現在、紫〜青〜緑色光源として用いられているInGaAlN系(III族窒化物)デバイスは、その殆どがサファイア基板あるいはSiC基板上に、MO−CVD法(有機金属化学気相成長法)やMBE法(分子線結晶成長法)等を用いた結晶成長により作製されている。サファイアやSiCを基板として用いる場合には、III族窒化物との熱膨張係数差や格子定数差が大きいことに起因する結晶欠陥が多くなる。このために、デバイス特性が悪く、例えば発光デバイスの寿命を長くすることが困難であったり、動作電力が大きくなったりするという問題がある。
更に、サファイア基板の場合には絶縁性であるために、従来の発光デバイスのように基板側からの電極取り出しが不可能であり、結晶成長したIII族窒化物半導体表面側からの電極取り出しが必要となる。その結果、デバイス面積が大きくなり、高コストにつながるという問題がある。また、サファイア基板上に作製したIII族窒化物半導体デバイスは、劈開によるチップ分離が困難であり、レーザダイオード(LD)で必要とされる共振器端面を劈開で得ることが容易ではない。このため、現在はドライエッチングによる共振器端面形成や、あるいはサファイア基板を100μm以下の厚さまで研磨した後に、劈開に近
い形での共振器端面形成を行っているが、この場合にも、従来のLDのような共振器端面とチップ分離を単一工程で容易に行うことが不可能であり、工程の複雑化ひいてはコスト高につながる。
これらの問題を解決するために、サファイア基板上にIII族窒化物半導体膜を選択横方向成長やその他の工夫を行うことで、結晶欠陥を低減させることが提案されている。
例えば文献「Japanese Journal of Applied Physics Vol.36(1997) Part 2, No.12A, L1568-1571」(非特許文献1)(以下、第1の従来技術という)には、図10に示すようなレーザダイオード(LD)が示されている。図10のレーザダイオードは、MO−VPE(有機金属気相成長)装置にてサファイア基板1上にGaN低温バッファ層2とGaN層3を順次成長した後に、選択成長用のSiO2マスク4を形成する。このSiO2マスク4は、別のCVD(化学気相堆積)装置にて、SiO2膜を堆積した後に、フォトリソグラフィ,エッチング工程を経て形成される。次に、このSiO2マスク4上に再度、MO−VPE装置にて20μmの厚さのGaN膜3’を成長することで、横方向にGaNが選択成長し、選択横方向成長を行わない場合に比較して結晶欠陥を低減させている。更に、その上層に形成されている変調ドープ歪み超格子層(MD−SLS)5を導入することで、活性層6へ結晶欠陥が延びることを防いでいる。この結果、選択横方向成長及び変調ドープ歪み超格子層を用いない場合に比較して、デバイス寿命を長くすることが可能となる。
この第1の従来技術の場合には、サファイア基板上にGaN膜を選択横方向成長しない場合に比べて、結晶欠陥を低減させることが可能となるが、サファイア基板を用いることによる、絶縁性と劈開に関する前述の問題は依然として残っている。更には、SiO2マスク形成工程を挟んで、MO−VPE装置による結晶成長が2回必要となり、工程が複雑化するという問題が新たに生じる。
また、別の方法として、例えば文献「Applied Physics Letters, Vol.73, No.6, p.832-834(1998)」(非特許文献2)(以下、第2の従来技術という)には、GaN厚膜基板を応用することが提案されている。この第2の従来技術では、前述の第1の従来技術での20μmの選択横方向成長後に、H−VPE(ハイドライド気相成長)装置にて200μmのGaN厚膜を成長し、その後に、この厚膜成長したGaN膜を150μmの厚さになるように、サファイア基板側から研磨することにより、GaN基板を作製する。このGaN基板上に、MO−VPE装置を用いて、LDデバイスとして必要な結晶成長を順次行ない、LDデバイスを作製することで、結晶欠陥を低減させることが可能になるとともに、サファイア基板を用いることによる絶縁性と劈開に関する前述の問題点を解決することが可能となる。なお、この第2の従来技術と同様のものとして、特開平11−4048号が提案されており、図11には特開平11−4048号の半導体レーザが示されている。
しかしながら、この第2の従来技術は、第1の従来技術よりも更に工程が複雑になっており、より一層のコスト高になる。また、この第2の従来技術の方法で200μm程度の厚さのGaN厚膜を成長する場合には、基板であるサファイアとの格子定数差及び熱膨張係数差に伴う応力が大きくなり、基板の反りやクラックが生じるという問題が新たに発生する。
この問題を回避するために、特開平10−256662号には、厚膜成長する元の基板(サファイアとスピネル)の厚さを1mm以上とすることが提案されている。このように、厚さ1mm以上の基板を用いることにより、200μmの厚膜のGaN膜を成長させても、基板の反りやクラックを生じさせないようにしている。しかしながら、このように厚い基板は、基板自体のコストが高く、また研磨に多くの時間を費やす必要があり、研磨工程のコストアップにつながる。すなわち、厚い基板を用いる場合には、薄い基板を用いる場合に比べて、コストが高くなる。また、厚い基板を用いる場合には、厚膜のGaN膜を
成長した後には基板の反りやクラックが生じないが、研磨の工程で応力緩和し、研磨途中で反りやクラックが発生する。このため、厚い基板を用いても、容易に、結晶品質の高いGaN基板を大面積化で作製することはできない。
一方、文献「Journal of Crystal Growth, Vol.189/190, p.153-58(1998)」(非特許文献3)(以下、第3の従来技術という)には、GaNのバルク結晶を成長させ、それをホモエピタキシャル基板として用いることが提案されている。この第3の従来技術は、1400〜1700℃の高温、及び数10kbarもの超高圧の窒素圧力中で、液体GaからGaNを結晶成長させる手法となっている。この場合には、このバルク成長したGaN基板を用いて、デバイスに必要なIII族窒化物半導体膜を成長することが可能となる。従って、第1及び第2の従来技術のように工程を複雑化させることなく、GaN基板を提供できる。
しかしながら、第3の従来技術では、高温,高圧中での結晶成長が必要となり、それに耐えうる反応容器が極めて高価になるという問題がある。加えて、このような成長方法をもってしても、得られる結晶の大きさは高々1cm程度であり、デバイスを実用化するには小さ過ぎるという問題がある。
この高温,高圧中でのGaN結晶成長の問題点を解決する手法として、文献「Chemistry of Materials Vol.9 (1997) p.413-416」(非特許文献4)(以下、第4の従来技術という)には、Naをフラックスとして用いたGaN結晶成長方法が提案されている。この方法はアジ化ナトリウム(NaN3)と金属Gaを原料として、ステンレス製の反応容器(容器内寸法;内径=7.5mm、長さ=100mm)に窒素雰囲気で封入し、その反応容器を600〜800℃の温度で24〜100時間保持することにより、GaN結晶を成長させるものである。この第4の従来技術の場合には、600〜800℃程度の比較的低温での結晶成長が可能であり、容器内圧力も高々100kg/cm2程度と第3の従来技術に比較して圧力を低くできる点が特徴である。しかし、この第4の従来技術の問題点としては、得られる結晶の大きさが1mmに満たない程度に小さい点である。この程度の大きさではデバイスを実用化するには第3の従来技術と同様に小さすぎる。
また、特開2000−327495号(特許文献1)(以下、第5の従来技術という)には、上述の第4の従来技術と基板を用いたエピタキシャル法を組み合わせた技術が提案されている。この第5の従来技術では、予め基板表面にGaNあるいはAlNを成長させたものを基板として用い、この上に第4の従来技術を用いてGaN膜をエピタキシャル成長させる。しかし、この第5の従来技術は基本的にエピタキシャル成長であり、第1や第2の従来技術と同様に結晶欠陥の問題解決には至らない。更に、予めGaN膜あるいはAlN膜を基板上に成長させるため、工程が複雑となり高コストにつながる。
また、最近、特開2000−12900号(特許文献2)及び特開2000−22212号(特許文献3)(以下、第6の従来技術という)には、GaAs基板を用いてGaN厚膜基板を作製する方法が提案されている。図12,図13には、この第6の従来技術によるGaN厚膜基板の作製方法が示されている。先ず、図12を参照すると、(111)GaAs基板60上に第1の従来技術と同様にSiO2膜やSiN膜をマスク61として、GaN膜63を70μm〜1mmの厚さに選択成長する(図12(1)〜(3))。この結晶成長はH−VPEにより行う。その後、王水によりGaAs基板60をエッチング,除去し、GaN自立基板63を作製する(図12(4))。このGaN自立基板63を元に、更に再度H−VPEにより、数10mmの厚さのGaN結晶64を気相成長させる(図13(1))。この数10mmの厚さのGaN結晶64をスライサーによりウェハ状に切り出し、GaNウェハを作製する(図13(2),(3))。
この第6の従来技術では、GaN自立基板63が得られ、更に数10mmの厚さのGaN結晶64を得ることができる。しかしながら、第6の従来技術には次のような問題点がある。すなわち、SiN膜やSiO
2膜を選択成長用マスクとして用いるため、その作製工程が複雑になり、コスト高につながる。また、H−VPEにより数10mmの厚さのGaN結晶を成長させる際に、反応容器内にも同様の厚さのGaN結晶(単結晶や多結晶)やアモルファス状のGaNが付着し、このため、量産性に問題がある。また、GaAs基板が犠牲基板として一回の成長毎にエッチング,除去されるため、コスト高につながる。また、結晶品質に関しても、基本的にはGaAsという異種基板上の結晶成長からくる、格子不整、熱膨張係数の違いによる、欠陥密度が高いという問題も残る。
Japanese Journal of Applied Physics Vol.36(1997) Part 2, No.12A, L1568-1571
Applied Physics Letters, Vol.73, No.6, p.832-834(1998)
Journal of Crystal Growth, Vol.189/190, p.153-158(1998)
Chemistry of Materials Vol.9 (1997) p.413-416
特開2000−327495号
特開2000−12900号
特開2000−22212号
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は本発明に係るIII族窒化物結晶の製造装置の構成例を示す図である。
図1を参照すると、反応容器101内には、アルカリ金属(例えば、Na)と少なくともIII族金属(例えば、Ga)を含む物質との混合融液を保持する混合融液保持容器102が設置されている。
なお、アルカリ金属と少なくともIII族金属を含む物質は、外部から供給されても良いし、あるいは、最初から反応容器101内に存在していても良い。
また、反応容器101は、例えばステンレスで形成されている。
また、反応容器101には、反応容器101内の空間108に少なくとも窒素を含む物質(例えば、窒素ガス,アンモニアガスまたはアジ化ナトリウム)を供給するための窒素供給管104が設けられている。なお、ここで言う窒素とは、窒素分子あるいは窒素を含む化合物から生成された窒素分子や原子状窒素、および窒素を含む原子団および分子団のことであり、本発明において、窒素とは、このようなものであるとする。
また、窒素供給管104には、窒素ガスの圧力を調整するために圧力調整機構105が設けられている。なお、この圧力調整機構105は、圧力センサー及び圧力調整弁等から構成されている。
また、反応容器101には、III族窒化物(例えばGaN)を結晶成長可能な温度に反応容器101内を制御するための加熱装置106が設けられている。すなわち、加熱装置106による温度制御機能によって、反応容器101内を結晶成長可能な温度に上げること、及び、結晶成長が停止する温度に下げること、及び、それらの温度に任意の時間保持することが可能となっている。
図1のIII族窒化物結晶の製造装置では、反応容器101内の温度および実効窒素分圧をIII族窒化物結晶が結晶成長する条件に設定することにより、III族窒化物の結晶成長を開始させることができるようになっている。
このような、III族窒化物結晶の製造装置,III族窒化物結晶成長方法では、所定の容器内において、アルカリ金属と少なくともIII族金属を含む物質との混合融液を形成し、該混合融液と少なくとも窒素を含む物質とから、III族金属と窒素から構成されるIII族窒化物を結晶成長させるようにしているので、第1あるいは第2の従来技術のように複雑な工程を必要とせず、低コストで高品質なIII族窒化物結晶を得ることができる。
更に、成長温度が1000℃以下と低く、圧力も100気圧程度以下と低い条件下でIII族窒化物の結晶成長が可能となることから、第3の従来技術のように超高圧,超高温に耐えうる高価な反応容器を用いる必要がない。その結果、低コストでIII族窒化物結晶を作製することが可能となる。
ところで、図1のようなIII族窒化物結晶の製造装置において、アルカリ金属,III族金属を含む物質,窒素を含む物質,あるいは混合融液を収容する所定の容器に不純物が多い場合には、その不純物が核となったり、あるいは触媒的作用を生じさせたりして、アルカリ金属と少なくともIII族金属を含む物質とから構成される混合融液の表面を固体物が覆ってしまう。この固体物によって混合融液の表面が覆われてしまうと、それ以降の混合融液中への窒素の溶け込みが阻害され、III族窒化物結晶の結晶成長が進行しなくなってしまう。
本願の発明者は、混合融液の表面を覆う固体物の発生原因が、III族窒化物を主成分としており(固体物が多結晶もしくは非晶質のIII族窒化物であり)、アルカリ金属に含まれる不純物、および/または、少なくともIII族金属を含む物質に含まれる不純物、および/または、窒素を含む物質に含まれる不純物、および/または、混合融液を収容する所定の容器の不純物(所定の容器の表面もしくは所定の容器の内部から出てくる不純物)に起因していることを見出した。
本発明は、本願の発明者による上記知見に基づいてなされたものであり、所定の容器内において、アルカリ金属と少なくともIII族金属を含む物質との混合融液を形成し、該混合融液と少なくとも窒素を含む物質とから、III族金属と窒素から構成されるIII族窒化物を結晶成長させるときに、混合融液の表面を混合融液内に窒素が導入可能な状態にして、III族窒化物を成長させることを特徴としている。
より詳細に、本発明は、アルカリ金属に含まれる不純物、および/または、少なくともIII族金属を含む物質に含まれる不純物、および/または、窒素を含む物質に含まれる不純物、および/または、混合融液を収容する所定の容器の不純物(所定の容器の表面もしくは所定の容器の内部から出てくる不純物)に基づく固体物によって、混合融液の表面全面が覆われないようにすることを意図している。
このため、本発明では、アルカリ金属の純度、および/または、III族金属を含む物質の純度、および/または、窒素を含む物質の純度を、混合融液の表面の少なくとも一部が多結晶もしくは非晶質のIII族窒化物で覆われない状態となるのに必要な純度のものにしている。
具体的に、本願の発明者による実験の結果、アルカリ金属の純度が99%未満の場合には、混合融液表面を、固体物が覆ってしまうことがわかった。これに対し、アルカリ金属の純度が99%以上の場合には、混合融液の表面を固体物が覆うことが少なくなる。
さらに、本願の発明者による実験の結果、アルカリ金属の純度が99.9%以上の場合には、混合融液表面を固体物が覆うことは非常に少なくなることがわかった。
さらに、アルカリ金属の純度が99.95%以上になると、混合融液表面を固体物が覆うことはほとんどなくなることがわかった。なお、現在の一般入手可能な高純度のアルカリ金属としては99.95%が最も純度が高い。
また、III族金属を含む物質の純度、窒素を含む物質の純度も高くするのが良い。
さらに、混合融液を収容する所定の容器には、不純物の少ない所定の材質のものを用いるのが良い。
例えば、所定の容器は、BNで形成することができる。
あるいは、所定の容器は、AlNで形成することができる。
あるいは、所定の容器は、パイロリティックBNで形成することができる。
ここで、所定の容器の材質としては、AlNよりもBNの方が不純物が少ないので、好ましい。また、AlN,BNよりもパイロリティックBNの方が不純物が少ないので、より一層好ましい。
なお、パイロリティックBNとは、PBN(Pyrolytic BoronNitride)とも言われており、通常、塩化ホウ素とアンモニアのCVD(Chemical Vapor Deposition)により合成されるものである。一般的に普及している焼結(Hot Press)により作製されるBNに比較して不純物が少なく、高純度である。すなわち、焼結体のBNにはB2O3,CaO,SiO2等が数%含まれているのが一般的であるが、パイロリティックBNは、これらの不純物の含有量が少ない。
本願の発明者による実験によると、所定の容器の材質として焼結体のBNを用いる場合に混合融液表面を固体物が覆ってしまう条件と同じ条件でも、パイロリティックBNを用いる場合には混合融液表面を固体物が覆うことが抑制されることがわかった。
このように、本発明では、アルカリ金属に含まれる不純物、および/または、少なくともIII族金属を含む物質に含まれる不純物、および/または、窒素を含む物質に含まれる不純物、および/または、混合融液を収容する所定の容器の不純物(所定の容器の表面もしくは所定の容器の内部から出てくる不純物)を少なくすることで、固体物によって混合融液の表面全面が覆われないようにすることができ、これにより、混合融液への窒素の継続的な溶け込みが進み、III族窒化物結晶の結晶成長を継続させることができる。更に、固体物を構成するIII族金属が少なくなることで、III族金属の混合融液表面での消費を少
なくすることができ、混合融液中のIII族窒化物結晶にIII族金属を多く供給することが可能となる。これらの結果、所望の大きさのIII族窒化物結晶にまで大きく結晶成長させることが可能となる。
(参考例)
参考例では、図2に示すように、混合融液保持容器102には、III族金属としてのGaとアルカリ金属としてのNaとから構成される混合融液103が収容されている。
参考例(図2の例)では、III族金属としてのGaは99.9999%の純度であり、アルカリ金属としてのNaは99%の純度のものとなっている。
また、参考例(図2の例)では、窒素供給管104から供給される窒素ガスの純度は99.999%となっている。
また、混合融液保持容器102の材質は、焼結体のBN(窒素ホウ素)となっている。
図1のような構成のIII族窒化物結晶の製造装置でIII族窒化物を結晶成長させる場合、第1の実施形態では、反応容器101内の窒素ガスの圧力を50気圧にし、また、反応容器101内の温度を結晶成長が開始する温度750℃まで昇温し、この成長条件を一定時間保持することで、図2に示すように、III族窒化物であるGaN結晶109が混合融液保持容器102内に成長する。このとき、混合融液103の表面は、固体物110によって覆われるが、この固体物110の所々には穴111が開いており、固体物110は混合融液103の全面を覆ってはいない。これにより、その穴111を通して窒素が混合融液103中に溶け込むことができる。この固体物110が覆う程度は、前述したように、Naの純度、あるいは、Gaの純度、あるいは、窒素ガスの純度、あるいは、混合融液保持容器102の材質に依存することが本願の発明者による実験によってわかった。そのうち、この固体物110が覆う程度は、Naの純度による影響が最も大きいことがわかった。また、分析の結果、混合融液103の表面を覆っている固体物110は多結晶GaNまたは非晶質GaNが主な構成物質となっていることがわかった。
上述の例のように、Naの純度が99%、Gaの純度が99.9999%、窒素ガスの純度が99.999%、混合融液保持容器102の材質が焼結体のBNの場合には、図2に示すように、固体物110は一部に穴111が開いたような形状となる。その穴111を通して窒素が混合融液103中に溶け込むことにより、混合融液103中に、III族窒化物としてのGaNの単結晶109を結晶成長させることができる。
(第1の実施形態)
第1の実施形態も参考例と同様に、図1と同様のIII族窒化物結晶の製造装置を用い、参考例と同様の方法で結晶成長させるようにしている。
ここで、III族金属としてのGaの純度は99.9999%であり、窒素ガスの純度は99.9999%であり、混合融液保持容器102の材質は焼結体のBNである。温度、圧力等の成長条件は参考例と同様である。
参考例と異なるところは、参考例ではアルカリ金属としてのNaは99%の純度のものとなっているが、第1の実施形態ではアルカリ金属としてのNaの純度を99.9%にしていることである。この場合、混合融液保持容器102内の状態は図3のようになる。
すなわち、第1の実施形態においても参考例と同様に窒素ガス圧力,温度を設定し、成長条件を一定に保持することで、混合融液103中にIII族窒化物であるGaN単結晶109が結晶成長するが、このとき、第1の実施形態においては、混合融液保持容器102内の混合融液103の表面は、固体物110によって混合融液103の半分程度が覆われていた。混合融液103の表面をこの固体物110が覆う割合は、半分程度の場合もあれば、それよりも大きかったり小さかったりと、その成長ロット毎で異なっているが、少なくとも参考例のように穴が開いたような状態では無い。
この混合融液103の表面を固体物110が覆っていない領域111を通して窒素が混合融液103中に溶け込み、GaN結晶109の結晶成長を進行させることになる。第1の実施形態では、この混合融液103の表面を固体物110が覆わない領域111が参考例に比較して多いことで、より大きなGaN単結晶109を成長させることが可能となる。すなわち、多結晶GaNまたは非晶質GaNが主な構成物質となっている固体物110の発生が少ないことで、混合融液103中のGaがより効率的に所望のGaN単結晶109の成長に寄与することが可能となる。更に窒素の溶け込む速度が大きいことで、多数の核発生を防止し、優先的に大きな核に窒素が取り込まれ、大きなGaN単結晶の成長が可能となる。
以上のように、第1の実施形態では、Naの純度を99.9%と第1の実施形態の場合よりも高めることで、混合融液103の表面を覆う固体物110が少なくなり、より大きなGaN単結晶109を結晶成長させることが可能となる。
(第2の実施形態)
第2の実施形態も参考例、第1の実施形態と同様に、図1と同様のIII族窒化物結晶の製造装置を用い、参考例、第1の実施形態と同様の方法で結晶成長させるようにしている。
ここで、III族金属としてのGaの純度は99.9999%であり、窒素ガスの純度は99.9999%であり、混合融液保持容器102の材質は焼結体のBNである。温度、圧力等の成長条件は第1,第2の実施形態と同様である。
参考例、第1の実施形態と異なるところは、第2の実施形態ではアルカリ金属としてのNaの純度を99.95%以上にしていることである。この場合、混合融液保持容器102内の状態は図4のようになる。
すなわち、第2の実施形態においても参考例、第1の実施形態と同様に窒素ガス圧力,温度を設定し、成長条件を一定に保持することで、混合融液103中にIII族窒化物であるGaN単結晶109が結晶成長するが、このとき、第2の実施形態においては、固体物110は混合融液保持容器102内の混合融液103の表面の一部に点在するのみである。この固体物110の混合融液103を覆う割合は、多くて10%程度である。これは参考例において固体物110が覆う領域と覆わない領域(穴が開いた領域)111の割合とほぼ逆の関係となっている。
この混合融液103表面を固体物110が覆っていない領域111を通して窒素が混合融液103中に溶け込み、GaN結晶109の結晶成長を進行させることになる。第2の実施形態では、この混合融液103の表面を固体物110が覆わない領域111が参考例や第1の実施形態よりもさらに多いことで、より大きなGaN単結晶109を成長させることが可能となる。すなわち、多結晶GaNまたは非晶質GaNが主な構成物質となっている固体物110の発生が少ないことで、混合融液103中のGaがより効率的に所望のGaN単結晶109の成長に寄与することが可能となる。更に窒素の溶け込む速度が大きいことで、多数の核発生を防止し、優先的に大きな核に窒素が取り込まれ、大きなGaN単結晶の成長が可能となる。
以上のように、第2の実施形態では、Naの純度を99.95%と参考例、第1の実施形態の場合よりも高めることで、混合融液103表面を覆う固体物110が僅かとなり、より大きなGaN単結晶109を結晶成長させることが可能となる。
(第3の実施形態)
第3の実施形態も参考例、第1の及び第2の実施形態と同様に、図1と同様のIII族窒化物結晶の製造装置を用い、参考例、第1の及び第2の実施形態と同様の方法で結晶成長させるようにしている。
ここで、III族金属としてのGaの純度は99.9999%であり、窒素ガスの純度は99.9999%である。温度、圧力等の成長条件は参考例、第1の及び第2の実施形態と同様である。
参考例、第1の及び第2の実施形態と異なるところは、第3の実施形態では、アルカリ金属としてのNaの純度を99.95%以上にしていること、および、混合融液保持容器102の材質をパイロリティックBNにしていることである。この場合、混合融液保持容器102内の状態は図5のようになる。
すなわち、第3の実施形態においても参考例、第1の及び第2の実施形態と同様に窒素ガス圧力,温度を設定し、成長条件を一定に保持することで、混合融液103中にIII族窒化物であるGaN単結晶109が結晶成長するが、このとき、第3の実施形態においては、混合融液保持容器102内の混合融液103の表面には、参考例、第1の及び第2の実施形態において存在した固体物110は存在しない。すなわち、この第3の実施形態の場合には、窒素の混合融液103中への溶け込みを遮る固体物110が無い。従って、GaN結晶109の結晶成長をよりスムーズに進行させることが可能となる。
このように、第3の実施形態では、固体物110が全く無いことで、より大きなGaN単結晶109を成長させることが可能となる。すなわち、多結晶GaNまたは非晶質GaNが主な構成物質となっている固体物110の発生が無いことで、混合融液103中のGaがより効率的に所望のGaN単結晶109の成長に寄与することが可能となる。更に、窒素の溶け込む速度が大きいことで、多数の核発生を防止し、優先的に大きな核に窒素が取り込まれ、大きなGaN単結晶の成長が可能となる。
以上のように、第3の実施形態では、Naの純度を99.95%以上と参考例、第1の及び第2の実施形態の場合よりも高めること、および、混合融液保持容器402の材質をパイロリティックBNとすることで、混合融液103の表面を覆う固体物110が無くなり、より大きなGaN単結晶109を結晶成長させることが可能となる。また、パイロリティックBNを使用し、Na純度が高いことから、混合融液103中に含まれる不純物が少なくなり、得られるGaN単結晶109の結晶品質も向上する。
なお、上述の例では、アルカリ金属として、Naを用いているが、Na以外にもK(カリウム)等のアルカリ金属を用いることも可能である。また、上述の例では、少なくともIII族金属を含む物質として、Gaを用いているが、GaNa合金、あるいは、AlやInのような他のIII族金属を用いることも可能である。また、上述の例では、少なくとも窒素を含む物質として、窒素ガス(N2)を用いているが、窒素ガス以外にも、アンモニアガスやアジ化ナトリウム(NaN3)等を用いることもできる。
また、混合融液保持容器102は、参考例、第1の及び第2の実施形態ではBNの材質のものを用いているが、BNのかわりに、例えば、AlNを用いることもできる。ただし、混合融液保持容器102の材質としては、AlNよりもBNの方が良い。また、混合融液保持容器102の材質としては、BNよりも第3の実施形態のようにパイロリティックBNの方が良い。
換言すれば、本発明のIII族窒化物結晶の製造装置は、アルカリ金属と少なくともIII族金属を含む物質との混合融液を保持する混合融液保持容器102と、混合融液保持容器102が設置される反応容器101と、反応容器101内に少なくとも窒素を含む物質を導入するための窒素導入手段(104,105)とを少なくとも有しており、混合融液が混合融液保持容器102と接する領域は、不純物が少ない十分な純度を有していることを特徴としている。
このように、本発明では、混合融液が混合融液保持容器102と接する領域は、不純物が少ない十分な純度を有しているので、固体物によって混合融液の表面全面が覆われないようにすることができ、これにより、混合融液への窒素の継続的な溶け込みが進み、III族窒化物結晶の結晶成長を継続させることができる。更に、固体物を構成するIII族金属が少なくなることで、III族金属の混合融液表面での消費を少なくすることができ、混合融液中のIII族窒化物結晶にIII族金属を多く供給することが可能となる。これらの結果、所望の大きさのIII族窒化物結晶にまで大きく結晶成長させることが可能となる。また、混合融液中に含まれる不純物が少なくなり、得られるIII族窒化物単結晶の結晶品質も向上する。
また、図6に示すように、混合融液保持容器102の内側に、III族窒化物結晶の製造装置によって結晶成長されるIII族窒化物(例えばGaN)と同種のIII族窒化物115(例えばGaN)を予め塗布(コーティング)しておくこともできる。この場合には、不純物をより一層低減でき、より高品質なIII族窒化物結晶(例えばGaN)を成長させることが可能になる。
また、図1の例では、混合融液保持容器102を反応容器101とは別に設けているが、反応容器101と混合融液保持容器102とを一体のものにすることもできる。図7は、本発明に係るIII族窒化物結晶の製造装置の他の構成例を示す図である。なお、図7において、図1と同様の箇所には同じ符号を付している。図7を参照すると、このIII族窒化物結晶の製造装置では、図1の反応容器と混合融液保持容器とが一体のものとして構成されている。すなわち、反応容器200は、容器外壁201と、混合融液を実質的に保持するための容器内壁202とにより構成されている。
ここで、容器外壁201は、図1の反応容器101に対応するものであって、例えばステンレスで形成されている。
また、容器内壁202は、図1の混合融液保持容器102に対応するものであって、BN、あるいは、AlN、あるいは、パイロリティックBNで形成されている。ただし、容器内壁202の材質としては、前述のように、AlNよりもBNの方が良く、また、BNよりもパイロリティックBNの方が良い。
また、図7の構成の場合には、窒素供給管104は反応容器200の上部もしくは側面から反応容器200内に導入されるようになっている。なお、図7においても、図1と同様に、窒素供給管104には、窒素ガスの圧力を調整するために圧力調整機構105が設けられている。
図7の構成のIII族窒化物結晶の製造装置では、反応容器200の容器内壁202内において、アルカリ金属(例えば、Na)と少なくともIII族金属(例えば、Ga)を含む物質との混合融液を形成し、窒素供給管104から反応容器200内の空間208に少なくとも窒素を含む物質(例えば、窒素ガス,アンモニアガスまたはアジ化ナトリウム)を供給して、III族金属と窒素から構成されるIII族窒化物(例えば、GaN)を結晶成長させるようにしている。
このとき、前述したと同様に、アルカリ金属の純度、および/または、III族金属を含む物質の純度、および/または、窒素を含む物質の純度を、混合融液の表面の少なくとも一部が多結晶もしくは非晶質のIII族窒化物で覆われない状態となるのに必要な純度のものにする。
具体的には、前述した参考例、第1,第2または第3の実施形態と同様にして、III族窒化物(例えば、GaN)を結晶成長させることができ、この場合、参考例、第1,第2または第3の実施形態と同様の効果を得ることができる。
換言すれば、図7のIII族窒化物結晶の製造装置は、アルカリ金属と少なくともIII族金属を含む物質との混合融液を保持する反応容器200と、反応容器200内に少なくとも窒素を含む物質を導入するための窒素導入手段(104,105)とを少なくとも有し、反応容器200は、容器外壁201と、混合融液を実質的に保持するための容器内壁202とにより構成されており、混合融液が容器内壁202と接する領域は、不純物が少ない十分な純度を有していることを特徴としている。
このように、図7のIII族窒化物結晶の製造装置では、混合融液が容器内壁202と接する領域は、不純物が少ない十分な純度を有しているので、固体物によって混合融液の表面全面が覆われないようにすることができ、これにより、混合融液への窒素の継続的な溶け込みが進み、III族窒化物結晶の結晶成長を継続させることができる。更に、固体物を構成するIII族金属が少なくなることで、III族金属の混合融液表面での消費を少なくすることができ、混合融液中のIII族窒化物結晶にIII族金属を多く供給することが可能となる。これらの結果、所望の大きさのIII族窒化物結晶にまで大きく結晶成長させることが可能となる。また、混合融液中に含まれる不純物が少なくなり、得られるIII族窒化物単結晶の結晶品質も向上する。
また、図8に示すように、図7のIII族窒化物結晶の製造装置において、容器内壁202の内側に、III族窒化物結晶成長装置によって結晶成長されるIII族窒化物(例えばGaN)と同種のIII族窒化物215(例えばGaN)を予め塗布(コーティング)しておくこともできる。この場合には、不純物をより一層低減でき、より高品質なIII族窒化物結晶(例えばGaN)を成長させることが可能になる。
このように、本発明によれば、高性能の発光ダイオードやLD等のデバイスを作製するために実用的な大きさで、かつ、低コスト,高品質のIII族窒化物結晶を作製し、提供することができる。
従って、このようにして得られた実用的な大きさの高品質のIII族窒化物結晶を用いて、高品質,高性能のIII族窒化物半導体デバイスを作製することができる。なお、ここで言う高性能とは、例えば半導体レーザや発光ダイオードの場合には、従来実現できていない高出力かつ長寿命なものであり、電子デバイスの場合には、低消費電力、低雑音、高速動作、高温動作可能なものであり、受光デバイスの場合には、低雑音、長寿命等のものである。
例えば、III族窒化物半導体デバイスとして、400nmより短い波長で発光する半導体発光デバイスを作製することができる。すなわち、従来技術では、GaN膜の発光スペクトルが深い順位からの発光が支配的となり、400nmより短い波長ではデバイス特性が悪いという問題があったが、本発明では、紫外領域でも良好な特性を有する発光デバイスを提供することができる。すなわち、本発明により得られた高品質のIII族窒化物結晶を基板に用いることで、結晶欠陥,不純物の少ないIII族窒化物半導体デバイスが実現可能となり、その結果、深い順位からの発光が抑制された、高効率な発光特性を実現することが可能となる。
図9は本発明により得られたIII族窒化物結晶を用いて作製されたIII族窒化物半導体デバイスの一例を示す図であり、図9の例では、III族窒化物半導体デバイスは半導体レーザとして構成されている。図9を参照すると、このIII族窒化物半導体デバイスは、本発明により得られたIII族窒化物結晶(GaN)を用いて作製したn型GaN基板501上に、n型AlGaNクラッド層502、n型GaNガイド層503、InGaN MQW(多重量子井戸)活性層504、p型GaNガイド層505、p型AlGaNクラッド層506、p型GaNコンタクト層507が順次に結晶成長されて積層構造として構成されている。なお、この結晶成長方法としては、MO−VPE(有機金属気相成長)法やMBE(分子線エピタキシー)法等の薄膜結晶成長方法を用いることができる。
そして、上記積層構造にはリッジ構造が形成され、SiO2絶縁膜508がコンタクト層507の領域のみ取り除かれた状態で形成され、コンタクト層507上にはp側オーミック電極Al/Ni509が形成されている。また、基板501の裏面にはn側オーミック電極Al/Ti510が形成されている。
この半導体レーザでは、p側オーミック電極Al/Ni509及びn側オーミック電極Al/Ti510から電流を注入することで、レーザ発振し、図の矢印方向にレーザ光が出射される。
この半導体レーザは、本発明により得られたGaN結晶を基板501として用いているため、半導体レーザデバイス中の結晶欠陥が少なく、大出力動作かつ長寿命のものとなる。また、GaN基板501はn型であることから、基板501に直接電極を形成することができ、第1の従来技術(図10)のようにp側とn側の2つの電極を表面からのみ取り出すことが必要なく、低コスト化を図ることが可能となる。更に、光出射端面を劈開で形成することが可能となり、チップの分離と併せて、低コストで高品質のデバイスを実現することができる。
なお、図9の例では、InGaN MQWを活性層504としたが、AlGaN MQWを活性層504として、発光波長の短波長化を図ることも可能である。いずれにしても、図9の例では、GaN基板501の欠陥及び不純物が少ないことによって、深い順位からの発光が少なくなり、短波長化しても高効率な発光デバイスが可能となる。すなわち、より発光波長の短い発光デバイスの作製が容易となる。
また、上述の例では、本発明により得られたIII族窒化物結晶の光デバイスへの適用について述べたが、本発明により得られたIII族窒化物結晶を電子デバイスに適用することもできる。すなわち、欠陥の少ないGaN基板を用いることで、その上にエピタキシャル成長したGaN系薄膜も結晶欠陥が少なく、その結果、リーク電流を抑制できたり、量子構造にした場合のキャリア閉じ込め効果を高めたり、高性能なデバイスが実現可能となる。