以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明を適用する車両の概略構成図である。
この例の車両は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両であって、走行用動力源であるエンジン(内燃機関)1、流体伝動装置としてのトルクコンバータ2、前後進切替装置3、ベルト式無段変速機(CVT)4、減速歯車装置5、差動歯車装置6、及び、ECU(Electronic Control Unit)8などが搭載されており、そのECU8により実行されるプログラムによって本発明の無段変速機の制御装置が実現される。
エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11はトルクコンバータ2に連結されており、エンジン1の出力が、トルクコンバータ2から前後進切替装置3、ベルト式無段変速機4及び減速歯車装置5を介して差動歯車装置6に伝達され、左右の駆動輪(図示せず)へ分配される。
これらエンジン1、トルクコンバータ2、前後進切替装置3、ベルト式無段変速機4、及び、ECU8の各部について以下に説明する。
−エンジン−
エンジン1は、例えば多気筒ガソリンエンジンである。エンジン1に吸入される吸入空気量は電子制御式のスロットルバルブ12により調整される。スロットルバルブ12は運転者のアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ102によって検出される。また、エンジン1の冷却水温は水温センサ103によって検出される。
スロットルバルブ12のスロットル開度はECU8によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ101によって検出されるエンジン回転数Ne、及び、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル操作量Acc)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より詳細には、スロットル開度センサ102を用いてスロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、入力軸側のポンプインペラ21と、出力軸側のタービンランナ22と、トルク増幅機能を発現するステータ23と、ワンウェイクラッチ24とを備え、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で流体(作動油)を介して動力伝達を行う。
トルクコンバータ2には、当該トルクコンバータ2の入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチ25が設けられている。ロックアップクラッチ25は、係合側油室26内の油圧と解放側油室27内の油圧との差圧(ロックアップ差圧)ΔP(ΔP=係合側油室26内の油圧−解放側油室27内の油圧)によってフロントカバー2aに摩擦係合される油圧式摩擦クラッチであって、前記差圧ΔPを制御することにより、完全係合・半係合(スリップ状態での係合)または解放される。
ロックアップクラッチ25を完全係合させることにより、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが一体回転する。また、ロックアップクラッチ25を所定のスリップ状態(半係合状態)で係合させることにより、駆動時には所定のスリップ量でタービンランナ22がポンプインペラ21に追随して回転する。一方、ロックアップ差圧ΔPを負に設定することによりロックアップクラッチ25は解放状態となる。
そして、トルクコンバータ2にはポンプインペラ21に連結して駆動される機械式のオイルポンプ(油圧発生源)7が設けられている。
−前後進切替装置−
前後進切替装置3は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構30、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1を備えている。
遊星歯車機構30のサンギヤ31はトルクコンバータ2のタービンシャフト28に一体的に連結されており、キャリア33はベルト式無段変速機4の入力軸40に一体的に連結されている。また、これらキャリア33とサンギヤ31とは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ32は後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。
前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、後述する油圧制御回路200によって係合・解放される油圧式摩擦係合要素であって、前進用クラッチC1が係合され、後進用ブレーキB1が解放されることにより、前後進切替装置3が一体回転状態となって前進用動力伝達経路が成立(達成)し、この状態で、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側へ伝達される。
一方、後進用ブレーキB1が係合され、前進用クラッチC1が解放されると、前後進切替装置3によって後進用動力伝達経路が成立(達成)する。この状態で、入力軸40はタービンシャフト28に対して逆方向へ回転し、この後進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切替装置3は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
−ベルト式無段変速機−
ベルト式無段変速機4は、入力側のプライマリプーリ41、出力側のセカンダリプーリ42、及び、これらプライマリプーリ41とセカンダリプーリ42とに巻き掛けられた金属製のベルト43などを備えている。
プライマリプーリ41は、有効径が可変な可変プーリであって、入力軸40に固定された固定シーブ411と、入力軸40に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ412とによって構成されている。セカンダリプーリ42も同様に有効径が可変な可変プーリであって、出力軸44に固定された固定シーブ421と、出力軸44に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ422とによって構成されている。
プライマリプーリ41の可動シーブ412側には、固定シーブ411と可動シーブ412との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ413が配置されている。また、セカンダリプーリ42の可動シーブ422側にも同様に、固定シーブ421と可動シーブ422との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ423が配置されている。
以上の構造のベルト式無段変速機4において、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧を制御することにより、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42の各V溝幅が変化してベルト43の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(γ=プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)NIN/セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)NOUT)が連続的に変化する。また、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧は、ベルト滑りが生じない所定の挟圧力でベルト43が挟圧されるように制御される。これらの制御はECU8及び油圧制御回路200によって実行される。
−ECU−
ECU8は、図2に示すように、CPU81、ROM82、RAM83及びバックアップRAM84などを備えている。
ROM82には、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU81は、ROM82に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM83はCPU81での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM84はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
これらCPU81、ROM82、RAM83、及び、バックアップRAM84はバス87を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース85及び出力インターフェース86に接続されている。
入力インターフェース85には、エンジン回転数センサ101、スロットル開度センサ102、水温センサ103、タービン回転数センサ104、プライマリプーリ回転数センサ105、セカンダリプーリ回転数センサ106、アクセル開度センサ107、CVT油温センサ108、ブレーキペダルセンサ109、及び、シフトレバー9のレバーポジション(操作位置)を検出するレバーポジションセンサ110などが接続されており、その各センサの出力信号、つまり、エンジン1の回転数(エンジン回転数)Ne、スロットルバルブ12のスロットル開度θth、エンジン1の冷却水温Tw、タービンシャフト28の回転数(タービン回転数)Nt、プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)NIN、セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)NOUT、アクセルペダルの操作量(アクセル関度)Acc、油圧制御回路200の油温(CVT油温Thc)、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無(ブレーキON・OFF)、及び、シフトレバー9のレバーポジション(操作位置)などを表す信号がECU8に供給される。
出力インターフェース86には、スロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15及び油圧制御回路200などが接続されている。
ここで、ECU8に供給される信号のうち、タービン回転数Ntは、前後進切替装置3の前進用クラッチC1が係合する前進走行時にはプライマリプーリ回転数(入力軸回転数)NINと一致し、セカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)NOUTは車速Vに対応する。また、アクセル操作量Accは運転者の出力要求量を表している。
また、シフトレバー9は、駐車のためのパーキング位置「P」、後進走行のためのリバース位置「R」、動力伝達を遮断するニュートラル位置「N」、前進走行のためのドライブ位置「D」、前進走行時にベルト式無段変速機4の変速比γを手動操作で増減できるマニュアル位置「M」などの各位置に選択的に操作されるようになっている。
マニュアル位置「M」には、変速比γを増減するためのダウンシフト位置やアップシフト位置、あるいは、変速範囲の上限(変速比γが小さい側)が異なる複数の変速レンジを選択できる複数のレンジ位置等が備えられている。
レバーポジションセンサ110は、例えば、パーキング位置「P」、リバース位置「R」、ニュートラル位置「N」、ドライブ位置「D」、マニュアル位置「M」やアップシフト位置、ダウンシフト位置、あるいはレンジ位置等へシフトレバー9が操作されたことを検出する複数のON・OFFスイッチ等を備えている。なお、変速比γを手動操作で変更するために、シフトレバー9とは別にステアリングホイール等にダウンシフトスイッチやアップシフトスイッチ、あるいはレバー等を設けることも可能である。
そして、ECU8は、上記した各種のセンサの出力信号などに基づいて、エンジン1の出力制御、後述するベルト式無段変速機4の変速比制御及びベルト挟圧力制御、並びに、ロックアップクラッチ25の係合・解放制御などを実行する。さらに、ECU8は、後述する[閉じ込み制御]を実行する。
−油圧制御回路−
次に、油圧制御回路200について図3を参照して説明する。図3は、油圧制御回路200のうちベルト式無段変速機4の変速比制御及びベルト挟圧力制御に関する要部を示す油圧回路図である。
まず、図3の油圧制御回路200において、ライン圧PLは、エンジン1により回転駆動される機械式のオイルポンプ7(図1参照)から出力(発生)される作動油圧を元圧として、例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(ライン圧調圧弁)によりリニアソレノイドバルブSLTの出力油圧である制御油圧PSLTに基づいてエンジン負荷等に応じた値に調圧されるようになっている。
モジュレータ油圧PMは、制御油圧PSLTおよび制御油圧PSLSの元圧となるものであるとともに、後述するアップシフト用変速ソレノイドバルブDS1(以下、アップシフト変速用ソレノイドDS1という)の出力油圧である制御油圧PDS1、及び、ダウンシフト用変速ソレノイドバルブDS2(以下、ダウンシフト変速用ソレノイドDS2という)の出力油圧である制御油圧PDS2の元圧となるものであって、ライン圧PLを元圧としてモジュレータバルブ220により一定圧に調圧されるようになっている。
この例の油圧制御回路200は、アップシフト用変速制御バルブ211、ダウンシフト用変速制御バルブ212、ベルト挟圧力コントロールバルブ213、及び、閉じ込みバルブ(減圧バルブ)214などを備えている。
[変速比制御]
次に、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧制御回路について説明する。図3に示すように、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413にはアップシフト用変速制御バルブ211が接続されている。
アップシフト用変速制御バルブ211には、軸方向に移動可能なスプール弁子211aが設けられている。スプール弁子211aの一端部(図3の上側の端部)には、スプール弁子211aを閉じ側(原位置側)に付勢するスプリング(圧縮コイルばね)211bが配置されているとともに、そのスプリング211bの配置側に第2油室211dが設けられている。また、アップシフト用変速制御バルブ211には、上記スプール弁子211aを挟んでスプリング211bとは反対側(図3の下側)に第1油室211cが設けられている。
第1油室211cには、ECU8が出力するDuty指令値(アップシフト変速Duty))によって決まる電流値に応じて制御油圧(モジュレータ油圧PMを調圧した制御油圧)を出力するアップシフト用変速ソレノイドDS1が接続されており、そのアップシフト用変速ソレノイドDS1が出力する制御油圧PDS1が油室114cに印加される。
また、第2油室211dには、ECU8が出力するDuty指令値(ダウンシフト変速Duty)によって決まる電流値に応じて制御油圧(モジュレータ油圧PMを調圧した制御油圧)を出力するダウンシフト用変速ソレノイドDS2が接続されており、そのダウンシフト用変速ソレノイドDS2が出力する制御油圧PDS2が第2油室211dに印加される。
さらに、アップシフト用変速制御バルブ211には、ライン圧PLが供給される入力ポート211e、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に接続(連通)される入出力ポート211f及び出力ポート211gが設けられおり、スプール弁子211aがアップシフト位置(図3の右側位置)にあるときには、出力ポート211gが閉鎖され、ライン圧PLが入力ポート211eから入出力ポート211fを経てプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給される。一方、スプール弁子211aが原位置(図3の左側位置)に保持されている閉じ状態では、入力ポート211eが閉鎖され、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413が入出力ポート211fを介して出力ポート211gに連通する。この出力ポート221gにはダウンシフト用変速制御バルブ212の入力ポート212eに接続されている。
ダウンシフト用変速制御バルブ212には、軸方向に移動可能なスプール弁子212aが設けられている。スプール弁子212aの一端側(図3の下側)には、スプール弁子212aを閉じ側(原位置側)に付勢するスプリング(圧縮コイルばね)212bが配置されているとともに、そのスプリング212bの配置側に第1油室212cが設けられている。また、ダウンシフト用変速制御バルブ212には、上記スプール弁子212aを挟んでスプリング212bとは反対側(図3の上側)の端部に第2油室212dが設けられている。
第1油室212cには、上記アップシフト用変速ソレノイドDS1が接続されており、そのアップシフト用変速ソレノイドDS1が出力する制御油圧PDS1が第1油室212cに印加される。第2油室212dには、上記ダウンシフト用変速ソレノイドDS2が接続されており、そのダウンシフト用変速ソレノイドDS2が出力する制御油圧PDS2が第2油室212dに印加される。
さらに、ダウンシフト用変速制御バルブ212には、入力ポート212e、入出力ポート212f及び排出ポート212gが設けられている。このダウンシフト用変速制御バルブ212の入力ポート212eは、アップシフト用変速制御バルブ211の出力ポート211gに接続されている。また、入出力ポート212fには閉じ込みバルブ214が接続されている。
そして、このようなダウンシフト用変速制御バルブ212において、スプール弁子212aがダウンシフト位置(図3の左側位置)にあるときには入力ポート212eが排出ポート212gに連通する。一方、スプール弁子212aが原位置(図3の右側位置)に保持されている閉じ状態では、入力ポート212eと排出ポート212gとが遮断されるとともに、入力ポート212eと入出力ポート212fとが連通する。
また、このダウンシフト用変速バルブ116が閉じ状態(図3の右側位置)であり、上記アップシフト用変速バルブ114も閉じ状態(図3の左側位置)であるときには、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413と後述する閉じ込みバルブ214の油室214dとが連通する。
以上の図3の油圧制御回路において、ECU8が出力するDuty指令値(アップシフト変速Duty)に応じてアップシフト用変速ソレノイドDS1が作動し、そのアップシフト用変速ソレノイドDS1が出力する制御油圧PDS1がアップシフト用変速制御バルブ211の第1油圧ポート211cに供給されると、その制御油圧PDS1に応じた推力によって、スプール弁子211aがアップシフト位置側(図3の上側)に移動する。このスプール弁子211aの移動(アップシフト側への移動)により、作動油(ライン圧PL)が制御油圧PDS1に対応する流量で入力ポート211eから入出力ポート211fを経てプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給されるとともに、出力ポート211gが閉鎖されてダウンシフト変速制御バルブ116への作動油の流通が阻止される。これによって変速制御圧(プライマリシーブ圧PIN)が高められ、プライマリプーリ41のV溝幅が狭くなって変速比γが小さくなる(アップシフト)。
なお、アップシフト用変速ソレノイドDS1が出力する制御油圧PDS1がダウンシフト用変速制御バルブ212の第1油室212cに供給されると、スプール弁子212aが図3の上側に移動し、ダウンシフト用変速制御バルブ212の入力ポート212eが閉鎖される。
一方、ECU8が出力するDuty指令(ダウンシフト変速Duty)に応じてダウンシフト用変速ソレノイドDS2が作動し、そのダウンシフト用変速ソレノイドDS2が出力する制御油圧PDS2がダウンシフト用変速制御バルブ212の第2油室212dに供給されると、その制御油圧PDS2に応じた推力によって、スプール弁子212aがダウンシフト側(図3の下側)に移動する。このスプール弁子212aの移動(ダウンシフト側への移動)により、ダウンシフト用変速制御バルブ212の入力ポート212eと、アップシフト用変速制御バルブ211の出力ポート211gとが連通する。この状態では、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413内の作動油が制御油圧PDS2に対応する流量でアップシフト用変速制御バルブ211の入出力ポート211fに流出し、このアップシフト用変速制御バルブ211に流出した作動油が出力ポート211g及びダウンシフト用変速制御バルブ212の入力ポート212eを経て排出ポート212gから排出される。これによって、変速制御圧(プライマリシーブ圧PIN)が低められ、入力側可変プーリ42のV溝幅が広くなって変速比γが大きくなる(ダウンシフト)。
なお、ダウンシフト用変速ソレノイドDS2が出力する制御油圧PDS2がアップシフト用変速制御バルブ211の第2油圧ポート212dに供給されると、スプール弁子211aが図3の下側に移動し、アップシフト用変速制御バルブ211の入力ポート211eが閉鎖されるとともに、アップシフト用変速制御バルブ211の入出力ポート211fと出力ポート211gとが連通する。
以上のように、アップシフト用変速ソレノイドDS1から制御油圧PDS1が出力されると(ダウンシフト用変速ソレノイドDS2の出力=0)、アップシフト用変速制御バルブ211から作動油がプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に供給されて変速制御圧(プライマリシーブ圧PIN)が連続的にアップシフトされる。また、ダウンシフト用変速ソレノイドDS2から制御油圧が出力されると(アップシフト用変速ソレノイドDS1の出力=0)、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413内の作動油がダウンシフト用変速制御バルブ212の排出ポート212gから排出されて変速制御圧(プライマリシーブ圧PIN)が連続的にダウンシフトされる。
そして、この例では、例えば図4に示すように、運転者の出力要求量を表すアクセル操作量Acc及び車速Vをパラメータとして予め設定された変速マップから入力側の目標回転数NINTを算出し、実際の入力軸回転数(実入力軸回転数)NINが目標回転数NINTと一致するように、それらの偏差(NINT−NIN)に応じてベルト式無段変速機4の変速制御、すなわち、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に対する作動油の供給・排出によって変速制御圧(プライマリシーブ圧PIN)が制御され、変速比γが連続的に変化する。図4のマップは変速条件に相当し、ECU8のROM82(図2参照)内に記憶されている。
なお、図4のマップにおいて、車速Vが小さくてアクセル操作量Accが大きい程大きな変速比γになる目標回転数NINTが設定されるようになっている。また、車速Vはセカンダリプーリ回転数(出力軸回転数)NOUTに対応するため、プライマリプーリ回転数(入力軸回転数)NINの目標値である目標回転数NINTは目標変速比に対応し、ベルト式無段変速機4の最小変速比γminと最大変速比γmaxの範囲内で設定されている。
[ベルト挟圧力制御]
次に、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧制御回路について図3を参照して説明する。
図3に示すように、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423にはベルト挟圧力コントロールバルブ213が接続されている。
ベルト挟圧力コントロールバルブ213には、軸方向に移動可能なスプール弁子(図示せず)、及び、このスプール弁子を開弁方向に付勢するスプリング(圧縮コイルばね)213aなどを備えている。
ベルト挟圧力コントロールバルブ213には、ライン圧PLが供給される入力ポート213b、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423及び後述する閉じ込みバルブ214に接続される出力ポート213c、この出力ポート213cから出力されたセカンダリシーブ圧Pdを受け入れる油室213d、及び、油室213eが設けられている。その油室213eには、リニアソレノイドバルブSLSが接続されており、そのリニアソレノイドバルブSLSが出力する制御油圧(モジュレータ油圧PMを調圧した制御油圧)PSLSが油室213eに印加される。
以上の構造のベルト挟圧力コントロールバルブ213において、ベルト式無段変速機4のベルト43に滑りが生じないように、制御油圧PSLSをパイロット油圧としてライン圧PLが連続的に減圧制御されることにより、ベルト挟圧力コントロールバルブ213の出力ポート213cからセカンダリプーリ42(油圧アクチュエータ423)にセカンダリシーブ圧Pdが出力され、これによってベルト挟圧力が増減する。
そして、この例では、例えば図5に示すように、伝達トルクに対応するアクセル開度Acc及び変速比γ(γ=NIN/NOUT)をパラメータとし、ベルト滑りが生じないように予め設定された必要油圧(ベルト挟圧力に相当)のマップに従って、リニアソレノイドバルブSLSが出力する制御油圧を制御することにより、ベルト式無段変速機4のベルト挟圧力、つまり、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧(セカンダリシーブ圧Pd)を調圧制御することによって行われる。図5のマップは挟圧力制御条件に相当し、ECU8のROM82(図2参照)内に記憶されている。
[閉じ込みバルブ]
次に、閉じ込みバルブ214について図6を参照して説明する。
この例の閉じ込みバルブ214には、軸方向に移動可能なスプール弁子214aが設けられている。スプール弁子214aの一端部(図6の下側の端部)にはスプリング(圧縮コイルばね)214bが配置されているとともに、そのスプリング214bの配置側にセカンダリシーブ圧Pdを受け入れる油室214cが設けられている。また、閉じ込みバルブ214には、上記スプール弁子214aを挟んでスプリング214bとは反対側の端部(図6の上側の端部)に油室214dが設けられている。その油室214dはプライマリシーブ圧PINの受け入れが可能である。さらに、閉じ込みバルブ214には、ライン圧PLが供給される入力ポート214e、プライマリシーブ圧PINを受ける入力ポート214f、及び、排出ポート214gが設けられている。
このような構成の閉じ込みバルブ214においては、上記したアップシフト用ソレノイドDS1及びダウンシフト用変速ソレノイドDS2への変速Dutyが共に低Dutyで(図11の閉じ込み領域を参照)、アップシフト用変速制御バルブ211及びダウンシフト用変速制御バルブ212が共に原位置側(閉じ状態側)にあるときに、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413と閉じ込みバルブ214の油室214dとが連通し、その油圧アクチュエータ413の油圧つまりプライマリシーブ圧PINが下記の閉じ込み圧に調圧制御される。
ここで、この例の閉じ込みバルブ214において、油室214cにおけるセカンダリシーブ圧Pdの受圧面積をS1、油室214dにおけるプライマリシーブ油圧PINの受圧面積をS2、スプリング214bの付勢力をFとすると、閉じ込み圧は[閉じ込み圧=Pd×(S1/S2)+F/S2]によって決定され、この閉じ込み圧よりもプライマリシーブ圧が高い場合[プライマリシーブ圧PIN>閉じ込み圧]は、作動油が排出ポート214gからドレーンされて閉じ込み制御の変速特性がダウンシフト特性となる。一方、上記閉じ込み圧よりもプライマリシーブ圧が低い場合[プライマリシーブ圧PIN<閉じ込み圧]である場合には、ライン圧PLが流入して閉じ込み制御の変速特性がアップシフト特性となる。
このような閉じ込み制御の変速特性(以下、閉じ込み制御特性ともいう)について図7を参照して説明する。図7は、入力トルク変化による閉じ込み制御特性の変化の一例を示す図であって、車速及び実入力軸回転数をパラメータとして上記閉じ込み圧の変化を示している。この図7において、閉じ込み圧に対して実入力軸回転数が低い側で車速が高い側の領域の閉じ込み制御特性がダウンシフト特性であり、逆に、閉じ込み圧に対して実入力軸回転数が高い側で車速が低い側の領域の閉じ込み制御特性がアップシフト特性である。なお、図7の閉じ込み制御特性は、実験・シミュレーション等によって取得したデータ(閉じ込み圧)に基づいて作成した線図である。
−閉じ込み制御−
次に、この例において実行する閉じ込み制御について説明する。
まず、上述したように、ベルト式無段変速機の制御では、実入力軸回転数が目標入力軸回転数(目標プライマリシーブ回転数)に追随する領域で(ダウンシフト用変速ソレノイドDS2の出力=0)、アップシフト用変速ソレノイドDS1の出力を下げて閉じ込み制御に移行する。その閉じ込み制御の変速特性がダウンシフト特性である場合は、微小なダウンシフトが可能(プライマリシーブ圧PINが閉じ込み圧よりも高い領域での微小なダウンシフトが可能)であるので、アップシフト用変速ソレノイドDS1の出力制御のみでアップシフト・ダウンシフトが可能であり、図10に示すように、実入力軸回転数NINを目標入力軸回転数NINTに追従させることが可能である。
しかしながら、閉じ込み制御時のプライマリシーブ圧PINを、閉じ込みバルブ(減圧バルブ)214を用いて制御する構成では、プライマリシーブ圧PINとセカンダリシーブ圧Pdとの大小関係により、閉じ込み制御の変速特性がアップシフト特性に変化する場合がある。例えば高地走行等において入力トルク(エンジン出力)が低下すると、図7の破線で示すように、アップシフト特性の領域が通常走行時(実線)よりも拡大するため、閉じ込み制御の変速特性がアップシフト特性に変化する場合がある。また、他の要因によっても閉じ込み制御の変速特性が変化する場合がある。
そして、このようにして閉じ込み制御の変速特性がアップシフト特性に変化した場合、閉じ込み制御によりアップシフトしてしまい、実入力軸回転数が目標入力軸回転数に対してアンダーシュートしてしまう(図10参照)。こうした状況になると、実入力軸回転数と目標入力軸回転数との間に一定の差回転が生じた後に、ダウンシフト用変速ソレノイドDS2の出力に切り替わり、ダウンシフトにより実入力軸回転数が目標入力軸回転数に追従するようになる。しかし、図10に示すように、実入力軸回転数が目標入力軸回転数を超えると、アップシフト用変速ソレノイドDS1の出力に切り替わってしまい、また、その後に実入力軸回転数が目標入力軸回転数以下になった時点で、再度ダウンシフト用変速ソレノイドDS2の出力に切り替わってしまうため、アップシフト用変速ソレノイドDS1の出力とダウンシフト用変速ソレノイドDS2の出力との頻繁な切り替わりによる変速ハンチング(実入力軸回転数の振れ)が発生する。こうした変速ハンチングを抑制するには、プライマリシーブ圧PINを検出して閉じ込み制御の変速特性を認識すればよいが、図1〜図3の構成ではプライマリシーブ圧PINを認識することはできない。
なお、プライマリシーブ圧PINを検出するセンサ(プライマリ圧センサ)を搭載すれば、そのプライマリシーブ圧PINの検出値に基づいて閉じ込み制御の変速特性の変化を認識することは可能であるが、そのようなプライマリ圧センサの搭載はコストアップとなる。
このような点を考慮し、この例では、プライマリ圧センサを用いることなく、閉じ込み制御の変速特性を認識することができ、その閉じ込み制御の変速特性の変化に応じて、出力を行う変速ソレノイドDS1,DS2を切り替えることで、変速ハンチングを抑えることを技術的特徴としている。
その具体的な制御(DS1,DS2の出力制御)について、図8のフローチャート及び図9のタイミングチャートを参照して説明する。図8のフローチャートはECU8において実行される。
まず、この例の閉じ込み制御に用いる所定値α及び所定値βについて説明する。
所定値αは、図9に示すように、アップシフト用変速ソレノイドDS1の出力制御(以下、「DS1出力制御」ともいう)による閉じ込み制御時において、DS1閉じ込み制御域(ダウン側閉じ込み制御域)を規定する値であって、この所定値αを目標入力軸回転数NINTから差し引いた値([NINT−α]:DS2切替回転数(第1回転数))と実入力軸回転数NINとを比較し、実入力軸回転数NINがDS2切替回転数(NINT−α)よりも大きい場合は、閉じ込み制御の変速制御特性がアップシフト特性であると認識する。この所定値αは、目標入力軸回転数NINTに対するヒステリシス(回転数ダウン側のヒステリシス)であって、図9に示すDS1閉じ込み制御域を考慮し、実験・シミュレーション計算等によって適合した値である。なお、所定値αは、例えばECU8のROM82に記憶されている。
また、所定値βは、図9に示すように、ダウンシフト用変速ソレノイドDS2の出力制御(以下、「DS2出力制御」ともいう)による閉じ込み制御時において、DS2閉じ込み制御域(アップ側閉じ込み制御域)を規定する値であって、この所定値βを目標入力軸回転数NINTに加算した値([NINT+β]:DS1切替回転数(第2回転数))と実入力軸回転数NINとを比較し、実入力軸回転数NINがDS1切替回転数(NINT+β)よりも小さい場合は、閉じ込み制御の変速制御特性がダウンシフト特性であると認識する。この所定値βは、目標入力軸回転数NINTに対するヒステリシス(回転数アップ側のヒステリシス)であって、図9に示すDS2閉じ込み制御域を考慮し、実験・シミュレーション計算等によって適合した値である。なお、所定値αは、例えばECU8のROM82に記憶されている。
次に、変速ソレノイドDS1,DS2の出力制御について図8の各ステップごとに具体的に説明する。この図8の制御ルーチン実行中において、ECU8は、セカンダリプーリ回転数センサ106及びアクセル開度センサ107の各出力信号から得られる車速V及びアクセル操作量Accに基づいて、上記処理にて目標回転数NINTを逐次算出するとともに、プライマリプーリ回転数センサ105の出力信号に基づいて実入力軸回転数NINを逐次算出している。
なお、以下の説明では、アップシフト用変速ソレノイドDS1の出力を「DS1出力」という。また、ダウンシフト用変速ソレノイドDS2の出力を「DS2出力」という。
まず、この例の制御においても、従来制御と同様に、ベルト式無段変速機4の実入力軸回転数NINが目標入力軸回転数(目標プライマリシーブ回転数)NINTに追随する領域で(DS2出力=0)、DS1出力を下げる。このDS1出力制御により、実出力軸回転数NINが目標出力軸回転数NINT以下になった時点(NINT≧NINとなった時点:図9参照)で閉じ込み制御に移行する(ステップST101〜ST103)。
この移行時には、閉じ込み制御の変速特性がダウンシフト特性であり、微小なダウンシフトが可能であるので、図9に示すように、実入力軸回転数NINが目標入力軸回転数NINTに追従するように、DS1出力制御のみでダウンシフトdwとアップシフトupとを実行する。なお、DS1出力制御による閉じ込み制御時において、ECU8は、DS2切替回転数(NINT−α)と実入力軸回転数NINとを比較しており、その実入力軸回転数NINがDS2切替回転数(NINT−α)よりも大きい場合(NIN>NINT−α)は、閉じ込み制御の変速特性がダウンシフト特性であると認識する。
以上のDS1出力制御による閉じ込み制御を実行している状況で、上記した理由などにより、閉じ込み制御の変速特性が[アップシフト特性→ダウンシフト特性]に変化した場合はアップシフトしてしまい、図9に示すように、実入力軸回転数NINが目標入力軸回転数NINTに対してアンダーシュートして実入力軸回転数NINが低下していく。
その低下過程において、実入力軸回転数NINが、DS2切替回転数(NINT−α)以下となった時点(ステップST104の判定結果が肯定判定(NINT−α≧NIN)となった時点)で、DS1出力からDS2出力へと切り替わり(ステップST105)、ダウンシフトにて実入力軸回転数NINが上昇していくが、この例では、図9に示すように、DS2出力の際には、実入力軸回転数NINはDS1切替回転数(NINT+β)と比較されるので、実出力軸回転数NINの上昇過程において、実出力軸回転数NINが回転数(NINT−α)よりも大きくなっても、DS1出力に切り替わらずにDS2出力が継続される。そして、実出力軸回転数NINが目標入力軸回転数NINTに追従し、実出力軸回転数NINが目標入力軸回転数NINTに達した時点(ステップST106の判定結果が肯定判定(NINT≦NIN)となった時点)で、DS2出力制御による閉じ込み制御に移行する(ステップST107)。
このようにしてDS2出力制御による閉じ込み制御に移行した後、ステップST108において、実入力軸回転数NINが、DS1切替回転数(NINT+β)以上であるか否かを判定する。その判定結果が否定判定である場合([NINT+β>NIN]である場合)は、図9に示すように、実入力軸回転数NINが目標入力軸回転数NINTに追従するように、DS2出力制御のみでアップシフトupとダウンシフトdwとを実行する。なお、DS2出力制御による閉じ込み制御時において、ECU8は、DS1切替回転数(NINT+β)と実入力軸回転数NINとを比較しており、その実入力軸回転数NINがDS1切替回転数(NINT+β)よりも小さい場合(NIN<NINT+β)は、閉じ込み制御の変速特性がアップシフト特性であると認識する。
そして、ステップST108の判定結果が肯定判定になった場合つまり実入力軸回転数がDS1切替回転数(NINT+β)以上となった場合にはDS2出力からDS1出力に切り替える(ステップST109)。なお、DS2出力からDS1出力に切り替わると、実出力軸回転数NINが低下していくが、DS1出力の際には、実入力軸回転数NINは切替回転数(NINT−α)と比較されるので、実出力軸回転数NINの低下過程において、実出力軸回転数NINが回転数(NINT+β)よりも小さくなっても、DS2出力に切り替わらずに、DS1出力が継続される。そして、実出力軸回転数NINが目標入力軸回転数NINTに追従し、実出力軸回転数NINが目標入力軸回転数NINT以下(NINT≧NIN)となった時点でDS1出力制御による閉じ込み制御に移行する。
以上のように、この例の制御によれば、DS1出力制御による閉じ込み制御時に切替回転数(NINT−α)と実入力軸回転数NINとを比較し、DS2出力制御による閉じ込み制御時には切替回転数(NINT+β)と実入力軸回転数NINとを比較して、閉じ込み制御の変速特性の変化を認識しているので、プライマリシーブ圧を検出することなく、センサレスで閉じ込み制御の変速特性の変化を認識することが可能となり、その閉じ込み制御の変速特性の変化に応じて、出力を行う変速ソレノイド(DS1,DS2)を切り替えることができる。これによってDS2出力制御による閉じ込み制御時で変速特性がアップシフト特性のときに、変速ソレノイドの出力が切り替わること(DS2出力→DS1出力)がなくなる。その結果として、コストアップを抑えながら、閉じ込み制御時の変速ハンチング(図10に示すような実入力軸回転数NINの振れ)を抑制することができる。
なお、図9に示すタイミングチャートでは、説明を判りやすくするために、目標入力軸回転数NINTが一定上昇している例を示しているが、その目標入力軸回転数NINTについては、他の形態で変化(例えば「上昇・下降の繰り返し」、「下降のみ」、「目標入力軸回転数NINT=一定」)しても本発明は問題なく実施できる。
−他の実施形態−
以上の例では、ガソリンエンジンを搭載した車両の無段変速機の制御装置に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、ディーゼルエンジン等の他のエンジンを搭載した車両の無段変速機の制御装置にも適用可能である。また、車両の動力源については、エンジン(内燃機関)のほか、電動モータ、あるいはエンジンと電動モータの両方を備えているハイブリッド形動力源であってもよい。
また、本発明は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両に限れられることなく、FR(フロントエンジン・リアドライブ)型車両、4輪駆動車にも適用できる。