以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である車両変速装置が搭載された車両10の動力伝達経路を説明する図である。図1に示すとおり、動力原であるエンジン12で生じた動力は、トルクコンバータ14から前後進切換装置16、車両用無段変速機18(以下、「無段変速機18」という)、減速歯車装置20、差動歯車装置22等を経て、左右の駆動輪24へ伝達される。
トルクコンバータ14は、流体を介して動力伝達を行う伝達機構である。このトルクコンバータ14は、エンジン12のクランク軸13に連結されたポンプ翼車14pおよびタービン軸30を介して前後進切換装置16に連結されたタービン翼車14tなどを備えており、ポンプ翼車14pとタービン翼車14tとの間で流体を介して動力伝達を行うようになっている。ポンプ翼車14p及びタービン翼車14tの間には、直結可能な公知のロックアップクラッチ26が設けられている。また、ポンプ翼車14pには、無段変速機18を変速制御したり、無段変速機18のベルト挟圧を発生させたり、ロックアップクラッチ26の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりする為の元圧となる作動油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ28が連結されている。
前後進切換装置16は、発進クラッチとしての前進用クラッチC1、後進用ブレーキB1、および、ダブルピニオン型の遊星歯車装置16pを主体として構成されている。トルクコンバータ14のタービン軸30は、サンギヤ16sに一体的に連結され、無段変速機18の入力軸32はキャリア16cに一体的に連結されている。そして、キャリア16cとサンギヤ16sとは、前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ16rは、後進用ブレーキB1を介して非回転部材としてのハウジング34に選択的に固定されるようになっている。前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、係合によりエンジン12の動力を駆動輪24側へ伝達する所定の摩擦係合装置としての断続装置に相当するもので、何れも油圧シリンダによって摩擦係合させられる油圧式摩擦係合装置である。
そして、前進用クラッチC1が係合させられるとともに、後進用ブレーキB1が解放されると、前後進切換装置16は一体回転状態とされることによりタービン軸30が入力軸32に直結され、前進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、前進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置16は後進用動力伝達経路が成立(達成)させられて、入力軸32はタービン軸30に対して逆方向へ回転させられるようになり、後進方向の駆動力が無段変速機18側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放されると、前後進切換装置16は動力伝達を遮断するニュートラル状態(動力伝達遮断状態)になる。
動力原であるエンジン12としては、例えば燃料の燃焼によって動力を発生する内燃機関等のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等が好適に用いられるが、電動機等の他の原動機をエンジンと組み合わせて、あるいは、単独で採用することもできる。
無段変速機18は、有効径が可変の一対のプーリ42,46と、当該一対のプーリ42,46間に掛け渡される伝動ベルト48を備えている。そして、無段変速機18は、これら一対の可変プーリ42,46および伝動ベルト48の間の摩擦力を介して動力伝達が行われるベルト式の無段変速機である。なお、以下では、入力軸32に設けられたプーリ42を、「駆動側プーリ42」、出力軸44に設けられたプーリ46を「従動側プーリ46」と呼ぶ。
駆動側プーリ42は、入力軸32に固定された固定回転体42aと、軸方向移動が可能な可動回転体42bと、それらの間のV溝幅を変更する為の推力を付与する駆動側油圧シリンダ42cと、を備えて構成されている。また、従動側プーリ46は、出力軸44に固定された固定回転体46aと、軸方向移動が可能な可動回転体46bと、それらの間のV溝幅を変更する為の推力を付与する従動側油圧シリンダ46cと、を備えて構成されている。このように構成された無段変速機18では、例えば、駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量が油圧制御回路100(図2参照)によって制御されることにより、一対の可変プーリ42,46のV溝幅が変化して伝動ベルト48の掛かり径(有効径)が変更され、変速比(ギヤ比)γ(=入力回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT)が連続的に変化させられる。また、従動側油圧シリンダ46cの油圧であるセカンダリ圧POUT(ベルト挟圧Pdに対応)が油圧制御回路100によって調圧制御されることにより、伝動ベルト48が滑りを生じないようにセカンダリ圧POUTに応じて一対の可変プーリ42,46と伝動ベルト48との間の摩擦力(ベルト挟圧力)が制御される。このような制御の結果として、駆動側油圧シリンダ42cの油圧であるプライマリ圧(変速制御圧)PINが生じる。
図2は、エンジン12や無段変速機18などを制御する為に車両10に設けられた制御系統の要部を説明するブロック線図である。車両10には、車両用無段変速機の制御装置としても機能する電子制御装置50が備えられている。この電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。CPUは、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン12の出力制御、無段変速機18の変速制御やベルト挟圧力制御、ロックアップクラッチ26のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用、無段変速機18及びロックアップクラッチ26の油圧制御用等に分けて構成される。
電子制御装置50には、例えば、クランク軸回転速度センサ52により検出されたクランク軸13の回転角度(位置)ACR、クランク軸13の回転速度(すなわちエンジン12の回転速度)であるエンジン回転速度NE、タービン回転速度センサ54により検出されたタービン軸30の回転速度であるタービン回転速度NT、入力回転速度センサ56により検出された入力軸32の回転速度(すなわち無段変速機18の入力回転速度)である入力回転速度NIN、出力軸回転速度センサ58により検出された車速Vに対応する出力軸44の回転速度(すなわち無段変速機18の出力回転速度)である出力軸回転速度NOUT、スロットルセンサ60により検出された電子スロットル弁40の開度であるスロットル弁開度θTH、冷却水温センサ62により検出されたエンジン12の冷却水温THW、CVT油温センサ64により検出された油圧制御回路100内の作動油の温度である作動油温THCVT、吸入空気量センサ66により検出されたエンジン12の吸入空気量QAIR、アクセル開度センサ68により検出された運転者による車両10に対する加速要求量(ドライバ要求量)としてのアクセルペダル70の操作量であるアクセル開度Ac、キックダウンスイッチ72により検出されたアクセルペダル70の最大踏込み(すなわちアクセル全開)を示すキックダウンオンKDON、フットブレーキスイッチ74により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダルが操作されたブレーキオンBONを表す信号、レバーポジションセンサ76により検出されたシフトレバー78のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHなどを表す信号がそれぞれ供給される。
また、電子制御装置50からは、例えばエンジン12の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SE、無段変速機18の変速比γを変化させる為の変速制御指令信号ST等がそれぞれ出力される。具体的には、上記エンジン出力制御指令信号SEとして、スロットルアクチュエータ38を駆動して電子スロットル弁40の開閉を制御する為のスロットル信号や燃料噴射装置80から噴射される燃料の量を制御する為の噴射信号や点火装置82によるエンジン12の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、上記変速制御指令信号STとして、駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の流量を制御する為の油圧指令信号、伝動ベルト48のベルト挟圧力を調整させる為の挟圧力制御指令信号SB例えばセカンダリ圧POUTを調圧する為の油圧指令信号などが油圧制御回路100へ出力される。
油圧制御回路100では、上述した駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給排出流量(ひいては、一対の可変プーリ42,46のV溝幅)の制御や、従動側油圧シリンダ46cの油圧(ベルト挟圧Pd、ひいては、一対の可変プーリ42,46と伝動ベルト48との間の摩擦力)の調圧制御などが行なわれる。また、油圧制御回路100は、シフトレバー78のポジションに応じて、前進用クラッチC1や、後進用ブレーキB1の係合状態を切り替える。すなわち、シフトレバー78は、例えば運転席の近傍に配設され、順次位置させられている「P」ポジション(駐車ポジション)、「R」ポジション(後進走行ポジション)、「N」ポジション(ニュートラルポジション)、「D」ポジション(前進走行ポジション)、及び「L」ポジション(エンジンブレーキポジション)の5つのレバーポジションPSHうちの何れかへ手動操作されるようになっている。このシフトレバー78が、「D」ポジション或いは「L」ポジションに操作されると、前進用クラッチC1が係合させられると共に後進用ブレーキB1が解放させられる。また、シフトレバーが「R」ポジションに操作されると、後進用ブレーキB1が係合させられると共に前進用クラッチC1が解放させられる。さらに、シフトレバーが「P」ポジション或いは「N」ポジションに操作されると、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1が共に解放させられる。
次に、電子制御装置50による制御機能の要部を図3を参照して説明する。図3は、電子制御装置50による制御機能の要部を示す機能ブロック線図である。図3において、エンジン出力制御部すなわちエンジン出力制御手段90は、エンジン12の出力制御の為にエンジン出力制御指令信号SE、例えばスロットル信号や噴射信号や点火時期信号などをそれぞれスロットルアクチュエータ38や燃料噴射装置80や点火装置82へ出力する。例えば、エンジン出力制御手段90は、目標スロットル弁開度θTH *をアクセル開度Acに応じた目標エンジントルクTE *が得られる為のスロットル開度θTHとし、目標エンジントルクTE *が得られるようにスロットルアクチュエータ38により電子スロットル弁40を開閉制御する他、燃料噴射装置80により燃料噴射量を制御したり、点火装置82により点火時期を制御する。
変速制御部すなわち変速制御手段92は、実際の車速V及びアクセル開度Acで示される車両状態に基づいて、変速制御の対象となる回転要素としての入力軸32の目標回転速度である目標入力回転速度NIN *を設定する。そして、変速制御手段92は、実際の入力回転速度(実入力回転速度)NINが上記目標入力回転速度NIN *と一致するように、例えば、実入力回転速度NINと目標入力回転速度NIN *との回転偏差ΔNIN(=NIN *−NIN)に基づいて無段変速機18の変速を例えばフィードバック制御により実行する。
つまり、変速制御手段92は、回転偏差ΔNINに基づいて駆動側油圧シリンダ42cに対する作動油の流量を制御することにより、一対の可変プーリ42,46のV溝幅を変化させる為の変速制御指令信号(油圧指令)STを決定し、その変速制御指令信号STを油圧制御回路100へ出力して変速比γを連続的に変化させる。油圧制御回路100は、変速制御手段92からの変速制御指令信号STに従って無段変速機18の変速が実行されるように駆動側油圧シリンダ42cへの作動油の供給・排出によりプライマリ圧PINを調圧する。
ベルト挟圧力制御部すなわちベルト挟圧力制御手段94は、例えば図4に示すような無段変速機18の入力トルクTINをパラメータとして、ベルト滑りが生じないように予め実験的に求められて記憶された変速比γと必要油圧(目標ベルト挟圧に相当)Pd*との関係(ベルト挟圧マップ)から無段変速機18の入力トルクTIN及び実変速比γ(=NIN/NOUT)で示される車両状態に基づいて目標ベルト挟圧Pd*を設定する。そして、ベルト挟圧力制御手段94は、その目標ベルト挟圧Pd*が得られるように従動側油圧シリンダ46cのセカンダリ圧Poutを調圧する為の挟圧力制御指令信号SBを油圧制御回路100へ出力する。油圧制御回路100は、ベルト挟圧力制御手段94からの挟圧力制御指令信号SBに従ってセカンダリ圧Poutが増減されるようにセカンダリ圧Poutを調圧する。このように、ベルト挟圧力制御手段94は、無段変速機18の入力トルクTINに応じてセカンダリ圧Poutを制御することにより、ベルト滑りが発生しない範囲で燃費向上の為出来るだけ低い値になるようにベルト挟圧力を制御する。
次に、変速制御手段92による変速制御について説明する。上述したとおり、変速制御手段92は、実入力回転速度NINが目標入力回転速度NIN *と一致するように、無段変速機18の変速比γを例えばフィードバック制御する。この変速制御において、本実施形態では、この変速比γを、連続的に変化させるだけでなく、有段変速機のようにステップ的に変化させることも行う。具体的には、フィードバック制御で用いられる目標入力回転速度NIN *を、車両の走行状況に応じて、ステップ的に変化させることにより、ステップ的な変速を実現している。
具体的に説明すると、本実施形態において、目標入力回転速度NIN *は、基準となるベース回転速度Nsに、車速に応じて設定される車速補正値N(V)およびアクセル開度Acに応じて設定されるアクセル開度補正値N(Ac)を加算することで算出される(NIN *=Ns+N(V)+N(Ac))。
車速補正値N(V)は、予め実験的に求められた補正値である。この車速補正値N(V)は、車速Vが大きくなるほど、大きくなるように設定されており、車速Vが連続的に変化する限り、車速補正値N(V)も連続的に変化する。アクセル開度補正値N(Ac)は、予め実験的に求められた補正値である。このアクセル開度補正値N(Ac)は、アクセル開度Acが大きくなるほど、大きくなるように設定されており、アクセル開度Acが連続的に変化する限り、アクセル開度補正値N(Ac)も連続的に変化する。
したがって、ベース回転速度Nsを一定とし、かつ、実際に測定された車速V、アクセル開度Ac(いずれも連続値)を用いて車速補正値N(V)およびアクセル開度補正値N(Ac)を算出した場合、目標入力回転速度NIN *は、常に連続的に変化することになる。
本実施形態では、車両の状況に応じて、目標入力回転速度NIN *を、連続的に変化させるだけでなく、ステップ的にも変化させるために、アクセル開度補正値N(Ac)の算出に用いるステップ状に変化するアクセル開度を用い、また、特定のタイミングでベース回転速度Nsの値を更新している。
具体的に説明すると、本実施形態では、アクセル開度センサ68で検出されたたアクセル開度Ac(以下「実アクセル開度Ac」という)から、ステップ状に変化するステップ状アクセル開度Acdを算出する。図5の下側は、この実アクセル開度Ac(破線)と、ステップ状アクセル開度Acd(実線)を示すイメージ図である。ステップ状アクセル開度Acdは、実アクセル開度Acが、予め規定された閾値E1〜E4を更新した場合にのみ更新されるアクセル開度である。なお、閾値E1〜E4は、予め規定された固定値であってもよいし、種々のパラメータ(例えば車速Vやアクセル開度Ac)に応じて変動する変動値であってもよい。また、前回用いられた閾値nを基準として、次回に用いるべき閾値En+1を算出するようにしてもよい。いずれにしても、ステップ状アクセル開度Acdは、実アクセル開度Acが、特定の値を更新するまでは、一定値を保ち、実アクセル開度Acが、特定の値を更新すれば、当該特定の値までステップ状に変化するパラメータである。本実施形態では、このステップ状アクセル開度Acdに用いて、アクセル開度補正値N(Ac)を求める。
図5の上側は、ステップ状アクセル開度Acdを用いて算出した目標入力回転速度NIN *(実線)と、実アクセル開度Acを用いて算出した目標入力回転速度NIN *(破線)を示すイメージ図である。なお、以下では、ステップ状アクセル開度Acdを用いて算出した目標入力回転速度を「NIN *(Acd)」、実アクセル開度Acを用いて算出した目標入力回転速度を「NIN *(Ac)」と呼ぶ。この図5から明らかなとおり、実アクセル開度Acに用いた場合、目標入力回転速度NIN *(Ac)は、連続的にのみ変化する。一方、ステップ状アクセル開度Acdを用いた場合、目標入力回転速度NIN *(Acd)は、アクセル開度Acが閾値を更新するまでは連続的に変化するものの、アクセル開度Acが閾値を更新するとアクセル開度補正値N(Ac)がステップ状に増加または減少するため、目標入力回転速度NIN *(Acd)もステップ状に変化する。そして、目標入力回転速度NIN *(Acd)がステップ状に変化することで、変速比γがステップ状に変化するダウンシフトおよびアップシフトが実現される。つまり、本実施形態では、ステップ状アクセル開度Acdがステップ状に増加した際にダウンシフトが実行され、ステップ状アクセル開度Acdがステップ状に減少した際にアップシフトが実行される。
また、本実施形態では、目標入力回転速度NIN *(Acd)が、アップシフト判定値Uaに到達した場合には、ベース回転速度Nsをステップ状に減少させている。これについて、図6を参照して説明する。
本実施形態において、変速制御手段92は、車速Vおよび実アクセル開度Acに基づいて、アップシフト判定値Uaおよびアップシフト基準値Ubを算出する。アップシフト判定値Uaは、アップシフトの実行可否を決める基準となる値で、車速Vが大きいほど、また、実アクセル開度Acが大きいほど、大きな値になるように設定されている。アップシフト基準値Ubは、アップシフト後が大きいほど、また、実アクセル開度Acが大きいほど、大きな値になるように設定されている。ただし、図6に示すように、アップシフト基準値Ubは、常に、アップシフト判定値Uaよりも小さくなるように設定されている。
変速制御手段92は、目標入力回転速度NIN *(Acd)がアップシフト判定値Uaに到達したか否かを常時、監視する。そして、目標入力回転速度NIN *(Acd)がアップシフト判定値Uaに到達した場合には、アップシフト判定値Uaおよびアップシフト基準値Ubの差分値ΔU(ΔU=Ua−Ub)分だけ、ベース回転速度Nsを減少させる(Ns=Ns−ΔU)。ベース回転速度Nsがステップ状に減少すると、当然ながら、目標入力回転速度NIN *(Acd)もステップ状に減少することになる。そして、目標入力回転速度NIN *(Acd)がステップ状に減少することにより、変速比γもステップ状に減少するアップシフトが行われることになる。なお、本実施形態では、実アクセル開度Acが規定の閾値Enを更新しない限り、ステップ状アクセル開度Acdの値を更新しない。しかし、前回用いられた閾値nを基準として、次回に用いるべき閾値En+1を算出するような場合には、このアップシフトが実行されたタイミング(NIN *(Acd)=Uaになったタイミング)で、ステップ状アクセル開度Acdの値を実アクセル開度Acの値に更新してもよい。このようにすることで、シフトアップ後、すぐに、ステップ状アクセル開度Acdがステップ状に増加してダウンシフトが実行されることが防止される。
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態では、ステップ状アクセル開度Acdがステップ的に増加したタイミングでダウンシフトが行われ、ステップ状アクセル開度Acdがステップ的に減少したタイミングおよび目標入力回転速度NIN *(Acd)がアップシフト判定値Uaに到達したタイミングで、アップシフトが行われる。
ここで、ダウンシフトを実行した際には、当然ながら、目標入力回転速度NIN *(Acd)は、ステップ状に増加する(図5参照)。このダウンシフト後の目標入力回転速度NIN *(Acd)が、アップシフト判定値Uaに比較的近い値になることがある。この場合、ダウンシフト実行後、すぐに、アップシフトが実行される、ビジーシフトが発生するおそれがある。
すなわち、図7に示すように、タイミングt1において、ステップ状アクセル開度Acdがステップ状に増加すると、アクセル開度補正値N(Acd)もステップ状に増加し、ひいては、目標入力回転速度NIN *(Acd)がステップ状に増加するダウンシフトが実行される。アップシフト後、目標入力回転速度NIN *(Acd)は、車速Vの連続的な増加に伴い、連続的に増加する。ここで、ダウンシフト後の目標入力回転速度NIN *(Acd)と、アップシフト判定値Uaと、の差分値Lが小さい場合、ダウンシフト後、比較的短時間で、目標入力回転速度NIN *(Acd)がアップシフト判定値Uaに到達し、アップシフトが行われる。このように、短時間のうちにダウンシフトおよびアップシフトが行われるビジーシフトは、ドライバビリティの悪化を招く。
そこで、本実施形態では、ビジーシフトを防止するために、ダウンシフト後の目標入力回転速度NIN *(Acd)を、アップシフト判定値Uaに応じて調整するようにしている。図8は、この様子を示す図である。また、図9は、ダウンシフト後の目標入力回転速度NIN *(Acd)の調整の流れを示す図である。
ステップ状アクセル開度Acdが、ステップ状に増大した場合、変速制御手段92は、ダウンシフトの実行を決定する(S10でYes)。この場合、変速制御手段92は、予め決められたルール(本実施形態では、NIN *(Acd)=Ns+N(V)+N(Acd))にしたがって、目標入力回転速度NIN *(Acd)を算出する(S12)。ただし、このルールに従って算出された目標入力回転速度NIN *(Acd)は、仮の目標入力回転速度とする。また、ダウンシフト実行時の、アプシフト判定値Uaも、車速Vおよび実アクセル開度Acに基づいて算出する(S14)。
続いて、この仮の目標入力回転速度NIN *(Acd)と、ダウンシフト実行時のアップシフト判定値Uaと、の差分値Lを算出し(L=NIN *(Acd)−Ua)、予め規定された基準差分値Lsと比較する(S16)。そして、差分値Lが、基準差分値Lsより大きい場合には(L>Ls)、ルールに従って算出された仮の目標入力回転速度NIN *(Acd)を、ダウンシフト後の目標入力回転速度NIN *(Acd)として設定する(S20)。
一方、この差分値Lが、予め規定された基準差分値Ls以下の場合には(L≦Ls)、アップシフト判定値Uaから基準差分値Lsを減算した値(Ua−Ls)を、ダウンシフト後の目標入力回転速度NIN *(Acd)として設定する(S18)。より具体的には、NIN *(Acd)=Ns+N(V)+N(Ac)で求まる目標入力回転速度NIN *(Acd)が、(Ua−Ls)になるべく、ベース回転速度Nsを更新する。そして、このように、ダウンシフト後の目標入力回転速度NIN *(Acd)の値を制限することにより、ダウンシフトしてからアップシフトするまでの時間を長くすることができ、ビジーシフトを防止できる。
なお、基準差分値Lsは、固定値であってもよいし、車速Vや加速度、アクセル開度Ac(またはステップ状アクセル開度Acd)に応じて変動する変動値であってもよい。また、本実施形態では、アップシフト判定値Uaから基準差分値Lsを減算した値をダウンシフト後の目標入力回転速度NIN *(Acd)としているが(NIN *(Acd)=Ua−Ls)、ダウンシフト後の目標入力回転速度NIN *(Acd)とアップシフト判定値Uaとの差分値を大きく保てるのであれば、他の値であってもよい。例えば、ダウンシフト後の目標入力回転速度NIN *(Acd)は、アップシフト判定値Uaまたは仮の目標入力回転速度NIN *(Acd)に規定の比率(例えば7割など)を乗じた値にしてもよい。
また、本発明が適用される車両用無段変速機の制御装置は、規定のルールに従って算出されたダウンシフト後の仮の目標入力回転速度が、アップシフト実行の基準となるアップシフト判定値に近い場合には、仮の目標入力回転速度より低い値を、ダウンシフト後の目標入力回転速度として設定するのであれば、他の構成は適宜、変更されてもよい。
例えば、本実施形態では、ステップ状アクセル開度Acdがステップ状に増加したタイミングでダウンシフトを実行しているが、特許文献1に記載されているようにアクセル開度Acの変化速度が一定以上の場合や、アクセルペダル70の最大踏込み(すなわちアクセル全開)を示すキックダウンオンKDON信号が出力された場合に、ダウンシフトを実行するようにしてもよい。また、ダウンシフト後の仮の目標入力回転速度を求めるためのルールとして、本実施形態では、NIN *(Acd)=Ns+N(V)+N(Acd)という数式を用いていたが、他のルールを用いてもよい。例えば、特許文献1に記載されているように、ダウンシフト実行時における実アクセル開度Acと車速Vを、図10に示すような変速マップに照らし合わせて、ダウンシフト後の変速比γを求め、得られた変速比γと出力回転速度Noutとを乗じた値を、ダウンシフト後の仮の目標入力回転速度NIN *としてもよい(すなわち、NIN *=γ×Noutを規定のルールとして用いてもよい)。いずれにしても、ダウンシフト後の目標入力回転速度を、アップシフト実行の基準となるアップシフト判定値と離れた値に調整することで、ビジーシフトを防止でき、ドライバビリティを向上できる。