以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態に係るプリンタの概略構成図である。図1に示すように、プリンタ1は、キャリッジ2、インクジェットヘッド3(液体移送装置)、用紙搬送ローラ4などを備えている。キャリッジ2は、図1の左右方向(走査方向)に往復移動する。インクジェットヘッド3はキャリッジ2の下面に取り付けられており、後述するノズル15(図2参照)からインクを吐出する。用紙搬送ローラ4は、記録用紙Pを図1の手前方向(紙送り方向)に搬送する。そして、プリンタ1においては、用紙搬送ローラ4により紙送り方向に搬送される記録用紙Pに、キャリッジ2とともに走査方向に往復移動するインクジェットヘッド3のノズル15(図2参照)からインクを吐出することによって記録用紙Pに印刷を行う。
次に、インクジェットヘッド3について説明する。図2は図1のインクジェットヘッド3の平面図である。図3は図2の平面図から後述する上部部材62を除いた図である。図4は図2の部分拡大図である。図5は図4のV−V線断面図である。図6は図4のVI−VI線断面図である。
図2〜図6に示すように、インクジェットヘッド3は、後述するマニホールド流路11、圧力室10、ノズル15を含むインク流路が形成された流路ユニット31と、流路ユニット31の上面に配置された圧電アクチュエータ32とを備えている。
流路ユニット31は、上から順に、キャビティプレート21、ベースプレート22、マニホールドプレート23及びノズルプレート24の4枚のプレートが互いに積層されることによって構成されている。これら4枚のプレート21〜24のうち、ノズルプレート24を除く3枚のプレート21〜23は、ステンレスなどの金属材料からなり、ノズルプレート24は、ポリイミド等の合成樹脂からなる。あるいは、ノズルプレート24も他の3枚のプレート21〜23と同様、金属材料によって構成されていてもよい。
キャビティプレート21には、複数の圧力室10が形成されている。圧力室10は、走査方向(図2の左右方向)を長手方向とする略楕円の平面形状を有しており、複数の圧力室10は、紙送り方向(図2の上下方向、配列方向)に配列されることによって圧力室列を構成しており、このような圧力室列が走査方向に沿って2列に配列されている。なお、キャビティプレート21の、紙送り方向に隣接する圧力室10の間の部分が、隣り合う2つの圧力室10を区画する隔壁26となっている。ベースプレート22には、平面視で圧力室10の走査方向の両端部に重なる位置に、それぞれ貫通孔12、13が設けられている。
マニホールドプレート23には、マニホールド流路11が形成されている。マニホールド流路11は、平面視で、図2左側の圧力室列を構成する圧力室10の略左半分、及び、図2の右側の圧力室列を構成する圧力室10の略右半分に、それぞれ重なるように紙送り方向に2列に延びているとともに、これら2列に延びた部分同士が図2における下端部において互いに連通している。マニホールド流路11には、後述する振動板40の、平面視でマニホールド流路11の下端部に重なる部分に形成されたインク供給口9からインクが供給される。また、マニホールドプレート23には、平面視で貫通孔13に重なる位置に貫通孔14が形成されている。
ノズルプレート24には、平面視で貫通孔14に重なる位置に、ノズル15が形成されている。そして、流路ユニット31においては、マニホールド流路11は貫通孔12を介して圧力室10に連通しており、圧力室10は貫通孔13、14を介してノズル15に連通している。このように、流路ユニット31には、マニホールド流路11の出口から圧力室10を経てノズル15に至る個別インク流路(液体移送流路)が複数形成されている。
圧電アクチュエータ32は、振動板40、圧電層41〜44、共通電極51、53、複数の個別電極52、54、下部部材61及び上部部材62などを備えたユニモルフ変形する圧電アクチュエータである。振動板40は、ステンレスなどからなる板状体であり、キャビティプレート21の上面に複数の圧力室10を覆うように配置されており、キャビティプレート21に接合されている。なお、振動板40は、ポリイミド等の樹脂や圧電層41〜44と同じ圧電材料からなる板であってもよい。
圧電層41〜44は、それぞれ、チタン酸鉛とジルコン酸鉛との混晶であり、強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛を主成分とする圧電材料からなる。圧電層41〜44は、互いに積層されて、振動板40の上面(圧力室10と反対側の面)に、平面視で複数の圧力室10と重なる領域にまたがって連続的に形成されている。また、圧電層42〜44は、予めその厚み方向に分極されている。
共通電極51は、圧電層41と圧電層42との間の、複数の圧力室10と対向する領域にまたがって連続的に形成されている。共通電極53は、圧電層43と44との間の、平面視で共通電極51と重なる領域に形成されている。ここで、圧電層42、43には、それぞれ、内部に金属などの導電性材料が充填された、互いに連通する貫通孔42a、43aが形成されており、共通電極51と共通電極53とは貫通孔42a、43aに充填された導電性材料を介して接続されている。また、共通電極51、53は常にグランド電位に保持されている。
複数の個別電極52は、圧電層42と圧電層43との間(圧電層42の圧力室10と反対側の面)に、複数の圧力室10に対応して設けられている。個別電極52は、平面視で、圧力室10よりも面積の小さい略長方形状を有しており、圧力室10の略中央部に重なるように配置されている。個別電極52の長手方向に関するノズル15側の端部は、圧力室10と対向しない2列の圧力室列の間まで延びており、その先端部が接続端子52aとなっている。
複数の個別電極54は、圧電層44の上面(圧力室10と反対側の面)に、複数の圧力室10に対応して設けられている。個別電極54は、平面視で、個別電極52と同様の略長方形状を有しており、圧力室10の略中央部と重なるように配置されている。個別電極54の長手方向に関するノズル15側の端部は、圧力室10と対向しない2列の圧力室列の間まで延びており、その先端部が接続端子54aとなっている。
ここで、圧電層43、44には、それぞれ、接続端子52a、54aと対向する部分に、内部に金属などの導電性材料が充填された、互いに連通する貫通孔43b、44aが形成されており、接続端子52aと接続端子54a(個別電極52と個別電極54)とは、貫通孔43b、44aに充填された導電性材料を介して接続されている。そして、複数の個別電極52、54には、後述するようにドライバICにより駆動電圧が選択的に付与される。
下部部材61は、圧電層41〜44と同様の圧電材料からなり、圧電層41の上面に配置された板状体である。下部部材61には、平面視で複数の圧力室10と重なる部分に、圧力室10よりも一回り大きい、走査方向を長手方向とする略長方形状の貫通穴61aが形成されている。これにより、下部部材61には、以下に説明する、複数の第1接合部71、及び、第2接合部72が形成される。そして、下部部材61は、複数の第1接合部71及び第2接合部72を含む、貫通穴61aが形成されていない部分の下面が、圧電層44の上面に接合されている。
第1接合部71は、隔壁26と対向する部分において、走査方向に延びているとともに、その幅Wa(圧電層44に接合されている部分の配列方向に関する長さ)が、隔壁26の幅Wb(配列方向に関する長さ)よりも短くなっている。より詳細には、第1接合部71の幅Waが、隔壁26の幅Wbの40〜60%程度の長さとなっている。
第2接合部72は、2列の圧力室列の間において紙送り方向に延びている。すなわち、第2接合部72は、圧電層44の上面(圧力室10と反対側の面)のうち、圧力室10と対向する部分、及び、隔壁26と対向する部分のいずれとも異なる部分に接合されている。そして、第2接合部72は、前述した、接続端子52a、54a、貫通孔43b、44aと対向している。
第2接合部72の上面には、接続端子54aと対向する部分に接続端子73が形成されている。また、第2接合部72の接続端子73と対向する部分には、内部に金属などの導電性材料が充填された貫通孔61bが形成されており、接続端子73と接続端子54aとは、貫通孔61bに充填された導電性材料を介して接続されている。
上部部材62は、下部部材61と同様の圧電材料からなる板状体である。上部部材62は、複数の貫通穴61aを覆うように、下部部材61の全域にわたって(複数の第1接合部71の圧電層44と反対側に、複数の第1接合部71にまたがって)連続的に配置されるとともに、複数の第1接合部71の上面及び第2接合部72の上面を含む、下部部材61の上面に接合されている。これにより、複数の第1接合部71及び第2接合部72が互いに連結される。すなわち、上部部材62が、本発明に係る連結部に相当する。ここで、同様の圧電材料からなる、前述した圧電層41〜44、下部部材61及び上部部材62は、後述するように、圧電層41〜44、下部部材61及び上部部材62となる圧電材料のグリーンシートを積層して焼成する際に、互いに接合される。
また、上部部材62の上面(第1接合部71と反対側の面)には、接続端子73と対向する部分に接続端子81が形成されており、上部部材62の接続端子73、81と対向する部分には内部に金属などの導電性材料が充填された貫通孔62aが形成されている。そして、接続端子81と接続端子73とは、貫通孔62aに充填された導電性材料を介して互いに接続されている。これにより、接続端子81は、貫通孔62a、接続端子73、貫通孔61bを介して個別電極54と接続されており、さらに、貫通孔44a、43bを介して、個別電極52と接続されている。
また、圧電アクチュエータ32の上方には、個別電極52、54に駆動電圧を付与するための配線が形成されたフレキシブル配線基板(FPC)90が配置されており、接続端子81は、ハンダ91を介してFPC90の配線と接続されている。FPC90の配線は、図示しないドライバICに接続されており、ドライバICによりFPC90の配線を介して、複数の個別電極52、54に駆動電圧が選択的に付与される。
ここで、本実施の形態のように、圧電層44の上面に下部部材61及び上部部材62が配置されている場合には、圧電層44の上面において個別電極52、54とFPC90の配線との接続を直接行うことは困難であるが、上部部材62の上面に形成された接続端子81とFPC90の配線とを接続することにより、個別電極52、54とFPC90の配線とを接続することができるので、個別電極52、54とFPC90の配線との接続を容易に行うことができる。
また、下部部材61が平面視で第1接合部71よりも面積の大きい第2接合部72を有しているので、第1接合部71の幅Waが狭く、第1接合部71に貫通孔を形成することが困難な場合でも、下部部材61に貫通孔61bを形成するによって、個別電極52、54とFPC90の配線との接続を容易に行うことができる。
次に、圧電アクチュエータ32の駆動方法について説明する。圧電アクチュエータ32においては、複数の個別電極52、54は、予めグランド電位に保持されており、この状態で複数の個別電極52、54のいずれかに駆動電圧が選択的に付与されると、駆動電圧が付与された個別電極52、54と共通電極51、53との間に電位差が生じ、圧電層42〜44のこの個別電極52、54と共通電極51、53とに挟まれた部分には厚み方向の電界が発生する。この電界の向きは圧電層42〜44の分極方向と一致しているので、圧電層42〜44のこの部分は、分極方向と直交する水平方向(圧電層42〜44の主面に平行な方向)に収縮する。この圧電層42〜44の収縮に伴って、圧電層41〜44及び振動板40の圧力室10に対向する部分が、圧力室10側に凸となるように変形(いわゆるユニモルフ変形)し、この変形により、圧力室10の容積が低下する。これにより、圧力室10内のインクの圧力が増加し、圧力室10に連通するノズル15からインクが吐出される。
このとき、圧電層42〜44及び振動板40は、複数の圧力室10にまたがって連続的に形成されているため、圧電層42〜44の、ある圧力室10と対向する部分が収縮変形すると、この変形に伴って、圧電層42〜44のこの圧力室10に隣接する圧力室10と対向する部分は引っ張られる方向の力を受けて変形してしまう。そして、圧電層41〜44の、上記隣接する圧力室10に対向する部分が引っ張り方向に力を受けて変形した状態で、上記隣接する圧力室10に対応する個別電極52、54に駆動電圧を付与してノズル15からインクを吐出させると、引っ張られる方向の力を受けていない状態と比べてノズル15からのインクの吐出特性が変動してしまう、いわゆるクロストークが発生してしまう虞がある。このクロストークは圧電層が水平方向に収縮変形する、つまり、ユニモルフ変形する圧電アクチュエータにおいて顕著に発現するものである。
しかしながら、本実施の形態においては、圧電層44の上面の、隔壁26と対向する部分に、下部部材61の一部である第1接合部71が接続されているため、圧電層41〜44及び振動板40の隔壁26と対向する部分は、第1接合部71と隔壁26とによって上下方向から挟まれることとなる。さらに、複数の第1接合部71は、その上面において上部部材62に接合されることによって互いに連結されている。これにより、圧電層42〜44の隔壁26aと対向する部分は変形しにくくなり、圧電アクチュエータ32を駆動して、圧電層42〜44のある圧力室10に対向する部分を収縮変形させたときに、圧電層42〜44の隔壁26と対向する部分が引っ張られる方向に力を受けて変形してしまうのが抑制される。これに伴って、圧電アクチュエータ32を駆動して、圧電層42〜44のある圧力室10に対向する部分を収縮変形させたときに、圧電層42〜44の、この圧力室10と隣接する圧力室10と対向する部分が引っ張られる方向に力を受けて変形してしまうのも抑制される。
ここで、圧電層44と下部部材61、及び、下部部材61と上部部材62とが接着剤などによって接着されている場合には、圧電層44と下部部材61との間、及び、下部部材61と上部部材62との間に圧電材料よりもやわらかい接着剤の層ができてしまうため、圧電層42〜44の隔壁26と対向する部分が引っ張られる方向に力を受けたときに、この部分が変形してしまうのを十分に抑制することができない虞がある。
しかしながら、本実施の形態では、前述したように、圧電層41〜44、下部部材61及び上部部材62は、これらを構成する圧電材料のグリーンシートを焼成する際に互いに接合されるため、圧電層44と下部部材61との間、及び、下部部材61と上部部材62との間にはこのような接着剤の層がなく、圧電層42〜44の隔壁26と対向する部分が引っ張られる方向に力を受けて変形してしまうのを十分に抑制することができる。
また、複数の第1接合部71が設けられていると、圧電アクチュエータ32を駆動したときに、圧電層42〜44の、インクを吐出するノズル15に対応する圧力室10と対向する部分、つまり、圧電層42〜44の収縮変形させるべき部分の収縮変形量も低下してしまう。これにより、振動板40の圧力室10側に凸となるような変形の量も低下してしまう。しかしながら、第1接合部71の幅Wa(配列方向に関する長さ)が、隔壁26の幅Wbよりも狭くなっているため、圧電層42〜44における、インクを吐出するノズル15に対応する圧力室10と対向する部分の収縮変形量が低下してしまうのを極力抑えつつ、圧電層42〜44の隔壁26に対向する部分が引っ張られる方向に力を受けて変形してしまうのを抑制することができるので、インクを吐出するノズル15に対応する振動板40の圧力室10側に凸となるような変形量の低下を極力抑えつつ、隣接する圧力室10に対応する振動板40の変形量の変化を抑制することができる。
次に、上述した圧電層41〜44及び振動板40における変形の抑制効果を示す解析結果について説明する。図7はこの解析に用いた解析モデルを示す図である。図8、図9は図7の解析モデルを用いて解析を行った結果を示す図である。
解析モデルは、図7に示すように、図6と同様の断面における圧力室10、振動板40、圧電層41〜44、共通電極51、53、個別電極52、54、第1接合部71(下部部材61)及び上部部材62をモデル化した、図6の圧電アクチュエータ32と同様にユニモルフ変形するものである。そして、この解析モデルにおいては、圧力室10の幅Wcを360μmとし、隣接する圧力室10の中心間の距離Wnを508μmとしている。これにより、隔壁26の幅Wbが148μmとなっている。また、この解析モデルにおいては、振動板40の厚みDsを10μm、圧電層41〜44の厚みWpを20μm、第1接合部71の厚みDaを25μm又は50μmとしている。そして、第1接合部71の幅Waを変化させて、以下に示す解析を行っている。なお、この解析モデルにおいては、共通電極51、53及び個別電極52、54の厚みを0としている。
図8、図9は、それぞれ、第1接合部71の厚みDpを50μm及び25μmとしたときの、隔壁26の幅Wbに対する第1接合部71の幅Waの割合Wa/Wbと、圧電層41〜44及び振動板40の、インクを吐出するノズル15に対応する圧力室10と対向する部分の変形の低下率(変位変化率)、及び、クロストークの改善率(CT改善率)との関係を示す解析結果である。
図8、図9に示すように、割合Wa/Wbが大きいほど、すなわち、第1接合部71の幅Waが大きいほど、CT改善率は高くなるものの、変位変化率が低くなってしまうことがわかる。さらに、図8、図9に示す解析結果から、第1接合部71の幅Waを、隔壁26の幅Wbの40〜60%とすることにより、変位変化率を20%以内に抑えつつ、CT改善率を30%以上とすることができることがわかる。したがって、本実施の形態のように、第1接合部71の幅Waを、隔壁26の幅Wbの40〜60%とした場合には、圧電層41〜44及び振動板40における、インクを吐出するノズル15に対応する圧力室10と対向する部分の変形量が低下してしまうのを極力抑えつつ、圧電層42〜44の、ある圧力室10に対向する部分を収縮変形させたときに、圧電層42〜44の、この圧力室10に隣接する圧力室10と対向する部分が引っ張られる方向に力を受けて変形してしまうのを効果的に抑制することができる。
次に、本実施の形態のインクジェットヘッド3の製造方法について説明する。図10はインクジェットヘッド3の製造過程を示す工程図である。
インクジェットヘッド3を製造するには、まず、プレート21〜23及び振動板40を互いに積層させて、金属拡散接合によってこれらを互いに接合した後、図10(a)に示すように、振動板40の上面に圧電層41〜44、共通電極51、53及び個別電極52、54を形成する。具体的には、圧電層41〜44となる圧電材料のグリーンシートを順に配置し、各グリーンシートの表面にスクリーン印刷等により共通電極51、53及び個別電極52、54を形成する。
次に、図10(b)に示すように、圧電層44の上面に、下部部材61を配置する(第1接合部配置工程)。具体的には、貫通穴61aが形成された下部部材61となる圧電材料のグリーンシートをキャビティプレート21の上面に配置する、あるいは、貫通穴61aが形成されていない圧電材料のグリーンシートをキャビティプレート21の上面に配置してから、レーザ加工などによって貫通穴61aを形成する。
次に、図10(c)に示すように、貫通穴61a(第1接合部71の間)に合成樹脂材料からなる充填部材100を充填してから(充填工程)、図10(d)に示すように、下部部材61の上面に上部部材62を配置する(連結部配置工程)。このとき、上部部材62を下部部材61に向かってに押圧することになるが、第1接合部71の間に充填部材100が充填されているため、上部部材62を押圧したときに、その押圧力によって幅の狭い第1接合部71がつぶれてしまうのが防止されている。
次に、プレート21〜23及び下部部材61及び上部部材62の積層体を500℃程度で加熱して、圧電層41〜44、下部部材61及び上部部材62に含まれる有機材料を除去する脱脂を行ってから、さらに1000℃程度で加熱して、圧電層41〜44、下部部材61及び上部部材62を焼成する(加熱工程)。これにより、圧電層41〜44、下部部材61及び上部部材62が互いに接合される。このとき、充填部材100が合成樹脂材料からなるため、図10(e)に示すように、脱脂を行う際の加熱により、充填部材100は気化して、上部部材62を通り抜けて外部に排出される。この後、接着剤などによりマニホールドプレート23の下面にノズルプレート24を接着する。以上のようにして、インクジェットヘッド3を製造する。なお、ノズルプレート24が金属材料からなる場合には、プレート21〜23を接合する際に、ノズルプレート24も一緒に金属拡散接合によって接合する。
また、プレート21〜24と振動板40とを接着剤によって接着する場合には、振動板40の上面に上述したのと同様にして圧電層41〜40、共通電極51、53、個別電極52、54、下部部材61及び上部部材62を形成して、これらを焼成してから、これらの積層体とプレート21〜24とを接着剤によって接着する。
以上に説明した実施の形態によると、圧電層44の上面の隔壁26と対向する部分に第1接合部71が配置されており、圧電層41〜44及び振動板40の隔壁26と対向する部分は、第1接合部71と隔壁26とによって上下方向から挟まれているため、圧電層42〜44の隔壁26aと対向する部分は変形しにくく、圧電アクチュエータ32を駆動して、圧電層42〜44のある圧力室10と対向する部分を収縮変形させたときに、圧電層42〜44の隔壁26と対向する部分が引っ張られる方向に力を受けて変形してしまうのが抑制される。これにより、圧電層42〜44のこの圧力室10と隣接する圧力室10と対向する部分が引っ張られる方向に力を受けて変形してしまうのも抑制され、当該隣接する圧力室10に連通するノズル15からのインクの吐出特性が変動してしまうのを抑制することができる。
また、下部部材61及び上部部材62が圧電層41〜44と同じ圧電材料により構成されているので、下部部材61、上部部材62及び圧電層41〜44を焼成する際にこれらを接合することができる。したがって、圧電層44と下部部材61との間、及び、下部部材61と上部部材62との間に接着剤の層など、圧電材料よりもやわらかい層が介在せず、圧電層41〜44及び振動板40の隔壁26と対向する部分が引っ張られる方向に力を受けて変形してしまうのを確実に抑制することができる。
さらに、第1接合部71の幅Waを、隔壁26の幅Wbの40〜60%となる一定の長さとすることにより、圧電層42〜44の、インクを吐出するノズル15に対応する圧力室10に対向する部分の収縮変形量が低下してしまうのを極力抑えつつ、圧電層42〜44の隔壁26と対向する部分の変形を効果的に抑制することができる。
また、圧電層44の上面に下部部材61及び上部部材62が配置されているため、圧電層44の上面において個別電極52、54とFPC90の配線との接続を直接行うことは困難であるが、下部部材61が第2接合部72を有しているとともに、上部部材62の上面にFPC90の配線と接続される接続端子81が形成されており、個別電極52、54と接続端子81とが、第2接合部72及び上部部材62にそれぞれ形成された貫通孔61b、62aに充填された導電性材料を介して接続されているため、個別電極52、54とFPC90の配線との接続を容易に行うことができる。また、第2接合部72に貫通孔61bを形成しているため、第1接合部71の幅Waが狭く、第1接合部71に貫通孔を形成することが困難な場合であっても、個別電極52、54と接続端子81とを容易に接続することができる。
また、インクジェットヘッド3を製造する際、下部部材61を圧電層44の上面に配置した後、貫通穴61aに充填部材100を充填しているため、下部部材61上面に上部部材62を配置するときの押圧力によって、幅の狭い第1接合部71がつぶれてしまうのが防止される。
また、充填部材100が合成樹脂材料により構成されているため、充填部材110は、脱脂を行う際の加熱により、確実に気化して、上部部材62を通過して外部に排出される。
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成を有するものについては同じ符号を付し、適宜その説明を省略する。
本実施の形態では、圧電層44の上面に、複数の第1接合部71と第2接合部72とが一体となった下部部材61が配置されていたが、これには限られない。例えば、一変形例では、図11に示すように、圧電層44の上面の隔壁26対向する部分に、複数の第1接合部101が個別に配置されており、2列の圧力室列の間と対向する部分に、第2接合部102が配置されている(変形例1)。
この場合でも、実施の形態と同様、圧電層41〜44及び振動板40の隔壁26と対向する部分が、隔壁26と第1接合部101とによって上下方向から挟まれているため、圧電層42〜44の隔壁26と対向する部分の変形が抑制される。これにより、圧電層42〜44の、ある圧力室10と対向する部分を収縮変形させたときに、圧電層42〜44の、この圧力室10を区画する隔壁26と対向する部分が、引っ張られる方向の力を受けて変形してしまうのを抑制することができる。
また、本実施の形態では、圧電層44の上面に第2接合部72が配置されていたが、第2接合部72は配置されていなくてもよい。例えば、別の一変形例では、図12、13に示すように、隔壁116の幅が実施の形態の隔壁26よりも大きく、圧電層44の上面には、隣接する圧力室10と対向する部分に第1接合部71よりも幅の広い第1接合部111が配置されているが、第2接合部72は配置されていない。
また、圧電層44の上面には接続端子54aから第1接合部111と対向する部分まで延びた配線112が形成されており、第1接合部111と対向する配線112の先端部が接続端子113となっている。さらに、第1接合部111の上面及び上部部材62の上面(第1接合部111と反対側の面)には、それぞれ、接続端子113と対向するように接続端子114、115が形成されている。さらに、第1接合部111及び上部部材62には、それぞれ、接続端子113〜115と対向する部分に、内部に導電性材料が充填された貫通孔111a、62bが形成されており、接続端子113と接続端子114とが、貫通孔111aに充填された導電性材料を介して接続されているとともに、接続端子114と接続端子115とが、貫通孔62bに充填された導電性材料を介して接続されている。そして、接続端子115とFPC90の配線とがハンダ91によって接続されている(変形例2)。
このように、第1接合部111の幅が大きい場合には、第2接合部72を設けず、個別電極52、54と上部部材62の上面の接続端子115とを接続するための貫通孔111aを第1接合部111に形成してもよい。
また、本実施の形態では、第1接合部71の幅Waが、隔壁26の幅Wbよりも狭くなっていたが、これには限られない。例えば、別の一変形例では、図14に示すように、第1接合部121の幅が、隔壁26の幅とほぼ同じになっている(変形例3)。
この場合でも、図8、図9に示す解析結果からわかるように、圧電層42〜44のある圧力室10と対向する部分を収縮変形させたときの、圧電層41〜44及び振動板40のこの圧力室10と対向する部分の変形の低下率(変位変化率)は、実施の形態の場合と比較して大きく低下するものの、圧電層42〜44のこの圧力室10と隣接する圧力室10と対向する部分が引っ張られる方向の力を受けて変形してしまうのを抑制することはできる。
さらに、第1接合部の幅が隔壁26の幅よりも狭い場合であっても、第1接合部の幅は、実施の形態のように、隔壁26の幅の40〜60%の範囲にあることには限られず、第1接合部の幅が、隔壁26の幅Wbの40%の長さよりも短くてもよいし、隔壁26の幅Wbの60%の長さよりも長くてもよい。
また、本実施の形態では、第1接合部71の幅Waが一定となっていたが、これには限られない。別の一変形例においては、図15に示すように、第1接合部130が、圧電層44の上面の隔壁26と対向する部分に接合された、金属材料などからなる複数の下接合部131と、複数の下接合部131の上面に接合された、金属材料などからなる複数の上接合部132とを有しており、複数の上接合部132の上面が金属材料などからなる上部部材133の下面に接合されている。また、下接合部131の幅Wcは、上接合部132の幅Wdよりも狭くなっている。すなわち、第1接合部130の上部部材133と接合される部分の面積が、第1接合部130の圧電層44と接合される部分の面積よりも大きくなっている(変形例4)。
このように、第1接合部130及び上部部材133は、例えば金属のような圧電材料以外の剛性の高い材料により構成されており、圧電層44と第1接合部130(下接合部131)、及び、第1接合部130(上接合部132)と上部部材133とが接着剤などによって接着されていてもよい。そして、この場合には、上接合部132と上部部材133との接合面積が大きくなるので、第1接合部130が動きにくく、圧電層42〜44が収縮変形したときに、第1接合部が圧電層42〜44の隔壁26と対向する部分が引っ張られる方向に力を受けて変形してしまうのを効率よく抑制することができる。また、上接合部132と上部部材133との接合面積が大きいため、接着剤により両者を接着する際に、接着を容易に行うことができる。
さらに、下接合部131の幅Wcが、隔壁26の幅Wdよりも狭くなっているため、実施の形態と同様、圧電層41〜44及び振動板40における、インクを吐出するノズル15に対応する圧力室10に対向する部分の変形量が低下してしまうのを極力抑えることができる。
なお、変形例4では、第1接合部130が、互いに積層された下接合部131と上接合部132とにより構成されていたが、下接合部131と上接合部132とが一体となった1つの部材によって第1接合部が構成されていてもよい。
また、圧電アクチュエータは、振動板が複数の圧力室10を覆っているとともに、圧電層が、振動板の上面に複数の圧力室10にまたがって形成されており、圧電層の表面に複数の圧力室10に対応して複数の個別電極が形成された構成を有するものであれば、実施の形態の圧電アクチュエータ32には限られない。
例えば、別の一変形例では、図16に示すように、振動板40の上面に複数の圧力室10にまたがって1つの圧電層141のみが配置されており、圧電層141の上面(圧力室10と反対側の面)の複数の圧力室10と対向する部分に複数の個別電極142が形成されている。また、導電性を有する振動板40は、常にグランド電位に保持されており、共通電極を兼ねている(変形例5)。
この場合には、複数の個別電極142に選択的に駆動電圧を付与すると、駆動電圧が付与された個別電極142と共通電極としての振動板40との間に電位差が発生し、圧電層141の個別電極142と振動板40とに挟まれた部分に厚み方向の電界が発生する。そして、圧電層141のこの部分が水平方向に収縮し、圧電層141及び振動板40の圧力室10と対向する部分が圧力室10側に凸となるように変形(いわゆるユニモルフ変形)して圧力室10の容積が低下する。これにより、圧力室10内のインクの圧力が増加し、圧力室10に連通するノズル15からインクが吐出される。
この場合でも、圧電層141及び振動板40の隔壁26と対向する部分が第1接合部71と隔壁26とによって上下方向から挟まれているため、実施の形態と同様、圧電層141のある圧力室10と対向する部分が収縮変形したときに、圧電層141のこの圧力室10に隣接する圧力室10と対向する部分が変形してしまうのを抑制することができる。
また、本実施の形態では、圧電層44の上面に下部部材61を配置した後、合成樹脂材料からなる充填部材100を充填したが、充填部材は合成樹脂材料には限られず、脱脂の際の加熱温度で気化するものであれば、合成樹脂材料以外のものであってもよい。
また、以上では、圧力室に連通するノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドに本発明を適用した例について説明したが、これには限られず、圧力室内のインク以外の液体に圧力を付与することにより液体移送流路内の液体を移送する液体移送装置に本発明を適用することも可能である。