JP4919852B2 - 接着繊維シート及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は接着繊維シート及びその製造方法に関する。より具体的には2つの材料の間に介在して2つの材料を接着できる接着繊維シート及びその製造方法に関する。
従来から、2つの材料の間に介在して2つの材料を接着できる接着繊維シートとして、ホットメルトシートが知られている。このホットメルトシートは、例えば、メルトブロー法やスパンボンド法と同様にして、共重合ポリアミド樹脂やポリオレフィン系樹脂などを紡糸し、集積することによって製造した、くもの巣状ウエブからなる。このようなホットメルトシートは接合したい2つの材料の間に配置した後に、ホットメルトシートが結合可能な熱を加えることによって、2つの材料を容易に接着することができるため、様々な分野で使用されている。
例えば、自動車の天井材やドアトリムなどの内装材として、剛性を付与する基材と意匠性を高める表皮材とを積層一体化するために、上述のようなポリアミドホットメルトシートを使用することが知られている(例えば、特許文献1)。このようなホットメルトシートを使用することによって、基材と表皮材とを接着一体化することができるが、自動車用途に使用する場合、このようなホットメルトシートは難燃性が不十分であった。
このように難燃性を必要とする用途は自動車用途に限らず、エアフィルタ用途、電子機器用途など、様々な用途において難燃性が必要とされており、このような難燃性を必要とする用途において、2つの材料を接合させるホットメルトシートとして難燃性が十分なものが存在しないのが現実であった。
特開平6−207362号公報(段落番号0010など)
本発明はこのような状況下においてなされたもので、十分な難燃性を有する接着繊維シート(前述のホットメルトシート)、及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明の請求項1にかかる発明は、「LOI値が30以上の難燃性繊維を主体とする難燃性繊維シート層と、前記難燃性繊維の融点又は熱分解温度よりも30℃以上低い融点を有する低融点樹脂を含む低融点繊維を主体とする低融点繊維シート層とを、難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層との質量比率が、1:2から1:9の範囲内で含む接着繊維シートであり、この接着繊維シートは前記低融点樹脂が難燃性繊維シートを透過することによって、2つの材料を接着一体化できることを特徴とする、接着繊維シート。」である。
本発明の請求項2にかかる発明は、「難燃性繊維がポリフェニレンサルファイド繊維であることを特徴とする、請求項1記載の接着繊維シート。」である。
本発明の請求項3にかかる発明は、「難燃性繊維シート層が水流絡合不織布、メルトブロー不織布、湿式不織布の群の中から選ばれる不織布からなることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の接着繊維シート。」である。
本発明の請求項4にかかる発明は、「低融点繊維シート層がメルトブロー不織布からなることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の接着繊維シート。」である。
本発明の請求項5にかかる発明は、「低融点樹脂がポリアミドからなることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の接着繊維シート。」である。
本発明の請求項6にかかる発明は、「低融点樹脂の溶融粘度が0.1Pa・sec以上、100Pa・sec以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の接着繊維シート。」である。
本発明の請求項7にかかる発明は、「難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層とが部分的に結合していることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の接着繊維シート。」である。
本発明の請求項8にかかる発明は、「LOI値が30以上の難燃性繊維を主体とする難燃性繊維シートを製造する工程、前記難燃性繊維の融点又は熱分解温度よりも30℃以上低い融点を有する低融点樹脂を含む低融点繊維を主体とする低融点繊維シートを製造する工程、前記難燃性繊維シートと低融点繊維シートとを結合する工程、とを含む接着繊維シートの製造方法であり、前記難燃性繊維シートと低融点繊維シートとの質量比率が、1:2から1:9の範囲内であり、しかもこの接着繊維シートは前記低融点樹脂が難燃性繊維シートを透過することによって、2つの材料を接着一体化できることを特徴とする、接着繊維シートの製造方法。」である。
本発明の請求項1にかかる発明は、難燃性繊維シート層によって難燃性が確保されているとともに、低融点繊維シート層によって、2つの被接着材料間の接着一体化能力が保持されている。
本発明の請求項2にかかる発明は、難燃性繊維がポリフェニレンサルファイド繊維であり、このポリフェニレンサルファイド繊維は融点が280℃と十分に高いため、低い融点をもつ低融点繊維シートから比較的高い融点をもつ低融点繊維シートと組み合わせることができ、各種用途に適合する接着繊維シートを設計することが容易である。また、ポリフェニレンサルファイド繊維は熱可塑性で、低融点繊維シートと融着して結合させることができるため、難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層との接着強度が強く、加工しやすいなどのメリットがある。
本発明の請求項3にかかる発明は、難燃性繊維シート層が水流絡合不織布、メルトブロー不織布、又は湿式不織布からなる。難燃性繊維シート層が水流絡合不織布からなる場合、繊維同士を結合するために他の材料を加える必要がなく、難燃性材料の必要量が少なくて済むため、接着性能に優れている。例えば、繊維同士を結合するために、ケミカルボンドにおける樹脂バインダーやファイバーボンドにおける融着成分などを加えた場合、十分な難燃性を得るために、難燃性繊維又は他の材料に添加する難燃剤の必要量が増し、相対的に接着繊維シート全体における低融点繊維シートの質量比率が小さくなり、接着繊維シートの接着機能の低下をもたらすが、水流絡合不織布の場合、繊維同士を結合するために他の材料を加える必要がないため、接着性能に優れている。また、水流絡合不織布の場合、水流によって繊維表面の油剤成分を除去することができるため、接着性に優れ、また、油剤成分が製品の品質に影響を及ぼすこともない。
また、難燃性繊維シート層がメルトブロー不織布からなる場合も、繊維同士を結合するために他の材料を加える必要がなく、難燃性材料の必要量が少なくて済むため、接着性能に優れ、また、繊維表面に油剤がない。また、繊維径が小さく、緻密な難燃性繊維シートを形成することが可能であるため、安定した接着性能および難燃性能を有する接着繊維シートであることができる。
更に、難燃性繊維シート層が湿式不織布からなる場合、目付バラツキが少なく、均質で、安定した接着性能および難燃性能を有する接着繊維シートであることができる。
本発明の請求項4にかかる発明は、低融点繊維シート層がメルトブロー不織布からなり、繊維径の小さい緻密な繊維集合体であることができ、低融点繊維シートの目付を低くした場合や接着領域が狭い場合であっても、安定した接着力を得ることが可能である。
本発明の請求項5にかかる発明は、低融点樹脂がポリアミドからなるため、接着力に優れている。
本発明の請求項6にかかる発明は、低融点樹脂の溶融粘度が0.1Pa・sec以上、100Pa・sec以下であるため、低融点樹脂が難燃性繊維シートを透過して接着性に優れている。

本発明の請求項7にかかる発明は、難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層とが部分的に結合しているため、風合いがソフトで、賦型性に優れている。
本発明の請求項8にかかる発明は、難燃性繊維シートと低融点繊維シートとが結合した接着繊維シート、つまり、難燃性と接着一体化能力の両方に優れる接着繊維シートを製造することができる。
本発明の接着繊維シートは難燃性に優れているように、難燃性繊維シート層を備えている。この難燃性繊維シート層はLOI値が30以上の難燃性繊維を主体とする繊維シートからなる。本発明における難燃性繊維は難燃性に優れているように、LOI値が30以上(好ましくは32以上、より好ましくは34以上)であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、ポリフェニレンサルファイド繊維(PPS繊維)、ポリイミド繊維、ポリアミドイミド繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ポリベンゾイミダゾール繊維、難燃アクリル繊維、ポリエーテルエーテルケトン繊維、パイロメックス(登録商標)繊維などの耐炎化繊維、ノボロイド繊維、塩化ビニル繊維など1種類又は2種類以上含んでいることができ、これらの中でもPPS繊維は融点が280℃と十分に高いため、低い融点をもつ低融点繊維シートから比較的高い融点をもつ低融点繊維シートと組み合わせることができ、各種用途に適合する接着繊維シートを設計することが容易であり、また、ポリフェニレンサルファイド繊維は熱可塑性で、低融点繊維シートと融着させることができるため、難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層との接着強度が強く、加工しやすいなどのメリットがあるため好適である。特に、難燃性繊維がPPS繊維のみからなるのが好ましい。なお、LOI値とは限界酸素指数のことであり、JIS K 7201-1995(酸素指数法になる高分子材料の燃焼試験方法)により測定できる。
このような難燃性繊維の繊度、繊維長は難燃性繊維シートの形態によって異なり、後述のように、難燃性繊維シートが好適である水流絡合不織布からなる場合には、繊度は0.1〜20dtexであるのが好ましく、1〜6dtexであるのがより好ましい。また、繊維長は15〜100mmであるのが好ましく、15〜80mmであるのがより好ましい。また、難燃性繊維シートがメルトブロー不織布からなる場合には、平均繊維径が1〜20μであるのが好ましく、2〜10μであるのがより好ましい。更に、難燃性繊維シートが湿式不織布からなる場合には、繊度は0.1〜20dtexであるのが好ましく、1〜6dtexであるのがより好ましい。また、繊維長は3〜30mmであるのが好ましく、5〜20mmであるのがより好ましい。
本発明の難燃性繊維シートにおいては、接着繊維シートに難燃性を付与できるように、前述のような難燃性繊維を主体としている。つまり、難燃性繊維シートの50質量%以上が難燃性繊維から構成され、好ましくは80%以上難燃性繊維から構成され、更に好ましくは100%難燃性繊維から構成されている。
なお、難燃性繊維シートは接着繊維シートの難燃性を損なわない範囲内で、難燃性繊維以外の繊維、つまり、LOI値が30未満の非難燃性繊維を含んでいることができる。例えば、パラ型又はメタ型アラミド繊維、芳香族ポリエーテルアミド繊維、モダクリル繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリアリレート繊維などを1種類又は2種類以上含んでいることができる。これらの非難燃性繊維も難燃性繊維と同様の繊度、平均繊維径及び繊維長であるのが好ましい。
本発明の接着繊維シートにおいては、難燃性繊維が分散した状態ではなく、繊維シートの状態で存在している点に1つの特長がある。つまり、個々の難燃性繊維が分散した状態にあると、難燃性繊維の難燃性が高いにもかかわらず、接着繊維シートとしての難燃性はあまり良くない傾向があるが、難燃性繊維が繊維シートとなったバルクの状態で存在していることによって、優れた難燃性を示すのである。また、難燃性繊維シートの強度が接着繊維シートの強度に寄与することで、取り扱い性の良好な接着繊維シートであることができる。
この難燃性繊維シートは不織布形態、織物形態、或いは編物形態であることができるが、後述の低融点繊維シート層による接着力を確保するために、難燃性繊維シートはできるだけ薄く、均一かつ難燃性を発現しうる最低限の目付であるのが好ましいため、不織布形態であるのが好ましい。
この不織布形態の中でも水流絡合不織布からなると、繊維同士を結合するために他の材料を加える必要がなく、難燃性材料の必要量が少なくて済むため、接着性能に優れている。例えば、繊維同士を結合するために、ケミカルボンドにおける樹脂バインダーやファイバーボンドにおける融着成分などを加えた場合、十分な難燃性を得るために、難燃性繊維又は他の材料に添加する難燃剤の必要量が増し、相対的に接着繊維シート全体における低融点繊維シートの質量比率が小さくなり、接着繊維シートの接着機能の低下をもたらすが、水流絡合不織布の場合、繊維同士を結合するために他の材料を加える必要がないため、接着性能に優れている。また、水流絡合不織布の場合、水流によって繊維表面の油剤成分を除去することができるため接着性に優れ、また、油剤成分が製品の品質に影響を及ぼすこともない。
また、難燃性繊維シートがメルトブロー不織布からなる場合も、水流絡合不織布の場合と同様に、繊維同士を結合するために他の材料を加える必要がなく、難燃性材料の必要量が少なくて済むため、接着性能に優れ、また、繊維表面に油剤がないため好適である。また、繊維径が小さく、緻密な難燃性繊維シートを形成することが可能であるため、安定した接着性能および難燃性能を有する接着繊維シートであることができる。
更に、難燃性繊維シートが湿式不織布からなる場合、目付バラツキが少なく、均質で、安定した接着性能および難燃性能を有する接着繊維シートであることができる。なお、難燃性繊維シートが湿式不織布からなる場合には、他の材料を加えることによる接着性能の低下を避けるために、難燃性繊維自体又は難燃性繊維と同じ組成からなる材料を結合剤として使用するか、他の材料を使用せず、後述の低融点繊維シート上に、難燃性繊維を抄き上げて湿式不織布とするのが好ましい。前記の難燃性繊維と同じ組成からなる材料を結合剤として使用する例として、難燃性繊維としてPPS繊維を用い、結合剤として、紡糸後に機械的延伸処理を施しておらず、未延伸状態のPPS繊維を用いて湿式繊維ウエブを形成した後、PPS樹脂のガラス転移温度から融点までの間の温度に加熱するとともに、加圧する方法を挙げることができる。
この難燃性繊維シート層は接着繊維シートに難燃性を付与するため、難燃性繊維シート層は、質量で接着繊維シートの1/10〜1/3を占めるのが好ましい。一方で、難燃性繊維シート層の目付が高すぎると、厚さが厚くなり、後述の低融点樹脂の透過性が悪くなって、十分な接着力を発揮できなくなる場合があるため、難燃性繊維シート層の目付は100g/m以下であるのが好ましく、60g/m以下であるのがより好ましい。また、難燃性繊維シート層の厚さが厚すぎると、後述の低融点樹脂の透過性が悪くなって、十分な接着力を発揮できなくなる場合があるため、難燃性繊維シート層の厚さは1.5mm以下であるのが好ましく、0.9mm以下であるのがより好ましい。なお、難燃性繊維シート層を2層以上有する場合には、全部の層の合計が上記目付、厚さの範囲内にあるのが好ましい。ここで、厚さは接着繊維シートの断面を実体顕微鏡で観察し、測定した値をいう。
本発明の接着繊維シートは前述のような難燃性繊維シートからなる層に加えて、低融点繊維シートからなる層を含んでいることによって、2つの材料を接着繊維シートにより接着一体化することができる。そのため、この低融点繊維シートは前述の難燃性繊維の融点又は熱分解温度よりも30℃以上低い融点を有する低融点樹脂を含む低融点繊維を主体としている。
この低融点繊維は難燃性繊維の融点又は熱分解温度よりも30℃以上低い融点を有する低融点樹脂を含むことによって、低融点繊維が溶融したとしても、難燃性繊維シートは形態を維持して難燃性を発揮できる。そのため、低融点樹脂の融点は、難燃性繊維が融点をもつ場合には、その融点よりも30℃以上低く、難燃性繊維が融点のない場合には、その熱分解温度よりも30℃以上低い。例えば、難燃性繊維が好適であるPPS繊維は融点をもち、その融点は約280℃であるため、低融点樹脂の融点は250℃以下である。より好ましくは、低融点樹脂は難燃性繊維の融点又は熱分解温度よりも40℃以上低い融点を有し、50℃以上低い融点を有するのが更に好ましい。
なお、低融点樹脂は接着繊維シートの接着成分として作用するため、融点が高すぎると、低融点樹脂を溶融させて接着一体化する際に、接着一体化する材料を損傷しやすいため、低融点樹脂の融点は250℃以下であるのが好ましく、230℃以下であるのがより好ましい。他方で、低融点樹脂の融点が低すぎると、耐熱性に劣り、接着繊維シートの使用分野が限定されてしまうため、低融点樹脂の融点は80℃以上であるのが好ましく、100℃以上であるのがより好ましい。
なお、「融点」は、JIS K 7121-1987に規定されている示差熱分析により得られる示差熱分析曲線(DTA曲線)から得られる融解温度をいい、「熱分解温度」は、JIS K 7120-1987に規定されている熱重量測定を行い、絶乾状態の試験片の質量が5%減量した時点での温度とする。
このような低融点樹脂は難燃性繊維の融点又は熱分解温度との関係で決まるため、特に限定するものではないが、前述の通り、80〜250℃(より好ましくは100〜230℃)であるのが好ましいため、例えば、6ナイロン、66ナイロン、6−10ナイロン、12ナイロン、或いはこれらの共重合体などのポリアミド、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレートや脂環族カルボン酸などの共重合ポリエステルなどのポリエステル、エチレン−酢酸ビニル共重合、エチレン−メタクリル酸共重合を挙げることができ、特にポリアミドであると、接着剤として広範囲の材料に対し良好な接着力が得られるため好適である。
また、これら低融点樹脂の溶融粘度は接着の際に、低融点樹脂が難燃性繊維シートを透過して接着性に優れているように、0.1Pa・sec以上であるのが好ましく、1Pa・sec以上であるのがより好ましい。なお、低融点繊維シートが後述のような緻密なメルトブロー不織布からなる場合には、生産上、100Pa・sec以下であるのが好ましく、50Pa・sec以下であるのがより好ましい。この溶融粘度はJIS K7210附属書Cに準拠し、L/D=1/0.5mmのダイを使用し、低融点樹脂が熱分解や酸化を起こさない温度条件で、荷重1MPaにて測定した見掛けの粘度をいう。
本発明の低融点繊維シートを構成する低融点繊維は前述のような低融点樹脂を含んでいれば良く、低融点樹脂に該当しない樹脂を含んでいても良いが、低融点樹脂は接着繊維シートにおいて融着や圧着などの接着作用を奏するものであり、前述のような難燃性繊維シートを透過することによって、2つの材料を接着一体化するため、低融点樹脂はある程度の量存在するのが好ましい。したがって、低融点繊維は低融点樹脂のみからなるのが好ましい。また、これら低融点樹脂の接着性(融着性、圧着性など)、作業性などを改良するため、官能基を導入させたオリゴマーなどの改質剤、可塑剤、滑剤などの添加剤を低融点樹脂に加えてもよい。
この低融点繊維はその平均繊維径、繊維長は特に限定するものではないが、緻密な低融点繊維シート層を形成し、微小な接着面積に対しても安定した接着力が得られるように、平均繊維径は30μm以下であるのが好ましく、15μm以下であるのが好ましく、10μm以下であるのが更に好ましい。繊維長は、メルトブロー法であれば連続した長繊維又は不規則な繊維長となり、カード法などの乾式法により低融点繊維シートを形成する場合には、繊維長は15〜100mmであるのが好ましく、15〜80mmであるのがより好ましい。
本発明の低融点繊維シート層は低融点繊維シートからなる層であるが、低融点繊維を主体としているため、低融点繊維の融着又は圧着によって接着作用を奏し、2つの材料を接着一体化することができる。つまり、低融点繊維シート中、低融点繊維を50質量%以上含んでおり、接着強度に優れているように、好ましくは65%以上含んでおり、更に好ましくは75%以上含んでおり、最も好ましくは100%低融点繊維からなる。なお、低融点繊維以外の繊維として、前述の難燃性繊維シートを構成できる繊維(難燃性繊維、非難燃性繊維)を含んでいることができる。
本発明の低融点繊維シートは不織布形態、織物形態、或いは編物形態であることができるが、シート化までの製造プロセスが容易で、低目付にした場合でも均一性や緻密性に優れる不織布形態であるのが好ましく、特に、メルトブロー不織布からなると、カード法等の乾式法により製造した不織布に比べて、繊維径の小さい緻密な繊維集合体であることができ、低融点繊維シートの目付を低くした場合や接着領域が狭い場合であっても、安定した接着力を得ることが可能であるため、特に好ましい。メルトブロー不織布の製造プロセスは特に限定されないが、並列に複数配置された直径0.1〜0.6mmのノズル群から一穴当たり0.1〜1.0ml/minの溶融樹脂(低融点樹脂)を吐出させ、吐出直後に溶融樹脂の温度の±50℃に加熱されたエアーを溶融樹脂に吹き付けて繊維化し、ノズル下方に設置された集積装置上に集積させることによりメルトブロー不織布を形成する手法を用いることができる。
このような低融点繊維シート層は低融点樹脂による接着一体化作用を奏するように、低融点繊維シート層の目付は1g/m以上であるのが好ましく、5g/m以上であるのが好ましい。一方で、低融点繊維シート層の目付が高すぎると、接着繊維シート層が破壊されることによる剥離が生じたり、接着一体化加工時に余剰の低融点樹脂が成型性を阻害したりするため、200g/m以下であるのが好ましく、100g/m以下であるのがより好ましい。また、この低融点繊維シート層の厚さは2mm以下であるのが好ましく、1mm以下であるのがより好ましい。なお、低融点繊維シート層を2層以上有する場合には、全部の層の合計が上記目付、厚さの範囲内にあるのが好ましい。
本発明の接着繊維シートは前述のような難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層とを含むものであるが、接着一体化作用を奏する限り、その配置状態は限定するものではない。例えば、難燃性繊維シート層1層と低融点繊維シート層1層とが結合一体化した状態、難燃性繊維シート層の両面に低融点繊維シート層が結合一体化した状態、低融点繊維シート層の両面に難燃性繊維シート層が結合一体化した状態、などを挙げることができる。なお、いずれの場合であっても、難燃性を維持しつつ、低融点繊維シート層を構成する低融点樹脂が溶融し、難燃性繊維シートを透過して、接着性に優れているように、難燃性繊維シート層の質量1に対して、低融点繊維シート層の質量が2〜9であるのが好ましい。より好ましくは、難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層との質量比率は1:2〜1:5の範囲内である。
なお、難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層とは低融点樹脂によって融着又は圧着して結合しているのが好ましく、全体的に結合していても良いが、部分的に結合していると、ソフトな風合いとなり、賦型性に優れるため、好ましい態様である。この部分的に結合している場合、1つの結合部の面積は均質な接着シートであるように、0.01〜3.0cmであるのが好ましく、0.04〜1.5cmであるのがより好ましい。また、結合部の総面積は積層形態を維持し、かつソフトな風合いを維持できるように、2〜40%であるのが好ましく、5〜30%であるのがより好ましい。なお、結合部の形状は特に限定するものではないが、円形や多角形(例えば、三角形、正方形、長方形など)が用いられ、多角形の場合は頂点の角を落とし曲線状に仕上げることもできる。
以上のような本発明の接着繊維シートは、接着一体化しようとする2つの材料の間に配置した状態で、接着繊維シートを構成する低融点樹脂の融点から融点より50℃高い温度範囲に加熱することによって、場合によっては加圧することによって、前記2つの材料を接着一体化できるものである。本発明の接着繊維シートは難燃性と接着一体化能力のバランスが優れているため、従来は使用が困難であった難燃性を必要とする用途であっても好適に使用できるものである。例えば、自動車用内装材構成材料間の接着一体化、自動車や電子機器の吸音材構成材料間の接着一体化、自動車用フロアマット構成材料間の接着一体化、自動車用カーペット構成材料間の接着一体化、エアフィルタの濾過材と枠体との接着一体化、エアフィルタの濾過材間の接着一体化、ICカード表材の接着一体化、FRP部材間の接着一体化、難燃性緩衝材同士の接着一体化、又は難燃性緩衝材と他の材料との接着一体化などの用途に好適に使用できるものである。
本発明の接着繊維シートは、例えば、LOI値が30以上の難燃性繊維を主体とする難燃性繊維シートを製造する工程、前記難燃性繊維の融点又は熱分解温度よりも30℃以上低い融点を有する低融点樹脂を含む低融点繊維を主体とする低融点繊維シートを製造する工程、前記難燃性繊維シートと低融点繊維シートとを結合する工程によって製造することができる。
より具体的には、まず、LOI値が30以上の難燃性繊維を主体とする難燃性繊維シートを製造する工程を実施する。難燃性繊維は前述のような難燃性繊維を使用する(特にPPS繊維が好ましい)ことができ、必要であれば、LOI値が30未満の非難燃性繊維も用意する。その後、難燃性繊維が主体(50質量%以上)となるように繊維を配合して、難燃性繊維シートを形成する。難燃性繊維シートの形成は、従来から公知の方法によって実施することができる。例えば、本発明の難燃性繊維シートとして好適である水流絡合不織布は、まず、難燃性繊維を主体とする繊維ウエブを、カード法、エアレイ法などの乾式法や湿式法により形成する。次いで、この繊維ウエブに対して、公知の水流絡合装置によって繊維ウエブ構成繊維を絡合させて、水流絡合不織布を形成することができる。また、メルトブロー不織布は従来公知のメルトブロー装置に難燃性樹脂(特にPPS繊維が好ましい)を供給して製造することができる。例えば、並列に複数以上配置された直径0.1〜0.6mmのノズル群から一穴当たり0.1〜1.0ml/minの溶融樹脂(難燃性樹脂)を吐出させ、吐出直後に溶融樹脂の温度の±50℃に加熱されたエアーを溶融樹脂に吹き付けて繊維化し、ノズル下方に設置された集積装置上に集積させることにより形成することができる。更に、湿式不織布は、例えば、難燃性繊維と難燃性繊維と同じ組成からなる未延伸難燃性繊維を含む繊維ウエブを湿式法により形成した後、未延伸難燃性繊維によって融着又は圧着して製造することができる。
次に、前述の難燃性繊維の融点又は熱分解温度よりも30℃以上低い融点を有する低融点樹脂を含む低融点繊維を主体とする低融点繊維シートを製造する工程を実施する。まず、難燃性繊維との関係を満たす低融点繊維(特にポリアミド繊維が好ましい)を用意する。その後、低融点繊維が主体(50質量%以上)となるように繊維を配合して、低融点繊維シートを形成する。低融点繊維シートの形成は、従来から公知の方法によって実施することができる。なお、低融点繊維シートが好適であるメルトブロー不織布からなる場合には、低融点繊維を用意する替わりに低融点樹脂を用意し、直接紡糸し、集積することによって製造することができる。また、低融点繊維シートがメルトブロー不織布からなる場合には、前述の難燃性繊維シートをコンベア等の捕集体上に載置しておき、メルトブローされた繊維を難燃性繊維シート上に直接集積させることもできる。
そして、難燃性繊維シートと低融点繊維シートとを結合する工程を実施する。この結合は難燃性繊維シートと低融点繊維シートとを積層した後に、低融点繊維シートを構成する低融点樹脂を融着又は圧着して結合する。結合は全体的に結合させても良いが、ソフトな風合いを維持し、賦形性に優れているように、部分的に結合させるのが好ましい。このように部分的に結合させる方法として、例えば、エンボスローラを使用する方法、超音波溶着機を使用する方法などを挙げることができる。結合部の形状、大きさ、総面積が前述のような範囲となるような条件で部分的に結合させるのが好ましい。なお、低融点繊維シートがメルトブロー不織布からなり、メルトブローされた直後の結晶化前の低融点繊維を難燃性繊維シート上に直接集積させた場合には、メルトブロー不織布と難燃性繊維シートとが部分的に結合した状態にある。この場合であっても、風合いがソフトで、賦形性に優れている。また、難燃性繊維シートと低融点繊維シートとの積層は、難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層との質量比率が、1:2から1:9となるように、難燃性繊維シートと低融点繊維シート又は低融点繊維を積層するのが好ましい。
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(1)難燃性繊維シートの作製;
(イ)PPS繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、LOI値:34、融点:285℃、東レ(株)製、登録商標:トルコン)100%をカード機により開繊した繊維ウエブを、水流により絡合した水流絡合不織布A(目付:30g/m、厚さ:0.3mm)を準備した。
(ロ)PPS樹脂(融点:280℃、LOI値:47、大日本インキ化学工業(株)製、品番:PS−107−844)をメルトブロー法により製造したメルトブロー不織布A(平均繊維径:7μm、目付:30g/m、厚さ:0.03mm)を準備した。
(ハ)PPS繊維(繊度:1dtex、繊維長:6mm、LOI値:34、融点:285℃、東レ(株)製、登録商標:トルコン)70%と、未延伸PPS繊維(繊度:6dtex、繊維長:6mm、LOI値:34、融点:285℃、東レ(株)製、登録商標:トルコン)30%とを含むスラリーから、湿式法により形成した繊維ウエブを、加熱加圧することにより製造した湿式圧着不織布(目付:30g/m、厚さ:0.1mm)を準備した。
(ニ)メタ型アラミド繊維(繊度:1.7dtex、繊維長:51mm、LOI値:28、熱分解温度:400℃、(株)帝人製、登録商標:コーネックス)100%をカード機により開繊した繊維ウエブを、水流により絡合した水流絡合不織布B(目付:30g/m、厚さ:0.3mm)を準備した。
(ホ)ポリエチレンテレフタレート繊維(繊度:1.45dtex、繊維長:38mm、LOI値:22、融点:260℃、東レ(株)製)100%をカード機により開繊した繊維ウエブを、水流により絡合した水流絡合不織布C(目付:30g/m、厚さ:0.3mm)を準備した。
(2)低融点繊維シートの作製;
(A)共重合ポリアミド樹脂(融点:105℃、溶融粘度(190℃):40Pa・sec、東レ(株)製、登録商標:アミランCM831)をメルトブロー法により紡糸して製造したメルトブロー不織布B(平均繊維径:5μm、目付:60g/m、厚さ:0.25mm)を準備した。
(B)共重合ポリエステル樹脂(融点:80℃、溶融粘度(160℃):300Pa・sec、(株)エムス昭和電工製、登録商標:グリルテックスD1531)をメルトブロー法により紡糸して製造したメルトブロー不織布C(平均繊維径:8μm、目付:60g/m、厚さ:0.25mm)を準備した。
(3)接着繊維シートの作製;
表1に示すような難燃性繊維シート1枚と低融点繊維シート1枚とを積層した後、低融点繊維の融点より40℃低い温度に加熱したエンボスローラ(凸部面積:5.8%、凸部形状:正方形、1つの凸部面積:1mm)により、低融点繊維シート側から加熱するとともに加圧して、難燃性繊維シートと低融点繊維シートとを部分的に圧着一体化して、それぞれ接着繊維シートを作製した。
また、共重合ポリアミド樹脂(融点:105℃、溶融粘度(190℃):40Pa・sec、東レ(株)製、登録商標:アミランCM831)をメルトブロー法により紡糸して、メルトブロー繊維(平均繊維径:5μm)を捕集体に向かって飛翔させるとともに、PPS繊維(繊度:2.2dtex、繊維長:51mm、LOI値:34、融点:285℃、東レ(株)製、登録商標:トルコン)を、メルトブロー紡糸口金直下に噴きつけ、前記メルトブロー繊維と混合した後、捕集体で捕集し、メルトブロー繊維とPPS繊維とが混在する接着繊維シート(目付:90g/m、厚さ:0.5mm、メルトブロー繊維とPPS繊維の混在質量比率=2:1)を作製し、比較例3とした。
Figure 0004919852
(4)接着繊維シートの評価;
(I)難燃性の評価;
酸化アクリル繊維からなる水流絡合不織布(目付:50g/m)2枚で、各接着繊維シートを挟んだ後、この積層物を接着繊維シートに含まれる低融点成分の融点より10℃高い温度に設定した連続式接着機(一対のゴムロールにより0.5N/cmで加圧)で加熱加圧して、試験サンプルを作製した。その後、この各試験サンプルをUL94V垂直燃焼性試験法に準拠して評価した。この結果は表2に示す通りであった。表中、○はUL94V1グレード以上に相当すること、△はV2グレードに相当すること、×はいずれにも相当しないこと、をそれぞれ意味する。
(II)接着性の評価;
酸化アクリル繊維からなる水流絡合不織布(目付:50g/m)2枚で、各接着繊維シートを挟んだ後、この積層物を接着繊維シートに含まれる低融点成分の融点より10℃高い温度に設定した連続式接着機(一対のゴムロールにより0.5N/cmで加圧)で加熱加圧して、試験サンプルを作製した。その後、この各試験サンプルの酸化アクリル繊維からなる水流絡合不織布の接着していない部分を掴み、酸化アクリル繊維からなる水流絡合不織布間の剥離強度を180度剥離試験法にて、幅50mm、速度100mm/分の条件で測定し、評価した。この結果は表2に示す通りであった。表中、○は剥離強さが10N以上あるいは水流絡合不織布が破壊されたもの、△は剥離強さが1N以上、10N未満のもの、×は剥離強さが1N未満のものをそれぞれ意味する。
Figure 0004919852
本発明の接着繊維シートを用いることにより、難燃材料の部材接着において、難燃性能の低下をもたらすことなく、十分な接着強度を得ることができた。

Claims (8)

  1. LOI値が30以上の難燃性繊維を主体とする難燃性繊維シート層と、前記難燃性繊維の融点又は熱分解温度よりも30℃以上低い融点を有する低融点樹脂を含む低融点繊維を主体とする低融点繊維シート層とを、難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層との質量比率が、1:2から1:9の範囲内で含む接着繊維シートであり、この接着繊維シートは前記低融点樹脂が難燃性繊維シートを透過することによって、2つの材料を接着一体化できることを特徴とする、接着繊維シート。
  2. 難燃性繊維がポリフェニレンサルファイド繊維であることを特徴とする、請求項1記載の接着繊維シート。
  3. 難燃性繊維シート層が水流絡合不織布、メルトブロー不織布、湿式不織布の群の中から選ばれる不織布からなることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の接着繊維シート。
  4. 低融点繊維シート層がメルトブロー不織布からなることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載の接着繊維シート。
  5. 低融点樹脂がポリアミドからなることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれかに記載の接着繊維シート。
  6. 低融点樹脂の溶融粘度が0.1Pa・sec以上、100Pa・sec以下であることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の接着繊維シート。
  7. 難燃性繊維シート層と低融点繊維シート層とが部分的に結合していることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれかに記載の接着繊維シート。
  8. LOI値が30以上の難燃性繊維を主体とする難燃性繊維シートを製造する工程、
    前記難燃性繊維の融点又は熱分解温度よりも30℃以上低い融点を有する低融点樹脂を含む低融点繊維を主体とする低融点繊維シートを製造する工程、
    前記難燃性繊維シートと低融点繊維シートとを結合する工程、
    とを含む接着繊維シートの製造方法であり、前記難燃性繊維シートと低融点繊維シートとの質量比率が、1:2から1:9の範囲内であり、しかもこの接着繊維シートは前記低融点樹脂が難燃性繊維シートを透過することによって、2つの材料を接着一体化できることを特徴とする、接着繊維シートの製造方法。
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