以下、図面を参照して本発明の実施形態を具体的に説明する。なお、各図面を通して同一符号は同一又は対応部分を示す。図1は一実施形態に係るインクジェット記録装置の要部の平面図である。図1において、記録ヘッド102はガイドシャフト101に沿って往復移動可能に案内支持されている。通常、記録ヘッド102は、ガイドシャフト101に沿って往復移動可能な不図示のキャリッジに搭載されており、該キャリッジを不図示のモータで矢印X方向に往復駆動することにより往復移動(主走査移動)する。記録ヘッド102と対向する位置には、記録紙等のシート状の記録媒体を支持するためのプラテン103が配設されている。記録ヘッド102は、画像情報に基づいて吐出口から記録媒体へインクを吐出して記録を行う。記録ヘッド102を記録媒体の幅方向に移動させて1ライン分の記録を行った後、記録媒体を矢印Y方向に所定ピッチだけ搬送する。1ライン分の記録と所定ピッチの搬送を交互に繰り返すことにより、記録媒体全体の記録が行われる。
図2は図1中の記録ヘッド102の吐出面の模式図である。吐出面は、インクを吐出する吐出口が形成されているフェイス面であり、記録媒体と対向する面(本実施形態では記録ヘッドの下面)に設けられている。吐出面と記録媒体の記録面との間にはインク滴を飛翔させるための所定の隙間が設けられている。図2において、記録ヘッド102の吐出面にはインク色別の複数の吐出口列201〜206が形成されており、各吐出口列は所定ピッチ配列された複数の吐出口で構成されている。201は、ブラックインク(Bk)の吐出口列、202はシアンインク(C)の吐出口列、203はフォトシアンインク(PC)の吐出口列である。また、204はマゼンタインク(M)の吐出口列、205はフォトマゼンタインク(PM)の吐出口列、206はイエローインク(Y)の吐出口列である。
各吐出口列における吐出口の配列方向は、キャリッジ(記録ヘッド102)の移動方向(矢印X方向)と交差する矢印Y方向であり、各吐出口列は記録ヘッドの移動方向において互いに平行に配置されている。また、各吐出口列は、例えば、1インチ当たり1200個の密度で配列された吐出口で構成され、1200dpiの吐出口解像度を有する。吐出口からインクを吐出する方式には、ヒータからインクに熱エネルギーを与えることによるインクの状態変化(膜沸騰など)を利用するもの、圧電素子によりインクに機械的エネルギーを与えて吐出させるものなどがある。さらには、レーザービームの照射によりインクを加熱して吐出させるものもある。本実施形態は、いずれの方式の記録ヘッドにおいても実施可能である。
(第1の実施形態)
図3は第1の実施形態に係るインクジェット記録装置における記録ヘッド102とプラテン103の位置関係を示す平面図である。なお、図3における吐出口列201〜206は記録ヘッド102を透視して示したものである。図3において、プラテン103の支持面(記録中の記録媒体を支持する面)には、複数の凹部104が形成されている。複数の凹部104は矢印X方向において所定間隔ごとに配置されている。また、各凹部104は、矢印Y方向(記録媒体の搬送方向)において、記録ヘッド102の吐出面119(図6)における各吐出口列201〜206の搬送上流側の端部から搬送下流側の端部までと略同一範囲を覆うように延在している。ただし、各凹部104はそれ以上の範囲を覆うように延在させても良い。プラテン103の上面の各凹部104以外の領域は、記録媒体111の裏面を支持する支持面131となっている。
各凹部104の内部には、記録媒体を裏面から吸引するための複数の(図示の例では2箇所に)吸引孔105が設けられている。各吸引孔105は、プラテン103の内部空間126に通じており、内部空間126の一部に図6に示すような吸引ファン(排気ファンでもある)110が装着されている。吸引ファン110、内部空間126及び吸引孔105により、プラテン103上に記録媒体111を吸着するための吸引手段が構成されている。吸引ファン110の作動により発生する吸引負圧は、内部空間126及び各吸引孔105を通して、プラテン103上の記録媒体111の裏面に作用する。吸引ファン110及び吸引孔105は内部空間126と共に、吸引手段を構成している。この吸引手段による吸引負圧によって、記録媒体は各凹部104に引き込まれるように吸引されてプラテン103の支持面131上に密着される。そこで、各凹部104には、板状の仕切部材108を備えた可動部107が配されている。この仕切部材108は、搬送されてくる記録媒体111(図6)の裏面に接触可能な作動位置と記録媒体の裏面から離間した退避位置との間で移動可能である。各仕切部材108は、各凹部104の内部であって、吸引孔105より搬送下流側に配されている。
図4は本実施形態においてプラテン上に搬送されてきた記録媒体の先端部に記録するときの状態を記録媒体を透視して示す平面図である。図4において、記録媒体111の先端部に記録するときは、該記録媒体の先端106は各凹部104の板状の仕切部材108(図6)と各凹部の搬送下流側の端部との間に位置している。各仕切部材108の搬送方向(矢印Y方向)の位置は、各吐出口列201〜206の搬送下流側の端部と略同じ位置になっている。図5は図4中の断面A1に沿った横断面図である。図4の状態では、図5に示すように、記録媒体がプラテン103の凹部104に引き込まれるようにしてプラテン103の支持面上に吸着(密着)されている。
図6は図4の記録媒体の先端部に記録するときの凹部104の部分を矢印X方向から見た縦断面図である。図6は、図4中の断面a1に沿った縦断面図でもあり、矢印X方向に配列された複数の凹部104における共通の縦断面図でもある。そのため、図6を用いて説明する構成及び動作は、吸引ファン110を除いて他の凹部でも同様である。図6において、可動部107は移動可能な仕切部材108と該仕切部材108の駆動機構109とを備え、駆動機構109が動作することで仕切部材108が矢印Z方向(上下方向)に移動する。各凹部104に形成された吸引孔105はプラテン103の内部空間126に通じており、この内部空間はプラテンの一部に装着された吸引ファン110に通じている。
図4及び図6の状態では、板状の仕切部材108の先端部分(図中左端部)が記録媒体111の先端近傍の裏面に接触しており、プラテン103の吸引孔105及び内部空間126が密閉状態になっている。また、各凹部104は、仕切部材108により、吸引孔105を含む搬送上流側部分と吸引孔を含まない搬送下流側部分とに仕切られている。この状態で吸引ファン110(吸引手段)が作動すると、内部空間126を通じて各吸引孔105に吸引負圧が作用する。このため、記録媒体111は、負圧吸引力によって各凹部104内へ吸引され、プラテン103の支持面131の各凹部104の周辺部に密着される。記録ヘッド102の吐出面119には複数の吐出口列201〜206が配されており、この吐出面119は所定の隙間をもって記録媒体111と対向している。
図7は、第1の実施形態において、記録媒体の先端が各凹部104の搬送下流側の端縁を通過した位置で記録しているときの状態を記録媒体を透視して示す平面図である。図8(a)は図7中の断面A1に沿った横断面図であり、図8(b)は図7中の断面B1に沿った横断面図である。図9は図7の記録媒体の先端が各凹部104の搬送下流側の端縁を通過した位置で記録しているときに凹部104の部分を矢印X方向から見た縦断面図である。図7の状態では、可動部107の仕切部材108は、凹部104内の空間に存在しないために点線で示されている。図9は、図7中の断面a1に沿った縦断面図でもあり、矢印X方向に配列された複数の凹部104における共通の縦断面図でもある。この状態では、図8(a)の断面A1及び図8(b)の断面B1並びに図9に示すように、凹部104の搬送方向のいずれの位置においても、記録媒体111が凹部104に引き込まれてプラテン103の支持面131に密着されている。従って、記録媒体111が記録ヘッド102に接触することはない。
図9において、各凹部104における仕切部材108は、駆動機構109の動作により図示右側(下方)へ移動し、凹部104の空間内に存在しない位置に退避している。この退避位置では、各仕切部材108の先端部が記録媒体111の裏面から離間しており、各凹部104内の空間は、仕切部材108で仕切られることなく、連続した1つの空間になっている。このとき、記録媒体111の裏面はプラテン103の支持面131に直接的に密着可能である。従って、記録媒体111は、コックリング(波打ち変形)が発生した場合でも、吸引ファン110により吸引孔105に生じる負圧吸引力により、各凹部104に引き込まれるようにして、各凹部104の周辺部(及び支持面131)に密着している。
なお、図示の例では駆動機構109を回転体で構成したが、これは、仕切部材108を上記と同様に作動できる駆動機構であれば、どのような構成であっても良い。また、仕切部材108の退避位置は、その先端部が記録媒体111の裏面から離間する位置に適宜選定することができ、図示のような凹部104の空間内に存在しない状態まで退避させる必要はない。さらに、図7〜図9では、記録媒体111の先端が各凹部104の搬送下流側の端部とプラテン103の搬送下流側の端部との間に位置する場合について説明した。本実施形態は、このような構成に限定されるものではなく、記録媒体111の先端がプラテン103の搬送下流側の端部よりさらに搬送下流側に位置するような場合にも同様に適用可能である。
図10は、第1の実施形態に係るインクジェット記録装置の動作を示すフローチャートである。図10において、ステップS1001で、記録媒体111がプラテン103上へ搬送されてくると、可動部107を動作させて仕切部材108を図6に示す作動位置(記録媒体の裏面に密着可能な位置)へ移動させる。次いで、ステップS1002で、記録媒体11をその先端部に記録可能な状態、つまり、記録媒体の先端が各仕切部材108と各凹部104の搬送下流側の端部との間に位置する状態となるまで搬送する。この状態では、各仕切部材108の先端部に記録媒体111が接触することで、各吸引孔105を含むプラテン103の内の空間が密閉され、空気漏れが防止される。このため、吸引孔105からの負圧吸引力によって、記録媒体111は、各凹部に引き込まれるようにしてプラテンの支持面131に密着されている。
ステップS1003では、ガイドシャフト101に沿って記録ヘッド102を移動させるとともに画像情報に基づいて該記録ヘッドを駆動することで、記録媒体111の先端部に1ライン(1スキャン)分ずつ画像を記録していく。その際、ステップS1004で、記録媒体111の先端が可動部107の切換位置(仕切部材108を作動位置から退避位置へ切り換える位置)を通過したか否かを判別する。つまり、記録媒体111の先端が各凹部104の搬送下流側の端部を通過したか否かを判別する。通過した場合は、ステップS1005で、仕切部材108を、記録媒体の裏面に接触する作動位置から離間する退避位置へ移動させることにより、可動部107を図7及び図9に示すようなコックリング低減用の構成に切り替える。その後、ステップS1006で、記録ヘッド102による1ライン分の記録と記録媒体111の所定ピッチの搬送とを交互に繰り返すことにより、記録媒体111全体の記録を行う。
次に、以上の第1の実施形態を実施したときの各種条件について説明する。インクジェット記録装置として、キヤノン株式会社製のインクジェット大判プリンタである、imagePROGRAFW8400(商品名)を使用した。プラテンは図4及び図5に示す構成のものを使用した。記録媒体としては、キヤノン株式会社製のコート紙である、商品名LFM−CP241Sのロール紙(幅24inch)を使用した。記録ヘッドとしては、上記imagePROGRAFW8400に搭載の吐出量4pl、吐出口解像度1200dpi、吐出口数1280の吐出口列を4列分使用した。4列の吐出口列を用いて4色のインクで記録し、記録幅24inchの記録媒体に対し、インク打ち込み量200%のパッチを6パスで記録した。なお、ここで、100%は、1200×1200dpiの全ての単位画素から1発のインクを吐出するときのインク打ち込み量を表す。
ここで、第1の実施形態の実施において用いたインクについて具体的に説明する。なお、説明中の部及び%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。下記に示す染料水溶液を中空糸状のマイクロフィルタ(分画分子量13000)にて限外ろ過、精製した後、下記に示す各成分比となるように混合した。十分攪拌して溶解した後、ポアサイズが0.20μmのミクロフィルタにて加圧ろ過し、各インクを夫々調整した。
インク1組成
C.I.フードブラック2 2部
エチレングリコール 10部
グリセリン 7部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
水 80部
インク2組成
C.I.ダイレクトブルー199 2部
エチレングリコール 10部
グリセリン 7部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
水 80部
インク3組成
C.I.ダイレクトイエロー86 2部
エチレングリコール 10部
グリセリン 7部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
水 80部
インク4組成
C.I.ダイレクトレッド227 2部
エチレングリコール 10部
グリセリン 7部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
水 80部
このような設定条件のもとで、図10の動作シーケンスにフローに従って、上述の駆動機構109により仕切部材108を動作させながら画像記録を行った。その結果、記録媒体の先端部に記録するとき(図4及び図6)、プラテンの支持面131からの記録媒体の浮き(または剥がれ)による記録ヘッド102との擦れや記録媒体の汚れは何ら生じることがなく、吸引エアーの漏れに起因する騒音も生じなかった。また、記録媒体の先端が各凹部104の搬送下流側の端部を十分越えた位置で記録するとき、大きく成長した記録媒体のコックリングが各凹部に沿って引き込まれ、記録ヘッド102の直下での波打ち変形の最大高さは十分に低減されていた。
ここで、上述の第1の実施形態から可動部107を削除した構成を比較例とし、以下に、この比較例に係るインクジェット記録装置について説明する。図11は比較例に係るインクジェット記録装置における記録ヘッドとプラテンの位置関係を示す平面図である。図11において、各凹部104と、記録ヘッド102の各吐出口列201〜206とは、それらの搬送方向の長さ及び位置が同一に設定されている。また、本比較例でも、プラテン103の上面の各凹部104以外の領域は記録媒体の裏面を支持する支持面131になっている。従って、プラテン103の各凹部104より搬送下流側には、第1実施形態の場合より広い平面状の支持面131が形成されている。本比較例は、その他の点では、前述の第1の実施形態と同じ構成を有する。
このような構成のインクジェット記録装置において、上述の第1の実施形態を実施したときと同じ条件で記録を行った。図12は、比較例に係るインクジェット記録装置においてプラテン上に搬送されてきた記録媒体の先端部に記録するときの状態を示す図であり、(a)は記録媒体を透視して示す平面図であり、(b)は(a)中の断面A10に沿った横断面図である。図12の状態では、記録媒体111の先端が各凹部104の搬送下流側の端部と略同位置にある。このような状態で記録媒体の先端部に記録を行うときは、比較例でも、記録媒体111の支持面131からの浮き(または剥がれ)による記録ヘッド102との擦れや記録媒体の汚れは生じなかった。また、吸引エアーの漏れに起因した騒音も生じなかった。
図13は、図11及び図12の比較例において、記録媒体111の先端が各凹部104の搬送下流側の端部を通り越した位置で該記録媒体に記録を行っているときの状態を示す図であり、(a)はプラテン103上の構成を記録媒体を透視して示す平面図であり、(b)は(a)中の断面A11に沿った横断面図である。本比較例では、図12の記録媒体の先端部を記録しているときの状態では、前述の第1の実施形態と同様、空気漏れ等を生じることなく記録媒体の先端部を支持面131上に密着させることができた。しかしながら、記録媒体111の先端が各凹部104の搬送下流側の端部を十分に通り越した位置(図13)で記録しているときには、記録媒体が記録ヘッドに接触したり、記録媒体が汚れるといった不都合が生じた。つまり、記録媒体111の大きく成長したコックリング(波打ち変形)部分が記録ヘッド102の吐出面119の搬送下流側の部分と摺擦したり、記録媒体111が吐出面119との接触により汚されるといった不都合が生じた。図13はこのときの状態を示す。
すなわち、図13に示すように、プラテン103の支持面131の搬送下流寄りの領域が平面であるため、凹部104に引き込まれていた記録媒体先端部の波打ち変形部分が搬送によってこの平面部に乗り上げてしまう。このため、記録媒体111が記録ヘッド102の吐出面119の搬送下流側部分やキャリッジ125の底面部分に接触してしまった。図14は、図13の状態のとき、すなわち記録の際に記録媒体の先端が凹部を通過したときの凹部104の部分を図13中の矢印X方向から見た縦断面図である。図14に示すように、本比較例の構成によれば、記録媒体111へのインク打ち込みにより大きく成長したコックリングが吐出面119と接触することがある。
以上より明らかなように、本実施形態は、プラテン103に形成された複数の凹部104と、記録媒体111を凹部に引き込むように吸引する吸引ファン110及び吸引孔105等からなる吸引手段と、を備え、プラテン上を搬送される記録媒体に記録ヘッド102からインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置において、凹部104を搬送上流側部分と搬送下流側部分に仕切る作動位置(図6)と、搬送上流側部分と搬送下流側部分を連通する退避位置(図9)と、の間で移動可能な仕切部材108を設け、記録媒体の先端が凹部の搬送下流側の端部より搬送上流側に位置するとき、作動位置にある仕切部材に記録媒体が接触することより、凹部を搬送上流側部分と搬送下流側部分に仕切り、記録媒体の先端が凹部の搬送下流側の端部を通過したとき、仕切部材を退避位置へ移動させることにより、凹部の搬送上流側部分と搬送下流側部分を連通するように構成されている。そして、作動位置にある仕切部材108に記録媒体111が接触することにより、凹部の吸引孔105を含む部分が密閉される。また、切部材108は記録媒体に対し垂直方向に移動可能な板状の部材で構成されている。
このような第1の実施形態によれば、このような比較例における不都合を解消することができる。すなわち、コックリングが生じた記録媒体に記録するときの空気漏れを防いで吸引力の低減を防ぐことができる。これにより、記録媒体のプラテン103からの浮きや剥がれによる記録ヘッド102との擦れや、記録媒体の汚れ発生を防ぐことができる。空気漏れに起因する騒音発生を防ぐこともできる。また、記録媒体の先端が各凹部104の搬送下流側の端部を越えた位置で記録するときの、インク打ち込み量の増大に伴う記録ヘッド直下におけるコックリングの増大を防ぐことができ、記録ヘッド直下における記録媒体の最大高さの低減を図ることができる。
(第2の実施形態)
図15は第2の実施形態に係るインクジェット記録装置においてプラテン上に搬送されてきた記録媒体の先端部に記録するときの状態を記録媒体を透視して示す平面図である。図16は図15の記録媒体の先端部に記録するときの凹部の部分を図15中の矢印X方向から見た縦断面図である。図17は第2の実施形態において、記録媒体の先端が各凹部の搬送下流側の端縁を通過した位置で記録しているときの状態を記録媒体を透視して示す平面図である。図18は図17中のプラテンの各凹部の横断面図であり、(a)は図17中の断面A2に沿った横断面図であり、(b)は図17中の断面B2に沿った横断面図である。図19は第2の実施形態において記録媒体の先端が各凹部の搬送下流側の端縁を通過した位置で記録しているときに凹部の部分を図17中の矢印X方向から見た縦断面図である。
図15〜図19において、各凹部104内の空間には、吸引孔105の搬送下流側の近傍位置に、回転可能な板状の仕切部材112と該仕切部材を回転させるための駆動機構113とを備えた可動部157が配されている。駆動機構113は不図示の駆動源に動作される。仕切部材112は、図15及び図16に示すように矢印Z方向の垂直位置にあるとき、その先端部分が記録媒体111の裏面と密着状態で接触する。このように各凹部104内の板状の仕切部材112を記録媒体に密着させることにより、プラテン103の内部空間126が密閉状態となる。そして、吸引ファン110の作動により内部空間126を介して各吸引孔105に吸引負圧が作用する。従って、各凹部104の吸引孔105からの負圧吸引力により、プラテン103上の記録媒体111は各凹部104に引き込まれながら支持面131上に吸着される。
各凹部104の仕切部材112の矢印Y方向(搬送方向)の位置は、図15及び図16に示すように、記録ヘッド102の各吐出口列201〜206の搬送下流側の端部と略同一となっている。そして、記録媒体の先端106が各凹部104の仕切部材112と該凹部の搬送下流側の端部との間に位置するとき、上述のような構成となる。また、このとき、図15中の断面A2の状態は図5に示す第1の実施形態の場合と同じである。また、図16は、図15中の断面a2に沿った縦断面図でもあり、矢印X方向に配列された複数の凹部104における共通の縦断面図でもある。従って、図16を用いて説明する構成及び動作は、吸引ファン110を除いて他の凹部でも同様である。
記録媒体の先端が各凹部104の搬送下流側の端部を通過した位置で記録しているときは、各凹部104内の仕切部材112は、図19に示すように倒された位置へ回転させられ、記録媒体111から離間した位置に退避させられる。図の例では、凹部104の底面に沿った位置に退避されている。このときの図17中の断面A2及び断面B2は図18(a)及び図18(b)に示すようになり、いずれの断面においても、記録媒体111がプラテンの各凹部104に引き込まれながら支持面131に沿って吸着されている。従って、記録媒体111が記録ヘッド102と接触することはない。このときの図17中の断面a2は図19に示すとおりである。
図15及び図16の記録開始の位置では、各凹部104は板状の仕切部材112により搬送上流側部分と搬送下流側部分の2つの空間に仕切られている。一方、記録媒体111がさらに搬送されて図17〜図19の状態で記録されているときは、各凹部104内は連続した1つの空間になっている。この図17〜図19の状態では、吸引孔105からの吸引力により、コックリングが発生した記録媒体111は、各凹部104に引き込まれるようにして、その裏面が各凹部104の周辺部に密着している。
なお、本実施形態でも、仕切部材112は、その先端部分が記録媒体111の裏面から離間した位置に退避できれば良く、凹部104内の空間から完全に退避する必要はない。また、図17〜図19では、記録媒体111の先端が各凹部104の搬送下流側の端部とプラテン103の支持面の搬送下流側の端部との間に位置する場合を示している。ただし、これは、記録媒体111の先端がプラテン103の搬送下流側の端部よりもさらに搬送下流側へ移動した位置で記録するときでも同様の状態を維持するように構成しても良い。また、本実施形態に係るインクジェット記録装置の動作は、第1の実施形態の図10と同様である。本実施形態のその他の構成は、前述の第1の実施形態と同様である。
次に、以上の第2の実施形態を実施したときの各種条件について説明する。インクジェット記録装置として、キヤノン株式会社製のインクジェット大判プリンタである、imagePROGRAFW8400(商品名)を使用した。プラテンは第2の実施形態の図15及び図16に示す構成のものを使用した。記録媒体としては、キヤノン株式会社製のコート紙である、商品名LFM−CP241Sのロール紙(幅24inch)を使用した。記録ヘッドとしては、上記imagePROGRAFW8400に搭載の吐出量4pl、吐出口解像度1200dpi、吐出口数1280の吐出口列を4列分使用した。4列の吐出口列を用いて以下に説明する4色のインクで記録し、記録幅24inchの記録媒体に対し、インク打ち込み量200%のパッチを6パスで記録した。なお、ここで、100%は、1200×1200dpiの全ての単位画素から1発のインクを吐出するときのインク打ち込み量を表す。
次に、第2の実施形態の実施において用いたインクについて具体的に説明する。なお、説明中の部及び%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。下記に示す染料水溶液を中空糸状のマイクロフィルタ(分画分子量6000)にて限外ろ過、精製した後、下記に示す各成分比となるように混合した。十分攪拌して溶解した後、ポアサイズが0.20μmのミクロフィルタにて加圧ろ過し、各インクを夫々調整した。
インク1組成
C.I.ダイレクトブラック168 2部
ジエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール200 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
尿素 5部
水 82部
インク2組成
C.I.アシッドブルー9 2部
ジエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール200 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
尿素 5部
水 82部
インク3組成
C.I.アシッドイエロー23 2部
ジエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール200 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
尿素 5部
水 82部
インク4組成
C.I.アシッドレッド52 2部
ジエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール200 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
尿素 5部
水 82部
このような設定条件のもとで、図10の動作シーケンスにフローに従って、第2の実施形態における駆動機構113により仕切部材112を動作させながら画像記録を行った。その結果、本実施形態によっても、コックリングが生じた記録媒体に記録するときの空気漏れを防いで吸引力の低減を防ぐことができる。これにより、記録媒体のプラテン103からの浮きや剥がれによる記録ヘッド102との擦れや、記録媒体の汚れ発生を防ぐことができる。空気漏れに起因する騒音発生を防ぐこともできる。また、記録媒体の先端が各凹部104の搬送下流側の端部を越えた位置で記録するときの、インク打ち込み量の増大に伴う記録ヘッド直下におけるコックリングの増大を防ぐことができ、記録ヘッド直下における記録媒体の最大高さの低減を図ることができる。
(第3の実施形態)
図20は第3の実施形態に係るインクジェット記録装置においてプラテン上に搬送されてきた記録媒体の先端部に記録するときの状態を記録媒体を透視して示す平面図である。図21は図20の記録媒体の先端部に記録するときの凹部の部分を矢印X方向から見た縦断面図である。図22は第3の実施形態において、記録媒体の先端が各凹部の搬送下流側の端縁を通過した位置で記録しているときの状態を記録媒体を透視して示す平面図である。図23は図22中のプラテンの各凹部の横断面図であり、(a)は図22中の断面A3に沿った横断面図であり、(b)は図22中の断面B3に沿った横断面図である。図24は第3の実施形態において記録媒体の先端が各凹部の搬送下流側の端縁を通過した位置で記録しているときに凹部の部分を図22中の矢印X方向から見た縦断面図である。
図20〜図24において、各凹部104には、吸引孔105の搬送下流側で上下方向に移動可能なブロック状部材115が設けられている。ブロック状部材115は、図示のようにブロック状をしており、凹部104の搬送下流側の端面に接触状態で上下方向に移動可能である。本実施形態における可動部167は、ブロック状部材115と、該ブロック状部材を移動させるための駆動機構116とを備えている。各ブロック状部材115は、駆動機構116により、記録媒体111の裏面に密着する作動位置(図21)と、記録媒体111から離間する退避位置(図24)との間で移動可能である。図示の例では、退避位置は、ブロック状のブロック状部材115が凹部104内の空間から完全に退避する位置に設定されている。
本実施形態においても、各凹部104内のブロック状部材115の頂面(先端面)を記録媒体に密着させることにより、プラテン103の内部空間126が密閉状態となる。そして、吸引ファン110の作動により各吸引孔105に生じる吸引負圧によって、記録媒体111は各凹部104に引き込まれながら支持面131上に吸着される。各凹部104のブロック状部材115の搬送上流側の端部は、図20及び図21に示すように、記録ヘッド102の各吐出口列201〜206の搬送下流側の端部と略同一となっている。そして、記録媒体の先端106が各凹部104のブロック状部材115の頂面(上面)上に位置するとき、上述のような構成となる。また、このとき、図20中の断面A3の状態は図5に示す第1の実施形態の場合と同じである。また、図21は、図20中の断面a3に沿った縦断面図でもあり、矢印X方向に配列された複数の凹部104における共通の縦断面図でもある。
記録媒体の先端が各凹部104の搬送下流側の端部を通過した位置で記録しているときは、各凹部104内のブロック状部材115は、駆動機構116により図24に示すような記録媒体111から離間した退避位置へ移動させられる。図の例では、凹部104の底面と同じレベルまで退避されている。このときの図22中の断面A3及び断面B3は図23(a)及び図23(b)に示すようになり、いずれの断面においても、記録媒体111がプラテンの各凹部104に引き込まれながら支持面131に沿って吸着されている。従って、記録媒体111が記録ヘッド102と接触することはない。このときの図22中の断面a3は図24に示すとおりである。
図20及び図21の記録開始の位置では、各凹部104はブロック状部材115により密閉されている。一方、記録媒体111がさらに搬送されて図22〜図24の状態で記録されているときは、各ブロック状部材115は凹部104内へ(図示の例では底面まで)退避しており、各凹部104の全体が支持面131に開口する状態になっている。この図22〜図24の状態では、吸引孔105からの吸引力により、コックリングが発生した記録媒体111は、各凹部104に引き込まれるようにして、各凹部104の周辺部及び支持面131に密着している。本実施形態のその他の構成は、前述の第1の実施形態及び第2の実施形態と同様である。
なお、本実施形態でも、各ブロック状部材115を退避させるとき、それらの先端面が記録媒体111の裏面から離間した位置に退避できれば良く、凹部104内の空間から完全に退避する必要はない。また、図示の例では、駆動機構116を回転体で構成したが、これは、ブロック状部材115を上記と同様に移動させる駆動機構であれば、どのような構成であっても良い。さらに、図22〜図24では、記録媒体111の先端が各凹部104の搬送下流側の端部(図示の例では、各ブロック状部材115の搬送下流側の端部と同じ)とプラテン103の支持面131の搬送下流側の端部との間に位置する場合を示している。ただし、これは、記録媒体111の先端がプラテン103の搬送下流側の端部よりもさらに搬送下流側へ移動した位置で記録するときでも同様の状態を維持するように構成しても良い。また、本実施形態に係るインクジェット記録装置の動作は、第1の実施形態の図10と同様である。本実施形態のその他の構成は、前述の第1の実施形態と同様である。
以上より明らかなように、本実施形態では、凹部104の搬送下流側の端部に沿って、プラテン103上の記録媒体111と接触可能な作動位置(図21)と記録媒体から離間した退避位置(図24)との間で移動可能なブロック状部材115を設け、作動位置にあるブロック状部材に記録媒体の先端部を接触させて凹部を密閉し、記録媒体の先端が凹部の搬送下流側の端部を通過したとき、ブロック状部材を退避位置へ移動させる構成となっている。ブロック状部材115は記録媒体に対し垂直方向に移動可能なブロック状の部材で構成されている。本実施形態でも、作動位置にあるブロック状部材115に記録媒体111が接触することにより、凹部104の吸引孔105を含む部分が密閉される。この第3の実施形態によっても、記録媒体のコックリングによる裏面からの空気漏れを防ぐことができ、前述の第1の実施形態及び第2の実施形態と同様の効果が得られる。
次に、以上の第3の実施形態を実施したときの各種条件について説明する。インクジェット記録装置として、キヤノン株式会社製のインクジェット大判プリンタである、imagePROGRAFW8400(商品名)を使用した。プラテンは第3の実施形態の図20及び図21に示す構成のものを使用した。記録媒体としては、キヤノン株式会社製のコート紙である、商品名LFM−CP241Sのロール紙(幅24inch)を使用した。記録ヘッドとしては、上記imagePROGRAFW8400に搭載の吐出量4pl、吐出口解像度1200dpi、吐出口数1280の吐出口列を4列分使用した。4列の吐出口列を用いて以下に説明する4色のインクで記録し、記録幅24inchの記録媒体に対し、インク打ち込み量200%のパッチを6パスで記録した。なお、ここで、100%は、1200×1200dpiの全ての単位画素から1発のインクを吐出するときのインク打ち込み量を表す。
次に、第3の実施形態の実施において用いたインクについて具体的に説明する。なお、説明中の部及び%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。下記に示す染料水溶液を中空糸状のマイクロフィルタ(分画分子量3000)にて限外ろ過、精製した後、下記に示す各成分比となるように混合した。十分攪拌して溶解した後、ポアサイズが0.20μmのミクロフィルタにて加圧ろ過し、各インクを夫々調整した。
インク1組成
C.I.ダイレクトブラック195 2部
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 10部
グリセリン 5部
水 83部
インク2組成
C.I.ダイレクトブルー86 2部
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 10部
グリセリン 5部
水 83部
インク3組成
C.I.ダイレクトイエロー132 2部
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 10部
グリセリン 5部
水 83部
インク4組成
C.I.アシッドレッド289 2部
ジエチレングリコールモノブチルエーテル 10部
グリセリン 5部
水 83部
このような設定条件のもとで、図10の動作シーケンスにフローに従って、第3の実施形態における駆動機構116によりブロック状部材115を動作させながら画像記録を行った。その結果、本実施形態によっても、コックリングが生じた記録媒体に記録するときの空気漏れを防いで吸引力の低減を防ぐことができる。これにより、記録媒体のプラテン103からの浮きや剥がれによる記録ヘッド102との擦れや、記録媒体の汚れ発生を防ぐことができる。空気漏れに起因する騒音発生を防ぐこともできる。また、記録媒体の先端が各凹部104の搬送下流側の端部を越えた位置で記録するときの、インク打ち込み量の増大に伴う記録ヘッド直下におけるコックリングの増大を防ぐことができ、記録ヘッド直下における記録媒体の最大高さの低減を図ることができる。
(第4の実施形態)
図25は第4の実施形態に係るインクジェット記録装置においてプラテン上に搬送されてきた記録媒体の先端部に記録するときの状態を記録媒体を透視して示す平面図である。図26は図25の記録媒体の先端部に記録するときの凹部の部分を図25中の矢印X方向から見た縦断面図である。図27は第4の実施形態において、記録媒体の先端が各凹部の搬送下流側の端縁を通過した位置で記録しているときの状態を記録媒体を透視して示す平面図である。図28は図27中のプラテンの各凹部の横断面図であり、(a)は図27中の断面A4に沿った横断面図であり、(b)は図27中の断面B4に沿った横断面図である。図29は第4の実施形態において記録媒体の先端が各凹部の搬送下流側の端縁を通過した位置で記録しているときに凹部の部分を図27中の矢印X方向から見た縦断面図である。図30は、第4の実施形態に係るインクジェット記録装置において、記録媒体の搬送とともに可動部177が搬送下流方向へ移動しながら記録するときの、凹部174を図25中の矢印X方向から見た縦断面図である。(ア)〜(エ)は記録時間経過に伴う可動部の変化を順を追って示す図である。
図25〜図30において、本実施形態における凹部174はプラテン103上面からなる支持面131において第1の実施形態の凹部104と同様に配列されている。ただし、各凹部174は、それらの搬送下流側の端部が開放された構造になっている。そして、各凹部174の搬送下流側寄りの部分には、該凹部の搬送下流側の端部壁面を形成しながら搬送方向に移動可能なブロック状の可動部材117が装着されている。従って、本実施形態における凹部174の搬送下流側の端部は、可動部材117の搬送上流側の端面で形成されている。本実施形態における可動部177は、このような可動部材117と、該可動部材を搬送方向に移動させるための駆動機構(不図示)とを備えている。各可動部材117は、図26に示す上流位置と図29に示す下流位置との間で移動可能であり、記録媒体111の紙送りに追従して搬送方向き位置を多段階に切り替え可能である。この場合の上流位置は、可動部材117の搬送上流側の端部が記録ヘッド102の各吐出口列201〜206の搬送下流側の端部と略同一となる位置に設定されている。また、下流位置は、可動部材117の搬送上流側の端部が記録ヘッド102の吐出面119より所定距離だけ搬送下流側にくる位置に設定されている。
そして、各可動部材117が上流位置にあるとき、記録媒体111がプラテン103上へ搬送されてくると、記録媒体111の先端106が図26に示すように各可動部材117の上面に接触するとともに吸引孔105からの負圧吸引力により該上面に密着する。この上流位置から記録媒体111に対する記録が開始される(または開始可能である)。記録が開始されると、記録媒体の搬送に追随して各可動部材117も同様に搬送方向へ移動させる。つまり、各可動部材117は、記録媒体111の先端部の裏面に密着したまま、その下流位置(図29、図30の(エ))まで移動する。その間、各可動部材117の移動とともに、各凹部174の空間の容積が増大していく。
本実施形態においても、各凹部174の可動部材117の上面に記録媒体を密着させることにより、プラテン103の内部空間126が密閉状態となる。この場合、吸引ファン110の作動により各吸引孔105に生じる吸引負圧によって、記録媒体111は各凹部174に引き込まれるようにして支持面131上に吸着される。このような動作は、記録媒体の先端106が各凹部174の可動部材117の上面に到達したときに行われる。このとき、図25中の断面A4の状態は図5に示す第1の実施形態の場合と同じである。また、図26は、図25中の断面a4に沿った縦断面図でもあり、矢印X方向に配列された複数の凹部174に共通の縦断面図でもある。
図27は、記録媒体の先端106が凹部174の搬送下流側の端部を越えた状態で記録しているときを示す。そして、図28(a)及び図28(b)は図27中の断面A4及び断面B4を示しており、いずれの断面においても、記録媒体111は各凹部174に引き込まれるようにして支持面131上に吸着されている。従って、インク打ち込み量の増大に伴って記録媒体のコックリング(波打ち変形)が増大する場合でも、記録媒体が記録ヘッドと接触することはない。図29は、図27の状態における凹部174の部分の搬送方向縦断面(図27中の断面a4)を示す。この図29において、可動部177の可動部材117は搬送方向(矢印Y方向)に移動し、記録媒体111の裏面と可動部材117の上面(その端縁部)とが密着している。このため、コックリングが発生した記録媒体111は、吸引ファン110により凹部174に引き込まれるようにして、支持面131上に吸着されている。
図30には、記録開始から記録経過時間に伴って可動部材117が移動する状況が示されている。図30からも明らかなように、記録するときの紙送りに追随して可動部材117を移動させることで、いずれの段階においても空気漏れをなくすことで吸引力の低下を抑えることができる。つまり、図30の(ア)で記録媒体が可動部材117に接触して密閉状態を完成する。そして、可動部材117は、図30の(イ)及び(ウ)を経て、図30の(エ)のように記録媒体の先端109が吐出面119の直下を十分に通過するまで、密閉状態を維持しながら移動する。図30(エ)の位置に到達した後は、コックリングを凹部174内に十分に逃がすことが可能なため、可動部材117は図示の位置からさらに搬送下流側へ移動させる必要はない。次の記録媒体に記録するときは、可動部材117を再び図30(ア)の位置に戻しておき、上述と同様の手順で記録媒体の紙送りに合わせて可動部材117を移動させることになる。
本実施形態のその他の構成は、前述の第1の実施形態と同様である。なお、本実施形態に係るインクジェット記録装置の動作も、第1の実施形態の図10と同様である。すなわち、以上の説明から明らかなように、本実施形態では、凹部174の搬送下流側の端面を形成しながら、記録媒体111の先端部に記録するときの記録媒体に接触可能な上流位置(図26)と、上流位置から紙送り方向へ所定距離通過した下流位置(図29)との間で、記録媒体の紙送りに追従して移動可能な可動部材117を設け、上流位置にある可動部材に記録媒体の先端部を接触させて凹部を密閉し、凹部の密閉を維持しながら可動部材を下流位置まで移動させるように構成されている。本実施形態でも、上流位置にある可動部材117に記録媒体111が接触することにより、凹部174の吸引孔105を含む部分が密閉される。本実施形態では、凹部174は搬送下流側の端部が開放され、可動部材117は凹部の開放端部に装着されている。
従って、このような第4の実施形態によっても、記録媒体のコックリングによる裏面からの空気漏れを防ぐことができ、前述の各実施形態と同様の効果が得られる。なお、本実施形態では、記録動作における記録媒体の紙送り(搬送)に合わせて可動部材117を搬送下流方向へ移動させるので、記録媒体の先端部分の空気漏れを一層確実に低減することができる。このため、本実施形態は、記録媒体の先端を少しずつ紙送りするマルチパス記録や、吐出口列が短い記録ヘッドによる記録の場合に、特に有効であると言える。
次に、以上の第4の実施形態を実施したときの各種条件について説明する。インクジェット記録装置として、キヤノン株式会社製のインクジェット大判プリンタである、imagePROGRAFW8400(商品名)を使用した。プラテンは第4の実施形態の図25及び図26に示す構成のものを使用した。記録媒体としては、キヤノン株式会社製のコート紙である、商品名LFM−CP241Sのロール紙(幅24inch)を使用した。記録ヘッドとしては、上記imagePROGRAFW8400に搭載の吐出量4pl、吐出口解像度1200dpi、吐出口数1280の吐出口列を4列分使用した。4列の吐出口列を用いて以下に説明する4色のインクで記録し、記録幅24inchの記録媒体に対し、インク打ち込み量200%のパッチを6パスで記録した。なお、ここで、100%は、1200×1200dpiの全ての単位画素から1発のインクを吐出するときのインク打ち込み量を表す。
次に、第4の実施形態の実施において用いたインクについて具体的に説明する。なお、説明中の部及び%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。下記に示す染料水溶液を中空糸状のマイクロフィルタ(分画分子量10000)にて限外ろ過、精製した後、下記に示す各成分比となるように混合した。十分攪拌して溶解した後、ポアサイズが0.20μmのミクロフィルタにて加圧ろ過し、各インクを夫々調整した。
インク1組成
C.I.フードブラック2 2部
エチレングリコール 10部
グリセリン 7部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
水 80部
インク2組成
C.I.ダイレクトブルー199 2部
エチレングリコール 10部
グリセリン 7部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
水 80部
インク3組成
C.I.ダイレクトイエロー86 2部
エチレングリコール 10部
グリセリン 7部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
水 80部
インク4組成
C.I.ダイレクトレッド227 2部
エチレングリコール 10部
グリセリン 7部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
水 80部
このような設定条件のもとで、図10の動作シーケンスにフローに従って、第4の実施形態で説明した動作機構を動作させながら画像記録を行った。その結果、本実施形態によっても、記録媒体のコックリング等による裏面からの空気漏れを防いで吸引力の低減を防ぐことができる。これにより、記録媒体のプラテン103からの浮きや剥がれによる記録ヘッド102との擦れや、記録媒体の汚れ発生を防ぐことができる。空気漏れに起因する騒音発生を防ぐこともできる。また、記録媒体の先端が各凹部174の搬送下流側の端部を越えた位置で記録するときの、インク打ち込み量の増大に伴う記録ヘッド直下におけるコックリングの増大を防ぐことができ、記録ヘッド直下における記録媒体の最大高さの低減を図ることができる。なお、本実施形態では、記録動作における記録媒体の搬送に合わせて可動部材117を搬送下流方向へ移動させるので、記録媒体の先端部分の空気漏れを一層確実に低減することができる。このため、本実施形態も、記録媒体の先端を少しずつ紙送りするマルチパス記録や、吐出口列が短い記録ヘッドによる記録の場合に、特に有効であると言える。
(第5の実施形態)
図31は第5の実施形態に係るインクジェット記録装置においてプラテン上に搬送されてきた記録媒体の先端部に記録するときの状態を記録媒体を透視して示す平面図である。図32は図31の記録媒体の先端部に記録するときの凹部の部分を図31中の矢印X方向から見た縦断面図である。図33は第5の実施形態において、記録媒体の先端が各凹部の搬送下流側の端縁を通過した位置で記録しているときの状態を記録媒体を透視して示す平面図である。図34は図33中のプラテンの各凹部の横断面図であり、(a)は図33中の断面A5に沿った横断面図であり、(b)は図33中の断面B5に沿った横断面図である。図35は第5の実施形態において記録媒体の先端が各凹部の搬送下流側の端縁を通過した位置で記録しているときに凹部の部分を図33中の矢印X方向から見た縦断面図である。
図31〜図35において、本実施形態における凹部184はプラテン103上面からなる支持面131において第1の実施形態の凹部104と同様に配列されている。ただし、各凹部184は、それらの搬送下流側の端部が開放された構造になっている。また、プラテン103の各凹部184に対応する搬送下流側の端部も開放された構造になっている。各開放部には、搬送方向に移動可能な可動部材118が装着されている。各可動部材118はプラテン103に装着されている。本実施形態における可動部187は、可動部材118と該可動部材を移動させるための駆動機構(不図示)とを備えている。各可動部材118は、プラテン103及び凹部184の搬送下流側の各開放部を密閉した状態で搬送方向に移動可動である。従って、各凹部184の搬送下流側の端部は、移動可能な可動部材187の搬送上流側の端面で形成されている。
各可動部材118は、図32に示す上流位置と図35に示す下流位置との間で移動可能であり、記録媒体111の紙送りに追従して搬送方向き位置を多段階に切り替え可能である。この場合の上流位置は、可動部材118の搬送上流側の端部が記録ヘッド102の各吐出口列201〜206の搬送下流側の端部と略同一となる位置に設定されている。また、下流位置は、可動部材118の搬送上流側の端部が記録ヘッド102の吐出面119より所定距離だけ搬送下流側にくる位置に設定されている。
そして、各可動部材118が上流位置にあるとき、記録媒体111がプラテン103上へ搬送されてくると、記録媒体111の先端106が図32に示すように各可動部材118の上面に接触するとともに吸引孔105からの負圧吸引力により該上面に密着する。この上流位置から、記録媒体111に対する記録が開始される(または開始可能である)。記録が開始されると、記録媒体の搬送に追随して各可動部材118も同様に搬送方向へ移動させる。つまり、各可動部材118は、記録媒体111の先端部の裏面に密着したまま、その下流位置(図35)まで移動する。その間、各可動部材118の移動とともに、各凹部184の空間の容積も増大していく。
本実施形態においても、各凹部184の可動部材118の上面に記録媒体を密着させることにより、プラテン103の内部空間126が密閉状態となる。この場合、吸引ファン110の作動により各吸引孔105に生じる吸引負圧によって、記録媒体111は各凹部184に引き込まれるようにして支持面131上に吸着される。このような動作は、記録媒体の先端106が各凹部184の可動部材118の上面に到達したときに行われる。このとき、図31中の断面A5の状態は図5に示す第1の実施形態の場合と同じである。また、図32は、図31中の断面a5に沿った縦断面図でもあり、矢印X方向に配列された複数の凹部184に共通の縦断面図でもある。
図33は、記録媒体の先端106が凹部184の搬送下流側の端部を越えた状態で記録しているときを示す。そして、図34(a)及び図34(b)は図33中の断面A5及び断面B5を示しており、いずれの断面においても、記録媒体111は各凹部184に引き込まれるようにして支持面131上に吸着されている。従って、インク打ち込み量の増大に伴って記録媒体のコックリング(波打ち変形)が増大する場合でも、記録媒体が記録ヘッドと接触することはない。図35は、図33の状態における凹部184の部分の搬送方向縦断面(図33中の断面a5)を示す。この図35において、可動部187の可動部材118は搬送方向(矢印Y方向)に移動し、記録媒体111の裏面と可動部材118の上面(その端縁部)とが密着している。このため、コックリングが発生した記録媒体111は、吸引ファン110により凹部184に引き込まれるようにして、支持面131上に吸着されている。
記録開始から記録経過時間に伴って可動部材118が移動する状況は、図30に示す第4の実施形態の可動部材117の場合と同様である。従って、紙送りに追随して可動部材118を移動させることで、いずれの段階においても空気漏れをなくすことで吸引力の低下を抑えることができる。つまり、記録媒体が可動部材118に接触して密閉状態を完成した後、記録が進んで記録媒体の先端109が吐出面119の直下を十分に通過するまで、追従して移動する可動部材118により密閉状態が維持される。本実施形態でも、可動部材118が下流位置に到達した後では、コックリングを凹部184内に十分に逃がすことが可能であり、可動部材118をさらに搬送下流側へ移動させる必要はない。次の記録媒体に記録するときは、可動部材118を再び上流位置に戻しておき、上述と同様の手順で記録媒体の紙送りに合わせて可動部材118を移動させることになる。
本実施形態のその他の構成は、前述の第1の実施形態と同様である。なお、本実施形態に係るインクジェット記録装置の動作も、第1の実施形態の図10と同様である。すなわち、本実施形態でも、凹部184の搬送下流側の端面を形成しながら、記録媒体111の先端部に記録するときの記録媒体に接触可能な上流位置(図32)と、上流位置から紙送り方向へ所定距離通過した下流位置(図35)との間で、記録媒体の紙送りに追従して移動可能な可動部材118を設け、上流位置にある可動部材に記録媒体の先端部を接触させて凹部を密閉し、凹部の密閉を維持しながら可動部材を下流位置まで移動させるように構成されている。
次に、以上の第5の実施形態を実施したときの各種条件について説明する。インクジェット記録装置として、キヤノン株式会社製のインクジェット大判プリンタである、imagePROGRAFW8400(商品名)を使用した。プラテンは第5の実施形態の図31及び図32に示す構成のものを使用した。記録媒体としては、キヤノン株式会社製のコート紙である、商品名LFM−CP241Sのロール紙(幅24inch)を使用した。記録ヘッドとしては、上記imagePROGRAFW8400に搭載の吐出量4pl、吐出口解像度1200dpi、吐出口数1280の吐出口列を4列分使用した。4列の吐出口列を用いて以下に説明する4色のインクで記録し、記録幅24inchの記録媒体に対し、インク打ち込み量200%のパッチを6パスで記録した。なお、ここで、100%は、1200×1200dpiの全ての単位画素から1発のインクを吐出するときのインク打ち込み量を表す。
次に、第5の実施形態の実施において用いたインクについて具体的に説明する。なお、説明中の部及び%とあるのは特に断りのない限り重量基準である。下記に示す染料水溶液を中空糸状のマイクロフィルタ(分画分子量50000)にて限外ろ過、精製した後、下記に示す各成分比となるように混合した。十分攪拌して溶解した後、ポアサイズが0.20μmのミクロフィルタにて加圧ろ過し、各インクを夫々調整した。
インク1組成
C.I.ダイレクトブラック168 2部
ジエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール200 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
尿素 5部
水 82部
インク2組成
C.I.アシッドブルー9 2部
ジエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール200 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
尿素 5部
水 82部
インク3組成
C.I.アシッドイエロー23 2部
ジエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール200 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
尿素 5部
水 82部
インク4組成
C.I.アシッドレッド52 2部
ジエチレングリコール 5部
ポリエチレングリコール200 5部
アセチレノールEH(川研ファインケミカル製) 1部
尿素 5部
水 82部
このような設定条件のもとで、図10の動作シーケンスにフローに従って、第5の実施形態で説明した動作機構を動作させながら画像記録を行った。その結果、本実施形態によっても、記録媒体のコックリング等による裏面からの空気漏れを防いで吸引力の低減を防ぐことができる。これにより、記録媒体のプラテン103からの浮きや剥がれによる記録ヘッド102との擦れや、記録媒体の汚れ発生を防ぐことができる。空気漏れに起因する騒音発生を防ぐこともできる。また、記録媒体の先端が各凹部184の搬送下流側の端部を越えた位置で記録するときの、インク打ち込み量の増大に伴う記録ヘッド直下におけるコックリングの増大を防ぐことができ、記録ヘッド直下における記録媒体の最大高さの低減を図ることができる。なお、本実施形態でも、記録動作における記録媒体の搬送に合わせて仕切部材118を搬送下流方向へ移動させるので、記録媒体の先端部分の空気漏れを一層確実に低減することができる。このため、本実施形態も、記録媒体の先端を少しずつ紙送りするマルチパス記録や、吐出口列が短い記録ヘッドによる記録の場合に、特に有効であると言える。
なお、以上説明した実施形態では、記録ヘッドを搭載して往復移動するキャリッジを用いるシリアルタイプの記録装置を例に挙げた。本発明は、記録媒体を搬送する方向の副走査のみで記録するラインタイプの記録装置など、他の記録方式の場合も同様に適用可能である。また、本発明は、プリンタ、ファクシミリ、複写機等の単体の記録装置の他、複合機器やシステム構成などにおける記録装置に対しても同様に適用可能である。さらに、記録媒体に関しても、紙、プラスチックシート、OHPシート、布、写真調印画紙など、画像記録が可能なものであれば、種々の材質のものを使用することができる。