以下、図面に沿い、本発明の実施形態を説明する。図1は本発明をフロントエンジン・リヤドライブ(FR)車用の縦置式の自動変速機に適用した第1実施形態をスケルトンで示す。この自動変速機は、入力軸11に連結されて反力要素であるサンギヤS1を固定することにより出力要素であるキャリアC1に減速回転を出力する減速用プラネタリギヤG1と、減速用プラネタリギヤG1からの減速回転を入力として変速回転を出力するプラネタリギヤセットG2とにより多段の前進6速・後進1速の変速を達成する自動変速機とされている。
更に各部について詳述すると、この自動変速機では、その機構の最前部に、図示しないエンジンに連結されるロックアップクラッチ20付のトルクコンバータ2が配置され、その後部に変速機構が配置された構成が採られている。トルクコンバータ2は、ポンプインペラ21と、タービンランナ22と、それらの間に配置されたステータ23と、ステータ23を変速機ケース10に一方向回転係合させるワンウェイクラッチ24と、ワンウェイクラッチのインナレースを変速機ケース10に固定するステータシャフト25とを備える。
減速用プラネタリギヤG1は、シンプルプラネタリギヤで構成され、その一要素である入力要素としてのリングギヤR1を入力軸11に連結され、減速回転の出力要素としてのキャリアC1を多板クラッチC−1を介してプラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3に連結されるとともに、多板クラッチC−3を介して同じくプラネタリギヤセットG2の大径のサンギヤS2に連結され、反力を取る固定要素としてのサンギヤS1を変速機ケース10に固定されている。
変速機構の主体をなすプラネタリギヤセットG2は、大小径の異なる一対のサンギヤS2,S3と、互いに噛合して一方が大径のサンギヤS2に噛合するとともにリングギヤR3に噛合し、他方が小径のサンギヤS3に噛合するロングピニオンP2及びショートピニオンP3を支持するキャリアC2(C3)からなるラビニヨタイプのギヤセットで構成されている。そして、大径のサンギヤS2は、バンドブレーキからなるブレーキB−1と、それに並列するワンウェイクラッチF−1とその係合を有効にする多板ブレーキB−2によりケース10に係止可能とされ、キャリアC2(C3)は、並列するワンウェイクラッチF−2と多板ブレーキB−3によりケース10に係止可能とされている。プラネタリギヤセットG2の非減速回転の入力要素としてのキャリアC2(C3)は、多板クラッチC−2を介して入力軸11に連結され、変速回転の出力要素としてのリングギヤR3は、出力軸19に連結されている。
こうした構成からなる自動変速機は、図示しない電子制御装置と油圧制御装置とによる制御で、運転者により選択されたレンジに応じた変速段の範囲で車両負荷と車速に基づき、変速を行う。図2は各クラッチ、ブレーキ及びワンウェイクラッチの係合及び解放(○印で係合、無印で解放、△印でエンジンブレーキ時のみの係合、●印で変速段の達成に直接作用しない係合を表す)で達成される変速段を図表化して示す。また、図3は各クラッチ、ブレーキ及びワンウェイクラッチの係合(●印でそれらの係合を表す)により達成される変速段と、そのときの各変速要素の回転数比との関係を速度線図で示す。
図2及び図3を併せ参照してわかるように、第1速(1st)は、クラッチC−1 とブレーキB−3の係合(本形態において、作動表を参照してわかるように、このブレーキB−3の係合に代えてワンウェイクラッチF−2の自動係合が用いられているが、この係合を用いている理由及びこの係合がブレーキB−3の係合に相当する理由については後に詳述する。)により達成される。この場合、図1を参照して、入力軸11から減速用プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチC−1経由でプラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3に入力され、ワンウェイクラッチF−2の係合により係止されたキャリアC2(C3)に反力を取って、リングギヤR3の最大減速比の減速回転が出力軸19に出力される。
次に、第2速(2nd)は、クラッチC−1 とブレーキB−1の係合に相当するワンウェイクラッチF−1の係合とそれを有効にするブレーキB−2の係合(これらの係合がブレーキB−1の係合に相当する理由についても後に詳述する。)により達成される。この場合、入力軸11から減速用プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチC−1経由でプラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3に入力され、ブレーキB−2及びワンウェイクラッチF−1の係合により係止された大径のサンギヤS2に反力を取って、リングギヤR3の減速回転が出力軸19に出力される。このときの減速比は、図3に見るように、第1速(1st)より小さくなる。
また、第3速(3rd)は、クラッチC−1とクラッチC−3の同時係合により達成される。この場合、入力軸11から減速用プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチC−1とクラッチC−3経由で同時にプラネタリギヤセットG2の大径のサンギヤS2と小径のサンギヤS3に入力され、プラネタリギヤセットG2が直結状態となるため、両サンギヤS2,S3への入力回転と同じリングギヤR3の回転が、入力軸11の回転に対しては減速された回転として、出力軸19に出力される。
更に、第4速(4th)は、クラッチC−1とクラッチC−2の同時係合により達成される。この場合、一方で入力軸11から減速用プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチC−1経由でプラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3に入力され、他方で入力軸11からクラッチC−2経由で入力された非減速回転がキャリアC2(C3)に入力され、2つの入力回転の中間の回転が、入力軸11の回転に対しては僅かに減速されたリングギヤR3の回転として出力軸19に出力される。
次に、第5速(5th)は、クラッチC−2とクラッチC−3の同時係合により達成される。この場合、一方で入力軸11から減速用プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチC−3経由でプラネタリギヤセットG2の大径のサンギヤS2に入力され、他方で入力軸11からクラッチC−2経由で入力された非減速回転がキャリアC2(C3)に入力され、リングギヤR3の入力軸11の回転より僅かに増速された回転が出力軸19に出力される。
そして、第6速(6th)は、クラッチC−2とブレーキB−1の係合により達成される。この場合、入力軸11からクラッチC−2経由で非減速回転がプラネタリギヤセットG2のキャリアC2(C3)にのみ入力され、ブレーキB−1の係合により係止された大径のサンギヤS2に反力を取り、リングギヤR3の更に増速された回転が出力軸19に出力される。
なお、後進(Rev)は、クラッチC−3とブレーキB−3の係合により達成される。この場合、入力軸11から減速用プラネタリギヤG1を経て減速された回転がクラッチC−3経由でプラネタリギヤセットG2の大径のサンギヤS2に入力され、ブレーキB−3の係合により係止されたキャリアC2(C3)に反力を取り、リングギヤR3の逆転が出力軸19に出力される。
このようにして達成される各変速段は、図3の速度線図上で、リングギヤR3(このリングギヤは、大径のサンギヤS2に対しては理論上別個のリングギヤR2を構成する)の速度比を示す○印の上下方向の間隔を参照して定性的にわかるように、各変速段に対して比較的等間隔の良好な速度ステップとなる。
ここで、先に触れたワンウェイクラッチF−2とブレーキB−3との関係及びワンウェイクラッチF−1と両ブレーキB−1,B−2との関係について説明する。上記の第1速と第2速時の両ブレーキB−1,B−3の係合・解放関係にみるように、これら両ブレーキは、両変速段間でのアップダウンシフト時に、一方の解放と同時に他方の係合が行われる、いわゆる掴み替えされる摩擦要素となる。こうした摩擦要素の掴み替えは、それらを操作する油圧サーボの係合圧と解放圧の精密な同時制御を必要とし、こうした制御を行うには、そのためのコントロールバルブの付加や油圧回路の複雑化等を招くこととなる。そこで、本形態では、第1速と第2速とで、キャリアC2(C3)にかかる反力トルクが逆転するのを利用して、ワンウェイクラッチF−2の係合方向を第1速時の反力トルク支持方向に合わせた設定とすることで、ワンウェイクラッチF−2に実質上ブレーキB−3の係合と同等の機能を発揮させて、第1速時のブレーキB−3の係合に代えて(ただし、ホイール駆動の車両コースト状態ではキャリアC2(C3)にかかる反力トルクの方向がエンジン駆動の状態に対して逆転するので、エンジンブレーキ効果を得るためには、図2に△印で示すようにブレーキB−3の係合を必要とする)、キャリアC2(C3)の係止を行っているわけである。したがって、変速段を達成する上では、ワンウェイクラッチを設けることなく、ブレーキB−3の係合により第1速を達成する構成を採ることもできる。
上記と同様の関係が大径のサンギヤS2の場合について成り立ち、この場合は、ワンウェイクラッチF−1の係合方向を第2速時の反力トルク支持方向に合わせた設定とすることで、ワンウェイクラッチF−1に実質上ブレーキB−1の係合と同等の機能を発揮させることができる。ただし、この大径のサンギヤS2は、キャリアC2(C3)とは異なり、第2速時のエンジンブレーキ効果を得るために係合するだけでなく、第6速達成のためにも係止される変速要素であるため、ブレーキB−1が必要となる。また、大径のサンギヤS2は、図3の速度線図でも分かるように、第1速達成時には入力回転方向に対して逆方向に回転するが、第3速以上の変速段の場合は、入力回転方向と同じ方向に回転する。したがって、ワンウェイクラッチF−1は、直接固定部材に連結することができないため、ブレーキB−2との直列配置により係合状態の有効性を制御可能な構成としている。
次に、図4は上記ギヤトレインの変速機構部を更に具体化した模式断面で示す。本発明の基本的特徴に従い、自動変速機は、少なくとも上記第1速駆動時に、減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1と、プラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3とにそれぞれ発生するスラスト力F1,F3が伝達される伝達経路を有する。そして、この伝達経路における減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1のスラスト力F1の方向と、プラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3のスラスト力F3の方向が、第1速駆動時に互いに異なる方向となるように、それぞれの要素のはす歯のねじり方向を設定している。この形態の場合、ねじり方向は、上記互いに異なる方向のうち、減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1と、プラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3に発生するスラスト力が、第1速駆動時に互いに向き合う方向が選択されている。具体的には、入力軸11の回転方向を、その前側から見て、図示のように時計回りとした場合、はす歯のねじり方向を、減速用プラネタリギヤG1のピニオンP1については、同じ時計回り方向、プラネタリギヤセットG2のロングピニオンP2については、反時計回り方向のねじりを設定している。当然ながら、ピニオンP1に噛合するリングギヤR1とロングピニオンP2にショートピニオンP3を介して噛合するリングギヤR3も含めて、他の要素のはす歯のねじり方向は、これに見合った方向とされる。
このギヤトレインは、減速用プラネタリギヤG1とプラネタリギヤセットG2に生じるスラスト力を伝達する伝達経路に多数のベアリングを有する。これらベアリングのうち、第1ベアリング31は、減速用プラネタリギヤG1のサンギヤS1と、リングギヤR1に入力回転を伝達する連結部材12との間に配置されている。また、一対の第2ベアリング32,33は、連結部材12とプラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3の延長部との間に配置されている。更に、一対の第3ベアリング36,37は、プラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3と、キャリアC2(C3)に入力回転を伝達する他の連結部材13との間に配置されている。そして、同じく一対の第4ベアリング38,39は、他の連結部材13とケース10との間に配設されている。したがって、これらのベアリングのうち、第1ベアリング31は、共通の伝達経路においてプラネタリギヤセットG2の一要素である小径のサンギヤS3に作用するスラスト力F3と減速用プラネタリギヤG1の一要素であるリングギヤR1に作用するスラスト力F1との差分のスラスト力を受ける。更に、プラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3の延長部とクラッチC−1のハブ側部材とワンウェイクラッチF−2との間には、大径のサンギヤS2の両方向のスラスト力を受ける一対のベアリング34,35が配設されている。
本形態では、減速用プラネタリギヤG1の反力要素であるサンギヤS1は、ケース10に固定されている。この構成は、サンギヤS1を他の固定手段を介してケースに固定する場合のように、サンギヤとケースとの間にもう一つのスラストベアリングを配設する必要性を排除し、その分の変速機の軸方向寸法の増大を避けるものである。この構成により、共通の伝達経路に伝達されるスラスト力は、ベアリング31を介してケース10に伝達される。
また、本形態では、プラネタリギヤセットG2は、ラビニヨタイプのプラネタリギヤセットとされ、そのリングギヤR3は、ロングピニオンP2に噛合し、ロングピニオンP2は、その一方端で大径の第1サンギヤS2に噛合し、リングギヤR3は、ロングピニオンP2の他方端に噛合する構成が採られている。この構成は、キャリアC2(C3)の共通化によりプラネタリギヤセットG2の軸方向寸法の短縮に役立っている。
また、入力軸11は、他の連結部材13及びクラッチC−2を介してプラネタリギヤセットG2のキャリアC3(C2)に連結され、プラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3と他の連結部材13との間に第3ベアリング36,37が配設されて、ケース10と他の連結部材13との間に第4ベアリング38,39が配設されている。これにより、後進駆動時、減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1のスラスト力F1は、第2ベアリング32,33、第3ベアリング36,37及び第4ベアリング38,39を介してケース10に伝達される。
図5及び図6は、前記した各変速段におけるスラスト力の変化を模式断面上で示す。図5を参照(ただし、各部材を表す符号については、図4を参照)して、第1速(1st)駆動時は、動力伝達が、減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1、ピニオンP1及びキャリアC1、クラッチC−1(係合状態を図上で○印を付して示す。他の係合要素について同じ)、プラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3、ショートピニオンP3及びロングピニオンP2、リングギヤR3を経て行われる。したがって、前記したはす歯のねじり方向の関係から、減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1については、サンギヤS1に生じる前方へのスラスト力(図に左向き矢印で方向を示す)がケース10により支承され、その反力としての後方へのスラスト力(図に右向き矢印で示す)F1が、図に太線を付して経路示すように、リングギヤR1を入力軸11に連結する連結部材12に伝達される。一方、プラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3については、リングギヤR3の後方へのスラスト力(図に右向き矢印で示す)が、図に●印を付して経路を示すように、ベアリング39を介して直近のケース10で支持され、その反力としての前方へのスラスト力(図に左向き矢印で示す)F3が、同様に図に●印を付して経路を示すように、サンギヤS3の延長部から第2ベアリング33,32を経て連結部材12に伝達される。こうして連結部材12には、両スラスト力が互いに打ち消し合う方向にかかり、結果として、ベアリング31には軽減された前向きのスラスト力F3−F1が掛かることになる。ここで、前記第1速駆動時の駆動とは、エンジンによって変速機が回され、車両が増速しようとする状態をさす。逆に、コーストとは、車両(詳しくは車輪)によって変速機が回され、車両が減速しようとする状態をさす。
図7は、各変速段での駆動時に各ベアリングに掛かるスラスト力を図表化して示す。この図表に見るように、各ベアリング32,33にはプラネタリギヤセットG2のスラスト力F3がそのまま掛かるのに対して、ベアリング31には上記スラスト力から減速プラネタリギヤG1のスラスト力F1を差し引いたスラスト力F3−F1が掛かることが解かる。なお、この図表における数値は、減速プラネタリギヤG1とプラネタリギヤセットG2共に、はす歯のねじり角度を25°とした場合のスラスト力係数を表す。この値は、減速プラネタリギヤG1、プラネタリギヤセットG2の大径のサンギヤS2、小径のサンギヤS3及びリングギヤR3(R2)それぞれの分担トルクから求めたものである。
次に、第2速(2nd)駆動時は、動力伝達は第1速時と同様に、プラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3、ショートピニオンP3及びロングピニオンP2、リングギヤR3を経て行われ、この場合は、ワンウェイクラッチF−1とブレーキB−2の係合による係止で、大径のサンギヤS2も反力トルクを分担することになるので、スラスト力F2が作用することにより、図に○印と■印で経路を示すように、リングギヤR3のスラスト力F4とサンギヤS2のスラスト力F2がベアリング39に掛かる。また、図に●印を付して経路を示すベアリング31に掛かるスラスト力についても、図7に示すように第1速時と同様となる。
次に、第3速(3rd)駆動時は、動力伝達が、第2速に対して大径のサンギヤS2が回転している点のみ相違し、トルク伝達に関与する要素のトルク分担上で特に異なるところがないため、スラスト力の関係は、図7を参照して解かるように、その値が減速比の減少に伴って小さくなることを除いては、第2速駆動時と全く同様となる。
更に、第4速(4th)駆動時は、動力伝達が、前記第3速に対して、大径のサンギヤS2からのトルク伝達がなくなった状態で行われる。したがって、図に●印を付して示す共通の伝達経路を経て前方に伝わるスラスト力の関係は、その値が減速比が小さくなった分だけ小さい点を除いて、第3速駆動時と同様である。また、後方に伝わるスラスト力については、大径のサンギヤS2のスラスト力F2分がなくなった関係となる。
次に、図6に示す第5速(5th)駆動時は、動力伝達の様相が異なり、プラネタリギヤセットG2の大径のサンギヤS2に減速回転、キャリヤC2(C3)に非減速回転が入力される結果、大径のサンギヤS2は、リングギヤR3の出力に対してロングピニオンP2を介する駆動トルクを受ける状態となる。この結果、大径のサンギヤS2に掛かるスラスト力F2は逆向きとなり、このスラスト力F2が、図示●印の経路でベアリング34及び共通の伝達経路の各ベアリング33,32を経て第1ベアリング31に掛かる。そして、第1ベアリング31には、減速プラネタリギヤG1による同方向のスラスト力F1も作用するので、両者を加えたスラスト力F1+F2が掛かることになる。しかしながら、この変速段では、増速により伝達トルクが小さく、図7を参照して明らかなように、スラスト力F2自体が第1速や第2速のときと比較して極めて小さいため、ベアリング負荷は、それらの変速段のときより小さく、第1ベアリング31でのスラスト力の重なりは特に問題とはならない。
更に、第6速(6th)駆動時は、動力伝達が、プラネタリギヤセットG2側のみで、ロングピニオンP2とリングギヤR3間で成されるようになり、大径のサンギヤS2が反力トルクを支持する関係になる。このときにリングギヤR3と大径のサンギヤS2に掛かるトルクは入力回転に対する増速により更に小さくなるため、スラスト力も小さくなる。この場合、リングギヤR3のスラスト力F4は、図示●印の経路でベアリング39を介してケース10に支持され、大径のサンギヤS2のスラスト力F2は、図示●印の経路で3つのベアリング34,33,32、連結部材12及び第1ベアリング31を介してケース10に支持される。
一方、後進(Rev)駆動時は、動力伝達が、減速用プラネタリギヤG1を経て、プラネタリギヤセットG2の大径のサンギヤS2と、リングギヤR3の間で、ロングピニオンP2を介して行われる。この場合、大径のサンギヤS2入力に対してリングギヤR3出力が逆回転となるため、リングギヤR3のスラスト力F4は、大径のサンギヤS2のスラスト力F2と対向する関係になって相殺され、減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1のスラスト力F1だけが、共通の伝達経路の第2ベアリング以降の各ベアリング32,33,36〜39を経てケース10に伝達される。ただし、途中の両ベアリング37,38については、スラスト力F4とスラスト力F2が相殺される図示●印の経路ループ中にあるため、スラスト力F2とスラスト力F1とが加算された力を受けることになる。
ところで、前記各変速段におけるスラスト力は、駆動時とコースト時とで反転するため、前記のスラスト力の関係がコースト時には成立しなくなるが、一般にコースト時の伝達トルクは、駆動時の1/3〜1/5程度であり、その結果としてのスラスト力も極めて小さくなるため、これをベアリング負荷の点から見ると、駆動時に比べてほとんど無視できる程度の小さな値となる。したがって、ベアリングの耐久性を確保する上では、前記のように駆動時のスラスト力の関係が重要な意味を持つ。
また、上記実施形態において、各ベアリングのうち、特に第1ベアリング31に掛かるスラスト力の軽減に重点を置いているのは、このベアリングが固定のサンギヤS1と入力回転数と同速で回転する連結部材12との間に配設され、相対的な回転速度が大きいことから、ベアリング負荷が最も大きいことによる。ちなみに、図7に示すスラスト力のみの単純な比較では、本発明の適用により第1ベアリング31のスラスト力が低減された結果、低速段側ではむしろ第2ベアリング32,33及び第4ベアリング39に掛かるスラスト力の方が大きくなるが、第2ベアリング32,33は、本来相対回転数差が小さい回転部材間に配設され、第4ベアリング39は、変速により減速回転する出力部材とケース10との間に配設されているため、スラスト力と回転速度双方できまるベアリングの耐久負荷では、第1ベアリング31の負荷より小さいことになる。
このように、上記第1実施形態の構成によれば、最も駆動力が大きく、スラスト力による負荷がかかる1速駆動時に、減速用プラネタリギヤG1とプラネタリギヤセットG2それぞれのスラスト力F1,F3が互いに向き合う方向に設定されているため、共通の伝達経路には、一方向からプラネタリギヤセットG2のサンギヤS3のスラスト力F3が、また他方向からは減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1のスラスト力F1が作用し、結果として差し引いたスラスト力F3−F1を共通の伝達経路の外で受けることになる。したがって、スラスト力を受けるベアリング31の耐久性の低下を防止することができる。また、減速用プラネタリギヤG1とプラネタリギヤセットG2のそれぞれに発生するスラスト力F1,F3を対向させて互いに緩衝させる構成であるため、スラスト力を受けるためのセンタサポートを設ける必要がなく、その分に対応するだけ変速機の軸方向寸法の短縮を図ることができる。
更に、上記のようにスラスト力を対向させて相殺することで、共通の伝達経路の外に配置したベアリング31に掛かるスラスト力を低減することができるため、ベアリング31をコンパクトに構成でき、この面でも変速機の軸方向寸法の短縮を図ることができる。
また、上記スラスト力の軽減により、減速用プラネタリギヤG1のサンギヤS1に当接させるスラストベアリング31の大型化を防止することができるため、ベアリング31をサンギヤS1の歯底に当接させる構成を採る場合には、当接面を確保するためにサンギヤS1の歯底径を大きく取る必要がなくなり、減速用プラネタリギヤG1の径方向寸法の増大を防止することができる。また、ベアリング31をサンギヤS1の歯端部に当接させる構成を採る場合でも、強度確保のためにベアリングレースを厚くする必要がないため、その分、伝達経路の軸方向寸法の増大を防止することができる。
また、連結部材12は、減速用プラネタリギヤG1とプラネタリギヤセットG2の間に配設され、連結部材12とサンギヤS3との間に、第2ベアリング32,33が配設された構成により、トルク増幅により減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1のスラスト力F1より大きいプラネタリギヤセットG2のサンギヤS3のスラスト力F3が、第2ベアリング33,32を介して第1ベアリング31ヘ伝達され、減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1のスラスト力F1は、サンギヤS3のスラスト力F3に対向して第2ベアリング32,33ヘ伝達される。したがって、共通の伝達経路で相殺されたスラスト力F3−F1を第1ベアリング31で受けるようになるため、該ベアリングをコンパクトに構成できる。
更に、ラビニヨタイプのプラネタリギヤセットG2のロングピニオンP2は、その一方端で第1サンギヤS2に噛合し、リングギヤR3は、ロングピニオンP2の他方端に噛合する関係から、プラネタリギヤセットG2のサンギヤS3に発生するスラスト力F3の方向が減速用プラネタリギヤG1のリングギヤR1に発生するスラスト力F1の方向と向き合う方向となるようにサンギヤS3のねじれ角が設定されているため、結果としてプラネタリギヤセットG2のリングギヤR3には、サンギヤS3とは相異なるスラスト力F4が発生し、結果、サンギヤS2にリングギヤR3に対して離れ合うスラスト力が作用する第5速、6速時にモーメントを打ち消す方向に作用する。したがって、ロングピニオンP2の支持部にかかる負荷を低減することができる。
ところで、前記第1実施形態では、プラネタリギヤセットG2の構成に関して、リングギヤR3が小径のサンギヤS3の外周側でロングピニオンP2に噛合する配置としたが、リングギヤR3は、大径のサンギヤS2の外周側でロングピニオンP2に噛合する配置を採ることもできる。図8は、こうした配置を採る第2実施形態のギヤトレインを模式断面で示す。こうした構成を採っても、当然ながら前記第1実施形態の場合と同様のスラスト力の関係が成り立ち、同様の効果が得られる。
次に、図9はプラネタリギヤセットG2の構成に関して、第2実施形態に対して第1サンギヤ及び第2サンギヤの径の大小関係を逆転させ、ショートピニオンP2を小径のサンギヤS2とリングギヤR2に噛合させ、ロングピニオンP3を大径のサンギヤS3に噛合させた第3実施形態を模式断面で示す。この場合もロングピニオンP3における回転モーメントの発生を防止することができるため、その回転支持部にかかる負荷を低減することができる。こうした構成を採っても、当然ながら前記第1、第2実施形態の場合と同様のスラスト力の関係が成り立ち、同様の効果が得られる。
前記各実施形態は、いずれもプラネタリギヤセットG2をラビニヨタイプとしたものであるが、本発明の基本的概念は、通常の2つのプラネタリギヤを組み合わせたプラネタリギヤセットにも適用することができる。こうした例として、最後に、ラビニヨタイプに代えてシンプルプラネタリギヤG2aとダブルプラネタリギヤG2bとを組み合わせた構成とした第4実施形態を図10に模式断面で示す。
この実施形態では、ラビニヨタイプのプラネタリギヤセットを用いた場合と同様に、各変速段に対して得られる速度比と速度ステップを良好にする意味で、両プラネタリギヤG2a,G2bの大径のサンギヤS2と小径のサンギヤS3を連結してクラッチC−1経由の減速回転の入力要素とし、シンプルプラネタリギヤG2aのリングギヤR2をクラッチC−3経由の減速回転の入力要素としている。また、ダブルプラネタリギヤG2bについては、リングギヤR3に噛合する側のピニオンP3aに前記各実施形態の場合と同様のはす歯のねじりを設定している。この構成の場合、リングギヤR2を減速回転の入力要素とすべくクラッチC−3に連結しているため、ピニオンP2のキャリアC2とダブルピニオンP3a,P3bのキャリアC3の連結部をブレーキB−3及びワンウェイクラッチF−2に連結する構成となり、キャリアC2の一端が両サンギヤの延長部に支持されている。この関係で、更にベアリング40が追加されている。
こうしたプラネタリギヤセットG2を用いる場合、両サンギヤS2,S3が連結されているため、各ベアリング32,33,34,35,40が共通の伝達経路中に介挿された配置となるが、第1速駆動時のスラスト力の関係は、前記各実施形態の場合と同様となる。ちなみに、図11はベアリング負荷が最も大きくなる第1速時のスラスト力を示すもので、減速用プラネタリギヤG1のピニオンP1のはす歯のねじり方向と、ダブルプラネタリギヤG2bのリングギヤR3側に噛合するピニオンP3aのはす歯のねじり方向を前記各実施形態の場合と同様の方向に設定することで、図に太点線で示すように、同様のスラスト力の支持が可能である。
以上の各実施形態は、本発明の基本とする、はす歯のねじり方向を互いに異なる方向とする概念のうち、向き合う方向を選択することで、主としてベアリングに掛かる荷重を軽減することを狙ったものであるが、上記互いに異なる方向を、離れ合う方向とすることで、主としてケースに伝達される荷重の軽減に利用することもできる。次に、この概念に基づく実施形態を説明する。
図12は、第5実施形態によるギヤトレインの構成を模式断面で示す。この形態では、入力軸11の回転方向を、その前側から見て時計回りとして、第1実施形態を示す図4のはす歯のねじり方向とは相互に逆向きとし、減速用プラネタリギヤG1のピニオンP1については、反時計回り方向、プラネタリギヤセットG2のロングピニオンP2については、時計回り方向のねじりとしている。当然ながら、これらに噛合する他の要素のはす歯のねじり方向は、これに見合った方向とされる。
図13及び図14は、上記の関係のねじりを設定した場合の各変速段におけるスラスト力の変化を模式断面上で示す。図13を参照(ただし、各部材を示す符号については、図12を参照)して、第1速(1st)駆動時は、前記したはす歯のねじり方向の関係から、減速用プラネタリギヤG1では、そのリングギヤR1に前方へのスラスト力(図に左向き矢印で示す)F1が作用するのに対して、サンギヤS1には、それと同等の後方へのスラスト力(図に右向き矢印で方向を示す)が作用するが、これらのスラスト力は、連結部材12と伝達経路内の第1ベアリング31を介して相互に伝達されることでバランスするため、伝達経路の他のベアリングやケースの前壁を構成するオイルポンプケース10pにはスラスト力が作用しない。一方、プラネタリギヤセットG2では、その小径の第2サンギヤS3に後方へのスラスト力(図に左向き矢印で示す)F3が作用し、リングギヤR3には、これと同等の前方へのスラスト力(図に左向き矢印で示す)が作用するが、これらのスラスト力も、リングギヤR3と出力軸19との連結部材14と、伝達経路内の第3ベアリング36,37及び一方の第4ベアリング38を介して相互に伝達されることでバランスするため、伝達経路の他のベアリングに掛かることはない。したがって、第1速(1st)駆動時は、減速用プラネタリギヤG1とプラネタリギヤG2に生じるスラスト力は、ともにケース10には伝達されない。
図15は、各変速段での駆動時に各ベアリングに掛かるスラスト力を図表化して示す(図表における数値は、図7の場合と同じ条件で求めたものである)。この図表に見るように、第1ベアリング31にかかるスラスト力F1は、第1実施形態の場合より更に軽減され、しかもその力がケース10の前壁に伝達されることがないので、通常オイルポンプケース10pで構成されることで他の壁に較べて強度的に不利なケース前壁への負荷をなくすことができる。一方第3ベアリング36,37及び一方の第4ベアリング38にはプラネタリギヤセットG2のスラスト力F3がそのまま掛かるが、前記のように、これらのベアリングは相対回転差の小さなベアリングであるため、ベアリング負荷としては小さなものとなる。
次に、第2速(2nd)駆動時は、先に第1実施形態の動力伝達で述べた理由で、大径の第1サンギヤS2も動力伝達のための反力トルクを分担することになるので、スラスト力F2が作用する。このスラスト力は、ベアリング34及び第2ベアリング33,32を介して連結部材12に伝達され、結果として、第1速時にバランスしていた減速用プラネタリギヤG1側に不平衡力を生じさせることになり、この力が第1ベアリング31及びサンギヤS1を介してケース10の前壁に負荷として掛かることになるが、図15に示すようにこの力は小さいことが解かる。この場合に、第1ベアリング31にかかるスラスト力はF1+F2となる。一方、プラネタリギヤセットG2側では、小径サンギヤS3のスラスト力F3に対して、リングギヤR3のスラスト力F4が大径のサンギヤS2のトルク分担分だけ小さくなるため、不平衡力が生じ、この力が一方の第4ベアリング39を介してケース後壁に伝達される。当然ながら、この力は、ケース前壁にかかる力と同じになる。この場合に、他の3つのベアリング36,37,38に掛かるスラスト力は、第1速駆動時と同等である。
次の第3速(3rd)駆動時は、動力伝達が、第2速に対して大径のサンギヤS2が回転している点が相違するのみで、トルク伝達に関与する要素のトルク分担上で特に異なるところがないため、スラスト力の関係は、図15を参照して解かるように、その値が減速比の減少に伴うトルク増幅率の減少で小さくなることを除いては、第2速駆動時と全く同様となる。
更に、第4速(4th)駆動時の動力伝達は、前記第3速に対して、大径のサンギヤS2からのトルク伝達がなくなった状態で行われる。したがって、この場合のスラスト力の関係は、減速用プラネタリギヤG1、プラネタリギヤセットG2ともに第1速駆動時と同様の閉ループとなり、ケース10への力の伝達はなく、各ベアリング31,36,37,38に掛かるスラスト力もトルク増幅率の減少に伴って低減される。
次に、図14に示す第5速(5th)駆動時は、先の第1実施形態の動力伝達で述べたように動力伝達の様相が異なり、大径のサンギヤS2は、リングギヤR3の出力に対してロングピニオンP2を介する駆動トルクを受ける状態となる。この結果、大径のサンギヤS2に掛かるスラスト力F2は、第3速駆動時とは逆向きとなり、このスラスト力F2が、図示●印の経路でベアリング35、ワンウェイクラッチのインナレース、キャリアC2、両ベアリング37,38及び出力連結部材14を経てリングギヤR3に伝達され、リングギヤR3の逆向きのスラスト力F3とバランスする。したがって、プラネタリギヤセットG2側のスラスト力は閉ループとなり、外部に不平衡力を及ぼすことはない。これに対して、減速用プラネタリギヤG1側では、リングギヤR1とサンギヤS1のスラスト力が第1〜第4速駆動時に対して逆転するため、サンギヤS1のスラスト力は、そのままケース前壁に伝達され、リングギヤR1のスラスト力F1は、第2ベアリング32,33、小径のサンギヤS3、第3及び第4ベアリング36,37,38,39を経てケース後壁に伝達される。したがって、ケース10の前後壁には、ともにスラスト力F1が負荷として掛かることになる。しかしながら、この変速段では、増速により伝達トルクが小さく、図15を参照して明らかなように、スラスト力F1自体が第2速や第3速のときと比較して極めて小さいため、ケースに掛かる負荷、ベアリング負荷ともに、それらの変速段のときより小さくなる。
次の第6速(6th)駆動時は、動力伝達が、減速用プラネタリギヤG1側のトルク伝達がなくなるので、第5速駆動時に対してサンギヤS1とリングギヤR1によるスラスト力はなくなり、プラネタリギヤセットG2側のスラスト力はバランスしているので、ケースに掛かる負荷はなくなる。
一方、後進(Rev)駆動時は、動力伝達が、大径のサンギヤS2入力に対してリングギヤR3出力が逆回転となるため、リングギヤR3のスラスト力F4は、大径のサンギヤS2のスラスト力F2に対して離れる関係になる。この場合のリングギヤR3のスラスト力F4は、出力連結部材14からベアリング39を経てケース後壁に伝達される。また、大径のサンギヤS2のスラスト力F2は、前側4つのベアリング34〜31を介してサンギヤS1経由でケース10の前壁に伝達される。なお、減速用プラネタリギヤG1側のスラスト力F1は、サンギヤS1とリングギヤR1間でバランスしている。したがって、この後進駆動時は、ケース10の前後壁にともにスラスト力F4=F2が伝達される。この場合に、ベアリング31とベアリング39は、ともにケース10と回転部材12,14間で比較的大きなスラスト力を受けることになるが、ベアリング39は減速回転側であるため、負荷としてはそれほど大きくないのに対して、ベアリング31は入力側であるため、相対回転数差が大きいので、他の変速段の駆動時に比べてベアリング負荷としては大きくなる。したがって、ベアリング31は、この後進駆動時に見合った容量のものする必要があるが、車両走行において、後進駆動自体ごく短時間生じるものであるため、それが直ちにベアリング耐久性確保のための格別極端な容量の確保を必要とすることには結びつかない。
次に、図16は、上記第5実施形態に対して、スラストベアリング配置を変更した第6実施形態を同様に模式断面で示す。この形態は、ベアリング数の削減を意図するもので、第5実施形態において、ワンウェイクラッチF−2とサンギヤS2の延長部との間に配置されているベアリング35を、プラネタリギヤセットG2の両サンギヤS2,S3の間にベアリング35’として配した構成を採るものである。この構成によると、大径のサンギヤS2に生じる後方へのスラスト力をベアリング35’を介して小径のサンギヤS3に直接伝達することができるため、これまでのキャリアC2経由のスラスト力伝達とは異なり、キャリアC2から後方にスラスト力を伝える役目をするベアリング37が不要となるため、その分のベアリング数の削減がなされる。
上記各実施形態では、本発明をFR車用の縦置式変速機として具体化したため、軸長増加の要因となるサポート壁を設けない配置を前提とするベアリング配置を採ったが、本発明の思想を、フロントエンジン・フロントドライブ(FF)車やリヤエンジン・リヤドライブ(RR)車用の横置式の変速機の形態で具体化する場合、並行軸出力のために通常変速機構中に出力ギヤを支持するサポートを必要とすることに合わせて、一層ベアリング数を削減した構成を採ることもできる。以下、この形式の実施形態を例示する。
図17〜図23は、3軸構成のトランスアクスルの形態を採る第7実施形態を示す。図17に全体構成を軸間を展開してスケルトンで示し、図18に実際の軸配置関係を軸線方向に見て示すように、この変速機では、互いに並列的に配置された主軸X、カウンタ軸Y、デフ軸Zの各軸上に各要素が配設された3軸構成とされている。そして、主軸X上にはトルクコンバータ2と前記第6実施形態のものと実質同様のギヤトレイン構成の変速機構が配置され、カウンタ軸Y上には減速機構を兼ねるカウンタギヤ機構4が配置され、デフ軸Z上にはディファレンシャル装置5が配置されている。なお、この形態では、主軸X上の並行軸出力部材は、プラネタリギヤセットG2の出力要素としてリングギヤR3に連結されるカウンタドライブギヤ19’とされている。また、横置化に伴う軸長の制約から、大径の第1サンギヤS2を係止する係合要素は、バンドブレーキB−1のみとされている。したがって、ブレーキB−2及びワンウェイクラッチF−1は呼称が繰り上がっているが、前記各実施形態におけるブレーキB−3及びワンウェイクラッチF−2に対応する。
カウンタ軸Y上のカウンタギヤ機構4は、カウンタ軸40に固定され、主軸X上の出力部材としてのカウンタドライブギヤ19’に噛合する大径のカウンタドリブンギヤ41と、同じくカウンタ軸40に固定され、カウンタ軸Y上の出力要素としての小径のデフドライブピニオンギヤ42とが配設されており、これらにより主軸X側からの出力を並行軸で減速するとともに、反転させてディファレンシャル装置5に伝達することで、適宜の最終減速比を得るとともに、入力軸11の回転方向とディファレンシャル装置5からの出力の回転方向を合わせる機能を果たす。デフ軸Z上のディファレンシャル装置5は、デフケース52に固定されたデフリングギヤ51をデフドライブピニオンギヤ42に噛合させてカウンタ軸40に連結され、デフケース52内に配置された差動歯車の差動回転が左右軸50に出力される構成とされ、この出力が最終的なホイール駆動力とされる。
この自動変速機においても、図19に係合図表を示すように、各クラッチ及びブレーキの係合及び解放(○印で係合、無印で解放を表す)と、それにより達成される変速段の関係は、前記各実施形態の場合と同様(ただし、前記のように、ブレーキB−2及びワンウェイクラッチF−1は、前記各実施形態のブレーキB−3及びワンウェイクラッチF−2に相当する)となる。なお、図において括弧付の○印はエンジンブレーキ時の係合を表す。
図20は、主軸X上の変速機構のみを模式化した断面上で示すもので、この変速機構においても、変速機構をトルクコンバータ側(図示右側)から見て、入力軸11が時計回りに回転するとして、減速用プラネタリギヤG1のピニオンP1については反時計回り方向、プラネタリギヤセットG2のロングピニオンP2にていては時計回り方向のねじりが付されている。この変速機構において、先の各実施形態と異なる点は、ケース10に固定又は一体のサポート壁10sが設けられている点にある。カウンタドライブギヤ19’は、スラスト力も支持可能なラジアルボールベアリング18を介してこのサポート壁10sに支持されている。
そして、伝達経路の各ベアリングは、第1ベアリング31が減速用プラネタリギヤG1のサンギヤS1と、リングギヤR1を入力軸11に連結する連結部材12との間に、また、一方の第2ベアリング32が該連結部材12とプラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3の延長部との間に、他方の第2ベアリング34が小径のサンギヤS3の延長部と大径のサンギヤS2の延長部の間に、そして、ベアリング35’が両サンギヤS2,S3の間に、更に、一方の第4ベアリング36が小径のサンギヤS3と他方の連結部材13との間に、他方の第4ベアリング38が他方の連結部材13とケース左壁との間にそれぞれ配設されている。
図21及び図22は、上記の関係のねじりを設定した場合の各変速段におけるスラスト力の変化を模式断面上で示す。図21を参照(ただし、各部材を示す符号については、図20を参照)して、第1速(1st)駆動時は、前記したはす歯のねじり方向の関係から、減速用プラネタリギヤG1では、そのリングギヤR1に図示右方へのスラスト力F1が作用するのに対して、サンギヤS1には、それと同等の図示左方へのスラスト力が作用するが、これらのスラスト力は、連結部材12と伝達経路内のベアリング31を介して相互に伝達されることでバランスするため、他のベアリングやケース前壁としてのオイルポンプカバー10pにはスラスト力が作用しない。一方、プラネタリギヤセットG2では、その小径のサンギヤS3に図示左方へのスラスト力F3が作用し、リングギヤR3には、これと同等の図示右方へのスラスト力が作用する。この場合、小径のサンギヤS3のスラスト力は、伝達経路のベアリング36とベアリング38を介してケース10の左壁に伝達され、リングギヤR3のスラスト力は、ベアリング18を介してサポート10sに伝達される。したがって、第1速(1st)駆動時は、オイルポンプケース10pで構成されることで強度的に不利な右壁にはスラスト荷重が負荷されず、プラネタリギヤセットG2にのみ生じるスラスト力が、ケース10の左壁とサポート壁10sに負荷される。
図23は、各変速段での駆動時に各ベアリングに掛かるスラスト力を図表化して示す(この図表では、数値の表記は省略されているが、各スラスト力F1〜F3の値は、図15に示す値と同等である。)。この図表に見るように、ベアリング31にかかるスラスト力F1は、第5実施形態の場合と同等である。一方、両ベアリング36,38にはプラネタリギヤセットG2の小径のサンギヤS3のスラスト力F3がそのまま掛かる。この場合、ベアリング36は相対回転差が小さのに対してベアリング38は相対回転差が大きいため、ベアリング負荷としては大きくなる。
次に、第2速(2nd)駆動時は、先に第1実施形態の動力伝達で述べた理由で、大径のサンギヤS2も動力伝達のための反力トルクを分担することになるので、スラスト力F2が作用する。このスラスト力は、第2ベアリング34,32を介して連結部材12に伝達され、結果として、第1速時にバランスしていた減速用プラネタリギヤG1側に不平衡力を生じさせることになり、このスラスト力F2がケース右壁に負荷として掛かることになるが、図15に示すようにこの力は小さいことが解かる。この場合に、ベアリング31にかかるスラスト力はF1+F2となる。一方、プラネタリギヤセットG2側では、小径サンギヤS3のスラスト力F3がベアリング36,38を介してケース左壁に伝達される。当然ながら、この力は、ケース右壁に掛かるスラスト力F2とサポート壁10pに掛かるスラスト力F4との和と同じになる。この場合に、他の3つのベアリング36,37,38に掛かるスラスト力は、第1速駆動時と同等である。
次の第3速(3rd)駆動時は、動力伝達が、第2速に対して大径のサンギヤS2が回転している点が相違するのみで、トルク伝達に関与する要素のトルク分担上で特に異なるところがないため、スラスト力の関係は、図15を参照して解かるように、その値が減速比の減少に伴うトルク増幅率の減少で小さくなることを除いては、第2速駆動時と全く同様となる。
更に、第4速(4th)駆動時の動力伝達は、前記第3速に対して、大径のサンギヤS2からのトルク伝達がなくなった状態で行われる。したがって、この場合のスラスト力の関係は、減速用プラネタリギヤG1、プラネタリギヤセットG2ともに第1速駆動時と同様の閉ループとなり、ケースへの力の伝達はなく、各ベアリング31,36,37,38に掛かるスラスト力もトルク増幅率の減少に伴って低減される。
次に、図22に示す第5速(5th)駆動時は、先の第1実施形態の動力伝達で述べたように動力伝達の様相が異なり、大径のサンギヤS2は、リングギヤR3の出力に対してロングピニオンP2を介する駆動トルクを受ける状態となる。この結果、大径のサンギヤS2に掛かるスラスト力F2は、第3速駆動時とは逆向きとなり、このスラスト力F2が、図示●印の経路でベアリング35,36,38を経てケース左壁に伝達され。これに対して、減速用プラネタリギヤG1側では、リングギヤR1とサンギヤS1のスラスト力F1が第1〜第4速駆動時に対して逆転するため、サンギヤS1のスラスト力は、そのままケース前壁に伝達され、リングギヤR1のスラスト力は、ベアリング32、小径のサンギヤS3、2つのベアリング36,38を経てケース左壁に伝達される。したがって、ケースの右壁には、スラスト力F1、左壁にはスラスト力F1+F2、サポート壁10sにはスラスト力F4が負荷として掛かることになる。しかしながら、この変速段では増速により伝達トルクが小さく、図15を参照して明らかなように、スラスト力自体が第2速や第3速のときと比較して極めて小さいため、ケースに掛かる負荷、ベアリング負荷ともに、それらの変速段のときより小さくなる。
次の第6速(6th)駆動時は、動力伝達が、減速用プラネタリギヤG1側のトルク伝達がなくなるので、第5速駆動時に対してサンギヤS1とリングギヤR1によるスラスト力はなくなり、プラネタリギヤセットG2側のスラスト力は第5速駆動時と同様である。
一方、後進(Rev)駆動時は、動力伝達が、大径のサンギヤS2入力に対してリングギヤR3出力が逆回転となるため、リングギヤR3のスラスト力F4は、大径のサンギヤS2のスラスト力F2に対して離れる関係になる。この場合のリングギヤR3のスラスト力F4は、ベアリング18を介してサポート壁10sで支持される。また、大径のサンギヤS2のスラスト力F2は、右側3つのベアリング34,32,31を介してサンギヤS1経由でケース10の右壁に伝達される。なお、減速用プラネタリギヤG1側のスラスト力F1は、サンギヤS1とリングギヤR1間でバランスしている。したがって、この後進駆動時は、ケース10の左壁にはスラスト荷重は負荷されず、スラスト荷重F2が右壁に負荷され、スラスト荷重F4がサポート壁10sに支持されることになる。この場合に、ベアリング31は、ケース10と連結部材12間で比較的大きなスラスト力を受けることになる。したがって、ベアリング31は、この後進駆動時に見合った容量のものする必要があるが、車両走行において、後進駆動自体ごく短時間生じるものであるため、それが直ちにベアリング耐久性確保のための格別極端な容量の確保を必要とすることには結びつかない。
ところで、前記第7実施形態では、プラネタリギヤセットG2の構成に関して、リングギヤR3が大径のサンギヤS2の外周側でロングピニオンP2に噛合する配置としたが、リングギヤR3は、小径のサンギヤS3の外周側でロングピニオンP2に噛合する配置を採ることもできる。図24は、こうした配置を採る第8実施形態のギヤトレインを模式断面で示す。こうした構成を採っても、当然ながら前記第7実施形態の場合と同様のスラスト力の関係が成り立ち、同様の効果が得られる。
最後に、図25はプラネタリギヤセットG2の構成に関して、第7実施形態に対しショートピニオンP3とリングギヤR3を大径化し、ショートピニオンP3を小径のサンギヤS3とリングギヤR3に噛合させ、ロングピニオンP2を大径のサンギヤS2に噛合させた第9実施形態を模式断面で示す。この場合もロングピニオンP2における回転モーメントの発生を防止することができるため、その回転支持部にかかる負荷を低減することができる。こうした構成を採っても、当然ながら前記第7、第8実施形態の場合と同様のスラスト力の関係が成り立ち、同様の効果が得られる。
以上、本発明を9つの実施形態を挙げて詳説したが、これら各実施形態はいずれも例示のためのものであり、本発明は、特許請求の範囲の個々の請求項に記載の事項の範囲内で種々に具体的な構成を変更して実施することができるものである。