JP4902436B2 - バレル式電解クロメート処理 - Google Patents

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Description

本発明は、バレル式めっき法で電解クロメート被膜を鉄鋼製物品のニッケルめっき上に形成する技術に関する。
特許文献1に開示されているように、機械器具の炭素鋼製部品のような鉄鋼製物品に、耐食性を向上させる保護被膜を形成する場合、鉄鋼製物品の上に電解ニッケルめっき層を形成し、電解ニッケルめっき層の上に電解クロメート層を形成する。
このクロメート層は、クロム成分の大部分が三価クロムである。クロム成分中に人体に有害な六価クロムが少ない。電解クロメート処理液は、重クロム酸ナトリウム又は重クロム酸カリウムの水溶液である。電解クロメート処理法は、バレル式めっき法ではなく、引っ掛けめっき法とも言われる静止めっき法である。静止めっき法は、直流電源の陰極に接続された通電具を鉄鋼製物品に接続し、鉄鋼製物品を処理液に没入し、陰極に接続された鉄鋼製物品を処理液中の陽極に対面して保持する。
特許文献1は、電解クロメート処理をバレル式めっき法で行うと、クロメート層が脆くて薄くなる旨を記載している。
特開2002−184552号公報
電解クロメート処理を施した鉄鋼製物品は、錆が発生し難く、かつ、有害な六価クロムが溶け出し難いことが望まれる。多量の鉄鋼製物品に電解クロメート処理を施すときには、処理能率が高いことが望まれる。
バレル式めっき法は、バレルと言われる籠に多数の物品を入れて一挙に処理する。物品1個ずつに通電具を接続する静止めっき法よりも、多数の物品を処理する能率が高い。
ところが、特許文献1に記載されているように、バレル式めっき法によって、重クロム酸ナトリウム又は重クロム酸カリウムの水溶液を用い、電解クロメート処理を炭素鋼製物品のニッケルめっき層上に施した場合、所望の物性のクロメート層が得られない。
[課題を解決するための実験研究]
1)バレル式電解クロメート処理を鉄鋼製物品のニッケルめっき層上に施すに当り、所望の物性のクロメート層を得るため、クロム酸塩の水溶液に金属塩を添加することにした。そこで、各種のクロム酸塩に各種の金属塩を添加した多種類の水溶液について、それぞれ、実験した。
多数の実験の結果、重クロム酸塩にモリブデン酸塩を添加した水溶液を用いたときに、所望の物性の電解クロメート層が得られることが判明した。
この水溶液を用いてバレル式電解クロメート処理をニッケルめっき層上に施した鉄鋼製物品は、JIS Z2371に規定されている試験方法で塩水噴霧試験を48時間行ったところ、鉄錆が見つからなかった。また、その鉄鋼製物品は、濃度5%の食塩水で2時間煮沸し、その抽出液をジフェニルカルバジド吸光光度法で定量分析したところ、六価クロムが検出されなかった。
鉄鋼製物品のニッケルめっき層上に形成された電解クロメート層は、ニッケルめっき層のほぼ全てのピンホールを閉鎖し、かつ、クロム成分のほぼ全部が無害な三価クロムであって有害な六価クロムがほぼ含まれていないものと推察される。
2)上記の「重クロム酸塩」は、重クロム酸ナトリウムと重クロム酸カリウムが挙げられる。それらの一方又は両方が用いられる。上記の「モリブデン酸塩」は、モリブデン酸ナトリウムとモリブデン酸カリウムが代表例である。それらの一方又は両方が用いられる。
重クロム酸ナトリウム(Na2Cr27・2H2O)とモリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4・2H2O)は、市場で入手し易い。「重クロム酸ナトリウムにモリブデン酸ナトリウムを添加した水溶液」が実用上優れている。
3)上記の「重クロム酸塩にモリブデン酸塩を添加した水溶液」は、1リットル当り、重クロム酸塩の質量が20〜300gで、モリブデン酸塩の質量が0.05〜75gであることが好ましい。また、重クロム酸塩のモル数とモリブデン酸塩のモル数の和が0.1以上であることが好ましい。
重クロム酸塩は、上記の範囲より少なくなると、電解クロメート層が色むらになり易い。逆に多くなると、バレルと鉄鋼製物品に付着して持ち去られる汲出し量が多くなって無駄になる。
モリブデン酸塩は、上記の範囲より少なくなると、鉄錆が生じ易くなる。逆に多くなると、電解クロメート層が色むらになり易い。
4)上記の「重クロム酸塩にモリブデン酸塩を添加した水溶液」に浸かる陽極は、不溶性の陽極板が好ましい。不溶性の陽極板は、チタン板に白金めっきを施したチタン−白金板、チタン板に酸化イリジウムめっきを施したチタン−酸化イリジウム板や、炭素板が例示される。
1)電解クロメート処理をバレル式めっき法で鉄鋼製物品のニッケルめっき層上に施すのに用いる電解クロメート処理液であって、
クロム酸塩モリブデン酸塩水溶液であることを特徴とするバレル式電解クロメート処理液。
2)上記のバレル式電解クロメート処理液において、
重クロム酸塩は、重クロム酸ナトリウムと重クロム酸カリウムの一方又は両方であり、
モリブデン酸塩は、モリブデン酸ナトリウムとモリブデン酸カリウムの一方又は両方であることを特徴とする。
3)上記のバレル式電解クロメート処理液において、
1リットル当り、重クロム酸塩の質量が20〜300gで、モリブデン酸塩の質量が0.05〜75gであり、重クロム酸塩のモル数とモリブデン酸塩のモル数の和が0.1以上であることを特徴とする。
「鉄鋼製物品」の「鉄鋼」は、「炭素鋼」の外に「特殊鋼」「純鉄」「鋳鋼」と「鋳鉄」を包含し、鉄系金属を意味する。「特殊鋼」は、「合金鋼」とも言われ、「ステンレス鋼」を包含する。
「鉄鋼製物品」の「物品」は、機械、器具や道具、美術品などの部品や要素、組立体、中間品や完成品を包含する。
「ニッケルめっき層」は、含有量が最も多い金属成分がニッケルであるめっき層を意味し、「ニッケル合金めっき層」を包含する。
「バレル」は、「一方向に回転するバレル」「正逆転するバレル」「回転しつつ移動するバレル」「回転軸が水平なバレル」「回転軸が傾斜したバレル」「六角形や八角形などの角筒形状のバレル」「円筒形状のバレル」を包含する。
本発明のバレル式電解クロメート処理液を用いてバレル式電解クロメート処理をニッケルめっき層上に施した鉄鋼製物品は、錆が発生し難く、かつ、有害な六価クロムが溶け出し難い。多量の鉄鋼製物品を電解クロメート処理する能率が高い。
鉄鋼製物品は、脱脂し、水洗し、酸浸漬処理し、水洗し、ニッケルストライク処理し、水洗し、電解ニッケルめっき処理し、水洗し、電解クロメート処理し、水洗し、遠心乾燥する。
酸浸漬処理は、硫酸の水溶液を用いる。硫酸水溶液の濃度は、5〜10%である。
ニッケルストライク処理は、バレル式めっき法であり、塩化ニッケルと塩酸の水溶液を用いる。その水溶液は、1リットル当り、塩化ニッケルの質量が250g位であり、塩酸の容量が125ミリリットル位である。
電解ニッケルめっき処理は、バレル式めっき法であり、1)硫酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸と光沢剤の水溶液を用いる。その水溶液は、1リットル当り、硫酸ニッケルの質量が200〜350g、塩化ニッケルの質量が25〜60gで、ホウ酸の質量が25〜50gである。又は、2)スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸と光沢剤の水溶液を用いる。その水溶液は、1リットル当り、スルファミン酸ニッケルの質量が300〜500g、塩化ニッケルの質量が20〜40gで、ホウ酸の質量が20〜40gである。
電解クロメート処理は、バレル式めっき法であり、図1に示すように、処理槽1にクロメート処理液sを入れ、クロメート処理液sに陽極板2を没入し、陰極線3を内蔵したバレル4に多数の鉄鋼製物品wを入れ、このバレル4をクロメート処理液sに浸けてバレル4内の陰極線3と多数の鉄鋼製物品wをクロメート処理液sに没入する。
クロメート処理液sは、重クロム酸ナトリウム(Na2Cr27・2H2O)にモリブデン酸ナトリウム(Na2MoO4・2H2O)を添加した水溶液である。1リットル当り、重クロム酸ナトリウムの質量が20〜300gで、モリブデン酸ナトリウムの質量が0.05〜75gであり、重クロム酸ナトリウムのモル数とモリブデン酸ナトリウムのモル数の和が0.1以上である。
陽極板2は、炭素板であり、不溶性である。陰極線3は、銅線である。バレル4は、六角筒形状であり、水平な中心線の周りに一方向に回転する。この水平回転バレルは、非導電性材料製であり、クロメート処理液sが出入りする籠構造である。鉄鋼製物品wは、炭素鋼製や特殊鋼製の部品や機械要素である。
バレル4は、回転する。陽極板2と陰極線3との間に直流電圧を掛ける。すると、バレル4内の多数の鉄鋼製物品wは、クロメート処理液s中で回転しつつ移動し、陰極線3に接触する。各鉄鋼製物品wは、ニッケルめっき層上に電解クロメート層が形成される。
本例において、鉄鋼製物品は、炭素鋼製のボルトである。ボルトの寸法は、径が8mmで、長さが100mmである。
このボルトは、上記の電解ニッケルめっき処理を施し、厚さ10μmの電解ニッケルめっき層を形成した。その後、上記のバレル式電解クロメート処理を次の条件で行った。
クロメート処理液は、1リットル当り、質量が
重クロム酸ナトリウム 210g
モリブデン酸ナトリウム 1g であり、
両ナトリウムのモル数の和 0.7位 である。
液体温度 40℃
直流電圧 12V
処理時間 5分
ボルトは、ニッケルめっき層上に電解クロメート層が形成された。このボルトは、塩水噴霧試験を48時間行った。その試験後に鉄錆が見つからなかった。塩水噴霧試験は、JIS Z2371に規定されている塩水噴霧試験方法による。試験片は、温度が35℃に維持されている試験槽に入れて濃度5%の塩水を噴霧する。
また、ボルトは、濃度5%の食塩水で1時間煮沸して自然冷却し、再び1時間煮沸して自然冷却し、その抽出液をジフェニルカルバジド吸光光度法で定量分析した。六価クロムは、検出されなかった。検出下限値は、0.0001ppmである。
上記の吸光光度法は、上記の抽出液の一部を取り出し、それにジフェニルカルバジドの指示薬を添加する。抽出液は、六価クロムが含まれていると、赤色になる。指示薬を添加した抽出液と、指示薬を添加していない抽出液との赤色濃度差を吸光光度計で測定し、六価クロムの抽出量を判定する。吸光光度計は、島津製作所のUvmini-1240である。
本例は、実施例1におけるバレル式電解クロメート処理の条件を次のように変更した。その他の点は、実施例1におけるのと同様である。
重クロム酸ナトリウム 150g
モリブデン酸ナトリウム 0.5g
両ナトリウムのモル数の和 0.5位
液体温度 35℃
直流電圧 15V
処理時間 7分
本例のボルトは、実施例1におけるのと同様に、塩水噴霧試験と六価クロムの定量分析を行った。48時間の塩水噴霧試験後に鉄錆が見つからなかった。六価クロムは、検出下限値、0.0001ppm未満であった。
本例は、実施例1におけるバレル式電解クロメート処理の条件を次のように変更した。その他の点は、実施例1におけるのと同様である。
重クロム酸ナトリウム 50g
モリブデン酸ナトリウム 50g
両ナトリウムのモル数の和 0.4弱
液体温度 45℃
直流電圧 10V
処理時間 10分
本例のボルトは、実施例1におけるのと同様に、塩水噴霧試験と六価クロム定量分析を行った。塩水噴霧試験後に鉄錆が見つからなかった。六価クロムは、検出下限値未満であった。
本発明は、耐食性と六価クロムの非溶出性が要求される鉄鋼製物品の表面処理に利用される。
本発明の実施形態におけるバレル式電解クロメート処理を行う装置の模式図。
符号の説明
1 クロメート処理槽
2 陽極板
3 陰極線
4 バレル
s クロメート処理液
w 鉄鋼製物品

Claims (3)

  1. 電解クロメート処理をバレル式めっき法で鉄鋼製物品のニッケルめっき層上に施すのに用いる電解クロメート処理液であって、
    クロム酸塩モリブデン酸塩水溶液であることを特徴とするバレル式電解クロメート処理液。
  2. 重クロム酸塩は、重クロム酸ナトリウムと重クロム酸カリウムの一方又は両方であり、
    モリブデン酸塩は、モリブデン酸ナトリウムとモリブデン酸カリウムの一方又は両方であることを特徴とする請求項1に記載のバレル式電解クロメート処理液。
  3. 1リットル当り、重クロム酸塩の質量が20〜300gで、モリブデン酸塩の質量が0.05〜75gであり、重クロム酸塩のモル数とモリブデン酸塩のモル数の和が0.1以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のバレル式電解クロメート処理液。
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