JP4899311B2 - 荷重測定装置付転がり軸受ユニット - Google Patents

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Description

この発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットは、複数個の転動体を介して相対回転自在に組み合わされた静止側軌道輪と回転側軌道輪との相対変位量(例えばラジアル方向の変位量とアキシアル方向の変位量との一方又は双方)を検出し、この変位量に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間に加わる荷重を求める為に利用する。更に、この求めた荷重を、自動車等の車両の走行安定性確保を図る為、或は、各種工作機械の工具送り速度等を適切に調節する為に利用する。
例えば自動車の車輪は懸架装置に対し、複列アンギュラ型の転がり軸受ユニット等の転がり軸受ユニットにより回転自在に支持する。又、自動車の走行安定性を確保する為に、例えば非特許文献1に記載されている様な、アンチロックブレーキシステム(ABS)やトラクションコントロールシステム(TCS)、更には、ビークルスタビリティコントロールシステム(VSC)等の車両用走行安定化装置が使用されている。この様な各種車両用走行安定化装置を制御する為には、車輪の回転速度、車体に加わる各方向の加速度等の信号が必要になる。そして、より高度の制御を行なう為には、車輪を介して上記転がり軸受ユニットに加わる荷重(例えばラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)の大きさを知る事が好ましい場合がある。
この様な事情に鑑みて、特許文献1には、ラジアル荷重を測定自在な、荷重測定装置付転がり軸受ユニットが記載されている。この従来構造の第1例の場合には、非接触式の変位センサにより、回転しない外輪と、この外輪の内径側で回転するハブとの径方向に関する変位を測定する事により、これら外輪とハブとの間に加わるラジアル荷重を求める様にしている。求めたラジアル荷重は、ABSを適正に制御する他、積載状態の不良を運転者に知らせる為に利用する。
又、特許文献2には、転がり軸受ユニットに加わるアキシアル荷重を測定する構造が記載されている。この特許文献2に記載された従来構造の第2例の場合、外輪の外周面に設けた固定側フランジの内側面複数個所で、この固定側フランジをナックルに結合する為のボルトを螺合する為のねじ孔を囲む部分に、それぞれ荷重センサを添設している。上記外輪を上記ナックルに支持固定した状態でこれら各荷重センサは、このナックルの外側面と上記固定側フランジの内側面との間で挟持される。この様な従来構造の第2例の転がり軸受ユニットの荷重測定装置の場合、車輪と上記ナックルとの間に加わるアキシアル荷重は、上記各荷重センサにより測定される。更に、特許文献3には、一部の剛性を低くした外輪相当部材に動的歪みを検出する為のストレンゲージを設け、このストレンゲージが検出する転動体の通過周波数から転動体の公転速度を求め、更に、転がり軸受に加わるアキシアル荷重を測定する方法が記載されている。
前述の特許文献1に記載された従来構造の第1例の場合、変位センサにより、外輪とハブとの径方向に関する変位を測定する事で、転がり軸受ユニットに加わる荷重を測定する。但し、この径方向に関する変位量は僅かである為、この荷重を精度良く求める為には、上記変位センサとして、高精度のものを使用する必要がある。高精度の非接触式センサは高価である為、荷重測定装置付転がり軸受ユニット全体としてコストが嵩む事が避けられない。
又、特許文献2に記載された従来構造の第2例の場合、ナックルに対し外輪を支持固定する為のボルトと同数だけ、荷重センサを設ける必要がある。この為、荷重センサ自体が高価である事と相まって、転がり軸受ユニットの荷重測定装置全体としてのコストが相当に嵩む事が避けられない。又、特許文献3に記載された方法は、外輪相当部材の一部の剛性を低くする必要があり、この外輪相当部材の耐久性確保が難しくなる可能性がある他、十分な測定精度を得る事が難しいと考えられる。
この様な事情に鑑みて本発明者等は先に、複列アンギュラ型の転がり軸受ユニットを構成する回転側軌道輪にエンコーダを、この回転側軌道輪と同心に支持固定し、このエンコーダの被検出面の変位を検出する事で、この回転側軌道輪と静止側軌道輪との相対変位量を求める発明(先発明)を行なった(特願2004−279155号)。この先発明に係る構造の場合、上記エンコーダの被検出面の特性が円周方向に関して変化するピッチ若しくは位相は、検出すべき変位の方向に一致する、上記被検出面の幅方向に関して連続的に変化している。そして、上記静止側軌道輪等の固定部分に支持したセンサの検出部を、上記エンコーダの被検出面に近接対向させて、このセンサの出力信号が、上記相対変位量に応じて変化する様にしている。
図9〜10は、この様な先発明に係る構造の第1例を示している。この先発明の第1例の荷重測定装置付転がり軸受ユニットは、車輪支持用転がり軸受ユニット1と、回転速度検出装置としての機能を兼ね備えた、荷重測定装置2とを備える。
このうちの車輪支持用転がり軸受ユニット1は、図9に示す様に、外輪3と、ハブ4と、複数の転動体5、5とを備える。このうちの外輪3は、使用状態で懸架装置に支持固定される静止側軌道輪であって、内周面に複列の外輪軌道6、6を、外周面にこの懸架装置に結合する為の外向フランジ状の取付部7を、それぞれ有する。又、上記ハブ4は、使用状態で車輪を支持固定してこの車輪と共に回転する回転側軌道輪であって、ハブ本体8と内輪9とを組み合わせ固定して成る。この様なハブ4は、外周面の軸方向外端部(懸架装置への組み付け状態で車体の幅方向外側となる端部)に車輪を支持固定する為のフランジ10を、軸方向中間部及び内輪9の外周面に複列の内輪軌道11、11を、それぞれ設けている。上記各転動体5、5は、これら各内輪軌道11、11と上記各外輪軌道6、6との間にそれぞれ複数個ずつ、互いに逆方向の(背面組み合わせ型の)接触角を付与した状態で、転動自在に設けて、上記外輪3の内径側に上記ハブ4を、この外輪3と同心に回転自在に支持している。
一方、上記荷重測定装置2は、図9に示す様に、エンコーダ12と、センサ13と、図示しない演算器とを備える。
このうちのエンコーダ12は、軟鋼板等の磁性材製であり、それぞれがスリット状である、特許請求の範囲に記載した被検出用特性部に相当する複数の透孔14a、14bを、交互に形成している。これら各透孔14a、14bは、上記エンコーダ12の中心軸の方向に関して傾斜している。又、円周方向に隣り合う透孔14a、14b同士の間で、傾斜方向は互いに逆になっている。又、円周方向に隣り合う透孔14a、14b同士のピッチは、交互に大小を繰り返している。この様なエンコーダ12は、上記ハブ4の中間部に外嵌固定している。一方、上記センサ13は、上記外輪3の中間部に形成した取付孔15に、径方向外方から内方に挿入する状態で設け、先端部に設けた検出部を上記外輪3の内周面から径方向内方に突出させて、被検出面である、上記エンコーダ12の外周面に近接対向させている。
上述の様に構成する先発明の荷重測定装置の第1例の場合、アキシアル荷重に基づいて上記ハブ4と上記外輪3とが軸方向に相対変位すると、上記センサ13の検出信号が変化するパターンが変化する。そこで、このパターンの変化に基づいて、上記相対変位の大きさ、更には上記アキシアル荷重の大きさを求められる。尚、同方向に傾斜した透孔14a、14a(14b、14b)に基づいて上記検出信号が変化する周期は、上記相対変位に拘らず変化しない。従って、この周期に基づいて、上記ハブ4の回転速度を求める事もできる。
次に、図11は、先発明に係る構造の第2例に組み込むエンコーダ12aを示している。このエンコーダ12aは、磁性金属板により円筒状に形成されたもので、幅方向片半部と他半部とに、それぞれスリット状であり、特許請求の範囲に記載した被検出用特性部に相当する透孔14c、14dを、それぞれ上記エンコーダ12aの中心軸の方向に対し傾斜させた状態で、円周方向に関して等間隔に形成している。幅方向片半部の透孔14c、14cの傾斜方向と、他半部の透孔14d、14dの傾斜方向とは互いに逆である。この様なエンコーダ12aの外周面には、軸方向に離隔した状態で配置した1対のセンサの検出部を、近接対向させる。
上述の様なエンコーダ12aを含んで構成する、先発明の荷重測定装置の第2例の場合、アキシアル荷重に基づいてハブと外輪とが軸方向に相対変位すると、上記1対のセンサの検出信号の位相がずれる。そこで、このずれの大きさに基づいて、上記相対変位の大きさ、更には上記アキシアル荷重の大きさを求められる。尚、上記ハブの回転速度は、何れかのセンサの検出信号に基づいて求められる。
次に、図12〜13は、先発明に係る構造の第3例を示している。この先発明の第3例の場合には、ハブ4の内端部に外嵌固定した内輪9の内端部に、図13に示す様なエンコーダ12bの基端部を外嵌して、このエンコーダ12bを上記ハブ4に対し、このハブ4と同心に支持固定している。このエンコーダ12bは、磁性金属板製で、先半部に設けた円筒状部に、それぞれが「く」字形でスリット状の透孔14e、14eを、円周方向に関して等間隔に形成している。又、外輪3の内端部に嵌合固定したカバー27に支持したセンサホルダ16内に1対のセンサを、軸方向に離隔した状態で保持している。そして、これら両センサの検出部を、上記エンコーダ12bの内周面に近接対向させている。
上述の様な先発明の荷重測定装置の第3例の場合も、アキシアル荷重に基づいてハブ4と外輪3とが軸方向に相対変位すると、上記1対のセンサの検出信号の位相がずれる。そこで、このずれの大きさに基づいて、上記相対変位の大きさ、更には上記アキシアル荷重の大きさを求められる。尚、上記ハブ4の回転速度は、何れかのセンサの検出信号に基づいて求められる。
次に、図14は、先発明に係る構造の第4例に組み込むエンコーダ12cを示している。このエンコーダ12cは、磁性金属板により円輪状に形成されたもので、それぞれが径方向外側程円周方向に関する幅が大きくなる、台形の透孔14f、14fを、円周方向に関して等間隔に形成している。この様なエンコーダ12cの軸方向片側面にはセンサの検出部を、近接対向させる。
上述の様なエンコーダ12cを含んで構成する、先発明の荷重測定装置の第4例の場合、ラジアル荷重に基づいてハブと外輪とが径方向に相対変位すると、上記センサの検出信号のデューティ比が変化する。そこで、このデューティ比に基づいて、上記相対変位の大きさ、更には上記ラジアル荷重の大きさを求められる。尚、上記ハブの回転速度は、上記センサの検出信号の周期に基づいて求められる。
上述の先発明の荷重測定装置の第1〜4例は何れも、エンコーダ12〜12cとして単なる磁性材製のものを使用し、センサの側に永久磁石を組み込む事を意図している。これに対して、前記特願2004−279155号には、永久磁石製のエンコーダを使用し、センサの側の永久磁石を省略する構造に就いても記載されている。更には、被検出面に凹部と凸部とを交互に形成した、磁性材製のエンコーダと、永久磁石を組み込んだセンサとを組み合わせた構造に就いても記載されている。何れの場合でも、エンコーダの被検出面が円周方向に関して変化するピッチ若しくは位相は、検出すべき変位の方向に一致する、この被検出面の幅方向に関して連続的に変化している。
何れにしても、上述の様な先発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットにより求めた、ラジアル方向又はアキシアル方向の変位量は、前記回転側軌道輪と静止側軌道輪との間に加わるラジアル荷重又はアキシアル荷重と関連する(比例若しくは比例に近い関係にある)。従って、上記変位量から、これらラジアル荷重又はアキシアル荷重を求める事ができる。更に、この様にして求めた荷重(ラジアル荷重とアキシアル荷重との一方又は双方)は、路面と車輪(タイヤ)との接触面で生じている荷重と等価である。従って、上記求めた荷重に基づいて車両の走行状態を安定化させる為の制御を行なえば、車両の姿勢が不安定になる事を予防する為のフィードフォワード制御が可能になる等、車両の走行安定性確保の為の高度な制御が可能になる。
ところで、上述の様な先発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットを実施する場合、次の様な点に留意する必要がある。即ち、先発明の場合には、転がり軸受ユニットを構成する外輪3とハブ4とのアキシアル方向或いはラジアル方向の相対変位量を求め、これら両方向の相対変位量に基づいて、上記外輪3と上記ハブ4との間に加わるアキシアル荷重或いはラジアル荷重を算出する事を意図している。一方、アキシアル荷重にしろ、ラジアル荷重にしろ、必ずしも、上記外輪3やハブ4の重心を通過する方向に作用する訳ではない為、荷重の作用方向と変位の方向とは必ずしも一致しない。例えば、アキシアル荷重が加わった場合、アキシアル方向の変位が発生する事は勿論であるが、このアキシアル荷重が、上記重心を通過する方向に作用する純アキシアル荷重でない限り、ラジアル方向の変位も発生する。逆に、ラジアル荷重が加わった場合も、ラジアル方向の変位が発生すると共に、アキシアル方向の変位も発生する。従って、単に何れかの方向の変位のみを計測しただけでは、特定方向の荷重を正確に求められない可能性がある。高次元の走行安定性確保を図る為には、上記アキシアル荷重やラジアル荷重を正確に求める事が必要であり、改良が望まれる。
特開2001−21577号公報 特開平3−209016号公報 特公昭62−3365号公報 青山元男著、「レッドバッジスーパー図解シリーズ/クルマの最新メカがわかる本」、p.138−139、p.146−149、株式会社三推社/株式会社講談社、平成13年12月20日
本発明は、上述の様な事情に鑑み、転がり軸受ユニットに加わる各方向の荷重を正確に求められる、荷重測定装置付転がり軸受ユニットを実現すべく発明したものである。
本発明の荷重測定装置付転がり軸受ユニットは、転がり軸受ユニットと荷重測定装置とを備える。
このうちの転がり軸受ユニットは、使用状態でも回転しない静止側軌道輪と、使用状態で回転する回転側軌道輪と、これら静止側軌道輪と回転側軌道輪との互いに対向する周面に存在する静止側軌道と回転側軌道との間に(接触角を付与された状態で設けられた)複数個の転動体とを備える。
又、上記荷重測定装置は、第一の変位測定手段と、第二の変位測定手段と、演算器とを備えたものである。
このうちの第一の変位測定手段は、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との何れかの方向の相対変位を測定する。
又、上記第二の変位測定手段は、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との別の方向の相対変位を測定する。
又、上記演算器は、上記第一、第二の変位測定手段の測定値に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間に作用する荷重を算出する。
更に、上記演算器は、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との相対変位量に基づいて、これら静止側軌道輪と回転側軌道輪との間に加わる複数方向の荷重成分を求める機能を有する。
具体的には、上記第一、第二の変位測定手段を、1対のエンコーダと、少なくとも1対のセンサとを備えたものとする。
このうちの1対のエンコーダは、回転側軌道輪の一部にこの回転側軌道輪と同心に支持されたもので、互いに異なる方向に存在する被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させている。又、上記両エンコーダの被検出面の特性が円周方向に関して変化するピッチ若しくは位相は、それぞれの被検出面の幅方向に関して連続的に変化している。又、これら各被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させる為に、上記両エンコーダの被検出面に円周方向に間欠的に配置された被検出用特性部の円周方向に関する幅は、これら各被検出面の幅方向に関して一定である。
又、上記各センサは、それぞれの検出部を何れかのエンコーダの被検出面に対向させた状態で回転しない部分に支持され、この被検出面の特性変化に対応してその出力信号を変化させるものである。
そして、演算器は、上記両センサの出力信号が変化するパターンに基づいて静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間の異なる方向の複数の相対変位量を算出する。更に、この異なる方向の複数の相対変位量と、或る方向に作用する荷重が或る方向(荷重の作用方向並びに荷重の作用方向以外の他の方向)の変位に及ぼす影響を表した影響係数とに基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間に加わる複数方向の荷重成分を求める機能を有する。
即ち、転がり軸受ユニットに荷重が負荷されると、この転がり軸受ユニットの構成部材の弾性変形に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪とが相対変位し、このうちの回転側軌道輪に支持した上記両エンコーダの被検出面の特性変化に対応する、上記両センサの出力信号の変化のパターンが変化する。そこで、この変化のパターンに基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との、互いに異なる2方向の相対変位量を求め、更に上記荷重を求める。
上述の様に構成する本発明の荷重測定装置付転がり軸受ユニットの使用時には、第一、第二の変位測定手段の測定値に基づいて求められる、2方向の相対変位量に基づいて演算器が、静止側軌道輪と回転側軌道輪との間に加わる、複数方向の荷重を求める。この点に就いて、図1を参照しつつ説明する。尚、自動車の走行時にこの図1に示した車輪支持用転がり軸受ユニット1には、上記自動車の前後方向のラジアル荷重と、上下方向のラジアル荷重Fzと、幅方向のアキシアル荷重Fyと、鉛直軸回りのモーメントと、水平軸回りのモーメントとの5種類若しくはそれ以上の荷重が加わるが、これら総ての荷重に就いて説明すると、説明が徒に複雑になる。この為、説明を簡素化する為に、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1に作用する荷重のうち、上記幅方向に加わるアキシアル荷重Fyと上下方向のラジアル荷重Fzとの2方向の荷重(2自由度荷重)のみを想定して説明する。
先ず、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1に、アキシアル荷重Fyのみが作用した場合に就いて考える。この場合、この車輪支持用転がり軸受ユニット1に加わるのは、自動車の幅方向であるy方向の、アキシアル荷重Fyのみであるが、このアキシアル荷重Fyによって、外輪3とハブ4との間に設置された複数個の転動体5、5が、この外輪3の内周面に設けられた外輪軌道6、6と上記ハブ4の外周面に設けられた内輪軌道11、11とに乗りあげる。この場合の乗り上げ量は、インナ側(内側)の列とアウタ側(外側)の列とで異なる場合があり、異なった場合には、鉛直方向であるz方向にも変位が発生する可能性がある。特に、このz方向の変位は、インナ側の列とアウタ側の列との軸受諸元(接触角、転動体の直径、ピッチ円直径)が異なる場合に、特に顕著となる。
又、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1に、鉛直方向のラジアル荷重Fzのみが作用した場合に、アキシアル方向(y方向)の変位が発生する場合もある。即ち、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1に何れかの方向の荷重が作用すると、上記外輪3と上記ハブ4との間に、この荷重の作用方向に関する相対変位が発生する事は勿論、この荷重の作用方向とは異なる方向の変位も発生する可能性がある。従って、アキシアル方向(y方向)の変位のみを計測しても、アキシアル荷重Fyを正確に求められないし、鉛直方向(z方向)の変位のみを計測しても、鉛直方向のラジアル荷重Fzを正確に求められない。
この様な問題に対処する為に本発明の場合には、以下に述べる処理により、上記アキシアル荷重Fy及びラジアル荷重Fzを正確に求められる様にしている。
即ち、上述した様に、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1を構成する外輪3とハブ4との間のアキシアル方向(y方向)の変位、及び、鉛直方向のラジアル方向(z方向)の変位は、それぞれアキシアル荷重Fy又は鉛直方向のラジアル荷重Fzによって、それぞれ変化する。従って、アキシアル方向の変位量y、ラジアル方向の変位量zは、それぞれ次の(1)(2)式で表す事ができる。
y=kyy・F +kzy・F −−− (1)
z=kyz・F +kzz・F −−− (2)
これら(1)(2)式中の「kij」は、i方向荷重がj方向変位に及ぼす影響を表す係数である。これら(1)(2)両式は、未知数がFyとFzの2つに対して、測定値がyとzとの2つで構成されるので、解析的に解く事ができる。
そこで、上記(1)(2)両式を解くと、検出すべき荷重FyとFzは、それぞれ次の(3)式又は(4)式で表せる。
Fy=(kzy・z−kzz・y)/(kyz・kzy−kzz・kyy) −−− (3)
Fz=(−kyy・z+kyz・y)/(kyz・kzy−kzz・kyy) −−− (4)
これら(3)(4)式から明らかな通り、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1を構成する外輪3とハブ4との間のアキシアル方向(y方向)の変位、及び、鉛直方向のラジアル方向(z方向)の変位を求めれば、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1に作用している、アキシアル荷重Fy及びラジアル荷重Fzを演算できる。
尚、上記(1)(2)の両式としては、上記アキシアル荷重Fy及びラジアル荷重Fzと、上記アキシアル方向(y方向)の変位及び鉛直方向のラジアル方向(z方向)の変位とが比例関係にある、単純な関係式を提示した。但し、上記両方向の変位が、上記両荷重のn乗(nは任意の実数)に比例する場合や、これら両荷重同士の間の交互作用(例えば、Fy×Fz)に比例する場合も、基本的な考え方は同じである。
更に、以上の説明は、求める荷重と計測する変位とが、それぞれ2自由度の場合に就いて行なったが、m方向(mは2以上の自然数)の変位を計測し、m方向の荷重を演算する場合も、基本的な考え方は同じである。
何れにしても、各方向に加わる荷重を正確に求められるので、転がり軸受ユニットを組み込んだ各種装置の運転状態を安定させる制御を、精度良く行なえる。
上述の様な本発明を実施する場合に、例えば、請求項2、3に記載した様に、1対のエンコーダのうち、一方のエンコーダの被検出面を軸方向側面とし、他方のエンコーダの被検出面を周面とする。
演算器は、上記両エンコーダのうち、上記一方のエンコーダの被検出面に対向するセンサの出力信号に基づいて、静止側軌道輪と回転側軌道輪との間のラジアル方向の相対変位量を算出すると共に、上記他方のエンコーダの被検出面に対向するセンサの出力信号に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間のアキシアル方向の相対変位量を算出する。
特に、請求項2に記載した発明の場合には、前述の図11に示した如く、上記両エンコーダのうちの少なくとも1つのエンコーダの被検出面に関して、この被検出面の幅方向片半部と幅方向他半部とにそれぞれ被検出用特性部を設け、これら両被検出用特性部のうちの少なくとも一方の被検出用特性部を上記被検出面の幅方向に対して傾斜させる。
又、上記各被検出用特性部には、上記被検出面の幅方向に離隔した状態で配置された1対のセンサの検出部をそれぞれ対向させる。この場合に、これら両センサのうちで、その検出部を上記被検出面の幅方向に対して傾斜した被検出用特性部に対向させたセンサの出力信号の位相は、当該センサが対向する上記被検出面の幅方向位置に対応して変化する。
これに対し、請求項3に記載した発明の場合には、前述の図10に示した如く、上記両エンコーダのうちの少なくとも一つのエンコーダの被検出面に、それぞれが他の部分とは特性が異なる1対の被検出用特性部より成る複数の被検出用組み合わせ部を、円周方向に亙り等間隔で配置する。これら各被検出用組み合わせ部を構成する1対ずつの被検出用特性部同士の円周方向に関する間隔は、総ての被検出用組み合わせ部で、上記被検出面の幅方向に関して同じ方向に連続的に変化させる。この場合に、上記複数の被検出用組み合わせ部が設けられたエンコーダの被検出面に対向するセンサの出力信号の変化の位相は、この被検出面の幅方向位置に対応して変化する。
更に、本発明を実施する場合に、好ましくは、請求項4に記載した様に、1対のエンコーダを(更には少なくとも1対のセンサもこれに合わせて)一体化する。
即ち、本発明の場合には、1対のエンコーダと少なくとも1対のセンサとを必要とする為、これらエンコーダやセンサの、製造コスト、部品管理コスト、組立コストが嵩む他、これら各エンコーダや各センサの設置スペースも嵩む。この為、上記請求項4に示した様に、一体型のエンコーダにより、互いに異なる2方向(アキシアル方向及びラジアル方向)の変位を計測できる様にすれば、上記各コスト及び設置スペースの増大を抑えられて、実用的な構造を実現する面から有利となる。
又、本発明を実施する場合に好ましくは、請求項5に記載した様に、転がり軸受ユニットを、自動車の懸架装置に車輪を支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットとする。そして、演算器が求める荷重成分を、上記自動車の前後方向のラジアル荷重と、上下方向のラジアル荷重と、幅方向のアキシアル荷重と、鉛直軸回りのモーメントと、水平軸回りのモーメントとのうちから選択される2種類以上の荷重とする。
この様な状態で本発明を実施すれば、車輪と懸架装置との間に加わる荷重を求めて、ABS、TCS、VSC等の車両用走行安定化装置の制御を適切に行なえる。
この点に就いて、図2を参照しつつ説明する。この図2は、懸架装置を構成するナックル17に対し、車輪18、及び、ディスクブレーキを構成するロータ19を、車輪支持用転がり軸受ユニット1により、回転自在に支持した構造に就いて示している。この様な構造の場合、上記車輪18を構成するタイヤ20と路面21とが接触している(接地面)部分で発生する荷重が、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1に作用する。そして、この部分で発生したアキシアル荷重はこの車輪支持用転がり軸受ユニット1に対し、アキシアル荷重FyとモーメントMx(x軸回りのモーメント)として作用する。又、上記接地面部分の中心と上記車輪支持用転がり軸受ユニット1の中心とが一致していると仮定した場合、この中心部分で発生する鉛直方向のラジアル荷重は、鉛直方向のラジアル荷重Fzとして、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1に作用する。
即ち、上記図2に示した構造では、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1には、3自由度の荷重が作用している。この場合に、上記車輪18の半径がほぼ一定と仮定できれば、上記アキシアル荷重Fyと上記モーメントMxとは、一定の関係にある。この様な場合は、これらアキシアル荷重FyとモーメントMxとの和「Fy+Mx」を、セットで1つの荷重と考える事ができる為、未知数は、この和「Fy+Mx」と、鉛直方向に関するラジアル荷重「Fz」との2つとなる。従って、上記車輪支持用転がり軸受ユニット1を構成する外輪3とハブ4との間のアキシアル方向の相対変位量(y方向変位量)と、同じく鉛直方向に関するラジアル方向の相対変位量(z方向変位量)とを計測すれば、上記和「Fy+Mx」と上記ラジアル荷重「Fz」との、2つの荷重を演算できる。
図3〜4は、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施例1を示している。本実施例の場合には、回転側軌道輪(例えば、前述の図1、2、9、12に示したハブ4)の一部に、図3の(A)(B)に示す様な、2種類のエンコーダ22、23を、この回転側軌道輪と同心に支持固定する。又、本実施例の場合には、上記両エンコーダ22、23を一体に構成している。この為に、これら両エンコーダ22、23を構成する、鋼板等の磁性金属板を、断面L字形で全体を円環状とし、このうちの円輪部により一方のエンコーダ22を、円筒部により他方のエンコーダ23を、それぞれ構成している。
このうち、図3の(A)に示した一方のエンコーダ22は、上記回転側軌道輪と静止側軌道輪(例えば、上記図1、2、9、12に示した外輪3)とのラジアル方向の相対変位を測定する為のものである。又、上記エンコーダ22は、軸方向片側面を円輪状の被測定面とし、この被測定面に、それぞれが「く」字形の被検出用特性部24、24を形成している。これら各被検出用特性部24、24としては、スリット状の透孔、溝状の凹孔、土手状の凸部等が使用可能である。何れにしても、上記各被検出用特性部24、24は、上記エンコーダ22の径方向中央部が最も円周方向に突出して(或いは凹んで)いる。そして、上記各被検出用特性部24、24の外径側半部と内径側半部とが、上記エンコーダ22の径方向に対して、互いに逆方向に、同じ角度ずつ傾斜している。
又、上記図3の(B)に示した他方のエンコーダ23は、上記回転側軌道輪と上記静止側軌道輪とのアキシアル方向の変位を測定する為のものである。又、上記エンコーダ23は、内周面又は外周面を円筒状の被測定面とし、この被測定面に、それぞれが軸方向に傾斜した被検出用特性部25a、25bを形成している。これら各被検出用特性部25a、25bとしても、スリット状の透孔、溝状の凹孔、土手状の凸部等が使用可能である。何れにしても、上記エンコーダ23の軸方向片半部に形成した各被検出用特性部25a、25aと、軸方向他半部に形成した各被検出用特性部25b、25bとは、上記エンコーダ23の軸方向に対して、互いに逆方向に、同じ角度ずつ傾斜している。
上述の様な両エンコーダ22、23の被検出面には、それぞれ1対ずつ、合計4個のセンサの検出部を、これら各被検出面の幅方向{図3の(A)に示したエンコーダ22の場合には径方向、同(B)に示したエンコーダ23の場合には軸方向}に離隔した状態で対向させている。上記各センサは、ホール素子、磁気抵抗素子等の磁気検出素子と永久磁石とを組み合わせたもので、上記両エンコーダ22、23の被検出面のうちで検出部が対向する部分の磁気特性に応じて出力信号を変化させる。これら両エンコーダ22、23の被検出面に対する、それぞれ1対ずつのセンサの検出部の位置は、上記回転側軌道輪と上記静止側軌道輪との間に相対変位が発生していない状態で、被検出面の幅方向中央位置を挟んだ対称位置としている。又、円周方向に関する位相は互いに同じとしている。
例えば、図3の(B)に示したエンコーダ23の外周面に対する1対のセンサの検出部が対向する位置は、図4(A)の実線イで示した位置とする。この状態でこれら両センサの出力信号の位相は、図4の(C)に示す様に互いに一致する。これに対して、上記回転側軌道輪が上記静止側軌道輪に対し、図4の下方に変位した場合には、上記センサの検出部が対向する位置は、図4(A)の破線ロで示した位置に変化する。この状態でこれら両センサの出力信号の位相は、図4の(B)に示す様に、所定方向に、変位に比例してずれる。更に、上記回転側軌道輪が上記静止側軌道輪に対し、図4の上方に変位した場合には、上記センサの検出部が対向する位置は、図4(A)の鎖線ハで示した位置に変化する。この状態でこれら両センサの出力信号の位相は、図4の(D)に示す様に、上記所定方向と反対方向に、変位に比例してずれる。
上記エンコーダ23の外周面にそれぞれの検出部を対向させた1対のセンサの出力信号は、上述の様に、変位の方向に変位に比例してずれる。この為、これら両センサの出力信号のずれの方向と大きさ(実際の場合には、ずれの大きさをこの出力信号の周期により除した値)とに基づいて、上記回転側軌道輪と上記静止側軌道輪との、アキシアル方向のずれの方向及び大きさを求められる。これら回転側軌道輪と静止側軌道輪との、ラジアル方向のずれの方向及び大きさに関しては、上記ラジアル方向の相対変位を測定する為のエンコーダ22の軸方向側面の径方向外寄り部分と内寄り部分とにそれぞれの検出部を対向させた1対のセンサの出力信号の位相のずれに基づいて求められる。
この様にして、上記1対ずつ、合計4個のセンサの出力信号に基づいて、上記回転側軌道輪と上記静止側軌道輪との、アキシアル方向及びラジアル方向のずれの方向及び大きさを求めたならば、これら各ずれの方向及び大きさに基づいて、前述した(1)〜(4)式により、上記回転側軌道輪と上記静止側軌道輪との間に作用している、アキシアル荷重Fy及びラジアル荷重Fz荷重を算出する。
尚、本発明を、車輪支持用転がり軸受ユニットに関して実施する場合には、上記アキシアル方向及びラジアル方向の変位を求める為の各センサのうち、アキシアル方向(y方向)の変位を求める為のセンサの検出部を、下側(路面側)に設置するのが望ましい。この理由は、アキシアル荷重Fyによるアキシアル方向の変位と、このアキシアル荷重Fyに基づいて発生するモーメントMxによるアキシアル方向の変位とが同方向になる為に、変位検出の為のSN比が向上する為である。又、加速時や制動時に、駆動力やブレーキ力に基づいて発生する、前後方向(X方向)のラジアル荷重Fxも検出する必要がある場合には、上記アキシアル方向及び鉛直方向(y、z方向)の変位に加えて、前後方向(x方向)の変位を求める必要がある。この前後方向の変位を測定するには、前記エンコーダ22の被検出面のうちで、上下方向中間部{図3の(A)の右側或いは左側部分}の径方向外寄り部分及び内寄り部分に、1対のセンサの被検出部を対向させる。更に、各エンコーダ22、23の被検出面の上部や上下方向中間部等、複数箇所に別途設けたセンサの検出部を対向させ、これら別途設けたセンサの出力信号を、演算器により合わせて処理すれば、アキシアル方向やラジアル方向の並進変位に加えて、倒れ変位(角度)も検出でき、これら各変位の情報から、モーメントも算出できる。
図5は、請求項1、2、4に対応する、本発明の実施例2を示している。本実施例の場合には、センサ(の検出部)の数を減らす(合計3個に抑える)為に、被検出用特性部の数を少なく(3個所と)している。即ち、本実施例の場合、ラジアル方向の変位を求める為のエンコーダ22aの軸方向片側面に存在する円輪状の被検出面に、それぞれがこのエンコーダ22aの径方向に対し一方向に傾斜した被検出用特性部24a、24aを形成している。又、アキシアル方向の変位を測定する為のエンコーダ23aの外周面に存在する円筒状の被検出面の軸方向片半部{図5の(B)の左半部}に、それぞれが軸方向に傾斜した被検出用特性部25a、25aを形成している。これに対して、上記エンコーダ23aの被検出面の軸方向他半部{図5の(B)の右半部}に、それぞれがこのエンコーダ23aの軸方向に対し平行な、被検出用特性部25c、25cを形成している。各被検出用特性部24a、25a、25cとしては、透孔、凹孔、凸部等が採用可能である。
この様なエンコーダ22a、23aを組み込んだ本実施例の場合、合計3個のセンサの検出部を、これら両エンコーダ22a、23aの被検出面で、上記各被検出用特性部24a、25a、25cを形成した部分に対向させる。そして、上記エンコーダ23aの軸方向に対し平行な、被検出用特性部25c、25cに対向したセンサの出力信号が変化する瞬間を基準として、残り2個のセンサの出力信号の位相のずれの方向及び大きさを求める。即ち、上記被検出用特性部25c、25cに対向したセンサの出力信号が変化する瞬間は、回転側軌道輪と静止側軌道輪との相対変位に関係なく一定のままである。そして、上記残り2個のセンサの出力信号の位相は、この相対変位の方向及び大きさに応じて、上記被検出用特性部25c、25cに対向したセンサの出力信号の位相に対してずれる。そこで、上記2個のセンサの出力信号の位相のずれの方向及び大きさに基づいて、回転側軌道輪と静止側軌道輪との相対変位の方向及び大きさを求める事ができる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施例1と同様である。
[参考例の1例]
図6〜8は、本発明に関連する参考例の1例を示している。本参考例の場合には、センサ(の検出部)の数をより一層減らす(合計2個に抑える)為に、被検出用特性部の数を少なく(2個所と)している。即ち、本参考例の場合、ラジアル方向の変位を求める為のエンコーダ22bの軸方向片側面に存在する円輪状の被検出面に、それぞれがこの被検出面の径方向外方に向かう程幅寸法が大きくなる、台形の被検出用特性部24b、24bを形成している。又、アキシアル方向の変位を測定する為のエンコーダ23bの外周面に存在する円筒状の被検出面に、それぞれが軸方向一端部{図6、8の(B)の左端部}に向う程円周方向に亙る幅寸法が大きくなる、台形状の被検出用特性部25d、25dを形成している。そして、上記両エンコーダ22b、23bの被検出面の下端部に、図8に示す様に、単一のセンサホルダ16aに保持した、これら両エンコーダ22b、23b毎にそれぞれ1個ずつのセンサの検出部26a、26bを、軸方向或いは径方向の測定隙間を介して、近接対向させている。上記各被検出用特性部24b、25dとしては、透孔、凹孔、凸部等が採用可能である。
上述の様に構成する本参考例の場合には、上記両センサは、上記両エンコーダ22b、23bの被検出面に存在する被検出用特性部24b、25dの通過に対応して変化する、パルス状の出力信号を発生する。そして、上記両エンコーダ22b、23bの出力信号のデューティ比(高電圧継続時間/1周期)は、上記両センサの検出部が対向する、上記各被検出用特性部24b、25dの円周方向に関する幅寸法に応じて変化する。例えば、図7の(A)に実線イで示す様に、上記両センサの検出部が上記各被検出用特性部24b、25dの中央部を走査した場合、これら両センサの出力信号のデューティ比は、図7の(B)に示す様に、ほぼ50%となる。これに対して、図7の(A)に破線ロで示す様に、上記両センサの検出部が上記各被検出用特性部24b、25dのうちで円周方向関する幅寸法が大きくなった部分を走査した場合、上記両センサの出力信号のデューティ比は、図7の(C)に示す様に、50%未満となる。そこで、これら両センサの出力信号に基づいて、回転側軌道輪と静止側軌道輪との相対変位の方向及び大きさを求める事ができる。
その他の部分の構成及び作用は、前述した実施例1と同様である。
本発明は、自動車の車輪支持用転がり軸受ユニットで実施した場合に、複数方向の荷重を検出してこれを制御に使用する事により、自動車の走行安全性向上を図れる。これとは別に、一般機械用の転がり軸受ユニット適用した場合であっても、各種実用的な作用・効果を得られる。例えば、工作機械の回転支持部を構成する転がり軸受ユニットに適用すれば、切削荷重を監視する事で、精度の良い加工が可能となるし、過大入力等の異常監視を行なって、被加工物や工作機械の損傷防止を図る事も可能になる。
又、本発明を実施する場合に、前述の(3)(4)式を演算する為には、影響係数kijを事前に把握できている事が前提である。影響係数は設計段階で予測できる場合もあるし、組立後の転がり軸受ユニットに既知の荷重を付与しつつ計測しなければ正確に把握できない場合もある。この様な場合で、しかも、個々の転がり軸受ユニット毎の影響係数の違いが無視できない場合には、出荷時に影響係数を計測しておき、特願2003−376491に開示されている様に、転がり軸受ユニットに付した(貼着或いは結び付けた)ICタグ等の記憶媒体に影響係数を記憶させておく事が有効である。この場合、自動車の組立工場で、この記憶媒体に記憶された影響係数を、車体側に組み付けた演算器に組み込んだ、RAM等のメモリに記憶させる。又は、演算器を転がり軸受ユニット側に組み込み、この演算器を構成するRAMやEEPROM等のメモリに、当該転がり軸受ユニットに関する影響係数や零点を記憶させる事もできる。更には、演算器が転がり軸受ユニットと別体となる場合でも、各転がり軸受ユニットに関する影響係数や零点を記憶させたメモリを、当該転がり軸受ユニットと対で出荷し、組立工場で、これら対となる転がり軸受ユニットとメモリとを接続する事もできる。
更に、上記影響係数の経年変化が問題となる様な場合は、特願2003−336701に開示されている様に、車両の走行中に、車体側に設けた横Gセンサやヨーレイトセンサの検出信号に基づいて得られる情報から、上記影響係数や零点を補正する事も有効である。或いは、経年変化のうちの零点変化が車両制御に悪影響を及ぼさない様にする為には、特願2004−146058に開示されている様に、検出した荷重値のうち、(零点の値を含む絶対値成分ではなく、運転に伴って変化する)変動成分(AC成分)のみを車両制御に用いれば良い。
逆に、影響係数の経年変化が無視できる様な(長期間に亙る使用に拘らず、殆ど影響係数が変化しない)場合は、本発明により求められる各方向の荷重の算出値を元に、特願2004−114910に開示されている様に、横Gセンサやヨーレイトセンサの異常を検出する事もできる。即ち、この場合には、本発明に基づく荷重の算出値と、これら横Gセンサやヨーレイトセンサの検出値に基づく荷重の算出値との間に無視できない程の差が生じた場合に、これら各センサのうちの何れか(又は総て)に異常ありと判定する。
一方、経年変化ではなく、温度変化による熱膨張で、予圧等、転がり軸受ユニットの剛性が変化し、影響係数を変化させてしまわない様にする為には、各部の熱変形が上記剛性変化に結び付かない様に、各部の寸法関係を規制する事が好ましい。この様な寸法関係に就いては、特願2004−295810に記載されているが、本発明の要旨とは直接関係しない為、詳しい説明は省略する。
本発明を説明する為の、車輪支持用転がり軸受ユニットの模式図。 本発明をより具体的に説明する為の、懸架装置に対する車輪支持部分の略断面図。 本発明の実施例1に組み込むエンコーダを示しており、(A)はラジアル方向の変位を検出する為の被検出面を軸方向から見た図、(B)はアキシアル方向の変位を検出する為の被検出面を径方向から見た図。 変位に伴う1対のセンサの出力信号の変化状態を示す線図。 本発明の実施例2に組み込む1対のエンコーダを示す、図3と同様の図。 本発明に関連する参考例の1例に組み込む1対のエンコーダを示す、図3と同様の図。 変位に伴うセンサの出力信号の変化状態を示す線図。 一体型のセンサと組み合わせた状態を示す、図6と同様の図。 先発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットの第1例の断面図。 この第1例に組み込むエンコーダの斜視図。 先発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットの第2例に組み込むエンコーダの斜視図。 先発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットの第3例の断面図。 この第3例に組み込むエンコーダの断面図。 先発明に係る荷重測定装置付転がり軸受ユニットの第4例に組み込むエンコーダを軸方向から見た側面図。
1 車輪支持用転がり軸受ユニット
2 荷重測定装置
3 外輪
4 ハブ
5 転動体
6 外輪軌道
7 取付部
8 ハブ本体
9 内輪
10 フランジ
11 内輪軌道
12、12a、12b、12c エンコーダ
13 センサ
14a、14b、14c、14d、14e、14f 透孔
15 取付孔
16、16a センサホルダ
17 ナックル
18 車輪
19 ロータ
20 タイヤ
21 路面
22、22a、22b エンコーダ
23、23a、23b エンコーダ
24、24a、24b 被検出用特性部
25a、25b、25c、25d 被検出用特性部
26a、26b 検出部
27 カバー

Claims (5)

  1. 転がり軸受ユニットと荷重測定装置とを備え、
    このうちの転がり軸受ユニットは、使用状態でも回転しない静止側軌道輪と、使用状態で回転する回転側軌道輪と、これら静止側軌道輪と回転側軌道輪との互いに対向する周面に存在する静止側軌道と回転側軌道との間に設けられた複数個の転動体とを備えたものであり、
    上記荷重測定装置は、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との何れかの方向の相対変位を測定する為の第一の変位測定手段と、これら静止側軌道輪と回転側軌道輪との別の方向の相対変位を測定する為の第二の変位測定手段と、これら第一、第二の変位測定手段の測定値に基づいて上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間に作用する荷重を算出する演算器とを備えたものである荷重測定装置付転がり軸受ユニットに於いて
    上記第一、第二の変位測定手段は、上記回転側軌道輪の一部にこの回転側軌道輪と同心に支持された、互いに異なる方向に存在する被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させた1対のエンコーダと、それぞれの検出部を何れかのエンコーダの被検出面に対向させた状態で回転しない部分に支持され、この被検出面の特性変化に対応してその出力信号を変化させる、少なくとも1対のセンサとを備えたものであって、上記両エンコーダの被検出面の特性が円周方向に関して変化するピッチ若しくは位相は、それぞれの被検出面の幅方向に関して連続的に変化しており、これら各被検出面の特性を円周方向に関して交互に変化させる為に上記両エンコーダの被検出面に円周方向に間欠的に配置された被検出用特性部の円周方向に関する幅は、これら各被検出面の幅方向に関して一定であり、
    上記演算器は、上記両センサの出力信号が変化するパターンに基づいて上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間の異なる方向の複数の相対変位量を算出し、更にこの異なる方向の複数の相対変位量と、或る方向に作用する荷重が或る方向の変位に及ぼす影響を表した影響係数とに基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間に加わる複数方向の荷重成分を求める機能を有するものである
    荷重測定装置付転がり軸受ユニット。
  2. 1対のエンコーダのうち、一方のエンコーダの被検出面が軸方向側面であり、他方のエンコーダの被検出面が周面であり、
    上記両エンコーダのうちの少なくとも1つのエンコーダの被検出面には、この被検出面の幅方向片半部と幅方向他半部とにそれぞれ被検出用特性部が設けられており、これら両被検出用特性部のうちの少なくとも一方の被検出用特性部は上記被検出面の幅方向に対して傾斜しており、
    上記各被検出用特性部には、上記被検出面の幅方向に離隔した状態で配置された1対のセンサの検出部をそれぞれ対向させており、これら両センサのうちで、その検出部を上記被検出面の幅方向に対して傾斜した被検出用特性部に対向させたセンサの出力信号の位相は、当該センサが対向する上記被検出面の幅方向位置に対応して変化しており、
    演算器は、上記両エンコーダのうち、上記一方のエンコーダの被検出面に対向するセンサの出力信号に基づいて、静止側軌道輪と回転側軌道輪との間のラジアル方向の相対変位量を算出すると共に、上記他方エンコーダの被検出面に対向するセンサの出力信号に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間のアキシアル方向の相対変位量を算出する
    請求項1に記載した荷重測定装置付転がり軸受ユニット。
  3. 1対のエンコーダのうち、一方のエンコーダの被検出面が軸方向側面であり、他方のエンコーダの被検出面が周面であり、
    上記両エンコーダのうちの少なくとも1つのエンコーダの被検出面には、それぞれが他の部分とは特性が異なる1対の被検出用特性部より成る複数の被検出用組み合わせ部が、円周方向に亙り等間隔で配置されており、これら各被検出用組み合わせ部を構成する1対ずつの被検出用特性部同士の円周方向に関する間隔は、総ての被検出用組み合わせ部で、上記被検出面の幅方向に関して同じ方向に連続的に変化しており、
    上記複数の被検出用組み合わせ部が設けられたエンコーダの被検出面に対向するセンサの出力信号の変化の位相は、この被検出面の幅方向位置に対応して変化するものであり、
    演算器は、上記両エンコーダのうち、上記一方のエンコーダの被検出面に対向するセンサの出力信号に基づいて、静止側軌道輪と回転側軌道輪との間のラジアル方向の相対変位量を算出すると共に、上記他方のエンコーダの被検出面に対向するセンサの出力信号に基づいて、上記静止側軌道輪と上記回転側軌道輪との間のアキシアル方向の相対変位量を算出する
    請求項1に記載した荷重測定装置付転がり軸受ユニット。
  4. 1対のエンコーダが一体化されている、請求項1〜3の何れか1項に記載した荷重測定装置付転がり軸受ユニット。
  5. 転がり軸受ユニットが、自動車の懸架装置に車輪を支持する為の車輪支持用転がり軸受ユニットであり、演算器が求める荷重成分が、上記自動車の前後方向のラジアル荷重と、上下方向のラジアル荷重と、幅方向のアキシアル荷重と、鉛直軸回りのモーメントと、水平軸回りのモーメントとのうちから選択される2種類以上の荷重である、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した荷重測定装置付転がり軸受ユニット。
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