ところが、特許文献1に記載の処理方法では、ステータコアの軸が横に寝てコイルの両コイルエンド部が水平方向に延在する姿勢でコイルにワニスを少量で滴下含浸させている。この方法では、先ず、両コイルエンド部への滴下において、大量に滴下するとコイルエンド部からワニスが垂れ落ちてしまうため、滴下量を、例えば1(g/秒)以下の少量にする必要があった。また、コイルにワニスを含浸させるのに毛細管現象のみに頼らざるを得ず、ワニスの含浸時間を短縮させることが困難であった。この点に鑑み、本願出願人は、本願と同時に出願した発明において、コイルエンドが上下に位置するようにステータコアを水平に保持した状態でコイルエンドの上面からワニスを含浸流下させる方法を提案した。この提案方法では、コイルエンドの上面からワニスを含浸流下させることから、ステータコア表面へワニスが垂れ落ちてステータコア内周、外周面までワニスが付着する懸念があった。従って、ステータコア内周、外周面へのワニス付着防止やコイルに対するワニス含浸について更に改善の余地がある。
この発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、ステータコア表面へのワニスの垂れ落ちを低減し、ステータコアの内外周面までへの付着を防止し、コイルにおけるワニスの含浸ムラをなくし、歩留まりをあげることのできるワニス処理方法及びそのために使用されるワニス処理装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、ステータコアに装着されたコイルにワニスを含浸させるワニス処理方法において、ステータコア端面から突出するコイルエンドの内外周側面のうち少なくとも外周側面に、前記ステータコア端面と前記コイルエンドとの間をシールするシール部材を配設し、前記シール部材と前記コイルエンドとの間に隙間を持たせて前記コイルエンドの側面を覆うシール工程と、前記シール部材が配設された前記コイルエンドを上に向けて前記ステータコアに装着されたコイルのコイルエンドが上下になる姿勢で前記ステータコアを保持し、前記コイルエンドの上面からワニスを注入し、前記コイルエンドの上から下へ前記ワニスを含浸流下させるように前記ワニスを供給する第1供給工程と、前記ステータコアを上下反転させる反転工程と、前記反転工程で反転された前記ステータコアのコイルエンドの上面からワニスを注入し、前記コイルエンドの上から下へ前記ワニスを含浸流下させるように前記ワニスを供給する第2供給工程と、を含むことを趣旨とする。
上記発明の構成によれば、シール工程で、コイルエンドの内外周側面のうち少なくとも外周側面に、ステータコア端面とコイルエンドとの間をシールするシール部材が配設され、そのシール部材とコイルエンドとの間に隙間を持たせた状態でコイルエンドの側面がシール部材により覆われる。その後、供給工程では、シール部材が配設されたコイルエンドを上に向けてステータコアに装着されたコイルのコイルエンドが上下になる姿勢でステータコアが保持された状態で、コイルエンドの上面からワニスを注入し、コイルエンドの上から下へワニスを含浸流下させるようにワニスが供給される。従って、ステータコア端面とコイルエンドとの間がシール部材によりシールされるので、コイルエンドに供給されるワニスがステータコア外周面に垂れ落ちることがない。また、供給されるワニスがコイルエンドの側面とシール部材との間の隙間に入り込むので、その側面からもコイルエンドにワニスが含浸することとなる。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、コイルエンドの内周側面にはシール部材を配設せず、ワニスの供給量に見合った速度でステータコアを回転させながらワニスを供給し、遠心力にてコイルエンドの内周側面からステータコア内周面へのワニスの垂れ付着を抑制することを趣旨とする。
上記発明の構成によれば、請求項1に記載の発明の作用に加え、コイルエンドの内周側面にはシール部材を配設しないので、シールに要する時間が不要となる。更に、コイルエンドの内周側面に流れたワニスは、その内周側面から遠心力の作用によりステータコアの内周面に垂れ落ちることなくコイルエンドを通って含浸することになり、満遍なくワニスが供給される。
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、コイルエンドの外周側面には筒状のシール部材が配設され、そのシール部材は、自身の弾性力によりコイルエンドの根本に嵌着されることを趣旨とする。
上記発明の構成によれば、請求項1又は2に記載の発明の作用に加え、シール部材が自身の弾性力によりコイルエンドの根本に嵌着されるので、シール部材の着脱が容易となる。
上記目的を達成するために、請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、シール部材は、リング部材により外部から締め付けられることを趣旨とする。
上記発明の構成によれば、請求項3に記載の発明の作用に加え、シール部材がリング部材で締め付けられることから、コイルエンドの外周側面にシール部材が強固に装着される。
上記目的を達成するために、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4の何れかに記載の発明において、シール部材とコイルエンドとの間に持たせた隙間は、コイルエンドの根本へ向けて徐々に小さくなることを趣旨とする。
上記発明の構成によれば、請求項1乃至4の何れかに記載の発明の作用に加え、隙間がコイルエンドの根本へ向けて徐々に小さくなるので、隙間に溜まったワニスがその自重により側面からもコイルエンドに含浸し、かつ、最後には溜まったワニスは全量がコイルエンドへ含浸し、シール部材には残らない。
上記目的を達成するために、請求項6に記載の発明は、ステータコアに装着されたコイルにワニスを含浸させるワニス処理装置であって、ステータコア端面から突出するコイルエンドの内外周側面のうち少なくとも外周側面に配設され、ステータコア端面とコイルエンドとの間をシールすると共に、コイルエンドとの間に隙間を持たせてコイルエンドの側面を覆うシール部材と、シール部材が配設されたコイルエンドを上に向けてステータコアに装着されたコイルのコイルエンドが上下になる姿勢でステータコアを保持し、コイルエンドの上面にワニスを供給する第1ワニス供給手段と、上下反転された前記ステータコアのコイルエンドの上面からワニスを注入し、前記コイルエンドの上から下へ前記ワニスを含浸流下させるように前記ワニスを供給する第2ワニス供給手段と、を備えたことを趣旨とする。
上記発明の構成によれば、コイルエンドの内外周側面のうち少なくとも外周側面にて、ステータコア端面とコイルエンドとの間がシール部材によりシールされ、そのシール部材とコイルエンドとの間に隙間を持たせた状態でコイルエンドの側面がシール部材により覆われる。そして、シール部材が配設されたコイルエンドを上に向けてステータコアに装着されたコイルのコイルエンドが上下になる姿勢でステータコアが保持された状態で、ワニス供給手段からコイルエンドの上面にワニスを供給することにより、コイルエンドの上面からワニスが注入され、コイルエンドの上から下へワニスが含浸流下することとなる。このとき、ステータコア端面とコイルエンドとの間がシール部材によりシールされるので、コイルエンドに供給されるワニスがステータコア内外周面までに垂れ落ちることがない。また、供給されるワニスがコイルエンドの側面とシール部材との間の隙間に入り込むので、その側面からもコイルエンドにワニスが含浸することとなる。
上記目的を達成するために、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の発明において、シール部材とコイルエンドとの間に持たせた隙間は、コイルエンドの根本へ向けて徐々に小さくなることを趣旨とする。
上記発明の構成によれば、請求項6に記載の発明の作用に加え、隙間がコイルエンドの根本へ向けて徐々に小さくなるので、隙間に溜まったワニスがその自重により側面からコイルエンドに含浸し易くなる。
請求項1に記載の発明によれば、ステータコア内外周面までへのワニスの垂れ落ちや付着を防止することができ、コイルにおけるワニスの含浸ムラをなくし、歩留まりをあげることができる。
請求項2に記載の発明によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、シール部材を含む装置構成につき小型化と簡略化を図ることができ、ワニス処理のサイクルタイムを短縮することができる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、シール部材の装着や取り外しを比較的簡単な手作業や機械装置で供給工程以前に実施することができる。
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に記載の発明の効果に加え、シール部材によるシール性を向上させることができる。
請求項5に記載の発明によれば、請求項1乃至4の何れかに記載の発明の効果に加え、同時にコイルエンド側面からのワニスの充填性を向上させることができ、ワニス充填時間を更に短縮することができる。
請求項6に記載の発明によれば、ステータコア内外周面までへのワニスの垂れ落ちや付着を防止することができ、コイルにおけるワニスの含浸ムラをなくし、歩留まりをあげることができる。
請求項7に記載の発明によれば、請求項6に記載の発明の効果に加え、同時にコイルエンド側面からのワニスの充填性を向上させることができ、ワニス充填時間を更に短縮することができる。
[第1実施形態]
以下、本発明のワニス処理方法及びワニス処理装置を具体化した第1実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
図1に、本実施形態のワニス処理方法が実施されるステータ1の概略形状を断面図により示す。このステータ1は、ステータコア2のスロット2c(図2参照)にコイル3が装着されたものである。ワニス処理後のステータ1は、ステータとして高占積率の電動機に使用される。図1は、ステータ1が水平に保持された状態、すなわち、ステータコア2が縦向きとなる状態を示す。図1において、ステータコア2及びコイル3についての断面表記(ハッチング)は、便宜上省略する。ステータコア2は、電磁鋼板を積層して円環状に構成される。水平に保持された状態において、コイル3のうちステータコア2の上側端面2aから上方へ突出する部分が上側コイルエンド3aであり、ステータコア2の下側端面2bから下方へ突出する部分が下側コイルエンド3bである。下側コイルエンド3bからは、コイル端子3cが横方向へ突出する。ここで、ステータコア2が水平に保持される状態とは、ステータコア2に装着されたコイル3のコイルエンド3a,3bが上下になる姿勢でステータコア2の姿勢を意味し、特に上側コイルエンド3aと下側コイルエンド3bとの間のコイル3が上下に延在するようなステータコア2の姿勢を意味する。
図2に、一般によく用いられるコイル分布巻きステータを例にし、図1に示すステータ1のコイル構成を説明するために、コイルエンド部を簡素にしてイメージした模式的なステータを斜視図により詳細に示す。図3に、ステータ1の内周面における各相1ブロックにつき、ステータコア2とコイル3との関係を模式的に正面図により示す。ステータコア2は、所定の厚みを有し円環状をなす。ステータコア2の内周には、垂直方向へ延びる複数のスロット2cが互いに平行に形成される。これらスロット2cに対し、U相、V相及びW相を構成する異なる巻線3U,3V,3Wは、相間紙4を介して絶縁させて装着される。すなわち、各相の巻線3U〜3Wは、ステータコア2の上端面2aと下端面2bとの間を、スロット2cを介して往復するかたちでステータコア2に装着される。そして、図2に示すように、各巻線3U〜3Wのうち、ステータコア2の上端面2aと下端面2bからそれぞれ突出した部分が寄せ合わされ束ねられることにより、図1に示すように、上側コイルエンド3a及び下側コイルエンド3bが形成される。上側コイルエンド3aと下側コイルエンド3bは、スロット2cを通る巻線3U〜3Wを介してつながる。このため、図1〜3に示すように、ステータ1(ステータコア2)を水平に保持した状態では、上側コイルエンド3aの上面から液体状のワニスを注入することにより、そのワニスは、各スロット2cを介して下側コイルエンド3bへ含浸流下することが可能である。このことは、コイル集中巻きステータやカセット式コイルのステータ等においても同様な関係である。
次に、上記したコイル3にワニスを含浸させるワニス処理方法について説明する。ワニスは、主としてコイル3を構成する線材を固着するためと、コイル3の放熱性(熱伝導性)を高めるためにコイル3に注入される。図4に、ステータコア2に装着されたコイル3にワニスを含浸させるワニス処理方法の手順をフローチャートにより示す。
この実施形態のコイル3は、製品サイズに応じて、一般に、200〜500gのワニスを注入、充填する必要がある。この実施形態では、ワニスがコイル3以外のステータコア2の内外周側面に付着することがないようにし、かつ大幅に短い時間のうちにコイル3にワニスを充填ムラなく安定して含浸させることを目的としてワニス処理方法が実施される。
先ず、ステップ1では、図1に示すステータ1を所定の温度に前加熱する。この実施形態では、ステータ1(ステータコア2及びコイル3)が「約120℃」の温度になるよう事前に加熱する。
次に、ステップ2へ移行する前に、本発明のシール工程に相当する第1シールを実施する。すなわち、上側コイルエンド3aの内周側面と外周側面のそれぞれをシールする。図5に、図1の2点鎖線で囲んだ部分にシール装置11を装着した状態を概略図により示す。図5に示すように、シール装置11は上側コイルエンド3aに装着される。シール装置11は、上側コイルエンド3aの内周側面及びステータコア2の内周側面の一部、並びにステータコア2の上端面2aの一部をシールするための内周シール具12と、上側コイルエンド3aの外周側面及びステータコア2の上端面2aの一部をそれぞれシールするための外周シール具13とから構成される。内周シール具12と外周シール具13は互いに別部材であり、各々別々に装着される。
内周シール具12は、内周シール部材14と、内周押さえ枠15とを含む。内周押さえ枠15の内部には、内周シール部材14を加熱保温するためのプレートヒータ16が設けられる。内周シール部材14は、上側コイルエンド3aの内周側面の一部に当接した状態で、内側から内周押さえ枠15により押圧される。内周シール部材14及び内周押さえ枠15は、コイル3の内周に沿った形状をなし、上側コイルエンド3aの内周に対して垂直方向へ移動させることで着脱可能に設けられる。内周シール部材14及び内周押さえ枠15は、複数片に分割可能な構造であってもよい。内周シール部材14は、上側コイルエンド3aの内周側面に沿って配設され、ステータコア2の上端面2aと上側コイルエンド3aとの間をシールすると共に、上側コイルエンド3aとの間に隙間G1を持たせて上側コイルエンド3aの内周側面を覆う。内周シール部材14の上側コイルエンド3aとの対向面14bは、上側コイルエンド3aの根本へ向けて傾斜するテーパをなす。これにより、上記隙間G1が、上側コイルエンド3aの根本へ向けて徐々に小さくなっている。この隙間G1は、上側コイルエンド3aの内周側面の70%以上の範囲に対応して設けられる。内周シール部材14が上側コイルエンド3aの内周側面に接するのは、上側コイルエンド3aの根本に近い部分だけである。
一方、外周シール具12は、外周シール部材16と、外周押さえ枠17とを含む。外周押さえ枠17の内部には、外周シール部材16を加熱保温するためのプレートヒータ16が設けられる。外周シール部材16は、上側コイルエンド3aの外周側面に当接した状態で、外側から外周押さえ枠17により押圧される。外周シール部材16及び外周押さえ枠17は、コイル3の外周に沿った形状をなし、上側コイルエンド3aの外周に対して水平方向へ移動させることで着脱可能に設けられる。外周シール部材16及び外周押さえ枠17は、複数片に分割可能な構造であってもよい。外周シール部材16は、上側コイルエンド3aの外周側面に沿って配設され、ステータコア2の上端面2aと上側コイルエンド3aとの間をシールすると共に、上側コイルエンド3aとの間に隙間G2を持たせて上側コイルエンド3aの外周側面を覆う。外周シール部材16の上側コイルエンド3aとの対向面16bは、上側コイルエンド3aの根本へ向けて傾斜するテーパをなす。これにより、上記隙間G2が、上側コイルエンド3aの根本へ向けて徐々に小さくなっている。この隙間G2は、上側コイルエンド3aの外周側面の70%以上の範囲に対応して設けられる。外周シール部材16が上側コイルエンド3aの外周側面に接するのは、上側コイルエンド3aの根本に近い部分だけである。
各シール部材14,16には、シリコンゴムの他、フッ素ゴム等の120℃以上の耐熱性と耐薬品性を有する材料を選定することができる。また、製品と接する各シールの面は、事前に製品モデルを転写した型を用いて鋳型にしたものが用いられる。図5に示すように、上側コイルエンド3aの内外周が両シール部材14,16によりシールされた状態で、両シール部材14,16の上部が上側コイルエンド3aの上面より上方へ突出しており、その突出部分が上側コイルエンド3aの上面に対して堤部14a,16aをなしている。
上記したように第1シールでは、上側コイルエンド3aの内外周側面に、ステータコア2の上端面2aと上側コイルエンド3aとの間をシールする内周シール部材14及び外周シール部材16をそれぞれ配設し、各シール部材14,16と上側コイルエンド3aとの間に隙間G1,G2を持たせて上側コイルエンド3aの内外周側面を覆うのである。
その後、ステップ2では、第1供給工程を実施する。すなわち、ステータコア2に装着されたコイル3のコイルエンド3a,3bが上下になる姿勢でステータコア2を、図1に示すように水平に保持した状態で、上側コイルエンド3aの上面からワニスを多点ノズル24で注入する。そして、注入された上側コイルエンド3aの上から下へ含浸流下するワニスが、コイル3のうち下側コイルエンド3bの外部に達するより前にゲル化するように供給量を制御しながらワニスを供給する。
図6に、本発明のワニス供給手段に相当するワニスの注入装置21の概略構成を斜視図により示す。図6において、上記したシール装置の図示は便宜上省略する。ステータ1は、例えば、搬送用パレット22の上に置かれて固定され、水平に保持される。また、ステータ1を、搬送用パレット22ごとに水平回転可能又は水平揺動可能にできる設備機構が別途設けられる。ワニス注入時には、ステータ1を水平回転又は水平揺動させるようになっている。ワニスの注入装置21は、2液直前混合装置23と、その混合装置23で混合した2液反応状態のワニスを吐出する3本のノズル24とを備える。2液直前混合装置23は、2液体反応材料を供給する二つの配管25,26と、供給された2種類の液体材料を混合するために二つの配管25,26が、各々開閉バルブ機構を介して接続された混合器27と、混合器27を駆動するモータ28と、混合器27の出口に取り付けられた円板29とを備える。例えば、3本の各ノズル24は、混合器27から放射状に分岐して設けられる。2液体反応材料が混合器27で混合されることにより所定のワニスが作られる。この実施形態では、2液体反応材料として、例えば、不飽和ポリエステル系の熱硬化性樹脂と、MEK過酸化化合物又はエステル系過酸化化合物よりなる触媒材料とが使われ、これら液体材料を注入直前に混合することにより、従来の10倍以上の速度でゲル化するハイキュアなワニスを得るようになっている。この実施形態では、ワニスとして、上側コイルエンド3aの上面から注入されてから下側コイルエンド3bの外部に達するまでの時間以内にゲル化が始まるようなハイキュアなワニス材が用いられる。このように得られたワニスは、各ノズル24の先端から吐出されて上側コイルエンド3aの上面からコイル3に注入される。この実施形態では、各ノズル24からのワニスの吐出を、上側コイルエンド3aの上面に対し同じ高さから行うために、各ノズル24の上下位置が設定される。また、各ノズル24の先端は、ステータ1のW,V,Uの各相のコイルブロックが同一円周上に並ぶ規則性を利用し、コイル3のW,V,Uの各相の適切な位置に各1個配置される。
このように上側コイルエンド3aの上面からワニスを注入することで、毛細管浸透と重力浸透の効果が得られ、ワニスが上側コイルエンド3aを上から下へ向けて速やかに含浸流下することとなる。このように毛細管浸透と重力浸透の効果が得られるので、コイル3に対するワニスの浸透速度として、従来例の5倍以上の速度を引き出すことができる。ワニス注入時にステータ1を水平回転又は水平揺動させることと、上側コイルエンド3aの上面にワニスを多点ノズルで注入することで、満遍なく供給するようにしている。すなわち、図5に示すように、各コイルエンド3a,3bは、相間紙4により幅方向に、W相、V相及びU相の3つの巻線3U〜3Wに仕切られるが、これらの巻線3U〜3Wへワニスを満遍なく供給するようにしている。この実施形態では、例えば、ステータ1の水平回転を「30rpm」の回転速度で行い、その回転によりステータ1が同じ位置に戻るまでにワニスの含浸が丁度終わるまでの最大注入量として、従来法の最大1(g/秒)のステータ1において、一つのノズル24の全体からの注入速度が「7g/秒」となるように設定することができる。また、上記した各シール部材14,16に堤部14a,16aが設けられるので、上側コイルエンド3aの上面に吐出されたワニスが、同コイルエンド3aの内外周側面やステータコア2の上端面2aに垂れ落ちないようにしている。同時に、注入されるワニスを、上側コイルエンド3aの上面に一旦溜まる程度に受けることができるので、製品として含浸できる最大量と同等レベルの量のワニスを供給することができ、注入中連続して最大浸透速度を引き出すことができる。これにより、所定量のワニスをコイル3に注入するための注入時間を大幅に短縮することができる。
ここでは、ステータ1が、ステータコア2に装着されたコイル3のコイルエンド3a,3bが上下になる姿勢で水平に保持されるので、その意味でも、注入中にコイル3の内部に含浸するワニスが、常にコイル3の上から下へ含浸流下することとなり、かつ、ステータコア2が傾かないことで、ステータコア2の内外周側面にワニスが垂れ落ちることを原理的に防止することができる。
この実施形態では、上記したように2液体反応材料を注入直前に混合することによりハイキュアなワニスを得ている。2液体反応材料として、例えば、熱硬化性樹脂と触媒を組み合わせている。その2液体反応材料は、定量ポンプで計量され、必要な配合比で事前に定量混合される。例えば、必要な配合比として、熱硬化性樹脂と触媒の質量比を「100:1〜5」とすることができる。図7に、ワニスの粘度特性をグラフに示す。この実施形態で使用されるワニスは、「120℃」の温度状態で注入された場合に、ゲル化時間が「60秒以下」となるように設定される。ゲル化時間を「60秒以下」とした意味は、高性能な高占積率のワニスを含浸させる時間が長くかかるステータ1において、従来のワニスが、上側コイルエンドから含浸して下側コイルエンドから抜け落ちる時間と同等で、そのレベルを限界としたことによる。ここで、「ゲル化」とは、反応性樹脂において、急速な反応により材料粘度が急激に増大して流動停止レベルになる状態を意味する。図7から明らかなように、開発材(本実施形態のワニス)は、ゲル化が60秒以下であるが、これは従来材(従来例のワニス)がゲル化時間10分程度に比べて1/10以下の短時間であることが分かる。
第1供給工程では、ワニスの注入中にワニスをゲル化反応させることで、コイル3に含浸していくワニスが前加熱されたステータコア2から伝熱履歴を受け、最初にワニスの流動先端位置がステータコア2のスロット2cの下部から下側コイルエンド3bの中央までの間でゲル化するように、上記のハイキュアなワニスの注入量と注入速度、すなわちワニスの供給量を制御する。図8に、ワニスの流動状態を概念図により示す。図8において、多数の点を散りばめて示す領域が流動したワニスを意味する。図8に示すように、ステータコア2の高さ(コア高さ)を「HC」とし、下側コイルエンド3bの高さ(エンド高さ)を「HK」とすると、コア高さの半分「HC/2」の位置から、エンド高さの半分「HK/2」の位置までの間でハイキュアなワニスの流動先端位置がゲル化するようにワニスの供給量を制御する。これにより、コイル3の上から下へのワニス流路の途中を堰き止めるようにしている。この結果、最初は液状であったワニスが、図8に示すように、熱履歴上、一番最初にゲル化する堰き止め位置PDから上へ順次溜まっていき、かつ、随時ゲル化反応を起こして流動停止しながら、ステータコア2のスロット2cと上側コイルエンド3aとの部分に順次充填することができる。
また、第1シールの実施で装着されたシール装置11により、上側コイルエンド3aの内外周側面の70%以上の範囲で各シール部材14,16との間に隙間G1,G2が設けられるので、ノズル24から供給されたワニスが隙間G1,G2にも入り込み、ワニスが上側コイルエンド3aの内外周側面からも含浸することとなる。
次に、ステップ3へ移行する前に、上側コイルエンド3aのシールを解除する。すなわち、図5に示す内周シール具12及び外周シール具13を各々上側コイルエンド3aから取り外す。
その後、ステップ3では、天地の(上下の)反転工程を実施する。すなわち、第1供給工程で最後に供給されたワニスがゲル化する時間以上の間隔をおいて、図9に示すように、ステータ1を反転させる。これにより、今まで下側に配置されていた下側コイルエンド3bが、上側に配置されることとなる。ここで、上側コイルエンド3aに注入した先のワニスは、その注入からゲル化までが完了しているので、注入したワニスは、この時点では液体状態ではない。このため、ステータ1が上下反転するときに、ステータ1が傾いたり、逆さになったりしても、ワニスが垂れ落ちることがない。
次に、ステップ4へ移行する前に、本発明のシール工程に相当する第2シールを実施する。すなわち、今度は、上側に配置された下側コイルエンド3bの内外周をシールする。このシールは、図5に示すと同様に内周シール具12及び外周シール具13を使用して行われる。
その後、ステップ4では、第2供給工程を実施する。すなわち、反転工程の後に、ステータ1を水平に保持した状態で、下側コイルエンド3bの上面からワニスを注入し、第1供給工程でゲル化が始まった位置付近までワニスを含浸させてからゲル化が始まるように供給量を制御しながらワニスを下側コイルエンド3bに供給し、ゲル化させる。このことにより、反転しないケースに比べ、重力の影響によるステータコア2の上下の充填量偏りをなくすことができ、従来例の滴下法並の充填度合いを確保することができるという効果を得ることができるようになった。このステップ4でも上記したワニスの注入装置21が使用される。
次に、ステップ5へ移行する前に、下側コイルエンド3bの内外周シールを解除する。そして、最後に、ステップ5では、ステータ1につき、コイル3に含浸させたワニスを保温して硬化させる。
つまり、この実施形態では、特に高占積率な電動機に使用されるステータコア2のコイル3にワニスを含浸させるワニス処理方法において、ステータコア2の内外周に対するワニスの注入垂れ付着を防止することと、コイル3に対するワニスの良好な含浸充填性と、コイル3に対するワニスの大量高速注入性とを共に成立させるために、ゲル化時間が60秒以下となるハイキュア化したワニスを用い、かつ、事前に加熱したステータコア2及びコイル3を縦向き姿勢、つまり、コイルエンド3a,3bが上下の状態になる姿勢にし、その内外周部をシールした状態で、水平回転又は水平揺動させながら、先ずその上側コイルエンド3aへ大量のワニスを注入し含浸流下させながらゲル化させ、次にステータコア2を上下反転させて、上記と同様にワニスを注入、ゲル化させてコイル3の全域にワニスを充填させるようにしている。併せて、U相、V相及びW相の3相からなる各コイルエンド3a,3bにて、各相間のバランスを取ってワニス充填性を高めながら、かつ、更にワニス注入時間を短縮させるために、各コイルエンド3a,3bの内外周側面の70%以上の範囲で隙間G1,G2を設けることで、ワニスを各コイルエンド3a,3bの内外周側面からも含浸させるようにしている。
ここで、上記したワニス処理方法によるワニス供給パターンを、図10にグラフにより示す。このグラフは、横軸に時間(秒)を示し、縦軸にワニスの時間当たりの総供給量である注入速度(g/秒)を示す。このグラフから分かるように、時刻t1〜t5の間に第1供給工程を実施し、時刻t6〜t7の間に反転工程を実施し、その反転工程の後、時刻t8〜t10の間に第2供給工程を実施している。
第1供給工程では、その途中で、ワニスの注入速度を一旦減少させ、その後に増大させるようにしている。より詳細には、ワニスの注入速度を、初めに時刻t1で一気に増大させ、時刻t1〜t2の間で一定速度を維持して、その途中の時刻t2〜t3の間で一旦減少させ、その後に時刻t3で一気に増大させ、時刻t3〜t4の間で一定速度を維持してから、時刻t4〜t5の間で漸減させるようにしている。つまり、この第1供給工程では、ワニスの注入を休止時間TKを挟んで、前半と後半に2分割している。この実施形態では、前記前半期(時刻t1〜t2)におけるワニスの総供給量に対し、前記後半期(時刻t3〜t5)におけるワニスの総供給量を1/2としている。ここで、休止時間TKは、キュア条件設定したゲル化時間TGの三分の一以上で、かつ、前半の注入時間T1と休止時間TKとの和がゲル化時間TGよりも大きくなるように設定されている。このように、第1供給工程の途中で休止時間TKを設けて、ワニスの注入を一旦急停止させることで、後半に注入されるワニスに押されないようにし、かつ、ワニスの浸透流速を急減速させて緩やかにして、前半に注入したワニスをある程度ゲル化させる位置にバラツキが出ないようにしている。これにより、前半に注入されたワニスがゲル化時間TGに達するときに形成される堰き止めの位置が、例えば、特別な温度や反応時間の制御をすることなく、第1供給工程により安定した状態に制御できるようにしている。
その後、時刻t5〜t8の間は、ワニスの供給を休止する時間となるが、この休止時間の途中の時刻t6〜t7の間に反転工程を実施している。この反転工程は、第2供給工程を開始する前までに完了する。
その後、第2供給工程では、ワニスの注入速度を、初めに時刻t8で一気に増大させ、時刻t8〜t9の間で一定速度を維持させてから、時刻t9〜t10の間で漸減させるようにしている。この実施形態では、第1供給工程におけるワニスの総供給量を全供給量の2/3程度とし、第2供給工程におけるワニスの総供給量を全供給量の残余分(1/3程度)としている。
以上説明したこの実施形態のワニス処理方法によれば、第1供給工程で、ステータコア2に装着されたコイル3のコイルエンド3a,3bが上下になる姿勢で水平に保持されたステータコア2に装着されたコイル3の上側コイルエンド3aの上面からワニスを注入し、上側コイルエンド3aの上から下へ含浸流下するワニスが、下側コイルエンド3bの外部に達するより前にゲル化するようにワニスの供給量が制御される。その後、反転工程では、第1供給工程で最後に供給されたワニスがゲル化する時間以上の間隔をおいてコイル3が装着されたステータコア2が反転される。その後、第2供給工程では、反転工程の後に、第1供給工程でゲル化が始まった位置付近でゲル化が始まるようにワニスの供給量が制御される。従って、上側コイルエンド3aの上面からワニスを注入することで、毛細管浸透と重力浸透の効果が得られ、ワニスが上側コイルエンド3aを上から下へ向けて速やかに含浸流下することとなる。このため、所定量のワニスをコイル3に注入するための注入時間を短縮することができ、この意味でワニスの処理時間を短縮することができる。また、各工程の進行に伴いワニスが順次充填されながらゲル化していくこととなり、ワニスは液状状態から短い時間で充填したまま流動停止するので、安定した含浸状態が得られ、しかも、ステータコア2の反転時や搬送時にワニスの飛散や流出が抑えられる。このため、コイル3に対するワニスの含浸不足や含浸ばらつきを防止することができる。更に、ワニス処理後に、ステータコア2の内外周側面にワニスの垂れ付着がないので、余分なワニスを除去するトリミングの手間を削減することができる。
また、この実施形態では、第1供給工程の前の第1シールの実施で、上側コイルエンド3aの内外周側面に、ステータコア2の上端面2aと上側コイルエンド3aとの間をシールする内周シール部材14及び外周シール部材16が配設され、それらシール部材14,16と上側コイルエンド3aとの間に隙間G1,G2が設けられた状態で上側コイルエンド3aの内外周側面が各シール部材14,16により覆われる。その後、第1供給工程では、各シール部材14,16が配設された上側コイルエンド3aを上に向けてステータコア2に装着されたコイル3のコイルエンド3a,3bが上下になる姿勢でステータコア2が水平に保持された状態で、上側コイルエンド3aの上面からワニスを注入し、上側コイルエンド3aの上から下へワニスを含浸流下させるようにワニスが供給される。従って、図11に示すように、ステータコア2の上端面2aと上側コイルエンド3aとの間が各シール部材14,16によりシールされることから、上側コイルエンド3aの上面に供給されるワニスWAがステータコア2の外周面までに垂れ落ちることがない。このため、ステータコア2の内外周面へのワニスの垂れ付着を防止することができる。また、図11に示すように、供給されるワニスWAが上側コイルエンド3aの内外周側面と各シール部材14,16との間の隙間G1,G2に入り込むので、内外周側面からも上側コイルエンド3aにワニスWAが含浸することとなる。このため、上側コイルエンド3aに対するワニスWAの含浸ばらつきが少なくなり、コイル3におけるワニスWAの含浸ムラを防止することのできる。特に、U相、V相及びW相の巻線3U〜3Wが束ねられる上側コイルエンド3aでは、ワニスの充填性につき、従来は、中央に位置するV相に比較して、内外両側に位置するW相及びU相でのワニス充填に時間がかかり、かつ相別の充填分布も劣る傾向があった。しかし、この実施形態では、上側コイルエンド3aの内外周側面からもワニスWAが含浸することから、W相及びU相でのワニス充填時間を短くすることができ、各相別のワニス充填分布も均一化した良好なものにすることができる。特に、この実施形態では、上記した各隙間G1,G2が上側コイルエンド3aの根本へ向けて徐々に小さくなるので、各隙間G1,G2に入り込んで溜まったワニスWAがその自重により内外周側面からも上側コイルエンド3aに含浸し、かつ、最後には溜まったワニスは全量が上側コイルエンド3aへ含浸し、シール部材14,16には残らない。この意味から、上側コイルエンド3aの内外周側面からのワニスの充填性、すなわちW相及びU相に対するワニスの充填性を向上させることができ、ワニス充填時間を更に短縮することができる。
上記した作用効果は、第2シールを実施後第2供給工程により、下側コイルエンド3bについても同様に得られる。従って、上側コイルエンド3a及び下側コイルエンド3bにつき、ワニスの含浸ムラを防止でき、ワニス充填時間を短縮できるので、コイル3の全体として、ワニスの含浸ムラを防止することができ、ワニス充填時間を短縮することができるようになる。
また、この実施形態によれば、第1供給工程の途中で、ワニスの時間当たりの供給量、すなわちワニスの注入速度を一旦減少させ、その後に増大させている。従って、先に供給されたワニスの総供給量が一旦減少するので、先に供給されたワニスが、後から供給されるワニスに押されなくなる。このため、第1供給工程において、ワニスのゲル化開始位置を安定的に設定することができる。
特に、この実施形態では、第1供給工程において、ワニスの注入速度を、初めに一気に増大させ、その途中で一旦減少させ、その後に一気に増大させてから漸減させている。特に、この実施形態では、初めに一気に増大させてから一旦減少させるワニスの総供給量に対し、その後に一気に増大させてから漸減させるワニスの総供給量を1/2としている。従って、初めにワニスの供給量を一気に増大させるので、最初から多量のワニスが上側コイルエンド3aに注入され、下側コイルエンド3bへ向けて速やかに含浸流下することとなる。また、先に供給されたワニスに比べ、後から供給されるワニスは、供給量を一気に増大させてから漸減させるので、第1供給工程で供給すべき総供給量に対する供給の調節が容易となる。このため、ワニス量の歩留まりが向上し、その結果としてワニスの処理時間を短縮することができる。また、上側コイルエンド3aの上面でワニスの注入を丁度終えることができ、上側コイルエンド3aに過不足無くワニスを充填することができる。
更に、この実施形態によれば、第2供給工程において、ワニスの注入速度を、初めに一気に増大させてから漸減させている。従って、初めにワニスの供給量を一気に増大させるので、最初から多量のワニスが下側コイルエンド3bに注入され、下へ向けて速やかに含浸流下することとなる。また、供給の途中から供給量を漸減させるので、第2供給工程で供給すべき全供給量に対する供給の調節が容易となる。このため、ワニスの処理時間を短縮することができ、下側コイルエンド3bの上面でワニスの注入を丁度終えることができ、下側コイルエンド3bに過不足無くワニスを充填することができる。
また、この実施形態では、第1供給工程で全供給量の2/3程度という大半のワニスが供給され、第2供給工程で全供給量の残余分である1/3程度という少なめのワニスが供給されるので、第2供給工程で供給されるワニスのゲル化に要する時間が短くなる。このため、第2供給工程後からワニス処理完了までの待機時間を短縮することができる。
[第2実施形態]
次に、本発明のワニス処理方法及びワニス処理装置を具体化した第2実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
この第2実施形態は、前記第1実施形態と、各コイルエンド3a,3bの内周側面に対して設けられる内周シール具32の点で構成が異なる。図12に、この実施形態におけるシール装置31を、図5に準ずる断面図により示す。この断面図から分かるように、シール装置31は、内周シール具32と、外周シール具13とから構成され、各シール具32,13は互いに別部材であり、各々別々に装着される。内周シール具32を構成する内周シール部材34は、第1実施形態の内周シール部材14よりも上下寸法が小さく小型化され、かつ、各コイルエンド3a,3bの内周側面から離れて配設され、ステータコア2の上端角部に対してのみ接触するようになっている。つまり、内周シール部材34と、各コイルエンド3a,3bとの間の隙間G1は、各コイルエンド3a,3bの内周側面全域に対応して設けられるようになっている。また、内周シール具32を構成する内周押さえ枠35は、内周シール部材34の小型化に合わせて小型化されている。一方、外周シール具13は、第1実施形態のそれと同じ構成を備えている。このような構成としたのは、各コイルエンド3a,3bにつき、U相の巻線3Uの上面の面積に比べてW相の巻線3Wの上面の面積の方が広く、W相の巻線3Wの側面(コイルエンド3a,3bの内周側面)からのワニス充填速度が多少落ちても作用効果に大きな影響がないことによるものである。
従って、この実施形態のワニス処理方法及びワニス処理装置によれば、シール装置31、特に内周シール具32の小型化と構成の簡略化を図ることができる。それ以外の作用効果は、第1実施形態のそれと基本的に同じである。
[第3実施形態]
次に、本発明のワニス処理方法及びワニス処理装置を具体化した第3実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
この第3実施形態は、前記第1及び第2の実施形態と、各コイルエンド3a,3bに対して設けられるシール装置41の点で構成が異なる。図13に、この実施形態におけるシール装置41を、図5及び図12に準ずる断面図により示す。この断面図から分かるように、この実施形態のシール装置41は、各コイルエンド3a,3bの内周側面にはシール部材を配設せず、各コイルエンド3a,3bの外周側面に対してのみ設けられるシール部材46から構成される。図13に示すように、同じような基本形状をなす上側のシール部材46と下側のシール装置47とでシール装置を構成し、ワニスの第1供給工程の前のステータ1をセットするときに、上側コイルエンド3aと下側コイルエンド3bにそれぞれシール部材46とシール部材47を予め装着しておく。この場合、第1実施形態とは異なり、第1供給工程の後に第1シールを解除する必要がなく、第2供給工程の前に第2シールを行う必要もなく、更に、第2供給工程の後に第2シールを解除する必要もない。シールの解除は、保温硬化後に行う。この結果、ワニス処理のサイクルタイムを短縮することができる。また、各コイルエンド3a,3bの上面からワニスを注入するノズル24は、各W,V,U相の3本内、特に各コイルエンド3a,3bの上面のうち最内側寄りに位置するW相の巻線3Wの上面に整合するもののみ実線で示している。そして、各コイルエンド3a,3bに対するワニスの供給量に見合った速度でステータコア2を回転させながらノズル24からワニスを供給するようになっている。この実施形態では、例えば、ステータコア2が「15rpm」以上の速さで回転され、その回転速度に対応して「5(g/秒)」以下の注入速度でワニスが供給されるようになっている。これにより、遠心力にて各コイルエンド3a,3bの内周側面からステータコア2の内外周面までへのワニスの垂れ付着を抑制するようになっている。この実施形態のシール部材46は、各コイルエンド3a,3bの外周側面に対応した筒状をなし、ゴム材質により形成され、自身の弾性力により各コイルエンド3a,3bの根本に嵌着されるように構成される。シール部材46の上部が各コイルエンド3a,3bの上面より上方へ突出しており、その突出部分が各コイルエンド3a,3bの上面に対して堤部46aをなしている。各コイルエンド3a,3bの外周側面とのシール部材46の対向面46bは、前記各実施形態と同様にテーパをなしており、シール部材46と各コイルエンド3a,3bの外周側面との間の隙間G2は、各コイルエンド3a,3bの根本へ向けて徐々に小さくなっている。
従って、この実施形態のワニス処理方法及びワニス処理装置によれば、各コイルエンド3a,3bの内周側面に配設される内周シール部材を省略できるので、シール部材46から構成されるシール装置41の小型化と簡略化を図ることができる。また、内周シール部材を省略できる分だけ第1シール及び第2シールの所要時間が短くなる。この結果、ワニス処理のサイクルタイムを短縮することができる。更に、ステータコア2が回転されるので、ノズル24が定位置に固定されて定位置からワニスが供給されても、各コイルエンド3a,3bの円周方向に満遍なくワニスが供給される。しかも、図14に示すように、ノズル24から各コイルエンド3a,3bの上面に供給されて各コイルエンド3a,3bの内周側面に流れたワニスWAは、その内周側面から遠心力FCの作用によりステータコア2の内周面に垂れ落ちることなく各コイルエンド3a,3bに含浸することとなる。この意味でも、各コイルエンド3a,3bに対するワニスの含浸ムラを防止することができる。併せて、シール部材46が自身の弾性力により各コイルエンド3a,3bの根本に嵌着されるので、シール部材46の着脱が容易となる。このため、シール装置41(シール部材46)の装着や取り外しを比較的簡単な手作業や機械装置で実施することができる。それ以外の作用効果は、第1実施形態のそれと基本的に同じである。
尚、この発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜に変更して以下のように実施することもできる。
(1)前記各実施形態では、3本のノズル24の先端を、同一円周上に位置するように配置すると共に、コイル3の幅方向の中央に位置するように配置した。これに対し、4本以上のノズルを上記と同様に配置したり、コイルの幅方向において複数のノズルを1列に並べて配置したりしてもよい。例えば、U相、V相及びW相の各巻線3U〜3Wの上面に整合するように3本のノズル24をコイル3の幅方向に並べて配置してもよい。また、各ノズルは分岐でなく、ノズル毎に1混合器を持たせて吐出量精度をより保証させてもよい。更に、ノズル先端形状は円ではなく、U,V,Wの幅を1つでカバーできる長方形でもよく、あるいは、中央部の量を抑制して幅方向で吐出量が同じになるような中央部で凹状をなす長方形であってもよい。
(2)前記第1実施形態では、図4のフローチャートに示すように、ステップ2で、第1供給工程を実施する前に、上側コイルエンド3aの側面をシールする第1シール工程を実施し、ステップ4で、第2供給工程を実施する前に、下側コイルエンド3bの側面をシールする第2シール工程を実施するようにワニス処理方法を構成した。これに対し、第1供給工程の前に、上側コイルエンド3a及び下側コイルエンド3bの側面をそれぞれシールするシール工程を実施するようにワニス処理方法を構成してもよい。
(3)前記第3実施形態では、各コイルエンド3a,3bの外周側面に対して、筒状をなし、ゴム材質により形成されたシール部材46を、自身の弾性力により各コイルエンド3a,3bの根本に嵌着するようにした。これに対し、シール部材を、更にリング部材により外部から締め付けられるように構成してもよい。この場合、シール部材がリング部材で締め付けられることから、コイルエンドの外周側面にシール部材が強固に装着される。この結果、シール部材によるシール性を向上させることができる。