図1は、本発明が適用されたベルト式の無段変速機18を含む車両用駆動装置10の骨子図である。この車両用駆動装置10は例えば横置き型FF(フロントエンジン・フロントドライブ)駆動車両に好適に採用されるものであり、走行用動力源として用いられる内燃機関であるエンジン12を備えている。エンジン12の出力は、エンジン12のクランク軸、流体式伝動装置としてのトルクコンバータ14から前後進切換装置16、ベルト式の無段変速機(CVT)18、減速歯車20を介して差動歯車装置22に伝達され、左右の駆動輪24L、24Rへ分配される。このように、無段変速機18は、エンジン12から左右の駆動輪(例えば前輪)24L、24Rへ至る動力伝達経路に設けられている。
トルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸に連結されたポンプ翼車14p、およびトルクコンバータ14の出力側部材に相当するタービン軸34を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tと、一方向クラッチを介して非回転部材に回転可能に支持された固定翼車14sとを備えており、流体を介して動力伝達を行うようになっている。また、それ等のポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tの間にはロックアップクラッチ(直結クラッチ)26が設けられており、油圧制御回路52(図2、図3参照)内の図示しないロックアップコントロールバルブ(L/C制御弁)などによって係合側油室および解放側油室に対する油圧供給が切り換えられることにより、係合または解放されるようになっており、完全係合させられることによってポンプ翼車14pおよびタービン翼車14tは一体的に連結されて一体回転させられる。また、ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したりベルト挟圧力を発生させたり、ロックアップクラッチ26を係合解放制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりするための油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式の油圧ポンプ54が連結されている。
前後進切換装置16は、前進クラッチ38および後進ブレーキ40とダブルピニオン型の遊星歯車装置16pとを主体として構成されており、トルクコンバータ14のタービン軸34はサンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸36はキャリア16cに一体的に連結されている一方、キャリア16cとサンギヤ16sとは前進クラッチ38を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは後進ブレーキ40を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。前進クラッチ38および後進ブレーキ40は断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして、前進クラッチ38が係合させられるとともに後進ブレーキ40が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸34が入力軸36に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進ブレーキ40が係合させられるとともに前進クラッチ38が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸36はタービン軸34に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進クラッチ38および後進ブレーキ40が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
無段変速機18は、入力軸36に設けられた有効径が可変の入力側可変プーリ(プライマリプーリ)42と、出力軸44に設けられた有効径が可変の出力側可変プーリ(セカンダリプーリ)46と、それ等の可変プーリ42、46のV溝に巻き掛けられた伝動ベルト48とを備えており、動力伝達部材として機能する伝動ベルト48と可変プーリ42、46のV溝の内壁面との間の摩擦力を介して動力伝達が行われる。
可変プーリ42および46は、入力軸36および出力軸44にそれぞれ固定された固定回転体42aおよび46aと、入力軸36および出力軸44に対して軸まわりの相対回転不能かつ軸方向の移動可能に設けられた可動回転体42bおよび46bと、それらの間のV溝幅を変更するためのすなわち伝動ベルト48の掛かり径を変更するための入力側油圧シリンダ(プライマリ側油圧シリンダ)42cおよび出力側油圧シリンダ(セカンダリ側油圧シリンダ)46cとを備えて構成されており、入力側油圧シリンダ42cに供給或いはそれから排出される作動油の流量が油圧制御回路52内の変速制御弁装置50(図3参照)によって制御されることにより、両可変プーリ42、46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(=入力軸36の回転速度NIN/出力軸44の回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。
また、出力側油圧シリンダ46c内の油圧であるセカンダリ圧(ベルト挟圧)Pbが油圧制御回路52内の挟圧力制御弁60(図2参照)によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないように出力側可変プーリ46の伝動ベルト48に対する挟圧力および伝動ベルト48の張力が制御される。このような制御の結果として、入力側油圧シリンダ42cの油圧であるプライマリ圧(変速圧)Pinが生じるのである。
図2および図3は油圧制御回路52の一例を示す図であって、図2はベルト挟圧Pbの調圧作動に関連する回路、図3は変速比制御に関連する回路をそれぞれ示している。図2において、オイルタンク56に還流した作動油は、エンジン12に直接的に連結されてそれにより回転駆動される例えばギヤ式の油圧ポンプ54により圧送され、図示しないライン圧調圧弁によりライン圧PLに調圧された後、リニアソレノイド弁58および挟圧力制御弁60に元圧として供給される。リニアソレノイド弁58は、電子制御装置66(図4参照)からの励磁電流が連続的に制御されることにより、油圧ポンプ54から供給された作動油の油圧から、その励磁電流に対応した大きさの制御圧PSを発生させて挟圧力制御弁60に供給する。挟圧力制御弁60は、制御圧PSが高くなるに従って上昇させられるベルト挟圧Pbを発生させ、出力側油圧シリンダ46cに供給することにより、伝動ベルト48が滑りを生じない範囲で可及的にその伝動ベルト48に対する挟圧力すなわち伝動ベルト48の張力が小さくなるようにする。ベルト挟圧Pbは、その上昇に伴ってベルト挟圧力すなわち可変プーリ42、46と伝動ベルト48との間の摩擦力を増大させる。
リニアソレノイド弁58には、カットバック弁62のON時にそれから出力される制御圧PSが供給される油室58aが設けられる一方、カットバック弁62のOFF時には、その油室58aへの制御圧PSの供給が遮断されて油室58aが大気に開放されるようになっており、カットバック弁62のオン時にはオフ時よりも制御圧PSの特性が低圧側へ切り換えられるようになっている。このカットバック弁62は、トルクコンバータ14のロックアップクラッチ26のON(係合)時に、図示しない電磁弁から信号圧PONが供給されることによりONに切り換えられるようになっている。
図3において、変速制御弁装置50は、ライン圧PLの作動油を専ら入力側油圧シリンダ42cへ供給し且つその作動油流量を制御することによりアップ方向の変速速度を制御するアップ変速制御弁50U、およびその入力側油圧シリンダ42cから排出される作動油の流量を制御することによりダウン方向の変速速度を制御するダウン変速制御弁50Dから構成されている。このアップ変速制御弁50Uは、ライン圧PLを導くライン油路Lと入力側油圧シリンダ42cとの間を開閉するスプール弁子50Uvと、そのスプール弁子50Uvを閉弁方向に付勢するスプリング50Usと、アップ側電磁弁64Uから出力される制御圧を導く制御油室50Ucとを備えている。また、ダウン変速制御弁50Dは、ドレン油路Dと入力側油圧シリンダ42cとの間を開閉するスプール弁子50Dvと、そのスプール弁子50Dvを閉弁方向に付勢するスプリング50Dsと、ダウン側電磁弁64Dから出力される制御圧を導く制御油室50Dcとを備えている。アップ側電磁弁64Uおよびダウン側電磁弁64Dは、電子制御装置66によってデューティ駆動されることにより連続的に変化する制御圧を制御油室50Ucおよび制御油室50Dcへ供給し、無段変速機18の変速比γをアップ側およびダウン側へ連続的に変化させる。
図4は、図1の車両用駆動装置10などを制御するために車両に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。電子制御装置66は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、エンジン12の出力制御や無段変速機18の変速制御およびベルト挟圧力制御やロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や無段変速機18およびロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置66には、シフトレバー67の操作位置を検出する操作位置検出センサ68からの操作位置PSHを表す信号、イグニションキーにより操作されるイグニションスイッチ69からのイグニションキーのオン操作を表す信号、スロットルアクチュエータ77により駆動されるスロットル弁70の開度θTHを検出するスロットルセンサ75からのスロットル弁開度θTHを表す信号、アクセルペダル71の開度papを検出するアクセル操作量センサ72からのアクセル開度papを表す信号すなわち運転者の出力要求量を反映する信号、エンジン12の回転速度NEを検出するエンジン回転速度センサ73からのエンジン回転速度NEを表す信号、車速spd(具体的には出力軸44の回転速度NOUT)を検出する車速センサ(出力軸回転速度センサ)74からの車速spd(出力軸回転速度NOUT)を表す信号、入力軸36の回転速度NINを検出する入力軸回転速度センサ76からの入力軸回転速度NINを表す信号、無段変速機18内の作動油温度TOILを検出する油温センサ78からの作動油温度TOILを表す信号、出力側油圧シリンダ46cの内圧Pbすなわち実際のベルト挟圧Pbを検出する圧力センサ80からのベルト挟圧Pbを表す信号等がそれぞれ供給されている。
また、電子制御装置66からは、エンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号が出力される。例えば、予め記憶された関係から決定されたエンジン12の目標エンジントルクTE’が得られるように、スロットル弁70の開閉を制御するためのスロットル弁制御装置82を駆動するスロットル信号や燃料噴射装置から噴射される燃料の量を制御するための噴射信号や点火装置によるエンジン12の点火時期を制御するための点火時期信号などが出力される。また、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号が油圧制御回路52へ出力される。例えば、予め記憶された関係から決定された入力軸回転速度NINの目標回転速度NIN *が実際の入力軸回転速度(以下、実入力軸回転速度)NINと一致するように変速制御弁装置50を作動させることにより入力側油圧シリンダ42c内へ供給される或いは排出される作動油の流量を制御するアップ側電磁弁64Uおよびダウン側電磁弁64Dを駆動するための指令信号が出力される。また、伝動ベルト48の挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号が油圧制御回路52へ出力される。例えば、必要かつ十分な必要油圧(理想的なベルト挟圧力に対応する目標油圧)を得るために予め定められて記憶された関係(マップ)から無段変速機18の実際の入力トルクTIN或いは伝達トルクに対応するアクセル開度papおよび実際の変速比γに基づいて算出されたベルト挟圧Pbの目標油圧が得られるように挟圧力制御弁60を作動させることによりベルト挟圧Pbを調圧するリニアソレノイド弁58を駆動するための指令信号が出力される。
図5は、電子制御装置66の制御機能の要部すなわち駆動力および変速比制御を説明する機能ブロック線図である。図5において、アクセル操作判定手段88は、運転者によるアクセルペダル71の操作が、所定の加速操作であるか否かを、例えば車速spd、アクセル開度pap、およびアクセル開度papの変化量(以下、アクセル変化量)dpapの少なくとも1つに基づいて判定する。従って、アクセル操作判定手段88は運転者の加速要求を判定する加速要求判定手段として機能している。尚、上記アクセル変化量dpapは、繰り返し実行される制御作動においては実質的にアクセル速度に相当する。
前記アクセル操作判定手段88は、例えば車速spdが予め定められて記憶された判定値A以上、アクセル開度papが予め定められて記憶された判定値B以上、アクセル変化量dpapが予め定められて記憶された判定値C以上であるときに加速要求操作が行われたと判定するが、車速spdが判定値Aよりも低いか、或いはアクセル開度papが予め定められて記憶された判定値(B−D)よりも低いときには加速要求操作が終了したと判定する。この判定値A、B、Cおよび所定値Dは、平坦路における定常的或いは通常的走行に比較して積極的に加速操作が行われたかを判定するために予め実験的に求められたものである。なお、判定値Bは、例えば車速spdの増加に伴って増加する関数値であって、予め記憶されたマップから実際の車速spdに基づいて決定される。
無段変速機18の変速比γおよびエンジン12の出力トルクを加速要求に応じて制御するための制御手段90は、(a)前記アクセル操作判定手段88による判定結果に応じて、通常時目標駆動力FORCEおよび加速時目標駆動力FORCEACLを逐次算出する目標駆動力算出手段92と、(b)この目標駆動力算出手段92によって逐次算出された目標駆動力に車速spdを掛けることにより目標出力POWERを逐次算出する目標出力算出手段94と、(c)アクセル操作判定手段88による判定結果に応じて、無段変速機18の入力軸回転速度NINに対する通常用目標回転速度NIN'および加速用目標回転速度NINLINEを逐次算出する目標回転速度設定手段96と、(d)上記目標出力算出手段94により逐次算出された目標出力POWER を現在のエンジン回転速度NE或いは上記目標回転速度設定手段96により設定された加速用目標回転速度NINLINEで除算することによって、目標エンジントルクTE’を逐次算出する目標エンジントルク算出手段98と、(e)上記通常用目標回転速度NIN'或いは加速用目標回転速度NINLINEが実際の入力側回転速度NINと一致するように変速制御弁装置50を作動させることにより、入力側油圧シリンダ42c内へ供給される作動油或いはその入力側油圧シリンダ42c内から排出される作動油の流量を逐次制御し、無段変速機18の変速比γを逐次調節する変速制御手段100と、(f)上記目標エンジントルクTE’が得られるように、例えばスロットル弁制御装置82を用いてスロットル弁開度θTHを逐次調節し、エンジン12の出力トルク(エンジントルク)TEを逐次制御するエンジントルク制御手段102とを備えている。
前記変速制御手段100は、例えば次式(C1)に示すPIフィードバック制御式に従って、実入力軸回転速度NINが目標回転速度となるように偏差(=目標値−実際値)に基づいて入力軸回転速度NINをフィードバック制御するものであり、アクセル操作判定手段88によって加速要求が判定されたときは、加速用目標回転速度NINLINEと入力軸回転速度NINとの偏差e(=NINLINE−NIN)が所定値M内となるまでそのフィードバック制御のゲインを一時的に高める。式(C1)において、左辺NINは今回の入力軸回転速度(制御量)、右辺第1項NIN0は前回の制御サイクルの入力軸回転速度(制御量)、右辺第2項ΔNINは制御量の変更分、Cpは比例定数(ゲイン)、Ciは積分定数(ゲイン)である。
NIN=NIN0+ΔNIN ・・・(C1)
但し、ΔNIN=Cp×e+Ci×∫edt
以下、制御手段90が備える目標値算出機能について、更に詳しく説明する。先ず、アクセル操作判定手段88によりアクセルペダル71の操作が加速要求操作であると判定されず通常操作であると判定された場合には、以下の通常時制御を実行する。
上記通常時制御では、前記目標駆動力算出手段92は、予め記憶された次式(1)に示す関係から、実際の車速spdおよびアクセル開度papに基づいて通常時目標駆動力FORCEを決定する。この式(1)に示す関係は図6の特性曲線に示される良く知られたものである。図6では、目標駆動力FORCEを示す目標駆動力軸(縦軸)と車速spd を示す車速軸(横軸)との直交二次元座標において、アクセル開度papをパラメータとする双曲線状の複数本の特性曲線が並列的に設けられており、実際のアクセル開度papに対応する1 本の特性曲線上において実際の車速spdに対応する点に対応する目標駆動力軸上の値が通常時目標駆動力FORCEとして決定される。
また、前記目標出力算出手段94は、予め記憶された次式(2)に示す関係から、上記目標駆動力算出手段92によって算出された通常時目標駆動力FORCEと実際の車速spdとに基づいて目標出力POWERを算出する。
また、目標回転速度設定手段96は、予め記憶された次式(3)に示す関係から上記目標出力算出手段94によって算出された通常時の目標出力POWERと実際の車速spdとに基づいて通常時の目標回転速度である通常用目標回転速度NIN'を算出(設定)する。この式(3)に示す関係は、例えば図7の特性曲線に示される良く知られたものである。図7では、目標回転速度NIN *を示す目標回転速度軸(縦軸)と車速spdを示す車速軸(横軸)との直交二次元座標において、無段変速機18の最大変速比γmaxを示す線と最小変速比γminを示す線との間の扇状の領域内に、目標出力POWERをパラメータとする複数本の特性曲線POWER1乃至POWER5が並列的に設けられており、通常時の目標出力POWERに対応する1本の特性曲線上において実際の車速spd に対応する点に対応する目標回転速度軸上の値が通常用目標回転速度NIN'として決定される。上記特性曲線POWER1乃至POWER5は、エンジン12の作動点がエンジン回転速度NEの上昇に伴って最適燃費曲線に沿って移動するように設定されている。
また、目標エンジントルク算出手段98は、次式(4)に示す予め記憶された関係から、上記目標出力算出手段94により算出された通常時の目標出力POWERと上記目標回転速度設定手段96により算出された通常用目標回転速度NIN'とに基づいて目標エンジントルクTE’を算出する。
FORCE=map(pap,spd) ・・・(1)
POWER∝FORCE×spd ・・・(2)
NIN'=map(POWER,spd) ・・・(3)
TE’∝POWER / NIN' ・・・(4)
次に、アクセル操作判定手段88によりアクセルペダル71の操作が加速要求操作であると判定された場合には、以下の加速要求時制御を実行する。
上記加速要求時制御では、前記目標駆動力算出手段92は、予め記憶された次式(5)に示す関係から、加速判定初期駆動力値FORCE0、アクセル踏込補正値FORCE(pap,spd)、車速変化補正値FORCE(dspd)に基づいて加速時目標駆動力FORCEACLを決定する。上記加速判定初期駆動力FORCE0は、例えば車両の走行抵抗に見合った図6の定速走行線(2点鎖線)上の加速要求判定時の車速spd に対応するそれまでの加速判定直前の値である。上記アクセル踏込補正値FORCE(pap,spd)は、加速要求判定時のアクセル開度papおよび車速spd に対応する値であり、図6およびそれを拡大した図8では、縦方向の破線の矢印の長さに対応する値である。図6から明らかなように、アクセル踏込補正値FORCE(pap,spd)は、加速要求判定時のアクセル開度papが大きいほど増加し、加速要求判定時の車速spdが高いほど減少する。上記車速変化補正値FORCE(dspd)は、車速積分項とも称されるものであって、加速要求判定時からの車速変化dspdに応じて加速操作の初期値(=加速判定初期駆動力FORCE0+アクセル踏込補正値FORCE(pap,spd))から一定に維持或いは減少させるための項であり、予め記憶された次式(6)から、傾斜係数α(spd0,pap)と、所定時点の車速spd(i)とそれよりも1サンプリング周期前の車速spd(i-1)との差分である車速変化分(spd(i)−spd(i-1))とに基づいて逐次積算(積分)的に算出される。上記傾斜係数α(spd0,pap)は加速要求判定が行われた直後の車速(すなわち加速判定フラグFAがオフ→オン切換時の車速)spd0およびアクセル開度papの関数であり、加速要求判定が行われた直後の車速spd0が高くなるほど減少し、アクセル開度papが大きくなるほど減少するように決定される。この結果、図6およびそれを拡大した図8において、実線の矢印に示すように、加速時目標駆動力FORCEACLがその初期値から一定に維持されるか、その初期値から所定の割合で減少させられる。
また、前記目標出力算出手段94は、通常時の前記式(2)と同様の、予め記憶された次式(7)に示す関係から、上記目標駆動力算出手段92によって算出された加速時目標駆動力FORCEACLと実際の車速spdとに基づいて加速要求判定が行われたときの目標出力POWERを算出する。
上記のように、加速要求判定が行われたときの加速時目標駆動力FORCEACLおよび目標出力POWERが算出されると、前記目標回転速度設定手段96は、予め記憶された次式(8)に示す関係から、加速判定時初期目標回転速度値NINLINE0、アクセル踏込補正値NIN(pap)、アクセル速度補正値NIN(dpap)、および車速変化補正値NIN(dspd)に基づいて加速時の目標回転速度である加速用目標回転速度NINLINEを算出(設定)する。上記加速判定時初期目標回転速度値NINLINE0は、例えば図7の特性曲線に示されるような予め記憶された前記式(3)に示す関係から、加速要求判定が行われた直前の目標出力POWERと実際の車速spdとに基づいて算出される基本目標回転速度であって、通常時に用いられる値と同じである。上記アクセル踏込補正値NIN(pap)は、加速要求判定時のアクセル開度papに対応する値であり、図7では、縦方向の破線の矢印の長さに対応する値である。このアクセル踏込補正値NIN(pap)は、加速要求判定時のアクセル開度papが大きいほど増加する関数であり、例えば図9に示すようなアクセル開度papとアクセル踏込補正値NIN(pap)との予め記憶された関係から加速要求判定時のアクセル開度papに基づいて決定される。図9では、アクセル踏込補正値NIN(pap)を示す縦軸とアクセル開度papを示す横軸との直交二次元座標において、加速要求判定時のアクセル開度papが大きいほどアクセル踏込補正値NIN(pap)が大きな値となるように設定されている。上記アクセル速度補正値NIN(dpap)は、アクセル変化量dpapが高くなるほど増加する関数であり、実際のアクセル変化量dpapに基づいて決定される。上記車速変化補正値NIN(dspd)は、車速積分項とも称されるものであって、加速要求判定時からの車速変化dspdに応じて加速操作の初期値(=加速判定時初期目標回転速度値NINLINE0+アクセル踏込補正値NIN(pap)+アクセル速度補正値NIN(dpap))から所定の上昇速度で増加させるための項であり、予め記憶された次式(9)から、傾斜係数β(spd,pap)および車速変化分(spd(i)−spd(i-1))に基づいて逐次積算(積分)的に算出される。上記傾斜係数β(spd,pap)は、図10および図11にそれぞれ示すように、車速spdが高くなるほど増加し、アクセル開度papが大きくなるほど増加する関数であり、図10および図11に示す予め記憶された関係から実際の車速spdおよびアクセル開度papに基づいて決定される。このように、目標回転速度設定手段96は、アクセル操作判定手段88によって加速要求が判定されたときは、通常時に用いられる値と同様に算出された加速判定時初期目標回転速度値NINLINE0に加速感を良好にするための所定回転速度としてのアクセル踏込補正値NIN(pap)およびアクセル速度補正値NIN(dpap)を加算すると共に、車速spdの増大に応じて所定勾配(所定割合)βで増加する補正値(補正項)である車速変化補正値NIN(dspd)を加算して加速用目標回転速度NINLINEを設定する。
また、前記目標エンジントルク算出手段98は、前記式(4)と同様の次式(10)に示す予め記憶された関係から、上記目標出力算出手段94により算出された加速時の目標出力POWERと上記目標回転速度設定手段96により算出された加速用目標回転速度NINLINEとに基づいて目標エンジントルクTE’を算出する。
FORCEACL=FORCE0+FORCE(pap,spd)+FORCE(dspd) ・・・(5)
FORCE(dspd)=∫[α(spd0,pap)×(spd(i)−spd(i-1))] ・・・(6)
POWER∝FORCEACL×spd ・・・(7)
NINLINE=NINLINE0+NIN(pap)+NIN(dpap)+NIN(dspd) ・・・(8)
NIN(dspd)=∫[β(spd,pap)×(spd(i)−spd(i-1))] ・・・(9)
TE’∝POWER/NINLINE ・・・(10)
この結果、上記加速用目標回転速度NINLINEは、前記図7において、破線の上端位置に対応する加速操作の初期値から、実線の矢印に示すように所定割合βで車速spdの増加に伴って増加させられる。なお、図7において、特性曲線POWER1乃至POWER5のうち破線で示された特性曲線POWER3は、燃費領域と加速領域との境界を示しており、アクセルペダル71の操作が通常操作であると判定された場合はその燃費領域内が用いられるが、加速要求操作であると判定された場合はその加速領域内が用いられる。
図12および図13は、上記目標回転速度設定手段96による加速時の制御によって逐次決定される加速用目標回転速度NINLINEを詳しく示すタイムチャートであって、図12はアクセルペダル71の急踏込み操作時の作動を、図13はそれよりも緩やかな踏込み操作時の作動を示している。図12では、t1時点がアクセルペダル71の踏込み操作開始時および加速要求判定時を示し、t2時点が加速用目標回転速度NINLINEと入力軸回転速度NINとの偏差e(=NINLINE−NIN)が所定値M内となった時点を示している。これに対して、図13では、t1時点がアクセルペダル71の踏込み操作開始時を示し、t2時点が加速要求判定時を示し、t3時点が加速用目標回転速度NINLINEと入力軸回転速度NINとの偏差eが所定値M内となった時点を示している。図12および図13において、Bは前記アクセル操作判定手段88による加速要求操作の判定に用いられる判定値Bである。
図12において、t1時点の加速用目標回転速度NINLINEの立ち上がり量(幅)は、その時点のアクセル開度papの関数であるアクセル踏込補正値NIN(pap)およびアクセル変化量dpapの関数であるアクセル速度補正値NIN(dpap)に対応している。t1時点乃至t2時点の加速用目標回転速度NINLINEはアクセル速度補正値NIN(dpap)および車速変化補正値NIN(dspd)に対応している。t2時点以後の加速用目標回転速度NINLINEは車速上昇と一定比率関係で上昇し、加速度一定であれば、回転変化率も一定となる。また、図13において、加速要求判定が行われたt2時点での加速用目標回転速度NINLINEの立ち上がり量(幅)は、t2時点のアクセル踏込補正値NIN(pap)およびアクセル速度補正値NIN(dpap)に対応している。t2時点乃至t3時点の加速用目標回転速度NINLINEはアクセル速度補正値NIN(dpap)および車速変化補正値NIN(dspd)に対応している。t3時点以後の加速用目標回転速度NINLINEは車速上昇と一定比率関係で上昇し、加速度一定であれば、回転変化率も一定となる。本実施例では、急加速操作時と緩加速操作時との変速制御式が一本化され、簡素化されている。
図14は加速用目標回転速度NINLINEの変化を説明する図である。図14において、加速用目標回転速度NINLINEは、前記式(8)から、加速要求判定時点(t2時点)において直前の値である加速判定時初期目標回転速度値NINLINE0から点Aで示す加速操作の初期値(=加速判定時初期目標回転速度値NINLINE0+アクセル踏込補正値NIN(pap)+アクセル速度補正値NIN(dpap))までステップ的に増加させられ、次いで、アクセルペダル71の加速要求操作に関連する過渡期間終了時点(t3時点)までにアクセル速度補正値NIN(dpap)および車速変化補正値NIN(dspd)だけ更に増加させられる。そして、アクセル開度papが一定となる過渡期間終了時点(t3時点)以後は車速変化補正値NIN(dspd)の増加に応じて線型的に緩やかに増加させられる。図14の斜線領域はその車速変化補正値NIN(dspd)による増加分を示している。
以上説明したように、前記加速要求時制御においては加速要求時の目標回転速度として加速用目標回転速度NINLINEが設定され、その加速用目標回転速度NINLINEと実入力軸回転速度NINとの偏差eに基づいてフィードバック制御により変速が実行されて、運転者の加速要求に対して加速感を良好に得ることができる。このように、加速要求時の目標回転速度として一律に加速用目標回転速度NINLINEを用いても良いが、本実施例では、運転者の加速要求が一層適切に反映されるように、加速用目標回転速度NINLINEに替えてこの加速用目標回転速度NINLINEに応じた所定の目標回転速度を設定する。つまり、加速用目標回転速度NINLINEを最終的な目標回転速度として設定すると共に、運転者の加速要求を一層適切に反映するための所定の目標回転速度として加速用目標回転速度NINLINEをガード(制限)したすなわち変速速度をガードした過渡的な目標回転速度(以下、過渡目標回転速度)NINLINEPを設定する。
例えば、前記目標回転速度設定手段96は、前記アクセル操作判定手段88により加速要求があると判定されたときは、急変速区間としてステップ状に増加させた過渡目標回転速度(以下、急変速用過渡目標回転速度)NINLINEPQを設定すると共に、急変速区間に続く緩変速区間として急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQよりも低い回転速度(例えば実入力軸回転速度NIN近傍)から加速用目標回転速度NINLINEに向かって漸増する過渡目標回転速度(以下、緩変速用過渡目標回転速度)NINLINEPMを設定する。つまり、目標回転速度設定手段96は、急変速区間において急な加速度勾配となると共にそれに続いて緩やかな加速度勾配となるように過渡目標回転速度NINLINEPを設定することで、加速要求時に一律に加速用目標回転速度NINLINEを用いることに比較して運転者の加速要求を一層適切に反映した変速速度とする。このように、目標回転速度設定手段96は、加速要求時の変速中において適切な加速度勾配となって運転者の加速要求に応じた加速感が得られるように過渡目標回転速度NINLINEPを設定する加速要求時設定手段として機能する。
より具体的には、前記目標回転速度設定手段96は、予め設定した加速用目標回転速度NINLINEと実入力軸回転速度NINとの偏差eに基づいて急変速区間の時間(以下、急変速時間)TQを設定する。例えば、目標回転速度設定手段96は、偏差eが大きいときには絶対的な変速量が大きいために変速ショックを感じにくいことから、また偏差eが小さいときには絶対的な変速量が小さいために変速応答性の悪化も抑制されることから、偏差eが大きい場合には小さい場合に比較して急変速時間TQを長く設定する。
図15は、偏差eをパラメータとしてアクセル変化量(アクセル速度)dpapと急変速時間TQとの予め記憶された関係(急変速時間マップ)であって、偏差eが大きい程急変速時間TQが長くなるように、またアクセル速度dpapが速い程急変速時間TQが長くなるように設定されている。目標回転速度設定手段96は、例えば図15に示すような急変速時間マップから実際のアクセル速度dpapおよび偏差eに基づいて急変速時間TQを設定する。
また、前記目標回転速度設定手段96は、前記アクセル操作判定手段88による加速要求判定時の運転者の出力要求量に基づいて急変速区間における急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQを設定する。例えば、目標回転速度設定手段96は、急変速区間においては加速要求判定時の運転者の出力要求量に基づいて予め設定した加速用目標回転速度NINLINEをそのまま急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQとする。
また、前記目標回転速度設定手段96は、予め設定した加速用目標回転速度NINLINEと実入力軸回転速度NINとの偏差eに基づいて急変速区間の後の緩変速区間における緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMを設定する。
例えば、前記目標回転速度設定手段96は、緩変速区間の開始時点の緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMを実入力軸回転速度NINより過渡目標オフセット回転速度NOSだけ高い実入力軸回転速度NIN近傍の値に設定する。目標回転速度設定手段96は、緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMと実入力軸回転速度NINとの偏差を上記偏差eが大きい程大きくして変速速度を速くするために、上記偏差eに基づいて偏差eが大きい場合には小さい場合に比較して大きくなるように過渡目標オフセット回転速度NOSを設定する。
図16は、偏差eをパラメータとしてアクセル変化量(アクセル速度)dpapと過渡目標オフセット回転速度NOSとの予め記憶された関係(オフセット回転速度マップ)であって、偏差eが大きい程過渡目標オフセット回転速度NOSが大きくなるように設定されている。目標回転速度設定手段96は、例えば図16に示すようなオフセット回転速度マップから実際のアクセル速度dpapおよび偏差eに基づいて過渡目標オフセット回転速度NOSを設定する。
また、前記目標回転速度設定手段96は、緩変速区間の開始後の緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMを開始時点から加速用目標回転速度NINLINEに向かって漸増するような例えば次式(11)に示す加速用目標回転速度NINLINEに対して一次遅れの曲線状の値に設定する。但し、Tは時定数、NINLINEPMSは緩変速区間の開始時点の緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPM(=NIN+NOS)。
NINLINEPM(t)=(NINLINE(t)−NINLINEPMS)×(1−ε−t/T) ・・・(11)
上記時定数Tが小さな値である程緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMの立ち上がりが早くなるすなわち応答が早くなるものである。例えば、この時定数Tは、変速ショックや変速の遅れ感が生じない程度の速度で変速が実行されるように予め実験的に求められて記憶された一定値であっても良いが、運転者の加速要求を一層適切に反映した変速速度となるように前記偏差e等に基づいて随時設定されても良い。
図17は、偏差eをパラメータとしてアクセル変化量(アクセル速度)dpapと時定数Tとの予め記憶された関係(時定数マップ)であって、偏差eが大きい程時定数Tが小さくなるように、またアクセル速度dpapが速い程時定数Tが小さくなるように設定されている。目標回転速度設定手段96は、例えば図17に示すような時定数マップから実際のアクセル速度dpapおよび偏差eに基づいて時定数Tを設定する。
また、前記目標回転速度設定手段96は、予め設定した加速用目標回転速度NINLINEと緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMとの偏差が、変速速度をガードする必要がないことを判定するための予め実験的に求められて記憶された所定の回転速度差よりも小さくなったときには、緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMの設定を中止し、加速用目標回転速度NINLINEを目標回転速度として設定する。つまり、目標回転速度設定手段96は、前記アクセル操作判定手段88により加速要求があると判定されたときから加速用目標回転速度NINLINEと緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMとの偏差が上記所定の回転速度差よりも小さくなるまでの間、加速用目標回転速度NINLINEに替えて過渡目標回転速度NINLINEPを目標回転速度として設定する。
図18は、電子制御装置66の制御作動の要部すなわち運転者により加速要求がなされたときに目標回転速度を適切に設定して運転者に与える違和感を抑制しつつ運転者の加速要求を適切に反映する為の制御作動を説明するフローチャートであり、所定のサイクルタイム例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
図18において、先ず、前記アクセル操作判定手段88に対応するステップ(以下、ステップを省略する)S1乃至S5において、加速判定フラグFAがオン状態すなわちセット状態であるか否かが判断される。この加速判定フラグFAはそれがオン(FA=1)状態であるときにアクセルペダル71の操作が加速要求であると判定された状態を示すものである。
前記S1乃至S5をより具体的に説明すると、S1において、例えば車速spdが予め設定された判定値A以上、アクセル開度papが予め設定された判定値B以上、且つアクセル変化量dpap(すなわちアクセル速度Δpap)が予め設定された判定値C以上であるか否かが判定される。このS1の判断が肯定される場合はS2において、加速判定フラグFAが「1」にセット(オン)される。一方で、S1の判断が否定される場合はS3において、車速spdが予め設定された判定値Aよりも低いか、或いはアクセル開度papが予め設定された判定値(B−D)よりも低いか否かが判断される。このS3の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合はS4において、加速要求操作が終了したと判定されて加速判定フラグFAが「0」にリセット(オフ)される。上記S2或いはS4に続くS5において加速判定フラグFAがオン状態すなわち「1」にセットされているか否かが判断される。
加速判定フラグFAが「1」にセットされており前記S5の判断が肯定される場合はS6において図19の加速時目標算出ルーチンが実行される。一方で、加速判定フラグFAが「0」にリセットされており前記S5の判断が否定される場合はS7において図20の通常時目標算出ルーチンが実行される。
図19の加速時目標算出ルーチンにおいて、先ず、前記目標駆動力算出手段92に対応するSA1において、予め記憶された前記式(5)に示す関係から、加速判定初期駆動力値FORCE0、アクセル踏込補正値FORCE(pap,spd)、車速変化補正値FORCE(dspd)に基づいて加速時目標駆動力FORCEACLが算出される。次いで、前記目標出力算出手段94に対応するSA2において、予め記憶された前記式(7)に示す関係から、上記SA1にて算出された加速時目標駆動力FORCEACLと実際の車速spd とに基づいて加速時の目標出力POWERが算出される。次いで、前記目標回転速度設定手段96に対応するSA3において、予め記憶された前記式(8)に示す関係から、加速判定時初期目標回転速度値NINLINE0、アクセル踏込補正値NIN(pap)、アクセル速度補正値NIN(dpap)、および車速変化補正値NIN(dspd)に基づいて加速用目標回転速度NINLINEが算出される。
次いで、前記目標回転速度設定手段96に対応するSA4において、変速速度ガード中は前記SA3にて算出された加速用目標回転速度NINLINEに替えてこの加速用目標回転速度NINLINEに応じた過渡目標回転速度NINLINEPが目標回転速度として設定される一方で、変速速度ガード中以外はこの加速用目標回転速度NINLINEがそのまま目標回転速度として設定される。上記変速速度ガード中に対応する期間は、前記S5の判断が肯定されたときから加速用目標回転速度NINLINEと過渡目標回転速度NINLINEPとの偏差が所定の回転速度差よりも小さくなるまでの間である。そして、前記目標エンジントルク算出手段98に対応するSA5において、予め記憶された前記式(10)に示す関係と同様の目標エンジントルクを求めるための関係から、上記SA2にて算出された加速時の目標出力POWERと上記SA4にて算出された過渡目標回転速度NINLINEPまたは加速用目標回転速度NINLINEとに基づいて目標エンジントルクTE’が算出される。
図21は、図18のフローチャートに示す制御作動のうち図19に示した加速時目標算出ルーチンを説明するタイムチャートであって、図中の加速用目標回転速度NINLINEは前記図14で示した加速用目標回転速度NINLINEに相当する。図21において、t1時点はアクセルペダル71が踏込操作されたことを示している。また、t2時点は、加速要求操作が行われたと判定されて加速判定フラグFAがオン(ON)状態とされたことを示している。このt2時点では同時に、変速速度ガードの実行を判断する為の変速速度ガードフラグFGもオン(FG=1)状態すなわちセット状態とされる。
変速速度ガードフラグFGがオン状態とされると、t2時点乃至t3’時点に示すように、急変速区間においてこの急変速区間だけステップ状に増加させた急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQが例えば加速用目標回転速度NINLINEがそのまま目標回転速度として設定される。このt2時点乃至t3’時点に対応する急変速時間TQは、例えば図15に示すような急変速時間マップから実際のアクセル速度dpapおよび偏差eに基づいて、偏差eが大きい程急変速時間TQが長くなるように、またアクセル速度dpapが速い程急変速時間TQが長くなるように設定される。
また、t3’時点以降に示すように、急変速区間に続く緩変速区間において実入力軸回転速度NINより過渡目標オフセット回転速度NOSだけ高い実入力軸回転速度NIN近傍の値から加速用目標回転速度NINLINEに向かって漸増するような例えば前記式(11)に示す加速用目標回転速度NINLINEに対して一次遅れの曲線状の値となる緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMが目標回転速度として設定される。この過渡目標オフセット回転速度NOSは、例えば図16に示すようなオフセット回転速度マップから実際のアクセル速度dpapおよび偏差eに基づいて偏差eが大きい程過渡目標オフセット回転速度NOSが大きくなるように設定される。また、式(11)に示す時定数Tは、例えば図17に示すような時定数マップから実際のアクセル速度dpapおよび偏差eに基づいて、偏差eが大きい程時定数Tが小さくなるように、またアクセル速度dpapが速い程時定数Tが小さくなるように設定される。
また、t4時点に示すように、上記緩変速区間において加速用目標回転速度NINLINEと緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMとの偏差が所定の回転速度差よりも小さくなったときには、変速速度ガードフラグFGがオフ(FG=0)状態すなわちリセット状態とされる。そして、変速速度ガードフラグFGがオフ状態とされると、緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMの設定が中止され、t4時点以降に示すように加速用目標回転速度NINLINEが目標回転速度として設定される。このように、加速判定フラグFAがオン状態とされる加速要求判定中において、変速速度ガードフラグFGがオン状態とされる変速速度ガード中は加速用目標回転速度NINLINEに替えて過渡目標回転速度NINLINEPが目標回転速度として設定される一方で、変速速度ガードフラグFGがオフ状態とされる変速速度ガード中以外のときは加速用目標回転速度NINLINEが目標回転速度として設定される
図20に戻り、この図20の通常時目標算出ルーチンにおいて、先ず、前記目標駆動力算出手段92に対応するSB1において、予め記憶された前記式(1)に示す関係から、実際の車速spdおよびアクセル開度papに基づいて通常時目標駆動力FORCEが算出される。次いで、前記目標出力算出手段94に対応するSB2において、予め記憶された前記式(2)に示す関係から、上記SB1にて算出された通常時目標駆動力FORCEと実際の車速spd とに基づいて通常時の目標出力POWER が算出される。次いで、前記目標回転速度設定手段96に対応するSB3において、予め記憶された前記式(3)に示す関係から上記SB2にて算出された通常時の目標出力POWER と実際の車速spd とに基づいて通常用目標回転速度NIN'が算出される。そして、前記目標エンジントルク算出手段98に対応するSB4において、予め記憶された前記式(4)に示す関係から、上記SB2にて算出された通常時の目標出力POWERと上記SB3にて算出された通常用目標回転速度NIN'とに基づいて目標エンジントルクTE’が算出される。
図18に戻り、前記S6或いはS7に続いて前記変速制御手段100および前記エンジントルク制御手段102に対応するS8において、S6或いはS7にて設定された目標回転速度が実際の入力側回転速度NINと一致するように変速制御弁装置50が作動させられて入力側油圧シリンダ42c内へ給排される作動油の流量が逐次制御され、無段変速機18の変速比γが逐次調節されると共に、同じくS6或いはS7にて設定された目標エンジントルクTE’が得られるように、例えばスロットル弁制御装置82を用いてスロットル弁開度θTHが逐次調節され、エンジン12の出力トルクTEが逐次制御される。
上述のように、本実施例によれば、アクセル操作判定手段88により運転者の加速要求が有ると判定されたときは、急変速区間としてステップ状に増加させた急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQを設定する目標回転速度設定手段96により、予め設定された加速用目標回転速度NINLINEと実入力軸回転速度NINとの偏差eに基づいて急変速区間の時間である急変速時間TQが設定されるので、運転者により加速要求がなされたときに、変速ショックを感じにくくまた変速応答性の悪化が抑制されるように目標回転速度を設定することが可能となり、運転者に与える違和感を抑制しつつ運転者の加速要求を適切に反映することができる。
また、本実施例によれば、目標回転速度設定手段96により偏差eが大きい場合には小さい場合に比較して急変速時間TQが長く設定されるので、偏差eが大きい場合に急変速区間がより長く設定されると変速ショックがより増大するものの、絶対的な変速量が大きいために変速ショックを感じにくく、また変速速度も速くなることから、運転者に与える違和感を抑制しつつ運転者の加速要求を適切に反映することができる。また、偏差eが小さい場合に急変速区間がより短く設定されると変速速度がより遅くなるものの、絶対的な変速量が小さいために変速ショックが小さく、また変速応答性の悪化も抑制されることから、運転者に与える違和感を抑制しつつ運転者の加速要求を適切に反映することができる。
また、本実施例によれば、目標回転速度設定手段96によりアクセル操作判定手段88による加速要求判定時の運転者の出力要求量に基づいて急変速区間における急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQが設定されるので、例えば加速要求判定時の運転者の出力要求量に基づいて予め設定した加速用目標回転速度NINLINEがそのまま急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQとされるので、運転者により加速要求がなされたときに、急変速区間における急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQを適切に設定することができ、運転者の加速要求に対して加速感を良好に得ることができる。
また、本実施例によれば、目標回転速度設定手段96により偏差eに基づいて急変速区間の後の緩変速区間における緩変速用過渡目標回転速度NINLINEPMが設定されので、運転者により加速要求がなされたときに緩変速区間における所定の目標回転速度を適切に設定することができ、良好な変速速度にて変速が進行する。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例において、目標回転速度設定手段96は、急変速区間においては加速要求判定時の運転者の出力要求量に基づいて予め設定した加速用目標回転速度NINLINEをそのまま急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQとしたが、それに限らず急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQを設定しても良い。例えば、加速用目標回転速度NINLINEよりも所定値だけ小さい値を急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQとしても良いし、加速用目標回転速度NINLINEにゲインK(例えば0<K<1)を乗じた値を急変速用過渡目標回転速度NINLINEPQとしても良い。上記所定値やゲインKは、運転者の加速要求に対して加速感を良好に得ることができるための予め実験的に求められて記憶された値である。
また、前述の図7に示す関係において、目標出力POWERをパラメータとする複数本の特性曲線POWER1乃至POWER5が並列的に設けられていたが、アクセル開度papをパラメータとする複数本の特性曲線pap1乃至pap5が並列的に設けられていてもよい。
また、前述の実施例において、例えば式(5)のFORCE(pap,spd)、FORCE(dspd)や式(8)のNIN(dpap)、NIN(dspd)は、一定値であったり、或いは設けられていなくても一応の効果が得られる。
また、前述の実施例における入力軸回転速度NINやそれに関連する目標回転速度NIN *などは、それら入力軸回転速度NINなどに替えて、エンジン回転速度NEやそれに関連する目標エンジン回転速度NE *など、或いはタービン回転速度NTやそれに関連する目標タービン回転速度NT *などであっても良い。従って、入力軸回転速度センサ76等の回転速度センサは、制御する必要がある回転速度に合わせて適宜備えられれば良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。