以下、図面を用いて、本発明に係るワニス含浸装置及びワニス含浸方法の具体的な実施の形態について説明する。
図1は、本発明の一実施例であるワニス含浸装置10の構成図を示す。尚、図1(A)にはワニス含浸装置10の正面図を、また、図1(B)にはワニス含浸装置10の側面図(部位によっては断面図)を、それぞれ示す。図2は、本実施例のワニス含浸装置10の要部断面図を示す。また、図3は、本実施例のワニス含浸装置10がワニスを滴下するステータコイルを有するステータ及びそのステータを支持する支持機構の構造並びにそのステータをその支持機構に取り付ける手法を説明するための図を示す。
本実施例のワニス含浸装置10は、例えば三相交流モータなどの回転電機に用いられるステータ12の有するステータコイル14にワニスを含浸させる装置である。ワニスは、ステータコイル14の電気絶縁性や耐震性,耐油性,耐薬品性,放熱性などを確保するために用いられる、嫌気性を有するワニスである。ステータ12は、回転子であるロータに対して径方向外側に所定のエアギャップを介して対向配置される固定子であって、ステータコイル14への通電によってロータを回転させる磁界を発生する。
ステータ12は、ステータコイル14と、ステータコア16と、を備えている。ステータコア16は、中空円筒状に形成された部材であって、円環状に形成されるヨーク18と、軸中心に円柱状に空いた空洞部20と、ヨーク18の内周面から径方向内側(すなわち、軸中心側)に向けて突出するティース22と、を有している。ティース22は、ヨーク18の内周面に周方向に等間隔で複数設けられている。ステータコア16は、絶縁コーティングされた複数の電磁鋼板を軸方向に積層して形成されている。
また、ステータコア16は、ヨーク18の外周面から径方向外側に向けて山型に突出する固定用耳部24を有している。固定用耳部24は、ステータコア16に周方向に複数(例えば、3つ)設けられている。固定用耳部24には、軸方向に貫通する貫通穴26が設けられている。ステータ12は、製造後、ステータコア16の固定用耳部24の貫通穴26に挿入されたボルトが固定対象に締結されることによりその固定対象に取り付け固定される。
ステータコイル14は、上記のステータコア16に装着されている。具体的には、ステータコイル14は、ステータコア16において周方向に隣接する2つのティース22の間に形成された径方向内側へ向けて開口するスロット内に収容されつつ、ティース22に巻回されている。ステータコイル14は、導電性・熱伝導性を有する銅などの金属により形成されている。ステータコイル14は、ステータコア16のスロット内から軸方向両側に向けて突出するコイルエンド部14a,14bを有している。コイルエンド部14aはステータコア16から軸方向一方側に向けて突出しており、また、コイルエンド部14bはステータコア16から軸方向他方側に向けて突出している。
尚、ステータコイル14は、回転電機が例えば三相交流モータに適用される場合は、U相コイル、V相コイル、及びW相コイルの何れかを構成し、この場合、ステータコイル14であるU相コイル、V相コイル、及びW相コイルは、周方向にその順でティース22に巻回される。
ワニス含浸装置10は、ステータコア16にステータコイル14が装着されたステータ12を支持する支持機構30を備えている。支持機構30は、ステータ12のステータコア16(具体的には、ヨーク18)の外面に接してそのステータ12をそのステータ12の外径側で支持する外径把持リングである。以下、支持機構30を外径把持リング30と称す。
外径把持リング30は、支持すべきステータ12のステータコア16の外周側の軸方向両端部間に配置されており、径方向内側(軸中心側)に向けて突出する部位によりそのステータ12を支持する。外径把持リング30は、ステータ12をその軸方向を水平方向に向けた状態で支持する。外径把持リング30は、円環状に形成されたリング部32と、ステータコア16を支持するクランプ部34と、を有している。
リング部32は、地面に固定された枠型36に対して回転自在に支持されている。リング部32の軸中心には、円柱状に空いた空洞部38が形成されている。空洞部38は、全周に亘ってステータコア16を収容するのに必要な大きさに形成されている。具体的には、空洞部38の径すなわちリング部32の内径は、ステータコア16の固定用耳部24を含む部位の外径よりも大きくなるように設定されている。尚、リング部32の大きさを変えることで、広範囲な外径を有するステータ12に対応することが可能である。
また、クランプ部34は、リング部32の内周面から径方向内側(軸中心側)に向けて突出する突出部34aと、リング部32の空洞部38内における径方向位置を可変できるチャック部34bと、を有している。尚、クランプ部34を構成する各部34a,34bの大きさを変えることで、様々な外径を有するステータ12に対応することが可能である。
突出部34aは、ステータコア16の固定用耳部24を周方向両側で挟み込んでそのステータコア16ひいてはステータ12をリング部32に対して回転不能とする役割を有している。突出部34aは、リング部32に固定されている。突出部34aは、ステータコア16の固定用耳部24を周方向で挟むように一対の突起からなり、固定用耳部24の形状に合わせて両突起がリング部32における周方向に離間した位置においてそれぞれの突起が適切な形状に形成されるように構成される。
また、チャック部34bは、外径把持リング30へのステータ12の着脱を容易にするための役割、及び、そのステータ12を外径把持リング30に支持する役割を有している。チャック部34bは、リング部32に対して回動可能に支持される回動部34b−1と、リング部32に固定される固定部34b−2と、を有している。回動部34b−1は、湾曲した棒状に延びた部材であり、一端側がリング部32に支持固定されている。
回動部34b−1は、リング部32に固定された一端側の支点を中心にして他端側が空洞部38内の比較的径方向内側に位置するクランプ位置(図3において「クランプ時」に示す位置)と、その他端側が空洞部38内の比較的径方向外側に位置するアンクランプ位置(図3において「アンクランプ時」に示す位置)と、の間で回動可能である。固定部34b−2は、回動部34b−1の回動を上記のクランプ位置と上記のアンクランプ位置との間に規制する役割を有している。
チャック部34bは、リング部32の周方向に2箇所設けられている。各チャック部34bはそれぞれ、上記のクランプ位置において回動部34b−1の先端がリング部32の空洞部38内に収容されたステータ12のステータコア16の外周面に接触してそのステータ12を支持し、一方、上記のアンクランプ位置において回動部34b−1の先端とリング部32の空洞部38内に収容されたステータ12のステータコア16の外周面との接触が解消されてそのステータ12の支持を解除させる。リング部32の周方向に離間して設けられた2つのチャック部34bは、同期して作動される。尚、リング部32の周方向に離間して設けられた2つのチャック部34bの回動部34b−1は、バネ力などによりクランプ位置とアンクランプ位置との間で回動されるものとしてもよい。
ワニス含浸装置10は、また、外径把持リング30を回転させる回転モータ40と、外径把持リング30を支持する回転支持部材42と、を備えている。回転モータ40のハウジング及び回転支持部材42は共に、枠型36に固定されている。尚、上記の如く、リング部32の大きさを変えることで、広範囲な外径を有するステータ12に対応しようとする場合、回転支持部材42の位置を変更しなくてもある程度の範囲の外径に対応できるが、回転支持部材42の位置を変更することで広範囲な外径まで対応しつつ外径把持リング30のリング部32の回転支持を確実に行うことが可能となる。
回転モータ40は、マイクロコンピュータを主体に構成されるコントローラからの電気的指令により回転されるものである。回転支持部材42は、外径把持リング30の下方かつ外周側に2箇所設けられており、外径把持リング30をその軸中心で回転可能に支持する部材である。回転モータ40の回転軸は、ベアリング44を介して外径把持リング30のリング部32に接続されている。
回転モータ40の回転は、ベアリング44を介して外径把持リング30のリング部32に伝達される。外径把持リング30は、回転支持部材42により支持されつつ回転モータ40の回転により回転される。外径把持リング30が回転すると、その回転に伴ってその外径把持リング30が支持するステータ12が軸回りに回転する。外径把持リング30は、回転モータ40により回転駆動されることによって、支持するステータ12を回転させる。従って、ステータコア16にステータコイル14が装着されたステータ12は、その外径側で外径把持リング30により把持されて支持されつつ、回転モータ40の回転により回転される。
ワニス含浸装置10は、また、ワニス滴下装置50を備えている。ワニス滴下装置50は、外径把持リング30により支持されつつ回転モータ40により回転されたステータ12のコイルエンド部14a,14bに向けてワニスを滴下する装置である。ワニス滴下装置50は、ワニスが貯蔵されたタンクに連通する滴下ノズル52を有している。ワニス滴下装置50は、コントローラからの電気的指令によりタンク内のワニスをポンプなどで汲み上げて滴下ノズル52に供給することで、その滴下ノズル52からワニスを滴下させる。
滴下ノズル52は、ステータ12の軸方向両端のコイルエンド部14a,14bそれぞれに2つずつ設けられている。具体的には、ワニス滴下装置50は、滴下ノズル52として、コイルエンド部14aに対応した、そのコイルエンド部14aの外径側に向けてワニスを滴下するための第1外径側滴下ノズル52a−out及びそのコイルエンド部14aの内径側に向けてワニスを滴下するための第1内径側滴下ノズル52a−inと、コイルエンド部14bに対応した、そのコイルエンド部14bの外径側に向けてワニスを滴下するための第2外径側滴下ノズル52b−out及びそのコイルエンド部14bの内径側に向けてワニスを滴下するための第2内径側滴下ノズル52b−inと、を有する。
各滴下ノズル52はそれぞれ、移動機構54により、枠型36に対して上下方向及び水平方向(具体的には、支持されたステータ12の軸方向)に移動可能である。移動機構54は、コントローラからの電気的指令により滴下ノズル52の移動を制御する。移動機構54は、枠型36に対して滴下ノズル52を上下方向及び水平方向に移動させることで、その滴下ノズル52を、ワニス滴下時に位置すべき滴下位置と、ワニス非滴下時に位置すべき退避位置と、の間で進退させることが可能である。
第1及び第2外径側滴下ノズル52a−out,52b−outの滴下位置は、外径把持リング30に支持されたステータ12のコイルエンド部14a,14bの径方向外側の、そのコイルエンド部14a,14bの直上の領域内において、そのノズル先端から重力により降下したワニスがコイルエンド部14a,14bの外径側に滴下されるのに適した位置のことである。
また、第1及び第2内径側滴下ノズル52a−in,52b−inの滴下位置は、外径把持リング30に支持されたステータ12のコイルエンド部14a,14bの径方向内側(軸中心側)の、そのコイルエンド部14a,14bの底部よりも上方の領域において、そのノズル先端から重力により降下したワニスがコイルエンド部14a,14bの内径側に滴下されるのに適した位置のことである。
更に、各滴下ノズル52の退避位置は、例えば、そのノズル先端の位置として、外径把持リング30に支持されたステータ12のコイルエンド部14a,14bの上方領域から水平方向(具体的には、軸方向外側)にオフセットした位置のことである。
尚、同じコイルエンド部14aにワニスを滴下するための第1外径側滴下ノズル52a−out及び第1内径側滴下ノズル52a−inは、一体化された移動機構54により同期して移動されるものであってもよい。例えば、この場合、移動機構54は、第1外径側滴下ノズル52a−out及び第1内径側滴下ノズル52a−inを退避位置から滴下位置へ移動させる際、その滴下ノズル52a−out,52a−inを退避位置から降下させると共にその後に軸方向内側(図1において水平方向右方)に移動させる。かかる移動が行われると、第1外径側滴下ノズル52a−out及び第1内径側滴下ノズル52a−inが共に滴下位置に到達する。尚、移動機構54は、滴下ノズル52a−out,52a−inを滴下位置から退避位置へ移動させる際は、上記の移動とは逆の順序で移動を行う。
また同様に、同じコイルエンド部14bにワニスを滴下するための第2外径側滴下ノズル52b−out及び第2内径側滴下ノズル52b−inは、一体化された移動機構54により同期して移動されるものであってもよい。例えば、この場合、移動機構54は、第2外径側滴下ノズル52b−out及び第2内径側滴下ノズル52b−inを退避位置から滴下位置へ移動させる際、その滴下ノズル52b−out,52b−inを退避位置から降下させると共にその後に軸方向内側(図1において水平方向左方)に移動させる。かかる移動が行われると、第2外径側滴下ノズル52b−out及び第2内径側滴下ノズル52b−inが共に滴下位置に到達する。尚、移動機構54は、滴下ノズル52b−out,52b−inを滴下位置から退避位置へ移動させる際は、上記の移動とは逆の順序で移動を行う。
ワニス含浸装置10は、また、ステータ12を加熱する2種類の加熱装置60,62を備えている。加熱装置60は、ステータ12をそのステータ12の内径側から加熱する装置である。また、加熱装置62は、ステータ12をそのステータ12の外径側及び/又は軸方向外側から加熱する装置である。以下、加熱装置60を第1の加熱装置60と、また、加熱装置62を第2の加熱装置62と、それぞれ称す。
第1の加熱装置60は、円形螺旋状に形成される誘導コイル64を有している。誘導コイル64は、ステータ12の加熱時にステータコア16の空洞部20内に、その円形螺旋が延びる方向がステータ12の軸方向に一致するように配置される。誘導コイル64の外径は、空洞部20の径に比べて小さい。誘導コイル64は、コントローラに電気的に接続されている。誘導コイル64は、空洞部20に挿入されている際にコントローラからの指令により流れる電流が変化することで、電磁誘導によりステータコア16に渦電流が発生してステータ12を誘導加熱(IH)する。
第1の加熱装置60は、移動機構66により、枠型36に対して水平方向(具体的には、支持されたステータ12の軸方向)に移動可能である。移動機構66は、コントローラからの電気的指令により第1の加熱装置60を移動させる。移動機構66は、第1の加熱装置60を枠型36に対して水平方向に移動させることで、誘導コイル64を、支持されたステータ12の空洞部20の内側の所定位置(誘導加熱位置)と外側の所定位置(退避位置)との間で進退させることが可能である。誘導コイル64は、支持されたステータ12の空洞部20の内側に位置する際にそのステータ12を誘導加熱することができ、一方、支持されたステータ12の空洞部20の外側に位置する際にそのステータ12の誘導加熱が不可となる。
また、第2の加熱装置62は、熱風発生器80に連通する熱風ノズル70を有している。熱風ノズル70は、ステータ12の軸方向両端のコイルエンド部14a,14bそれぞれに対応して設けられている。具体的には、第2の加熱装置62は、熱風ノズル70として、コイルエンド部14aに対応した、コイルエンド部14aの周囲(外面)に向けて熱風を吹き付けるための熱風ノズル70aと、コイルエンド部14bに対応した、コイルエンド部14bの周囲(外面)に向けて熱風を吹き付けるための熱風ノズル70bと、を有する。
熱風発生器80は、熱風ノズル70から噴射させる熱風を発生する装置である。熱風発生器80の発生する熱風は、空気、及び、酸素をほとんど含まないガス(例えば、ヘリウムやアルゴンなどの希ガス,窒素などの不活性ガス,水素など;以下、不活性ガス等と称す。)の何れかである。尚、この不活性ガス等は、熱風発生器80により加熱されるので、その加熱時における爆発を防止するために不燃性ガスであることが望ましい。熱風発生器80は、圧縮空気が流通する第1通路82と、圧縮された不活性ガス等が流通する第2通路84と、第1通路82及び第2通路84と熱風ノズル70とを連通させるメイン通路86と、を有している。
第1通路82上には、圧縮空気の流通/遮断を切り替える切替弁88が設けられている。切替弁88は、熱風ノズル70から空気が熱風として噴射される際に導通される弁である。また、第2通路84上には、不活性ガス等の流通/遮断を切り替える切替弁90が設けられている。切替弁90は、熱風ノズル70から不活性ガス等が熱風として噴射される際に導通される弁である。
第1通路82及び第2通路84とメイン通路86との接続部には、切替弁92が設けられている。切替弁92は、メイン通路86を第1通路82に連通させる状態と第2通路84に連通させる状態とを切り替える弁である。切替弁92は、熱風ノズル70から圧縮空気が熱風として噴射される際にメイン通路86を第1通路82に連通させ、一方、熱風ノズル70から不活性ガス等が熱風として噴射される際にメイン通路86を第2通路84に連通させる。
メイン通路86上には、そのメイン通路86を流通する空気又は不活性ガス等を所定温度(例えば150℃など)まで加熱する加熱器94が設けられている。メイン通路86は、加熱器94の下流側において熱風ノズル70a側と熱風ノズル70b側とに分岐されている。熱風発生器80は、第1通路82からメイン通路86に流通した空気、又は、第2通路84からメイン通路86に流通した不活性ガス等を、加熱器94で加熱して熱風ノズル70a,70bから噴射させる。
第2の加熱装置62は、コントローラからの指令により熱風発生器80において発生した熱風を熱風ノズル70の先端からコイルエンド部14a,14bに向けて送り出すことでステータ12を熱風加熱する。第2の加熱装置62は、また、ステータ12のコイルエンド部14a,14bに対応してそれぞれ設けられたカバー72を有している。
熱風ノズル70は、ステータ12の加熱時にコイルエンド部14a,14b近傍に配置される。具体的には、その熱風ノズル70の先端がコイルエンド部14a,14bの外径端と軸方向外側端との角部に対して径方向外側かつ軸方向外側に位置するように配置される。ステータ12の加熱時、熱風ノズル70の先端は、コイルエンド部14a,14bの外径端と軸方向外側端との角部に向く。熱風ノズル70aは、コイルエンド部14aの周囲に等間隔で複数(例えば、8個)設けられている。また、熱風ノズル70bは、コイルエンド部14bの周囲に等間隔で複数(例えば、8個)設けられている。
熱風ノズル70aの外周側には、カバー72aが設けられている。カバー72aは、すべての熱風ノズル70aを外周側から囲うように形成されており、ステータ12の加熱時にコイルエンド部14aの外面側を覆うことができるように形成されている。カバー72aは、コイルエンド部14aの径方向外面側を覆う円筒部と、コイルエンド部14aの軸方向端面側を覆う円環部と、ステータ12の空洞部20を軸方向外側から覆う円盤部と、を有すると共に、円筒部内にコイルエンド部14aを収容できるようにその円筒部に切り欠き部を有する。
すべての熱風ノズル70aは、カバー72aの軸方向端面(円環部)を軸方向に貫通しつつカバー72aの側面(円筒部)の内側においてその先端がコイルエンド部14aの外面(具体的には、上記角部)に向くように構成される。カバー72aは、ステータ12の加熱時にステータ12の空洞部20を軸方向側から覆いかつコイルエンド部14aを外周側及び軸方向側から覆うように配置され、熱風ノズル70aからの熱風を外部に逃がし難くしてステータ12(特にコイルエンド部14a)を加熱し易くする機能を有する。
また同様に、熱風ノズル70bの外周側には、カバー72bが設けられている。カバー72bは、すべての熱風ノズル70bを外周側から囲うように形成されており、ステータ12の加熱時にコイルエンド部14bの外面側を覆うことができるように形成されている。カバー72bは、コイルエンド部14bの径方向外面側を覆う円筒部と、コイルエンド部14bの軸方向端面側を覆う円環部と、ステータ12の空洞部20を軸方向外側から覆う円盤部と、を有する。
すべての熱風ノズル70bは、カバー72bの軸方向端面(円環部)を軸方向に貫通しつつカバー72bの側面(円筒部)の内側においてその先端がコイルエンド部14bの外面(具体的には、上記角部)に向くように構成される。カバー72bは、ステータ12の加熱時にステータ12の空洞部20を軸方向側から覆いかつコイルエンド部14bを外周側及び軸方向側から覆うように配置され、熱風ノズル70bからの熱風を外部に逃がし難くしてステータ12(特にコイルエンド部14b)を加熱し易くする機能を有する。
第2の加熱装置62の熱風ノズル70a及びカバー72aは、リンク部74を介して枠型36に対して回動可能かつ移動可能に支持されている。リンク部74の一端側には熱風ノズル70a及びカバー72aが取り付けられており、リンク部74の他端側は枠型36に支持固定されている。熱風ノズル70a、カバー72a、及びリンク部74は、移動機構76により、枠型36に対して支点Cを中心にして回動可能であると共に水平方向(具体的には、支持されたステータ12の軸方向)に移動可能である。支点Cの軸方向は、外径把持リング30に支持されるステータ12の軸方向と同じである。移動機構76は、コントローラからの電気的指令に従って第2の加熱装置62の熱風ノズル70aを移動させる。
移動機構76は、枠型36に対してリンク部74を回動させると共に水平方向に移動させることで、熱風ノズル70aを、コイルエンド部14aの外面への熱風吹き付け時に位置すべき熱風加熱位置と、熱風非吹き付け時に位置すべき退避位置(図1(A)において破線で示す領域)と、の間で進退させることが可能である。この熱風加熱位置は、すべての熱風ノズル70aの先端がコイルエンド部14aの外径端と軸方向外側端との角部に対して径方向外側かつ軸方向外側に位置するものである。また、この退避位置は、例えば、上記の熱風加熱位置に対して径方向外側かつ軸方向外側にオフセットした位置である。
例えば、移動機構76は、熱風ノズル70aを退避位置から熱風加熱位置へ移動させる際、リンク部74を退避位置から回動させると共にその後に水平方向(図1において右方)に移動させる。かかる回動及び移動が行われると、熱風ノズル70aが熱風加熱位置に到達する。また、移動機構76は、熱風ノズル70aを熱風加熱位置から退避位置へ移動させる際は、上記の回動及び移動とは逆の順序で回動及び移動を行う。
尚、移動機構76によるリンク部74の水平方向の移動量が小さいとき或いはかかる移動が全くないときは、カバー72aに上記切り欠き部を設ける必要があるが、移動機構76によるリンク部74の水平方向の移動量が大きいとき或いはかかる移動があるときは、カバー72aに上記切り欠き部を設けなくてもよい。ただし、この切り欠き部があれば、第2の加熱装置62の熱風ノズル70a及びカバー72aを軸方向に移動させることは不要であるので、装置全体の軸方向の幅を短くすることが可能となる。
また、第2の加熱装置62の熱風ノズル70b及びカバー72bは、上記の第1の加熱装置60に一体に取り付けられている。熱風ノズル70b及びカバー72bは、上記した移動機構66により、第1の加熱装置60と共に、枠型36に対して水平方向(具体的には、支持されたステータ12の軸方向)に移動可能である。移動機構66は、コントローラからの電気的指令に従って第1の加熱装置60を移動させる際に同時に第2の加熱装置62の熱風ノズル70bを移動させる。
移動機構66は、第2の加熱装置62の熱風ノズル70bを枠型36に対して水平方向に移動させることで、その熱風ノズル70bを、コイルエンド部14bの外面への熱風吹き付け時に位置すべき熱風加熱位置と、熱風非吹き付け時に位置すべき退避位置と、の間で進退させることが可能である。この熱風加熱位置は、すべての熱風ノズル70bの先端がコイルエンド部14bの外径端と軸方向外側端との角部に対して径方向外側かつ軸方向外側に位置するものである。また、この退避位置は、例えば、上記の熱風加熱位置に対して径方向外側かつ軸方向外側にオフセットした位置である。
熱風ノズル70が退避位置に位置するときは、コイルエンド部14a,14bに熱風が吹き付けられないので、ステータ12の加熱は行われない。一方、熱風ノズル70が熱風加熱位置に位置するときは、コイルエンド部14a,14bの外面に熱風ノズル70からの熱風が吹き付けられるので、ステータ12が加熱される。
尚、ワニス含浸装置10の、外径把持リング30、ワニス滴下装置50、第1及び第2の加熱装置60,62、並びに枠型36は、一つの箱体の内部に設置されている。
次に、図4〜図7を参照して、本実施例のワニス含浸装置10によるステータコイル14へのワニス含浸手法について説明する。図4は、本実施例のワニス含浸装置10の、ステータ12の取り付け時における動作図を示す。図5は、本実施例のワニス含浸装置10の、支持されたステータ12の予備加熱時における動作図を示す。図6は、本実施例のワニス含浸装置10の、支持されたステータ12のコイルエンド部14a,14bへのワニス滴下時における動作図を示す。また、図7は、本実施例のワニス含浸装置10の、コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスの加熱硬化時における動作図を示す。尚、図4(A)、図5(A)、図6(A)、及び図7(A)には正面図を、また、図4(B)、図5(B)、図6(B)、及び図7(B)には側面図(部位によっては断面図)を、それぞれ示す。
本実施例のワニス含浸装置10は、ステータ12の有するステータコイル14にワニスを含浸させるのに、(1)外径把持リング30によりステータ12を外径側で支持させるステータ取付工程と、(2)支持されたステータ12を加熱装置60,62により予備加熱する予備加熱工程と、(3)ワニス滴下装置50から予備加熱されたステータ12のコイルエンド部14a,14bにワニスを滴下するワニス滴下工程と、(4)コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスを加熱装置60,62により加熱硬化する加熱硬化工程と、の各工程をその順に実施する。
ワニス含浸装置10は、ステータ取付工程では、まず、図4に示す如く、移動機構54によりワニス滴下装置50の各滴下ノズル52を退避位置に位置させ、移動機構66により第1の加熱装置60及び第2の加熱装置62の熱風ノズル70bを退避位置に位置させると共に、移動機構76により第2の加熱装置62の熱風ノズル70aを退避位置に位置させる。そして、外径把持リング30のチャック部34bの回動部34b−1をアンクランプ位置に回動させたうえで、ワークであるステータ12が、ステータコア16の固定用耳部24が一対の突起部34aで周方向に挟まれるように軸方向外側(図4(B)において左側)からその外径把持リング30にセットされた後に、その回動部34b−1をクランプ位置に回動させる。
かかる状態が実現されると、外径把持リング30のリング部32の空洞部38内に収容されたステータ12は、ステータコア16の固定用耳部24が一対の突起部34aで周方向に挟まれつつ、ステータコア16の外周面が回動部34b−1の先端に接して支持されることで、その外径把持リング30によりステータ12の外径側で支持されることとなる。
ワニス含浸装置10のコントローラは、上記ステータ取付工程においてステータ12が外径把持リング30により外径側で支持されると、次に、予備加熱工程を実施する。予備加熱工程では、まず、図5に示す如く、ワニス滴下装置50の各滴下ノズル52を退避位置に位置させたまま、移動機構66により第1の加熱装置60及び第2の加熱装置62の熱風ノズル70bを誘導加熱位置又は熱風加熱位置へ移動させ、かつ、移動機構76により第2の加熱装置62の熱風ノズル70aを熱風加熱位置へ移動させると共に、回転モータ40を回転させる。
かかる移動が実現されると、外径把持リング30に支持されているステータ12の空洞部20内に、第1の加熱装置60の誘導コイル64が挿入されると共に、そのステータ12のコイルエンド部14a,14bの外周側(具体的には、そのコイルエンド部14a,14の外径端と軸方向外側端との角部に対して径方向外側かつ軸方向外側)に、第2の加熱装置62の熱風ノズル70がその先端をコイルエンド部14a,14bの上記角部に向けた状態で配置される。また、回転モータ40が回転されると、ステータ12を支持する外径把持リング30が回転支持部材42に支持されながら枠型36に対して回転されるので、ステータ12も枠型36に対して回転される。
そして、予備加熱工程では、次に、第1の加熱装置60の誘導コイル64に電流を供給すると共に、第2の加熱装置62の熱風発生器80を作動させる。この際の熱風発生器80による作動は、切替弁88により第1通路82が導通され、切替弁90により第2通路84が遮断され、かつ切替弁92によりメイン通路86と第1通路82とが連通されると共に、加熱器94が作動するように行われる。この場合には、空気が第1通路82及びメイン通路86を流通しつつ加熱されて熱風ノズル70に導かれるので、熱風ノズル70から空気が熱風として噴射される。
かかる状態が実現されると、外径把持リング30に支持されているステータ12が誘導コイル64により誘導加熱されると共に、そのステータ12(主に、コイルエンド部14a,14b)が、コイルエンド部14a,14bの外面(具体的には、上記角部)に熱風ノズル70からの空気による熱風が直接に吹き付けられること或いは熱風ノズル70からの空気による熱風によってカバー72a,72b内の空間が温度上昇することにより熱風加熱される。尚、予備加熱工程では、誘導コイル64による誘導加熱と熱風ノズル70による熱風加熱とが略同タイミングで行われることとすればよい。
ここで、ステータコア16の電気抵抗はステータコイル14の電気抵抗に比べて大きいため、ステータコア16の温度がステータコイル14の温度に比べて高くなり易い。特に、ステータコア16とスロット内に収容されるステータコイル14との温度差は顕著である。そこで、第1及び第2の加熱装置60,62による加熱の開始後、ステータコア16の温度が限界温度付近に達した場合に、第1の加熱装置60の誘導コイル64による誘導加熱を停止し或いはその誘導加熱の出力を小さくすることで、以後、ステータコア16とステータコイル14との温度差を利用してステータコイル14を加熱することとしてもよい。
尚、上記の如く第1の加熱装置60による誘導加熱が停止され或いはその誘導加熱の出力が小さくされても、第2の加熱装置62は、コイルエンド部14a,14bが冷めないように熱風加熱を継続して、ステータ12全体を均一な温度になるように加熱することとしてもよい。
かかる予備加熱の手順によれば、ステータコア16を誘導コイル64による誘導加熱で急速に加熱した後、スロット内のステータコイル14とそのスロット周辺のステータコア16との温度差を利用してそのスロット内のステータコイル14を加熱するので、スロット内のステータコイル14を効率よく速やかに加熱することができる。
上述の如くステータ12の予備加熱が行われると、その後にそのステータ12のステータコイル14にワニスが滴下された場合にそのステータコイル14に付着するワニスの粘性が下がるので、ステータコイル14へのワニスの浸透を促進させることが可能となる。
ワニス含浸装置10のコントローラは、上記した予備加熱工程においてステータ12が予備加熱されると、次に、ワニス滴下工程を実施する。ワニス滴下工程では、まず、図6に示す如く、移動機構66により第1の加熱装置60及び第2の加熱装置62の熱風ノズル70bを退避位置へ移動させ、かつ、移動機構76により第2の加熱装置62の熱風ノズル70aを退避位置へ移動させると共に、その後、移動機構54によりワニス滴下装置50の各滴下ノズル52を滴下位置へ移動させる。
かかる移動が実現されると、第1の加熱装置60の誘導コイル64が外径把持リング30に支持されているステータ12の空洞部20の内側から外側へ退避され、第2の加熱装置62の熱風ノズル70がそのステータ12のコイルエンド部14a,14bの近傍から退避されると共に、各滴下ノズル52それぞれがそのコイルエンド部14a,14bの上方の滴下位置に配置される。
そして、ワニス滴下工程では、次に、ポンプなどを作動させてタンク内のワニスを滴下ノズル52に向けて供給する。かかる状態が実現されると、外径把持リング30に支持されているステータ12のコイルエンド部14a,14bに向けて滴下ノズル52からワニスが滴下される。この際、ステータ12は外径把持リング30の回転により枠型36に対して回転されているので、ワニスの滴下はコイルエンド部14a,14bの全周に亘って均等に行われる。またこの際、ステータ12は予備加熱工程において予備加熱されているので、コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスは、ステータコイル14に浸透し易くなる。
ワニス含浸装置10のコントローラは、上記したワニス滴下工程においてステータコイル14のコイルエンド部14a,14bにワニスが滴下されると、次に、加熱硬化工程を実施する。加熱硬化工程では、まず、図7に示す如く、移動機構54によりワニス滴下装置50の各滴下ノズル52を退避位置へ移動させると共に、その後、移動機構66により第1の加熱装置60及び第2の加熱装置62の熱風ノズル70bを誘導加熱位置又は熱風加熱位置へ移動させ、かつ、移動機構76により第2の加熱装置62の熱風ノズル70aを熱風加熱位置へ移動させる。
かかる移動が実現されると、各滴下ノズル52それぞれがコイルエンド部14a,14bの上方の滴下位置から退避されると共に、外径把持リング30に支持されているステータ12の空洞部20内に、第1の加熱装置60の誘導コイル64が挿入され、かつ、そのステータ12のコイルエンド部14a,14bの外周側(具体的には、そのコイルエンド部14a,14の外径端と軸方向外側端との角部に対して径方向外側かつ軸方向外側)に、第2の加熱装置62の熱風ノズル70がその先端をコイルエンド部14a,14bの上記角部に向けた状態で配置される。
そして、加熱硬化工程では、次に、第1の加熱装置60の誘導コイル64に電流を供給すると共に、第2の加熱装置62の熱風発生器80を作動させる。この際の熱風発生器80による作動は、切替弁88により第1通路82が遮断され、切替弁90により第2通路84が導通され、かつ切替弁92によりメイン通路86と第2通路84とが連通されると共に、加熱器94が作動するように行われる。この場合には、不活性ガス等が第2通路84及びメイン通路86を流通しつつ加熱されて熱風ノズル70に導かれるので、熱風ノズル70から不活性ガス等が熱風として噴射される。
かかる状態が実現されると、外径把持リング30に支持されているステータ12が誘導コイル64により誘導加熱されると共に、そのステータ12(主に、コイルエンド部14a,14b)が、コイルエンド部14a,14bの外面(具体的には、上記角部)に熱風ノズル70からの不活性ガスによる熱風が直接に吹き付けられること或いは熱風ノズル70からの不活性ガスによる熱風によってカバー72a,72b内の空間が温度上昇することにより熱風加熱される。
また、この際、ステータ12の空洞部20が軸方向両側からカバー72a,72bにより覆われ、カバー72a,72b内の空間がステータ12の空洞部20を介して連通されつつ閉塞されることによって、熱風ノズル70からの不活性ガスが空洞部20内に到達して、ステータ12の空洞部20側(内径側)からの熱風加熱が実施されるので、ステータ12の加熱は促進される。
尚、ワニスを加熱硬化させる加熱硬化工程では、誘導コイル64による誘導加熱と熱風ノズル70による熱風加熱とが略同タイミングで行われることとしてもよいし、また、誘導コイル64による誘導加熱が開始された後に熱風ノズル70による熱風加熱が開始されることとしてもよい。
ここで、ワニスはステータコイル14に浸透したままでは粘性が低いので、強い熱風が吹き付けられると、ワニスがステータコイル14から飛散してしまう。そこで、ステータコイル14に浸透したワニスがゲル化してその粘性が高くなるまでは、第1の加熱装置60の誘導コイル64による誘導加熱のみでステータを加熱する一方、ワニスがゲル化した後は、第2の加熱装置62の熱風ノズル70a,70bにより熱風をコイルエンド部14a,14bの外面に吹き付けてステータコイル14に浸透したワニスの加熱を促進させることとしてもよい。
かかる加熱手順によれば、ステータコイル14に浸透したワニスがゲル化するまでは、ステータ12を誘導コイル64による誘導加熱で加熱し、一方、そのワニスがゲル化した後は、ステータ12を熱風ノズル70a,70bによる熱風加熱で加熱するので、ステータコイル14に浸透したワニスを飛散させることなくステータ12を速やかに加熱することができる。
上述の如くステータ12の加熱が行われると、コイルエンド部14a,14bに滴下されていたワニスが加熱されて硬化される。
ワニス含浸装置10のコントローラは、上記した加熱硬化工程においてステータ12のコイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスが加熱硬化されると、次に、移動機構66により第1の加熱装置60及び第2の加熱装置62の熱風ノズル70bを退避位置へ移動させると共に、移動機構76により第2の加熱装置62の熱風ノズル70aを退避位置へ移動させる。かかる移動が実現されると、ワニス滴下装置50の各滴下ノズル52が退避位置に位置したまま、第1の加熱装置60の誘導コイル64及び第2の加熱装置62の熱風ノズル70が退避位置へ退避される。
そして、かかる状況から外径把持リング30のチャック部34bの回動部34b−1をアンクランプ位置に回動させる。かかる状態が実現されると、回動部34b−1の先端と外径把持リング30のリング部32の空洞部38内に収容されたステータ12のステータコア16の外周面との接触が解消されるので、ステータ12の外径側での支持が解除される。この場合は、外径把持リング30のリング部32の空洞部38内から、ワニスが含浸したステータ12を取り出すことができる。尚、このステータ12の取り出しはそのステータ12の冷却後のタイミングで行われるのが好適である。
このように、本実施例のワニス含浸装置10においては、ステータ12を、リング部32が地面に固定された枠型36に対して回転自在に支持された外径把持リング30によりそのステータ12の外径側で支持させながら、回転モータ40の回転により回転させつつ、その支持されたステータ12をワニス滴下前に予備加熱させ、その後、その予備加熱されたステータ12のコイルエンド部14a,14bにワニスを滴下させ、そして、そのコイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスを加熱硬化させることができる。
すなわち、ステータコイル14にワニスを含浸させるうえで必要な予備加熱工程→ワニス滴下工程→加熱硬化工程の一連の工程を、ステータ12を同じ外径把持リング30に支持させかつ回転させながら実施することができる。この点、本実施例によれば、ステータ12のステータコイル14にワニスを含浸させるためのすべての工程を同一箇所で実施することができるので、各工程間を繋ぐ搬送機構を設けることは不要であり、設備の簡素化・省スペース化・低コスト化を図ることができる。
また、本実施例のワニス含浸装置10において、軸中心に空洞部20が形成されたステータ12は、その空洞部20側(内径側)で支持されるものではなく、その外径側で外径把持リング30により支持されるものであって、ステータコア16の軸方向両端面の間において支持される。かかる構造においては、ステータ12を支持するうえで、ステータ12の内径側の空洞部20内に支持部材や支持機構を配置することは不要である。この点、ステータ12の加熱時にステータコア16の内径側の空洞部20内に第1の加熱装置60の誘導コイル64を挿入配置することができるので、ステータ12をそのステータ12の内径側から加熱することが可能である。
また、ステータ12の内周面(具体的には、ティース22の先端面)は、ロータの外周面との間で所定のエアギャップを介して対向する凹凸のない面形状に形成される。また、誘導コイル64は、ステータコア16の空洞部20内においてその円形螺旋の延びる方向がステータ12の軸方向に一致するように配置される。この点、ステータ12の加熱時にステータコア16の内径側の空洞部20内に誘導コイル64を挿入配置するうえで、その誘導コイル64とステータコア16の内周面との間に径方向に空く隙間を全周に亘って均一にかつできるだけ狭くすることができる。
このため、本実施例によれば、ステータ12の誘導加熱を、ステータコア16(すなわち、ヨーク18)の外周面に径方向外側に向けて突出する固定用耳部24が存在するステータ12の外径側から行うものに比べて、誘導コイル64による誘導加熱を効率的・効果的に行うことができる。従って、ステータ12の予備加熱やワニスの加熱軟化に要する加熱時間を短縮させ或いはステータ12を所望温度まで加熱するうえでのエネルギを低減させることができる。
また、ステータ12は、ヨーク18の内周面に形成された軸中心側に向けて突出するティース22の間のスロット内にステータコイル14が収容されるものである。かかる構造を有するステータ12が誘導加熱される場合は、ステータコア16に発生した熱がスロット内のステータコイル14に伝達されることでそのステータコイル14が加熱されることとなる。この点、本実施例の如く誘導コイル64を用いたステータ12の誘導加熱がそのステータ12の内径側から行われれば、誘導コイル64とステータコア16とが近接配置されるので、ステータコイル14が加熱され易くなる。
従って、本実施例によれば、ステータ12の誘導加熱を外径側から行うものに比べて、ステータコイル14の加熱を効率的・効果的に行うことができる。また、ステータ12の加熱をそのステータ12の外面側からの熱風加熱のみにより行うものに比べて、ステータコイル14の加熱を効率的・効果的に行うことができる。
ここで、誘導コイル64による誘導加熱時、ステータコア16側の熱は、まず、ステータコイル14のスロット内部位に伝達され、その後に、そのステータコイル14自体を通じてコイルエンド部14a,14bに達することで、ステータコイル14全体の加熱がなされる。一方、ステータコア16の軸方向両端部から軸方向に突出するステータコイル14のコイルエンド部14a,14bは、ステータコア16のスロットに収容されておらず、外気に晒されているので、そのままではコイルエンド部14a,14bに達した熱が外気に放出され易い。
これに対して、本実施例のワニス含浸装置10は、ステータ12の加熱時にステータ12のコイルエンド部14a,14bの外周側に配置される第2の加熱装置62を備えている。この第2の加熱装置62は、ステータ12のコイルエンド部14a,14bの外面(具体的には、外径端と軸方向外側端との角部)に熱風を吹き付ける熱風ノズル70を有している。この点、ステータ12の加熱時にステータ12のコイルエンド部14a,14bの外周側に第2の加熱装置62の熱風ノズル70を配置してコイルエンド部14a,14bを熱風加熱することができるので、ステータ12をそのステータ12の周囲(外面)側から加熱することが可能である。
このため、本実施例によれば、熱風ノズル70を用いたステータ12の熱風加熱によって、誘導コイル64を用いたステータ12の誘導加熱によってコイルエンド部14a,14bに伝達された熱が外気に放出されるのを防止することができると共に、ステータ12のコイルエンド部14a,14bの加熱を促進することができる。
また、上記の熱風ノズル70は、ステータ12の軸方向両端のコイルエンド部14a,14bそれぞれに対応して、各コイルエンド部14a,14bの周囲に等間隔で複数設けられている。この点、コイルエンド部14a,14bの加熱ムラを少なくしてコイルエンド部14a,14b全体を均一に加熱することができる。このため、本実施例によれば、熱風ノズル70による熱風加熱を効率的・効果的に行うことができるので、ステータ12の予備加熱やワニスの加熱軟化に要する加熱時間を短縮させ或いはステータ12を所望温度まで加熱するうえでのエネルギを低減させることができる。
また、第2の加熱装置62は、熱風ノズル70の外周側に設けられてその熱風ノズル70を外周側から覆うカバー72を有している。この点、カバー72の存在によってステータ12の加熱時に熱風ノズル70bからの熱風を外部に逃がし難くすることが可能である。このため、本実施例によれば、熱風ノズル70による熱風加熱を効率的・効果的に行うことができるので、ステータ12の予備加熱やワニスの加熱軟化に要する加熱時間を短縮させ或いはステータ12を所望温度まで加熱するうえでのエネルギを低減させることができる。
このように、本実施例のワニス含浸装置10によれば、ステータ12の加熱をそのステータ12の内径側及び外径側の双方から行うことができるので、ステータ12の加熱をその内径側及び外径側のうち何れか一方だけから行う構成に比べて、ステータ12全体を効率的・効果的に加熱することができる。このため、本実施例によれば、ステータ12の予備加熱を行ううえでの加熱時間及びワニスの加熱硬化を行ううえでの加熱時間を短縮させることができるので、ステータ12を製造するうえでの生産性を向上させることができる。
また、本実施例のワニス含浸装置10においては、ステータ12の加熱時にそのステータ12が枠型36に対して回転される。この場合、ステータ12は、ステータコア16を誘導加熱する誘導コイル64、及び、コイルエンド部14a,14bに対して熱風を吹き付ける熱風ノズル70に対して回転される。この点、ステータ12の加熱ムラを少なくしてステータ12全体を均一に加熱することができる。従って、本実施例によれば、ステータ12の加熱を効率的・効果的に行うことができるので、ステータ12の予備加熱やワニスの加熱軟化に要する加熱時間を短縮させ或いはステータ12を所望温度まで加熱するうえでのエネルギを低減させることができる。
また、本実施例のワニス含浸装置10において、ステータ12のコイルエンド部14a,14bへのワニス滴下後、第2の加熱装置62は、そのコイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスを加熱硬化するうえで、熱風ノズル70からそのコイルエンド部14a,14bの外面に向けて酸素をほとんど含まない不活性ガス等を熱風にして吹き付ける。
ステータ12のコイルエンド部14a,14bに滴下されるワニスは、空気(特に酸素)に接触している間は液状に維持され易く、一方、空気(特に酸素)から遮断された場合に重合して硬化し易くなる特性を有する嫌気性ワニスである。このため、かかる嫌気性ワニスが滴下されたコイルエンド部14a,14bに対して熱風ノズル70から酸素をほとんど含まない不活性ガス等が吹き付けられる場合は、そのワニスが酸素をほとんど含まない不活性ガス等に囲まれてそのワニスと酸素との接触がほとんど生じないので、酸素を含む空気が吹き付けられる場合に比してその滴下されたワニスが硬化し易くなる。
従って、本実施例によれば、ワニス硬化時に、熱風ノズル70からワニスが滴下されたコイルエンド部14a,14bに吹き付ける熱風を、酸素をほとんど含まない不活性ガス等としたことで、コイルエンド部14a,14bに滴下されていたワニスを短時間で効率的に硬化させることができる。
また、ワニス硬化時、ワニスが滴下されたコイルエンド部14a,14bに吹き付けられる不活性ガス等は、加熱器94により加熱されて熱風ノズル70から熱風として噴射されるものである。従って、本実施例によれば、ワニス硬化時、コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスが酸素と接触するのが回避されることによりワニスの硬化が促進されると共に、かつ、そのワニスの硬化が熱風加熱により行われるので、コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスの硬化を更に効率的に行うことができる。
また、コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスを硬化させるうえで、本実施例の如く熱風ノズル70から不活性ガス等による熱風が噴射される構成においては、熱風ノズル70から空気による熱風が噴射される構成(対比構成)と比較して、コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスの硬化が効率的に行われるので、熱風ノズル70からガスが噴射される速度が小さくされても、コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスを硬化させる時間を略同じとすることが可能である。
熱風ノズル70からガスが噴射される速度が小さいほど、その噴射されたガスの勢いで、コイルエンド部14a,14bに付着していたワニスがそのコイルエンド部14a,14bから飛散するのは抑制される。従って、本実施例によれば、上記した対比構成のものと比較して、熱風ノズル70からの熱風の噴射によってコイルエンド部14a,14bに付着していたワニスが飛散するのを抑制することができるので、ステータコイル14へのワニスの含浸を適切に行うことができる。
また、上記の如く、熱風ノズル70は、ステータ12の軸方向両端のコイルエンド部14a,14bそれぞれに対応して、各コイルエンド部14a,14bの周囲に等間隔で複数設けられている。かかる構造においては、熱風ノズル70からコイルエンド部14a,14b全体に不活性ガス等が吹き付けられることで、コイルエンド部14a,14b全体のワニスが不活性ガス等に囲まれる。このため、本実施例によれば、コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスの効率的な硬化をコイルエンド部14a,14bの全周に亘って実現させることが可能である。
また、本実施例においては、ステータ12のコイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスの効率的な硬化を実現させるうえで、そのコイルエンド部14a,14bに対して熱風ノズル70から不活性ガス等を吹き付けることとすればよく、ステータ12全体を収容するための設備を用意してその設備内全体を不活性ガス等で充填することは不要である。
従って、本実施例によれば、ステータ12のコイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスの効率的な硬化を実現させるのに必要な不活性ガス等の量を抑制することができると共に、そのための設備の複雑化を防止することができるので、簡素な構成でステータ12のコイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスを短時間で効率的に硬化させることができる。
また、上記の如く、第2の加熱装置62は、熱風ノズル70の外周側に設けられてその熱風ノズル70を外周側から覆うカバー72を有している。このカバー72は、ステータ12のコイルエンド部14a,14bの加熱時或いはコイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスの硬化時にそのコイルエンド部14a,14bを外周側及び軸方向側から覆うように配置される。
かかるカバー72によれば、コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスの硬化時、そのコイルエンド部14a,14bが外周側及び軸方向側から覆われるので、ステータ12のうちコイルエンド部14a,14bを覆うカバー72内に熱風ノズル70から噴射された不活性ガス等が充填される。このため、カバー72の存在によってワニス硬化時に熱風ノズル70bからの不活性ガス等を外部に逃がし難くすることができると共に、カバー72内の比較的狭い範囲でワニスを硬化させることができる。従って、本実施例によれば、ステータ12のコイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスを簡素な構成で効率的に硬化させることができる。
また、上記した熱風ノズル70は、ワニス硬化時にカバー72内において不活性ガス等を噴射する。かかる構成においては、ワニス硬化時、不活性ガス等の噴射によってカバー72内が正圧側に加圧されるので、外部からカバー72内への酸素を含む空気の進入が防止される。従って、本実施例によれば、コイルエンド部14a,14bに滴下されたワニスの効率的な硬化を確実に実現させることができる。
尚、上記の実施例においては、外径把持リング30が特許請求の範囲に記載した「支持機構」に、熱風ノズル70が特許請求の範囲に記載した「ガス噴射ノズル」及び「空気噴射ノズル」に、第1及び第2の加熱装置60,62が特許請求の範囲に記載した「加熱硬化装置」及び「予備加熱装置」に、それぞれ相当している。
また、ワニス滴下装置50から外径把持リング30に支持されたステータ12のコイルエンド部14a,14bに向けてワニスを滴下することが特許請求の範囲に記載した「ワニス滴下工程」に、熱風ノズル70からワニス滴下後のコイルエンド部14a,14bの外面に向けて不活性ガス等を吹き付けることで、コイルエンド部14a,14bのワニスを加熱硬化させることが特許請求の範囲に記載した「加熱硬化工程」に、ワニス滴下前に、第1及び第2の加熱装置60,62を用いて、外径把持リング30に支持されたステータ12を加熱することが特許請求の範囲に記載した「予備加熱工程」に、それぞれ相当している。
ところで、上記の実施例においては、ステータ12の予備加熱工程、ワニス滴下工程、及び加熱硬化工程の何れの工程でも、ワークであるステータ12を枠型36に対して回転させることとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、少なくともワニス滴下工程においてステータ12を枠型36に対して回転させることとすればよい。
また、上記の実施例においては、ワニス滴下工程においてワニス滴下装置50の滴下ノズル52をステータ12のコイルエンド部14a,14bの内径側及び外径側の双方に配置する。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、その滴下ノズル52を、コイルエンド部14a,14bの外径側上方のみに配置することとしてもよいし、また、コイルエンド部14a,14bの内径側のみに配置することとしてもよい。
また、上記の実施例においては、第1の加熱装置60の誘導コイル64及び第2の加熱装置62の熱風ノズル70bを移動機構66により枠型36に対して水平方向のみに移動可能とすることとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、誘導コイル64及び熱風ノズル70bを枠型36に対して水平方向及び上下方向の双方に移動可能とすることとしてもよい。
また、上記の実施例においては、第2の加熱装置62の熱風ノズル70aを移動機構76により枠型36に対して回動可能かつ水平方向に移動可能とすることとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、熱風ノズル70aを枠型36に対して水平方向のみに移動可能とすることとしてもよい。
また、上記の実施例においては、第1の加熱装置60の誘導コイル64及び第2の加熱装置62の熱風ノズル70bの双方を共通の移動機構66により枠型36に対して移動可能とすることとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、第1の加熱装置60の誘導コイル64及び第2の加熱装置62の熱風ノズル70bをそれぞれ独立して枠型36に対して移動可能とすることとしてもよい。
また、上記の実施例においては、ステータ12が外径把持リング30によりそのステータ12の外径側で把持されつつ支持されるものである。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、ステータ12がそのステータ12の内径側で把持されつつ支持されるものに適用されることとしてもよい。
また、上記の実施例においては、予備加熱工程において熱風ノズル70から噴射される熱風及び加熱硬化工程において熱風ノズル70から噴射される熱風を、空気と不活性ガス等とで切り替えることとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、予備加熱工程及び加熱硬化工程の双方で常に熱風ノズル70から噴射される熱風を不活性ガスとしてもよい。
また、上記の実施例においては、加熱硬化工程において常に熱風ノズル70から噴射される熱風を不活性ガスとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、加熱硬化工程の前半だけ或いは後半だけ熱風ノズル70から噴射される熱風を不活性ガスとし、その他のタイミングでは熱風ノズル70から噴射される熱風を空気とすることとしてもよい。
更に、上記の実施例においては、加熱硬化工程において熱風ノズル70から不活性ガス等による熱風がステータ12のコイルエンド部14a,14に向けて噴射される際にそのステータ12を誘導コイル64を用いて誘導加熱することとしている。しかし、本発明はこれに限定されるものではなく、その不活性ガス等による熱風噴射の際に、そのステータ12のステータコイル14に直接に通電してそのステータ12を加熱することとしてもよいし、また、その熱風ノズル70とは別の噴射ノズルから熱風を噴射させてそのステータ12を加熱することとしてもよい。