以下に、本発明に係る放射線検出器の実施形態の一例を図面に基づき説明する。
本実施形態に係る放射線検出器は、X線撮影装置等に使用されるものであり、放射線の照射を受けることにより導電性を呈する光導電層を含む静電記録部を備えてなり、画像情報を担持する放射線の照射を受けて画像情報を記録し、記録した画像情報を表す画像信号を出力するものである。
放射線検出器としては、光の照射により電荷を発生する半導体材料を利用して読み取る、いわゆる光読取方式の放射線検出基板500と、放射線の照射により発生した電荷を蓄積し、その蓄積した電荷を薄膜トランジスタ(TFT:thin film transistor)などの電気的スイッチを1画素ずつオン・オフすることにより読み取る方式(以下、TFT方式という)の放射線検出器400等がある。
(TFT方式の放射線検出器400の構成)
まず、TFT方式の放射線検出器400の構成について説明する。図1は、TFT方式の放射線検出器400の全体構成を示す概略断面図である。図2は、TFT方式の放射線検出器400の要部構成を示すものであり、ガラス基板上に積層された各部を示す図である。
本実施形態に係るTFT方式の放射線検出器400は、図1及び図2に示すように、放射線の一例としてのX線が入射されることにより電荷を生成する電荷変換層として、電磁波導電性を示す光導電層404を備えている。光導電層404としては、暗抵抗が高く、X線照射に対して良好な電磁波導電性を示し、真空蒸着法により低温で大面積成膜が可能な非晶質(アモルファス)材料が好まれる。
非晶質(アモルファス)材料としては、例えば、アモルファスSe(a-Se)膜が用いられている。また、アモルファスSeにAs、Sb、Geをドープした材料が、熱安定性に優れ、光導電層404の好適な材料となる。
光導電層404上には、光導電層404へバイアス電圧を印加するための上部電極部の一例として、バイアス電極401が形成されている。このバイアス電極401と後述する延長電極部431とから電極層430が構成されている。電極層430には、例えば、金(Au)が用いられる。
光導電層404下には、下部電極部の一例として、複数の電荷収集電極407aが形成されている。電荷収集電極407aは、図2に示すように、それぞれ電荷蓄積容量407c及びスイッチ素子407bに接続されている。また、電荷収集電極407aは、ガラス基板408に設けられている。
光導電層404とバイアス電極401との間には、図1及び図2に示すように、中間層として、正孔注入阻止層402が設けられている。ここで、中間層とは、バイアス電極401と光導電層404の間に存在する層であり、電荷注入阻止層(電荷蓄積とダイオード形成を包含)を兼ねるものであっても良い。電荷注入阻止層として、抵抗層や絶縁層が用いられる場合もあるが、好ましくは、電子に対しては導電体でありながら正孔の注入を阻止する正孔注入阻止層や、正孔に対しては導電体でありながら電子の注入を阻止する電子注入阻止層が用いられる。正孔注入阻止層としては、CeO2、ZnS、Sb2S3を用いることができる。このうちZnSは低温で形成できて望ましい。電子注入阻止層としては、Sb2S3、CdS、TeをドープされたSe、CdTe、有機物系の化合物等がある。なお、Sb2S3は設けられる厚みにより、正孔注入阻止層にも電子注入阻止層にもなる。本実施形態では、バイアス電極が正極であるため、中間層として、正孔注入阻止層402が設けられている。また、光導電層404と電荷収集電極407aとの間には、図2に示すように、電子注入阻止層406が設けられている。
また、正孔注入阻止層402と光導電層404との間と、電子注入阻止層406と光導電層404との間とには、図2に示すように、それぞれ結晶化防止層403、405が設けられている。結晶化防止層403、405としてはGeSe、GeSe2、Sb2Se3、a-As2Se3や、Se−As、Se−Ge、Se−Sb系化合物等を用いることが可能である。
なお、電荷収集電極407aとスイッチ素子407bと電荷蓄積容量407cとからアクティブマトリックス層407が構成され、ガラス基板408とアクティブマトリックス層407とからアクティブマトリックス基板450が構成されている。
図3は、放射線検出器400の1画素単位の構造を示す断面図であり、図4は、その平面図である。図3及び図4に示す1画素のサイズは、0.1mm×0.1mm〜0.3mm×0.3mm程度であり、放射線検出器全体としてはこの画素がマトリクス状に500×500〜3000×3000画素程度配列されている。
図3に示すように、アクティブマトリックス基板450は、ガラス基板408、ゲート電極411、電荷蓄積容量電極(以下、Cs電極と称する)418、ゲート絶縁膜413、ドレイン電極412、チャネル層415、コンタクト電極416、ソース電極410、絶縁保護膜417、層間絶縁膜420、及び電荷収集電極407aを有している。
また、ゲート電極411やゲート絶縁膜413、ソース電極410、ドレイン電極412、チャネル層415、コンタクト電極416等により薄膜トランジスタ(TFT:Thin Film Transistor)からなるスイッチ素子407bが構成されており、Cs電極418やゲート絶縁膜413、ドレイン電極412等により電荷蓄積容量407cが構成されている。
ガラス基板408は支持基板であり、ガラス基板408としては、例えば、無アルカリガラス基板(例えば、コーニング社製#1737等)を用いることができる。ゲート電極411及びソース電極410は、図4に示すように、格子状に配列された電極配線であり、その交点には薄膜トランジスタからなるスイッチ素子407bが形成されている。
スイッチ素子407bのソース・ドレインは、それぞれ、ソース電極410とドレイン電極412とに接続されている。ソース電極410は、信号線としての直線部分と、スイッチ素子407bを構成するための延長部分とを備えており、ドレイン電極412は、スイッチ素子407bと電荷蓄積容量407cとをつなぐように設けられている。
ゲート絶縁膜413はSiNxやSiOx等からなっている。ゲート絶縁膜413は、ゲート電極411及びCs電極418を覆うように設けられており、ゲート電極411上に位置する部位がスイッチ素子407bにおけるゲート絶縁膜として作用し、Cs電極418上に位置する部位は電荷蓄積容量407cにおける誘電体層として作用する。つまり、電荷蓄積容量407cは、ゲート電極411と同一層に形成されたCs電極418とドレイン電極412との重畳領域によって形成されている。なお、ゲート絶縁膜413としては、SiNxやSiOxに限らず、ゲート電極411及びCs電極418を陽極酸化した陽極酸化膜を併用することもできる。
また、チャネル層(i層)415はスイッチ素子407bのチャネル部であり、ソース電極410とドレイン電極412とを結ぶ電流の通路である。コンタクト電極(n+層)416はソース電極410とドレイン電極412とのコンタクトを図る。
絶縁保護膜417は、ソース電極410及びドレイン電極412上、つまり、ガラス基板408上に、ほぼ全面(ほぼ全領域)にわたって形成されている。これにより、ドレイン電極412とソース電極410とを保護すると共に、電気的な絶縁分離を図っている。また、絶縁保護膜417は、その所定位置、つまり、ドレイン電極412においてCs電極418と対向している部分上に位置する部位に、コンタクトホール421を有している。
電荷収集電極407aは、非晶質透明導電酸化膜からなっている。電荷収集電極407aは、コンタクトホール421を埋めるようにして形成されており、ソース電極410上及びドレイン電極412上に積層されている。電荷収集電極407aと光導電層404とは電気的に導通しており、光導電層404で発生した電荷を電荷収集電極407aで収集できるようになっている。
続いて、電荷収集電極407aについて詳細に説明する。本実施形態で用いる電荷収集電極407aは、非晶質透明導電酸化膜によって構成されている。非晶質透明導電酸化膜材料としては、インジウムと錫との酸化物(ITO:Indium-Tin-Oxide)や、インジウムと亜鉛との酸化物(IZO:Indium-Zinc-Oxide)、インジウムとゲルマニウムとの酸化物(IGO:Indium-Germanium-Oxide)等を基本組成とするものを使用することができる。
また、電荷収集電極407aとしては、各種の金属膜や導電酸化膜が使用されているが、下記の理由により、ITO(Indium-Tin-Oxide)等の透明導電酸化膜が用いられることが多い。放射線検出器400において入射X線量が多い場合、不要な電荷が半導体膜中(あるいは半導体膜と隣接する層との界面付近)に捕獲されることがある。
このような残留電荷は、長時間メモリーされたり、時間をかけつつ移動したりするので、以降の画像検出時にX線検出特性が劣化したり、残像(虚像)が現れたりして問題になる。そこで、特開平9−9153号公報(対応米国特許第5563421号)には、光導電層404に残留電荷が発生した場合に、光導電層404の外側から光を照射することで、残留電荷を励起させて取り除く方法が開示されている。この場合、光導電層404の下側(電荷収集電極407a側)から効率よく光を照射するためには、電荷収集電極407aが照射光に対して透明である必要がある。
また、電荷収集電極407aの面積充填率(フィルファクター)を大きくする目的、またはスイッチ素子407bをシールドする目的で、スイッチ素子407bを覆うように電荷収集電極407aを形成することが望まれるが、電荷収集電極407aが不透明であると、電荷収集電極407aの形成後にスイッチ素子407bを観察することができない。
例えば、電荷収集電極407aを形成後、スイッチ素子407bの特性検査を行う場合、スイッチ素子407bが不透明な電荷収集電極407aで覆われていると、スイッチ素子407bの特性不良が見つかった際、その原因を解明するために光学顕微鏡等で観察することができない。従って、電荷収集電極407aの形成後もスイッチ素子407bを容易に観察することができるように、電荷収集電極407aは透明であることが望ましい。
層間絶縁膜420は、感光性を有するアクリル樹脂からなり、スイッチ素子407bの電気的な絶縁分離を図っている。層間絶縁膜420には、コンタクトホール421が貫通しており、電荷収集電極407aはドレイン電極412に接続されている。コンタクトホール421は、図3に示すように逆テーパ形状で形成されている。
本実施形態では、バイアス電極401とCs電極418との間に、図示しない高圧電源が接続されており、バイアス電極401と高電圧線432とが電気的に接続されている。
(バイアス電極401と高電圧線432とを電気的に接続する構成)
ここで、本実施形態に係るTFT方式の放射線検出器400において、バイアス電極401と高電圧線432とを電気的に接続する構成について説明する。図5は、延長電極部431と高電圧線432とが接続される接続部分を示す概略平面図である。図6は、延長電極部431と高電圧線432とが接続される接続部分を示す概略側面図である。
TFT方式の放射線検出器400は、図1及び図5に示すように、バイアス電極401からガラス基板408上の光導電層404の無い領域へ延長された延長電極部431を備えている。この延長電極部431とバイアス電極401とは、電極層430を構成し、同一工程で一体成形される。
なお、延長電極部431は、電荷収集電極407aが電荷を収集することにより放射線を検出可能な検出可能領域(画像取得可能領域)の外側に延長されていればよく、光導電層404がある領域に延長される構成であってもよい。また、延長電極部431とバイアス電極401とは、別工程で成形されてもよく、また、一体成形でなくても良い。
延長電極部431は、図1に示すように、光導電層404の下方へ傾斜する下り勾配の側面に沿って、放射線検出器400の最低部にあたるガラス基板408まで引き下ろされている。
なお、延長電極部431は、必ずしも、ガラス基板408に引き下ろされている必要はなく、例えば、図7に示すように、ガラス基板536と延長電極部431との間に、絶縁材料等で形成された中間部材480を設けることにより、バイアス電極401と同じ高さで延長される構成であってもよい。また、延長電極部431は、バイアス電極401よりも高い位置で延長される構成であってもよく、さらに、光導電層404の上面とガラス基板408との間の任意の高さで延長されていても良い。
延長電極部431は、図5に示すように、バイアス電極401の角部から突出し、斜めに延長され、放射線検出器400の角部へ引き延ばされている。
延長電極部431の幅(延長方向(図5の矢印X方向)と直交する方向(図5の矢印Y方向)の長さ)が、バイアス電極401の幅よりも狭く形成されている。これにより、電極層430を形成するための材料を低減できる。
なお、延長電極部431の幅は、バイアス電極401と同じ幅であっても良く、また、バイアス電極401よりも広く形成されていても良い。また、延長電極部431は、バイアス電極401の側部(側縁)から延長されていても良い。
また、図1及び図5に示すように、中間層の一例としての正孔注入阻止層402は、光導電層404とバイアス電極401との間から延長電極部431とガラス基板408との間へわたって形成されており、ガラス基板408上の光導電層404の無い領域へ延長されている。
また、正孔注入阻止層402は、ガラス基板408上に直接形成されており、延長電極部431をガラス基板408に接合する下地としても用いられている。正孔注入阻止層402としては、延長電極部431とガラス基板408との間の密着性よりも、正孔注入阻止層402とガラス基板408との間の密着性及び正孔注入阻止層402と延長電極部431との間の密着性が高くなるような材料が選択される。
このように、ガラス基板408に対する延長電極部431の密着性よりも、ガラス基板408及び延長電極部431に対する密着性が高くなるような正孔注入阻止層402を下地として用いることにより、延長電極部431とガラス基板408との間の接合力が高められる。
延長電極部431の先端部には、図5及び図6に示すように、導電性ペースト等の導電性部材448により、電線の一例としての高電圧線432が電気的に接続されている。さらに、高電圧線432は、接着剤等の固定部材449により、ガラス基板408上に固定されている。
延長電極部431と電気的に接続された高電圧線432は、延長電極部431からバイアス電極401を介して光導電層404へバイアス電圧を印加する。
なお、図6においては、正孔注入阻止層402を省略して図示している。
(延長電極部431と高電圧線432との接続部及び光導電層404を被覆する構成)
次に、延長電極部431と高電圧線432との接続部及び光導電層404を被覆する構成について説明する。図1に示すように、バイアス電極401の上方には、バイアス電極401を覆うカバー部材の一例としてのカバーガラス440が設けられている。
ガラス基板408には、カバーガラス440が接合される保護部材442が設けられている。
保護部材442は、光導電層404の周囲を囲んでおり、全体として上部及び下部が開放された箱状に形成されている。
また、保護部材442は、ガラス基板408の外周部上に立設された側壁442aと、側壁442aの上部からガラス基板408中央部の上方側へ張り出すフランジ部442bとを有しており、断面L字状に形成されている。
カバーガラス440は、その外周部の上面がフランジ部442bの下面(内壁)に接合されており、保護部材442により支持されている。
この保護部材442とカバーガラス440との接合部分は、光導電層404の外側に配置されている。すなわち、光導電層404の上方ではなく、ガラス基板408上の光導電層404の無い領域で、保護部材442とカバーガラス440とが接合されている。
なお、保護部材442には、絶縁性を有する絶縁性部材が用いられている。絶縁性部材としては、例えば、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリメタクリル酸メチル(アクリル)、ポリ塩化ビニールが用いられる。
また、保護部材442は、下部開放がガラス基板408で閉鎖されると共に上部開放がカバーガラス440で閉鎖されており、保護部材442内に所定の大きさの空間Aが形成される。この空間Aに光導電層404が収容されて、光導電層404がカバーガラス440、ガラス基板408及び保護部材442で被覆される。
保護部材442は、図5に示すように、平面視(上面視)にて、角部が切り欠けられた四角形状に形成されている。保護部材442の切り欠けられた部位を囲むための保護部材443が設けられている。これにより、放射線検出器400は、保護部材442に囲まれた空間Aの他に、保護部材442の外側面と保護部材443とにより囲まれた空間Bとが形成される。
このように、空間Aと空間Bとは、保護部材442及び保護部材442によって区画され、互いが隔離された空間となっており、空間的に分離した2つの領域となる。
なお、空間Aと空間Bとの間に配置された保護部材442の側壁442dは、空間Aと空間Bとを仕切る仕切壁として機能する。また、空間Bは、放射線検出器400の角部(隅部)でなくともよく、辺縁部に形成されていればよい。
延長電極部431は、保護部材442の外側へ向けて空間Bに突出するように構成されており、延長電極部431と高電圧線432との接続部は、空間Bに収容される。一方、空間Aには、光導電層404が収容され、電荷収集電極407aが電荷を収集することにより放射線を検出可能な検出可能領域は、空間A内に形成される。
本実施形態では、カバーガラス440と保護部材442とガラス基板408とに囲まれた空間Aには、第1充填材444が充填されている。
放射線(X線)の透過率は、原子量が大きいものに比べ、原子量が小さいもの方が優れる。そこで、本実施形態では、第1充填材444として、原子番号9(F)以下の元素、すなわち、原子番号9のフッ素(F)以下の原子量をもつ元素で構成される充填材が用いられる。具体的には、第1充填材444として、例えば、エポキシの常温硬化性樹脂が用いられる。
なお、原子番号10(Ne)以上の元素が含んでいても、5重量%以下であれば、本願の技術的範囲内に属するものとする。
また、本実施形態では、第1充填材444は、以下に示す第2充填材445とは異なる充填材が用いられ、第2充填材445よりも、放射線(X線)の透過率が優れたものが用いられている。
一方、保護部材442の外側面と保護部材443に囲まれた空間Bには、弾性を有する弾性充填材としての第2充填材445が充填されている。
第2充填材445には、破断時伸びが、120%以上500%以下の充填材が用いられ、具体的には、第2充填材445として、例えば、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系接着剤が用いられる。変性シリコーン系接着剤としては、例えば、セメダインスーパーX(登録商標(セメダイン株式会社製))、TSE392(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、MOS−7(登録商標(コニシ株式会社製))、1200シリーズ(株式会社スリーボンド製)を用いることができる。
破断時伸びの測定方法は、JIS K 6251が用いられる。
また、本実施形態では、第2充填材445は、第1充填材444とは異なる充填材が用いられ、第1充填材444よりも破断時伸びが優れ、速乾性に優れたものが用いられている。
また、第2充填材445には、導電性部材448に導電ペーストを用いる場合には、その導電性ペーストが第2充填材445に溶け出して拡散しないものが選択される。また、第2充填材445には、吸湿により絶縁性能の低下が著しくないものが選択される。
また、空間Bにおいては、図6に示すように、第2充填材445の上面に、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルム材で構成された絶縁部材482が被されており、上方への絶縁破壊が抑制されている。
(TFT方式の放射線検出器400の製造工程)
ここで、TFT方式の放射線検出器400の製造工程の一例について概略説明する。
まず、アクティブマトリックス基板450に、2μmの膜厚の硫化アンチモン(Sb2S3)からなる電子注入阻止層406を形成する。次に、Se原料を蒸着により成膜して、膜厚1000μmの非晶質Seからなる光導電層404を形成する。
次に、光導電層404上に、0.3μmの膜厚の硫化アンチモン(Sb2S3)からなる正孔注入阻止層402を形成する。次に、Auを蒸着により成膜して、膜厚0.1μmのバイアス電極401及び延長電極部431からなる電極層430を形成する。
次に、保護部材442をガラス基板408の外周部上に取り付け、さらに、カバーガラス440を保護部材442に取り付ける。
次に、図示しない孔を通じて、カバーガラス440と保護部材442とガラス基板408とに囲まれた空間Aへ第1充填材444を充填する。
そして、放射線検出器400の製造工程の最後に、高電圧線432を延長電極部431に電気的に接続し、空間Bに第2充填材445を充填し、放射線検出器400が製造される。
(TFT方式の放射線検出器の動作原理)
次に、上記のTFT方式の放射線検出器400の動作原理について説明する。光導電層404にX線が照射されると、光導電層404内に電荷(電子−正孔対)が発生する。バイアス電極401とCs電極418との間に電圧が印加された状態、すなわちバイアス電極401とCs電極418とを介して光導電層404に電圧が印加された状態において、光導電層404と電荷蓄積容量407cとは電気的に直列に接続された構造となっているので、光導電層404内に発生した電子は+電極側に、正孔は−電極側に移動し、その結果、電荷蓄積容量407cに電荷が蓄積される。
電荷蓄積容量407cに蓄積された電荷は、ゲート電極411への入力信号によってスイッチ素子407bをオン状態にすることによりソース電極410を介して外部に取り出すことが可能となる。そして、ゲート電極411とソース電極410とからなる電極配線、スイッチ素子407b及び電荷蓄積容量407cは、すべてマトリクス状に設けられているため、ゲート電極411に入力する信号を順次走査し、ソース電極410からの信号をソース電極410毎に検知することにより、二次元的にX線の画像情報を得ることが可能となる。
(TFT方式の放射線検出器の作用効果)
次に、上記のTFT方式の放射線検出器400の作用効果について説明する。
本実施形態では、検出可能領域上に充填される第1充填材444は、原子番号9以下の元素で構成されているので、原子番号9を超える元素で構成される場合に比して、放射線の透過性がよい。このため、検出可能領域において、放射線の検出感度が維持できる。原子番号9を超える元素で構成される充填材では、放射線の透過性が悪く、必要な放射線の感度を得られない場合がある。
また、バイアス電極401と電線とが接続される接続部は、弾性を有する第2充填材445が充填されているため、硬化性を有する充填材に比して、延長電極部431と高電圧線432との密着性が保て、高電圧線432と延長電極部431との剥離を抑制できる。
このように、本実施形態では、延長電極部431と高電圧線432とが接続される接続部と検出可能領域とで充填材を使い分けることにより、放射線の検出感度を維持しつつ、高電圧線432と電極部との剥離を抑制する。
また、第2充填材445は第1充填材444よりも速乾性を有するので、第2充填材445が充填される放射線検出器400の製造の最終工程において、製造時間の短縮が図れる。
また、本実施形態では、高電圧線432と延長電極部431との接続が、検出可能領域が形成されると共に光導電層404が収容される空間Aとは隔離された空間Bにおいて行われるので、放射線検出器400の製造最終工程で、高電圧線432と延長電極部431とを接続することができ、放射線検出器400の製造最終工程まで、光導電層404へバイアス電圧を印加するための高電圧線432が邪魔とならない。
また、本実施形態の構成では、正孔注入阻止層402が、光導電層404とバイアス電極401との間から延長電極部431とガラス基板408との間へわたって形成されており、延長電極部431とガラス基板408との密着性を高める。
電極層430にAuなどを用いる場合には、ガラス基板408との密着性が悪いが、正孔注入阻止層402が、上記のように、延長電極部431とガラス基板408との密着性が高まることにより、延長電極部431とガラス基板408との間の剥離を抑制できる。また、正孔注入阻止層402を用いることにより、延長電極部431とガラス基板408との接合力を高めるためだけの部材を新たにガラス基板408に形成することなく、既存の層構成のみで剥離を抑制できるので、部品点数及び製造工程が増加しない。
(光読取方式の放射線検出器の構成)
光読取方式の放射線検出器についても、本発明の適用は可能であり、上記の放射線検出器400における光導電層404の構成に準じて適用される。ここで、光読取方式の放射線検出器としての放射線検出基板500について説明する。
図8(A)、(B)は、放射線検出基板500の概略図を示している。図8(A)、(B)に示すように、放射線検出基板500にはTCP510とそれを介して接続される読み出し装置512、高電圧を印加するための高電圧線514が接続されている。
TCP(Tape Carrier Package)510は、信号検出用IC(チャージアンプIC)511を搭載したフレキシブルの配線基板である。このTCP510はACF(Anisotropic Conductive Film 異方性導電膜)を用いて熱圧着にて接続される。
検出エリア516上部の上部電極518から延長された延長電極部519が形成されており、この延長電極部519に、導電性ペースト等の導電性部材580により、高電圧線514が接続されている。放射線を検出する検出エリア516は、信号読み出しと高電圧印加のための下部電極520、放射線を電荷に変換する放射線検出層522、高電圧を印加する上部電極518から構成される。
下部電極520は、ガラス基板536に設けられており、下部電極520が設けられたガラス基板536により、放射線検出用下部基板524が構成されている。
この放射線検出基板500の製造は大きく分けて、下部電極520を含む放射線検出用下部基板524の製造、放射線検出層522及び上部電極518の形成、高電圧線514の接続に分けられる。
以下、放射線検出用下部基板524の構造について説明する。図9には、放射線検出用下部基板524の概略構造が示されている。図9では、TCP510は左右1つずつ、チャンネル数も各3チャンネル、合計6チャンネルと単純化している。放射線検出用下部基板524は、図9に示すように、放射線検出部526、ピッチ変換部528、TCP接続部530から構成されている。
放射線検出部526は、信号取り出しのための下部電極520がストライプ状(線状)に配置されている。また、その下層には透明の有機絶縁層532を介して一部任意の波長の光だけを透過させるカラーフィルター層534が形成されている。
カラーフィルター層534上部にある層を共通Bライン520B、カラーフィルター層534のない部分にある信号Sライン520Sと呼ぶ。Bライン520Bは放射線検出部の外側で共通化され、くし型電極構造を有している。Sライン520Sは信号ラインとして用いられる。Bライン520Bの幅は、例えば20μm、Sライン520Sの幅は、例えば10μmとされ、Bライン520BとSライン520Sとの間隔は、例えば、10μmである。
カラーフィルター層534の幅は、例えば、30μmである。下部電極520は、裏面より光を照射するため透明であることと、高電圧印加時の電界集中による破壊などを避けるため平坦性が必要であり、たとえばIZO、ITOが用いられる。IZOを用いた場合、厚さは0.2μm、平坦性はRa=1nm程度である。
カラーフィルター層534は、顔料を分散させた感光性のレジスト、例えばLCDのカラーフィルターに用いられる赤色レジストである。このカラーフィルター層534の段差を無くすために感光性有機の透明絶縁層532、たとえばPMMAが用いられる。
更に支持部材となるガラス基板536は透明で剛性のあるものが望ましく、さらにはソーダライムガラスが望ましい。各層の厚さの一例は、下部電極520が0.2μm、カラーフィルター層534が1.2μm、有機透明絶縁層532が1.8μm、ガラス基板536が1.8mmである。このカラーフィルター層534、有機絶縁層532は放射線検出部526のみにあり、その境界は放射線検出部526、ピッチ変換部528にある。このためIZO配線は有機絶縁層532の境界段差部分を介してTCP接続部530ではガラス基板536上に形成される。
放射線検出部526ではある数を単位として左右のTCP510へ配線が取り出される。図9では3ライン単位である。ライン数の一例は256ラインである。放射線検出部526でのライン幅はTCP接続部530でのライン幅と異なりこれを調整することと、所定のTCP接続位置まで配線を引き回すためピッチ変換部528にてライン幅が調整される。Bライン520Bは共通化されて同様にTCP接続部530へ引き出される。
TCP接続部530では信号Sライン520Sと放射線検出部外側で共通化された共通Bライン520Bが配置される。共通Bライン520Bは信号Sライン520Sの外側に配置される。その数の一例としては信号ライン256、共通ライン上下各5ラインを用いてTCPへ接続される。その電極ライン/スペースは40/40μmである。
また、このTCP接続部530にてTCPを接続するためTCP用のアライメントマークが必要である。透明電極で形成することが望ましいが、透明なため認識が難しく、不透明な材料として、例えばこの基板の構成部材であるカラーフィルター層534を用いて合わせマークを形成する。
次に、放射線検出層522について説明する。図10は、放射線検出基板500の構成を模式的に示した概略図である。放射線検出層は、図10に示すように、記録用光導電層542、電荷蓄積層544、読取用光導電層546、電極界面層548、下引き層550、上引き層552を備えて構成されている。
<記録用光導電層>
記録用光導電層542は、電磁波を吸収し電荷を発生する光導電物質であり、アモルファスセレン化合物、Bi12MO20(M:Ti、Si、Ge)、Bi4M3O12(M:Ti、Si、Ge)、Bi2O3、BiMO4(M:Nb、Ta、V)、Bi2WO6、Bi24B2O39、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe,MNbO3(M:Li、Na、K)、PbO,HgI2、PbI2,CdS、CdSe、CdTe、BiI3、GaAs等のうち少なくとも1つを主成分とする化合物により構成される。この中で特にアモルファスセレン化合物よりなることが好ましい。
アモルファスセレン化合物の場合には、その層中にLi, Na, K, Cs, Rb等のアルカリ金属を0.001ppmから1ppmまでの間で微量にドープしたもの、LiF, NaF, KF, CsF, RbF等のフッ化物を10ppmから10000ppmまでの間で微量にドープしたもの、P、As、Sb、Geを50ppmから0.5%までの間添加したもの、Asを10ppmから0.5%までドープしたもの、 Cl、Br、Iを1ppmから100ppmの間で微量にドープしたもの、を用いることができる。
特に、Asを10ppmから200ppm程度含有させたアモルファスセレン、Asを0.2%〜1%程度含有させさらにClを5ppm〜100ppm含有させたアモルファスセレン、0.001ppm〜1ppm程度のアルカリ金属を含有させたアモルファスセレンが好ましく用いられる。
また、数ナノから数ミクロンのBi12MO20(M:Ti、Si、Ge)、Bi4M3O12(M:Ti、Si、Ge)、Bi2O3、BiMO4(M:Nb、Ta、V)、Bi2WO6、Bi24B2O39、ZnO、ZnS、ZnSe、ZnTe,MNbO3(M:Li、Na、K)、PbO,HgI2、PbI2,CdS、CdSe、CdTe、BiI3、GaAs等の光導電性物質微粒子を含有させたものも用いることができる。
記録用光導電層542の厚みは、アモルファスセレンの場合100μm以上2000μm以下であることが好ましい。特にマンモグラフィ用途では150μm以上250μm以下、一般撮影用途においては500μm以上1200μm以下の範囲であることが特に好ましい。
<電荷蓄積層>
電荷蓄積層544は、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性の膜であれば良く、アクリル系有機樹脂、ポリイミド、BCB、PVA、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド等のポリマーやAs2S3、Sb2S3、ZnS等の硫化物、その他に酸化物、フッ化物より構成される。更には、蓄積したい極性の電荷に対して絶縁性であり、それと逆の極性の電荷に対しては導電性を有する方がより好ましく、移動度×寿命の積が、電荷の極性により3桁以上差がある物質が好ましい。
好ましい化合物としては、As2Se3、As2Se3にCl、Br、Iを500ppmから20000ppmまでドープしたもの、As2Se3のSeをTeで50%程度まで置換したAs2(SexTe1-x)3(0.5<x<1)、As2Se3のSeをSで50%程度まで置換したもの、As2Se3からAs濃度を±15%程度変化させたAsxSey(x+y=100、34≦x≦46)、アモルファスSe-Te系でTeを5-30wt%含むものを挙げることができる。
この様なカルコゲナイド系元素を含む物質を用いる場合、電荷蓄積層544の厚みは0.4μm以上3.0μm以下であること好ましく、より好ましくは0.5μm以上2μm以下である。この様な電荷蓄積層544は、1度の製膜で形成しても良いし、複数回に分けて積層しても良い。
有機膜を用いた好ましい電荷蓄積層544としては、アクリル系有機樹脂、ポリイミド、BCB、PVA、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエーテルイミド等のポリマーに対し、電荷輸送剤をドープした化合物が好ましく用いられる。好ましい電荷輸送剤としては、トリス(8-キノリノラト)アルミニウム(Alq3)、N,N-ジフェニル-N,N-ジ(m-トリル)ベンジジン(TPD)、ポリパラフェニレンビニレン(PPV)、ポリアルキルチオフェン、ポリビニルカルバゾール(PVK)、トリフェニレン(TNF)、金属フタロシアニン、4-(ジシアノメチレン)-2-メチル-6-(p-ジメチルアミノスチリル)-4H-ピラン(DCM)、液晶分子、ヘキサペンチロキシトリフェニレン、中心部コアがπ共役縮合環あるいは遷移金属を含有するディスコティック液晶分子、カーボンナノチューブ、フラーレンからなる群より選択される分子を挙げることができる。ドープ量は0.1から50wt.%の間で設定される。
<読取用光導電層>
読取用光導電層546は、電磁波、特に可視光を吸収し電荷を発生する光導電物質であり、アモルファスセレン化合物、アモルファスSi:H、結晶Si、GaAs等のエネルギーギャップが0.7-2.5eVの範囲に含まれる半導体物質を用いることができる。特にアモルファスセレンであることが好ましい。
アモルファスセレン化合物の場合には、その層中にLi, Na, K, Cs, Rb等のアルカリ金属を0.001ppmから1ppmまでの間で微量にドープしたもの、LiF, NaF, KF, CsF, RbF等のフッ化物を10ppmから10000ppmまでの間で微量にドープしたもの、P、As、Sb、Geを50ppmから0.5%までの間添加したもの、Asを10ppmから0.5%までドープしたもの、Cl、Br、Iを1ppmから100ppmの間で微量にドープしたもの、を用いることができる。
特に、Asを10ppmから200ppm程度含有させたアモルファスセレン、Asを0.2%〜1%程度含有させさらにClを5ppm〜100ppm含有させたアモルファスセレン、0.001ppm〜1ppm程度のアルカリ金属を含有させたアモルファスセレンが好ましく用いられる。
読取用光導電層546の厚みは、読取光を十分吸収でき、かつ電荷蓄積層544に蓄積された電荷による電界が光励起された電荷をドリフトできれば良く、1μmから30μm程度が好ましい。
<電極界面層>
電極界面層548は、記録用光導電層542と上部電極518の間、あるいは読取用光導電層546と下部電極520の間に敷設される。結晶化を防止する目的において、アモルファスセレンにAsが1%-20%の範囲で添加されたもの、S、Te、P、Sb、Geを1%から10%の範囲で添加したもの、上記の元素と他の元素を組合せて添加したものが好ましい。
または、より結晶化温度の高いAs2S3やAs2Se3も好ましく用いることができる。更に、電極層からの電荷注入を防止する目的で上記、添加元素に加えて、特に正孔注入を防止するためにLi、Na、K、Rb、Cs等のアルカリ金属や、LiF、NaF、KF、RbF、CsF、LiCl、NaCl、KCl、RbF、CsF、CsCl、CsBr等の分子を10ppm-5000ppmの範囲でドープすることも好ましい。 逆に電子注入を防止するためには、Cl、I、Br等のハロゲン元素や、In2O3等の分子を10ppm-5000ppmの範囲でドープすることも好ましい。界面層の厚みは、上記目的を十分果たすように0.05μmから1μmの間に設定されることが好ましい。
上記の電極界面層548、読取用光導電層546、電荷蓄積層544、記録用光導電層542は、真空度10-3から10-7Torrの間の真空槽内において、基板を25℃以上70℃以下の間に保持し、上記各合金を入れたボート、あるいはルツボを、抵抗加熱あるいは電子ビームにより昇温し、合金、化合物を蒸発または昇華させることにより基板上に積層される。
合金、化合物の蒸発温度が大きく異なる場合には、複数の蒸着源に対応した複数のボートを同時に加熱し個々に制御することで、添加濃度、ドープ濃度を制御することも好ましく用いられる。例えば、As2Se3・アモルファスセレン・LiFをそれぞれボートに入れ、As2Se3のボートを340℃、アモルファスセレン(a-Se)のボートを240℃、LiFのボートを800℃として、各ボートのシャッターを開閉することで、As10%ドープアモルファスセレンにLiFを5000ppmドープした層を形成することができる。
<下引き層>
読取用光導電層546と下部電極(電荷収集電極)520の間には、下引き層550を設けることが出来る。電極界面層(結晶化防止層(A層))548がある場合には、電極界面層548と下部電極520の間に設けることが好ましい。下引き層550は、暗電流、リーク電流低減の観点から、整流特性を有することが好ましい。上部電極518に正バイアスが印加される時には電子ブロック性を、負バイアスが印加される時にはホールブロック性を有することが好ましい。
この下引き層の抵抗率は、108Ωcm以上であること、膜厚は、0.01μm〜10μmであることが好ましい。電子ブロック性を有する層、すなわち電子注入阻止層としては、Sb2S3,Sb2Te3,ZnTe,CdTe,As2Se3,As2S3等の組成から成る層、または有機高分子層が好ましい。有機高分子層としては、PVK等のホール輸送性高分子、またはポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリシクロオレフィン等の絶縁性高分子に、NPD,TPDを混合した膜を好ましく用いることが出来る。
ホールブロック性を有する層、すなわち正孔注入阻止層としては、CdS,CeO2,等の膜、または有機高分子層が好ましい。有機高分子層としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリシクロオレフィン等の絶縁性高分子に、C60(フラーレン)、C70等のカーボンクラスターを混合した膜を好ましく用いることが出来る。
一方、薄い絶縁性高分子層も好ましく用いることが出来、例えば、パリレン、ポリカーボネート、PVA、PVP,PVB,ポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂が好ましい。この時の膜厚としては、2μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
<上引き層>
記録用光導電層542と上部電極(電圧印加電極)518の間には、上引き層552を設けることが出来る。電極界面層(結晶化防止層(C層))548がある場合には、電極界面層548と上部電極518の間に設けることが好ましい。上引き層552は、暗電流、リーク電流低減の観点から、整流特性を有することが好ましい。
上部電極518に正バイアスが印加される時にはホールブロック性を、負バイアスが印加される時には電子ブロック性を有することが好ましい。この上塗り層の抵抗率は、108Ωcm以上であること、膜厚は、0.01μm〜10μmであることが好ましい。
電子ブロック性を有する層、すなわち電子注入阻止層としては、Sb2S3,SbTe,ZnTe,CdTe,SbS,AsSe,As2S3等の組成から成る層、または有機高分子層が好ましい。有機高分子層としては、PVK等のホール輸送性高分子、またはポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリシクロオレフィン等の絶縁性高分子に、NPD,TPDを混合した膜を好ましく用いることが出来る。
ホールブロック性を有する層、すなわち正孔注入阻止層としては、CdS,CeO2,等の膜、または有機高分子層が好ましい。有機高分子層としては、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリイミド、ポリシクロオレフィン等の絶縁性高分子に、C60(フラーレン)、C70等のカーボンクラスターを混合した膜を好ましく用いることが出来る。
一方、薄い絶縁性高分子層も好ましく用いることが出来、例えば、パリレン、ポリカーボネート、PVA、PVP,PVB,ポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂が好ましい。この時の膜厚としては、2μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
次に、上部電極518及びその上部電極518の表面に形成される表面保護層554について説明する。
<上部電極>
記録用光導電層542の上面に形成される上部電極518としては金属薄膜が好ましく用いられる。材料としてはAu、Ni、Cr、Au、Pt、Ti、Al、Cu、Pd、Ag、Mg、MgAg3-20%合金、Mg-Ag系金属間化合物、MgCu3-20%合金、Mg-Cu系金属間化合物などの金属から形成するようにすればよい。
特にAuやPt、Mg-Ag系金属間化合物が好ましく用いられる。例えばAuを用いた場合、厚みとして15nm以上200nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以上100nm以下である。例えばMgAg3-20%合金を用いた場合は、厚さ100nm以上400nm以下を用いることがより好ましい。
作成方法は任意であるが、抵抗加熱方式による蒸着により形成されることが好ましい。
たとえば、抵抗加熱方式によりボート内で金属塊が融解後にシャッターを開け、15秒間蒸着し一旦冷却する。抵抗値が十分低くなるまで複数回繰り返すことで形成される。
<表面保護層>
放射線照射によって放射線検出デバイスに潜像を形成するため、上部電極518には数kVの高電圧を印加する。この上部電極518が大気に開放されていると沿面放電を生じ、被写体が感電する危険がある。上部電極518における沿面放電を防止するため、電極上面に表面保護層554を形成し絶縁処理を施す。
絶縁処理は電極面が全く大気に触れない構造にすることが必要で、絶縁体で密着被覆する構造とする。尚且つ、この絶縁体は印加電位を上回る絶縁破壊強度を有することが必要である。更に、放射線検出デバイスの機能上、放射線透過を妨げない部材であることが必要である。これら要求される被覆性、絶縁破壊強度および放射線透過率の高い材料および製法として、絶縁性ポリマーの蒸着または溶剤塗布が好ましい。
具体例としては、常温硬化型エポキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、アクリル樹脂、ポリパラキシリレン誘導体をCVD法で成膜する方法等があげられる。この中でも常温硬化型エポキシ樹脂、ポリパラキシリレンをCVD法で成膜するが好ましく、特にポリパラキシリレン誘導体をCVD法で成膜する方法が好ましい。好ましい膜厚は10μm以上1000μm以下であり、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。
ポリパラキシリレン膜は、室温で形成できるため被着体に熱ストレスを与えることなく、極めて段差被覆性の高い絶縁膜が得られるが、化学的に非常に安定であるため、被着体との密着性は一般に好ましくない場合が多い。被着体との密着性を上げるため、ポリパラキシリレン形成前の被着体への処理として、カップリング剤、コロナ放電、プラズマ処理、オゾン洗浄、酸処理、表面租化等の物理的、化学的処理が一般的に知られており用いることができる。特にシランカップリング剤もしくはシランカップリング剤を必要によりアルコール等で希釈したものを、少なくとも被着体との密着性を向上させたい部分に塗布処理を施した後ポリパラキシリレン膜を形成することで被着体との密着性を向上させる方法が好ましい。
さらに、放射線検出デバイスの経時劣化防止のため、防湿処理を施すことが好ましい。具体的には防湿部材で覆う構造とする。防湿部材としては、前記絶縁性ポリマーのような樹脂単独では機能不足であり、ガラス、アルミラミネートフィルムといった少なくとも無機材層を有する構成が効果的である。但し、ガラスは放射線透過を減衰するため、防湿部材は薄いアルミラミネートフィルムが望ましい。例えば、一般的に防湿包材として用いられているアルミラミネートフィルムとして、PET12μm/圧延アルミ9μm/ナイロン15μmを積層したものがある。
アルミの厚みは5μm以上30μm以下が好ましく、前後のPET厚み、ナイロン厚みはそれぞれ10μm以上100μm以下が好ましい。このフィルムのX線減衰は約1%程度であり、防湿効果とX線透過を両立する部材として最適である。
例えば、図11に示すように、ポリパラキシリレン554Aによる絶縁処理を施した放射線検出デバイス全面を防湿フィルム554Bで覆い、放射線検出デバイス領域外において防湿フィルム554Bの周囲を接着剤で基板と接着固定する。これによって、放射線検出デバイスを基板と防湿フィルム554Bで密封した構成とする。
この接着固定に際し、ポリパラキシリレン554Aは、化学的に非常に安定であるため、一般的には接着材による他の部材との接着性が悪いが、接着に先立ち紫外光による光照射処理を施すことにより接着性を向上させることが出来る。必要な照射時間は使用する紫外光源の波長、ワット数により適時、最適な時間に調節するが、低圧水銀灯で1から50Wのものが好ましく、光照射は1分から30分で行なうのが好ましい。
尚、本実施形態に係る放射線検出デバイスは、アモルファスセレンを用いており、40℃以上の高温ではアモルファスセレンが結晶化して潜像形成の機能が得られなくなるおそれがあることから、接着加工においては加熱処理は適さない。そこで、室温硬化型の接着剤が望ましく、接着強度が高い2液混合室温硬化型エポキシ接着剤が最適である。このエポキシ接着剤を放射線検出デバイスの外周に塗布し、防湿フィルム554Bを被せる。接着部を防湿フィルム554Bの上面から均一に押圧固定し、この状態のまま室温環境にて12時間以上置いて硬化させる。接着剤硬化後に押圧を開放して封止構造が完成する。
封止構造部材について補足する。放射線検出デバイスをマンモグラフィに用いる場合、X線撮影における被曝を抑えるため、低線量での撮影検出が望まれる。低線量照射での陰影変化を検出するため、放射線源からデバイスまでの経路における、被写体(マンモ)以外の部材はX線の透過率を高くすること望ましく、これにより明瞭な画像が得られる。
好ましい保護層・封止構造の一例を図11に示しているが、これに限定されるものではない。保護膜の形成によりデバイスの湿度環境が30%以下、より好ましくは10%以下になるように維持されることが好ましい。
以下、好ましい層構成の例を示すが、本発明はこれに限定される物ではない。その断面のモデル図を図10に示す。
<構成1>
図8、図9に示すような、放射線検出用下部基板524の上に、以下の順に層構成を作製した。下部電極520としては表面粗さRa<1nmの平坦なIZO電極を用いた。
下引き層550 :CeO2 厚み20nm
下電極界面層548 :As10%ドープアモルファスセレン:LiF500ppmドープ、厚み0.1μm
読取用光導電層546:アモルファスセレン、厚み7μm
電荷蓄積層544 :As2Se3、厚み1μm
記録用光導電層542:アモルファスセレン Naを0.001ppm含有、厚み200μm
上電極界面層548 :As10%ドープアモルファスセレン、厚み0.2μm
上引き層552 :Sb2S3、厚み0.5μm
上部電極518 :Au、厚み70nm
<構成2>
図8、図9に示すような、放射線検出用下部基板524の上に、以下の順に層構成を作製した。下部電極520としては表面粗さRa<1nmの平坦なIZO電極を用いた。
下引き層550 :なし
下電極界面層548 :As3%ドープアモルファスセレン、厚み0.15μm
読取用光導電層546:アモルファスセレン、厚み15μm
電荷蓄積層544 :As2Se3、厚み2μm
記録用光導電層542:アモルファスセレン Naを0.001ppm含有、厚み180μm
上電極界面層548 :As10%ドープアモルファスセレン、厚み0.1μm
上引き層552 :Sb2S3、厚み0.2μm
上部電極518 :Au、厚み150nm
<構成3>
図8、図9に示すような、放射線検出用下部基板524の上に、以下の順に層構成を作製した。下部電極520としては表面粗さRa<1nmの平坦なIZO電極を用いた。
下引き層550 :CeO2、厚み30nm
下電極界面層548 :As6%ドープアモルファスセレン、厚み0.25μm
読取用光導電層546:アモルファスセレン、厚み10μm
電荷蓄積層544 :As2Se3、厚み0.6μm
記録用光導電層542:アモルファスセレン Naを0.001ppm含有、厚み230μm
上電極界面層548 :As10%ドープアモルファスセレン、厚み0.3μm
上引き層552 :Sb2S3、厚み0.3μm
上部電極518 :Au、厚み100nm
<電荷取り出しアンプ>
本実施形態において、電荷はアンプを通して増幅後A/D変換される。図12は、電荷取り出しアンプの構成、並びにこれらと放射線検出基板500の外部に配された画像処理装置150などとの接続態様を示したブロック図である。
電荷取り出しアンプとしてのチャージアンプIC511は、放射線検出基板500の各エレメント15aごとに接続された多数のチャージアンプ33aおよびサンプルホールド(S/H)33b、各サンプルホールド33bからの信号をマルチプレクスするマルチプレクサ33cを備えている。
下部電極から流れ出す電流は、各チャージアンプ33aにより電圧に変換され、該電圧がサンプルホールド33bにより所定のタイミングでサンプルホールドされ、サンプルホールドされた各エレメント15aに対応する電圧がエレメント15aの配列順に切り替わるようにマルチプレクサ33cから順次出力される(主走査の一部に相当する)。
マルチプレクサ33cから順次出力された信号はプリント基板31上に設けられたマルチプレクサ31cに入力され、さらに各エレメント15aに対応する電圧がエレメント15aの配列順に切り替わるようにマルチプレクサ31cから順次出力され主走査が完了する。
マルチプレクサ31cから順次出力された信号はA/D変換部31aによりデジタル信号に変換され、デジタル信号がメモリ31bに格納される。一旦メモリ31bに格納された画像信号は、信号ケーブルを介して外部の画像処理装置150に送られ、この画像処理装置150において適当な画像処理が施され、撮影情報と共にネットワーク151にアップロードされ、サーバもしくはプリンタに送られる。
<画像取得シーケンス>
本画像記録読取システムの画像形成シーケンスは、基本的には、高圧印加中に記録光(例えばX線)を照射し潜像電荷を蓄積する過程、および、高圧印加を終了後、読取光を照射して潜像電荷を読み出す過程からなる。読取光Lとしてはライン光源301を電極方向に走査する方法(図13参照)が最適であるが、他の方法でも可能である。
さらに、必要に応じて、読み残した潜像電荷を十分に消去する過程を組み合わせることができる。この消去過程は、パネル全面に消去光を照射することにより行われ、全面に一度に照射させても、あるいはライン光やスポット光を全面に走査させても良く、読取過程の後、または/および、潜像蓄積過程の前に行われる。消去光を照射する際に、高圧印加を組み合わせて消去効率を高めることもできる。また、高圧印加後、記録光を照射する前に「前露光」を行うことにより、高圧印加の際に発生する暗電流による電荷(暗電流電荷)を消去することができる。
さらに、これら以外の原因によっても静電記録体に種々な電荷が記録光の照射の前に蓄積されることが知られている。これらの残存信号は、残像現象として次に出力される画像情報信号に影響を及ぼすため、補正により低減させることが望ましい。
残像信号を補正する方法として、上記の画像記録読取過程に、残像画像読取過程を加える方法が有効である。この残像画像記録過程は、記録光を照射しないで高圧印加のみ行った後、読取光により「残像画像」を読取ることで行われ、この「残像画像」信号に適当な処理を施し、「記録画像」信号から差し引くことで、残像信号を補正することができる。残像画像読取過程は、画像記録読取過程の前、あるいは後に行われる。また、残像画像読取過程の前、または/および後に、適当な消去過程を組み合わせることができる。
光読取方式の放射線検出器としての放射線検出基板500では、上部電極518が、本発明の上部電極部に相当し、放射線検出層522が、本発明に係る電荷変換層に相当し、下部電極520が、本発明に係る下部電極部に相当する。また、放射線検出用下部基板524が、本発明に係る基板に相当し、高電圧線514が、本発明に係る電線に相当する。
光読取方式の放射線検出基板500では、上記の放射線検出器400と同様に、以下のように構成することができる。
放射線検出基板500は、放射線検出層522の周囲を囲む保護部材523を備えている。この保護部材523は、図14に示すように、平面視(上面視)にて、角部が切り欠けられた四角形状に形成されている。保護部材523の切り欠けられた部位を囲むための保護部材572が設けられている。これにより、放射線検出基板500は、図14及び図15に示すように、保護部材523に囲まれた空間Aの他に、保護部材523の外側面と保護部材572とにより囲まれた空間Bとが形成される。
このように、空間Aと空間Bとは、保護部材523及び保護部材523によって区画され、互いが隔離された空間となっており、空間的に分離した2つの領域となる。
なお、空間Aと空間Bとの間に配置された保護部材523の側壁523dは、空間Aと空間Bとを仕切る仕切壁として機能する。また、空間Bは、放射線検出基板500の角部(隅部)でなくともよく、辺縁部に形成されていればよい。
延長電極部519は、保護部材523の外側へ向けて空間Bに突出するように構成されており、延長電極部519と高電圧線514との接続部は、空間Bに収容される。
一方、空間Aには、放射線検出層522が収容され、下部電極520が電荷を収集することにより放射線を検出可能な検出可能領域は、空間A内に形成される。
放射線検出基板500では、保護部材523と放射線検出用下部基板524とに囲まれた空間Aには、第1充填材576が充填されている。
放射線(X線)の透過率は、原子量が大きいものに比べ、原子量が小さいもの方が優れる。そこで、本実施形態では、第1充填材576として、原子番号9(F)以下の元素、すなわち、原子番号9のフッ素(F)以下の原子量をもつ元素で構成される充填材が用いられる。具体的には、第1充填材576として、例えば、エポキシの常温硬化性樹脂が用いられる。
なお、原子番号10(Ne)以上の元素が含んでいても、5重量%以下であれば、本願の技術的範囲内に属するものとする。
また、放射線検出基板500では、第1充填材576は、以下に示す第2充填材578とは異なる充填材が用いられ、第2充填材578よりも、放射線(X線)の透過率が優れたものが用いられている。
一方、保護部材523の外側面と保護部材572に囲まれた空間Bには、弾性を有する弾性充填材としての第2充填材578が充填されている。
第2充填材578には、破断時伸びが、120%以上500%以下の充填材が用いられ、具体的には、第2充填材578として、例えば、シリコーン系樹脂、変性シリコーン系接着剤が用いられる。変性シリコーン系接着剤としては、例えば、セメダインスーパーX(登録商標(セメダイン株式会社製))、TSE392(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製)、MOS−7(登録商標(コニシ株式会社製))、1200シリーズ(株式会社スリーボンド製)を用いることができる。
破断時伸びの測定方法は、JIS K 6251が用いられる。
また、放射線検出基板500では、第2充填材578は、第1充填材576とは異なる充填材が用いられ、第1充填材576よりも破断時伸びが優れ、速乾性に優れたものが用いられている。
また、第2充填材578には、導電性部材580に導電ペーストを用いる場合には、その導電性ペーストが第2充填材578に溶け出して拡散しないものが選択される。また、第2充填材578には、吸湿により絶縁性能の低下が著しくないものが選択される。
また、空間Bにおいては、図15に示すように、第2充填材578の上面に、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のフィルム材で構成された絶縁部材582が被されており、上方への絶縁破壊が抑制されている。
なお、光読取方式の放射線検出器で用いた部材及び材料は、TFT方式の放射線検出器において同じ機能を有する対応部分に、その部材及び材料を適用することが可能である。また、本発明は、上記の実施形態に限るものではなく、種々の変形、変更、改良が可能である。