JP4898996B2 - 生麦を亜臨界処理してできる麦茶様エキス及びその製造方法 - Google Patents

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穀類に加水して、高温、高圧の亜臨界条件で処理すると有機物は加水分解して変性する。
各種の穀類を亜臨界処理した内で、生麦を処理すると麦茶やコーヒーのような香味を持った美味しいエキスが得られる。しかもエキス分は非常に多くなり、このエキスは機能性成分が特に多いという特徴を持つ。亜臨界処理によってできるこのエキスの利点は多く、付加価値の高い食品素材として高度利用できる。
亜臨界処理技術は比較的新しい方法なので、この技術を食品に適用することは未だ実用になっているとは言えない。水の臨界点以上の超臨界では有機物は窒素、酸素、水素、炭素などの原子にまで分解されてしまう。亜臨界においても有機物は激しく酸化、還元作用を受けて蛋白質、炭水化物、脂肪等が分解して小さな分子になっていく。
比較的穏かな亜臨界条件で穀類を処理すれば、加水分解によって成分の変化した食品素材となる。
その中で、生麦を穏やかな範囲の亜臨界処理することによって麦茶やコーヒーのような香味を持ったエキスを得ることができた。
このエキスは食品としての香味が良いので麦茶やコーヒーとして利用され、しかも過酸化物抑制効果(抗酸化作用)を持つ機能性成分が多い食品として多方面に活用できる特質を持つ新素材になる。
従来の麦茶やコーヒーのエキスは、麦やコーヒー豆を焙煎し、更にそれから抽出し濃縮して得るが、亜臨界処理ではこれらの工程を省いて生原料から直接濃縮エキスができる。
特開2002−95433「豆腐またはその二次加工品の製造方法」 特開2001−204415「オカラを含む食品原料の加工方法」
穀類を水の亜臨界状態で処理すると、条件によって焙煎香が現れ、良い味も出来てくる。その中で生麦から特に良いエキスが得られることが判明したので、香味が良く抽出率が良い条件、範囲を確かめたい。
そして生麦を亜臨界処理してどのような化学反応が起こり、どんな物質が生じ、又抗酸化作用を持つ成分を特定する必要がある。
更に亜臨界処理によって香りが強くなり、旨みができ、甘くなる。そして焙煎香も生じる。処理条件が強くなると酸味と苦味が強くなってくる。処理の強度によって成分の量的及び質的な変化があるので、それらの科学的な変化を確かめる必要がある。
そして特に抗酸化作用を持つ成分の生成や機能効果を確認する必要がある。
その上で食品素材として新規で有用なエキスを創造し、供用できるようにして、その効率的な製造条件を設定する。
生麦を、条件を変えて亜臨界処理して、その産生エキスがどのような香味を持ち、飲用などの食材となるかの処理条件を明らかにするために、条件を変えた5品目を作り、官能検査した。
Figure 0004898996
品名1の条件では焙煎香、麦茶香が生じてくるが、味は薄い。
品名2の条件では焙煎香、麦茶香、コーヒー香が生じてきて、味も強くなる。
品名3の条件では炒香に酸味、渋味も加わってコーヒーのような味になって、コクもあり、麦茶、コーヒーのような焙煎香のある濃厚なエキスになる。
品名4,5の条件では酸味、苦味が強く、醤油味のようでそのまま飲用は無理がある。
Figure 0004898996
上表の条件では、抽出液が初めは強い粘度と濁りがあるので高分子の物質があり、次第に透明になり、条件が強くなると赤、茶などの色が付き、色が濃くなってくる。粘度は主に澱粉が加熱により糊化することによるものである。
品名1の条件では抽出量は少ないが、次第に抽出量が増え、Brixが上がる。品名5では抽出率が下がるので一時的に物質の化合、重合が起き不溶化すると考えられる。
酸度は始め弱酸性で品名4ではPH3などと濃度が上がり、強い酸性になるので薄めないと飲用できない。
品名5の条件では、生麦の53%は可溶性になってエキス化し、濃厚なエキスとして抽出できるようになる。そして残りカス(残渣)は47%にまで減少する。通常、麦や麦茶の熱湯抽出の残渣は80〜85%もあり、湯に溶け出る成分は少ない。
亜臨界状態では、水はイオン積が大きくなってH、OHが強い酸または塩基触媒として化学反応を起こす。有機物は水の亜臨界条件下で加水分解される。蛋白質、炭水化物、脂肪は分解を受けて長鎖が切れ、分子量が小さくなるので可溶化する。湯に溶ける成分が増え、残りカスは減少する。
水の亜臨界状態では色々の物質が生成してくる。
蛋白質は分解して行ってポリペプチドになり、アミノ酸になる。水溶性になって旨みや甘味が出来てくる。
主要なアミノ酸としてはシスチン、アラニン、グリシン、ロイシンなどである。
脂肪はグリセリンと脂肪酸が分離されて、更に加水分解を受けて分子量の小さい脂肪酸になって、酸化などで匂い物質も生じ焦香も出る。
脂肪から有機酸の生成は多く、カルボン酸のギ酸、酢酸、プロピオン酸などができ、クエン酸、乳酸、グルタミン酸、リン酸なども生じる。このためエキスは酸性が強くなってくる。
炭水化物はオリゴ糖になってやがて単糖類になるので、水溶性になって甘くなる。
弱い亜臨界処理での抽出液は、澱粉が熱で溶けて糊化し、湯には溶けないが粘度の非常に高いエキスになる。処理条件が強くなるとこれも分解されて小糖類、単糖類になってくる。主要な糖としてはグルコース、フラクトース、蔗糖、麦芽糖などである。
穏やかな亜臨界条件で生じてくるこれらの成分はいずれも既知の成分なので食品として有害なものはないようである。
これらの生成物質の内、健康に良い生理活性を持った物質も生成してくる。特に大麦を亜臨界処理して得られるエキスには強い抗酸化性があることが分かった。
穀類のうち大麦の表皮にはβ―グルカン構造の多糖類が多いが、亜臨界による加水分解によってグルコースに分解し、更に酸化が進み、5-hydroxymethyl-2-furaldehyde (HMF)が生成されることが今回突き止められた。
この物質の生成反応は次のようである。
Figure 0004898996
HMFの化学式は図1のようである。
β―glucanは穀類には普遍的に存在しているが麦類には多く、そのうち大麦には7%もあって他の麦類よりも特に多いことが判明した。他の穀類でもこれほど多いものは無い。
大麦の亜臨界処理によって得られるHMFは225℃付近で最大値になる。この時の含有量はエキス1kgにつき20〜30mgになる。これは非常に多い含有量であり、本エキスが特に強い抗酸化性を持つ由縁である。
亜臨界処理すると、他の麦類や穀物からもHMFは生成するが大麦ほど多くはないので大麦に特異的であり、しかも飲料として利用可能なエキスができる他のものに無い特徴がある。
強い抗酸化性を持つ物質としてBHTが知られているが、本エキスのHMFの抗酸化性は過酸化窒素測定法で比較すると1/4に過ぎない。しかしその含有量が多いので強い抗酸化性を持つのである。
抗酸化性とは、生態反応で生じる有害な過酸化が細胞を傷つけ、細胞の寿命を縮めるので、生体内で過酸化物を退治する力を持ち、細胞を活性化し、ガンを抑え、若さを保つなどの機能性の活性である。
これは麦の亜臨界処理によって可能になった新事実であり、美味しくて機能性のある新しい食品素材の誕生である。
有機物を亜臨界や臨界処理すると有機物は壊れて(分解)いって、最後はH、O、C、Nなどの原子にまでなるのでその強力な分解力がゴミ処理などに生かされてきたが、これを食品に利用する考えは殆どなかった。亜臨界では分解力が強すぎて食品には向かないのである。
穀物などを食品に加工するのに煮たり、焼いたりするが、これを亜臨界で実施した。
本願は穏やかな亜臨界で生麦を処理して、飲用できるエキスを製造できたことが新規であり、新しい考え方から生まれたものである。
弱い亜臨界条件下では加水分解による有機物の分解が進行して殆ど低分子化の穏やかな変化なので食品としては安全であると推定される。しかしより厳しい条件で亜臨界処理すると反応が複雑になって、未知の危険な成分が生成してくる可能性も出てきて、香味も低下するので食品としては対象にならない。
現在、エキスの安全性証明のための試験を実施しているところである。
各種穀物を亜臨界処理した中で、生麦の処理生成物が飲用、食用に向くものが得られた。
そのエキスは処理条件が穏やかでは麦茶のような香味が出て、条件を強くするとコーヒーのような香味になる。更に厳しくなると酸味や苦味が強くなり、刺激臭が出て食用に適さなくなる。
麦茶味のものが麦茶として通用するかは少し疑問がある。麦茶とは香味に少し違いがあって100%麦茶としては無理があり、香味の補強、補助、増量などの使用が良い。
コーヒー味のものも同様にコーヒーの香味の補強、補助、増量などに活用価値がある。
麦茶はその飲みやすさ、香味の良さから各種健康飲料、薬用ドリンク等に使われている。
本願のエキスは穏やかな香味に特徴があり、更にカフェインが無いことも利用しやすい特徴があって、飲料製品への混合使用に適している。
本願の製法の特徴は、生麦から直接麦茶様、コーヒー様の濃厚エキスができることで、
工程は非常に単純である。それでいて香味が良く、しかも焦香が出るのは驚きである。本願の大きな特徴と言える。
蛋白質、炭水化物、脂肪などの高分子の物質は水や湯に溶けない不溶性であるが、亜臨界条件下ではこれらは分解して分子が小さくなって水や湯に溶けるようになる。
通常の麦茶などでは可溶成分は15%程度で、他は水に溶けない残渣(カス)として大量に残って捨てられる。 亜臨界条件下では分子は分解して小さくなり可溶成分に変わる。固形成分が液性成分に変わってエキスが多くなり飲用、食用になるのである。
処理条件が穏やかな状態では特に炭水化物が分解されてオリゴ糖になり、これは水に可溶化するので抽出されてくる。そして粘度のあるエキスになる。
処理条件を強くするとオリゴ糖は更に単糖類にまで分解され粘度も小さくなってサラリとしたエキスになる。水に可溶な成分は多くなり不溶成分は減って廃棄される残渣(カス)は少なくなる。原料は効率よく活用されることになる。製品の工程が単純で、収量が多いので本法のエキスは安価にできる。これは本願の重要な利点である。
本願のエキスは濃厚である。これは簡素な工程、貯蔵、移送、配合、製造など製造及び品質管理に利点は大きい。
本願のエキスはその生理的機能性に特徴を持っている。
生物が生活していれば生体内において過酸化物が発生する。特にスーパーオキサイドと一酸化窒素が反応して生じるペルオキシナイトライト(PON)は強い生態反応を起こして、蛋白質のニトロ化、LDLの過酸化、DNAの断裂などを引き起こして組織に異常を起こし、老化を促進する。
+ ・NO → ONOO
スーパーオキシド 一酸化窒素 ペルオキシナイトライト
アニオン (PON)
このPONを消去する力を持つ物質を抗酸化物質といって、細胞の活性化を促進し、老化を防止する。
ジブチルヒドロキシトルエンを指標にして、生麦の亜臨界処理生成エキスの抗酸化活性を測定したところ、抗酸化力が非常に強いことが分かった。
そして亜臨界処理の作用条件を厳しくするにつれて抗酸化力は強くなってくることも分かった。HMFの生成が最も多くなるのは225℃付近で、更に高温になると減少する。
大麦に対して約3倍の水を加えて、亜臨界反応機に入れる。
例えば、反応機は温度200℃、圧力5MPaで5分間運転する。
反応を終えた物は、生成したエキスと分解しなかった残渣(カス)が同時に出る。
固液分離には濾過が必要になる。金網、化繊布などで固形物を除き、連続式遠心分離機などで沈殿物、浮遊物、濁りなどを取り精製する。
分離されたエキスは必要に応じた更に精製濾過をして均質で清浄化したエキスにする。
このエキスは固形物濃度24%位の濃厚なものが取れるので10%濃度などに希釈、調整し、冷蔵して保管、運搬される。香味が麦茶にようで美味しく、麦茶や健康茶として利用される。この条件での製造ではHMFの生成が最高値になる225℃付近に比べれば1割ほど少ないが、香味の良い条件を選択している。
コーヒーのような香味を得るには220℃付近が良く、HMFの濃度も高い。
このような工程によって、生麦から香味の良いエキスを得ることができた。他の穀類からは多量のHMFの生成結果を得ていない。HMFは、大麦のβ―グルカンから生成してくるが他の炭水化物、糖類からも生成される。しかし大麦以外の原料では飲用に向くような良い香味を持つエキスは得られないようである。
食品を亜臨界下に処理して変化させ、これを食品として供給することは未だ殆ど実施
されていない。亜臨界の処理装置は産業廃棄物処理装置等で運転されているので、これより穏やかな食品用の処理装置は容易にできるのであるが、連続量産の対応機はこれからのものである。
固液分離とそのエキスの精製は既存の色々の方法がある。
生麦を亜臨界処理して出来たエキスは麦茶様の香味を持ち機能性成分があるので、麦茶飲料、健康茶飲料、機能性食品等の香味と保健成分の補完、増強になる。
処理条件を少し強くするとコーヒー様の香味が出るのでコーヒー製品の香味と保健成分の補完、増強になる。
健康茶飲料、スポーツ飲料、薬用ドリンク等は飲み易く、美味しくするために麦茶、玄米茶、コーヒーなどで香味着けをする。当エキスは美味しく、香味が穏やかなのでその補強、代替ができる非常に有用な新しい素材である。
そしてHMFという機能性成分が多く含まれている点で注目される特徴を持っていて、今後の利用、発展が期待できる食品素材である。
本発明のHMFの化学構造式である

Claims (2)

  1. 生の大麦に 3倍量の水を加えて140〜290℃、3.8〜6.6気圧 の範囲の亜臨界条件下で 5分間処理することによってできる麦茶様エキスの製造方法。
  2. 過酸化物抑制効果(抗酸化性)の強い成分である5−hydroxymethyl−2−furaldehyde(HMF)を 含む、請求項1に記載の方法によって得られた濃厚な麦茶様エキス。
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