以下、添付図面を参照して本発明の自動変速機の制御装置の好適な実施形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態における自動変速機の制御装置を備えた車両の動力伝達系統および制御系統を概略的に示すブロック図である。車両の動力伝達系統は、動力源であるエンジン1と、エンジン1の回転出力を変速ギア機構3に伝達するための流体継手であるトルクコンバータ2と、トルクコンバータ2の回転出力を入力して設定された速度比で変速して出力する変速ギア機構3と、変速ギア機構3の回転出力を左右の車輪(例えば後輪)5に分配するディファレンシャルギア機構4とを含む。トルクコンバータ2および変速ギア機構3に付属して油圧制御装置6が設けられており、この油圧制御装置6は、トルクコンバータ2および変速ギア機構3内に設けられている油圧制御型の複数の摩擦係合要素(クラッチなど)を所定の組み合わせで締結または解放することにより、トルクコンバータ2のロックアップや、変速ギア機構3における入出力速度比を所要の変速段に設定することを行う。車両の自動変速機は、これらのトルクコンバータ2、変速ギア機構3、油圧制御装置6などによって構成される。
車両の動力伝達系統を制御するための制御系統は、車両の各部に設けられたセンサと、該各センサの出力が入力される電子制御ユニット(ECU)10と、該電子制御ユニット10によって制御される油圧制御装置6などで構成される。回転センサ11はトルクコンバータ2の入力軸の回転数(エンジン回転数)Neを検出し、回転センサ12は変速ギア機構3の入力軸(すなわち、トルクコンバータ2の出力軸)の回転数Niを検出し、回転センサ13は変速ギア機構3の出力軸の回転数Noを検出し、車速センサ14は車両の走行速度(車速)Nvを検出する。なお、車速Nvを専用に検出する車速センサ14を設けることなく、入力軸回転数Niまたは出力軸回転数Noから車速Nvを算出するようにしてもよい。例えば、「Nv=Ni×変速レシオ×タイヤ周長」あるいは「Nv=No×タイヤ周長」のような関係式に基づいて車速Nvを検出(算出)することができる。シフトレバーポジションセンサ15は、運転者によって操作されるシフトレバーのポジションを検出する。シフトレバーのポジションには、公知のように、例えば、P(パーキング)、R(後進走行)、N(ニュートラル)、D(自動変速モードでの前進走行)などがあり、さらに、3速、2速、1速等の特定の変速段を手動で指定するための例えば+および−ポジションが設けられる。運転者(ユーザ)は、この+ポジションまたは−ポジションにシフトレバーを移動させることにより、変速ギア機構3の変速段をマニュアル(手動)にてシフトアップまたはシフトダウンすることができる。
ブレーキセンサ16は、運転者によりブレーキペダルが所定量以上踏み込まれるとブレーキがかけられたことを検出する。スロットルセンサ17は、アクセルペダルの踏み込みに応じて開度が設定されるエンジン1のスロットルの開度を検出する。アクセルペダルセンサ21は、アクセルペダルの踏み込みに応じたアクセルペダル開度APATを検出する。ATF温度センサ18は、油圧制御装置6における作動油の温度(ATF油温)TATFを検出する。油圧センサ20は、油圧制御装置6において図示しないリニアソレノイドバルブにより調圧されたライン圧Pを検出する。冷却水温センサ19は、エンジン冷却液の温度(冷却水温)を検出する。
本発明の自動変速機の制御装置は、自動変速機(変速ギア機構3)のシフトレンジが走行(D)レンジとされているときであっても、所定の条件が成立したときに、自動変速機を擬似的なニュートラル状態にするアイドルニュートラル制御と、アイドルニュートラル制御時の自動変速機のクラッチ(すなわち、Lowクラッチ)への入力トルクが所定値となるようにクラッチ油圧を制御するクラッチ油圧制御とを行うものである。そして、本発明の自動変速機の制御装置は、アイドルニュートラル制御を実行するために上記所定の条件の成立を判断するアイドルニュートラル制御許可判定処理を実行するとともに、アイドルニュートラル制御を実行する前に、Lowクラッチを保護するためのアイドルニュートラル制御実行前走行条件の成立を判定するクラッチ保護判断処理を実行するものである。なお、これらの処理の詳細についてはフローチャートを用いて後述する。
図1に示した車両の動力伝達系統および制御系統の具体的構成は、公知の構成を適宜採用すればよい。本発明に係る自動変速機の制御装置は、電子制御ユニット10を含むものであり、該電子制御ユニット10が実現可能な種々の制御機能のうちの一つとして実施される。以下述べる実施形態においては、本発明に係る自動変速機の制御装置は、電子制御ユニット10が具備するコンピュータプログラムによって実行されるものとする。しかしながら、本発明に係る自動変速機の制御装置は、このようなコンピュータプログラムに限らず、専用の電子回路ハードウェアで構成することができるのは勿論である。
図2は、本発明の自動変速機の制御装置において実行されるクラッチ保護判断処理の制御系統を示すブロック図である。図2に示すように、電子制御ユニット10は、アイドルニュートラル制御における上述の所定の条件の成立を判断する手段(以下では、これらの判断手段をまとめて「所定条件成立判断手段」という)として、アクセルペダルセンサ21の検出結果に基づいて、アクセルペダル開度APATが第1の所定値以下であるか否かを判断するアクセルペダル開度判断手段101と、ブレーキセンサ16の検出結果に基づいて、ブレーキが踏み込まれているか否かを判断するブレーキ判断手段102と、車速センサ14の検出結果に基づいて、車速Nvが第1の所定車速以下であるか否かを判断する車速判断手段103とを含む。ここで、アクセルペダル開度APATの第1の所定値としては、例えば0.5%とすればよく、第1の所定車速としては、例えば1km/hに設定すればよい。
また、電子制御ユニット10は、所定条件成立判断手段のそれぞれが対応する条件の成立を判断したときに、変速ギア機構3をアイドルニュートラル状態に移行させるアイドルニュートラル制御実行手段104をさらに含む。ここで、変速ギア機構3をアイドルニュートラル状態に移行させるために、電子制御ユニット10は、ATF温度センサ18により検出された作動油の温度TATF等に基づいて決定される目標スリップ率を油圧制御装置6に出力し、油圧制御装置6は、トルクコンバータ2のスリップ率がこの目標スリップ率になるようにLowクラッチに供給する作動油の油圧を制御する。なお、目標スリップ率の決定等は本発明の特徴部分ではなく、公知の方法を用いて行えばよいため、その詳細な説明を省略する。
また、電子制御ユニット10は、アイドルニュートラル制御を実行する前に、Lowクラッチを保護するためのアイドルニュートラル制御実行前走行条件の成立を判定する手段として、レーシングインギア走行条件が成立しているか否かを判定するレーシングインギア判定手段105と、キックダウン走行条件が成立しているか否かを判定するキックダウン判定手段106と、マニュアルダウン走行条件が成立しているか否かを判定するマニュアルダウン判定手段107とを含む。
ここで、レーシングインギア走行条件は、運転者によって走行レンジがNレンジからDレンジに変更されることによりLowギアへのインギア制御が行われたとき、エンジン1の回転数が所定値(例えば、3,000〜4,000rpm)以上である場合に成立する。すなわち、「レーシングインギア」とは、走行レンジがNレンジのときに運転者がアクセルペダルを踏むことによりエンジン1の回転数を3,000〜4,000rpm以上にした状態において、走行レンジをDレンジに変更して電子制御ユニット10にLowギアへのインギア制御を行わせる制御をいう。
キックダウン走行条件は、1速へシフトダウンしたとき、アクセルペダル開度APATが第2の所定値以上である場合に成立する。これに対して、マニュアルダウン走行条件は、第3の所定車速以上で1速へシフトダウンしたとき、アクセルペダル開度APATが第3の所定値以下である場合に成立する。アクセルペダル開度APATの第2の所定値としては、例えば30%とすればよく、同第3の所定値としては、例えば25%とすればよい。また、第3の所定車速としては、例えば30km/hに設定すればよい。なお、「キックダウン」とは、運転者がアクセルペダルを踏み込むことにより実行される自動変速機の自動シフトダウンのことであり、「マニュアルダウン」とは、運転者がマニュアル(手動)でシフトレバーを−ポジションに移動させることにより実行される自動変速機の手動シフトダウンのことである。
また、電子制御ユニット10は、これらの少なくとも一つの判定手段が対応する走行条件の成立を判定したときには、車速Nvが第2の所定車速以上の状態で所定時間が経過するまで、アイドルニュートラル制御実行手段104によるアイドルニュートラル制御の実行を禁止するアイドルニュートラル制御禁止手段108をさらに含む。ここで、第2の所定車速としては、例えば40〜50km/h程度に設定すればよいが、この第2の所定車速は、車種や走行条件等で異なり、テスト走行によって決定されるものである。また、所定時間としては、上記と同様に車種や走行条件等で異なるものであり、テスト走行によって決定されればよいが、例えば60秒に設定すればよい。
なお、電子制御ユニット10は、上記所定時間を計時するための計時手段(タイマ)109と、電子制御ユニット10により実行される各種プログラムやデータ等を格納するメモリ110とをさらに含む。計時手段109は、レーシングインギア判定手段105、キックダウン判定手段106およびマニュアルダウン判定手段107のいずれかが対応する走行条件の成立を判定したときからの時間を計時する。この計時手段109による所定時間の計時は、車速Nvが上記第2の所定車速以下になったときにリセットされ、次に第2の所定車速以上になったときに再開されるものである。また、メモリ110には、アイドルニュートラル制御やクラッチ油圧制御を含む各種制御を実行するための制御プログラムや制御データに加え、アクセルペダル開度判断手段101の判断基準であるアクセルペダル開度APATの第1の所定値、車速判断手段103の判断基準である車速の第1の所定車速、レーシングインギア判定手段105の判定基準であるエンジン1の回転数の所定値、キックダウン判定手段106の判定基準であるアクセルペダル開度APATの第2の所定値、マニュアルダウン判定手段107の判定基準である第3の所定車速およびアクセルペダル開度APATの第3の所定値等が格納される。
次に、アイドルニュートラル制御禁止手段108によるアイドルニュートラル制御の実行の禁止と再許可のタイミングの一例を説明する。図3は、レーシングインギア後のアイドルニュートラル制御の実行の可否を示すタイミングチャートである。図4は、キックダウンまたはマニュアルダウン後のアイドルニュートラル制御の実行の可否を示すタイミングチャートである。
まず、レーシングインギア後の処理について図3のタイミングチャートの事象を時間経過に従って説明する。シフトレンジがN(ニュートラル)の状態において、運転者がアクセルペダルを踏み、エンジン1の回転数が3,000〜4,000rpmになったときにシフトレバーをD(ドライブ)に移行させる。この場合、レーシングインギア走行条件が成立するので、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」に設定されるとともに、アイドルニュートラル制御再許可タイマが設定される。また、高回転のエンジン1の回転出力がトルクコンバータ2を介して変速ギア機構3の図示しないLowクラッチに伝達されることにより、Lowクラッチのプレート推定温度が急激に上昇する。
Lowギアへのインギア制御に続いて、車速Nvが徐々に大きくなり、自動変速機の変速段が1速から2速、3速、4速へと順次変更されていく。そして、車速Nvがやがて予めメモリ110に格納されている再許可車速閾値を超えると、計時手段109は、アイドルニュートラル制御再許可タイマの計時を開始する。しかしながら、最初の走行では、アイドルニュートラル制御再許可タイマの計時が終了する前に車両が停止してしまい、車速Nvが再許可車速閾値未満になったときにアイドルニュートラル制御再許可タイマは最初の設定時間に戻ってしまう。ここで、再許可車速閾値は、上記第2の所定車速に対応するものであり、例えば40〜50km/h程度に設定されればよい。また、アイドルニュートラル制御再許可タイマは、上記所定時間に対応するものであり、例えば60秒に設定されればよい。
レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」になっている状態では、アイドルニュートラル制御実行手段104によるアイドルニュートラル制御の実行がアイドルニュートラル制御禁止手段108によって禁止されているため、後述するアイドルニュートラル制御許可判定処理においてアイドルニュートラル制御の実行は不許可となり(ステップS209参照)、上述の所定の条件が成立したとしてもアイドルニュートラル制御実行手段104はアイドルニュートラル制御を実行することができない。なお、Lowクラッチのプレート推定温度は、レーシングインギアの瞬間に最高温度に達するが、車両停止時にアイドルニュートラル制御が実行されず、また本例では再度Lowギアへのインギア制御等の高負荷入力を伴う制御が行われないため、その後徐々に低下する。
次いで、車両が発進して変速段が1速から2速、3速、4速、5速とシフトアップしていき、車速Nvが再許可車速閾値を超えると、計時手段109は、アイドルニュートラル制御再許可タイマの計時を再度開始する。今回は、計時手段109によりアイドルニュートラル制御再許可タイマがタイムアップすることにより、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」から「0」に変更される。
その後、車両が減速するにつれて変速段は5速から1速までシフトダウンし、車両は1速にて停止する。この場合、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「0」であるため、アイドルニュートラル制御を実行するための所定の条件を含む他の条件の成立が判定されると、アイドルニュートラル制御実行手段104は、アイドルニュートラル制御の実行を開始し、それに伴ってLowクラッチのプレート推定温度は徐々に上昇していく。
次に、キックダウンまたはマニュアルダウンにより2速以上の変速段から1速にシフトダウン後の処理について図4のタイミングチャートの事象を時間経過に従って説明する。まず、再許可車速閾値以下の車速Nv(ここでは、上記第3の所定車速に対応する例えば30km/h以上の車速)で車両が走行中に、運転者によるキックダウンにてあるいは運転者によるマニュアル(手動)にて2速以上の変速段から1速にシフトダウンすると、キックダウンまたはマニュアルダウンに応じて対応するキックダウン走行条件またはマニュアルダウン走行条件が成立する。それに応じて、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグまたはマニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」に設定される。
そして、走行状態における1速へのシフトダウンに応じて、Lowクラッチのプレート推定温度が上昇する。その後、自動変速機の制御により1速から2速、3速、4速へとシフトアップしていくと、車速が再許可車速閾値を超えて、計時手段109は、アイドルニュートラル制御再許可タイマの計時を開始する。しかしながら、最初の走行では、上記レーシングインギアの場合と同様に、アイドルニュートラル制御再許可タイマの計時が終了する前に車両が停止してしまい、車速Nvが再許可車速閾値未満になったときにアイドルニュートラル制御再許可タイマは最初の設定時間に戻ってしまう。
キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグまたはマニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」になっている状態では、アイドルニュートラル制御実行手段104によるアイドルニュートラル制御の実行がアイドルニュートラル制御禁止手段108によって禁止されているため、後述するアイドルニュートラル制御許可判定処理においてアイドルニュートラル制御の実行は不許可となり(ステップS209参照)、上述の所定の条件が成立したとしてもアイドルニュートラル制御実行手段104はアイドルニュートラル制御を実行することができない。
次いで、車両が発進して変速段が1速から2速、3速、4速、5速とシフトアップしていき、車速Nvが再許可車速閾値を超えると、計時手段109は、アイドルニュートラル制御再許可タイマの計時を再度開始する。今回は、計時手段109によりアイドルニュートラル制御再許可タイマがタイムアップすることにより、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグまたはマニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」から「0」に変更される。
その後、車両が減速するにつれて変速段は5速から1速までシフトダウンし、車両は1速にて停止する。この場合、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグまたはマニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「0」であるため、アイドルニュートラル制御を実行するための所定の条件を含む他の条件の成立が判定されると、アイドルニュートラル制御実行手段104は、アイドルニュートラル制御の実行を開始し、それに伴ってLowクラッチのプレート推定温度は徐々に上昇していく。
なお、レーシングインギア後、キックダウン後およびマニュアルダウン後のアイドルニュートラル再許可タイマは、それぞれの条件により異なるものであり、走行テスト中のLowクラッチのプレート推定温度等により決定されればよい。
次に、本発明の一実施形態における自動変速機の制御装置の動作を説明する。本実施形態では特に本発明に特有の動作についてフローチャートを参照しつつ説明するものとし、従来から行われているアイドルニュートラル制御そのものの動作についてはその説明を省略する。
まず、電子制御ユニット10により実行されるクラッチ保護判断処理について説明する。図5〜図7は、本発明の一実施形態における自動変速機の制御装置において実行されるクラッチ保護判断処理を示すフローチャートである。このクラッチ保護判断処理は、車両の走行中、すなわち、エンジン1の始動後からエンジン1の停止時まで繰り返し実行される。
まず、電子制御ユニット10は、変速ギア機構3が2速以上の変速段からLowクラッチ(1速)へのシフトダウン変速中であるか否かを判断する(ステップS101)。Lowクラッチへのシフトダウン変速中であると判断すると、電子制御ユニット10は、続いて、Lowクラッチへの変速開始時の車速Nvが一定値以上であったか否かを判断する(ステップS102)。ここでは、車速の一定値として上記第3の所定車速が適用され、この値は例えば30km/hであればよい。
Lowクラッチへの変速開始時の車速Nvが一定値以上であったと判断すると、電子制御ユニット10は車速条件フラグに「1」を設定し(ステップS103)、ステップS104に移行する。Lowクラッチへの変速開始時の車速Nvが一定値以上ではないと判断すると、処理フローはそのままステップS104に移行する。
次いで、マニュアルダウン判定手段107は、アクセルペダル開度APATが一定値以下であるか否かを判定する(ステップS104)。ここでは、アクセルペダル開度APATの一定値として上記アクセルペダル開度APATの第3の所定値が適用され、この一定値は例えば25%であればよい。アクセルペダル開度APATが一定値以下であると判定した場合には、電子制御ユニット10は、マニュアルダウンフラグに「1」を設定し(ステップS105)、処理フローはステップS106に移行する。アクセルペダル開度APATが一定値以下ではないと判定した場合には、処理フローはそのままステップS106に移行する。
次いで、キックダウン判定手段106は、アクセルペダル開度APATが一定値以上であるか否かを判定する(ステップS106)。ここでは、アクセルペダル開度APATの一定値として上記アクセルペダル開度APATの第2の所定値が適用され、この一定値は例えば30%であればよく、あるいは、第2の所定値が第3の所定値と同一の値であってもよい。このように同一の値である場合には、ステップS106およびS107の処理を省略することができる。
アクセルペダル開度APATが一定値以上であると判定した場合には、電子制御ユニット10は、キックダウンフラグに「1」を設定し(ステップS107)、処理フローはステップS119に移行する。アクセルペダル開度APATが一定値以上ではないと判定した場合には、処理フローはそのままステップS119に移行する。
一方、ステップS101において、Lowクラッチへのシフトダウン変速中ではないと判断すると、電子制御ユニット10は、続いて、変速ギア機構3が2速以上の変速段からLowクラッチ(1速)へのシフトダウン変速後であるか否かを判断する(ステップS108)。Lowクラッチへのシフトダウン変速後であると判断した場合には、マニュアルダウン判定手段107は、車速条件フラグに「1」が設定されているか、およびマニュアルダウンフラグに「1」が設定されているかを判定する(ステップS109)。
車速条件フラグに「1」が設定されているとともに、マニュアルダウンフラグに「1」が設定されていると判定した場合には、マニュアルダウン判定手段107は、マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマを設定し(ステップS110)、これにより、計時手段109は、このマニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマをカウントダウンする。そして、マニュアルダウン判定手段107は、マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグに「1」を設定し(ステップS111)、処理フローはステップS112に移行する。また、車速条件フラグに「1」が設定されておらず、あるいはマニュアルダウンフラグに「1」が設定されていないと判定した場合には、処理フローはそのままステップS112に移行する。
次いで、キックダウン判定手段106は、キックダウンフラグに「1」が設定されているか否かを判定する(ステップS112)。キックダウンフラグに「1」が設定されていると判定した場合には、キックダウン判定手段106は、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマを設定し(ステップS113)、これにより、計時手段109は、このキックダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマをカウントダウンする。そして、キックダウン判定手段106は、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグに「1」を設定し(ステップS114)、処理フローはステップS119に移行する。また、キックダウンフラグに「1」が設定されていないと判定した場合には、処理フローはそのままステップS119に移行する。
なお、ステップS104およびS106の判定処理からも分かるように、アクセルペダル開度APATの閾値には重複する部分はないので、この一連の判定処理(ステップS109およびS112)においてマニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグとキックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグの両方に「1」が設定されることはない。
一方、ステップS108においてLowクラッチへのシフトダウン変速後ではないと判断した場合には、電子制御ユニット10は、続いて、Lowクラッチへのインギア制御が行われたか否かを判断する(ステップS115)。Lowクラッチへのインギア制御が行われていないと判断すると、処理フローはステップS119に移行する。
Lowクラッチへのインギア制御が行われたと判断すると、電子制御ユニット10は、Lowクラッチへのインギア制御時のエンジン1の回転数が所定値以上であるか否かを判断する(ステップS116)。ここで、上述のように、エンジン1の回転数の所定値としては例えば3,000〜4,000rpmが設定されればよい。Lowクラッチへのインギア制御時のエンジン1の回転数が所定値以上ではないと判断すると、処理フローはステップS119に移行する。
Lowクラッチへのインギア制御時のエンジン1の回転数が所定値以上であると判断すると、レーシングインギア判定手段105は、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止タイマを設定し(ステップS117)、これにより、計時手段109は、このレーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止タイマをカウントダウンする。そして、レーシングインギア判定手段105は、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止フラグに「1」を設定し(ステップS118)、処理フローはステップS119に移行する。
次いで、マニュアルダウン判定手段107は、マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」であるか否かを判定する(ステップS119)。マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」ではないと判定した場合には、処理フローはステップS124に移行する。マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」であると判定した場合には、電子制御ユニット10は、車速NvがV1以上であるか否かを判断する(ステップS120)。ここで、車速V1は上述の第2の所定車速に対応し、例えば40〜50km/hに設定されればよく、マニュアルダウンのテスト走行によって決定されるものである。
車速NvがV1以上ではないと判断した場合には、マニュアルダウン判定手段107は、マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマを再度設定し(ステップS121)、これにより、計時手段109は、このマニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマを最初からカウントダウンする。そして、処理フローはステップS124に移行する。
車速NvがV1以上であると判断した場合には、マニュアルダウン判定手段107は、マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマが「0」になっているか否かを判定する(ステップS122)。マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマが「0」になっていないと判定した場合には、処理フローはステップS124に移行する。また、マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマが「0」になっていると判定した場合には、マニュアルダウン判定手段107は、マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグに「0」を設定し(ステップS123)、処理フローはステップS124に移行する。
次いで、キックダウン判定手段106は、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」であるか否かを判定する(ステップS124)。キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」ではないと判定した場合には、処理フローはステップS129に移行する。キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」であると判定した場合には、電子制御ユニット10は、車速NvがV2以上であるか否かを判断する(ステップS125)。ここで、車速V2は上述の第2の所定車速に対応し、例えば40〜50km/hに設定されればよく、キックダウンのテスト走行によって決定されるものである。
車速NvがV2以上ではないと判断した場合には、キックダウン判定手段106は、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマを再度設定し(ステップS126)、これにより、計時手段109は、このキックダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマを最初からカウントダウンする。そして、処理フローはステップS129に移行する。
車速NvがV2以上であると判断した場合には、キックダウン判定手段106は、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマが「0」になっているか否かを判定する(ステップS127)。キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマが「0」になっていないと判定した場合には、処理フローはステップS129に移行する。また、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止タイマが「0」になっていると判定した場合には、キックダウン判定手段106は、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグに「0」を設定し(ステップS128)、処理フローはステップS129に移行する。
次いで、レーシングインギア判定手段105は、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」であるか否かを判定する(ステップS129)。レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」ではないと判定した場合には、処理フローはステップS134に移行する。レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」であると判定した場合には、電子制御ユニット10は、車速NvがV3以上であるか否かを判断する(ステップS130)。ここで、車速V3は上述の第2の所定車速に対応し、例えば40〜50km/hに設定されればよく、レーシングインギアのテスト走行によって決定されるものである。
車速NvがV3以上ではないと判断した場合には、レーシングインギア判定手段105は、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止タイマを再度設定し(ステップS131)、これにより、計時手段109は、このレーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止タイマを最初からカウントダウンする。そして、処理フローはステップS134に移行する。
車速NvがV3以上であると判断した場合には、レーシングインギア判定手段105は、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止タイマが「0」になっているか否かを判定する(ステップS132)。レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止タイマが「0」になっていないと判定した場合には、処理フローはステップS134に移行する。また、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止タイマが「0」になっていると判定した場合には、レーシングインギア判定手段105は、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止フラグに「0」を設定し(ステップS133)、処理フローはステップS134に移行する。
次いで、電子制御ユニット10は、マニュアルダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」であるか否か、キックダウン後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」であるか否か、あるいは、レーシングインギア後アイドルニュートラル制御禁止フラグが「1」であるか否かを判断する(ステップS134)。これらのフラグのうちいずれか一つが「1」に設定されていると判断した場合には、電子制御ユニット10は、クラッチ保護フラグに「1」を設定し(ステップS135)、このクラッチ保護判断処理を終了する。一方、いずれのフラグも「1」に設定されていないと判断した場合には、電子制御ユニット10は、クラッチ保護フラグに「0」を設定し(ステップS136)、このクラッチ保護判断処理を終了する。
なお、このクラッチ保護判断処理において用いられる各種フラグは、メモリ110に格納されるものであり、このクラッチ保護判断処理中、あるいは後述するアイドルニュートラル制御許可判定処理において適宜読み出されて、判断または判定に利用されるものである。
次に、クラッチ保護フラグを利用して実行されるアイドルニュートラル制御許可判定処理について説明する。図8は、本発明の一実施形態における自動変速機の制御装置において実行されるアイドルニュートラル制御許可判定処理を示すフローチャートである。このアイドルニュートラル制御許可判定処理は、車両のエンジン1の駆動中に繰り返し実行されるものである。
まず、アクセルペダル開度判断手段101は、アクセルペダル開度APATが実質的に0であるか、すなわち、アクセルがOFFになっているか否かを判断し(ステップS201)、また、ブレーキ判断手段102は、ブレーキが踏み込まれているか、すなわちブレーキがONされているか否かを判断し(ステップS202)、電子制御ユニット10は、ATF温度センサ18により検出される作動油の温度TATFが一定の範囲内にあるか否かを判断するとともに(ステップS203)、冷却水温センサ19により検出されるエンジン冷却液の温度(冷却水温)が一定の温度以上であるか否かを判断する(ステップS204)。ステップS201〜S204のいずれかのステップにおいて否定的な判断がなされると、電子制御ユニット10は、タイマ1を設定し(ステップS206)、アイドルニュートラル制御の実行を不許可(禁止)とし(ステップS209)、このアイドルニュートラル制御許可判定処理を終了する。
一方、ステップS201〜S204のすべてのステップにおいて肯定的な判断がなされると、電子制御ユニット10は、クラッチ保護フラグが「0」に設定されているか否かを判断する(ステップS205)。クラッチ保護フラグが「0」に設定されていないと判断した場合には、上記と同様に、電子制御ユニット10は、タイマ1を設定し(ステップS206)、アイドルニュートラル制御の実行を不許可(禁止)とし(ステップS209)、このアイドルニュートラル制御許可判定処理を終了する。
クラッチ保護フラグが「0」に設定されていると判断した場合には、電子制御ユニット10は、タイマ1が「0」になっているか否かを判断する(ステップS207)。タイマ1が「0」になっていると判断した場合には、電子制御ユニット10は、アイドルニュートラル制御の実行を許可し(ステップS208)、このアイドルニュートラル制御許可判定処理を終了する。一方、タイマ1が「0」になっていないと判断した場合には、電子制御ユニット10は、アイドルニュートラル制御の実行を不許可(禁止)とし(ステップS209)、このアイドルニュートラル制御許可判定処理を終了する。
ここで、ステップS206およびS207において規定されるタイマ1とは、アイドルニュートラル制御の実行を遅延させるために設定されたタイマであり、計時手段109により計時されるものである。しかしながら、本アイドルニュートラル制御許可判定処理では、アイドルニュートラル制御の実行を遅延させるためのタイマ1の設定が本発明の特徴ではないため、ここではこれらの処理ステップが省略されてもよい。
以上説明したように、本発明の一態様における自動変速機の制御装置によれば、自動変速機のシフトレンジが走行レンジ(Dレンジ)とされているときであっても、所定の条件が成立したときに、自動変速機をアイドルニュートラル状態にするアイドルニュートラル制御と、アイドルニュートラル制御時の自動変速機のクラッチへの入力トルクが所定値となるようにクラッチ油圧を制御するクラッチ油圧制御とを行う自動変速機の制御装置において、所定の条件が成立したことに応じて、アイドルニュートラル制御実行手段104により自動変速機をアイドルニュートラル制御の実行状態に移行させる前に、Lowクラッチを保護するためのアイドルニュートラル制御実行前走行条件の成立を判定する手段として、レーシングインギア走行条件が成立しているか否かを判定するレーシングインギア判定手段105と、キックダウン走行条件が成立しているか否かを判定するキックダウン判定手段106と、マニュアルダウン走行条件が成立しているか否かを判定するマニュアルダウン判定手段107とを備えるとともに、アイドルニュートラル制御禁止手段108は、これらの少なくとも一つの判定手段が対応する走行条件の成立を判定したときには、車速が第2の所定車速以上の状態で所定時間が経過するまで、アイドルニュートラル制御実行手段104によるアイドルニュートラル制御の実行を禁止することとした。したがって、Lowクラッチのプレート温度が高温になることが予想される2速以上の変速段から1速(Lowギア)へのキックダウン、一定車速以上におけるマニュアルダウンあるいはエンジンが一定回転数以上でのレーシングインギア等の高負荷後には、アイドルニュートラル制御の実行を禁止するための所定時間を設定し、Lowクラッチのプレート温度が十分に下がるのを待ってからアイドルニュートラル制御の実行を許可するものである。これにより、一定の車両の燃料経済性(燃費)を確保しつつ、自動変速機(変速ギア機構3)のLowクラッチのクラッチ焼けを効果的に防止して、クラッチの耐久性を向上させることができる。
上述の実施形態における自動変速機の制御装置では、レーシングインギア走行条件は、走行レンジがNレンジからDレンジに変更されることによりLowギアへのインギア制御が行われたとき、エンジン1の回転数が所定値以上である場合に成立することとしたので、レーシングインギア判定手段105はレーシングインギアが行われたことを明確に判定することができる。
上述の実施形態における自動変速機の制御装置では、キックダウン走行条件は、1速へシフトダウンしたとき、アクセルペダル開度APATが第2の所定値以上である場合に成立するとともに、マニュアルダウン走行条件は、第3の所定車速以上で1速へシフトダウンしたとき、アクセルペダル開度APATが第3の所定値以下である場合に成立することとしたので、キックダウン判定手段106およびマニュアルダウン判定手段107はキックダウンやマニュアルダウンが行われたことを明確に判定することができる。
上述の実施形態における自動変速機の制御装置では、計時手段109による所定時間の計時は、車速が上記第2の所定車速以下になったときにリセットされることとしたので、レーシングインギア判定手段105、キックダウン判定手段106およびマニュアルダウン判定手段107のいずれかが対応する走行条件の成立を判定したときには、車両が所定車速以上で連続して所定時間走行したことによりLowクラッチのプレート温度が十分に低下したとみなせるまでアイドルニュートラル制御の実行を禁止することができる。これにより、自動変速機(変速ギア機構3)のLowクラッチのクラッチ焼けをさらに効果的に防止して、クラッチの耐久性を向上させることができる。
以上、本発明の自動変速機の制御装置の実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明したが、本発明は、これらの構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲、明細書および図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書および図面に記載のない形状・構造・機能を有するものであっても、本発明の作用・効果を奏する以上、本発明の技術的思想の範囲内である。すなわち、自動変速機の制御装置(油圧制御回路を含む)を構成する各部は、同様の機能を発揮し得る任意の構成のものと置換することができる。また、任意の構成物が付加されていてもよい。