しかしながら、特許文献1に開示されたエキスパンションジョイント構造においては、水平方向のY方向とこのY方向に直交するX方向に移動可能とされているため、地震時に互いに直交する二方向以外の水平方向、すなわちY方向成分とX方向成分とを有する方向に、外部と免震建物とが大きな加速度をもって相対的に変位した場合には、この相対変位に追随できず、やはり外力が作用して損傷してしまうおそれがあった。また、間隔が縮んだ場合に、表面の伸縮自在なプレートが波打ち、大きな段差が生じる問題がある。
一方、図16に示すようなエキスパンションジョイント構造Aは、外部1と免震建物4とが互いに直交する二方向以外の水平方向に大きな加速度をもって相対的に変位した場合においても、平板状の渡し部6を移動可能にクランプ保持しているだけであるため、この相対変位に対し充分に追随できる反面、渡し部6をクランプ保持して構成されるため、支持部2、5と渡し部6の上面(通路面7)2a、5a、6aを面一にすることができず段差8が生じてしまう。このような段差8が形成されるエキスパンションジョイント構造Aを、外部1と免震建物4を繋ぐ通路に採用した場合には、例えば医療施設や老人福祉施設または公共施設などの免震建物4において、通行人の転倒を招いたり、ストレッチャーなどの医療・福祉用機器の通行難を招くという問題があった。また、図17に示すように、支持部2、5や渡し部6の上面、すなわち通路面7に例えば石材やタイルなどの仕上げ材9を固着して美観などの向上を図った場合には、仕上げ材9の厚さの分だけ段差8がさらに大きくなってしまうという問題があった。
本発明は、上記事情を鑑み、段差を生じさせずに通路面を形成可能であるとともに、免震建物と外部の水平方向の相対変位に確実に追随して外力を吸収できる免震建物用エキスパンションジョイント通路を提供することを目的とする。
上記の目的を達するために、この発明は以下の手段を提供している。
本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路は、免震建物と外部を繋ぐ通路面を形成するとともに、前記免震建物と前記外部の相対的な変位に伴って力学的に有害な外力が作用することがないように移動可能に設けられた免震建物用エキスパンションジョイント通路であって、前記免震建物には、該免震建物の水平方向の変位を許容する隙間と重なるように外側に突出し、突出方向先端が平面視で円弧状に形成された跳ね出し部が設けられ、前記外部には、平面視で円弧状の接続部が設けられており、平面視で円弧状の端部が周方向に沿って相対移動可能に接続された複数の通路部材が設けられ、前記通路部材は、前記通路部材同士の接続に供されていない端部が、前記跳ね出し部と前記接続部に周方向に沿って移動可能に接続され、前記跳ね出し部に接続される通路部材の延設方向と前記接続部に接続される通路部材の延設方向とが交差するように設けられるとともに、前記跳ね出し部と前記接続部と前記通路部材のそれぞれの上面が滑らかに繋がり略面一の前記通路面を形成していることを特徴とする。
また、本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路において、前記通路部材同士及び前記通路部材と前記跳ね出し部または前記接続部の各部材の接続部分には、平面視で円弧状を呈する案内溝または係合凸部が形成され、前記案内溝に前記係合凸部が係合されて、各部材同士が周方向に沿って相対移動可能に接続されていることが望ましい。
さらに、本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路においては、前記案内溝の内面及び前記係合凸部の外面の少なくとも一方に、前記案内溝に沿って前記係合凸部を滑らかに移動させるすべり材が取り付けられていることがより望ましい。
また、本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路においては、前記係合凸部と前記案内溝のいずれか一方に、ローラーが取り付けられていてもよい。
さらに、本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路において、前記外部には、前記通路部材の水平方向の変位を許容する隙間を画成した状態で前記通路部材を収容する凹部が設けられており、該凹部に収容された前記通路部材の内、隣接する通路部材に下方側から係合している通路部材には、前記凹部の底面に向けて突出し該通路部材を水平方向に移動可能に支持する支持部材が設けられていることが望ましい。
また、本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路において、前記支持部材は、下端側にローラーが具備されて形成されていることがより望ましい。
さらに、本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路においては、前記凹部の底面の前記通路部材と対向する部分に、前記支持部材が滑動可能に当接される滑動部材が設けられていてもよい。
本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路においては、免震建物の跳ね出し部と複数の通路部材と外部の接続部(各部材)が、それぞれ円弧の周方向に沿って移動可能に接続されていることによって、それぞれの接続部分で各部材が相対的に回動するように移動でき、互いに直交する二方向以外の水平方向に、外部と免震建物とが大きな加速度をもって相対変位した場合においても、各部材の回動によってこの相対変位に追随し、作用する外力を吸収することができる。これにより免震建物と外部を繋ぐエキスパンションジョイント通路が損傷されることを防止できる。
また、各部材がそれぞれの上面を滑らかに繋げて略面一の通路面を形成し、かつ各部材が相対的に回動して外力を吸収するように構成していることによって、通路面を相対変位時にも略面一に維持することができ、常に通路面に段差が形成されないため、例えば免震建物が医療施設や老人福祉施設または公共施設などであっても、通行人の転倒を招いたり、ストレッチャーなどの医療・福祉用機器の通行難を招くことがない。また、通路面に仕上げ材を設ける場合においても、各部材の上面が滑らかに繋がり面一とされているため、段差が生じない。
また、本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路において、各部材の接続部分には、平面視で円弧状を呈する案内溝または係合凸部が形成され、案内溝に係合凸部が係合されて、各部材同士が周方向に沿って相対移動可能に接続されていることによって、確実に各部材が接続され、かつこの案内溝に沿って各係合凸部が移動することで、各部材が相対的に回動し、確実に通路面を面一に維持しながら外力を吸収することができる。
さらに、本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路において、案内溝の内面と係合凸部の外面の少なくとも一方にすべり材を取り付けたり、係合凸部と案内溝のいずれか一方にローラーを取り付けることによって、案内溝に沿って係合凸部を滑らかに移動させることができ、これにより、免震建物と外部が相対的に変位した際に、この相対変位に免震建物用エキスパンションジョイント通路を確実に追随させて外力を吸収することが可能になる。
また、本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路において、外部に複数の通路部材を収容する凹部を設け、複数の通路部材の少なくとも1つの通路部材が支持部材で水平方向に移動可能に支持されることによって、例えば外部が地盤である場合に、地盤面と通路面を同レベルに配置することができ、この状態を維持して複数の通路部材を支持することができる。
さらに、本発明の免震建物用エキスパンションジョイント通路において、支持部材の下端側にローラーを設けたり、通路部材と対向する凹部の底面に支持部材を滑動可能に支持する滑動部材を設けることによって、確実に免震建物と外部の相対変位に免震建物用エキスパンションジョイント通路を追随させて外力を吸収することが可能になる。
以下、図1から図9を参照し、本発明の一実施形態に係る免震建物用エキスパンションジョイント通路について説明する。本実施形態は、免震建物と地盤などの外部を繋ぐ通路面を形成するとともに、免震建物と外部の相対的な変位に伴って力学的に有害な外力が作用することがないように移動可能に設けられた免震建物用エキスパンションジョイント通路に関する。
本実施形態の免震建物用エキスパンションジョイント通路Bは、図1及び図2に示すように、免震建物4の例えば玄関など出入り口の直下に位置する基礎梁4aに繋がり、この基礎梁4aの上面と面一の上面10aを備えて外側に突出した跳ね出し部10と、跳ね出し部10の突出方向先端10bに一端11aが繋がる第1通路部材(通路部材)11と、第1通路部材11の他端11bに一端12a側が繋がり、他端12bが外部1と繋がる第2通路部材(通路部材)12とが主な構成要素とされている。
免震建物4は、その基礎梁4aが、例えばせん断弾性係数の小さいゴムと鋼板を交互に積層したアイソレータなどの免震装置3に支持され、この免震装置3が地盤G上に形成された下部基礎14と免震建物4(基礎梁4a)の間に介装されている。また、下部基礎14は、免震建物4の下方に位置する部分が水平盤状に形成され、跳ね出し部10の突出方向先端10bよりも僅かに外側に位置する段差部14aによって、免震建物4の外側に位置する部分の下部基礎14が上方に配されている。さらに、免震建物4の外側に位置する下部基礎14の最外方に位置する部分は、垂直上向きに屈曲されこの部分の上方を向く面が地盤面と略面一とされている。これにより、免震建物4の直下に位置する下部基礎14は、免震建物4の下側を収容するように凹む第1凹部15を形成し、段差部14aから屈曲部分までの下部基礎14は、その上面(底面)が地盤面よりも下方に位置され、かつ第1凹部15の底面よりも上方に配されて第2凹部(凹部)16を形成している。また、第2凹部16の底面には、第2通路部材12の一端12a側の下面と対向する部分に、平板状の受け板17が固着されている。そして、この受け板17に、第2通路部材12の一端12a側を支持する支持部材18のローラー18aが当接されている。
跳ね出し部10は、図1から図3に示すように、跳ね出し部10の基端に位置する基礎梁4aの一側面4bと、下部基礎14の段差部14aの第1凹部15を画成する一側面14bとの隙間H1に重なるように、すなわち隙間H1を覆うように設けられている。また、跳ね出し部10の先端10bは、平面視で外側に凸の円弧状に形成されており、この先端10b側には、上面10a側から下方に向けて凹み、円弧状の先端10bに沿って延びる円弧状の第1案内溝(案内溝)10cが形成されている。さらに、この第1案内溝10cの底面(内面)には、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)製のすべり材10dが固着されている。
第1通路部材11は、図1から図4に示すように、平面視で跳ね出し部10と略同一の幅寸法を備える略長方形平板状に形成されている。また、第1通路部材11の長手方向両端部11a、11bは、ともに平面視で内側に凹の円弧状に形成されており、このうち一端11aは、跳ね出し部10の円弧状の先端10bの曲率半径と略等しい曲率半径を備え、他端11bは、詳細は後述する第2通路部材12の一端12a側の円弧状部12cの曲率半径と略等しい曲率半径を備えて形成されている。また、これら一端11aと他端11bには、それぞれ、上面11cに対し直交方向下向きに突出する係合凸部11d、11eが形成されている。これら係合凸部11d、11eは、円弧状の一端11a及び他端11bに沿ってそれぞれ延設されている。さらに、係合凸部11d、11eの突出方向先端(外面)には、例えばPTFE製のすべり材11f、11gが固着されている。そして、一端11a側の係合凸部11dは、跳ね出し部10の第1案内溝10cに、他端11b側の係合凸部11eは、第2通路部材12の後述する第2案内溝12eに、それぞれ各案内溝10c、12eに沿って滑動可能(移動可能)に係合される。これにより、第1通路部材11は、一端11aが跳ね出し部10に、他端11bが第2通路部材12に支持されて、懸架状態で設置されている。なお、図3に示すように、第1通路部材11の一端11a側には、第1案内溝10cと係合凸部11dの係合状態を保持する脱落防止部材11hが設けられている。
第2通路部材12は、図1及び図2に示すように、一端(端部)12a側の平面視略円形状に形成された円弧状部12cと、他端(端部)12b側の平面視略長方形状の平板部12dとが一体に繋がって形成されている。また、第2通路部材12は、円弧状部12cと平板部12dが、互いの上面を同一水平面上に位置させて繋がり、外部1の後述する接続部1bに向けて延設されている。また、円弧状部12cは、その直径が平板部12dの短手方向の幅よりも大きく形成され、曲率半径が第1通路部材11の他端11bの曲率半径と略等しく形成されている。さらに、円弧状部12cには、図1、図2及び図4に示すように、外周側に、上面から下方に向けて凹み、かつ周方向に沿って延設された第2案内溝(案内溝)12eが形成されている。この第2案内溝12eの底面(内面)には、すべり材12hが固着されている。
また、円弧状部12cの下面には、その下端が下部基礎14に固着された受け板17に当接されて円弧状部12cを支持する複数の略柱状の支持部材18が取り付けられている。この支持部材18の下端には、例えば2方向ローラーなどのローラー18aが具備されており、これにより、円弧状部12c、すなわち第2通路部材12の一端12a側が下部基礎14上で移動可能に支持されている。
一方、第2通路部材12の平板部12dは、図1及び図5に示すように、円弧状部12cと一体に繋がる一端と反対に位置する他端12bが、平面視で内側に凹の円弧状に形成されている。また、この他端12bには、上面に対し直交方向下向きに突出する係合凸部12fが形成され、この係合凸部12fが円弧状の他端12bに沿って延設されている。さらに、この係合凸部12fには、その突出方向先端(外面)に、第1通路部材11の係合凸部11d、11eと同様、すべり材12gが固着されている。
また、第2通路部材12の他端12bと対向する外部1の第2凹部16を画成する一端面1a側には、第2通路部材12の他端12bに対し略等しい曲率半径を備え、平面視で第2凹部16の内側に凸の円弧状に形成された接続部1bが設けられている。さらに、この接続部1bには、上面から下方に向けて凹み、かつその周方向に沿って延設された第3案内溝(案内溝)1cが形成されている。また、第3案内溝1cの底面(内面)には、第1及び第2案内溝10c、12eと同様に、すべり材1dが固着されている。そして、この第3案内溝1cに、第2通路部材12の係合凸部12fが周方向に沿って滑動可能(移動可能)に係合されて、第2通路部材12の他端12bが支持されている。
上記のように構成された免震建物用エキスパンションジョイント通路Bは、第2凹部16を画成する外部1の各側面と、第1通路部材11及び第2通路部材12との間に、第1通路部材11及び第2通路部材12の水平方向の変位を許容する隙間H2を画成した状態で、第1通路部材11及び第2通路部材12が第2凹部16内に収容されて設けられている。また、第1通路部材11の上面(通路面20の一部)の延設方向と、第2通路部材12の上面(通路面20の一部)の延設方向とが交差するように、第1通路部材11と第2通路部材12が設置されている。すなわち、第1通路部材11の長手方向に延びる中心線O1に対し、平板部12dの長手方向に延び、円弧状部12cの中心O2を通る第2通路部材12の中心線O3が交差(本実施形態では直交)するように、第1通路部材11と第2通路部材12が設けられている。そして、跳ね出し部10と第1通路部材11と第2通路部材12と接続部1bは、それぞれの上面が滑らかに繋がって略面一の通路面20を形成し、少なくとも第1通路部材11と第2通路部材12で形成される部分の通路面20が外部1の地盤面と同レベルに配されている。
ついで、上記の構成からなる免震建物用エキスパンションジョイント通路Bの作用及び効果について説明する。
このように構成された免震建物用エキスパンションジョイント通路Bでは、図6(a)に示すように、地震の発生とともに、基礎梁4aと下部基礎14の隙間H1が縮まるように免震建物4と外部1が水平方向のY1方向に相対変位した場合、跳ね出し部10と第1通路部材11がともに相対位置を変えることなくY1方向に変位する。そして、第2通路部材12の円弧状部12cは、支持部材18のローラー18aが受け板17上を移動することにより、Y1方向に移動する。これとともに、第2案内溝12e内を第1通路部材11の他端11b側の係合凸部11eが矢印T1方向に相対的に移動し、第3案内溝1c内を第2通路部材12の他端12b側の係合凸部12fが矢印T2方向に相対的に移動して、第2通路部材12が中心線O3を反時計回りに回動させるように移動する。このとき、本実施形態においては、第2案内溝12e及び第3案内溝1cの底面や、これら案内溝1c、12e内を移動する係合凸部11e、12fの先端にすべり材1d、11g、12h、12gが設けられていることにより、係合凸部11e、12fが案内溝1c、12e内を滑らかに滑動して第2通路部材12をY1方向の相対変位に応じて好適に回動させる。これにより、通路面20を面一に維持しつつ免震建物4と外部1のY1方向の相対変位に伴い免震建物用エキスパンションジョイント通路Bに作用しようとする力学的に有害な外力が吸収される。
一方、基礎梁4aと下部基礎14の隙間H1が拡がるように免震建物4と外部1が水平方向のY2方向に相対変位した場合には、図6(b)に示すように、跳ね出し部10と第1通路部材11がともに相対位置を変えることなくY2方向に変位する一方で、円弧状部12cが第1通路部材11に引っ張られてY2方向に変位する。これとともに、第2案内溝12e内を第1通路部材11の他端11b側の係合凸部11eが矢印T3方向に相対的に移動し、第3案内溝1c内を第2通路部材12の他端12b側の係合凸部12fが矢印T4方向に相対的に移動して、第2通路部材12が中心線O3を時計回りに回動させるように移動する。この場合においても、前述と同様、すべり材1d、11g、12h、12gによって、第2通路部材12がY2方向の相対変位に応じて好適に回動される。これにより、通路面20を面一に維持しつつ免震建物4と外部1のY2方向の相対変位に伴い免震建物用エキスパンションジョイント通路Bに作用しようとする力学的に有害な外力が吸収される。
さらに、基礎梁4aと下部基礎14の対向する側面同士で画成された隙間H1を維持して免震建物4と外部1がY1方向に直交する水平方向のX1方向に相対変位した場合には、図7(a)に示すように、第1通路部材11の一端11a側が、X1方向に変位した跳ね出し部10に引っ張られてX1方向に変位する。そして、第1案内溝10cに沿って一端11a側の係合凸部11dが矢印T5方向に相対的に移動して、第1通路部材11がその中心線O1を反時計回りに回動させるように移動する。また、この回動に伴って僅かに円弧状部12cを免震建物4側(Y2方向側)に引っ張る。このとき、第2案内溝12e内を第1通路部材11の他端11b側の係合凸部11eが矢印T3方向に相対的に移動し、第3案溝1c内を平板部12dの係合凸部12fが矢印T4方向に相対的に移動する。これにより、第2通路部材12がその中心線O3を時計回りに回動させるように移動する。この場合のおいても、各案内溝1c、10c、12eの底面や各係合凸部11d、11e、12fの先端にすべり材1d、10d、11f、11g、12g、12hが設けられることで、第1通路部材11や第2通路部材12がX1方向の相対変位に応じて好適に回動される。よって、通路面20を面一に維持しつつ免震建物用エキスパンションジョイント通路Bに作用しようとする力学的に有害な外力が吸収される。
また、基礎梁4aと下部基礎14の隙間H1を維持して免震建物4と外部1がY2方向に直交する水平方向のX2方向に相対変位した場合には、図7(b)に示すように、第1通路部材11の一端11a側が、X2方向に変位した跳ね出し部10に引っ張られてX2方向に変位する。そして、第1案内溝10cに沿って一端11a側の係合凸部11dが矢印T6方向に相対的に移動して、第1通路部材11がその中心線O1を時計回りに回動させるように移動する。また、この回動に伴って僅かに第2通路部材12の円弧状部12cを免震建物4側(Y2方向側)に引っ張る。このとき、第2案内溝12e内を第1通路部材11の係合凸部11eが矢印T3方向に相対的に移動し、第3案内溝1c内を平板部12dの係合凸部12fが矢印T4方向に相対的に移動する。これにより、第2通路部材12が中心線O3を時計回りに回動させるように移動する。この場合においても、前述と同様、すべり材1d、10d、11f、11g、12g、12hによって、第1通路部材11や第2通路部材12がX2方向の相対変位に応じて好適に回動される。よって、通路面20を面一に維持しつつ免震建物用エキスパンションジョイント通路Bに作用しようとする力学的に有害な外力が吸収される。
他方、外部1に対して免震建物4が水平方向のY1方向成分とX1方向成分を含むように相対変位した場合には、図8(a)に示すように、第1通路部材11の両端11a、11b側の係合凸部11d、11eが、それぞれ第1案内溝10cと第2案内溝12e内を矢印T5方向と矢印T1方向に相対的に移動し、第2通路部材12の係合凸部12fが第3案内溝1c内を矢印T2方向に相対的に移動する。これにより、第1通路部材11と第2通路部材12は、それぞれの中心線O1、O3を反時計回りに回動させるように移動する。
また、Y2方向の成分とX2方向の成分を含むように免震建物4と外部1が相対変位した場合には、図8(b)に示すように、第1通路部材11の両端11a、11b側の係合凸部11d、11eが、それぞれ第1案内溝10cと第2案内溝12e内を矢印T6方向と矢印T3方向に相対的に移動し、第2通路部材12の係合凸部12fが第3案内溝1c内を矢印T4方向に相対的に移動する。これにより、第1通路部材11と第2通路部材12は、それぞれの中心線O1、O3を時計回りに回動させるように移動する。
さらに、Y2方向成分とX1方向成分を含むように免震建物4と外部1が相対変位した場合には、図9(a)に示すように、第1通路部材11の両端11a、11b側の係合凸部11d、11eが、それぞれ第1案内溝10cと第2案内溝12e内を矢印T5方向と矢印T3方向に相対的に移動し、第2通路部材12の係合凸部12fが第3案内溝1c内を矢印T4方向に相対的に移動する。これにより、第1通路部材11は、その中心線O1を反時計回りに回動させるように移動し、第2通路部材12は、中心線O3を時計回りに回動させるように移動する。
また、Y1方向成分とX2方向成分を含むように免震建物4と外部1が相対変位した場合には、図9(b)に示すように、第1通路部材11の両端11a、11b側の係合凸部11d、11eが、それぞれ第1案内溝10cと第2案内溝12e内を矢印T6方向と矢印T1方向に相対的に移動し、第2通路部材12の係合凸部12fが第3案内溝1c内を矢印T2方向に相対的に移動する。これにより、第1通路部材11は、その中心線O1を時計回りに回動させるように移動し、第2通路部材12は、中心線O3を反時計回りに回動させるように移動する。
したがって、本実施形態の免震建物用エキスパンションジョイント通路Bにおいては、第1通路部材11が免震建物4の跳ね出し部10に移動可能に接続され、第2通路部材12が外部1の接続部1b及び第1通路部材11に移動可能に接続されて、かつそれぞれの接続部分が円弧状に形成されその周方向に沿って移動できるように構成されていることにより、地震発生時に免震建物4と外部1が水平方向の直交する二方向のみならず、これらの両方向の成分を含む全方向に相対変位した場合においても、第1通路部材11及び第2通路部材12が、通路面20を面一に維持した状態で回動して力学的に有害な外力を吸収することが可能になる。これにより、例えばY方向成分とX方向成分とを含む方向に大きな加速度をもって外力が作用した場合においても、確実に追随してこの外力を吸収することができ、免震建物用エキスパンションジョイント通路Bが損傷することを確実に防止できる。
また、このように外力を吸収できることで、跳ね出し部10と第1通路部材11と第2通路部材12と接続部1bが、それぞれの上面を滑らかに繋げて略面一の通路面20を形成し、常時この通路面20を面一に維持することができるため、すなわち段差が生じることがないため、例えば免震建物4が医療施設や老人福祉施設または公共施設などであっても、通行人の転倒を招いたり、ストレッチャーなどの医療・服使用機器の通行難を招くという問題を解消できる。
さらに、本実施形態の免震建物用エキスパンションジョイント通路Bでは、跳ね出し部10の先端と、第2通路部材12の円弧状部12cと、外部1の接続部1cとにそれぞれ案内溝1c、10c、12eが形成され、第1通路部材11の一端11a及び他端11b、第2通路部材12の他端12bに係合凸部11d、11e、12fが形成されていることにより、それぞれの案内溝1c、10c、12eにそれぞれ係合凸部11d、11e、12fを係合させることで、確実に各部材が接続され、かつこれら案内溝1c、10c、12eに沿って各係合凸部11d、11e、12fを移動させることができる。また、第2通路部材12の一端12a側を支持する支持部材18が設けられ、この支持部材18のローラー18aが下部基礎14に設けた受け板17に当接されていることによって、第1通路部材11及び第2通路部材12の上面を確実に面一にした状態で保持することができるとともに、支持部材18とともに第2通路部材12を受け板17上で移動させることができ、外力が作用した第1通路部材11及び第2通路部材12を確実に水平方向に相対変位させてその外力を吸収できる。
さらに、第1通路部材11と、第2通路部材12とが交差するように接続されていることによって、免震建物4と外部1の相対変位に対する応答性を高めることができ、免震建物4と外部1が相対的に変位した際に、即時に第1通路部材11や第2通路部材12が移動して外力を吸収することができる。
また、各案内溝1c、10c、12eの内面や各係合凸部11d、11e、12fの外面にすべり材1d、10d、11f、11g、12g、12hが取り付けられていることによって、案内溝1c、10c、12eに沿って係合凸部11d、11e、12fを滑らかに移動させることができ、免震建物4と外部1が相対的に変位した際に、確実に第1通路部材11や第2通路部材12を回動するように移動させ、その応答性を高めることができる。
以上、本発明に係る免震建物用エキスパンションジョイント通路Bの実施形態について説明したが、本発明は上記の一実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。例えば、本実施形態では、外部1に第2凹部(凹部)16が形成され、この第2凹部16に第1通路部材11及び第2通路部材12が収容されているものとしたが、第2凹部16が形成されずに、第1通路部材11及び第2通路部材12が、通路面20を地盤面よりも上方に配して設置されていてもよい。また、本実施形態では、外部1が地盤であるものとして説明を行なったが、例えば外部1を建物として、この建物の外側に凸の円弧状の接続部1bが設けられていてもよい。
また、第1通路部材11と第2通路部材12は、図1において直交するように設けられているが、平行とならない角度で交差して設けられていれば、直交している必要はない。さらに、跳ね出し部10と第1通路部材11は、幅寸法が略同一であるものとしたが、異なる幅で形成されてもよい。
さらに、本実施形態では、第1通路部材11の一端11aと他端11b、及び第2通路部材12の他端12bが、内側に凹の円弧状に形成され、第2通路部材12の一端12a側と跳ね出し部10と接続部1bが、外側に凸の円弧状に形成されているものとしたが、各部材がそれぞれの円弧の周方向に移動可能に接続されていればよく、例えば本実施形態の円弧状の凹凸を逆にして跳ね出し部10と第1通路部材11と第2通路部材12と接続部1bが形成されていてもよい。
また、各案内溝1c、10c、12eに移動可能に係合される係合凸部11d、11e、12fは、第1通路部材11や第2通路部材12の端部が略L字状を呈するように突出して形成されているものとしたが、例えば図10に示すように、第1通路部材11や第2通路部材12の下面から下方に延びる束柱状に形成されてもよい。さらに、図11に示すように、係合凸部11d、11e、12fの先端(下端)に、すべり材11f、11g、12gにかえてローラー21や戸車を設けてもよく、さらに、案内溝1c、10c、12eの底面に、すべり材1d、10d、12hではなく、例えば金属製の受け板22が設けられてもよい。この場合においても、ローラー21や戸車によって係合凸部11d、11e、12fを案内溝1c、10c、12eに沿って滑らかに移動させることができ、本実施形態と同様の効果を得ることができる。また、案内溝1c、10c、12eの内面にローラーを取り付けても、係合凸部11d、11e、12fを滑らかに移動させることができる。
また、本実施形態では、第2通路部材12に、ローラー18aを備えた支持部材18が設けられて、第2通路部材12の水平方向の移動を可能にするものとして説明を行なったが、支持部材18の下端にすべり材を設け、この支持部材18が当接支持される下部基礎14の受け板17を、例えばPTFE製で平板状の滑動部材にかえてもよく、この場合においても、支持部材18をすべり材と滑動部材によって水平方向に滑らかに移動させることができ、ひいては第2通路部材12を滑らかに移動させることができる。
さらに、本実施形態では、第1通路部材11や第2通路部材12に、仕上げ材9が具備されていないものとして説明を行なったが、図12に示すように、第1通路部材11や第2通路部材12に、例えば石材やタイルなどの仕上げ材9を具備させて美観などの向上を図ってもよく、この場合には、仕上げ材9の上面が跳ね出し部10や外部1の接続部1bと滑らかに繋がって略面一となるように、第1通路部材11や第2通路部材12が設置されれば、段差のない好適な通路面20を形成することが可能である。
また、本実施形態では、エキスパンションジョイント通路Bが、第1通路部材11と第2通路部材12の2つの通路部材を備えて構成されているものとしたが、例えば、図13に示すように、第2通路部材12の円弧状部12c(30)と平板部12d(12)を分離してそれぞれ独立した通路部材12、30とし、円弧状部30(12c)の周方向に沿って移動可能に平板部12(12d)が接続されてもよい。さらに、図14に示すように、第1通路部材11の他端に円弧状部30(12c)が設られ、円弧状部30(12c)に対し、分離した平板部12d(12)が円弧状部30の周方向に沿って移動可能に接続されていてもよい。また、図15に示すように、2つの平板部12d(通路部材31、32)が設けられ、これらの平板部12dが円弧状部30の周方向に沿って移動可能に接続されていてもよい。