本発明は、エキシマレーザやフッ素分子レーザ等の半導体露光装置で使用される2ステージレーザシステムの紫外ガスレーザ装置に関するものである。
(露光用光源)
半導体集積回路の微細化、高集積化が進むにつれて、半導体露光装置においては解像力の向上が強く要請されている。このため露光用光源から放出される光の短波長化が進められており、露光用光源として、従来用いられてきた水銀ランプに代わって、短波長化に適したガスレーザ装置が用いられるようになってきた。
現在、露光用ガスレーザ装置としては、波長248nmの紫外線を放出するKrFエキシマレーザ装置ならびに、波長193nmの紫外線を放出するArFエキシマレーザ装置が用いられている。
また、次世代の露光技術として、露光用レンズとウエハの間の空間を液体で満たし、この空間の屈折率を高くすることによって、露光光源の見かけ上の波長を短波長化する液浸露光がArF露光に適用されようとしている。ArFエキシマレーザ装置において、上記空間を満たす液体を水(H2O)とした場合、水の屈折率が1.44となるため、ArFエキシマレーザ光の見かけ上の波長を134nmとすることができる。これをArF液浸露光という。
また、次々世代の露光用光源として、波長157nmの紫外線を放出するF2レーザ装置が有力であり、この場合においても、液浸露光技術が採用される可能性もある。F2レーザ装置に液浸露光を適用した場合、F2レーザ光の見かけ上の波長は115nmになると言われている。これをF2レーザ液浸露光という。
(露光用光学素子と色収差)
多くの半導体露光装置の光学系として、投影光学系が採用されている。この投影光学系では、色収差補正を行なうために、異なる屈折率を有するレンズ等の光学素子が組み合わされている。露光用光源として用いられる248nm〜115nmのレーザ波長領域では、投影光学系のレンズ材料として使用に適する光学材料としては、合成石英(SiO2)とフッ化カルシウム(CaF2)以外にはない。このため、KrFエキシマレーザ用の投影レンズとしては、SiO2のみで構成された全屈折タイプの単色レンズが採用され、また、ArFエキシマレーザ用の投影レンズとしては、SiO2とCaF2で構成された全屈折タイプの部分色消しレンズが採用されている。
ところが、KrF、ArFエキシマレーザの自然発振におけるレーザ光のスペクトル線幅は約350〜400pmと広いために、これらの投影レンズを使用すると色収差が発生して、解像力が低下する。そこで、露光用ガスレーザ装置から放出されるレーザ光のスペクトル線幅を色収差が無視できるまでに狭帯域化する必要がある。このため、レーザ装置には狭帯域化素子(エタロンやグレーティング等)を有する狭帯域化モジュールがレーザ共振器内に設けられ、スペクトル線幅の狭帯域化が行われている。
(液浸露光によるリソグラフィーと偏光照明)
ArF液浸露光によるリソグラフィーの場合、露光用レンズとウエハ間の空間を満たす液体としてH2Oを使用すると、屈折率が1.44になるため、屈折率に比例するレンズ開口数NAを1.44倍に増やすことができる。
しかしながら、開口数NAが高くなるにつれ、露光光源であるレーザ光の偏光純度が半導体露光に大きな影響を与える。すなわち、偏光の向きがマスクパターンの方向に平行であるTE偏光(後述するp偏光に対応)の場合は影響がないが、偏光の向きがマスクパターンの方向に直交するTM偏光(後述するs偏光に対応)場合は、投影された像のコントラストが低くなってしまう。
その理由は、TE偏光の場合、ウエハ上の焦点における電界ベクトルが同一方向であるのにたいして、TM偏光の場合、ウエハ上の焦点における電界ベクトルが異なる方向であるため、ウエハへの入射角が大きくなるに従い電界ベクトル強度が弱くなってしまうためである。この影響は開口数NAが1.0に近づくか、あるいは超える場合に顕著になる。ArF液浸露光はこの場合に該当する。
このように、TE偏光とTM偏光の2つの偏光が混ざり合っているとコントラストが低くなってしまうため、露光光源としてのレーザ光は、TE偏光であることが要求される。つまり、TE偏光とTM偏光の2つの偏光の各光の強度の比で表される偏光純度が高く安定していることが要求される。
(2ステージレーザシステムによるレーザ光高出力化)
液浸露光を適用すると、高NA化によりレンズの枚数が増えて透過率が低下する。そのため、一定の露光量を得るためには、露光光源であるレーザの高出力化が必要とされている。また、露光装置の高スループット化のためにも、露光光源であるレーザの高出力化が必要とされている。
スペクトル線幅を狭帯域化した上でレーザ光の高出力を得るための方法として、2ステージレーザシステムによる増幅方法がある。2ステージレーザシステムは、狭帯域化したレーザ光を出力するための発振段レーザ(OSCレーザ)と、その狭帯域化されたレーザビーム(これをシード光という)を増幅するための増幅段レーザ(AMPレーザ)から構成される。シード光の光源となるOSCレーザの場合、狭帯域化モジュールで狭帯域化されたレーザ出力光は線偏光となっており、その偏光純度は約99%である。
実際の2ステージレーザシステムは、レーザ光を増幅する手段の違いにより、MOPO方式とMOPA方式の2種類に分けられる。MOPO方式のレーザシステムは、AMPレーザに共振器が設けられている。MOPOとはMaster Oscillator, Power Oscillatorの略号であり、インジェクションロック方式(IL方式)とも呼ばれる。一方、MOPA方式のレーザシステムは、増幅段に共振器が設けられていない。MOPAはMaster Oscillator, Power Amplifierの略号である。
OSCレーザから出力されるレーザビームのエネルギー密度は数mJ/cm2であるが、AMPレーザでは、レーザエネルギーが増幅されるので、十数mJ/cm2の高エネルギー密度のレーザビームとなる。高エネルギー密度のレーザビームがAMPレーザのチャンバのウィンドウを透過するため、ウィンドウの表面と内部におけるレーザ光の吸収量が大きくなりウィンドウは発熱する。この発熱によってウィンドウに熱応力が生じると、たとえばCaF2ウィンドウ内での複屈折量が増加する。複屈折物質内を偏光した光が透過すると、透過した光の位相が変化する。すると、複屈折物質内を通過後の光の位相がずれて直線偏光が楕円偏光になる。
以上のことにより、2ステージレーザシステムの場合、約99%の偏光純度の線偏光であるシード光をAMPレーザ側に注入し増幅するのであるが、その増幅過程で、ウィンドウを通過する際に、ウィンドウで生じる複屈折のために、線偏光が楕円偏光に変化する。このため、AMPレーザからの出力光の偏光純度は悪化する。また、レーザ出力に依存してウィンドウに照射する光エネルギー密度が変化するため複屈折量が変化する。それによって偏光純度も変化するため安定したレーザ露光用光源とすることができない。
また、AMPレーザ光ほどではないが、OSCレーザにおいてもCaF2ウィンドウでのレーザ光の吸収によって、OSCレーザ出力光の偏光純度が変化する場合がある。この場合は、AMPレーザに注入されるシード光の偏光純度が変化するわけであるから、結果としてAMPレーザ出力光の偏光純度が変化することになる。
本発明は、露光装置の光源として有用な2ステージレーザシステムにおいて、最近明らかになってきた上記問題点に鑑みてなされたものであり、偏光純度を高め(たとえば99%以上)、かつ安定化させる高エネルギーのレーザビームを出力できる2ステージシステムの紫外ガスレーザ装置を提供することを目的としている。
以上のような目的を達成するために、第1発明の多段増幅型レーザシステムにおいては、レーザ光を出力する発振段と、前段から出力されたレーザ光を増幅して出力する一以上の増幅段と、少なくとも一つの前記増幅段のレーザ光軸上又は前記増幅段以降のレーザ光軸上に設けられ、レーザ光に含まれ互いに直交する二つの直線偏波状態の成分のうちの一方を高反射率で反射し、他方を高透過率で透過する偏光子と、を備えたことを特徴としている。
第2発明の多段増幅型レーザシステムは、第1発明において、前記増幅段レーザのレーザ光出力側に前記偏光子を備えたことを特徴としている。
第3発明の多段増幅型レーザシステムは、第1発明において、前記増幅段レーザは、レーザガスを封入する増幅段レーザチャンバと、前記レーザチャンバを介して互いに対峙する二つの部分透過鏡からなる増幅段光共振器と、を少なくとも有し、前記増幅段光共振器の間に一以上の前記偏光子を備えたことを特徴としている。
第4発明の多段増幅型レーザシステムは、第1発明において、前記発振段は、レーザガスを封入する発振段レーザチャンバと、前記レーザチャンバを介して互いに対峙する狭帯域化モジュール及び部分透過鏡からなる発振段光共振器と、を少なくとも有し、前記発振段光共振器の間に前記偏光子とは異なる偏光子をさらに備えたことを特徴としている。
第5発明の多段増幅型レーザシステムは、第1発明において、前記発振段と前記増幅段との間のレーザ光軸上に前記偏光子とは異なる偏光子をさらに備えたことを特徴としている。
第6発明の多段増幅型レーザシステムは、レーザガスを封入する発振段チャンバを有し、前記発振段チャンバ内からレーザ光を出力する発振段と、レーザガスを封入する増幅段チャンバを有し、前段から出力されたレーザ光を前記増幅段チャンバ内で増幅して出力する一以上の増幅段と、前記増幅段チャンバに設けられたレーザ光入出力用のウィンドウにコーティングされ、レーザ光に含まれ互いに直交する二つの直線偏波状態の成分のうちの一方を高反射率で反射し、他方を高透過率で透過する偏光膜と、を備えたことを特徴としている。
第7発明の多段増幅型レーザシステムは、レーザガスを封入する発振段チャンバを有し、前記発振段チャンバ内からレーザ光を出力する発振段と、レーザガスを封入する増幅段チャンバと、前記増幅段チャンバを介して互いに対峙する部分透過鏡及び一以上の拡大プリズムと、を有し、前段のレーザから出力されたレーザ光を前記増幅段チャンバ内で増幅して出力する一以上の増幅段と、前記拡大プリズムの斜面にコーティングされ、レーザ光に含まれ互いに直交する二つの直線偏波状態の成分のうちの一方を高反射率で反射し、他方を高透過率で透過する偏光膜と、を備えたことを特徴としている。
以上の手段は、第3、第7発明を除き、増幅段に光共振器を設けていないMOPAにも適用することができる。
第1発明によれば、たとえシード光や増幅段レーザチャンバ、あるいはチャンバウィンドウ等において、s偏光成分が発生しp偏光成分の純度が低下したレーザ光となったとしても、偏光子にこのレーザ光を通すことで、s偏光成分を減少させるとともに、p偏光成分は略100%透過させることができるので、レーザ出力光のp偏光純度を高めることが可能となる。
第2発明によれば、たとえば図6に示すように、増幅段の出力側に偏光子が配置してあるので、この位置においてs偏光成分を大きく減少させることができ、レーザ出力光のp偏光純度を高くすることができる。
第3発明によれば、図6に示すように、s偏光成分を高反射させる偏光子10a、10bをAMPレーザ3のレーザ共振器5内に配置したことによって、s偏光成分が減少し、p偏光純度が高くなる。よって、フロントミラー7の右方に出射される高エネルギーのレーザ光のp偏光純度を低下させることなく出力できる。
また、ウィンドウ1a、1bの複屈折によるs偏光成分の生成量がレーザ強度に依存して変動したとしても、s偏光成分を偏光子10a、10bで大きく減少させることができるので、変動による影響が小さくなり、p偏光純度の高いレーザ光(たとえば99%以上)を安定して出力することが可能となる。
第4発明によれば、図7に示すように、レーザ共振器5の内部に、1個の偏光子10がリアミラー6とリア側のウィンドウ1aとの間に配置され、また偏光子10が、OSCレーザチャンバ31と狭帯域化モジュール32との間に設けられているので、OSCレーザ31で生成したシード光の偏光純度が高くなり、AMPレーザ3の偏光純度がさらに良くなる。
第5発明によれば、図8に示すように、OSCレーザ30とAMPレーザ3との間のレーザ光路上にも偏光子10が備えられているので、シード光の偏光純度を高めることができる。
第6発明によれば、図16に示すように、レーザチャンバ101のウィンドウ102a、102bの少なくとも1面に、s偏光成分を高反射させp偏光成分をほぼ100%透過させる膜をコーティングしてあるので、s偏光成分を高反射させ、p偏光のみ光軸上に残れるようにすることができる。すなわち、p偏光純度の高いレーザ光を出力することができる。
第7発明によれば、図17に示すように、レーザビームを、sp分離膜がコーティングされた拡大プリズム112、113を通過させることによって、レーザビームのs偏光成分を効果的に減少させることができる。また、拡大プリズムによってビーム断面積を大きくすることができるため、照射される光のエネルギー密度が下がり、ミラーの役割を持つ部分反射鏡のダメージを抑えることができる。
以下、最初に本発明の光学素子による偏光純度を高める手段の原理を説明し、その後、実施例について図を参照しながら説明する。
(ブリュースタ角と偏光)
一般に、ガスレーザ共振器内に使用されるチャンバウィンドウは、光軸に対してブリュースタ角の角度で配置されることが多い。これをブリュースタウィンドウという。ブリュースタウィンドウにすると、ウィンドウに入射する光のp偏光成分(入射面内で振動する電界成分)のウィンドウ表面におけるフレネル反射は略零になる。よって、レーザ光のp偏光成分は略100%透過する。一方、レーザ光のs偏光成分(入射面に垂直に振動する電界成分)はフレネル反射(14.86%)を受けて減衰する。
ArFレーザ(波長193.368nm)の場合、20℃においてCaF2の屈折率が1.501958となるため、ブリュースタ角度は、56.336度になる。また、F2レーザ(波長157.63 nm)の場合、20℃においてCaF2の屈折率が1.559261となるため、ブリュースタ角度は、57.318度になる。
通常、レーザ出力光は、レーザ共振器内を数〜十数回往復して増幅されたあと出力される。偏光素子としてのブリュースタウィンドウを数〜十数回通過する間に、レーザ光のs偏光成分は透過するごとにフレネル反射(14.86%)を受け急激に減衰するのに対し、レーザ光のp偏光成分はほとんど減衰されることがないので、p偏光成分はレーザ媒質内を通過することによって増幅されていく。よって、レーザ光は概ねp偏光方向の直線偏光として出力される。
また、狭帯域化レーザ装置の場合、狭帯域化モジュールでスペクトル線幅を狭帯域化するために、たとえばビームエキスパンダプリズムでビームを拡大し、波長分散素子であるグレーティングに入射させている。
ビームエキスパンダプリズムは通常数個使用されることが多い。そのため、各々のビームエキスパンダプリズムのフレネル反射による出力光減少をできるだけ防止するために、入射面には、光の入射角に対して、p偏光成分を略100%透過するためのp偏光AR(Anti-Reflection)膜がコーティングされている。このp偏光AR膜はs偏光成分の光を大きく反射させることができる。このため、狭帯域化レーザの場合、結果としてp偏光成分が高まり(通常99%程度)、狭帯域化モジュールを備えないフリーランニングのレーザと比較して出力光のp偏光純度が高くなる。
(複屈折による偏光の変化)
一般に媒体を伝播する光は、互いに直交する2つの直線偏波状態の波の線形結合であり、それぞれの位相速度と振幅の大きさで、偏光状態と偏光方向が決まる。光の複屈折性を有する物質(以下複屈折物質という)では、複屈折物質中を伝播する光の位相速度がその偏波方向に依存してずれていく。これにより、直線偏光であった光は、複屈折物質を通過することによって、互いに直交する2つの波の位相がずれ、直線偏光でなくなる(概ね楕円偏光になる)。このため、結晶内に複屈折が発生すると、透過したあとの光の偏光純度が悪くなる。
ブリュースタウィンドウを備えたレーザ装置では、略100%透過するp偏光方向の線偏光状態が増幅されていくはずであるが、一方、レーザ光の大出力化に伴うウィンドウの発熱とその結果生じる熱応力によってウィンドウでの複屈折量が増加するため、直線偏光が楕円偏光に変化し、s偏光成分が発生してしまう。
以下に図1を用いてさらに説明する。
図1は、複屈折物質で形成されたCaF2ウィンドウを通過するときの偏光の変化を説明するための図である。また、図1(a)は偏光の変化を模式化した図であり、図1(b)は偏光の変化をさらに記号化した図である。以下においては図1(a)、図1(b)の中の記号を適宜用いて説明する。
図1において、CaF2で形成されたウィンドウ1は、入射するレーザ光に対してブリュースタ角(ここでは56.336度)を有するように配置されている。ウィンドウ1に入射するレーザ光は、図の紙面に対して平行方向であって且つ入射方向に対して垂直方向に振動している完全な線偏光(p偏光)のみであり、図の紙面に対して垂直方向に振動しているs偏光成分は全く含まれていない。ウィンドウ1に入射したあと、大部分のp偏光成分はCaF2ウィンドウ1をそのまま透過していく。しかしながら、CaF2ウィンドウ1が熱応力で複屈折を発生すると、ウィンドウ1を通過中にレーザ光は位相を大きくずらされてしまい、ウィンドウ1を通過後、楕円偏光の状態で出射される。
すなわち、高純度で偏光したp偏光をウィンドウに入射させても、ウィンドウ透過後のレーザ光は楕円偏光(s偏光成分が発生する)となり、結果的にp偏光純度が低下する。またs偏光成分の発生量も、レーザ強度によって変化する(複屈折の原因となる熱応力の発生量が変化するため)ため、安定していない。
(s偏光成分の増幅過程)
実際のレーザ装置におけるウィンドウでの複屈折による影響を以下に説明する。
ここでは、インジェクションロック式の2ステージシステムのレーザ装置を使って説明する。
図2および図3は、偏光子がレーザ共振器内に無いインジェクションロック式の、AMPレーザにおける偏光状態の変化を説明するための模式図である。
図2において、レーザ光軸上であってAMPレーザチャンバ4のレーザ光入出力側にはブリュースタ角を有するウィンドウ1a、1bがそれぞれ設けられている。またAMPレーザチャンバ4の外部であってレーザ光入力側には部分反射鏡(リアミラー)6が配置され、AMPレーザチャンバ4の外部であってレーザ光出力側には部分反射鏡(フロントミラー)7が配置されている。リアミラー6は50%〜95%程度の部分反射膜を有し、フロントミラー7は10%〜50%程度の部分反射膜を有する。これらリアミラー6、フロントミラー7はAMPレーザ3におけるレーザ共振器5を形成している。
図2(a)〜(c)は、共振器内におけるレーザ光の偏光状態の初期段階における変化態様を示している。
図2(a)において、2ステージシステムのレーザ装置のAMPレーザ3内に、図には示さないOSCレーザから出力されたシード光が注入されるとする。シード光は、AMPレーザチャンバ4のブリュースタ角を有するウィンドウ1aに対して略p偏光成分のみのレーザ光である。シード光はリアミラー6を通して注入される。
略p偏光成分であるシード光は、AMPレーザチャンバ4のウィンドウ1aを透過する際に、ウィンドウ1aが有する複屈折により、一部がs偏光成分に変化する。ウィンドウ1aを透過したレーザ光は、増幅領域8を通過する。AMPチャンバ4内には、レーザ媒質となるレーザガスが充填されており、レーザガスは図示しない一対の電極による放電によって上準位に励起される。通過中のレーザ光が上準位に励起された分子に当たると、同エネルギーで同位相の光が誘導放出される。この時、上準位の分子はエネルギーを失って下準位に落ちる。この誘導放出によって、レーザ光が増幅されていく。
レーザ光が増幅領域8を通過すると、レーザ光の強度が増幅されるが、このときp偏光成分のみならず、s偏光成分のレーザ光も同様に増幅されることになる。図2(a)の増幅領域8には、増幅中あるいは増幅後のp偏光成分とs偏光成分が示されている。レーザ光がウィンドウ1bを通過すると、ブリュースタ角でのフレネル反射でs偏光の14.86%は反射損失を受け減少する。しかし、ウィンドウ1bの複屈折によって、p偏光成分の一部はs偏光成分に変化し、フロントミラー7の方向に出射される。
次に、図2(b)の段階のレーザ光の偏光の変化について説明する。
図2(b)において、レーザ共振器5の出力側にあるフロントミラー7は10〜50%の反射率の部分反射膜(PR膜)を有している。リア側からフロント側へ通過してきたレーザ光の90〜50%はフロントミラー7を通過してそのまま外部へ出力される。また、10〜50%はフロントミラー7で反射されて、フロント側からリア側へ再び伝播していく。この段階では、p偏光とs偏光がすでに混ざり合った状態になっている。この伝播においても、s偏光成分は減少することなく増加していく。
さらに、図2(c)の段階において、リアミラー6に到達したレーザ光は、リアミラー6で反射され、再度フロント側へ伝播していく。そして、p偏光、s偏光共にさらに増幅されたのち、その一部がフロントミラー7を通過して外部に出力される。
図3は、図2の各段階に対応する、横軸を時間軸としたp偏光とs偏光の強度変化を示した図である。すなわち、図2(a)は図3のイの領域に、図2(b)は図3のロの領域に、図2(c)は図3のハの領域にそれぞれ対応する。
図3によれば、共振器を1.5往復したあと、p偏光成分の強度が増加するとともに、s偏光の強度も、p偏光成分よりは小さいが、徐々に増加して行くことが分かる。すなわち、偏光子がレーザ共振器内に無い場合、フロント側から出力されるレーザ光のp偏光純度は高くならない。
図2では、説明を簡単にするため、三つの段階(1.5往復)でレーザ光が出力されるように示している。
実際に観測されるレーザパルスは、1往復、2往復、3往復と数回共振器内を往復して出力されるレーザ光の積分である。p偏光成分と共にs偏光成分も出力されるため、p偏光純度は低下する。またウィンドウを通過するときのレーザビーム強度によって、ウィンドウの熱応力が変化し、それに伴ってs偏光成分の生成割合が変化するため、p偏光純度は安定しない。
(本発明の基本原理)
図4および図5は、本発明によるレーザ装置の原理を説明するための模式図である。
図4(a)〜(c)は、AMPレーザ3に設けたレーザ共振器内に偏光子を挿入した場合におけるレーザ光の偏光状態の変化を段階ごとに示している。
図4において、AMPレーザ3のリアミラー6とリア側のウィンドウ1aの間、フロントミラー7とフロント側のウィンドウ1bの間に、s偏光成分を例えば80%以上高反射させることによって減少させ、p偏光成分は略100%透過させる偏光子10a、10bがそれぞれ設けられている。
ウィンドウ1a、1bはブリュースタ角で取り付けられているので、それ自身偏光子であるといえる。しかし、ブリュースタウィンドウにおけるs偏光反射率は14.86%でしかないので、s偏光成分の85%程度は透過してしまう。そのため、s偏光成分を抑えるのにブリュースタウィンドウだけでは不十分である。
なお、ウィンドウ1a,1bには、AMPレーザチャンバ4への取り付けによる応力とAMPレーザチャンバ4内部のガス圧力による機械的応力が同時に加わっている。この機械的応力によっても複屈折が発生する。しかし、外部に置かれた偏光子は機械的応力に起因する複屈折は発生しない利点がある。
図4(a)の段階において、p偏光方向の線偏光のシード光がAMPレーザ3にリアミラー6を通して注入されたとする。シード光はp偏光をほぼ100%透過する偏光子10aを通過後、リア側のウィンドウ1aを透過する。この時にウィンドウ1aの複屈折によってp偏光成分の一部はs偏光成分に変化する。その後、増幅領域8を通過中にp、s偏光はともに増幅される。さらにフロント側のウィンドウ1bを通過して、フロント側に置かれた偏光子10bを通過する。
s偏光成分の大部分は偏光子10bで反射されるためs偏光成分が大きく減少する。一方、p偏光成分はそのまま透過する。これにより、一度生成されたs偏光成分が減少するため、フロントミラー7に到達するレーザ光はp偏光純度が高い。
次に、図4(b)の段階において、フロントミラー7で反射されたレーザ光は、リア側へ伝播する。レーザ光がフロント側のウィンドウ1bを通過する際に、ウィンドウ1bの複屈折によってp偏光成分の一部がs偏光成分に変化する。しかし、リア側に配置された偏光子10aによって、s偏光成分は減衰する。この場合もまた、リアミラー6に到達する光はp偏光純度が高いレーザ光となる。
さらに図4(c)の段階において、リアミラー6で反射されたレーザ光は、再度、フロント側へ伝播する。このときも、ウィンドウ1a、1bでs偏光成分が生成されるが、フロント側に配置された偏光子10bによって、s偏光成分が反射され、減少する。そして、大部分p偏光方向に線偏光された光がフロントミラー7から外部へ出力される。
図5は、図4の各段階に対応する、横軸を時間軸としたp偏光とs偏光の強度変化を示した図である。すなわち、図4(a)は図5のイの領域に、図4(b)は図5のロの領域に、図4(c)は図5のハの領域にそれぞれ対応する。
図5によれば、共振器を1.5往復したあと、p偏光成分の強度が増加するが、s偏光の強度は、偏光子を通過するたびに略零まで減衰される。すなわち、偏光子がレーザ共振機内に挿入された場合、フロント側から出力される、s偏光成分に対するレーザ光のp偏光純度は極めて高くなる。
図4の場合においても、図2と同様に、三つの段階(1.5往復)で出力されるように示している。
このように、s偏光成分を高反射させる偏光子10a、10bをAMPレーザ3のレーザ共振器5内に配置することによって、s偏光成分が減少し、p偏光純度が高くなる。また、ウィンドウ1a、1bの複屈折によるs偏光成分の生成量がレーザ強度に依存して変動したとしても、s偏光成分を偏光子10a、10bで大きく減少させることができるので、変動の影響が小さくなり、高偏光純度のレーザ光を安定して出力することが可能となる。
また、s偏光成分が減少すると、レーザ媒質内の上準位の分子は、s偏光を誘導放出させることによって下準位に落ちてしまうことが抑制されるとともに、p偏光の光を誘導放出させる励起分子として使用されるので、p偏光成分の増幅量が大きくなるという利点も生まれる。
なお、偏光子を共振器内に挿入した技術が記載された文献としては、特願平1-181680号公報と特願2000-357174号公報がある。しかし、いずれの技術も2ステージレーザシステムに関するものではなく、シングルレーザに関するものである。また、これらの文献で開示された偏光子は、狭帯域化モジュール内での効率を高めるためのものである。2ステージレーザにおける複屈折はエネルギーの高いAMPレーザで多く生ずる。AMPレーザに偏光子を挿入しないと、偏光純度を高めることはできない。また、本発明が対象としている十数mJ/cm2の高エネルギー密度のレーザビームをシングルレーザでは扱うことがない。
図6は、2ステージレーザシステム(IL方式)のAMPレーザに設けたレーザ共振器内に2個の偏光子を入れた概念図である。
図6において、シード光を発生させるOSCレーザ30は、レーザガスを封入するOSCレーザチャンバ31と、OSCレーザ共振器34とで構成される。OSCレーザ共振器34は、OSCレーザチャンバ31を介して対峙する狭帯域化モジュール32と、フロントミラー33で構成される。OSCレーザチャンバ31の両端部にはブリュースタ角でもってウィンドウ36a、36bが取り付けられている。
また、シード光を増幅するAMPレーザ3は、レーザガスを封入するAMPレーザチャンバ4と、レーザ共振器5とで構成される。レーザ共振器5は、AMPレーザチャンバ4を介して対峙するリアミラー6とフロントミラー7で構成される。AMPレーザチャンバ4の両端部にはブリュースタ角でもってウィンドウ1a、1bが取り付けられている。また、レーザ共振器5の内部であって、フロントミラー6、7とウィンドウ1a、1bとの間に、2つの偏光子10a、10bがそれぞれ配置されている。
また、OSCレーザ30側とAMPレーザ3側とは、ミラー35a、35bを介した光路で光学的に結ばれている。
OSCレーザ30で生成されたシード光は、前述したように略99%の純度のp偏光成分を有するレーザ光であり、ミラー35a、35bで形成された光路を通過して、AMPレーザ3に入射される。
実施例1の場合、基本原理の説明(図4、5も参照)で述べたように、s偏光成分を高反射させる偏光子10a、10bをAMPレーザ3のレーザ共振器5内に配置したことによって、s偏光成分が減少し、p偏光純度が高くなる。よって、AMPレーザ3から出射されるレーザ光のp偏光純度を低下させることがない。
また、ウィンドウ1a、1bの複屈折によるs偏光成分の生成量がレーザ強度に依存して変動したとしても、s偏光成分を偏光子10a、10bで大きく減少させることができるので、変動の影響が小さくなり、p偏光純度の高いレーザ光(たとえば99%以上)を安定して出力することが可能となる。
配置する偏光子の位置と個数は、必要とされるp偏光純度の値によって左右される。実施例1においては、高エネルギーの光がウィンドウに入射するAMPレーザ3の共振器の内部に2個の偏光子を配置したが、場合によっては、1個だけにすることもできる。偏光子は、s偏光成分を高反射させp偏光成分をほぼ100%透過させる役割を持つ。完全にp偏光100%にするならば、ウィンドウ1a、1bの両側に偏光子を置き、その個数も複数個配置するとさらに良い。
AMPレーザ3に注入するシード光は、OSCレーザ30からの出力光である。この注入光は初めからs偏光成分をできるだけ含まない方がAMPレーザ3の効率が良い。
図7は、OSCレーザ30側にも偏光子をいれ、更にs偏光を減少させた実施例を説明するための概念図である。なお、基本的な構成は図6の場合と同じである。
図7において、レーザ共振器5の内部に、1個の偏光子10がリアミラー6とリア側のウィンドウ1との間に配置されている。また偏光子10が、OSCレーザチャンバ31と狭帯域化モジュール32との間に設けられている。こうすることによって、s偏光成分だけがレーザ光軸から分離され、OSCレーザ30で生成したシード光の偏光純度が高くなるので、AMPレーザ3の偏光純度がさらに良くなる利点がある。
そもそも、拡大プリズムは、プリズム斜面にp偏光反射防止コート(ARコート)がされている(s偏光は反射損失する)ため、偏光子の役割をする。OSCレーザ30では、狭帯域化モジュール32をレーザ共振器34内に配置しているので、それだけで、p偏光純度が高い(略99%)のであるが、更にOSC共振器34内にs偏光成分を減少させp偏光成分をほぼ100%透過させる偏光子を挿入することによって、さらに、p偏光純度を高めることが可能になる。
図8は、OSCレーザ30とAMPレーザ3のレーザ光路上に偏光子を入れた実施例を説明するための概念図である。
図8においては、実施例2の構成に加えて、さらにOSCレーザ30とAMPレーザ3との間のレーザ光路上にも偏光子10が備えられている。本実施例は、実施例2と同様な理由で、シード光の偏光純度を高める方法である。
OSCレーザ30からAMPレーザ3にシード光を伝播する光学系において、偏光純度が変化することがある。そのため、AMPレーザ3とOSCレーザ30との間にs偏光成分を高反射させp偏光成分をほぼ100%透過させる偏光子10を挿入する。偏光子10の位置は、本実施例に示すように、シード光をAMPレーザ3へ注入する直前の位置が一番効率が良いが、たとえばミラー35a、35bの間に配置してもよい。実施例2(図7参照)では、OSCレーザ30のレーザ共振器34内にも偏光子10が入っているが、OSCレーザ30とAMPレーザ3との間に偏光子を1個挿入するだけでもよい。
実施例1〜3は、いずれもインジェクションロック式であったが、MOPA方式の2ステージレーザにも本発明は適用できる。
図9は、2ステージシステムのMOPA方式レーザ装置において、PA(Power Amplifier)側に偏光子を配置した実施例を説明するための概念図である。
図9において、シード光を発生させるMO(Master Oscillator)レーザ40は、レーザガスを封入するMOレーザチャンバ41と、MOレーザチャンバ41を介して互いに対峙する狭帯域化モジュール42及びフロントミラー43を有するMOレーザ共振器44で構成されている。MOレーザチャンバ41の両端部にはブリュースタ角でもってウィンドウ45a、45bが取り付けられている。
また、シード光を増幅するPA50は、レーザガスを封入するPAチャンバ51からなっており、PAチャンバ51の両端部にはブリュースタ角でもってウィンドウ1a、1bが取り付けられている。また、PAチャンバ51の両側のレーザ光軸上には偏光子10a、10bがそれぞれ配置されている。
また、MOレーザ40側とPA50側とは、ミラー35a、35bを介した光路で光学的に結ばれている。
図9において、左方からPA50側に入射したシード光は、リア側の偏光子10aによってs偏光成分が大きく減少するので、PAチャンバ51内でp偏光成分を効率よく増幅させることができる。さらに、フロント側の偏光子10bでs偏光成分を減少させることができるので、レーザ出力光のp偏光純度を高めることができる。
なお、図9において、偏光子は10bの1個のみとしても効果がある。
2ステージレーザの増幅段の別な方式としてリング増幅器(Regenerative ring Amplifier:RRA)がある。リング増幅器方式の場合、AMPレーザチャンバのフロント側からでてきた光を、AMPレーザチャンバ内を通過させずにリア側へに迂回させ、再度リア側からAMPレーザチャンバ内にレーザ光を入れている。
図10は、OSCレーザ10とリング増幅器を有するAMPレーザ3から構成される2ステージシステムのレーザ装置に偏光子を配置した実施例を説明するための概念図である。
図10において、リング増幅器70は、AMPレーザチャンバ4と、AMPレーザ3の両側に設けられたビームスプリッタ60a、60bと、ビームスプリッタ60a、60bの下方に配置されたミラー61a、61bとで構成されている。リング増幅器70のウィンドウ1a、1bは、ビームスプリッタ60a、61bとミラー61a、61bを介した光路で光学的に結ばれている。さらに、リア側のビームスプリッタ60aとAMPレーザチャンバ4の間のレーザ光軸上には、s偏光成分を高反射させp偏光成分をほぼ100%透過させる偏光子10が配置されている。
また、リング増幅器70側とOSCレーザ30側とは、ミラー35a、35bを介した光路で光学的に結ばれている。
上記構成により、AMPレーザチャンバ4内で増幅されたレーザ光の一部はフロント側のビームスプリッタ60bで分離され、ミラー61a、61bを介した光路を迂回する。そして、迂回したレーザ光は、リア側のビームスプリッタ60aで反射され、偏光子10を透過してAMPレーザチャンバ4に再び入射する。
そのため、シード光のs偏光成分を偏光子10によって減少させてから、AMPレーザチャンバ4内に入射させることができるとともに、AMPレーザチャンバ4内で増幅したレーザ光の一部を、再び偏光子10で純化してAMPレーザチャンバ4内に再入射させ増幅させることができる。
以上のように、本実施例によれば、リング増幅器70のレーザ光軸上にs偏光成分を高反射させp偏光成分をほぼ100%透過させる偏光子を少なくとも1個配置することによって、s偏光を取り除き、p偏光純度を高めることができる。
(偏光子の種類)
以上の説明では、s偏光成分を高反射させp偏光成分をほぼ100%透過させる偏光子とだけ記載した。具体的な偏光子としては、図11〜15図に示すようなものが考えられる。
図11は、CaF2材料で形成した平面基板91の面にs偏光成分を高反射させp偏光成分をほぼ100%透過させるps分離膜92をコーティングしたものである。このps分離膜92によって、s偏光のみを反射させ、p偏光のみを透過させることができる。
ps分離膜92は、CaF2の母材上に、例えば、MgF2薄膜とLaF3薄膜を交互にコーティングして製作する。各膜厚と層数によって、反射率、透過率を制御することができる。
ところで、偏光子として使用されるCaF2母材に高強度のレーザ光が照射されると、熱応力で発生する複屈折によって、レーザの偏光が変化する。コーティング膜形成の条件として、ps分離膜によるs偏光成分の減少量が、偏光子の母材でのs偏光成分の増加量より大きいことが必要である。
そのため、偏光子として使用されるCaF2母材の厚みはできるだけ薄くするのが良い。また、CaF2の両面にps分離膜92をコーティングすると、CaF2内部で偏光が変化しても外部へ光が出射するときに、s偏光は反射されるので、出力されるのはp偏光のみとなり好ましい。また母材がCaF2の場合、結晶方位が<111>方向と平行にレーザ光が伝播すると、真性複屈折は零になり、応力複屈折も最少に抑えられる。CaF2内のビームの進行方向が偏光子の結晶方位<111>軸になるように設計するとなお良い。
他に、照射されるレーザ光のエネルギー密度を減らして、発生する熱応力を減らせば、CaF2母材での複屈折発生を抑えることができる。そのためには、偏光子へのレーザ光の入射角をできるだけ大きくし、照射するレーザ光の断面積を大きくしてCaF2面に照射されるエネルギー密度を減らす工夫をすると効果的である。なおこの場合、大きい入射角に応じたps分離膜を製作する必要がある。
図12は、Glan Thompson偏光ビームスプリッタ93といわれるものである。レーザ光がこのような形状の光学素子を通過すると、s偏光は途中で異なる方向へ反射され、進行方向がp偏光から外れる。このため、p偏光のみをレーザ光軸上に残すことができる。
図13は、2枚の偏光子94a、94bを組み合わせたタイプのものである。このような対称な配置を取ることによって、レーザ光軸がずれることなく、s偏光成分を分離して、p偏光成分のみを所定の方向に通過させることができる。
図14は、偏光ビームスプリッタの一例で、90度方向にs偏光を反射させるタイプである。偏光ビームスプリッタには90度以外の角度でs偏光を反射させるタイプがいろいろある。
図15は、Rochonプリズムの例である。このプリズムの場合は、s偏光の透過光の進行方向を入射光軸からずらすことができる。進行方向がずれたs偏光成分は先においたスリットなどで簡単に吸収できる。
以上説明した各種の偏光素子を、実施例1〜5に適宜適用することができる。
図16は、MOPOシステムにおいて、チャンバウィンドウにps分離膜をつける実施例を説明するための概念図である。
図16において、AMPレーザチャンバ101のウィンドウ102a、102bの少なくとも1面に、s偏光成分を高反射させp偏光成分をほぼ100%透過させる膜をコーティングする。これによって、s偏光成分を高反射し、p偏光のみ光軸上に残すようにすることができる。
本実施例では、ウィンドウ102a、102bのそれぞれの両面にs偏光高反射膜103がコーティングされている。ウィンドウ102a、102bの両面にps分離膜をつけると、たとえCaF2母材内で偏光が変化したとしても、母材から外部へ出射するときにs偏光は反射されるので分離効果が大きい。よって、AMPレーザチャンバ101内におけるs偏光成分の増幅が抑制されるため、p偏光純度の高いレーザ光を出力することができる。
なお前述したように、CaF2内のレーザビームの進行方向とCaF2結晶の<111>軸方向が同軸になるように配置すると、複屈折が最少に抑えられる。
またps分離膜のレーザ耐性が悪い場合は、ps分離膜にレーザ照射しているうちに、次第に膜がダメージを受ける場合がある。一般に、ダメージはレーザエネルギー密度に依存しており、エネルギー密度が高いほど膜はダメージを早く受けるようになる。このため、エネルギー密度を減少させるために、レーザ光が照射する面積を大きくしてやると良い。具体的には、ウィンドウの設置角をブリュースター角(約56度)以上に角度を大きくする。設置角が大きくなればなるほど、レーザ光があたる面積が大きくなるので、ウィンドウ上で照射されるエネルギー密度を減少させることができる。
図17は、レーザ共振器内にBEX(Beam Expander)フロントミラーを設置し、そのBEXにPS分離膜をつける実施例を説明するための概念図である。
図17において、レーザ共振器110を構成するフロントミラーとしてBEXフロントミラー111が設けてある。BEXを設ける理由は、レーザ光のエネルギー密度を減少させて、フロントミラーのダメージを減少させるためであり、あるいはレーザビーム形状(アスペクト比)を変更するためである。BEXフロントミラー111はレーザビームの幅を広げる役割を持つ。
BEXフロントミラー111は、2つの拡大プリズム112、113を図のように組み合わせて使用される。そして拡大プリズム113のレーザ光軸に垂直な面に部分反射するPR(Partial Reflection )膜114をコーティングすることによって、通常のフロントミラーと同様の役割をPR膜114に持たせている。
また、図17において、拡大プリズム112、113の斜面にps分離膜115、116がコーティングされている。レーザビームを、ps分離膜がコーティングされた拡大プリズム112、113を通過させることによって、レーザビームのs偏光成分を効果的に減少させることができる。
なお前述したように、CaF2内のレーザビームの進行方向とCaF2結晶の<111>軸方向が同軸になるように配置すると、複屈折が最少に抑えられる。またAMPレーザチャンバ117の両端部に配置されたウィンドウ118a、118bも、CaF2内のレーザビームの進行方向とCaF2結晶の<111>軸方向が同軸になるように配置すると、ウィンドウ118a、118bでの偏光の変化量が小さくなるので、これと組み合わせるとなお良い。
レーザ出力をなるべく減少させないためには、レーザ共振器長を短くするのがよい。そのため、一般にレーザチャンバのウィンドウとレーザ共振器との間のスペースはあまり無い。
図18は、狭いスペースを有するMOPOシステムにおいて偏光子を取り付ける実施例を説明するための概念図である。
図18において、レーザ共振器121を構成する高反射ミラー122とAMPレーザチャンバ120のリアウィンドウ124との間は極めて狭いため、偏光子123がリアウィンドウ124に接近した態様で取り付けられている。
このような態様で偏光子を取り付けることによって、従来のチャンバのウィンドウとレーザ共振器との間のスペースを何ら変更することなく、偏光子によるs偏光成分の減少を実現することができる。
なお、実施例6で説明したs偏光高反射膜の場合も同様な作用効果が得られるが、図10から明らかであるので説明を省く。
本実施例は、実施例8と同様、狭いスペースに偏光子を入れる工夫であり、リアミラーをプリズムに置き換えたタイプである。
図19は、MOPOシステムにおいて、AMPレーザチャンバのリア側に配置したプリズムHR(High Reflection)ミラーにps分離膜をつけた実施例を説明するための概念図である。
図19において、AMPレーザチャンバ130のリア側ウィンドウ131aに接近した位置に配置した2個のプリズム132、133を組み合わせて、プリズム132のレーザ光軸に垂直な面にHR膜134をコーティングする。このHR膜134がリアミラーの役割を果たす。なお、プリズム133のレーザ光軸に垂直な面にはAR(Anti Reflection)膜135をコーティングしておく。プリズム132、133の斜面にs偏光高反射膜136を付けると、プリズム132、133を透過することによって、s偏光が減少することになる。
MOPAシステムの場合は、PAチャンバ内の増幅領域を1パスもしくはプリズムやミラーで折り返されて2パス通過する。このときに、ウィンドウ表面に、実施例6と同様にps分離膜を付けることによって、s偏光成分を減少させることができる。
図20は、MOPAシステムのPAレーザチャンバのウィンドウにもps分離膜をつける実施例を説明するための概念図である。
図20において、PAレーザチャンバ140の両端部に配置されたリアウィンドウ141aとフロントウィンドウ141bには、図示するように、その片面にs偏光高反射膜142、143がそれぞれ形成されている。また、本実施例では、リア側に偏光子144が設けられている。
なお、ウィンドウ以外の光軸上にさらに偏光子を挿入しても良いし、なくてもよい。また、ウィンドウの両面にps分離膜をコーティングしても良い。
また前述したように、CaF2内で複屈折が発生しないようにCaF2内のレーザビームの進行方向とCaF2結晶の<111>軸方向が同軸になるように配置すると良い。また、ウィンドウにおけるエネルギー密度を減少させるために、ウィンドウの設置角をブリュースタ角以上に大きくすると、ウィンドウで発生する熱応力が減少するので、複屈折量も小さくなりなお良い。
図21は、AMPレーザを反射型のレーザ共振器構成にした場合の実施例を説明するための概念図である。
図21において、AMPレーザチャンバ150で増幅され出てきたレーザ光をs偏光高反射膜151で一回反射し、その先にある反射ミラー152aで垂直に反射させ、もとの光軸に戻す。このs偏光は、図示するチャンバウィンドウ上ではp偏光となる。このような構成の場合、s偏光高反射膜上でのp偏光は透過して光軸から外れてしまうため、完全にs偏光のみを共振させることができる。
図22はAMPレーザ3の後のレーザ光軸上に偏光子を入れた実施例の図である。
実施例1〜3、5〜9、11ではAMPレーザの共振器内に偏光子が設けられるが、本実施例ではAMPレーザの共振器外に偏光子が設けられる。偏光子161はAMPレーザ3から出力されるレーザ光の光軸上に設けられる。本実施形態を実施例1〜3、5〜9、11と組み合わせても良い。
AMPレーザチャンバのウィンドウ自体はブリュースター角で取り付けられているので、それ自身偏光子であるといえる。しかしウィンドウでのs偏光反射率は15%程度でしかないので、s偏光の85%程度は透過する。そのためs偏光成分を抑えるのにウィンドウだけでは不十分である。またAMPレーザチャンバのウィンドウには、AMPレーザチャンバへの取り付けによる応力とAMPレーザチャンバ内部のガス圧力による応力がかかる。これらの応力によっても複屈折が発生する。一方、AMPレーザチャンバの外部に設けられる図11〜15図に示すような偏光子はそれらに起因する複屈折は発生しないので、有効である。
図11で示す偏光子のp偏光選択率Sp及びs偏光選択率Ssは、s偏光の透過率をTs、p偏光の透過率をTpとすると、
Sp=Tp /(Tp+Ts)
Ss=Ts /(Tp+Ts)
で表される。Tp/Tsが大きい値であるほどp偏光が選択され透過する。すなわち高い純度のp偏光を得ることができる。
ps分離膜92としては、例えばMgF2薄膜とLaF3薄膜が交互に積層される誘電体多層膜が望ましい。誘電体多層膜によれば、各膜厚と層数によってp偏光選択率Spを制御することができる。
例えば、消光比がTp:Ts=500:1なる偏光子を用いれば、AMPレーザ3から出射される光のp偏光純度がウィンドウ1a、1bの複屈折などの発生により50%に悪化しても、99.8%以上のp偏光純度に改善できる。
偏光子の個数は、必要とされるp偏光純度の値とAMPレーザ3から出射される光のp偏光純度の最悪値および偏光子51のp偏光選択率Spによって決めるのが望ましい。
またs偏光は反射されて失われるので、一定のレーザ出力を得るためにはAMPレーザ3の出力を上昇させs偏光の損失分を補うことが必要である。また反射されたs偏光が余計な迷光とならないように吸収(ダンプ)することが望ましい。
図23はAMPレーザ3の後のレーザ光軸上にBEXプリズムを入れた実施例の図である。
本実施例は実施例12の偏光子161を偏光BEX170に置き換えたものである。偏光BEX170は一以上のプリズムを有する。図23には二つのプリズム171、172が組み合わされた形態が示されている。プリズム171、172の斜面にはSP分離膜173、174がコーティングされる。また斜面以外の光路となる面にはAR膜がコーティングされるとよい。プリズム171は、AMPレーザ3からのレーザ光が自身の斜面に入射するように配置され、プリズム172は、プリズム171からのレーザ光が自身の斜面に入射するように配置される。
以上実施例について説明してきたように、本発明によれば、特に液浸露光装置の光源として有用な2ステージレーザシステムにおいて、偏光純度を高め(たとえば99%以上)、かつ安定化させる高エネルギーのレーザビームを出力できる。
なお、上記実施例においては、2ステージシステムのレーザ装置を用いて説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、レーザ光を出力する発振段レーザと、前段のレーザから出力されたレーザ光を増幅して出力する1個以上の増幅段レーザで構成される多段増幅型レーザシステムに適用することができる。
本発明の多段増幅型レーザシステムは、半導体露光装置等に於ける、安定した大出力レーザ光源として利用することができる。
複屈折物質で形成されたCaF2ウィンドウを通過するときの偏光の変化を説明する図である。
偏光子がレーザ共振器内に無い場合を説明するための図である。
偏光子がレーザ共振器内に無い場合をさらに説明するための図である。
本発明によるレーザ装置の原理を説明するための模式図である。
本発明によるレーザ装置の原理をさらに説明するための模式図である。
2ステージレーザシステム(IL方式)のAMPレーザに設けたレーザ共振器内に2個の偏光子を入れた図である。
2ステージレーザシステム(IL方式)においてOSCレーザ31にも偏光子10をいれた実施例の図である。
OSCレーザ30とAMPレーザ3のレーザ光路上に偏光子を入れた実施例の図である。
2ステージシステムのMOPA方式レーザ装置においてPAレーザ側に偏光子を配置した実施例を説明するための図である。
OSCレーザ10とリング増幅器を用いた実施例の図である。
偏光子の一具体例を示す図である。
偏光子の一具体例を示す図である。
偏光子の一具体例を示す図である。
偏光子の一具体例を示す図である。
偏光子の一具体例を示す図である。
チャンバウィンドウにps分離膜をつける実施例の図である。
レーザ共振器内にBEX(Beam Expander)フロントミラーを設置した実施例の図である。
狭いスペースを有するMOPOシステムにおいて偏光子を取り付ける実施例の図である。
AMPレーザチャンバのリア側に配置したプリズムHRミラーにsp分離膜をつけた実施例の図である。
MOPAシステムのPAレーザチャンバのウィンドウにps分離膜をつけた実施例の図である。
AMPレーザを反射型のレーザ共振器構成にした場合の実施例の図である。
AMPレーザ3の後のレーザ光軸上に偏光子を入れた実施例の図である。
AMPレーザ3の後のレーザ光軸上にBEXプリズムを入れた実施例の図である。
符号の説明
1 CaF2材料のウィンドウ
1a、1b ウィンドウ
3 AMPレーザ
4 AMPレーザチャンバ
5 レーザ共振器
6 リアミラー
7 フロントミラー
10a、10b 偏光子
30 OSCレーザ
31 OSCレーザチャンバ
32 狭帯域化モジュール
33 フロントミラー
35a ミラー
40 MOレーザ
50 PAレーザ
70 リング増幅器
102a、102b ウィンドウ
103 s偏光高反射膜
111 ビームエキスパンダフロントミラー
114 PR膜
152 反射ミラー