以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
まず、本実施形態のEL素子製造用スパッタリングターゲット(以下、必要に応じて「ターゲット」ともいう。)の製造方法について説明する。
本実施形態のEL素子製造用スパッタリングターゲットの製造方法は、少なくとも、2価金属の硫化物と、3価金属の単体と、発光中心元素の硫化物と、を混合して混合物を得る混合工程と、混合物を成形して成形物を得る成形工程と、成形物を焼結してEL素子製造用スパッタリングターゲットを得る焼結工程とを含むものである。
原料の2価金属の硫化物(以下、必要に応じて「MIIS」という。)及び3価金属(以下、必要に応じて「MIII」という。)は、母体材料として用いられるものである。これらのうち、MIISは、高い色純度及び発光輝度のEL素子を得る観点から、MgS、CaS、SrS及びBaSから選ばれる少なくとも1種の硫化物であると好ましい。さらに、色純度の高い青色の発光を得る観点からは、BaSであるとより好ましく、色純度の高い緑色の発光を得る観点からは、SrSであるとより好ましい。
また、MIIIは、高い色純度及び発光輝度のEL素子を得る観点から、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも1種の金属であると好ましい。さらに、色純度の高い青色の発光を得る観点からは、Alであるとより好ましく、色純度の高い緑色の発光を得る観点からは、Gaであるとより好ましい。
なお、本明細書において、元素を「S」、「O」、「Al」、「Ga」、「MII」あるいは「MIII」など、元素記号単独で示す場合は、必要に応じて、イオンの状態(たとえばS2−、O2−、Al3+など)であってもよく、原子の状態であってもよい。
本実施形態のターゲットの製造方法は、従来のターゲットの製造方法とは異なり、これらのMIIS及びMIIIをターゲットの材料に用いることにより、得られるターゲット中へのO(酸素)の混入を十分に抑制することができる。
つまり、従来のターゲットの製造方法においては、無機EL素子の発光層を構成するMIII原子の供給源にMIII 2S3を用いていた。しかしながら、このMIII 2S3は、主にターゲット作製時の原料の混合工程において、雰囲気中のH2O(水)により加水分解反応を起こして、MIII 2O3に変化する(MIII 2S3+3H2O→MIII 2O3+3H2S)と考えられる。この反応の結果、MIII 2O3中のOとしてターゲット中にOが取り込まれる一方で、MIII 2S3が有していたSは、H2Sとなって揮発するため、所望量のSが得られなくなってしまう。
また、ターゲット作製時の原料の混合工程において加水分解されなかったMIII 2S3は、焼結工程後に得られるターゲットの焼結体に含まれた状態で、空気中のH2Oにより加水分解されると考えられる。この場合、ターゲットの焼結体にOのコンタミネーションが多くなる傾向にある。また、該焼結体はクラックも頻繁に発生する傾向にあるため、多孔質で比較的密度の低い焼結体となる。このようなターゲットの焼結体は、スパッタリングターゲットとして効果的に機能しない傾向にある。
一方、本実施形態のターゲットの製造方法においては、発光層を構成するMIII原子の供給源に、3価金属自体を用いている。この3価金属は、3価金属の硫化物とは異なり、雰囲気中のH2Oと反応し難いので、得られるターゲット中にOが取り込まれることを十分に抑制できる。
また、原料が有するSは、空気中のH2Oと容易に反応するMIII 2S3中のSではなく、H2Oと反応し難い傾向にあるMIIS及び発光中心元素の硫化物等が有するSに限られるため、そのSがH2Sとして揮発することは十分に抑制され、所望量のSを含んだ状態でターゲットの焼結体を得ることができる。
さらには、本実施形態のターゲットの製造方法によって得られるターゲットの焼結体は、その状態であっても空気中のH2Oと反応し難い傾向にある。その結果、該焼結体中へのコンタミネーションの混入あるいはクラックの発生も十分に抑制される。したがって、かかるターゲットは、スパッタリングターゲットとして効果的に機能することができる。
また、本実施形態のターゲットの製造方法によって得られるターゲットの焼結体は、3価金属の硫化物と比較して低い融点を有する3価金属自体を原料として用いているので、非常に緻密で安定した焼結体となり易く、高密度化を達成することが容易になる。
該ターゲットの原料である発光中心元素の硫化物は、無機EL素子の発光層に含有される発光中心として機能する元素の硫化物であれば、特に限定はされない。それらのなかで、発光効率などの観点から、希土類元素に属する元素の硫化物であると好ましい。該希土類元素に属する元素としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Lu、Sm、Eu、Pm、DyもしくはYbなどが挙げられる。
さらに、青色の色純度の高い発光を得る観点から、該元素がEuであると好ましく、緑色の色純度の高い発光を得る観点から、該元素がEuもしくはCeであると好ましい。
上述した好ましい2価金属の硫化物であるBaS、及び好ましい3価金属であるAlと組み合わせる発光中心元素の硫化物としては、発光輝度及び青色の色純度の高い発光を得る観点から、Euの硫化物であるとより好ましい。また、上述した好ましい2価金属の硫化物であるSrS、及び好ましい3価金属であるGaと組み合わせる発光中心元素の硫化物としては、緑色の色純度の高い発光を得る観点から、Euの硫化物であるとより好ましい。
上述したターゲットの各原料のうち、MIISとMIII 2S3は、MIIに対するMIIIのモル比(MIII/MII)が1.0〜6.0となるように混合すると好ましい。このモル比が、上記数値範囲内にあると、得られるターゲットの焼結体に点欠陥等が生じ難い傾向にあるので、スパッターリングターゲットとして効果的に機能できる。このモル比が上記下限値を下回ると、MIII 2S3が不足するため、焼結後のターゲットの焼結体が脆くなる傾向にある。また、該モル比が上記上限値を超えると、MIISが不足するため、焼結後のターゲットの焼結体の焼結性が低下する傾向にある。このような観点から、該モル比は、1.5〜5.0であるとより好ましく、2.0〜4.5であるとさらに好ましい。
また、発光中心元素の硫化物は、上記MIISに対してモル比が0.005〜0.1となるように混合されると好ましい。上記下限値を下回ると高輝度・高色純度の発光が得られない傾向にあり、上記上限値を超えても高輝度・高色純度の発光が得られない傾向にある。
さらに、本実施形態のターゲットの製造方法において、ターゲットの原料としてZnSを用いる。このZnSを含有するターゲットを用いて、適当な温度でスパッタリングすると、ZnS由来のSは発光膜中に残存するが、Znは発光膜に含有されない傾向にある。したがって、ZnS中のZnが発光膜に与える影響は少ない傾向にあるので、発光膜に有効にSのみを供給することができる(硫黄の補填効果)。
ZnS由来のSが発光膜中に残存し、Znが残存しない要因は、たとえば以下のように考えられる。すなわち、スパッタリングを行い発光膜を形成する際に、MIIもしくはMIIIなどの金属に対し、MIIS由来のSもしくはOの数が、MIIMIII 2S4などの結晶を形成するには不足する。その結果、該結晶は陰イオン空格子点などの点欠陥を有することとなる。したがって、このような陰イオンが不足した発光膜表面に飛来したSもしくはOは、該表面を拡散して、上記陰イオン空格子点等の空サイトに取り込まれうると考えられる。一方、Znは発光膜表面を拡散した後、取り込まれるべき空サイトがないため、該表面との結合が切断されて再蒸発すると考えられる。
ターゲットの原料へのZnSの混合割合は、ターゲットの焼成(焼結)条件とスパッタリングの際の条件、特に基板温度に応じて適宜決定すればよいが、MIISに対するモル比(言い換えると、2価金属に対するZnのモル比)が0.05〜9.00であると好ましく、0.1〜7.5であるとより好ましく、0.5〜6.8であるとさらに好ましい。ZnSの混合割合が0.05よりも低いと硫黄の補填効果が有効に発揮されない傾向にある。また、ZnSの混合割合が9.00を越えると、最終的に得られる発光膜において母体材料結晶の結晶性が低下する傾向にあり、また、EL素子の発光輝度が低下する傾向にある。
本実施形態のターゲットの製造方法では、上述したターゲットの各原料は、まず混合工程において、スパッタリングターゲットを得るための従来の混合方法により混合される。たとえば、各原料が粉末状であって、それらをN2もしくはArなどの不活性ガス雰囲気中で混合すると、混合物中への酸素の混入を十分に抑制することができる。この場合、従来のターゲットの原料である3価金属の硫化物を用いると、その後の焼結工程を経て得られたターゲットは、非常に不安定な状態となり、大気中の水分との反応によりH2Sの放出による強い刺激臭、表面の変色及びクラックなどの不具合が発生ずるため、スパッタリングターゲットとして不適当なものとなってしまう。しかしながら、本実施形態においては3価金属の硫化物の代わりに3価金属自体を用いるため、水分との反応は十分に抑制されるので、得られるターゲットに上述のような不具合は生じない傾向にある。
あるいは、粉末状の各原料を空気雰囲気等の酸素存在下で混合してもよい。この場合、原料の3価金属の単体が、従来用いられてきた3価金属の硫化物と比較して加水分解反応を起こし難いため、得られる混合物には、従来よりも少量のOが含有されることとなる。このような少量のOの含有は、EL素子の製造時のアニール処理において、発光膜中のO含有量を調整する際に障害とならない程度であれば、何ら問題ない。
続いて、混合して得られた各原料の混合物は、成形工程と焼結工程とを同時に行って、ペレット状のEL素子製造用スパッタリングターゲットを得ることが好ましい。たとえば、成形及び焼結は常圧下で行ってもよいが、加圧下で行うとより好ましい。加圧焼結には、ホットプレス法または熱間静水圧プレス法を用いることが好ましく、特にホットプレス法が好ましい。
加圧焼結の際の圧力、温度および焼成時間は、緻密な焼結体が得られるように適宜調整すればよいが、通常、圧力は5MPa以上とし、温度は500〜1500℃とし、焼成時間は10〜300分間とすることが好ましい。圧力が5MPaよりも低く、あるいは温度が500℃よりも低く、あるいは焼成時間が10分間よりも短かいと、緻密な焼結体が得られ難い傾向にある。また、温度が1500℃よりも高く、あるいは焼成時間が300分間よりも長いと、ターゲット中のO含有量が多くなりすぎる傾向にある。
なお、加圧力の上限は特にないが、ホットプレス法において成形用型枠として一般的なカーボン型を用いる場合には、通常、60MPa以下とすることが好ましい。また、熱間静水圧プレス法では、200MPa以下とすることが好ましい。
さらに、成形及び焼結時の雰囲気は、その際のターゲットの過剰な酸化を防ぐため、好ましくは還元するために、非酸化性であることが好ましい。非酸化性雰囲気としては、真空、希ガスやN2等の不活性ガス、H2S等の硫黄含有ガスなどのいずれであってもよい。
なお、別の実施形態において、ターゲットの各原料を混合した後、まず成形を行った後に焼結を行ってもよい。これらの成形方法及び焼結方法としては、スパッタリングターゲットを得るための通常の方法であれば、特に限定されることなく用いることができる。
次に本実施形態のEL素子製造用スパッタリングターゲットについて説明する。
本実施形態のEL素子製造用スパッタリングターゲットは、上述したEL素子製造用スパッタリングターゲットの製造方法によって得られるものである。したがって、そのターゲットは、組成式が少なくとも2価金属元素、3価金属元素及びS(硫黄)により表現される母体材料と発光中心材料とを含有するものである。
上記母体材料が有する2価金属は、高い色純度及び発光輝度のEL素子を得る観点から、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種の金属であると好ましい。さらに、色純度の高い青色の発光を得る観点からは、Baであるとより好ましく、色純度の高い緑色の発光を得る観点からは、Srであるとより好ましい。
また、上記母体材料が有する3価金属は、高い色純度及び発光輝度のEL素子を得る観点から、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも1種の金属であると好ましい。さらに、色純度の高い青色の発光を得る観点からは、Alであるとより好ましく、色純度の高い緑色の発光を得る観点からは、Gaであるとより好ましい。
本実施形態のターゲットに含有される発光中心材料は、無機EL素子の発光層に含有される発光中心として機能する材料であれば、特に限定はされない。それらのなかで、発光効率などの観点から、希土類元素に属する元素からなる材料であると好ましい。該希土類元素に属する元素としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Lu、Sm、Eu、Pm、DyもしくはYbなどが挙げられる。
さらに、青色の色純度の高い発光を得る観点から、該元素がEuであると好ましく、緑色の色純度の高い発光を得る観点から、該元素がEuもしくはCeであると好ましい。
上述した好ましい2価金属であるBa、及び好ましい3価金属であるAl(すなわち、バリウムチオアルミネート)と組み合わせる発光中心材料としては、発光輝度及び青色の色純度の高い発光を得る観点から、Euであるとより好ましい。また、上述した2価金属であるSr、及び好ましい3価金属であるGa(すなわち、ストロンチウムチオガレート)と組み合わせる発光中心材料としては、緑色の色純度の高い発光を得る観点から、Euであるとより好ましい。
上述したターゲットに含まれる各元素のうち、2価金属(MII)と3価金属(MIII)との含有比は、MIIに対するMIIIのモル比(MIII/MII)として1.0〜6.0であると好ましい。この含有比が、上記数値範囲内にあると、ターゲットに点欠陥等が生じ難い傾向にあるので、スパッターリングターゲットとして効果的に機能できる。また、このような点欠陥等が生じ難いターゲットを用いて発光膜を形成すると、そのような発光膜を備えるEL素子は、高い発光輝度を得ることができる傾向にある。この含有比が上記下限値を下回ると、MIIIが不足するため、焼結後のターゲットの焼結体が脆くなる傾向にある。また、該含有比が上記上限値を超えると、MIIが不足するため、焼結後のターゲットの焼結体の焼結性が低下する傾向にある。このような観点から、該含有比は、1.5〜5.0であるとより好ましく、2.0〜4.5であるとさらに好ましい。
また、発光中心材料は、最終的に得られる発光膜中で発光中心となる元素の含有比がMIIに対するモル比として0.005〜0.1となるように調整することが好ましい。したがって、通常は、発光中心材料の上記MIIに対するモル比が0.005〜0.1となるように混合されると好ましい。上記下限値を下回ると高輝度・高色純度の発光が得られない傾向にあり、上記上限値を超えても高輝度・高色純度の発光が得られない傾向にある。
本実施形態のターゲットには、ZnSが含有されている。このZnSを含有するターゲットを用いて、適当な温度でスパッタリングすると、ZnS由来のSは発光膜中に残存するが、Znは発光膜に含有されない傾向にある。したがって、ZnS中のZnが発光膜に与える影響は少ない傾向にあるので、発光膜に有効にSのみを供給することができる。
ターゲット中へのZnSの混合割合は、スパッタリングの際の条件、特に基板温度に応じて適宜決定すればよいが、MIIに対するモル比として0.05〜9.00であると好ましく、0.1〜7.5であるとより好ましく、0.5〜6.8であるとさらに好ましい。ZnSの混合割合が0.05よりも低いと硫黄の補填効果が有効に発揮されない傾向にある。また、ZnSの混合割合が9.00を越えると、最終的に得られる発光膜において母体材料結晶の結晶性が低下する傾向にあり、また、EL素子の発光輝度が低下する傾向にある。
本実施形態のターゲットは、さらにO(酸素)を含有してもよい。このOは、3価金属の表面酸化膜に由来するもの、あるいはターゲットの製造方法の各工程において混入されるものであってもよい。
このOのターゲット中での含有割合は、従来のスパッタリングターゲットにおいては、原料に3価金属の硫化物を採用することにより、大気中のH2O由来のOも比較的大量に含有するため、5質量%以下とすることは不可能であった。したがって、従来のターゲットから形成された従来の発光膜中にも比較的多くのOが含まれてしまう。
ところで、EL素子に備えられる発光膜中には、EL素子の輝度寿命を実用化に耐え得る程度に長くする等の観点から、ある程度の量のOが含有される必要がある。このOの含有量は発光膜を形成した後のアニール処理により、通常、O/(S+O)で0.01〜0.3(モル比)調整される。
しかしながら、該発光膜の形成に用いられるターゲット中に、上記調整量よりは少ないが比較的多くのOが含有されると、上記アニール処理時のO含有量の目標値との差(=調整幅)が小さくなるため、該アニール処理によっても、発光膜中のO含有量を一定範囲内に収めることは困難になる傾向にある。
本実施形態のターゲットは、上述した本実施形態のターゲットの製造方法により得られるものであるので、大気中のH2O由来のOとしてはほとんど含有されていないと考えられる。したがって、該Oのターゲット中の含有割合を、3質量%以下とすることができる。そのようなターゲットを用いて発光膜のスパッタリングを行うと、得られる発光膜中のO含有量も十分に低くすることができる。その結果、該発光膜をアニール処理する際のO含有量の調整幅は十分に大きくなるので、アニール処理により、容易に所望のO含有量に調整することができる。
また、ターゲット中に5質量%を越えるOが含有されると、それを用いて形成された発光膜中に、MIII 2O3が一部形成されることも考えられる。このMIII 2O3は、それ自体発光には寄与しない。したがって、MIII 2O3が存在することは、実質的に後述する発光膜中のMIII/MIIを低下させることとなり、MIIIの点欠陥等を生じさせないようにMIII/MIIを調整することを困難にさせる傾向にある。以上のような観点から、該Oのターゲット中の含有割合を3質量%以下とする。同様の観点から、得られる発光層5中のSの含有割合が後述する化学量論量に対する比で0.8以上となるように、ターゲット中のOの含有割合を調整すると、さらに好ましい。
さらに、本実施形態においては、ターゲット中に含有されるOの量を上述のように十分に少なくすることにより、ターゲット中に含有されるSがその化学量論量に対して充分となり、結果として発光膜中のOの割合を十分に低くすることができる。ここで、Sの「化学量論量」とは、ターゲットに含有される金属元素を安定な硫化物にする際に必要となるSの量のことをいう。たとえば、ターゲットに含有される金属元素がBa、Zn、Al及びEuである場合、それらの金属元素がBaS、ZnS、Al2S3及びEuSとして安定に存在するのに必要となるSの量のことをいう。化学量論量に対して充分なSがターゲット中に含有されるより、該ターゲットを用いて形成された発光膜を備えたEL素子は、高い色純度及び発光輝度を有する傾向にある。
また、本実施形態のターゲットは、イオン結晶化していることが好ましいが、少なくともその一部が明確な結晶構造を有しない非晶質状態であってもよい。さらに、ZnはZnS結晶のZn(Zn2+)として存在していてもよく、母体材料の結晶の一部の元素(イオン)に置換されて存在していてもよい。
ターゲットには、上記した母体材料および発光中心のほか、微量添加物ないし不可避的不純物が含有されていてもよい。微量添加物ないし不可避的不純物としては、たとえばB、C、Si、P、Cl、As、Se、Br、Te、I、Li、Na、Rb、Cs、Ge、Sn、Sb、Tl、Pb、Bi、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、PtおよびAuから選択される元素の少なくとも1種が挙げられる。ただし、輝度等の蛍光体特性に対する悪影響を抑えるためには、ターゲット中におけるこれらの元素の合計量を0.05モル%以下、特に0.01モル%以下にすることが好ましい。
続いて、本実施形態のEL素子について、図1を参照しながら説明する。
本実施形態のEL素子1は、互いに対向する第1の電極(下部電極)3A及び第2の電極(上部電極)3Bと、前記第1の電極3Aと第2の電極3Bとの間に配置される発光層5と、第1の電極3Aと発光層5との間に設けられた絶縁層4を備え、通常は基板2上に設けられてなるものである。
発光層5は、2価金属、3価金属、S及びOからなる組成物を有する母体と発光中心とからなる蛍光体を含有する発光膜からなるものである。このような発光層5は、後述の条件の下、上述した本実施形態のEL素子製造用スパッタリングターゲットを用いて、形成される。したがって、2価金属としては、高い色純度及び発光輝度のEL素子を得る観点から、Mg、Ca、Sr及びBaから選ばれる少なくとも1種の金属であると好ましい。さらに、色純度の高い青色の発光を得る観点からは、Baであるとより好ましく、色純度の高い緑色の発光を得る観点からは、Srであるとより好ましい。
また、3価金属としては、高い色純度及び発光輝度のEL素子を得る観点から、Al、GaおよびInから選ばれる少なくとも1種の金属であると好ましい。さらに、色純度の高い青色の発光を得る観点からは、Alであるとより好ましく、色純度の高い緑色の発光を得る観点からは、Gaであるとより好ましい。
本実施形態の発光層5に含有される発光中心は、発光効率などの観点から、希土類元素に属する元素として表されるものであると好ましい。該希土類元素に属する元素としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Lu、Sm、Eu、Pm、Dy及びYbなどが挙げられる。
さらに、青色の色純度の高い発光を得る観点から、該元素がEuであると好ましく、緑色の色純度の高い発光を得る観点から、該元素がEuもしくはCeであると好ましい。
上述した好ましい2価金属であるBa、及び好ましい3価金属であるAl(すなわち、バリウムチオアルミネート)と組み合わせる発光中心としては、発光輝度及び青色の色純度の高い発光を得る観点から、Euであるとより好ましい。また、上述した2価金属であるSr、及び好ましい3価金属であるGa(すなわち、ストロンチウムチオガレート)と組み合わせる発光中心としては、緑色の色純度の高い発光を得る観点から、Euであるとより好ましい。
発光層5に含まれる各元素のうち、2価金属(MII)と3価金属(MIII)との含有比は、MIIに対するMIIIのモル比(MIII/MII)として1.0〜6.0であると好ましい。この含有比が上記数値範囲内にあると、発光層5中の母体材料の結晶が欠陥を生じ難い傾向にあるので、EL素子1は、高い発光輝度を得ることができる傾向にある。このような観点から、該含有比は、1.5〜5.0であるとより好ましく、2.0〜4.5であるとさらに好ましい。
また、発光中心は、上記MIIに対してモル比が0.005〜0.1であると好ましい。上記下限値を下回ると高輝度・高色純度の発光が得られない傾向にあり、上記上限値を超えても高輝度・高色純度の発光が得られない傾向にある。
発光層5中のS(硫黄)の含有割合は、化学量論量に対する比で、0.8以上となると好ましい。ここで、Sの「化学量論量」とは、発光層5に含有される金属元素を安定な硫化物にする際に必要となるSの量のことをいう。たとえば、発光層5に含有される金属元素がBa、Zn、Al及びEuである場合、それらの金属元素がBaS、ZnS、Al2S3及びEuSとして安定に存在するのに必要となるSの量のことをいう。このSの化学量論量に対する比が0.8以上となることにより、該発光層5を備えたEL素子1は、高い色純度及び発光輝度を有する傾向にある。
発光層5に含有されるOは、3価金属の表面酸化膜に由来するもの、あるいはターゲットの製造方法の各工程において混入されるものであってもよく、EL素子の製造時のアニール処理によって導入されるものであってもよい。このOの発光層5中での含有割合は、EL素子1の高輝度寿命化をねらう等の観点から、O/(S+O)で0.01〜0.3(モル比)であると好ましい。
発光層5の厚さは、50〜700nmであると好ましく、100〜300nmであるとより好ましく、100〜200nmであるとさらに好ましく、150nm程度であると特に好ましい。この厚さが50nm未満であると、発光輝度が不都合なほどに低下してしまうおそれがあり、700nmを越えると、発光しきい電圧が過度に上昇する傾向にある。
基板2は、上部にEL素子1における各層を形成可能であり、また上方に形成された発光層5を汚染するおそれのないものであれば特に限定されず、EL素子1の形成の際に行われるアニール処理におけるアニール温度に耐え得る耐熱性を有していることが好ましい。このような特性を有する基板2としては、セラミックス基板や、セラミックス材料粉末をフィラーとしてガラス粉末を混合焼結させたガラスセラミックス基板、アルカリ土類結晶化成分を含む結晶化ガラス基板等を列挙できる。
下部電極3Aは、上述の如く、複数の帯状電極が一定間隔でストライプ状に一定方向に延在するように、基板2上に配設されてなっている。この下部電極3Aは、所定の高導電性を発現するものであり、アニール処理の際の高温や酸化性雰囲気によって損傷を受け難いものであると好ましく、更に上方に形成される発光体層5との反応性が極力低いものであるとより好ましい。具体的には、下部電極3Aを構成する材料としては、金属材料が好ましく、例えば、貴金属合金、貴金属を主成分とし卑金属元素が添加された合金が好ましい例として挙げられる。これらの金属材料を用いることにより、高温又は酸化性雰囲気に対する耐性が充分に高められる。
絶縁層4は、例えば、酸化ケイ素(SiO2)、窒化ケイ素(Si3N4)、酸化タンタル(Ta2O5)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、酸化イットリウム(Y2O3)、ジルコニア(ZrO2)シリコンオキシナイトライド(SiON)、アルミナ(Al2O3)等の電気絶縁性を有する金属酸化物材料から好適に構成される。その厚さは、5〜150nmであると好ましく、10〜100nmであるとより好ましい。
上部電極3Bは、上述の如く、複数の帯状電極が一定間隔でストライプ状に下部電極3Aの延在方向と直交する平面方向に延在するように発光層5上に配設されてなっている。この上部電極3Bは、EL素子1の図示上方から発光を取り出す場合に透明導電材料から構成される。このような透明導電材料としては、In2O3、SnO2、ITO又はZnO−Alといった酸化物導電性材料等を用いることができる。その厚さは、0.2μm〜1μmであると好ましい。
別の実施形態のEL素子11において、図2に示されるように、図1に示される絶縁層4に代えて、発光層を上下から挟むように下部絶縁層4A及び上部絶縁層4Bを設けてもよい。下部絶縁層4A及び上部絶縁層4Bは、上記絶縁層4と同様の材料によって構成される。また、両層4A、4Bは同一種類の材料で形成されていてもよく、異なる種類の材料で形成されていてもよい。この実施形態における下部絶縁層4Aの厚さは、上記実施形態の絶縁層4と同様であると好ましく、上部絶縁層4Bの厚さは、50〜1000nmであると好ましく、100〜500nmであるとより好ましい。
さらに別の実施形態のEL素子21において、図3に示されるように、図2に示されるEL素子21の下部絶縁層4Aと発光層5との間に下部バッファ層6Aを設け、上部絶縁層4Bと発光層との間に上部バッファ層6Bを設けてもよい。バッファ層6A、6Bは、キャリア注入層としての役割を果たしており、ZnSからなると好ましく、ZnSからなる母体材料に希土類元素に属する元素および13族元素に属する元素のうち少なくとも1種の元素がドープされてなるとより好ましい。このバッファ層6A、6Bにより、発光層5への電子注入が増強され、その結果、EL素子21の発光輝度及び発光効率が向上される。これらのバッファ層6A、6Bの厚さは、上記効果を有効に発揮する観点から、30〜300nmであると好ましく、50〜200nmであるとより好ましい。
また、図示していないが、なおも別の実施形態のEL素子において、下部電極と下部絶縁層との間に厚膜誘電層が設けられてもよい。この厚膜誘電層は、セラミック材料を構成材料とすると好ましく、例えば、BaTiO3もしくはPbTiO3等のペロブスカイト構造を有する誘電体材料、あるいは、BiTi3O12等のビスマス層状化合物などが挙げられる。
なお、各実施形態のEL素子において、絶縁層、発光層、電極等の隣り合う各層の間には、密着を上げるための層、応力を緩和するための層、反応を制御するための層など、各種中間層を設けてもよい。また、厚膜表面は、研磨したり平坦化層を用いるなどして平坦性を向上させてもよい。
次に本実施形態のEL素子1の製造方法について説明する。
まず、基板2となるシートを作製する。次いで、該基板2上に下部電極3Aをストライプ状に形成する。下部電極3Aの形成方法としては、従来用いられてきた方法であれば特に限定されず、例えば、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、ゾルゲル法もしくは印刷焼成法などを用いることができる。
続いて、下部電極3A及び基板2上に絶縁層4を形成する。絶縁層4の形成方法としては、従来用いられてきた方法であれば特に限定されず、例えば、ゾルゲル法もしくは印刷焼成法などを挙げることができる。これらのなかで、印刷焼成法を用いる場合、下部電極3Aとなるペースト及び絶縁層4となるペーストをそれぞれ印刷した後に焼成して、それらを得てもよい。
次に、本実施形態のターゲットを単独で用いたスパッタリング法により、絶縁層4上に発光層5を形成する。このスパッタリングに用いるターゲットとしては、本実施形態のターゲットを単独で用いる単元のターゲットの他に、3族金属以外の母体材料及び発光中心を含有するターゲットと、3族金属を含有するターゲットとを別々に用いる等の2元以上のターゲットが考えられる。しかしながら、2元以上のターゲットを用いた場合、上述したような3族金属によるターゲットの焼結性を向上させる効果が得られない傾向にある。また、単元のターゲットを用いた場合は、組成に偏りのない発光層を形成できるのに対し、2元以上のターゲットを用いた場合は、それぞれのターゲットが異なる組成を有しているため、組成に偏りのない発光層を形成することが困難な傾向にある。
スパッタリングの際の基板2の温度は、従来のスパッタリング法で設定されている温度であれば、特に限定はされない。また、ターゲットにZnSを含有する場合は、スパッタリングの際にZnが再蒸発するように基板2の温度を設定することにより、発光層5へのZnS由来のSの供給、および発光層の高結晶化が効果的に行われる。そのような基板2の温度としては、好ましくは250〜800℃、より好ましくは350℃〜700℃、さらに好ましくは450℃〜600℃とすることが望ましい。基板2の温度が250℃より低いと、Znが発光層5に残存する傾向ある。また、基板2の温度が800℃より高くなると、発光層5の表面の凹凸が激しくなり、該層中にピンホールが発生し、EL素子に電流リークの問題が発生する傾向にある。
スパッタリング時の雰囲気は特に限定されず、N2もしくはAr等の還元性雰囲気としてもよく、空気もしくはO2等の酸化性雰囲気としてもよい。スパッタリング時の雰囲気圧力は特に限定されず、通常、0.2〜10Paの範囲内で適宜設定すればよい。
上記スパッタリング法としては、例えばRFマグネトロンスパッタリング法が挙げられる。このRFマグネトロンスパッタリング法は、高周波電圧(例えば、13.5MHz程度)を印加することにより陰極となるターゲットから放出されるγ電子を磁場(マグネット)によりドリフトさせ、ターゲット近傍の希ガス等の電離を促進し高密度プラズマを生成させることによりスパッタリングを行う方法である。ただし、スパッタリング法としては、発光層の形成に従来用いられている方法であれば、これに限定されることなく採用することができる。
発光層5の形成後には、該層の結晶性を向上させ、また、該層中の組成を調整するために、アニール処理を行うことが好ましい。このアニール処理の際の雰囲気は、真空、N2もしくはArなどの還元性雰囲気、空気等の酸化性雰囲気、S蒸気、H2Sなどから目的に応じて適宜選択すればよい。これらのうち、酸化性雰囲気中でのアニール処理は、発光層5中にOを適当量導入して、EL素子1の高輝度寿命化を達成することができるので好ましい。本実施形態においては、ターゲットに含まれるOが従来のターゲットよりも少ないため、この酸化性雰囲気中でのアニール処理による、発光層5中のO含有量の調整が容易にできる。
アニール温度は、通常、500〜1000℃の範囲が好ましく、600〜800℃の範囲内に設定するとより好ましい。ターゲットにZnSを含有する場合は、アニール温度が750℃未満、特に700℃以下であっても、十分に高い発光輝度のEL素子が得られる。なお、アニール温度が500℃より低いと、結晶性向上による発光輝度向上効果が不十分となる傾向にある。アニール時間は、通常、1〜60分間、好ましくは5〜30分間である。アニール時間が1分間よりも短いと、アニールによる効果が十分に実現しない傾向にある。一方、アニール時間を60分間より長くすると、アニールによる効果は顕著には増大せず、発光層以外の構成要素(電極や基板など)が長時間の加熱によりダメージを受けてしまう傾向にあり、好ましくない。
次いで、発光層5上に、下部電極3Aのストライプ方向に対し直交する方向に、上部電極3Bをストライプ状に形成してEL素子1を完成させる。上部電極3Bの形成方法としては、従来用いられてきた方法であれば特に限定されず、例えば、蒸着法、スパッタリング法、CVD法、ゾルゲル法もしくは印刷焼成法などを用いることができる。
また別の実施形態のEL素子11の製造方法においては、発光層5を形成し、アニール処理を施した後に、発光層5上に上部絶縁層4Bを形成する工程(キャップ工程)を含む。上部絶縁層4Bの形成方法としては、従来用いられてきた方法であれば特に限定されず、例えば、ゾルゲル法もしくは印刷焼成法などを挙げることができる。この上部絶縁層4Bを形成することにより、発光層5への過剰なOの供給を十分に防止することができる。
なお、この別の実施形態では、上記アニール処理を発光層5を形成した後、すなわち発光層5を露出した状態で行ってもよく、上部絶縁層4Bを形成した後に行ってもよく、それらの両段階において行ってもよい。これらのうち、上部絶縁層4Bを形成した後に酸化性雰囲気中でアニール処理を行うと、発光層5への適当量のOの導入を、より容易に調整することができるので好ましい。
さらに別の実施形態のEL素子21の製造方法においては、下部絶縁層4Aを形成した後に該絶縁層4A上に下部バッファ層6Aを形成する工程と、発光層5を形成した後に該発光層5上に上部バッファ層6Bを形成する工程を含む。バッファ層6A、6Bは、蒸着法もしくはスパッタリング法等により形成される。
この、さらに別の実施形態のEL素子21の製造方法においては、発光層5及び上部絶縁層4Bはそれぞれ下部バッファ層6A及び上部バッファ層6B上に形成される。そして、アニール処理は、発光層5の形成後のほか、上部バッファ層6Bの形成後もしくは上部絶縁層4Bの形成後に行われてもよい。これらのうち、上部絶縁層4Bの形成後に、アニール処理を行うと、上部バッファ層6Bへの過剰なOの供給が防止されるので好ましい。
また、なおも別の実施形態のEL素子の製造方法においては、下部電極と下部絶縁層との間に厚膜誘電層が形成される。この厚膜誘電層の形成方法としては、予めセラミック材料粉末にバインダー、溶剤等を混合した厚膜ペーストを基板上に塗布し、乾燥させて厚膜グリーンとした後、この厚膜グリーンを焼成する方法、ゾルゲル法もしくはMOD(Metallo-Organic Decomposition)法等を採用できる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1のスパッタリングターゲットは、原料であるBaS、Al、EuS及びZnSの粉末を、モル基準で、1.00:2.30:0.05:4.50の割合で混合して、ホットプレスすることにより、ペレット状のものを得た。混合は空気雰囲気中で行い、ホットプレスは、Ar雰囲気中で、圧力30MPa、温度800℃の下、1時間行った。
得られたターゲット中の各成分の組成をO以外はICP質量分析法により分析し、OはLECO社製酸素・窒素分析装置(TC600)を用いて分析した。結果を表1に示す。
表中、Al/Baは、ターゲットに含まれるBaに対するAlのモル比を示し、S/(S+O)は、ターゲットに含まれるS及びOの総モル数に対するSのモル数の比を示す。
<EL素子の作製>
まず、基板材料としてAl2O3を用い、これをシート状に加工して基板2とした。次に、この基板2上にAuを粉末金属ペースト状としたものをスクリーン印刷した後に焼成して下部電極3Aを形成した。次いで、厚膜絶縁層材料としてPMN−PT(Pb(Mg1/3Nb2/3)O3−PbTiO3)を用い、これを粉末状とした後、バインダー、分散剤及び溶剤を添加して厚膜ペーストとし、下部電極3Aが形成された基板2上に塗布した後に乾燥させ、更に焼成を行って厚膜絶縁層を形成した。
次に、Al2O3ペレットを用いた蒸着法により厚膜絶縁層上にAl2O3からなる下部絶縁層4Aを形成した後、その上にZnSペレットを用いた蒸着法によってZnSからなる下部バッファ層6Aを形成した。
続いて、実施例1のスパッタリングターゲットのペレットを用い、基板温度を250℃に調整し、Ar雰囲気中でRFマグネトロンスパッタリング法により、発光層5を形成した。
次に、発光層5上にZnSペレットを用いた蒸着法によってZnSからなる上部バッファ層6Bを形成し、アニール処理を行った。その後、上部バッファ層6B上に、Al2O3ペレットを用いた蒸着法によりAl2O3からなる上部絶縁層4Bを形成し、空気雰囲気中、700℃で20分間、アニール処理を行った。
そして、上部絶縁層4B上に、ITOターゲットを用いたRFマグネトロンスパッタリング法を用いて、室温で膜厚400nmのITO透明電極(上部電極3B)を形成し、実施例1にかかるEL素子を完成した。
なお、発光層5の組成測定のために、Si基板上にも発光層5と同様にして発光膜を形成した。このアニール処理後の発光膜中の各組成を蛍光X線分析法により分析した。その結果を表2に示す。
表中、Al/Baは、発光膜に含まれるBaに対するAlのモル比を示し、S/(化学量論S)は、発光膜がBaAl2S4の結晶であると仮定した場合の、Sの化学量論量に対する実際のSのモル数の比を示す。
このEL素子の上部電極および下部電極から電極を引き出し、両極性電界を印加して発光特性を測定したところ、高い発光輝度の青色発光が再現性よく得られた。
(比較例1)
比較例1のスパッタリングターゲットは、原料としてBaS、Al2S3、EuS及びZnSの粉末を用いて、各原料をモル基準で、1.00:1.15:0.05:1.00の割合で混合して、ホットプレスすることにより、ペレット状のものを得た。混合は空気雰囲気中で行い、ホットプレスは、Ar雰囲気中で、圧力30MPa、温度800℃の条件の下、1時間行った。得られたターゲット中の各成分の組成を実施例1と同様にして分析した。結果を表1に示す。
また、実施例1のスパッタリングターゲットを用いる代わりに、比較例1のスパッタリングターゲットを用いた以外は、上記EL素子と同様にして、比較例1にかかるEL素子を得た。さらに、実施例1の場合と同様にして、アニール処理後の発光膜中の各組成を蛍光X線分析法により分析した。その結果を表2に示す。
このEL素子の上部電極および下部電極から電極を引き出し、両極性電界を印加して発光特性を測定したところ、実施例1のEL素子に比して、発光輝度の低い発光が得られた。
(比較例2)
比較例2のスパッタリングターゲットは、原料としてBaS、Al2S3及びEuSの粉末を用いて、各原料をモル基準で、1.00:1.15:0.050の割合で混合して、ホットプレスすることにより、ペレット状のものを得た。混合は空気雰囲気中で行い、ホットプレスは、Ar雰囲気中で、圧力30MPa、温度1000℃の条件の下、1時間行った。得られたターゲット中の各成分の組成を実施例1と同様にして分析した。結果を表1に示す。
また、実施例1のスパッタリングターゲットを用いる代わりに、比較例2のスパッタリングターゲットを用いた以外は、上記EL素子と同様にして、比較例2にかかるEL素子を得た。さらに、実施例1の場合と同様にして、アニール処理後の発光膜中の各組成を蛍光X線分析法により分析した。その結果を表2に示す。
このEL素子の上部電極および下部電極から電極を引き出し、両極性電界を印加して発光特性を測定したところ、実施例1のEL素子に比して、発光輝度の低い発光が得られた。