、正又は負の誘電率異方性を有する棒状の液晶分子を基板に対して垂直に配向させた、垂直配向(VA)モードの液晶表示装置がある。かかる垂直配向モードは、非駆動状態においては、液晶分子が基板に対して垂直に配向しているため、光は偏光の変化を伴わずに液晶層を通過する。このため、液晶パネルの上下に互いに偏光軸が直交するように直線偏光板を配設することで、正面から見た場合にほぼ完全な黒表示を得ることができ、高いコントラスト比を得ることができる。しかし、このような液晶セルに偏光板のみを備えたVAモードの液晶表示装置では、それを斜めから見た場合に、配設された偏光板の軸角度が90°からずれてしまうことと、セル内の棒状の液晶分子が複屈折を発現することに起因して、光漏れが生じ、コントラスト比が著しく低下してしまう。
かかる光漏れを解消するためには、液晶セルと直線偏光板の間に光学補償フィルムを配置する必要があり、従来は、二軸性の位相差板を液晶セルと上下の偏光板の間にそれぞれ1枚ずつ配設する仕様や、正の一軸性位相差板と完全二軸性の位相差板を、それぞれ1枚ずつ液晶セルの上下に、又は2枚とも液晶セルの片側に配設する仕様が採用されてきた。例えば、特開 2001-109009号公報(特許文献1)には、垂直配向モードの液晶表示装置において、上下の偏光板と液晶セルの間に、それぞれaプレート(すなわち、正の一軸性位相差板)及びcプレート(すなわち、完全二軸性の位相差板)を配置することが記載されている。
正の一軸性位相差板とは、面内の位相差値R0 と厚み方向の位相差値Rthとの比 R0/Rthが概ね2のフィルムであり、また完全二軸性の位相差板とは、面内の位相差値R0 がほぼ0のフィルムである。ここで、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx 、フィルムの面内進相軸方向(面内で遅相軸と直交する方向)の屈折率をny 、フィルムの厚み方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをdとしたとき、面内の位相差値R0及び厚み方向の位相差値Rthは、それぞれ下式(I)及び(II)で定義される。
0 =(nx−ny)×d (I)
th=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (II)
正の一軸性フィルムでは、nz≒nyとなるため、R0/Rth≒2 となる。正の一軸性フィルムであっても、R0/Rth は延伸条件の変動により、1.8〜2.2程度の間で変化することもある。完全二軸性のフィルムでは、nx≒nyとなるため、R0≒0 となる。完全二軸性のフィルムは、厚み方向の屈折率のみが異なる(小さい)ものであることから、負の一軸性を有し、光学軸が法線方向にあるフィルムとも呼ばれ、また前述のとおり、cプレートと呼ばれることもある。
上記のような完全二軸性のフィルム(cプレート)の一つとして、有機修飾粘土複合体を含むコーティング層で構成されるものがある。例えば、特開 2005-338215号公報(特許文献2)には、面内に配向している透明樹脂フィルムからなる位相差板に、粘着剤層を介して、屈折率異方性を有するコーティング位相差層を積層し、さらにそのコーティング位相差層の表面に粘着剤層を設けて複合位相差板とすることが開示されており、その樹脂位相差板側に偏光板を積層することも記載されている。また特開 2006-10912 号公報(特許文献3)には、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂をバインダーとし、これと有機修飾粘土複合体とを含む組成物をフィルム状に形成してなる位相差板が開示されており、その位相差板を、粘着剤層を介して偏光板に積層し、複合偏光板とすることも記載されている。具体的には、粘着剤付き偏光板の粘着剤層側にコーティング位相差層を転写し、そのコーティング位相差層表面に第二の粘着剤層を設ける構成が示されている。
これら特許文献2や特許文献3に開示される構成では、コーティング位相差層は二つの粘着剤層に挟まれているため、外部からの応力による影響を受けやすく、複合位相差板又は複合偏光板に物理的な外力が加わると、コーティング位相差層に応力が集中し、そこに割れが発生して、光漏れを生じることがあった。
特開2001−109009号公報(請求項15及び段落0036) 特開2005−338215号公報 特開2006−10912号公報
本発明者らは、透明樹脂からなる位相差板と屈折率異方性を有するコーティング位相差層を積層して複合位相差板とする際、両者の間に配置される粘着剤層をプライマー層に置き換えることで、物理的な外力によって発生しやすいコーティング位相差層の割れに起因する光漏れが抑えられることを見出し、特願 2006-225058号として特許出願している。このプライマー層は、基材上にプライマー層用塗工液を塗布する方法で形成できるが、プライマー層用塗工液は、基材へのダメージを考えると、有機溶媒溶液よりは水溶液の形で用いることが好ましい。上記特許出願の実施例では、プライマー層の形成に、水溶性のポリアミドエポキシ樹脂とポリビニルアルコールとを含む塗工液を用いており、この場合は、ポリアミドエポキシ樹脂がポリビニルアルコールを架橋させる硬化剤となる。ところが、このようなプライマー層を介して位相差板とコーティング位相差層を積層した複合位相差板、あるいはそのコーティング位相差層側に粘着剤を介して偏光板を積層した複合光学部材は、耐水性が必ずしも十分でなく、例えば、この複合位相差板又は複合光学部材を温水に浸漬したときに、プライマー層端部が部分的に溶解したり、白化したりする現象が起こりうることが明らかになってきた。
そこでさらに研究を行った結果、透明樹脂からなる位相差板にプライマー層を介して屈折率異方性を有するコーティング位相差層を積層してなる複合位相差板において、そのプライマー層の形成に、水溶性の樹脂及び、それとの反応性が高い水溶性の有機チタン化合物又は有機ジルコニウム化合物からなる硬化剤を含む組成物を用いることで、耐水性に優れる複合位相差板が得られることを見出した。
したがって、本発明の目的は、液晶セルに貼り合わせて使用したときに、コーティング位相差層に微細な割れが生じにくく、光漏れの発生を抑制できるとともに、耐水性にも優れた複合位相差板を提供し、またその製造方法を提供することにある。本発明のもう一つの目的は、この複合位相差板に偏光板の如き他の光学機能を示す光学層を積層し、液晶セルに貼り合わせたときに光漏れが抑制できるとともに、耐水性にも優れた複合光学部材を提供することにある。さらに本発明のもう一つ別の目的は、この複合光学部材を液晶表示装置に適用することにある。
すなわち本発明によれば、透明樹脂からなる位相差板、プライマー層及び、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂とを含むコーティング位相差層がこの順に積層されてなり、そのプライマー層は、水溶性の有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる水溶性有機金属化合物と水溶性樹脂とを含む組成物から形成されている複合位相差板が提供される。
また本発明によれば、この複合位相差板の製造方法も提供され、その方法は、透明樹脂からなる位相差板の表面に、水溶性の有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる水溶性有機金属化合物と水溶性樹脂とが水を主体とする溶媒に溶解してなるプライマー層用塗工液を塗布し、そこから溶媒を除去してプライマー層を形成し、そのプライマー層の表面に、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂とが有機溶媒中に含有されてなるコーティング位相差層用塗工液を塗布し、そこから溶媒を除去してコーティング位相差層を形成するものである。
さらに本発明によれば、上記の複合位相差板に、偏光板などの他の光学機能を示す光学層が積層された複合光学部材も提供される。さらにまた、この複合光学部材が、液晶セルの少なくとも一方の面に配置されている液晶表示装置も提供される。
本発明の複合位相差板は、透明樹脂からなる位相差板とコーティング位相差層の間をプライマー層で貼着することで、それを液晶セルに貼り合わせたときに、物理的な外力によって生じやすいコーティング位相差板の割れに起因する光漏れを効果的に抑制することができるとともに、プライマー塗工液に、水溶性であって反応性の高い有機チタン化合物又は有機ジルコニウム化合物からなる硬化剤を水溶性樹脂とともに含有させ、それを塗布してプライマー層を形成したことで、特にプライマー層の耐水性を高めることができる。したがって、この複合位相差板を偏光板などの他の光学機能を示す光学層と組み合わせた複合光学部材を適用した液晶表示装置は、表示状態に優れ、耐水性にも優れたものとなる。
以下、添付の図面も適宜参照しながら、本発明の実施形態を詳しく説明する。
(複合位相差板)
本発明では、図1に示すように、透明樹脂からなる位相差板11、プライマー層12及びコーティング位相差層14をこの順に積層して、複合位相差板10とする。
位相差板11は、透明樹脂からなり、一般には面内で配向しているもので構成される。これに用いる樹脂は、透明性に優れ、光学的に均一なものであればよいが、配向性を有するフィルムの製造のしやすさなどの点から、透明な熱可塑性樹脂の延伸フィルムが好ましく用いられる。熱可塑性樹脂として具体的には例えば、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロース系樹脂、プロピレンやエチレンの如きオレフィンを主要なモノマーとするポリオレフィン系樹脂、ノルボルネンの如き多環式の環状オレフィンを主要なモノマーとする環状ポリオレフィン系樹脂などを挙げることができる。また、セルロース系樹脂などの透明樹脂基板に、液晶性物質などからなる塗布層を設け、位相差を発現させたものも、位相差板11として用いることができる。
樹脂位相差板11の面内位相差値は、複合位相差板の用途により、30〜300nm程度の範囲から適宜選択すればよい。例えば、携帯電話や携帯情報端末の如き比較的小型の液晶表示装置に複合位相差板を適用する場合、樹脂位相差板11は、1/4波長板であるのが有利である。
プライマー層12は、塗布により形成される透明樹脂で構成される。プライマーとは、一般に下塗りを意味するが、本発明におけるプライマー層12は、コーティングによって形成される位相差層14の下塗り層として機能する。また、プライマー層12の存在により、そこに直接、コーティング位相差層14用の塗工液を塗布する場合であっても、その塗工液中の有機溶媒による位相差板11への影響を防ぐことができる。プライマー層12は、粘着剤ほどの弾性を示さない樹脂で構成される。
一般的に、プライマー層を形成するための塗工液には有機溶媒の溶液を用いることが多いが、本発明で対象とする樹脂位相差板11の上にこのような有機溶媒溶液を塗布した場合には、樹脂位相差板11を膨潤させたり侵食したりして、その光学特性に影響を及ぼすことが多い。このため、通常の樹脂に対しては非溶媒である水を溶媒とした塗工液からプライマー層12を形成する。なお、水を主体とする溶媒を用いることが必要であるが、粘度の調節や表面張力の調整などのために、アルコール類などの水溶性有機溶媒を添加することは可能である。アルコール類の例としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、エチレングリコールなどが挙げられる。
プライマー層12には、水溶性の樹脂を用いる。かかる水溶性樹脂の例としては、ポリビニルアルコール系樹脂や水溶性アクリル樹脂などを挙げることができる。なかでも、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましく用いられる。ポリビニルアルコール系樹脂は、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基などのアニオンで変性されたポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールのような、変性されたポリビニルアルコール系樹脂であってもよい。適当なポリビニルアルコール系樹脂の市販品としては、(株)クラレから販売されている部分ケン化ポリビニルアルコールである“PVA-403”(商品名) や、アニオン変性ポリビニルアルコールである“KL-506(商品名)”などを挙げることができる。これらクラレ社製ポリビニルアルコールの詳細は、同社のポバール樹脂専門サイト〈URL: http://www.poval.jp/japan/poval/topics/index.html〉に“KURARAY POVAL” として掲載されている(アクセス日:2006年11月2日)。
ポリビニルアルコール系樹脂をはじめとする水溶性樹脂は、その水溶性ゆえにそれ単独では耐水性が悪いため、耐水性を高めるべく何らかの硬化剤を用いて架橋してやる必要がある。架橋のためには、プライマー層用塗工液に、水溶性樹脂を架橋しうる硬化剤を入れたものを塗布する方法を採用することができる。この場合、主に、溶媒を除去することで水溶性樹脂と硬化剤の反応が進行することになる。硬化剤は、水溶性樹脂との反応性が高いものほど、反応後の架橋密度が高くなるため、得られるプライマー層が良好な耐水性を示すようになる。
そこで、本発明においては、水溶性の有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる水溶性有機金属化合物を水溶性樹脂の硬化剤として用いる。これにより、耐水性の良好な複合位相差板が得られる。ここでいう水溶性の有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物とは、チタン又はジルコニウムに、直接有機基が結合しているか、又は、酸素原子や窒素原子などを介して有機基が結合している構造を、分子内に少なくとも1個有する化合物であって、それにより水溶性を示すものである。有機基とは、少なくとも炭素元素を含む官能基を意味し、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アシル基、アミノ基などであることができる。また、結合とは共有結合だけを意味するものではなく、キレート状化合物などの配位による配位結合であってもよい。上述したように、プライマー層用塗工液の溶媒は、水単独であるか、又は水に少量の有機溶媒を混合したものであることが好ましく、この観点から、有機チタン化合物や有機ジルコニウム化合物も水溶性のものを用いる。
かかる水溶性の有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物の典型例として、次のような構造のものを挙げることができる。
(HO)2Ti[OCH(CH3)COOH]2 (1)
(C37O)2Ti[OCH2CH2N(CH2CH2OH)2]2 (2)
(HO)2Zr[OCH(CH3)COOH]2 (3)
(C37O)2Zr[OCH2CH2N(CH2CH2OH)2]2 (4)
市販されている水溶性有機チタン化合物の適当な例として、松本製薬工業(株)から販売されている“オルガチックス TC-310”、“オルガチックス TC-315”、“オルガチックス TC-300”、“オルガチックス TC-400”(いずれも商品名)などがある。また、市販されている水溶性有機ジルコニウム化合物の例として、同じく松本製薬工業(株)から販売されている“オルガチックス ZB-400”(商品名) などがある。これら市販品について、メーカーが呼称する化学略名とその化学構造、及び濃度を以下に示す。
“オルガチックス TC-310”: メーカー呼称の化学略名「乳酸チタン」;化学構造は上記式(1);有効成分44重量%、イソプロピルアルコール40重量%、水16重量%の溶液。
“オルガチックス TC-315”: メーカー呼称の化学略名「乳酸チタン」;化学構造は上記式(1);有効成分44重量%、水56重量%の溶液。
“オルガチックス TC-300”: メーカー呼称の化学略名「乳酸チタン」;化学構造は上記式(1);有効成分42重量%、イソプロピルアルコール38重量%、水20重量%の溶液。
“オルガチックス TC-400”: メーカー呼称の化学略名「チタントリエタノールアミネート」;化学構造は上記式(2);有効成分80重量%、イソプロピルアルコール20重量%の溶液。
“オルガチックス ZB-400”: メーカー呼称の化学略名「ジルコニウム系化合物」;化学構造は、メーカーが社外秘としているため、水溶性の有機ジルコニウム化合物であること以外は不詳;有効成分30重量%、水70重量%の溶液。
プライマー層12を形成するために用いる水溶性樹脂と有機金属化合物の割合は、水溶性樹脂100重量部に対して有機金属化合物 0.1〜200重量部程度の範囲から、水溶性樹脂の種類や有機金属化合物の種類などに応じて適宜決定すればよく、とりわけ 0.1〜100重量部程度の範囲から選択することが好ましい。有機金属化合物は、水溶性樹脂100重量部に対して 0.1〜5重量部程度と比較的少ない量でも、プライマー層の耐水性向上に効果を発揮するが、5〜100重量部程度と多く配合することで、耐水性向上により一層効果を発揮する。
以上のように本発明では、水溶性の有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる水溶性有機金属化合物と水溶性樹脂とを含む組成物から、プライマー層12を形成するのであるが、この組成物はまた、上記した水溶性有機金属化合物に加えて、それ以外の硬化剤を含有することもできる。このような他の硬化剤を併用することにより、塗膜の硬化速度をコントロールしたり、基材である位相差板11とコーティング位相差層14との密着力をコントロールしたりすることができる。
併用される他の硬化剤は特に限定されないが、好適な例として、水溶性のエポキシ樹脂を挙げることができる。水溶性のエポキシ樹脂は、例えば、ジエチレントリアミンやトリエチレンテトラミンのようなポリアルキレンポリアミンとアジピン酸のようなジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られるポリアミドエポキシ樹脂であることができる。かかるポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、住化ケムテックス(株)から販売されている“スミレーズレジン 650(30)”や“スミレーズレジン 675”(いずれも商品名)などがある。
水溶性有機金属化合物とともに、他の硬化剤、例えば水溶性のエポキシ樹脂を併用する場合、他の硬化剤の量は、水溶性樹脂100重量部に対して、1〜20重量部程度の範囲から適宜決定すればよい。このように他の硬化剤を併用する場合、併用効果が出てくること、一方で、水溶性有機金属化合物との相性によっては、両者の添加量を多くすると塗工液中で沈殿を生じる可能性も否定しきれないことから、水溶性有機金属化合物を含む硬化剤全体の量は、水溶性樹脂100重量部に対して100重量部程度までで十分であり、好ましくは1〜50重量部程度、さらに好ましくは1〜30重量部程度の範囲から選択される。
以上のような、水溶性有機金属化合物及び水溶性樹脂を含み、任意にさらに他の成分、例えば、他の硬化剤を含んでもよいプライマー層用塗工液は、その固形分濃度が1〜25重量%程度となるようにするのが好ましい。また、プライマー層12の厚みは、 0.1〜10μm程度の範囲、とりわけ0.5〜10μm程度とするのが好ましい。
プライマー層12の上には、コーティング位相差層14が形成される。コーティング位相差層14は、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂とを有機溶媒中に含有してなる塗工液から溶媒を除去して形成される層である。ここで有機修飾粘土複合体は、有機物と粘土鉱物との複合体であって、具体的には例えば、層状構造を有する粘土鉱物と有機化合物を複合化したものであることができ、有機溶媒に分散可能なものである。層状構造を有する粘土鉱物としては、スメクタイト族や膨潤性雲母などが挙げられ、その陽イオン交換能により有機化合物との複合化が可能となる。なかでもスメクタイト族は、透明性にも優れることから好ましく用いられる。スメクタイト族に属するものとしては、ヘクトライト、モンモリロナイト、ベントナイトなどが例示できる。これらのなかでも化学合成されたものは、不純物が少なく、透明性に優れるなどの点で好ましい。特に、粒径を小さく制御した合成ヘクトライトは、可視光線の散乱が抑制されるために好ましく用いられる。
粘土鉱物と複合化される有機化合物としては、粘土鉱物の酸素原子や水酸基と反応しうる化合物、また交換性陽イオンと交換可能なイオン性の化合物などが挙げられ、有機修飾粘土複合体が有機溶媒に膨潤又は分散できるようになるものであれば特に制限はないが、具体的には含窒素化合物などを挙げることができる。含窒素化合物としては、例えば、1級、2級又は3級のアミン、4級アンモニウム化合物などが挙げられる。なかでも、陽イオン交換が容易であることなどから、4級アンモニウム化合物が好ましく用いられる。4級アンモニウム化合物としては、例えば、長鎖アルキル基を有するもの、アルキルエーテル鎖を有するものなどが挙げられる。とりわけ、炭素数6〜30、特に炭素数6〜10の長鎖アルキル基を有する4級アンモニウム化合物や、n=1〜50、特にn=5〜30の−(CH2CH(CH3)O)nH基、又は −(CH2CH2CH2O)nH基を有する4級アンモニウム化合物が好ましい。
有機修飾粘土複合体には、その製造の際に用いられる各種副原料に起因して、塩素を含む化合物が不純物として混入していることが多い。そのような塩素化合物の量が多いと、コーティング位相差層とした後にフィルムからブリードアウトする可能性がある。その場合には、粘着剤を介してそのコーティング位相差層を液晶セルガラスに貼合したときに、粘着力が経時で大幅に低下してしまう。そこで、有機修飾粘土複合体からは、洗浄により塩素化合物を除去しておくのが好ましく、その中に含まれる塩素の量を2,000ppm以下とした状態で有機溶媒中に含有させれば、かかる粘着力の低下を抑えることができる。塩素化合物の除去は、有機修飾粘土複合体を水洗する方法により行うことができる。
有機修飾粘土複合体は、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。適当な有機修飾粘土複合体の市販品には、それぞれコープケミカル(株)から“ルーセンタイト STN”や“ルーセンタイト SPN”の商品名で販売されている合成ヘクトライトと4級アンモニウム化合物との複合体などがある。
このような有機溶媒に分散可能な有機修飾粘土複合体は、プライマー層12へのコーティングのしやすさ、光学特性の発現性や力学的特性などの点から、バインダー樹脂と組み合わせて用いられる。有機修飾粘土複合体と併用するバインダー樹脂は、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチルなどの有機溶媒に溶解するもの、とりわけ、ガラス転移温度が室温以下(約20℃以下)であるものが、好ましく用いられる。また、液晶表示装置に適用する場合に必要とされる良好な耐湿熱性及びハンドリング性を得るためには、疎水性を有するものが望ましい。このような好ましいバインダー樹脂としては、ポリビニルブチラールやポリビニルホルマールの如きポリビニルアセタール樹脂、セルロースアセテートブチレートの如きセルロース系樹脂、ブチルアクリレートの如きアクリル系樹脂、ウレタン樹脂、メタアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。
適当なバインダー樹脂の市販品としては、電気化学工業(株)から“デンカブチラール #3000-K”の商品名で販売されているポリビニルアルコールのアルデヒド変性樹脂、東亞合成(株)から“アロン S1601”の商品名で販売されているアクリル系樹脂、住化バイエルウレタン(株)から“SBU ラッカー 0866” の商品名で販売されているイソホロンジイソシアネートベースのウレタン樹脂などがある。
有機溶媒に分散可能な有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂の割合は、前者:後者の重量比で1:2〜10:1の範囲、とりわけ1:1〜2:1の範囲にあることが、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂からなる層の割れ防止などの力学的特性向上のために好ましい。
有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂は、有機溶媒に含有させたコーティング位相差層用塗工液の形で、プライマー層12上に塗布される。この際一般には、バインダー樹脂は有機溶媒に溶解され、そして有機修飾粘土複合体は有機溶媒中に分散される。この塗工液の固形分濃度は、調製後の塗工液が実用上問題ない範囲でゲル化したり白濁したりしなければ制限はないが、通常、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂の合計固形分濃度が3〜15重量%程度となる範囲で使用される。最適な固形分濃度は、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂それぞれの種類や両者の組成比により異なるため、組成毎に設定される。また、製膜する際の塗布性を向上させるための粘度調整剤や、疎水性及び/又は耐久性をさらに向上させるための硬化剤など、各種の添加剤を加えてもよい。
コーティング位相差層の厚み方向の屈折率異方性は、前記式(II)により定義される厚み方向の位相差値Rthで表され、この値は、面内の遅相軸を傾斜軸として40度傾斜させて測定される位相差値R40と面内の位相差値R0 とから算出できる。すなわち、式(II)による厚み方向の位相差値Rthは、面内の位相差値R0 、遅相軸を傾斜軸として40度傾斜させて測定した位相差値R40、フィルムの厚みd、及びフィルムの平均屈折率n0 を用い、以下の式 (III)〜(V)から数値計算によりnx、ny及びnz を求め、これらを前記式(II)に代入して、算出することができる。
0 =(nx−ny)×d (III)
40=(nx−ny')×d/cos(φ) (IV)
(nx+ny+nz)/3=n0 (V)
ここで、
φ=sin-1〔sin(40°)/n0
y'=ny×nz/〔ny 2×sin2(φ)+nz 2×cos2(φ)〕1/2
コーティング位相差層の厚み方向位相差値Rthは、40〜500nm程度の範囲から、その用途、特に液晶セルの特性に合わせて、適宜選択するのが好ましい。その厚み方向位相差値Rthは、有利には50nm以上、また有利には400nm以下である。
(複合位相差板の製造方法)
次に、複合位相差板10の製造方法について説明する。まず、透明樹脂からなる位相差板11の表面に、水溶性の有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる水溶性有機金属化合物と水溶性樹脂とが水を主体とする溶媒に溶解してなるプライマー層用塗工液を塗布する。この塗工液は前述したとおり、他の成分、例えば前記水溶性有機金属化合物以外の硬化剤を含んでいてもよい。プライマー層用塗工液を塗布する際の塗工方式は特に制限されるものでなく、ダイレクト・グラビア法、リバース・グラビア法、ダイコート法、カンマコート法、バーコート法など、公知の各種コーティング法を用いることができる。
プライマー層用塗工液を塗布した後は、その塗工液層から水を含む溶媒を除去して、プライマー層12を形成する。プライマー層12を形成するための溶媒の除去は、適当な温度に加熱して乾燥させることにより行われる。この際、温度にもよるが、通常数分の加熱で乾燥する。
乾燥後のプライマー層に、さらに熱養生をかけて硬化を促進させることも、耐水性の向上には有効である。このような熱養生を採用する場合、その温度は、あまり低いと養生の効果が得られず、逆にあまり高いとフィルムの寸法変化や劣化などを引き起こす可能性が生じるため、30〜80℃程度の範囲から選ぶのが好ましい。熱養生の時間は、1〜7日程度とするのが好ましい。この熱養生は、プライマー層用塗工液を塗布し、そこから溶媒を除去した後であって、最終の複合位相差板が得られるまでの任意の段階で行えばよい。例えば、プライマー層用塗工液を塗布し、そこから溶媒を除去した後、熱養生を行い、その後そのプライマー層の上にコーティング位相差層を形成してもよいし、プライマー層用塗工液を塗布し、そこから溶媒を除去した後、引き続いてその上にコーティング位相差層を形成し、その後、熱養生を施してもよい。
上のようにして得られるプライマー層12の表面には、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂とが有機溶媒中に含有されてなるコーティング位相差層用塗工液を塗布する。この塗工液はまた、前述のとおり、必要に応じてその他の各種添加剤を含有していてもよい。
このコーティング位相差層用塗工液は、カールフィッシャー水分計で測定される含水率を0.15〜0.35重量%の範囲としておくのが好ましい。この含水率が 0.35重量%を越えると、非水溶性有機溶媒中での相分離を生じ、塗工液が2層に分離してしまう傾向にある。一方、その含水率が 0.15重量%を下回ると、コーティング位相差板としたときに、ヘイズ値を高める傾向にある。水分の測定方法には、乾燥法、カールフィッシャー法、誘電率法などがあるが、ここでは、簡便かつ微量単位の測定が可能なカールフィッシャー法を採用する。
コーティング位相差層用塗工液の含水率を上記範囲に調整する方法は特に制限されないが、塗工液中に水を添加する方法が簡便で、望ましい。本発明で用いるような有機溶媒、有機修飾粘土複合体及びバインダー樹脂を、通常の方法で混合しただけでは、 0.15重量%以上の含水率を示すことはほとんどない。そこで、有機溶媒、有機修飾粘土複合体及びバインダー樹脂を混合した塗工液に少量の水を添加することにより、含水率を上記範囲とするのが好ましい。水を添加する方法は、塗工液の調製工程のいかなる時期の添加でも有効であり、特に制限はないが、塗工液の調製工程で一定時間経過後、サンプリングして含水率を測定したのち、所定量の水を添加する方法が、再現性及び精度よく含水率を制御できる点で好ましい。なお、添加された水の量が、カールフィッシャー水分計による測定結果と合わないこともある。その原因として、水が一部、有機修飾粘土複合体との相互作用(例えば、吸着)を起こしていることなどが考えられる。ただし、カールフィッシャー水分計で測定される水分率を0.15〜0.35重量%に保てば、得られるコーティング位相差板のヘイズ値が低く抑えられる。
コーティング位相差層14を形成するのに使用する塗工方式も特に制限されるものでなく、ダイレクト・グラビア法、リバース・グラビア法、ダイコート法、カンマコート法、バーコート法など、公知の各種コーティング法を用いることができる。コーティング位相差層用塗工液を塗布した後は、その塗工液層から溶媒を除去して、コーティング位相差層14を形成する。コーティング位相差層14を形成するための溶媒の除去も、適当な温度に加熱して乾燥させることにより行われる。
(複合光学部材)
こうして得られる複合位相差板は、その一方の面に、偏光板などの他の光学機能を示す光学層に積層して、複合光学部材とすることができる。複合光学部材の層構成の例を図2に断面模式図で示した。この例では、図1に示した複合位相差板10における透明樹脂からなる位相差板11側に、他の光学機能を示す光学層21が積層され、複合光学部材20となっている。両者の積層には、例えば、粘着剤を用いることができ、図6ではこれを粘着剤層22として表示している。他の光学機能を示す光学層21は、少なくとも偏光板を含むことが好ましいが、その他に例えば、輝度向上フィルムなど、液晶表示装置等の形成に従来から用いられているものを挙げることができる。
他の光学層21として用いる偏光板は、面内の一方向に振動面を有する直線偏光を透過し、面内でそれと直交する方向に振動面を有する直線偏光を吸収するものであればよい。具体的には、ポリビニルアルコールフィルムに二色性色素が吸着配向している偏光子の少なくとも片面(片面又は両面)に保護フィルムが貼合されたものを用いることができる。二色性色素として、ヨウ素を用いたヨウ素系偏光板や、二色性有機染料を用いた染料系偏光板があるが、いずれも用いることができる。また保護フィルムとしては、トリアセチルセルロースのようなセルロース系樹脂や、ノルボルネンの如き多環式の環状オレフィンを主要なモノマーとする環状ポリオレフィン系樹脂などが用いられる。他の光学層21が偏光板を含む場合は、図2に示すように、複合位相差板10の樹脂位相差板11側に、この偏光板を含む他の光学層21を積層するのが好ましい。
他の光学層21の貼合に粘着剤を用いる場合、その粘着剤は、アクリル系ポリマーや、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマーとするもので構成することができる。なかでも、アクリル系粘着剤のように、光学的な透明性に優れ、適度の濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれ等の剥離問題を生じないものを選択して用いることが好ましい。アクリル系粘着剤においては、メチル基やエチル基、ブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有するアクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどからなる官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。
(液晶表示装置)
図2に示すような複合光学部材20は、液晶セルの少なくとも一方の面に配置して、液晶表示装置とすることができる。液晶セルの両面に、このような複合光学部材を配置することもできる。液晶セルの片面に複合光学部材を配置した場合、液晶セルのもう一方の面には、他の偏光板が、必要に応じて位相差板を介在させて配置される。液晶セルは、背景技術の項で述べた如く、垂直配向(VA)モードのものが好ましいが、その他、ベンド配向(ECB)モードなど、他の方式の液晶セルに対しても、本発明により製造される複合位相差板又は複合光学部材は、有効に機能する。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す部及び%は、特記ない限り重量基準である。
[実施例1〜3及び比較例1]
(a)プライマー層用塗工液の調製
(a1)実施例1〜3のプライマー層用塗工液
有機チタン化合物からなる硬化剤として、松本製薬工業(株)から販売されている“オルガチックス TC”シリーズ(“オルガチックス TC”は商品名)を、またポリビニルアルコール系樹脂として、(株)クラレから販売されている部分ケン化ポリビニルアルコールである“PVA-403”(商品名、ケン化度78.5〜81.5モル%) を用い、以下の組成で配合して、実施例1〜3のプライマー層用塗工液を調製した。
Figure 0004983209
この塗工液は、水を80℃に温めながらポリビニルアルコール“PVA-403” と混合し、攪拌後、室温まで冷却し、さらに有機チタン化合物“オルガチックス TC” シリーズを加えて混合し、攪拌して調製した。各実施例で用いた具体的な有機チタン化合物は以下のとおりであり、いずれも化合物自体は同じで、溶媒が異なるだけである。なお、以下に示すとおり、有機チタン化合物は溶液の形で入手したものであり、上のプライマー層用塗工液の調製にあたって用いた量は、溶液自体の重量で示した。
実施例1:“オルガチックス TC-300”(商品名):
化学構造 (HO)2Ti[OCH(CH3)COOH]2;有効成分42%、イソプロピルアルコール38%、水20%の溶液。
実施例2:“オルガチックス TC-310”(商品名):
化学構造 (HO)2Ti[OCH(CH3)COOH]2;有効成分44%、イソプロピルアルコール40%、水16%の溶液。
実施例3:“オルガチックス TC-315”(商品名):
化学構造 (HO)2Ti[OCH(CH3)COOH]2;有効成分44%、水56%の溶液。
(a2)比較例1のプライマー層用塗工液
水溶性の硬化剤として、住化ケムテックス(株)から販売されているポリアミドエポキシ樹脂である“スミレーズレジン 650(30)”(商品名、固形分濃度30%の水溶液)を、またポリビニルアルコール系樹脂として、(株)クラレから販売されている部分ケン化ポリビニルアルコールである“PVA-403”(商品名、ケン化度78.5〜81.5モル%) を用い、以下の組成で配合して、比較例1のプライマー層用塗工液を調製した。なお、“スミレーズレジン 650(30)”は、30%濃度水溶液自体の重量で表示した。
Figure 0004983209
(b)コーティング位相差層用塗工液の調製
有機修飾粘土複合体として、コープケミカル(株)から販売されている合成ヘクトライトとトリオクチルメチルアンモニウムイオンとの複合体である“ルーセンタイト STN”
(商品名)を、またバインダー樹脂として、住化バイエルウレタン(株)から販売されているイソホロンジイソシアネートベースのポリウレタン樹脂で固形分濃度30%の樹脂ワニスである“SBU ラッカー 0866”(商品名) を用い、以下の組成で配合して、コーティング位相差層用塗工液を調製した。
Figure 0004983209
ここで用いた有機修飾粘土複合体は、メーカーにて、有機修飾前の合成ヘクトライト製造後に酸洗浄し、それを有機修飾し、さらに水洗した状態で入手したものである。そこに含まれる塩素量は1,111ppmであった。また、この塗工液は、上記組成で混合し、攪拌後、孔径1μm のフィルターで濾過して調製したものであり、カールフィッシャー水分計で測定される含水率は 0.25%であった。この塗工液における有機修飾粘土複合体/バインダー樹脂の固形分重量比は6/4である。
(c)複合位相差板の作製
ノルボルネン系樹脂の一軸延伸フィルムである位相差板〔住友化学(株)から販売されている“CSES430120Z-S-KY”(商品名)、面内位相差値120nm〕に、前記した4種類のプライマー層用塗工液を塗工し、80℃で約 1.5分間乾燥して、厚さ約2μm のプライマー層を形成した。次に、そのプライマー層の上に前記コーティング位相差層用塗工液を塗工し、その後90℃で3分間乾燥してコーティング位相差層を形成し、樹脂位相差板/プライマー層/コーティング位相差層の順に積層された複合位相差板を得た。得られた複合位相差板は、いずれのプライマー層用塗工液を用いた場合も、例えば三層を手で剥がそうとしても剥離せず、三層が十分な強度で接着していた。
(d)複合光学部材の作製
上記(c)で得た複合位相差板の樹脂位相差板側表面に、粘着剤付きのポリビニルアルコール/ヨウ素系偏光板〔住友化学(株)から販売されている“SRW062AP6-HC2” (商品名)〕をその粘着剤層側で貼合し、偏光板/粘着剤層/樹脂位相差板/プライマー層/コーティング位相差層の順に積層された複合光学部材を作製した。
(e)複合光学部材の評価
(e1)耐水性の評価
上記(d)で作製した複合光学部材を60℃の温水に30分間浸漬してから引き上げ、端部を顕微鏡で観察したところ、プライマー層が溶けてなくなった部分が観察された。そこで、プライマー層が溶解した部分の端部からの最大距離を求め、耐水性を評価した。結果を表1に示す。
Figure 0004983209
(e2)外力によるコーティング位相差層の割れに起因する光漏れの評価
上記(d)で作製した複合光学部材をそのコーティング位相差層側でアクリル系粘着剤を介してガラス板に貼合し、鉛筆硬度試験機を用いて、偏光板側から硬度Hの鉛筆で押圧し、鉛筆への荷重を増やしていって、外力によるコーティング位相差層の割れに起因する光漏れの評価を行った。この際、複合光学部材の偏光板とクロスニコル状態になるよう、別の偏光板をガラス板の複合光学部材が貼合されている面と反対の面に配置し、ライトボックス上で光漏れを確認した。その結果、いずれのプライマー層用塗工液を用いた場合についても、荷重限界である2.0kg の荷重を加えても、光漏れは生じなかった。
[実施例4〜10及び比較例2]
(a)プライマー層用塗工液の調製
(a1)実施例4〜10のプライマー層用塗工液
水溶性樹脂として、(株)クラレから販売されているアニオン変性の部分ケン化ポリビニルアルコールである“KL-506”(商品名、ケン化度74〜80モル%)を、また水溶性有機チタン化合物からなる硬化剤として、実施例2で用いたのと同じ “オルガチックス TC-310”を用い、実施例9及び10では第二の硬化剤として、比較例1で用いたのと同じポリアミドエポキシ樹脂である“スミレーズレジン 650(30)”(固形分濃度30%の水溶液)を用い、さらに溶媒として、水のみ、又は水とイソプロパノール(表では「IPA」と略す)を85/15の重量比で用い、以下の組成で配合して、実施例4〜10のプライマー層用塗工液を調製した。ただし、有機チタン化合物“オルガチックス TC-310” と、ポリアミドエポキシ樹脂“スミレーズレジン 650(30)”の量は、それぞれ溶液重量として表2に示した。
Figure 0004983209
(a2)比較例2のプライマー層用塗工液
水溶性樹脂として、(株)クラレから販売されているアニオン変性の部分ケン化ポリビニルアルコールである“KL-506”(商品名、ケン化度74〜80モル%)を、また水溶性の硬化剤として、比較例1で用いたのと同じポリアミドエポキシ樹脂である“スミレーズレジン 650(30)”(固形分濃度30%の水溶液)を用い、以下の組成で配合して、比較例2のプライマー層用塗工液を調製した。
Figure 0004983209
(b)複合位相差板の作製と評価
上記(a)で調製したプライマー層用塗工液を用いる以外は、実施例1〜3の(c)と同様の方法で複合位相差板を作製し、その複合位相差板を用いて実施例1〜3の(d)と同様の方法で複合光学部材を作製し、さらに実施例1〜3の(e1)と同様の方法で耐水性の評価を行った。結果を、硬化剤の使用量及び用いた溶媒とともに表2に示した。また、それぞれの例で作製した複合光学部材について、実施例1〜3の(e2)と同様の方法で、外力によるコーティング位相差層の割れに起因する光漏れを評価した。その結果、いずれのプライマー層用塗工液を用いた場合についても、荷重限界である2.0kg の荷重を加えても、光漏れは生じなかった。
Figure 0004983209
[比較例3]
離型処理が施された厚さ38μm のポリエチレンテレフタレートフィルム(この例では以降、「離型フィルム」とする)の離型処理面に、実施例1〜3の(b)に示したコーティング位相差層用塗工液を塗布し、その後90℃で3分間乾燥して、コーティング位相差層を形成した。そのコーティング位相差層の表面に、実施例1〜3の(c)で用いた樹脂位相差板と同じ材質でかつ同じ面内位相差値を有し、片面に粘着剤層が設けられた位相差板〔住友化学(株)から販売されている“CSES430120Z6-F8-KY”(商品名)〕をその粘着剤層側で貼合して、樹脂位相差板/粘着剤層/コーティング位相差層/離型フィルムの四層構成とした。次に、その樹脂位相差板側表面に、実施例1〜3の(d)で用いたのと同じ粘着剤付き偏光板“SRW062AP6-HC2” をその粘着剤層側で貼合して、偏光板/粘着剤層/樹脂位相差板/粘着剤層/コーティング位相差層/離型フィルムの六層構成とした。そこから離型フィルムを剥ぎ取った後、露出したコーティング位相差層側で、アクリル系粘着剤を介してガラス板に貼合した。この状態で、実施例1〜3の(e2)と同様の鉛筆硬度試験機を用いた外力による光漏れの評価を行った。その結果、600gの荷重を加えた時点で光漏れが観察された。
複合位相差板の構成を概略的に示す断面模式図である。 複合光学部材の構成を概略的に示す断面模式図である。
符号の説明
10……複合位相差板、
11……透明樹脂からなる位相差板、
12……プライマー層、
14……コーティング位相差層
20……複合光学部材、
21……他の光学機能を示す光学層、
22……粘着剤層。

Claims (11)

  1. 透明樹脂からなる位相差板、プライマー層及び、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂とを含むコーティング位相差層がこの順に積層されてなり、該プライマー層は、水溶性の有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる水溶性有機金属化合物と水溶性樹脂とを含む組成物から形成されていることを特徴とする複合位相差板。
  2. 透明樹脂からなる位相差板は、面内で配向している透明樹脂フィルムからなる請求項1に記載の複合位相差板。
  3. プライマー層を構成する水溶性樹脂は、ポリビニルアルコール系樹脂である請求項1又は2に記載の複合位相差板。
  4. プライマー層を形成する組成物は、前記水溶性有機金属化合物以外の硬化剤をさらに含む請求項1〜3のいずれかに記載の複合位相差板。
  5. 水溶性有機金属化合物以外の硬化剤は、水溶性エポキシ樹脂である請求項4に記載の複合位相差板。
  6. 透明樹脂からなる位相差板の表面に、水溶性の有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる水溶性有機金属化合物と水溶性樹脂とが水を主体とする溶媒に溶解してなるプライマー層用塗工液を塗布し、そこから溶媒を除去してプライマー層を形成し、そのプライマー層の表面に、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂とが有機溶媒中に含有されてなるコーティング位相差層用塗工液を塗布し、そこから溶媒を除去してコーティング位相差層を形成することを特徴とする複合位相差板の製造方法。
  7. プライマー層用塗工液を塗布し、そこから溶媒を除去してプライマー層を形成した後、30〜80℃の温度で熱養生を行う請求項6に記載の方法。
  8. 請求項1〜5のいずれかに記載の複合位相差板に、他の光学機能を示す光学層が積層されていることを特徴とする複合光学部材。
  9. 他の光学層は、少なくとも偏光板を含む請求項8に記載の複合光学部材。
  10. 複合位相差板のコーティング位相差層側に偏光板が積層されている請求項9に記載の複合光学部材。
  11. 液晶セルの少なくとも一方の面に、請求項8〜10のいずれかに記載の複合光学部材が配置されていることを特徴とする液晶表示装置。
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