JP4937132B2 - 免疫原性の低下したil−7変種 - Google Patents

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Description

(関連出願に対する相互参照)
本出願は、2004年12月9日出願の米国特許仮出願第60/634,470号に対する優先権、および該仮出願の利益を主張する。なお、この出願の全開示は引用により本明細書に含まれることとする。
(発明の分野)
本発明は、一般に、その免疫原性が低下するように改変されたIL-7分子に関する。これらの分子はまた、前記改変IL-7分子および免疫グロブリン分子またはその一部、特に、対応するFc融合タンパク質を含む融合タンパク質を含む。
サイトカインは免疫系の刺激因子であり、従って、薬剤としても有用である。例えば、インターフェロンα(INF-α)、インターフェロン(IFN-β)、インターロイキン-2(IL-2)、および顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)は、全て、ウィルス感染、ガン、免疫系の異常調整、例えば、自己免疫疾患を治療するため、および、ガンの化学療法後の免疫系の回復を促進するために用いられる認可された薬剤である。残念ながら、これらのタンパク質は、自分自身に対する免疫応答を刺激するので、患者が、その治療タンパク質に対する抗体を生産する原因となることがある。これらの抗体はまた、患者の体内で内因的に生産される同じタンパク質の機能を抑制するので、患者の健康に対し長期に渡る可能性のある病態をもたらすことがある。
インターロイキン-7は、T細胞、B細胞、およびその他の免疫細胞の生存と増殖を促進するサイトカインである。インターロイキン-7はまた、ガンの化学療法、HIV感染、あるいはその他の疾患、障害、または化学的暴露によって免疫系が損傷を被った患者を治療するための治療的タンパク質となる可能性がある。しかしながら、その免疫刺激性のために、治療的に投与されるIL-7は、それ自身に対する抗体応答を誘発することが予想される。従って、免疫原性は低いが、免疫系を刺激する性質は保持するIL-7の改良形態に対しては、従来技術において需要がある。
本発明は、野生型IL-7と比べてその免疫原性が低下するように改変されたインターロイキン-7(IL-7)に関する。より詳細には、本発明のIL-7タンパク質は、T細胞エピトープ候補を除去するように改変される。その結果、免疫グロブリン-IL7融合タンパク質、好ましくはFc-IL7融合タンパク質を含む本発明のIL-7タンパク質は、野生型IL-7と比べて改良された生物学的性質を持つ。
従って、一つの局面では、本発明は、ヒトのIl-7部分またはその活性部分に対し少なくとも80%同一のポリペプチドであって、Gln22, Leu24, Ile30, Phe39, Met54, Phe57, Arg58, Ala60, Leu63, Lys68, Met69, Leu77, Ile88, Val96, Leu104, Leu128, Met147, Thr149, またはLys150に対応する1つ以上の残基においてアミノ酸置換を含むポリペプチドをその特質とする。これらのアミノ酸改変は、抗IL-7 T細胞応答を下げるために、単独で用いることも、組み合わせて用いることも可能である。従って、本発明は、Gln22, Leu24, Ile30, Phe39, Met54, Phe57, Arg58, Ala60, Leu63, Lys68, Met69, Leu77, Ile88, Val96, Leu104, Leu128, Met147, Thr149, およびLys150から選ばれる位置において、例えば、1つ、少なくとも2つ、少なくとも4つ、または少なくとも8つのアミノ酸改変を有するIL-7部分を含む。一つの実施態様では、IL-7部分は、下記の置換:Gln22Asp, Leu24Asp, Ile30Thr, Phe39Pro, Met54Ala, Phe57Lys, Phe57Asn, Arg58Asp, Ala60Ser, Arg61Glu, Leu77Asp, Leu104Ser, Leu104Val, Leu128Ala, Leu128Val, Leu128Pro, Leu128Ser, Met147Lys, Thr149Ser, またはLys150Stop、の内の1つ、2つ、3つ、4つ、5つ以上を含む。
一つの実施態様では、本ポリペプチドは、Phe39、Phe57、Leu77、およびLeu128の内の1箇所以上において一つの置換、または複数の置換を含む。さらに別の実施態様では、本ポリペプチドは、置換Phe39Pro、Phe57Asn、Leu77Asp、およびLeu128Serの内の一つ以上を持つ。別の実施態様では、本ポリペプチドは、置換Phe39Pro、Phe57Asn、Leu77Asp、およびLeu128Serを含むが、一方、さらに別の実施態様では、本ポリペプチドは、置換Phe39Pro、Phe57Asn、およびLeu128Serを含む。
本発明による好ましい置換は下記の位置にある、すなわち、
Phe39、またはPhe57、またはLeu77、またはLeu128;
Phe39およびPhe57、またはPhe39およびLeu77、またはPhe57およびLeu77、またはPhe39およびLeu128、またはPhe57およびLeu128、またはLeu77およびLeu128;
Phe39およびPhe57およびLeu77、またはPhe39およびPhe57およびLeu128、またはPhe57およびLeu77およびLeu128、またはPhe39およびLeu77およびLeu128;
Phe39およびPhe57およびLeu77およびLeu128である。
本発明による好ましい具体的置換は、下記の通りである、すなわち、
Phe39Pro、またはPhe57Lys、またはLeu77Asp、またはLeu128Ser;
Phe39ProおよびPhe57Lys、またはPhe39ProおよびLeu77Asp、またはPhe57LysおよびLeu77Asp、またはPhe39ProおよびLeu128Ser、またはPhe57LysおよびLeu128Ser、またはLeu77AspおよびLeu128Ser;
Phe39PrおよびPhe57LysおよびLeu77Asp、またはPhe39ProおよびPhe57LysおよびLeu128Ser、またはPhre57LysおよびLeu77AspおよびLeu128Ser、またはPhe39ProおよびLeu77AspおよびLeu128Ser;
Phe39ProおよびPhe57LysおよびLeu77AspおよびLeu128Serである。
本発明のある実施態様では、ヒトのIL-7部分と少なくとも80%同一であるポリペプチドは、さらに免疫グロブリン(Ig)部分、例えば、ヒトIg部分を含む。一つの実施態様では、このIg部分はIgG2である。ある実施態様では、Ig部分はFc部分である。本発明はまた、本発明に従って改変されるポリペプチドをコードする核酸配列を含む細胞に関する。一つの実施態様では、細胞は原核細胞である。
さらに別の実施態様では、ポリペプチドは、ヒトのIL-7部分、またはその活性部分に対し少なくとも90%の同一性を持ち、一方、別の実施態様では、ポリペプチドは、ヒトのIL-7部分、またはその活性部分に対し少なくとも95%の同一性を持つ。
本発明はまた、本発明のポリペプチドの治療的有効量を、癌またはHIVを有すると診断された患者に対して投与することを含む、患者の治療方法をその特徴とする。一つの実施態様では、本発明は、1日当たり、約0.01から約10 mg/kg、または0.01から10.00 mg/kgの本発明のポリペプチドの投与を規定する。
発明の詳細な記載
本発明は、野生型Il-7に比べて免疫原性が低下したIL-7、および、そのようなタンパク質を製造し、使用する方法に対しても指向する。さらに具体的には、本発明は、免疫応答に向けて刺激する可能性のある、IL-7内部の主にT細胞エピトープを除去することによって、IL-7の免疫原性を抑える作用を持つ、IL-7部分内における変異を提供する。本発明はまた、本発明の教示によって改変されたIL-7部分を含む融合タンパク質を含む。
T細胞エピトープは、構造準拠コンピューターモデリングを含む各種計算的および非計算的方法によって、または特定のMHCクラスIIに結合するペプチドの合成および特定のMHCクラスIIへの結合に関する前記ペプチドの試験、または免疫原性アッセイによって特定することが可能である。本発明によれば、T細胞エピトープ候補は、遊離ペプチドとして見なした場合、MHCクラス分子、または、非ヒト生物種の等価物に対して結合すると予測される配列である。潜在的T細胞エピトープは、抗原プロセッシングのその他の局面、例えば、抗原提示細胞におけるタンパク質取り込み効率、元のタンパク質が複数部位で切断されて、MHCクラスIIに結合することが可能なペプチドを生じる効率、等を考慮することなく定義される。従って、タンパク質を動物に投与した後MHCクラスIIにおいて実際に提示されるT細胞エピトープの組は潜在的T細胞エピトープ候補のサブセットである。本発明によれば、T細胞エピトープは、MHCクラスII分子と相互作用を有するタンパク質上のエピトープである。理論に縛られることを望むものではないが、T細胞エピトープは、T細胞発生中、T細胞ネガティブ選択過程を経ることがなく、従って、MHCクラスII分子によって提示され、T細胞受容体によって認識されるタンパク質のアミノ酸配列であると理解される。
B細胞エピトープも、構造準拠コンピューターモデリングを含む、各種計算的および非計算的法によって、または、特定のB細胞抗原受容体分子に結合するペプチドの合成および特定のB細胞抗原受容体分子への結合に関する前記ペプチドの試験、または免疫原性アッセイによって特定することが可能である。本発明によれば、B細胞エピトープ候補は、遊離ペプチドとして見なした場合、B細胞抗原受容体、または、非ヒト生物種の等価物に対して結合すると予測される配列である。B細胞エピトープは、B細胞抗原受容体に結合する、または、該受容体によって認識されるエピトープであり、潜在的B細胞エピトープのサブセットである。
本発明は、IL-7の免疫原性の低下に関連する方法を提供する。本発明の一つの実施態様によれば、潜在的非自己T細胞エピトープは、IL-7の配列の中に特定される。例えば、潜在的非自己T細胞エピトープは、MHCクラスII分子に結合するペプチドのモデル化に基づくコンピューター方法によって特定される。次に、潜在的T細胞エピトープを含むペプチドの、MHCクラスIIに対する結合能力が低下する、または除去されるように置換を行う。この、MHCクラスIIに結合するペプチドを特定して可変する過程は「脱免疫」と呼ばれ、その結果得られる改変タンパク質分子は「脱免疫」されたと言う。
本発明によれば、MHCクラスII結合は、タンパク質が、哺乳類のグリコシル化パターンを生成しない細菌または生物体、例えば、酵母または昆虫細胞において生産される状況下で除去することが可能である。
本発明は、精密なコンピューターシミュレーション、またはタンパク質の三次元構造を要することなく、IL-7におけるT細胞エピトープの数を低減または除去するための、非計算的方法を提供する。一つの実施態様では、本発明の方法は、抗原提示の際、9つのアミノ酸から成るコアセグメントが、MHCクラスII分子、およびT細胞受容体の両方と相互作用するという事実を利用する。もっともN-末端側のアミノ酸、「アンカー」位置は、MHCクラスII分子内部の深層ポケットに結合する。通常、下記のアミノ酸の内の一つが、MHCクラスII分子に対する結合にとって重要なアンカー位置に存在する。そのアミノ酸とは、すなわち、ロイシン、バリン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファンである。本発明によれば、コアの9つのアミノ酸に加えてさらに2つから3つのアミノ酸も、MHC分子との相互作用に影響を及ぼす。
本発明の一般的方法は、IL-7の中に見られる、任意のロイシン、バリン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、またはトリプトファンを変異させることを含む。一つの実施態様では、T細胞エピトープ候補における上記アミノ酸の内の一つ以上を、トレオニン、アラニン、またはプロリンに変異させ、置換されるアミノ酸の、若干の疎水性を保持することである。本発明のさらに別の実施態様では、上記アミノ酸の内の一つ以上は、T細胞エピトープ候補、または潜在的T細胞エピトープから欠失されるか、または、適当なアミノ酸類縁体によって置換される。本発明によれば、潜在的T細胞エピトープを破壊するためにアミノ酸を欠失させる場合、欠失部近くのアミノ酸を含む新規T細胞エピトープを生成することがないように注意しなければならない。
したがって、本発明は、免疫原性の低いIL-7タンパク質を構築するのに有用な核酸配列およびタンパク質を提供する。具体的には、本発明は、ロイシン、バリン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、チロシン、またはトリプトファンの変異を有するタンパク質を提供する。脂肪族または芳香族残基(ロイシン、バリン、イソロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、トリプトファン、またはチロシン)は、いずれも、第1位置(アンカー位置)にMHC分子のポケットに結合するアミノ酸を有するMHC結合ペプチドを形成する危険性が高い。従って、上記アミノ酸の内の任意のものを、上記アミノ酸の内の一つではないアミノ酸、またはアラニン、プロリン、またはトレオニンによって置換することは、T細胞エピトープ候補を除去することになるであろう。
タンパク質は、一般的に人体に認められる配列に一致する配列を有するヒトタンパク質であってよい。本発明はまた、そのようなタンパク質をコードする核酸配列を提供する。本発明のこの局面における核酸配列は、プラスミド、PCR生成断片、または、化学的合成によって生成される核酸として存在する。
本明細書で用いる「インターロイキン-7」または「IL-7」という用語は、成熟哺乳類の野生型IL-7に対し実質的なアミノ酸配列相同性を有する、IL-7ポリペプチド、およびその誘導体および類縁体を意味する。例えば、IL-7は、下記のアミノ酸配列を有する、組み換えまたは非組み換えポリペプチドのアミノ酸配列を指す。すなわち、i)IL-7ポリペプチドの、未改変または天然の、アレル変種、ii)生物学的活性を有する、IL-7ポリペプチドの断片、iii)生物学的活性を有する、IL-7ポリペプチド類縁体、またはiv)生物学的活性を有するIL-7ポリペプチド変種である。
本発明に従って改変されるIL-7ポリペプチドは、任意の動物種から、例えば、ヒト、ウシ、またはヒツジから得ることが可能である。IL-7核酸およびアミノ酸配列は従来技術でよく知られている。例えば、ヒトIL-7アミノ酸配列は、Genbankのアクセス番号NM00080(配列番号1)を持ち、図1に示される。マウスIL-7アミノ酸配列は、Genbankのアクセス番号NM008371を持ち、ラットIL-7アミノ酸は、Genbankのアクセス番号AF 367210を持ち、ウシIL-7アミノ酸配列は、Genbankのアクセス番号NM 173924(配列番号2)を持ち、かつ、ヒツジIL-7アミノ酸配列は、Genbankアクセス番号U10089(配列番号3)を持ち、図3に示される。各ポリペプチド分子のシグナル配列は、それぞれの図において太字で示されるが、IL-7部分が担体タンパク質のC末端に融合する場合は通常このシグナル配列含まれない。
さらに、図35に、様々な哺乳類IL-7配列のアラインメントが示される。非ヒト霊長類のIL-7は、一般にヒトのIL-7に対して90%を超える相同性を有する。ネズミIL-7配列がヒトIL-7配列に対し、相同性70%未満ともっとも隔てられるが、にも拘わらず、ネズミIL-7は、ヒトのIL-受容体を活性化することが可能である。従って、ある一定範囲の動物種から得られるIL-7部分は、本発明の教示に従って特に有用である。
IL-7タンパク質の「変種」は、野生型IL-7と比べて、1つ以上のアミノ酸が変更される、IL-7アミノ酸配列と定義される。前記変種は、「保存的」変化を有してもよい。この場合、置換されたアミノ酸は、類似の構造または化学的性質を有する(例えば、ロイシンのイソロイシンによる置換)。さらに稀なことではあるが、変種は、「非保存的」変化、例えば、グリシンのトリプトファンによる置換を有することも可能である。同様の微小変動はまた、アミノ酸の欠失または挿入、またはその両方を含むことも可能である。
変種IL-7タンパク質はまた、野生型IL-7と、少なくとも約70%, 75%, 80%, 81%, 82%, 83%, 84%, 85%, 86%, 87%, 88%, 89%, 90%, 91%, 92%, 93%, 94%, 95%, 96%, 97%, 98%, 99%、またはそれ以上の配列相同性を持つポリペプチドを含む。二つのアミノ酸配列、または二つの核酸の相同性パーセントを決定するには、それらの配列を、最適相同目的のために整列させる(例えば、第の1アミノ酸または核酸配列の中に、第2のアミノ酸または核酸配列との最適なアラインメントが得られるようにギャップが導入される)。二つの配列の間の相同性パーセントは、それらの配列によって共有される同一である位置の数の関数である(すなわち、相同性% = (同一である位置の数/合計位置の数)掛ける100)。二つの配列間の相同性パーセントの決定は、数学的アルゴリスムを用いて行うことができる。二つの配列の比較のために利用される数学的アルゴリスムの非限定的例は、Karlin and Altschul, (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:2264-68の、Karlin and Altschul, (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:5873-77による修正版である。このようなアルゴリスムは、Altschul et al., (1990) J. Mol. Biol., 215:403-10のNBLASTおよびXBLASTプログラムに取り込まれている。BLASTヌクレオチド探索は、NBLASTプログラム、スコア = 100, ワード長 = 12で実行することが可能である。比較目的のためにギャップ挿入アラインメントを得るには、Gapped BLASTを、Altschul et al., (1997) Nucleic Acids Research, 25(17):3389-3402に記載されるように利用してもよい。BLASTおよびGapped BLASTプログラムを利用する場合、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを用いることが可能である。
さらに、本発明はまた、IL-7融合タンパク質であって、IL-7部分が欠失を含むが、対応する未改変のIL-7融合タンパク質と比べて、類似の活性を保持するIL-7融合タンパク質を含む。例えば、本発明は、Ig-IL-7の形態、あるいは、IL-7部分がヒトの野生型IL-7(配列番号1を参照)の配列VKGRKPAALGEAQPTKSL(配列番号25)に対応する18のアミノ酸の内部欠失を含むIL-7を提供する。さらに、本発明は、Lys150が欠失したIL-7の活性形態を提供する。IL-7の活性形をそのまま残しながら、Lys150と共に、Glu151およびHis152を欠失させることも可能である。
本出願を通じ、IL-7配列におけるアミノ酸残基の位置は、ヒトの成熟IL-7タンパク質に基づいて示される。例えば、細菌的に生産されるヒトのIL-7タンパク質のN-末端配列MDCDIEGK...(配列番号22)は、開始のメチオニンを含むが、該配列中のシステインもやはりCys2と呼ばれる。
IL-7タンパク質を改変する
本発明の一つの局面は、細菌発現によって生産されるIL-7は、真核細胞、例えば、哺乳類に特徴的な翻訳後修飾を含まないという所見から得られる。例えば、IL-7は、位置70、91、および116において、3箇所の予測されるN-結合グリコシル化部位を含む。哺乳類細胞において発現されるFc-IL-7融合タンパク質では、位置70および91のアスパラギンがグリコシル化され、一方、116位値のアスパラギンはグリコシル化されない。人体で内因的に生産されるIL-7も、少なくとも位置70および91においては、恐らく位置116でもでグリコシル化されるらしい。これらのN-結合グリコシル化は、細菌で生産したIL-7には存在せず、ヒトの免疫系によって「非自己」、すなわち、正常では人体に存在しないと認識される可能性のある配列を表す。従って、本発明は、IL-7および関連タンパク質の免疫原性を下げるために、IL-7上の、これらの潜在的エピトープ領域を脱免疫することを含む。
本発明によれば、T細胞エピトープは、表1に記載されるように、位置70および91を含むIL-7中に存在する。表1に示されるエピトープは、第1位置に強力なMHCクラスIIアンカー残基を持つ、最小9merのペプチドとして定義される。
表1
Figure 0004937132
本発明によれば、細菌に生産されたIL-7の免疫原性を下げるための一つの方法は、下記の変異の内の1つ以上を導入することである。すなわち、Leu63Ala, Leu63Val, Leu63Pro, Leu63Thr, Lys68Asp, Met69Asp, Lys68Glu, Met69Glu, Ile88Thr, Ile88Ala, Ile88Val、およびVal96Glyである。他の変異を位置63、68、69、88、および/または94に導入してもよい。いくつかの変異は、組み合わせることが特に有用であり、例えば、Lys68AspとMet69Aspとの組み合わせ、および/または、Ile88ThrとVal96Glyとの組み合わせは有用である。
これらの変異をIL-7またはIL-7を含む融合タンパク質に導入した場合、得られる変異タンパク質は、一般に治療的タンパク質として有用であるのに十分なIL-7生物学的活性を有する。事実、IL-7部分の生物学的活性は、野生型IL-7に比べて少なくとも10%, 20%, 50%, 70%, 80%, 90%, 95%, 99%、または100%である。本発明のIL-7の活性は、in vitroまたはin vivo活性において試験することが可能である。実施例9は、本発明のIL-7変種の生物学的活性を試験するアッセイを示す。
さらに、上記変異は、一般に、IL-7部分の適正なフォールディングを可能とするので、高分子量凝集体および不適正にジスルフィド結合された形態をほとんど含まない純粋なタンパク質を単離することができる。しかしながら、任意の特定の組み合わせから得られるフォールディングおよび生物学的活性については、所望の活性が得られているかどうかを確認するために、例えば、実施例に示されるように試験をすべきである。
本発明によれば、細菌で生産されたIL-7の免疫原性を低下するための別戦略は、Asn70およびAsn91をアスパラギン酸に変更することである。理論に縛られることを望むものではないが、Asn70およびAsn91のアスパラギン酸への変異は、下記の理由で有用である可能性がある。
外来的に投与される治療タンパク質の免疫原性は、一部は、該治療タンパク質から得られるT細胞エピトープの提示によって媒介される。このような提示は、下記の機構を通じて行われると考えられている。治療タンパク質は、抗原提示細胞(APC)、例えば、樹状細胞、マクロファージ、またはB細胞によってエンドサイトーシスを通じて摂取される。このタンパク質は、エンドソームと呼ばれる一連の小胞、例えば、初期、中期、および後期を含むエンドソームに輸送される。これらの小胞中では、中性pHでは安定に折り畳まれているであろう細胞外、ジスルフィド結合タンパク質にとって環境は次第に厳しく不利になる。カテプシンと呼ばれるタンパク質分解酵素が、内部に取り込まれたタンパク質を小さなペプチドに分解する。次に、ある一定割合のこれらのタンパク質断片は、MHCクラスIIタンパク質によって結合され、MHCクラスIIタンパク質はこの断片をMHCクラスII/ペプチド複合体として細胞表面に輸送する。このような複合体はCD4+ T細胞上のT細胞受容体によって認識される。
外来タンパク質由来のペプチドの場合、MHCクラスII/ペプチド複合体の提示は、免疫応答を刺激する。一方、自己タンパク質由来のペプチドの場合、MHCクラスII/ペプチド複合体を認識するT細胞を除去する、またはそれらのT細胞が免疫応答を活性化するのを阻止する、複数の機構が生ずる。
上述の二つの段落を背景として、N-グリコシル化タンパク質がエンドソームにおいてどのように処理されるかを考察することが重要である。このようなタンパク質は分解されて、MHCクラスII分子に対して結合する可能性のあるペプチドを含む、N-結合オリゴサッカリドになる。本発明の示唆によれば、エンドソームはまた、エンドグリコシダーゼを含み、これが時にアスパラギンからオリゴサッカリドを取り去り、その過程においてアスパラギンをアスパラギン酸に変える。従って、アスパラギン結合オリゴサッカリドを含む自己タンパク質配列は、オリゴサッカリドに結合したアスパラギンを含むペプチドとして、あるいは、アスパラギンではなくアスパラギン酸を含む対応ペプチドとしてMHCクラスIIによって提示される可能性がある。
本発明の一部として、細菌において発現される哺乳類タンパク質の免疫原性を低下させるためのこの戦略は、一般的にも適用可能であることが認識される。具体的には、N-結合グリコシル化部位においてアスパラギン酸をアスパラギンに置換することは、原核細胞において発現される哺乳類タンパク質の免疫原性を低下させる作用を持つ。
本発明は、細菌または哺乳類細胞において発現された場合にIL-7およびIL-7含有融合タンパク質の免疫原性を下げるさらなる変異を含む。これらの変異は下記の表2に掲げられたものを含む。IL-7またはIL-7含有融合タンパク質は、1種以上のこれらの変異を含んでもよい。例えば、一つの実施態様では、IL-7は、L24D, M54A, F57K, A60S, R61E, M147K、およびT149Sの内の1つ以上を含み、かつ、K150、E151、およびH152を欠失させるように改変される。別の実施態様では、IL-7は、D76N, L77D, T87Q, I88T, V96G, L119S, M147K、およびT149Sの内の1つ以上を含み、かつ、K150、E151、およびH152を欠失させるように改変される。さらに別の実施態様では、IL-7は、L24D, I30T, F39P, M54A, F57K, A60S, R61E, M68D, N69D, L77D, T87Q, I88T, V96G, L119S, L128A, M147K、およびT149Sの内の1つ以上を含み、かつ、K150、E151、およびH152を欠失させるように改変される。
別の実施態様では、IL-7またはIL-7含有融合タンパク質は、IL-7の残基39、57、77、および/または128の内の1つ以上に対する変異を含んでもよい。例えば、一つの実施態様のIL-7は、残基39において変異を含む。別の実施態様では、IL-7は、残基57において変異を含む。さらに別の実施態様では、IL-7は残基39および57の両方において変異を含む。さらに別の実施態様では、IL-7は残基39、57、および128において変異を含むが、一方別の実施態様では、IL-7は残基39、57、および77において変異を含む。さらに別の実施態様では、IL-7は残基39、57、77、および128において変異を含む。さらに別の実施態様では、位置39におけるフェニルアラニン残基はプロリン残基によって置換される(F39P)。別の実施態様では、57におけるフェニルアラニン残基はアスパラギン残基によって置換される(F57N)。別の実施態様では、位置77におけるロイシン残基は、アスパラギン酸によって置換される(L77D)。さらに別の実施態様では、位置128におけるロイシン残基はセリンによって置換される(L128S)。
表2
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本発明のタンパク質の免疫原性低下の確認
本発明の変異が実際に免疫原性の低下をもたらすことをチェックするためには、従来技術でよく知られる標準的実験テストを用いてもよい。例えば、T細胞刺激アッセイを用いてもよい(例えば、Jones et al., (2004), J. Interferon Cytokine Res., 24:560)。このアッセイでは、ヒトの末梢血単核球(PBMC)を入手し、標準条件に従って培養する。最適な予備刺激の後、潜在的MHCクラスIIエピトープに対応するペプチドを、PBMCの培養液に加える。このPBMCをさらに培養し、その後にトリチウム標識チミジンを加える。このペプチドは最小9merであってもよく、あるいは、約10から15以上のアミノ酸を有することもある。細胞をさらにインキュベーションした後、DNAに対するトリチウム標識チミジンの取込みを標準技術によって測定する。
このT細胞刺激アッセイは下記の機構によって作動すると考えられる。先ず、ペプチドが刺激因子として使用される場合、このペプチドは先ず、PBMC中のある細胞上に存在するMHCクラスII分子に結合しなければならない。第二に、このMHCクラスII/ペプチド複合体は、CD4+ T細胞上のT細胞受容体と増殖的に相互作用を持たなければならない。試験ペプチドが、MHCクラスII分子と十分緊密に結合できない場合、シグナルは生じないであろう。該ペプチドがMHCクラスII分子に結合することができ、特定のMHCクラスII/ペプチド複合体を認識することが可能な適切に再編成されたT細胞受容体を発現するT細胞がある場合、シグナルが生じる筈である。しかしながら、このようなT細胞が、ネガティブ選択過程の結果除去されてしまった場合、シグナルは生じない。任意のペプチドによる刺激、または刺激の欠如から推測されるところでは、上記の機構がタンパク質の免疫原性に関わると考えられる。
適切なT細胞受容体の発生が起こらない、または、他の無関係なT細胞の増殖に続いてT細胞集団のホメオスターシスが起こるという確率的な理由によってPBMC集団において認識T細胞がごく少数しか存在しない場合、シグナルが期待されるにも拘わらずシグナルの発生がないことがある。従って、偽陰性結果が生ずる可能性がある。これらの考察に基づいて、多数の、またはPBMCの種々の供給源を用い、これらのサンプルについて独立に試験することが重要である。さらに、民族的に多様な組のヒトから得られたPBMCについて試験し、各PBMC集団に存在するMHCクラスIIアレルを決定することも一般的に有用である。
標準的T細胞アッセイは、トリチウム取込みシグナルが、バックグラウンド取り込みの僅か2倍しかないことがよくあるという欠点を持つ。本発明のタンパク質およびペプチドはまた、改変T細胞アッセイ法によって試験してもよい。このアッセイ法では、例えば、精製CD4+ T細胞および精製樹状細胞を、試験ペプチドの存在下に共培養し、続いてトリチウム標識チミジンに暴露し、次にトリチウム標識チミジンの取込みをアッセイする。この第2のアッセイは、無関係な細胞、例えば、CD8+ T細胞に対するトリチウム標識チミジンの取込みが事実上排除されるので、バックグラウンドが抑えられるという利点を持つ。
第3アッセイは、免疫原性の低下した候補タンパク質を、動物、例えば霊長動物において試験することを含む。このようなアッセイは一般に、IL-7タンパク質全体、または、IL-7含有融合タンパク質の試験を含む。この場合、前述のような細胞性アッセイにおいて、個々の成分ペプチドの免疫原性を試験することによってIL-7部分をあらかじめ設計しておく。一旦このような候補IL-7含有タンパク質が設計され発現されたならば、そのタンパク質を動物に注射して免疫原性を試験する。
改変されたIL-7含有タンパク質の注入は一般に、ヒトにおいて治療的使用の際に予想される輸送ルートと同様にして実行される。例えば、皮内、皮下、筋肉内、腹腔内注射、または静脈内注射を使用してもよい。1回以上の投与を用いる場合、その投与は異なるルートによって行われてもよい。
免疫原性試験目的のためには、シグナルを増大させ、使用に必要な動物の数を抑えるために、アジュバントを同時投与するのが有用な場合がある。アジュバントを使用する場合には、タンパク質成分を欠如するアジュバント、例えば、非メチル化CpGジヌクレオチドを含む非コードDNA、細菌脂質A、N-フォルミルメチオニン、または、その他の、細菌性非タンパク質成分を用いることが可能である。理論に縛られることを望むものではないが、タンパク質含有性アジュバントを避ける理由は、他のタンパク質がT細胞エピトープを提供し、これが、最終的に候補タンパク質に対する抗体応答を招く可能性があるからである。
タンパク質含有IL-7候補の1回以上の投与の後、抗IL-7抗体の存在を、標準技術、例えば、ELISA法によってチェックする。本発明の分子を含む変異IL-7は、正常なヒトのIL-7を含む対応分子よりも抗体形成の頻度が低く、その程度も小さいことが判明した。
本発明のタンパク質の多くは、IL-7の表面残基を変更する。本発明のタンパク質は、正常なヒトのIL-7を含む対応タンパク質よりも抗原性は低いが、それでもなお抗体形成を惹起する可能性があることが考えられる。本発明のタンパク質のB細胞エピトープは一般に、未改変IL-7のエピトープとは異なるので、本発明のタンパク質に対する抗体は一般に、内因性IL-7とは交差反応せず、かつ、本発明のタンパク質に対する抗体の形成は、患者の健康に対して長期の病態をもたらすことはない。
Fc-IL-7融合タンパク質
本発明の重要な局面は、本発明によって改変されたIL-7は、担体タンパク質に融合させて融合タンパク質を形成することが可能であることである。一つの実施態様では、担体タンパク質は、融合タンパク質のN-末端側に配され、IL-7は、C-末端側に配される。別の実施態様では、IL-7は、融合タンパク質のN-末端側に配され、担体タンパク質は、C-末端側に配される。
担体タンパク質は、IL-7タンパク質に共有的に結合されるどのようなポリペプチドであってもよい。一つの実施態様では、担体タンパク質は、アルブミン、例えば、ヒトの血清アルブミンである。アルブミン部分は、IL-7部分のC-末端またはN-末端に融合してもよい。別の実施態様では、担体タンパク質は、免疫グロブリン部分、例えば、Ig重鎖である。Ig鎖は、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgMから得られるものであってもよい。本発明によれば、Ig部分は、天然の抗体であり、IL-7融合タンパク質を生体中の特異的標的部位に向けてもよい。抗体ターゲッティングを利用する融合タンパク質は当業者には既知である。
一つの実施態様では、Ig部分はFc領域を含む。本明細書で用いる「Fc部分」とは、免疫グロブリン、例えば、ヒトの免疫グロブリンの定常領域(その断片を含む)、定常領域の類縁体、変異体、変異、または誘導体を含む定常領域由来のドメインを含む。好適な免疫グロブリンとしては、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、およびその他のクラスが挙げられる。免疫グロブリンの定常領域は、免疫グロブリンのC-末端領域と相同の、天然、または合成的に生産されたポリペプチドと定義され、ヒンジ、CH2ドメイン、CH3ドメイン、またはCH4ドメインをそれぞれ別々に、または、任意の組み合わせで含んでもよい。本発明において、Fc部分は、通常、少なくともCH2ドメインを含む。例えば、Fc部分は、ヒンジ-CH2-CH3を含んでもよい。それとは別に、Fc部分は、ヒンジ領域、CH2ドメイン、および/またはCH3ドメインの全て、または一部を含んでもよい。Fc-IL-7融合タンパク質の製造法は、米国特許仮出願第60/533,406号に開示される。
免疫グロブリンの定常領域は、Fc受容体(FcR)結合および補体結合を含む、多くの重要な抗体機能に与る。重鎖定常領域には、IgA、IgG、IgD、IgE、およびIgMに分類される、大きく五つのクラスがある。例えば、IgGは、四つのサブクラスγ1、γ2、γ3、およびγ4に分類され、これらはまた、それぞれ、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4としても知られる。
IgG分子は、IgGクラスの抗体に対して特異的な、3クラスのFcγ受容体(FcγR)、すなわち、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIを含む、複数のクラスの細胞受容体と相互作用する。IgGのFcγR受容体に対する結合における重要な配列は、CH2およびCH3ドメインにあることが報告されている。抗体の血清半減期は、その抗体が、Fc受容体(FcR)に結合する能力に影響される。同様に、免疫グロブリン融合タンパク質の血清半減期も、受容体に対する結合能力によって影響される(Gillies et al., (1999) Cancer Res. 59:2159-66)。IgG1のものと比べて、IgG2およびIgG4のCH2およびCH3ドメインのFc受容体に対する結合は生化学的に検出不能であるか、またはその結合親和度が低下している。IgG2またはIgG4のCH2およびCH3ドメインを含む免疫グロブリン融合タンパク質は、IgG1のCH2およびCH3ドメインを含む対応融合タンパク質に比べより長い血清半減期を持つことが報告されている(米国特許第5,541,087号;Lo et al., (1998) Protein Engineering, 11:495-500)。従って、本発明のいくつかの実施態様では、CH2およびCH3ドメインは、受容体結合親和度およびエフェクター機能の低い抗体アイソタイプ、例えば、IgG2またはIgG4から得られる。
ヒンジ領域は、通常、重鎖定常領域のCH1ドメインに対しC-末端側に位置する。前記IgGアイソタイプでは、典型的には、ジスルフィド結合がこのヒンジ領域に見られ、最終的にテトラマー分子の形成を可能とする。この領域は主にプロリン、セリン、およびトレオニンが支配的である。本発明に含まれる場合、ヒンジ領域は、通常、二つのFc部分を結合するジスルフィド結合を形成するシステイン残基を含む天然免疫グロブリン領域に対し少なくとも相同である。ヒトおよびマウス免疫グロブリンのヒンジ領域の代表的配列は従来技術で既知であり、Borrebaeck, C.A.K., ed., (1992) Antibody Engineering, A Practical Guide, W.H. Freeman and Co.において見出すことができる。本発明において好適なヒンジ領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、およびその他の免疫グロブリンクラスから得られる。
IgG1ヒンジ領域は、3つのシステインを有するが、この内の2つが、免疫グロブリンの2本の重鎖間のジスルフィド結合に与る。これらの同じシステインは、Fc部分におけるジスルフィド結合の効率的で、一貫した形成を可能とする。従って、一つの実施態様における本発明のヒンジ領域は、IgG1、例えばヒトのIgG1から得られる。IgG1ヒンジが用いられる場合、最初のシステインは、他のアミノ酸、例えば、セリンに変異させることも可能である。
IgG2アイソタイプのヒンジ領域は、4つのジスルフィド結合を有するが、これは、組み換えシステムにおける分泌の際、オリゴマー化、および不正と考えられるジスルフィド結合を促進する傾向がある。好適なヒンジ領域は、IgG2ヒンジから得られる。一つの実施態様では、IgG2ヒンジの最初の2つのシステインが他のアミノ酸に変異される。
IgG4のヒンジ領域では、鎖間のジスルフィド結合形成が非効率的であることが知られる。しかしながら、本発明にとって好適なヒンジ領域は、IgG4ヒンジ領域からも得、かつ、重鎖由来部分間の適正なジスルフィド結合を強化する変異を含ませることが可能である(Angal et al., (1993) Mol. Immunol., 30:105-8)。
本発明によれば、Fc部分は、異なる抗体アイソタイプから得られたCH2および/またはCH3および/またはCH4ドメインおよびヒンジ領域を含んでもよい。すなわち、ハイブリッドFc部分である。例えば、一つの実施態様では、Fc部分は、IgG2またはIgG4由来のCH2および/またはCH3ドメイン、および、IgG1由来の変異ヒンジ領域を含む。別態様では、別のIgGサブクラス由来の変異ヒンジ領域が、ハイブリッドFc部分に用いられる。例えば、2本の重鎖間の効率的なジスルフィド結合を可能とする、IgG4ヒンジの変異形を用いることも可能である。変異ヒンジは、IgG2ヒンジから得ることも可能である。この場合、最初の2つのシステインはそれぞれ別のアミノ酸に変異される。このようなハイブリッドFc部分は、Fc-IL-7融合タンパク質の高レベルの発現を促進し、かつその適正なアッセンブルを強化する。このようなハイブリッドFc部分のアッセンブルは従来技術で既知であり、米国特許出願第2003-0044423号に記載されている。
ある実施態様では、Fc部分は、一般に、Fc融合タンパク質の血清半減期を延長するアミノ酸改変を含む。そのようなアミノ酸改変としては、Fc受容体結合または補体固定活性を実質的に下げる、または除去する変異が挙げられる。例えば、免疫グロブリン重鎖のFc部分におけるグリコシル化部位を取り除いてもよい。IgG1では、グリコシル化部位は、アミノ酸配列Gln-Tyr-Asn-Ser(配列番号26)内のAsn297である。他の免疫グロブリンアイソタイプでも、グリコシル化部位は、IgG1のAsn297に一致する。例えば、IgG2およびIgG4では、グリコシル化部位は、アミノ酸配列Gln-Phe-Asn-Ser(配列番号28)内のアスパラギンである。従って、IgG1のAsn297の変異は、IgG1由来Fc部分のグリコシル化部位を除去する。一つの実施態様では、Asn297はGlnによって置換される。別の実施態様では、アスパラギン変異によって生じる可能性のある非自己T細胞エピトープを除去するために、アミノ酸配列Gln-Tyr-Asn-Ser(配列番号26)内のチロシンがさらに変異させられる。例えば、IgG1重鎖内のアミノ酸配列Gln-Tyr-Asn-Ser(配列番号26)を、Gln-Ala-Gln-Ser(配列番号27)アミノ酸配列で置換することも可能である。
同様に、IgG2またはIgG4では、アミノ酸配列Gln-Phe-Asn-Ser(配列番号28)内のアスパラギンの変異が、IgG2またはIgG4重鎖由来のFc部分のグリコシル化部位を除去する。一つの実施態様では、アスパラギンはグルタミンによって置換される。別の実施態様では、アスパラギン変異によって生じる可能性のある非自己T細胞エピトープを除去するために、アミノ酸配列Gln-Phe-Asn-Ser(配列番号28)内のフェニルアラニンがさらに変異される。例えば、IgG2またはIgG4重鎖内のアミノ酸配列Gln-Phe-Asn-Ser(配列番号28)は、Gln-Ala-Gln-Ser(配列番号27)アミノ酸配列によって置換されてもよい。Fc受容体結合を下げるのに有効なその他の変異は米国特許出願第09/256,156号に開示される。
さらにまた、Fc部分および非Fc部分との接合部近傍のアミノ酸の変異が、Fc融合タンパク質の血清半減期を目覚しく延長することが可能であることが観察されている(米国特許出願公報第2002-0147311号)。従って、本発明のFc-IL-7またはIL-7-Fc融合タンパク質の接合領域は、免疫グロブリン重鎖の天然配列とIL-7に対し、その接合点の約10アミノ酸以内に存在する変異を含んでもよい。これらのアミノ酸変化は、例えば、Fc部分のC-末端リジンを、疎水性アミノ酸、例えば、アラニンまたはロイシンに変えることによって、疎水性の増大を招くようにしてもよい。(例えば、配列番号34を参照されたい)。本発明のさらに別の実施態様では、Fc部分のC-末端リジンおよびそれに先行するグリシンは除去される。(例えば、配列番号35を参照されたい)。
別の実施態様では、Fc部分は、免疫グロブリン重鎖のFc部分のC-末端近くにLeu-Ser-Leu-Serセグメントのアミノ酸変異を含む。Leu-Ser-Leu-Ser(配列番号29)セグメントのアミノ酸置換は、潜在的接合部T細胞エピトープを除去する。一つの実施態様では、Fc部分のC-末端近傍のLeu-Ser-Leu-Ser(配列番号29)が、Ala-Thr-Ala-Thr(配列番号30)アミノ酸配列によって置換される。別の実施態様では、Leu-Ser-Leu-Ser(配列番号29)セグメント内のアミノ酸が、他のアミノ酸、例えば、グリシンまたはプロリンによって置換される。IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、またはその他のクラスの免疫グロブリン分子のC-末端近傍におけるLeu-Ser-Leu-Ser(配列番号29)セグメントのアミノ酸置換を生成する方法の詳細、および、接合部T-細胞エピトープを変異するための他の例示の改変が、米国特許出願公報第2003-0166877号に記載されている。
一つの実施態様では、担体タンパク質とIL-7タンパク質の間にスペーサまたはリンカーペプチドが挿入される。このスペーサまたはリンカーペプチドは、非荷電または非極性または疎水性であってもよい。スペーサまたはリンカーペプチドの長さは、1から約100アミノ酸、または1から約50アミノ酸、または1から約25アミノ酸、または1から約15アミノ酸長である。一つの実施態様では、スペーサは、nが10未満である配列(G4S)nを含む。別の実施態様では、リンカー配列は、GGGGSGGGG(配列番号67)である。さらに別の実施態様では、スペーサは、N-結合グリコシル化部位と認識されるモチーフを含む。本発明の別の実施態様では、担体タンパク質およびIL-7融合タンパク質は、スペーサまたはリンカーペプチドを介して連結される。本発明の別の実施態様では、担体タンパク質とIL-7融合タンパク質は、合成スペーサ、例えば、PNAスペーサによって隔てられる。このスペーサは、非荷電または非極性または疎水性であってもよい。
IL-7融合タンパク質の生産
本発明の教示に従って改変されるIL-7を含む融合タンパク質は、本明細書に記載される非限定的方法によって合成される。本発明に従って改変されたIL-7を含む融合タンパク質の薬物速度論活性をin vivo動物モデルにおいて試験するのに有用なアッセイも本明細書に記載される。
本発明のIL-7融合タンパク質は、従来技術で既知の組み換え発現ベクターを用いることによって生産される。「発現ベクター」という用語は、所望のIL-7融合タンパク質をコードするDNAを発現するために使用されるDNA構築物であって、(1)遺伝子発現において調整的役割を持つ遺伝子要素(単数または複数)、例えば、所望のIL-7融合タンパク質をコードする(2)DNA配列であって、mRNAに転写され、タンパク質に翻訳されるDNA配列に動作的に結合する、プロモーター、オペレータ、またはエンハンサー、および、(3)適当な転写および翻訳開始および終止配列から成る集合体を含む転写単位を含む複製可能なDNA構築物を指す。プロモーターおよびその他の調整要素の選択は、一般に、意図する宿主細胞に従って変動する。
IL-7融合タンパク質をコードする核酸を、組み換えDNA技術を用いて宿主細胞にトランスフェクトする。本発明の背景においては、外来DNAは、本発明のタンパク質をコードする配列を含む。好適な宿主細胞としては、原核細胞、酵母、またはより高等な真核細胞が挙げられる。一つの実施態様では、宿主は前核生物である。
組み換えIL-7融合タンパク質は、酵母宿主、例えば、Saccharomyces種由来のもの、例えば、S. cerevisiaeにおいて発現されてもよい。他の属の酵母、例えば、PichiaまたはKluyveromycesも使用が可能である。酵母ベクターは一般に、酵母プラスミド由来の複製起点または自律複製配列(ARS)、プロモーター、IL-7融合タンパク質をコードするDNA、ポリアデニル化および転写終結および選択遺伝子のための配列を含む。酵母ベクターにおける好適なプロモーター配列としては、メタロチオネイン、3-ホスホリセリン酸キナーゼ、または他の糖分解酵素、例えば、エノラーゼ、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、グリコース-4-リン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸ムターゼ、ピルビン酸キナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、およびグルコキナーゼのプロモーターが挙げられる。
組み換えタンパク質を発現するために、各種哺乳類または昆虫細胞培養システムの使用が可能である。昆虫細胞におけるタンパク質生産用のバキュロウィルスシステムは従来技術でよく知られる。好適な哺乳類宿主細胞の例としては、NS/0細胞、L細胞、C127、3T3、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)、HeLa、およびBHK細胞系統が挙げられる。さらにそれ以外の好適な哺乳類宿主細胞としては、いずれもサルの腎臓から得られたCV-1細胞(ATCC CCL70)およびCOS-7細胞が挙げられる。さらに別の好適なサルの腎臓細胞系統CV-1/EBNAは、エプスタインバーウィルスの核抗原-1(EBNA-1)をコードする遺伝子、およびCMV調整配列を含むベクターでCV-1細胞系統をトランスフェクトすることによって得られた(McMahan et al., (1991), EMBO J., 10:2821)。EBNA-1遺伝子は、EBV複製起点を含む発現ベクター、例えば、HAV-EOまたはpDC406のエピソーム複製を可能とする。
哺乳類発現ベクターは、発現される遺伝子と結合する、非転写要素、例えば、複製起点、適当なプロモーターおよびエンハンサー、およびその他の5'または3'側に隣接する非転写配列、および、5'または3'非翻訳配列、例えば、必要なリボソーム結合配列、ポリアデニル化部位、スプライスドナーおよびアクセプター部位、および転写終結配列を含んでもよい。一般に使用されるプロモーターおよびエンハンサーは、ポリオーマ、アデノウィルス2、シミアンウィルス40(SV40)、およびヒトのサイトメガロウィルスから得られる。SV40ウィルスゲノムから得られたDNA配列、例えば、SV40起点、初期および後期プロモーター、エンハンサー、スプライス、およびポリアデニル化部位を用いて、異種DNA配列の発現に必要な他の遺伝要素を提供するようにしてもよい。
宿主細胞からのIL-7融合タンパク質の分泌が望まれる場合は、発現ベクターは、シグナルまたはリーダーペプチドをコードするDNAを含んでもよい。本発明では、IL-7の天然のシグナル配列を使用することも可能であるし、あるいはそれとは別に、異種シグナル配列、例えば、インターロイキン-4のシグナル配列を加えてもよい。
本発明はまた、本発明の組み換えタンパク質を調製する方法であって、IL-7融合タンパク質をコードするDNA配列を含む発現ベクターによって形質変換された宿主細胞を、発現を促進する条件下で培養することを含む方法を提供する。次に、この所望のタンパク質を、培養液または細胞抽出物から精製する。例えば、組み換えタンパク質を培養液中に分泌する発現システムの上清が、先ず、市販のタンパク濃縮フィルター、例えば、AmiconまたはMillipore Pellicon限界ろ過ユニットを用いて濃縮される。この濃縮工程の後、濃縮物は、従来技術で知られるように、適当な精製基質に印加される。
「単離された」または「精製された」IL-7融合タンパク質またはその生物学的活性部分は、細胞物質またはその他の前記IL-7融合タンパク質が由来する細胞または組織源からの細胞性材料または夾雑タンパク質を実質的に含まない、あるいは、化学的に合成される場合には、化学的前駆物質または他の化学物質を実質的に含まない。「細胞性材料を実質的に含まない」という言葉は、IL-7融合タンパク質の調製物であって、該タンパク質が、それが単離または組み換え的に生産される細胞の細胞成分から分離されている調製物を含む。一つの実施態様では、「実質的に細胞性材料を含まない」という言葉は、IL-7融合タンパク質の調製物であって、非IL-7融合タンパク質(本明細書では「夾雑タンパク質」とも呼ばれる)が約30%未満(乾燥質量で)、非IL-7融合タンパク質が約20%未満、または、非IL-7融合タンパク質が約10%未満、または、非IL-7融合タンパク質が約5%未満であるIL-7融合タンパク質の調製物を含む。IL-7融合タンパク質、またはその生物学的活性成分は、組み換え供給源から精製される場合、一つの実施態様では、それは、実質的に培養液を含まない。すなわち、培養液は、タンパク質調製物の体積の、約20%未満、約10%未満、または約5%未満である。
「実質的に純粋なIg-IL-7融合タンパク質」または「実質的に純粋なIL-7融合タンパク質」という用語は、IL-7含有融合タンパク質が、調製物中のタンパク質の少なくとも60%、70%、80%、90%、95%、または99%を構成する調製物を指す。
IL-7タンパクによる治療法
本発明の融合タンパク質を含むIL-7タンパク質は、免疫欠陥の治療、および、例えば、元々免疫抑制的な病気または治療の後に起こる、免疫系の生得的再建の加速において有用である。例えば、IL-7タンパク質を用いて、ウィルス感染、免疫障害の治療、および、特定の細胞タイプの成長(増殖を含む)を増強することが可能である。さらに、IL-7タンパク質は、癌、例えば、膀胱癌、肺癌、脳腫瘍、乳癌、皮膚癌、および前立腺癌の治療に有用である可能性がある。一つの例では、1サイクル以上の化学療法を受けた患者を、その免疫細胞の再生を助けるために前述のIL-7タンパク質で治療することは有効である。あるいは、HIV患者、高齢者、移植術を受けた患者、またはその他の免疫系機能が抑圧された患者に対して前述のIL-7タンパク質を投与することも有用である。
投与
本発明のIL-7、IL-7融合タンパク質のいずれも、投与に好適な医薬組成物の中に含めることが可能である。このような組成物は、典型的には、IL-7またはIL-7融合タンパク質、および、製薬学的に許容される担体を含む。本明細書で用いる「製薬学的に許容される担体」という言語は、製剤投与と適合する、任意の、全ての溶媒、分散媒体、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤および吸収遅延剤等を含むことが意図される。製薬学的活性物質のためにこのような媒体および介在因子を使用することは従来技術でよく知られる。
本発明の医薬組成物は、その意図される投与ルートと適合するように処方される。投与ルートの例としては、非経口的投与、例えば、静脈内、皮内、皮下、経口(例えば、吸引)、経皮(局所的)、経粘膜、および直腸投与が挙げられる。非経口的、皮内、または皮下投与のために使用される溶液または懸濁液は、下記の成分を含んでもよい。すなわち、無菌の希釈剤、例えば、注入用水、生食液、固定油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、またはその他の合成溶媒;抗菌剤、例えば、ベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えば、エチレンジアミンテトラ酢酸;バッファー、例えば、酢酸塩、クエン酸塩、またはリン酸塩、および、浸透圧調整剤、例えば、塩化ナトリウムまたはデキストロースである。pHは、酸または塩基、例えば、塩酸または水酸化ナトリウムによって調整される。非経口調剤は、アンプル、ディスポーザブル注射器、あるいはガラスまたはプラスチック製の複数用量瓶の中に封入されてもよい。
本発明のIL-7タンパク質を含む薬剤は、量は投与形態に応じて変動するが、0.01から100%(w/w)の濃度を持つことが可能である。
投与用量は、患者の体重、病気の重度、および医師の判断に依存する。しかしながら、1日当たり、体重kg当たり約0.01から10 mg、注入の場合は約0.02から2 mg、あるいは約0.5 mgを投与することが一般に望ましい。用量は、病気の重度および医師の判断に従って1日当たり1回または数回投与される。
本発明の組成物は、1種以上の他の薬剤、例えば、血球再生に有用であることが知られる分子と同時投与されると有用である。例えば、該分子は、赤血球を再生するのに使用することが知られるエリスロポエチン、好中球を再生することが知られるG-CSF、または、顆粒球およびマクロファージを再生するのに使用されるGM-CSFであってもよい。
本発明の特徴は下記の実施例によってさらに説明される。
実施例
実施例1:計算的方法によるT細胞エピトープの同定
本発明により、IL-7のエピトープをタンパク質に変異を導入する方法を用いて改変して免疫系との相互作用を調節することができる。これらの方法は米国特許出願公開公報第2003-0166877に開示された方法と類似する。本発明により、本発明に従って適合し得る当技術において既知の方法には、先行技術(WO 92/10755およびWO 96/40792 (Novo Nordisk)、EP 0519 596 (Merk & Co.)、EP 0699 755 (Centro de Immunologia Molecular)、WO 98/52976およびWO 98/59244 (Biovation Ltd.)に記載された方法または関連した方法が含まれる。
しかしながら、前記エピトープが本明細書に詳細に記載し、IL-7に適用した以下の方法によって前記エピトープの同定が実現されたならば、有利な変異タンパク質を得ることができる。タンパク質、ポリペプチドまたは免疫グロブリンの全体構造を決定するにおいて重要な役割を有する種々の因子が存在する。第一に、ペプチド結合、すなわち鎖中でアミノ酸を互いに結びつける結合は共有結合である。この結合は構造的に平面であり、本質的に置換アミドである。「アミド」とは-CONH-基を含む有機化合物群のいずれかである。
隣接するアミノ酸のCαを結合させる平面ペプチド結合は以下に記載するように表される。
Figure 0004937132
O=CおよびC-N原子はかなり強固な平面内にあるためこれらの軸の回りには自由な回転が起こらない。従って、波線で模式的に表した平面は「アミド平面」又は「ペプチド平面」としばしば称され、そこにペプチド骨格の酸素(O)、炭素(C)、窒素(N)および水素(H)原子が位置する。このアミド平面の向かい合う角にはCα原子が位置している。ペプチド平面またはアミド平面内のO=CおよびC-N原子の回りには実質的に回転がないので、ポリペプチド鎖はCα原子を結合する一連の平面状ペプチド結合を含む。
ポリペプチドまたはタンパク質の全体構造またはコンフォメーションを規定するに際して重要な役割を果たす第2の要因は共通のCα結合の回りの各アミド平面の回転角である。用語「回転角」および「ねじれ角」は本明細書においては等価な用語とみなす。O、C、NおよびH原子がアミド平面内に維持されると仮定して(あるコンフォメーションについては平面性から僅かに外れるかもしれないが、これは通常有効な仮定である)、これらの回転角にはNおよびRポリペプチド骨格コンフォメーション、すなわち隣接残基間に存在する構造が含まれる。これらの2つの角度はφおよびψとして知られる。角度φi、ψi(添字iはポリペプチド鎖の特定の残基を表す)の組は、従って、ポリペプチドの二次構造を効率的に規定する。任意のポリペプチドに対して角度φ、ψを定義するのに用いられる慣習、すなわちアミド平面が角度0°を形成する参照点、および角度φの定義、および角度ψの定義は文献的に明らかである(例えば、Ramachandranら、(1968)、Adv. Prot. Chem. 23: 283-437, ページ285-94を参照されたし)。
本方法はどのようなタンパク質にも適用でき、ヒトにおいてはMCHクラスII分子結合溝の主要ポケット1アンカー位置が特定のアミノ酸側鎖に対してよく設計された特異性を有するという発見に一部基づいている。このポケットの特異性はMHCクラスII分子のβ鎖の位置86のアミノ酸の実体によって決定される。この部位はポケット1の底に位置し、このポケットに収容することのできる側鎖の大きさを決定する。Marshall, J. Immunol., (1994), 152:4946-4956。この残基がグリシンである場合、全ての疎水性脂肪族アミノ酸および芳香族アミノ酸(疎水性脂肪族アミノ酸は以下の通り:バリン、ロイシン、イソロイシン、メチオニン。芳香族アミノ酸は以下の通り:フェニルアラニン、チロシンおよびトリプトファン)がこのポケットに適合することができ、芳香族側鎖が好ましい。このポケット残基がバリンである場合、このアミノ酸の側鎖はポケット中に突出し、適合し得るペプチド側鎖の大きさを疎水性脂肪族側鎖のみが適合するように制限する。従って、アミノ酸残基配列中で疎水性脂肪族または芳香族側鎖が見いだされる場合、MHCクラスII拘束T細胞エピトープの可能性がある。しかしながら、側鎖が疎水性脂肪族である場合、芳香族側鎖よりもT細胞エピトープと関連する可能性がほぼ2倍である(全体集団の中でポケット1タイプがほぼ均一に分布すると仮定する)。
例示的な計算的方法によればIL-7のペプチド領域がT細胞エピトープを含む可能性は以下のようにプロファイリングされる:(1)所定の長さのペプチドセグメントの一次配列をスキャンし、存在する全ての疎水性脂肪族側鎖および芳香族側鎖を同定する。(2)疎水性脂肪族側鎖に芳香族側鎖よりも大きな値、好ましくは芳香族側鎖に割り当てられる値の約2倍の値を割り当てる。(3)存在することが決定された値をペプチド内の所定の均一の長さの各重複するアミノ酸残基セグメント(ウインドウ)について合計し、特定のセグメント(ウインドウ)についての合計値をそのセグメント(ウインドウ)の中間位置の単一のアミノ酸残基、好ましくはサンプリングしたセグメント(ウインドウ)のほぼ中央の残基に割り当てる。この手順をサンプリングした各重複アミノ酸残基セグメント(ウインドウ)について繰り返す。従って、ペプチドの各アミノ酸残基はその特定のセグメント(ウインドウ)内に存在するT細胞エピトープの可能性と関連した値が割り当てられる。(4)上記工程3に記載したように計算され割り当てられた値は、評価される全アミノ酸残基配列のアミノ酸座標に対してプロットすることができる。(5)所定の値のスコア、たとえば1という値を有する配列の部分はT細胞エピトープを有する可能性があると見なされ、所望であれば改変することができる。
本発明のこの特定の特徴はIL-7のT細胞エピトープを既述することのできる一般適方法を提供する。これらの領域におけるペプチドの改変はMHCクラスII結合特性を改変する可能性がある。
本発明の別の特徴によれば、T細胞エピトープは、ペプチドとMHCクラスIIアレルのモデルとの相互作用を考慮したさらに洗練された計算的方法を用いることにより更に正確に予測することができる。
この特定の側面に従った、ペプチド内に存在するT細胞エピトープの計算的予測は、少なくとも42のMHCクラスIIアレルのモデルを構築すること(全ての既知のMHCクラスII分子の構造およびこれらのモデルをT細胞エピトープの計算的同定に使用する方法に基づく)、ペプチド骨格α炭素(Cα)位置に対する既知の変動を許すために各モデルについてペプチド骨格のライブラリーを構築すること、ペプチドとMHCクラスII分子の相互作用に重要である位置において各モデルの各骨格ドックについて各20アミノ酸代替物に関するアミノ酸側鎖コンフォメーションのライブラリーを構築すること、および、これらの骨格および側鎖コンフォメーションのライブラリーを特定のMHCクラスII分子と結びついた特定のペプチドについて最適骨格および側鎖コンフォメーションを選択するためのスコアリング関数と共に使用すること、およびこの相互作用から結合スコアを導き出すことを意図している。
MHCクラスII分子のモデルはブルックヘブンプロテインデータバンク(Brookhaven Protein Data Bank)(PDB)中に見いだされる多数の類似の構造からホモロジーモデリングによって導きだすことができる。これは、エネルギー最小化のためのCHARMm力場と協同したシミュレーションアニーリング関数を備えた半自動ホモロジーモデリングソフトウエア(Modellerら、(1993)、J. Mol. Biol., 234:779-815)を使用することによって行うことができる。他のモデリング方法もまた使用することができる。
MHCクラスII分子の小さな集団について結合溝内の各位置の各アミノ酸代替物の実験的に導かれた結合データライブラリーを使用する他の計算的方法が知られており(Marshallら、(1995)、Biomed. Pept. Proteins Nucleic Acids, 1 (3):157-162)、さらに溝内の特定のタイプの結合ポケットの結合特性を規定するために同様な実験的結合データを使用する計算的方法も知られている(Sturnioloら、(1999)、Nat. Biotech, 17(6):555-561)。この方法でも、MHCクラスII分子の比較的小さな集団を用いて、ポケットライブラリーからポケットタイプを「ミキシングおよびマッチング」してさらに「仮想的MHCクラスII分子」を人工的に生成する。どちらの方法もアッセイの複雑性および多数のペプチド変種を合成する必要性があるため、小数のMHCクラスII分子しか実験的に走査できないという大きな不利益を有している。従って、最初の方法は小数のMHCクラスII分子についてしか予測することができない。2番目の方法も一分子内に類似のアミノ酸が並んだポケットは異なるクラスIIアレルとの関係で同じ結合特性を有するであろうと仮定し、ポケットライブラリー内に含まれるポケットを含むそれらのMHCクラスII分子は「仮想的に」しか生成できないという点で更に不利である。
ここに記載したモデリングアプローチを用いて、どのような数およびタイプのMHCクラスII分子も導き出すことができ、従って全体集団が代表されるようにアレルを特異的に選択することができる。さらに、複雑な実験によりモデルを構築して追加のデータを生成することにより走査するMHCクラスII分子の数を増加させることができる。
骨格ライブラリーの使用により、特定のMHCクラスII分子と合体した場合の走査する種々のペプチドのCα原子の位置における変動が可能になる。このことも特定のポケットにおけるアミノ酸結合を走査するために単純化したペプチド骨格を使用することに依存した上述の代替的な計算的方法と対照的である。これらの単純化したペプチド骨格は現実のペプチドに見られる骨格コンフォメーションを代表するとは考えにくく、ペプチド結合の予測に不正確性を生じさせる。本骨格ライブラリーはProtein Data Bank中に見られるMHCクラスII分子に結合する全てのペプチドの骨格を重ね合わせ、結合溝内に位置する各11個のアミノ酸のCα原子間の自乗平均平方根(RMS)偏差(標準偏差)を記録することによって生成される。このライブラリーは少数の適切な入手可能なマウスおよびヒト構造(現在13)から導くことができるが、さらに大きな変動の可能性を許すため、各C”-α位置についてRMS数値を50%増加させる。次に各アミノ酸の平均Cα位置を決定し、その位置における標準偏差プラス50%に等しい半径を有する球をその点の回りに描く。この球が全ての許容されるCα位置を表す。
最少の標準偏差を有するCα(結合溝内の11残基の位置2に等価な、上述したポケット1中のアミノ酸のCα)から作業を開始し、この球を三次元的に格子状に配置し、この格子内の各頂点をそのアミノ酸のCαに関する可能な位置として使用する。次のアミノ酸へのペプチド結合に対応する次のアミド平面をこれらのCαに繋ぎ、φおよびψ角を設定した間隔で段階的に回転させて次のCαの位置決めをする。次のCαがそのCαについて「許容される位置の球」内に落ちるならば、このジペプチドの配向は許容されるものであり、一方それがこの球の外側に落ちるならばそのジペプチドは却下される。この工程を、ペプチドがポケット1Cα「種」から成長するように、全ての9つの続くCαが先行するCαの可能な全順列から位置決めされるまで、続く各Cα位置について繰り返す。次に、この工程をもう一度ポケット1に先行する単一のCαについて繰り返して結合溝内に位置する骨格Cαのライブラリーを生成する。
生成される骨格の数はいくつかの要因に依存する:「許容される位置の球」のサイズ;ポケット1位置における「1次球」の格子位置決めの精密さ;続くCαの位置決めに使用するφおよびψの段階的回転の精密さ。この方法を用いて骨格の大きなライブラリーを生成することができる。骨格ライブラリーが大きいほど特定のペプチドについてMHCクラスII分子の結合溝内の最適適合が見いだされる可能性がより高い。結合ドメインのアミノ酸との衝突のために全ての骨格が全てのMHCクラスII分子のモデルとの結合に適切ではないであろうから、各アレルについてそのアレルに適合し得る骨格を含むライブラリーのサブセットを生成する。MHCクラスII分子のモデルと共に骨格ライブラリーを使用することにより、各許容される骨格とドッキングする各MHCクラスII分子について結合溝の各位置の各アミノ酸に関して許される側鎖コンフォメーションからなる網羅的なデータベースが生成される。このデータセットは、単純な立体的重複関数を用いて生成される。そこでは、MHCクラスII分子が骨格とドッキングされ、所望の位置においてアミノ酸側鎖がこの骨格上に移される。側鎖の回転可能な各結合を所定の間隔で段階的に回転させ、その結合に依存して得られる原子の位置を記録する。その原子と結合溝の側鎖の原子との相互作用に注目し、以下の基準によりその位置を許容または却下する:それまでに位置づけられた全原子の重複の総計が所定の値を超えてはならない。従って、コンフォメーション探索のストリンジェンシーは結合の段階的回転に用いた間隔および全重複に関する所定の限界値の関数である。後者の値は特定のポケットが剛直なものであることが知られている場合には小さくなり得る;しかしながら、ポケット側鎖が比較的柔軟であることが分かっている場合にはストリンジェンシーを低下させることができる。このようにして結合溝のポケット内の柔軟性における変動を模倣する許容性を与えることができる。次に、このコンフォメーション探索を各MHCクラスII分子とドッキングした場合の各骨格の各位置におけるそれぞれのアミノ酸について繰り返し、側鎖コンフォメーションの網羅的データベースを生成する。
MHCクラスII分子のモデルとペプチドリガンドコンフォメーション(上述した骨格/側鎖コンフォメーションの大きなデータベースを走査することによって経験的に誘導しなければならない)との結合のエネルギーを評価するために適切な数学的表現が使用される。従って、9〜20アミノ酸の長さの可能な各ペプチド(但し、各走査についてはこの長さは一定に保つ)を以下の計算にかけることによって潜在的なT細胞エピトープについてタンパク質を走査する:MHCクラスII分子をその分子に許容されるペプチド骨格と共に選択し、所望のペプチド配列に対応する側鎖をその骨格上に移す。前記骨格特定の位置の特定の側鎖に関する原子の正体および原子間距離をそのアミノ酸の許容される各コンフォメーション(上述のデータベースから得る)について収集する。これを骨格に沿って各側鎖について繰り返し、スコアリング関数を用いてペプチドスコアを導く。この骨格に関する最良のスコアを保持し、選択したモデルについて許容される各骨格についてこの工程を繰り返す。今日される全骨格からのスコアを比較し、最も高いスコアをそのMHCクラスII分子における所望のペプチドについてのペプチドスコアであるとみなす。次に、各モデルについて、走査するタンパク質からの全ての可能なペプチドでこの走査を繰り返し、モデルに対するペプチドのスコアを表示させる。
本発明との関連において、結合アフィニティー計算にかけられる各リガンドは上述のペプチドまたはタンパク質から選ばれるアミノ酸セグメントである。従って、このリガンドは既知の配列のペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に由来する、長さが約9〜20の選択されたアミノ酸連続物である。本明細書において、「アミノ酸」および「残基」は等価な用語とみなす。骨格ライブラリーから骨格上に移された、調べるべきペプチドの連続するアミノ酸の形態としてのリガンドは、前記ペプチド骨格のC”-α原子の座標によりMHCクラスII分子モデルライブラリーからのMHCクラスII分子の結合裂中に配置され、各側鎖に許容されるコンフォメーションが許容コンフォメーションのデータベースから選択される。関係する原子の実体および原子間距離もこのデータベースから引き出し、これを用いてペプチド結合スコアを計算する。MHCクラスII結合ポケットに対して高い結合アフィニティーを有するリガンドは部位特異的変異導入の候補として目印をつけておく。アミノ酸置換をこの目印をつけたリガンド(従って、注目するタンパク質)に行い、次にスコアリング関数を用いてこのリガンドをテストし、結合アフィニティーを所定の閾値よりも低下させる変化を決定する。注目するタンパク質にこれらの変化を取込んでT細胞エピトープを除去することができる。
ペプチドリガンドとMHCクラスII分子の結合溝との間の結合には、水素結合、静電的相互作用、疎水性(親油性)相互作用およびファンデルワールス相互作用を含む非共有結合が関与するがこれらに限られない。これらは以下に詳細に説明するようにペプチドスコアリング関数に含まれる。水素結合は極性基または荷電基との間で形成されうる非共有結合であり他の2つの原子に共有される水素原子からなっている。水素受容体が部分的に陰電荷を有している場合、水素供与体の水素は陽電荷を有している。ペプチド/タンパク質相互作用の目的では、水素結合供与体は水素が付加した窒素または酸素若しくは窒素に付加した水素である。水素結合受容体原子は水素に結合していない酸素、結合した水素を有せず1または2つの結合を有する窒素または1つの結合のみを有するイオウであり得る。水素に結合した酸素またはイミン窒素(例えばC=NH)のようなある種の原子は水素受容体でも供与体でもあり得る。水素結合のエネルギーは3〜7Kcal/molでありファンデルワールス力よりも強いが共有結合よりも弱い。水素結合はまた高度に指向性であり供与原子、水素原子および受容原子が一直線上にある場合に最も強い。静電結合は反対に荷電したイオン対間で形成され、その相互作用の強さはクーロンの法則に従って、原子間距離の自乗に反比例する。イオン対間の最適距離は約2.8Åである。タンパク質/ペプチド相互作用においては、静電結合はアルギニン、ヒスチジンまたはリジンとアスパラギン酸またはグルタミン酸との間に形成され得る。この結合の強さはイオン化基のpKaおよび媒体の誘電率に依存するが、それらはほぼ水素結合の強さと同様である。
親油性相互作用はタンパク質とペプチドリガンドの間に生じ得る疎水性−疎水性接触には好都合である。通常、これらはペプチドの結合溝のポケットに埋め込まれて溶媒に露出していない疎水性アミノ酸側鎖間に生じ得る。疎水性残基の溶媒への露出は、周囲の溶媒分子が互いに水素結合するように強要されケージ様包接構造を形成するので非常に好ましくない。その結果生じるエントロピー低下は非常に好ましくない。親油性原子は極性でもなく水素供与体でもないイオウおよび極性でない炭素原子であり得る。
ファンデルワールス結合は3〜4Å離れた原子間に見られる非特異的な力である。それらは水素結合および静電結合よりも弱く特異性が低い。原子の周囲の電子電荷分布はあらゆる瞬間に時間と共に変化し、この電荷分布は対称的ではない。電子電荷における一過性の非対称性は隣接原子の同様な非対称性を含む。生じる原子間の引力はファンデルワールス接触距離において最大になるが約1Å〜約2Åで急速に減少する。逆に、原子がこの接触距離未満しか離れていないようになると、外殻電子雲が重なるので増大する強い斥力が支配的になる。静電結合および水素結合に比較してこの引力は比較的弱いが(約0.6Kcal/mol)、特にこの斥力ペプチドリガンドがタンパク質にうまく結合するかどうかを決定するに際して非常に重要である。
1つの実施態様において、ベームスコアリング関数(SCORE1アプローチ)を用いて結合定数を評価する(Bohm, H.J., (1994), J. Comput. Aided Mol. Des., 8(3):243-256,引用によりその全体が本明細書に取りこまれるものとする)。別の実施態様において、スコアリング関数(SCORE2アプローチ)を用いて、T細胞エピトープを含むリガンドの指標として結合アフィニティーを評価する(Bohm, H.J., (1998), J. Comput. Aided Mol. Des., 12(4):309-323、引用によりその全体が本明細書に取りこまれるものとする)。しかしながら、上記文献に記載されたようなベームスコアリング関数は、リガンドがタンパク質に結合することが知られており、タンパク質/リガンド複合体の構造が解明されており、その解明された構造がProtein Data Bank(PDB)に存在している場合に、そのタンパク質に対するそのリガンドの結合アフィニティーを評価するために使用される。従って、スコアリング関数は既知の陽性結合データの恩恵を得て開発されてきた。陽性および陰性結合因子の識別を可能とするため、斥力項を方程式に追加しなければならない。さらに、親油性相互作用を上記ベーム関数の領域ベースのエネルギー項ではなく対様式で計算することによって結合エネルギーのより満足のいく評価が達成される。従って、1つの実施態様において、結合エネルギーは改変ベームスコアリング関数を用いて評価される。この改変ベームスコアリング関数においてタンパク質とリガンドの結合エネルギー(ΔGbind)は以下のパラメータを考慮して評価される:リガンドの並進および回転エントロピーの全体的な損失による結合エネルギーの低下(ΔG0);少なくとも1つのパートナーが中性である場合理想水素結合からの寄与(ΔGhb);摂動のないイオン相互作用からの寄与(ΔGionic);親油性リガンド原子と親油性受容体原子との親油性相互作用(ΔGlipo);リガンドの内部自由度(すなわち、各C-C結合の回りの回転の自由度)の凍結(ΔGrot);タンパク質とリガンドとの相互作用のエネルギー(EVdW)。これらの項を考慮すると以下の方程式1が得られる:
(ΔGbind)=(ΔG0)+(ΔGhb x Nhb)+(ΔGionic x Nionic)+(ΔGlipo x Nlipo)+(ΔGrot + Nrot)+(EVdW
式中、Nは特定の項に関する所定の相互作用の数であり、1つの実施態様では、ΔG0、ΔGhb、ΔGionic、ΔGlipoおよびΔGrotは定数であり、以下のそれぞれ以下の値が与えられる:5.4、-4.7、-4.7、-0.17および1.4。
項Nhbは以下の方程式2によって計算される:
Nhb=Σh-bondsf(ΔR, Δα) x f(Nneighb) x fpcs
f(ΔR, Δα)は理想性からの水素結合の大きな偏差を担うペナルティ関数であり、以下の方程式3によって計算される:
f(ΔR, Δ-α)=f1(ΔR) x f2(Δα)
式中、ΔR <= TOLである場合、f1(ΔR) = 1、
または、ΔR <= 0.4 + TOLである場合、f1(ΔR) = 1-(ΔR-TOL)/0.4、
または、ΔR > 0.4 + TOLである場合、f1(ΔR) = 0、
かつ、
Δα < 30°である場合、f2(Δα) = 1、
または、Δα <= 80°である場合、f2(Δα) = 1-(Δα-30)/50、
または、Δα > 80°である場合、f2(Δα) = 0
TOLは水素結合長における許容偏差=0.25Åである;
ΔRはH-O/N水素結合長の理想値=1.9Åからの偏差である;
Δαは水素結合角∠N/O-H..O/Nの180°という理想値からの偏差である。
f(Nneighb)はタンパク質表面の凹面と凸面を区別し、従ってポケットに見いだされる極性相互作用にタンパク質表面に見られる相互作用よりも大きな重み付けを割り当てる。この関数は以下の方程式4によって計算される:
f(Nneighb) = (Nneighb/Nneighb,0)α 式中α=0.5。
Nneighbは与えられたタンパク質原子に5Åよりも近い水素でないタンパク質原子の数である。
Nneighb,0は定数(=25)である。
fpcsは水素結合ごとの極性接触表面を考慮した関数であり、従って強い相互作用と弱い相互作用を区別する関数であり、その値は以下の基準に従って決定する:
Apolar/NHB < 10Å2 である場合、fpcs = β
または、
Apolar/NHB > 10Å2 である場合、fpcs = l
Apolarは極性タンパク質-リガンド接触表面の大きさである。
NHBは水素結合の数である。
βは1.2という値の定数である。
改変ベームスコアリング関数を実行するため、同様な結合構造依存性が仮定されるので、イオン相互作用からの寄与ΔGionicを上述した水素結合からの寄与と同様なやり方で計算する。
項Nlipoは以下の方程式5によって計算される:
Nlipo = ΣlLf(rlL)
f(rlL)は以下の基準に従って、全ての親油性リガンド原子lおよび全ての親油性タンパク質原子Lについて計算される:
rlL <= R1である場合、f(rlL) = 1
R2 <rlL >R1である場合、f(rlL) = (rlL - R1)/(R2-R1)、
rlL >= R2である場合、f(rlL) = 0
式中、R1 = rl vdw + rL vdw + 0.5 であり、
R2 = R1 + 3.0であり、
rl vdwは原子lのファンデルワールス半径であり、
rL vdwは原子Lのファンデルワールス半径である。
項Nrotはアミノ酸側鎖の回転可能な結合の数であり、非環式sp3-sp3結合およびsp3-sp2結合の数であると解される。末端の-CH3または-NH3の回転は考慮しない。
最後の項EVdWは以下の方程式6によって計算される:
EVdW = ε1ε2((r1 vdw + r2 vdw)12/r12 - (r1 vdw + r2 vdw)6/r6)
式中、ε1およびε2は原子の実体に依存する定数である;
r1 vdw + r2 vdwはファンデルワールス半径である;
rは一対の原子間の距離である。
方程式6について、1つの実施態様において、定数ε1およびε2はそれぞれの原子(炭素原子、窒素原子、酸素原子、イオウ原子)について以下のように与えられる:C:0.245、N:0.283、O:0.316、S:0.316。方程式5および6に関して、ファンデルワールス半径は各原子について以下のように与えられる:C:1.85、N:1.75、O:1.60、S:2.00Å。
上述の方程式中で与えた全ての所定値および定数は、タンパク質リガンド相互作用に関する現在の理解という制約の中で、特にここで行った計算のタイプと関連した制約の中で決定されていることは言うまでもない。
上述したように、スコアリング関数は側鎖コンフォメーション、原子の実体および原子間距離のデータベースから抽出したデータに適用される。本説明の目的では、このデータベースに含まれるMHCクラスII分子は42のモデル、プラス4つの解明された構造物である。上記記載から、本発明の計算的方法構築のモジュール的性質は、新たなモデルを簡単に追加してペプチド骨格および側鎖コンフォメーション探索関数を用いて走査して追加のデータセットを生成してそのセットは上述したようにペプチドスコアリング関数によって処理することができるということは明らかである。これにより走査するMHCクラスII分子のレパートリーを容易に増加させることができ、あるいは既存のアレルのより正確なモデルを生成するためのデータが入手可能であれば構造および関連したデータを置換することができる。
本予測方法は、MHCクラスIIに対するアフィニティーを従前に実験的に決定しておいた多数のペプチドを含むデータセットに対して較正することができる。実験データに対して計算したデータを比較することにより、その値を超えると全ての実験的に決定したT細胞エピトープが正確に予測できることが分かっているカットオフ値を決定することができる。
上述のスコアリング関数は利用可能なある種の洗練された方法論と比べて比較的単純ななものであるが、計算を非常に速く行うことができることを理解すべきである。また、選択したMHCクラスIIタンパク質の結合溝中にドッキングした各ペプチドの真の結合エネルギー自体を計算することを目的としているのではないことも理解すべきである。基礎にある目的は、一次構造(すなわちアミノ酸配列)に基づいて選択したタンパク質のT細胞エピトープの位置を予測する補助として比較結合エネルギーデータを得ることである。比較的高い結合エネルギーあるいは選択した閾値よりも高い結合エネルギーはそのリガンドにおけるT細胞エピトープの存在を示唆するであろう。次にこのリガンドを少なくとも1回のアミノ酸置換にかけ、結合エネルギーを再計算することができる。この計算は非常に速いという性質をもつため、ペプチド配列のこれらの操作は高い費用効率にて入手可能なコンピューターハードウェア上でプログラムのユーザインターフェース内で繰り返し実行することができる。従ってコンピューターハードウェアに対する大きな投資を必要としない。
同じ目的で他の入手可能なソフトウェアが使用可能であることは当業者には明らかであろう。特に、リガンドをタンパク質結合部位にドッキングすることのできるより高性能のソフトウェアをエネルギー最少化と併せて用いることができるであろう。ドッキングソフトウェアの例は以下の通りである:DOCK (Kuntz et al., (1982), J. Mol. Biol., 161:269-288), LUDI (Bohm, H.J., (1994), J. Comput Aided Mol. Des., 8:623-632) and FLEXX (Rarey et al., (1995), ISMB, 3:300-308)。分子モデリングおよび操作ソフトウェアの例は以下の通りである:AMBER (Tripos)およびCHARMm(Molecular Simulations Inc.)。これらの計算方法を使用することは、必要な計算をするために必要な処理時間の長さのために本発明の方法のスループットを極度に制限するであろう。しかしながら、そのような方法は本発明の方法によって「陽性結合因子」であると見いだされたペプチドについて結合エネルギーのより正確な計算を行うための「二次スクリーニング」として使用することができる可能性がある。洗練された分子力学計算または分子動力学計算の処理時間の制約は、これらの計算を行うソフトウェアの設計およびコンピューターハードウェアの現在の技術的制約によって規定されるものである。将来はより効率的なコードを書くことおよびコンピュータープロセッサの速度の絶え間ない上昇に伴い、そのような計算をより処理可能な時間枠内で行うことが可能になることが期待されるであろう。巨大分子に適用されるエネルギー関数およびフォールディングしたタンパク質構造内における種々の相互作用に関する更なる情報はBrooks et al., (1983), J. Comput. Chem., 4:187-217にみることができ、一般的なタンパク質-リガンド相互作用に関する更なる情報はDauber-Osguthorpe et al., (1988), Proteins, 4(1):31-47. Useful background information can also be found, for example, in Fasman, G.D., ed., Prediction of Protein Structure and the Principles of Protein Conformation, Plenum Press, New York, ISBN: 0-306 4313-9に見ることができる。
実施例2:潜在的CD4+ Tヘルパー細胞エピトープとしてのIL-7由来ペプチドの未分画PBMC培養物によるin vitro分析
IL-7タンパク質のN-結合グリコシル化部位周辺の配列が免疫原性であるというin silico予測に基づいて、これらの領域を含む、成熟IL-7タンパク質のLeu63からSer71(LRQFLKMNS、配列番号4)またはIle88からVal96(LLNCTGQV、配列番号7)にわたる領域をその免疫原性について解析する。前記免疫原性はin vitroでT細胞増殖を誘導する能力によって測定する。要するに、ヒト血液から単離したPBMCを重複する15merペプチドのそれぞれとインキュベーションし、増殖応答を3H-チミジン取込によって測定する。原理的に、PBMCの混合物中のT細胞は、自己APC(抗原提示細胞)上の個々のペプチド-MHC複合体を認識した場合にのみ増殖し、従って、増殖はペプチド免疫原性の指標となる。
例えば、3つずつアミノ酸をずらして例えばヒトIl-7のMet54からLeu80にわたる15merペプチドを合成し(Pepscan Systmes, Netherlands)、DMSO(Sigma Chemical, St.Luis, MO., U.S.A.)に再懸濁し、0.5% DMSOを含む培地中で最終濃度5μMで使用する。
PBMCは健康な提供者の末梢血からフィコール-ハイパック勾配遠心により単離し、液体窒素中で凍結保存する。さらに、単離したDNAに対してSSP PCRタイピングキット(Bio-Synthesis、Lewisville, TC)を用いて、QiaAmp Tissueキット(Qiagen, Valencia, CA)により各PBMCをHLAタイピングする。
典型的な増殖アッセイにおいては、重複する各15merペプチドを40人のナイーヴ提供者からの6つ組PBMC培養物でアッセイする。簡単にいえば、2x105個のPBMCを使用前に迅速に融解し、5μMの各ペプチドと混合し、37℃にて5% CO2中、7日間インキュベーションする。陽性対照として、サンプルを破傷風毒素由来のペプチドMQYIKANSKFIGI(配列番号15)とインキュベーションし、一方陰性対照サンプルは0.5% DMSOとインキュベーションする。インキュベーションの最後の12時間、この培養物を[メチル-3H]チミジン(0.5μCi/ウェル)(NEN Life Science Products, Boston, MA)でパルスし、この培養物をフィルターマット上に収集し、チミジン取込をWallacマイクロプレートβトッププレートシンチレーション計測器(Perkin Elmer, Boston,MA)を用いて分あたりの計測数(CPM)として測定する。各ペプチドに関する刺激指数はペプチドのCPM値を陰性対照から得られたCPM値で割ることによって計算する。
陽性対照ペプチドの刺激指数は1(陰性対照の刺激指数)よりも顕著に大きく、コア配列LRQFLKMNS(配列番号4)、FLKMNSTGD(配列番号5)またはLKMNSTGDF(配列番号6)を含む、例えばペプチドARKLRQFLKMNSTGD(配列番号10)、LRQFLKMNSTGDFDL(配列番号11)またはFLKMNSTGDFDLHLL(配列番号12)のようなペプチドは増大した刺激指数を有する。従って、LRQFLKMNS(配列番号4)またはLKMNSTGDF(配列番号6)は確かに潜在的T細胞エピトープを表している。
コアペプチドILLNCTGQV(配列番号7)およびLLNCTGQVK(配列番号8)によって規定される領域を含む一連の15merペプチドで同様な解析を行い、これらのペプチド配列も潜在的T細胞エピトープを表していることが見いだされる。
実施例3:分化したヒト樹状細胞(DC)を用いたCD4 + Tヘルパー細胞エピトープのin vitroマッピング
成熟樹状細胞(DC)は抗原性ペプチドまたはタンパク質全体をT細胞に効率的に提示する強力な抗原提示細胞(APC)である。単離して、in vitroにて抗原性ペプチドでパルスしたDCを用いて一次T細胞応答を誘導する。この誘導はin vitro増殖アッセイにより測定することができる。分化したDCを例えば以下の手順によって生成する:初めに、PBMCをプラスチック組織培養フラスコに接着させることにより、またはCD14+ PBMCを磁気的に標識した抗体(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)で精製することによってヒト単球を生成する。次に精製された単球(0.5〜1.5 x 106細胞/ml)を1000 U/mlのGM-CSF(Endogen; Woburn, MA)および500 U/mlのIL-4(Endogen; Woburn, MA)を含むAIM V培地(GIBCO BRL, Grand Islan, NY, USA)中で3日間培養する。続いて、これらの未成熟DCを5μg/mlの実験ペプチドまたは対照ペプチドでパルスし、さらに1000 U/mlのTNF-α(Endogen; Woburn, MA)、1000 U/ml GM-CSFおよび500 U/mlのIL-4の組み合わせと共に更に48時間インキュベーションする。CD80+、CD86+およびHLA-DRの高表面発現レベルによって成熟DCを監視する。
これらの抗原パルスした成熟DCを4200 Radで放射線照射し、精製自家CD4+ T細胞と増殖アッセイに使用する(CD4+ T細胞は、in vitro DC分化のための単球を供給した同じ提供者からの凍結PBMCの小分け量を用いて磁気的に標識した抗体(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)で精製する)。典型的アッセイにおいては、抗原パルスしたDC(2 x 105/ml)を丸底96穴プレート中で自家CD4+ T細胞(2 x 106/ml)と共に37℃にて5% CO2中、7日間インキュベーションする。[メチル-3H]チミジン(NEN Life Science Products, Boston, MA)をインキュベーションの最後の12時間に0.5μCi/ウェルで添加し、サンプルを収集し、グラスフィルター上で溶解し、3H-チミジン取込をシンチレーション計測器で測定する。
実施例1に記載したような15merペプチドをこのアッセイでテストし、参照ペプチドおよび他の対照と比較する。このアッセイは実施例1に記載のアッセイよりも鋭敏であり、個々のペプチドのT細胞増殖を誘導する能力をよりよく区別することができることが分かる。コア配列、LRQFLKMNS(配列番号4)、FLKMNSTGD(配列番号5)、LKMNSTGDF(配列番号6)、ILLNCTGQV(配列番号7)またはLLNCTGQVK(配列番号8)を含むIL-7ペプチドは確かに顕著なT細胞増殖を誘導し、従ってこれらの配列は確かに潜在的なT細胞エピトープを表している。
実施例4:IL-7における脱免疫原性アミノ酸置換のin vitro 解析
IL-7タンパク質を低免疫原性にする、上述したペプチド領域におけるアミノ酸置換を実施例1および実施例2に記載のin vitroアッセイでテストする。例えば、配列LRQFLDDNS(配列番号13)を含む変種IL-7ペプチドは、LRQFLKMNS(配列番号4)を含む野生型親ペプチドに比較して有意に低下したT細胞増殖応答を生じさせることが期待される。同様に、配列TLLNCTGQG(配列番号14)を含む変種IL-7ペプチドは配列ILLNCTGQV(配列番号7)を含む野生型親ペプチドに比較して有意に低いT細胞増殖応答を生じさせることが期待される。
変種IL-7配列LRQFLDDNS(配列番号13)またはTLLNCTGQG(配列番号14)を含む一連のIL-7由来の15merペプチドを実施例1に記載したように合成する。さらに、本発明の置換を含む変種IL-7タンパク質または変種IL-7を含む融合タンパク質を原核発現系または真核発現系により生産する(DeI-IL-7)。例えば、アミノ酸置換K68D、M69D、I88TおよびV94Gを含む変種IL-7を作製する。(さらに、原核生物により生産されたIL-7タンパク質は開始メチオニンを含む。)これらのペプチドおよび精製タンパク質、その親対応物をT細胞増殖誘導能について、実施例1に記載したような全PBMC培養物を用いたアッセイまたは実施例2に記載したようにヒトDCをパルスすることによってテストする。25μg/mlのタンパク質を用いてPBMCを刺激、またはDCをパルスする。
一般的に、変種IL-7配列に由来するペプチドは野生型ヒトIL-7タンパク質に由来する対応するペプチドに比較して有意に低下したT細胞増殖能を有している。従って、これらの変種ペプチド配列は非常に弱い潜在的T細胞エピトープである。さらに、細菌で生産したIL-7タンパク質も野生型IL-7に比べて低下したT細胞増殖誘導能を有しており、このことはこれらの変異させた領域が原核的に生産されたIL-7の免疫原性に顕著に寄与しているかもしれないことを示す。
実施例5:潜在的B細胞エピトープとしてのIL-7由来ペプチドの解析
細菌で生産された非グリコシル化ヒトIL-7タンパク質について、IL-7のN-結合グリコシル化部位周辺の配列はヒト免疫系によって「非-自己」と認識され、抗体応答を生じさせるかもしれない。本質的にこれらの配列が直線上B細胞エピトープを表すかどうかを評価するため、これらの配列にわたるペプチドを用いてウサギを免疫し、生じた抗体の細菌生産未変性ヒトIL-7および変性ヒトIL-7に対する反応性をテストする。更なる対照として、天然の真核生物生産グリコシル化huFc-IL-7融合タンパク質を用いた。
特定のペプチドに対してポリクローナル抗体を例えばウサギに生じさせ、それらを続いて精製するための方法および材料は当業者に一般的に知られており、それらに関する文献も例えば以下に見いだされる:Antibodies: A Laboratory Manual, E. Harlow and D. Lane, Cold Spring Harbor Press。
簡単に言えば、ある例では、LRQFLKMNSTGDFDL[C](配列番号18)または[C]LRQFLKMNSTGDFDL(配列番号19)のようなコア配列FLKMNSTGD (配列番号5)を含むペプチドを、付加した末端システインを介して3種の異なるキャリアタンパク質、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH, EMD Biosciences, San Diego, CA)、BSA(EMD Biosciences, San Diego, CA)、および卵白アルブミン(Pierce, Rockford, IL)と、SMCC(Pierce, Rockford, IL)のようなカップリング試薬を用いて共役させ、複数のウサギをこのペプチド共役物のそれぞれをアジュバント存在下で継続的に注射することにより免疫する。免疫応答をこのペプチド-キャリア共役物を1ヶ月おきにさらに注射することによりブーストし、各ウサギから得られた抗血清を前記ペプチドが結合したSulfo-Linkカラム(Pierce, Rockford, IL)上でアフィニティー精製し、抗体をさらにヒドロキシアパタイトカラム(Bio-Rad Laboratories, Hercules, CA)上で更に濃縮する。
精製した抗体を細菌産生未変性ヒトIL-7、変性ヒトIL-7および真核生物生産グリコシル化huFc-IL-7融合タンパク質に対して、標準的手順に従ってELISAアッセイでテストする。簡単に言えば、精製タンパク質調製物で被覆したELISAプレートをテスト抗体サンプルとインキュベーションし、プレートを洗浄し、ホースラディッシュペルオキシダーゼ結合抗ウサギIgGのような二次抗体とインキュベーションし、再洗浄し、発色基質溶液とインキュベーションして結合した抗体の濃度を表示させる。
同様にヒトIL-7の・・・MNSTG・・・(配列番号20)グリコシル部位(Asn70)を含む他のペプチド、または、・・・LNCTG・・・(配列番号21)グリコシル化部位(Asn91)を含むペプチドに対して抗体を生じさせる。このアプローチを用いて、一般に変性させた細菌産生ヒトIL-7は前記抗体によって良好に認識され、グリコシル化huFc-IL-7融合タンパク質はそうでないことが見いだされる。細菌産生未変性ヒトIL-7タンパク質と反応する抗体を生じさせるペプチドは、グリコシル化部位の直線状B細胞エピトープが認識されることを示す。さらに、実施例9に記載したような細胞ベースの増殖アッセイにおいて、この実施例のペプチドに対して生じさせた抗体はIL-7刺激細胞増殖を阻害する効果を有することが見いだされた。この結果はこれらの抗体が中和活性を有することを示す。
実施例6:潜在的T細胞エピトープを欠くヒトIL-7変種の構築
細菌発現または真核生物発現に適した、例えば、融合タンパク質としての発現に適したヒトIL-7変種をコードする核酸を構築する。例えば、K68D、M69D、I88TおよびV96Gの置換を含む成熟ヒトIL-7変種(DeI-IL-7、配列番号16)をコードする核酸を、当業者にはよく知られた標準的な方法を用いて構築する。図11は、成熟IL-7変種、DeI-IL-7をコードする、K68D、M69D、I88TおよびV96Gのアミノ酸のコドン置換を有するDNA配列の例(配列番号24)を示す。
細菌発現のために、開始メチオニンを含むDeI-IL-7のタンパク質配列(bDeI-IL-7、配列番号17)を最適な大腸菌発現のために適切なコドン偏向を用いて逆翻訳する。得られた核酸配列を、適切な細菌発現ベクター、例えばpETシリーズの適切なベクター(EMD Biosciences, San Diego, CA)へのクローニングを容易にするような配列を付加する。核酸配列を全遺伝子合成(Blue Heron Biotechnology, Bothell, WA)により合成し、発現ベクターに挿入する。K68D、M69D、I88TおよびV96Gのアミノ酸のコドン置換を有する、大腸菌のためにコドン最適化した、bDeI-IL-7をコードするDNA配列の例を図10に示してある(配列番号23)。
huFc-DeI-IL-7融合タンパク質としての真核生物発現のため、成熟ヒトIL-7の核酸配列を改変して上述した本発明の所望のアミノ酸配列(たとえば、配列番号24参照)を取りこませる。この配列を更にIgG1のヒンジ、CH2およびCH3(Lo et al., (1998), Protein Engineering 11:495参照)をコードするpdCs-huF発現ベクターへXma I/Xho I断片としてインフレームで挿入するための固有の制限酵素部位を有するフランキング配列を取りこむように適合化し、全遺伝子合成(Blue Heron Biotechnology, Bothell, WA)により合成する。合成したXma I/Xho I DeI-IL-7断片を次にdCs-huFベクターにクローン化し、huFc-DeI-IL-7をコードする発現ベクターを作製する。本発明の他のIL-7およびFc-IL-7変種も同様な方法で作製することができる。
特に、ヒト脱免疫Fc-IL-7融合タンパク質huFcγ2(h)(FN>AQ)-(リンカー2)-IL-7(PNS)およびhuFcγ2(h)(FN>AQ)-(リンカー2)-IL-7(PDNS)をコードする核酸を以下のように作製した。huFcγ2(h)(FN>AQ)-(リンカー2)-IL-7(PNS)はIgG1ヒンジを有するヒトIgG2 FcドメインのC-末端にリンカー配列GGGGSGGGGを介してN-末端を遺伝的に融合させたヒトIL-7を含むヒトFc-IL-7融合タンパク質である。このFc部分はPhe296AlaおよびAsn297Gln変異を含む。IL-7部分はF39P、F57NおよびL128S変異を含む。huFcγ2(h)(FN>AQ)-(リンカー2)-IL-7(PDNS)はIL-7部分に更にL77D変異を含む以外はhuFcγ2(h)(FN>AQ)-(リンカー2)-IL-7(PNS)と同じである。この配列はまたFC部分のC-末端近くのLSLSをATATに置換するための変異を含んでいる。さらにこの核酸配列はFc部分のC-末端リジンをアラニン残基に置換するコドンを含んでいる。
図27に示した配列の核酸を新たに合成した(Blue Heron Biotechnology, Bothell, WA)。この核酸はリンカー配列GGGGSGGGGに続くアミノ酸置換F39P、F57NおよびL128Sを含むIL-7をコードしており、側方の5'-端および3'-端にそれぞれXma IおよびXho I制限部位を含んでいる。精製したこのXma I/Xho I断片を同様に消化して精製したベクターpdCs-huFcシリーズ、pdC10-huFcγ2(h)(FN>AQ)の断片に連結し、huFcγ2(h)(FN>AQ)-(リンカー2)-IL-7(PNS)をコードするプラスミドを作製した。Loら、(1998)、Protein Engineering 11: 495。このコード配列をシーケンシングして確認した。
IL-7(PNS)への置換L77Dの更なる導入は、変異導入プライマーM(s)(5'-TGACTTTGATGACCACCTGTTAAAAGTTTC-3'(配列番号50)(変異させたコドンに下線を引いた)およびM(a) (5'- AACAGGTGGTCATCAAAGTCACCAGTGC-3')(配列番号51)を用いて標準的なPCR変異導入法によって行った。簡単に言えば、(リンカー2)-IL-7(PNS)を含むプラスミド鋳型として別個のPCR、1つはM(s)と下流プライマー5'-CTCGAGTCAGTGTTCTTTAGTGCCCATC-3'(配列番号52)で、もう一つはM(a)と上流プライマー5'-CCCGGGTGCTGGAGGTGGAGGATCAGGTG-3'(配列番号53)で、PCR反応を行い、PCR断片を精製し、これらを一緒にして、もう一度上流プライマー5'- CCCGGGTGCTGGAGGTGGAGGATCAGGTG -3'(配列番号54)と下流プライマー5'-CTCGAGTCAGTGTTCTTTAGTGCCCATC-3'(配列番号55)と用いて第2のPCRの鋳型とした。得られた精製断片をTAクローニングベクターPCR2.1(Invitrogen, Carlsbad, CA)に挿入し、その配列を確認した。(リンカー2)-IL-7(PNDS)をコードするXma I/Xho I断片を切り出し、同様に消化して精製したベクターpdCs-huFcシリーズ、pdC10-huFcγ2(h)(FN>AQ)の断片に連結し、huFcγ2(h)(FN>AQ)-(リンカー2)-IL-7(PNDS)をコードするプラスミドを作製した。
同様に、Fc部分の異なるこれらの融合タンパク質変種をコードするプラスミドを得る。例えば、huFcγ2(h)-(リンカー2)-IL-7(PNDS)をコードするプラスミドは(リンカー2)-IL-7(PNDS)をコードするXma I/Xho I断片を同様に消化して精製したベクターpdCs-huFcシリーズ、pdC10-huFcγ2(h)の断片に連結することによって得る。
実施例7:IL-7変種の発現および精製
huFc-DeI-IL-7タンパク質の真核生物発現のため、エレクトロポレーションを用いてこの融合タンパク質をコードするDNAを、マウスミエローマ細胞株NS/0に導入する。エレクトロポレーションを行うため、NS/0細胞を10%の熱不活性化ウシ胎児血清、2 mMグルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地中で増殖させる。約5x 106個の細胞をPBSで一度洗浄し、0.5mlのPBS中に再懸濁する。huFc-DeI-IL-7をコードする10μgの直線化したプラスミドDNAをジーン・パルサー・キュベット(Gene Pulser Cuvette)(電極間間隙0.4cm、BioRad)中、氷上で10分間細胞とインキュベーションする。エレクトロポレーションはジーン・パルサー(BioRad、Hercules, CA)を用いて0.25 Vおよび500μFの設定で行う。細胞を10分間氷上で回復させ、その後増殖培地中に再懸濁し、2枚の96穴プレートにプレーティングする。
安定にトランスフェクションされたクローンを100nMメトトレキセート(MTX)存在下の増殖により選別し、それらをトランスフェクションの2日後に増殖培地に添加する。細胞を3日毎に2〜3回フィードし、MTX耐性クローンは2〜3週間後に出現する。クローンの上清を抗Fc ELISAでアッセイし、IL-7融合タンパク質を多量に産生するクローンを同定する。高産生クローンを単離し、100nM MTXを含む増殖培地中で増殖させる。典型的には、H-SFMまたはCD培地(Life Technologies)のような無血清増殖培地を使用する。
Fcタンパク質部分のプロテインAに対するアフィニティーに基づいてFc-含有融合タンパク質の標準的な精製を行う。簡単に言えば、huFc-DeI-IL-7のような融合タンパク質を発現しているNS/0細胞を組織培養培地中で増殖させ、発現したタンパク質を含む上清を集め、予め平衡化したファストフロー・プロテインAセファロースカラム上に装荷する。次にこのカラムをバッファー(たとえば100mM リン酸ナトリウム、150mM NaCl、中性pH)で十分に洗浄する。結合したタンパク質を低いpH(pH2.5〜3)の上述したのと同じバッファーで溶出し、画分を直ちに中和する。
bDeI-IL-7の細菌発現および精製は、本質的には細菌発現IL-7(Cosenzaら、(1997) JBC, 272: 32995参照)に関してCosenzaらに記載されたように行う。要するに、bDeI-IL-7を封入体から単離し、変性させ、リフォールディングさせる。簡単にいえば、例えばbDeI-IL-7をコードする発現ベクターで形質転換した細菌発現培養物を対数増殖期の半ばまで増殖させ組換えタンパク質発現を誘導する。誘導後、この細菌を収集し、超音波処理によって溶解し、封入体をバッファーA(50mM Tris HCl(7.5)、5mM EDTA、20%シュークロース)中に単離する。十分に洗浄後、この封入体をグアニジン変性バッファー(50mM Tris-HCl (pH8.0)、5M グアニジンHCl、5mM EDTA)中に再懸濁し、短く超音波処理し6mM DTT中で還元する。変性bDeI-IL-7タンパク質をさらに変性サイズ排除HPLCによって精製する。次にこのタンパク質をリフォールディングバッファー(50mMグリシン、30mM NaOH、0.4M L-アルギニン、1mM DTT、pH10)中でリフォールディングさせ、リン酸バッファー中で透析し、更にサイズ排除HPLCにより精製する。
実施例8:IL-7変種の生化学的解析
IL-7タンパク質の完全性に対する導入した変異の影響を通常の還元および非還元SDS-PAGE分析およびサイズ排除クロマトグラフィーによって評価する。
例えば、NS/0細胞から発現された融合タンパク質huFc-DeI-IL-7を、それが分泌された組織培養培地中からプロテインAセファロースビーズ(Repligen、Needham、MA)上に捕捉し、βメルカプトエタノールのような還元剤を含むまたは含まないタンパク質サンプルバッファー中で煮沸することによって溶出する。サンプルをSDS-PAGEによって分画し、タンパク質バンドをクマシー染色によって視覚化する。適切なフォールディングを十分に妨害するIL-7変異を含む融合タンパク質はSDS-PAGEによって分解産物を示す可能性が高いと予測される。
精製huFc-DeI-IL-7もサイズ排除クロマトグラフィーによって解析し、この融合タンパク質が凝集している程度を評価する。簡単に言えば、細胞培養上清を予め平衡化したファストフロー・プロテインAセファロースカラムに装荷し、このカラムを生理的バッファー(たとえば、100mM リン酸ナトリウム、150mM NaCl、中性pH)で十分に洗浄し、結合したタンパク質を前述の同じ塩バッファー中で約pH2.5〜3にて溶出する。画分を直ちに中和し、ピーク画分を集め、小分け量を分析用SECカラム上で分画する。
実施例9:IL-7変種のin vitro活性
本発明の変異を含むIL-7変種がそのサイトカイン活性を維持しているかどうかを決定するため、in vitro細胞増殖バイオアッセイを行なう。ヒトPBMC(末梢血単核細胞)をPHA-Pにより活性化し、IL-7に応答性の細胞を作製する。増殖は標準的なチミジン取込アッセイにより測定する。
例えば、huFc-DeI-IL-7およびbDeI-IL-7のサイトカイン活性を決定する。簡単に言えば、PBMCをまず10μg/mlのPHA-Pと共にインキュベーションし、細胞を洗浄し、希釈列として調製したhuFc-DeI-IL-7またはbDeI-IL-7を含む培地中で合計48時間インキュベーションする。最後の12時間の間、このサンプルを0.3μCiの[メチル-3H]チミジン(Dupont-NEN-027)でパルスする。次に細胞を十分に洗浄し、回収し、ガラスフィルター上で溶解する。DNAに取りこまれた3H-チミジンをシンチレーション計測器で測定する。標準として、野生型huIL-7タンパク質(R&D Systems、Minneapolis, MNから入手、または国立生物基準管理研究所(National Institute for Biological Standard) (NIBSC)から入手)をアッセイする。
huFc-DeI-IL-7またはbDeI-IL-7に関する細胞増殖のED50を、標準的技術に従って用量応答曲線をプロットすることによって得て、最大半減の応答を生じさせるタンパク質濃度を決定する。
実施例10:野生型IL-7およびIL-7変種による、サルにおける抗-ヒトIL-7抗体の誘導
サルに投与した細菌由来ヒトIL-7がしばしば中和抗-ヒトIL-7抗体力価を生じさせることが知られている(Storek et al., (2003), Blood, 101:4209; Fry et al., (2003), Blood, 101:2294)。従って、原核生物産生変種IL-7および野生型IL-7タンパク質、および、野生型IL-7または変種IL-7ポリペプチドを含む真核生物産生融合タンパク質が非ヒト霊長類において中和抗体を誘導する特性を評価した。典型的な実験では、アカゲザルに40μg/kgのタンパク質サンプルを4週間に渡って一日一度皮下注射する。例えば、このタンパク質サンプルは、商業的に入手可能な原核生物産生IL-7(Pepro Tech, Rocky Hill, NJ)、原核生物産生変種IL-7(K68D, M69D, I88T, V94G)、および哺乳動物発現系で産生された等価なFc-IL-7融合タンパク質である。規則的な間隔で血清を動物から採取し、ヒトIL-7にアチする抗体の血清濃度をヒトIL-7被覆96穴プレート(Nunc, Naperville, IL)を用いたELISAによって測定する。典型的には各血清サンプルの連続希釈物を各ウェルに三つ組で2時間添加し、0.05% Tween(Tween 20)を含むPBSで洗浄し、PBS中の1% BSA/1%ヤギ血清でブロッキングする。各サンプルにホースラディッシュペルオキシダーゼ共役抗-アカゲザルIgGを添加し(サンプルバッファー中1:60,000)、37℃にて2時間インキュベーションし、プレートを0.05% Tweenを含むPBSで8回洗浄する。次に発色基質溶液OPD(o-フェニレンジアミンジヒドロクロリド)を用いて490nmにおけるODを測定し、650nmにて読み取ったバックグラウンドを差し引くことによってサンプルを評価する。
原核生物産生野生型IL-7は確かに高い抗-IL-7力価を生じさせることが見いだされる。対照的に、原核生物産生変種IL-7は顕著に低い力価の抗IL-7抗体を生じさせる。また、哺乳動物で産生した野生型および変種Fc-IL-7融合タンパク質(N-結合グリコシル化部位付近に変異を有する)を投与された動物によって産生される抗IL-7抗体力価の相違は顕著なものではなかった。この結果は、原核生物によって産生されたタンパク質にこれらの部位におけるグリコシル化が欠損していることがこれらのタンパク質の免疫原性に寄与していることを示しているのかもしれない。
実施例11:Fc-IL-7の免疫適格マウスにおける急性耐容性
Fc-IL-7融合タンパク質huFcγ2(h)(N>Q)(リンカー2)-huIL-7を実施例6に記載した方法に従って調製し、精製し、次に50mMリン酸塩、150mM 塩化ナトリウム pH7.00、0.05%(v/v) Tween80中に調製した。希釈した溶液のタンパク質濃度を280nmにおける吸光度および既知のタンパク質配列に基づく0.98mg/OD280という理論的吸光係数を用いて決定した。マウスに投与するため、投与の一時間以内に各サンプルの小分け量をストックバイアルからとって0.9%生理食塩水で希釈した。
17週齡のC57Bl/6マウス(Charles River Laboratories, Wilmington, MA)を2匹ずつの群に分け、連続して5日間Fc-IL-7を皮下投与した。これらの群には各日、0.5、5.0、25mg/kgまたはビヒクル対照を与えた。全てのマウスは7日間の実験の間生存し、7日目にマウスを犠牲にした。
第0、2、4および7日目の投与の6時間後にFc-IL-7血漿レベルを眼窩後部洞から血液サンプルを得ることによって決定した。血液凝固を防止するためヘパリンを含むチューブ中に血液サンプルを集めた。遠心により細胞を除去し、血漿中のインタクトなFc-IL-7融合タンパク質の濃度を標準的なELISA法を用いて測定した。テストマウスについてFc-IL-7の血漿レベル(μg/μl)を図36に示した。マウスの血漿はテストした全ての時点で用量応答性のFc-IL-7濃度の増加を示し、各投与に従って更に増加した。しかしながら、図37に示したように、各投与後の増加の程度は低下した。
Fc-IL-7の機能的活性を最初の投与後第7日目のB細胞およびT細胞の増加を測定することによって確認した。IL-7はB細胞およびT細胞のような免疫エフェクター細胞の産生を増強するので、脾臓の細胞充実性および重さが増加すると期待される。マウスを第7日に犠牲にし、器官を取り出し重さを量った。図38は第7日における器官の重さの平均を示す。予想されたように、脾臓の重さは最初の投与の1週間後に3〜5倍増加した。肺の重さはリンパ球浸潤のためFc-IL-7の2種のより高用量投与後に2倍増加した。腎臓または肝臓においては重さの変化は見られなかった。
全ての群においてB細胞(CD19+,CD4+、CD8+および顆粒球(GR-1+))の応答が第7日に観察された。図39は各群の二匹のマウスの末梢血中のGr-1+細胞の頻度を示す。データに示したように、顆粒球は一般にFc-IL-7に非応答性であった。図40は、各群の二匹のマウスの末梢血中のCD19+細胞の頻度を示す。図41は各群の二匹のマウスの末梢血中のCD4+細胞の頻度を表し、一方図42は各群の二匹のマウスの末梢血中のCD8+細胞の頻度を表す。B細胞数(図40)およびT細胞数(図41および42)の増加はテストした各マウスで5mg/kg用量について最大であり、対照群および0.5mg/kg用量群に比較して顕著なT細胞およびB細胞数の増加を示した。しかしながら、T細胞数は25mg/kg用量群において減少また増加した。細胞の全ての測定値は血液1μLあたりの細胞数として示した。
実施例12:ヒトFc-IL-7活性の評価
末梢血単核細胞(PBMC)PHA芽細胞を用いてYokotaら(1986)、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83:5894およびSternら、(1990), Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:6808-6812に記載された方法に従った標準的な細胞増殖アッセイにおいて、ヒトIL-7を標準として用いてトリチウム化チミジン取込によって実施例11でテストしたFc-IL-7融合タンパク質の生物学的活性を測定した。図43に示したように、トリチウム化チミジンの取込によって測定したFc-IL-7に関する細胞増殖は標準NIBSCヒトIL-7(World Health Organization)の場合と同様であり、このことはFc-IL-7分子の活性が野生型ヒトIL-7と同様であることを示す。
等価物
本発明の精神及び本質的特徴から逸脱することなく他の具体的な形態で本発明を具体化することができよう。従って、上述の実施態様は本明細書に記載した本発明を限定する者ではなくいかなる意味でも例示的なものであると介すべきである。本発明の範囲は上述の記載ではなく請求の範囲によって示され、請求項と等価な範囲及び意味の内に含まれる全ての改変は請求の範囲に含まれることが意図されている。
図1は、ヒトIL-7のアミノ酸配列を表す。シグナル配列は太字で示されている。また、IL-7配列から欠失させ得る18アミノ酸列を太字かつ斜体で示してある。 図2は、ウシIL-7のアミノ酸配列を表す。シグナル配列は太字で示されている。 図3は、ヒツジIL-7のアミノ酸配列を表す。シグナル配列は太字で示されている。 図4は、T細胞エピトープが改変された例示的な脱免疫ヒトIL-7のアミノ酸配列を表す。 図5は、細菌で産生した脱免疫ヒトIL-7のアミノ酸配列を表す。 図6は、F39P、F57NおよびL128S変異に対するコドンを導入した成熟IL-7をコードする核酸配列を表す。 図7はF39P、F57NおよびL128S変異を含む成熟IL-7のアミノ酸配列を表す。 図8は、F39P、F57N、L77DおよびL128S変異に対するコドンを導入した成熟IL-7をコードする核酸配列を表す。 図9は、F39P、F57N、L77DおよびL128S変異を含む成熟IL-7のアミノ酸配列を表す。 図10は、K68D、M69D、I88T、V96Gアミノ酸変異に対するコドンを有する大腸菌用にコドン最適化された、細菌産生脱免疫IL-7(bDeI-IL-7)をコードする核酸配列を表す。 図11は、K68D、M69D、I88T、V96Gアミノ酸変異に対するコドンを有する成熟IL-7変種、脱免疫IL-7(DeI-IL-7)をコードする核酸配列を表す。 図12は、Fc部分がγ1ヒンジ、γ1 CH2およびγ1 CH3領域からなるFcγ1-IL-7のアミノ酸配列を表す。 図13は、γ1ヒンジ、γ2 CH2ドメインおよびγ2 CH3ドメインを有するFc部分である、ヒトFcγ2(h)(FN>AQ)-IL-7のアミノ酸配列を表す。Fc部分にはアミノ酸変異F296AおよびN297Qが含まれている。 図14は、アミノ酸配列GGGGSGGGGSGGGGSのポリペプチドリンカーを介してIL-7部分に接続された、γ1ヒンジ、CH1およびCH2領域からなるFc部分であるFcγ1-(リンカー1)-IL-7のアミノ酸配列を表す。 図15は、アミノ酸配列GGGGSGGGGのポリペプチドリンカーを介してIL-7部分に接続され、Y296A変異およびN297Q変異を含む、γ1ヒンジ、CH1およびCH2領域からなるFc部分であるFcγ1(YN>AQ)-(リンカー2)-IL-7のアミノ酸配列を示す。 図16は、Y296A変異およびN297Q変異並びにFc部分のC-末端リジンおよび先行するグリシンの欠失を含む、γ1ヒンジ、CH1およびCH2ドメインを有するγ1 Fc部分である、Fcγ1(YN>AQ,d)-(リンカー2)-IL-7のアミノ酸配列を表す。Fc部分はアミノ酸配列GGGGSGGGGのポリペプチドリンカーを介してIL-7部分に接続されている。 図17は、全てがIgG1由来であるヒンジ、CH1ドメインおよびCH2ドメインを有するFc部分であるFcγ1の核酸配列を表す。 図18は、全てがIgG1由来であるヒンジ、CH1ドメインおよびCH2ドメインを有するFc部分であるFcγ1(YN>AQ)の核酸配列を表す。前記Fc部分はTyr296AlaおよびAsn297Gln変異を含んでいる。 図19は、IgG1ヒンジ、並びに、IgG2 CH2およびCH3ドメインを有するFc部分である、Fcγ2(h)の核酸配列を表す。 図20は、IgG1ヒンジ並びに、IgG2 CH2およびCH3ドメインを有するFc部分である、Fcγ2(h)(FN>AQ)の核酸配列を表す。前記Fc部分はF296AおよびN297Q変異を含む。 図21は、成熟ヒト脱免疫IL-7.1のアミノ酸配列を表す。前記IL-7はL24D、M54A、F57K、A60S、R61E、M147K、T149S置換を含み、残基K150、E151およびH152が欠失している。 図22は、図21記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列を表す。 図23は、D76N、L77D、T87Q、I88T、V96G、L119S、L128V、M147K、T149S置換を含み、残基K150、E151およびH152が欠失している成熟ヒト脱免疫IL-7.2のアミノ酸配列を表す。 図24は、図23記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列を表す。 図25は、L24D、I30T、F39P、M54A、F57K、A60S、R61E、M68D、N69D、L77D、T87Q、I88T、V96G、L119S、L128A、M147K、T149S置換を含み、残基K150、E151およびH152が欠失している成熟ヒト脱免疫IL-7.3のアミノ酸配列を表す。 図26は、図25記載のアミノ酸配列をコードする核酸配列を表す。 図27は、リンカー配列GGGGSGGGGに続いてアミノ酸置換F39P、F57NおよびL128S(PNS)を含み5'および3'端にそれぞれXma IおよびXho I制限酵素部位を含む成熟ヒトIL-7をコードする核酸配列を表す。 図28は、F39P, F57N, L77DおよびL128S変異を含むヒトIL-7部分のN-末端に接続された、F296AおよびN297Q変異を含む、IgG1ヒンジ、並びにIgG2 CH2およびCH3ドメインを有するヒトFc部分であるhuFcγ2(h)(FN>AQ)(リンカー2)-IL-7(F39P, F57N, L77D, L128S)の核酸配列を表す。 図29は、F39P, F57N, L77DおよびL128S変異を含むヒトIL-7部分のN-末端に接続された、IgG1ヒンジ、並びにIgG2 CH2およびCH3ドメインを有するヒトFc部分であるhuFcγ2(h)-(リンカー2)-IL-7(F39P, F57N, L77D, L128S)の核酸配列を表す。前記Fc部分とIL-7部分とはリンカー配列GGGGSGGGGによって接続されている。 図30は、F39P、F57NおよびL128S変異を含むヒトIL-7部分のN-末端に接続された、IgG1ヒンジ、並びにIgG2 CH2およびCH3ドメインを有するヒトFc部分であるhuFcγ2(h)- (リンカー2)-IL-7(F39P, F57N, L128S)の核酸配列を表す。前記Fc部分とIL-7部分とは配列GGGGSGGGGのリンカーによって接続されている。 図31は、IgG1のヒンジ並びにIgG2のCH2およびCH3ドメインを有するヒトFc部分である、成熟huFcγ2(h)(FN>AQ)-(リンカー2)-IL-7(F39P, F57N, L128S)のアミノ酸配列を表す。前記Fc部分はF296AおよびN297Q変異を含む。前記Fc部分はIL-7部分に配列GGGGSGGGGのリンカーを介して接続されている。前記IL-7部分は、F39P, F57Nおよび L128S変異を含む。 図32は、IgG1のヒンジ並びにIgG2のCH2およびCH3ドメインを有するヒトFc部分である、成熟huFcγ2(h)(FN>AQ)-(リンカー2)-IL-7(F39P, F57N, L77D, L128S)のアミノ酸配列を表す。前記Fc部分はF296AおよびN297Q変異を含む。前記Fc部分は配列GGGGSGGGGのリンカーを介してIL-7部分に接続されている。前記IL-7部分はF39P、F57N、L77DおよびL128S変異を含む。 図33は、IgG1のヒンジ並びにIgG2のCH2およびCH3ドメインを有するヒトFc部分である、成熟huFcγ2(h)-(リンカー2)-IL-7(F39P, F57N, L77D, L128S)のアミノ酸配列を表す。前記Fc部分は配列GGGGSGGGGのリンカーを介してIL-7部分に接続されている。前記IL-7部分はF39P、F57N、L77DおよびL128S変異を含む。 図34は、IgG1のヒンジ並びにIgG2のCH2およびCH3ドメインを有するヒトFc部分である、成熟huFcγ2(h)-(リンカー2)-IL-7(F39P, F57N, L128S)のアミノ酸配列を表す。前記Fc部分は配列GGGGSGGGGのリンカーを介してIL-7部分に接続されている。前記IL-7部分はF39P、F57N、L77DおよびL128S変異を含む。 図35は、ヒト、チンパンジー、ヒヒ、マカク、ウシ、ブタ、ヒツジ、ラットおよびマウス起源のIL-7タンパク質のアミノ酸配列アラインメントである。 図36は、Fc-IL-7を皮下投与した試験マウスおよび対照マウスについてFc-IL-7の血漿濃度をμg/mlで表した図である。 図37は、Fc-IL-7を皮下投与(SC)した試験マウスにおける第0日と第2日、および第2日と第4日の血漿Fc-IL-7濃度の平均変化倍率を示している。 図38は、対照群のマウスの平均器官質量に比較した、第7日おいて犠牲にした試験マウスから得た平均器官質量を表す。 図39は、対照群、0.5 mg/kg投与群、5.0 mg/kg投与群、および25 mg/kg投与群マウスの第7日における末梢血中のGr-1+細胞の頻度(細胞/μL)の比較を示した図である。 図40は、対照群、0.5 mg/kg投与群、5.0 mg/kg投与群、および25 mg/kg投与群マウスの第7日における末梢血中のCD19+細胞の頻度(細胞/μL)の比較を示した図である。 図41は、対照群、0.5 mg/kg投与群、5.0 mg/kg投与群、および25 mg/kg投与群マウスの第7日における末梢血中のCD4+細胞の頻度(細胞/μL)の比較を示した図である。 図42は、対照群、0.5 mg/kg投与群、5.0 mg/kg投与群、および25 mg/kg投与群マウスの第7日における末梢血中のCD8+細胞の頻度(細胞/μL)の比較を示した図である。 図43は標準的な細胞増殖アッセイにおけるIL-7/Fc-IL-7濃度に対するカウント毎分で表したトリチウムチミジン取込みに基づいた、野生型IL-7に比較したFc-IL-7の活性を表す図である。

Claims (8)

  1. 改変ヒトIL-7分子を含む、抗-IL-7 T細胞応答を低下させるように改変されたT細胞エピトープを有するポリペプチドであって、更に前記改変ヒトIL-7分子のN-末端にC-末端で融合した免疫グロブリンの分子のFc部分を含み、前記融合したFc-IL7分子が以下から選ばれる、前記ポリペプチド:
    (i)配列番号33に記載の配列を有するhuFcγ2(h)(FN>AQ)-L-IL-7(F39P, F57N, L128S)(式中、huFcγ2(h)(FN>AQ)はF296AとN297Q変異を有する、IgG1のヒンジ並びにIgG2のCH2およびCH3ドメインを含むヒトFc部分であり、Lは配列GGGGSGGGGのリンカーであり、IL-7(F39P, F57N, L128S)は変異F39P、F57NおよびL128Sを含むIL-7である);
    (ii)配列番号34に記載の配列を有するhuFcγ2(h)(FN>AQ)-L-IL-7(F39P, F57N, L77D, L128S)(式中、huFcγ2(h)(FN>AQ)はF296AとN297Q変異を有する、IgG1のヒンジ並びにIgG2のCH2およびCH3ドメインを含むヒトFc部分であり、Lは配列GGGGSGGGGのリンカーであり、IL-7(F39P, F57N, L77D, L128S)は変異F39P、F57N、L77DおよびL128Sを含むIL-7である);
    (iii)配列番号35に記載の配列を有するhuFcγ2(h)-L-IL-7(F39P, F57N, L77D, L128S)(式中、huFcγ2(h)はIgG1のヒンジ並びにIgG2のCH2およびCH3ドメインを含むヒトFc部分であり、Lは配列GGGGSGGGGのリンカーであり、IL-7(F39P, F57N, L77D, L128S)は変異F39P、F57N、L77DおよびL128Sを含むIL-7である);および、
    (iv)配列番号36に記載の配列を有するhuFcγ2(h)-L-IL-7(F39P, F57N, L128S)(式中、huFcγ2(h)はIgG1のヒンジ並びにIgG2のCH2およびCH3ドメインを含むヒトFc部分であり、Lは配列GGGGSGGGGのリンカーであり、IL-7(F39P, F57N, L128S)は変異F39P、F57NおよびL128Sを含むIL-7である)
  2. 免疫グロブリンがヒト免疫グロブリンである、請求項記載のポリペプチド。
  3. 免疫グロブリンがIgG2である、請求項1または2記載のポリペプチド。
  4. 請求項1〜のいずれか1項記載のポリペプチドをコードする核酸分子。
  5. 請求項記載の核酸分子を含む発現ベクター。
  6. 請求項記載の発現ベクターを含む原核細胞。
  7. 癌またはHIV疾患治療用の医薬の製造のための、請求項1〜のいずれか1項記載のポリペプチドの使用。
  8. 患者に投与されるポリペプチドの有効量が0.01〜10mg/kg/日である、請求項記載の使用。
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