JP4903742B2 - 発酵による精密化学物質の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、発酵による精密化学物質の製造方法に関する。
発明の背景
アミノ酸リシンの工業的生産は経済的に重要な工業製法となっている。リシンは、他のアミノ酸の吸収を高めることにより飼料の品質を改善する能力があるため、動物の飼料補給剤として、ヒトの医薬においては、特に、輸液の成分として、さらには医薬産業においても、商業的に用いられている。
このリシンの商業的生産は、主として、グラム陽性のCorynebacterium glutamicum、 Brevibacterium flavumおよびBrevibacterium lactofermentum を用いて実施されている(Kleemann, A.ら、“Amino Acids,” in ULLMANN'S ENCYCLOPEDIA OF INDUSTRIAL CHEMISTRY、A2巻、pp.57-97, Weinham: VCH-Verlagsgesellschaft (1985))。これらの微生物により、現在、毎年約250,000トンのリシンが生産されている。より多量のリシンを生成する突然変異菌株を単離するために、有意な量の研究がなされてきた。微生物によるアミノ酸生産方法に用いられる微生物は、次の4つのクラスに分類される:野生型株、栄養要求性突然変異体、調節突然変異体、および栄養要求性調節突然変異体(K. Nakayamaら、Nutritional Improvement of Food and Feed Proteins, M. Friedman編、(1978), pp.649-661)。コリネバクテリウムの突然変異体およびその近縁の生物は、直接発酵により、安価な炭素源(例えば、糖蜜、酢酸およびエタノール)から低コストでのアミノ酸生産を可能にする。加えて、発酵により生成されるアミノ酸の立体特異性(L異性体)により、合成製法と比較して製法が有利になる。
リシンの商業的生産の効率を高める別の方法は、ペントースリン酸経路を介したリシン生成と代謝流入との相関を調べることからなる。発酵方法によるリシン生産の経済的重要性を考慮し、明らかに、生産されるリシンの総量を増加すると同時に、生産コストを低減する目的で、リシン合成のための生化学的経路が集中的に研究されてきた。(Sahmら、(1996) Ann. N. Y. Acad. Sci. 782:25-39参照)。代謝工学を用いて、グルコース由来の炭素の流入を芳香族アミノ酸形成に向けることに成功した例がいくつかある(Flores, N.ら、(1996) Nature Biotechnol. 14:620-623)。細胞の吸収時に、ホスホホエノールピルビン酸の消費によりリン酸化(ホスホトランスフェラーゼ系)(Malin & Bourd, (1991) Journal of Applied Bacteriology 71, 517-523)した後、グルコース-6-リン酸として細胞に対し利用可能となる。スクロースは、ホスホトランスフェラーゼ系(Shioら、(1990) Agricultural and Biological Chemistry 54, 1513-1519)およびインベルターゼ反応(Yamamotoら、(1986) Journal of Fermentation Technology 64, 285-291)によりフルクトースとグルコース-6-リン酸に変換される。
グルコース異化作用中、酵素グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.14.9)とグルコース-6-リン酸イソメラーゼ(EC 5.3.1.9)は、基質グルコース-6-リン酸について競合する。酵素グルコース-6-リン酸イソメラーゼは、エムデン・マイヤーホフ・パーナス経路、もしくは解糖、すなわち、フルクトース-6-リン酸への変換の初発反応段階を触媒する。酵素グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼは、ペントースリン酸回路の酸化的部分の初発反応段階、すなわち、6-ホスホグルコノラクトンへの変換を触媒する。
ペントースリン酸回路の酸化的部分において、グルコース-6-リン酸は、リブロース-5-リン酸に変換されて、NADPHの形態で還元等価体を生成する。ペントースリン酸回路がさらに進行するにつれ、ペントースリン酸、ヘキソースリン酸およびトリオースリン酸が相互変換される。例えば、5-ホスホリボシル1-ピロリン酸のようなペントースリン酸は、例えば、ヌクレオチド生合成に必要である。5-ホスホリボシル-1-ピロリン酸はさらに、芳香族アミノ酸およびアミノ酸L-ヒスチジンの前駆体である。NADPHは、多数の同化生合成において還元等価体として作用する。このようにオキサロ酢酸からリシン1分子を生合成するのにNADPH4分子が消費される。従って、オキサロ酢酸(OAA)に向かう炭素流入は、系の摂動とは無関係に一定のままである(J. Vallinoら、 (1993) Biotechnol. Bioeng., 41, 633-646)。
発明の概要
本発明は、少なくとも部分的に、コリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)におけるペントースリン酸経路の鍵酵素コード遺伝子、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼの発見、ならびに、フルクトース1,6-ビスホスファターゼの調節解除(deregulation)、例えば、発現または活性の増加により、リシン生成が増加するという発見に基づく。さらには、フルクトース1,6-ビスホスファターゼの発現または活性を調節解除、例えば、増加することによりリシン生成中の炭素収量を高めると、リシン生成が増加することもわかっている。一実施形態では、炭素源はフルクトースまたはスクロースである。従って、本発明は、フルクトースまたはスクロースが基質である、微生物、例えば、C. glutamicumによるリシンの生成を増加するための方法を提供する。
従って、一態様では、本発明は、微生物においてペントースリン酸経路を介した代謝流入を増加するための方法であって、ペントースリン酸経路を介した代謝流入が増加するような条件下で、調節解除した遺伝子を含む微生物を培養することを含む、上記方法を提供する。一実施形態では、微生物を発酵させて、精密化学物質(fine chemical)、例えば、リシンを生成させる。別の実施形態では、フルクトースまたはスクロースを炭素源として用いる。さらに別の実施形態では、遺伝子はフルクトース1,6-ビスホスファターゼである。関連実施形態では、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子は、コリネバクテリウム、例えば、Corynebacterium glutamicumに由来する。別の実施形態では、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子を過剰発現させる。さらに別の実施形態では、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子によりコードされたタンパク質の活性を増加させる。
別の実施形態では、前記微生物はさらに、1種以上の別の調節解除された遺伝子を含む。1種以上の別の調節解除遺伝子として、限定するものではないが、ask遺伝子、dapA遺伝子、asd遺伝子、dapB遺伝子、ddh遺伝子、lysA遺伝子、lysE遺伝子、pycA遺伝子、zwf遺伝子、pepCL遺伝子、gap遺伝子、zwa1遺伝子、tkt 遺伝子、tad遺伝子、mqo遺伝子、tpi遺伝子、pgk遺伝子、およびsigC遺伝子が挙げられる。特定の実施形態では、前記遺伝子を過剰発現または過少発現させてもよい。さらに、前記調節解除遺伝子は、以下のものからなる群より選択されるタンパク質をコードすることができる:フィードバック耐性アスパルトキナーゼ、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ、リシンエクスポーター、ピルビン酸カルボキシラーゼ、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、RPFタンパク質前駆体、トランスケトラーゼ、トランスアルドラーゼ、メナキニンオキシドレダクターゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ、ならびにRNA-ポリメラーゼσ因子sigC。特定の実施形態では、前記タンパク質は増加または低減した活性を有する。
本発明の方法によれば、1種以上のさらに別の調節解除された遺伝子を含んでもよく、そのような遺伝子として、限定するものではないが、pepCK遺伝子、mal E遺伝子、glgA遺伝子、pgi遺伝子、dead遺伝子、menE遺伝子、citE遺伝子、mikE17遺伝子、poxB遺伝子、zwa2遺伝子、およびsucC遺伝子が挙げられる。特定の実施形態では、前記少なくとも1種の遺伝子の発現をアップレギュレート、減弱、低減、ダウンレギュレートもしくは抑制する。さらには、ダウンレギュレートした遺伝子は、以下のものから成る群より選択されるタンパク質をコードすることができる:ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼ、リンゴ酸酵素(malic enzyme)、グリコーゲンシンターゼ、グルコース6-リン酸イソメラーゼ、ATP依存性RNAヘリカーゼ、o-スクシニル安息香酸CoAリガーゼ、クエン酸リアーゼβ鎖、転写レギュレーター、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、RPEタンパク質前駆体、スクシニルCoAシンセターゼ。特定の実施形態では、前記タンパク質は増加または低減した活性を有する。
一実施形態では、本発明の方法で用いる微生物は、コリネバクテリウム属に属し、例えば、Corynebacterium glutamicumである。
別の態様では、本発明は、精密化学物質を生産する方法であって、フルクトース1,6-ビスホスファターゼが調節解除された微生物を発酵させ、微生物の培地またはその細胞に精密化学物質(例えば、リシン)を蓄積させることにより、精密化学物質を生産することを含む、上記方法を提供する。一実施形態では、上記方法は精密化学物質の回収を含む。別の実施形態では、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子を過剰発現させる。さらに別の実施形態では、フルクトースまたはスクロースを炭素源として用いる。
一態様では、フルクトース1,6-ビスホスファターゼは、Corynebacterium glutamicumに由来し、配列番号1のヌクレオチド配列と配列番号2のアミノ酸配列を含む。
本発明の他の特徴および利点は、以下の詳細な説明および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
発明の詳細な説明
本発明は、少なくとも部分的に、ペントースリン酸経路の必須酵素をコードする遺伝子(例えば、Corynebacterium glutamicum遺伝子)の同定に基づく。本発明は、炭素収量が増加し、特定の望ましい精密化学物質(例えば、リシン)が生成される(例えば、高収量で生成される)ように、微生物(例えば、Corynebacterium glutamicum)におけるペントースリン酸生合成経路を操作することを含む方法を特徴とする。具体的には、本発明は、調節解除(例えば、増加)したフルクトース1,6-ビスホスファターゼ発現または活性を有する微生物(例えば、Corynebacterium glutamicum)の発酵により、精密化学物質(例えば、リシン)を生産する方法を含む。一実施形態では、フルクトースまたはサッカロースを微生物の発酵における炭素源として用いる。フルクトースは、微生物から精密化学物質(例えば、リシン)を生成させるのに低効率の基質であることが確認されている。しかし、本発明は、フルクトースまたはスクロースが基質である微生物(例えば、C. glutamicum)によるリシンの生成を最適化する方法を提供する。フルクトース1,6-ビスホスファターゼ発現または活性の調節解除(例えば、増幅)により、ペントースリン酸経路を介した流入が高くなり、その結果、NADPH生成およびリシン収量が増加する。
「ペントースリン酸経路」という用語は、精密化学物質(例えば、リシン)の形成または合成に使用されるペントースリン酸酵素(例えば、生合成酵素コード遺伝子によりコードされたポリペプチド)、化合物(例えば、前駆体、基質、中間体もしくは生成物)、補因子などに関連する経路を包含する。ペントースリン酸経路は、グルコース分子を生化学的に有用な、より小さい分子に変換する。
本発明をさらに理解しやすくするために、初めに特定の用語を以下のように定義する。
用語「ペントースリン酸生合成経路」は、精密化学物質(例えば、リシン)の形成または合成に使用されるペントースリン酸生合成遺伝子、酵素(例えば、生合成酵素コード遺伝子によりコードされたポリペプチド)、化合物(例えば、前駆体、基質、中間体もしくは産物)、補因子などに関連する生合成経路を包含する。用語「ペントースリン酸生合成経路」は、微生物における精密化学物質(例えば、リシン)の(例えば、in vivoで)合成を達成する生合成経路、ならびに精密化学物質(例えば、リシン)の合成をin vitroで達成する生合成経路を含む。用語「ペントースリン酸生合成経路タンパク質」または用語「ペントースリン酸生合成経路酵素」は、ペントースリン酸生合成経路に直接または間接的に関与するペプチド、ポリペプチド、タンパク質、酵素、ならびにそれらの断片を含み、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ酵素が挙げられる。
用語「ペントースリン酸生合成経路遺伝子」は、ペントースリン酸生合成経路に直接または間接的に関与するペプチド、ポリペプチド、タンパク質、および酵素をコードする遺伝子およびその断片を含み、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子が挙げられる。
用語「アミノ酸生合成経路遺伝子」とは、アミノ酸の合成に直接関与するペプチド、ポリペプチド、タンパク質、および酵素をコードする遺伝子およびその断片を含むことを意味し、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼが挙げられる。これらの遺伝子は、宿主細胞内に天然に存在し、かつ、その宿主細胞内でアミノ酸、特にリシンの合成に関与するものと同じでもよい。
用語「リシン生合成経路遺伝子」とは、リシンの合成に直接関与するペプチド、ポリペプチド、タンパク質、および酵素をコードする遺伝子およびその断片を含み、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼが挙げられる。これらの遺伝子は、宿主細胞内に天然に存在し、かつ、その宿主細胞内でリシンの合成に関与するものと同じでもよい。あるいは、このような遺伝子の修飾または突然変異があってもよく、例えば、前記遺伝子は、コードされたタンパク質の生物学的活性に有意に影響しない修飾または突然変異を含んでいてもよい。例えば、突然変異誘発により、あるいは、1個以上のヌクレオチドを導入もしくは置換することにより、または遺伝子の非必須領域を除去することにより、天然の遺伝子を改変することができる。このような改変は標準的技術で容易に実施できる。
用語「リシン生合成経路タンパク質」とは、リシンの合成に直接関与するペプチド、ポリペプチド、タンパク質、および酵素、およびそれらの断片を含むことを意味する。これらのタンパク質は、宿主細胞内に天然に存在し、かつ、その宿主細胞内でリシンの合成に関与するものと同じでもよい。あるいは、このようなタンパク質の修飾または突然変異があってもよく、例えば、前記タンパク質は、該タンパク質の生物学的活性に有意に影響しない修飾または突然変異を含んでいてもよい。例えば、突然変異誘発により、あるいは、1個以上のアミノ酸を導入または置換することにより、好ましくは保存的アミノ酸置換により、もしくはタンパク質の非必須領域を除去することにより、天然のタンパク質を修飾することができる。このような修飾は標準的技術で容易に実施できる。あるいはまた、リシン生合成タンパク質は、特定の宿主細胞に対し異種であってもよい。このようなタンパク質は、同じ、もしくは類似した生合成の役割を有するタンパク質をコードする遺伝子を含むあらゆる生物に由来するものでよい。
用語「炭素流入(carbon flux)」とは、競合経路に対して特定の代謝経路を進行させるグルコース分子の数を意味する。特に、微生物内のNADPH増加は、その生物の解糖とペントースリン酸経路間の炭素流入分布を変化させることにより達成される。
「フルクトース1,6-ビスホスファターゼ活性」は、標準的技術によりin vivoまたはin vitroで決定されるフルクトース1,6-ビスホスファターゼタンパク質、ポリペプチドもしくは核酸分子により発揮されるあらゆる活性を包含する。フルクトース1,6-ビスホスファターゼは、多種の代謝経路に関与しており、ほとんどの生物にみいだされる。好ましくは、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ活性は、フルクトース6-リン酸へのフルクトース1,6-ビスリン酸の加水分解の触媒を含む。
用語「精密化学物質(fine chemical)」は、当分野で認識されているものであり、多様な産業、限定するものではないが、例えば、医薬産業、農業、および香粧品産業に用途を有する、生物により生成される分子を含む。このような化合物として、有機酸、例えば、酒石酸、イタコン酸、およびジアミノピメリン酸、タンパク質生成または非タンパク質生成アミノ酸、プリンおよびピリミジン塩基、ヌクレオシド、およびヌクレオチド(例えば、Kuninaka, A. (1996) Nucleotides and related compounds, p. 561-612;Biotechnology 第6巻、Rehmら編、VCH: Weinheim、およびこれに含まれる参照文献に記載されているもの)、脂質、飽和および不飽和脂肪酸(例:アラキドン酸)、ジオール(例:プロパンジオール、およびブタンジオール)、炭水化物(例:ヒアルロン酸およびトレハロース)、芳香族化合物(例:芳香族アミン、バニリン、およびインジゴ)、ビタミンおよび補因子(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, A27巻、“Vitamins”, p.443-613 (1996) VCH: Weinheim、およびこれに含まれる参照文献;ならびにOng, A.S., Niki, E. & Packer, L. (1995) “Nutrition, Lipids, Health, and Disease” Proceedings of the UNESCO/Confederation of Scientific and Technological Associations in Malaysia, and the Society for Free Radical Research - Asia, held Sept. 1-3, 1994 at Penang, Malaysia, AOCS Press, (1995)に記載されているものなど)、酵素、ポリケチド(Caneら、 (1998) Science 282: 63-68)、ならびにGutcho (1983) Chemicals by Fermentation, Noyes Data Corporation, ISBN: 0818805086、およびこれに含まれる参照文献に記載されたその他すべての化学物質。これら精密化学物質のうちいくつかの代謝および使用について以下にさらに詳しく説明する。
アミノ酸代謝および使用:
アミノ酸は、すべてのタンパク質の基本構造単位を含み、それ自体であらゆる生物において正常な細胞の機能に必須である。用語「アミノ酸」は当分野で認識されている。タンパク質生成アミノ酸は、20種あり、タンパク質の構造単位として働き、それらはペプチド結合によって結合される。これに対し非タンパク質生成アミノ酸(数百種が知られている)は、通常、タンパク質には存在しない(Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、A2巻、p.57-97 VCH: Weinheim (1985) 参照)。アミノ酸は、DまたはL光学配置のいずれでもよいが、Lアミノ酸は、一般に、天然に存在するタンパク質にしか認められないタイプである。20種のタンパク質生成アミノ酸の各々の生合成および分解経路が、原核および真核細胞の両方において十分に特性決定されている(例えば、Stryer, L. Biochemistry、第3版、第578-590頁 (1988)参照)。「必須」アミノ酸(ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、トレオニン、トリプトファン、およびバリン)は、その生合成が複雑であるために一般に栄養要求性であることから、このように称されるが、これらは、単純な生合成経路により、残る11種の「非必須」アミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、プロリン、セリン、およびチロシン)に容易に変換される。高等動物は、これらアミノ酸のいくつかを合成する能力は保持しているが、正常なタンパク質合成を起こすために必須アミノ酸を食餌から供給しなければならない。
タンパク質生合成におけるその機能のほかに、これらのアミノ酸は、それ自体で興味深い化学物質であり、その多くが、食品、飼料、化成品、香粧品、農業、および医薬産業において様々な用途を有することがわかっている。リシンは、ヒトだけではなく、単胃の動物(例えば、家禽やブタ)の栄養においても重要なアミノ酸である。グルタミン酸は、調味添加剤(モノ−ナトリウムグルタミン酸、MSG)として最も一般的に用いられており、アスパラギン酸、フェニルアラニン、グリシンおよびシステイン同様、食品産業全体で広く用いられている。グリシン、Lメチオニンおよびトリプトファンはすべて、医薬産業で用いられている。グルタミン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジン、アルギニン、プロリン、セリンおよびアラニンは、医薬品および香粧品産業の両方で用いられている。トレオニン、トリプトファン、およびD/Lメチオニンは一般的な飼料添加剤である(Leuchtenberger, W. (1996) Amino aids - technical production and use, p.466-502、Rehmら(編)Biotechnology、第6巻、第14a章、VCH: Weinheim)。加えて、これらのアミノ酸は、合成アミノ酸およびタンパク質、例えば、N-アセチルシステイン、S-カルボキシメチル-L-システイン、(S)-5-ヒドロキシトリプトファン、ならびにその他(Ulmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry、A2巻、p.57-97, VCH: Weinheim, 1985)に記載されているものの合成に前駆体として有用であることがわかっている。
これらの天然アミノ酸を生成することができる生物、例えば、細菌における天然アミノ酸の生合成は十分に特性決定されている(細菌アミノ酸生合成およびその調節については、Umbarger, H.E.(1978) Ann. Rev. Biochem. 47: 533-606を参照)。グルタミン酸は、クエン酸回路の中間体であるαケトグルタル酸の還元的アミノ化により合成される。続いて、グルタミン、プロリン、およびアルギニンが各々グルタミン酸から生成される。セリンの生合成は、3-ホスホグリセリン酸(解糖における中間体)で始まる3段階過程であり、酸化、アミノ基転移、ならびに加水分解段階の後このアミノ酸が得られる。システインとグリシンは両方ともセリンから生産され、前者はセリンとホモシステインの縮合により、また後者は、セリントランスヒドロキシメチラーゼにより触媒される反応において、テトラヒドロ葉酸への側鎖β炭素原子の転移により、それぞれ得られる。フェニルアラニンおよびチロシンは、解糖およびペントースリン酸経路前駆体のエリトロース4-リン酸およびホスホエノールピルビン酸から、9段階生合成経路で合成され、この経路は、プレフェン酸合成後の最後の2つの段階だけが異なる。トリプトファンもまた、これら2つの初期分子から生成されるが、その合成は11段階経路である。チロシンも、フェニルアラニンヒドロキシラーゼにより触媒される反応において、フェニルアラニンから合成することができる。アラニン、バリン、およびロイシンはすべて、解糖の最終生成物であるピルビン酸の生合成産物である。アスパラギン酸は、クエン酸回路の中間体であるオキサロ酢酸から形成される。アスパラギン、メチオニン、トレオニン、およびリシンは各々、アスパラギン酸の変換によって生成される。イソロイシンは、トレオニンから形成される。複雑な9段階経路により、活性化された糖である5-ホスホリボシル-1-ピロリン酸が得られる。
細胞のタンパク質合成に必要な過剰のアミノ酸は保存することができないが、その代わり、分解されて、細胞の主要代謝経路のための中間体を提供する(Stryer, L. Biochemistry 第3版、第21章、“Amino Acid Degradation and the Urea Cycle” p.495-516 (1988)を参照)。細胞は、不要なアミノ酸を有用な代謝中間体に変換することはできるが、アミノ酸生成は、エネルギー、前駆体分子、ならびにそれらを合成するのに必要な酵素のために負担が大きい。従って、アミノ酸生合成をフィードバック阻害により調節することは意外ではなく、その際、特定のアミノ酸の存在がそれ自身の生成を遅延または完全に停止させる働きをする(アミノ酸生合成経路におけるフィードバック機構の概要については、Stryer, L. Biochemistry 第3版、第24章、“Byosynthesis of Amino Acids and Heme” p.575-600 (1988)を参照)。従って、任意のアミノ酸の生産量は、細胞に存在するそのアミノ酸の量により制限される。
ビタミン、補因子、および栄養剤代謝および使用:
ビタミン、補因子、および栄養剤は、細菌のような他の生物により容易に合成されるが、高等動物は合成する能力を失ったために、摂取しなければならない別の分子群を含む。これらの分子は、それ自体が生物活性物質であるか、あるいは、様々な代謝経路の電子キャリヤーまたは中間体として働きうる生物学的に活性の物質の前駆体である。その栄養価値以外に、これらの化合物には、着色剤、抗酸化剤、および触媒もしくはその他の加工補助剤として有意な工業的価値がある(これら化合物の構造、活性、および工業用途の概要については、例えば、Ullman’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, “Vitamins” A27巻、p.443-613, VCH: Weinheim, 1996を参照)。用語「ビタミン」は、当分野では認識されており、正常に機能する上で生物が必要とするが、生物はそれ自身で合成することができない栄養素を含む。ビタミン群は、補因子および栄養剤化合物を包含し得る。用語「補因子」は、正常な酵素活性が起こるのに必要な非タンパク質性化合物を含む。このような化合物は、有機または無機のいずれでもよいが、本発明の補因子分子は有機であるのが好ましい。用語「栄養剤」は、植物および動物、特にヒトにおける健康利益を有する食餌補給剤を含む。このような分子の例として、ビタミン、抗酸化剤、および特定の脂質(例えば、多飽和脂肪酸)が挙げられる。
これら分子を生成することができる生物(例えば、細菌)での該分子の生合成はかなり特性決定されている(Ullman’s Encyclopedia of Industrial Chemistry, “Vitamins” A27巻、p.443-613, VCH: Weinheim, 1996; Michal, G. (1999) Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, John Wiley & Sons;Ong, A.S., Niki, E. & Packer, L. (1995) “Nutrition, Lipids, Health, and Disease” Proceedings of the UNESCO/Confederation of Scientific and Technological Associations in Malaysia, and the Society for Free Radical Research - Asia, held Sept. 1-3, 1994 at Penang, Malaysia, AOCS Press: Champaign, IL X, 374 S)。
チアミン(ビタミンB1)は、ピリミジンとチアゾール部分の化学的結合により生成される。リボフラビン(ビタミンB2)は、グアノシン-5’-トリリン酸(GTP)およびリボース-5’-リン酸から合成される。リボフラビンは、その後、フラビンモノヌクレオチド(FMN)およびフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)の合成に用いられる。総称的に「ビタミンB6」と呼ばれる化合物のファミリー(例:ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサ-5’-リン酸、および商業的に用いられる塩酸ピリドキシン)はすべて、一般構造単位、5-ヒドロキシ-6-メチルピリジンの誘導体である。パントテン酸(パントテン酸、(R)-(+)-N-(2,4-ジヒドロキシ -3,3-ジメチル-1-オキソブチル)-β-アラニン)は、化学的合成または発酵のいずれでも生成することができる。パントテン酸生合成の最終段階は、βアラニンとパントイン酸(pantoic acid)のATP駆動縮合からなる。パントイン酸、βアラニンへの変換、ならびに、パントテン酸への縮合の生合成段階を引き起こす酵素は周知である。パントテン酸の代謝的に活性の形態は補酵素Aであり、そのために生合成は5つの酵素段階で進行する。パントテン酸、ピリドキサール-5’-リン酸、システインおよびATPは補酵素Aの前駆体である。これらの酵素は、パントテン酸の形成だけではなく、(R)-パントイン酸、(R)-パントラクトン、(R)-パンテノール(プロビタミンB7)、パンテテイン(およびその誘導体)ならびに補酵素Aの生成も触媒する。
微生物における前駆体分子ピメロイル-CoAからのビオチン生合成は、詳細に研究されており、関与する遺伝子のいくつかが同定されている。対応するタンパク質の多くは、Feクラスター合成に関与することもわかっており、これらは、nifSクラスのタンパク質のメンバーである。リポ酸は、オクタン酸から誘導され、エネルギー代謝における補酵素として働くが、その際、リポ酸は、ピルビン酸デヒドロゲナ−ゼ複合体およびαケトグルタル酸デヒドロゲナ−ゼ複合体の一部となる。葉酸は、葉酸の全誘導体である物質群であり、これは、L-グルタミン酸、p-アミノ-安息香酸および6-メチルプテリンから誘導される。葉酸およびその誘導体の生合成は、代謝中間体グアノシン-5’-トリリン酸(GTP)、L-グルタミン酸およびp-アミノ-安息香酸が特定の微生物において詳しく研究されている。
コリノイド(コバラミン、特に、ビタミンB12など)およびポルフィリンは、テトラピロール環系を特徴とする化学物質群に属する。ビタミンB12の生合成は、極めて複雑であるために、まだ完全に特性決定されていないが、関与する酵素および基質の多くが現在知られている。
ニコチン酸(ニコチネート)およびニコチンアミドは「ニアシン」とも称されるピリジン誘導体である。ニアシンは、重要な補酵素NAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)およびNADP(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸)の前駆体、ならびにそれらの還元型である。
これら化合物のラージスケール生産は、無細胞化学合成に大きく依存しているが、これら化成品のいくつか(例えば、リボフラビン、ビタミンB6、パントテン酸、およびビオチン)は、微生物のラージスケール培養によっても生産されている。ただ、ビタミンB12だけは、その合成の複雑さのために、発酵により生産される。in vitro方法は、有意な材料投入量および時間を必要とし、往々にして非常に費用がかかる。
プリン、ピリミジン、ヌクレオシドおよびヌクレオチド代謝および使用:
プリンおよびピリミジン代謝遺伝子、ならびにそれらの対応するタンパク質は、腫瘍性疾患およびウイルス感染の治療のために重要な標的である。「プリン」または「ピリミジン」という用語は、核酸、補酵素、およびヌクレオチドの成分である含窒素塩基を包含する。用語「ヌクレオチド」は、核酸分子の基本構造単位を意味し、この単位は、含窒素塩基、ペントース糖(RNAの場合には、糖はリボースであり;DNAの場合には、糖はD-デオキシリボースである)、ならびにリン酸から構成される。用語「ヌクレオシド」は、ヌクレオチドの前駆体として働くが、ヌクレオチドにはあるリン酸部分が欠如している分子である。これら分子の生合成、または核酸分子を形成するその動態化を阻害することにより、RNAおよびDNA合成を阻害することができ;癌細胞をターゲッティングした様式でこの活性を阻害することにより、腫瘍細胞が分裂して複製する能力を阻害することができる。これ以外にも、核酸分子は形成しないが、エネルギー貯蔵所として(すなわち、AMP)、または補酵素として(すなわち、FADおよびNAD)働くヌクレオチドもある。
いくつかの刊行物には、プリンおよび/またはピリミジン代謝に影響を与えることにより、これらの薬剤を前記医学的適応に用いることが記載されている(例えば、Christopherson, R.I.およびLyons, S.D. (1990) “Potent inhibitors of de novo pyrimidine and purine biosynthesis as chemotherapeutic agents.” Med. Res. Reviews 10: 505-548)。プリンおよびピリミジン代謝に関与する酵素の研究は、例えば、免疫抑制薬または抗増殖薬として用いることができる新薬の開発に的が絞られている(Smith, J.L., (1995) “Enzymes in nucleotide synthesis.” Curr. Opin. Struct. Biol. 5: 752-757;(1995) Biochem Soc. Transact. 23: 877-902)。しかし、プリンおよびピリミジン塩基、ヌクレオシドおよびヌクレオチドは他にも次のような有用性がある:数種の精密化学物質の生合成における中間体として(例:チアミン、S-アデノシル-メチオニン、葉酸、もしくはリボフラビン)、細胞のエネルギーキャリヤーとして(例:ATPまたはGTP)、ならびに、香味増加剤として一般に用いられる精密化学物質そのもの(例:IMPまたはGMP)、もしくは数種の医薬用途(例えば、Kuninaka, A. (1996) Nucleotides and Related Compounds in Biotechnology 第6巻、Rehmら編、VCH: Weinheim, p.561-612を参照)。また、プリン、ピリミジン、ヌクレオシド、もしくはヌクレオチド代謝に関与する酵素は、作物保護のための薬剤(例えば、殺真菌剤、除草剤および殺虫剤など)開発の標的として用いられることが多くなってきている。
細菌におけるこれら化合物の代謝は特性決定されている(詳細については、例えば以下の文献を参照されたい:Zalkin, H.およびDixon, J.E. (1992) “de novo purine nucleotide biosynthesis”, in: Progress in Nucleic Acid Research and Molecular Biology, 第42巻、Academic Press: p.259-287;ならびにMichal, G. (1999) “Nucleotides and Nucleosides”, 第8章: Biochemical Pathways: An Atlas of Biochemistry and Molecular Biology, Wiley: ニューヨーク)。プリン代謝は、これまで集中的な研究の対象であった。この代謝は細胞が正常に機能するのに必須である。高等動物でプリン代謝が損なわれると、痛風のように重度の疾患を引き起こす可能性がある。プリンヌクレオチドは、中間化合物イノシン5’-リン酸(IMP)を介した一連の段階でリボース5-リン酸から合成されるが、これにより、グアノシン5’-一リン酸(GMP)またはアデノシン5’-一リン酸(AMP)の生成が起こり、これらから、ヌクレオチドとして用いられる三リン酸形態が容易に形成される。これらの化合物はエネルギー貯蔵所としても使用されるため、それらの分解により細胞における多種の生合成過程にエネルギーが提供される。ピリミジン生合成は、リボース5-リン酸からのウリジン5’-一リン酸(UMP)の形成により進行する。次に、UMPは、シチジン5’-三リン酸(CTP)に変換される。これらヌクレオチドすべてのデオキシ-形態は、ヌクレオチドの二リン酸リボース形態からヌクレオチドの二リン酸デオキシリボース形態への一段階還元反応で生成される。リン酸化の際に、これらの分子はDNA合成に参加することができる。
トレハロース代謝および使用:
トレハロースはα,α-1,1結合で結合した2つのグルコース分子からなる。これは、甘味料、乾燥または凍結食品用の添加物として食品産業で、また飲料にも一般に用いられている。しかしまた、医薬、香粧品およびバイオテクノロジー産業にも用途がある(例えば、以下の文献を参照:Nishimotoら、(1998) 米国特許第5,759,610号;Singer, M.A.およびLindquist, S. (1998) Trends Biotech. 16: 460-467;Paiva, C.L.A. およびPanek, A.D. (1996) Biotech. Ann. Rev. 2: 293-314;ならびにShiosaka, M. (1997) J. Japan 172: 97-102)。トレハロースは、多種の微生物から酵素により生成されて、自然に周囲の培地に放出されるため、そこから、当分野で周知の方法により回収することができる。
I.組換え微生物と、精密化学物質を生成するための微生物の培養方法
本発明の方法は、好ましくは本明細書に記載するようなベクターまたは遺伝子(例:野生型および/または突然変異遺伝子)を含む、および/または所望の精密化学物質の生成を達成するような様式で培養した微生物、例えば、組換え微生物を特徴とする。用語「組換え」微生物とは、それが由来する天然に存在する微生物と比較して、改変、修飾もしくは異なる遺伝子型および/または表現型を示す(例えば、遺伝的改変が微生物のコード核酸配列に影響するとき)ように、遺伝子的に改変、修飾もしくは操作(例えば、遺伝子工学操作)された微生物(例えば、細菌、酵母細胞、真菌細胞など)を含む。ここで、本発明の「組換え」微生物は、本明細書に記載する少なくとも1つの細菌遺伝子または遺伝子産物、好ましくは、生合成酵素コード遺伝子(例えば、本明細書に記載する組換えベクター内に含まれるフルクトース1,6-ビスホスファターゼ)および/または生合成酵素(例えば、組換えベクターから発現させたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ)を過剰発現するように、遺伝子工学操作により作製されたものが好ましい。当業者であれば、遺伝子産物を発現または過剰発現する微生物が、核酸配列および/または遺伝子産物をコードする遺伝子の発現または過剰発現の結果、遺伝子産物を産生または過剰産生することは理解されよう。一実施形態では、前記組換え微生物は、増加された生合成酵素(例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ)活性を有する。
本発明の特定の実施形態では、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子または酵素のほかに、少なくとも1つの遺伝子またはタンパク質を調節解除することにより、Lアミノ酸の生成を増強することができる。例えば、生合成経路、例えば、解糖、補充反応(anaplerosis)、クエン酸回路、ペントースリン酸回路、もしくはアミノ酸エクスポートの遺伝子または酵素を調節解除することができる。さらには、調節遺伝子またはタンパク質を調節解除することも可能である。
様々な実施形態において、遺伝子の発現を増加することによって、遺伝子がコードするタンパク質の細胞内活性または濃度を高め、これによって最終的に所望のアミノ酸の生成を向上させることができる。当業者は、様々な方法を用いて、所望の結果を達成することができよう。例えば、熟練した技術者であれば、遺伝子のコピー数を増やす、強力なプロモーターを使用する、および/または活性が高い対応する酵素をコードする遺伝子または対立遺伝子を使用することが考えられる。本発明の方法を用いて、例えば、特定の遺伝子の過剰発現、対応するタンパク質の活性または濃度を、出発活性または濃度に基づき、少なくとも約10%、25%、50%、75%、100%、150%、200%、300%、400%、500%、1000%もしくは2000%高めることができる。
様々な実施形態において、調節解除した遺伝子は、限定するものではないが、以下に挙げる遺伝子またはタンパク質の少なくとも1つを含んでいてもよい:
・フィードバック耐性アスパルトキナーゼをコードするask遺伝子(国際公開番号WO2004069996に開示されている);
・ジヒドロジピコリン酸シンターゼをコードするdapA遺伝子(国際公開番号WO200100843において、配列番号55および56にそれぞれ開示されている);
・アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼをコードするasd遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号3435および6935にそれぞれ開示されている);
・ジヒドロジピコリン酸レダクターゼをコードするdapB遺伝子(国際公開番号WO200100843において、配列番号35および36にそれぞれ開示されている);
・ジアミノピメリン酸デヒドデヒドロゲナーゼをコードするddh遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号3444および6944にそれぞれ開示されている);
・ジアミノピメリン酸エピメラーゼをコードするlysA遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号3451および6951にそれぞれ開示されている);
・リシンエクスポーターをコードするlysE遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号3455および6955にそれぞれ開示されている);
・ピルビン酸カルボキシラーゼをコードするpycA遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号765および4265にそれぞれ開示されている);
・グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼをコードするzwf遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号243および244にそれぞれ開示されている);
・ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼをコードするpepCL遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号3470および6970にそれぞれ開示されている);
・グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼをコードするgap遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号67および68にそれぞれ開示されている);
・RPFタンパク質前駆体をコードするzwa1遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号917および4417にそれぞれ開示されている);
・トランスケトラーゼをコードするtkt遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号247および248にそれぞれ開示されている);
・トランサルドラーゼをコードするtad遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号245および246にそれぞれ開示されている);
・メナキニンオキシドレダクターゼをコードするmqo遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号596および570にそれぞれ開示されている);
・トリオースリン酸イソメラーゼをコードするtpi遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号61および62にそれぞれ開示されている);
・3-ホスホグリセリン酸キナーゼをコードするpgk遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号69および70にそれぞれ開示されている);
・RNAポリメラーゼσ因子sigCをコードするsigC遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号284および3784にそれぞれ開示されている)。
特定の実施形態では、遺伝子を過剰発現しても、および/またはタンパク質の活性を増加してもよい。
あるいは、別の実施形態では、遺伝子の発現を減弱、低減もしくは抑制することにより、例えば、遺伝子がコードしたタンパク質の細胞内活性または濃度を低減、例えば、排除し、これによって最終的に所望のアミノ酸の生成を向上させることもできる。例えば、当業者は、弱いプロモーターを用いることもできる。これ以外にも、またはこれと組み合わせて、熟練した技術者であれば、活性の低い対応する酵素をコードするか、あるいは対応する遺伝子または酵素を不活性化する遺伝子または対立遺伝子を用いることもできる。本発明の方法を用いて、対応するタンパク質の活性または濃度を、野生型タンパク質の活性または濃度の約0〜50%、0〜25%、0〜10%、0〜9%、0〜8%、0〜7%、0〜6%、0〜5%、0〜4%、0〜3%、0〜2%、もしくは0〜1%まで低減することができる。
特定の実施形態では、調節解除した遺伝子は、限定するものではないが、以下に挙げる遺伝子またはタンパク質の少なくとも1つを含んでもよい:
ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼをコードするpepCK遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号179および180にそれぞれ開示されている);
・リンゴ酸酵素をコードするmal E遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号3328および6828にそれぞれ開示されている);
・グリコーゲンシンターゼをコードするglgA遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号1239および4739にそれぞれ開示されている);
・グルコース6-リン酸イソメラーゼをコードするpgi遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号41および42にそれぞれ開示されている);
・ATP依存性RNAヘリカーゼをコードするdead遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号1278および4778にそれぞれ開示されている);
・o-スクシニル安息香酸-CoAリガーゼをコードするmenE遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号505および4005にそれぞれ開示されている);
・クエン酸リアーゼβ鎖をコードするcitE遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号547および548にそれぞれ開示されている);
・転写レギュレーターをコードするmikE17遺伝子(欧州公開番号1108790において、配列番号411および3911にそれぞれ開示されている);
・ピルビン酸デヒドロゲナーゼをコードするpoxB遺伝子(国際公開番号WO200100844において、配列番号85および86にそれぞれ開示されている);
・RPFタンパク質前駆体をコードするzwa2遺伝子(欧州公開番号1106693に開示されている);および
・スクシニル-CoA-シンテターゼをコードするsucC遺伝子(欧州公開番号1103611に開示されている)。
特定の実施形態では、前記遺伝子の発現を減弱、低減もしくは抑制しても、および/またはタンパク質の活性を低減してもよい。
用語「操作された微生物」とは、代謝経路の破壊または変更が起こり、これによって炭素の代謝に変化が生じるように操作(例えば、遺伝子工学操作)または改変された微生物を含む。同等の野生型細胞において発現させたレベルより高いレベルで代謝的に操作した細胞で酵素を発現させるとき、酵素を「過剰発現」させるという。特定の酵素を内在的に発現しない細胞では、該細胞におけるその酵素のどんなレベルの発現も、本発明が意図する酵素の「過剰発現」とみなす。過剰発現により、遺伝子、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼによりコードされたタンパク質の活性を増加させることができる。
このような微生物の改変または操作は、本明細書に記載するあらゆる方法に従って実施可能であり、そのような方法として、限定するものではないが、生合成経路の調節解除および/または少なくとも1種の生合成酵素の過剰発現が挙げられる。「操作された」酵素(例えば、「操作された」生合成酵素)とは、酵素の少なくとも1つの上流または下流前駆体、基質もしくは産物が変更または改変されるように発現または生産が変更または改変された、例えば、対応する野生型または天然酵素と比較して、活性が増加した酵素を意味する。
用語「過剰発現した」または「過剰発現」とは、微生物の操作前に、または操作していない同等の微生物において発現させたものより高いレベルでの遺伝子産物(例えば、ペントースリン酸生合成酵素)の発現を意味する。一実施形態では、微生物を遺伝子操作(例えば、遺伝子工学操作)することによって、該微生物の操作前に、または操作していない同等の微生物で発現させたものより高いレベルの遺伝子産物を過剰発現させることができる。遺伝子操作として、限定するわけではないが、以下のものが挙げられる:特定の遺伝子の発現に関連する調節配列または部位を(例えば、強力なプロモーター、誘導プロモーターもしくは多重プロモーターの付加により、または発現が構成的になるように調節配列を除去することにより)変更または改変する;特定の遺伝子の染色体位置を改変する;リボソーム結合部位または転写ターミネーターのような特定の遺伝子に隣接する核酸配列を変更する;特定の遺伝子のコピー数を増加する;特定の遺伝子の転写および/または特定の遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例:調節タンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写アクチベーターなど)を改変する;あるいは、当業者には周知である、特定遺伝子の発現を調節解除するその他のあらゆる慣用手段(限定するわけではないが、アンチセンス核酸分子を用いて、リプレッサータンパク質の発現を阻止するなど)。
別の実施形態では、微生物を物理的または環境的に操作することにより、該微生物の操作前に、または操作していない同等の微生物で発現させたものより高いレベルの遺伝子産物を過剰発現させることができる。例えば、特定の遺伝子の転写および/または特定の遺伝子産物の翻訳を増大することがわかっている、または考えられる剤で微生物を処理するか、もしくはその存在下で培養することにより、転写および/または翻訳を増強または増大させることができる。あるいは、特定の遺伝子の転写および/または特定の遺伝子産物の翻訳を増大するように選択した温度で微生物を培養することにより、転写および/または翻訳を増強または増大させることも可能である。
用語「調節解除した」または「調節解除」とは、微生物において、生合成経路の酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子を変更または改変することにより、該微生物における生合成酵素のレベルまたは活性を変更または改変することを意味する。好ましくは、生合成経路の酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子を変更または改変することにより、遺伝子産物を増強または増大させる。用語「調節解除した経路」には、1種以上の生合成酵素のレベルまたは活性を変更または改変するように、生合成経路の酵素をコードする1以上の遺伝子を変更または改変した、生合成経路も含まれる。微生物において経路を「調節解除する」(例えば、所与の生合成経路における1以上の遺伝子を同時に調節解除する)能力は、1種以上の酵素(例えば、2または3種の生合成酵素)が、「オペロン」と呼ばれる遺伝子材料の連続した部分に互いに隣接して存在する遺伝子によりコードされた微生物の特定の現象から発生する。
用語「オペロン」とは、遺伝子発現の同調単位を意味し、この単位は、プロモーターを含み、さらにまた、1個以上、好ましくは少なくとも2個の構造遺伝子(例えば、酵素、例えば生合成酵素、をコードする遺伝子)と結合した調節エレメントを含んでいることもある。構造遺伝子の発現は、例えば、調節エレメントに結合する調節タンパク質、または抗転写終結により、同調的に調節することができる。構造遺伝子を転写することにより、構造タンパク質のすべてをコードする単一mRNAが得られる。オペロンに含まれる遺伝子の同調的調節のために、単一プロモーターおよび/または調節エレメントを変更または改変すれば、オペロンにコードされた各遺伝子産物の変更または改変を達成することができる。調節エレメントの変更または改変として、限定するわけではないが、内在的プロモーターおよび/または調節エレメントの除去;遺伝子産物の発現を改変するための、強力なプロモーター、誘導プロモーターもしくは多重プロモーターの付加、または調節配列の除去;オペロンの染色体位置の改変;オペロンに隣接する、またはオペロン内の核酸配列(例えば、リボソーム結合部位)の改変;オペロンのコピー数の増加;オペロンの転写および/またはオペロンの遺伝子産物の翻訳に関与するタンパク質(例えば、調節タンパク質、サプレッサー、エンハンサー、転写アクチベーターなど)の改変;あるいは、当分野で常用されている、遺伝子の発現を調節解除するその他のあらゆる手段(限定するものではないが、例えば、アンチセンス核酸分子を用いて、リプレッサータンパク質の発現を阻止するなど)。調節解除には、1以上の遺伝子のコード領域を改変することにより、例えば、フィードバック耐性の、もしくは比活性が高いまたは低い酵素を回収することも含まれる。
本発明の特に好ましい「組換え」微生物は、細菌由来の遺伝子または遺伝子産物を過剰発現させるように、遺伝子工学的に操作されている。用語「細菌由来の」または「〜(例えば、細菌)に由来する」とは、細菌に天然にみいだされる遺伝子、もしくは細菌の遺伝子によりコードされた(例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼによりコードされた)遺伝子産物を包含する。
本発明の方法は、1以上の遺伝子、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子を過剰発現する、もしくは増大または増強させたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ活性を有する組換え微生物を特徴とする。本発明の特に好ましい組換え微生物(例:Corynebacterium glutamicum、Corynebacterium acetoglutamicum、Corynebacterium acetoacidophilum、およびCorynebacterium thermoaminogenesなど)は、生合成酵素(例:フルクトース1,6-ビスホスファターゼ、配列番号2のアミノ酸配列、もしくは配列番号1の核酸配列にコードされたアミノ酸配列)を過剰発現するように遺伝子工学的に操作されている。
これ以外にも、本発明の好ましい組換え微生物は、ペントースリン酸経路において調節解除された酵素を有する。用語「調節解除されたペントースリン酸経路を有する微生物」とは、ペントースリン酸経路の酵素をコードする少なくとも1つの遺伝子に変更または改変を有する、あるいはペントースリン酸経路の酵素をコードする1以上の遺伝子を含むオペロンに変更または改変を有する微生物を含む。好ましい「調節解除されたペントースリン酸経路を有する微生物」は、コリネバクテリウム(例えば、C. glutamicum)生合成酵素を過剰発現するように遺伝子工学的に操作されている(例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼを過剰発現するように操作されている)。
別の好ましい実施形態では、組換え微生物は、1以上のペントースリン酸生合成酵素を過剰発現または調節解除するように、設計もしくは操作されている。
別の好ましい実施形態では、本発明の微生物は、細菌由来の遺伝子または生合成酵素を過剰発現する、もしくは該遺伝子または酵素が突然変異している。用語「細菌由来の」または「〜(例えば、細菌)に由来する」には、細菌遺伝子によりコードされた遺伝子産物(例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ)も含まれる。
一実施形態では、本発明の組換え微生物は、グラム陽性生物(例:微生物を取り囲むグラム陽性壁の存在により、基本色素、例えば、クリスタルバイオレットを保持する微生物)である。好ましい実施形態では、組換え微生物は、バチルス、ブレビバクテリウム、コリネバクテリウム、乳酸桿菌、乳酸球菌およびストレプトミセスからなる群より選択される属に属する微生物である。さらに好ましい実施形態では、組換え微生物はコリネバクテリウム属のものである。別の好ましい実施形態では、組換え微生物は、Corynebacterium glutamicum、Corynebacterium acetoglutamicum、Corynebacterium acetoacidophilumもしくはCorynebacterium thermoaminogenesからなる群より選択される。特に好ましい実施形態では、組換え微生物はCorynebacterium glutamicumである。
本発明の重要な態様は、所望の化合物(例えば、所望の精密化学物質)が生成されるように、前記組換え微生物を培養することを含む。用語「培養」とは、本発明の生きた微生物を維持するおよび/または増殖させる(例えば、培養物または菌株を維持するおよび/または増殖させる)ことを含む。一実施形態では、本発明の微生物を液体培地で培養する。別の実施形態では、本発明の微生物を固形または半固形培地で培養する。好ましい実施形態では、微生物の維持および/または増殖に必須もしくは有益な栄養素を含む培地(例えば、滅菌液体培地)で本発明の微生物を培養する。用いることができる炭素源として、以下のものが挙げられる:糖および炭水化物、例えば、グルコース、スクロース、ラクトース、フルコース、マルトース、糖蜜、デンプンおよびセルロース;油および脂肪、例えば、ダイズ油、ヒマワリ油、ピーナッツ油およびココナッツ油;脂肪酸、例えば、パルミチン酸、ステアリン酸およびリノール酸;アルコール、例えば、グリセロールおよびエタノール;有機酸、例えば、酢酸。好ましい実施形態では、フルクトースまたはサッカロースである。これらの物質は個別に用いても、混合物として用いてもよい。
用いることができる窒素源としては、以下のものが挙げられる:窒素を含む有機化合物、例えば、ペプトーン、酵母抽出物、肉抽出物、麦芽抽出物、コーンスティープリカー、ダイズ粉および尿素;もしくは無機化合物、例えば、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、硝酸アンモニウム。窒素源は個別に用いても、混合物として用いてもよい。用いることができるリン源としては、リン酸、リン酸二水素カリウムまたはリン酸水素二カリウム、もしくはナトリウム含有の対応する塩が挙げられる。培地はさらに、増殖に必要な金属塩、例えば、硫酸マグネシウムまたは硫酸鉄を含まなければならない。最後に、前記の物質に加えて、アミノ酸およびビタミンのような必須の増殖促進物質を用いてもよい。さらに、好適な前駆体を培地に添加してもよい。記載した供給物質は、単一のバッチとして培地に添加しても、培養中適当に供給してもよい。
本発明の微生物は、制御したpH下で培養するのが好ましい。用語「制御したpH」とは、所望の精密化学物質、例えば、リシンの生成をもたらすすべてのpHを意味する。一実施形態では、微生物を約7のpHで培養する。別の実施形態では、微生物を約6.0〜8.5のpHで培養する。所望のpHは、当業者には周知のどんな方法を用いて維持してもよい。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、もしくはアンモニア水のような塩基性化合物、またはリン酸もしくは硫酸のような酸性化合物を用いて、培養物のpHを適切に制御する。
また、本発明の微生物は、制御した通気下で培養するのが好ましい。用語「制御した通気」とは、所望の精密化学物質、例えば、リシンの生成をもたらすのに十分な通気(例えば、酸素)を意味する。一実施形態では、通気は、培地中の酸素レベルを調節する、例えば、培地に溶解させた酸素の量を調節することにより制御する。好ましくは、培地の通気は、培地を攪拌することにより制御する。攪拌は、プロペラまたは同様の機械的攪拌装置により、増殖用容器(例えば、発酵槽)を回転または振盪させることにより、もしくは各種のポンプ装置により実施することができる。さらに、培地(例えば、発酵混合物)に滅菌空気または酸素を通過させることにより通気を制御してもよい。また、(例えば、脂肪酸ポリグリコールエステルのような消泡剤の添加により)過剰な発泡を起こさずに、本発明の微生物を培養するのも好ましい。
さらには、本発明の微生物は、制御した温度下で培養することができる。用語「制御した温度」とは、所望の精密化学物質、例えば、リシンの生成をもたらすすべての温度を含む。一実施形態では、制御した温度は、15℃〜95℃の温度を含む。別の実施形態では、制御した温度は、15℃〜70℃の温度を含む。好ましい温度は、20℃〜55℃、さらに好ましくは30℃〜45℃または30℃〜50℃である。
微生物は、液体培地で培養する(例えば、維持および/または増殖させる)ことができ、好ましくは、連続的または断続的に、静置培養、試験管培養、振盪培養(例えば、回転振盪培養、振盪フラスコ培養など)、通気スピナ−培養、もしくは発酵のような通常の培養方法により培養する。好ましい実施形態では、振盪フラスコで微生物を培養する。さらに好ましい実施形態では、発酵槽で微生物を培養する(例えば、発酵方法)。本発明の発酵方法には、限定するものではないが、バッチ、供給バッチ、および連続発酵方法が含まれる。用語「バッチ方法」または「バッチ発酵」とは、培地、栄養素、補給添加剤などの組成が発酵の開始時に設定され、発酵中に変化しない、閉鎖系を意味するが、過剰な培地の酸性化および/または微生物の死滅を防止するためにpHや酸素濃度のような因子は制御してもよい。用語「供給バッチ方法」または「供給バッチ」発酵とは、発酵の進行に従って1種以上の基質または補給物を添加する(例えば、増量させながら、または連続的に添加)以外は、バッチ発酵と同様である。用語「連続的方法」または「連続的発酵」とは、定義した発酵培地を発酵槽に連続的に添加し、等量の使用済または「馴らし」培地を同時に除去して、好ましくは所望の精密化学物質(例えば、リシン)を回収する、系を意味する。このような方法の様々なものが開発され、当分野ではよく知られている。
用語「所望の精密化学物質、例えば、リシンを生成するような条件下で培養する」とは、所望の精密化学物質の生成を達成する、または生成しようとする特定の精密化学物質、例えば、リシンの所望の収量を達成するのに適切または十分な条件(例えば、温度、圧力、pH、時間など)下で微生物を維持するおよび/または増殖させることを意味する。例えば、所望量の精密化学物質(例えば、リシン)を生成するのに十分な時間培養を継続する。好ましくは、実質的に精密化学物質の最大生産を達成するのに十分な時間培養を継続する。一実施形態では、培養を約12〜24時間継続する。別の実施形態では、培養を約24〜36時間、36〜48時間、48〜72時間、72〜96時間、96〜120時間、120〜144時間、あるいは144時間以上継続する。別の実施形態では、精密化学物質の所定生産率を達成するのに十分な時間培養を継続し、例えば、少なくとも約15〜20g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約20〜25g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約25〜30g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約30〜35g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約35〜40g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約40〜50g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約50〜60g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約60〜70g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約70〜80g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約80〜90g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約90〜100g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約100〜110g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約110〜120g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約120〜130g/Lの精密化学物質を生成するように;少なくとも約130〜140g/Lの精密化学物質を生成するように;もしくは、少なくとも約140〜160g/Lの精密化学物質を生成するように、細胞を培養する。さらに別の実施形態では、好ましい収量、例えば、前述した範囲にある収量の精密化学物質が約24時間、約36時間、約40時間、約48時間、約72時間、約96時間、約108時間、約122時間、もしくは約144時間で生成されるような条件下で微生物を培養する。
本発明の方法は、所望の精密化学物質(例えば、リシン)を回収するステップをさらに含んでもよい。所望の精密化学物質(例えば、リシン)を「回収する」という用語は、培地から化合物を抽出、採集、単離もしくは精製することを含む。化合物の回収は、あらゆる通常の単離または精製方法に従い実施することができ、このような方法として、限定するわけではないが、以下のものが挙げられる:通常の樹脂(例:アニオンまたはカチオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂など)による処理、慣用の吸着剤(例:活性炭、ケイ酸、シリカゲル、セルロース、アルミナなど)による処理、pHの変更、溶剤抽出(例:アルコール、酢酸エチル、ヘキサンなど慣用の溶剤を用いて)、透析、ろ過、濃縮、結晶化、再結晶化、pH調節、凍結乾燥など。例えば、まず培地から微生物を除去することにより、所望の精密化学物質(例えば、リシン)を培地から回収することができる。次に、カチオン交換樹脂を介し、またはその上に培地を通過させることにより、不要なカチオンを除去した後、アニオン交換樹脂を介し、またはその上に通過させることにより、不要な無機アニオン、および目的とする精密化学物質(例えば、リシン)より強い酸性度の有機酸を除去する。
好ましくは、得られる調製物が他の成分を実質的に含まない(例えば、培地成分および/または発酵副産物を含まない)ように、本発明の所望の精密化学物質を「抽出」、「単離」もしくは「精製」する。「他の成分を実質的に含まない」という表現は、化合物が生成される培養物の培地成分または発酵副産物から該化合物を分離(例えば、精製または部分的に精製)した、所望の化合物の調製物を包含する。
一実施形態では、調製物は、約80(乾燥重量)%以上の所望の化合物(例えば、他の培地成分または発酵副産物が約20%以下)、さらに好ましくは約90%以上の所望の化合物(例えば、他の培地成分または発酵副産物が約10%以下)、さらにまた好ましくは約95%以上の所望の化合物(例えば、他の培地成分または発酵副産物が約5%以下)、最も好ましくは約98〜99%以上の所望の化合物(例えば、他の培地成分または発酵副産物が約1〜2%以下)を含む。
別の実施形態では、例えば、微生物が生物学的に無害である(例えば、安全である)場合、所望の精密化学物質(例えば、リシン)を微生物から精製しない。例えば、培養物全体(または培養上清)を生成物の供給源(例えば、粗生成物)として用いることができる。一実施形態では、培養物(または培養上清)上清を改変せずに用いる。別の実施形態では、培養物(または培養上清)を濃縮する。さらに別の実施形態では、培養物(または培養上清)を乾燥または凍結乾燥させる。
II.前駆体供給要求から独立した精密化学物質の生産方法
操作された生合成酵素または生合成酵素の組合せによっては、精密化学物質(例えば、リシン)が生産されるように、本発明の微生物に少なくとも1種のペントースリン酸経路生合成前駆体を提供(例えば、供給)するのが望ましい、または必要となることもある。用語「ペントースリン酸経路生合成前駆体」または「前駆体」とは、微生物の培地に供給、接触、もしくは含有させると、ペントースリン酸生合成を増強または増大する働きをする剤または化合物を含む。一実施形態では、ペントースリン酸生合成前駆体または前駆物質はグルコースである。別の実施形態では、ペントースリン酸生合成前駆体はフルクトースである。添加するグルコースまたはフルクトースの量は、好ましくは、微生物の生産性を増強するのに十分な培地中の濃度(例えば、精密化学物質(例:リシン)の生成を増強するのに十分な濃度)をもたらす量である。本発明のペントースリン酸生合成前駆体は、濃縮溶液または懸濁液(例えば、水またはバッファーなど好適な溶剤中)の形態、または固体の形態(例えば、粉末の形態)で添加することができる。さらには、本発明のペントースリン酸生合成前駆体は、単一のアリコートとして、所与の期間にわたり連続的または断続的に添加してもよい。
本発明のペントースリン酸生合成方法にペントースリン酸生合成前駆体を供給するのは、例えば、高収量の精密化学物質を生産するためにこの方法を用いる場合、高いコストを要する可能性がある。従って、本発明の好ましい方法は、前駆体の供給から独立した様式でリシンまたはその他の所望の精密化学物質が生成されるように、操作した少なくとも1種の生合成酵素または生合成酵素の組合せ(少なくとも1種のペントースリン酸生合成酵素)を有する微生物を特徴とする。「前駆体の供給から独立した様式」という表現は、例えば、所望の化合物を生産する方法に関していうとき、所望の化合物を生産するのに用いる微生物に提供(例えば、供給)しようとする前駆体に依存しないまたはこれを必要としない、所望の化合物の生産手法または方式を含む。例えば、本発明の方法が特徴とする微生物を用いて、前駆体グルコースまたはフルクトースの供給を必要としない様式で精密化学物質を生産することができる。
本発明の別の好ましい方法は、前駆体の供給から実質的に独立した様式でL-リシンまたはその他の所望の精密化学物質が生成されるように、操作した少なくとも1種の生合成酵素または生合成酵素の組合せを有する微生物を特徴とする。「前駆体の供給から実質的に独立した様式」という表現は、用いる微生物に提供(例えば、供給)しようとする前駆体に、より低い程度で依存またはこれを必要とする、所望の化合物の生産手法または方式を意味する。例えば、本発明の方法が特徴とする微生物を用いて、実質的に低い量の前駆体グルコースまたはフルクトースの供給を必要とする様式で精密化学物質を生産することができる。
前駆体の供給から独立した様式、あるいは、前駆体の供給から実質的に独立した様式で所望の精密化学物質を生産する好ましい方法は、少なくとも1つのペントースリン酸生合成酵素の発現を改変するように操作(例えば、設計または操作、例えば、遺伝子工学的に操作)された微生物の培養を含む。例えば、一実施形態では、少なくとも1つのペントースリン酸生合成酵素の生産を調節解除するように、微生物を操作(例えば、設計または操作)する。好ましい実施形態では、調節解除された生合成経路、例えば、調節解除されたペントースリン酸生合成酵素(本明細書で定義した通り)を有するように、微生物を操作(例えば、設計または操作)する。別の好ましい実施形態では、少なくとも1つのペントースリン酸生合成酵素、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼが過剰発現するように、微生物を操作(例えば、設計または操作)する。
III.高収量生産方法
本発明の特に好ましい実施形態は、精密化学物質、例えば、リシンを生産するための高収量生産方法であり、この方法は、リシンが有意に高い収量で生成されるような条件下で、操作された微生物を培養することを含む。「高収量生産方法」という表現、例えば、所望の精密化学物質、例えば、リシンを生産するための高収量生産方法は、同等の生産方法を用いた通常の場合より高い、またはこれを超えるレベルで、所望の精密化学物質の生産をもたらす方法を意味する。好ましくは、高収量生産方法は、有意に高い収量で所望の化合物の生産をもたらす。「有意に高い収量」という表現は、同等の生産方法を用いた通常の場合より十分に高い、またはこれを超える、例えば、所望する生成物の商業的生産(例えば、商業的に実現可能なコストでの生成物の生産)に十分なレベルまで高められた生産レベルまたは収量を意味する。一実施形態では、本発明は、リシンを生産するための高収量生産方法であって、その際、2g/L、10g/L、15g/L、20g/L、25g/L、30g/L、35g/L、40g/L、45g/L、50g/L、55g/L、60g/L、65g/L、70g/L、75g/L、80g/L、85g/L、90g/L、95g/L、100g/L、110g/L、120g/L、130g/L、140g/L、150g/L、160g/L、170g/L、180g/L、190g/L、もしくは200g/Lより高いレベルでリシンが生成されるような条件下で、操作した微生物を培養することを含む上記方法を特徴とする。
本発明はさらに、精密化学物質、例えば、リシンを生産するための高収量生産方法であって、十分に高いレベルの化合物が商業的に望ましい期間内に生成されるような条件下で、操作された微生物を培養することを含む、上記方法を特徴とする。一例としての実施形態では、本発明は、リシンを生産する高収量生産方法であって、リシンが5時間に15〜20g/L以上のレベルで生成されるような条件下で、操作された微生物を培養することを含む、上記方法を特徴とする。別の実施形態では、本発明は、リシンを生産する高収量生産方法であって、リシンが10時間に25〜40g/L以上のレベルで生成されるような条件下で、操作された微生物を培養することを含む、上記方法を特徴とする。別の実施形態では、本発明は、リシンを生産する高収量生産方法であって、リシンが20時間に50〜100g/L以上のレベルで生成されるような条件下で、操作された微生物を培養することを含む、上記方法を特徴とする。別の実施形態では、本発明は、リシンを生産する高収量生産方法であって、リシンが40時間に140〜160g/L以上のレベル、例えば、40時間に150g/L以上のレベルで生成されるような条件下で、操作された微生物を培養することを含む、上記方法を特徴とする。別の実施形態では、本発明は、リシンを生産する高収量生産方法であって、リシンが40時間に130〜160g/L以上のレベル、例えば、40時間に135、145もしくは150g/L以上のレベルで生成されるような条件下で、操作された微生物を培養することを含む、上記方法を特徴とする。ここに記載した範囲に含まれる値および範囲および/または範囲内の中間体も本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、40時間に少なくとも140、141、142、143、144、145、145、146、147、148、149および150g/Lのレベルでのリシン生成は、40時間に140〜150g/Lのレベルの範囲内に含まれるものとする。別の例では、140〜145g/Lまたは140〜150g/Lのレベルは、40時間に140〜150g/Lの範囲内に含まれるものとする。さらに、熟練した技術者は、40時間に140〜150g/Lの生成レベルを達成するための操作微生物の培養が、さらに長い時間(例えば、40時間より長い時間)微生物を培養し、その結果、随意にこれより高い収量でのリシン生産をもたらす場合も含むことは理解されよう。
IV.単離された核酸分子および遺伝子
本発明の別の態様は、本発明の方法に用いる、タンパク質(例えば、C. glutamicumタンパク質)、例えば、コリネバクテリウムペントースリン酸生合成酵素(例えば、C. glutamicumペントースリン酸酵素)をコードする単離された核酸分子を特徴とする。一実施形態では、本発明の方法で用いる単離された核酸分子は、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ核酸分子である。
用語「核酸分子」は、DNA分子(例えば、線状、環状、cDNAもしくは染色体DNA)およびRNA分子(例えば、tRNA、rRNA、mRNA)ならびにヌクレオチド類似体を用いて作製したDNAまたはRNAの類似体を包含する。核酸分子は、一本鎖または二本鎖のいずれでもよいが、好ましくは二本鎖DNAである。用語「単離された」核酸分子とは、核酸分子が由来する生物の染色体DNAにおいて、該核酸分子の両端に天然状態で隣接する配列(すなわち、核酸分子の5’および3’末端に位置する配列)を含まない核酸分子を意味する。様々な実施形態では、単離された核酸分子は、核酸分子が由来する生物の染色体DNAにおいて、該核酸分子の両端に天然状態で隣接する約10 kb、5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5 kb、0.1 kb、50 bp、25 bpもしくは10 bp以下のヌクレオチド配列を含有してもよい。さらに、cDNA分子のように「単離された」核酸分子は、組換え方法により生産される場合には、他の細胞材料を実質的に含まない、あるいは、化学的に合成される場合には化学的前駆体またはその他の化学物質を実質的に含まないものであってもよい。
本明細書で用いる用語「遺伝子」とは、核酸分子(例えば、DNA分子またはそのセグメント)、例えば、タンパク質またはRNAコード核酸分子であって、遺伝子間DNA(すなわち、生物の染色体DNAにおいて該遺伝子の両端に天然状態で隣接するおよび/または遺伝子同士を分離する介在またはスペーサー遺伝子)によって他の遺伝子から隔てられたものを含む。遺伝子は、酵素またはその他のタンパク質分子の合成を指令する(例えば、コード配列(例:タンパク質をコードする連続オープンリーディングフレーム(ORF)を含む)ものでもよいし、また、それ自体が生物において機能的であってもよい。生物における遺伝子は、本明細書で定義したオペロン内でクラスター化する可能性があり、そのオペロンは遺伝子間DNAによって他の遺伝子および/またはオペロンから隔てられている。オペロン内に含まれる個々の遺伝子は、それらの間の遺伝子間DNAなしに重複していることもある。本明細書で用いる「単離された遺伝子」とは、遺伝子が由来する生物の染色体DNAにおいて該遺伝子に天然状態で隣接する配列を実質的に含まない(すなわち、第2のまたは異なるタンパク質をコードする隣接コード配列、またはRNA分子、隣接構造配列などを含まない)、ならびに、随意に5’および3’調節配列、例えばプロモーター配列および/またはターミネーター配列、を含む遺伝子を包含する。一実施形態では、単離された遺伝子は、主としてタンパク質のコード配列(例えば、コリネバクテリウムタンパク質をコードする配列)を含む。別の実施形態では、単離された遺伝子は、タンパク質(例えば、コリネバクテリウムタンパク質)のコード配列、ならびに該遺伝子が由来する生物の染色体DNA由来の隣接5’および/または3’調節配列(例えば、5’および/または3’ コリネバクテリウム調節配列)を含む。好ましくは、単離された遺伝子は、該遺伝子が由来する生物の染色体DNAにおいて、該遺伝子に天然状態で隣接する約10 kb、5kb、2kb、1kb、0.5 kb、0.2 kb、0.1 kb、50 bp、25 bpもしくは10 bp以下のヌクレオチド配列を含有する。
一態様では、本発明の方法は、単離されたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ核酸配列または遺伝子の使用を特徴とする。
好ましい実施形態では、核酸配列または遺伝子は、バチルスに由来する(例えば、コリネバクテリウム由来である)。用語「コリネバクテリウムに由来する」または「コリネバクテリウム由来の」とは、コリネバクテリウム属の微生物に天然にみいだされる核酸または遺伝子を包含する。好ましくは、この核酸または遺伝子は、Corynebacterium glutamicum、Corynebacterium acetoglutamicum、Corynebacterium acetoacidophilumもしくはCorynebacterium thermoaminogenesからなる群より選択される微生物に由来する。特に好ましい実施形態では、核酸または遺伝子はCorynebacterium glutamicumに由来する(例えば、Corynebacterium glutamicum由来のものである)。さらに別の実施形態では、核酸または遺伝子は、コリネバクテリウム遺伝子相同体(例えば、コリネバクテリウムとは異なるが、本発明のコリネバクテリウム遺伝子、例えばコリネバクテリウムフルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子、に対し有意な相同性を有する種に由来するもの)である。
細菌由来の核酸分子または遺伝子および/またはコリネバクテリウム由来の核酸分子または遺伝子(例えば、コリネバクテリウム由来の核酸分子または遺伝子)、例えば、本発明者らが同定した遺伝子(例:コリネバクテリウムまたはC. glutamicumフルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子も本発明の範囲に含まれる。さらに、天然に存在する細菌および/またはコリネバクテリウム核酸分子または遺伝子(例えば、C. glutamicum核酸分子または遺伝子)とは異なる、細菌由来の核酸分子または遺伝子および/またはコリネバクテリウム由来の核酸分子または遺伝子(例えば、C. glutamicum由来の核酸分子または遺伝子)(例:C. glutamicum核酸分子または遺伝子)、例えば、置換、挿入もしくは欠失されているが、本発明の天然に存在する遺伝子産物と実質的に類似したタンパク質をコードする核酸を有する核酸分子または遺伝子も本発明の範囲に含まれる。一実施形態では、単離された核酸分子は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含む、もしくは配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードする。
別の実施形態では、本発明の単離された核酸分子は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列と、少なくとも約60〜65%、好ましくは約70〜75%、さらに好ましくは約80〜85%、さらにまた好ましくは約90〜95%以上同一であるヌクレオチド配列を含む。別の実施形態では、単離された核酸分子は、ストリンジェントな条件下で、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子とハイブリダイズする。このようなストリンジェントな条件は、当業者には周知であり、Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, N.Y. (1989), 6.3.1-6.3.6にみいだすことができる。ストリンジェントな(例えば、高ストリンジェンシー)ハイブリダイゼーション条件の好ましい非制限的例として、約45℃の6X 塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)におけるハイブリダイゼーション後、50〜65℃の0.2 X SSC、0.1%SDSで1回以上洗浄するものが挙げられる。好ましくは、ストリンジェントな条件下で配列番号1に記載の配列とハイブリダイズする本発明の単離された核酸分子は、天然に存在する核酸分子に対応する。本明細書で用いる「天然に存在する」核酸分子とは、天然に存在するヌクレオチド配列を有するRNAまたはDNAを意味する。
本発明の核酸分子(例えば、配列番号1のヌクレオチド配列を有する核酸分子)は、標準的分子生物学的方法および本明細書に記載する配列情報を用いて、単離することができる。例えば、核酸分子は、標準的ハイブリダイゼーションおよびクローニング方法(例えば、以下の文献に記載されている通り:Sambrook, J., Fritsh, E. F.およびManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)を用いて単離する;あるいは、配列番号1の配列に基づき設計した合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応により単離することができる。標準的PCR増幅方法に従い、鋳型および適切なオリゴヌクレオチドプライマーとして、cDNA、mRNA、あるいはゲノムDNAを用いて、本発明の核酸を増幅することができる。別の好ましい実施形態では、本発明の単離された核酸分子は、配列番号1に示すヌクレオチド配列の相補鎖である核酸分子を含む。
別の実施形態では、単離された核酸分子は、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子、もしくはその部分または断片である、あるいはそれを含む。一実施形態では、単離されたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ核酸分子または遺伝子は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を含む(例えば、C. glutamicumフルクトース1,6-ビスホスファターゼヌクレオチド配列を含む)。別の実施形態では、単離されたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ核酸分子または遺伝子は、配列番号2に記載のアミノ酸配列をコードする(例えば、C. glutamicumフルクトース1,6-ビスホスファターゼアミノ酸配列をコードする)ヌクレオチド配列を含む。さらに別の実施形態では、単離されたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ核酸分子または遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列を有するフルクトース1,6-ビスホスファターゼタンパク質の相同体をコードする。本明細書で用いる用語「相同体」とは、本明細書に記載する野生型タンパク質またはポリペプチドのアミノ酸配列に対し少なくとも約30〜35%、好ましくは少なくとも約35〜40%、さらに好ましくは少なくとも約40〜50%、さらにまた好ましくは少なくとも約60%、70%、80%、90%あるいはしれ以上の同一性を有し、かつ、野生型タンパク質またはポリペプチドと実質的に同等の機能または生物学的活性を有するタンパク質またはポリペプチドを意味する。例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ相同体は、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質に対し少なくとも約30〜35%、好ましくは少なくとも約35〜40%、さらに好ましくは少なくとも約40〜50%、さらにまた好ましくは少なくとも約60%、70%、80%、90%あるいはそれ以上の同一性を有し、かつ、配列番号2に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質と実質的に同等の機能または生物学的活性を有する(すなわち、機能的同等物である)(例えば、実質的に同等のパントテン酸キナーゼ活性を有する)。好ましい実施形態では、単離されたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ核酸分子または遺伝子は、配列番号2に記載のポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。別の実施形態では、単離されたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ核酸分子は、配列番号1に記載のヌクレオチド配列を有する核酸分子の全部または一部とハイブリダイズする、あるいは、配列番号2のアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を有する核酸分子の全部または一部とハイブリダイズする。このようなハイブリダイゼーション条件は、当業者には周知であり、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubelら編、John Wiley & Sons, Inc. (1995), 第2、4および6節にみいだすことができる。そのほかのストリンジェント条件は、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Sambrookら、Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, NY (1989), 第7、9および11章にみいだすことができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい非制限的例として、約65〜70℃の4X 塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)におけるハイブリダイゼーション(または約42〜50℃での4 X SSCと50%ホルムアミドにおけるハイブリダイゼーション)後、約65〜70℃の1 X SSCで1回以上洗浄するものがある。高度にストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい非制限的例としては、約65〜70℃の1X SSCにおけるハイブリダイゼーション(または約42〜50℃での1X SSCと50%ホルムアミドにおけるハイブリダイゼーション)後、約65〜70℃の0.3 X SSCで1回以上洗浄するものが挙げられる。また、低ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件の好ましい非制限的例としては、約50〜60℃の4X SSCにおけるハイブリダイゼーション(あるいは、約40〜45℃での6X SSCと50%ホルムアミドにおけるハイブリダイゼーション)後、約50〜60℃の2X SSCで1回以上洗浄するものが挙げられる。前記値までの範囲の中間(例えば、65〜70℃または42〜50℃)も本発明に包含されるものとする。ハイブリダイゼーションおよび洗浄バッファーに、SSC(1X SSCは、0.15 M NaClと15 mMクエン酸ナトリウムである)に代わりSSPE(1X SSPEは、0.15 M NaCl、10 mM NaH2PO4および1.25 mM EDTA、pH 7.4)を用いることもでき;ハイブリダイゼーションの完了後15分づつ洗浄を実施する。長さが50塩基対以下と予想されるハイブリッドのハイブリダイゼーション温度は、ハイブリッドの融解温度(Tm)より5〜10℃低くすべきである。その際、Tmは以下の式に従って決定する。長さが18塩基対以下のハイブリッドの場合、Tm(℃) = 2(A + T 塩基の数) + 4(G + C 塩基の数)。また、長さが18〜49塩基対のハイブリッドの場合には、Tm(℃) = 81.5 + 16.6(log10[Na+]) + 0.41(%G+C) - (600/N)であり、式中、Nは、ハイブリッドの塩基数であり、[Na+]は、ハイブリダイゼーションバッファー中のナトリウムイオンの濃度である(1X SSCの[Na+] = 0.165 M)。また、熟練した技術者であれば、別の試薬をハイブリダイゼーションおよび/または洗浄バッファーに添加して、核酸分子と膜、例えば、ニトロセルロースまたはナイロン膜との非特異的ハイブリダイゼーションを低減できることも認識されよう。このような試薬として、限定するものではないが、ブロッキング剤(例えば、BSAもしくはサケまたはニシン精子担体DNA)、界面活性剤(例えば、SDS)、キレート剤(例えば、EDTA)、フィコール、PVPなどが挙げられる。ナイロン膜を用いる場合には、特に、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の別の好ましい非制限的例は、約65℃の0.25〜0.5 M NaH2PO4、7%SDSでのハイブリダイゼーション後、65℃の0.02 M NaH2PO4、1%SDSで1回以上洗浄するもの(例えば、Church and Gilbert (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:1991-1995(あるいは、0.2X SSC、1%SDS)である。別の好ましい実施形態では、単離した核酸分子は、本明細書に記載したフルクトース1,6-ビスホスファターゼヌクレオチド配列と相補的なヌクレオチド配列を含む(例えば、配列番号1に記載のヌクレオチド配列の完全な相補鎖である)。
本発明の核酸分子(例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ核酸分子または遺伝子)は、標準的な分子生物学的方法および本明細書に記載した配列情報を用いて単離することができる。例えば、標準的ハイブリダイゼーションおよびクローニング方法(例えば、以下の文献に記載されている通り:Sambrook, J., Fritsh, E. F.およびManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989)を用いて単離する;もしくは、本明細書に記載のフルクトース1,6-ビスホスファターゼヌクレオチド配列またはその両端に隣接する配列に基づき設計した合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応により単離することができる。標準的PCR増幅方法に従い、鋳型および適切なオリゴヌクレオチドプライマーとして、cDNA、mRNA、あるいは染色体DNAを用いて、本発明の核酸(例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ核酸分子または遺伝子)を増幅することができる。
本発明のさらに別の実施形態は、突然変異フルクトース1,6-ビスホスファターゼ核酸分子または遺伝子を特徴とする。本明細書で用いる「突然変異核酸分子」または「突然変異遺伝子」という表現は、該突然変異体がコードすることができるポリペプチドまたはタンパク質が、野生型核酸分子または遺伝子によりコードされたポリペプチドまたはタンパク質とは異なる活性を示すように、少なくとも1つの改変(例えば、置換、挿入、欠失)を含むヌクレオチド配列を有する核酸分子または遺伝子を意味する。好ましくは、突然変異核酸分子または突然変異遺伝子(例えば、突然変異フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子)は、例えば、同様の条件下でアッセイする(例えば、同じ温度で培養した微生物においてアッセイする)とき、野生型核酸分子または遺伝子によりコードされたポリペプチドまたはタンパク質と比較して、増加された活性を有する(例えば、増加されたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ活性を有する)ポリペプチドまたはタンパク質をコードする。突然変異遺伝子はまた、野生型ポリペプチドの生産レベルが増加したものであってもよい。
本明細書で用いる「増加または増加された活性」もしくは「増加または増加された酵素活性」とは、野生型核酸分子または遺伝子によりコードされたポリペプチドまたはタンパク質の活性よりも、少なくとも5%、好ましくは少なくとも5〜10%、さらに好ましくは少なくとも10〜25%、さらにより好ましくは少なくとも25〜50%、50〜75%もしくは75〜100%高い活性を意味する。以上記載した値までの範囲の中間、例えば、75〜85%、85〜90%、90〜95%も本発明に含まれるものとする。活性は、目的とする特定のタンパク質の活性を測定するための十分容認されたアッセイのいずれでも決定することができる。活性は、例えば、細胞から単離または精製されたタンパク質の活性を測定することにより、直接測定またはアッセイすることができる。あるいは、細胞、または細胞外培地内で活性を測定またはアッセイしてもよい。
熟練した技術者には、核酸分子または遺伝子配列におけるただ1つの置換(例えば、対応するアミノ酸配列でのアミノ酸改変をコードする塩基置換)でも、対応する野生型ポリペプチドまたはタンパク質と比較して、コードされたポリペプチドまたはタンパク質の活性に著しく影響を及ぼしうることは理解されよう。本明細書に定義する(例えば、突然変異ポリペプチドまたはタンパク質をコードする)突然変異核酸または突然変異遺伝子と、上記のタンパク質相同体をコードする核酸または遺伝子とは、突然変異核酸または突然変異遺伝子が、野生型遺伝子または核酸を発現する、あるいは該突然変異タンパク質またはポリペプチドを産生する対応微生物と比較して、該突然変異遺伝子または突然変異核酸を発現する、あるいは突然変異タンパク質またはポリペプチドを産生する微生物(すなわち、突然変異微生物)において、(場合により、異なるまたは別の表現型として観察可能な)改変された活性を有するタンパク質またはポリペプチドをコードする点で容易に識別可能である。対照的に、タンパク質相同体は、野生型遺伝子または核酸を発現する対応微生物と比較して、微生物において生成させる場合、(場合により、表現型が識別不可能な)同一または実質的に類似した活性を有する。従って、相同体と突然変異体を識別するのに役立つのは、例えば、核酸分子、遺伝子、タンパク質もしくはポリペプチド間の配列同一性の程度ではなく、むしろ、相同体と突然変異体を区別するのはコードされたタンパク質またはポリペプチドの活性である。すなわち、相同体は、例えば、配列同一性は低い(例えば、30〜50%の配列同一性)が、実質的に同等の機能的活性を有するのに対し、突然変異体は、例えば、99%の配列同一性であるが、著しく異なる、または改変された機能活性を有する。
V.組換え核酸分子およびベクター
本発明はさらに、本明細書に記載の核酸分子および/または遺伝子(例えば、単離された核酸分子および/または遺伝子)、好ましくはコリネバクテリウム遺伝子、さらに好ましくはCorynebacterium glutamicum遺伝子、さらにまた好ましくはCorynebacterium glutamicumフルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子を含む組換え核酸分子(例えば、組換えDNA分子)を特徴とする。
本発明はさらに、本明細書に記載の核酸分子(例えば、単離されたまたは組換え核酸分子および/または遺伝子)を含むベクター(例えば、組換えベクター)を特徴とする。特に、組換えベクターは、本明細書に記載する細菌遺伝子産物、好ましくはコリネバクテリウム遺伝子産物、さらに好ましくはCorynebacterium glutamicum遺伝子産物(例えば、ペントースリン酸酵素、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ)をコードする核酸分子を含むことを特徴とする。
用語「組換え核酸分子」とは、組換え核酸分子が由来するネイティブまたは天然核酸分子とは、ヌクレオチド配列が異なるように、(例えば、1以上のヌクレオチドの付加、欠失もしくは置換により)変更、改変、もしくは操作された核酸分子(例えば、DNA分子)を包含する。好ましくは、組換え核酸分子(例えば、組換えRNA分子)は、調節配列に機能的に連結した本発明の単離された核酸分子または遺伝子(例えば、単離されたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子)を含む。
「組換えベクター」とは、組換えベクターが由来するネイティブまたは天然核酸分子に含まれるものと比較して、多い、少ないもしくは異なる核酸配列を含むように、変更、改変、もしくは操作されたベクター(例えば、プラスミド、ファージ、ファスミド、ウイルス、コスミドもしくはその他の精製された核酸ベクター)を包含する。好ましくは、組換えベクターは、調節配列(例えば、プロモーター配列、ターミネーター配列および/または人工リボソーム結合部位(RBS))に機能的に連結した、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子、またはこのようなフルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子を含む組換え核酸分子を包含する。
「調節配列に機能的に連結した」という表現は、(例えば、組換え核酸分子が、本明細書で定義する組換えベクターに含まれ、微生物に導入される場合、)ヌクレオチド配列の発現(例えば、増加された、増大した、構成的な、基礎的な、減弱された、低減された、もしくは抑制された発現)、好ましくはヌクレオチド配列によりコードされた遺伝子産物の発現を可能にするように、目的とする核酸分子または遺伝子のヌクレオチド配列が調節配列に連結していることを意味する。
用語「調節配列」とは、他の核酸配列の発現に影響を与える(例えば、モジュレートまたは調節する)核酸分子を包含する。一実施形態では、調節配列は、調節配列に観察されるような特定の目的の遺伝子、ならびに、天然に、例えば、天然の位置および/または配向で出現する通りの目的の遺伝子に対して、類似または同一位置および/または配向の組換え核酸分子または組換えベクターに含まれる。例えば、天然の生物における目的の遺伝子に伴う、もしくは該遺伝子に隣接する調節配列と機能的に連結した(例えば、「ネイティブな」調節配列、例えば、「ネイティブな」プロモーターに機能的に連結した)組換え核酸分子または組換えベクターに目的の遺伝子を含有させることができる。あるいは、天然の生物における別の(例えば、異なる)遺伝子に伴う、もしくは該遺伝子に隣接する調節配列と機能的に連結した組換え核酸分子または組換えベクターに目的の遺伝子を含有させることもできる。あるいはまた、別の生物由来の調節配列と機能的に連結した組換え核酸分子または組換えベクターに目的の遺伝子を含有させることもできる。例えば、他の微生物由来の調節配列(例えば、他の調節配列、バクテリオファージ調節配列など)を特定の目的の遺伝子と機能的に連結させることができる。
一実施形態では、調節配列は、非ネイティブまたは非天然配列(例えば、改変、突然変異、置換、誘導体化、欠失された配列で、化学的に合成された配列も含む)である。好ましい調節配列としては、プロモーター、エンハンサー、終結シグナル、抗終結シグナル、およびその他の発現制御エレメント(例:レプレッサーまたはインデューサーが結合する配列および/または例えば、転写されたmRNA内の転写および/または翻訳調節タンパク質の結合部位)が挙げられる。このような調節配列は、例えば、Sambrook, J., Fritsh, E. F.およびManiatis, T. Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 第2版、Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY, 1989に記載されている。調節配列は、以下のものを含む:微生物においてヌクレオチド配列の構成的発現を指令するもの(例:構成的プロモーターおよび強力な構成的プロモーター);微生物においてヌクレオチド配列の誘導的発現を指令するもの(例:誘導性プロモーター、例えば、キシロース誘導性プロモーター);ならびに微生物においてヌクレオチド配列の発現を減弱または抑制するもの(例:減衰シグナルまたはレプレッサー配列)。また、調節配列を除去または欠失させることにより目的の遺伝子の発現を調節することも本発明の範囲に含まれる。例えば、目的の遺伝子の発現を増加するように、転写の負の調節に関与する配列を除去することができる。
一実施形態では、本発明の組換え核酸分子または組換えベクターは、プロモーターまたはプロモーター配列に機能的に連結した少なくとも1つの細菌遺伝子産物(例:ペントースリン酸生合成酵素、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ)をコードする核酸配列または遺伝子を含む。本発明の好ましいプロモーターとして、コリネバクテリウムプロモーターおよび/またはバクテリオファージプロモーター(例えば、コリネバクテリウムに感染するバクテリオファージ)が挙げられる。一実施形態では、プロモーターはコリネバクテリウムプロモーター、好ましくは強力なコリネバクテリウムプロモーター(例えば、コリネバクテリウムの生合成ハウスキーピング遺伝子と結合したプロモーター、もしくはコリネバクテリウムの解糖経路遺伝子と結合したプロモーター)である。別の実施形態では、プロモーターは、バクテリオファージプロモーターである。
別の実施形態では、本発明の組換え核酸分子または組換えベクターは、1または複数のターミネーター配列(例えば、転写ターミネーター配列)を包含する。用語「ターミネーター配列」は、遺伝子の転写を終結する働きをする調節配列を包含する。ターミネーター配列(またはタンデム転写ターミネーター)は、さらに、例えば、ヌクレアーゼに対してmRNAを(例えば、mRNAに構造を付加することにより)安定化させる役割を果たすこともできる。
さらに別の実施形態では、本発明の組換え核酸分子または組換えベクターは、前記配列を含むベクターの検出を可能にする配列(すなわち、検出可能なおよび/または選択マーカー)、例えば、栄養要求性突然変異を克服する配列、例えば、ura3またはilvE、蛍光マーカー、および/または比色分析マーカー(例えば、LacZ/βガラクトシダーゼ)、および/または抗生物質耐性遺伝子(例えば、ampまたはtet)を包含する。
また別の実施形態では、本発明の組換えベクターは抗生物質耐性遺伝子を含む。用語「抗生物質耐性遺伝子」とは、宿主生物(例えば、バチルス)での抗生物質に対する耐性を促進させる、またはこれを付与する配列である。一実施形態では、抗生物質耐性遺伝子は、cat(クロラムフェニコール耐性)遺伝子、tet(テトラサイクリン耐性)遺伝子、erm(エリトロマイシン耐性)遺伝子、neo(ネオマイシン耐性)遺伝子およびspec(スペクチノマイシン耐性)遺伝子から成る群より選択される。本発明の組換えベクターは、さらに、相同組換え配列(例えば、宿主生物の染色体への目的の遺伝子の組換えを達成するように設計された配列)を含んでもよい。例えば、amyE配列は、宿主生物の染色体への組換えのための相同性標的として用いることができる。
さらに、当業者には、ベクターの設計が、遺伝子組換え操作により作製しようとする微生物の選択、所望の遺伝子産物の発現レベルなどの因子に応じて調整できることは理解されよう。
VI.単離されたタンパク質
本発明の別の形態は、単離されたタンパク質(例:ペントースリン酸生合成酵素、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ)を特徴とする。一実施形態では、タンパク質(例:単離されたペントースリン酸生合成酵素、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ)は、組換えDNA技術により生産され、標準的タンパク質精製方法を用いた適切な精製スキームにより本発明の微生物から単離することができる。別の実施形態では、標準的ペプチド合成技術を用いて、化学的にタンパク質を合成する。
「単離された」または「精製された」タンパク質(例えば、単離された、または精製された生合成酵素)は、該タンパク質が由来する微生物の細胞材料またはその他の汚染タンパク質を実質的に含まない、あるいは化学的に合成された場合には、化学的前駆体またはその他の化学物質を実質的に含まない。一実施形態では、単離または精製されたタンパク質は、約30(乾燥重量)%以下の汚染タンパク質または化学物質、さらに好ましくは約20%以下の汚染タンパク質または化学物質、さらまたに好ましくは約10%以下の汚染タンパク質または化学物質、最も好ましくは約5%以下の汚染タンパク質または化学物質を有する。
好ましい実施形態では、タンパク質または遺伝子は、コリネバクテリウムに由来する(例えば、コリネバクテリウム由来である)。用語「コリネバクテリウムに由来する」または「コリネバクテリウム由来」とは、コリネバクテリウム遺伝子によりコードされたタンパク質または遺伝子産物を包含する。好ましくは、この遺伝子産物は、Corynebacterium glutamicum、Corynebacterium acetoglutamicum、Corynebacterium acetoacidophilumもしくはCorynebacterium thermoaminogenesからなる群より選択される微生物に由来する。特に好ましい実施形態では、タンパク質または遺伝子産物は、Corynebacterium glutamicumに由来する(例えば、Corynebacterium glutamicum由来である)。用語「Corynebacterium glutamicumに由来する」または「Corynebacterium glutamicium由来」とは、Corynebacterium glutamicum遺伝子によってコードされるタンパク質または遺伝子産物を意味する。さらに別の好ましい実施形態では、タンパク質または遺伝子産物は、コリネバクテリウム遺伝子相同体(例えば、コリネバクテリウムとは異なる種に由来するが、本発明のコリネバクテリウム遺伝子に対して有意に相同性を有する遺伝子、例えば、コリネバクテリウムフルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子)によってコードされている。
天然に存在する細菌および/またはコリネバクテリウム遺伝子(例えば、C. glutamicum遺伝子)、例えば、本発明者らにより同定された遺伝子(例:コリネバクテリウムまたはC. glutamicumフルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子)によりコードされる、細菌由来のタンパク質または遺伝子産物および/またはコリネバクテリウム由来のタンパク質または遺伝子産物(例えば、C. glutamicum由来の遺伝子産物)も本発明の範囲に含まれる。さらに、天然に存在する細菌および/またはコリネバクテリウム遺伝子(例:C. glutamicum遺伝子)とは異なるコードされた細菌および/またはコリネバクテリウム遺伝子(例:C. glutamicum遺伝子)、例えば、突然変異、挿入または欠失された核酸を有するが、本発明の天然に存在する遺伝子産物と実質的に類似のタンパク質をコードする遺伝子である、細菌由来のタンパク質または遺伝子産物および/またはコリネバクテリウム由来のタンパク質または遺伝子産物(例えば、C. glutamicum由来の遺伝子産物)も本発明の範囲に含まれる。例えば、遺伝暗号の縮重のために、天然に存在する遺伝子によりコードされるものと同じアミノ酸をコードする核酸を当業者が突然変異させる(例えば、置換する)ことができるのは十分理解される。さらに、当業者が、保存的アミノ酸置換をコードする核酸を突然変異させる(例えば、置換する)ことができるのも十分理解される。さらに、天然に存在する遺伝子産物と比較して、遺伝子産物の機能に実質的に影響を与えることなく、当業者がある程度までアミノ酸を置換、付加もしくは欠失させることができるのも十分に理解され、これらのケースはすべて本発明の範囲に含まれる。
好ましい実施形態では、本発明の単離されたタンパク質(例:単離されたペントースリン酸生合成酵素、例えば、単離されたフルクトース1,6-ビスホスファターゼ)は、配列番号2に示すアミノ酸配列を有する。他の実施形態では、本発明の単離されたタンパク質は、配列番号2に記載のタンパク質の相同体である(例えば、配列番号2のアミノ酸に対し少なくとも約30〜40%同一、好ましくは約40〜50%同一、さらに好ましくは約50〜60%同一、さらにまた好ましくは約60〜70%、70〜80%、80〜90%、90〜95%またはそれ以上同一なアミノ酸配列を含み、かつ、配列番号2のアミノ酸配列によりコードされるタンパク質の活性と実質的に類似の活性を有する)。
2つのアミノ酸配列または2つの核酸の%相同性を決定するためには、最適な比較を目的として、それらの配列をアラインメントする(例えば、第2アミノ酸または核酸配列との最適なアラインメントのために、第1アミノ酸の配列または核酸配列にギャップを導入することができる)。第1配列での位置を、第2配列の対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドが占める場合には、その位置で分子は同一である。2つの配列間の%同一性は、両配列が共有する同一位置の数の関数であり(すなわち、%同一性)= 同一位置の数 /位置の総数x 100)、好ましくは、最適なアラインメントを生ずるのに必要なギャップの数およびギャップのサイズを考慮に入れる。
配列の比較、ならびに2つの配列間の%同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる。配列の比較に用いられる数学的アルゴリズムの非制限的例は、KarlinおよびAltschulのアルゴリズム (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68であり、これは、Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77に記載のように改良されている。このようなアルゴリズムをAltschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10のNBLASTおよびXBLASTプログラム(2.0版) に組み込む。NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12でBLASTヌクレオチド検索を実施することにより、本発明の核酸分子と相同的なヌクレオチド配列を取得することができる。XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3でBLASTタンパク質検索を実施することにより、本発明のタンパク質分子と相同的なアミノ酸配列を取得することができる。比較の目的で、ギャップを有するアラインメントを取得するためには、Altschulら、(1997) Nucleic Acids Research 25(17):3389-3402に記載されているように、Gapped BLASTを使用することができる。 BLASTおよびGapped BLASTプログラムを使用する場合、各プログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメーターを用いることができる。http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列の比較に使用する数学的アルゴリズムの別の好ましい非制限的例は、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17のアルゴリズムである。GENESTREAMネットワークサーバーであるIGH Montpellier(フランス)(http://vega.igh.cnrs.fr)またはISRECサーバー(http://www.ch.embnet.org)で入手可能なALIGNプログラムに、前記のプログラムを組み込むことができる。ALIGNプログラムを使用してアミノ酸配列を比較する場合には、PAM120重み付き残基表、12のギャップ長および4のギャップペナルティーを用いることができる。
別の好ましい実施形態では、GCGソフトウエアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラにより、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスのいずれか、また、12、10、8、6もしくは4のギャップ重みと、2、3、もしくは4の長さ重みを用いて、2つのアミノ酸配列間の%相同性を決定することができる。さらに別の好ましい実施形態では、2つの核酸配列同士の相同性百分率は、GCGソフトウエアパッケージ(http://www.gcg.comで入手可能)のGAPプログラにより、50のギャップ重みと、3の長さ重みを用いて達成することができる。
以下の実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、これらの実施例を本発明を限定的するものとして解釈すべきではない。本明細書全体を通して引用したすべての参照文献、特許、配列表、図面、ならびに公開された特許出願の内容は、参照として本明細書に組み込むものとする。
一般的方法:
菌株
American Type and Culture Collection(米国マナッサス)からCorynebacterium glutamicum ATCC 21526を取得した。このホモセリン栄養要求性菌株は、協奏的アスパラギン酸キナーゼ阻害の副路のために、Lトレオニン制限の間、リシンを排出する。5g L-1のフルクトースまたはグルコースを含む複合培地で前培養物を増殖させた。寒天プレートの場合には、さらに12 g L-1の寒天で複合培地を修正した。トレーサー実験用の接種材料としての細胞の生産およびトレーサー実験自体のために、1mg ml-1パントテン酸カルシウム・HClで修正した最少培地を用いた(Wittmann, C.およびE. Heinzle. 2002. Appl. Environ. Microbiol. 68:5843-5859)。この培地において、炭素源グルコースまたはフルクトース、必須アミノ酸トレオニン、メチオニンおよびロイシン、ならびにクエン酸の濃度を下記のように変えた。
培養
前培養は、以下の3つのステップからなる:(i)接種材料としての寒天プレートからの細胞を含む複合培地における出発培養、(ii)最少培地への適応のための短時間の培養、ならびに(iii)高められた濃度の必須アミノ酸を含む最少培地での長時間の培養。寒天プレートから接種した前培養物を10 ml複合培地上で100 mlのバッフル付き振盪フラスコにおいて一晩増殖させた。その後、遠心分離(8800g、2分、30℃)により細胞を回収して、最少培地に接種した後、最適密度2まで増殖させることにより、最少培地に適応した、指数的に増殖する細胞を得た。その後、滅菌した0.9%NaClを用いた洗浄ステップを含む遠心分離(8800g、2分、30℃)により細胞を回収した。次に、これら細胞を50 mlのバッフル付き振盪フラスコ中の6ml最少培地に接種するが、この培地は、初期濃度:0.30 g L-1のトレオニン、0.08 g L-1のメチオニン、0.20 g L-1のロイシン、ならびに0.57 g L-1のクエン酸を含んでいた。炭素源として、70 mMグルコースまたは80 mMフルクトースをそれぞれ添加した。必須アミノ酸の欠失まで細胞を増殖させるが、これはHPLC分析により確認した。増殖期の終了時に、細胞を回収し、滅菌したNaCl(0.9%)を用いて洗浄した。次に、25 mlのバッフル付き振盪フラスコ中の4ml最少トレーサー培地に前記細胞を移し、リシン生成条件下で代謝流入分析を実施する。トレーサー培地は、トレオニン、メチオニン、ロイシンおよびクエン酸を一切含んでいない。各炭素源について、2つの平行フラスコ:(i)40 mMの[1-13C]標識された基質を含むものと(ii)20 mMの[13C6]標識された基質および20 mMの天然に標識された基質を含むものをインキュベートした。培養はすべて、回転振盪機(Inova 4230, New Brunswick, Edison, NJ, USA)を用いて、30℃および150 rpmで実施した。
化学品
99%[1-13C]グルコース、99%[1-13C]フルクトース、99%[13C6]グルコースおよび99%[13C6]フルクトースをCampro Scientific(オランダ、Veenendaal)から購入した。酵母抽出物およびトリプトンをDifco Laboratories(米国ミシガン州デトロイト)から取得した。使用したその他すべての化学品は、Sigma(米国ミシガン州セントルイス)、Merk(ドイツ、Darmstadt)もしくはFluka(スイス、Buchs)からそれぞれ取得し、これらはすべて分析等級のものである。
基質および生成物分析
細胞濃度は、光度計(Marsha Pharmacia biotech;ドイツ、フライブルグ)または重量分析計を用いて、660 nm(OD660nm)での細胞密度の測定により決定した。重量分析は、3,700gで10分室温の培養ブロスから10 mlの細胞を採取することにより決定したが、これには水での洗浄ステップが含まれる。洗浄した細胞を重量が一定になるまで80℃で乾燥させた。乾燥した細胞の乾燥質量とOD660nmの相関係数(gバイオマス/OD660nm)を0.353として決定した。
16,000gで3分の遠心分離により得た培養上清において、細胞外基質および生成物の濃度を決定した。オキシムトリメチルシリル誘導体への誘導体化後に、GCによりフルクトース、グルコース、スクロース、およびトレハロースを定量した。このために、HP 5MSカラム(5%フェニル−メチル−シロキサン−ジフェニルジメチルポリシロキサン、30 m x 250μm, Hewlett Packard;米国カリフォルニア州パロアルト)を用いるHP6890ガスクロマトグラフィー(Hewlett Packard;米国パロアルト)、および70eVでの電子衝撃イオン化を用いる四重極質量選択検出器(Agilent Technologies;ドイツ、Waldbronn)を使用した。サンプルの調製は、培養物上清の凍結乾燥、ピリジンへの溶解、続いて、ヒドロキシルアミンおよび(トリメチルシリル)トリフルオロアセタミド(BSTFA)(Macherey & Nagel;ドイツ、Dueren)(13, 14)を用いた糖の2段階誘導体化を含む。定量の内部標準としてβ-D-リボースを用いた。注入したサンプル量は0.2μlであった。GC分析の時間プログラムは次の通りである:150℃(0〜5分)、8℃min-1(5〜15分)、310℃(25〜35分)。キャリヤーガスとして1.5 l min-1の流量でヘリウムを用いた。入口温度は310℃で、検出器温度は320℃であった。0.8ml min-1の流量で、移動相としての4mM硫酸、210nmでのUV検出を用いたAminex-HPX-87H Biorad Column(300 x 7.8 mm、Hercules;米国CA)を使用するHPLCにより、酢酸、乳酸、ピルビン酸、2-オキソグルタル酸およびジヒドロキシアセトンを測定した。グリセロールを酵素測定(Boehringer;ドイツ、マンハイム)により定量した。2ml min-1の流量での自動化オンライン誘導体形成(o-フタルジアルデヒド + 3-メルカプトプロピオン酸)、および蛍光検出を用いて、Zorbax Eclypse-AAAカラム(150 x 4.6 mm、5μm、Agilent Technologies;ドイツ、Waldbronn)を使用するHPLC(Agilent Technologies;ドイツ、Waldbronn)によりアミノ酸を分析した。詳細は使用説明書のマニュアルに記載されている。定量の内部標準としてαアミノ酪酸を用いた。
13C標識分析
培養上清におけるリシンおよびトレハロースの標識パターンをGC-MSにより定量した。これによって、単一質量アイソトポマー画分を決定した。現在の研究では、これらはM0(非標識質量アイソトポマー画分の相対量)、M1(単一標識質量アイソトポマー画分の相対量)というように、高くなる標識レベルに応じた記号で定義されている。リシンのGC-MS分析は、以前記載されている(Rubino, F. M. 1989. J. Chromatogr. 473:125-133)ように、t-ブチル-ジメチルシリル(TMDMS)誘導体への変換後実施した。質量アイソトポマー分布の定量は、イオンクラスターm/z 431-437の選択的イオンモニタリング(SIM)法で実施した。このイオンクラスターは、フラグメントイオンに対応し、これは、誘導体化残基からのt-ブチル基の喪失により形成されるため、リシンの完全な炭素骨格を含む(Wittmann, C., M. HansおよびE. Heinzle. 2002. Analytical Biochem. 307:379-382)。トレハロースの標識パターンは、以前記載されている(Wittmann, C., H. M. KimおよびE. Heinzle. 2003. Metabolic flux analysis at miniaturized scale. submitted)ように、そのトリメチルシリル(TMS)誘導体から決定する。トレハロースの標識パターンは、トレハロースの完全なモノマー単位、従って、グルコース6-リン酸のそれと等しい炭素骨格を含むフラグメントイオンに対応するm/z 361-367でのイオンクラスターにより推定した。すべてのサンプルをまずスキャンモードで測定し、これにより、分析対象の生成物とその他のサンプル成分間のアイソバリック干渉を排除する。SIMによる測定はすべて2回繰り返して実施する。フルクトースでのトレーサー実験における単一質量アイソトポマー画分の実験誤差は、[1-13C]フルクトースでのリシンの場合、0.85%(M0)、0.16 %(M1)、0.27%(M2)、0.35%(M3)、0.45%(M4);[1-13C]フルクトースでのトレハロースの場合、0.87%(M0)、0.19%(M1)、0.44%(M2)、0.45%(M3)、0.88%(M4);ならびに、50%[13C6]フルクトースでのトレハロースの場合、0.44%(M0)、0.54%(M1)、0.34%(M2)、0.34%(M3)、0.19%(M4)、0.14%(M5)および0.52%(M6)であった。グルコーストレーサー実験でのMS測定の実験誤差は、[1-13C] グルコースでのリシンの場合、0.47%(M0)、0.44 %(M1)、0.21%(M2)、0.26%(M3)、0.77%(M4);[1-13C] グルコースでのトレハロースの場合、0.71%(M0)、0.85%(M1)、0.17%(M2)、0.32%(M3)、0.46%(M4);ならびに、50%[13C6] グルコースでのトレハロースの場合、1.29%(M0)、0.50%(M1)、0.83%(M2)、0.84%(M3)、1.71%(M4)、1.84%(M5)および0.58%(M6)であった。
代謝モデル化およびパラメータ推定
代謝シミュレーションはすべて、パーソナルコンピューターで実施した。リシン生産性C. glutamicumの代謝ネットワークをMatab 6.1およびSimulink 3.0(Mathworks, Inc.;米国MAナチック)で実行した。ソフトウエアの実行には、ネットワークにおける13C標識分布を計算するSimulinkでのアイソトポマーモデルを含んだ。パラメーター推定のために、アイソトポマーモデルをMatlabの対話型最適化アルゴリズムと結合させた。使用したコンピュータ計算ツールに関する詳細は、WittmannおよびHeinzleにより記載されている(Wittmann, C.およびE. Heinzle. 2002. Appl. Environ. Microbiol. 68:5843-5859)。
代謝ネットワークは、以前の研究に基づくものであり、解糖、ペントースリン酸経路(PPP)、トリカルボン酸(TCA)回路、ピルビン酸のアナプレロティックカルボキシル化、リシンおよびその他の分泌生成物の生合成(表1)、ならびに中間前駆体からのバイオマスへの同化流入を含む。加えて、グルコースおよびフルクトースの取込み系を交互に実行した。グルコースの取込みは、PTSを介したグルコース6-リン酸へのリン酸化を伴った(Ohnishi, J., S. Mitsuhashi, M. Hayashi, S. Ando, H. Yokoi, K. OchiaiおよびM. A. Ikeda. 2002. Appl. Microbiol. Biotechnol. 58:217-223)。フルクトースの場合には、次のような2つの取込み系が考えられた:(i)PTSFructoseによる取込みおよびフルクトース1-リン酸によるフルクトースのフルクトース1,6-ビスホスファターゼへの変換、ならびに、(ii)フルクトース6-リン酸をもたらす、PSTMannnoseによる取込み(Dominguez, H., C. Rollin, A. Guyonvarch, J. L. Guerquin-Kern, M. Cocaign-BousquetおよびN. D. Lindley. 1998. Eur. J. Biochem. 254:96-102)。加えて、フルクトース1,6-ビスホスファターゼを該モデル中に実行することにより、上方の解糖における両方向の炭素流入を可能にした。可逆性と考えられる反応はPPPにおけるトランスアルドラーゼとトランスケトラーゼである。加えて、グルコース6-リン酸イソメラーゼはグルコースでの実験では可逆性と考えられ、従って、トレハロース標識はこの酵素の可逆性を選択的に反映した。対照的に、グルコース6-リン酸イソメラーゼの可逆性をフルクトースでは決定することができなかった。フルクトース増殖細胞において、グルコース6-リン酸は、フルクトース6-リン酸からしか形成されないため、2つのプールについて同じラベルパターンが発生する。従って、可逆性グルコース6-リン酸イソメラーゼによるグルコース6-リン酸とフルクトース6-リン酸間の変換では、標識に相違(これをグルコース6-リン酸イソメラーゼ可逆性の推定に用いることができる)は起こらない。測定されたリシンとトレハロースの標識は、(i)ホスホエノールピルビン酸/ピルビン酸とマレイン酸/オキサロ酢酸の塊状プール(lumped pool)間での流入の可逆性および(ii)TCA回路におけるマレイン酸デヒドロゲナーゼおよびフマル酸ヒドラターゼの可逆性に対し感受性ではなかった。従って、これらの反応は不可逆とみなした。天然に標識された基質と[13C6]標識された基質の混合物(前記流入パラメーターに対し感受性である)からのアラニンの標識はこの実験では利用できなかった。以前の結果に基づき、グリオキシル酸経路は不活性であると推定した(Wittmann, C.およびE. Heinzle. 2002. Appl. Environ. Microbiol. 68:5843-5859)。
分泌されたリシンの質量スペクトル標識データと一緒に、C. glutamicumの増殖、生成物形成、およびバイオマス組成に関する化学量論データを用いて、代謝流入分布を計算した。2つの並行実験のリシンおよびトレハロースの実験(Mi, exp)と、シミュレートした(Mi, calc)質量アイソトポマー画分との間の偏差が最も小さかった流入のセットを細胞内流入分布の最良推定値として採用した。付録に記載しているように、グルコース増殖およびフルクトース増殖細胞の2つのネットワークは過大に決定されていた。従って、最小2乗法が可能であった。誤差の基準として、最小2乗の重みつき和(SLS)を用いたが、その際、Si, expは測定値の標準偏差である(式1)。
Figure 0004903742
複数のパラメーター初期化を適用して、得られた流入分布が大域的最適を表しているか否かを調べた。すべての菌株について、リシン生産中のグルコース取込み流入を100%に設定し、ネットワーク内の他の流入は、グルコース取込み流入に標準化した相対モル流入として与える。
統計的評価
得られた代謝流入の統計的分析は、以前記載されているモンテカルロ手法(Wittmann, C.およびE. Heinzle. 2002. Appl. Environ. Microbiol. 68:5843-5859)により実施した。各菌株について、100パラメーター評価ランにより統計的分析を実施したところ、測定した質量アイソトポマー比および測定した流入を含む実験データは統計的にばらばらであった。得られたデータから、単一パラメーターについての90%信頼限界を算出した。
実施例I:フルクトースおよびグルコースでのC. glutamicumによるリシン生成
リシン生産性C. glutamicumの代謝流入をグルコースおよびフルクトースを用いた比較バッチ培地において分析した。このために、予め増殖させた細胞をトレーサー培地に移し、約5時間インキュベートした。トレーサー実験の開始および終了時の基質および生成物の分析から、2つの炭素源間には顕著な違いがあることが明らかにされた。グルコースでは総量11.1 mMのリシンが生成されたのに対し、フルクトースでは、これより低い8.6 mMの濃度にしか達しなかった。5時間にわたるインキュベーションの間、細胞濃度は、3.9gL-1から6.0gL-1(グルコース)まで、また3.5gL-1から4.4gL-1(フルクトース)まで増加した。トレオニンとメチオニンは培地に存在しないことから、内部供給源は恐らく細胞によりバイオマス合成のために使用されたと考えられる。平均比糖取込み率は、グルコース(1.71 ミリモルg-1 h-1)よりフルクトース(1.93 ミリモルg-1 h-1)の方が高かった。表1に示すように、C. glutamicum ATCC 21526から得られた収量は、フルクトースとグルコースとの間で著しく違っていた。これは、主生成物であるリシンと様々な副産物を含んでいた。リシンに関しては、フルクトースでの収量は244 ミリモル モル-1であったため、グルコースでの収量(281 ミリモル モル-1)より低かった。加えて、炭素源はバイオマス収量に顕著な影響を及ぼし、グルコースと比較してフルクトースではほぼ50%もバイオマスが減少した。副産物形成に対する炭素源の最も有意な影響は、ジヒドロキシアセトン、グリセロール、および乳酸について認められた。フルクトースの場合、これらの副産物の蓄積が極めて増加された。グリセロールの収量は10倍高く、また、ジヒドロキシアセトンと乳酸の分泌は6倍高かった。ジヒドロキシアセトンはフルクトースの主要な副産物であった。バイオマス収量が低下したために、フルクトース増殖細胞では、同化前駆体に対する要求が有意に減少した(表2)。
Figure 0004903742
Figure 0004903742
実施例II:トレーサー実験における13C標識パターンの手動検査
分泌されたリシンおよびトレハロースの相対質量アイソトポマー画分をGC-MSにより定量した。これらの質量アイソトポマー画分は、細胞内流入に対して感受性であるため、試験した生物系のフラクソーム(fluxome)のフィンガープリントを展示する。図2に示すように、分泌されたリシンおよびトレハロースの標識パターンは、C. glutamicumのグルコースおよびフルクトース増殖細胞で有意に違っていた。このような相違は、両者を使用したトレーサー標識および両方の測定された生成物で認められる。これは、炭素流入パターンが、使用した炭素源に応じて実質的に相違することを示す。以前記載されているように、[1-13C]および[13C6]グルコースの混合物でのC. glutamicumの2つの並行培養からの質量アイソトポマー画分はほとんど同じである(Wittmann, C., H. M. KimおよびE. Heinzle. 2003. Metabolic flux analysis at miniaturized scale. Submitted)。従って、観測された相違は、明らかに代謝流入の基質特異的相違に関連すると考えられる。
実施例III:細胞内流入の推定
実施した試験の主要な課題は、炭素源としてグルコースおよびフルクトースを用いたリシン生成中のC. glutamicumの細胞内流入の比較研究であった。このために、トレーサー実験から得られた実験データを用いることにより、前記の流入推定ソフトウエアを使用して、各基質の代謝流入分布を計算した。パラメーター推定は、実験および計算質量アイソトポマー画分間の偏差を最小限にすることにより実施した。実施した手法では、最適化のステップ毎に代謝物均衡を使用する。これには、(i)生成物分泌に関する化学量論データ(表2)および(ii)バイオマス前駆体の同化要求に関する化学量論データ(表3)が含まれた。実験標識パターンとシミュレートした標識パターンとの間の偏差が最小であった細胞内流入のセットを細胞内流入分布の最良推定値として採用した。両シナリオについて、複数の初期化値で同じ流入分布が得られたが、これは、大域的最小が確認されたことを示している。明らかに、実験により決定した質量アイソトポマー比と算出された質量アイソトポマー比の間に良好な一致が達成された(表4)。
Figure 0004903742
実施例IV:リシン生成中のフルクトースおよびグルコースでの代謝流入
グルコースおよびフルクトースでのリシン生産性C. glutamicumについて得られた細胞内流入分布を図(4、5)に示す。明らかに、細胞内流入は、使用した炭素源によって甚だしく相違した。グルコースでは、62%の炭素流入がPPPに向かったのに対し、解糖鎖(glycolytic chain)を通過したのは35%に過ぎなかった(図4)。このために、比較的高い量である124%NADPHがPPP酵素グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼおよび6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼにより、比較的高い量の124%NADPHが生成された。フルクトースに関する状況は完全に違っている(図5)。実施した流入分析から、フルクトース取込みについて2つのPTSのin vivo活性が明らかになり、これによれば、92.3%のフルクトースがフルクトース特異的PTSFructoseにより取り込まれた。同等に小さな画分である7.7%のフルクトースがPTSMannoseにより取り込まれた。従って、フルクトースの大部分は、フルクトース1,6-ビスホスホファターゼのレベルで解糖に流入したが、上流のフルクトース6-リン酸では小さな画分しか解糖鎖に向かわなかった。グルコース増殖細胞と比較して、PPPはわずか14.4%という極めて低減した活性を呈示した。グルコース6-リン酸イソメラーゼは2つの炭素源で反対方向に動作した。グルコース増殖細胞では、36.2%正味流入が、グルコース6-リン酸からフルクトース6-リン酸に向かったのに対し、15.2%の反対方向正味流入がフルクトースで観察された。
フルクトースの場合、グルコース6-リン酸イソメラーゼおよびPPPを介した流入は、PTSMannoseを介した流入の約2倍高かった。しかし、フルクトース1,6-ビスホスホファターゼからフルクトース6-リン酸への炭素の糖新生流入(これは、PPPに向かうさらなる炭素流入を供給することもできる)によるものではなかった。実際に、この反応を触媒するフルクトース1,6-ビスホスホファターゼからの流入はゼロであった。PPPに向かうさらなる流入を引き起こす代謝反応は、PPPにおける可逆性酵素トランスアルドラーゼとトランスケトラーゼである。この追加流入の約3.5%はトランスケトラーゼ2により供給され、これはPPPに由来する炭素をこの経路に戻して再循環させる。さらに、4.2%の流入はトランスアルドラーゼの作用によりフルクトース6-リン酸およびPPPに向けられた。
炭素源によって、リシン生産性C. glutamicumの完全に異なる流入パターンがピルビン酸ノード周辺で観察された(図4、5)。グルコースの場合、リシン経路への流入は30.0%であったが、フルクトースではそれより低い25.4%の流入が認められた。フルクトースと比較してグルコースでの高いリシン収量がこの流入差の主な理由であるが、高いバイオマス収量により、細胞壁合成のためのジアミノピメリン酸およびタンパク質合成のためのリシンの要求が高くなることもそれに寄与している。グルコースでのアナプレロティック流入は44.5%で、フルクトースでの流入(33.5%)と比較して顕著に高かった。これは、主として、リシン生成のためのオキサロ酢酸の要求が高くなったためであるが、グルコースでのオキサロ酢酸および2-オキソグルタル酸の同化要求が高まったことも起因している。これに対して、ピルビン酸デヒドロゲナーゼを介した流入は、フルクトース(95.2%)よりグルコース(70.9%)の方が実質的に低かった。これにより、TCA回路への炭素流入が減少し、その結果、グルコースの場合、TCA回路酵素を介した流入は30%以上減少した(図3、4)。
モンテカルロ手法により得られた流入の統計的推定を用いて、決定された流入パラメーターについて90%信頼区間を算出した。図5に様々な重要な流入について示すように、信頼区間は一般に狭い。例えば、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼを介した流入の信頼区間は、グルコース増殖細胞でわずか1.2%、フルクトース増殖細胞では3.5%であった。従って、選択した手法により正確な流入推定が可能になった。グルコースおよびフルクトースでそれぞれ観察された流入差は、明らかに使用した炭素源に起因すると結論付けることができる。
フルクトースでの1.93 ミリモルg-1h-1の平均比基質取込みは、グルコースで認められた1.77 ミリモルg-1h-1よりやや高かった。このため、ミリモルg-1h-1で表される絶対細胞内流入は、前記相対流入と比較すると、グルコースに関して若干増加している。しかし、フルクトースおよびグルコースでのリシン生産性C. glutamicumの流入分布はあまりにも相違しているため、以上示したすべての比較も絶対炭素流入に適用できる。
Figure 0004903742
実施例I〜IVの考察:
A.基質特異的培養の特徴
フルクトースおよびグルコースをそれぞれ用いたリシン生産性C. glutamicumの培養から、増殖および生成物形成が、使用する炭素源に著しく左右されることが明らかになった。フルクトースでリシンおよびバイオマスの収量の有意な減少がC. glutamicumの別の菌株でもすでに報告されており、それによると、リシンおよびバイオマスの収率が、グルコースと比較して、それぞれ30%および20%低かった(Kiefer, P., E. HeinzleおよびC. Wittmann. 2002. J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 28:338-43)。フルクトースでのC. glutamicumおよびC. melassecolaを培養した場合、グルコースと比較して、高い二酸化炭素生成率を伴う(Dominguez, H., C. Rollin, A. Guyonvarch, J. L. Guerquin-Kern, M. Cocaign-BousquetおよびN. D. Lindley. 1998. Eur. J. Biochem. 254:96-102;Kiefer, P., E. HeinzleおよびC. Wittmann. 2002. J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 28:338-43)。これは、この炭素源について本発明の実験で観察されたTCA回路を介した高い流入と一致している。基質に特異的な相違が副産物についても認められた。トレハロースの形成は、グルコースより、フルクトースでの方で低かった。これは、解糖へのグルコースおよびフルクトースの流入点がそれぞれ異なることに関連していると思われる(Kiefer, P., E. HeinzleおよびC. Wittmann. 2002. J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 28:338-43)。C. glutamicumにおける取込み系を考慮すれば、グルコースを使用した場合、トレハロース前駆体グルコース6-リン酸の形成に導くのに対し、フルクトースはフルクトース1,6-ビスホスファターゼに変換されるため、グルコース6-リン酸から下流の中心代謝に入いる(Dominguez, H., C. Rollin, A. Guyonvarch, J. L. Guerquin-Kern, M. Cocaign-BousquetおよびN. D. Lindley. 1998. Eur. J. Biochem. 254:96-102)。フルクトースを炭素源として使用すると、ジヒドロキシアセトン、グリセロール、および乳酸のようなその他の副産物が著しく増加した。リシン生成の観点から言うなら、炭素の実質的画分が中心代謝から引き出され、形成された副産物に流入するため、これは望ましくない。フルクトースでのこの比基質取込み(1.93 ミリモル g-1h-1)は、グルコース(1.77 ミリモル g-1h-1)より高かった。この結果は、指数的に増殖するC. melassecola ATCC 17965 に関する以前の試験(Dominguez, H., C. Rollin, A. Guyonvarch, J. L. Guerquin-Kern, M. Cocaign-BousquetおよびN. D. Lindley. 1998. Eur. J. Biochem. 254:96-102)とは違っていた。この試験では、フルクトースおよびグルコースで同様の比取込み率が観測されている。本発明の試験で、フルクトースの方に高い取込み率が観測されたのは、被試験菌株が違っていたという事実のためと思われる。C. melassecolaとC. glutamicumは近縁の種であるが、特定の代謝特性が違っていると考えられる。本発明の実験で試験した菌株は、古典的菌株最適化により以前取得されたたものである。これは、基質取込みに影響を及ぼす突然変異を導入した可能性もある。上記のほかに、培養条件の相違も考えられる。制限された増殖およびリシン生産の条件下でフルクトースはさらに効果的に使用できるであろう。
B.代謝流入分布
グルコースおよびフルクトースについて得られたリシン生産性C. glutamicumの細胞内流入分布から、驚くべき相違が明らかになった。得られた流入の統計的評価は、狭い90%信頼区間を示したため、得られた流入差は、明らかに使用した炭素源に起因すると考えられる。最も顕著な差の1つは、解糖とPPPの間の流入分配に関する。グルコースの場合、炭素の62.3%がPPPを通過した。この基質でのリシン生産性C. glutamicumのPPPの優勢は、以前の様々な研究でも認められている(Marx, A., A. A. de Graaf, W. Wiechert, L. Eggelingおよび H. Sahm. 1996. Biotechnol. Bioeng. 49:111-129;Wittmann, C.およびE. Heinzle. 2001. Eur. J. Biochem. 268:2441-2455;Wittmann, C.およびE. Heinzle. 2002. Appl. Environ. Microbiol. 68:5843-5859)。フルクトースでは、PPPへの流入は14.4%に減少した。実施した代謝流入分析により確認されたように、これは、主として、フルクトース1,6-ビスリン酸のレベルでのフルクトースの流入と、フルクトース1,6-ビスホスファターゼの不活性という好ましくない組合せによるものであった。観察されたフルクトース1,6-ビスホスファターゼの不活性は、グルコースおよびフルクトースをそれぞれ用いた指数的増殖中のC. melassecola ATCC 17965の酵素測定値とよく一致している(Dominguez, H., C. Rollin, A. Guyonvarch, J. L. Guerquin-Kern, M. Cocaign-BousquetおよびN. D. Lindley. 1998. Eur. J. Biochem. 254:96-102)。
驚くことに、C. glutamicumをフルクトースで培養すると、グルコース6-リン酸イソメラーゼおよびPPPを介した流入は、PTSMannnoseを介した流入の約2倍高かった。フルクトース1,6-ビスホスファターゼの不活性のために、これは糖新生流入により起こったのではない。実際、C. glutamicumは、フルクトース6-リン酸、グルコース6-リン酸、およびリボース6-リン酸を介した作動的代謝回路を有する。トランスケトラーゼ2およびトランスアルドラーゼの作用によりPPPにさらなる流入が供給されるが、前者はPPPからの炭素をこの経路に戻して再循環させ、後者は、グリセルアルデヒド3-リン酸をPPPに再度向かわせ、このようにして側路による糖新生を行なう。この循環活性は、細胞がフルクトースでのNADPH制限を克服するのに役立つと考えられる。フルクトースで増殖させたC. glutamicumの場合、グルコース6-リン酸に到達する流入が著しく低いことも、この基質でのトレハロース形成が少ない理由と考えられよう(Kiefer, P., E. HeinzleおよびC. Wittmann. 2002. J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 28:338-43)。グルコース6-リン酸イソメラーゼは、炭素源に応じて反対方向に動作した。グルコースで増殖させた場合、正味流入は、グルコース6-リン酸からフルクトース6-リン酸に向かったが、フルクトースでは反対の正味流入が認められた。これは、C. glutamicumにおける代謝フレキシビリティーのためのこの酵素の可逆性の重要性を強調している。
C.NADPH代謝
以下に示す計算により、フルクトースおよびグルコースでのリシン生産性C. glutamicumのNADPH代謝の比較が提供される。グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼ、およびイソクエン酸デヒドロゲナーゼによる推定流入から、NADPHの全供給を計算した。グルコースの場合、PPP酵素グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(62.0%)およびグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(62.0%)がNADPHの主要画分を供給していた。イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(52.9%)は、小さい程度しか寄与していない。フルクトースでは、NADPH供給に対するPPPおよびTCA回路の完全に相違する寄与が観測され、その際、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(83.3%)がNADPHの主要供給源であった。グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(14.4%)およびグルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ(14.4%)はフルクトースでははるかに少ないNADPHを生成した。NADPHは、リシンの増殖および形成に必要である。増殖のためのNADPH要求は、11.51 ミリモルNAPDH(gバイオマス)-1の化学量論要求(これはグルコースおよびフルクトースについて同一と推定される(Dominguez, H., C. Rollin, A. Guyonvarch, J. L. Guerquin-Kern, M. Cocaign-BousquetおよびN. D. Lindley. 1998. Eur. J. Biochem. 254:96-102))、および本発明の実験のバイオマス収量(表1)から計算した。C. glutamicumは、グルコースの場合、バイオマス生成のために62.3%のNADPHを消費したが、これは、炭素源としてフルクトースを用いた場合(32.8%)と比較してはるかに高かった。生成物合成に必要なNADPHの量は、リシンへの推定流入(表1)、および対応する化学量論NADPH要求である4モル(モルリシン)-1から決定した。その量は、グルコースからのリシン生成のためには112.4%であり、フルクトースからのリシン生成のためには97.6%であった。グルコースでの総NADPH供給は、フルクトース(112.1%)より有意に高かった(176.7%)が、これは、主に、グルコースではPPP流入が増加するためと考えられる。グルコースの場合、NADPHバランスがほとんど閉じている。対照的に、フルクトースでは、18.3%というNADPHの明らかな欠失が認められた。これにより、既述した酵素グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、6-ホスホグルコン酸デヒドロゲナーゼおよびイソクエン酸デヒドロゲナーゼのほかに、NADPHを供給することができる代謝反応を触媒する酵素についての疑問が発生する。可能性の高い候補はNADPH依存性リンゴ酸酵素のようである。グルコースで増殖させた細胞と比較して、フルクトースで増殖させたC. melassecolaに関して、上記酵素の比活性の増加がすでに検出されている(Dominguez, H., C. Rollin, A. Guyonvarch, J. L. Guerquin-Kern, M. Cocaign-BousquetおよびN. D. Lindley. 1998. Eur. J. Biochem. 254:96-102)。しかし、この特定の酵素からの流入は、本発明の試験での実験セットアップによって解明することはできなかった。リンゴ酸酵素を失われたNADPHを生成する酵素として仮定すると、18.3%という流入は、見掛け上失われたNADPHを供給するのに十分である。グルコースを炭素源として用いたC. glutamicumの詳細な流入研究から、リンゴ酸酵素には有意な活性がないことが明らかにされた(Petersen, S., A. A. de Graaf, L. Eggeling, M. Moellney, W. WiechertおよびH. Sahm. 2000. J. Biol. Chem. 75:35932-35941)。しかし、フルクトースを用いた状況は、この酵素のin vivo活性増加と関連すると考えられる。
D.NADH代謝
フルクトースを用いた場合、C. glutamicumは、NADH形成酵素の活性を高めることがわかった。フルクトースでは421.2%のNADHが、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、2-オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、およびマレイン酸デヒドロゲナーゼにより形成された。グルコースでは、NADH生成は322.4%しかなかった。加えて、同化NADH要求はフルクトースの方がグルコースより有意に低かった。有意に増加されたNADH生成は代謝要求の低下につながることから、NADH/NAD比を増加させる可能性がある。C. melassecolaの場合には、フルクトースが、グルコースと比べて増加したNADH/NAD比をもたらすことがすでに示されている(Dominguez, H., C. Rollin, A. Guyonvarch, J. L. Guerquin-Kern, M. Cocaign-BousquetおよびN. D. Lindley. 1998. Eur. J. Biochem. 254:96-102)。これによって、フルクトースでのリシン生成中にNADHを再生する機構についての疑問が発生する。フルクトースで増殖させた細胞は、ジヒドロキシアセトン、グリセロールおよび乳酸の増加された分泌を示した。ジヒドロキシアセトンおよびグリセロール形成の増加は、高いNADH/NAD比によるものと考えられる。NADHは、グリセルアルデヒドデヒドロゲナーゼを阻害することがすでに示されており、従って、ジヒドロキシアセトンおよびグリセロールのオーバーフローはこの酵素の流入能力の低下と関連している可能性がある。ジヒドロキシアセトンのグリセロールへの還元は高いNADH/NAD比によってさらに促進されるため、これが過剰NADHの再生に寄与すると考えられる。NADHを要求するピルビン酸からの乳酸形成もグリセロールの生成と同様のバックグラウンドを有すると考えられる。指数的増殖と比較して、比較的高いTCA回路活性および低いバイオマス収量を特徴とするリシン生成条件下でのNADH過剰はさらに高くなるであろう。
E.フルクトースでのリシン生産性C. glutamicumの最適化のための潜在的な標的
得られた流入パターンに基づき、フルクトースでのC. glutamicumによるリシン生成の最適化のためのいくつかの潜在的な標的を作成することができる。重要な点はNADPHの供給である。フルクトース1,6-ビスホスファターゼは、NADPHの供給を増加する1つの標的である。調節解除、例えば、その活性の増幅により、PPPからの高い流入をもたらし、その結果、NADPH生成およびリシン収量を増加させる。フルクトース1,6-ビスホスファターゼの増幅によるPPPからの流入の増加はまた、芳香族アミノ酸の生成にも有益である(Ikeda, M. 2003. Adv. Biochem. Eng. Biotechnol. 79: 1-36)。フルクトースで増殖中のフルクトース1,6-ビスホスファターゼの不活性は、リシン生成の観点から有害であるが、糖での増殖中にこの糖新生酵素は必要ではなく、恐らく抑制されることから、意外ではない。原核生物において、この酵素は、例えば、フルクトース1,6-ビスホスファターゼ、フルクトース2,6-ビスホスファターゼ、金属イオンおよびAMPにより効率的な代謝制御を受けている(Skrypal, I. G.およびO. V. Iastrebova. 2002. Mikrobiol Z. 64:82-94)。C. glutamicumは、酢酸での増殖が可能であることは知られており(Wendisch, V. F., A. A. de Graaf, H. Sahm H. and B. Eikmans. 2000. J. Bacteriol. 182:3088-3096)、その際、この酵素は糖新生を維持するのに必須である。PPPからの流入を増加させる別の潜在的な標的は、フルクトース取込みのためのPTSである。PTSFructoseとPTSMannoseの間の流入分配を改変すると、高い比率のフルクトースを生成することができ、これがフルクトース6-リン酸のレベルで流入するため、PPP流入を増加させる。加えて、フルクトースの場合、恐らくNADPH供給に有意に寄与するリンゴ酸酵素の増幅が興味深い標的となりうる。
別の障害として、ジヒドロキシアセトン、グリセロールおよび乳酸の強力な分泌が挙げられる。ジヒドロキシアセトンおよびグリセロールの形成は、調節解除、例えば、対応する酵素の欠失により阻止される。ジヒドロキシアセトンリン酸からジヒドロキシアセトンへの変換は、対応するホスファターゼによって触媒することができる。しかし、ジヒドロキシアセトンホスファターゼはC. glutamicumにおいてまだ解明されていない(the National Center for Biotechnology Information (NCBI) Taxonomy website: http://www3.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/を参照)。この反応はキナーゼ、例えば、グリセロールキナーゼにより触媒することもできる。現在、C. glutamicumのゲノムデータにおける2つのエントリーがジヒドロキシアセトンキナーゼに関連している(the National Center for Biotechnology Information (NCBI) Taxonomy website: http://www3.ncbi.nlm.nih.gov/Taxonomy/を参照)。
乳酸分泌は、乳酸デヒドロゲナーゼの調節解除、例えば、ノックアウトにより回避することもできる。しかし、グリセロールおよび乳酸形成はNADH再生に重要であるため、生物の性能全体に対する負の作用を排除することはできない。これより低い解糖鎖からの炭素流入を、以前考察された(Dominguez, H., C. Rollin, A. Guyonvarch, J. L. Guerquin-Kern, M. Cocaign-BousquetおよびN. D. Lindley. 1998. Eur. J. Biochem. 254:96-102)グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼの能力により制限する場合には、ジヒドロキシアセトンおよびグリセロール生成の抑制により、最後にはフルクトース1,6-ビスホスファターゼの活性化およびPPPからの炭素流入の再方向付けを達成することができるだろう。C. glutamicumの培養中にジヒドロキシアセトンは再利用されず、従って、生成物合成に関して炭素の浪費を呈示するが、乳酸の場合これは当てはまらないことに留意すべきである(Cocaign-Bousquet, M.およびN. D. Lindley. 1995. Enz. Microbiol. Technol. 17:260-267)。
一実施形態では、組み合わせた1以上の前記遺伝子の調節解除は、精密化学物質、例えば、リシンの生成に有用である。
加えて、C. glutamicumによるリシン生成の炭素源としてスクロースもまた有用であり、例えば、本発明の方法と一緒に用いる。スクロースは、糖蜜における主要な炭素源である。以前記載されているように、スクロースのフルクトース単位はフルクトース1,6-ビスホスファターゼのレベルで解糖に入いる(Dominguez, H. and N. D. Lindley. 1996. Appl. Environ. Microbiol. 62:3878-3880)。従って、スクロース分子のこの部分(不活性フルクトース1,6-ビスホスファターゼを仮定する)は恐らくPPPに流入しないため、リシン生産性菌株におけるNADPHは制限されると考えられる。
実施例V:プラスミドPCIS LYSCの構築
菌株構築の第1ステップでは、C. glutamicum ATCC13032におけるLysC野生型遺伝子の対立遺伝子置換が必要である。その際、LysC遺伝子におけるヌクレオチド置換を実施し、これによって、得られるタンパク質、すなわち311位のアミノ酸ThrをIleで置換する。PCR反応の鋳型としてATCC13032由来の染色体DNAから出発し、オリゴヌクレオチドプライマー配列番号3および配列番号4を用いて、Pfu Turbo PCR系(Stratagene USA)の使用により、製造者の使用説明書に従ってlysCを増幅する。C. glutamicum ATCC13032由来の染色体DNAは、Tauchら、(1995) Plasmid 33:168-179またはEikmannsら、(1994) Microbiology 140:1817-1828に従って調製する。増幅した断片は、その5’末端がSalI制限カットに、またその3’末端がMluI制限カットに隣接している。クローニングの前に、増幅した断片をこれら2つの制限酵素により消化し、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて精製する。
配列番号3
5'-GAGAGAGAGACGCGTCCCAGTGGCTGAGACGCATC-3'
配列番号4
5'-CTCTCTCTGTCGACGAATTCAATCTTACGGCCTG-3'
得られたポリヌクレオチドを、SacBを組み込んだpCLIK5 MCSにおいてSalIおよびMluI制限カットを介してクローン化した(以後、pCIS(配列番号5)と呼ぶ)後、E. coli XL-1ブルーに形質転換する。プラスミド保有細胞の選択は、LB寒天を含むカナマイシン(20μg/mL)上で平板培養することにより達成する(Lennox, 1955, Virology, 1:190)。プラスミドを単離し、配列決定により、予想したヌクレオチド配列を確認する。プラスミドDNAの調製は、Quiagen社の方法に従い、その材料を用いて実施する。シークエンシング反応は、Sangerら(1977)Proceedings of the National Academy of Sciences USA 74:5463-5467に従い実施する。シークエンシング反応物をABI Prism 377(PE Applied Biosystems, Weiterstadt)を用いて分離し、分析する。得られたプラスミドpCIS lysCは配列番号6として記載する。
実施例VI:C. glutamicum由来のLysC遺伝子の突然変異誘発
QuickChangeキット(社名:Stratagene/USA)を用いて、製造者の使用説明書に従い、C. glutamicum由来のlysC遺伝子の標的突然変異誘発を実施する。突然変異誘発は、プラスミドpCIS lysC(配列番号6)において実施する。QuickChange法(Stratagene)を用いて、以下に示すオリゴヌクレオチドプライマーを合成し、thr 311を311 ileで置換する:
配列番号7
5'-CGGCACCACCGACATCATCTTCACCTGCCCTCGTTCCG -3'
配列番号8
5'-CGGAACGAGGGCAGGTGAAGATGATGTCGGTGGTGCCG -3'
QuickChange反応にこれらのオリゴヌクレオチドプライマーを用いることにより、lysC遺伝子(配列番号9)において、932位のヌクレオチドの置換(CからT)が達成される。このようにしてlysC遺伝子中のアミノ酸置換Thr311 Ileは、E. coli XL-1ブルーでの形質転換およびプラスミド調製後、シークエンシング反応により確認する。このプラスミドには、pCIS lysC thr311 ileの名称をつけ、配列番号10として列挙する。
Lieblら(1989)FEMS Microbiology Letters 53:299-303に記載されているように、エレクトロポレーションによりプラスミドpCIS lysC thr311 ileをC. glutamicum ATCC13032で形質転換する。プロトコルの改変については、DE 10046870に記載されている。Sambrookら、(1989), Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harborに記載のように、サザンブロットおよびハイブリダイゼーションによる標準的方法を用いて、個々の形質転換体のlysC遺伝子座の染色体配置を確認する。これにより、含まれる形質転換体が、lysC遺伝子座で相同組換えにより形質転換プラスミドを組み込んだものであることを確認する。抗生物質を一切含まない培地で、このようなコロニーを一晩増殖させた後、サッカロースCM寒天培地(10%サッカロース)上に細胞をプレーティングし、30℃で24時間インキュベートする。ベクターpCIS lysC thr311 ile に含まれるsacB遺伝子はサッカロースを有毒な産物に変換するため、野生型lysC遺伝子と突然変異遺伝子lysC thr311 ileの間の第2相同組換えステップにより、sacB遺伝子を欠失させたコロニーだけが増殖することができる。相同組換えの際に、野生型遺伝子または突然変異遺伝子のいずれかをsacB遺伝子と一緒に欠失させることができる。野生型遺伝子と一緒にsacB遺伝子を除去する場合には、突然変異した形質転換体が生じる。
増殖するコロニーを採取し、カナマイシン感受性表現型について調べる。SacB遺伝子を欠失したクローンは、同時にカナマイシン感受性増殖挙動を示すはずである。このようなカナマイシン感受性クローンをそのリシン生産性について振盪フラスコ中で試験する(実施例6参照)。比較のため、非処理C. glutamicum ATCC13032を用いる。対照と比較してリシン生産が増加したクローンを選択し、染色体DNAを回収して、lysC遺伝子の対応する領域をPCR反応により増幅し、配列決定する。このように、リシン合成増加の特性を有し、かつ、lysCの932位で突然変異が検出されたクローンをATCC13032 lysCfbrと称する。
実施例VII:プラスミドPK19 MOB SACB PEFTUフルクトース1,6-ビスホスファターゼの調製
C. glutamicum ATCC13032由来の染色体DNAをTauchら、(1995) Plasmid 33:168-179またはEikmannsら(1994)Microbiology 140:1817-1828に従い調製する。
PCR1:オリゴヌクレオチドプライマー配列番号11および配列番号12、鋳型としての染色体DNA、ならびにPfu Turboポリメラーゼ(社名:Stratagene)を用いて、伸長因子TUの開始コドンの上流に位置する領域を標準的方法(Innisら(1990)PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Pressに記載される)に従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。
配列番号11
5’- TGGCCGTTACCCTGCGAATG -3’
および
配列番号12
5’- TGTATGTCCTCCTGGACTTC -3’
得られた約200 bpサイズのDNA断片は、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて製造者の使用説明書に従い精製する。
PCR2:オリゴヌクレオチドプライマー配列番号13および配列番号14、鋳型としての染色体DNA、ならびにPfu Turboポリメラーゼ(社名:Stratagene)を用いて、フルクトース1,6-ビスホスファターゼの遺伝子の5’領域を標準的方法(Innisら(1990)PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Pressに記載される)に従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。
配列番号13
5’- GAAGTCCAGGAGGACATACAATGAACCTAAAGAACCCCGA -3’
および
配列番号14
5’- ATCTACGTCGACCCAGGATGCCCTGGATTTC -3’
得られた約740 bpサイズのDNA断片は、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて製造者の使用説明書に従い精製する。
PCR3:オリゴヌクレオチドプライマー配列番号15および配列番号16、鋳型としての染色体DNA、ならびにPfu Turboポリメラーゼ(社名:Stratagene)を用いて、フルクトース1,6-ビスホスファターゼの遺伝子の開始コドンの上流に位置する領域を標準的方法(Innisら(1990)PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Pressに記載される)に従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。
配列番号15
5’- TATCAACGCGTTCTTCATCGGTAGCAGCACC -3’
および
配列番号16
5’- CATTCGCAGGGTAACGGCCACTGAAGGGCCTCCTGGG -3’
得られた約720 bpサイズのDNA断片は、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて製造者の使用説明書に従い精製する。
PCR4:オリゴヌクレオチドプライマー配列番号17および配列番号14、鋳型としてのPCR1および2からのPCR産物、ならびにPfu Turboポリメラーゼ(社名:Stratagene)を用いて、標準的方法(Innisら(1990)PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Pressに記載される)に従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、融合PCRを実施する。
得られた約920 bpサイズのDNA断片は、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて製造者の使用説明書に従い精製する。
PCR5:オリゴヌクレオチドプライマー配列番号15および配列番号14、鋳型としてのPCR3からのPCR産物、ならびにPfu Turboポリメラーゼ(社名:Stratagene)を用いて、標準的方法(Innisら(1990)PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Pressに記載される)に従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、融合PCRを実施する。
得られた約1640 bpサイズのDNA断片は、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて製造者の使用説明書に従い精製する。これに続き、制限酵素MluIおよびSalI(Roche Diagnostics、マンハイム)を用いて切断した後、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キットを用いて、このDNA断片を精製する。
制限酵素MluIおよびSalIでベクターpCISを切断して、電気泳動による分離後、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キットを用いて4.3 kbサイズの断片を単離した。
迅速DNA連結キット(Roche Diagnostics、マンハイム)を用いて、製造者の使用説明書に従い、前記ベクター断片をPCR5からのPCR断片と連結させ、Sambrookら(Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, (1989))に記載されているように、標準的方法に従い、コンピテントE. coli XL-1ブルー(Stratagene、米国ラホーヤ)に上記連結バッチを形質転換させる。プラスミド保有細胞の選択は、カナマイシン(20μg/mL)を含むLB寒天で培養することにより達成する(Lennox, 1955, Virology, 1:190)。
プラスミドDNAの調製は、Quiagen社の方法に従い、その材料を用いて実施する。シークエンシング反応は、Sangerら(1977) Proceedings of the National Academy of Sciences USA 74:5463-5467に従い実施する。シークエンシング反応物をABI Prism 377(PE Applied Biosystems, Weiterstadt)によって分離し、分析する。
得られたプラスミドpCIS Peftu フルクトース1,6-ビスホファターゼは配列番号17として列挙する。
実施例VIII:リシンの生産
Lieblら(1989)FEMS Microbiology Letters 53:299-303に記載されているように、エレクトロポレーションにより、プラスミドpCIS Peftu フルクトース1,6-ビスホファターゼをC. glutamicum ATCC13032に形質転換する。プロトコルの改変については、DE 10046870に記載されている。Sambrookら、(1989), Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harborに記載のように、サザンブロットおよびハイブリダイゼーションによる標準的方法を用いて、個々の形質転換体のフルクトース1,6-ビスホファターゼ遺伝子座の染色体配置を確認する。これにより、形質転換体は、フルクトース1,6-ビスホファターゼ遺伝子座で相同組換えにより形質転換プラスミドを組み込んだものを含むことを確認する。このようなコロニーを、抗生物質を一切含まない培地で一晩増殖させた後、サッカロースCM寒天培地(10%サッカロース)に細胞をプレーティングし、30℃で24時間インキュベートする。
ベクターpCIS Peftu フルクトース1,6-ビスホファターゼに含まれるsacB遺伝子はサッカロースを有毒な産物に変換するため、野生型フルクトース1,6-ビスホファターゼ遺伝子とPeftu フルクトース1,6-ビスホファターゼ融合物の間の第2相同組換えステップにより、sacB遺伝子を欠失させたコロニーだけが増殖することができる。相同組換えの際に、野生型遺伝子または融合物のいずれかをsacB遺伝子と一緒に欠失させることができる。野生型遺伝子と一緒にsacB遺伝子を除去する場合には、突然変異した形質転換体が発生する。
増殖するコロニーを採取し、カナマイシン感受性表現型について調べる。sacB遺伝子を欠失したクローンは、同時にカナマイシン感受性増殖挙動を示すはずである。Peftuプロモーターによる天然プロモーターの所望の置換が起こったか否かをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により確認する。この分析のために、出発菌株および取得クローンから染色体DNAを単離する。このために、それぞれのクローンを楊枝で寒天プレートから採取し、100μLのH2O中で懸濁させ、95℃で10分沸騰させる。各ケースで、10μLの取得溶液をPCRで鋳型として用いる。Peftuプロモーターおよびフルクトース1,6-ビスホファターゼ遺伝子と相同のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる。PCR条件は次のように選択する:初期変性:95℃で5分;変性:95℃で30秒;ハイブリダイゼーション55℃で30秒;増幅72℃で2分;30サイクル;末端伸長72℃で5分。出発菌株のDNAを含むバッチでは、オリゴヌクレオチドの選択により、PCR産物は全く形成されないはずである。第2の組換えによってPeftuによる天然プロモーターの置換を完了したクローンだけが、推定340 bpサイズのバンドである。全体として、試験したクローンのうち2つのクローンだけが陽性である。このクローンは、ATCC13032 lysCfbr Peftuフルクトース1,6-ビスホファターゼ1および2と称される。
Peftuフルクトース1,6-ビスホファターゼ構築物のリシン生産に対する作用を調べるため、菌株ATCC13032、ATCC13032 lysCfbr、ならびにATCC13032 lysCfbr Peftuフルクトース1,6-ビスホファターゼ1をCMプレート(10.0g/L D-グルコース、2.5g/L NaCl、2.0g/L尿素、10.0g/Lバクトペプトン(Difco)、5.0g/L酵母抽出物(Difco)、5.0g/L牛肉抽出物(Difco)、22.0g/L寒天(Difco)、オートクレーブ処理(20分、121℃))で30℃にて2日間培養する。その後、プレートから細胞をこそぎ取り、塩水に再懸濁させる。主培養のために、10 mLの培地Iおよび0.5gのオートクレーブ処理したCaCO3(Riedel de Haen)を1.5のOD600までの細胞懸濁液を含む100 mL三角フラスコ内に接種し、Infors AJ118型の[振盪インキュベーター](社名:Infors、スイス、Bottmingen)を用いて220rpmで39時間インキュベートした。その後、培地において分離したリシンの濃度を決定する。
培地I:
40g/L サッカロース
60g/L 糖蜜(100%糖含有率に関して計算)
10g/L (NH4)2SO4
0.4g/L MgSO4*7H2O
0.6g/L KH2PO4
0.3 mg/L チアミン*HCl
1mg/L ビオチン(NH4OHでpH 8.0に調節した1mg/mL滅菌ろ過原液から)
2mg/L FeSO4
2mg/L MnSO4
NH4OHでpH 7.8に調節し、オートクレーブ処理(121℃、20分)
さらに、ストック液(200μg/mL、滅菌ろ過)からのビタミンB12(ヒドロキシコバラミン;Sigma Chemicals)を最終濃度100μg/Lまで添加する。
アミノ酸濃度の決定は、Agilent 1100 Series LC System HPLCを用いて、Agilentに従い高圧液体クロマトグラフィーにより実施する。オルト−フタルアルデヒドによるプレカラム誘導体化により、形成されたアミノ酸の定量を実施することができ;Hypersil AAカラム(Agilent)でアミノ酸混合物の分離が起こる。
実施例IX:プラスミドPCIS PSODフルクトース1,6-ビスホファターゼの調製
C. glutamicum ATCC13032由来の染色体DNAをTauchら(1995) Plasmid 33:168-179またはEikmannsら(1994)Microbiology 140:1817-1828に従い調製する。
PCR1:オリゴヌクレオチドプライマー配列番号18および配列番号19、鋳型としての染色体DNA、およびPfu Turboポリメラーゼ(社名:Stratagene)を用いて、スーパーオキシドジスムターゼの開始コドンの上流に位置する領域を標準的方法(Innisら(1990)PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Pressに記載のように)に従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。
配列番号18
5’- tagctgccaattattccggg-3’
および
配列番号19
5’- GGGTAAAAAATCCTTTCGTA -3’
得られた約200 bpサイズのDNA断片は、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて製造者の使用説明書に従い精製する。
PCR2:オリゴヌクレオチドプライマー配列番号20および配列番号21、鋳型としての染色体DNA、およびPfu Turboポリメラーゼ(社名:Stratagene)を用いて、フルクトース1,6-ビスホスファターゼの遺伝子の5’領域を標準的方法(Innisら(1990)PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Pressに記載される)に従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。
配列番号20
5’- CCCGGAATAATTGGCAGCTACTGAAGGGCCTCCTGGG -3’
および
配列番号21
5’- TATCAACGCGTTCTTCATCGGTAGCAGCACC -3’
得られた約720 bpサイズのDNA断片は、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて製造者の使用説明書に従い精製する。
PCR3:オリゴヌクレオチドプライマー配列番号22および配列番号23、鋳型としての染色体DNA、ならびにPfu Turboポリメラーゼ(社名:Stratagene)を用いて、フルクトース1,6-ビスホスファターゼの開始コドンの上流に位置する領域を標準的方法(Innisら(1990)PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Pressに記載される)に従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅する。
配列番号22
5’- TACGAAAGGATTTTTTACCCATGAACCTAAAGAACCCCGA -3’
および
配列番号23
5’- ATCTACGTCGACCCAGGATGCCCTGGATTTC -3’
得られた約740 bpサイズのDNA断片は、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて製造者の使用説明書に従い精製する。
PCR4:オリゴヌクレオチドプライマー配列番号18および配列番号23、鋳型としてのPCR1および3からのPCR産物、ならびにPfu Turboポリメラーゼ(社名:Stratagene)を用いて、標準的方法(Innisら(1990) PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Pressに記載される)に従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、融合PCRを実施する。
得られた約930 bpサイズのDNA断片は、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて製造者の使用説明書に従い精製する。
PCR5:オリゴヌクレオチドプライマー配列番号21および配列番号23、鋳型としてのPCR2および4からのPCR産物、ならびにPfu Turboポリメラーゼ(社名:Stratagene)を用いて、標準的方法(Innisら(1990)PCR Protocols. A Guide to Methods and Applications, Academic Pressに記載される)に従うポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により、融合PCRを実施する。
得られた約1650 bpサイズのDNA断片は、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キット(Amersham Pharmacia、フライブルグ)を用いて製造者の使用説明書に従い精製する。これに続き、制限酵素MluIおよびSalI(Roche Diagnostics、マンハイム)を用いて切断した後、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キットを用いて、このDNA断片を精製する。
制限酵素MluIおよびSalIでベクターpCISを切断して、電気泳動による分離後、GFXTM PCR DNAおよびゲルバンド精製キットの使用により4.3 kbサイズの断片を単離した。
迅速DNA連結キット(Roche Diagnostics、マンハイム)を用いて、製造者の使用説明書に従い、前記ベクター断片をPCR5からのPCR断片と連結させ、Sambrookら(Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor, (1989))に記載されているような標準的方法に従い、コンピテントE. coli XL-1ブルー(Stratagene、米国ラホーヤ)に上記連結バッチを形質転換させる。プラスミド保有細胞の選択は、カナマイシン(20μg/mL)を含むLB寒天で培養することにより達成する(Lennox, 1955, Virology, 1:190)。
プラスミドDNAの調製は、Quiagen社の方法に従い、その材料を用いて実施する。シークエンシング反応は、Sangerら(1977) Proceedings of the National Academy of Sciences USA 74:5463-5467に従い実施する。シークエンシング反応物をABI Prism 377(PE Applied Biosystems, Weiterstadt)によって分離し、分析する。
得られたプラスミドpCIS Psodフルクトース1,6-ビスホファターゼは配列番号24として列挙する。
実施例X:リシンの生産
Lieblら(1989)FEMS Microbiology Letters 53:299-303に記載されているように、エレクトロポレーションにより、プラスミドpCIS Psodフルクトース1,6-ビスホファターゼをC. glutamicum ATCC13032lysCfbrで形質転換する。プロトコルの改変については、DE 10046870に記載されている。Sambrookら(1989), Molecular Cloning. A Laboratory Manual, Cold Spring Harborに記載のように、サザンブロットおよびハイブリダイゼーションによる標準的方法を用いて、個々の形質転換体のフルクトース1,6-ビスホファターゼ遺伝子座の染色体配置を確認する。これにより、形質転換体は、フルクトース1,6-ビスホファターゼ遺伝子座で相同組換えにより形質転換プラスミドを組み込んだものを含むことを確認する。抗生物質を一切含まない培地で、このようなコロニーを一晩増殖させた後、サッカロースCM寒天培地(10%サッカロース)に細胞をプレーティングし、30℃で24時間インキュベートする。
ベクターpCIS Psodフルクトース1,6-ビスホファターゼに含まれるsacB遺伝子はサッカロースを有毒な産物に変換するため、野生型フルクトース1,6-ビスホファターゼ遺伝子とPsodフルクトース1,6-ビスホファターゼ融合物の間の第2相同組換えステップにより、sacB遺伝子を欠失させたコロニーだけが増殖することができる。相同組換えの際に、野生型遺伝子または融合物のいずれかをsacB遺伝子と一緒に欠失させることができる。野生型遺伝子と一緒にsacB遺伝子を除去する場合には、突然変異した形質転換体が生じる。
増殖するコロニーを採取し、カナマイシン感受性表現型について調べる。sacB遺伝子を欠失したクローンは、同時にカナマイシン感受性増殖挙動を示すはずである。Psodプロモーターによる天然プロモーターの所望の置換が起こったか否かをポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により確認する。この分析のために、出発菌株および取得したクローンから染色体DNAを単離する。このために、それぞれのクローンを楊枝で寒天プレートから採取し、100μLのH2O中で懸濁させ、95℃で10分沸騰させる。各ケースで、10μLの取得溶液をPCRでの鋳型として用いる。Psodプロモーターおよびフルクトース1,6-ビスホファターゼ遺伝子と相同のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いる。PCR条件は次のように選択する:初期変性:95℃で5分;変性95℃で30秒;ハイブリダイゼーション35℃で30秒;増幅72℃で2分;30サイクル;末端伸長72℃で5分。出発菌株のDNAを含むバッチでは、オリゴヌクレオチドの選択により、PCR産物は全く形成されないはずである。第2の組換えにより、Psodによる天然プロモーターの置換を完了した3つのクローンだけが、推定サイズ350 bpのバンドである。全体として、試験したクローンのうち3つのクローンだけが陽性である。これらのクローンは、ATCC13032 lysCfbr Psodフルクトース1,6-ビスホファターゼ1、2および3と称される。
Psodフルクトース1,6-ビスホファターゼ構築物のリシン生産に対する効果を調べるため、菌株ATCC13032、ATCC13032 lysCfbr、ならびにATCC13032 lysCfbr Psodフルクトース1,6-ビスホファターゼ1をCMプレート(10.0g/L D-グルコース、2.5g/L NaCl、2.0g/L尿素、10.0g/Lバクトペプトン(Difco)、5.0g/L酵母抽出物(Difco)、5.0g/L牛肉抽出物(Difco)、22.0g/L寒天(Difco)、オートクレーブ処理(20分、121℃))で30℃にて2日間培養する。その後、プレートから細胞をこそぎ取り、塩水に再懸濁させる。主培養のために、10 mLの培地Iと0.5gのオートクレーブ処理したCaCO3(Riedel de Haen)を、1.5のOD600までの細胞懸濁液を含む100 mL三角フラスコ内に接種し、Infors AJ118型の振盪インキュベーター(社名:Infors、スイス、Bottmingen)を用いて220rpmで39時間インキュベートした。その後、培地において分離したリシンの濃度を決定する。
培地I:
40g/L サッカロース
60g/L 糖蜜(100%糖含有率に対して計算)
10g/L (NH4)2SO4
0.4g/L MgSO4*7H2O
0.6g/L KH2PO4
0.3 mg/L チアミン*HCl
1mg/L ビオチン(NH4OHでpH 8.0に調節した1mg/mL滅菌ろ過ストック液から)
2mg/L FeSO4
2mg/L MnSO4
NH4OHでpH 7.8に調節し、オートクレーブ処理(121℃、20分)
さらに、ストック液(200μg/mL、滅菌ろ過)からのビタミンB12(ヒドロキシコバラミン;Sigma Chemicals)を最終濃度100μg/Lまで添加する。
アミノ酸濃度の決定は、Agilent 1100 Series LC System HPLCを用いて、Agilentに従い高圧液体クロマトグラフィーにより実施する。オルト−フタルアルデヒドによるプレカラム誘導体化により、形成されたアミノ酸の定量を実施することができ;Hypersil AAカラム(Agilent)でアミノ酸混合物の分離が起こる。
均等物
当業者であれば、本明細書に記載した本発明の具体的実施形態について多数の均等物を認識する、もしくは日常的な実験だけで確認することができよう。このような均等物も、添付の特許請求の範囲に包含されるものとする。
ペントース生合成経路を概略的に示す図である。 グルコースおよびフルクトースを用いたリシン生成中のCorynebacterium glutamicumのトレーサー実験においてGC/MSにより測定した分泌リシンおよびトレハロースの相対質量アイソトポマー画分の比較を示す図である。 GC/MSによる分泌リシンおよびトレハロースの標識測定による13Cトレーサー実験のための代謝物平衡化およびアイソトポマーモデル化の包括的手法を用いて、実験結果に最も適合するものから推定したグルコースでのリシン生成中のCorynebacterium glutamicum ATCC 21526の中心代謝におけるin vivo炭素流入分布。正味流入を方形内に示すが、その際、可逆的反応については、正味流入の方向を対応する黒いボックス近傍の矢印で示す。トランスアルドラーゼ、トランスケトラーゼおよびグルコース6-リン酸イソメラーゼの流入の下にある括弧内の数字は、流入可逆性を示す。すべての流入は、平均比グルコース取込み率のモル百分率として表す(1.77 ミリモルg-1h-1)。 GC/MSによる分泌リシンおよびトレハロースの標識測定による13Cトレーサー実験のための代謝物平衡化およびアイソトポマーモデル化の包括的手法を用いて、実験結果に最も適合するものから推定したフルクトースでのリシン生成中のCorynebacterium glutamicum ATCC 21526の中心代謝におけるin vivo炭素流入分布。正味流入を方形内に示すが、その際、可逆的反応については、正味流入の方向を対応する黒いボックス近傍の矢印で示す。トランスアルドラーゼ、トランスケトラーゼおよびグルコース6-リン酸イソメラーゼの流入の下にある括弧内の数字は、流入可逆性を示す。すべての流入は、平均比フルクトース取込み率のモル百分率として表す(1.93 ミリモルg-1h-1)。 グルコース増殖性(A)リシン生産性Corynebacterium glutamicumの中心代謝の代謝ネットワークを示し、これは、輸送流入、同化流入、および中間代謝物プール間の流入を含む。 フルクトース増殖性(B)リシン生産性Corynebacterium glutamicumの中心代謝の代謝ネットワークを示し、これは、輸送流入、同化流入、および中間代謝物プール間の流入を含む。

Claims (18)

  1. 微生物においてペントースリン酸経路を介した代謝流入を増加するための方法であって、ペントースリン酸経路を介した代謝流入が増加するような条件下で、過剰発現させた遺伝子を含む組換え微生物を培養することを含み、前記遺伝子がフルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子であり、且つ炭素源としてフルクトースまたはスクロースを用いる、上記方法。
  2. 炭素源としてフルクトースを用いる、請求項1に記載の方法。
  3. 前記フルクトース1,6-ビスホスファターゼ遺伝子がコリネバクテリウムに由来する、請求項1に記載の方法。
  4. 前記遺伝子がフルクトース1,6-ビスホスファターゼをコードする、請求項1に記載の方法。
  5. 前記フルクトース1,6-ビスホスファターゼが増加した活性を有する、請求項4に記載の方法。
  6. 前記微生物がグラム陽性微生物である、請求項1に記載の方法。
  7. 前記微生物がコリネバクテリウム属に属する、請求項1に記載の方法。
  8. 前記微生物がコリネバクテリウム・グルタミカム(Corynebacterium glutamicum)である、請求項7に記載の方法。
  9. 前記微生物を発酵させることにより、精密化学物質を生産する、請求項1に記載の方法。
  10. 前記微生物が、1種以上の別の調節解除遺伝子をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  11. 前記1種以上の別の調節解除遺伝子が、ask遺伝子、dapA遺伝子、asd遺伝子、dapB遺伝子、ddh遺伝子、lysA遺伝子、lysE遺伝子、pycA遺伝子、zwf遺伝子、pepCL遺伝子、gap遺伝子、zwa1遺伝子、tkt遺伝子、tad遺伝子、mqo遺伝子、tpi遺伝子、pgk遺伝子、およびsigC遺伝子からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
  12. 前記1種以上の別の調節解除遺伝子を過剰発現させる、請求項11に記載の方法。
  13. 前記1種以上の別の調節解除遺伝子が、以下の、
    フィードバック耐性アスパルトキナーゼ、ジヒドロジピコリン酸シンターゼ、アスパラギン酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ、ジヒドロジピコリン酸レダクターゼ、ジアミノピメリン酸デヒドロゲナーゼ、ジアミノピメリン酸エピメラーゼ、リシンエクスポーター、ピルビン酸カルボキシラーゼ、グルコース6-リン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼ、グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ、RPFタンパク質前駆体、トランスケトラーゼ、トランスアルドラーゼ、メナキニンオキシドレダクターゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、3-ホスホグリセリン酸キナーゼ、ならびにRNA-ポリメラーゼσ因子sigCからなる群より選択されるタンパク質をコードする、請求項10に記載の方法。
  14. 前記タンパク質が増加した活性を有する、請求項13に記載の方法。
  15. 前記1種以上の別の調節解除遺伝子が、pepCK遺伝子、mal E遺伝子、glgA遺伝子、pgi遺伝子、dead遺伝子、menE遺伝子、citE遺伝子、mikE17遺伝子、poxB遺伝子、zwa2遺伝子、およびsucC遺伝子からなる群より選択される、請求項10に記載の方法。
  16. 前記1種以上の別の調節解除遺伝子を減弱、低減、もしくは抑制する、請求項15に記載の方法。
  17. 前記1種以上の別の調節解除遺伝子が、以下の、
    ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ、リンゴ酸酵素、グリコーゲンシンターゼ、グルコース6-リン酸イソメラーゼ、ATP依存性RNAヘリカーゼ、o-スクシニル安息香酸CoAリガーゼ、クエン酸リアーゼβ鎖、転写レギュレーター、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、RPFタンパク質前駆体、ならびにスクシニルCoAシンセターゼから成る群より選択されるタンパク質をコードする、請求項10に記載の方法。
  18. 前記タンパク質が低減した活性を有する、請求項17に記載の方法。
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